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単元構造図を書いて,授業をつくろう ~「地域機構の役割と発展」を例に~ 横浜市立中学校主幹教諭 ほりさげ授業研究 公民 1 はじめに 今回紹介するのは,『社会科 中学生の公 民』第4部「私たちの暮らしと国際関係」の 1章「世界平和の実現をめざして」の内容で ある。グローバル化が進み多様な変化が起こ る現代社会に目を向け,ここでは過去の授業 で学習指導してきた内容を活用しつつ,あら ためて授業として構成し直したものをあげる。 「6 地域機構の役割と発展」を本時として扱 うが,章の単元構造図の作成を通して全体的 な流れや授業ネタにもふれた授業案として示 していきたい。 2 授業の組み立てにあたって (1)単元の中心を意識する 前単元までの政治・経済についての学びを 受けて,グローバル化した社会の姿,さらに 戦争や紛争の現状を資料から読み取り,国際 問題や地球規模で広がる環境問題に対する 人々の取り組みを学ぶ単元である。とても幅 広く,しかも現代社会の諸問題を前にすると, 深く混沌とした内容であることをあらためて 認識する。習得するべき知識学習の要素もあ るが,この単元で生徒とともに考えていく重 要な問いをまずしっかりとイメージしたい。 「いま,世界の人々は幸せなのか?」(現状の 理解) 世界の人々が幸せに生きる社会とはどのよ うな社会か?」(理想・目的) 幸せな国際社会の実現のために日本・自分 は何ができるのか?」(課題追究) このように中心となる問いを3つ設定した。 授業者はこうした単元の中心を意識しながら, 生徒の思考や探究などの学習活動を計画し, ねらいを実現する授業をつくっていく。 (2)単元構造図を作成する この単元に限ったことではないが,単元ご との授業展開を考えるにあたって,授業者が 頭の中で抱くイメージ(単元の教材観やねら い,中心となる問いなど)を整理し,それを 単元構造図として示す。そこでは,授業での 中心となる問いを明示したり,生徒に学ばせ たい点をおさえておいたりする。生徒に思考 をうながし考えを広げたり,広がった思考を 収束してまとめたりする際の方向性を,単元 構造図で明確にしておく。この作業を通して 単元の授業は計画され,生徒の学習活動全体 も構築されていく。 (3)時間に余裕をもって取り組ませる この単元は,第5部「よりよい社会をめざ して」とも関連が深いところであり,学習指 導要領解説社会編には次のように記してある。 (略)持続可能な社会を形成するという観点か ら課題を設定し,探究させ,自分の考えをまとめ させることを主なねらいとしている。 (略)社会科のまとめとして位置付けられてい るため,社会科の学習全体を通して習得した知識・ 技能を活用して,自分の意見をまとめさせること が大切である。また,その際,適切かつ十分な授 業時数を配当することが必要である。 - 22 - 中学校社会科のしおり 2015 ③

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単元構造図を書いて,授業をつくろう~「地域機構の役割と発展」を例に~

横浜市立中学校主幹教諭

ほりさげ授業研究 公民

1 はじめに

 今回紹介するのは,『社会科 中学生の公民』第4部「私たちの暮らしと国際関係」の1章「世界平和の実現をめざして」の内容である。グローバル化が進み多様な変化が起こる現代社会に目を向け,ここでは過去の授業で学習指導してきた内容を活用しつつ,あらためて授業として構成し直したものをあげる。

「6 地域機構の役割と発展」を本時として扱うが,章の単元構造図の作成を通して全体的な流れや授業ネタにもふれた授業案として示していきたい。

2 授業の組み立てにあたって

(1)単元の中心を意識する 前単元までの政治・経済についての学びを受けて,グローバル化した社会の姿,さらに戦争や紛争の現状を資料から読み取り,国際問題や地球規模で広がる環境問題に対する人々の取り組みを学ぶ単元である。とても幅広く,しかも現代社会の諸問題を前にすると,深く混沌とした内容であることをあらためて認識する。習得するべき知識学習の要素もあるが,この単元で生徒とともに考えていく重要な問いをまずしっかりとイメージしたい。「いま,世界の人々は幸せなのか?」(現状の理解)「�����世界の人々が幸せに生きる社会とはどのような社会か?」(理想・目的)

