情報科教育 カリキュラム と...

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松原 伸一 滋賀大学教授 2012年3月 松原 伸一 滋賀大学教授 2012年3月 情報科教育 カリキュラム その 学習支援環境 学習支援環境 情報科教育 カリキュラム その 学習支援環境 情報科教育 カリキュラム その 学習支援環境

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松原 伸一滋賀大学教授

2012年3月

松原 伸一

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

滋賀大学教授

2012年3月

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境学習支援環境

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

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情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

目 次

まえがき 1

第1章 学習指導要領の改訂 3

第2章 クラウド型知識基盤社会における教育 13

第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ 29

第4章 情報学教育の課題と展望 37

第5章 協働学習支援環境 49

あとがき 67

参考文献 68

謝辞 72

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まえがき

教科「情報」は,2003 年度より年次進行により実施され,今年度(2011 年度)は 9 年

目にあたる。この冊子の執筆は,2012 年 1 月から本格的に始めたが,同年 4 月からの次

年度(2012 年度)は 10 年目を迎えると同時に,現行の教育課程の最終年度でもある。

いよいよ 2013 年度からは新しい「情報」の教育が始まることになる。 筆者は,2005 年 8 月に文部科学大臣より「中央教育審議会専門委員(初等中等教育分

科会)の任命を受け,当日開催された第 1 回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」に出

席し,審議を行った。表1は,教科「情報」の実施から学習指導要領改訂までの経緯を

表にまとめたものである。

表1 学習指導要領改訂までの経緯 年.月.日 項目 備考

2003.4 (H15)

教科「情報」が実施 年次進行にて段階的に実施

2003.10.7 (H15)

中央教育審議会:初等中等教育における当面の教育

課程及び指導の充実・改善方策について(答申) 2003 年 5 月の諮問に対する答申

2005.2 (H17)

文部科学大臣が中央教育審議会に要請(諮問)

「21 世 紀 を生 きる子 どもたちの教 育 の充

実 を図 るため,教 員 の資 質 ・能 力 の向 上

や教 育 条 件 の整 備 などと併 せて,国 の教

育 課 程 の基 準 全 体 の見 直 しについて検

討するよう要請」 2005.4 (H17)

中央教育審議会にて審議開始 上記の課題に対して審議開始

2005.8.8 (H17)

中央教育審議会:初等中等教育分科会・教育課程部

会の下にある「家庭,技術・家庭,情報専門部会」が審

議開始,第1回

議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の在り方について

2005.8.17 (H17)

第2回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」 議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の在り方について 2005.9.22 (H17)

第3回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」 議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の改善について 2005.10.26 (H17)

中 央 教 育 審 議 会 :新 しい時 代 の義 務 教 育 を創 造 する

(答申) 2003 年 5 月,2004 年 3 月,2004 年

10 月の3つの諮問に対する答申 2006.7.20 (H18)

第4回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」 議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の改善充実について 2007.3.10 (H19)

中央教育審議会:教育基本法の改正を受けて緊急に

必要とされる教育制度の改正について(答申) 2007 年 2 月 6 日の審議要請に対する

答申 2007.7.20 (H19)

第5回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」 議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の改善充実について 2007.9.12 (H19)

第6回「家庭,技術・家庭,情報専門部会」 議 題 :家 庭 科 ,技 術 ・家 庭 科 ,情 報 科 の

教育の改善充実について

2008.1.17 (H20)

中 央 教 育 審 議 会 :幼 稚 園 ,小 学 校 ,中 学 校 ,高 等 学

校 及 び特 別 支 援 学 校 の学 習 指 導 要 領 の改 善 につい

て(答申)

2005 年 2 月 の要 請 (諮 問 )に対 する答

申。審議開始後,2 年 10 ヵ月に渡る審議

2008.3.28 (H20)

幼 稚 園 教 育 要 領 ,小 学 校 学 習 指 導 要 領 及 び中 学 校

学習指導要領

公示

2009.3.9 (H21)

高等学校学習指導要領 公示

2010.5.15 (H22)

高等学校学習指導要領解説情報編 発行

※松原伸一:「情報学教育の新しいステージ–情報とメディアの教育論 -」(開隆堂,2011)p98 表2をもとに作成。

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注目すべき点は,教科「情報」の実施が始まった年度(2003 年度)の翌年度(2004 年

度,2005 年 2 月)に,文部科学大臣から中央教育審議会に諮問が行われたことであり,

2008 年 1 月には,中央教育審議会から「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学

校の学習指導要領の改善について(答申)」が行われている。 そこで,筆者は,「新学習指導要領に対応した教科「情報」のカリキュラム開発とその

学習支援環境の構築」(2009 年度~2011 年度)を研究課題名とする科研費申請を行い採択

された(下記の※1に該当)。 また,2009 年 3 月には高等学校学習指導要領が公示され,「情報」の教育の新しいカ

タチが提示されたのである。それは,共通教科情報科であり,この教科の下に,「社会と

情報」,「情報の科学」という 2 科目が設定された。新しい高等学校学習指導要領解説情

報編は,2010 年 5 月に発行され,各科目の学習内容が示されている(文部科学省 2010)。 本冊子は,筆者が研究代表者を務めた種々の研究プロジェクトの成果(松原 2000a,

2003b,2005a,2007),すなわち ・科学研究費補助金 基盤研究C (2) (平成 9~11 年度) 【課題番号:09680129】 ・科学研究費補助金 基盤研究C (平成 13~14 年度) 【課題番号:13680237】 ・科学研究費補助金 基盤研究C (平成 15~16 年度) 【課題番号:15500621】 ・科学研究費補助金 基盤研究C (平成 17~18 年度) 【課題番号:17500637】

の研究成果を有効に引き継ぎ, ・科学研究費補助金 基盤研究C (平成 21~23 年度) 【課題番号:21500897】※1 ・本学学部プロジェクト経費(地域連携を含む)(平成 19~23 年度),など

の助成により,「情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境」としてまとめたもので

ある。 また,本冊子の編集に当たっては,下記の点に留意した。 ・いわゆる科研費の「研究成果報告書(冊子体)」の作成は義務でなくなったが,広く

社会に還元することの重要性を認識し,情報科教育に寄与するための各種の情報を

盛り込み,一種のテキストとして作成することにした。 ・従って,本冊子の内容は,科研費の成果をベースに,筆者の実施したその他の研究成

果も積極的に取り入れ,体系的な記述になるように配慮した。 ・そこで,本冊子のタイトルは,「情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境」と

し,なるべくわかりやすく興味をひくような表現にした。 ・研究者だけでなく現職教員や学生などにとっても,わかりやすくなるように配慮した。 ・その他,記述する内容については,必要に応じて関係する情報を体系的に論述し,全

体像が見えるように工夫した。 なお,本冊子を作成するにあたっては,上記の※1の科研費の助成を受けたが,予算の

関係でその部数は限定的なものとなった。今後は,松原研究室のサイトにて,ディジタル

版の配信を行うので,情報科教育の発展の一助になれば幸いである。 2012 年 2 月 15 日

松 原 伸 一 (滋賀大学教授 )

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第1章 学習指導要領の改訂

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第1章 学習指導要領の改訂

1.1 情報教育の概念

(1)教育の情報化と情報教育

文部科学省では,「教育の情報化」を広く捉えている。例えば,「教育の情報化ビジョ

ン~21 世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~」(文部科学省,2011 年 4 月 28

日)では,次の3つの側面,すなわち,

(ア)情報教育

(子どもたちの情報活用能力の育成)

(イ)教科指導における情報通信技術の活用

(情報通信技術を効果的に活用した,わかりやすく深まる授業の実現等)

(ウ)校務の情報化

(教職員が情報通信技術を活用した情報共有によりきめ細かな指導を行うことや,校

務の負担軽減)

を通して教育の質の向上を目指すとしている。

図 1.1 は,「教育の情報化」の概念を,A: も広く捉える場合,B:情報教育との対

比として捉える場合,C:校務の情報化のみとする場合,の3つに分類して表現したもの

である。文部科学省の場合は言うまでもなく,分類Aに該当する。

図 1.1 「教育の情報化」の概念(広義,中義,狭義)

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第1章 学習指導要領の改訂

(2)情報教育の2つの側面

情報教育については,伝統的に,「コンピュータを学ぶ」と,「コンピュータで学ぶ」

とに分類して議論されてきた。前者は,コンピュータ等に関連する知識・技能の学習を意

味し,後者はコンピュータ等の情報機器を利用した学習を指している。これら2つの「情

報教育」は,教科教育学の立場では,前者は内容論,後者は方法論として位置づけられる。

内容論は,教科における教育内容・学習内容を取り扱うものであり,方法論は,内容をど

のような方法で教えるかということを取り扱うものである(松原 2008b)。

また,「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会議」(文部科学省)の「初

等中等教育の情報教育に係る学習活動の

具体的展開について(報告書)」(平成

18 年 8 月 28 日)では,「情報教育」と

「教育の情報化」をキーワードとして取

り上げ,「教育の情報化」の概念に含ま

れる教育として,「子どもたちの情報活

用能力の育成を目的とした情報教育」と

「各教科等の目標を達成する際に効果的

に情報通信技術を活用すること(ICT

活用)」があることを指摘している。い

ずれにしても,各分野・各方面で使用される「情報教育」には,概ね2つの概念があり,

前者を「情報科教育」,後者を「情報化教育」と呼んでいる(松原 2010d)(図 1.2)。

情 報 教 育

情報科教育 (キーワード) ・情報科の教育 ・教科教育 ・情報学教育 ・カリキュラム :

情報化教育 (キーワード) ・教育の情報化 ・ICT 活用 ・e-Learning ・教育支援環境 :

図 1.2 情報教育の2つの側面

(3)情報教育のこれから

筆者は過去の講演で,次のような質問をしたことがある。それは,「数学教育では,何

を教えているか?」,「国語教育では,何を教えているか?」,…,というものであった。

当然のことであるが,数学教育では,「数学」を,国語教育では「国語」を教えているの

に,情報教育では,「情報」を教えていると言えないのはなぜだろうか?

一般に情報教育といえば,パソコンの使い方,ソフトの利用法などが支配的であり,

理解のある人でも,これに情報モラルを追加する程度である。このように,情報教育が一

般者と関係者との間で認識のズレが生じているのはなぜだろうか?

例えば,数学教育では,数学(算数)を学ぶための基礎スキルとして,足し算,引き

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第1章 学習指導要領の改訂

算,掛け算(九九),…などを挙げることができる。これらは,小学校段階で学習するも

のであるが,その後の中学・高校段階の数学においても,例えば,2a+3a=5a のように

足し算の概念は利用されている。つまり,昨年に学習した「九九」は,今年は「十十」に

バージョンアップされたので,使用できないということにはならない。情報教育の基礎ス

キルは,「パソコンやソフトの使い方」かもしれないが,これらは,常に変わるというこ

とが特徴である。

したがって,情報教育では,小学校で学習した基礎スキルは,中学校でも,高校でも

繰り返して学習する必要を生じ,その結果,小学校から大学院まで(難易度の差こそあ

れ)同じことを学習していると揶揄されることになる。すなわち,仮に高校レベルで考え

れば,「数学」では,代数学,幾何学,解析学,…などのいわゆる数学を教えているもの

であり,同様に,「国語」では,国語表現,現代文,古典などの国語を教えている。これ

らの中には,概ね,「変わらないもの」が多く含まれているのに対して,情報教育の方は

「変わりやすいもの」が多く含まれている点が特徴である。要するに,「不易流行」とい

われるように,「不易なる部分」と,「流行なる部分」の適度なバランスが大切である。こ

の考え方を基盤にすれば,「情報教育では,情報を教えている」と半ばいえるように,学

習内容を構成する必要があり,その拠り所として,情報教育のベースを「情報学」に求め

るのが一策ではないかと考えたい。そして,むしろ,情報教育の立場から,情報学の構築

に寄与するくらいの熱い姿勢があっても良いのではないかと考える(松原 2006)。

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第1章 学習指導要領の改訂

1.2 情報科教育

(1)情報科教育の親学問:教科教育学

教科教育学については,日本情報科教育学会誌創刊号に執筆した原稿を振り返り,教

科教育学としての情報科教育を改めて強調したい。以降は,松原(2008b)をベースに修

正を加えたものである。

①教科教育学の宿命

教科教育は学問にはなり得ないといった批判は,現在にも及んでいる。しかし,日本

教育大学協会の取り組みは,その大きな壁を突き破るべく積極的な活動を長年に渡り繰り

広げている。例えば,蛯谷(1984)によれば,大学は研究と教育の場であるから,大学

教員は学問としての成立に評価の定まっている諸領域に身を寄せて学問の権威を得ようと

する傾向があるという。したがって,教科教育を担当する者の中には,自らの専門を教科

教育と称することなく,既存の諸科学を建て前にして,教育学等との連合により当面を糊

塗することになるという。それ故に,教員になろうとして学ぶ大学生にとっては,このよ

うな状況は可哀想だという。すなわち,その言明を引用すれば,「頼みにする教授からは,

それぞれ極端に分化し,発達している科学の特殊分野だとか,それ程でなくても,子ども

の教育とは容易に結びつきにくい自然・社会・人文の諸科学と,教育学や心理学を,生の

まま与えられていて,教授からは各自において,教育活動を現実にせよと求められ,自分

の力で自分の未知や未来を予知したり予測したりすることができないのに,子どもの未来

を創造できるように行動化せよといわれても,それはまず無理な要求である。」

上記のような問題を解決するためには,多様化する内容と分化する文化に対して,そ

れを創造する人間の営みに立ち戻り,その在り方が研究されなければならないし,文化の

諸科学をどのような形の体系に整えるべきかが検討されなければならない。これらは,教

科教育の中心的な課題の1つといえるだろう。したがって,教科教育は,他の既成立とい

われる学問分野に比較すれば,種々の点で心許無い点も多いが,「研究の自由」の名のも

とに,学習指導要領を始めとして,各種の法令や規定にも束縛されず,新しい学問分野と

して再認識することの重要性が浮き彫りになると願いたいものである。

教科教育学を学問研究という視点でみれば,多くの他の学問分野に比べて,十分なレ

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第1章 学習指導要領の改訂

ベルであるとはいい難いが,教科の教育研究においては,教育学,心理学などとともに,

中心的な役割を担う重要な学問分野であると位置づけたいものである(若林ほか 1985)。

②教科教育学と教科教育法

教科教育学の分野の中心科目に,「教科教育法」がある。これは,師範学校時代には,

「各科教授法」と呼ばれたものであるが,学校教育法に規定する教育の目的・目標を実現

するため,監督庁によって定められたものとされる。したがって,教員養成においては,

「○○科教育法」という授業科目が設置される場合が多いが,その担当者は,自身がこれ

までに研究してきた学問分野の域を出ることなく,自らの研究の片手間に講じていると指

摘されたり,また,一方では,小・中・高にて教鞭を執っている教員が学校現場の状況の

紹介とともに実践的と称して,具体的な授業展開に焦点が置かれたりするケースがある。

このことは,昨今の実践的な教育の充実が求められる時代において,もっとも重要な点の

1つでもあるが,師範学校時代の教授法に回帰してしまい,狭義の教科教育を形成してし

まうという懸念をもつ者も多い(若林ほか 1985)。特に情報科教育については,他の教科

(国語,算数・数学,理科など)と比較して,教科としての歴史が浅いので,単なる教授

法にとどまるのみならず,教科の在り方,他教科との関連,学習者の発達段階,学習内容

や方法,学習環境などについても,継続的に研究を進める必要がある。したがって,教員

養成の課程に必要となる情報科の教授法に固執することなく,情報科の教育に関係して,

哲学,教育学,歴史学,社会学,工学,理学など,種々の学問分野からの教育者・研究者

の関心を集め多元的な視点による情報学教育研究が進められるべきである(松原 2009d)。

③教科教育学と教科内容学

教育学大事典(細谷ほか 1978)によれば,教科教育学とは,教科の構成や区分, 適

化の方法などの原理を,具体的・現実的な教授=学習活動を組織する立場に立って,明ら

かにしようとする実践的な科学であると表記され,教科教育学概論,教科区分論・教科組

織論,教科教育実践論,の3つの分野に大別されるという。これらを踏まえ,教科教育学

は,学校教育における認識形成の論理,能力育成の論理,資質育成の論理を実践的な側面

から究明する教育実践科学として,教科教育原論,教科教育方法論,教科教育内容論,教

科教育実践論などで構成されると考えると分りやすい。従って,教科教育学は,その教科

に関係して,「児童・生徒たちが何をどのように学ぶか」という視点から,今日的課題を

も取り込み,教科指導に関わる知識や技能を,総合的かつ実践的に習得させるための研究

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第1章 学習指導要領の改訂

分野/学問であり,具体的には表 1.1 の各分野が考えられる。また,教科内容学は,「従

来の教科専門」から「学校教育における教育内容」に至るまでの内容に関わる知識や技術

について専門的な立場から究明する新しい学問・領域とされる。

表 1.1 教科教育の各分野 分野 内容

教科の意義 教科の存在意義,教科の目標など 教科の歴史 教科の成立過程や変遷の歴史など 教科の教育方法論 従来の狭義の「教科教育法」が該当 教科の教育内容論 従来の「教育内容論」が該当 教科の評価論 評価論,成績評価/評定,指導要録,評価規準と基準,観点別評価など

