アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸 …1 October 24...

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1 アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸念ないものの長期的安定性は疑問 (要 約) アンゴラは、アフリカの中でも独立や経済発展も遅れた国であったが、近年石油資源を梃子に急発展し、 サブサハラ(サハラ以南のアフリカ)では、南アフリカ、ナイジェリアに次ぐ第 3 位の経済規模に成長した。 経済成長の梃子は石油開発だが、国営企業ソナンゴル社を軸とする欧米系外資との協調下で堅調に生 産や輸出の拡大が続いている。さらに近年では中国の資本が石油関連の様々な事業で資金支援の手を 伸ばしている。 短期的には経済は順調である。財政収支も大きな懸念はなく、インフレも比較的落ち着いている。国際収 支面でも経常黒字基調により懸念は小さい。対外債務もまだ積み上がっている段階にはない。 課題は産業の多角化と経済社会の包含的な発展。石油資源による成長が当面可能なだけに、産業の多 角化は遅れがちで、国民の豊かさも石油関連の一部に限定され、成長の裾野は狭い。 政治はドス・サントス大統領の長期政権下で一応安定しているが、強権的な面があることや高齢であるこ となどから、経済面での社会不満がさらに高まるようであれば、次回選挙の 2017 年には事態が流動化す る可能性がある。 (本 文) 1.Background ~アンゴラの特異性 アンゴラは、いろいろな意味でアフリカの中で特異な国である。第一に、アフリカのほとんどが 1960 年代前半 に独立した中で、1975 年の独立という遅いスタートを切ったことが挙げられる。しかも、独立直後から 2002 年ま 1.アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸念ないものの長期的安定性は疑問 2.対ロ制裁をめぐるドイツの立ち位置 3.主要各国の経済指標 October 24 , 2014

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1.アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸念ないものの長期的安定性は疑問

(要 約)

アンゴラは、アフリカの中でも独立や経済発展も遅れた国であったが、近年石油資源を梃子に急発展し、

サブサハラ(サハラ以南のアフリカ)では、南アフリカ、ナイジェリアに次ぐ第 3 位の経済規模に成長した。

経済成長の梃子は石油開発だが、国営企業ソナンゴル社を軸とする欧米系外資との協調下で堅調に生

産や輸出の拡大が続いている。さらに近年では中国の資本が石油関連の様々な事業で資金支援の手を

伸ばしている。

短期的には経済は順調である。財政収支も大きな懸念はなく、インフレも比較的落ち着いている。国際収

支面でも経常黒字基調により懸念は小さい。対外債務もまだ積み上がっている段階にはない。

課題は産業の多角化と経済社会の包含的な発展。石油資源による成長が当面可能なだけに、産業の多

角化は遅れがちで、国民の豊かさも石油関連の一部に限定され、成長の裾野は狭い。

政治はドス・サントス大統領の長期政権下で一応安定しているが、強権的な面があることや高齢であるこ

となどから、経済面での社会不満がさらに高まるようであれば、次回選挙の 2017 年には事態が流動化す

る可能性がある。

(本 文)

1.Background ~アンゴラの特異性

アンゴラは、いろいろな意味でアフリカの中で特異な国である。第一に、アフリカのほとんどが 1960 年代前半

に独立した中で、1975 年の独立という遅いスタートを切ったことが挙げられる。しかも、独立直後から 2002 年ま

1.アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸念ないものの長期的安定性は疑問

2.対ロ制裁をめぐるドイツの立ち位置

3.主要各国の経済指標

October 24 , 2014

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での27年間、国内3勢力間の内戦状態にあり1、経済の発展はさらに遅れた。第二に、経済の離陸が非常に遅

かった一方で石油資源に恵まれ、足元では経済の一部のセクターや地域が急発展を遂げていること。第三に、

この急発展を支える外国からの資金として、欧米金融機関からの債務性資金の流入が遅れている一方で、近

年中国の資本力へ依存を高めていることがある。

内戦による発展開始の遅れと足元での石油資源を梃子とした急発進、さらにそこに「新たな帝国主義」とアフ

リカ諸国の間で批判されることが多くなった中国資本が深く関与しているという特異な状況ゆえに、外貨資金繰

りなどの国際金融面で差し迫った懸念材料はないものの、長期的な成長パスを予測するには不確定要素が多

い。

2.政治情勢

(1)存在感の大きい大統領

現体制の発端は 1992 年の独立後初の選挙にさかのぼる。この選挙で、アンゴラ解放人民運動(MPLA)のド

ス・サントスがアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)のサヴィンビを 49.6% 対 40.1%で破り大統領となったが、敗

れたサヴィンビはこれを認めずゲリラ活動を始める。2002 年、UNITA のサヴィンビの死去をきっかけに、

MPLA-UNITA 間で和平合意に至り、UNITA は占拠していた地域をドス・サントス大統領に返還し、今日のアン

ゴラの国としての形が一応固まった。

アンゴラ内戦時の国内 3 勢力(1975-2002 年)

グループ名 国内支持基盤など 対外関係 現在

MPLA アンゴラ解放人民運動

元々は共産主義だが、現在は中道左派・社会民主主義。 ムブンドゥ族、首都のインテリ層が支持基盤。

当 初 は 旧 ソ連 、 キ ュ ー バが支援

現在の与党 議席:175/220

UNITA アンゴラ全面独立民族同盟

反共産主義。 アンゴラの多数派であるオヴィンブンドゥ族が支持基盤。 長年ジョナス・マリェイロ・サヴィンビという元毛沢東主義者が党首。民族ごとの分割を認める。後年は米国寄りになり、民主主義と自由市場経済支 持 と な る 。 サ ヴ ィ ン ビ は2002 年に戦闘中に死去。

