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サークルにおける診断型組織開発の取り組みが中断した要因の考察 2015HP016 原田 優香 【研究目的】 本研究では、筆者が所属するサークル Z の一学年下を対象とした診断型組織開発(診断 型 OD)を実施した。しかし、当初行う予定であったフォローアップをせず、アクション に対する事後調査をして中断する事となった。 OD 中断の要因として、1 つは抵抗が挙げられる。OD に取り組む際に、抵抗は失敗する 要因になることが多い(Murer, 2006; 中村, 2012 の引用による)。Burke(1987)によると、 人はただ変化に抵抗するのではなく、変化を強制されることに抵抗するとしている。また、 堀(2006)は、現状満足を容認し、十分な危機感がないことが変革の妨げになることを述 べている。つまり、自分たちが置かれた状況を正しく理解し、問題意識や危機をリアルに 実感しないと、行動を起こさないとしている。さらに、堀は、現状把握を一致させたのち にも、何を問題と捉えるかが人によって異なるといった問題意識の差から、OD がうまく 機能せずに中断することがあると示唆している。 そこで本研究は、OD の取り組みが中断した要因を、筆者の事例から考察し、そこから OD の継続に必要な事柄を探ることを目的とする。 【研究方法】 筆者が実施した、サークル Z に対する診断型 OD の取り組みで、フィードバックとアク ションのどちらか一方に参加した 11 名を対象に、インタビュー調査を行った。インタビ ューによる質的データは M-GTA で分析した。 【結果と考察】 インタビューで得られたデータを M-GTA で分析した結果、中断の決定に至った要因と して主に以下の 4 点が見出された。 ①対象学年の一部で一連の取り組みに対して「疲れる」と語られたことにより、そのよ うなリアリティ(現実)が構成され、取り組みへの後ろ向きな気持ちが生まれたこと。② リアリティが構成されたことによって、継続の意思があったメンバーが中断に対する同調 をしたこと。③サークル Z の参加人数が減っている問題に対し、対象学年は時間が解決す るという思考であったため、緊急を要する問題であると感じていた筆者との間に問題意識 の差が生じた。さらにアクション後に学年が上がったことで現状の問題に対するコミット が薄くなったこと。④問題が解決されたという考えや、対象学年の自立・自信の獲得によ り、アクションを設ける不必要性を感じたこと。 そして、これらの中断要因から、診断型 OD を継続するためには、OD に対して前向き な語りがされる雰囲気作りと、OD 実践者と当事者らとの間にある問題意識の差を埋める 場づくりの必要性があるということが示唆された。

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サークルにおける診断型組織開発の取り組みが中断した要因の考察