教科の授業研究論 授業研究/授業分析/授業評価/授業実践など 教科の教材研究論 教材研究/教材分析/教材評価/教材開発など 教科の教育環境論 教科指導に関わる教育環境・設備,今日的社会状況など その他 教科指導に関わる諸学問/領域

従って,「教科内容学」は,各教科の背景となる諸学問と学校教育の教育内容との間を

媒介する縦断的な知のネットワークを追及するものであり,両者間のどこに位置づくかに

よりいくつものバリエーションが存在する。教員養成における従来の教科専門担当教員は,

単独で教科内容学に移行できる場合もあるが,必要があれば教科教育担当教員等の支援に

より,実践的で有効な新しい科目領域(実践的領域)を創出することも可能である。

(2)情報科教育の構造

一般に情報教育は,「各教科における情報化

(教育の情報化)」と「情報科における教育

(情報科教育)」の2つに分けて考えるとわか

りやすい。情報科教育は,情報という教科に対

する教科教育なので,上記のように各分野を担

うものとして,体系的で構造的な教育内容(学

習内容)の構築が求められる。筆者はこの点を踏まえ,情報科教育における学習内容を情

報学に求め,それを体系的・構造的に具体化することの重要性を示している(松原

2008b)。したがって,情報科教育の構造としては,①ICT 活用や e-Learning などのよう

に,いわゆる「教育の情報化」に関する側面と,②情報とメディア,コンピュータとネッ

トワークに象徴されるように,いわゆる「情報学の教育」に関する側面がある(図 1.3)。

教科教育学では前者を教育方法論,後者を教育内容論として取り扱われるが,教科として

の位置づけで重要なのは後者であることは言うまでもない。

情報科教育

教育の情報化

【教育方法論】

情報学の教育

【教育内容論】

図 1.3 情報科教育の構造

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第1章 学習指導要領の改訂

1.3 学習指導要領の改訂

(1)情報科教育における科目の順序

現行の学習指導要領およびその解説(文部省 2000)では,第2章第 10 節第2款にお

いて,第1の科目として「情報A」,第2の科目として「情報B」,第3の科目として「情

報C」が位置づけられ,情報教育の目標の観点の順序に合致している。しかし,新学習指

導要領およびその解説(文部科学省 2010)では,第1科目は「社会と情報」,第2科目は

「情報の科学」と表記され,情報教育の目標の観点と比較すると,順序にねじれが生じて

いる(表 1.2)。このことは,「社会と情報」が「情報の科学」に優先する論拠として人文

社会系の情報学が注目されることにつながる。

表 1.2 科目の掲載順序

※ 現行 改定

① 第1:情報A (なし)

② 第2:情報B 第2:情報の科学

③ 第3:情報C 第1:社会と情報

※情報教育の目標の観点で,①は情報活用の実践力,②は情報の科学的な

理解,③は情報社会に参画する態度である。

(2)科目の名称(社会概念の重点化)

現行の科目名(情報A,情報B,情報C)から改定の科目名(社会と情報,情報の科

学)までの名称の変遷について推察の一例を示すと次のようになる(図 1.4)。

図 1.4 科目の名称(変化の例)

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第1章 学習指導要領の改訂

①ステップ1:まず,情報Bを“情報と科学”,情報Cを“情報と社会”というキーワー

ドで設定する。

②ステップ2:科学と情報の2語を「と」で結ぶと,科学をキーワードとする理科と競合

する恐れがあるので,科学を限定する意味で情報を修飾語とするために,「と」を

「の」に変更する。

③ステップ3:混乱を避けるために,「情報の…」と「情報と…」という類似性を回避す

るとともに,社会を重視するという観点から,情報と社会を入れ替える。

④ステップ4:社会というキーワードを持つ科目を優先させるために,科目名の順序を変

更する。

(3)科目の減少

新学習指導要領では,現行の「情報A」に対応する新科目が設定されていないことか

ら,結果として2科目の構成となり1科目の減少となっている。専門教科「情報」が,現

行の11科目から13科目の構成となり,結果として2科目の増加となっていることと比較

すれば,対照的といえる。

その理由として,(1)当初の「情報A」の役割が達成されたことに加え,(2)「情報A」

で重点とされる「情報活用の実践力」が他の2観点の達成に併せて段階的に織り込まれた

ことをあげることができる。

理由(1)については,現行の各科目の性格について,高等学校学習指導要領解説 情報編

(文部省 2000)の第3節「2 各科目の性格」において,「情報A」は「コンピュータや

情報通信ネットワークなどの活用経験が浅い生徒でも十分履修できることを想定してい

る。」,「情報B」は「コンピュータに興味・関心を持つ生徒が履修することを想定してい

る。」,「情報C」は「情報社会やコミュニケーションに興味・関心を持つ生徒が履修する

ことを想定している。」と記されているように,「情報A」は,新教科としての導入時に

おいて,初心者対策として設けられたことを意味し,この度の改定に当たっては,当初

の目的が達成されたものと判断されたからである。

理由(2)については,「情報活用の実践力」という観点が,「情報の科学的な理解」と

「情報社会に参画する態度」の2つの観点に対して,達成段階として位置づけられたこと

によるもので,「情報社会に参画する態度(Ⅰ軸)」と「情報の科学的な理解(Ⅱ軸)」を

それぞれ縦糸とし,「情報活用の実践力」をこれらとは別の軸(横糸)と考えればわかり

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第1章 学習指導要領の改訂

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やすいだろう。したがって,新学習指導要領では,情報教育の目標の3観点が,従来のよ

うに互いに独立したものではなく,「情報活用の実践力」は,他の2つの観点に従属する

ものとして位置づけられた点が注目に値する(図 1.5)。

図 1.5 情報教育の目標の観点

「情報」は,改訂後も現行と同じように,すべての生徒に履修させる共通教科であり,

生徒の能力や適正,多様な興味・関心,進路希望等に応じて,「社会と情報」及び「情報

の科学」の2科目のうち1科目を必履修としている。

したがって各学校においては,いずれか1科目のみを設置するのではなく,両科目を

開設して生徒が主体的に選択できるようにすることが望ましい。

また,中教審答申(2008年1月17日)には,

・生徒の多様な学習要求に応えるとともに,進路希望等を実現させたり,社会の情報化

の進展に主体的に対応できる能力や態度をはぐくむために,より広く,より深く学習

することを可能にする内容を重視する。

という記述があり,この点を十分踏まえれば,より広く,より深く学習することを可能に

するために,必履修科目として1科目だけを課すのではなく,希望者には,もう一方の科

目も選択して履修できるようにカリキュラムの工夫を望みたいものである。

以上のように,学習指導要領の改訂に伴い,種々の点に変更が見られる。詳細につい

ては,参考文献(松原 2009b,2009c,2009f,2009g,2010a)を参照されたい。

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

2.1 クラウド型知識基盤社会

(1)ディジタルネットワーク社会の特徴

2006 年は,日本において「ウェブ進化論」(梅田望夫著)等の出版により,いわゆる

Web2.0 に対する関心が高まった年である。また,情報通信白書(総務省 2006)におい

ても,初めて Web2.0 という用語が「ユビキタスネットワークの新しい潮流」として紹介

され,これを契機に情報産業だけでなく,教育や報道などの各界においても注目されるこ

とになったと筆者は考えている。表 2.1 は,学習指導要領改訂の時代的背景を表にまと

めたものである。

表 2.1 学習指導要領改訂の時代的背景

年.月 関連書籍等(例) 備考 2006. 2 ウェブ進化論(梅田望夫著),ちくま新書 Web2.0 2006. 9 紋切り型:欲する情報社会(朝日新聞) 2006.10 「Web2.0」って,わかりますか?(朝日新聞)

: : : 2009. 1 クラウド・コンピューティング(ウェブ2.0の先

にくるもの)(西田宗千佳),朝日新聞出版 クラウド・コンピューティン

グ 2009. 2 クラウドの衝撃(城田真琴著),東洋経済新報社 2009. 3 クラウド~グーグルの次世代戦略で読み解く

2015年のIT産業地図(小池良次著),インプレス

R&D : :

