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アメリカACO:仕組み、効果、課題 (調査報告) 財務総合政策研究所 総括主任研究官 前島 優子 ※本発表に示された意見はすべて執筆者個人に属し、財務省あるいは財務 総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

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アメリカACO:仕組み、効果、課題 (調査報告)

財務総合政策研究所

総括主任研究官 前島 優子

※本発表に示された意見はすべて執筆者個人に属し、財務省あるいは財務

総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

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ACOの概要 ACO(Accountable Care Organization) アメリカのAffordable Care Act (2010年3月、いわゆるオバマケア)に盛り込まれた、「メディケア(65歳以上の高齢者等)患者に対して、不必要な重複や医療ミスを回避することを目的に、医師や病院などが自発的に連携し、適時適切に連携のとれた高質のケアを提供する組織」 (CMSの定義)である。

【質の維持】 オバマケアの目標:質を評価した支払い方法の拡充。(ACOは、CMSが課した一定の質の条件をクリアした上で、ベンチマークとして算出され定額払いされる額より実際のコストが抑制された場合、差額の一部を得られる仕組み) 【医療プロバイダー連携促進】 医療プロバイダーの連携は、長期慢性疾患への対応(e.g.pacient- centered Medical Home)のために重要との前提。ACOは、支払方法、IT活用を手段として、CMSが、直接、医療プロバイダーの連携を促進。

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メディケア支払(イメージ)

CMS メディケア

民間保険者 ブルークロス、カイザー等

Fee-for-Service

Skilled Nursing Home

パートB支払 パートB支払

保険料支払

パートD支払

Physicians

Hospitals MA ○連携されたサービス ○無駄なコスト削減(重複回避) ×アクセス制限 ×質の低下(過少医療)

メディケア・アドバンテッジ キャピテーション・レート

(プランA、Bから頭割り定額払)

ACO ○質の確保 ○連携されたサービス ○無駄なコスト削減 (重複回避) ○予防強化 ○フリーアクセス ×患者の行動にはインセンティブが働かない ×費用抑制に限界がある

医師費用は診療報酬表出来高払い。それ以外は

PPS (Prospective Payment System )導入 病院入院はDRG/PPS、 外来はAPG/PPSなど。

質の確保要請+定額払い

従前の出来高払い ×過剰医療 ×予防不足 ×質の追求不足

Beneficiaries

自己負担 自己負担

ACO HMO,PPO

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Beneficiaries

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① Pioneer デモンストレーションモデル(被保険者原則15,000、田舎は5,000以上 )。統合的ヘルスケアの実績のある組織が多く参加。最初の2年はMSSPよりハイリスクなshared saving 方式(分与率60-75%)5種類のコースから選定。これで実績を出したACOは続く3年間はPopulation-based payment(ベンチマークは1人当たり月額予測値:Fee-For-Serviceではない。)にシフトする。最もハイリスクなコースは、ベンチマークから3%割り引いた上で、質のスコアに応じて更に3-6%引かれる条件で、残余があれば全額ACOに分与される。 2012年1月~(32組織)、 2013年(23組織)、 2015年(19組織) Pioneer modelをやめた13組織のうち8組織はMSSPへシフト ② MSSP(Medicare Shared Savings Program) 恒久モデル(被保険者5,000以上 )。ベンチマークは過去3年の実績コストに全国平均の伸びを加味。 Track1(ベンチマークを上回ってもACOは負担を負わない)はshared saving の50%を、track2(ベンチマークを上回った場合ACOが一定負担)は60%を分与される。質のスコアに応じて分与が割り引かれる。 2012年4月(27組織)、 7月(87組織)、 2015年 track1(401組織)+track2(3組織) ③ Next generation Pioneerに次ぐデモンストレーションモデル(被保険者原則10,000、田舎は7,500以上)。 2016年から3年間、2017年から2年間の2つのコースを設ける。shared savingの分与率は80%と100%の2つから選定。当初ベンチマークは過去1年のコストに地域の予測伸び率を加味。2017年以降、新支払い方式を予定。ベンチマークを過去の支出ではなく、コスト抑制的な算出法に変え、リスクと分与率を高める。Fee-for-Service(出来高払い)から卒業する選択肢を用意する。 被保険者へのメリット強化として、ACOに加入したい被保険者が自主的に加入できるようにする。 3日以内の入院患者でもスキルドナーシングホームに入所できるようにする。訪問医療や遠隔医療の利用促進をする。ACOからケアを受けた被保険者は報酬が得られる。 出典: FACT SHEET Pioneer ACO Model and Next Generation ACO Model:Comparison Across Key Design Elements Updated: April 28, 2015 Next Generation ACO Model: Frequently Asked Questions April 13, 2015