2015HP016 原田 優香

【研究目的】

本研究では、筆者が所属するサークル Z の一学年下を対象とした診断型組織開発(診断

型 OD)を実施した。しかし、当初行う予定であったフォローアップをせず、アクション

に対する事後調査をして中断する事となった。

OD 中断の要因として、1 つは抵抗が挙げられる。OD に取り組む際に、抵抗は失敗する

要因になることが多い(Murer, 2006; 中村, 2012 の引用による)。Burke(1987)によると、

人はただ変化に抵抗するのではなく、変化を強制されることに抵抗するとしている。また、

堀(2006)は、現状満足を容認し、十分な危機感がないことが変革の妨げになることを述

べている。つまり、自分たちが置かれた状況を正しく理解し、問題意識や危機をリアルに

実感しないと、行動を起こさないとしている。さらに、堀は、現状把握を一致させたのち

にも、何を問題と捉えるかが人によって異なるといった問題意識の差から、OD がうまく

機能せずに中断することがあると示唆している。

そこで本研究は、OD の取り組みが中断した要因を、筆者の事例から考察し、そこから

OD の継続に必要な事柄を探ることを目的とする。

【研究方法】

筆者が実施した、サークル Z に対する診断型 OD の取り組みで、フィードバックとアク

ションのどちらか一方に参加した 11 名を対象に、インタビュー調査を行った。インタビ

ューによる質的データは M-GTA で分析した。

【結果と考察】

インタビューで得られたデータを M-GTA で分析した結果、中断の決定に至った要因と

して主に以下の 4 点が見出された。

①対象学年の一部で一連の取り組みに対して「疲れる」と語られたことにより、そのよ

うなリアリティ(現実)が構成され、取り組みへの後ろ向きな気持ちが生まれたこと。②

リアリティが構成されたことによって、継続の意思があったメンバーが中断に対する同調

をしたこと。③サークル Z の参加人数が減っている問題に対し、対象学年は時間が解決す

るという思考であったため、緊急を要する問題であると感じていた筆者との間に問題意識

の差が生じた。さらにアクション後に学年が上がったことで現状の問題に対するコミット

が薄くなったこと。④問題が解決されたという考えや、対象学年の自立・自信の獲得によ

り、アクションを設ける不必要性を感じたこと。

そして、これらの中断要因から、診断型 OD を継続するためには、OD に対して前向き

な語りがされる雰囲気作りと、OD 実践者と当事者らとの間にある問題意識の差を埋める

場づくりの必要性があるということが示唆された。

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ゼミ生におけるバディ(異なる学年間の相互支援)制度の効果の検討