2009.10 今さら聞けないクラウドの常識・非常識(城田真琴

著),洋泉社 2009.11 雲の世界の向こうをつかむクラウドの技術(丸山不二

夫,首藤一幸編),アスキー・メディアワークス 2009.12 クラウドコンピューティング時代の大規模運用技術,

情報処理(情報処理学会誌),Vol.50, No.12

例えば,朝日新聞(2006 年 10 年 14 日夕刊)に次のような記事が掲載されたことでも,

この頃の Web2.0 に対する「新鮮さ」を知ることができるだろう。すなわち,その記事と

は,“「Web2.0」って,わかりますか?”という見出しで始まるものである。Web2.0 とい

う言葉は,よく使用されるようになったけれど,その意味や定義が曖昧であるため,「記

者泣かせの言葉」になっていたり,また,一般市民にとっても理解を困難にさせていたり

して,その本質が分かりにくいものとなっている点が取り上げられていたのである。

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

また,同じく,朝日新聞(2006 年 9 年 5 日夕刊)には,“紋切り型:欲する情報社

会”という記事が掲載され,「Web2.0」のほかに,「メディア化」,「国際化」のように日

常的に使用される用語も,実は定義がはっきりしない語(バズワード)として取り上げら

れ,用語概念の共通理解に際しても,情報通信社会の急激な変化に対応することの難しさ

を示しているのである。

もともとWeb2.0 という概念は,プログラマ向け書籍を出版するオライリーメディア

(O'reilly Media)のCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)のティム・オラ

イリー(Tim O'Reilly)氏が,新しいウェブサービスをテーマにしたカンファレンスを企

画するために考えついたものとされるが(神田 2006),これは,Web環境を総称して,

2.0 というバージョン表記を行うことにより,その新しさを印象づけるものであり,具体

的にソフトウェア等のように該当するバージョン製品がある訳ではないので注意を要する。

そして,この進んだ環境であるWeb2.0 という環境は,ネット社会に分散する多数の利用

者が,OS(Operating System:オペレーティングシステム)やアプリケーション・ソフ

トウェア,端末装置の制約を受けることなく,ネットワークを介して結び付き,多様な知

識を集結しつつ,様々な形態の協働(コラボレーション)を行うことが可能となり,この

ような協働システムを活用したビジネスやサービスが現実化するという(梅田 2006)。

このような潮流は,ICT(Information and Communication Technology: 情報通信技

術)の急速な発展を基盤として,種々の新しい発想や価値観,さらにはそれらを支える新

しい仕組み等が創造されることにより,私たちの周辺にある多くの枠組みについて再構築

を余儀なくされる状況を暗示している。

その後,2009 年初頭から始まった「クラウド・コンピューティング」の衝撃は,ビジ

ネスや情報処理の専門分野にまで広がり,2009 年 12 月,情報処理学会誌においても特

集が組まれるに至ったのである(松原 2010d)。

(2)問題解決の落とし穴

私たちの周りには,種々の問題が山積している。例えば,「なぜ,情報教育が必要

か?」とか「なぜ,理科離れが起こるのか?」という問題を考えてみよう。これらは何気

なく意識するものであるが,あらためて,「なぜ」と問われると答えに困ってしまうかも

しれない。そして,もしもこれが学生にとっての,「授業レポートの課題」だったり,ま

たは社会人にとっての「業務報告」の一部を成すものだったら,どのように解決するだろ

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

うか? ディジタル環境が整備された時代(ディジタル時代と呼ぶ)では,次の5つの特

徴を示してこの時代の背景を探り,問題解決について考察する(松原 2011b)。

①即断を迫られる時代

最近では特に電子メールの利用が多くなっている。携帯メールも含めれば,情報のや

り取りについては,手紙で連絡を取ったり,電話で用件を伝えたりするよりも,はるかに

多くのケースにおいて,電子メールを使用している。そして,電子メールで「○○につい

てご意見を下さい。」のような電子メールを受信した時のことを想像しよう。

私だったら,多くの場合,メールを受信したその当日中に,返事を出さなければならない

ような状況と考え,少なくとも送信者の意図は,直ぐに返事をもらいたいと考えているに

違いないと思うだろう。そして,万一,返事に数日かかったりすれば,「遅れてすみませ

ん。」のような一文を添えることが礼儀と考えることだろう。昔ならば,返事に1カ月や

それ以上もかけることもあっただろうが,現在では,そのようなことはあまりない。した

がって,もし1か月も放っていると,「断られたもの」として取り扱われるかもしれない。

現在では,熟慮して時間をかけて答えるよりも,即断して早く応答することの方が,重要

と考えられているのである。このようなスピード重視の価値観は,問題解決に重大な影響

を与えるものである。

②割込みを頻繁に受ける時代

現在では,何かを連続的・継続的に行うことが困難である。特別な環境に置かれない

限り,私たちは,常に割込みを受ける状態を継続しているのである。それは,電話がかか

ってきたり,メールが届いたり,訪問があったり…,というような従来の割込みだけでは

ない。情報爆発時代(Info-plosion Era)(喜連川 2008)といわれるように,爆発的に増

大した情報が,各種の通信メディアを通して私たちの日常生活に直接降りかかっている。

③十分に思考ができない時代

前述の状況を言い換えれば,継続して思考することが困難になってきているというこ

とである。そして,現代人は,以前に増して,多数の問題を同時に抱え込んでいるため,

それらを並行して処理(解決)しているのである。したがって,1 つの問題にかけられる

時間に限度があるため,判断に時間をかけることができない時代となっている。

④答えさがしの時代

その結果,時間がかかる手段を避けて,簡単に答えをが見つけようとするのである。

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

その際,インターネットは,まさにこのような要求に応えてくれる重宝なメディアといえ

るだろう。すなわち,検索エンジンは,無数に広がる世界中の Web サイトから関係する

情報を一瞬にして検索して表示してくれるからである。問題解決の手段として,検索を使

用するのは必然といえるが,本来なら自分で考えて問題を解く必要がある場合でも,検索

エンジンでは,答えを検索して表示することも可能な場合もあり,その使用には注意を要

する。特に,一般社会人が効率化のために使用する場合はさて置き,問題を解決すること

を学ぶ場としての学校教育においては,十分な配慮が必要になることがある。

⑤議論を避ける時代

一般に問題を解決するためには,時間がかかるものである。それが,合意形成を前提

とするものであれば,尚更である。会議において,早く結論を得るには,反対意見が出な

いようにしたり,議論をする時間を短くしたりして,なるべく議論を避けるような時代が

到来している。KY(空気が読めない)と思われるのを恐れたり,無意味に分かりの良い

人物を演じてみたりして,無意識のうちにそのような価値観が生まれる状況にあることが

懸念される。また,反対する者を避けるために,“お友達人事”により構成員を決める場

合があるかもしれない。このような,お友達の集団は,趣味やサークルなどの嗜好にかか

わる世界では、仮に成功する場合があるかもしれないが,それ以外の多くの組織では,判

断に誤りが生じたり,またはその誤りを認めなかったり,責任の所在を明確にするのを怠

ったりして,集団としての正しいガバナンスが発揮されないことがある。

したがって,実際の問題解決活動においては,調べる活動はインターネットの検索エ

ンジンを使用し,尋ねる際にはメールを利用して,試行錯誤を繰り返して発見的に学習す

る場面では,とにかくやってみたらできたというようなゲーム的な解決に陥ったりして,

結局,自らの頭を使って考えることを避け,単なる答えさがしになってしまうことが懸念

され,問題解決を十分に学んだことにならないだろう(図 2.1)。

問題解決活動(例) 実際の行動(例) コメント

調べたり → インターネットの検索エンジンを

利用して調べたり インターネット利用

尋ねたり → メールで連絡して教えてもらったり メール利用による情報入手

試行錯誤を繰り返して → とりあえずやってみて,ダメならやり直したり ゲーム的な解決

答えを出す → 答えを見つける 単なる答さがし(自分で考えない)

図 2.1 問題解決活動の例

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

(3)クラウド型知識基盤社会における情報科教育

中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(2005 年 1 月)では,来たる知識

基盤社会を「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域で

の活動の基盤として飛躍的に重要性を増す社会」と定義している。また,その特質として,

①知識には国境がなく,グローバル化が一層進む。②知識は日進月歩であり,競争と技術

革新が絶え間なく生まれる。③知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く,

幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になる。④性別や年齢を問わず参画す

ることが促進される,を挙げている。

すなわち,私たちを取り巻く環境は,ディジタルネットワークはクラウド型へ進展し,

あらたな知識基盤社会を目前にしているが,まだ教育界において十分に関心が高いとは言

い難い状況であり,この点も新しい情報科教育を進める上で一つの課題でもある。

筆者は,このような環境を,「ディジタル環境」と呼び,これを基盤に構築される社会

を「ディジタル社会」と呼んでいる(松原 2004)。情報環境の急激な変化によりコンピュ

ータや情報技術を利用するための知識・技術を常に習得・更新し続けることは,仮に一部

の人々には可能であっても,一般には非常に困難な状況と言わざるを得ない。このように

情報化の進展により,私たちを取り巻く生活環境が,内容や本質の理解が困難な環境へと

変化していく状況は,まさに「情報環境のブラック・ボックス化」であり,ディジタル環

境が及ぼす影響の一つといえる。しかし,さらに困難な問題が私たち自身に内在している

のである。つまり,それは「私たちの意識や認識・判断への影響に関する問題」である。

現実世界はますます仮想化し,仮想世界はますます現実に迫る。私たちの周辺情報がもは

や「どの程度正しくて,どの程度妥当なものか」を判断することは,きわめて困難な状況

になってきている。このような生活環境に生きる私たちにとって,究極の課題は,「ICT

の活用により,如何にして心豊かな生活を営むことができるか」ということであろう。

情報教育調査研究協力者会議(文部省 1997)の第1次報告は,情報教育の目標を,①

情報活用の実践力,②情報の科学的理解,③情報社会に参画する態度,の3つの観点にま

とめているが,前述の「情報環境のブラック・ボックス化」の影響とその対応について

は,主に上述の①および②の観点に関係する。また,「私たちの意識や認識・判断への影

響に関する問題」は,③の観点に対応するもので,「社会生活の中で情報や情報技術が果

たしている役割や及ぼしている影響」,「情報に対する責任」および「望ましい情報社会の

創造」などが関係し,①から③を包括する(松原 2010d)。

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

2.2 新しい資質・能力の育成

(1)リテラシー

本来,リテラシー(literacy)という言葉は,「読み書きの能力,またはその能力のあ

ること」を意味し「識字能力」と訳される。また,リテラシーという語のつく言葉として

は,コンピュータ・リテラシー,情報リテラシー,メディア・リテラシーなどがあり,そ

の概念には曖昧なところが多いが,概ね,「○○リテラシー」といえば,「その○○が活用

できる基礎的・基本的な能力」のことを表すものと考えてよい。

まず,コンピュータ・リテラシー(computer literacy)については,情報教育の分野

では早期に提案されたリテラシーであり,海外では,1970 年代の後半頃から 1980 年代

の前半頃にかけて,この教育がカリキュラムに積極的に組み入れられている(Clark

1979,Johnson et al 1981,Etlinger et al 1984)。日本では,坂元(1986)により「コ

ンピュータ・リテラシーによい訳語を」と題する記事が日本教育工学会で最初に取り上げ

られた。ここには,図 2.2 に示すような構造が提案され会員からの意見を求めている。

情報教養 (社会生活での利用,影響など) 情報理解 情報知識 (計算機の仕組みや働き) 情報能力

情報利用 (ワープロ,データベースなどの活用) 情報技能 情報技術 (アルゴリズム,プログラミングなど)

図 2.2 コンピュータ・リテラシー ※坂元(1986)より引用

この特徴は,コンピュータという語の代わりに,情報という用語をあてることによっ

て,コンピュータ以外のメディアも一緒にして,体系的にメディア教育を行うことができ

るとしている点にあるが,現時点でメディア教育のメディアについて考察すれば,これは,

コンピュータおよびその周辺装置などの情報機器を対象としている点で,ハードウェア指

向のメディアといえる。その後,ニューメディアが出現したこともあり,コンピュータの

みに限定すると考えられるコンピュータ・リテラシーよりも,コンピュータをも含めた,

より広い概念をもつメディアという語を利用して,メディア・リテラシーという表現の方

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

を好む関係者もいた。さらに,1980 年代後半にはコンピュータやコンピュータ等を内蔵

する情報機器(ニューメディア)を対象とし,これらをメディアとして位置づけて,メデ

ィア・リテラシーという言葉を好んで使用していた。筆者は,これを第一世代のメディ

ア・リテラシーと呼び,現在のメディア・リテラシー(第二世代のメディア・リテラシー

または,単に,メディア・リテラシーと呼ぶ)と区別している。

次に,情報リテラシーについては,臨時教育審議会第二次答申(1986 年 4 月)の中で,

「情報化に対応した教育に関する原則」として,ア.社会の情報化に備えた教育を本格的

に展開する,イ.すべての教育機関の活性化のために情報手段の潜在力を活用する,ウ.

情報化の影を補い,教育環境の人間化に光をあてることが示され,また,「情報活用能

力」という概念を提示し,これが,「情報リテラシーすなわち,情報及び情報手段を主体

的に選択し,活用していくための個人の基礎的な資質」を意味するものとされ,この定義

は現在でも定着したものとなっている(松原 2002)。

さらに,第二世代のメディア・リテラシーについては,メディアという語が多様で多

重な概念であることが原因し,メディア・リテラシーの概念にも多様性を帯び,これが

種々の意味で使用されるため多少の混乱を生じているのが現状である。そこで,①渡辺

(1997),②鈴木(1997),③菅谷(2000),④平成 14 年度版情報通信白書(総務省

2002),⑤新「情報教育に関する手引き」(文部科学省 2002)の各種の文献をもとに,そ

れぞれにおけるメディア・リテラシーの定義をまとめると,表 2.2 のようになる。

表 2.2 メディア・リテラシーの種々の定義

メディア・リテラシーの種々の定義(例)

① メディアを使いこなし,その提供情報を読み解く能力であり,メディアを使いこなすことも内包

し,そのため,単にマスコミ批判のようなものはこれに該当しない。

市民がメディアを社会的文脈でクリティカルに分析し,評価し,メディアにアクセスし,多様な

形態でコミュニケーションを創りだす力である。また,そのような力の獲得をめざす取り組みもメ

ディア・リテラシーに含める。

機器の操作能力に限らず,メディアの特性や社会的な意味を理解し,メディアが作り出す情

報を「構成されたもの」として建設的に「批判」するとともに,自らの考えなどをメディアを使って

表現し,社会に向けて効果的にコミュニケーションをはかることでメディア社会と積極的に付き

合うための総合的な能力

メディアを主体的に読み解く能力,メディアにアクセスし,活用する能力,メディアを通じてコミ

ュニケーションを創造する能力,特に情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ)コミュ

ニケーション能力が相互補完しあい,有機的に結合したもの

メディアの特性を理解し,それを目的に適合的に選択し,活用する能力であり,メディアから

発信される情報内容について,批判的に吟味し,理解し,評価し,主体的能動的に選択でき

る能力を示すもの

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

以上の考察を踏まえ,ディジタル環境リテラシーは,(a)ディジタル環境の本質を追求

する志向性により,(b)ディジタル環境を科学的に認識できる資質・能力,(c)ディジタル

環境を自らコントロールできる資質・能力,(d)自己の意識をモニタリングする能力,(e)

自己の意思(意志)を行動で表現する能力,で構成され,関係する能力等との対応を示せ

ば表 2.3 のようになる(松原 2004)。

表 2.3 ディジタル環境リテラシー

ディジタル・リテラシーの構成要素 関係する資質・能力等

(a) ディジタル環境の本質を追求する志向性 自己教育力,問題解決能力

(b) ディジタル環境を科学的に認識できる資質・能力 洞察力,分析力,客観的視点

(c) ディジタル環境を自らコントロールできる資質・能力 情報活用能力

(d) 自己の意識をモニタリングする能力 自己意識形成力

(e) 自己の意思(意志)を行動で表現する能力 コミュニケーション能力

(2)フルエンシー,アビリティー,コンピテンシー

リテラシー以外に,注目される能力としては,アビリティーやコンピテンシーなどが

ある。これらは,各分野において様々に定義され,使用されているが,概ね,表 2.4 の

ように筆者は考えている。

表 2.4 各種の能力

資質・能力 説明

アビリティー 一般的な能力で,潜在的なものを含む コンピテンシー 個人/地域/社会等の各側面において必要な総合的な能力 リテラシー 活用する基礎的・基本的な能力,「読み/書き/(そろばん)」に相当 フルエンシー 本質を理解する/活用を実践する/効果を評価する

アビリティー(ability)とは,いわゆる一般的な能力のことで,潜在的なものも含む。

コンピテンシー(competency)もまた,能力を意味する語であるが,OECD(経済協力

開発機構)では,1997 年に PISA (Programme for International Student Assessment)

をスタートさせている。そこで,DeSeCo (OECD’s Definition and Selection of

Competencies) プロジェクトによる最終報告が 2003 年に行われ,PISA 調査の概念枠組

みの基本となっている。社会の情報化の進展に伴い,教育の成果と影響に関する情報への

関心が高まり,キー・コンピテンシー(Key Competencies)の特定と分析に伴うコンセ

プトを各国共通にする必要性が強調されてきている(OECD 2005)。ここでのコンピテン

シーとは,単なる知識や技能だけではなく,技能や態度を含む様々な心理的,社会的なリ

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

ソースを活用して,特定の文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することができる能力と

される(松原 2005b)。

フルエンシー(fluency)とは,本来,弁活の流暢性(能力)のことを言うが,リテラ

シーが識字能力のもつ「基礎的・基本的な能力」として位置づけられたように,フルエン

シーにおいては,弁活の流暢能力から「応用的・発展的な能力」として位置づけるのが妥

当である。表 2.5 は,筆者が今までに提案した資質・能力についてまとめたものである。

表 2.5 各種のフルエンシーの視点

資質・能力 視 点 発表文献

情報フルエンシー ※

・情報を科学する ・情報を活用する ・情報を吟味する

Matsubara(2006) 松原(2006)

ディジタル環境フルエンシー

・ディジタル環境の本質を理解する

・ディジタル環境の利用を実践する

・ディジタル環境の効果を評価する

松原(2010a)

メディア・フルエンシー

・メディアの本質を理解する ・メディアの利用を実践する ・メディアの情報を吟味する

松原(2010b)

技術フルエンシー

・技術の本質を理解する ・技術の活用を実践する ・技術の効果を評価する

松原(2010c)

※当該の文献では,情報フルエンシーという用語は使用せず,情報学教育を形成する視点として示している。

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

2.3 新しい教育へ

(1)文理融合の情報学をベースに

①教員養成における課題

教科「情報」の免許状を取得できる大学は,2008年4月1日現在,全国の国公私立大学

を合わせて312大学に及ぶ。これは,「数学」152大学,「国語」235大学と比較しても非常

に多いことがわかる。

次に,情報の免許を取得できる学部等についてみれば,上記の312大学の中で,165種

類の学部があり,その総数は467にも及ぶ。特に,設置の多い学部(10以上)は,工,経

営,教育,理,経済,理工,経営情報,情報,商の9つの学部であり,文理融合の状況が

把握できる。また,さらに,10未満の学部も含めれば,自然科学系(工,理,理工,農,

…),社会科学系(経営,経済,商,法,…),人文科学系(教育,人文,文,…),芸術

系(芸術,芸術情報,造形,…)のようになり,教科「情報」の免許取得の幅は,多岐の

学問分野に依拠していることがわかる。

表 2.6 各教科の免許取得可能な大学・学部

各 教 科

情報 数学 国語

大学 312 152 235

学部(種類) 165 70 61

学部(数) 467 229 235

②小・中・高における接続の課題

教科「情報」の免許は,文理融合の多岐にわたる学問分野において取得可能であり,

この特徴は,他の教科を圧倒している。しかし実際には,教科「情報」を担当する教員の

多くが理系出身者であることは承知の通りであり,必ずしも教育職員免許法の趣旨を生か

しているとはいえない。そこで,今回の新学習指導要領では,上記の趣旨からも期待する

ところが大きい。すなわち,情報科教育において,文系のキーワードの1つである「社

会」という概念が明確に位置づけられ,新しい科目名に使用されたり,科目の掲載順序に

反映されたりしていることは前述のとおりである。

筆者は,この状況を情報科教育の新しいステージとしてとらえ,文理融合の情報学を

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

ベースに,メディア教育および情報安全教育を視野に入れた新しい情報科教育(情報学教

育)を既に提案し実践を行っている。

学校教育における文理融合の情報学とは,従来の情報科学(情報技術)等の教育に加

えて,

・情報 → 情報学基礎

・社会 → 社会と情報のかかわり

・メディア → メディア基礎

・モラルと安全 → 情報モラル,情報安全

などの内容を効果的に組み合わせて構成する必要がある。これは,情報科教育のコア・フ

レームワークとして既に提案している(松原 2005b,2006,2009a)。

③高大接続の課題

高大接続とは,大学進学希望者が高校教育から大学教育への円滑な移行ができるよう,

高等学校及び大学が連携して責任を果たすことであり,高等学校側では,

・生徒の学習状況をいかに適切に評価し指導するか

・生徒が能力・意欲・関心にあった大学を適切に選択できるよういかに指導するか

が主な課題であり,また,大学側においては,

・大学選択に必要な情報の提供

・求める学生をいかに適切に見出すか

・入学時の情報を初年次教育にいかに

適切に活かすか

などが課題である。

また,大学入試センター試験において,

教科「情報」の試験を課すことは,議論を

呼びそうであるが,図 2.3 に見られるよ

うに,2009 年に実施された大学入試セン

ター試験の日程をみれば,新たに試験を課

す時間的余裕はない。2日で実施している

現在の試験を3日間に拡大すれば可能かもしれないが,現実的でないことは言うまでもな

い。

センター試験の問題点:1日に10時間以上をかけて実施

第1日目:平成21年1月17日(土)9:30~18:35 (9時間 5分) 【11時間以上】公 民 (現代社会,倫理,政治・経済)地理歴史 (世界史A,世界史B,日本史A,日本史B,地理A,地理B)国 語 (国語)外 国 語 (英,独,仏,中,韓)

