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7 ユウガオ属花粉を利用したスイカの単為結実誘導における品種間差異 杉山慶太 1 *・嘉見大助 1 ・室 崇人 2 1 農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター 062-8555 札幌市豊平区羊ヶ丘 2 農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター芽室研究拠点 082-0081 河西郡芽室町 Genotypic Differences of Parthenocarpic Fruit Induction in Watermelon Using Bottle Gourd (Lagenaria siceraria (Molina) Standl.) Pollen Keita Sugiyama 1 *, Daisuke Kami 1 and Takato Muro 2 1 National Agricultural and Food Research Center for Hokkaido Region, Hitsujigaoka, Toyohira-ku, Sapporo, Hokkaido 062-8555 2 National Agricultural and Food Research Center for Hokkaido Region, Memuro-cho, Kasai-gun, Hokkaido 082-0081 Abstract In order to evaluate the reliability of using bottle gourd (Lagenaria siceraria (Molina) Standl.) pollen to produce seedless watermelon, the fruit set rate and qualities of fruits obtained via parthenocarpy using the watermelon cultivar ‘Fujihikari TR’ were investigated. Pollen from several cultivars of bottle gourd was tested. To verify that pollen from another genus can be used universally to produce seedless fruit, the fruit set and fruit quality of several watermelon cultivars were measured in experiments using pollen from different bottle gourd cultivars. The timing of flowering and production of male bottle gourd flowers were investigated to identify the best combination for pollinating watermelon with bottle gourd pollen in the early spring season. Seedless watermelon could be produced from the pollen of several cultivars of bottle gourd. The watermelon fruit set rate after pollination with bottle gourd pollen was lower than that using watermelon pollen. The watermelon fruit set rate after pollination with L. siceraria var. hispida pollen was higher than that of L. sciceraria var. gourda pollen. There were no differences in the characteristics of seedless fruit produced by pollinating with different bottle gourd cultivars. Bottle gourd pollen could produce seedless fruit in several watermelon cultivars. Several common traits were evident in seedless watermelon fruit. Seedless fruit tended to be oblong, have hollow hearts, and have a higher °Brix compared with normal fruit. Seedless fruit had only empty seeds, and the number of empty brown seeds differed among watermelon cultivars. There were varietal differences in the male flower traits of bottle gourds. Seedless watermelon production can be facilitated by carefully evaluating the timing of anthesis in male bottle gourd flowers. Key Wordsintergeneric crossing, parthenocarpy, pollination キーワード:受粉,単為結実,属間交雑 種なしスイカは,インドール酢酸(寺田・益田,1938やナフタレン酢酸(Wong, 1938)などの植物成長調節物質 を用いて作出されたのが最初である.その後,寺田・益田 1943),Kihara1951)により三倍体技術を利用した種な しスイカが作出された.近年,Sugiyama Morishita2000は軟 X 線を照射した花粉(部分不活化花粉)を受粉する 方法による種なしスイカ作出法を開発した.現在の種なし スイカは三倍体を利用したものがほとんどであるが,部分 不活化花粉を利用した技術も利用されている.いくつかの 作物において,異種や異属の花粉の受粉によって単為結実 が生じ,種なし果実が得られることが報告されている Gustafson, 1942; 安田, 19341936; 安田ら, 1930).しかし, スイカでは異属のカボチャ,トウガンおよびユウガオ花粉 によって種子の入った果実が得られた報告があるが(寺田・ 益田,1935),単為結実が認められた例はない. 著者らは,部分不活化花粉を利用した種なしスイカの栽 培において,部分不活化花粉を先に受粉しても,後から無 処理花粉(普通の花粉)が受粉されると稔実種子が形成さ れるため(Sugiyama ら,2013),スイカ属以外の花粉を受 粉することによって,稔実種子の形成を抑制することがで きないか検討を行ってきた(杉山ら,20112012b).これ らの試験の中で,ユウガオ(Lagenaria sicerariaMolinaStandl. var. hispida)の花粉を受粉した後,スイカの果実が 肥大して,単為結実する現象が認められた. 園学研.(Hort. Res. (Japan)) 14 (1)7–152015doi: 10.2503/hrj.14.7 2014 4 26 受付.2014 10 2 受理. 本研究の一部は平成 25 年度北海道園芸研究談話会で発表した. * Corresponding author. E-mail: [email protected]

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  • 原 著

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    ユウガオ属花粉を利用したスイカの単為結実誘導における品種間差異

    杉山慶太 1*・嘉見大助 1・室 崇人 2

    1 農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター 062-8555 札幌市豊平区羊ヶ丘2 農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター芽室研究拠点 082-0081 河西郡芽室町

    Genotypic Differences of Parthenocarpic Fruit Induction in Watermelon Using Bottle Gourd (Lagenaria siceraria (Molina) Standl.) Pollen

    Keita Sugiyama1*, Daisuke Kami1 and Takato Muro21National Agricultural and Food Research Center for Hokkaido Region, Hitsujigaoka, Toyohira-ku, Sapporo, Hokkaido 062-8555

    2National Agricultural and Food Research Center for Hokkaido Region, Memuro-cho, Kasai-gun, Hokkaido 082-0081

    AbstractIn order to evaluate the reliability of using bottle gourd (Lagenaria siceraria (Molina) Standl.) pollen to produce seedless

    watermelon, the fruit set rate and qualities of fruits obtained via parthenocarpy using the watermelon cultivar ‘Fujihikari TR’ were investigated. Pollen from several cultivars of bottle gourd was tested. To verify that pollen from another genus can be used universally to produce seedless fruit, the fruit set and fruit quality of several watermelon cultivars were measured in experiments using pollen from different bottle gourd cultivars. The timing of flowering and production of male bottle gourd flowers were investigated to identify the best combination for pollinating watermelon with bottle gourd pollen in the early spring season. Seedless watermelon could be produced from the pollen of several cultivars of bottle gourd. The watermelon fruit set rate after pollination with bottle gourd pollen was lower than that using watermelon pollen. The watermelon fruit set rate after pollination with L. siceraria var. hispida pollen was higher than that of L. sciceraria var. gourda pollen. There were no differences in the characteristics of seedless fruit produced by pollinating with different bottle gourd cultivars. Bottle gourd pollen could produce seedless fruit in several watermelon cultivars. Several common traits were evident in seedless watermelon fruit. Seedless fruit tended to be oblong, have hollow hearts, and have a higher °Brix compared with normal fruit. Seedless fruit had only empty seeds, and the number of empty brown seeds differed among watermelon cultivars. There were varietal differences in the male flower traits of bottle gourds. Seedless watermelon production can be facilitated by carefully evaluating the timing of anthesis in male bottle gourd flowers.