「�幸せな国際社会の実現のために日本・自分は何ができるのか?」(課題追究)

このように中心となる問いを3つ設定した。授業者はこうした単元の中心を意識しながら,生徒の思考や探究などの学習活動を計画し,ねらいを実現する授業をつくっていく。(2)単元構造図を作成する この単元に限ったことではないが,単元ごとの授業展開を考えるにあたって,授業者が頭の中で抱くイメージ(単元の教材観やねらい,中心となる問いなど)を整理し,それを単元構造図として示す。そこでは,授業での中心となる問いを明示したり,生徒に学ばせたい点をおさえておいたりする。生徒に思考をうながし考えを広げたり,広がった思考を収束してまとめたりする際の方向性を,単元構造図で明確にしておく。この作業を通して単元の授業は計画され,生徒の学習活動全体も構築されていく。(3)時間に余裕をもって取り組ませる この単元は,第5部「よりよい社会をめざして」とも関連が深いところであり,学習指導要領解説社会編には次のように記してある。

 (略)持続可能な社会を形成するという観点から課題を設定し,探究させ,自分の考えをまとめさせることを主なねらいとしている。 (略)社会科のまとめとして位置付けられているため,社会科の学習全体を通して習得した知識・技能を活用して,自分の意見をまとめさせることが大切である。また,その際,適切かつ十分な授業時数を配当することが必要である。

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 第4部では,国際連合や諸機関の略語などの基礎的事項の習得も重要で,これらをしっかりと教えようと授業者が懸命に取り組むのが冬休み前後であろう。また,それは高校受験をひかえた生徒たちが,「多く問題を解きたい!」,「知識を整理したい!」と知識習得を強く思うころでもある。したがって,学習指導要領解説にある「自分の意見をまとめさせる」学習は,時間的余裕がなければ実施が困難になりがちである。第4・5部では,生徒たちの状況も理解し余裕をもってのぞみたい。(4)現実の国際社会の動きから学ぶ この単元の内容は,今日とくに大きく変動している内容である。この原稿に取りかかっている時期にも,関連したさまざまなニュース(下欄)が報じられている。学習内容への理解と合わせて,最新の状況に目を向けながら,生徒たちにも現代社会の動きに関心をもたせられるよう細かく教材研究していきたい。

・拉致問題への取り組み

・各国周辺の領土・領海に関すること(周辺諸国

との関係)

・集団的自衛権に関する安保法制の国会可決と世

・EUの状況(ギリシャの財政問題,トルコのE

U加盟問題,難民の受け入れ など)

・TPP交渉大筋合意

・日中韓FTAやRCEPへ向けた交渉

・日本が国際連合の安保理非常任理事国入り

・テロ行為や諸国の対応   など

3 言語活動の充実について 

(1)授業で思考場面をしかける 教師は,生徒が将来においてさまざまに接する課題を解決し生きぬく力を身につけるために,思考力・判断力・表現力等をふくめた確かな学力を育成しようとしている。右の【思考場面リスト】は,日々の社会科授業実践か

ら考え,生徒が「思考している」と思われる場面をリストアップしたものである。これらの活動を回を重ねて実施することで,生徒たちが学習に意欲的に取り組むことはもちろん,多面的・多角的にものごとを考察する力をはぐくみ,適切な判断力・表現力を育成していくことにつなげていく。 そして,これらの思考場面を,授業者はねらいをもち授業でしかけていく必要がある。