米国、南アが 軍事支援

現在の最大野党 議席:32/220

FNLA アンゴラ民族解放戦線

現在第 5 位の野党 議席:2/220

1 アンゴラ国民の民族構成はオヴィンブンドゥ族(37%)、キンブンドゥ族(25%)、バコンゴ族(15%)等、また宗教構成は在

来宗教 47%、カトリック 38%、プロテスタント 15%とどちらの点でも国民がいくつかの勢力に分かれていることは確かである。

しかし、内戦の対立構造は、主に旧東西対立を反映した政治信条や、支持する外国勢力によるものであり、民族・宗教的

要素が対立を一層先鋭化させていたという情報はない。

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現在、形式的には複数政党による民主主義体制にあるものの、実質的には大統領の権限が非常に強い。

議会は一院制で、220 議席をめぐる選挙が 5 年ごとに実施される。直近は 2012 年 8 月 31 日で(次回は 2017

年予定)、結果は与党 MPLA が 71.8%、最大野党 UNITA が 18.7%、 以下少数政党が CASA-CE 6.0%、 PRS

1.7%、 FNLA 1.1%、 その他 0.7%と続いた。この得票率に従って、議席は MPLA 175、 UNITA 32、 CASA-CE 8、

PRS 3、 FNLA 2 と配分された。

立法府は行政府の補佐的な役割であり、行政府にいる首相以下 30 の大臣はすべて大統領に任命される。

ドス・サントス大統領率いる与党 MPLA に対抗する国内政治勢力はないと言ってよい。

大統領ジョセ・エドアルド・ドス・サントス(Jose Eduardo DOS SANTOS)は、1942 年生まれの 72 歳。1979 年 9

月 21 日に 37 歳で大統領に就任以来の不動の地位を築いている。副大統領はマヌエル・ドミンゴス・ヴィセンテ

(Manuel Domingos VICENTE)で、直近の 2012 年 8 月の議会選挙の結果を受け 9 月 26 日に就任した。1956

年生まれの 58 歳で、前職は政府系石油会社 ソナンゴルの CEO であったエンジニア出身の人物。

大統領は 2010 年憲法によって議会での選挙により選ばれ 5 年の任期となる。連続または不連続の 2 期が

最長任期。同憲法によって、大統領選挙は、個人の候補者ではなく政党を選ぶ形となった。ドス・サントス大統

領は、2012 年 9 月から最大 2 期 10 年が可能であり、そうなれば 1979 年 9 月から 2022 年 9 月の 43 年という

超長期大統領となる可能性がある。

(2)ドス・サントス氏について

ドス・サントスの評価や今後の基盤の安定性についての見方は分かれる。最大野党 UNITA はドス・サントス

が民主主義を形骸化させていると強く批判し、最近では 2011 年初に反ドス・サントスの運動が、ソーシャルネッ

トワークなどを通じて国民の間に勢いづく兆しを見せたことがあった。この反ドス・サントス運動は盛り上がるこ

となく自然消滅したが、その背景には、政府からの脅迫などの行為があったというグローバルな人権団体の批

判もある。国民の 60-70%が 1 日 2 米ドル未満の生活を送る中で、恵まれた石油資源により 200 億米ドルものド

ス・サントス氏個人の蓄財があるとの批判もある。石油資源国で 1979 年以来の長期実力者の地位にあるだけ

に、批判の声は内外に根強く存在する。

しかし、様々な勢力が対立した長年の内戦を終結させ、その後は一時社会主義経済に傾斜した同国を、石

油資源を梃子とする経済発展の発射台に導いたリーダーとして、国民の間に一定の支持がある。また、西側首

脳陣、アフリカ諸国の他のリーダー達とのコミュニケーションのパイプを維持し、かつ中国とも関係を強めるなど、

独自の国際的なバランス感覚を持っていることも確かである。

仮に 2022 年まで務めるとすると 80 歳となる。当面は不安材料ではないが、次回選挙の 2017 年には、この

高齢がアンゴラ全体の安定性を一層見にくくすることが十分考えられる。

3.経済情勢

(1)石油を梃子に経済発展に向けて離陸

内戦の 27 年間は、実質的にほとんど経済は成長せず、基礎インフラは荒廃し国民の経済生活は徹底的に

疲弊していたと言える。

国の再建のためにまず頼ったのが国際機関など海外からの支援だ。支援を取り付けるには、通常、その国

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の経済パフォーマンスや財政状況を示すデータを提供する必要があるが、当時のアンゴラは、対外債務残高、