    Key Words:intergeneric crossing, parthenocarpy, pollination

    キーワード:受粉,単為結実,属間交雑

    緒  言

    種なしスイカは,インドール酢酸(寺田・益田,1938)やナフタレン酢酸(Wong, 1938)などの植物成長調節物質を用いて作出されたのが最初である.その後,寺田・益田

    (1943),Kihara(1951)により三倍体技術を利用した種なしスイカが作出された.近年,Sugiyama・Morishita(2000)は軟 X 線を照射した花粉(部分不活化花粉)を受粉する方法による種なしスイカ作出法を開発した.現在の種なし

    スイカは三倍体を利用したものがほとんどであるが,部分

    不活化花粉を利用した技術も利用されている.いくつかの

    作物において,異種や異属の花粉の受粉によって単為結実

    が生じ,種なし果実が得られることが報告されている

    (Gustafson, 1942; 安田,1934,1936; 安田ら,1930).しかし,スイカでは異属のカボチャ,トウガンおよびユウガオ花粉

    によって種子の入った果実が得られた報告があるが(寺田・

    益田,1935),単為結実が認められた例はない.著者らは,部分不活化花粉を利用した種なしスイカの栽

    培において,部分不活化花粉を先に受粉しても,後から無

    処理花粉(普通の花粉)が受粉されると稔実種子が形成さ

    れるため(Sugiyama ら,2013),スイカ属以外の花粉を受粉することによって,稔実種子の形成を抑制することがで

    きないか検討を行ってきた(杉山ら,2011,2012b).これらの試験の中で,ユウガオ(Lagenaria siceraria(Molina)Standl. var. hispida)の花粉を受粉した後,スイカの果実が肥大して,単為結実する現象が認められた.

    園学研.(Hort. Res. (Japan)) 14 (1):7–15.2015. doi: 10.2503/hrj.14.7

    2014 年 4 月 26 日 受付.2014 年 10 月 2 日 受理.本研究の一部は平成 25 年度北海道園芸研究談話会で発表した.* Corresponding author. E-mail: [email protected]

  • 杉山慶太・嘉見大助・室 崇人8

    著者らはこれまでに,ウリ科植物 5 種類(トウガン,ニガウリ,ヘチマ,キュウリおよびユウガオ)とナス科植物

    1 種類(トマト)の花粉を供試した受粉を行ったところ,ユウガオの花粉のみがスイカを単為結実させることを認め

    た(杉山ら,2012a; Sugiyama ら,2014).前報(Sugiyama ら,2014)では,ユウガオ‘かちどき 2

    号’の花粉をスイカ‘富士光 TR’に受粉した場合の結実率は,スイカ花粉を受粉した場合よりも低く,ユウガオの

    花粉を保存するのは難しいこと,ユウガオ花粉の受粉に

    よって得られた果実は縦長で変形果となること,などを報

    告した.また,この単為結実の現象は,偽受精ではなく花

    粉や花粉管伸長などの刺激によるものであることを明らか

    にした.しかしながら,用いたユウガオとスイカの品種は

    各 1 品種のみであったことから,スイカの単為結実がこの組合せのみによる特異的な現象であるのか,他のユウガオ

    属品種(ユウガオおよびユウガオの変種であるヒョウタン

    (L. siceraria(Molina)Standl. var. gourda))花粉によっても単為結実が誘導されるのか,受粉に用いた品種の花粉に

    よって結実率の差はあるのか,さらに,他のスイカ品種で

    も単為結実が誘導されるのか明らかにされていない.また,

    大きさや形状の異なるスイカ品種が単為結実した場合,ど

    のような特徴を示すのか不明である.そこで,本報告では,

    多様なユウガオ属品種を用いて,様々なスイカ品種におけ

    る単為結実性や単為結実した場合のスイカの果実形質につ

    いて調査した.

    ユウガオ属の花粉を利用した種なしスイカを得るために

    は,スイカとともにユウガオ属を栽培しなければならない.

    しかし,北海道における栽培試験例は見当たらず,ユウガ

    オ属品種の雄花の特性に関する報告もほとんどない.ユウ

    ガオ属品種の雄花の開花始期,雄花数および花粉量は,ス

    イカおよびユウガオ属の栽培時期や栽植本数などの計画を

    検討するうえで必要な情報である.そこで,早春期におけ

    るユウガオ属品種の雄花の特性についての調査も行った.

    材料および方法

    1.異なるユウガオ属品種の花粉の受粉によるスイカの結実率と果実品質(実験 1)

    スイカ‘富士光 TR’を用いた.2013 年 4 月 5 日に園芸培土を充填した直径 10.5 cm ポリポットに播種し,ガラス室(最低温度 15°C,最高温度 30°C)で育苗した.5 月 15日にビニルハウス内の幅 3 m の 2 畝に株間 50 cm で定植した.ハウス内は最高温度 30°C でファンによる換気を行った.基肥として,1 a 当たり成分量で窒素,リン酸およびカリウムを各 1.0 kg 施用した.実験区として第 1 表に示したユウガオ属品種の花粉を開

    花前日のスイカの雌花に受粉(16 ~ 18 時)する区,対照区としてスイカ‘富士光 TR’の花粉を開花前日に受粉(16~ 18 時)する区を設定した.ユウガオ属の受粉には,開花当日の雄花から採取した花粉を用いた.なお,ユウガオ

    属の花粉は実験 3 で栽培したものを用いた.スイカの受粉には,開花当日の午前中(8 ~ 10 時)に採取した花粉を用い,使用直前まで -30°C で冷凍保存(Akutsu・Sugiyama, 2008)して用いた.第 1 表に示したユウガオ 3 品種,ヒョウタン 6 品種およ

    びスイカ 1 品種の計 10 品種の受粉につき各 8 株のスイカを用いた.スイカ 10 株を 1 区として,2 畝で 8 区(8 反復)設定した.各区内でいずれの品種の花粉をどの株に受粉す

    るかはランダムとした.1 株 3 本整枝とし,1 側枝につき1 ~ 2 個の雌花に受粉した.受粉後に雌花に袋(縦 12 cm × 横 6.7 cm)を掛けて他家受粉を防止した.受粉は 2013年 6 月 9 ~ 20 日に行った.受粉 10 ~ 14 日後に結実率を調査し,結実率は受粉した雌花数に対する結実数で示した.