【思考場面リスト】①予想・予測する②想像する③ひらめく(ブレインストーミングなど)④筋道を立てる(レポート作成など)⑤立場を変える(ディベートなど)⑥関連づける(リンクマップなど)⑦順位をつける(ダイヤモンドランキングなど)⑧立場になる(ロールプレイ,シミュレーショ

ンなど)⑨区分する(KJ法など)⑩議論する・話し合う(隣の席の生徒や班で意

見を話す・聞く。フォトランゲージなど)⑪比較する⑫メリット,デメリットをあげる(マトリック

スによるまとめなど)⑬立案する(プランニングなど)⑭選択する(ディベートのジャッジなど)⑮評価する(相互評価など)⑯規則性を見つける(単元のふり返りなど)⑰再構築する(ポートフォリオやノートの整理

など)⑱感想を表現する(ワークシート,単元学習シー

トなど)(横浜市中学校社会科研究部会による。一部加筆。)

(2)「単元学習シート」を活用する 思考や判断をともなった学習活動,さらには発表や記述などの表現をしていくことで,言語活動の充実がはかられるが,それらを授業者が適切に評価していくことも重要である。 言語活動は,集団(クラスや班),少人数,個人で行うなどさまざまなスタイルがある。集団や少人数を対象に,評価規準を定めて観

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察による評価を行うやり方ももちろんあるが,やはり個人による記述物をもとにしての評価が,中心となる場合が多い。そこで「単元学習シート」(図1)を単元ごとに用意し,生徒に各授業の終了数分前に1スペースずつ記入させる。これは,1学年の他分野の学習のときから同一定型の用紙で継続して行うようにする。 なお,「単元学習シート」に記入する活動は,【思考場面リスト】のおもに「⑱感想を表現する」に該当するが,ときには学習意欲や資料の活用に関する課題で書かせることもある。評価の4観点のどの項目で評価するかは,課題の内容で適切にあてはめるようにする。 「単元学習シート」の特長について記す。

・B4用紙1枚定型のワークシートを単元ごとに用意する。

・B4用紙の約8分の1スペースに授業ごとの感想や考えを記入する。一単元で用紙1枚に収めることにより,生徒は単元学習のふりかえり(思考の蓄積・変化)として活用できる。

・設問は事前に印刷せず,授業で生徒に書かせる。授業の感想・ふりかえり・まとめを書かせることもできる。

・授業内容に応じて,例えば学習への意欲を問うたり,データ処理をする資料活用の力を問うたりするなど,課題を自由に設定できる。

・授業者はシートの回収・点検・返却を繰り返す。ノートとは異なり集配にも便利である。

・授業者は,単位時間ごとに具体的に設定した評価規準に従って評価を行う。

・評価する観点項目は,設問にもよるが「思考・判断・表現」に限定しない。

4 単元の流れ

(1)単元名 世界平和の実現をめざして(2)本単元のねらい

①国家という概念をとらえ,さまざまな対立やそれに対する国際協調の流れを理解する。

②国際連合をはじめとした国際機構,また地域機構の目的や役割,活動の現状を知り,さらに日本と国際社会のかかわりを考える。

③世界平和や世界の人々が幸せに生きる社会とはどのようなものか考え,その実現や持続可能な社会の形成のために日本や自分ができる役割について考えていく。

(3)本単元の観点別評価規準

[社会的事象への関心・意欲・態度]国際社会の動きに関心をもち,世界平和や人々の幸せの実現について意欲的に考えようとする。

[社会的な思考・判断・表現]国家間の対立や国際社会のかかえる課題(飢餓や格差など)について考えている。国際社会の課題解決や,持続可能な社会・幸せな社会の形成に向けて,多面的・多角的に考えている。

[資料活用の技能]国際社会の動きに関する資料を適切に選択して,それらを読み取ったりまとめたりする。

[社会的事象についての知識・理解]国家間の主権の尊重や国際連合の役割などについて認識し,国際社会の課題解決のために合意や協力が大切であることを理解している。

(4)単元の流れと単元構造図 表1で,本単元における授業の流れと各授業時でおもに評価する観点を示した。さらに,図2で,本単元でおさえておきたい内容を構造図として記した。①[第1・2時] 単元構造図(図2)では,国家の構成をえ