ACO:複数のプログラム(施策の順番と柔軟性)

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ACO(MSSPプログラム)は広がっている(1)

2012年 2015年

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ACO(MSSPプログラム)は広がっている(2)

2012年 2015年

メディケア受給者の14%

A.V. 18,000人@ACO

A.V. 14,700人@ACO

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ACOの効果 CMS発表<2014年11月(質とコスト抑制の両立続く)> CMS.gov press2014-11-10 ・医療プロバイダーのコラボレーションによる質の改善が続いている。 ・2013年、23のPioneerACOと220のMSSP ACOの実績によれば、4.17億ドルの節約を生み出した。 ・1人当たりの医療費の伸びは通常の出来高払い群より低かった。 ・質のメトリックスで計測される質のスコアが上昇した。 ・高血圧のコントロール、禁煙、健康教育等の実施といった患者への働きかけが行われた。 CMS発表<2015年8月(コスト抑制の中、質の向上続く)>CMS.gov press2015-08-25 ・ACOの数も被保険者も年々着実に増加している。 ・2014年、20のPioneerACOと333のMSSP ACOの実績によれば、ファンドに4.11億ドルの節約を生み出した。 ・ベンチマーク以下にコストを削減したACO(MSSP)は181(333の過半)。そのうち質の基準をクリアした92ACOはベンチマークを下回った額が8.06億ドル、ACOが3.41億ドルを得、ファンドが4.65億ドルを得た。 ・2012年から参加しているACOの37%、2013年から参加の27%、2014年から参加の19%のACOが利益を生み出しており、 経験を積んだACOのほうが利益を生み出す傾向がある。 ・質のメトリックスで計測される質のスコアが上昇した。 ・高血圧のコントロール、禁煙、健康教育等の実施といった患者への働きかけや医療者のコミュニケーションが改善している。 ・患者中心のケアに資金が賢く使われるようにしていく。 チーフアクチュアリー(Paul Spitalnic)分析公表<2015年4月10日>CMS Office of the Actuary2015-4-10 ・ACOは通常の出来高払い群と比較してコスト削減実績が認められる。 ・Pioneerモデルの方が(ケアマネジメント技術のある組織が多く参加し、インセンティブが強いプログラムであったことから)MSSPモデルよりコスト削減できた。 ※保健福祉長官が試行の拡大が費用増加を伴わず質の改善を望めると判断し、費用増加を伴わないか削減されることをCMSのチーフアクチュアリーが認めれば立法措置なくプログラムの全国採用ができることとなっている。

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メディケアの概要(1)

メディケアは連邦政府が直轄して運営する65歳以上の高齢者及び慢性腎不全患者等を対象とした健康保険制度。連邦保健・福祉省(CMS)が運営している。加入者はメディケア公認医療機関であればどこでも受診可能。2つのfundからなっている。 2014年の加入者は5380万人(65歳以上4490万人、障がい者890万人)