    結実率の調査後,1 株 1 果になるように摘果した.果実の収穫は受粉 40 日後に行った.果実および種子の調査方法:果実の調査項目は,果重,

    果皮色,果実形,縦径,横径,皮の厚さ,果肉の色,糖度,

    空洞果および種子数とした.果皮色と果実形は観察により

    評価した.皮の厚さは,果実を果梗部から花落ち部にかけ

    て切断後,果実赤道部の表皮から赤い果肉部に至るまで(白

    い部分)の長さを測定した.果肉色は観察による評価と色

    彩色差計(NR-11A,日本電色工業(株))を用いて果実縦断面の中央部の a* 値を測定した.糖度は果実中心部,胎座部,皮部(外果皮に近い赤い果肉の部分)を糖度計(PR-101α,(株)アタゴ)によって測定した.空洞果は,果実内部に割れが観察された果実の割合を示した.

    果実内の種子数については,果実を果梗部から花落ち部

    にかけて切断した半分について調査した.稔実種子,着色

    しいな(種皮が薄茶から焦げ茶色),白色しいな(種皮が

    白色)に類別して調査した.しいなは,縦径 5 mm 以上のものおよび 5 mm 以下でも硬いものや厚みがあるものを計数した.

    果実形質のデータ(果重,縦径,横径,縦横比,皮の厚

    さ,果肉の色および糖度)についての有意差検定は,

    Tukey-Kramer 法の多重比較検定により行った.稔実種子数としいな数については,標準誤差で示した.

    2.ユウガオ属花粉の受粉がスイカ品種の結実および果実品質に及ぼす影響(実験 2)

    大玉系スイカの‘富士光 TR’,‘夏王 LR’,小玉系スイカの‘ひとりじめ 7’,‘マダーボール’,‘おおとり 2 号’,‘姫甘泉’および‘サマーオレンジベビー’,3 倍体(大玉系スイカ)の‘ほお晴れ’を用いた.2013 年 4 月 27 日に播種し,育苗は実験 1 と同様に行った.6 月 4 日にビニルハウス内に定植し,栽植方法,施肥量およびハウス内の管理

    は実験 1 に準じた.実験区としてユウガオ属(ユウガオ‘かちどき 2 号’,‘10

    貫目大丸かんぴょう’,ヒョウタン‘イボ瓢’,‘超首ひょ

    うたん’および‘一寸豆瓢’を個々に受粉に用いた)の花

    粉をスイカ雌花の開花前日に受粉(16 ~ 18 時)する区,

  • 園学研.(Hort. Res. (Japan)) 14 (1):7–15.2015. 9

    対照区としてスイカ花粉(受粉する株と同じ品種.但し,

    3 倍体スイカ‘ほお晴れ’の受粉には‘富士光 TR’を用いた)をスイカ雌花の開花当日に受粉(8 ~ 10 時)する区を設定した.受粉には,開花当日の雄花から採取した花

    粉を用いた.

    各区につき各品種 5 株用い,スイカ 8 品種を 1 ブロックとし,2 畝で 10 ブロック設定した.ブロック内でのスイカ品種はランダムに配置した.ユウガオ属花粉の受粉区 5ブロック(5 反復)とスイカ花粉の受粉区 5 ブロック(5反復)をランダムに配置した.1 株 3 本整枝とし,1 側枝に 1 ~ 2 花の雌花への受粉を基本としたが,結実が見られない株については,さらに多くの雌花(最大 5 花)に受粉した.受粉は 2013 年 6 月 23 日~ 7 月 19 日に行った.受粉後の他家受粉の防止および結実率の調査は,実験 1 と同様に行った.大玉系スイカと 3 倍体スイカは 1 株 1 果,小玉系スイカは 1 株 2 果とし,余分な果実は結実の調査時に摘果した.ユウガオ属花粉受粉区およびスイカ花粉受粉区

    のいずれも,小玉系スイカは受粉後 35 日後,大玉系スイカは 40 日後に収穫した.ユウガオ属花粉の受粉区において,‘富士光 TR’以外はユウガオ品種の受粉によって得られた果実を調査した.ユウガオ属花粉の全受粉区のうち,

    ‘姫甘泉’(裂果数 1,収穫果数 2)および‘サマーオレンジベビー’(収穫果数 2)については,果実調査のデータに含めなかった.なお,小玉系スイカでは裂果が発生し,

    収穫まで至らなかった果実もあったが,大玉系スイカでは

    裂果はまったく見られなかった.

    果実および種子の調査方法については,実験 1 に準じた.但し,‘おおとり 2 号’の果肉は黄色であるため b* 値を測定した.また,種子数については,果実全体の種子数を調

    査した.

    スイカ花粉の受粉区とユウガオ属花粉の受粉区間におけ

    る果実形質のデータの有意差検定は,t 検定により行った.稔実種子数としいな数については,標準誤差で示した.

    3.ユウガオ属品種の雄花に関する特性(実験 3)実験 1 と同じユウガオ 3 品種,ヒョウタン 6 品種を用い

    た.2013 年 3 月 21 日に園芸培土を充填した直径 12 cm のポットに播種し,育苗は実験 1 と同様に行った.5 月 11日に直径 27 cm ポット(約 8 L の園芸培土を充填)に移植し,ガラス温室で主枝 1 本の立体栽培を行った.ガラス温室内は,25°C 以上で天窓が開くように調節した.各品種5 株を用い株間 80 cm,条間 90 cm の 4 列にランダムに配置した.これらの品種について,生育(茎長,展開葉数),

    雄花着生節位,雄花の開花開始日,雄花数および花粉量を

    調査した.雄花数は,2013 年 6 月 20 ~ 26 日に開花した数を調査した.花粉量は,2013 年 5 月 27 日~ 6 月 10 日に 1 株につき雄花 3 個以上を採取し測定した.雄花数と花粉量の有意差検定は,Tukey-Kramer 法の多

    重比較検定により行った.

