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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える/今後のIT 対応のポイント ムーディーズ・アナリティックス ディレクター 野 裕 [email protected] 201310

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える/今後のIT

対応のポイント

ムーディーズ・アナリティックス

ディレクター

水 野 裕 二

[email protected]

2013年10月

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

1.バーゼル諸原則に示されたベスト・プラクティスのポイント

2.流動性リスク管理システムを構築する際のポイント

3.ITソリューションのイメージ

4.まとめ

目次

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

1.「バーゼル諸原則」

• バーゼル銀行監督委員会が2008年9月に公表した流動性リスク管理に関する諸原則

「健全な流動性リスク管理及びその監督のための諸原則」

2.「LCRテキスト」

• バーゼル銀行監督委員会が2013年1月に公表したLCR規制に関する文書

「バーゼルⅢ 流動性カバレッジ比率と流動性リスクモニタリングツール」

3.「米国ガイドライン」

• 米国のFRB等の監督当局が連名にて2010年3月に公表した流動性リスク管理のガイダンス文書

“Interagency Policy Statement on Funding and Liquidity Risk Management”

4.「米国新基準案」

• ドッド=フランク法の規定に基づき、米国FRBが2011年12月に公表した大手金融機関向けの健全

性基準の規則案のうち、流動性リスクに関する管理基準案

“Enhanced Prudential Standards and Early Remediation Requirements for Covered

Companies”

5.金融庁による諸規制文書

• 金融モニタリング方針、平成25事務年度主要行等向け監督方針、金融検査マニュアル、等

本資料で参照している流動性リスク規制文書

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

1.バーゼル諸原則に示されたベスト・プラクティスのポイント

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

1.流動性リスク許容度はリスクアペタイト・フレームワークの一部として位置付

けなければならない

2.流動性リスクに関する戦略は取締役会と上級管理職の責任において策定・

実施され、組織全体に周知されなければならない

3.流動性リスクは、すべての支店や業態が異なる子会社等を含むグループレ

ベルでモニタリングしなければならない

4.流動性ポジションはグループレベルの経営情報システム(MIS)によってタ

イムリーに報告されなければならない

5.流動性リスクの分析には、スタティックではなく、リスク間の相互作用を勘案

したダイナミックなシナリオが要求される

6.資金調達源の集中リスクをモニタリングしなければならない

7.流動性のコストやリスクは内部的なプライシング(FTP)や業績評価にイン

センティブとして織り込まなければならない

バーゼル委の流動性リスク管理諸原則のポイント(1)

(1)許容度

(2)戦略周知

(3)グループ管理

(4)MIS

(5)ダイナミックなシナリオ

(6)調達集中

(7)インセンティブ化

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

8.将来キャッシュフローを多面的に多くの切り口から測定しなければならない 9.流動性リスクの分析ツールや指標はフォワード・ルッキングなものでなければならない

10.キャッシュフロー予測においては顧客行動モデルが要求される 11.キャッシュフロー予測ではオフバランス及び偶発的な負債に関連する潜在

的なキャッシュフローを予測する必要がある 12.外貨流動性については個別に戦略を分析すべきである 13.早期警戒指標による流動性リスクのモニタリング体制も構築しなければな

らない 14.日中流動性も管理しなければならない 15.ストレステストは多様なシナリオ前提をおいて実施しなければならない 16.資産を担保能力の観点から洗い直し、担保ポジションを管理しなければな

らない 17.高品質の流動性資産による流動性バッファーを維持しなければならない

バーゼル委の流動性リスク管理諸原則のポイント(2)

(8)多面的将来CF

(9)フォワード・ルッキング

(10)顧客行動

(11)潜在的CF

(12)外貨流動性

(13)早期警戒指標

(14)日中流動性

(15)ストレステスト

(16)担保ポジション

(17)流動性バッファー

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理のベスト・プラクティス(17項目)の規制イニシアティブにおける位置関係

LCR規制

NSFR規制

流動性リスク管理のベスト・プラクティス

(諸原則に基づくLiquidity at Risk管理)

LCRを補完する

流動性モニタリング・ツール

リスクアペタイト・フレームワーク

日中流動性

(1)許容度 (2)戦略周知

(3)グループ管理 (4)MIS (5)ダイナミックな

シナリオ

(6)調達集中

(7)インセンティブ化

(8)多面的な将来CF分析

(9)フォワード・ルッキングな管理

(10)顧客行動

(11)潜在CF

(12)外貨 流動性

(13)早期警戒指標

(14)日中

流動性

(16)ストレステスト

(15)担保

ポジション (17)流動性 バッファー

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

2.流動性リスク管理システムを構築する際のポイント

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

金融機関の状況に応じて、ベスト・プラクティスは異なる

バーゼル諸原則があくまでも「原則」であって、全ての金融機関に強制的に適用されるものではないように、リスク管理のベスト・プラクティスは各金融機関の状況に応じて異なり得ます。