生産動向、中央銀行の資産負債状況、政府石油収入などの基礎統計すらない状況だった。この統計の未整備

状況は、基本的には今も変わっておらず、アンゴラについての定量的な分析を困難にしている。

こうした発射台の低さゆえに、少しでも政治が安定すれば、飛躍的なリバウンドは当然といえば当然である。

2002 年からリーマンショックの 2008 年までの高成長の中身は、ひとえにグローバルな資源需要の拡大に依存

している。石油とその関連産業でGDPの85%を占める。残りのうち5%がダイヤモンドの輸出である。石油生産に

より、2004 年からリーマン危機の 2008 年の間は、GDP は年平均 17%という驚異的な伸びであった。この石油に

よる国富の拡大は、ある程度は建設産業などの主に都市における他産業を潤し始めているが、自律的な産業

の裾野拡大というところまではいかない。

途上国の発展の基礎固めは、ある程度の農業セクターの生産性上昇と食料の安定的供給が不可欠だが、

アンゴラは、まだ食料の半分を輸入に依存する状態である。そしてその背景として、27 年間の内戦時代の地雷

の撤去が進まず農地拡大が阻まれているという事実がある。

(資料)IMF

ドル建て名目GDPの推移/ Nominal GDP in US$

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

1990 1995 2000 2005 2010 2015

(bil.US$)Nominal GDP/ 名目GDP

South Africa

Nigeria

Angola

Kenya

Ethiopia

(2)石油生産の担い手は外資

経済発展のコアである石油生産は、国営企業と外資の協調体制の下で比較的順調に拡大している。確認埋

蔵量は、サブサハラの中では多い方であり、今後の探索によってはさらに増える可能性もあるものの、少なくと

も足元のグローバルな比較においては決して潤沢とは言えない。また可採年数も 2013 年実績ベースで 19 年と

長いとは言えない。

1976 年、アンゴラ政府は、国営の石油会社ソナンゴル (The Sociedade Nacional de Combustiveis de

Angola)を設立し、以来、同社がアンゴラの石油資源開発の中心的役割を担っている。アンゴラの資源開発の

運営は、油田地域を 45 のブロックに区分し、基本的にはブロック単位で各企業の採掘が行われているが、ソナ

ンゴルは、そのほとんどのブロックの所有者となっている。また 17 の関連企業を持ち、アンゴラにおける石油採

掘、精製、貯蔵、流通など幅広い産業を支配している。

2000 年代に入ると、トタル(仏)、シェブロン(米)、エクソンモービル(米)、BP(英)といった外資系を主な担い

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手として深海油田が急速に開発され、アンゴラの石油生産は、2013年には日量180万バレルに達した。国際通

