【ダイジェスト版】 循環器医のための心肺蘇生・心...

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1457 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007 − 2008 年度合同研究班報告) 【ダイジェスト版】 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Cardiovascular Emergency(JCS 2009) 目  次 Ⅰ.緒 言………………………………………………………1458 1.ガイドラインの背景と考え方 ………………………1458 2.循環器救急医療の現況と課題 ………………………1460 3.院外心停止 ……………………………………………1460 Ⅱ.成人の BLS ………………………………………………1461 1.成人の BLS(一次救命処置) ………………………1461 Ⅲ.成人の ACLS ………………………………………………1461 1.成人の二次救命処置(ACLS………………………1461 Ⅳ.症候からみた心血管救急…………………………………1462 1.胸背部痛 ………………………………………………1462 2.呼吸困難 ………………………………………………1463 3.意識障害 ………………………………………………1463 4.ショック ………………………………………………1463 5.動悸 ……………………………………………………1467 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会, 日本蘇生学会,日本脳卒中学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会, 日本小児集中治療研究会 班長 貫   早稲田大学理工学術院大学院 班員 新潟大学大学院医歯学総合研究科循 環器学分野 横浜市立大学附属市民総合医療セン ター心臓血管センター 済生会川口総合病院循環器内科 日本大学 小児科学系小児科学分野 榊原記念病院循環器内科 田   東京慈恵会医科大学救急医学講座 澤   脳神経疾患研究所附属総合南東北病 院小児科 尾  駿河台日本大学病院循環器科,蘇生・ 救急心血管治療 野々木   宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門 三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院循環器内科 協力員 圷   日本医科大学付属病院集中治療室 地   獨協医科大学心臓・血管内科 玉   新潟大学大学院医歯学総合研究科器 官制御医学講座 循環器学分野 東京大学医療安全管理学 日本医科大学千葉北総病院内科・循 環器センター 木   東京女子医科大学心臓病センター循 環器内科 横浜市立大学附属市民総合医療セン ター高度救命救急センター 平塚共済病院循環器科 済生会川口総合病院循環器内科 国立循環器病センター心臓血管内科 外部評価委員 日本医科大学付属病院内科学第一 日本蘇生協議会 帝京大学救命救急センター 丸 川 征四郎 医誠会病院 長野県立こども病院 (構成員の所属は2009 10 月現在)

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1457Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007−2008年度合同研究班報告)

【ダイジェスト版】

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドラインGuidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Cardiovascular Emergency(JCS 2009)

目  次Ⅰ.緒 言………………………………………………………14581.ガイドラインの背景と考え方 ………………………14582.循環器救急医療の現況と課題 ………………………14603.院外心停止 ……………………………………………1460

Ⅱ.成人のBLS ………………………………………………14611.成人のBLS(一次救命処置) ………………………1461

Ⅲ.成人のACLS ………………………………………………1461

1.成人の二次救命処置(ACLS) ………………………1461Ⅳ.症候からみた心血管救急 …………………………………14621.胸背部痛 ………………………………………………14622.呼吸困難 ………………………………………………14633.意識障害 ………………………………………………14634.ショック ………………………………………………14635.動悸 ……………………………………………………1467

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,          日本蘇生学会,日本脳卒中学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会,          日本小児集中治療研究会

班長 笠 貫   宏 早稲田大学理工学術院大学院

班員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器学分野

木 村 一 雄 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター

源 河 朝 広 済生会川口総合病院循環器内科

住 友 直 方 日本大学 小児科学系小児科学分野

高 山 守 正 榊原記念病院循環器内科

武 田   聡 東京慈恵会医科大学救急医学講座

中 澤   誠 脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児科

長 尾   建 駿河台日本大学病院循環器科,蘇生・救急心血管治療

野々木   宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門

三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院循環器内科

協力員 圷   宏 一 日本医科大学付属病院集中治療室

菊 地   研 獨協医科大学心臓・血管内科

小 玉   誠 新潟大学大学院医歯学総合研究科器官制御医学講座 循環器学分野

児 玉 安 司 東京大学医療安全管理学

清 野 精 彦 日本医科大学千葉北総病院内科・循環器センター

髙 木   厚 東京女子医科大学心臓病センター循環器内科

田 原 良 雄 横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター

丹 羽 明 博 平塚共済病院循環器科

船 崎 俊 一 済生会川口総合病院循環器内科

横 山 広 行 国立循環器病センター心臓血管内科

外部評価委員水 野 杏 一 日本医科大学付属病院内科学第一

岡 田 和 夫 日本蘇生協議会

坂 本 哲 也 帝京大学救命救急センター

丸 川 征四郎 医誠会病院

宮 坂 勝 之 長野県立こども病院

(構成員の所属は2009年10月現在)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅰ 緒 言

1 ガイドラインの背景と考え方

1 本ガイドラインの背景 我が国における心臓突然死の頻度は増加傾向で,2007年度の心原性心停止は59,000人にのぼる.そのために,循環器専門医にとって心肺蘇生の実践と心血管治療の知識・技能は不可欠といえる.蘇生医療の標準は,国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)が5年ごとに作成するコンセンサス(CoSTR)を基に,AHA等が地域を代表してそれぞれのガイドラインを作成し,さらにマニュアル化した教育が行われている.日本循環器病学会では専門医試験の受験資格としてAHA認定のACLS受講を義務付けするとともに,一般のプロバイダーによるBLS/ACLS

後にエキスパートとしてコンサルトを受ける立場であり,かつ救急外来で直接の診療に当たる循環器専門医のために,心血管救急全体にわたるガイドラインを作成することとなった.本ガイドラインの意義は循環器医の専門的技能とエビデンス(多くはBest Available Evidence)を統合することで,患者にとって最も望ましい救急医療を提供することである.医師の意思決定を支援する役割

を担うもので,診療を制限したり拘束するものではなく,まして医療訴訟の判断基準になるものでもない.

2 ガイドライン作成にあたっての考え方

●日本循環器学会が専門医資格として義務づけしているAHA-ACLSの要旨に加えて,ACLSによる心肺蘇生後(心停止後症候群)の専門医へのコンサルテーションとして循環器医のなすべき心血管救急のガイドラインである.●心血管救急疾患の急性期初期診療(おおよそ24時間)における診断・治療について取り上げた.●循環器診療に当たる循環器医が実際に遭遇する種々の異なる臨床現場でも役立つことを念頭に置いた.そのために疾患や項目ごとの記載だけでなく,症候からのアプローチや鑑別疾患についても記載した.●循環器救急疾患は極めて広範にわたるが,これまで9つの関連する各分野のガイドラインが作成されている.本ガイドラインでは,既存ならびに現在改訂作業中のガイドラインとの整合性に留意した(表1).紙面の制限から既存ガイドラインと同じの内容はクラス分類等要約のみとし,引用文献も省略した.なお2005年以前のガイドラインについては文献を追加した.●循環器救急の現場で医師が心血管救急全般を迅速に理解し,重要ポイントを把握し,具体的個別患者に対応しやすくするため,できるだけ要約を加え,図表を多

Ⅴ.不整脈………………………………………………………14681.頻脈 ……………………………………………………14682.徐脈 ……………………………………………………1472

Ⅵ.急性冠症候群………………………………………………14721.不安定狭心症・非ST上昇心筋梗塞…………………14722.ST上昇型急性心筋梗塞 ………………………………1477

Ⅶ.その他の心血管救急………………………………………14831.急性大動脈解離 ………………………………………14832.急性心不全 ……………………………………………14843.急性肺血栓塞栓症 ……………………………………14874.心タンポナーデ ………………………………………14875.急性心筋炎 ……………………………………………14886.電解質異常 ……………………………………………14907.救急心疾患治療における中毒学 ……………………1492

8.偶発的低体温 …………………………………………14959.成人の先天性心疾患 …………………………………1495

Ⅷ.蘇生後の治療………………………………………………14971.心停止後症候群(Post cardiac arrest syndrome)の治療 …14972.体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal

  cardiopulmonary resuscitation; ECPR) ………………1497Ⅸ.小児のBLSとACLS ……………………………………14981.小児の一次救命処置(PBLS) ………………………14982.小児の二次救命処置(PALS) ………………………1498

Ⅹ.循環器救急医療に関する提言……………………………14991.心肺蘇生・蘇生科学に対する本学会の役割 ………14992.循環器救急医療に対する提言 ………………………1502

Ⅺ.本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧……………1504

(無断転載を禁ずる)

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

くした.●循環器救急の診断,治療,管理に関して一般に容認される方法をできるだけ根拠に基づいた内容として提供しているが,救急医療では,地域や時間帯ならびに人員等の異なる環境における救急診療のガイドラインとなるために専門家のコンセンサスの部分が多く,多分野の専門家の議論による合意を求めた.また,クラス分類やエビデンスレベルは従来のガイドラインにならって記載した.

 クラス分類クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエ

ビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致している.

クラスⅡ:手技,治療の有効性,有用性に関するエビデンスがあるか,あるいは見解が一致していない.

   Ⅱa:エビデンス,見解から有用,有効である可能性が高い.

   Ⅱb:エビデンス,見解から有用性,有効性がそれほど確立されていない.

クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,時に有害であるとのエビデンスがあるか,あるいはそのような否定的見解が広く一致している.

 エビデンスレベルレベルA:複数の無作為介入臨床試験または,メタ

解析で実証されたもの.レベルB:単一の無作為介入臨床試験または,大規

模な無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.

レベルC:専門家および /または,小規模臨床試験(後向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの.

レベルD:無作為介入臨床試験ではないが,専門家の意見が一致したもの.

●我が国においては,使用できる薬剤やその用量・用法は欧米と異なるが,日本循環器学会専門医にはAHA-

ACLSの受講が義務化されており,原則としてそれに準拠したが,できるだけ我が国における実情や医療の特殊性を考慮したうえで,解説を加えた.●これまで本学会ガイドラインで取り上げられていない電解質異常,Toxidromes,偶発性低体温について収載した.●救急診療において循環器小児科領域の知識も必要であり,小児のBLSやPALSの解説を加え,さらに成人の先天性心疾患の救急の特徴についても取り上げた(図1).●我が国において著しく進歩をとげ,ILCORでも注目されている蘇生後治療(心停止後症候群)についても別項をおいて記載した.●AHA-ACLSには脳卒中が含まれるが,それは脳卒中専門医の扱いとして本ガイドラインでは意識障害で触れるにとどめた.●ダイジェスト版の作成においては,ポケットマニュアルとしての機能を持たせるように工夫し,薬剤一覧も付けた.

表1 本ガイドラインに関連するこれまでの日本循環器学会ガイドライン

・心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)・急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2008年)・脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した疾患の管理に関するガイドライン(2008年)・急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)・大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版)・急性心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)・急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン(2004年改訂版)・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2004年改訂版)・不整脈薬物治療に関するガイドライン(2004年改訂版)

図1 循環器専門医に求められる心肺蘇生・心血管救急の概念図

ACLS (循環器専門医義務化)

心血管救急(大動脈解離,心不全,肺塞栓症,ショック,電解質異常,中毒,低体温,先天性心疾患等)

専門家としてのACS対応

専門家としての不整脈対応

低体温治療ECPR

小児ALS

小児BLS

ICLS(研修医,内科認定医義務化)

BLS(医療従事者,一般市民,医学生)

心停止

CPR AED頻脈徐脈ACS脳卒中 救急外来

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

●心血管救急を担う医師や病院の過重な環境等救急医療の抱える問題点について(図2),社会へのメッセージを発信するために本学会が取り組むべき課題と解決に向けての提言について言及した.●本ガイドラインで使用した略語を表として付けた.

2 循環器救急医療の現況と課題

① 我が国では,複雑外傷・多臓器傷害に重点がおかれ,一次,二次,三次救急の順次搬送システムが構築された.

② 1980年代からは内科疾患重症が増加し(図3),心停止の救命率が低いことが問題となった.

③ 循環器疾患はいつ重症化するか予測が困難であり,心停止や重症化する前に専門医が初期から関わる必要があり,順次搬送システムでは対応できない.救急搬送の段階で循環器救急に対応できるシステムの構築が救命率の向上につながる.

④ 心血管救急疾患に対応するために人的物的資源の集約化するような循環救急システムの抜本的改革が必要である.

⑤ 心血管救急疾患の適切な早期受診に向けて地域住民の教育啓発が必要である.

3 院外心停止

① 我が国における院外心停止は年間に約10万人であり,そのうち6万人弱が心原性である(図4).

② 我が国では世界に類を見ないウツタイン様式(心停止の専門用語とその定義を定め,国際的に記録様式を統一した)を用いた全国の疫学調査が進行中である

③ 我が国では市民による心肺蘇生法(CPR)とAED

実施率が共に増加し,社会復帰は年々増加している.しかし,その社会復帰率は6%にしか過ぎない.

④ 日本循環器学会は,日本蘇生協議会(JRC)に参画し,国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)と連携し,循環器救急医療における我が国のエビデンスを国際的に発信し,さらに米国心臓協会と連携してBLS

およびACLS講習を実施している.⑤ 日本循環器学会の循環救急医療委員会は,日本蘇生協議会(JRC)や国際蘇生連絡委員会(ILCOR)のエビデンスを発信することが求められる(図5).

⑥ 院内心停止においては,非 ICU病棟へのAED設置

死亡・重症の割合 26% 26% 6% 11% 1% 2%

中等症以下死亡・重症

350300250200150100500

脳心臓

消化器呼吸器精神系

感覚器系

(総務省 平成18年度データ)

搬送人数

千人

図3 救急搬送重症度

図2 循環器救急の現状(学会アンケート調査)夜間宿直(翌日は通常勤務)

1~3回: 49.2%

4~6回: 49.2%

0回: 15.9%

7~9回 : 6.7%週の勤務時間

61~70時間: 21%

81時間~: 18% 51~60時間

: 14%

~50時間 : 7%

オンコール(自宅待機)

1~3回: 12.5%

0回: 25%

71~80時間: 14%

16~回14.6%

13~15回: 7.3%

4~6回: 15.9%7~9回

: 12.5%

10~12回: 11.7%10~12回: 11.7%

仕事のない休日

1~3回: 45.0%

0回: 18.8%

4~6回: 31.7%

7~回 4.5%

81時間~: 18%

16~回14.6% 0回

: 18.8%

傷病者 社会復帰率

5万人

10万人

40%

20%

総数

心原性

除細動なし

市民による除細動あり 23.9%

102,738人

56,412人

1.2%

2005 2006 2007 年

29.2%

105,942人

57,982人

1.5%

35.5%

109,461人

59,001人

2.5%

図4 心停止傷病者数と救命率の推移総務省消防庁救急企画室心肺機能停止傷病者の救命率等の現況

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

と蘇生行為の質の評価が注目されている.

Ⅱ 成人のBLS

1 成人のBLS(一次救命処置)

① 心停止の救命を円滑に行うための一次救命処置(BLS)は,緊急通報と迅速な自動体外式除細動器(AED)の手配,迅速な心肺蘇生法(CPR),迅速な電気ショック(除細動)である.これに二次救命処置(ACLS)とあわせて救命の連鎖となる(図6).

② 心停止の患者に対して,胸骨圧迫と人工呼吸によるCPRをできるだけ早期に開始し,自己心拍が再開するまで絶え間なく行う.

③ BLSの手順は図7に示す.1) 傷病者が反応のない場合,大声で人を呼び,緊急通報とAEDを手配する.

2) 頭部後屈あご先挙上法で気道を確保し,呼吸を

10秒以内で確認する.3) 呼吸がなければ,胸が上がるように人工呼吸を2回試みる.

4) 頚動脈の触知を10秒以内に確認する.5) 脈が触知できなければ胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰返す.圧迫は強く,早く(約100/分),絶え間なく行い,圧迫解除は胸がしっかり戻るように行う.

6) AEDのスイッチをいれ,電極パッドを右上前胸部と左下側胸部に貼る.

7) AEDの心電図解析を待ち,ショックが不要な場合にはただちにCPRを再開する.

8) ショックが必要であれば電気ショック(除細動)を1回行った後にただちにCPRを再開する.2分または5サイクルのCPR後にAEDによる心電図解析を繰り返す.

④ なお,人工呼吸ができない・したくない人は,胸骨圧迫のみの蘇生を開始する.

Ⅲ 成人のACLS

1 成人の二次救命処置(ACLS)

① 2次救命処置(ACLS)では,心停止に対してその背景疾患を鑑別診断しながら,質の高い心肺蘇生に除細動器や薬剤等を併用する.

② ACLSでは電気ショック(除細動)が必要な心室細

International Liaison Committee on Resuscitation 国際蘇生連絡委員会(ILCOR) 1992設立

American Heart Association

Heart & Stroke Foundation of Canada

Inter-American Heart Foundation

Australian & New Zealand Committee on Resuscitation

Resuscitation Council of Southern Africa

European Resuscitation Council

Resuscitation Council of Asia NRC Singapore

NRC Taiwan

Korean ACPR

Indonesian RC

Japan Resuscitation Council(日本蘇生協会)

日本循環器学会International Training Center

AED検討委員会

蘇生科学小委員会

JCS-ITC運営小委員会

循環器救急制度小委員会

日本循環器学会

循環器救急医療委員会

図5 心肺蘇生に関する世界と日本循環器学会の関係

図6 救命の連鎖

①緊急通報と AEDの手配

②迅速な CPR

③電気ショック (電気的除細動)

④二次救命 処置(ACLS)

Circulation 2005; 112(24 suppl):Ⅳ1-203より

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

動(VF),無脈性心室頻拍(pulseless VT)と電気ショック(除細動)が不要な無脈性電気活動(PEA),心静止(Asystole)の2つのアルゴリズムがある(図8).質の高いCPRは,BLSでのCPRに加えて高度な気道管理を併用する.

③ 電気ショック(除細動)は,二相性を推奨する.単相性では360J,二相性では120~200Jで1回行う.

④ 静脈路を確保し血管収縮薬(アドレナリン,バソプレシン)を使用する.

⑤ 血管収縮薬を含むCPRでもVFが持続する場合に抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン,ニフェカラント,硫酸マグネシシウム)を考慮する.

⑥ 無脈性電気活動(PEA)は,心臓の電気活動は認められるが脈拍が触れない状態と定義される.

⑦ PEA,心静止に対して電気ショック(除細動)は行わず,CPRを行う.

⑧ PEA,心静止に対して静脈路を確保し薬剤を投与する(アドレナリン,バソプレシン,アトロピン)

⑨ 心停止の原因を検索し治療する.

Ⅳ 症候からみた心血管救急

1 胸背部痛

① CCUに入院する急性心血管疾患のうち急性冠症候群(ACS)が約6割を占める.救急搬送された胸痛患者の1/3は緊急入院している.

② ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)のプライマリーPCIまでの“door-balloon time”90分以内を念頭におき,救急部門での治療方針決定は10分以内に行う.

③ 鑑別診断に正確な問診が重要である.痛みの部位,性状,時間,誘引と消失のほかに虚血性心疾患の既往や随伴症状に留意する(表2).

④ 12誘導心電図,心臓生化学マーカー,心エコーCT

等で診断するとともに初期治療を開始する(図9).

反応なし

気道を確保し,呼吸を確認

呼吸がなければ,胸の上がる人工呼吸を 2回行う

脈拍を確信できるか?(10秒以内)

心電図解析除細動の適応は?

大声で叫ぶ,緊急通報,AED

脈あり ・5~6秒ごとに人工呼吸を 1回・2分ごとに脈拍をチェック

脈がないか不確実準備ができていれば

胸が上がる人工呼吸 2回

胸骨圧迫 30回+人工呼吸 2回を繰返す(AED装着まで,ALSチームに引き継ぐまで,

または傷病者が動き始めるまで)圧迫は強く,早く(約 100/分),絶え間なく

圧迫解除は胸がしっかり戻るまで胸骨圧迫の中断を最小限にする

AED装着

ショック 1回ただちに CPRを再開5サイクル(2分)

ただちに CPRを再開5サイクル(2分)

適応あり 適応なし

図7 成人のBLSのアルゴリズム

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

2 呼吸困難

① 呼吸に際し努力と困難を自覚する不快感を表す症状の総称が「呼吸困難」であり,動脈血酸素濃度低下,動脈血pHの低下,肺うっ血,交感神経系亢進,気道閉塞,換気調節によってVE/VCO2 slopeが急峻化(呼吸中枢化学受容体のPCO2に対する感受性の亢進)した状態である.