図1 単元学習シート

単元学習シート[           ]  年  組  番       

[  月  日] [  月  日] [  月  日] [  月  日]

[  月  日] [  月  日] [  月  日] [  月  日]

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がき,わく組みの間に矢印と二重線で,「(国家間の)対立」・「協調・合意」を示した。国際社会(二国家間も)が合意やルールを守ることで安定した関係が成立することを理解させる。また,時事的なできごとについてもふれ,今日の諸問題を認識させる。 北方領土に関しては,本校では2学年夏休みの課題として,北方領土に関する作文コンクールに応募しているので,その入選作品を教材として活用している。同年代の仲間が書いた文章から刺激を受けることも多く,班で意見交換をさせ多面的・多角的な学びにつなげていく。【思考場面リスト⑩】課題作文(一部)

 一昨年の夏,ぼくは家族と北海道旅行をした。道東の(略)①海の向こうに島が見えた。

「あれは何ていう島?」と父に聞くと「国後島。北方領土だよ。②日本の土地だよ。でも日本人が行けない島だ。」と教えてくれた。(略) ぼくは,どうしても北方領土を取りもどすべきだと思った。しかしもし日本に返還されるとなったとき,今度は今住んでいるロシアの人たちはどうなのだろうか。ソ連が武力で日本人を追い出したときのように,武力ではないにしても追い出されることに変わりはないだろう。そこにはまた逆に日本に対するうらみやにくしみが新たに生まれ,そしてずっと続いていってしまうだろう。そうならないためにどうしたらいいだろうか。(略)

発問① 「海の向こうに島が見えた。」とあるが,作者が島を見た海岸はどの辺りと考えられるか,また,見えた島までの距離は約何㎞だろうか?

小単元 おもな学習活動 関心 思考 資料 知識

第1・2時

(1)「国家と国際社会」 ・地理的分野を復習し,国家とは何かを理解する。

・国と国の関係や国際社会のルールについて理解する。

・領土や近隣国との問題について,資料(課題作文)を読み考えようとする。

○ ○

【思考場面リスト】⑩ ⑱

第3時

(2)「今なお解決しない紛争」(4)「戦争の被害と人権」

・複数の資料から飢餓や貧困の実態を読み取り,難民や戦争・紛争地域の人々の生活について考える。 ○ ○

【思考場面リスト】⑧ ⑱

第4・5時

(3)「軍縮の動きと新たな問題」(5)「 国連のはたらきとそのし

くみ」

・軍縮の動きや国連のしくみについて理解する。

・国際連合や国際機関の略語名称について知識を習得する。

○ ○

【思考場面リスト】⑱

第6時 

本時

(6)「地域機構の役割と発展」 ・地理的分野の学習をふり返って,EUの取り組みを復習する。

・「アジア統合」を想像し,地域機構の長所・短所について考える。

○ ○

【思考場面リスト】② ⑩ ⑪ ⑫ ⑱

第7時

(7)「 国際社会における日本の役割」

(8)「国際社会のよりよい発展」

・これまでの学習をふり返り,世界終末時計の表示を予想し,持続可能な社会に向けて考える。 ○ ○

【思考場面リスト】① ⑩ ⑱

*「小単元」欄の(数) は、教科書の小単元の番号を示す。表1 本単元の流れ,およびおもな観点別評価

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発問② なぜ,日本の土地にもかかわらず「日本人が自由に行けない島」なのか?歴史的背景を調べて説明しよう。発問③ 北方領土問題の解決のためにはどうしたらよいか,班でさらに話し合ってみよう。最後にあなたの考えや感想を,「単元学習シート」に記入しよう。【思考場面リスト⑱】発問③の解答例