    結  果

    1.異なるユウガオ属品種の花粉の受粉によるスイカの結実率と果実品質(実験 1)

    いずれのユウガオ属品種の花粉を受粉した場合にも,ス

    イカ‘富士光 TR’に結実が認められた(第 1 表).ユウガオ品種の花粉による結実率はスイカ花粉を用いた結実率

    61.4%よりも低かったが,‘かちどき 2 号’53.5%,‘10 貫目大丸かんぴょう’51.9%と 50%以上になるものもあった.一方,ヒョウタン品種の花粉による結実率は‘台湾大瓢’

    22.5%,‘大長ひょうたん’24.5%,‘超首ひょうたん’27.4%,‘イボ瓢’29.9%,‘一寸豆瓢’30.0%とユウガオより低めの傾向が見られた.

    ユウガオ属花粉を受粉後,7 日目に子房の形状が長くなるものや中央部が凹むものなども見られ,14 日目にはスイカ花粉による果実との形態の違いが明らかとなった(第

    1 図 A).ユウガオ属花粉によって作出された果実の重さは 5.9 ~ 7.6 kg で,スイカ花粉によって作出された果実(対照果実)の重さ 6.3 kg と有意な差はなかった.果皮色はい

    第 1 表 ユウガオ属花粉の受粉によるスイカ‘富士光 TR’の結実率と果実の外観形質

    変種 受粉に用いた品種結実率 (%)

    調査 果数

    果重 (kg) 果皮色 果実形

    縦径 (mm)

    横径 (mm)

    縦横比 (縦径/横径)

    var. hispidaかちどき 2 号 53.5 7 6.4 az 緑 長楕円 267.2 b 216.1 a 1.24 b大長夕顔 44.4 6 7.0 a 緑 長楕円 267.2 ab 229.2 a 1.17 ab10 貫目大丸かんぴょう 51.9 6 6.2 a 緑 長楕円 264.2 ab 212.9 a 1.24 b

    var. gourda大長ひょうたん 24.5 6 7.1 a 緑 長楕円 280.2 b 222.2 a 1.26 b一寸豆瓢 30.0 7 7.2 a 緑 長楕円 275.3 b 227.8 a 1.21 b超首ひょうたん 27.4 7 7.3 a 緑 長楕円 281.4 b 223.6 a 1.26 b台湾大瓢 22.5 4 5.9 a 緑 長楕円 256.4 ab 218.2 a 1.17 abカーリング 41.2 4 7.6 a 緑 長楕円 284.9 b 225.5 a 1.26 bイボ瓢 29.9 5 6.6 a 緑 長楕円 276.4 b 220.8 a 1.25 b

    富士光 TR(スイカ) 61.4 8 6.3 a 緑 高球 240.9 a 221.1 a 1.09 az 異なる英文字間には,Tukey-kramar の多重検定により 5%水準で有意差あり

  • 杉山慶太・嘉見大助・室 崇人10

    ずれも緑色で,受粉に用いた品種による違いはなかった.

    果実の横径については対照果実との差はなかったが,ユウ

    ガオ花粉による果実の縦径が大きくなる傾向があり,‘大

    長夕顔’,‘10 貫目大丸かんぴょう’および‘台湾大瓢’以外のユウガオ属品種の花粉によって得られた果実は対照

    果実よりも縦径が有意に長かった.ユウガオ属花粉による

    果実の縦横比は,1.17 ~ 1.26 と対照果実の 1.09 に比べて縦方向に長くなる傾向が見られた(第 1 表,第 1 図 B).ユウガオ属花粉による果実の皮は,‘大長ひょうたん’

    で対照果実よりも厚かった(第 2 表).また,糖度は皮部に比べて中心部,胎座部で高く,中心部では‘かちどき 2 号’と‘大長ひょうたん’花粉による果実を除き対照果実に比

    べて有意に高かった.しかし,皮部の糖度については差が

    見られなかった.ユウガオ属花粉による果実は空洞果の割

    合が高く,ほとんどの果実で発生した(第 2 表,第 2 図).

    第 1 図 ユウガオ属花粉の受粉によって結実したスイカ果実の外観

    スイカ品種‘富士光 TR’A: 受粉後 14 日,左:対照果実,右:ユウガオ品種‘10

    貫目大丸かんぴょう’の花粉を受粉して結実した

    果実

    B: 受粉後 40 日,左:対照果実,右:ヒョウタン品種‘イボ瓢’の花粉を受粉して結実した果実

    第 2 図 ユウガオ属花粉の受粉によって結実したスイカ果実の内部(受粉後 40 日)スイカ品種‘富士光 TR’左:対照果実,右:ユウガオ品種‘10 貫目大丸かんぴょう’の花粉を受粉して結実した果実

    第 2 表 ユウガオ属花粉の受粉により作出されたスイカ‘富士光 TR’果実の果肉形質と種子数

    変種 受粉に用いた品種皮の厚さ (mm)

    果肉の色 糖度(°Brix) 空洞果率 (%)

    稔実種子数 (個)

    しいな数(個)