② その発症様式,症状,検査から原因を鑑別する(図10).

3 意識障害

① 脳(上行性網様体賦活系と視床下部調節系)の機能が障害されると,意識レベルは消失または低下する.

② 循環器救急の立場からは,意識障害の機序を循環障害,脳障害性,それ以外に大別することが有用であ

る(表3).意識消失が一過性の場合はめまいや失神となる(表4).

③ 意識障害の定量的診断は,Japan Coma ScaleやGlasgow Coma Scaleが用いられる(表5,6).意識障害に加え,呼吸や心停止の有無を伴っていればただちにBLSを開始する.発症状況等の問診に理学所見と各種検査により診断する.

4 ショック

① ショックとは,生体の循環調節系が最大限に反応するにもかかわらず,臓器・組織の機能や構造を維持するために必要な酸素とエネルギー基質の供給が急激に破綻した急性循環不全の病態であり,放置すると死に至る臨床症候群である.

② ショックは,⑴血管抵抗低下性,⑵不整脈性(心拍数の異常),⑶左心不全性(左室ポンプ不全),⑷循環血液量減少性および⑸右室過負荷性(右室ポンプ

ただちに CPRを再開 5サイクル(2分)高度な気道確保を考慮末梢静脈路を確保し薬剤投与 アドレナリン 1mg,3~5分おき 徐脈性 PEA,心静止に対して アトロピン 1mg,3~5分おき,3mgまで

原因を検索し治療する(6H6T他)循環血液量減少 hypovolemia低酸素血症 hypoxia低・高カリウム hypo/hyperkalemiaアシドーシス hydrogen ion低体温 hypothermia低血糖 hypoglycemia緊張性気胸 tension pneumothorax心タンポナーデ tamponade毒物 toxins血栓症(冠,肺動脈) thrombosis外傷 trauma心不全,大動脈解離,心筋炎等

ショックを行う,ただちに CPRを再開抗不整脈薬を考慮 (iv/io) アミオダロン初回 150~300mg,追加 150mg リドカイン初回 1~1.5mg/kg,追加 0.5~0.75mg/kg,最大 3mg/kg ニフェカラント 0.1~0.3mg/kg  低Mg血症が疑われる場合 マグネシウム 1~2g

ショックを行う 二相性 120~200J 単相性 360Jただちに CPRを再開

心リズムをチェック:ショックの適応か?

ショックを行う,ただちに CPRを再開末梢静脈路を確保し薬剤投与 アドレナリン 1mg,3~5分おき

電気活動あれば脈拍チェック脈拍触知良好なら,蘇生後ケアへ

心リズムをチェック:ショックの適応か?

心リズムをチェック:ショックの適応か?

心リズムをチェック:ショックの適応か?

CPR (30:2),除細動器 /心電図装着

ショックの適応か?

VT・VFへ

反応なし無脈性心停止

VT・VF 心静止・PEA

ショック適応 不要

CPR5サイクル(2分)実施

適応

CPR5サイクル実施

CPR5サイクル実施

適応

いいえ

いいえ

適応いいえ

CPR5サイクル(2分)実施

適応

図8 心停止へのアルゴリズム

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1464 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

表2 胸痛の鑑別胸痛持続 誘因 改善法 その他

冠動脈疾患労作性狭心症 数分~15分 労作,興奮 安静NTG 閾値が一定冠攣縮性狭心症 数分~15分 前夜飲酒,寒冷 NTG 夜間から早朝に多い急性冠症候群 数分~数時間 ECG 逸脱酵素 心エコー心筋疾患急性心筋炎 数時間 感染先行,薬剤 経時的 発熱 CPK MRIで遅延染影肥大型心筋症 不定 労作ストレス 不定 心音異常 心肥大急性心外膜炎 数時間以上 感染先行 鎮痛剤 吸気増強,マサツ音 ST上昇 心嚢液急性大動脈解離 数時間以上 高血圧合併 降圧 血圧左右差 縦隔拡大 炎症反応 CT像弁膜症大動脈弁狭窄症 数分 労作,努責 安静 心雑音 遅脈 心エコー僧帽弁逸脱症 不定 不定 経時的 心雑音 心エコー肺疾患胸膜炎 不定 呼吸,咳 鎮痛剤 胸膜マサツ音,胸部X線,炎症反応気胸 数時間以上 呼吸,咳 鎮痛剤 呼吸音や胸郭上昇の左右さ,胸部X線肺炎 数時間以上 呼吸,咳 鎮痛剤 発熱,炎症反応,胸部X線肺塞栓症 数時間以上 不定 経時的 頻脈,Dダイマー,酸素飽和度,心電図,心エコー消化器疾患食道炎・痙攣 数分~数時間 前屈,ストレス,臥位 飲水 制酸剤 ECG変化なしアニサキス症 数時間 鮮魚摂食 ときにNTG ときにT波変化,胃カメラその他肋間神経痛 不定 体動,圧迫 鎮痛剤 圧痛,帯状疱疹肋軟骨炎 不定 体動,圧迫 鎮痛剤 若年,胸肋関節圧痛心臓神経症 不定 不定 経時的 飲水やNTG無効

表3 意識障害の鑑別A 循環障害(心臓/大血管由来) 不整脈:心室細動,心室頻拍,房室ブロック,洞不全症候群

急性冠症候群大血管疾患:急性大動脈解離,動脈瘤破裂心タンポナーデ急性肺塞栓高血圧性脳症神経血管反射性

B 脳障害 脳血管障害脳出血,脳梗塞,クモ膜下出血,硬膜下血腫,硬膜外血腫てんかん,炎症性脳炎,髄膜炎,脳腫瘍

C 肺換気障害 急性左心不全,気胸,重症喘息,肺気腫,肺線維症等,気道閉塞溺水

D その他 重症貧血,内分泌代謝障害血糖異常:低血糖/糖尿病性昏睡アルコール,薬剤中毒

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1465Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

図9 胸背部痛診断のアルゴリズム

病院救急部門での一般的治療を開始・O2 投与開始,酸素飽和度 90%以上維持・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注・硝酸薬が無効ならモルヒネを使用

病院救急部門での評価(10分以内)・バイタルサイン,酸素飽和度の評価 ・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定・末梢静脈路を確保 ・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡・12誘導心電図を記録し評価 ・ポータブル胸部 X線写真(30分以内)・ポイントを絞った病歴聴取と診察

循環器医による緊急 PCIPCI遅れは線溶療法考慮 適応に従い付加治療

ヘパリン・NTG・β遮断薬

循環器医による CCU・準じるモニタ可能病室管理 適応に従い付加治療

ヘパリン・NTG・β遮断薬

循環器医連携し胸痛観察プロトコール

6~24時間経過観察 心電図モニター・心筋障害マーカー

ST上昇または新規脚ブロック心筋障害を強く示唆 

STEMI

ST低下または T波の陰転心筋虚血を示唆 UA/NSTEMI

12誘導心電図

正常または判定困難なST-T変化  

中・低リスクの UA・他疾患

・線溶療法チェックリストにて適応と禁忌の判断

血液ガスD-dimer等付加検査

大動脈解離急性肺塞栓気胸,その他

胸部圧迫感・絞扼感・不快感虚血を示唆する症状

持続的背部痛背へ抜ける胸痛

判定困難な胸背部痛痛

救急部門にての緊急心エコー評価

造影CT

表4 心肺由来の失神の原因A  解剖学的心臓 弁狭窄症,大動脈解離,粘液腫,心タンポナーデ

閉塞型肥大型心筋症,心筋梗塞,冠攣縮肺疾患 肺梗塞,肺高血圧B 不整脈徐脈 洞不全症候群,房室ブロック頻脈 上室性頻拍,心室頻拍,QT延長症候群,Brugada症

候群,カテコラミン誘発性多形性心室頻拍

表5 意識障害の分類 JCS (Japan coma scale)Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)  (delirium, confusion, senselessness)

1.だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない2.見当識障害がある3.自分の名前,生年月日が言えない

Ⅱ.刺激すると覚醒する状態ー刺激をやめると眠り込む  (2桁で表現)  (stupor, lethargy, hypersomnia, somnolence, drowsiness)

10.普通の呼びかけで容易に開眼する  合目的な運動(例えば右手を握れ,離せ)をするし,  言葉も出るが,間違いが多い20.大きな声または体をゆさぶることにより開眼する  簡単な命令に応ずる(例えば握手)30. 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する

Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現)  (deep coma, coma, semicoma)

100.痛み刺激に対し,払いのけるような動作をする200.痛み刺激で少し手足を動かしたり,顔をしかめる300.痛み刺激に反応しない

上記に加えてあばれているとき(restlessness)R尿,便失禁しているとき(incontinence)I自発性がないとき(akinetic mutisum, apallic state)Aなどをそれぞれつける.

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1466 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

図10 呼吸困難の鑑別

急性呼吸不全

いいえ

発症は?

発作性

突発性

乾性ラ音

発語障害

慢性呼吸不全

はい

気道内異物

呼吸音左右差,胸部X線 気胸

肺血栓塞栓

手足のしびれ呼吸性アルカローシス

過換気症候群

胸痛

脳血管障害

呼吸音左右差,胸部X線

意識障害,神経所見

気胸

起座呼吸 湿性ラ音,心拡大,静脈圧↑ うっ血性心不全

意識障害 高血糖,アシドーシス 糖尿病性昏睡

咳,痰 肺機能検査,胸部X線

チアノーゼ 心雑音,心エコー

めまい 血液検査 貧血

慢性気管支炎肺気腫肺線維症

左右短絡先天性心疾患

急性左心不全(心筋梗塞)

起座呼吸,肺うっ血胸部X線,心電図

気管支喘息慢性閉塞性肺疾患

血液ガス,胸部X線心電図,心エコー

呼吸困難は急性か

表6 意識障害の分類 Glasgow Coma Scale (GCS)反応 成人 小児 乳児 点数

開眼 自発的 自発的 自発的 4呼びかけで 呼びかけで 呼びかけで 3痛み刺激で 痛み刺激で 痛み刺激で 2無反応 無反応 無反応 1

言語反応 見当識良好 見当識良好 適切喃語 5会話混乱 会話混乱 易刺激性,啼泣 4言語混乱 言語混乱 痛み刺激で啼泣 3意味不明の発音 意味不明の発語 痛み刺激でうなるもしくは発音 2無反応 無反応 無反応 1

運動反応 命令に従う 命令に従う 自発的運動 6疼痛部認識が可能 疼痛部認識が可能 触ると手足を引く 5

痛み刺激に対して 屈曲逃避 屈曲逃避 屈曲逃避 4異常な四肢屈曲反応 四肢屈曲反応あり 徐脳肢位(屈曲) 3四肢伸展反応 四肢伸展反応 徐脳肢位(伸展肢位) 2無反応 無反応 無反応 1

軽度の意識障害:GCS 13~15中等度の意識障害:GCS 9~12高度の意識障害:GCS 3~8

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1467Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

不全)の5型に分類される(図11).③ ショックのプライマリ・ケアは,⑴まず声かけをしながら外見を観察しショックの有無を評価する(所要時間;来院から1分以内).⑵ショックまたはショック前状態と推定したならば,患者に最も楽な姿勢を保持しながら高濃度酸素の投与を指示する(所要時間;来院から2分以内).⑶バイタルサインのチェックと爪床圧迫テストを実施(所要時間;来院から5分以内).ショック5型と循環虚脱3病態(容量・ポンプ・心拍数)の判断のため,ベッド・サイドでの検査を進める(所要時間;来院から10分以内).⑷体位を管理しながら血圧の安定化をはかる(所要時間;来院から15分以内).引き続きショックの原因疾患に対する緊急治療専門治療を開始する(図11).

5 動悸

 不整脈による動悸,心血管系に不整脈以外の異変が生じたための動悸,全身の生体に異変が生じたことによる反応性の動悸,不安神経症やパニック発作による心因性の動悸を鑑別する(図12).

図11 ショックのプライマリケア

・声かけと外観観察・5Pと爪床圧迫テスト

Step 1 ショックの推定

Step 2体位と酸素投与

Step 3診断と緊急処置

・患者の最も楽な姿勢を保持・高濃度O2の投与

・バイタルサインと意識状態・静脈路の確保,パルスオキシメーター・身体所見,問診,ベッドサイド検査

Step 4主要問題点

・容量の問題 volume

Step 5循環管理

・急速輸液(1~2L)・輸血・原因に応じた救急処置

<70mmHgノルアドレナリン(0.5~30μg/分)

70-100mmHg低心拍出の症状・所見ありドパミン(2~20μg/分)

70-100mmHg低心拍出の症状・所見ありドブタミン(2~20μg/分)

・ポンプの問題 pump

・心拍数の問題 rate

・血管抵抗低下性・循環血液量減少性・右心負荷性

・左心不全性 ・重症不整脈性

爪床圧迫テスト爪床の圧迫後解除白色から赤みが戻るまで>2秒

5PPulmonary deficiency 努力様呼吸Pallor 顔面蒼白Prostration 虚脱Perspiration 冷汗Pulselessness 脈拍触知不良

・陽性:心拍出量低下性・陰性:血管抵抗低下性

IABPPCPS 急性冠症候群では再灌流療法

収縮期血圧は?

・徐脈性:アトロピン,ペーシング・頻拍製:電気ショック(除細動)

ショックの 5型

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1468 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅴ 不整脈

1 頻脈

① 頻脈の定義は心拍数>100/分である.② 発作性頻脈で,症状と徴候が不安定であれば同期下電気ショックを行う(図13).

③ 血圧低下や狭心症等を伴わない安定した頻拍では,QRS幅とリズムから鑑別を行う(図13).

④ 単形性心室頻拍で心機能低下例では電気ショック,アミオダロン,ニフェカラント,リドカインを使用する.心機能正常では上記に加えてプロカインアミドを使用する.またベラパミルやATPが有効な場合もある(図14).

⑤ 多形性心室頻拍が持続する場合は心室細動に準じる(図15).

⑥ 反復する多形性心室頻拍でQT延長があれば,硫酸マグネシウム,QT延長の誘因の除去,徐脈を伴っていれば心室ペーシングを行う.QT延長のない場合はアミオダロン,ニフェカラントを使用する(図15).

⑦ 発作性上室性頻拍には迷走神経緊張を試み,無効ではATP急速静注を行う.なお,持続する例ではカルシウム拮抗薬を使用する(表7,図16).

⑧ 基礎疾患のある心房細動は,薬剤による洞調律への復帰よりも同期下電気ショックや心拍数の調整を優先する(図17).

⑨ 心機能良好(LVEF>40%)な心房細動の徐拍化にはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬を優先し,不十分な際にジギタリスを併用する.心不全を合併している例や心機能の低下した例にはジゴキシンの静注が推奨される(図17).

⑩ 持続が48時間以上の心房細動には3週間以上の抗凝血薬療法を行うか,経食道エコーで左房内血栓が否定されてから除細動を行う.器質的心疾患がなく,心機能にも問題がない場合には解離速度の遅いNa

チャネル遮断薬が勧められる(図17).⑪ WPW症候群の心房細動では,Caチャネル遮断薬やジゴキシンは禁忌であり,電気ショック,あるいは上述した薬剤かプロカインアミドの静注を試みる(図17).

⑫ 血行動態の不安定な心房粗動では電気ショックを行う.血行動態が安定していれば,心房細動に準じた抗不整脈薬による心室レートのコントロールまたは粗動の停止を試みる.

脈の結滞規則正しい突発性頻脈規則正しい突発性徐脈絶対性不整脈

強い鼓動整脈でやや速い

不整脈

動悸の自他覚所見

心血管系

全身性

心因性

・急性弁閉鎖不全(僧帽弁腱索断裂や感染性心内膜炎等)・急性大動脈解離・バルサルバ動脈瘤破裂・急性肺塞栓等

・発熱・感染・低酸素血症・貧血・低血糖・甲状腺機能亢進症・褐色細胞種・アルコール・薬剤 β刺激薬,キサンチン製剤

抗コリン薬,覚醒剤等

・不安,緊張,驚愕,疼痛等

・期外収縮・発作性頻拍・心房細動・粗動

心電図

心電図心エコー

BNPDダイマー酸素飽和度

胸部 X線酸素飽和度

CRPヘモグロビン血糖

甲状腺機能カテコラミン薬剤濃度

図12 動悸の診断プロセス

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1469Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

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頻脈心拍数>100/分

症候は不安定か?   症状:   徴候:

症状や徴候が不整脈によるか?意識状態の悪化,失神,呼吸困難,持続する胸痛等血圧低下やショックの所見(冷や汗,四肢冷感,尿量減少,意識低下等)心拍数>150/分

はい

安定頻拍として治療   静脈路確保   心電図

迅速な同期下電気ショック心房細動 : 100,200,300,360J心房粗動,上室性頻拍 : 50,100,200,300,360J単形性 VT: 100,200,300,360J多形性 VT: VFに準じた最大用量

いいえ

QRS幅<0.12秒

狭い

広い(QRS≧0.12秒)

リズムは規則的?

規則的 心房細動へ

不規則的

QRS幅の広い頻拍:心リズムは規則的か?

規則的 不規則的

持続性心室頻拍へ

変行伝導を伴う上室性頻拍

変行伝導を伴う心房細動へ

デルタ波のある心房細動へ

多形性心室頻拍およびTorsade des pointesへ発作性上室性頻拍へ

迷走神経刺激を試みるATP10mg急速静注,無効なら 20mg

図13 頻脈の診断と処置

図14 持続性単形性心室頻拍の停止法

静注プロカインアミド 20 mg/分で静注 総量は 17mg/kg QRS幅の延長は 50%以内アミオダロン 125 mgを 10分かけて静注ニフェカラント 0.15mg/kgを 5分かけて単回静注リドカイン 0.5~0.75mh/kg 最大 1.0~1.5mg/kgまでa) ベラパミル* 2.5~5mg/2~3分で静注 総量は 20mgまでb) ATP* 10mgボーラス,無効なら 20mg

*保険適用外 a) RBBB+LAD型の特発性心室頻拍 b) LBBB+RAD型の特発性心室頻拍

電気ショック ―静注―アミオダロンニフェカラントリドカイン

―静注―

アミオダロンニフェカラントリドカイン

心機能低下(LVEF<40%)

不安定な心室頻拍 安定な心室頻拍

DCショック

停止

再発

DCショック

心機能正常

症状と徴候

心室ペーシング

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1470 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

図15 多形性心室頻拍

停止不能の場合ニフェカラント静注,アミオダロン静注,リドカイン静注

DCショック 1回施行し停止しない場合は,ACLS開始,エピネフリン,バゾプレシン静注

反復する場合

あり

あり

なし

あり

なし

持続している場合

なし

多形性心室頻拍

後天性QT延長群 先天性QT延長群

*保険適応外

虚血の治療

虚血の関与

QT延長DCショック

DCショック

DCショック

原因治療

心室ペーシング

β遮断薬静注例:プロプラノロール 0.1mg/kgを 3等分して 2 ~ 3分間隔で

アミオダロン 125mgを 10分で静注 ニフェカラント 0.15mg/kgを 5分で静注

硫酸Mg静注 1~2gを 10mLの 5%ブドウ糖液で希釈,ゆっくり(5~20分)静注*

QT延長の原因

表7 迷走神経刺激による上室性頻拍の停止

いずれの手技においても①静脈ラインを確保②救急カートの準備,経皮ペーシングがあれば確保

③心電図モニターを装着④徐脈の発生時は咳をすることを指示⑤1分後に血圧と脈拍をチェックする

1 Valsalva手技①患者は立位または半座位②深く息を吸って止め,声門を閉じ,力むように指示

③気道内圧を高めたまま,15~30秒持続させる

2 頚動脈洞マッサージ①高齢者には行わない.血管雑音のないことを確認

②患者は座位.頭部を左にむかせる③右下顎骨角の下で乳頭筋の前の頚動脈を確認

④2本の指を押し付けながらゆっくり5~10秒間上下させる⑤マッサージは頚椎に向けて後方中央方向に加圧する

⑥5~10秒休んで2~3回試みる⑦1回毎に心電図と血圧を確認する⑧無効の場合には,左側で試みる

図16 発作性上室頻拍の停止

ー静注ーベラパミル 2.5~5.0mgを 2分かけて静注*

無効例では 5mgを 15~30分ごとに総量 20mg.ジルチアゼム 15~20mgを 2~3分かけて静注*

無効例では 20~25mgを 3分かけて追加.