北方領土は日本の故郷で,もどってきてほしい。そして,誰にとっても故郷は大切なもの

だと思う。それはロシアの人にとっても同じ。共存する道はないのだろうか。

正直,答えはなかなか見つからない。まずは知るということが大事な一歩だと思う。ふだん,ぼくたちは知らなくても何も苦しむことなく生きているけど,知るとこの問題は根室の人たちにとって切実な問題だというのがわかってきた。考え続けたり思い続けたりすることは,これからもやっていかないと,と思う。

 発問①②で地理的・歴史的に北方領土をとらえたうえで,発問③で領土問題への考察をうながす。北方領土は日本の領土という認識はもちつつも,生徒とともに考え悩む問題である。短絡的な解答ではなく,多面的・多角的な視点から考察されているかどうかを評価規準とする。

②[第3時] 適切な資料(下欄参照)を用意して,「いま,世界の人々は幸せなのか?」という本単元で中心としている第一の問いを念頭に展開する。資料から現代の国際社会の諸問題をつかませたい。資料

○プリント(TVドラマ『3年B組金八先生』シ

リーズで放映された「天国のスプーン・地獄の

スプーン」を扱った回から作成)

○「ハンガーマップ」〔資料集〕

図2 単元構造図

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○「銃を持つ子ども兵(リベリア)」の写真〔教

科書〕

○「世界の穀物需給」〔資料集〕

○「くばられた給食を食べる子どもたち(ケニ

ア)」の写真〔資料集〕

みんな,知ってるかな。「天国のスプーン・地獄

のスプーン」の話。天国と地獄っていうと全然

違う世界みたいだけど,実は似たような世界な

んだって。ちょっと面白いことなんだけど,天

国でも地獄でも食事をするときは,長いスプー

ンでご飯を食べるんですよ。地獄では,その長

いスプーンをみんな持って食事をする。で,大

皿にこう食事が盛ってある。食べようとして,

こうすくう。口に持っていくんですが,柄が長

いからどうしても口が届かない。で,イライラ

ているうちに落としてしまう。(略)ところが,

不思議なことに天国では,同じスプーンを使っ

ているんですが,なぜかみんなちゃんとご飯を

食べて食事ができて満ち足りていてとても仲が

よいそうです。同じスプーンを使っているのに,

この天国と地獄の差はいったいどうしてでしょう。

発問① 天国と地獄の差はどうして起こっているのか?両方の違いを実演して確認しよう。【思考場面リスト⑧】発問② この現代社会は,天国と地獄のどちらのスプーンの使い方に似ているか?資料から考えて,その理由を「単元学習シート」に記入しよう。【思考場面リスト⑱】発問②の解答例

残念だけど,地獄に似ている。先進国地域は,自分たちが食べる以上の食料を備えることをしている。そのために多くを輸入したり,手元に残したりして結果的に余らせている。一方で発展途上国では生産と消費の差がますます広がって,飢餓が発生したり,難民となってしまったりしている。飢餓で苦しんでいる地域に食料を行きわたらせないといけない。

天国・地獄どちらの面もある。WFPが給食を子どもたちにくばっていることは,とてもよいことだ。でも,現実にはハンガーマップ

を見ると,飢餓で苦しんでいる国はまだたくさんあるから,そういう国を減らさなくてはいけない。

 資料を活用して,解答を適切に導いているかどうかを評価規準とする。③[第4・5時] 単元構造図では,[第3時]対立から[第4・5時]国際協調の動きを,国際社会が取り組む課題解決として表した。ここでは,国際連合などの諸機関のはたらきや軍縮の流れとそれらの抱える問題点について学ぶ。 授業の終盤に,「今日の授業の感想,まとめを書きなさい」と指示し,「単元学習シート」に記入させる。【思考場面リスト⑱】④[第6時]本時 アジア統合を仮想してみよう(後述)⑤[第7時] まとめとして,「いま,世界の人々は幸せなのか?」をあらためて考えさせる。また,世界の現状を示す一資料としてアメリカの科学誌が発表している「世界終末時計」を紹介する。核戦争の危機や気候変動による環境破壊によって針が進む(2012年は5分前,2015年1月は3分前)ことを説明し,現時点の世界終末時計を予想させる。さらに,どうすれば世界終末時計の針をもどすことができるか,つまり,どうすればより幸福で平和な社会,持続可能な社会を築いていくことができるのか考えさせる。班内で協議し,班ごとに発表,説明させる。【思考場面リスト①⑩】 授業の終盤には,「今日の授業の感想,まとめを書きなさい」と指示し,「単元学習シート」に記入させる。【思考場面リスト⑱】