第2日目:平成21年1月18日(日)9:30~18:00 (8時間30分) 【10時間以上】理 科 ① (理科総合B,生物Ⅰ)数 学 ① (数学Ⅰ,数学Ⅰ・数学A)数 学 ② (数学Ⅱ,数学Ⅱ・数学B,工業数理基礎,簿記・会計,

情報関係基礎)理 科 ② (理科総合A,化学Ⅰ)理 科 ③ (物理Ⅰ,地学Ⅰ) ※【 】内の数字は,試験実施に関わる監督者等

49

図 2.3 センター試験の日程(例) ※松原(2009a)の講演のスライドより引用

24

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

他に大学進学の条件として,高等学校の卒業や大学受験に関わる資格試験制度は,国

内では,大学入学資格検定(大検,2004 まで),高等学校卒業程度認定試験(高認,

2005 以降)があり,また,検討中のものとしては,高大接続テスト(仮称)がある。一

方,海外においては,バカロレア資格(フランス),アビトゥーア資格(ドイツ)などの

資格を詳細に検討することにより,我が国における必履修教科・科目について,「学力認

定試験(仮称)」を実現する必要があるのではないかと思われる。また,その際の条件を

特記したい。

・必修科目の全てを課し,可能な限り選択科

目についても準備

・高校在籍中に受験することを原則

・国家資格とする

・認定科目は,将来にわたり有効

・高等学校卒業程度認定試験とは別扱い

学力認定試験の条件

・高校と大学で連携して実施

(2)メディア・フルエンシー教育をベースに

表 2.7 は,メディア・フルエンシーの構成要素を記述したものである。メディア教育

とは,メディア・リテラシー教育と同義ではない。また,単に ICT 活用やマルチメディ

ア作品の制作のみを扱うものでもない。一般に文理融合の情報学では,メディア論などの

メディア研究も含まれる。

筆者が構想するメディア教育とは,メディア情報学をベースにして,

(ア)メディアの本質を理解する

(イ)メディアの利用を実践する

(ウ)メディアの情報を吟味する

の3つ柱を設けている。この教育は,従来のメディア教育と区別して,メディア・フルエ

ンシー教育と呼ぶ(松原 2010d)。

25

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

表 2.7 メディア・フルエンシー教育の提案

3つの視点 内 容

メディア・フルエンシー教育

メディアの本質を理解する

メディアとは何か 【メディア論】

ディジタル環境の特徴 【ディジタル環境論】

学習環境としてのメディア 【学習環境論】

メディアの利用を実践する

メディアの利用 【ICT 活用】

メディア利用方法の開発 【教育方法】

視聴覚メディア教材の開発 【教材開発】

メディアの情報を吟味する

メディアの伝える情報 【メディアの情報論】

メディアの影響 【メディアリテラシー】

クラウド型の知識基盤社会 【情報社会論】

(3)情報安全教育・情報人権教育を視野に

①安全と安心/危険と不安

情報安全教育は,「情報に関わる種々の安全」について理論と実践の両面から取り扱う

教育のことである。その際の安全とは,safety と security の2つの安全を意味し,情報

モラルやルール・マナーなどの概念を含んだ上位概念として位置づけられる。交通安全を

例にして考えれば,交通モラルが交通安全教育の中に含まれるように,情報モラルも情報

安全教育の中に位置づけるのが妥当である。社会の急激な情報化により,種々の問題が浮

き彫りになっている昨今において,情報安全教育は,文理融合による情報学をベースにし

た体系化が求められる(松原 2008a)。

広辞苑(第6版,岩波書店,2008)によれば,安全とは,「安らかで危険のないこと」

と記され,安心とは,「心配・不安がなくて,心が安らぐこと」と記されている。安全と

は,対象とする(関心のある)場所の状況が,安らかで危険のないことであり,安心とは,

意識の状況が,安らかで不安のないことであると考えられるので,両者を図 2.4 のよう

に対比的に定義したい。

用語 意 味 反対 安全 安らかで,危害・危険がないという外的要因を生じる周辺状態 ⇔ 危険 安心 安らかで,心配・不安のないという内的要因を生じる心理状態 ⇔ 不安

図2.4 安全と安心/危険と不安

26

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

村上(2005)によれば,安全学の必要性について,安全の追求,危険の予知,評価,

それに基づく危険除去の方法は,いわゆるリスク・マネージメントという分野がかかわっ

てきたことであり,人間工学などの分野と連携しながら成果を収めてきたのである。そこ

で,「安全-危険」という枠組みの中で,しなければならないことがまだ沢山あるが,仮

にこれらが解決されても,現代の不安を解消することはできない。

つまり,不安は,その反対概念である安心も含めて,定量的な扱いから大きくはみ出

る世界であり,不安を数値であらわすことはできないし,安心の度合いを数値化すること

も困難である。また,現代社会の問題は,既に欲求の充足からはずれ,「満足-不足」の

軸から「安心-不安」の軸へとシフトしている。

このように,「安全学」は,「安全-危険」の軸と,「安心-不安」の軸と,「満足-不

足」の軸とを総合的に眺めて問題解決を図る試みである。仮に危険が回避されたとしても,

それを認識できなかったり,理解できなかったりすれば,不安が解消されないばかりか,

さらに新たな不安が生じることもあることを私たちは日常的に経験している。安全に対し

て科学的にアプローチしようとすることの重要性を再認識せざるを得ない(松原2010d)。

②3つの情報安全

情報に関わる安全とは,情報と人間・社会に関する安全を意味し,次の3つに分類し

て考えたい。

・情報の本質に起因する安全

情報そのものが人間や社会に与える影響から安全を取り扱うもので,情報の本質(物

質との違いなど),情報の表現や取り扱い(コミュニケーション),信頼性や信憑性(メデ

ィアリテラシー)なども含まれ,これらは,「安全な情報」を求めるもの

・情報システムにかかわる安全

主に情報機器やネットワークなど情報セキュリティに関するもので,「安全な情報シス

テム」を求めるもの

・情報社会の安全

社会的な安全性であり,「安全な社会システム」を求めるもの

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第2章 クラウド型知識基盤社会における教育

28

③情報学を考慮した情報安全教育の側面

情報学を考慮した情報安全教育の射程となる側面は,表 2.8 のとおりである。

表 2.8 情報安全教育の各側面 情報安全教育の側面

(学問分野) 内 容

心理的側面 (心理情報学)

物質とは異なる情報特有の性質や特徴,情報が人間に与え

る影響,情報と人間のかかわりを中心にして,安全という

視点から情報を科学的に理解することなど

社会的側面 (社会情報学)

ディジタル環境論,Web2.0,クラウド型知識基盤社会,

ユビキタス社会等に象徴されるように,情報社会の特徴と

人間とのかかわりを中心にして,安全という視点で社会を

科学的に理解すること 倫理的側面

(情報倫理学) 情報モラルやマナー,倫理的・道徳的な知識・態度を育む

こと 法的側面

(情報法学) 知的財産権,個人情報保護法,プライバシー権,情報社会

の治安や安全という視点から関係する法律の理解など 技術的側面

(情報工学) 情報機器やネットワーク,情報システムのセキュリティな

ど 教育的側面

(情報教育学,教育情報学)