2015HP037 伊藤 恵

研究目的

バディ制度とは、A ゼミで独自に行われており、ペアで支え合い、研究に対して意欲的に進め

るということを目的として取り入れられている制度で、メンタリング制度および 1on1 ミーティ

ングに似た制度である。メンタリング制度および 1on1 ミーティングには、経験者と非経験者が 1

対 1 でペアを組むことにより、経験者が非経験者の支えとなり、組織の若手の成長支援、信頼関

係の構築、仕事に対して意欲的になる、という効果がある。

そこで本研究では、1 対 1 のペアとして関係を構築し、ペアが互いに支え合うという取り組み

が行われている実践である「バディ制度」にも、ペア間の信頼関係の構築や、研究に対して意欲的

になるという、メンタリング制度や 1on1 ミーティングと同様の効果があるかどうかを検討する。

また、3 年生だけではなく 4 年生も支援された感覚をもつことができ、相互に影響を与えている

かどうかを考察することを、目的とする。

研究方法

A ゼミに所属する 18 名に対して、バディ制度に関してのインタビューを 2018 年 10 月中旬か

ら 10 月下旬にかけて行い、バディ制度の実施状況、課題、各自の研究への支援や信頼関係への効

果について尋ねた。インタビューによって得られたデータを M-GTA による分析、および、バデ

ィ制度のペアごとでの分析をした。

結果と考察

バディ制度の効果について、ペア間の信頼関係の構築、研究に対しての意欲の向上、相互の支

援、の 3 つの観点に着目し、M-GTA での分析、および、ペアでの分析した結果を照らし合わせ

た。以下の【 】は M-GTA で抽出されたカテゴリーを、≪ ≫はサブカテゴリーを、< >は

概念を示す。

ペア間の信頼関係の構築に関しては、バディ制度は≪ペアの理解≫を深め、関係を築くことに

よって<不安や悩みを吐き出す場>など、安心できる場を形成しているということや、ペアで月

に 1 回以上は集まり、卒業研究関係以外の話も幅広くした方が、より深い信頼関係を築くことが

できることが伺えた。

研究に対しての意欲の向上に関しては、≪3 年生への支援≫や≪4 年生への影響≫といった、研

究や論文に対しての影響を 3 年生も 4 年生もそれぞれ受けており、ペアからの様々な卒業研究関

係の支援があったため、卒業研究を進めていくための環境が整い、研究や論文を進めやすくなり、

研究への意欲を向上させたと見受けられる。

相互の支援に関しては、各学年への支援や影響だけでなく、ペアの研究について理解し、互い

に【研究を支え合う関係】となっていたこと、<不安や悩みを吐き出す場>、<相談相手の関係

>としてバディ制度が両学年に対して作用していたことから、卒業研究関係においても、日常生

活においても相互に支援できていると考えられる。

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ゼミ同学年に対するお互いを知る取り組みが

心理的安全性に及ぼす効果

2015HP080 武藤晴香

研究目的

Google社のプロジェクトアリストテレスは、より生産性の高い働き方に関する研究を行い、

2015 年に生産性の高いチーム作りには、心理的安全性が最も重要な要素であると発表した。

心理的安全性とは、人々が対人不安を感じることなく、自由に関連がある考えや感情につい

て、気兼ねなく発言できる雰囲気のことである。(Edmondson,2012 野津訳 2014)その後、ビ

ジネス界では心理的安全性への関心が急激に高まり、多くの本や研究が発表された。しかし、

これらのほとんどはビジネス界に対するものであり、学生の組織においての心理的安全性の

重要性に関する知見や、その影響に関する研究は、まだ少ない。

そこで、本研究では、Aゼミの同学年に対して、お互いを知る取り組みを行い、関係性を

向上させることを通して、本音で語り合い、安心感を得ることで、心理的安全性を高めてい

くことを目指したアクションリサーチに取り組むこととした。そして、お互いを知る一連の

取り組みがゼミの同学年というチームの心理的安全性を高めることに対して及ぼす効果につ

いて考察することを研究目的とする。

研究方法

Aゼミの同学年のメンバー9名(筆者と共同研究者である柴田を除く)に対して、アクショ

ンリサーチを 8 カ月にわたって実施した。筆者と共同研究者は、メンバーとして、アクショ

ンに参加しながら、ファシリテーションを行った。

最初にAゼミの現状を把握するため、事前インタビュー調査を行った。その結果をメンバ

ーにフィードバックし、どのような問題に焦点を当て、どのようなアクションを行うのか決

定した。その後は、アクションの実施とその次のアクションの内容を決定するミーティング

を月に 1 回のペースで交互に行い、計 4 回のアクションを実施した。前半のアクションの終

了時に中間インタビュー調査を、全てのアクションが終了時に事後インタビュー調査を行い、

各アクションでの体験と、Aゼミ同学年の現状や、変化について調査した。そこで得られた

データを M-GTAを用いて分析した。

結果と考察

M-GTA による分析の結果、お互いを知る取り組みが心理的安全性に効果を及ぼしたことが

実証された。その要因として、長期的にかつ段階的にお互いを知る取り組みを継続したこと

や、日々のAゼミでお互いに関わる中で、関係が深まるなど安心感を得て、話しやすくなり、

自分の思いや考えをそれぞれが開示していったことが考えられる。

今回、お互いを知る取り組みを行ったことで、心理的安全性が形成されるとともに、その

上で新たな関係性も築かれ、信頼関係や言いたいことを言える雰囲気が作用し、ダイバーシ

ティ&インクルージョンが促進された。

さらに、長期間にわたって何度も働きかけたことで、心理的安全性を感じる瞬間やタイミ

ングは人それぞれでありながらも、メンバーが同様なプロセスをたどり、チームが心理的安

全性を得ることができたと考察される。

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コンセンサスによる部活動の方針の決定に取り組む診断型組織開発の効果