Naチャネル遮断薬を考慮

DCショック高頻度ペーシング

ー急速静注ーATP10mg

無効の場合には20mgを 2回まで

DCショック 50~100Jから漸増高頻度ペーシング

a)Valsalva手技,頚動脈洞マッサージ*保険適用外

ありなし

持続a)迷走神経刺激*

持続

持続

持続

停止後は慢性期治療

症状と徴候の不安定

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1471Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

2 徐脈

① 徐脈の定義は心拍数60/分未満.② 徐脈によってめまいや失神,呼吸困難等の症状血行動態の悪化を伴う場合は不安定と判断する(図18).

③ 進行性徐脈性不整脈や,徐脈が心室頻拍・心室細動の誘因となる場合も治療が必要.

④ 不可逆性の原因・誘因があればそれを除去する.⑤ 不安定な徐脈や高度房室ブロックではペーシングを準備する(表8).

⑥ ペーシングの準備中に,アトロピン,アドレナリン,ドパミン,イソプロテレノールを使用する.

経皮ペーシングの適応

クラスⅠ アトロピンに反応しない不安定な徐脈クラスⅡa1. 薬物治療に反応しない補充収縮を伴った徐脈2. 薬物過量投与,アシドーシス,電解質異常が

原因で起こった重症徐脈やPEAを示している心肺停止患者

3. 心筋梗塞によって生じる以下の不整脈に対するスタンバイペーシング症状のある洞機能不全MobitzⅡ型2度房室ブロックⅢ度房室ブロック新しい左脚ブロック,右脚ブロック交代性ブロック,2枝ブロック

クラスⅡb1. 薬剤治療や電気ショックに難治性頻脈性不整

脈に対するオーバードライブペーシング2. 徐脈性心静止

図17 心房細動治療の進め方

ピルジカイニド 1mg/kgまで 10分かけてシベンゾリン 1.4mg/kg 2~5分かけてジソピラミド 50~100mgを 5分以上でフレカイニド 1~2mg/kgを 10分かけて電気ショック

ヘパリン静注準緊急電気ショック抗凝固療法継続 4週間

抗凝固療法>3週間待機的電気ショックさらに抗凝固療法 4週間継続

経食道エコー左房血栓は?

ピルジカイニドシベンゾリンジソピラミドフレカイニドプロカインアミド

ジゴキシン0.25mg静注2時間毎総量 1mgまで

Ca拮抗薬:ベラパミル 5 ~10mg/2分又はジルチアゼム0.25mg/kg/2分 Β遮断薬:プロプラノロール総量 0.15mg/kgを 2mgずつ

心機能はEF<40%

心電図デルタ波?

持続時間48時間以下

症候は安定しているか?不安定

安定

洞調律への復帰 心拍数の調整

48時間以上48時間以下

なし あり

なしあり

正常低心機能

肥大心,心不全,虚血あり

ジゴキシン少量β遮断薬

心房細動同期下電気ショック100,200,300,360J

表8 経皮ペーシングの手技

①2枚のパッチ電極を心臓を挟むように左前胸部と背部に装着する

②ペーシングモードをONにする③心拍数80/分に設定する④心静止の場合には最大出力から漸減させ,徐脈の場合には10mAより出力を漸増してQRSが捕捉される閾値を測定する

⑤ペーシング出力を捕捉閾値より10%高いレベルに設定する⑥ペーシング捕捉中の脈拍,血圧をチェックする⑦意識があれば鎮痛のためにモルヒネ,ペンタゾシン等を投与する

⑧心拍数を調整し,自己心拍があればスタンバイモードにする

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1472 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅵ 急性冠症候群

1 不安定狭心症・非ST上昇心筋梗塞

① 不安定狭心症(UA)と非ST上昇型心筋梗塞(非ST上昇MI; NSTEMI)の診療方針は同じことから一括して,UA/NSTEMIに括られる.

② 胸痛患者は12誘導心電図によるST偏位とT波の変化により診療指針が区別される(図19).

③ UA/NSTEMIにおいて臨床背景や心電図変化,生化学マーカー等からリスクの層別化を行う(表9,10,11).

④ 胸痛患者において様々な非侵襲的検査を行う(表12).心エコーの役割は大きい.また,冠動脈CT

のエビデンスの蓄積が必要である.⑤ リスクの層別化とともに入院・転院の適応を判断する.

入院・転院の適応

クラスⅠ1. 患者の短期リスクの評価に基づいて入院の適応を決定する(レベルB).

2. 高リスク患者は心電図監視が可能なCCUあるいはこれに準ずる病室に収容する(レベルB).

3. 中等度以上のリスクを有する患者は,CCUおよびそれに準ずる病室がない施設や循環器

専門医のいない施設から,CCUがあり緊急で冠動脈血行再建のできる循環器専門施設,またはそれに準ずる施設へ可及的速やかに転送する(レベルC).

表9 Braunwaldによる不安定狭心症の分類(1989)〈重症度〉クラスⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症    ・最近2か月以内に発症した狭心症    ・ 1日に3回以上発作が頻発するか,軽労作にても

発作が起きる増悪型労作狭心症.安静狭心症は認めない

クラスⅡ:亜急性安静狭心症    ・ 最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが,

48時間以内に発作を認めないクラスⅢ:急性安静狭心症    ・ 48時間以内に1回以上の安静時発作を認める〈臨床状況〉クラスA: 二次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,頻脈

等の心外因子により出現)クラスB: 一次性不安定狭心症(クラスAに示すような心外

因子のないもの)クラスC: 梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後2週間以内

の不安定狭心症)〈治療状況〉1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中2) 一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,長時間持続硝酸薬,Ca拮抗薬)

3) ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による治療中

表11 TIMIリスクスコア①年齢(65歳以上)② 三つ以上の冠危険因子(家族歴,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙)

③既知の有意な(>50%)冠動脈狭窄④心電図における0.5mm以上のST偏位の存在⑤24時間以内に2回以上の狭心症状の存在⑥7日間以内のアスピリンの服用⑦心筋障害マーカーの上昇該当するリスクの数を加算する

1. 経皮ペーシングの準備2. アトロピン 0.5mg静注,総投与量は 3mg 無効の場合ペーシング3. アドレナリン 2~10μ/分またはドパミン 2~10μ/kg/分4. イソプロテレノール(1A=0.2mg)0.01~0.03μg/kg/分 2A/ 100mLを 6 mL/ hrから開始し,最高 30mL/ hr5. 経静脈ペーシングを準備

可逆性の原因・誘因・副交感神経緊張・高カリウム血症・低酸素血症・甲状腺機能低下症・脳圧亢進・低体温・薬剤性

症状:めまい /失神所見:心不全 /ショック

高度房室ブロック

なし あり

可逆性の原因・誘因(薬剤等)があれば除去

なし

あり

観察,モニター

心拍数<60/分

図18 徐脈のアルゴリズム

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1473Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

図19 非ST上昇ACSへの初期診療アルゴリズム

救急隊員による対応と病院選定・モニター装着,気道・呼吸・循環のサポート・必要に応じ酸素を投与・傷病者が求めれば本人の持つ硝酸薬舌下を補助・緊急 PCIを施行できる施設を選定

初期救急医療機関の対応と救急車の要請・バイタルサインと身体所見を評価・12誘導心電図を記録し評価・末梢静脈路を確保し,MONA(モルヒネ,酸素,硝酸薬, アスピリン)を考慮・緊急 PCIを施行できる病院を選定し搬送を救急隊に指示

病院救急部門での評価(10分以内)・バイタルサイン,酸素飽和度の評価・末梢静脈路を確保・12誘導心電図を記録し評価・ポイントを絞った病歴聴取と診察・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡・線溶療法チェックリスト(表14)により適応と禁忌の判断・ポータブル胸部 X線写真(30分以内)

ただちに病院救急部門での一般的治療を開始・酸素投与を開始し,酸素飽和度 90%以上に維持・アスピリン 160~325mgを噛み砕く・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注・硝酸薬が無効ならばモルヒネを使用

ST上昇または新規の脚ブロック心筋障害を強く示唆

STEMI

ST低下または T波の陰転心筋虚血を示唆

UA/NSTEMI

正常または判定困難な ST-T変化

中・低リスクの UA

循環器医と連携し再灌流療法を優先

適応に従い付加治療 ・未分画ヘパリン ・ニトログリセリン ・β遮断薬

循環器医と連携しCCUまたはモニタ可能な病室へ入室適応あれば付加治療 ・未分画ヘパリン ・ニトログリセリン ・β遮断薬

施設の胸痛経過観察プロトコールに従い6~24時間経過観察下記を経時的に監視 ・心筋障害マーカー  (トロポニン等) ・心電図モニタ

PCI可能か否かによるSTEMIアルゴリズムへ リスクの再評価

・Braunwald層別化(表 9)・TIMIリスクスコア(表 11)

高リスク患者*

早期侵襲的治療戦略心原性ショックの治療適応あれば付加治療**

中リスク患者

循環器医が担当し入院継続心筋虚血評価

適応あれば付加治療**

低リスク患者

虚血や梗塞の疑いがない場合は,外来でフォローアップ

*高リスク患者・治療に反応しない虚血性胸痛・再発性・持続性 ST変化・心室頻拍・不安定な血行動態・ポンプ不全徴候

**付加治療・ACE阻害薬 /ARB・経口β遮断薬・スタチン

虚血を示唆する胸部不快感

12誘導心電図

陽性

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1474 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

クラスⅡa

1. 中等度リスク患者の入院は高リスク患者に準じる(レベルC).

2. ACSと診断できるがリスクの判断ができない患者は入院させて経過観察する(レベルC).

3. 低リスク患者と判断されても,入院が可能であれば入院させ経過を観察する(レベルC).

4. ACSが疑わしい患者を入院させる(レベルC).クラスⅢ1. 鑑別すべき他の重症疾患を否定でき,かつ

ACSが疑わしくない患者を緊急入院させる(レベルC).

⑥ 薬物治療抵抗性,症状再燃例,短期リスクの高いUA患者では冠動脈造影を行う(図20).

緊急・準緊急冠動脈造影の適応

クラスⅠ1. 薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患者,あるいは初期治療により一旦安定が得られた後に症状が再燃した患者(レベルB).

2. 短期リスクの高い不安定狭心症患者に対する準緊急な冠動脈造影(レベルB).

3. 初期治療により安定が得られた短期リスクが高度~中等度の不安定狭心症患者(レベルA).

表12 UA/NSTEMI患者への非侵襲的検査検査 クラスⅠ クラスⅡa クラスⅡb クラスⅢ

12誘導心電図

胸部不快感のある患者,症状消失したがACSの既往ある患者(レベルC)

全ての胸痛患者(レベルC) 病院収容前の救急車内の心電図(レベルB)

なし なし

生化学マーカー

胸痛患者の早期リスク層別化(レベルB) ACS患者へのCK, MB,トロポニンの測定(レベルC) 発症6時間以内ACSで陰性例への6~12時間での再検(レベルC)

発症6時間以内の患者でにトロポニンに加えてミオグロビン測定(レベルC)

CROおよび他の炎症マーカーでの診断補助(レベルB)

なし

心エコー ACS全例に行う(レベルC) なし 症状が持続し心電図異常が不確かなACS疑患者(レベルB)

なし

胸部XP 心臓疾患,心膜疾患,大動脈疾患の症候のある患者(レベルB)

肺,胸膜,縦隔疾患の症候がある患者(レベルB)

すべての胸痛患者に行う(レベルC)

なし

胸部CT クラス未確定: 冠動脈CTの有用性を示す報告もあるが,今後のさらなるエビデンスの集積を要する

表10 UA/NSTEMIの短期リスクの分類高リスク 中等度リスク 低リスク

病歴 胸痛 持続時間 亜硝酸薬の有効性 随伴症状

安静時48時間以内に増悪20分以上の胸痛現在も持続無効冷汗,吐き気呼吸困難感

安静時,夜間の胸痛2週間以内のCCSⅢ°ないしⅣ°20分以上,以内の胸痛の既往があるが現在は消失有効

労作性2週間以上前から始まり徐々に閾値が低下する20分以内有効

理学的所見 新たなⅢ音肺野ラ音汎収縮期雑音(僧帽弁逆流)血圧低下,除脈,頻脈

正常

心電図変化 ST低下≧0.5mm持続性心室頻拍左脚ブロックの新規出現

T波の陰転≧3mmQ波出現

正常

生化学的所見 トロポニンT上昇(定性陽性,>0.1ng/mL)

トロポニンT上昇(定性陽性,<0.1ng/mL)

トロポニンT上昇なし(定性陰性)

次の既往や条件を1つでも有する患者は,ランクを1段階上げるように考慮すべきである1 陳旧性心筋梗塞2 脳血管,末梢血管障害3 冠動脈バイパス術および経皮的冠動脈形成術4 アスピリンの服用5 糖尿病6 75歳以上

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1475Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

4. 各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左室機能低下が認められるUA患者(レベルB).

5. 6か月以内にPCIを施行しているUA患者(レベルB).

6. 冠動脈バイパス術の既往があるUA患者(レベルB).

7. 冠攣縮性狭心症が疑われる患者(レベルC).クラスⅡ b

1. 短期リスクの低いUAで,各種非侵襲的検査でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認められない患者(レベルC).

クラスⅢ1. 反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観的所見に乏しく,過去5年以内の冠動脈造影所見が正常である患者(レベルC).

2. 冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者,あるいは冠血行再建によりQOL,生存期間の向上が見込めない患者(レベルC).

3. 合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利点を上回る患者(レベルC).

⑦ 安静と心電図モニター,酸素吸入,胸痛への塩酸モルヒネの使用,抗血小板薬の投与,抗凝固薬の使用,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,スタチンの投与等を行う.必要な場合は大動脈内バルンポンプも選択する(図21).

UA/NSTEMIへの初期治療と薬物治療

クラスⅠ1. ベッド上安静とし,心電図にて不整脈を監視し,動脈血酸素飽和度が90%未満になったら酸素供給を行う(レベルC).

2. 胸痛が寛解しないか不安が強い場合は塩酸モルヒネを静注する(レベルC).

3. アスピリン162~325mgを速やかに咀嚼服用させる.アスピリン禁忌患者ではチクロピジンを投与する(レベルB).

4. アスピリン投与下でヘパリンの静脈内投与を行う(レベルC).

5. 硝酸薬,β遮断薬を投与する.β遮断薬が投与できない場合はカルシウム拮抗薬(ベラパミルまたはジルチアゼム)を投与する(レベルB).

6. 安静時の心拍数70/分未満,収縮期血圧140mmHg未満を目標として管理する(レベルC).

7. 心筋虚血の増悪因子を検出し,これに対する加療を行う(レベルC).

8. 禁忌がなければスタチンの内服を開始する(レベルB).

クラスⅡa

1. 充分な薬物療法下でも心筋虚血を繰り返すか,循環動態が不安定な患者に,大動脈内バルーンパンピングを使用する(レベルB).

アスピリンヘパリン抗狭心症薬モニタリング

早期保存的治療 早期侵襲的治療

安定化

低リスク 低リスク以外

症状再燃心不全

虚血の出現等

即時冠動脈造影

12~ 24時間以内

負荷試験

中等度リスク 高リスク図20 非ST上昇型ACSの短期リスク評価に基づいた治療戦略

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1476 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

クラスⅢ2. 心電図上明らかなST上昇を認めない,急性後壁心筋梗塞でもない,また新たに生じた左脚ブロックもない不安定狭心症患者に経静脈的に血栓溶解薬を投与する(レベルB).

⑧ UA/NSTEMIで,十分な薬物治療でも心筋虚血が持続したり血行動態が不安定な場合には緊急PCIを考慮する(図21).

UA/NSTEMIへの緊急PCIの適応

クラスⅠ1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻発し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されている患者(レベルA).

2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる不安定な血行動態または心不全が持続し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されている患者(レベル

A).3. 心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作があり,心電図にて新たにST降下が出現した患者,あるいはトロポニンが上昇している患者(レベルA).

クラスⅡa

1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻発するが,心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されていない患者(レベルC).

2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる不安定な血行動態または心不全が持続しているが,心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されていない患者(レベルC).

3. 薬物治療により安定化が可能と考えられる胸痛発作あるいは不安定な血行動態を認める患者(レベルA).

クラスⅡb

図21 非ST上昇型ACSへの薬物治療から続く治療フローチャート

以下の薬物を投与し症状の安定化を計る1.アスピリン :迅速なアスピリン 162~ 325mgの初回咀嚼服用後の一日 75~ 150mgの長期投与 アスピリンに過敏性があったり,アスピリンが投与できない時のチクロピジンの投与2.ヘパリン :アスピリン投与下でのヘパリン静脈内投与3.硝酸薬 :硝酸薬の舌下または噴霧でも症状の改善が見られない患者に対する硝酸薬の 24時間以内の静脈内投与4.β遮断薬 :胸痛が持続していれば静脈内投与し,そうでなければ経口投与を行う5.カルシウム拮抗薬 :硝酸薬とβ遮断薬が禁忌,または硝酸薬とβ遮断薬を十分量投与しているにもかかわらず虚血が持続した

り,頻回に発作を繰り返す患者における非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬の投与6.ニコランジル :胸痛が持続していれば静脈内投与,そうでなければ経口投与を行う7.モルヒネ :肺うっ血合併例や精神的動揺が強い状態にある時や硝酸薬でただちに回復しない胸痛発作時の静脈内投与8.ACE阻害薬 :うっ血性心不全や左室収縮障害を有した患者への投与

アスピリン経口投与,ヘパリン静脈内投与,経口抗狭心症薬のβ遮断薬,硝酸薬,カルシウム拮抗薬,ニコランジルを限界用量まで投与しているにもかかわらず狭心症発作がコントロールできない患者

(薬物治療抵抗性狭心症)

ただちに冠動脈造影検査

大動脈内バルーンパンピング施行

大動脈内バルーンパンピングクラスⅠ なしクラスⅡa1.β遮断薬,カルシウム拮抗薬,硝酸薬ならびに抗血小板薬,抗凝固薬による徹底した薬物療法にもかかわらず重症な心筋虚血が持続または再発する場合に IABPを用いる.

2.重症な心筋虚血の診断のために冠動脈造影を施行する前後での不安定な血行動態に対し IABPを用いる.

クラスⅡb なしクラスⅢ  なし

血栓溶解療法急性冠症候群に対する血行再建治療として,血栓溶解療法を単独で施行することは推奨されない.

責任冠動脈に PCIまたは冠動脈バイパス術

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1477Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1. 出血性素因や出血性合併症のため,ステント留置後の抗血小板薬使用に制限のある患者にPCIを行う(レベルC).

2. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う3枝病変で冠動脈バイパス術の適応例であるが,胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が困難と考えられる患者(レベルC).

クラスⅢ1. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う3枝病変の冠動脈バイパス術の適応例で,かつ胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が可能と思われる患者(レベルC).

⑨ UA/NSTEMIでは病変の部位やPCIの結果によっては緊急CABGを考慮する.

UA/NSTEMIへの緊急CABGの適応

クラスⅠ1. 左主幹部に高度狭窄を有する患者(レベルC).2. 左主幹部相当の病変(左前下行枝と左回旋枝入口部の高度狭窄)を有する患者(レベルC).