情報安全教育に関わる内容論,方法論,比較教育論,情報

安全教育の在り方など その他

(情報学等全般) スキル,興味・関心,ICT環境,リスクコントロール等に

関する多様な側面 ※松原(2008a,2009e)をもとに作成。

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

3.1 文理融合の情報学教育

今までの教科「情報」は,従来からの“情報教育”との弁別が必ずしも明確ではなか

ったのかもしれない。そのために,新設された教科「情報」は,2003年度より年次進行

で段階的に実施されたにもかかわらず,何か新鮮味に欠け,“新たな能力を育成する”と

いう認識に格差を生じていたのかもしれない。したがって,一部の学校に限定されたもの

の,「未履修問題」が表面化したことがある。また,高校のカリキュラムの中に,教科

「情報」の時間枠が設定されていても,PCの操作のみに重点が置かれたり,他教科に限

りなく近い学習内容に留まることになったりして,実質的には教科「情報」の学習内容を

十分に展開されないという懸念も一部にあった。

上記の状況を踏まえ,新しい学習指導要領により実践される教科「情報」は,新たな

情報科教育のイメージを形成し,中長期的な展望として重要な役割があるものと改めて認

識したい。筆者は,情報科教育で学習する内容を“文理融合の情報学”と位置づけ,明示

的に,“情報学教育”と表現している(松原 2010d)。

現在では,“情報学教育”の主たる部分は,高校における教科「情報」の学習時間に根拠

を置いているが,他の教科および他の校種(小学校や中学校など)では,いわゆる“情報

教育”が実施されているものの,“情報学”としての位置づけは必ずしも明確ではない。

そこで,本稿では,文理融合の情報学教育の中でも,特に人文社会系の科学を基礎とする

ものを取り上げるが,“理”すなわち自然科学を基礎とするものとあわせて,情報学教育

を構成することを強調しておきたい。

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

3.2 情報学教育の課題

情報学教育を推進するためには幾つもの課題がある。例えば,情報機器等の設備充実,

学校を中心とした超高速情報通信基盤の整備,e-Learningや教育クラウドなどの教育シ

ステム環境の確立,ディジタル教科書や学習コンテンツ等の教材開発,クラウド環境を効

果的に活用する新しい教育方法の開発,そして,このような新しい教育環境で効果的に授

業展開ができる有能な教員の養成など,限りなく続くものである。

上記のような多分野・広範囲にわたる種々の課題を視野に入れて,初等中等教育段階

における一貫した情報学教育を実現するためには,この種の研究を幅広く呼びかけ,個人

研究や共同研究における理論的かつ実践的な研究を推進し,その成果を漏れることなく結

集させることが必要である。これは,いわゆる“情報学教育のK-12カリキュラム”の開

発であり,それを実施するための理論的・実践的な背景(バックアップ)が必須となる。

そのためには,情報学とその教育に関係して,多岐にわたる学問分野のそれぞれにおいて,

深い専門知識が必要である。

そこで,筆者は,J.S.Brunerの”The Process of Education”(教育の過程)を参考に

して,日本においても情報学とその教育に関与し,第一線で活躍する研究者・教育者が互

いに協力し,日本の再生・復興に向けて,総力を結集する必要があると考え,「日本版ウ

ッズホール会議」の開催を既に提案している(例えば,松原2009d)。このカリキュラム

会議を成功させるためには,情報学教育に関心を寄せる人たちの連携が必要である。

情報学教育関連学会等協議会発足のための世話人会は,2011年10月1日に設置され,同

年12月23日に,その協議会が正式に発足したのである。この日は,情報学教育の新しい

ステージに向けて一歩を踏み出した日であり,歴史的な1日になるかもしれない。情報学

教育に関連する学会・研究会が結集し,1つの組織が誕生したからである。新しく誕生し

たこの組織は,このような状況を踏まえて情報学教育(メディア教育,情報安全教育を含

む)の一貫したカリキュラムを検討するよい機会を与えてくれることだろう。

ここでは,この新たな組織の誕生に至るまでの経緯を簡単に解説するため,筆者が各

所で執筆した原稿をもとにして,わかりやすく簡潔にまとめるとともに,その後のロード

マップを描くための私案を述べる。

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

3.3 情報学教育の諸相

(1)情報学とは

「情報学とは何か」と問いかければ,最先端の情報学者のみならず,各分野の学者・

教育者を始め,産業界や行政などのあらゆる分野の賢者諸氏から,多様なご意見が降り注

ぐことだろう。しかし,ここでの情報学とは,国語,数学,理科,社会,…のように,学

校教育における教科としての内容学であり,教科教育学の内容論として位置づけられるも

のである。もちろん,先端科学も含めた研究領域としての「情報学」の成果を学校教育に

反映させることも重要であるが,両者間に違いがあることを理解しておく必要がある。し

たがって,学習内容を決定する際には,両者の関係者が一同に会し,議論したり意見交換

をしたりして,共通理解の上に成立する「一定の見解」が必要になるだろう。

筆者が言及する「日本版ウッズホール会議」とは,まさにそういう場なのである。そ

れを構成するための組織が,情報学教育関連学会等協議会がその任を担えるのではないか

と考えている。つまり,新しい学習内容を決めるためには,その分野の専門家に加え,教

育理論や実践の専門家の皆様とともに幅広く議論し決めていく必要がある。多くの分野の,

多くの人達に理解され,協力を仰ぐ形で進めることが必須である。

(2)情報学教育とは

情報教育や情報科教育のように類似した表現があるが,本研究会では特に情報学教育

と表現している。高等学校の段階では,「情報科教育」という表現は,使用可能であり,

この方が自然な感じがあるが,小学校及び中学校の段階では,情報科教育という表現がな

じまないからである。この点が重要なポイントである。

○○科教育とは(○○には教科名が入る),情報学教育研究 2010 の「第4章 情報科教

育のフレームワーク」について論述しているように,教科教育に位置づけられる。したが

って,情報科教育という表現は,教科が存在する故に成立する概念なのであり,情報とい

う教科がない段階(小学校,中学校)においては,厳密な意味で使用することはできない

のである(松原 2010d)。

一方,情報教育という表現は,教科を前提としないので,小学校や中学校の段階にお

いても広範に使用できるという点が特徴的である。しかし,現在ではその概念は広く,従

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

来の表現で示せば,教育におけるコンピュータ利用全般においても情報教育の一部とみな

されていたという経緯がある。最近では,ICT 活用も情報教育として認識されることも

多く,各教科における情報教育(情報スキル教育)が話題となることもある。筆者は,各

教科から独立した存在としての情報教育(内容学に基づくもの)を指向しているので,敢

えて情報教育という一般名称を使用していないのである。

そこで,筆者は,初等中等教育段階における情報教育で,情報学をベースに教育を行

うことを提案し,K-12 として全学年を見通したカリキュラム開発の前提となる情報学教

育のコアフレームワークの立体化に着手している。この度発足した新しい協議会は,この

問題の具体的な結論を得るだけではなく,この仕組みを活用して,関係者の皆様にあらた

めて“情報学”を再認識し,学校教育における“新たなステージ”を構築する契機となる

ことを期待している。

(3)情報学教育の研究とは

情報学教育について研究を進める場合,内容学と方法学の2つの視点でとらえると分

かりやすい。まず,情報学教育における内容学分野では,情報学教育としての学習内容の

構成やその吟味に加え,学習者の発達段階に応じた内容の展開が主な研究対象であり,い

わゆる教育課程論におけるカリキュラム研究との関係が深いといえる。次に,情報学教育

における方法学分野では,ICT 活用に代表されるように,教育メディアを利用した効果

的な授業展開に重点が置かれることが多い。これは,情報学を教える授業展開の手段とし

て ICT 等を活用するものであり,単に ICT 等の教育メディアを利用した授業展開は,情

報学教育に直接的には該当しないと考える方が分かりやすいだろう。

(4)情報学教育のコア・フレームワーク

メディア教育は,概ねメディア・リテラシー教育と捉えられる場合が多いが,必ずし

もこれら両者が完全に一致するものではない。また,仮に,メディア教育が,メディア・

リテラシー教育と同義であるとしても,そこには,幾つかの定義や考え方があり,現時点

でも一定の見解をユニークに示すのは困難である。このような状況にあって,筆者は,デ

ィジタル環境論を背景にした,ディジタル環境リテラシー教育の必要性を既に提案してい

るが,ここでは,メディア教育や情報安全教育との連携を密にし,情報教育の内容構成を

考察する際の新たな項目として位置づけたい。

33

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

情報学は,各研究機関によっても種々の定義が存在するが,「学問体系としては新しく

確立されつつある専門分野であり,部分的にはこれまでも言語,心理,数学,情報処理工

学内で,さらには情報活動をしている各学問分野内などで研究されており,応用としては

人文,社会,自然の各科学の全てに係わるものである」と考えたい。それゆえに,情報学

は,古くて新しい分野と言えるかも知れないが,メディア教育・情報安全教育を視野に入

れた情報教育を構想するには必須の考え方である(松原 2008a)。情報教育のコアを情報

学に求める時,次の3つの視点を設けて展望したい。第1の視点は,「情報を科学する」

視点であり,情報科学や情報論・メディア論などに対して理論的な側面から見る視点であ

る。第2の視点は,「情報を活用する」視点であり,情報活用・IT 活用に関係した実践的

な視点である。第3の視点は,「情報を吟味する」視点であり,情報社会や情報安全に関

係して,情報やメディアが与える影響,情報セキュリティ,情報モラルなど社会との関連

を重視する視点である。情報教育における小中高の円滑な接続をめざし,K-12 カリキュ

ラムを策定する際の基本的な内容として,図 3.1 のようなコア・フレームワークを既に

提案している(松原 2006)。これは,情報教育の中でも,その中心的な位置を占めるコア

教育(情報コア教育)の内容構成に寄与することを前提にしている。これを平面とし,こ

れに垂直な方向の軸を定義すると,それが学齢(School Year)に該当する。これは各学校

段階の学年を意味し,3次元で該当部に内容が明示されれば,K-12 カリキュラムとなる。

情報学教育(Information Studies Education)の3つの視点

情報を科学する

(情報科学)

情報を活用する

(情報活用)

情報を吟味する

(情報安全)

(情報に関する学習項目)

情報学(基礎) 情報の本質

情報の理論

情報が与える効果

情報の蓄積

情報が与える影響

情報に関わる権利と保護

問題解決 問題解決の本質 問題解決の実践 問題解決の効用

情報技術概観 情報技術の発達 情報技術の利用形態 情報技術の進展

コンピュータ コンピュータの

基本構成と機能

コンピュータの

操作と活用

コンピュータの

管理とセキュリティ

ソフトウェア ソフトウェアの

基本構成と機能

ソフトウェアの

活用と情報処理

ソフトウェアの

管理とメンテナンス

ネットワーク 情報通信ネットワーク

の機能と特徴

情報通信ネットワーク

の活用

情報通信ネットワーク

のセキュリティ

メディア メディアの本質 メディアの活用と制作 メディアの影響

※この枠組みは,幼稚園から小中高までのいわゆる K-12 に対する学習内容について,学齢軸(この平面に

垂直方向)から見て,各項目の関係を示したもので,筆者はこれをコア・フレームワークと呼んでいる。

図 3.1 情報科教育のコア・フレームワーク・・・(IS-CF Ver.4.0j)

34

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

(5)情報学教育のカリキュラム

一貫した情報学教育カリキュラムを開発するためには,K-12 を意識し,それをインテ

グレーションした全体像について議論する必要があるだろう。ここで取り上げる「情報学

教育のコア・フレームワーク」とは,地下階から地上 12 階建てのビル(図 3.2)を建設

する際のベースとなるもので,多くの専門家の皆様に議論していただきたいものである。

K-12

情報学教育のコアフレームワーク(立体化)

IS-CF Ver5.0j

(c)2011,2012 滋賀大学教育学部 松原研究室

協力:SUDA 設計室(東京,赤坂)

図 3.2 情報学教育の K-12 カリキュラムの立体図

35

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第3章 情報科教育の新しい展開:情報学教育へ

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(6)カリキュラム開発を民主的に進めるために

カリキュラム開発を民主的に進めるためには,それを議論し集約して建設的な結論を

得るための組織や仕組みが必要である。筆者は,次のように

・情報学教育関連学会等協議会の発足

・「日本版ウッズホール会議」の開催

・諸外国における情報学教育拠点の組織作りの支援

・情報学教育国際会議の開催

など,種々の枠組みを提案している。

前述のように,情報学教育関連学会等協議会は,2011 年 12 月 23 日に発足した。これ

は,情報学教育に関して,各種の専門家が協議する場として重要な役割を果たすことにな

るだろう。そして,カリキュラム開発に際して具体的な活動を行うためには,協議会の下

にワーキンググループを設置することも検討する必要があるかもしれないが,加盟団体に

おける種々の活動が必須であることはいうまでもない。

上記の活動が効果的に機能し,一定の成果を生み出す段階にくれば,いわゆる「日本

版ウッズホール会議」の機が熟したといえよう。この時期に前後して,諸外国,特に,環

太平洋地域における各国と連携して情報学教育拠点の組織作りも重要となるだろう。この

ような活動の成果は,情報学教育に特化した国際会議の開催への発展することを期待した

いものである。

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第4章 情報学教育の課題と展望

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第4章 情報学教育の課題と展望

4.1 情報学教育推進にかかわる歴史的背景

(1)教科「情報」の新設時から引き続く問題

周知のごとく,教科「情報」は,2003 年度より年次進行で実施されたが,そのための

準備期間が必ずしも十分ではなかったことも一因となり,次のような種々の問題が引き続

いている。

①教員養成に関わる問題

教科「情報」の教員養成に関しては,現職教員等を対象として,2000 年度から 2002

年度までの 3 ヶ年にわたり認定講習会が開催された。当初の予定では,全国で各年度に

3,000 名ずつとし,3 ヵ年で 9,000 名の「情報」の免許取得者を養成することとなった。

実際のところでは,9,000 名という全国の数値目標は達成できたが,各都道府県別にみれ

は,その達成率は大きく異なっていたのである。

一方,大学における教科「情報」の教員養成は,各大学ごとに課程認定を受ける必要

があり,この条件や日程が明らかになったのは,2000 年6月のことであった。筆者の勤

務する大学では,この時より 1 年程度前からできる範囲で準備を進めていたので,条件

や課程認定の日程が明らかになったのを受けて,そのための作業を事務的に行い,初年度

(2001 年度)から開設することができたのである。

したがって,従来の考え方によれば,認定を受けた教育課程は,2001 年度の入学者か

ら対象となるので,彼らが卒業するまでに 4 年間を要するため,2005 年度の教員採用時

まで待たなければならないことになる。しかし,この度の課程認定では,教職などの多く

の科目で改訂がなされたので,多少の困難が予想されたものの,原則として,その対象を

在学者に拡大することができるようになっていたのである。そこで,滋賀大学教育学部で

は,当該年度入学者のみを対象にして年次進行で授業科目を順次開講するのではなく,

2001 年度において在籍するすべての学生を対象にすることで,教科「情報」の免許取得

に関わるすべての授業科目を,原則として,2001 年度から開講したのである。

結局のところ,本学学部では,2002 年度の卒業者から教科「情報」の免許取得者を出

すことになり,開設からわずか2ヵ年で教科「情報」の免許を取得するために努力した者

がいたのである。これは,全国でも最も早い取得となったのである。

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第4章 情報学教育の課題と展望

一方,大学院においては,全国に先駆けて,情報教育に特化した「教育学研究科学校

教育専攻情報教育専修」を設置し,教科「情報」の専修免許も取得できるようになった。

その結果,2001 年度入学者の中に前述の認定講習にて教科「情報」の1種免許を取得し

たものがいたので,2002 年度末に全国で最初の専修免許取得者を出すことになったので

ある(松原 2003a)。

②教科書の多様性に関わる問題

教科書制度の概要は,文部科学省初等中等教育局が 2011

年 6 月付の「教科書制度」にその詳細が記載・定義されて

いる。すなわち,教科書とは,「小学校,中学校,高等学校,

中等教育学校及びこれらに準ずる学校において,教育課程の

構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として,教授

の用に供せられる児童又は生徒用図書であり,文部科学大臣

の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するも

の」とされ(発行法第 2 条),すべての児童生徒は,教科書

を用いて学習する必要があるとされる(文部科学省 2011)。

教科「情報」の教科書は,新設教科のため各出版社の関

心が高く,表 4.1 に示すように,2003 年度用として検定を受けたものは,13 者(注)から

発行された(細井,松原 2005)。その後,2005 年度用,2007 年度用として,2 年ごとに

検定が行われた。新設当時の 2003 年度用教科書を例にとれば,教科書として使用される

までには,表 4.2 に示すようなプロセスを経ている。

表 4.1 教科書の発行者 (教科「情報」の新設当時)

No. 発行者の番号

1 002 2 007 3 009 4 017 5 035 6 061 7 104 8 112 9 116

10 144 11 154 12 183 13 186

※発行者の名称は省略した。

(注)発行者とは,おおむね出版社が該当するので,「発行社」としても差し支えないように思われるが,厳密には,発行する者は,

会社に限るものではなく,機関や団体などの場合もあり得るので,「発行者(発行する者)」という表現が適切である。

表 4,2 教科書が使用されるまで(教科の新設当時を例にして)

年 事項 コメント

2000 教科書の著作・編集 実際には 2000 年以前から,著作活動が進められたものと推定さ

れる。

2001 教科書の検定 検定では,新設のためか,各社の自主性が尊重されたと判断さ

れ,学習内容やその取扱いにおいて,多様なものとなった。

2002 教科書の採択 発行者 13 社のうち,上位の数社にて,採択全体の大部分を占

める結果となった。

2003 教科書の発行・使用 文部科学大臣は,教科書の需要数の集計結果に基づき,各発

行者に部数を指示。

※文科省「教科書制度の概要(概要2:教科書が使用されるまで)」を参考に,筆者の経験を踏まえて作成。

39

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第4章 情報学教育の課題と展望

教科「情報」の教科書は,情報A,情報B,情報Cの3科目であったが,それぞれの

科目において,取り上げられる題材や実習等の展開などの点で多様な状況となり,取り扱

われる内容の範囲とその深度(レベル)において各社の教科書に特徴がみられたのである

(松原 2007)。その結果,教科「情報」としてのミニマムエッセンスとしての傾向が顕著

となり,その他の要因も関係して,結局のところ,コンピュータの操作やアプリケーショ

ンソフトウェアの利用法などに重点を置くような,いわば「手軽な」情報教育としての役

割を演じることになってしまったのである。

③教員の担当教科(複数)と教員採用に関わる問題

コンピュータ教育開発センター(2009)によれば,平成 20 年度高等学校における情報

教育の実態に関する調査研究から教科「情報」の実態調査結果(教員の状況)をみれば,

(http://www.cec.or.jp/ict/pdf/houkoku_all.pdf,及び http://www.cec.or.jp/ict/pdf/houkoku_all.pdf)

教科「情報」は,2003 年度から必修化された教科なので,他教科(数学,理科,工業な

ど)の教員が情報科の免許を取得し担当している場合がほとんどであったとしている。

すなわち,教科「情報」の専任・兼任については,回答者全体(1938 人)の 78.3%の

教員が,他教科も兼担していることが明らかになっている。

教員採用の現状は,各都道府県,政令指定都市だけでなく,年度ごとに異なるが,教

科「情報」を担当する専任教員を配置するところが極めて少ないため,おおむね次のよう

な点を問題として指摘することができるだろう。

・教科「情報」の教員採用をおこなっていないところが多い

・教科「情報」だけでなく,他の免許も取得していないと受験できないケースが多い

④大学入試に関わる問題

大学入試に関わるものとしては,大学入試センター試験における出題があげられる。

周知のごとく,教科「情報」が新設された際には,センター試験での出題の期待が高まっ

たが,結局のところ,従来から出題されていた「情報関係基礎」以外には「情報」の出題

はないだけでなく,2006年度入試から「情報関係基礎」を選択できるものは,高等学校

においてこの科目を履修した者,及び専修学校の高等課程の修了(見込み)の者に限られ,

実質的に普通科の課程を修了した者の多くが受験できなくなったことが問題としてあげら

れる。以上のような経緯を踏まえ,情報処理学会及び日本情報科教育学会では,センター

40

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第4章 情報学教育の課題と展望

試験に関して要望や提言を発信している。

・(2012 年 1 月 27 日)大学入試センター試験における「情報」出題の提言

http://www.ipsj.or.jp/release/kyoiku20120127.html

・(2011 年 4 月 5 日)大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望

http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/kyoiku201104.html

【入学試験に関わる要望・提言:日本情報科教育学会】

・(2012 年 2 月 8 日)「情報」の入試に関わる現状認識と将来に向けての提言

http://jaeis.org/pdf/jaeis_20120208.pdf

・(2011 年 9 月 5 日)大学入試センター試験の出題科目についての要望(その2)

http://jaeis.org/pdf/newsletter/201110.pdf

・(2011 年 7 月 5 日)大学入試センター試験の出題科目についての要望

http://jaeis.org/pdf/newsletter/201107.pdf

【入学試験に関する要望・提言:情報処理学会】

(2)情報教育を進める組織の必要性

筆者は,2005 年 8 月 8 日付で中山斉彬文部科学大臣(当時)により任命を受け,中央

教育審議会の専門委員(情報)を引き受けした。その後,筆者は,情報科教育について審

議を繰り返すうちに,“情報学”を情報科教育のベースにするという考え方が具体化した

のである。当時はまだ「情報」を専門とする教科教育の学会がなかったが,情報の諸科学

や教育工学等を基盤に情報教育を視野に入れている学会として,情報処理学会や教育シス

テム情報学会など複数あり,このような各学会から「要望書」という形で,情報科教育の

充実に向けてご協力をいただき,委員として心強い思いをしたことを記憶している。つま

り,国語や数学のように,情報以外の他の多くの教科では,それぞれの教科を専門とする

教科教育の学会が存在し,その教科の理念や位置づけなども含めて,恒久的に研究を積み

重ねてきている。筆者は,このような状況の中で,情報教育という分野においても,

(ア)「情報」を専門とする教科教育の学会の設立

(イ)情報学教育の研究を理論的・実践的に行う組織

(ウ)情報科教育に関心を持つ諸学会の結集

が早急に必要であると感じたのである。言うまでもなく,(ア)は 2007 年 12 月 23 日に

41

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第4章 情報学教育の課題と展望

発足した日本情報科教育学会であり,(イ)は 2009 年に再発足した情報学教育研究会の

ことで,(ウ)は 2011 年 12 月 23 日に発足した情報学教育関連学会等協議会である。

(3)情報学教育研究会と日本情報科教育学会との連携

表 4.3 は,情報学教育研究会と日本情報科教育学会との連携が始まるまでの経緯を示し

たものである。

表 4.3 情報学教育研究会と日本情報科教育学会との連携

年.月.日 情報学教育研究会(ISE 研)日本情報科教育学会

情報学教育推進特別委員会 その他

2002. 3.16 情報科教育法研究会が発足

2003. 9. 3 教科「情報」の実習事例,発行

2005. 8. 8 ※筆者,中山大臣より

中教審・専門委員の任命

2007.12.23 日本情報科教育学会,発足

2009.11.11 情報学教育研究会,再発足

※情報学教育の推進

2010. 2.27

情報学教育推進特別委員会,

理事会にて承認 ※情報学教育研究会との連携

を承認

※情報学教育研究会と日本情報科教育学会,連携開始 (情報学教育に関連する学会と研究会との連携)