貨基金(IMF)推計によれば、2011 年には国家の歳入の 80%が石油関連収入である。

これら外資系企業は、ソナンゴルとの合弁形態でアンゴラにおける採掘、生産、輸出ビジネスを手掛けている。

中国は、貿易関係においては2005年以来、アンゴラ側から見れば最大の輸出先であり、中国側から見ても、ア

ンゴラは第 2 位の石油輸入先という深い関係にある。個々の企業レベルでは、中国石油化工(シノペック)、中

国海洋石油 (CNOOC : China National Offshore Oil Corporation) が、石油開発に関する様々な支援事業や石

油を担保とした貿易金融、開発金融を手掛けている。

今後の短期中期的な経済パフォーマンスも石油生産に大きく依存しているが、今の国のコントロール下での

外資の活用という大枠は不変とみられ、比較的順調に石油生産が拡大していくという当面の姿はある程度堅

いものと考える。

(Source) BP

石油生産/Oil production

-

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

1995 2000 2005 2010

(tho.barrels

da i ly)Saudi Arabia

Russia

US

Canada

-

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

1995 2000 2005 2010

(tho.barrels

da i ly)Nigeria

Brazil

Angola

Kazakhstan

Algeria

million barrels Share %

Number of year

Venezuela 298,350 17.7% 311.62

Saudi Arabia 265,850 15.8% 63.20

Canada 174,318 10.3% 120.95

Iran 157,000 9.3% 120.88

Iraq 150,000 8.9% 130.84

Kuw ait 101,500 6.0% 88.95

United Arab Emirates 97,800 5.8% 73.48

Russian Federation 93,028 5.5% 23.62

Libya 48,472 2.9% 134.37

US 44,180 2.6% 12.10

Nigeria 37,140 2.2% 43.83

Kazakhstan 30,000 1.8% 46.04

Qatar 25,063 1.5% 34.42

China 18,084 1.1% 11.85

Brazil 15,593 0.9% 20.21

Angola 12,667 0.8% 19.27

Algeria 12,200 0.7% 21.22

Mexico 11,079 0.7% 10.56

Norw ay 8,678 0.5% 12.94

Ecuador 8,191 0.5% 42.55

Azerbaijan 7,000 0.4% 20.59

India 5,710 0.3% 17.49

Oman 5,500 0.3% 16.00

Vietnam 4,400 0.3% 34.48

Total World 1687.9 100.0% 53.27

(Source) BP

石油確認埋蔵量/Oil: Proved reserves (at end 2013) Reserve production

ratio

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(3)短期的な経済の見通し

アンゴラ経済の牽引車である石油生産は、2013 年には産油設備の一部不備の影響によりほとんど伸びず、

このため、実質 GDP 全体も、景気底支えの財政政策を加味しても前年の 6.8%成長から 2013 年は 4.8%成長に

減速した。また石油収入の低さと景気対策により、財政収支も2012年の大幅黒字から2013年にはほぼ黒字な

しに転じたとみられる。

しかし、2014 年以降の中期的な見通しとしては、政府主導の石油生産拡大投資が順を追って稼働し始める

と予想されるため、石油生産は順調な拡大軌道に乗るとみられ、経済も比較的順調に成長する可能性が高い。

今のところ、政府の計画通り進めば 2015 年には日量 250 万バレルの石油生産が可能になる。また液化天然ガ

ス(LNG)の生産が 2013 年に開始された。これも、まだ実績はないものの、アンゴラ経済の新たな牽引役として

期待できる。

(4)財政は大きな懸念材料ではない

資源を背景に政府の財政状況はよい。近年、政府は、石油以外の農業、製造業などの産業多角化のためイ

ンフラ整備の公共投資を進めており、2011 年に GDP 比 11%あった財政黒字が、2013 年には 0.3%の黒字まで縮

小。2014 年は 3%台の赤字に転じる見込みである。こうした赤字拡大は、産業育成のためのインフラ投資など、

前向きな経済政策の結果であり、また、こうしたインフラ投資自体の需要が、2013 年は石油生産の落ち込みを

補い、景気減速を小幅にとどめた効果もあった。こうした政府の積極的な公共投資方針は当面は続くとみられ

るが、まだ警戒しなければならないような財政赤字ではない。

赤字のファイナンスは、2014 年については、年後半に 600 億クワンザ (表記は“AOA”)の 20 年物国債発行

で賄う予定であるが、こうした新たな国債発行分を含めても公的債務の規模は GDP 比 30%以下にとどまり、こ

の低い水準をみても、まだアンゴラにとっては財政は大きな懸念材料ではない。

(資料)IMF

財政状況/Government deficit and debt

0

20

40

60

80

100

120

140

2000 2003 2006 2009 2012

(% of GDP) 政府債務/Government debt

Kenya

SouthAfricaAngola

Ethiopia

-15

-10

-5

0

5

10

15

2000 2003 2006 2009 2012

(% of GDP) 財政赤字/Fiscal deficit

Angola

Nigeria

Ethiopia

South Africa

Kenya

(5)インフレ率は低下傾向

引き締め気味に運用されている金融政策と比較的安定した為替相場推移によって、インフレ率は 2011 年か

ら低下傾向にある。恐らく 2014 年末には 8%台と、アンゴラとしては歴史的な低さに達するだろう。政府は、国内

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の農業保護の目的で農産品の輸入関税を引き上げる計画であり、この動きが食糧の大半を輸入するアンゴラ

全体のインフレ率に若干影響するものの、基本的なインフレ率低下の傾向には変化はないものと思われる。

為替相場は、原油価格が上昇すれば AOA 高、原油価格が下落すれば AOA 安と、原油価格に左右される点

では不安定さがあるが、経常黒字基調の中で積み上がった外貨準備は潤沢であり、米ドルのテーパリング(米

国の金融緩和の縮小)が進み、基調はドル高が起きやすい国際金融環境ながらも、AOAは幾分弱含み程度の

下落にとどまると見られる。

(資料)IMF

インフレ率の推移/Inflation rate

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

2004 2006 2008 2010 2012 2014

(y-o-y, %) Inflation rate

Angola

Ghana

Kenya

Nigeria

South Africa

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

1990 1995 2000 2005 2010

(y-o-y, %) Inflation rate

Angola

(6)国際収支面における信認は堅い

アンゴラは、国際収支面においても、財政と同じく石油資源を背景に底堅い信認を維持している。経常収支

は、世界経済のエネルギー需要に左右される点はあるものの、基本的には、需要が強い地合いでは GDP 比で

10%以上の大幅な黒字に達する。国内経済の産業の多様化が進み、内需が拡大すれば、消費財や資本財の

輸入が拡大していくため、今よりは経常黒字の下押し圧力が大きくなろうが、当面、こうした順調な産業多様化

が進むとは考えがたく、産業発展の観点からはマイナスであるものの、国際収支面での信認は維持される環境

が続こう。

(資料)IMF

経常収支/ Current account

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

1990 1995 2000 2005 2010 2015

(% of GDP)

Current account/ 経常収支

Nigeria

Angola

South Africa

Ethiopia

Kenya

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(7)対外債権債務のバランスは良好

アンゴラは、下表に見る通り資源の豊かな国も含めた主なエマージング諸国の中では、外貨準備が対外債務

残高を上回る数少ない国であり、債権債務のバランスという観点でみれば、非常にいいポジションにあるといえ

る。

その背景として考えられるのは、アンゴラがまだ政治や社会の安定性という点、また石油資源開発以外の経

済的な発展の可能性という点で、西側先進国の間での評価が低いため、先進国の金融ビジネスのターゲットと

はなってないことが挙げられる。これは、世銀の国際金融データでも、国際決済銀行(BIS)報告銀行の対外債

権データでもアンゴラへの与信の遅れとしてはっきり表れている。

多少なりとも政治や社会の安定の枠組みが出来上がったと判断されるや、先進国の銀行の巨額の投融資

が始まるというのは、2000 年代にはエマージングのどの地域でも見られた現象であり、それが、当初は資本受

け入れ国の急激な発展に資するものの、結局は過大な外貨建て債務を残すこととなり、地場通貨の急落やそ

れに伴う経済金融の混乱を引き起こしていた。カザフスタン、ルーマニアがそうした典型例であるが、アンゴラ

は、結局まだこうした投融資の対象前の段階であり、そのため、経常黒字で外貨準備が積みあがる一方で、対

外債務の拡大は遅れている。

Size of Resource relatedSovereign Fund

Estimated by SWFI as of July

2014 (bil.US$)

Algeria 192,500 5,278 3647.2% 77,200

Angola 37,940 22,710 167.1% 5,000

Morocco 19,160 36,510 52.5% -

Egypt 17,030 48,760 34.9% -

Venezuela 21,150 74,870 28.2% -

Argentina 33,650 111,500 30.2% -

Kazakhstan 29,340 131,300 22.3% 97,000

Ukraine 21,950 138,300 15.9% -

South Africa 48,460 139,000 34.9% -

Mexico 167,100 354,900 47.1% 6,000

Brazil 378,300 475,900 79.5% -

Russia 515,600 714,200 72.2% 174,400

(Source) CIA, Sovereign Wealth Fund Institute (http://www.swfinstitute.org )

