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*1 音楽の要素とは、音楽を形づくっている要素のことである。 今年度の取り組み イメージと音楽の要素 *1 とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育む イメージと音楽の要素とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育むとは 音楽的感受性とは、音楽を感覚的に受容して得られるリズム感、旋律感、和声感、強弱感、 速度感、音色感などであり、表現および鑑賞の活動の根底にかかわるものである。 子どもたちは、教材曲と出会ったときに喚起されるイメージと音楽の要素とを関連付けな がら聴いたり、話し合ったりする活動に取り組む。そうすることで、はじめは感覚的であっ たイメージの根拠が明確になり、音楽の要素のかかわり合いや、それらによって醸し出され る楽曲の気分を感じ取ることができるようになると考える。 そこで本年度は、イメージと音楽の要素とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育ん でいくために、以下のような視点で支援を行う。 教材曲の提示の工夫 イメージの根拠を明確にする問い返し 音楽の楽しさにつながる振り返り 実践事例 この曲、なんだ? 組曲「動物の謝肉祭」より (第1学年) (1)授業の構想 本単元で求める子どもの姿 音楽の要素を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さを感じ取りながら聴いて いる(自己の発揮) 楽曲を聴いてイメージしたことや感じ取ったことを伝え合う中で、仲間の考えのよさや 自分の考えとの違いに気付いている(かかわり) 音楽の要素のかかわり合いや楽曲の気分を感じ取りながら、音楽全体を味わって聴いて いる(心の幹) 本単元で求める子どもの姿を実現するために 曲名を伝えず、取り扱う5つの曲に出てくる動物の絵を提示し、どの動物の曲かを考 えながら聴くよう促す。そうすることで、それぞれの動物のイメージと音楽の要素とを 関連付けながら聴くことができるようにする。 イメージや感じ取ったことを伝え合う際、「どうしてそう思ったのか」「曲のどこから そう思ったのか」と問い返す。そうすることで、仲間の考えを受けとめながら、音楽の 要素を聴き取ったり、それらの働きが生み出すよさや面白さを感じ取ったりすることが できるようにする。

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*1 音楽の要素とは、音楽を形づくっている要素のことである。

今年度の取り組み

イメージと音楽の要素 *1とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育む

川 原 真 矢

1 イメージと音楽の要素とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育むとは

音楽的感受性とは、音楽を感覚的に受容して得られるリズム感、旋律感、和声感、強弱感、

速度感、音色感などであり、表現および鑑賞の活動の根底にかかわるものである。

子どもたちは、教材曲と出会ったときに喚起されるイメージと音楽の要素とを関連付けな

がら聴いたり、話し合ったりする活動に取り組む。そうすることで、はじめは感覚的であっ

たイメージの根拠が明確になり、音楽の要素のかかわり合いや、それらによって醸し出され

る楽曲の気分を感じ取ることができるようになると考える。

そこで本年度は、イメージと音楽の要素とを関連付ける鑑賞活動で、音楽的感受性を育ん

でいくために、以下のような視点で支援を行う。

○ 教材曲の提示の工夫

○ イメージの根拠を明確にする問い返し

○ 音楽の楽しさにつながる振り返り

2 実践事例 この曲、なんだ? 組曲「動物の謝肉祭」より (第1学年)

(1)授業の構想

① 本単元で求める子どもの姿

〇 音楽の要素を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さを感じ取りながら聴いて

いる(自己の発揮)

〇 楽曲を聴いてイメージしたことや感じ取ったことを伝え合う中で、仲間の考えのよさや

自分の考えとの違いに気付いている(かかわり)

〇 音楽の要素のかかわり合いや楽曲の気分を感じ取りながら、音楽全体を味わって聴いて

いる(心の幹)

② 本単元で求める子どもの姿を実現するために

ア 曲名を伝えず、取り扱う5つの曲に出てくる動物の絵を提示し、どの動物の曲かを考

えながら聴くよう促す。そうすることで、それぞれの動物のイメージと音楽の要素とを

関連付けながら聴くことができるようにする。

イ イメージや感じ取ったことを伝え合う際、「どうしてそう思ったのか」「曲のどこから

そう思ったのか」と問い返す。そうすることで、仲間の考えを受けとめながら、音楽の

要素を聴き取ったり、それらの働きが生み出すよさや面白さを感じ取ったりすることが

できるようにする。

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ウ 「楽しかったこと」「面白いと思ったこと」を観点に振り返るよう促す。そうすること