①情報学教育研究会

情報学教育研究会の前身は,2002 年 3 月 16 日に発足した「情報科教育法研究会(以

降 JK 研と呼ぶ)」(代表:松原伸一)である。

JK 研は,情報科教育の発展に向けて活動を続け,このメンバーが中心になり,多くの

協力者を得ることにより,『情報科教育研究Ⅱ:教科「情報」の実習事例』(開隆堂出版)

を 2003 年 9 月 3 日に発行した(松原 2003c)。情報科教育は,2003 年度より年次進行で

実施されたが,2 年を経過した時点で,教育課程改訂の時期を迎えることになった。

前述の通り,当時は各教科を専門とする教科教育系の学会が多くの教科で設置されて

いたにもかかわらず,情報科の場合はそれがなかったのである。したがって,情報科教育

に関して一定の見解を集約したり学術的な支援を行ったりすることが困難とみられる状況

があった。この問題を解決するため,JK 研は,日本情報科教育学会(2007 年 12 月 23

日設立)の発足に加わることとし,事実上その活動を休止した。その後,情報科教育は情

報学教育としての機運を生じ,高等学校の新しい学習指導要領が 2009 年 3 月に告示され

るとともに,教科「情報」の学習指導要領解説は,2010 年 1 月 29 日に文科省の Web ペ

42

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第4章 情報学教育の課題と展望

ージにおいて公表された。そこで,JK 研は,2009 年 11 月 11 日に「文理融合の情報学

教育」をコンセプトに再発足し,その名称を「情報学教育研究会(SIG_ISE,ISE 研)」

とし,会誌「情報学教育研究」を 2010 年 3 月に発行した。

②日本情報科教育学会の情報学教育推進特別委員会

一方,日本情報科教育学会では,情報学教育を特別に推進する組織の必要性を生じ,

2010 年 2 月 27 日の理事会・評議員会において,特別委員会の設置が提案され審議の結

果,図 4.1 に示す通り承認され,この時を契機にして,情報学教育研究会と日本情報科

教育学会とが連携して活動することになったのである。

※上記の内容は,日本情報科教育学会誌第3号の会告1-2「第4回理事会・評議員会議事録」に掲載

(Vol.3, No.1, p.88-89)されている。

※情報学教育推進にかかわる中・長期的な展望:JAEIS 第2回全国大会

パネル(6/27)及び企画セッション(6/28)における資料をもとに作成

JAEIS 理事会・評議会(2010.2.27)資料

修正の上,理事会にて決定(2010.2.27)修正

日本情報科教育学会

情報学教育推進特別委員会の設置について

~情報学教育推進にかかわる中長期的な展望として~

松原伸一

中長期的な展望のもとに,情報学教育の推進のため,本学会に情報学教育推進特別委員

会を設置する。

1.設置の趣旨:本委員会は,中長期的な展望に立ち,特に,情報学教育を推進する

ため,設置するものである。

2.活 動:主に下記の項目について,活動を行う。

・情報学教育推進に関わる調査・研究

・情報学教育推進のための各種イベントの開催

※教科「情報」関連学会協議会の設置に向けて活動する。

※日本版ウッズホール会議(関係の諸学会等を結集し,我が国における情

報学教育推進するための中枢的会議)や国際会議などを視野に入れて,

その準備を行う。

・活動予定(案)については,参考資料を参照。

・その他,情報学教育の推進に関わる事業

3.組 織:本学会に本特別委員会を設置する。

4.任 命:委員長は,会長が任命する。委員は,委員長が任命する。

5.その他 :各イベント準備のために実質的に活動する委員会とする。

情報学教育研究会などの関係研究会との連携を密に活動する。

その他,必要な事項は適宜検討し決定する。

※紙面の関係で,参考資料は省略した。

図 4.1 情報学教育推進特別委員会の設置

43

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第4章 情報学教育の課題と展望

その活動の方向性としては,中長期的な展望に立ち,関係の諸機関等を結集し,我が

国における情報学教育を推進するための中枢的会議(日本版ウッズホール会議)の開催準

備を行うだけでなく,この件に関わる各種の調査・研究及び,各種イベントの開催(国際

会議を含む)などを視野に入れて,各種事業が進められることであり,情報学教育研究会

は,日本情報科教育学会と連携するとともに,学校教育における一貫した情報学教育を実

現させるための活動を続けている。

(4)情報学教育関連学会等協議会の発足

情報学教育関連学会等協議会は,加盟の連絡を公式に受けた順で示せば,日本情報科

教育学会,情報学教育研究会,日本教育工学会,教育システム情報学会,及び,情報処理

学会の5つの団体組織で構成される。2011 年 12 月 23 日には,情報学教育関連学会等協

議会の発起会,第1回協議会の後,第 1 回情報学教育推進コンファレンスが開催された。

記念すべき 12 月 23 日の日程は,図 4.2 のとおりである。

【情報学教育関連学会等協議会の発起人会 及び 第1回協議会】

日 時 2011 年 12 月 23 日(金) 13:00 - 14:00 場 所 日本大学文理学部(東京都世田谷区桜上水 3-25-40)

発起人会

※各加盟団体から世話人等が出席 ※発起人(関連学会等の組織)

日本情報科教育学会,日本教育工学会,教育システム情報学会, 情報処理学会,情報学教育研究会

第1回協議会

議題について ・会則(案)が承認された。 ・協議会委員として世話人が就任することが承認された。

・本協議会の議長には,松原伸一(本研究会代表,日本情報科教育学会

副会長)が選出され,承認された。 ・第1回情報学教育推進コンファレンス主催が承認された。 ・その他としては,登壇者による打合せが簡単に行われた。

図 4.2 情報学教育関連学会等協議会の発起人会及び第1回協議会

44

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第4章 情報学教育の課題と展望

(5)第1回情報学教育推進コンファレンスの実施

第 1 回情報学教育推進コンファレンスは,上記の第 1 回協議会の後,2011 年 12 月 23

日 14:30 より開催された。このコンファレンスは,パネルディスカッション形式とされ

たが,いわゆる学会等で催されるものとは異なるものであった。その理由は,協議会の構

成員にあるといってよいだろう。すなわち,この度発足した協議会の会員とは,個人では

なく,5つの組織(学会等)である。したがって,協議会の後半部分して位置づけられた

コンファレンスは,5つの組織から選出された協議会委員(各3名)に加え,その他多く

のオブザーバー(100 名以上)の参加(議長の承認により成立)を得て,開催されたので

ある。図 4.3 は,その概要をまとめたものである。

【第1回情報学教育推進コンファレンス】

(※前述の第1回協議会の後半部分を公開で行うものであることが説明された。)

日 時 2011 年 12 月 23 日(金) 14:30 - 17:20 ※予定を 20 分延長して開催された

場 所 日本大学文理学部(東京都世田谷区桜上水 3-25-40) ・趣旨説明 松原伸一(情報学教育関連学会等協議会 議長) ※協議会発足までの経緯,趣旨などの説明があった。 ・挨 拶 会場責任者及び加盟団体より挨拶があった。 ・講 演 新井孝雄(文部科学省 参事官) 演 題:教育の情報化に関する文部科学省の施策 ・公開会議 テーマ:情報学教育の中長期的な展望 登壇者 永井克昇(文部科学省 視学官) 岡本敏雄(日本情報科教育学会 会長) 永野和男(日本教育工学会 会長) 前迫孝憲(教育システム情報学会 会長) 筧 捷彦(情報処理学会 情報処理教育委員会 委員長) 河野卓也(情報学教育研究会 副代表) 司 会 松原伸一(日本情報科教育学会 副会長,情報学教育研究会 代表) 記録係 天良和男(情報学教育研究会 副代表) 武村泰宏(情報学教育研究会 研究部会委員) その他 この公開会議の中で,萩谷昌己氏(東京大学大学院情報理工学系研究

科科長),及び,三浦謙一氏(国立情報学研究所リサーチグリッド研究

開発センター長)の紹介があり,本協議会の委員(オブザーバ)とし

ての就任依頼が提案・決定された。また,その後,この協議会開催地

である「世田谷区」の教育長である若井田正文氏の紹介もあった。

図 4.3 情報学教育関連学会等協議会の発足

45

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第4章 情報学教育の課題と展望

4.2 情報学教育の課題と展望

(1) Bruner: ”The Process of Education”(教育の過程)

今までの情報科教育は,既に行われていた従来からの,いわゆる情報教育との弁別が

必ずしも明確ではなかった。そのために,過去において,一部の学校に限定されるものの,

「未履修問題」が表面化したことがある。また,教科「情報」の時間枠が設定されていて

も,他教科に限りなく近い学習内容に留まり,実質的には他教科の学習時間になっている

という問題もあるため,仮にこれを局所的な問題として放置すれば,教科「情報」の将来

に暗い影を落としかねない。

そこで,新しい学習指導要領により実践される次期教育課程は,中期的及び長期的な

展望として,新たに情報科教育のイメージを形成し,将来の教育課程編成に向けての礎と

して重要な役割があるものと改めて認識したい。

そこで,米国にて今から50年以上も前に開催されたWoods Hole会議を紹介したい。こ

の会議は,1959年に召集された。その

理由は,1957年のソビエトのスプート

ニック発射の成功は,当時「スプートニ

ックショック」と呼ばれ,アメリカ社会,

特に,学校教育に対して大きな影響を与

えたのである。つまり,当時のアメリカ

の教育は,知的生産性の教育に著しく非

能率とされ,その原因が当時の学校教育

の体質(進歩主義)にあるとされたのである。そこで,全米科学アカデミー(NAS:

National Academy of Sciences)は,各学会の第一人者を召集し,米国Massachusetts州

のWoods Holeにて会議を開催したのである。そしてこの会議のまとめは,J. S. Bruner

によりThe Process of Education:『教育の過程』(Bruner 1960)のである。

表 4.4 Woods Hole 会議参加者の専門/系

分野 人 系 人

心理学 10 文系 16 数学 6 → 理系 16 生物学 5 芸術系 2 物理学 4 教育学 3 歴史学 2 映画撮影法 2 古典学 1 医学 1

表 4.4 の左側は,この会議の参加者を専門分野で示したものである。その専門分野は,

心理学,数学,生物学,物理学,教育学,歴史学,映画撮影法,古典学,医学の多岐にわ

たるが,これらを分類すれば,表 4.4 の右側のように,文系 16 人,理系 16 人,芸術系

2 人となり,文理融合の視点で見れば,バランスが良いことに気づくだろう。

46

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第4章 情報学教育の課題と展望

(2)「日本版Woods Hole会議」の開催に向けて

日本版Woods Hole会議について

は,既に提案している(松原2009a,

2009d)。ここでは,この提案の経

緯も含めて,整理して述べたい。

最初に提案したのは,表 4.5 に

示すように,早稲田大学で開催され

た情報処理学会のシンポジウムで招

待講演を行った時である。原稿には

その記述はないが,図 4.4 のよう

に,講演で使用したスライドには,

Woods Hole 会議の紹介がある。この講演当時の 2009 年は,Woods Hole 会議の開催か

らちょうど 50 年めに当たり,記念するべき年にあることを示唆したことを記憶している。

その後,機会あるごとに提案喚起を行ってきたが,2012 年の新春にはその提案からおよ

そ3年が経過したことになる。“光陰矢のごとし”というが,時間の経つのは早いもので,

集中して進める必要があるかもしれない。なお,表 4.5 は,松原(2011b)をもとに,現

時点での最新情報を追加したものである。

図 4.4 J.S.Bruner の「教育の過程」

我が国では,昨今「PISA ショック」とも言われる学力低下問題の現状を踏まえ,学力

向上に関わる様々な取り組みが行われている。これまでの成果を踏まえ,新しい情報科教

育を模索し,文理融合の情報学共通教育のたたき台として,学術的に,実践的に,そして,

民主的に議論を行うために,合同会議として,「日本版 Woods Hole 会議」の開催が必要

である。その合同会議では,中長期の視野をもち,10 年から 20 年位先を見通して,情報

科教育に関心をもつ者が参加し,各学会・各分野を超えて,建設的な議論を行うことによ

り,①内容や構造,②学習のためのレディネス,③問題解決のための思考,④教材・教具,

⑤教育方法,などについて,検討する必要がある。

思い起こせば,先の中央教育審議会専門部会において,教科「情報」に関わる各種審

議をおこなったのが 2005 年であるので,あれから 7 年程の歳月が経過したことになる。

教科「情報」の充実に向けて,好意的な意見や要望を提出された各学会(情報処理学会,

日本教育工学会,教育システム情報学会など)を始め,種々の組織に所属する多くの皆様

のご協力により,2007 年 12 月に日本情報科教育学会が発足し,2011 年 12 月に情報学

47

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第4章 情報学教育の課題と展望

48

教育関連学会等協議会も組織された。これらの組織が互いに協力・連携し,情報学教育の

充実に向けて活動が進められればありがたいと考えている(松原 2012)。

表 4.5 筆者による「日本版 Woods Hole 会議」開催の提案に関する経緯

年.月.日 論文タイトル・講演題目等 発表場所

2009. 3.14 学習指導要領の改訂と情報科教育の展望 –

文理融合の情報学をベースに -

情報処理学会,高校教科「情報」シンポ

ジウム 2009 春,招待講演(早稲田大学)

2009. 6.27

次期教育課程における情報科教育

パラダイムシフト:文理融合の情報学共通教育

へ –「日本版 Woods Hole 会議」の開催を視

野に-

日本情報科教育学会第2回全国大会

講演論文集(パネルディスカッション

1),pp.13-16.(九州工業大学)

2009.12.23 新学習指導要領から見える情報科教育の新し

いステージ–文理融合の情報学共通教育-

日本情報科教育学会設立2周年記念フ

ォーラム(アルカディア市ヶ谷)

2010. 2.27 情報学教育推進特別委員会の設置について

~情報学教育推進にかかわる中長期的な展

望として(提案)

日本情報科教育学会第 10 回理事会・

評議員会(日本情報科教育学会事務

局)

2010. 3. 1 クラウド型知識基盤社会における情報科教育

の新しいステージ –文理融合の情報学共通..