    観察 a* 値 中心部 胎座部 皮部 着色しいな 白色しいな

    var. hispidaかちどき 2 号 14.6 ab 赤 22.6 az 12.3 ab 11.9 ab 10.1 a 71.4 0.0 ± 0.0y 1.3 ± 1.1 27.9 ± 6.5大長夕顔 16.3 ab 赤 24.3 a 13.1 b 13.3 b 10.3 a 100.0 0.0 ± 0.0 1.2 ± 1.2 20.7 ± 9.510 貫目大丸かんぴょう 15.8 ab 赤 24.2 a 12.8 b 12.3 ab 9.9 a 83.3 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0 17.8 ± 8.9

    var. gourda大長ひょうたん 17.1 b 赤 22.4 a 12.7 ab 12.6 ab 10.3 a 83.3 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0 43.6 ± 17.3一寸豆瓢 16.0 ab 赤 24.2 a 13.3 b 12.6 ab 10.0 a 100.0 0.0 ± 0.0 0.9 ± 0.7 35.7 ± 8.8超首ひょうたん 15.8 ab 赤 23.6 a 13.3 b 13.2 b 10.2 a 100.0 0.0 ± 0.0 0.4 ± 0.4 19.4 ± 6.8台湾大瓢 14.6 ab 赤 23.8 a 13.0 b 13.2 b 10.3 a 75.0 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0 29.3 ± 10.6カーリング 15.5 ab 赤 25.1 a 13.4 b 13.1 ab 10.3 a 100.0 0.0 ± 0.0 0.3 ± 0.3 40.8 ± 5.9イボ瓢 16.7 ab 赤 23.3 a 13.5 b 13.5 b 10.3 a 100.0 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0 43.8 ± 19.3

    富士光 TR(スイカ) 12.4 a 赤 23.8 a 11.5 a 11.3 a 9.7 a 12.5 463.2 ± 39.0 3.0 ± 0.8 28.4 ± 9.7z 異なる英文字間には,Tukey-kramar の多重検定により 5%水準で有意差ありy 平均値 ± 標準誤差(n = 4 ~ 8)

  • 園学研.(Hort. Res. (Japan)) 14 (1):7–15.2015. 11

    果実内部の割れは果実中央の赤道部を横断する果実が多

    かったが,果梗から花落ちにかけて縦断する割れも観察さ

    れた.また,果実の中央部で凹みが見られた部分の皮が厚

    くなるものもあった.

    ユウガオ属花粉による果実には稔実の種子はなく,着色の

    しいなもほとんど見られず,白色のしいなは 20 ~ 40 粒程度で受粉用ユウガオ品種の違いによる大きな差はなかった.

    2.ユウガオ属花粉の受粉がスイカ品種の結実および果実品質に及ぼす影響(実験 2)

    ユウガオ品種の花粉を受粉した場合の結実率は,スイカ

    花粉を受粉した場合の結実率と比べて,‘富士光 TR’では半分程度であったが,それ以外の品種では半分以下であっ

    た(第 3 表).また,いずれのスイカ品種でもユウガオ品種の花粉による結実率はヒョウタン品種の花粉による結実

    率よりも高かった.‘富士光 TR’,‘夏王 LR’および‘姫甘泉’を除き,ヒョウタン品種の花粉によって結実しなかっ

    た.‘富士光 TR’は,ユウガオ品種およびヒョウタン品種の花粉による結実率が最も高く,それぞれ 33.3%,23.1%

    であり,‘姫甘泉’,‘サマーオレンジベビー’はユウガオ

    品種の花粉で 9.5%,10.5%と低かった.果重は,ユウガオ属の受粉区でスイカ受粉区の果実(対

    照果実)より大きかった‘ひとりじめ 7’以外は同程度であった(第 4 表).ユウガオ属花粉を受粉した果実は,縦径が大きくなる傾向があり,‘おおとり 2 号’および‘ほお晴れ’以外は対照果実に比べて有意な差が認められた.

    一方,‘夏王 LR’と‘マダーボール’では対照果実に比べて横径が小さかった.果皮色については,いずれの品種も

    受粉に用いた花粉による違いはなかった.縦横比を見ると

    ‘おおとり 2 号’を除き,ユウガオ属花粉を用いた方が,対照果実より果実が縦長であった.皮の厚さについては差

    がなく,赤肉品種,黄肉品種のいずれも,受粉に用いた花

    粉による果肉色の違いはなかった.‘ひとりじめ 7’,‘ほお晴れ’では,ユウガオ花粉の受粉によって得られた果実

    の方が,対照果実に比べて果実中心部の糖度が有意に高

    かった.空洞果はユウガオ属花粉の受粉区で発生が多く観

    察された.

    スイカの花粉によって得られた大玉系スイカ‘富士光

    TR’および‘夏王 LR’の果実内の稔実種子はそれぞれ492.8,474.0,着色のしいな数は 9.0,7.6,白色のしいな数は 15.6,16.8,小玉系スイカの稔実種子数は 170.1 ~254.1,着色のしいな数は 9.0 ~ 17.6,白色のしいな数は 1.4~ 4.1,3 倍体品種‘ほお晴れ’では稔実種子は観察されず,着色のしいな数は0.8,白色しいな数は13.2であった.一方,ユウガオ属花粉によって得られた果実には稔実種子はな

    く,しいなの数には品種間差が見られた.すなわち,大玉

    系スイカ‘富士光 TR’および‘夏王 LR’の果実の着色のしいな数は,それぞれ 13.0,1.6,白色しいな数は 68.0,142.6 であったのに対し,小玉系スイカ‘マダーボール’,‘ひとりじめ 7’および‘おおとり 2 号’は,着色しいな数はそれぞれ 272.0,275.5,148.0 と多く,白色しいな数は,0.0,2.0,46.3 と少なかった.3 倍体スイカ‘ほお晴れ’の果実には着色しいなは見られず,白色しいな数は18.8であった.3.ユウガオ属品種の雄花に関する特性(実験 3)雄花の開花は 5 月下旬から観察され,‘一寸豆瓢’が最

    も早く,次いで‘超首ひょうたん’,‘大長夕顔’であった

    (第 5 表).‘かちどき 2 号’の開花は最も遅い 6 月 10 日から始まった.

    2013 年 6 月 20 ~ 26 日の期間における 1 株当たりの雄花の着生数は,‘一寸豆瓢’,‘超首ひょうたん’がそれぞ

    れ 2.9 花/日,2.7 花/日と多く,‘カーリング’,‘かちどき 2 号’はそれぞれ 0.4 花,0.6 花と少なかった.1 花当たりの花粉量は‘一寸豆瓢’が 2.6 mg と最も少なく,‘台湾大瓢’が 8.5 mg と最も多かった.