たとえば、大手金融機関を対象とした米国新基準案においても、以下のような記述が見られます。

流動性リスク許容度、キャッシュフロー予測の詳細さ、流動性ストレステスト等々を検討する際には、対象会社の資本構造、リスク・プロファイル、複雑さ、業務内容、規模、その他のリスクファクターが考慮されるべきである。

次ページ以降では、流動性リスク管理システムを構築する際のポイントを列挙していますが、全ての項目について全ての金融機関に対して同じ水準が要求されるとは限らない、ということをご承知おき下さい。

流動性リスク管理システムを構築するポイントとしては、「流動性残高を把握しなければならない。」といった当然の項目は省略し、対応に困難さが予想される項目に絞ってリストアップしました。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理のITシステム要件の諸断面/まとめ

本社

海外現法

国内支店

関連会社

海外支店

円貨

外貨

管理部門 取締役会 上位経営層

経営情報システム(ダッシュボード)

データ集計

KPI表示

リスク算定

CF展開&予測

ストレステスト

顧客行動 早期警戒指標

タイムホライズン(日、週、月、四半期、年)

ガバナンス 管理手法(メソドロジー) 管理スパン 管理機能

ダイナミックな前提条件に基づく 将来キャッシュフロー予測

報告頻度Up

流動性インセンティブ(FTP等)示達

LCR規制計算 多様なシナリオに基づくストレステスト

日次

リミット管理状況

資産種類

担保状況

規制掛目

市場流動性前提

顧客行動前提

内部格付

取引相手

市場データ&シナリオ

データ 属性

週次 月次 四半期

データ統合

システム

流動性システム

ALMシステム

経営情報システム(ダッシュボード)

ソースデータ群 流動性リスク管理に必要な最低限のITコンポーネント

(ここでは規制対応システムが流動性システムに含まれる)

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、国内外のリーガル・エンティティをまたがるグループレベルでのデータ・情報収集に対応しなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

銀行と銀行以外の法人が同一グループに含まれている場合は(中略)グループレベルの流動性管理を行うべきである。」(原則3)

「銀行は、活動している地域におけるすべての法人、支店および子会社について、自らが晒されている流動性リスクを定義し、把握すべきである。」(原則5)

「経営情報システムによるすべての通貨の流動性ポジションの計算は、自行が活動しているすべての法域の子会社や支店について単体ベースで行うとともに、グループ合算ベースでも行うべきである。」(原則5)

【米国ガイドラインの規定】

組織構造の如何を問わず、金融機関が流動性リスクを個々の法人レベルとグループ全体の両方でモニターし、コントロールすることは重要である。その際、流動性リスクのグループ全体での観点を得るために、複数のシステム間のデータを統合するプロセスを導入することも重要である。

【LCRテキストの規定】

金融機関は主要通貨でのLCR以外に、その他の重要な通貨ごとのLCRを把握すべきである。(194項)

【日本/主要行等向け監督方針の規定】

経営判断や当局への報告に必要となる情報がグループ全体で迅速に集計・報告できるよう、システム整備等に向けた計画の策定・実施を促していく。

注:流動性リスクに限定された規定ではありません

【日本/検査マニュアルの規定】

拠点・通貨毎のみならず統合的に管理すること

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、グループレベルの経営情報システム(MIS)機能を保有し、タイムリーに状況を経営層へ報告できるようにしなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

「銀行は、取締役会、上級管理職及びその他の適切な担当者に、流動性ポジションについての適時で先を見越した情報を提供するように構築された信頼性の高い経営情報システムを有するべきである。」(原則5)

「経営情報システムによるすべての通貨の流動性ポジションの計算は、自行が活動しているすべての法域の子会社や支店について単体ベースで行うとともに、グループ合算ベースでも行うべきである。」(原則5)

【米国新基準の規定】

組織ストレステストの結果を信頼できるものとするために高品質のデータと情報を使用することが求められる。データ・情報管理を効果的に実施するための経営情報システム(MIS)を維持しなければならない。

ここでは「経営情報システム」という言葉に限定して、言及箇所を選びました。当然ながら、流動性リスク管理に関する全般的なシステム構築の重要性についての記載は、どの規制を見ても枚挙にいとまがありません。