教育-

情報学教育研究 2010,pp.5-24.

2010. 6.26 情報学教育のロードマップ – 中長期的な展

望として,特別企画を開催するに当たって

日本情報科教育学会第3回全国大会

講演論文集(特別企画1),p.34.(日本

大学文理学部)

2010.12.23 新しい学力を身につけるための「情報科」の役

割・課題,教員養成の立場から - 「情報科」

教育の質向上のためにやるべきことは

日本情報科教育学会設立3周年記念フ

ォーラム(機械振興会館)

2011. 1.20 情報学教育の推進 – 中長期的な展望として

のロードマップを -

日本情報科教育学会誌,Vol.3, No. 1,

pp.5-6.※発行年月日は,2010.12.15である。

2011. 3. 1 ディジタル時代の情報学教育論

“Information Studies for All”

情報学教育研究 2011,pp.7-22.

2011.10. 7 情報学教育の推進に向けて

“Information Studies for All”

日本情報科教育学会ニューズレター,

No.12(2011 Vol.2),pp.7-9.

2011.10.15

情報学教育の K-12 カリキュラム開発と大学へ

の接続

- J.S.Bruner に学び,「日本版ウッズホール会

議」の開催に向けて -

日本情報科教育学会第4回全国大会

講演論文集(企画セッション),pp.16-

17.(畿央大学)

2011.12.23 情報学教育に新しいステージを

New Stage for Information Studies Education

第 1 回情報学教育推進コンファレンス

資料,pp.1-2.

※松原(2012)より引用

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第5章 協働学習支援環境

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第5章 協働学習支援環境

5.1 協働学習とそれを支える2つの研究会

最近では,「協働学習」という表現は,教育界等において,ひとつの流行語と言えるか

も知れない。また,以前より教育工学の分野では,「協調学習」という表現が用いられて

いる。教育工学事典(日本教育工学会編)における「分散協調学習支援」の項目で,岡本

敏雄氏は「協調学習」に触れ,「協調学習とは,学習者同士がグループ活動の中で互いの

学習を助け合い,ひとりひとりの学習に対する責任を果たすことで,グループとしての目

標を達成していくという協調的で相互依存的な学習である(筆者による要約)」と指摘し,

共通理解のベースとなっている。また,この事典には,「協同学習」も含めて,他の類似

表現の項目はない。近年,種々の学会の論文等をみれば,「協調学習」のみならず,「共同

学習」や「協働学習」という表現も多数使用されるようになってきている。ここでは紙面

の関係で,その詳細を記述するのを避けざるを得ないが,これらの表現は,教育学や心理

学のみならず,情報工学や教育工学などの学習システムの開発に関する分野等においても

使用頻度が多くなってきている。したがって,その概念は多様な状況と言わざるを得ない

が,その一方で,それらの概念の違いに関心がなく,ほぼ同義として扱っている場合も少

なくない。このような状況は,各者が依拠するそれぞれの研究分野における課題意識によ

ることが大きいと予想される。学際的な研究分野の発展に伴い,各学会・研究分野等にお

いて,概念に幅が生じることはやむを得ないと考えるが,今後,この研究分野の充実した

発展を考えれば,少なくとも同一分野においては,各用語の特徴や意味概念について共通

理解を形成することが必要である。関田・安永(2005)は,協働に類似した表現として,

共同,協同,協調などの用語を取り上げ,これらの関連を整理し望ましい使用法を提案し

ている。ここでは,上述の論文を参考にして,筆者の考えを示したい。

(1)協働学習と類似概念の整理

広辞苑によれば,共同とは,「①2人以上の者が力を合わせて事を行うこと,②2人以

上の者が同一の資格で結合すること,③協同に同じ」と示され,また,協同とは,「心を

あわせ助け合ってともに仕事をすること。協心。」と記されている。一方,共働は「生物

群集や個体群において,各生物の間に見られる相互関係の総称。植物が動物のすみかとな

ったり,食いつ食われつする関係などの類。」とあるので,今回の概念整理においては,

50

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第5章 協働学習支援環境

除外対象である。各種文献をもとに筆者の分析による概念整理の結果を表 5.1 に示す。

表 5.1 類似した用語の分析・整理(日本語)

用語 広辞苑による用語の意味・概念 筆者による概念整理・コメント

共同 2人以上の者が力を合わせて事を行うこ

と 「2人以上の者が力を合わせる」という意味

で,最も広義な表現。 協同 心をあわせ助け合ってともに仕事をする

こと 「2人以上の者が心を合せて助け合う」とい

う意味で,心理的側面を重視した表現。 協働 協力して働くこと 協同と極めて類似した概念。

「2人以上の者が心を合せて助け合い(協力

して)働く」という意味で,心理的側面だけ

でなく,行為的側面も重視して,ICT 活用を

強調する表現。 協調 利害の対立した双方がおたがいに相互間

の問題を解決しようとすること 「2人以上の立場の異なる者が,相互間の問

題を解決する」という意味で,連携的側面を

重視した表現。 共働 生物群集や個体群において,各生物の間

に見られる相互関係の総称 別の概念なので,対象外。

※他に,ICT を活用した CSCL(Computer Supported Collaborative Learning)を,遠隔協同学

習/遠隔協働学習/遠隔協調学習と表現する場合があるが,ここでは,これらを,まとめて協働学習に含ませて

いるが,他に位置づける例も少なくない。

また,英語では,Cooperative Learning は協同学習という特定の教授法を示す用語とし

て教育分野で使用されたが,近年では,教育工学等を中心に,Cooperative Learning を

協調学習と表記したり,また,Collaborative Learning を協調学習や協働学習とするなど,

英語と日本語との対応関係においても多様性がみられる。そこで,筆者の考え方を,表

5.2 にまとめて示す。以上を踏まえ,類似概念を整理して示せば,図 5.1 の通りとなる。

表 5.2 類似した用語の分析・整理(英語)

英語 対応する日本語の例 筆者の提案

common 共同 かなり広い意味で使用 cooperative 協同,協調 協同 collaborative 協調,協同,協働 協調(協働)

→行為をともなって(行為的側面)

同 働

→心を合せて(心理的側

面)

共同 common

2人以上の者が力を合わせる

【最も広義な表現】

共働 coaction

生物群集や個体群において,各生物の間に見ら

れる相互関係の総称 ※対象外

協同 collaborative

2人以上の者が心を合せて助け合う 【心理的側面を重視した表現】

協働 collaborative

2人以上の者が心を合せて助け合い(協力して)働く

【心理的側面だけでなく,行為的側面も 重視するので,ICT 活用を強調する表現】

図 5.1 「共・協」と「同・働」の組み合わせによる意味の差異

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第5章 協働学習支援環境

(2)協働学習を支える2つの研究会のWebサイト

①情報学教育研究会(SIG_ISE,ISE研)のWebサイトの開設

この研究会については,前章にて既に述べている。情報学教育研究会の Web サイトは,

松原研究室の MLab サイトの下に構築されている。図 5.2 は,情報学教育研究会の Web

サイトの例で,(1)はそのトップページを,(2)は活動内容の例を,(3)は情報学教育研究の

記事の例をそれぞれ示している。

教育研究会の Web サイトは,

松原研究室の MLab サイトの下に構築されている。図 5.2 は,情報学教育研究会の Web

サイトの例で,(1)はそのトップページを,(2)は活動内容の例を,(3)は情報学教育研究の

記事の例をそれぞれ示している。

(1)トップページ

(2)活動内容

(3)記事の例

図 5.2 情報学教育研究会(SIG_ISE)の Web サイト画面 図 5.2 情報学教育研究会(SIG_ISE)の Web サイト画面

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第5章 協働学習支援環境

②教育情報化推進研究会(SIG_EEP,EEP研)の設置

教育の情報化は,ユビキタス社会を間近に控え,世界最高水準の ICT 国家実現の基盤

となるもので,我が国の次世代を担う子どもたちが,早い段階から ICT に親しみ,情報

活用能力を向上させ,新しい知的価値,文化的価値を創造できる 21 世紀型の社会を構築

することが重要とされ,総務省のフューチャースクール推進事業に象徴される。また,文

部科学省では,教育の情報化を総合的に推進する施策を策定し,「教育の情報化に関する

懇談会」が設置され,今後の施策についての方向をまとめて 2010 年8月に「教育の情報

化ビジョン(骨子)がまとめられている。

以上のような状況を踏まえ,教員養成の立場から,教育の情報化推進に向けて活動す

ることを目的として,「教育情報化推進研究会(SIG_EEP,EEP 研究会)を 2010 年 7

月 29 日に発足した。

ここでは,情報学教育と明確な違いを意識し,情報学教育研究会とは別組織として立

ち上げた。情報学教育推進研究会は学内だけでなく,地域を中心に,広く国内の学校教育

において,教育情報化を無理なくスムーズに推進するために,各教科の教育研究をベース

に,展開することを目的としている。現時点では,小学校における教育情報化として,主

に,電子黒板やディジタル教科書などを対象とした ICT 活用に関する研究を行っている。

全国の小・中学校では,電子黒板を始め,ディジタル教科書の利用など,ICT を活用

した授業が考案されているが,まだ,その理論的な研究や,実践的な研究やその普及推進

に関して十分でないところもあるのが実情である。一方,ICT は,公立小中学校では,

早いところでは既に導入済のところもある。しかし,教員養成の段階では,電子黒板など

のICT教育機器の導入はあまり進んでいないのが現状である。

そこで,本研究会では,ICT 活用による効果的な学習方略の研究を中心に行い,より

オープンな形で教育の情報化に貢献することを目的としている。

2つの研究会

・情報学教育研究会(SIG_ISE)

・教育情報化推進研究会(SIG_EEP)

・協働学習支援環境(CLSE)

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第5章 協働学習支援環境

また,教育情報化推進研究会の Web サイトの例を図 5.3 に示す。(1)は,そのトップペ

ージであり,(2)は速報記事で,(3)は電子黒板に関する情報共有コーナーの例である。

(1)トップページ

(2)速報(News)

(3)電子黒板に関する情報共有コーナー

図 5.3 教育情報化推進研究会(SIG_EEP)の Web サイト画面

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第5章 協働学習支援環境

5.2 協働学習支援環境

(1)松原研究室のWebサイト(MLab)

松原研究室の Web サイト(MLab)は,各種のサイトを下部に有する複合的なサイト

となっている。2012 年 2 月時点において,構成要素となる各サイトの主なものは,下記

に示す通りである。

であり,種々の各サイト(主なもの)は,概ね次のような構造で展開している。

・松原研究室(MLab) → http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/

・情報学教育研究会(SIG_ISE) → http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/sig_ise/

→ http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/sig_eep/

→ http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/clse/

Mlab-Tech2) → http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/index_s2_mc.htm

→ http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/s2_server/dite/lesson1/

→ http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/s/index.asp

→ http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/s2_server/mlab_mc/mc_index.htm

・教育情報化推進研究会(SIG_EEP)

・協働学習支援環境(CLSE)

・ディジタルコンテンツサービス(DigitalContentsService:

A:ディベートと討論の支援(DITE)

B:意見集約の支援(e-Questionare)※認証設定あり

C::マルチメディアコンテンツ(Mlab_MC)

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第5章 協働学習支援環境

(2)情報学をベースとした学習内容の枠組み

情報学をベースとした学習内容の枠組みとしては,情報学1,情報学2,情報学3とし

て3つのカテゴリに分類し,それぞれの内容は,10 個ずつになるように配分した(松原

2011a)。さらに,情報学教育として 10 個の内容も併せて掲載している。それらの各内容

は,下記の通りである。

,情報学3とし

て3つのカテゴリに分類し,それぞれの内容は,10 個ずつになるように配分した(松原

2011a)。さらに,情報学教育として 10 個の内容も併せて掲載している。それらの各内容

は,下記の通りである。

【情報学1】

1-01_情報教育から情報学教育へ

1-02_情報の本質

1-03_データと情報の相違性

【情報学2】

2-01_ディジタル環境論1 2-02_ディジタル環境論2 2-03_ディジタル環境論3

2-04_メディア論1

2-05_メディア論2

2-06_問題解決の科学1

1-04_アナログとディジタルの双対性

1-05_リアルとバーチャルの同義性 1-06_メディアの多義性 1-07_マルチメディアの多様性 2-07_問題解決の科学2

2-08_正しい情報は存在するか?

2-09_常識はいつまで通用するか?