3. 非手術治療が無効で,持続する胸痛あるいは心筋虚血を有する患者(レベルB).

4. PCI不成功例で心筋虚血が持続し,広範囲の心筋梗塞の危険がある患者,あるいは血行動態が不安定な患者に冠動脈バイパス術を行う(レベルB).

クラスⅡa

1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有する患者(レベルC).

2. AMIの血栓溶解療法後に心筋虚血が持続するPCIの不可能な患者(レベルB).

3. 重篤な心不全を有するが冠動脈バイパス術が可能な患者(レベルB).

クラスⅡb

1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有しない1枝または2枝病変の患者に冠動脈バイパス術を行う(レベルC).

2. PCI不成功例で心筋虚血範囲が小さい患者(レベルC).

クラスⅢ1. 薬物治療の方が危険性が少ないと考えられる患者(レベルC).

2 ST上昇型急性心筋梗塞

① 冠動脈の完全閉塞により貫壁性心筋虚血を生じればST上昇型急性冠症候群とする.

② STEMIの院内死亡率は,CCUの管理と冠再灌流療法の普及により7%前後となった.しかし,病院前心停止に陥るSTEMI患者は総STEMI患者の14%以上にも達する.発症超早期の患者教育と病院前救護対策が重要な課題である.

③ 初期診断と治療はUA/NSTEMIに準じるが(図22,23),STEMIの場合には次の点が異なる.1) 右室梗塞の診断のために心電図で右側胸部誘導を記録する.また,右室梗塞ではニトログリセリンは使用しない.

2) 酸素投与は低酸素血症がなくても全例に行って

急性冠症候群(ACS)

胸痛+心電図

不安定狭心症

最終診断(24時間~)

非Q波梗塞 Q波梗塞

非 ST上昇型急性心筋梗塞

ST上昇型急性心筋梗塞

非 ST上昇型 ACS

リスク層別,抗血栓・虚血治療

ST上昇型 ACS

可及的早期再灌流療法

初期診断

治療方針決定(12時間以内)

心筋マーカー(CPK,トロポニン等)

持続性 ST上昇,CLBBBST低下,冠性T等

冠インターベンション・冠動脈バイパス術・各種薬物治療

図22 急性冠症候群の初期診断と最終診断(*治療・自然経過で心筋梗塞に至らない場合)

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1478 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

よい.3) 再灌流療法前後にヘパリンを積極的に使用す

る.4) 再灌流療法を早期に行う.場合によって他の施設に転送する.

5) 心筋保護のために,禁忌がなければできるだけβ遮断薬,ACE阻害薬を使用する.

④ 患者到着後10分以内に病態評価を行い,短時間で再灌流療法の適応を判断し治療を行うために個々の

施設の救急部で独自のプロトコールを作成し活用する(クラスⅠレベルB).患者到着後(10分以内)の簡潔かつ的確な病歴聴取,身体所見および簡潔な神経学的所見の診察,血液生化学検査を行う(レベルC)(図23,表13).

⑤ 検査1) 心電図:急性心筋梗塞が疑われる患者に到着後(10分以内)の12誘導心電図を記録し(クラスⅠレベルC),初回心電図で診断できない場合

表13 初期評価項目のチェックリスト問診 ・簡潔かつ的確な病歴聴取

…胸部症状,関連する徴候と症状,冠危険因子,急性大動脈解離・急性肺塞栓の可能性,出血性リスク,脳血管障害・狭心症・心筋梗塞・冠血行再建の既往

身体所見 ・バイタルサイン(大動脈解離を疑う場合は四肢の血圧測定も)・聴診…心音,心雑音,呼吸音(湿性ラ音の有無とその聴取範囲),心膜摩擦音,血管雑音(頸動脈,腹部大動脈,大腿動脈)

・眼瞼所見…貧血・頸部所見…頸静脈怒張・腹部所見…圧痛,腹部大動脈瘤,肝腫大・下腿所見…浮腫・神経学的所見

心電図 ・12誘導心電図…T波の先鋭・増高(Hyper acute T),T波の陰転化,R波の減高,ST上昇/低下,異常Q波・右側胸部誘導(V4R誘導)…右室梗塞の合併

採血 ・血液生化学検査…心筋傷害マーカー:心筋トロポニン,CK,CK-MB,ミオグロビン, 心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP) 血算,生化学,電解質,凝固

心エコー ・局所壁運動異常(左室壁運動,下壁梗塞の場合は右室壁運動も)・左室機能・機械的合併症…左室自由壁破裂(心嚢液貯留,右室拡張期の虚脱),心室中隔穿孔(シャント血流),乳頭筋断裂(僧帽弁逆流)・左室壁在血栓・他の疾患との鑑別…急性大動脈解離(上行大動脈や腹部大動脈の intimal flap,大動脈弁逆流,心嚢液貯留),急性肺血栓塞栓症(右房および右室の拡大,左室の圧排像),急性心膜炎(局所壁運動異常のない心嚢液貯留)等

胸部X線写真 ・心陰影…拡大・肺野…肺うっ血,肺水腫,胸水・肋骨,胸膜,縦隔陰影

注) 下線をひいた項目は特に優先度の高いもの

第 1段階 問診 身体所見

第 3段階 心エコー,胸部X線写真***

再灌流療法の適応の決定,実行

第 2段階 12誘導心電図* 採血**

Door to needle time : 30分以内Door to balloon time : 90分以内

■心電図モニタリング ■アスピリンの咀嚼服用■酸素投与 ■塩酸モルヒネ投与■静脈ライン確保 ■硝酸薬(ニトログリセリン)投与

* 急性下壁梗塞の場合,右側胸部誘導(V4R 等)も同時に記録する

** 診断確定のために採血結果を待つことで再灌流療法が遅れてはならない

*** 重症度評価や他の疾患との鑑別に有用であるが必須ではなく再灌流療法が遅れることのないよう短時間で行う

10分以内

図23 STEMIの診断アルゴリズムDoor to needle time : 病院到着から血栓溶解療法開始までの時間Door to balloon time: 病院到着から初回バルーン拡張までの時間

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1479Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

でも5~10分ごとの12誘導心電図を記録する(クラスⅠレベルC).また,急性下壁梗塞例で12誘導と右側胸部誘導(V4R誘導)の心電図を記録する(クラスⅠレベルB).

2) 胸部X線:重症度の評価と急性大動脈解離や肺疾患の鑑別のために胸部X線を撮像する(クラスⅠレベルB).

3) 心エコー法:標準的診断法で確定できないがAMIが疑われる場合,心筋虚血領域の評価,左心機能の評価,右室梗塞の合併の可能性がある患者,機械的合併症や左室壁在血栓の診断のために心エコー法を行う(クラスⅠレベルB).

⑥ 初期治療1) 酸素:肺うっ血や動脈血酸素飽和度低下(90%未満)を認める患者(クラスⅠレベルB)だけでなくすべての患者に対する来院後6時間の酸素投与を行う(クラスⅡaレベルC).経鼻カニュレまたはフェイスマスクにより酸素を2~5L/分から開始する.

2) 硝酸薬:

クラスⅠ1. 虚血による胸部症状のある場合に,舌下またはスプレーの口腔内噴霧で,痛みが消失するか血圧低下のため使用できなくなるまで3~5分ごとの計3回までの投与(レベルC).

2. 虚血による胸部症状の緩解,血圧のコントロール,肺うっ血の治療目的としての静脈内投与(レベルC).

クラスⅢ1. 収縮期血圧90mmHg未満あるいは通常の血圧に比べ30mmHg以上の血圧低下,高度徐脈(<50bpm),頻脈(>100bpm)を認める場合,下壁梗塞で右室梗塞合併が疑われる場合の投与(レベルC).

2. 勃起不全治療薬(例えばバイアグラ®等)服用後24時間以内の投与(レベルB).

3) アスピリン:アスピリンアレルギーの既往がある患者を除き,全例に,できるだけ早くアスピリンを投与する(クラスⅠレベルA).

4) 鎮痛薬:硝酸薬投与後にも胸部症状が持続する場合の塩酸モルヒネ投与(クラスⅠレベルC).

5) ヘパリン:PCI施行時のACTモニタリング下(ACT>300秒)で(クラスⅠレベルC),血栓溶解薬を使用した場合のaPTTモニタリング

(1.5~2.0倍)下でのヘパリンを静脈内投与する(クラスⅡaレベルC).

6) β遮断薬;発症後早期の投与可能で経口β遮断薬に対する禁忌のない場合の使用(クラスⅠレベルB).以下の場合は投与しない:中等度~高度の左室機能不全患者,心原性ショック,収縮期血圧100mmHg未満の低血圧,心拍数60/分未満の徐脈,房室ブロック(Ⅱ,Ⅲ度),重症閉塞性動脈硬化症,重症慢性閉塞性肺疾患または気管支喘息等(クラスⅢレベルC).

⑦ 再灌流療法:STEMIでは,線溶療法,PCIを問わず,いかに早期にTIMI-3の再灌流を得るかが,短期および長期の予後を改善する.線溶療法においてはdoor to needle timeを30分以内に,PCIではdoor to

balloon timeを90分以内を目標とする.

1.血栓溶解療法(表14)

1)血栓溶解療法の指針

クラスⅠ1. 線溶療法の禁忌がなく,75歳未満でかつ発

症より12時間以内(レベルA).2. ST上昇または新規左脚ブロック(レベルA).クラスⅡa

1. 発症12時間以内の純後壁梗塞(レベルC).2. 発症12時間から24時間以内で虚血症状が持続(レベルB).

クラスⅢ1. 症状が消失し,治療までに24時間以上経過した患者(レベルC).

2. 後壁梗塞が除外された非ST上昇型AMI患者(レベルA).

2)血栓溶解療法の禁忌① 絶対的禁忌

1.頭蓋内出血の既往(時期を問わず).2.既知の頭蓋内悪性腫瘍(原発または転移),構造的脳血管病変(脳動静脈奇形等).

3.活動性出血.4.大動脈解離およびその疑い.5.過去3か月以内の脳虚血発作,非開放性頭部外傷または顔面外傷.

② 相対的禁忌1.診察時,コントロール不良の重症高血圧(180/110mmHg以上).2.禁忌に属さない脳血管障害の既往.

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1480 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

3.出血性素因,抗凝固療法中.4.頭部外傷,長時間(10分間)の心肺蘇生法,または大手術(3週間未満)等の最近の外傷既往(2~4週間).

5.圧迫困難な血管穿刺.6.最近(2~4週以内)の内出血.7.線溶薬に対する過敏反応.8.妊娠.9.活動性消化管出血.10.慢性重症高血圧の既往.

2.経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

1)Primary PCIの適応(図24,25)

クラスⅠ1. 発症12時間以内で,線溶療法が禁忌の有無にかかわらず,来院後90分以内に病変をバルーン拡張できる場合(ステント留置を含む)(レベルA).

2. Primary PCIは病院に到着してから責任病変をバルーン拡張するまでの時間が90分以内(レベルB).a.症状の持続時間が3時間以内であり,カテーテル検査の穿刺からPCIまでをⅰ)1時間以内に行うことができる場合の

PCI(レベルB).ⅱ)1時間以上要する場合には線溶療法を考慮(レベルB).

b.症状が3時間以上持続する場合のPCI.病院到着からバルーン拡張は90分以内(レベルB).

3. 発症後36時間以内の患者で,心原性ショックを呈し,ショック発症後18時間以内にPCI

が実施可能な75歳未満の患者に対するPCI.ただし侵襲的治療を患者が望まない,または適さない場合を除く(レベルA).

4. 重症うっ血性心不全,またはKillipⅢ度以上の肺水腫を伴う発症12時間以内のST上昇型ACSに対する早急のPCI(レベルB).

クラスⅡa

1. 発症36時間以内にショックとなり,ショック発症後18時間以内に血行再建可能な75歳以上の患者(レベルB).

2. 12~24時間前に発症し,次の項目のどれか1つ以上を満たす場合.

a.重症うっ血性心不全(レベルC).b.不安定な血行動態または心電図所見(レベルC).

c.持続する虚血徴候(レベルC).

表14 経静脈的血栓溶解療法のチェックリストStep 1. 虚血性胸痛(不快感)の持続時間は,15分以上かつ12時間以内?

         ○ はい      ○ いいえ → 適応なし

標準12誘導心電図所見の隣接する2誘導以上でST上昇,または新規に出現した脚ブロック?

         ○ はい      ○ いいえ → 適応なし

Step 2. 以下の10項目すべて 『はい』 であれば血栓溶解療法を実施①収縮期血圧 180mmHg以下 ○ はい ○ いいえ②収縮期血圧の左右差 15mmHg以内 ○ はい ○ いいえ③拡張期血圧 110mmHg以下 ○ はい ○ いいえ④頭蓋内疾患の既往症 なし ○ はい ○ いいえ⑤3か月以内の明らかな非開放性頭部または顔面外傷 なし ○ はい ○ いいえ⑥6週間以内の明らかな外傷,手術,消化管出血 なし ○ はい ○ いいえ⑦出血・凝固系異常 なし ○ はい ○ いいえ⑧心停止時のCPRは 10分以内 ○ はい ○ いいえ⑨妊娠していない ○ はい ○ いいえ⑩進行性または末期の悪性腫瘍,重篤な肝または腎疾患 なし ○ はい ○ いいえ

Step 3. 以下の1項目以上を満たす高リスク例は緊急PCIが直ちに開始できる施設へ救急車で搬送①心拍数≧100回/分 かつ 収縮期血圧<100mmHg ○ はい ○ いいえ②湿性ラ音を聴取(Killip分類Ⅱ以上) ○ はい ○ いいえ③ショック徴候・症状あり ○ はい ○ いいえ④血栓溶解療法が禁忌(Step.2の①~⑩の1項目以上) ○ はい ○ いいえ

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1481Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

到着‐バルーン時間を90分以内にできるか?

到着‐バルーン時間を90分以内にできるか?

早期冠動脈造影を考慮(24-72時間)さらに残存虚血・心筋生存性を評価し治療方針を決定

緊急冠動脈造影、適応があれば PCI(到着‐バルーン時間 90分以内を目標)あるいは CABG

原則として緊急 PCIを選択(長い待機時間,広い梗塞範囲等では血栓溶解療法+facilitated PCIを考慮)

血栓溶解療法とfacilitated PCIを考慮

いいえ 12時間以上 3時間以内

はい

はい はいいいえいいえ

STEMI患者

3~ 12時間

虚血性胸痛とST上昇>1mm持続 発症からの時間は?

図24 緊急PCIが施行可能な施設におけるSTEMIへの対応アルゴリズム

心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36時間以内かつショック発現18時間以内はPCI・外科手術を検討する.・PCI (percutaneous coronary intervention):経皮的冠インターベンション・血栓溶解療法:表14参照・facilitated PCI:薬物治療(血栓溶解療法)に続いて行われるPCI

虚血性胸痛とST上昇>1mm持続 発症からの時間は?

搬送時間を考慮し90分以内かつ発症 12時間以内に

バルーン拡張可能か?

搬送時間を考慮し90分以内にバルーン拡張

可能か?

24時間以内に PCIが可能な施設へ搬送 ただちに PCIが可能な施設へ搬送

原則は緊急 PCI施設へ搬送長時間要するなら搬送先と相談し血栓溶解療法実施を考慮

搬送先と相談し、血栓溶解療法を考慮

いいえ 12時間以上 3時間以内

はい

はい はいいいえいいえ

STEMI患者

3~ 12時間

あり 再灌流徴候* なし

図25 緊急PCIが施行できない施設におけるSTEMIへの対応アルゴリズム

心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36時間以内かつショック発現18時間以内はPCI・外科手術施行可能施設へ搬送する.(*再灌流徴候:胸痛の消失,ST上昇の軽減,T波の陰転化等)

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1482 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

クラスⅢ1. 血行動態が不安定な患者で虚血がないと判断される非梗塞領域を灌流する冠動脈へのPCI

(レベルC).2. 発症後12時間以上経過しており,血行動態や心電図所見が安定していて症状が消失している患者(レベルC).

3. 厚生労働省の定める施設基準を満たさない施設やPCIに熟練していない術者が行う場合.

3.Facilitated PCI(血栓溶解療法後のPCI)

 症状持続時間が3時間以内で,来院90分以内にPCIによるバルーン拡張術が困難と予測される症例においてFacilitated PCIを行う(クラスⅡa′*レベルC).*STEMIに関するガイドラインでは,「エビデンスは不十分であるが,手技治療が有効・有用であることに我が国の専門家の意見が一致している」としてのクラスⅡa′の記載である.

4. Rescue PCI(線溶療法後も,心筋虚血が持続または繰り返す患者に対するPCI)

クラスⅠ線溶療法を施行した75歳未満の患者に対して以下の場合にPCIによる血行再建を行う.

a.心原性ショック(レベルB).b. 重症うっ血性心不全または肺水腫(Killip

Ⅲ)(レベルB).c.血行動態が不安定な心室性不整脈(レベル

C).クラスⅡa

1. 線溶療法を施行した75歳以上の心原性ショック患者.ただし,血行再建に適している場合に限る(レベルB).

2. 下記の項目のうちいずれか1つ以上に該当する患者.

a.不安定な血行動態または心電図所見(レベルC).

b.持続する虚血徴候(レベルC).3. 線溶療法開始90分後にST resolusionが50%

未満の不成功例で中等度以上の心筋障害が予想される場合(前壁梗塞,右室梗塞を伴う下壁梗塞,前胸部誘導のST低下例)(レベルB).

5.緊急手術による再灌流ならびに合併症修復術

クラスⅠSTEMIにおける緊急CABGは以下の場合に施行される.1. PCIが不成功に終わり,持続する胸痛または不安定な血行動態を伴い,冠動脈が解剖学的に手術に適している場合(レベルB).

2. 薬物治療に抵抗性の持続的あるいは繰り返す虚血所見を認め,責任病変により広範な心筋虚血を来たすと予測され,PCIや線溶療法の適応がない場合(レベルB).

3. 梗塞後の心室中隔破裂または自由壁破裂,急性重症僧帽弁閉鎖不全を伴う乳頭筋断裂に対して修復手術を要する場合(レベルB).

4. 発症後36時間以内にショック状態が進行しており,ST上昇,左脚ブロック,後壁梗塞のいずれかを認め,重症多枝病変・左主幹部病変のいずれかを伴う75歳未満の患者.ショック状態となってから18時間以内に手術可能な場合に限る(レベルA).

5. 左主幹部に狭窄度50%以上の病変を有するか,3枝病変を有し,致死的不整脈を伴っている患者(レベルB).

クラスⅡa

1. 緊急CABGが初期灌流治療法として有用となりうるのは,STEMI発症後6時間~12時間以内の患者で,線溶療法やPCIの適応がなく,特に多枝病変または左主幹部病変を有する場合のCABG(レベルB).

2. 75歳以上の発症後36時間以内にショックが進行しており,重症3枝病変または左主幹部病変を有する場合.ただしショック状態となってから18時間以内に血行再建できる場合の緊急CABG(レベルB).

クラスⅢ1. 持続する胸痛を伴うも,血行動態が安定している場合の緊急CABG(レベルC).

2. 主要な冠動脈の血行再建が成功した患者における小血管に対する緊急CABG(レベルC).

⑧ 再灌流の評価は,冠動脈造影でのTIMIグレード,Blushグレードによる評価や再灌流療法開始後1~3時間にわたってST上昇のパターン,心調律,および臨床症状のモニターで行う(クラスⅡaレベルB).

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

⑨ 再灌流補助薬として,再灌流治療に先だつ,カルペリチドの静脈内投与(クラスⅡaレベルB)やニコランジルの静脈内投与(クラスⅡbレベルB)がある.また,ヘパリン誘発性血小板減少症が既知の場合には,ヘパリンの替わりにアルガトロバンを使用する(クラスⅡbレベルB).

⑩ 抗血小板薬としてアスピリンは禁忌のない限り無期限に経口投与する(クラスⅠレベルA).BMS挿入後は少なくとも1か月,DES挿入後は少なくとも12か月間,チエノピリジン系薬剤を投与する(クラスⅠレベルB).