Reserve to ExternalDebt Stocks, %

External DebtForeign Reserves(million US$)

外貨準備と対外債務残高/Foreign reserve and External debt (est. at end 2013)

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(資料) World Bank

アンゴラ、ナイジェリア、カザフスタンの経済成長、輸出、対外債務、外貨準備GDP, Exports, External debt and Foreign reserves of Angola, Nigeria and Kazakhstan

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

1995 2000 2005 2010

mil.US$ Angola

GDP

Exports

Foreign reserves

External debt

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

1995 2000 2005 2010

mil.US$ Nigeria

GDP

Exports

Foreign reserves

External debt

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

1995 2000 2005 2010

mil.US$ Kazakhstan

GDP

Exports

Foreign reserves

External debt

(資料)BIS

BIS報告銀行の主要途上国向け債権残高/BIS Reporting Banks Foreign Claims

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

1990 1995 2000 2005 2010

BIS Reporting Banks Claims (million US$)

Romania

South Africa

Egypt

Morocco

Kazakhstan

Angola

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

1990 1995 2000 2005 2010

BIS Reporting Banks Claims (% of Debtor's GDP)

Romania

Morocco

South Africa

Egypt

Kazakhstan

Angola

4.資源輸出依存の経済の行方

(1)産業多角化は進展しているか

95 億バレルの石油埋蔵量は、アンゴラの長期的な経済発展基盤としては潤沢とは言えないが、当面の利益

に敏感な外資系には十分魅力あるものであり、資源開発事業の投資は期待できるという経済条件に恵まれて

いる。だが、アンゴラ経済の先行きにはいくつかの不安材料がある。

資源国の多くが共通して抱える問題だが、アンゴラでも資源以外の産業の多角化がなかなか進まない。現

在、石油輸出額は輸出全体の97%にも及ぶ。これはGDPのほぼ50%の規模であり、あまりにも石油輸出への経

済全体の依存が大きい。さらに、石油輸出の 50%は中国向けという相手国の過度な集中も見られる。すなわち

アンゴラ経済は非常に大きく中国経済に左右される構造になっている。

人口約 2000 万人のアンゴラは、決して小国ではなく、エネルギー産業の発展が国民所得の向上をもたらし、

Page 10: アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸 …1 October 24 1.アンゴラの現状と展望 短期的な外貨資金繰りには懸念ないものの長期的安定性は疑問