5 本時展開について

(1)本時の授業 アジア統合を仮想してみよう

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(2)本時のねらい 世界一体型のグローバル化が進む一方,経済的なつながりでは地域機構も組織され国家間の結びつきが強まっている。政治的・経済的なつながりを強めてきた地域機構にはEUがあるが,EUにならって同様の機構がアジアに誕生すると仮想する。そこにはどのような長所と短所があるか,班での話し合いを通してあげさせる。その際,現実のTPPやFTAなどの地域の経済的結びつきも意識させたい。また,この学習活動から,地域統合が進められる目的と,一方でふくらみつつある課題(問題点)について考えさせる。そして,

本単元で中心の1つとした「世界の人々が幸せに生きる社会とはどのような社会か?」(理想・目的)を考えるとき,つながりを強める地域機構によってつくられる社会は,より幸せなものになっていくのかどうか考える目を育てたい。(3)本時の言語活動に対する評価 表2として,本時の授業展開を示した。 Q1の「比較する」場面では,感じたことを積極的に発言し授業に前向きに取り組む環境をつくることをねらいとする。「自分たちはアジア人」という考え方もある,ということに気づかせる。生徒の取り組みを,観察に

生徒の学習活動 教師の役割

導入 

15分

・「日本人」 と 「アジア人」 と言われたときの感想を双方比べて自由に発表する。 【思考場面リスト⑪】

・「国際連合」,「EU」,「ASEAN」などと答える生徒がいることが予想される。

・既習内容をふりかえり,発言をする。(地理的分野の復習)

・教室で学ぶ仲間の中には,さまざまな国籍,民族の生徒がいるので,発問には配慮を要する。

・日本が主権国家であることを確認する。

・さまざまな解答が生徒から出ることが考えられるが,それぞれの役割について簡単に説明をする。

・EUについては,あらためてQ3で問う。

・地理的分野の教具(教科書・ノートなど)を生徒にあらかじめ持参させてもよい。

・EUが組織された目的(長所)を,〔経済面〕・〔経済面以外〕に分けて確認する。

展開 

30分

・EUを参考にして,アジア統合を想像し長所・短所を班で話し合い,表にあらわす。(表3参照)� 【思考場面リスト②⑩⑫】

・グループごとにホワイトボードを1枚わたす。・ホワイトボードをあらかじめビニールテープでしきり,マトリック

スを表示しておく。(表3のわく)・表3のように4分割して記すよう指示する。

・ホワイトボードを掲示し,班作成の表を見せ班の代表者が1分類ずつ発表する。

・発表から,EUとアジアの違いやアジアという地域の特徴(広い・多宗教・多民族など)を確認する。

・経済的な面での長所と短所を,TPPにあてはめて解説する。・今後のTPP拡大や日中韓FTAの可能性についてもふれる。

まとめ 

5分

・「単元学習シート」に自分の考えと理由を記入する。

【思考場面リスト⑱】

・グローバル化が進展するなか,アジア人にとってよりよい社会のあり方を,地域と国家,アジア人と日本人などの視点から考えさせ表現させる。

Q2.いくつかの国がまとまって国家の壁をこえて活動する組織には,何があるだろうか?

Q3.欧州連合(EU)が組織された目的は何だろうか?