⑪ β遮断薬:STEMI発症直後にβ遮断薬の投与を開始することが梗塞サイズを縮小させ,慢性期の合併症発生率と再梗塞発生率を減少させる.

β遮断剤の適応

クラスⅠ1. 禁忌のない,低リスク*以外のSTEMI患者に

は経口β遮断薬を投与する.少なくとも2~3日以内に開始し可能な限り継続する(レベルA).

2. 中等度,あるいは重篤な左室機能不全を有する患者には,徐々に増量しながらβ遮断薬を投与する(レベルB).

クラスⅡa

禁忌のない,低リスク*の患者にβ遮断薬を投与する(レベルA).

クラスⅢ冠攣縮の関与が明らかなSTEMI患者に対するβ遮断薬の投与(レベルC).

*低リスク:左室機能が正常~ほぼ正常,再灌流治療の成功,重篤な心室性不整脈がない.

⑫ カルシウム拮抗薬

クラスⅡa

1. β遮断薬が禁忌または認容性が不良で,左室機能不全やうっ血性心不全,房室ブロックのないSTEMI患者に対する,心筋虚血の軽減,または頻脈性心房細動の頻拍コントロールを目的としたベラパミルまたはジルチアゼムの投与(レベルB).

2. 他の薬物でコントロールができない狭心症または高血圧症に対して,長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を使用する(レベルB).

クラスⅢSTEMI発症後早期の短時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬投与(レベルA).

⑬ レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系拮抗薬ACE(アンジオテンシン変換酵素:angiotensin

converting enzyme)阻害薬 /ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬:angiotensin receptor blocker)ACE

阻害薬は,特に早期に投与を開始した場合にSTEMI患者の生存率を改善させている.

ACE阻害薬/ARBの適応

クラスⅠ1. 禁忌がなければ,経口ACE阻害薬を,早期

に開始し可能な限り継続する(レベルA).2. 既にACE阻害薬が投与されており,左室駆

出率が40%以下で症候性心不全または糖尿病を合併する患者には,禁忌がない限り,アルドステロン拮抗薬を使用する(レベルA).

3. 左室駆出率が40%以下で,臨床的あるいは胸部X線上で心不全の兆候があるか,ACE

阻害薬に認容性がない患者には,ARBを使用する(レベルB).

クラスⅡa

左室駆出率が40%以下で,臨床的あるいは胸部X

線上で心不全の兆候がある患者に対し,ACE阻害薬の代用としてARBを使用する(レベルB).クラスⅡb

左室駆出率が40%以下で,症候性の慢性心不全を有する患者の長期管理には,ACE阻害薬とARBの併用を考慮する(レベルB).

⑭ HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)ACS発症数日以内にスタチンを投与すると,炎症指標が低下して,再梗塞,再発性狭心症,不整脈等の合併症が減少することが示されている.

Ⅶ その他の心血管救急

1 急性大動脈解離

① 急性大動脈解離では破裂と臓器虚血が問題であり,血栓性閉塞の有無と上行大動脈に解離が存在するか

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

で分類する(表15).② 診断は病歴,身体所見,心電図,胸部X線,エコー

検査,炎症反応,Dダイマー,CT検査等で行う(表16).

③ 収縮期血圧100~120mmHgを目標に静注薬で降圧し,鎮痛,酸素投与,腎不全予防,不穏予防等に努める(表17).

④ 発症から48時間の安静度を下げ,絶食とする.⑤ 偽腔開存,Stanford分類,切迫破裂や臓器虚血の有無さらに血栓閉塞型では上行大動脈径や偽腔径で手術適応を判断する(表18).

2 急性心不全

① 急性心不全とは,「心臓に器質的および /あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室充満圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現し

表16 大動脈解離に関係する検査とその所見解離を強く疑う所見

高血圧の既往,来院時高血圧突然の発症,引き裂かれ,移動する痛み血圧左右差>30mHg

心エコー 偽腔が確認できることがある心のう液の貯留,大動脈基部の拡張,大動脈弁閉鎖不全,胸水の有無を見る

血液検査 D-dimerで正常範囲なら解離である可能性は5~10%以下最大CRP値>15mg/dLは独立した呼吸不全の関連因子で ある

CT検査 (1)観察のポイント:上行大動脈の解離の有無,偽腔が開存しているか心嚢液の貯留,偽腔の真腔への圧排の程度,分枝への解離の波及,分枝は真腔からでているか,最大短径および偽腔径,解離の範囲,ulcer-like projection 等

(2)偽腔内血栓:石灰化部分の外側の辺縁のスムーズな low density壁在血栓:石灰化部分の内腔側の low density,まれに例外あり

(3)CTは単純,造影ともに必要:単純CTは解離腔内血栓と真性瘤+壁在血栓の鑑別に有用high density(発症数時間から亜急性期まで)→解離腔内血栓high densityでない→新しいものではない→壁在血栓や古い解離の可能性

(4)撮像範囲は大動脈弓部より少し上から骨盤部まで

血栓化偽腔

石灰化

壁在血栓

(2)

(3)

表17 大動脈解離への初期対応降圧  

ニカルジピン 3mL/hrで持続静注開始.1mLずつbolusしつつ持続量を増量ブロプラノロール2mgゆっくり静注 動脈圧ライン留置.降圧目標は100~120mmHgと痛みの消失

鎮痛 塩酸モルヒネ1mgまたはブプレノルフィン5mg 必要なら同量を追加酸素投与 マスク 4L/分血圧低下への対応 心タンポナーデ,破裂の確認

輸液,必要なら穿刺やカテコラミン投与腎機能保持 補液,尿量モニターのためのバルン挿入は十分に降圧後に

経口降圧剤は代病日で急性腎不全のない場合に不穏の予防 家族の協力,睡眠薬や鎮静薬の投与安静と食事 48時間は強い安静で絶食.飲水は可入院翌日のCT検査 すべての血栓閉塞A型,偽腔による真腔が著しく圧排,分枝血流の低下による臓器虚血,痛みの持続すると

表15 大動脈解離の分類1 解離範囲による分類  Stanford分類

A型:上行大動脈に解離があるものB型:上行大動脈に解離がないもの

  DeBakey分類Ⅰ型: 上行大動脈に内膜亀裂があり弓部大動脈より末

梢に解離が及ぶⅡ型:上行大動脈に解離が限局するⅢ型:下行大動脈に内膜亀裂があるもの

Ⅲa型:腹部大動脈に解離が及ばないⅢb型:腹部大動脈に解離が及ぶ

2 偽腔の血流状態による分類偽腔開存型: 偽腔に血流があるもの.部分的な血栓の

存在はこの中に(CT所見で,一部でも偽腔に造影剤の染まりがある)偽腔血栓閉塞型:偽腔が血栓で閉塞している(CT所見で,偽腔に造影剤の染まりが全くない)

3 病期による分類急性期: 発症2週間以内.48時間以内を超急性期とする亜急性期:発症3週目(15日目)から2か月まで慢性期:発症後2か月を経過したもの

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

た状態」をいい,6病態に分けられる(表19).② 蘇生の必要性,不穏の有無,酸素飽和度,心リズム,収縮期血圧,前負荷の状態を見ながら治療を開始すると同時に診断を進める(図26).

③ Warm/Cold・Dry/Wetクリニカルプロフィール分類を活用する(図27).

④ 急性心不全症例におけるモニタリングの有用性.急性左心不全患者のモニタリング

クラスⅠ心電図モニター,血圧,パルスオキシメーター(SaO2)(レベルC).

クラスⅡa

Swan-Ganzカテーテルによる血行動態の測定:急性心筋梗塞による心不全(レベルB).Swan-Ganzカテーテルによる血行動態の測定:血行動態が不安定な場合(レベルB).動脈圧ライン:血行動態が不安定な場合(レベルC).心エコー・ドプラ法による血行動態の推定(レベルC).

クラスⅡb

中心静脈ライン(レベルC).

心不全の病態と重症度を分析し,まず特異的な治療を施行すべき疾患を判別していく.

⑤ 利尿薬,各種血管拡張薬,カテコラミン系強心薬,PDE阻害薬,アデニル酸シクラーゼ賦活薬等を使用する.

⑥ 急性心原性肺水腫では酸素投与を開始し,SaO2>95~98%(PaO2>80mmHg)を維持する.PaO2が80mmHg未満,PaCO2が50mmHg以上,頻呼吸,努力性呼吸等ではNIPPVを開始する.それでも呼吸不全が改善しない場合,人工呼吸管理とする.

急性心原性肺水腫の治療

クラスⅠ酸素投与(SaO2>95%,PaO2>80mmHgを維持)(レベルC).硝酸薬(舌下,スプレー,静注)投与(レベルB).フロセミド静注(レベルB).

表18 急性大動脈解離の治療方針Stanford分類 A型 Stanford分類 B型

開存型 手術(クラスⅠ/レベルC)

臓器虚血,破裂なければ保存的(クラスⅠ/レベルC)

血栓閉塞型 下記ならば手術*

(クラスⅡa/レベルC)下記ならば保存的**

(クラスⅡb/レベルC)

臓器虚血,破裂なければ保存的(クラスⅠ/レベルC)

*血栓閉塞A型の手術適応:入院時上行大動脈の最大短径≧50mm,または偽腔径≧12mm,または心タンポナーデ症例

**血栓閉塞A型を保存的治療の適応:上行大動脈の最大短径≦45mm,かつ偽腔の径が小さく三日月型であること,かつ緊急手術ができること,血圧を主とした厳密な患者管理ができること

表19 急性心不全の各病態の血行動態的特徴

心拍数/分 収縮期血圧mmHg 心係数 平均肺動

脈楔入圧Killip分類

Forrester分類 利尿 末梢循環

不全重要臓器血流低下

①急性非代償性心不全 上昇/低下 低下正常/上昇

低下正常/上昇 軽度上昇 Ⅱ Ⅱ あり/低下 あり/なし なし

②高血圧性急性心不全 通常は上昇 上昇 上昇/低下 上昇 Ⅱ -Ⅳ Ⅱ -Ⅲ あり/低下 あり/なし あり中枢神経症状

③急性肺水腫 上昇 低下正常/上昇 低下 上昇 Ⅲ Ⅱ/Ⅳ あり あり/なし なし/あり

④心原性ショック ④─1低心拍出量症候群 上昇 低下/正常 低下 上昇 Ⅲ -Ⅳ Ⅲ -Ⅳ 低下 あり あり ④─2重症心原性ショック >90 <90 低下 上昇 Ⅳ Ⅳ 乏尿 著明 あり

⑤高拍出性心不全 上昇 上昇/低下 上昇 上昇あり/なし Ⅱ Ⅰ -Ⅱ あり なし なし

⑥急性右心不全 低下が多い 低下 低下 低下 Ⅰ Ⅲ あり/低下 あり/なし あり/なし

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1486 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

血圧低下例に対するカテコラミン静脈内投与(レベルC).高血圧緊急症,大動脈閉鎖不全,僧帽弁逆流による急性心不全に対するニトロプルシド静脈内投与(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するCa拮抗薬(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するループ利尿薬(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するカルペリチド(レベルC).NIPPV抵抗性,意識障害,喀痰排出困難な場合の気管内挿管による人工呼吸管理(レベル

C).クラスⅡ a

NIPPV(レベル A).カルペリチド静脈内投与(レベル B).PDE阻害薬静脈内投与(非虚血性の場合)(レベル A).慢性期移行におけるトラセミド投与(レベルC).アデニル酸シクラーゼ賦活薬(非虚血性の場合)(レベル C).

クラスⅡ b

PDE阻害薬静脈内投与(虚血性の場合)(レベル A).腎機能障害合併例に対するカルペリチド静脈内投与(レベル B).モルヒネ静注(レベル B).アデニル酸シクラーゼ賦活薬(虚血性の場合)(レベル C).

クラスⅢ腎機能障害,高 K血症合併例に対する抗アルドステロン薬投与.高血圧緊急症に対するニフェジピン舌下(レベル C).

⑦ 血行動態に対しては,⑤の薬剤を使用する.重症例,治療抵抗例では IABP等の適応を判断する.

⑧ 急性心不全の初期診療の要点を(表 20)に表記する.

図27 急性心不全の臨床病型うっ血の有無

低灌流所見の有無

起座呼吸,頸静脈圧上昇浮腫,腹水,肝頸静脈逆流

脈圧減少,四肢冷感,傾眠傾向,

血清

Na低下,腎機能低下

なし

Dry-warm: A

Dry-cold: L

輸液強心,昇圧薬

Wet-cold: C

血圧正常: 血管拡張薬血圧低下: 強心,昇圧薬     機械的補助

あり

Wet-warm: B

利尿薬血管拡張薬

なし

あり

急性心不全

診断へのアプローチ 急性蘇生の必要性 BLS ACLSありなし

診断確定 不穏状態,疼痛 沈静。鎮痛緩和ありなし

診断に基づく治療 動脈酸素飽和度 >95% FiO2 ↑;必要により酸素投与,NIPPV,IPPV 肺うっ血あれば血管拡張薬,利尿薬

低下あり  なし

正常心拍数および調律 ペーシング,不整脈対策他異常あり  なし

収縮期血圧 <90mmHg 血管拡張薬および利尿薬低下なし  あり

観血的血行動態モニター

適切な前負荷条件 問題あり  なし

不十分 → 補液過剰 → 利尿薬および血管拡張薬

強心薬,さらなる後負荷の調整経過観察,血行動態の評価を繰り返す

問題あり  なし

心拍出量保持,臓器灌流維持を示す臨床状況代謝性アシドーシスのあるなし

図26 急性心不全への対応

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1487Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

3 急性肺血栓塞栓症

① 急性肺血栓塞栓症(PTE)の診断は,発症状況,症状,検査による.Dダイマーが正常範囲であればPTEは否定的である.心エコーでの右心室の拡大と心室中隔の扁平化は右室圧上昇を示唆する(表21).

② PTE強く疑われたら,ヘパリン5,000単位を静注する.抗凝固薬や線溶薬による薬物療法の他にカテーテル治療や手術治療も考慮する(図28).

③ 日常生活動作が低下している人,検査や術後に安静解除となった人,心疾患や肺疾患のない人が突然心肺停止になった場合には,PTEの可能性を念頭におく.

④ 心肺蘇生例ではPTEの身体所見や検査所見が心収縮能低下,心室内伝導障害等で大きく修飾されやすい.

⑤ ヘパリンbolus投与後に tPA(モンテプラーゼ)を静脈内投与する.血行動態が安定しない場合は,早めにPCPSを作動する.

⑥ 確定診断はMDCTや肺動脈造影による.診断確定後の治療方法は薬物治療,カテーテル治療,緊急肺血栓摘除術となる.

⑦ 発症直後の二次予防は,抗凝固療法と下大静脈フィルターを考慮する.弾性ストッキングや間歇的空気圧迫法は,血栓を血管壁から剥離する危険性がある.

4 心タンポナーデ

① 心タンポナーデでは,心外膜に血液や滲出物等が貯留し,心室拡張不全により静脈圧の上昇と心拍出が低下し,無脈性電気的活動の原因となる.心嚢液貯留の速さと心外膜のコンプライアンスにより少量の貯留でもタンポナーデを生じる場合がある(図29).

② 静脈圧の上昇,頻脈,奇脈等の所見のほかに心エコーが診断に有用である.

心タンポナーデの診断

クラスⅠ 身体所見による診断静脈圧の上昇,頻脈,奇脈(レベルC).

心エコーによる診断(レベルC).クラスⅡa スワン・ガンツカテーテルによる心内

圧測定(レベルC).クラスⅡb 心電図診断(レベルC).

③ 補液やエコーガイドの心嚢穿刺を行う.急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂や外傷等による出血性のタンポナーデでは,基本的に外科的な修復が必要である.

表20 救急処置室での初期治療呼吸管理 気道確保:クラスⅠ,レベルC

酸素投与:クラスⅠ,レベルC酸素投与のみで酸素か不十分な場合のNIPPV(CPAP,BiPAP):クラスⅡa,レベルA酸素投与のみで酸素か不十分な場合の気管内挿管:クラスⅠ,レベルC

基礎疾患の治療(可能な場合)

急性心筋梗塞に対する再灌流療法:クラスⅠ,レベルA急性大動脈解離に対する外科治療:クラスⅠ,レベルC徐脈性不整脈に対する一時的ペーシング:クラスⅠ,レベルC心タンポナーデに対する心膜穿刺ドレナージ:クラスⅠ,レベルC

急性心不全の各病態に応じた薬物治療

硝酸薬舌下,スプレーまたは静脈内投与:クラスⅠ,レベルB心停止時のアドレナリン(エピネフリン)静注:クラスⅠ,レベルB急性肺水腫に対する利尿薬静注:クラスⅠ,レベルC著明な高血圧を伴う肺水腫におけるニトログリセリン,Ca拮抗薬,ニトロプルシド静注による降圧:クラスⅠ,レベルC心原性ショックに対するカテコラミン:クラスⅠ,レベルC薬物治療で循環動態が改善しない場合の補助循環:クラスⅠ,レベルC救急処置室での初期治療後,急性冠症候群の治療のために速やかにCCUへ搬送:クラスⅠ,レベルCモルヒネ静注:クラスⅡb,レベルB高血圧緊急症のニフェジピン舌下:クラスⅢ,レベルC心停止時の心腔内注射:クラスⅢ,レベルC

表21 急性肺血栓塞栓症の身体所見および緊急検査所見身体所見 頸静脈怒張,Ⅱ音亢進,肺ラ音なし,頻脈胸部X線 肺うっ血なし,炎症像なし心電図 SⅠQⅢTⅢ ,右脚ブロック,V1−3の陰性T波,

aVRの r’波,V6のS波血液ガス 低酸素血症,低炭酸ガス血症心エコ− 右心拡大,左室狭小化,右心内血栓,右室圧上

昇Dダイマー 高値

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

心タンポナーデの治療

クラスⅠ  補液(レベルC).エコーガイド心嚢穿刺(レベルC).外科的手術(レベルC).

クラスⅡa 血圧維持のための昇圧剤投与(レベルC).

クラスⅡb 非エコーガイド心嚢穿刺(レベルC).クラスⅢ 利尿薬投与(レベルC).

5 急性心筋炎

① 心筋内の炎症によって心筋細胞壊死と心臓ポンプ機能障害が引き起こされる病態を急性心筋炎と呼ぶ.

② 感染症あるいは全身性炎症性疾患を反映する病歴と検査所見を認め,心筋壊死を反映して血中の心筋逸脱物質が上昇する.心電図所見が短期間に変化することが特徴である.心不全あるいは不整脈が現われ,重症例はショックあるいは突然死に至る.

③ 心筋炎の診断には,虚血性心疾患等他疾患の鑑別と,心筋炎を確認するための心内膜心筋生検が重要である(図30).