で、楽曲の特徴や演奏の楽しさに気付くことができるようにする。

③ 目標

○ 音色や旋律、拍の流れなどの音楽の要素を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや

面白さを感じ取りながら聴くことができるようにする。

○ 楽曲を聴いてイメージしたことや感じ取ったことを伝え合う活動をとおして、楽曲の

特徴や演奏の楽しさに気付いて聴くことができるようにする。

(2)子どもの学びの実際 ※波線は資質・能力が発揮された子どもの姿、下線は前述の支援との対応を表す

本題材は、音楽の要素を聴き取り、動物のイメージと関連

付けながら聴くことで、楽曲の特徴や演奏の楽しさに気付く

ことをねらいとしている。組曲「動物の謝肉祭」は、全14

曲で構成され、それぞれの動物のイメージを音楽で表現して

いる。ここでは、子どもたちが動物のイメージと音楽の要素

を関連付けて聴きやすいよう「ライオン(序奏部分を除く)」

「ゾウ」「カンガルー」「水族館」「白鳥」の5曲を取り扱った。

① どの動物の曲かな?[第1次の学び]

はじめに「ゾウ」「ライオン」「白鳥」「カンガルー」「水族館」の絵を提示し、これらの

動物を表した5つの曲を聴くことを伝えた。【支援ア】すると、子どもたちは、ゾウの絵から

既習曲の「ぞうさん」を思い浮かべ、拍の流れに合わせて体を動かしながら「ぞうさん」の

歌を口ずさんでいた。1曲目に、曲名を伏せて「ライオン」を流した。子どもたちは、音に

合わせて手や体を動かしたり、じっと耳を傾けて聴いたりし

ていた。聴き終わると「カンガルーじゃなかった」「ライオ

ンだ」など、想像したことを口々につぶやいていた。どの動

物だと思ったかを問うと「ゾウ」「ライオン」「白鳥」に分

かれた。自分の想像した動物と違う意見もあり、子どもたち

は「もう一度聴いて確かめてみたい」とつぶやいたので、も

う一度聴くことにした。曲が終わると同時に、R児は「水族

館」と大きな声で答えた。そこで「なぜ、水族館だと思った

の?」と問い返す【支援イ】と、「クジラみたいな音がしたから、水族館」と答えた。すると、

他の子どもたちも「優しい音だったから、白鳥だと思った」など、聴き取った音からイメー

ジしたことを理由にして、自分の思いを伝えるようになった。【自己の発揮】残りの4曲につ

いても、同じように「どの動物だと思ったか」「どうしてその動物だと思ったか」を確かめ

ながら聴いていった。しかし、曲を聴いてイメージしたことや感じたことは個人で違い、答

えがバラバラであったため、子どもたちは「どの曲がどの動物の曲か、答えを見つけたい」

と、次時への意欲を高めていったのである。

② どうしてその動物だと思ったの?[第2次第1時の学び]

本時では、「ライオン」と「ゾウ」を取り扱った。「ライオン」の1回目の鑑賞後、「どの

動物だと思ったか」と尋ね、挙手で確認をすると、カンガルーだと思う子どもが一人もいな

① 「動物の謝肉祭」より5曲を聴き比べ、楽曲の特徴を

把握する

① ライオンとゾウのイメージと音楽の要素とを関連付けながら聴く

第1次 5つの曲を聴き比べる

第2次 動物のイメージと音楽の要素とを関連付けながら聴く

指導計画(全4時間)

② カンガルー、水族館、白鳥のイメージと音楽の要素とを関連付けながら聴く

③ お気に入りの曲を見つける

思い思いに曲を聴く子ども

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かった。そこで、なぜカンガルーではないと思うのかを問うと、子どもたちは「こわい」「こ