10

そこを起点としてサービス産業が発展するという絵が描けないわけではないが、そのためには、需要サイドから

見れば、石油産業で上がる所得の国民全体への配分が起こり、都市や都市近郊部に持続的需要拡大をもた

らす中間層が育たなければならない。また供給サイドから見れば、都市を中心とするサービス業や、アグリビジ

ネス関連の製造業といった多様な産業の発展がなければならない。しかし、資源関連以外のインフラ整備の遅

れが他産業の発展を遅らせており、富の偏在が中間層の増加を阻んでいるのがアンゴラの実態であり、資源

依存型経済からの離陸は順調に進んでいるとは言い難い。

もちろん、政府もこの弱点は理解しており、先述の通り、近年ではインフラ整備のための投資を進めているが、

まだ発展初期段階にあり、雇用レベルまで産業の裾野が広がっている状況には至っていない。国全体でみれ

ば、米中央情報局(CIA)の 2013 年資料によると 85%の労働力が農業セクターであり、鉱工業、サービス業が残

りの 15%である。その 15%の中の大半が石油資源関連と推計されている。

伸び率だけを見れば下図の通り、鉱業以外の製造業や基礎インフラ系の水事業などの増加率が目立ってお

り、あるべき方向に向かっていることは確かだが、産業の多様化という実態に近づくには、まだ時間がかかるも

のと思われる。

(資料) Datastream

産業別の雇用数/Employment by industry

90

95

100

105

110

115

120

125

130

135

140

2010 2011 2012 2013

2010=100~105

雇用全体

鉱業

製造業

飲食品

石油化学

金属加工品

機械

(2)資源ナショナリズムの台頭について

アンゴラは、汚職や腐敗の絶えない不透明かつ不自由な投資環境であり、外資系企業もそれを織り込んだ上

で、経済利益目当てに、エネルギー、建設などターゲットを絞って進出している。ドス・サントス大統領には、外

資による資源採掘を排除する動機は薄い。外交政策的にも、よく言えばバランス感覚のある現実主義者であり、

国家のスタンスとして欧米などの既存秩序にチャレンジする意欲は感じられない。こうしたことから、ロシアやベ

ネズエラと違い、あえて資源ナショナリズムに踏み込む可能性は小さいと思われる。

5.経済格差、社会不安、治安

人口約 2000 万人のアンゴラは、アフリカ諸国の中では決して人口大国ではないが、石油資源の恩恵で経済

規模は南ア、ナイジェリア、エジプト、アルジェリアに次ぐ第5位にある。 結果として、計算上は一人当たりGDP

は 5000 米ドルを超え南アに次ぐ高所得国になるが、これはひとえに石油採掘と輸出の力で押上げられている

ものであり、社会全体の姿は決して 5000 米ドルという平均所得水準を映していない。国連の調査によれば、

2011 年時点で人口の 36%は 1 日 1.25 米ドル未満の貧困層である。51 歳というアフリカ諸国の中でも短い平均

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11

寿命もまた、社会厚生水準が低いことを示唆している。平均年齢は、所得水準が 2000 米ドル未満のサブサハ

ラ諸国並みの低さであり、人口ピラミッドが、まだ非常に発展段階初期の姿に留まっている中で、石油収入によ

り経済の一部だけが、突出して発展していることを示している。

こうした平均的な所得水準の高さと社会の姿のずれが直ちに社会不安に結びつくわけではない。しかし、汚

職腐敗や、所得格差拡大への不満が形になって現れる素地は十分あることには注意を要する。

治安は非常に悪い。イスラム原理主義グループのような宗教的な背景を抱えた不安定さというよりは、それ

以前の都市以外での地雷の撤去が進んでないことや、都市の一部のスラム化、拳銃や刃物など凶器を用いた

強盗犯罪からひったくりまで、非常に不安定な社会である。

こうした、他のエマージング諸国と比べた格段の基礎的条件の悪さもあって、先進国との人のつながりや経

済金融のつながりが、資源開発などのセクターを除いて未発達の状況にある。通常懸念されるような国際収支

上の問題は、健全というよりも、まだ問題が起こるような発展段階に至ってないというのがアンゴラの実情であ

る。

(資料)CIA, IMF

人口規模と経済規模

0

20,000,000

40,000,000

60,000,000

80,000,000

100,000,000

120,000,000

140,000,000

160,000,000

180,000,000

200,000,000

0

50

100

150

200

250

300

350

400

Nig

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nis

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Populationbil.US$

Nominal GDP in bil US$ (2013)

Population(July 2014 estimation)

(資料)CIA, IMF

平均所得水準と、国民平均年齢や平均寿命

0102030405060708090

0

1,000

2,000

3,000

4,000

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AgeUS$

GDP per capita Median age Life expectancy at birth

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(資料)CIA, IMF

平均所得水準と所得格差(GINI係数)

0.0

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30.0

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50.0

60.0

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er

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, D

.R.

Gini IndexUS$

GDP per capita Gini Index

<参考文献>

在アンゴラ日本国大使館 アンゴラ共和国月報 2013 年 12 月~2014 年 4 月号

IMF Country Report No.14/81, March 2014, ANGOLA

U.S.Energy Information Administration, Angola, May 8, 2014

日本貿易振興機構 アンゴラの投資環境 2012 年 3 月

公益財団法人 国際通貨研究所

経済調査部兼開発経済調査部 部長

佐久間浩司

(2014年8月7日)

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2.対ロ制裁をめぐるドイツの立ち位置

2014 年 9 月 4 日、英国ニューポートで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に先立ち、米欧主要国とウ

クライナの首脳会談が行われ、ウクライナ東部の情勢についての協議においてロシアが欧州の安全保障の脅威

になっているとの見方で一致した。米国・欧州連合(EU)・カナダ・オーストラリアが最初の対ロ制裁を発動したのは

2014 年 3 月である。その後、何度かの追加制裁措置が実施され、それに対抗してロシア政府は同年 8 月、上記諸

国を原産国とする農産物や生鮮・加工食品の輸入を今後 1 年間、禁止する報復措置に出た。

両者の対立が緩和する方向性は現在のところ見られないが、NATO 加盟各国内のロシアに対する姿勢は一様で

はない。特にロシアとの経済関係が緊密なドイツ(図表 1・2)は難しいかじ取りを強いられている。今号では、ドイツ

メディアが報じる同国のメルケル首相の対ロ外交姿勢、「ロシアのプーチン大統領に近しい体制エリート」として米

国渡航を禁じられているロシア最大の石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチン社長へのインタビュー記事の概要を

紹介することで、今後の情勢を占う材料としたい。

【図表 1 ロシアの主要貿易相手国】 (単位:10 億ユーロ)

(出典)ロシア連邦国家統計局

概要

2014 年 9 月 4 日、英国ニューポートで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に先立ち、米欧主要国と

ウクライナの首脳会談が行われ、ウクライナ東部の情勢についての協議においてロシアが欧州の安全保障の脅

威になっているとの見方で一致した。

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【図表 2 ドイツの対ロ貿易の推移】 (単位:10 億ユーロ)