診断法の有用性

クラスⅠ  (レベルC)      心筋生検.クラスⅡa (レベルC)

原因  急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂,外傷,開心術後カテーテル治療や人工ペースメーカ植込等の医原性悪性腫瘍(原発,転移性,リンパ腫)感染性自己免疫性,Dresslers症候群,薬剤性,放射線性甲状腺機能低下,腎不全 ,アミロイドーシス

身体所見 Beck3徴:動脈圧の低下,静脈圧の上昇 心音減弱 頻脈 奇脈:吸気時の血圧低下≧10mmHg

心エコー図診断 1 エコーフリースペース(図A),時に血腫2 拡張早期の右室の虚脱(図B矢印)3 下大静脈(IVC)拡張と呼吸性変動の消失4 右心房虚脱 吸気時左室容量減少,右室容量増加5 心臓の振り子様運動 swinging heart6 ドプラ法 僧帽弁流入波形:吸気↓呼気↑,変動率≧25% 三尖弁流入波形:吸気↑呼気↓,変動率≧40%

図B図A

図29 心タンポナーデの診療

図28 肺血栓塞栓症(PTE)診療アルゴリズム

あり なし

発症状況,身体所見,ECG,CXP,ABGから PTEを疑う

ヘパリン 5,000U クラスⅠ

UCGで右室負荷

ヘパリン APTT1.5~2.5倍tPA 13,750~27,500U/kg

PTE以外の原因検索

確定診断を行う

肺血栓摘除術 orカテーテル治療 or薬物療法

安定 不安定可能であれば

可能であれば

発症状況,身体所見,検査所見(ECG,CXP,ABG,UCG,静脈エコー)から PTEを疑う

ヘパリン 5,000U クラスⅠ

Dダイマー 高値

MDCTや肺動脈造影その他の確定診断を行う

PTE以外の原因検索

あり なし

深部静脈血栓があれば

非永久留置型 IVCフィルタークラスⅡa

薬物療法 クラスⅠカテーテル治療 クラスⅡb肺血栓摘除術 クラスⅡb

心肺蘇生後で自己心拍出現 日常診療

血行動態

非永久留置型IVCフィルター

PCPS

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

      67Gaシンチグラフィー.      造影MRI.      総合判断(心筋傷害所見と,心電図お

よび心エコー図の経時変化).

④ 循環を維持する初期治療を行いながら集中治療が可能な施設への搬送を検討する.特に,ショック,房室ブロック,致死性不整脈,低血圧遷延,CPK上昇の持続,R波減高の持続,心室内伝道障害,左室壁運動異常の進行を認める場合は集中治療が必要である.

⑤ 好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎はステロイド治療の適応.リンパ球性心筋炎の場合はステロイド治療の適応はなく,血行動態を管理する.肉芽腫性心筋炎ではサルコイドーシスを疑い全身検索を進め,診断が確定すればステロイド治療を行う(図31).

⑥ 劇症型心筋炎によるショックでは大動脈内バルーンパンピングに加えて積極的に経皮的心肺補助装置を装着する.

劇症型心筋炎の治療法

クラスⅠ  (レベルC)循環補助療法(PCPS,IABP,人工心肺装置),一時ペーシング.

クラスⅡa (レベルC)カテコラミン薬,PDE阻害薬,ヘパリン.

クラスⅡb (レベルC)免疫グロブリン療法,カルペリチド.

追加治療の有用性

クラスⅠ      なしクラスⅡa (レベルC)      好酸球性心筋炎に対するステロイド治

療.      プレドニゾロン30mg/day.クラスⅡb (レベルC)      小児の急性心筋炎に対する免疫グロブ

リン大量療法.      完全型免疫グロブリン製剤2.0g/kg.      巨細胞性心筋炎に対する免疫抑制療

法.

発熱,全身症状に続いて心症状が出現

虚血性心疾患や心筋炎を疑って入院 他の疾患を鑑別

観察と治療を継続

冠動脈疾患の治療

原因検索と治療を継続

観察と治療を継続

冠動脈疾患の鑑別

1.新たな心病態(心電図異常,不整脈,心機能障害)の出現2.心筋壊死を示す所見(CK,トロポニン)

1.心肺停止からの蘇生2.ショック状態3.房室ブロック,心室頻拍,心室細動

地理要因,受け入れ態勢,患者状態により可能であれば専門病院へ搬送

1.心臓MRIで心筋炎を示唆する所見2.心筋生検で陽性所見3.ガリウムシンチグラムで集積

心筋炎の臨床診断

いずれかあり いずれもなし

いずれもなし

いずれかあり

いずれかあり

1.治療後も血行動態が悪化2.CK-MBが上昇傾向3.R波減高,心室内伝導障害が進行4.壁運動異状が悪化

搬送困難 いずれもなし

除外できる

いずれもなし

冠動脈疾患確定

いずれかあり

図30 心筋炎の診断

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2 血清カリウム値の異常① 高K血症:血清K値>5mEq/L.脱力,上行性麻痺,呼吸不全を生じる.心電図変化が血清K濃度を反映する(表23).

② 高K血症の治療は体内からのK除去と一時的に細胞外から細胞内へKを移動させることである(表24).塩化カルシウムはK中毒作用を抑制し,心室細動のリスクを軽減させる.

③ 低K血症:血清K値<3.5mEq/L未満.症状は,K2.5~3.0mEq/Lでは全身倦怠感,脱力感,易疲労,便秘,脚の痙攣を,K2.0~2.5mEq/Lでは横紋筋融解,麻痺性イレウス,腸閉塞を,K2.0mEq/L未満では上行性麻痺,呼吸障害,不安定な不整脈を生じる.

④ 低K血症の治療は,K喪失の抑制と経口補充投与である.K2.5mEq/L未満で不安定な不整脈やジゴキシン中毒を伴う場合は,心電図モニタリング下で静脈内投与を行う(10~20mEq/時間,最大投与濃度は40mEq/L).生命を脅かす場合は,カルテには「生

6 電解質異常

1 正常値と計算式 血清K,Na,Mg,Caの異常は,致死的な状況となりうる.電解質異常の診断と治療に必要な計算式(表22)を理解する.

心不全の管理,不整脈の監視,全身管理

1.致死的不整脈(心室頻拍,心室細動,心静止)が繰り返し出現する

2.ショック状態から離脱できない3.低拍出状態が遷延あるいは悪化し臓器障害が進行する ①意識障害 ②尿量減少 ③混合静脈血酸素飽和度低下 ④一回拍出量係数低下 ⑤ 代謝性アシドーシスの進行

いずれかあり いずれもなく安定

循環補助療法

免疫グロブリン療法

ステロイド,免疫抑制薬 観察と治療を継続

観察と治療を継続

観察と治療を継続

年齢

心内膜心筋生検による組織診断

小児 成人

好酸球性心筋炎巨細胞性心筋炎肉芽腫性心筋炎

リンパ球性心筋炎

図31 心筋炎の治療

表23 血清カリウム濃度上昇と心電図所見血清カリウム値範囲(mEq/L) よく認められる心電図所見

5.5~<6 尖鋭性T波(テント状T波),初期心電図変化6~< 6.5 PR間隔延長およびQT間隔延長6.5~<7 P波消失およびST低下7~<7.5 QRS幅拡大7.5~<8 S波下降,S波とT波の融合

8~<10 サイン波出現,心室固有波形と調律.VT様波形

≧10 PEA(サイン波の外観を伴うことが多い),VF/VT,心停止

表22 診断と治療のための計算式計算 式 コメント

アニオンギャップ(mEq/L)

[Na+]−([Cl−]+[HCO3−]) 正常範囲:10~15mEq/L

≧15:代謝性アシドーシスが示唆される血清浸透圧較差 測定浸透圧−計算浸透圧 正常値≦10

>10では不明な浸透活性物質を疑う計算浸透圧(mOsm/L)

(2×[Na+])+([血糖値]÷18)+([BUN]÷2.8) 有効浸透圧を求める簡略式正常値=272~300mOsm/L

総自由水欠乏量(単位:L)

([Na+]測定値−140)×TBW    140    TBW(体内総水分量)(L)=(男0.6/女0.5)×体重(kg)

高ナトリウム血症の水欠乏補正に必要な水分量の算出に用いる

ナトリウム欠乏量(単位:mEq)

([Na+]目標値−[Na+]測定値)×TBW(L)TBW(L)=(男0.6/女0.5)×体重(kg)

重症低ナトリウム血症に対し,3%生理食塩水による補正量算出に用いる(3%生理食塩水1Lにナトリウム513mEq含有)

予測pHの測定 (40−Pco2)×0.008=±△(pH 7.4からのpH差) Pco2が40から1mmHg変化するとpHは0.008変化する測定pHが計算pHより低い場合:代謝性アシドーシスの存在が示唆される測定pHが予測pHより高い場合:代謝性アルカローシスの存在が示唆される

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命を脅かす低K血症のため,意図的に急速静脈投与を行った」旨を記載し,Kの急速静脈投与を行う(10mEqを5分間で投与).

3 血清ナトリウム値の異常 血清Naの急激な低下は脳浮腫を,血清Naの急激な上昇は橋中心髄鞘崩壊症,脳出血,横紋筋融解を生じる.このため血清Na値の補正はゆっくりと48時間かけて補正する.① 高Na血症:血清Na値>145~150mEq/L.症状は,

意識障害,脱力,易刺激性,局所神経脱落症状,さらに昏睡,痙攣等神経症状である.

② 高Na血症の治療は,Naの排泄ではなく,不足している自由水の補正である(表25).

③ 低Na血症:血清Na値<130~135mEq/L未満である.血清Na低下が急激な場合は,悪心,嘔吐,頭痛,

易刺激性,嗜眠,痙攣,昏睡が起こり,脳浮腫を生じ,死に至ることがある.

④ 低Na血症の治療はまず,循環血液量を評価し,次に循環血液量を補正する(表25).

4 血清マグネシウム値の異常① 高Mg血症:血中Mg濃度>2.2mEq/L.中等度の高

Mg血症では筋力低下,筋脱力,重篤な高Mg血症では血管拡張と低血圧を来たすことがある.血清Mg濃度が8mEq/L以上では意識レベル低下,徐脈,不整脈,低換気,そして心肺停止に至る場合がある.

② 高Mg血症の治療は表26に示す.③ 低Mg血症:血清Mg濃度<1.3mEq/L未満.振戦,

線維束性攣縮,眼振,テタニー,神経症状の変化,Torsade des Pointes(多原性心室頻拍)等の不整脈を生じる.失調,回転性めまい,痙攣,嚥下障害等

表25 血清Na異常の緊急治療1.高Na血症の治療・過剰な血清Naの排泄ではなく,不足している自由水の補正を行う  補正に必要な循環血液量=不足水分量(L)=((血漿Na+濃度−140)/140)×全身水分量  (全身水分量は,男性では除脂肪体重の約50%,女性では40%)・血清Na値補正:1時間あたり0.5~1.0mEq/Lの速度でする      初めの24時間に12mEq/L以上の急激な低下を生じない  残りはその後48時間~72時間かけて補正する・安定した無症候性患者:経口または経鼻胃管から補給・循環血液量が減少している場合:1/2生理食塩水を投与する(5%ブドウ糖は危険)

2.低Na血症の治療・第1段階:循環血液量の評価 循環血液量が増加している所見:肺うっ血,下腿浮腫,頚静脈怒張,湿性ラ音,体重増加,Ⅲ音     循環血液量が減少している所見:頻脈,起立性低血圧,皮膚の張り低下,口腔内乾燥・第2段階:症状の重症度を評価と,循環血液量の補正する循環血液量の減少している場合:生理食塩水で補充する循環血液量が増加している場合:水分摂取量を制限し,利尿薬(フロセミド)により利尿を確保する欠乏Na量を算出  欠乏Na+量=[目標Na+値−現在のNa+値]×0.6(女性では0.5)×体重補正に必要な3%食塩水(513mEq/L)の投与量を決める通常Naを毎時0.5mEq/L補正し,最初の24時間では最大補正量を12mEqとする痙攣や昏睡などの神経症状が出現した場合は,時間あたり1mEqの速度で補正し,神経所見がコントロールされてからは血清Naを時間0.5mEq/Lの速度で補正する

表24 高カリウム血症の緊急治療および治療手順治療法 用量 効果機序 効果発現 効果持続期間

塩化カルシウム ・10%溶液5~10mL (500~1000mg)静注 細胞膜における毒性に拮抗

1~3分 30~60分間

重炭酸ナトリウム ・50mEq投与.最大投与量1mEq/kg.15分後に再投与・ 必要に応じ100mEqを5%ブドウ糖1Lに溶解し1~2時間で静注

細胞内移動による再分布

5~10分 1~2時間

グルコース/インスリン療法 (グルコース5gあたりインスリン2U使用)

・50%ブドウ糖50mL+レギュラーインスリン10U静注・ 必要に応じ10%ブドウ糖500mL+レギュラーインスリン10~20Uを1時間かけて静注

細胞内移動による再分布

30分 4~6時間

フロセミド(利尿薬) ・40~80mg静脈投与 体内から除去 利尿開始時 利尿終了時陽イオン交換樹脂(ケーキサレート)

・15~50g経口投与またはソルビトールに溶解し併用投与 体内から除去 1~2時間 4~6時間

腹膜透析または血液透析 ・治療実施計画に従う 体内から除去 透析開始時 透析終了時

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も生じる.④ ④低Mg血症の治療はMgの補充であるが,重症度に応じてその量と速度を調整する(表26).

5 血清カルシウム値の異常 細胞外液中のCaの半分は血清アルブミンと結合しており,残り半分が生物学的活性を持つイオン化Caとして存在する.不安定な低Ca血症ではイオン化カルシウムを測定する.① 高Ca血症:総血清Ca値>10.5mEq/L(イオン化Ca

濃度>4.8mg/dL).総血清Ca値が12~15mg/dL以上,抑うつ,脱力,疲労感,神経錯乱がみられる.胃腸症状は,嚥下障害,便秘,消化性潰瘍や膵炎である.多尿によるNa,K,Mg,リン酸の喪失,脱水症を来たす.血清Ca値が15mg/dLを超えると心筋自動能が抑制され,不整脈が出現する.総血清Ca値が15~20mg/dLを超えると房室ブロックが生じ,心停止へ進展することがある.

② 高Ca血症の治療の対象は,血清Ca値12mg/dLを超え症候を有する場合と,無症状でも血清Ca値が15mg/dLを超える場合である(表27).

③ 低カルシウム血症:血清Ca値<8.5mEq/L未満(イオン化カルシウム<4.2mg/dL).イオン化Ca値が2.5mg/dL未満で四肢や顔面の麻痺,続いて筋痙攣,

指趾痙縮,喘鳴,テタニー,反射亢進,Chvostek

徴候およびTrousseau徴候がみられる.またジギタリス中毒を増強することがある.

④ 低Ca血症の治療は表27に記す.

7 救急心疾患治療における中毒学

1 Toxidromes 薬物中毒により重篤な症状や徴候を呈し,心停止や生命の危険に陥った場合,Toxidromesと判断して原因薬物の同定前に,ただちに気道,呼吸,循環を補助する治療を開始する.日本中毒情報センターがつくば中毒110番(0990-52-9899,029-851-9999), 大 阪 中 毒110番(0990-50-2499,072-726-9923)を開設し,情報提供している.表28,29,30に薬剤による心血管系緊急の徴候とバイタルサインの変化,考慮すべき治療法と禁忌,慎重に行うべき治療について示す.

2 心停止前の気道と呼吸の管理 呼吸障害は死因として最も多い.誤嚥の危険性を減らすために,胃洗浄の適応の前に気管内挿管を実施する.胃洗浄は,致死量の薬物・毒物を摂取後1時間以内の場

表27 血清Ca異常の緊急治療1.高Ca血症の治療・ 大量静脈投与用のラインを確保し,0.9%生理食塩水を300~500mL/時の速度で投与する.補正後は注入速度を100~

200mL/時に下げる.点滴投与中はK値とMg値をモニターする・ 血液透析(特に心不全または腎機能障害患者に)・ 極端な高Ca血症ではキレート剤(50mmol PO4を 8~12時間かけて,EDTA10~50mg/kgを4時間かけて投与)

2.低Ca血症の治療・ 10%グルコン酸カルシウムをCaとして93~186mg,10分かけて静脈投与した後にその後540~720mgのCaを1時間当たり0.5~2mg/kgの割合で持続投与する・ 10%塩化カルシウムを10分間かけてCaとして136.5mg静脈投与し,その後6~12時間かけて1gを持続静脈投与する・ 4~6時間おきに血清Ca値を測定し,総血清Ca値を7~9mg/dLに維持する・ 同時にMg,Na,pHの異常を補正する

表26 血清Mg異常の緊急治療1.高Mg血症の治療・Mg摂取の原因除去・血清Mg値が低下するまで心肺蘇生の継続・補液による血清Mg濃度希釈,・10%塩化カルシウム液5~10mL静脈内投与・ Mgの排泄の促進  腎機能が正常で心血管機能が正常であれば,透析までの間に生理食塩水利尿(生理食塩水とフロセミド[1mg/kg])の投与によりMgの排泄を促進させてもよい

2.低Mg血症の治療・重症,症状を伴う低Mg血症患者:1~2gの硫酸マグネシウムを5~60分かけて静脈投与する・Torsade des Pointesによる心停止患者:1~2gの硫酸マグネシウムを5~20分かけて静脈投与する・Torsade des Pointesが間歇性で心停止に至っていない場合:硫酸マグネシウムを5~60分かけて静脈投与する・痙攣がある場合:2gの硫酸マグネシウムを10分間かけて静脈投与する・ほとんどの低Mg血症患者は低Ca血症を合併しているので,通常はCaを静脈内投与する

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合には推奨される.オピエートによる呼吸障害には,高流量酸素を接続した換気し,拮抗薬であるナロキサンを投与する.

3 心血管系傷害① 血行動態の悪化を伴う薬剤性徐脈  血行動態悪化を伴う徐脈を生じた場合,標準的

ACLSプロトコルに反応しないことがある.コリンエステラーゼ阻害薬による徐脈に対しては,アトロピンを大量投与する.アトロピンを初回2~4mg投与するが,総量として20~40mgまたはそれ以上となる場合がある.イソプロテレノールの高用量投与は,β遮断薬過量中毒に対して有用であるが,コリンエステラーゼ阻害薬その他の薬物中毒による徐脈に対しては,禁忌である.薬剤起因性の軽度~中等度徐脈には経皮的ペーシング(TCP)が有効である.

② 血行動態の悪化を伴う薬剤起因性頻拍  薬剤起因性頻拍は,心筋虚血,心室性不整脈,高心拍出量性心不全やショックを起こすことがある.毒物が残存している状況ではアデノシンや同期下カル

ディオバージョンの有効性は低い.境界域低血圧では,ジルチアゼムやベラパミルは,さらに血圧が下がる恐れがある.ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムやロラゼパム)は,交感神経作動薬による頻脈に対して,安全で効果的である.

③ 薬剤による高血圧性緊急症  薬剤による高血圧に対する第一選択薬はベンゾジアゼピン系薬剤である.経過とともに低血圧を生じることがあるため,積極的な血圧コントロールが推奨されない場合がある.

④ 薬剤起因性の急性冠症候群  コカインの過量投与では,交感神経系の過剰刺激,

冠攣縮による心筋虚血を生じ,急性冠症候群が生じる.ニトログリセリンとベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬,フェントラミンが第二選択薬,プロプラノロールは禁忌である.

⑤ 薬剤による心室頻拍と心室細動  薬剤起因性心室頻拍は,カルディオバージョンの適応となる.血行動態の安定している薬剤性心室頻拍は,抗不整脈薬が適応となる.多くの単形性心室頻

表28 薬剤性心血管系緊急の徴候:考慮すべき治療法および禁忌(慎重に行うべき)療法心血管系の徴候 考慮すべき治療法 禁忌(慎重に行うべき治療)徐脈 ・経皮・経静脈的ペースメーカ

・カルシウム拮抗薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン療法,グルカゴン・β遮断薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン療法,グルカゴン

・アトロピン(コリンエステラーゼ阻害剤中毒以外では有効なことはまれ)・低血圧時のイソプロテレノール・予防的経静脈ペーシング

頻脈 ・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド・三環系抗うつ薬中毒:重炭酸ナトリウム,過換気,生理食塩水,硫酸マグネシウム,リドカイン・抗コリン薬中毒:フィゾスチグミン

・β遮断薬(薬剤誘発性頻脈に有用でない)・電気ショック(適応となることはまれ)・アデノシン(適応となることはまれ)・カルシウムチャネル拮抗薬(適応となることはまれ)・フィゾスチグミン(三環系抗うつ薬を過剰投与した場合)

伝導障害または心室性不整脈

・重炭酸ナトリウム・リドカイン

・三環系抗うつ薬を過剰投与した場合:クラスⅠ Aの抗不整脈薬

高血圧緊急症 ・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド,フェントラミン

・β遮断薬

ショック ・カルシウムチャネル拮抗薬中毒:生理的食塩水,エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン,グルカゴン・β遮断薬中毒:生理的食塩水,エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン,グルカゴン・最大限の薬物療法が奏効しない時:循環補助装置使用を検討

・イソプロテレノール・ジゴキシン毒性が疑われる場合,塩化カルシウムは避ける.