わくない」と口々につぶやいた。その中でN児が「カンガルーは、こわくないよ」と発言し

たのを受けてB児が「ライオンがこわい」と、曲を聴いて感じ取ったこわさとライオンのイ

メージとを関連付けて話そうとしていた。さらに N 児は、具体的な場面を想像しながらイ

メージしたことを話し始めた。

N児の「走って行った」という発言は、途中の16分音符の半音階を聴き取ってイメージ

したことであると考えられる。しかし、それを言葉で伝えることに難しさを感じているよう

であった。他の子どもたちも同様に、感じ取ったことを言葉

で伝えることができない様子であった。そこで、「今度は、

こわい音だと思ったところで手を挙げながら聴いてみよう」

と条件を付けた上で、もう一度曲を聴くことにした。すると、

ピアノの演奏部分では手を挙げず、弦楽器の旋律が聞こえた

ときに手を挙げる子どもの姿を見取ることができた。2回目

の鑑賞後の子どもたちのやりとりを、以下に記す。

曲の中から「こわい音」を探すことによって、子どもたちは旋律や音色の違い、強弱の変

化などを聴き取っていったのである。【自己の発揮】さらに子どもたちは、旋律を歌ったり擬

音語で表したりしながら、自分の思いや考えを伝えようとしていた。

R児はH児の隣の席であるため、H児が手を挙げたところを知っていた。言葉で伝えられ

ないH児の代わりに、擬音語で伝えたが【自己の発揮】他の子どもたちに上手く伝わってい

教師 みんな、優しいからこわいに変わったって言ってたけど・・・

S児 途中が優しくって、途中からこわくなる。

教師 でも、手を挙げたり下げたり、忙しそうだったよ。

I児 だって、すぐ優しくなる。M児 すぐ優しくなったり・・・

N児 最初のときに、優しい声のときって、獲物の声?【かかわり】

児童 えもの~?【かかわり】

児童 あっ、カンガルー!【かかわり】

K児 近づいてきて~

S児 近づく、近づく・・・速くなる!【自己の発揮】

K児 優しい音が、獲物が逃げてるところで、こわい音が、ライオンが走っている。【かかわり】

N児 最初、獲物を探していたライオンがいて、獲物を発見してから、それで走って行った。

教師 走って行く。どうして走って行くって思ったの?【支援イ】

N児 だって、急がなきゃ、獲物が逃げちゃう。

教師 それは、曲から分かった?

N児 (首をかしげて)いや、それは・・・曲では分からない。

K児 こわくなったところ。

教師 Kくんは、走ったところ見つけたの?どこ?【支援イ】

K児 うん。こわくなったところ。

「こわい音」で手を挙げる子ども

H児 優しい音になって、途中からこわい音になったもん。

教師 どんな音がこわい音だと思ったの?

H児 (困っている様子)

R児 お助けができます。リロリロリロ~ってところ。【自己の発揮】

A児 タンタンタンタンタ~タタタ・・・【自己の発揮】

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ない様子を見取ったので、旋律をピアノで弾くことにした。実際に旋律を聴きながら、自分

がこわいと感じたところを伝えることにより、子どもたちの感じたイメージが音楽の要素と

結び付き始めたのである。

授業の後半では「ゾウ」を聴いた。子どもたちは、曲の中にゾウの足音があると発言した。

そこで「ゾウが歩いたと思ったところで、足踏みをしてごらん」と促した。曲に合わせて足

踏みをしようとする子どもたちの中で、3拍子の強拍で足踏みをするU児を見取ったので、

全体に紹介した。以下は、そのときの様子である。

授業の最後に「今日の授業で楽しかったところ」「曲の面白かったところ」を発表するよ

う促した。【支援ウ】すると、A児は「最初が優しく、途中からこわくなるから、なんかそれ

が面白かった」と振り返った。音色の違いや音の高低、強弱の変化などを聴き取り、楽曲の

気分を感じ取りながら聴くことができたのである。【心の幹】

③ お気に入りの曲を見つけたよ[第2次第3時の学び]

これまでの学習を振り返り、鑑賞した5曲が「ライオン」「ゾウ」「カンガルー」「水族館」

「白鳥」であったことを確認した上で、自分のお気に入りの曲を見つけるよう促し、鑑賞に

入った。子どもたちは、旋律を歌ったり手拍子をしたり、動物になりきって体を動かしたり

して、楽しみながら曲を聴いていた。

お気に入りの曲を紹介する際、T児は「ライオンの鳴き声が面白かった」と発言した。も

う一度曲を聴いて確かめてみると、半音階の部分で「ライオンがガオーって吠えていた」と

共感する子どもが多くいた。【かかわり】仲間の考えを受けとめ、寄り添いながら聴くことで、

音楽で動物の鳴き声を表すことができるという面白さに気付き、イメージを膨らませながら

聴くことのよさを感じることができた【心の幹】と考える。

3 実践を振り返って

今回の実践で、子どもたちは教材曲から聴き取ったことや感じ取ったことをもとに、動物の

イメージや様子を思い浮かべながら聴くことで、楽曲の特徴や演奏の楽しさを感じることがで

きた。しかし、子どもたち一人ひとりがもつイメージの根拠を明確にするには、問い返しの支

援だけでは不十分であった。そこで、本実践の中で「イメージの根拠はどの音なのか」音楽が

流れている中から取り出したり、聴き比べたりしながら確認したところ、イメージと音楽の要

素が関連付けられていったのである。今後も、子どもたちが音楽の楽しさを感じることができ

る鑑賞の授業づくりに取り組み、子どもたちの音楽的感受性を育んでいきたい。

教師 みんなとちょっと違うんだけど、Uくん、やって見せて。

U児 (曲に合わせて足踏みをする)

Y児 あっ、曲に合ってるこれ。Uくんのいいところ分かった、これ。

いいところ分かった。【かかわり】

(U児の足踏みに合わせて、手拍子をする子どもが増える)

O児 先生、なんか曲に合っとった。

教師 曲に合ってた?

O児 なんか、テン・テン・ドンのときに、ドンってしてた。

M児 思いっきり、ドンってしてた。

教師 へえ、このドンが、

M児 ゾウの足音!

強拍を感じ取り、足踏みをするU児