【日本/主要行等向け監督方針の規定】

リスク管理を適切に実施していく上では、グループ一体でのデータ集計能力の強化等を通じた経営情報システム(MIS)の高度化が必要不可欠である。

注:流動性リスクに限定された規定ではありません

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、日次から長期に至る、様々なタイム・ホライズンでのキャッシュフロー予測に対応しなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

流動性リスクを把握する際に用いるタイム・ホライズンについて、流動性需要及び資金調達力の日中の変化に対する脆弱性。短期・中期(1年以内)の日々の流動性需要及び資金調達力。より長期の(1年超)流動性需要。銀行内部の現金創出能力を大きく制約しかねないような事象、業務及び戦略に対する脆弱性など、日次、短期、中期、長期の多様な要因が考慮されるべき。

【LCRテキストの規定】

契約ベースのマチュリティ・ミスマッチについて、オーバーナイト、7日間、14日間、1、2、3、6、9か月、1、2、3、5年及び5年超について把握すべき。(178項)

【米国新基準の規定】

キャッシュフロー予測のタイムホライズンは対象会社の資本構造、リスク特性、複雑さ、業務、規模、その他のファクターに照らして適切な短期と長期の期間で実施されるべきである。

将来キャッシュフロー予測は業務ライン、法人格、法域の別に細分化され、短期と長期の2種類のみならず、それ以上の期間に分けて実施することが求められることもある。

上記のタイムホライズンの議論は「報告頻度」の議論に直結します。日次流動性リスク管理の重要性も全ての規制文書で指摘されています。日次流動性リスクについては規制化のイニシアティブが別途進んでいます。また、LCRについてはストレス状況下では週次・日次での報告ができる能力を備えるべき、との規定がLCRテキストにあります。

【日本/検査マニュアルの規定】

日次の資金繰り及び週次、月次、四半期ベースの資金繰り見通し

運用・調達の通貨別・商品別・期間別の構成

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、ダイナミックなシナリオ前提に応じたキャッシュフロー分析やストレステストに対応しなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

銀行は負債から生じるキャッシュフローを見積もる際に、資金調達源の「粘着性」を評価すべきである。「粘着性」 とは、ストレス状況下でもすぐには逃避しない傾向のことである。」(原則5)

「銀行はストレステストで他の市場参加者が市場ストレス事象に対してどのような行動を取ると考えられるか、また、市場参加者が同一の行動を取ることによって市場の動きがどの程度増幅され、市場の緊張がどの程度高まるかを考慮すべき。銀行は、自らの行動が他の市場参加者に及ぼす影響をも考慮すべき。」(原則10)

【LCRテキストの規定】

(契約上のマチュリティベース管理とは別に)通常時とストレス時における顧客行動上の予測も勘案した上で資金流出・流入の分析も行うべき。

【米国新基準の規定】

契約上のマチュリティに基づく「スタティック」な予測は潜在的な流動性リスクを不適切に定量化するおそれがある。将来のアセット、負債、オフバランスシート項目の行動(Behavior)に関する予測を含む「ダイナミック」な予測の方がはるかに有用である。対象会社はこれらの予測を行うための強固なメソドロジーを開発し、適切に文書化しなければならない。

バーゼル諸原則では顧客行動前提のほか自社行動と市場要因との間の関係に着目しています。また、LCRテキストでは契約マチュリティ・ベース管理を基本としつつ、顧客行動を勘案した分析も行うべき、としているのに対し、米国新基準では資産・負債の将来の変化を勘案したダイナミックな予測の重要性を強調し、スタティックな分析よりも「はるかに有用」としています。

【日本/検査マニュアルの規定】

流動性リスクに影響を与える要因として、内生的要因・外生的要因を特定しているか。信用・市場・オペリスクが流動性リスクへ与える影響を特定しているか。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、流動性リスク指標を早期警戒指標として使用するために広範な過去データを保有しなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

銀行は、流動性リスクポジション又は潜在的な調達需要に係るリスクや脆弱性が増大の兆しを示した場合に、これを把握しうる複数の指標を考案すべきである。」(原則5)

◎ 急速な資産の拡大。特に、それが潜在的に不安定な負債で調達されている場合。

◎ 資産又は負債における集中度の増大

◎ 外貨ミスマッチの拡大

◎ 負債の加重平均残存期間の短期化

◎ ポジションが内部的な限度や規制上の限度に接近したり、限度を超過したりする事例の頻発

◎ 特定の商品ラインに関する好ましくない傾向やリスクの増加(債務不履行の増加など)