    考  察

    ユウガオ属には変種としてユウガオ,ヒョウタンおよび

    フクベ(L. siceraria(Molina)Standl. var. depressa)の変種

    第 3 表 ユウガオ属花粉がスイカ品種の結実に及ぼす影響

    品種受粉に

    用いた花粉 z受粉花数

    (花)

    結実数 (個)

    結実率 y

    (%)

    富士光 TR スイカ 14 9 64.3ユウガオ 9 3 33.3ヒョウタン 13 3 23.1

    夏王 LR スイカ 13 8 61.5ユウガオ 21 5 23.8ヒョウタン 9 1 11.1

    マダーボール スイカ 14 11 78.6ユウガオ 27 7 25.9ヒョウタン 15 0 0.0

    ひとりじめ 7 スイカ 13 10 76.9ユウガオ 26 6 23.1ヒョウタン 14 0 0.0

    おおとり 2 号 スイカ 19 11 57.9ユウガオ 24 6 25.0ヒョウタン 13 0 0.0

    ほお晴れ スイカ 14 8 57.1ユウガオ 19 4 21.1ヒョウタン 10 0 0.0

    姫甘泉 スイカ 15 8 53.3ユウガオ 21 2 9.5ヒョウタン 13 1 7.7

    サマーオレンジ ベビー

    スイカ 14 5 35.7ユウガオ 19 2 10.5ヒョウタン 20 0 0.0

    z スイカは同じ品種の花粉を用いたが,‘ほお晴れ’は‘富士光 TR’の花粉を用いた

    ユウガオは‘かちどき 2号’,‘10貫目大丸かんぴょう’,ヒョウタンは‘一寸豆瓢’,‘超首ひょうたん’,‘イボ瓢’の花

    粉を用いたy 結実数/受粉花数

  • 杉山慶太・嘉見大助・室 崇人12

    第4表 ユウガオ属花粉により作出されたスイカ果実の外観および果肉形質

    品種

    受粉に

    用いた花粉

    調査

    z 果数

    果重

    kg)

    果皮色

    果実形

    縦径

    mm)

    横径

    mm)

    縦横比

    (縦径/横径)

    皮の厚さ

    mm)

    果肉の色

    糖度(°B

    rix)

    空洞果率

    (%)

    稔実種子数

    (個)

    しいな数(個)

    観察

    a*値

    b*値

    中心部

    胎座部

    皮部

    着色しいな

    白色しいな

    富士光

    TRスイカ

    56.

    7緑

    やや高球

    244.

    623

    2.6

    1.05

    12.6

    赤24

    .812

    .412

    .3 9

    .4 4

    0.0

    492

    .8 ±

    41.

    6w 9

    .0 ±

    1.5

    15.6

    ± 4

    .3

    ユウガオ属

    y5

    7.8

    緑長楕円

    285.

    322

    6.5

    1.26

    15.8

    赤26

    .212

    .712

    .3 9

    .3 8

    0.0

    0.0

    ± 0

    .013

    .0 ±

    7.8

    68.

    0 ±

    48.

    8

    有意差

    xN

    .S*

    NS

    **N

    SN

    SN

    SN

    SN

    S

    夏王

    LRスイカ

    57.

    2緑

    やや高球

    254.

    123

    9.8

    1.06

    15.7

    赤25

    .012

    .211

    .9 9

    .5 8

    0.0

    474.

    0 ±

    30.

    4 7

    .6 ±

    1.4

    16.8

    ± 6

    .8

    ユウガオ

    56.

    6緑

    長楕円

    280.

    321

    4.0

    1.31

    14.5

    赤26

    .012

    .811

    .8 9

    .810

    0.0

    0.0

    ± 0

    .0 1

    .6 ±

    1.6

    142.

    6 ±

    66.

    4

    有意差

    NS

    ****

    **N

    SN

    SN

    SN

    SN

    S

    マダーボール

    スイカ

    92.

    4緑

    長楕円

    194.

    815

    3.5

    1.27

    5.3

    赤26

    .312

    .612

    .110

    .4

    0.0

    223.

    3 ±

    27.

    1 1

    7.6 ±

    10.

    9 3

    .9 ±

    2.7

    ユウガオ

    72.

    6緑

    長楕円

    233.

    514

    1.0

    1.65

    6.1

    赤26

    .613

    .212

    .710

    .5 2

    8.6

    0.0

    ± 0

    .027

    2.0 ±

    45.

    7 0

    .0 ±

    0.0

    有意差

    NS

    ***

    **N

    SN

    SN

    SN

    SN

    S

    ひとりじめ

    7スイカ

    81.

    7緑

    やや高球

    156.

    114

    5.9

    1.07

    4.7

    赤27

    .012

    .612

    .310

    .9

    0.0

    170.

    1 ±

    21.

    913

    .3 ±

    4.2

    4.1

    ± 2

    .2

    ユウガオ

    52.

    6緑

    長楕円

    194.

    415

    8.4

    1.23

    5.8

    赤28

    .413

    .813

    .510

    .4 4

    0.0

    0.0

    ± 0

    .027

    5.5 ±

    24.

    3 2

    .0 ±

    2.0

    有意差

    ***

    NS

    **N

    SN

    S*

    *N

    S

    おおとり

    2号

    スイカ

    72.

    1緑

    楕円

    176.

    415

    4.3

    1.14

    4.9

    黄44

    .012

    .511

    .6 9

    .6

    0.0

    254.

    1 ±

    21.

    5 9

    .0 ±

    4.9

    1.4

    ± 0

    .7

    ユウガオ

    32.

    8緑

    楕円

    184.

    916

    3.7

    1.13

    6.1

    黄48

    .112

    .311

    .7 9

    .1 6

    6.7

    0.0

    ± 0

    .014

    8.0 ±

    73.

    8 4

    6.3 ±

    46.

    3

    有意差

    NS

    NS

    NS

    NS

    NS

    NS

    NS

    NS

    NS

    ほお晴れ

    スイカ

    56.

    7緑

    高球

    255.

    523

    0.0

    1.11

    16.1

    赤26

    .212

    .211

    .9 9

    .6 5

    0.0

    0.0

    ± 0

    .0 0

    .8 ±

    0.5

    13.2

    ± 7

    .5

    ユウガオ

    46.

    9緑

    長楕円

    283.