①HI fund(Hospital Insurance Trustee Fund) 財源:現役世代のメディケア税 パートA(病院=ホスピタルフィー)は就労期間中に10年以上社会保障税を支払った人等が受給権者になる。 主に入院時の病院費用に適用される。 *2009年に2017年基金枯渇すると見通された。2010年報告では、ACAの効果により枯渇が12年間延期(2029年)とされた。 当時の予測では2014年に黒字化とされたが、2015年報告では2014年実績は81億ドルの赤字となった。2015年には黒字 化(20億ドル)が予測されている。 *単年度収支は2008年から2014年は赤字であったが、2015年から2023年までは黒字の見通し。 ②SMI fund(Supplementary Medical Insurance Trustee Fund) 財源:一般財政と加入者の保険料が4:1くらい パートB(外来=ドクタ-ズフィー) 保険料を支払って任意に加入する。ほとんどの人が加入。主に医師診療費に適用される。 パートD(処方薬:2003年導入) メディケア公認民間保険のプランに任意に加入する。処方薬に適用される。 ※医療専門家以外が行う介護サービス、老人ホームケア、歯科・入れ歯、目・補聴、定期的な足のケア、予防注射のほとんどは、カバーされない パートC:メディケア・アドバンテージと言われ、メディケアと契約を結んだ民間保険会社の保険を通じてメディケア同等以上 の給付を受ける(1997年導入) 。 視力矯正、補聴、歯科、処方薬等を含む保険が多く、約3割の人が選択している。 パートA,パートBからパートCに支払いが行われている。 出典:2015ほか「ANNUAL REPORT OF THE BOARDS OF TRUSTEES OF THE FEDERAL HOSPITAL INSURANCE AND FEDERAL SUPPLEMENTARY MEDICAL INSURANCE TRUST FUNDS」

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メディケアの概要(2) (パートA)

パートA(入院保険=ホスピタルフィー)

保険料支払いなし。入院期間60日までは免責額のみ自己負担。スキルド ナーシング施設は最初の20日自己負担なし。ホームヘルスケア、ホスピス には(下記範囲は)自己負担なし。 財源:現役世代のMedicare Tax(実質社会保険料)が主要財源。 ・病院サービス(部屋、食事、一般看護、手術、入院中処方薬、検査、リハビリテーションなどの費用) ・スキルドナーシング施設(3日以上入院の後30日以内の療養に係る部屋、食事、看護、リハビリテーション、医療用品、身体補助具) ・ホームヘルスケア(入院・スキルドナーシング施設後、100回までの訪問サービスについてパートAが、その後のサービスにはパートBが適用。) ・ホスピスケア(余命6か月と診断された場合パートAの適用。苦痛緩和、カウンセリング、理学療法、看護、症状管理などの費用。自宅のほか、病院、各施設での短期入院にも適用。) 9

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メディケアの概要(3) (パートB)

パートB(外来保険=ドクタ-ズフィー) 保険料を支払って加入する任意保険。診療サービスの20%が自己負担となることが多い。 財源:一般財源75%程度、保険料25%程度。 ・医師サービス(外来治療費、入院治療費。) ・看護麻酔士、臨床心理士、医師助手、臨床専門看護師等のサービス ・外来手術センターサービス(日帰り手術施設料) ・医学的に必要なホームヘルスケア(訪問看護、理学療法、作業療法、言語療法、医療用品)原則自己負担なし。 ・臨床検査、X線検査、その他放射線診断サービス(血液検査、尿検査は無料) ・リスクの高い者に対する予防検査・予防ケア(腹部大動脈りゅう検査、心臓血管検査、便潜血検査、インフルエンザ注射、HIV検査、マンモグラフィー検査、骨密度検査、B型肝炎予防接種、大腸内視鏡検査は無料) ・医師が必要とした理学療法、作業療法、言語療法 ・処方薬(診療所での注射、噴霧薬、注入薬等) ・人工透析、臓器移植、免疫抑制剤 ・在宅使用の酸素吸入器、車いす、包帯、キプス、義手、義足、人工肛門など ・糖尿病リスクの高い者に対する血糖値検査、インスリンポンプ ・救急移送サービス ・精神科医の診断(メンタルヘルス)