1-08_情報セキュリティとその対策 1-09_個人情報と知的財産 1-10_e-Learning とWBL 2_10_ディベート

【情報学3】

3-01_コンピュータと情報処理

3-02_情報通信ネットワークの仕組み

3-03_情報システムの働きとサービス

3-04_アルゴリズムと言語

3-05_プログラミング

3-06_モデル化とシミュレーション

3-07_データベース

3-08_情報のモラルと安全

3-09_情報社会における健康

3-10_情報社会の発展と情報技術

【情報学教育】

4-01_日本を取り巻く状況

4-02_学習指導要領の改訂

4-03_情報教育再考

4-04_新科目の性格と特徴

4-05_実習の考え方

4-06_情報モラル

4-07_情報教育の概念には幅がある

4-08_WoodsHole 会議

4-09_情報学

4-10_情報学教育関連学会等協議会

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第5章 協働学習支援環境

(3)協働学習支援環境(CLSE)

協働学習支援環境(CLSE: Collaborative Learning Supportive Environment)のトッ

プページは,図 5.4 に示す通りである。また,図 5.5 は,学習内容の表示例である。

図 5.4 協働学習支援環境(CLSE)の Web サイト画面

図 5.5 情報学の学習内容(情報学 1-1)の表示例

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第5章 協働学習支援環境

5.3 協働学習支援システム

ICT を活用した協働学習は,総務省のフューチャースクールや,文部科学省の「未来

の学校」などの政策においても注目されている。このような状況の中で,松原研究室では,

情報学教育研究会(SIG_ISE)および教育情報化推進研究会(SIG_EEP)を既に立ち上

げ,Web サイト上で情報発信するとともに,協働学習支援環境(CLSE)を構築している。

本研究は,情報科教育における学習内容を“情報学”と位置付け,その教育を効果的

に進めるにあたって,ICT を活用した協働学習の方式を取り入れている。すなわち,情

報学教育のプロセスで生じるプレゼンテーションにおいて,学習者が制作した作品の「相

互評価」をテーマに学習環境の構築を行い,既に展開されている協働学習支援環境の一部

として機能することを目的としている。

(1)協働学習支援システム1 【相互評価】

本システムは,情報学教育および教育情報化の研究成果を効果的に進めるために既に

構築されている。本研究で開発したシステムはその一部を構成するものである。

図 5.6 は,「相互評価」をテーマにした支援システムのトップページの例である。トッ

プページは,「A:タイトル領域」,「B:教材選択領域」,「C:トピックス領域」,「D:

表紙領域」の4領域で構成される。

領域 A は,支援システムの看板となるもので,ここは基本的に常に表示されている。

領域 B は,Contents を表示する部分で,ここから学習ページに移動する。領域 C は,支

援システムのトピックス表示を行う部分であるが,主にシステムの更新情報が記載される。

また,領域 D は,支援システムの表紙となっている。

図 5.7 は,本支援システムで学習を行う際の本体の部分である。この学習ページは,

図に示すように各領域で構成される。領域 A は,支援システムの看板,領域 E は,画面

の戻る,進む,のボタンであり,領域 F は,現在の学習課題である,例えば,「データと

情報」や「アナログとディジタル」などがある。また,領域 G は,学習者が作成した作

品を表示する部分で,例えば,各種のファイルを PDF ファイルに変換したものなどが該

当し,ユーザ(先生や学習者等)がアップロードしたときにファイルとしてここに表示さ

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第5章 協働学習支援環境

れる。領域 H は,内容の表示領域であり,領域 I は,学習者の作品などに対する意見交

換の場となっており,ここで作品に対して相互評価のための意見交換を行うことができる。

いずれの場合も,学習の際に学習者が書き込んだ情報は学習履歴として自動的に記録され

るように設計している。

図 5.6 協働学習支援システム 1 の学習のトップページ

B:教材選択領域

C:トピックス領域

D:表紙領域

A:タイトル領域

A:タイトル領域

E:移動領域 H:表示領域

I:討論領域

G:ファイル領域

F:学習テーマ領域

図 5.7 協働学習支援システム 1 の学習ページ

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第5章 協働学習支援環境

図 5.8 は,支援システムを使用して相互評価を行うときに用いる評価シートである。評

価シートは,支援システムにより提供され,A:とても良い,B:良い,C:もう少し,

D:工夫すべき,の4段階で評価が可能で,この評価シートを使い,他者の作品を相互に

評価することになる。

図 5.8 評価シート

図 5.9 は,評価シートで評価された項目の A,B,C,D に対して,例えば,それぞれ

の重みを 4,3,2,1 点として表示した場合の例である。システムでは,評価を行うこと

により,評価項目ごとに,その値と平均,最大値,最小値などを自動計算して表示するこ

とができる。また,それをグラフ表示して視覚的に分かりやすくしている。グラフは,横

軸を評価項目,縦軸を合計数値としている。横軸の番号は,評価項目の項目番号に対応し

ている。ただし,No.15 は平均値を,No.16 は最大値を,No.17 は最小値を示している。

図 5.9 分析シート(表示例)

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第5章 協働学習支援環境

表 5.3 は,支援システムを使用して実施する授業展開の例を示している。なお,各ステ

ップは次のとおりである。

表 5.3 授業の流れ ステップ 各ステップの説明

① 問題の提示 ② 学習したことや自ら調べたことの表現 ③ 与えられた問題を解決し PP(PowerPoint)を作成する ④ 自らの PP や他者の PP を使用して討論 ⑤ 評価シートで他者の PP を評価する ⑥ 自らの PP を分析 ⑦ まとめの提出 ⑧ 評価

①は,教員が学習すべき問題を提示する。②は,調べ理解した内容を,図などでどの

ように表現するかを思考する。③は,自分で考えたことを PP にして支援システムの中に

入れる。④は,支援システムの掲示板を使用して PP について討論し,新しいアイディア

などを発見する。⑤は,掲示板での議論などから,評価シートで他の作品を評価する。⑥

は,評価シートと他者からの意見などをもとに PP の改善点を見出す。⑦は,改善点をも

とにレポートの提出と PP の改善版を提出する。⑧は,教員は PP の改善点と提出された

レポートから評価を決める。

情報学教育を効果的に行うために ICT を活用した協働学習支援環境の一部として,学

習者の作品の相互評価を効果的に行うための支援システムを設計し実現した。本システム

は,授業展開において実質的に機能するものと考えているが,実際の授業での使用はまだ

の状況であり,今後は,実用の視点で改良を重ねる必要がある。

(2)協働学習支援システム2 【合意形成】

本システムは,多様な環境で動作するように Web ベースを前提として,WordPress を

採用した。WordPress は,PHP で開発されたオープンソースソフトウェアで,データベ

ース管理システムに MySQL を使用している。GPL(GNU General Public License)の下

で配布されている。WordPress を採用した理由として,①多くの環境で動作確認がされ

ている点,②メンテナンス性に優れている点,③拡張性が高い点,の3つがあげられる。

①の理由として,校内サーバは各学校ごとに多様な環境が整えられていることがあげ

られる。WordPress は,我が国のレンタルサーバ業者が提供しているサーバ環境におい

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第5章 協働学習支援環境

て,多くの動作実績がある。また,Linux 系および Windows Server 系のオペレーション

システムにおいても動作確認がされている。現在の合意形成・協働学習支援システムは,

Linux 系のサーバ上で動作している。

②の理由として,メンテナンスがブラウザ上で行えることがあげられる。WordPress

は,WordPress 本体,プラグインおよびテーマにおいて,管理画面より更新ボタンをク

リックすることで,自動的に更新作業をおこなうことができる。したがって,メンテナン

スによる教員の負担を最小限にとどめ,かつシステムを最新の状態に維持しやすくするこ

とが可能である。

③の理由として,プラグイン及びテーマが豊富に存在することがあげられる。

WordPress が公式に配布しているプラグインは,管理画面よりインストールすることが

可能である。また,公式に配布されているプラグインの数は,17,704 点(2012 年 1 月

10 日時点)にのぼる。また,自作のプラグインを製作し,適用することも可能であるた

め,拡張性が高いと言える。

以上の理由より,WordPress を採用した。また,本システムでは,WordPress をソー

シャル・ネットワーキング・サービスのように利用することができる BuddyPress プラ

グイン,授業を体系的に進行するために BuddyPress ScholarPress Courseware プラグ

インを適用している。

協働学習支援環境(CLSE)から,協働学習支援システム2【合意形成】を選択した際

の最初の画面を図 5.10 に示す。

図 5.10 協働学習支援システム2【合意形成】のトップページ

協働学習支援システム2に移動した際の初期画面は,図 5.11 に示す通りで,その主な

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第5章 協働学習支援環境

機能には,①コース機能,②フォーラム機能,③ブログ機能の3つがある。

図 5.11 本システムの初期画面

①コース機能

本システムでは,コースごとにミニブログ機能,シラバス機能,コースウェア機能を

用意している。コース機能のトップページ(図 5.12)では,本システムに登録されたす

べてのコース一覧が表示される。ログインしている場合は,ユーザーが受講している科目

の一覧を表示させることができる。

図 5.12 コース機能

②フォーラム機能

フォーラム機能は,いわゆる掲示板に相当する機能である。本システムでは,合意形

成をおこなう場所として活用する(図 5.13)。フォーラム機能は,コース機能と連携して

おり,コースに属したトピックを作成することが可能である。

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第5章 協働学習支援環境

図 5.13 フォーラム機能

③ブログ機能

これは個別の Web サイトを制作し,公開することができる機能で,WordPress による

CMS 機能を利用して作成できる。そのため,Web サイト構築に必要な特別な技能は必要

としない。また,画像などのアップロード機能も有している(図 5.14)。

図 5.14 ブログ機能

教科「情報」の授業展開において,合意形成が必要な場合が多い。特に今回取り上げ

た「望ましい情報社会の構築」と題する学習内容においては効果的である。一方,高等学

校学習指導要領解説情報編には,「望ましい情報社会」についての明確な説明はないので,

説明されていない情報社会をどのように構築するのかといった指摘も可能かもしれない。

しかし熟読すればわかるように,この学習内容自体が,問題解決のテーマとなっているの

である。本研究は以上の趣旨を踏まえて,授業展開を効果的なものにするため,協働学習

環境を提供するものである。

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第5章 協働学習支援環境

(3)協働学習支援システム3 【問題解決】

本システムは,計測・制御をテーマにし,プログラミングによる問題解決を学習内容

としている。開発した教材モジュールは,8つの独立した教材(ディジタルコンエンツ)

で構成されているので,学ぶ順番を変えたり,必要なものだけを選択して学習することが

できる。各モジュールの題材は,図 5.15 に示す通りである。

計測・制御をテーマにした問題解決

モジュール1:計測・制御

モジュール2:コンピュータ制御

モジュール3:シーケンス制御

モジュール4:フィードバック制御

モジュール5:プログラミング

モジュール6:アルゴリズム

モジュール7:ロボットプログラミング

モジュール8:課題

図 5.15 教材モジュールの内容

また,本システムのトップページを図 5.16 に示す。詳細については,本サイトを

参照されたい。

図 5.16 協働学習支援システム3【問題解決】のトップページ

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第5章 協働学習支援環境

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(4)協働学習支援システム4 【分析視点】

分析視点の養成に特化した学習手法として,二値応答接近法(BRAM:Binary

Response Approaching Method)がある(松原 2000a)。本手法は,与えられたテーマか

ら連想して思い浮かんだ語句(連想語)に対し,それらを2つに分類するための視点を考

えることにより分析視点の育成を目指すもので,いわゆる「学習活動支援手法(学習展開

手法)」と言える。その手順は,連想して思い浮かんだ多くの語句(連想語)に対し,そ

れらを2分する質問(BRQ)をなるべく多く考えることが重要なステップとなる。次の

ステップは,考えだしたBRQに対して,それらをさらに2分する質問(BRQ)を考え

るというように,順次分類を繰り返すものである。

本システムでは,この手法を採用し学習者の自己教育力を向上させる手立てとして,

分析視点の養成を目的として,Web サイトを利用した学習展開を提案している。図 5.17

は,本システムのトップページの画面である。誌面の関係で説明を省略せざるを得ないが,

詳細については,該当のサイトを参照されたい。

図 5.17 協働学習支援システム4【分析視点】のトップページ

(5)その他

協働学習支援環境(CLSE)では,上記の他に,「インターネットにおける TCP/IP の

学習」,「情報メディア教育」,「論理式」などの教材例もある。また,MLab 上に展開する

各サービスを利用すれば,さらに効果的な学習形態が期待されると思われる。

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あとがき

本冊子のタイトルは,「情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境」とした。

まず,情報科教育のカリキュラムについては,教科「情報」の新設が確定した教育課程

審議会答申(1998 年)の時期から高等学校学習指導要領の改訂に伴う現在までの状況を

まとめて示した。その際のポイントは,教科「情報」の改訂を「情報学教育への移行」と

して捉えて展開している点である。ここでいう「情報学」とは,研究分野としてのそれで

はなく,幼・小・中・高の各段階における学校教育のカリキュラム(K-12)としての学

習内容を「情報学」と呼んでいるのである。

次に,学習支援環境としては,クラウド型知識基盤社会においては,学習内容も学習方

法も新しい枠組みが求められている(松原 2010b)。そこで,筆者は,協働学習支援環境

(CLSE: Collaborative Learning Supportive Environment)と名付けた Web サイト上

に,新しい学習内容として,情報学1~情報学3を提案するとともに,情報学教育に関す

る情報を発信し,同時に,各種の協働学習支援システムを提供している。

最後に,教科「情報」の名称表現について述べておきたい。本冊子を執筆する上で,困

ったからである。本教科が新設された頃は,既に情報という用語が一般名詞として使用さ

れていたので,教科であることを強調する意味で,カギカッコを付けて「情報」と標記し

たり,まさに明示的に,教科「情報」として表現していた。この表記法は現在でも使用さ

れているが,周知のごとく,教科「情報」には,普通教科としての「情報」と,専門教科

としての「情報」が設置されていたので,これらを区別する必要が生じたのである。そこ

で,前者を普通教科「情報」,後者を専門教科「情報」を標記されたのである。しかし,

問題は,これらが改訂された時に生じた。改訂後は,普通教科という表現から共通教科と

いう表現に変更された(専門教科では変更はない)。そして,高等学校学習指導要領解説

情報編(文部科学省 2010)では,これらは,共通教科情報科,及び,専門教科情報科,

というように,カギカッコを付けないで表記されたのである。

文部科学省の視学官である永井克昇先生によれば,文献(永井 2009,2010a,2010b,

2011)では,カギカッコ付の共通教科「情報」と表記され,また文献(永井 2012)では,

共通教科情報科という表記となっている。したがって,正しいのはどちらかということで

はなく,普通教科と共通教科の両方を対比して記述する場合はカギカッコ付で,共通教科

のみを記述する場合は,カギカッコ無しで表記すると良いと判断できるだろう。

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謝辞

本研究の遂行にあたっては,松原研究室に所属する院生・学生及び修了生・卒業生の

方々に協力を頂きました。特に,第5章の協働学習支援システム1(相互評価)について

は,井関雅裕氏(滋賀大学大学院教育学研究科情報教育専修松原研究室修了)に,協働学

習支援システム2(合意形成)については,横山成彦氏(滋賀大学大学院教育学研究科情

報教育専修松原研究室2回生)に,協働学習支援システム3(問題解決)については,千

田隆太氏(滋賀大学大学院教育学研究科技術教育専修松原研究室2回生)に,協働学習支

援システム4(分析視点)については,望月翔平氏(滋賀大学教育学部情報教育課程松原

研究室4回生)に,協働学習支援システム5(情報学の基礎教材)については,清水雄仁

氏(滋賀大学大学院教育学研究科情報教育専修松原研究室2回生)に,それぞれ協力を頂

きました。上記の各氏に感謝の意を表します。

なお,本研究の一部及び本冊子の作成に際しては,科学研究費補助金基盤研究(C)

(研究代表者:松原伸一,課題番号:21500897)の助成を受けた。

本冊子は,「はじめに」において述べたように,研究代表者である筆者が,今までの研

究成果を再構築してまとめ直したものである。その意義は,本研究の性格上,学校現場に

勤務する教員の皆様を始め,今から教師になろうとする学生を始め,多くの方々を読者と

して想定しているので,わかりやすく体系的に記述することを念頭に置いた点にある。

一方,本冊子では記述がなかったが,上記の科研費の研究分担者の鈴木真理子氏(滋賀

大学教授)及び齋藤浩文氏(滋賀大学教授)には,別途協力を頂いている。また,同じく

研究分担者の岩井憲一氏(滋賀大学准教授)には,上記2氏の開発教材を含め,岩井氏自

身の教材をまとめて頂いた。これらは,岩井氏の Web サイトに掲載されている。この場を

お借りして,感謝の意を表明いたします。

また,最後になりましたが,上記に記した以外の方々にも各所にて協力を頂いたことを

記して,関係の皆様に重ねてお礼を申し上げます。

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※この冊子は,科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号:21500897)の助成 を受けて作成したものである。

情報科教育のカリキュラムと

その学習支援環境

発行日 2012 年 3 月 1 日 発行者 松原伸一(滋賀大学教授)

〒520-0862

滋賀県大津市平津 2-5-1

滋賀大学教育学部松原研究室内

情報学教育研究会(SIG_ISE) http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/

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情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境

情報科教育のカリキュラムとその学習支援環境情報科教育のカリキュラムと

その学習支援環境情報科教育のカリキュラムと

その学習支援環境