    221

    6.4

    1.31

    17.0

    赤28

    .813

    .713

    .8 9

    .810

    0.0

    0.0

    ± 0

    .0 0

    .0 ±

    0.0

    18.

    8 ±

    10.

    6

    有意差

    NS

    NS

    NS

    **N

    SN

    S*

    **N

    S

    z 収穫果数と同じ

    y ユウガオ花粉によっ

    て得られた果実は

    2果,ヒョウタン花粉によって得られた果実は

    3果

    x *および

    **は,そ

    れぞれ

    t検定により

    5%および

    1%水準で有意差あり,

    NSは有意差なし

    w 平

    均値

    ± 標

    準誤差

  • 園学研.(Hort. Res. (Japan)) 14 (1):7–15.2015. 13

    があるとして分類されている(牧野,1996).これら変種の類縁関係については,小林・吉田(2007)がユウガオ品種とヒョウタン品種について RAPD 分析とクラスター分析を用いて分類を行い,ユウガオ品種とヒョウタン品種は

    遠縁であることが示されている.フクベの位置づけは不明

    であるが,ユウガオ品種とヒョウタン品種を用いることで,

    ユウガオ属花粉がスイカに対しての結実性や結実した果実

    形質およびユウガオ属の雄花に関する特性などが概ね把握

    できると考えられた.

    実験 1 において,ユウガオ属の雄花は夕刻に開花することから,受粉はスイカ雌花の開花前日(16 ~ 18 時)に行った.スイカ雄花は早朝に開花し,夕刻には発芽率が低下す

    るため採取した花粉を冷凍保存して用いたが,結実率への

    影響はほとんどないと考えられる(Akutsu・Sugiyama, 2008).また,実際のスイカ栽培では,雌花の開花時に受粉を行うことから,実験 2 ではスイカ花粉の受粉を 8 ~10 時に行いユウガオ属花粉の結実率と比較した.スイカ雌花の開花前日の午後 3 時以降の受粉と開花当日の 9 時頃の受粉における結実率はほぼ同じであることが報告されて

    おり(杉山・阿久津,2010),実験 1 と実験 2 で共通に用いたスイカ‘富士光 TR’の対照の結実率は 61.4%,64.3%とほぼ同率であったことからもスイカ花粉の受粉時刻・方法は異なるが,結実率への影響は少なかったと考え

    られる.

    ユウガオ属品種の受粉によるスイカの結実率は,スイカ

    花粉よりは低率となったが‘かちどき 2 号’と‘10 貫目大丸かんぴょう’は 50%を超える結実率を示した.しかし,ヒョウタン花粉の結実率はユウガオ花粉の半分程度であっ

    た.この要因は不明であるが,花粉の発芽率には大差なかっ

    たことから(データ略),スイカの単為結実に影響を及ぼ

    す植物ホルモンの量や種類などが関与している(寺田・益

    田,1941; Wong, 1938,1939; 安田,1934)可能性が考えら

    れた.

    実験 1 において,前報(Sugiyama, 2014)と同じユウガオ品種とスイカ品種の受粉組合せによって得られた果実の

    形質は,対照果実との比較において前報と同様に縦長にな

    る傾向が認められた.また,ユウガオ属品種の花粉を用い

    て作出されたスイカの果実の外観,果肉の品質およびしい

    な数はいずれも同程度であり,受粉に用いる品種の違いに

    よる果実形質への影響はほとんどないと考えられた.

    実験 2 において,いずれのスイカ品種でも,ユウガオ属花粉を受粉した場合の結実率はスイカ花粉を受粉した場合

    に比べて低率であった.この要因は明らかでないが,6 月中旬からの気温の低下と日照不足によるスイカ株の徒長が

    見られ,低節位(約 12 ~ 15 節)に結実しなかった株はその後‘つるぼけ状態’となったことなどが原因の 1 つと推測される.特に,ヒョウタン品種の花粉を用いた場合,結

    実しなかったスイカ品種が 8 品種中 5 品種あり,実験 1 の結果からもヒョウタン品種の花粉は単為結実させにくいと

    考えられた.‘姫甘泉’と‘サマーオレンジベビー’はユ

    ウガオ品種の花粉を用いた場合でも 10%程度と低率であり,ユウガオ属花粉による結実のしやすさにはスイカ品種

    の差異があると推測された.なお,スイカ品種の結実のし

    やすさにはユウガオ属花粉の品種による差が認められる可

    能性もあることから,さらに検討が必要である.

    実験 2 では,ユウガオ属花粉によって作出されたスイカ品種の果実形質について,受粉に用いた花粉品種の影響も

    考慮する必要があるが,実験 1 の結果から受粉に用いたユウガオ属品種による果実形質の違いは認められなかったこ

    とから,ユウガオ花粉から得られた果実として対照果実と

    の比較を行った.なお,‘富士光 TR’はヒョウタン花粉も用いているため,ユウガオ属花粉から得られた果実として

    対照果実と比較した.

    ユウガオ属花粉によって作出された果実の重さは,対照

    果実とほぼ同程度であるが,‘ひとりじめ 7’の果重が大きかったのは,1株に 1果しか結実しなかった果実が多かったためと考えられる.

    単為結実した果実は前報(Sugiyama, 2014)と同様に対照果実に比べて縦径が大きくなる傾向があり,縦方向に長

    くなることが特徴であることが示された.また,前報では

    ほとんど見られなかった空洞が多く発生することが認めら

    れた.これは,果実の赤道部分がやや凹み,空洞の多くが

    赤道部方向に割れている状況から花粉を受粉した後,花落

    ち側と果梗部側の両方向に引っ張られて肥大したためと推

    測される.前報では,同じ供試品種の‘富士光 TR’の単為結実果実の大きさが本実験の果実より 25 ~ 40%小さいことから肥大が十分でなかったため空洞が生じにくかった

    と推察される.‘夏王 LR’と‘マダーボール’の単為結実果実は対照果実に比べて横径が小さいことから,横方向へ

    果肉が肥大しにくい品種と考えられた.