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メディケアの概要(4)(パートD:処方薬)

・パートD(処方薬) パートA・Bへの加入が前提。民間運営の処方薬保険への加入。認可薬のほとんどをカバー。310ドルまでは全額自己負担。処方薬の25%が自己負担となることが多い。収入・所得が少ない者はメディケイドが特別援助を行う。 財源:一般財源75%程度、保険料15%程度、州政府からの拠出金10%程度。

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メディケアの概要(5) (パートC:メディケア・アドバンテッジ)

1980年代から保険者が医療機関とのネットワークを形成し、管理を行うマネジドケアが普及 ⇒65歳以上のパートCを運用(メディケア公認の民間保険者) 加入者はメディケアA・Bに加入。メディケアA・Bがカバーするサービスは全て提供。加えて視力矯正・補聴・歯科・健康プログラム・処方薬をカバーするものも多い。追加の保険料を要するものもある。 メディケアからの支払いは加入者1人当たり・月当たりで支払う。これは通常のFFSより割高になっていたためACAにおいて抑制するような対応(基準額の減額等)がされた。 2011年では25%の人がCを選定していたが、2014年には30%の人が選定し、増加傾向。 HMO(Health Maintenance Organization): 保険会社・医師・病院がネットワーク化された組織。加入者は、かかりつけ医を選定し、どのようなケースもまずかかりつけ医が診察する。ネットワーク以外での受診は保険不適用。 (例)カイザー・パーマネンテ:1945設立。米国最大HMO。2014年で約1000万人の契約者。売上550億ドル超、職員約18万人。 1993年カイザー・ヘルス・コネクト(IT)導入。保険会社部門を持ち、約40病院、600超の診療所を所有・運営。 PPO(Preferred Provider Organization): 保険会社が、医師や病院など医療サービス提供者と契約してネットワークを形成したもの。加入者がネットワーク内の医療機関を受診した際には、割引料金が適用される。ネットワーク外の受診にも保険適用される(自己負担額は増える)。 (例)ブルークロス、ブルーシールド

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ACOの認定条件

【認定条件】 • 被保険者人数は5,000人以上(pioneerプログラムは原

則15,000人以上・田舎は5,000人以上) • CMSとの間で定額払いに関して協定 • 臨床システム・管理システムのマネジメント構造を要す

る • 高質で有効な統合的ケアを行う • 品質・コストの説明責任を負う • 遠隔医療等の情報通信技術、エビデンスベースの医療、

品質及びコスト計測方法の報告を実施 ※開業医にはPhysician Quality Reporting System (PQRS)が求められるが、ACOに所属していれば そのためのコストが節約できる。

2009年米国再生・再投資法(ARRA) Health Information Technology for Economic and Clinical Health Actにより医療のIT促進策がとられた。 2011年から5-6年の間、メディケア・メディケイドから電子健康記録(EHR:Electonic Health Record)導入促進のインセンティブを受け取ることができる。(ACO所属の内科医の過半以上が利用)

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集団の決定、ベンチマーク(MSSP) 【被保険者集団の決定】(どのプログラムも同じ) • MAに入らず、プランA・Bに加入している被保険者が対象。ACOに参加したプライマリ

ケア医の患者はそのACOが担当する。プライマリケア医からサービスを受けていない人々は、ナースなどを含め誰から最も医療サービスを受けていたかに従ってCMSが割り当てる。ACOに入ればACO内で少なくとも1人のかかりつけ医を持つこととなる。

【ベンチマーク(MSSP)の算出概要】 • ACOに割り当てられた人々を末期腎臓病、高度障害、メディケイドも受けている65歳

以上(デュアル)、65歳以上の4つに分け、過去3年分の従来の出来高払い額(1人当たり平均実績メディケアコスト)を算出。

• 直近年から60%、30%、10%のウェイトで加重平均。 • ベンチマークは毎年評価年末、全国のメディケアコスト(従来の出来高払いのパート

A・B)の伸び率を適用し、 ACOに属する毎月の前述4分類の人口構成変化を反映させて計算される。新しく割り当てられた被保険者はHCCモデルを活用し算入する。

【shared savingの計測・分配】 • 質の基準をクリアした上、更新されたベンチマークとして算出され、定額払いされる額

より費用削減できた分をメディケアとACOが分け合う。(分け合う比率がプログラムによって異なる)