(注)欧州中央銀行のユーロ為替レートによって換算

(出典)ロシア連邦国家統計局、ロシア連邦関税局

メルケル首相のかじ取り

ドイツ『シュピーゲル』誌(2014 年 9 月 3 日付)は「メルケル首相はプーチン大統領の敵の怒りを恐れている」とのタ

イトルで、NATO 首脳会議を前に、メルケル首相がプーチン大統領に「理解」を示し、強硬な制裁にブレーキをかけ

ようとする姿勢に対し、ロシアに地理的に近いポーランドやバルト諸国などの加盟国が批判を強めていると報じ

た。

こうした背景には、米欧とロシアの間の「報復合戦」がロシアの景気失速をさらに進め、ドイツ経済に悪影響を及ぼ

すという危機感がある。EU 統計局ユーロスタットが 8 月 15 日に発表したユーロ圏 18 カ国の 4~6 月期の域内総

生産(GDP)は前期比 0.2%増と横ばいであったが、ドイツは同 0.2%減であった。ロシアの食品輸入の制限は欧州

に予想以上のダメージを与えているといわれ、最悪の場合、対抗措置が自動車分野にも及ぶとのうわさもある中、

6,200 社近くの自国企業がロシアに進出し、対ロ投資額も 213 億ドル(2013 年末現在の投資残高。出どころはロシ

ア連邦国家統計局)に上るドイツとしては慎重な対応をせざるを得ないといえる。

もちろん経済的理由だけではない。外交上の対立をエスカレートさせないよう、メルケル首相は必要以上にロシア

を挑発すべきではないとの立場を取り、プーチン大統領に電話をして何度も理性的に振る舞うよう求めている。そ

のような姿勢が、NATO の強硬派にとっては、ロシアに対して譲歩しているように見えてしまうのであろう。とはいえ、

米国オバマ大統領の対ロ基本姿勢はメルケル首相と大きくは変わらず『シュピーゲル』誌は「ウクライナ危機に関

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15

するプーチンとの対話の責任をオバマ大統領はメルケル首相に移譲した」というカーネギー・ヨーロッパのジュディ

ー・デンプシー上級研究員のコメントを紹介している。

セチン社長の見方

イーゴリ・セチン社長は、ロシア連邦大統領府副長官、ロシア連邦副首相など政府の要職を歴任し、2012年 5月に

世界最大級の石油会社であるロスネフチの社長に就任した。プーチン大統領に非常に近い人物とみられているこ

とから、セチン社長は米国政府より同国への渡航を、ロスネフチは西側からの石油採掘技術の提供、EU 資本市

場での新規資金調達(償還 30 日以上の資金調達)が禁じられている。

とはいえ、セチン社長は『シュピーゲル』誌(2014 年 9 月 1 日付)のインタビューにおいて、強気な姿勢を崩さない。

「自分もロスネフチもウクライナ危機と関わるところはない」と前置きした上で「ロスネフチは欧米やアジアの株主を

有する国際的な企業であり、ロシア政府に次ぐ株主の BP は 20%を所有している。制裁はわれわれの西側パート

ナーにも直撃した。ロスネフチほど、欧米企業と密に協力しているロシア企業はないのに、制裁対象企業とされる

ことはおかしなことだ」と反論する。また、460 億ドルに上るといわれる純負債額についても「独力で返済義務を遂

行できる」と語った(ただし、2014 年 9 月 8 日付のロシア『ヴェードモスチ』紙は、メドヴェージェフ首相がロスネフチ

に公的支援を行う可能性を示唆したと報じている)。なお、8 月 30 日にロスネフチは米国石油大手エクソンモービ

ルとの間で、ロシア北極圏での石油ガス田の共同開発で合意済みである。

セチン社長は現時点で「ロスネフチが有する技術によって採掘可能な原油埋蔵量は今後 20 年分に値する」という。

また「すでに西側企業と締結している石油ガス供給に関する契約は履行」し、「シーメンスなどのドイツ企業からガ

スタービンや制御装置を購入する計画にも変化はない」と述べている。ただし、2014 年上半期におけるドイツから

の高性能技術の輸入は 15%減少した点を指摘。今後、西側からの輸入が困難になるのであれば、中国や韓国か

ら調達するという。

ロスネフチは 2013 年 6 月、中国石油天然気集団(CNPC)との間で、今後 25 年間に総額 2,700 億ドル相当の原油

を新たに供給する覚書を締結した。アジア太平洋地域における石油ガス、特に液化天然ガス(LNG)の需要の急増

により、今後は市場の多角化を目指してアジアへのシフトを進めていくとセチン社長は語っている。

今後の鍵を握るのはドイツか

セチン社長へのインタビューの通り、ロスネフチは中国をはじめとするアジアへの傾斜をすでに強めており、欧州よ

り新たな制裁が導入されても、その影響はそれほど大きなものにはならないかもしれない。しかし、中国とのエネ

ルギー価格の交渉が難しさを伴うこと、近い将来における欧州とロシアの互いの天然ガスの依存関係が変わらな

いことはロシア政府も承知している。9 月 5 日にはウクライナ政府と同国東部のいわゆる親ロシア派が停戦に合意

した。その見通しは不透明だが、10 月には EU が制裁の効果を評価する予定である。危機を収束させるためにドイ

ツが果たす役割は今後より重要になっていくのではないだろうか。

一般財団法人ロシア NIS 貿易会 ロシア NIS 経済研究所 次長

芳地 隆之

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(2014 年 9 月 10 日作成)

1992 年社団法人ロシア東欧貿易会ロシア東欧経済研究所(現一般社団法人ロシア NIS 貿

易会ロシア NIS 経済研究所)に入る。

2000 年から 3 年間、在ドイツ日本大使館に経済専門調査員として出向。2003 年より復帰し、

現在に至る。日本企業のロシアビジネス動向のウォッチ、ロシア市場に関心の高い日本の

中小企業を中心としたビジネスマッチングのサポートに従事。

主な著書に「ぼくたちは[革命]のなかにいた」(朝日新聞社)、「ロシアビジネス成功の法則」

(税務経理協会、共著)、「満州の情報基地ハルビン学院」(新潮社)「ロシア・ビジネスのはじ

め方」(東洋書店、共著)等。

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3.主要各国の経済指標

米国 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % 2.8 1.9 3.5 -2.1 4.6 季節調整済み、前期比、年率表示

インフレ率 % 2.1 1.5 1.5 1.5 2.1 2.0 1.7 消費者物価指数(CPI)、前年同期比、Qは各期末日

貿易収支 十億ドル -537.6 -476.4 -112.4 -124.5 -130.3 -40.3 -40.1

経常収支 十億ドル -460.7 -400.3 -87.3 -102.1 -98.5

政策金利 % 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 0.00-0.25 FF金利誘導目標

外国為替相場 対円 86.38 102.23 104.94 102.94 101.27 102.75 103.93 109.69 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 ドル 13,104.14 16,576.66 16,576.66 16,457.66 16,826.60 16,563.30 17,098.45 17,042.90 NYダウ工業株30種、各期末日レート