急性コリン作動徴候

・アトロピン・プラリドキシム/オビドキシム

・サクシニルコリン

急性抗コリン作動徴候

・フィゾスチグミン ・抗精神病薬・他の抗コリン作動性薬

オピオイド中毒 ・ナロキソン・補助換気・気管内挿管

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

表29 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法可能性のある薬物 心肺への影響 考慮すべき治療法

交感神経作動薬・アンフェタミン系薬剤・メタンフェタミン系薬剤・コカイン・フェンシクリジン ・エフェドリン

・頻脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・高血圧緊急症・急性冠症候群・ショック・心停止

・ベンゾジアゼピン系薬剤・リドカイン・重炭酸ナトリウム・ニトログリセリン・ニトロプルシド・再灌流療法・フェントラミン (αアドレナリン遮断薬)・β遮断薬は使用しない

カルシウムチャネル拮抗薬・ベラパミル・ニフェジピン(他のジヒドロピリジン系薬剤)・ジルチアゼウム

・徐脈・伝導障害・ショック・心停止

・生理食塩水投与(0.5~1 L)・エピネフリン静注,他のα/β作動薬・ペースメーカ・補助循環装置を考慮・カルシウム点滴を考慮・グルコース/インスリン点滴を考慮・グルカゴンを考慮

β受容体遮断薬・プロプラノロール・アテノロール・ソタロール

・徐脈・伝導障害・ショック・心停止

・生理食塩水投与(0.5~1 L)・エピネフリン静注,α/β作動薬・ペースメーカ・補助循環装置を考慮・カルシウム点滴を考慮・グルコース/インスリン点滴を考慮・グルカゴンを考慮

三環系抗うつ薬・アミトリプチリン・デシプラミン・ノルトリプチリン

・頻脈・徐脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック・心停止

・重炭酸ナトリウム・過換気・生理食塩水投与(0.5~1L)・硫酸マグネシウム・リドカイン・エピネフリン静注,α/β作動薬

表30 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法(継続)強心配糖体・ジゴキシン・ジギトキシン・ジギタリス・オレアンダー

・徐脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック・心停止

・K+,Mg2+の体内総量の補正・血管内容量の補正・ジゴキシン特異的抗体・アトロピン・ペースメーカー・リドカイン・フェニトインを考慮

抗コリン薬・ジフェンヒドラミン・ドキシラミン

・頻脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック,心停止

・フィゾスチグミン(要注意)

コリン作動薬・カルバメート系薬剤・神経作用薬剤・有機リン系薬剤

・徐脈・心室性不整脈・伝導障害,・ショック・肺水腫・気管支痙攣 ・心停止

・アトロピン・汚染除去・プラリドキシム・オビドキシム

オピオイド系薬剤・ヘロイン・フェンタニル・メサドン

・低換気(無呼吸)・徐脈・低血圧・縮瞳(瞳孔収縮)

・ナロキソン・補助換気・気管内挿管・ナルメフェン

イソニアジド ・乳酸アシドーシス・頻脈または徐脈・ショック,心停止

・ビタミンB6

ナトリウムチャネル遮断薬・プロカインアミド・ジソピラミド・リドカイン・プロパフェノン・フレカイニド

・徐脈・心室性不整脈・伝導障害・発作・ショック・心停止

・重炭酸ナトリウム・ペースメーカ・α作動薬,β作動薬・リドカイン・高張食塩水

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1495Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

拍にはリドカインが第一の抗不整脈薬として選択される.三環系抗うつ薬やナトリウムチャネル遮断薬による中毒では,ナトリウムチャネルを遮断するⅠA群,ⅠC群,その他の抗不整脈薬は禁忌である.

⑥ 薬剤による伝導障害  ナトリウムチャネル遮断薬と三環系抗鬱薬の中毒により生じる,QRS幅延長,心室頻拍に対して,高張食塩水と重炭酸ナトリウムの静脈内投与は薬剤による伝導障害を予防し,頻脈の停止効果がある.不整脈と低血圧に対して重炭酸ナトリウムを使う場合,1~2mEq/kgを繰り返しボーラス投与し,動脈血pHを7.45~7.55に維持するようにする.

8 偶発的低体温

① 深部体温が偶発的に35℃から36℃以下になった状態を偶発的低体温と定義する.深部体温により軽度>34℃,中等度30~34℃,重度<30℃に分類する(図32).

② まず濡れた衣類等を剥がすが,身体操作は慎重に行いVFを避ける.

③ 深部体温によって受動的復温と体外式復温を選択する.

④ 低体温のBLSでは30~40秒かけて脈拍を確認する.電気ショックが無効なときには2回目を行わず復温を優先する.

⑤ ACLSでは,気管内挿管を行い,加温加湿酸素を投与し積極的復温を行う.初回電気ショックや初回投薬が無効であった場合,深部体温が30℃を超えるまでは追加の電気ショックや薬剤投与は控える.

9 成人の先天性心疾患

1 成人先天性心疾患の現況と緊急対応を要する病態

 我が国には先天性心疾患を持った成人は“治療後”も含めると40~50万人と言われ,今後増えていく.我が

図32 偶発的低体温におけるBLS・ACLSアルゴリズム

身体操作は慎重に行い VFを避ける濡れた衣服をはがす毛布や被覆で寒冷から守る深部体温モニター心リズムのモニター

呼吸脈拍の確認(30~40秒かける)

深部体温は?

34~36℃(軽度)受動的復温(毛布等)能動的体外復温(加温装置,湯たんぽ,温風等)

いずれかが見られるまで体内復温の継続深部体温>35℃循環の回復蘇生中止の判断

30~34℃(中等度)受動的復温(毛布等)能動的体外復温(対幹部のみ)

30℃未満(高度)能動的体外復温 加温した生理食塩水 43℃ 加温・加湿酸素 42~46℃ 腹膜洗浄,胸腔灌流 食道復温チューブ 体外循環

ただちに CPRを行う電気ショック(除細動)を 1回行う 二相性:120~200J 単相性:360J高度な気道の確保加温・加湿酸素 42~46℃加温した生理食塩水 43℃

深部体温は?

30℃未満CPRを継続投薬は控える電気ショック(除細動)は 1度に限定

30℃以上CPRを継続必要があれば薬剤を考慮復温中の VT/VFに電気ショック(除細動)を繰り返す

Osborn(J)波

脈拍・呼吸あり 脈拍または呼吸なし

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1496 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

国の先天性心疾患による死亡は低下したが,成人(20歳以上)期死亡患者の割合は増加している.救命救急の視点から,成人先天性心疾患の死因は,突然死,心不全死,再手術,その他の心臓死が85%を占め,突然死では不整脈が重要な要因とされている.

2 救急病態とその初期対応

① 頻拍性不整脈

 ⑴ 頻拍への対応基礎疾患によって既にうっ血性心不全,低心拍出量,拡張障害がある場合には,症状が激しい割に頻拍中の心拍数が少ないことがある.“心拡大が著明な場合には,頻拍の停止が急がれる.停止は通常の手順でよい(→Ⅴ頻脈).循環不全症状が強く,緊急を要する場合には電気ショックを選択する.

 ⑵ 原因疾患心房性頻拍性不整脈を起こしやすい疾患は,Ebstien

奇形,修正大血管転換(転位),内臓心房錯位症候群(無脾症,多脾症),ファロー四徴症術後,Fontan型手術後等で,特に,Ebstein奇形,Fontan

型手術後では循環不全が強い.

② 徐脈性不整脈

房室ブロックおよび洞機能不全症候群による心拍停止があり,救急対応としては一般的な治療法で対処する(→Ⅴ徐脈).房室ブロックは,修正大血管転換(転位),心内膜床欠損(房室中隔欠損),多脾症,心室中隔欠損孔閉鎖術後等に見られる.洞機能不全症候群は,多脾症,心房内手術後(心房中隔欠損症術後,総肺静脈還流異常術後,完全大血管転換に対するセニングないしマスタード手術後)等に見られる.

③ 急性心不全

バルサルバ洞の破裂,大動脈弁に関連した細菌性心内膜炎による急速な大動脈弁閉鎖不全進行,大動脈狭窄,冠動脈奇形,中等度の三心房心等による急性左心不全がある.その他には既診断の先天性心疾患の病態と関連して左心不全が単独ないし主病態になることは少ない.もしあれば,後天性疾患の合併発症を考え,左心系の疾患を検索してそれに相応の治療を行う.

④ 失神

既知の先天性心疾患による失神とその機序に関して,表を示した(表31).基礎疾患に関わらず,初期対応での診断と治療は,通常の場合と全く同様で,失神の当面の原因の治療,回復を図る.

⑤ 胸痛

先天性心疾患そのものによる胸痛は少ない.器質的疾患としていくつかの病態が挙げられるが(表32),診断および初期対応は,別項に述べられる成人と共通である.

表32 先天性心疾患と胸痛狭心症 冠状動脈奇形,大動脈狭窄胸痛,背部痛 解離性大動脈瘤

Marfan症候群,大動脈縮窄,大動脈二尖弁,ファロー四徴等チアノーゼ性心疾患(特に肺動脈閉鎖例)術後肺梗塞肺高血圧,チアノーゼ性心疾患(非“根治”手術例),Fontan術後自然気胸チアノーゼ性心疾患

表31 成人先天性心疾患術後と失神診断 可能性の高い病態

心房中隔欠損症 心房性不整脈(頻拍性・洞機能不全),肺高血圧心室中隔欠損症 心房性・心室性不整脈,肺高血圧大動脈狭窄症 左室流出路の固定性狭窄,心室性頻拍Ebstein奇形 心房細動,上室性頻拍(WPW症候群合併)ファロー四徴症 心房性・心室性頻拍,洞機能不全完全大血管転位症(セニング~マスタード手術後) 心房性頻拍,洞機能不全修正大血管転位症* 房室ブロック*心内奇形のない型では手術なしで成人に達するが,房室ブロックが初発のこともある

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1497Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

⑥ 頭痛

チアノーゼ性心疾患,感染性心内膜炎の合併症としての脳血管障害(一過性脳虚血,脳膿瘍,脳血栓塞栓)がある.また,脳動脈瘤破裂に出血は,大動脈縮窄に合併することが知られている.強い片頭痛を訴える例もあるが,基礎心疾患との因果関係は否定的である.

⑦ 喀血,吐下血

喀血は肺高血圧(アイゼンメンジャー症候群を含む),チアノーゼ性心疾患(非“根治”手術例),Fontan手術後に見られる.後2者では吐血下血も少なくない.初期対応は,まずは安静,出血が続く場合は止血剤投与,喀血吐血が強く呼吸困難がある例では人工換気を要する場合もある.

⑧ 呼吸困難

胸痛の病態(表32)のうち,気胸,肺梗塞では呼吸苦ないし呼吸困難を訴えることがある.

Ⅷ 蘇生後の治療

1 心停止後症候群(Post cardiac arrestsyndrome)の治療

●自己心拍再開後に生じる種々の臓器機能不全を心停止後症候群と言う.

●自己心拍再開後には心筋機能不全,脳機能不全,多臓器不全,敗血症等を高率に併発する.●心停止後症候群に対して,循環の安定化とその維持を図る.脳血流量の保持のために過換気を避け,脳の酸素消費量を抑制するために高体温,痙攣を避ける.●軽度低体温療法は神経学的予後を改善させる.●心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法の適応軽度低体温療法の適応

クラスⅡa

院外初回心電図がVF/VT心停止で心拍再開後も昏睡状態にある成人は,32~34℃,12~24時間の低体温療法を施行すべきである.

クラスⅡかかる低体温療法は,院外非VT/VF心停止または院内心停止成人で,心拍再開後も昏睡状態にある場合も有益・有用・有効であろう.

① 低体温療法の戦略は,より早く冷却を開始し,目標深部体温(34℃以下・1~3日間)を正確に維持し,ゆっくり復温する(図33).

② 低体温療法の手法は,冷たい細胞外液製剤(4℃)を急速静脈投与(1~2L)し,引き続き血液を直接冷却する手法が優れている.

③ 蘇生後は,血糖を<150mg/dLに管理する.

2 体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation; ECPR)

① 標準的なACLSに反応しない心停止で血流停止時間が短い場合には,人工心肺装置(PCPS)を用いる体

冷却細胞外液 を急速輸液( 4℃, 2L,15分間以内に静注),引き続き血液を体外循環で冷却

冠再灌流治療

複温期間目標温度での冷却期間

˚C36

35

34

深部体温

≦30分

≦2.5時間

1~ 3日間 2日以上

自己脈再開まで 冷却期間 <20min 24hrs 20~ 30min 48hrs ≧30min 72hrs

図33 心拍再開に成功した昏睡状態にある患者に対する軽度低体温 のプロトコール

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1498 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

外循環式心肺蘇生法(ECPR)を考慮する(表33).② ECPRは標準的なCPRよりも神経学的な予後を改善

する(図34).③ PCPSに低体温療法と冠再灌流療法を駆使した

ECPRは,先進的な蘇生法である.

Ⅸ 小児のBLSとACLS

1 小児の一次救命処置(PBLS)(図35)

① 小児とは,1歳から思春期以前である.② 小児では呼吸停止が多く,原発性心停止は少ない.③ 呼吸の補助は,3~5秒に人工呼吸を1回行う(成人は5~6秒ごと).

④ 胸骨圧迫の深さは胸の厚みの1/3~1/2(成人は4~5cm).

⑤ 胸骨圧迫と呼吸の比は救助者が1人では30:2,2人では15:2で行う.

⑥ AEDを使用する際の手順は,成人の場合と同様だが,1歳以上8歳未満の小児に対しては,小児用パ

ッドを用いる.小児用パッドがない場合は成人用を代用する.

2 小児の二次救命処置(PALS)

① 小児の二次救命処置(PALS)は,評価,呼吸障害,ショック,徐脈,頻脈,心停止の評価と治療から成り立つ.

② general assessment(初期評価),primary assessment

(一次評価),secondary assessment(二次評価),tertiary assessment(三次評価)を行う.その際に小児の正常値を理解する(表34).

③ 小児の神経状態はAlert-Voice-Painful-Unresponsive

(AVPU)小児反応スケールと瞳孔反応で判断する(表35).

④ 小児の徐脈の原因としては低酸素が最も考えられる.循環不全を合併する場合には,気道,呼吸,静脈路を確保し,酸素を投与する.酸素投与と換気を行っても,循環不全で心拍数<60/分の場合は,CPRを実施する(図36).

表33 ECPRの適応(SAVE-J研究;坂本班)開始規準

1.年齢20歳~75歳2.初回心電図がVF/無脈性VT3.標準的ACLSに反応しない除外規準

1.ER到着までの時間が45分以上2.ER到着後も15分間の標準的ACLSに反応した3.収容時深部体温<30℃4.心停止前のADLが不良5.家族の同意が得られない

<30分 <45分 >60分<60分全体(n=57)

適応患者 ●年齢≦75 歳  ●心原性   ●標準的 CPR>10分

100

75

50

25

0

 生存退院率(

%)

31.6%

100%

57.1%48.4%

11.5%

図34 心停止に対するECPRの効果Chen Y-S , et al. JACC 2003 ; 44 197-203より改変

表34 小児のバイタルサインなどの正常値1 呼吸数 年齢 呼吸数(/分)

<1歳 30~601~3歳 24~404~5歳 22~346~12歳 18~3013~18歳 12~16

2 心拍数 年齢 覚醒時心拍数 平均 睡眠時心拍数<3か月 85~205 140 80~1603か月~2歳 100~190 130 75~1602歳~10歳 60~140 80 60~90>10歳 60~100 75 50~90

3 血圧 年齢 収縮期血圧(mmHg)日齢0~28 <601~12か月 <701~10歳 <70+(年齢×2)>10歳 <90

4 腎機能 年齢 尿量乳幼児 1.5~2mL/kg/hそれより大きな小児 1mL/kg/h

表35 Alert-Voice-Painful-Unresponsive(AVPU)小児反応スケール

A Alert(意識清明): 覚醒しており,活動的で,両親や外部刺激に対する反応が正常である

V Voice(声に反応): 呼びかけると反応するP Painful(痛み刺激に反応): 痛み刺激で反応するU Unresponsive(無反応): 刺激しても反応しない

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1499Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

⑤ 小児のVF/無脈性VTは成人に準じるが,1回目の電気ショック(除細動)は2J/kgで行い,2回目以降は4J/kgで行う(図37).また,小児の心停止 /

PEA(無脈性電気活動)では,アドレナリン(エピネフリン)は体重換算で用い,硫酸アトロピンは使用しない.

⑥ 循環の良好な頻脈において,小児では,QRS幅≦0.08secを正常と判断する(図38).洞性頻脈では起こりうる原因を治療する.上室頻拍と考えられる場合は,迷走神経緊張,ATP静注を行う.広いQRSの頻拍は,心室頻拍の可能性が高くアミオダロンまたはプロカインアミドもしくは同期下カルディオバージョンを行う.

⑦ 循環不良な頻脈では,洞性でなければ同期下カルディオバージョンを遅滞なく行う(図39).

Ⅹ 循環器救急医療に関する提言

 心肺蘇生・蘇生科学はこの10年間で急速な進歩を遂げている学際的領域である.また,循環器医の過剰労働や救急施設の集約化と機能分化等循環器救急の抱える問題は大きい.本ガイドラインの主旨から詳細については言及しないが,心肺蘇生を含め心血管救急ガイドライン作成にあたって本学会が取り組むべき課題と解決に向けての提言を述べる.

1 心肺蘇生・蘇生科学に対する本学会の役割

 我が国における心肺蘇生の教育・研修システムに関わ

体動なし,反応なし119番通報,AEDを確保に行かせる

気道を確保,呼吸確認

呼吸停止なら,2回人工呼吸(胸郭の拡張を確認)

*救助者が一人の場合:目の前で突然倒れた場合はまず,119番通報,AEDを確保する。

反応がなければ,脈をチェックする(10秒以内)

心電図解析除細動の適応は?

脈あり ・3秒ごとに 1回人工呼吸・2分ごとに脈をチェック

脈がない or不確実

1人:胸骨圧迫 30回+人工呼吸 2回を繰り返す2人:胸骨圧迫 15回+人工呼吸 2回を繰り返す心マッサージの中断は最小限に圧迫は強く,速く(100/分)圧迫解除後に胸郭が完全に戻るように

未だ済ませていなければ,119番通報,AEDを確保1歳未満:ALSチームに引き継ぐか,傷病者が動き始めるまで CPRを続ける1歳以上:CPRを続ける,5サイクルの CPR後,AED/除細動器を使用する(倒れたのが目撃された場合には,できるだけ早期に AEDを使用する)

ただちに CPRを再開5 サイクル(2 分間)毎に心電図解析,ALS チームに引き継ぐか,傷病者が動き始めるまで CPRを続ける。

ショック 1回ただちに CPRを再開5サイクル(2分間) 適応なし適応

図35 PBLSのアルゴリズム

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1500 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

る仕組みはいまだ確立されておらず,普及も不十分である.一般市民に対してBLS(ABC+AED),医学生・医療従事者に対してBLS(ABC+AED+BVM),研修医・内科認定医に対して ICLS(BLS+薬剤,特殊機器を用いた心停止への高度な治療),循環器専門医に対してAHAガイドラインに基づくACLS(薬剤,特殊機器を用いた心停止,不整脈やACSへの高度な治療)となっている.今後対象者によってはより高度の心肺蘇生法の内容が求められ,医療従事者に ICLS,初期臨床研修医にACLSの修得が義務付けられていくと考えられる.いずれにしろ,本学会は心肺蘇生・AEDに直接かかわる学術専門団体として国民各層に対する講習を積極的に行い,その普及において指導的な役割を果たすべきであ

る.すなわち ⑴ BLS/ACLSの指導者(インストラクター等)の育成,研修システム(AHA-ITC)を充実する.