• CMSはその計測・分析に3か月をかける。

ベンチマーク

実績額

MSR→CMSへ

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現地ヒアリングの結果

ワシントンD.C.においてヒアリングを実施 CMS( Centers for Medicare & Medicaid Services) 及び民間Healthcare Consultant2名に ACOの仕組み・機能、ベンチマーク、ACOのマネジメント・ポイントについて確認

【連携の促進】 • ACOは、質とコストにとってコーディネイトされたケアが好ましいことを前提として、政府が主導してコーディネイトさ

れたケアを後押しする試み。もちろん統合していた組織が手を挙げることもあるが、経済的メリットを感じて統合し始めるものも多い。

• 包括的な集団となることで担当患者数も増えるため利益率が上がる。 • 連携のコーディネートはプライマリーケア医やナースが行っていることが多い。 【コストへの効果】 • アメリカの医療費の80%は生活習慣病。生活習慣の管理で削減可能。ケースマネジメントを適切に行うだけで

効果が出る(適切な電話だけで効果がある)。ACOは、医療関係者が直接個々人の生活習慣の改善に取り組むことを促進させている。

• ベンチマークの設定はACOにとって重要事項(特にトレンディング)。多種異業種が統合(totally integrated)してサービス提供することがコスト削減のポイント。

• コスト削減のため、(再)入院の減少、ナーシングホームからホームヘルスケアへの転換、重複検査の回避、予防等が促進されている。

【支払額の計算方法】 • MSSPのベンチマークは、過去3年のコスト実績、リスク調整、トレンディング(場合によっては地域のトレンディング

も使用)を加味して算出される。Fee-for-serviceで支払われることに変わりはない。毎年の人口等を加味した定額払い。

• メディケアアドバンティッジ向けの計算(個々人の医療費をHCCモデルを使って予測する)とは異なる。

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【質の確保】 • 33のquality metricsは、もっと充実したものになる予定。 • quality metrics、 Pay for performanceを取り入れ、医師の仕事を評価し分配額に反映させる仕組みになっている。 • 質の評価を民間も実施し始めるなど、民間にも影響を与えている。 • ACOは内科医たちにデータアクセスを容易にし、交流を可能にした。エビデンスベースの医療サービス提供とマネジ

メントを促進した。(手も洗わない内科医もいた) • ACOが成果を出すには、長期複数慢性疾病管理のトレーニングが必要とされている。 • 質に関する情報の蓄積が促進されている。 • 患者のヒストリーを把握し、ケアの必要なターゲットを絞ること(Population Health Management)が、質とコスト両面で

必要。ナースプラクティショナーの存在が重要。

【在宅ケア促進効果】 • 効果はまだ不明。 • 個人医師がネットワーク化し、経費のかかる入院を避けることがコストダウンを維持するカギ。手術をしない場合は

なおさら。 • 退院後、ホテルライクなナーシングホームに滞在したい人は多いが、これを自宅でのホームヘルスに切り替えるだ

けでACOはコスト削減が可能。 • ホームヘルスを担うスタッフの質の確保は課題。 【利用者利便(クリームスキミング、フリーアクセス含む)】 • フリーアクセスは維持。被保険者と医療者の関係を固定しない。ACO間の競争は発生しうる。 • ACOが担当する被保険者はCMSがデータに基づいて指定する。被保険者のうち、ACOを組成する医師に過去多くか