失業率 % 8.1 7.4 6.7 6.7 6.1 6.2 6.1 5.9 Qは各期末日

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、米商務省、米労働省、連邦準備理事会など)

EU 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % -0.7 -0.4 0.3 0.2 0.0 ユーロ圏、前期比

インフレ率 % 2.5 1.3 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.3 消費者物価指数(HICP)、ユーロ圏、前年比

貿易収支 十億ユーロ 89.4 160.4 43.5 42.6 43.6 12.2 ユーロ圏

経常収支 十億ユーロ 133.1 227.8 87.8 31.6 56.4 32.3 ユーロ圏

政策金利 % 0.75 0.25 0.25 0.25 0.15 0.15 0.15 0.05 各期末日レート

外国為替相場 対ドル 1.3217 1.3500 1.3772 1.3778 1.3688 1.3383 1.3145 1.2620 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 ユーロ 2,635.93 3,109.00 3,109.00 3,161.60 3,228.24 3,115.51 3,172.63 3,225.93 ユーロ・ストックス50指数、各期末日レート

失業率 % 11.3 11.9 11.9 11.7 11.6 11.5 11.5 ユーロ圏

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、EUROSTAT、ECBなど)

ブラジル 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % 1.0 2.5 2.2 1.9 -0.9 前年比

インフレ率 % 5.8 5.9 5.9 6.2 6.5 6.5 6.5 6.8 拡大消費者物価指数(IPCA)、前年比、Qは各期末日

貿易収支 億ドル 194 24 42 -61 36 16 12 -9

経常収支 億ドル -542 -812 -208 -251 -182 -60 -55

政策金利 % 7.25 10.00 10.00 10.75 11.00 11.00 11.00 11.00 各期末日レート

外国為替相場 対ドル 2.0475 2.3593 2.3605 2.2566 2.2026 2.2666 2.2371 2.4477 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 レアル 60,952.08 51,507.16 51,507.16 50,414.92 53,168.22 55,829.41 61,288.15 54,115.98 ボベスパ指数、各期末日レート

失業率 % 5.5 5.4 4.3 5.0 4.8 4.9 5.0 Qは各期末日

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、地理統計院(IBGE)、ブラジル中銀など)

トルコ 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % 2.2 4.0 4.4 4.7 2.1 前年同期比

インフレ率 % 8.9 7.5 7.5 8.0 9.4 9.3 9.5 8.9 消費者物価指数(CPI)、前年同期比

貿易収支 百万米ドル -84,083 -99,859 -24,606 -17,317 -22,310 -6,502 8,036

経常収支 百万米ドル -48,497 -65,065 -15,888 -11,584 -12,512 -2,634

政策金利 % 5.50 4.50 4.50 10.00 8.80 8.30 8.30 8.30 各期末日レート

外国為替相場 対ドル 1.7862 2.1431 2.1431 2.1413 2.1184 2.1439 2.1618 2.2786 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 リラ 78,208.44 67,801.73 67,801.73 67,801.73 78,489.01 82,156.87 80,312.94 74,937.81 イスタンブールナショナル100種、各期末日レート

失業率 % 8.4 9.1 9.2 9.1 9.1

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、トルコ中銀など)

ロシア 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % 3.4 1.3 2.0 0.9 0.8 1.0 0.0 前年同期比

インフレ率 % 6.6 6.8 6.5 6.9 7.8 7.5 7.6 8.0 前年同期比

貿易収支 百万米ドル 191,663 181,939 46,822 50,728 54,500 19,630

経常収支 百万米ドル 71,282 34,141 8,025 27,089 17,100

政策金利 % 8.25 5.50 5.50 7.00 7.50 8.00 8.00 8.00 各期末日レート(2013年9月より1週間物入札レポ金利に変更)

外国為替相場 対ドル 30.500 32.877 32.877 35.165 33,956 35.673 37.168 39.522 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 ルーブル 1,453 1,441 1,493 1,369 1,476 1,380 1,401 1,411 MICEX指数、各期末日レート

失業率 % 5.7 5.6 5.5 5.5 5.0 4.9 4.8

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、ロシア中銀など)

南アフリカ 単位 2012 2013 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q Ju l-14 Aug-14 Sep-14 備考

実質GDP成長率 % 2.5 1.9 3.8 -0.6 0.6 前期比、年率表示

インフレ率 % 5.6 5.7 5.4 6.0 6.6 6.3 各期末月、前年同期比

貿易収支 100万ランド -39,578 -73,584 -8,322 -24,788 -19,824 -6,820 -16,300

経常収支 100万ランド -164,548 -197,179 -35,983 -43,769 -53,250

政策金利 % 5.00 5.00 5.00 5.50 5.50 5.75 5.75 5.75 各期末日レート

外国為替相場 対ドル 8.473 10.551 10.551 10.524 10.629 10.709 10.657 11.305 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート

株価 ランド 34,795.50 41,482.39 41,482.39 42,996.63 45,969.81 46,222.43 45,630.44 44,160.31 FTSE/JSEアフリカトップ40指数、各期末日レート

失業率 % 24.9 24.1 24.1 25.2 25.5 年間データは、第4四半期の値

(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、南ア準備銀行など) (作成日:2014年10月15日)

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(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

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