 ⑵ 医学生・初期臨床研修医に対するBLS/ACLSの講習を行う.

 ⑶ 患者・家族教育・啓発を診療の一貫として捉え,BLS講習を実施する.

 急性心筋梗塞の病院内死亡率は現在7%以下へと改善したが,心筋梗塞による死亡例の半分は病院前であり,大半が心室細動であったと報告される.そして病院外心肺停止の約70%は家庭で起こり,20%は誰かが居る前で起こったとされ,患者家族への家庭での胸痛発症時の対策と一次心肺蘇生法の教育が極めて重要である.一般

脈拍を触知する徐脈呼吸循環不全を認める

はい

・ABCを確保・酸素投与・モニター・除細動器を装着

症候性徐脈とは,心拍数が年齢の正常以下で,ショック(末梢循環不全,低血圧,意識低下等),かつ / または呼吸窮迫,呼吸不全を認めるもの

徐脈により依然,呼吸循環不全を認めるか?

いいえ

・ABCを確保:必要なら酸素投与・観察・専門医への相談を考慮

はい

酸素投与と換気を行っても,循環不全で心拍数<60/分の場合は,CPRを実施

症候性徐脈が持続するか?いいえ

・エピネフリン(アドレナリン)投与 静注・骨髄内:0.01mg/kg(10,000倍希釈:0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg(1,000倍希釈:0.1mL/kg) 3~5分ごとに繰り返す・迷走神経緊張・原因不明の房室ブロック アトロピン:初回 0.02mg/kg,再投与可 (最少投与量:0.1mg,最大投与量:1mg)・経皮的体外ペーシングを考慮

はい

注意を喚起すべきこと・CPRは,強く,速く(100/分)行う  胸郭が完全に戻ることを確認  心マッサージの中断を最小限にする・ABCを補助・必要ならエアウェイを挿入:位置を確認・可能性のある原因を考え,治療するHypovolemia(循環血液量減少)Hypoxia or ventilarion problem (低酸素,換気不良)Hydoregen ion (アシドーシス)Hypo-/hyperkalemia(高 /低 K血症)Hypoglycemia(低血糖)Hypo thermia(低体温)Toxins(毒物)Tamponade, cardiac(心タンポナーデ)Tension pneumothorax(緊張性気胸)Thrombosis (心筋梗塞,肺塞栓)Trauma (外傷循環血液量減少,頭蓋内圧亢進)

無脈性心停止が生じた場合には無脈性心停止アルゴリズムへ

図36 脈拍を触知する小児徐脈アルゴリズム

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1501Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

図37 小児無脈性心停止アルゴリズム無脈性心停止・BLSアルゴリズム:CPRを継続・可能なら酸素投与・可能ならモニター /除細動器を装着

リズムチェック除細動の適応か?

VT/VF 心静止 /PEA(無脈性電気活動)

1回除細動・除細動器:2J/kg・AED:1歳以上(8歳以下では可能なら 小児用パッドを用いる)ただちに CPRを再開

ただちに CPRを再開・エピネフリン投与 IV/IO:0.01mg/kg (10,000倍希釈 :0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg (1,000倍希釈 :0.1mL/kg)3~5分ごとに繰り返す

はい いいえ

リズムチェック除細動の適応か?

リズムチェック除細動の適応か?

はい

はい

5サイクルの CPR

5サイクルの CPR

除細動器の充電中は CPRを継続1回除細動・除細動器:4J/kg・AED:1歳以上ただちに CPRを再開・エピネフリン投与 IV/IO:0.01mg/kg (10000倍希釈:0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg (1000倍希釈:0.1mL/kg)3~5分ごとに繰り返す

除細動器の充電中は CPRを継続1回除細動・除細動器:4J/kg・AED:1歳以上ただちに CPRを再開抗不整脈薬投与を考慮 アミオダロン 5mg/kg IV/IO リドカイン 1mg/kg IV/IO) Torsade des pointesには硫酸マグネシウム 25~50mg/kg 最大 2g IV/IO5サイクルの CPR

リズムチェック除細動の適応か?

心静止PEA

脈拍触知

蘇生後ケアを開始

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

はい

5サイクルの CPR

はい

VT :心室頻拍VF :心室細動IV :静注IO :骨髄内

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1502 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

市民に対して心臓突然死・急性心筋梗塞等に関する教育・啓発を行い,緊急の救急システム始動を教育し,地域社会では院外心停止への心肺蘇生とAED使用のプログラムを拡げるべきである. ⑷ 院内心停止への対策として職員のBLS/ACLS講習を実施し,病院内Medical Emergency Teamを立ち上げる.

  ⑸ CoSTR2005に 基 づ くAHA-ACLSに 代 わ るCosTR2010に基づく日本版ガイドラインを作成する.さらにそれに基づくBLS,ALSマニュアルと,その教育法の開発をめざす.

 ⑹ JRCのメンバーとして日本の蘇生科学の進歩を推進し,さらにRCAおよび ILCORにおいて世界の蘇生科学の発展に積極的に貢献する.

2 循環器救急医療に対する提言

 我が国の救急制度は従来,一次,二次,三次救急の順次搬送システムが構築されている.しかし産科救急,小児救急にみられるように現在の救急制度そのものの限界と考えられる.今後救急制度全体として評価を行い,21

世紀における心血管救急を包含する救急制度のグランドデザインを作成することが必要である.本学会としては心血管疾患の特殊性をふまえて心血管救急にかかわる改善案を作成し,その実現のための方策を考えるべきである. ⑴ 循環器医の労働環境の緊急改善を図る.例えば,

最低目標を週平均労働時間60時間,月平均完全休日4日等の目標宣言を検討する.

 ⑵ 循環器救急医療システムの再構築(集約化と役割分担・ネットワーク)の検討する(Ⅰ -2参照).

 ⑶ 救急救命士制度の充実を図る(Ⅰ -2参照). ⑷ 地域市民への教育・啓発を行い,ネットワークを構築する(Ⅰ -2参照).

 ⑸ 循環器救急医療における医療経済の評価を行う. ⑹ 循環器救急医療における安全対策を検討する. ⑺ 循環器救急医療における医療事故対策を検討する.

 心肺蘇生・循環器救急医療にかかわる問題は医学的にとどまらず,経済,法律,行政,倫理等社会科学的および人文科学的問題を包含する.多くの困難な問題解決に

頻脈で脈拍を触知し,末梢循環も良好なもの・ABCを評価し,必要なら確保する・酸素投与・モニター /除細動器を装着・可能なら 12誘導心電図を記録

QRS幅は?正常(≦0.08 sec) 広い(>0.08 sec)

リズムを評価 心室頻拍の可能性が高い

洞性頻脈と考えられる場合・洞性頻脈を疑う既往歴・P波が明瞭 /正常・PRは一定で,RR時間が変動・乳児:HR<220/min・小児:HR<180/min

上室頻拍と考えられる場合・上室頻拍を疑う既往歴 (非特異的;突然の心拍数 の変化)・P波が不明瞭 /異常・HRが体動で変動しない・乳児:HR≧220/min・小児:HR≧180/min

専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調べ治療する薬剤による停止を考慮・アミオダロン 5mg/kg IV 20~60 分かけて

・プロカインアミド 15mg/kg IV 30~60分かけて

 アミオダロンとプロカインアミドはなるべく同時には使用しない

・使用していなければ ATP 使用を考慮カルディオバージョン

・小児循環器医に相談・0.5~1J/kg で QRS 同期下にカルディオバージョン(初回が効果ない場合には 2J/kgまで増加)

・鎮静薬投与:カルディオバージョンの前に

・12誘導心電図を記録

起こりうる原因を調べ治療する

迷走神経刺激を考慮

・血管確保・ATP 0.1mg/kg IV (最大 10mg) 2回目 0.2mg/kg IV(最大 20mg) 急速静注(生食でフラッシュ)

図38 循環の良好な小児頻脈アルゴリズム

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1503Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

向けて,本学会が積極的な活動を展開することを願うものである.

図39 脈拍はあるが循環の不良な小児頻脈アルゴリズム頻脈で脈拍は触知するが,末梢循環の不良なもの・ABCを評価し,必要なら確保する・酸素投与・モニター /除細動器を装着

QRS幅は?

症状持続

正常(≦0.08 sec) 広い(>0.08 sec)

リズムを評価12誘導心電図もしくはモニター

心室頻拍の可能性が高い

洞性頻脈と考えられる場合・洞性頻脈を疑う既往歴・P波が明瞭 /正常・PRは一定で,RR時間が変動・乳児:HR<220/min・小児:HR<180/min

上室頻拍と考えられる場合・上室頻拍を疑う既往歴 (非特異的;突然の心拍数 の変化)・P波が不明瞭 /異常・HRが体動で変動しない・乳児:HR≧220/min・小児:HR≧180/min

・同期下カルディオバージョン 0.5~1J/kg,効果ない場合には 2J/kgでカルディオバージョンの施行を遅延することなく可能なら鎮静薬投与・使用していなければ ATP使用を考慮 カルディオバージョンの施行を遅延してはならない

起こりうる原因を調べ治療する

迷走神経刺激を考慮(遅滞なく施行)

・血管確保がされている場合ATP 0.1mg/kg IV (最大 10mg)2回目 0.2mg/kg IV (最大 20mg)急速静注(生食でフラッシュ)      または・同期下カルディオバージョン 0.5~1J/kg,効果ない場合には

2J/kg でカルディオバージョンの施行を遅延することなく可能なら鎮静薬投与

専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調べ治療する薬剤による停止を考慮・アミオダロン 5mg/kg IV 20~60分かけて      または・プロカインアミド 15mg/kg IV 30~60分かけてアミオダロンとプロカインアミドはなるべく同時には使用しない

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅺ 本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧

一般名 商品名 組成・剤形 用法

アスピリン バファリン81 バイアスピリン等

1T:81mg,100mg,325mg ●ACS:160m~325mg経口咀嚼投与

アドレナリン(エピネフリン) ボスミン 1A 1mg

●心停止:1mgを3~5分ごとにボーラス投与し20mL生食で後押しし上肢挙上 ●高用量:β遮断薬やCa拮抗薬の中毒では0.2mg/kgの高い用量も可能 ●徐脈には2~10μg/分で静注する

アトロピン アトロピン 1A 0.5mg●心静止/PEA:1mgを3~5分ごとにボーラス投与,最大3mgまで ●徐脈:0.5mgを3~5分ごとに,総投与量0.04mg/kgもしくは合計3mgまで ●有機リン中毒では大量(2~4mg,総量20~40mg)

アミオダロン アンカロン 1A 150mg ●VF/脈なしVT:初回150~300mg,3~5分後に追加150mg ●VT:125mgを10分かけて静注 

アルガトロバン ノバスタン,スロンノン 1A 10mg 2mL ●ヘパリン惹起性血小板減少症患者のPCI:0.1mg/kgボーラス後6μ

g/kg/分でaPTTを2~3倍に保つ.PCI終了後は0.7μg/kg/分で

アルテプラーゼ アクチバシン,グルドパ

600万,1,200万,2,400万 IU ●AMI:29万~43.5万 IU/kg静注

イソプロテレノール プロタノール 1A 0.2mg ●徐脈 : 0.01~0.03μg/kg/分

硝酸イソソルビド ニトロール,サークレス 多種あり ●ACS・心不全:0.2~2.0μg/kg/分

ATP アデホス 1A 10mg,20mg,40mg

●PSVT:10mgボーラス 無効なら20mg ●特発性VT(LBBB,RAD)10mgボーラス,無効なら20mg

オルブリノン コアテック 1A 5mg/5mL 他 ●心不全:10μg/kg初期投与後に0.1~0.3μg/kg/分

カルペリチド ハンプ 1A 1,000μg ●STEMI:0.025μg/kg/分をできれば再灌流前から4日間 ●心不全:0.0125~0.2μg/kg/分

塩化カルシウム 塩化カルシウム 1A 400mg 20mL ●高K血症・高Mg血症:500~1,000mg静注 ●低Ca血症:120mg 6mLを10分かけて

グルコン酸カルシウム カルチコール 8.5% 1A 5mL・

10mL ●低Ca血症 2mLを10分かけて

グルカゴン 複数あり 複数あり ●Ca拮抗薬やβ遮断薬の中毒:

グルコース・インスリン療法

グルコース5gにインスリン2U

●高K血症:50%ブドウ糖50mL+レギュラーインスリン10U 静注 もしくは10%ブドウ糖500mL+レギュラーインスリン10U~20Uを1時間かけて静注

クロピドグレル プラビックス 1T25mg,75mg ●ACS:ステント治療の可能性あれば,300mg負荷後75mg/日ポリスチレンスルホルン酸カルシウム(陽イオン交換樹脂)

ケーキサレート ●高K血症:15~50g 経口投与もしくはソルビトールに溶解

コルホルシンダロパート アデール 1A 5mg,10mg ●心不全:0.5~0.75μg/kg/分 急性期を脱したら他の治療に変更す

るジゴキシン ジゴシン 1A 0.25mg 1mL ●心不全:0.125~0.25mg 静注 ●Af:0.125~0.25mg 静注ジソピラミド リスモダンP 1A 50mg 5mL ●Af:50~100mgを5分以上かけてゆっくり

ジルチアゼム ヘルベッサー 1A 10mg,50mg,250mg.

●Af:0.25mg/kgを2分以上かけて ●PSVT:15~20mgを2分かけて

シベンゾリン シベノール 1A 70mg 5mL ●頻脈:0.1 mL/kg(1.4mg/kg)を生食またはブドウ糖液で希釈,血圧・心電図監視下で2~5 分かけて

重炭酸ナトリウム メイロン 7% 1A 20mL,92mEq ●高K血症:50mEq投与,最大投与量1mEq/kg.15分後に再投与

チクロピジン パナルジン 1T 100mg ●ACS:ステント治療の可能性あれば,200mg分2でドパミン イノバン等 多種あり ●ショック:2~20μg/kg分ドブタミン ドブトレックス等 1A 100mg 5mL ●ショック:2~20μg/kg分トラセミド ルプラック 1T 4mg,8mg ●急性肺水腫慢性期移行期塩酸ナロキソン 塩酸ナロキソン 1A 0.2mg 1mL ●オピエート中毒:0.4~2mg 投与前にマスク換気を十分に行う.

ニカルジピン ペルジピン1A 2mg 2mL,10mg 10mL,25mg 25mL

●AADの降圧:3mL/時で開始し1mgずつボーラスを加えながらBP 100~120mmHgまで増量

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

一般名 商品名 組成・剤形 用法

ニコランジル シグマート 1A 2mg,12mg,48mg ●AMI:0.2mg/kgを5分かけて静注後,0.05~0.2mg/kg/時で調整

ニトログリセリンニトロペン,ミオコール,ミリスロール他

多種あり ●ACS,心不全:舌下,噴霧0.3~0.4mg,静注0.2~2.0μg/kg/分

ニトロプルシド ニトプロ 6mg 2mL,30mg 10mL

●心不全の後負荷軽減:0.1μg/kg/分から開始し3~5分で漸増し5μg/kg/分まで

ニフェカラント シンビット 1V 50mg●頻脈:生食またはブドウ糖液で溶解し心電図監視下で単回静注1 回 0.15 mg/kg(0.1~0.3mg)を5 分間,維持点滴0.4 mg/kg/時を等速度で.

ノルアドレナリン ノルアドレナリン 1A 1mg1mL ●ショック:0.5~30μg/分 ●心不全:0.03~0.3μg/kg/分

バソプレシン バソプレシン 1A 20U 1mL ●VF/脈なしVT/心静止 PEA:初回もしくは2回目のアドレナリンの代わりに40Uを1回のみ急速静注/骨髄内投与

パミテプラーゼ ソリナーゼ 260万,520万U ●AMI:6.5万U/kg を単回静注

ピルジカイニド サンリズム 1A 50mg 5mL ●Af 1回1mL/kg(1mg/kg )まで,いずれも血圧・心電図監視下で10 分かけて

ブプレノルフィン レペタン 1A 0.2mg 1mL,0.3mg 1.5mL ●AADの鎮痛:5mg 必要なら同量の追加

フレカイニド タンボコール 1A 50mg 5mL ●頻脈:0.1~0.2mL/kg(1~2mg/kg),血圧・心電図監視下で10分かけて,総投与量は1 回150mg まで

プロカインアミド アミサリン10%,1 mL,2mL(1A 100mgまたは200mg)

総量は17mg/kgを20mg/分で.

フロセミド ラシックス 1A 20mg 2mL ●心不全:1回20~120mg,持続静注は2.5mg/時 ●高K血症:40~80mg静注

プロプラノロール インデラル 1A 2mg 2mL ●多形性VT:0.1mg/kgを3等分して2~3分間隔で ●Af:2mgずつ総量0.15mg/kgまで ●AAD: 2mgずつ

ヘパリン 多種あり 多種あり●STEMI:60U/kg 最大4,000Uボーラス後aPTTを1.5~2.0に保つ ●UA/NSTEMI: 60~70U/kg 最大5,000Uボーラス,以降はSTEMIに準じる ●肺塞栓症:5,000Uボーラス後14,000U/日持続静注

ベラパミル ワソラン 1A 5mg 2mL●PSVT: 2.5~5mgを2分かけて静注,無効例では5mgを15~30分毎に総量20mg ●Af:5~10mgを2分かけて ●特発性VT(RBBB+LAD型)2.5~5mgを2~3分かけて総量は20mgまで

マグネシウム マグネゾール 1A 2g 20mL●TdPによる心停止:1~2g を10mLの5%1ブドウ糖液で希釈し5~20分かけて ●脈のあるTdP: 1~2gを50~100mLに希釈して5~60分で静注し,0.5~1g/時で維持する.

ミルリノン ミルリーラ 10mg/10mL,22.5mg/150mL ●心不全:50μg/kgを負荷後に0.25~0.75μg/kg/分を持続静注

免疫グロブリン 多種あり ●小児急性心筋炎:2g/kg

塩酸モルヒネ 塩酸モルヒネ 10mg1mL,50mg 5mL,200mg 5mL ●AMIやAAD鎮痛:1mg~4mg

モンテプラーゼ クリアクター 40万,80万,160万U

●急性肺塞栓症:13,750~27,500U/kgを2分で ●AMI:27,500 U/kg 静注

リドカイン リドカイン,オリベス 1A 100mg 5mL ●VF/脈なしVT:初回1~1.5mg/kg,追加0.5~0.75mg/kg,最大

3mg/kg ●VT50~100mg(1~2 mg/kg)を1~2 分間で緩徐に静注

本ガイドラインで使用した略語AAD Acute aortic dissectionACLS Advanced cardiovascular life supportACS Acute coronary syndromeAED Automated external defibrillatorAHA American Heart AssociationALS Advanced life supportaPTT activated partial thromboplastin timeATP Adenosine triphosphateAVPU Alert-voice-painful-unresponsive

BLS Basic life supportBVM Bag valve maskCABG Coronary artery bypass surgeryCCU Coronary care unitCPB Cardiopulmonary bypassCPR Cardiopulmonary resuscitationECPR Extracorporeal cardiopulmonary resuscitationIABP Intraaortic balloon pumpICLS Immediate cardiac life support

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

ITC International Training CenterJRC Japan Resuscitation CouncilLBBB Left Bundle Branch BlockMET Medical Emergency TeamNIPPV Noninvasive positive pressure ventilationNSTEMI Non-ST elevation myocardial infarctionPAD Public access defibrillationPALS Pediatric advanced life supportPCI Percutaneous coronary interventionPCPS Percutaneous cardiopulmonary supportPEA Pulseless electrical activity

PSVT Paroxysmal supraventricular tachycardiaPTE Pulmonary thromboembolismRAD Right Axis DeviationRCA Resuscitation Council of AsiaSCA Sudden Cardiac ArrestSTEMI ST elevation myocardial infarctionTCP Transcutaneous pacingTdP Torsade des pointesUA Unstable anginaVF Ventricular FibrillationVT Ventricular Tachycardia