かっていた人がACOの被保険者となる。つまり、かかりつけ度合で決められるのであり、重症度等で選別されることはない。

• メディケア・アドバンティッジと違って、ACOは被保険者が受けたい治療がプロバイダーと相談して決められる。メディケア・アドバンティッジ(HMOなど)の場合には、保険コースによって薬や技術が制限され、患者によく混乱が起きる。メディケア・アバンティッジにはCMSから一定レートしか支払われない中で、コストダウンの圧力がかかるためである。

【課題】 • 費用削減余力がなくなっていくことへの対処。 • 民間志向が高いアメリカにおけるインパクト(金額面、普及面)。

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ACOの課題の検討 ①クリームスキミングは起きないか? >>ACOの被保険者群はCMSがデータに基づき、重症度ではなくかかりつけ度に応じて割り当てる。 ②フリーアクセスは? >>被保険者はACO以外の医者にかかることが自由。 ③質の確保は? >>質の基準が示されている。質のスコアを反映して分与が減らされる。データはCMSに集められ分析される。質は向上していると公表されている。 ④インセンティブは効いているのか? >>経済的メリットのために連携する例は多い。個々のACOによって結果に差はあるが、トータルで質を落とすことなく節約が生み出されている。 ⑤成功しているACOの特徴は? >>多くの個人内科医(かかりつけ医)、多くの職種が連携に加わること、全体のマネジメントができること、が成功の秘訣の模様。 ⑥残る課題・・・ >>コスト低下の限界。(しかし、連携(電子カルテ共有システム等)を「創出」することには成功している。) >>患者へのインセンティブ。

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ACOの成果を見ると、質の評価付で医療プロバイダー組織に対する定額払いを導入し、併せてIT活用を促すことが、地域の(もしくは高齢者のための)ヘルスケア資源のネットワーク化を促し、ケアの質向上とコスト抑制の両立に寄与している。

ポイント①政府がデータを把握し、効果を計測し、公表し、1元的に把握している。質と支払いをリンクさせる(pay for performance)。 ②プログラム導入の方法・順番と柔軟な試行錯誤。 ③支払額(定額)の設定方法。(入院・外来等分野別、計算方法、コスト削減努力への報い・使途自由化) ④コーディネート、マネジメント(組織管理、財務管理)要員。

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まとめ

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参考:PACE(Program All Inclusive Care for the Elderly)

1971年にサンフランシスコ中華街に創設された非営利組織オンロック(安楽)によって広められた、医療と社会支援を総合的に提供するプログラム。保健・医療・福祉の連携を図り、予防や包括ケアを駆使してQOL維持とコスト抑制の両立を果たしたモデル。1983年のSocial Security法改正により、メディケア、メディケイド、民間資金によってファイナンスすることが試行され、1997年メディケアの恒久プログラム(メディケイドのオプションプログラム)として位置付けられた。 ※メディケイド受給権は低所得者対象に付与。給付基準は州によって異なる。

• 医師・看護師ケア、ナーシングホームケア、在宅ケア(含家族支援)、予防、処方薬、作業療法、歯科、栄養管理、食事、交

通など、総合的なヘルスケアサービスを提供。

• メディケア、メディケイドから登録者の経費(見込額ベース)が支払われる。メディケイドの該当者でない場合にはメディケイド支払い見込み額が自己負担となる。メディケアからの支払いはメディケア・アドバンテッジ向けと同様、パートAとパートBから頭割りで定額(キャピテーションレート)が支払われる。

• 加入要件:55歳以上、PACE提供域内、ナーシングホーム加入資格者、集団生活のできる者。

• 2015年11月時点で32州、116のPACEが運営されている。加入者は平均2-3百人。最大組織は加入者2,500人規模。 (サービス受給者:1987年300人⇒2014年3万人超(31州104組織)* *出典:National PACE Association) 全米平均月額料金は3,000-4,000ドル** **出典「 アメリカ及びイギリスにおける社会保障制度と会計検査に関する調査研究 」(新日本有限責任監査法人(H26.2))

課題:メディケイド受給権がない者の自己負担の大きさ、かかりつけ医の変更、施設拡充の際の資金調達難

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