Q4.EUにならって,「アジアが統合した」 と仮定しよう。そのときの長所と短所は何だろうか?

Q5.アジアや世界の人々がより幸せに生きる社会をつくるためには,「アジア統合」は必要だろうか?不必要だろうか?「単元学習シート」に自分の考えと理由を書いてみよう。4つに分割した表の複数にふれて書いてみよう。

表2 本時の授業展開

Q1.あなたたちは,「日本人」 ?それとも 「アジア人」 ? 2つの間にはどのような違いがあるだろうか?

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よって評価したい。 Q4に関して,アジア統合を想像し班で話し合いながらマトリックス(表3)をつくったり,発表したりする場面で,生徒の取り組みを観察によって評価する。発表がよりよいものになり,生徒に多くの気づきが生まれるよう適切に声をかけていく。授業者の声かけによる指導や評価(「指導と評価の一体化」)を受けて,生徒たちは思考・判断・表現などの能力を向上させると考える。 Q5の設問に対して,「単元学習シート」に生徒が自分の考えを記述した内容で,「思考・判断・表現」の観点項目を評価する。評価規準は,A評価「表の4分割の2つ以上の視点や理由で記述されている」,B評価「表の4分割の1つだけの視点や理由で記述されている」,C評価「1つも論理的な視点・理由が書かれていない」とした。発問Q5の解答例(ともにA評価)

必要だ。現実にTPPの合意があって,それぞれの国にとって経済的な発展を願っての取り組みがなされている。国内では不振が心配される産業もあるが,地域全体で効率よく生産されることが,自由化のなかでの全体の幸せになると思う。また,国家間のつながりが

深まり,理解ができて結束が深まることで,地域平和・世界平和につながると思うから。

不必要。TPPで関税をなくし外国のものを安く買えるとすすめて,一方では,地元産の野菜の地産地消をすすめる。よくわからない。結局は,いろいろな選択肢はあるなかで,自分で判断し責任は自分がとらなくてはいけないのか。そして,競争が激しくなっていくのは大変だなと思う。アジアの地域全体のことを考えるのは,統合しなくてもできるし,やっていかなくてはいけないと思う。

発問Q5の解答例(B評価)

不必要。日本は隣の国ともいろいろ理解し合えていないから,統合はきびしい。日本もそうだが各国のよさとか特色とかがなくなってしまう可能性があるのはよくない。統合までの必要はないと思う。

 記述にあたっての視点や論点はさまざまにあるだろう。また,中国・インドのように人口10億人をこえる大国があるこの地域が統合するというのも考えにくいが,想像することで地域平和のみならず,地球平和へ向けた問題点とその乗りこえるべき発想が浮かびあがってくるものと期待している。

6 おわりに

 過去の授業実践をふり返り,さらに現代の社会状況をふまえ調整を加えてみた。国際情勢の日々の激しい変動をあらためて感じる。これからどんなことが起こるのか予想もつかないグローバル社会で,広い視点で課題に向き合い解決を探っていく生徒たちの成長を思い,ここでは単元の中心となるべき問いを明示し展開をイメージした構造図をつくった。また,【思考場面リスト】を示し生徒の言語活動,思考・探求の活動を紹介した。授業者のみなさんの参考に少しでもなればと思う。

表3 アジア統合の長所・短所(班活動による作成例)

長所(+) 短所(-)

経済

・技術支援がやりやすい

・関税がなくなり外国のものを安く手に入れやすい

・観光客が増えてお金の流通がよくなる

・格差が起きる・日本の農業が衰退す

る・お金の単位が円でな

くなるととまどう・海外から人が入り労

働者の競争が起こる

経済以外

・互いの国を知れる・交流が増える・文化が融合する・領土問題が解決する

かもしれない

・広すぎる・宗教観が違う・各国の言語が違う・共通言語を覚えない

といけない・国境をこえ逃走しや

すい・日本独自の文化がな

くなってしまいそう

ほりさげ授業研究 公民

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