◎ 銀行の収益、資産の質及び財務状況全般の顕著な悪化

◎ 否定的な評判

◎ 信用格付の格下げ

◎ 株価の低下又は負債コストの増加

◎ 負債又はクレジット・デフォルト・スワップのスプレッドの拡大

◎ ホールセール又はリテール調達コストの上昇

◎ 取引相手が信用エクスポージャーに担保を要求し始めたり追加担保を要求したりすること又は、取引相手が新たな取引を拒絶すること

◎ コルレス銀行によるクレジット・ラインの解除又は削減

◎ リテール預金の流出額の増加

◎ CD の期限前償還の増加

◎ 長期資金調達へのアクセスの困難化

◎ 短期負債(コマーシャル・ペーパーなど)の発行の困難化

【米国新基準の規定】

CFPは早期警戒指標を含まなければならない。

【日本/検査マニュアルの規定】

資金繰りの逼迫度区分

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理システムは、多様なシナリオ前提による多くのストレステストを月次で行わなければならない

【バーゼル諸原則の規定】

「銀行は、ストレステストの前提条件を保守的に設定すべきである。銀行は、シナリオのタイプや厳しさの度合いに応じて幾つかの前提条件を検討すべきである。」(原則10)

【米国新基準の規定】

流動性ストレステストは少なくとも月次で行わなければならない。市場ストレス、固有ストレス等を含むシナリオが最低限の要請。シナリオはフォワード・ルッキングでなければならず、市場変化と自社変化を勘案したダイナミックなものでなければならない。テストは多様なタイム・ホライズンについて実施されるべきであり、少なくともオーバーナイト、30日、90日、1年間に対応する必要がある。

◎提供を受けているコミットメント・ラインの利用可能性

◎複雑な商品又は取引に関連する流動性枯渇

◎信用格付トリガーの影響

◎外貨の交換可能性及び外為市場へのアクセス

◎法人間、部門間及び他国との間での流動性移転の可能性。法律上、規制上、事務上及び時差上の制限や制約の考慮

◎中央銀行ファシリティへのアクセス

◎資産の現金化に係る実務能力

◎善後策及び善後策を実行する上で必要な約定、実務能力及び経験の有無。それらの措置を取った場合に生じうる風評上の影響の考慮

◎将来のバランスシートの拡大に関する見積り

◎資産市場の流動性枯渇と流動資産の価値の毀損

◎リテール資金の逃避

◎有担保及び無担保のホールセール資金調達源の利用可能性(又は不可能性)

◎資金調達市場間の相関又は資金調達源の分散化の有効性

◎追加的なマージン・コールと担保要請

◎資金調達の条件

◎偶発債務、特に、第三者や子会社・支店・本部に提供しているコミットメントが引き出される可能性

◎オフバランスの特別目的会社及びオフバランス活動(コンデュイットへの資金供与を含む)によって使われる流動性

【日本/検査マニュアル】

複数のストレスシナリオ等による影響度評価

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

3.ITソリューションのイメージ

ムーディーズ・アナリティックスがご提供しているソフトウェアを題材にご紹介させて頂きます。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

グループレベルでのデータ・情報収集に必要となるデータ・ウェアハウジング・システム

「金融グループ・レベル」での流動性リスク情報を集計するためには、高度に設計されたデータウェア・ハウジング・システムの設計が必須となります。

データ・ウェアハウジング・システム

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理に必要なデータ・ストラクチャーを構築する

カウンターパーティー定義のマッピング

取引定義のマッピング

管理もしくは規制上の資産区分 銀行 ref

銀行 ref

規制上の資産

ソブリン向け債権

コーポレート向け債権

SME向け債権

株式ポジション

規制ref

債権

債券

CDS

規制ref

ソブリン

コーポレート

PSE

リテール向け債権

銀行向け債権

流動性管理に必要な各種データ項目を整備します。LCR規制であれば、社内のデータ定義と規制上のデータ定義のマッピングを行えるインフラを構築します。カウンターパーティーと取引のデータを整備し、標準化することが最も重要なポイントになります。

規制に限らず、独自の流動性管理に必要な全データ項目を定義します。

ソフトウェアのUI上で必要な全データへのアクセスを確保します

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

データ・ウェアハウジング・システムと経営情報システム(MIS)を連動させる

経営情報システムの中でも、リスク状況を上位経営層にスピーディーかつタイムリーに伝達するインフラは「ダッシュボード」と呼ばれます。効果的な経営情報システムを構築するにはデータ・ウェアハウジング・システムとの連動が不可欠です。