2015HP095 小田芽美

研究目的

チームで活動する際、目標、目的、方針という言葉がよく使われる。方針とは、その目標を達成す

るためにメンバー全員が共有する方向性のことで、これを共有することはとても大切である。方針を

決定するためには、様々な集団意思決定の方法の中でも、コンセンサスが適している。コンセンサス

とは、全員で話し合い合意することで、相互理解を深めることにつながる。

本研究の対象学年である2年生は、全員での話し合いをしたことがなく、お互いが何を考えているか

わからない状態であった。そこで、診断型組織開発を用い、コンセンサスによる部活の方針の決定に

取り組むことで、2年生の意識がどのように変化していくのかを検討することを研究の目的とする。

研究方法

南山大学Z部の2年生を対象に、診断型組織開発を行った。ODマップに沿って計画し、アクション

を2回行った。事前調査として、現状のうまくいっていることや課題、幹部交代後のことなどについ

てのインタビュー調査を行い、フィードバック・ミーティングを行った。そこでは対象学年がお互い

の思いを共有し、アクションの方向を定めた。その後、コンセンサスの実習を実施したうえで、コン

センサスによる方針決定のアクションを行った。事後調査としてのインタビュー調査では、方針を決

めたことへの満足度や、一連の取り組みで感じたことを尋ねた。インタビュー調査により収集された

データはM-GTAによって分析した。

評価

M-GTAの分析結果より、コンセンサスによって部活の方針の決定に取り組むことが、2年生の意識に

変化を与えたことが明らかになった。一連の話し合いの影響として、話し合いを重ねることで、お互

いの考えが理解できるようになり、安心して意見を言い合える関係性が構築された。加えて、一人ひ

とりの考え方の視野が広がったことで、異なる意見を受け入れることが容易になった。また、コンセ

ンサスによる話し合いを複数回行ったことにより、今後の活用などを考えるメンバーが増加した。話

し合いで感じたことを活かし、より有意義な決定をしていくことが見込まれる。

さらに、方針の決定が与えた影響としては、幹部になるという自覚が生まれ、当事者意識を持った

活動ができるようになることが挙げられた。今後は、話し合いなどが自主的に行われ、また、部活全

体に発展していく可能性があることが考えられる。

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AI(Appreciative Inquiry)の意味づけが深まる過程に関する考察

2015HP123 田口蘭奈

【研究目的】

本研究では、2018 年度の A ゼミで AI の 4D サイクルやフォローアップに取り組むことによ

って、AI はどのように意味づけされるのかを考察することを目的とする。AI は単なる行動計

画のためのツールではなく、社会構成主義に基づいており、AI 後に人々が用いる言葉や語られ

方、現状認識の仕方や視点のもち方が変化することが重要であるとされている組織開発の手法

である(中村 , 2017)。これまで AI の効果について検証した研究はあるが、その多くが AI の

4D サイクルを実施し、行動計画を立てることによる、組織の変化(目標の明確さや組織の活

性化など)に関する研究がなされてきた。しかし、対話型組織開発の目指している、組織の中

での会話の質やものごとの意味づけ、発想の仕方が変化することについて明らかにされた研究

はなされていないため、本研究ではその点について着目し、考察した。

【方法】

本研究では、AI の意味づけの深まりを調べるために、AI 実施後に中間調査として、フォロ

ーアップ後に事後調査としてインタビュー調査を実施した。なお、調査は共同研究者とともに

実施したため、双方のインタビュー項目を含めた形で実施した。インタビュー調査で得られた

データは、M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ;木下 , 2007)を用いて分

析した。

【結果と考察】

インタビュー調査のデータを分析した結果を、日頃の自分のありようの意味づけに着目して

考察した。

日頃の自分のありようについては、AI 実施中の「自分はネガティブだ」という気づきについ

て、ネガティブではなく、ポジティブな語りをしていこうと意識する傾向がみられた。これは、

AI の講義で学んだ社会構成主義の考え方と AI 体験中に得た強みを見ることの良さや強みを見

ることで表れる効果の実感を結び付けて考えることによって、ポジティブに語ろうという意味

づけがされた結果ではないかと考えられる。よって、AI 実施中の体験や手法の理論の理解が、

日頃の自分のありようの意味づけに影響を与えるという可能性が示唆された。

また、中間調査と事後調査ともにネガティブではなくポジティブな語りをしていこうとする

意識があることから、意味づけの継続が起こったと考えた。これは、自分以外の人の言葉や行

動を見ることで自分のありようを意識するという相互作用と、長期休暇で忘れてしまった意識

を AI 実施の際の映像を見るなどのふりかえりを通して思い出したことが影響していると考え

られる。よって、他の人との相互作用や、長期休暇を挟んでしまうような組織は AI の体験の

ふりかえりが、日頃の自分のありようの意味づけの継続につながっているという可能性が示唆

された。