    単為結実した果実や部分不活化花粉を利用したスイカで

    第 5 表 ユウガオ属品種の雄花の特性

    変種 品種雄花の開 花開始日 z

    雄花数 y

    (花)

    花粉量 x

    (mg)

    var. hispidaかちどき 2 号 6 月 10 日 0.6 cw 7.2 bcd大長夕顔 5 月 29 日 2.3 ab 5.9 bcd10 貫目大丸かんぴょう 6 月 1 日 1.0 bc 6.4 bcd

    var. gourda大長ひょうたん 5 月 31 日 1.0 bc 6.9 bcd一寸豆瓢 5 月 26 日 2.9 a 2.6 a超首ひょうたん 5 月 28 日 2.7 a 4.8 abc台湾大瓢 6 月 2 日 1.1 bc 8.5 dカーリング 6 月 8 日 0.4 c 7.6 cdイボ瓢 6 月 4 日 2.1 ab 4.4 ab

    z 全株の平均,6 月 18 日まで調査y 1 日当たり開花数(調査日:2013 年 6 月 20 ~ 26 日)x 1 花当たりの花粉量(調査日:2013 年 5 月 27 日~ 6 月 10 日)w 異なる英文字間には,Tukey-Kramer の多重検定により 5%水準で有意差あり

  • 杉山慶太・嘉見大助・室 崇人14

    は,果梗部付近の形状が尖った状態になる‘肩こけ果’が

    生じやすく(Wong, 1938; Gustafson, 1941; 山根ら,2008; Sugiyama ら,2014),ユウガオ属花粉を利用した果実で多く観察された.これはユウガオの花粉は花柱の下の子房の

    上部までしか到達せず(大澤・小寺,1987; Sugiyama ら,2014),また,観察においてしいな果梗部側で少なかったことからも花粉からのホルモンなどによる刺激が子房の下

    部まで十分に及ばないためと推測される.

    Sugiyama ら(2014)の報告では,ユウガオ花粉によって単為結実した果実とスイカ花粉によって得られた果実と

    の糖度の差は見られなかったが,実験 1 および実験 2 において,ユウガオ属品種の花粉による種なしスイカの糖度は

    果実中央部から胎座部にかけて対照果実に比べて高くなる

    傾向が見られた.これは部分不活化花粉による種なしスイ

    カの糖度が高まる報告(Sugiyama・Morishita, 2000; 山根,2012)と同様に種子に供給される同化養分が不要となるためと推測された(山根,2012).ユウガオ属花粉により作出された果実には稔実種子はな

    く,しいなのみであった.‘マダーボール’,‘ひとりじめ 7’および‘おおとり 2 号’は他品種よりもしいなが多く,かつ着色しいなも多く見られた.果実の肥大期が高温時期の

    場合は,しいなが着色しやすい傾向があるため(Watanabeら,2001; 森ら,2009),これらの品種はその影響を受けやすいと考えられた.

    ユウガオ属品種の雄花が早くから開花する品種は,スイ

    カの栽培時期を拡大できるという点で有利である.また,

    本実験ではユウガオ属花粉の量と結実率との関係や 1 個のスイカ雌花の受粉に必要な花粉量は調査していないが,受

    粉の数を確保するには多い方が望ましい.ユウガオ品種の

    ‘大長夕顔’と‘10 貫目大丸かんぴょう’は,雄花の開花始期が早いことから,この時期の栽培において早くからの

    受粉を望む場合には適している品種と考えられた.一方,

    ‘かちどき 2 号’は,最初の雄花が開花するまでの日数も遅く,早期に開花させるには,播種時期や加温条件などの

    検討が必要であると考えられた.また,‘かちどき 2 号’の花粉量は他のユウガオ品種と変わらないが,雄花数は 1株当たり 0.6 個/日と少ないことから,雄花数を確保するには主枝を摘心して側枝を増やすことや個体数を増やすな

    どの検討が必要と考えられた.

    なお,ヒョウタン品種の中には,雄花の開花時期が早く,

    雄花数も多い‘一寸豆瓢’や‘超首ひょうたん’や花粉量

    が多い‘台湾大瓢’が見られ,受粉用として望ましい特性

    をもつが,ヒョウタンの花粉はユウガオの花粉に比べて結

    実率が低く,結実しないスイカ品種も多く見られたことか

    ら,スイカの単為結実の作出には利用しない方がよいと判

    断される.

    本研究によって,‘かちどき 2 号’以外のユウガオ属(ユウガオおよびヒョウタン)品種の花粉でもスイカ品種を単

    為結実させ,‘富士光 TR’以外のスイカ品種でも単為結実

    が誘導されることが明らかとなった.また,単為結実した

    果実は,対照果実に比べて縦長となり,空洞果の発生が多

    く,糖度が高い傾向であることがわかった.

    ユウガオ属花粉を利用するには,花粉の保存方法の開発

    や結実率および果実品質を高めるための課題は残されてい

    るが,種なしスイカを生産する新たな方法としての利用が

    期待される.

    摘  要

    ユウガオ属品種(ユウガオ:Lagenaria siceraria(Molina)Standl var. hispida,とヒョウタン:L. siceraria var. gourda)の花粉によるスイカの結実率や単為結実した果実の品質を

    検討した.また,様々なスイカ品種を用いてユウガオ花粉

    の受粉による結実率と単為結実果実の品質について調査し

    た.さらに,早春期の栽培におけるユウガオ属の雄花の特

    性についても調査した.様々なユウガオ属品種の花粉でも

    スイカを単為結実させることが明らかとなった.ユウガオ

    属花粉による結実率はスイカ花粉よりも低かったが,ユウ

    ガオ品種はヒョウタン品種よりも高い傾向があり,受粉し

    た品種による差が見られた.単為結実した果実の形質につ

    いては,ユウガオ属花粉の品種による差は認められなかっ

    た.ユウガオ属花粉により,様々なスイカ品種が単為結実

    した.単為結実したスイカの果実は,スイカ花粉の受粉に

    よる果実(対照)に比べて縦長となり,空洞果が多く,糖

    度が高い傾向があった.稔実種子は観察されず,しいな数

    やしいなの着色はスイカ品種間での差異が認められた.ユ

    ウガオ属品種の雄花の特性には品種による差が認められた

    ことから,スイカ栽培においてユウガオ属品種の雄花の開

    花時期を考慮することにより,種なしスイカの生産が可能

    である.

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