各部門のリスク情報

経営情報システム

【ダッシュボード・システム】

取締役会・上位経営層・Cレベル役員

データ・ウェアハウジング・システム

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性管理に必要な情報を一か所に集約する

LCR規制に必要な項目はカウンターパーティー情報、取引情報、アセットクラス分類情報、リスクカテゴリー(内部格付)情報、バーゼル規制上のリスクウェイト情報などになります。これらをALM、流動性、バーゼル規制対応などのリスク分野別ではなく、統合的なデータベースとして集約します。

グループレベルでの集計が必要なことは言うまでもありません。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

必要な情報を一か所に集約した後、管理に必要な項目を計算する

必要なデータを集約し、LCR上の適格流動資産(HQLA)や資金流入/流出などの計算を行うプロセスを構築します。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

リスク管理の失敗の多くは事務ミスやデータ検証の不備から発生 =監査証跡や事後検証へ対応する機能をもっていること

計算プロセスの再現やプロセスの追跡に容易に対応できるIT機能が必須です。

計算プロセスで使用されたデータを監査目的でトレースする機能

計算に使用された各データ項目をドリルダウンする機能

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

構築されたリスク管理用データベースを元に、さらに進んだ流動性リスク管理を展開

LCR規制への対応ソフトウェアおよびデータベースを、ALMソフトウェアと組み合わせることにより、さらに発展的な管理が可能となります。

流動性管理のために構築したデータベースを活用し、ALMソフトウェア上で契約ベースのキャッシュフロー予測や顧客行動ベースのキャッシュフロー予測を算出します。

取引レベルのデータを活用して、キャッシュフロー・データを生成します。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

ALMソフトウェアのキャッシュフロー展開能力を活用し、LCR及び流動性指標にストレステストを実施します

流動性管理に使用するリスクパラメータを変動させることにより、ストレステストを行います。ALMソフトウェアを活用した高度なキャッシュフロー展開が必要です。

シナリオセットA

シナリオ2

バランスシート予測

顧客行動モデル

市場レート シナリオ1

フラット推移前提

契約ベース

ベースシナリオ

バランスシート予測

顧客行動モデル

市場レート

+10% 成長

預金モデル

+100bp シフト

【シナリオセット】 【シナリオ】 【リスクパラメータ】 【適用モデル】

適用されるストレステストのリスクパラメータとモデル(あるいは前提)をALMソフトウェアに投入し、キャッシュフロー展開します。

ムーディーズ・アナリティックスのALMソフトウェアでは複数のリスクパラメータを動かしてキャッシュフロー展開することが可能です。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

顧客行動(Client Behavior)をモデリングする バランスシート・マネジメントへの発展

資金キャッシュフローの予測において、契約ベースとは別に顧客行動モデルベースの予測を行う手法は、すでにグローバルな大手金融機関でベスト・プラクティス化しています。

アセット・サイドはプリペイメントによってキャッシュフローが前倒しに

ライアビリティ・サイドはロールオーバーによってキャッシュフローが後倒しに

契約ベースで把握されているキャッシュフロー

顧客行動モデルによって把握される期待キャッシュフロー

ムーディーズ・アナリティックスのALMソフトウェアは、この機能を標準装備しています。

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

ALMソフトウェアの調達コスト管理機能を活用し、流動性プレミアムをFTP管理(ファンド・トランスファー・プライシング)に反映させます

FTP

商業的利鞘

信用スプレッド

オプションスプレッド

流動性スプレッド

偶発的流動性スプレッド

調達レート

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

4.まとめ

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流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える

流動性リスク管理のIT対応のポイント/まとめ

今号では今までに調査した流動性リスク管理のベスト・プラクティスを踏まえ、IT

対応の主なポイントについて検討しました。LCR規制への対応に目が行きがち

な中で、ベスト・プラクティスを目指すための視点はより広い範囲に及ぶべき、と

いう点を指摘させて頂きました。

【補論:今後の流動性リスク規制に関するもう1つの注目点】

米国では、流動性リスクに関する金融当局によるマクロ・フィナンシャルなストレステストが実現するのでは、と噂されています。これは、CLAR(Comprehensive Liquidity Assessment & Review)と呼ばれ、資本水準を対象に行われたストレステストであるCCARの流動性リスク版とのことです。2013年9月末現在で米国当局による公式の発表はありませんが、実現すれば流動性リスクについてもストレステスト手法に関して大きな進展があるものと予測されます。

Page 30: 流動性リスク管理のベスト・プラクティスを ... - …...2014/10/14  · 流動性リスク管理のベスト・プラクティスを考える/今後のIT 対応のポイント

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