情報産業 1998 -...

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情報産業 1998 ◎解説の角度〔1998 年版 情報社会〕 ●インターネットは、新聞でその文字を見ない日がないくらい生活にとけ込んできた。職場、大学、家庭でも活発にとり入れられ、ホームページから通信教育 サービス、商取引、決済と利用方法も拡大した。日本の場合、人口一○○万人当たりの普及率は世界第一七位と立ち遅れているが、それでもインターネットの 利用者は推定五○○万人に増えた。 ●ネットワーク社会の到来で、世界が共通して抱えている事柄が二つある。一つは、WTOの通信自由化交渉合意、OECDの電子商取引の推進提案等にみら れる世界規模のネットワーク化に備えた国際ルールづくり、そして自国ルールと世界ルールをどう整合させていくかという点である。もう一つは、情報社会に ありがちな急上昇中の電脳犯罪対策である。日本でもネットワーク上での定期検診データ漏洩、薬物の取引、詐欺、名誉棄損など新たな事態が派生、社会問題 化している。 ●世界の水準に比べ、やや水をあけられている日本は、国際競争力をつけるためのネットワーク振興策を図る一方、国際協調体制の確立、情報倫理教育の徹底 などさまざまな課題を背負って二一世紀に向かうことになる。 ★1998年のキーワード〔1998 年版 情報社会〕 ★サイバービジネス(cyberbusiness)1998 年版 情報社会〕 ネットワーク上でデータをやりとりしたり、仮想現実をつくって、客に種々の利用をしてもらうコンピュータ時代の新しいビジネス形態。仮想商店街(バーチ ャルモール)がその代表例。これはネットワーク上に商店街を出現させて商店、商品を選びながら買い物できるシステム。ビジネスの他にも仮想大学など各種 の仮想社会ができているが、プライバシーの保護が課題となっている。たとえば仮想商店街では、客が立ち寄った店名や回数記録(アクセスログ)などの個人 情報が外部に流れ、DM用に無断で使われる類の問題がある。そこで郵政省の関連団体としてサイバービジネス協議会がつくられ、プライバシー保護のガイド ラインを作成し、適正なビジネス活動を推進している。 ★サイバースクール(cyberschool)1998 年版 情報社会〕 世界中の小中学生がインターネットのホームページでいろいろなテーマについて意見交換する世界規模の仮想電子学校。NECが一九九七(平成九)年開校し た。参加校は日本、アメリカ、イギリス、ロシア、中国など一六カ国の二一校。科学、文化など幅広いテーマを生徒同士が討論したり、講師の著名な学者が解 説したりして知識と交流を深めるのがねらい。 ★スモールオフィス・ホームオフィス(SOHO)(Small Office Home Office)1998 年版 情報社会〕 パソコンを使ってマンションの一室や自宅でビジネスをする新しい職業形態。ワンルームを借りて、パソコン一台を置き、新事業を始めている人も増え出して いる。もともと一九八○年代、企業合理化に伴う失業者の増加とパソコン普及によってアメリカで活発になったといわれ、アメリカではSOHO人口は五○○ ○万人と推定されているが、日本でもバブル崩壊後の企業のリストラによって、組織からの離脱が目立ち、SOHO志向が強まっている。インターネットなど を使って情報、ノウハウを共有して事業を進める方法が多い。家庭にあるパソコンで内職をして、その結果をメールで送るパソコン内職も主婦の間で広がりつ つある。ともに一種のテレワークといえる。 ★ワクチン・バンク(vaccine bank)1998 年版 情報社会〕 コンピュータ・ウイルス対策の組織。ソフトバンクとワクチンソフトの大手、トレンドマイクロ社が、大量にパソコンを使う大企業向けにウイルス撃退を目的 につくった。コンピュータ・ウイルスは年々増え続け、一九九○(平成二)年には一四件だったのが九七年には二○○件にのぼっている。企業にとってはコン ピュータのデータを破壊されるので大きな問題となっている。ワクチン・バンクはウイルス対策に悩む企業が共同で撃退にあたる組織で、一○○○台以上のパ ソコンなどがある企業を対象に有料でアドバイスをしたり、ウイルスが侵入した場合は、撃退チームを編成して派遣、対応に当たる。各社がノウハウを出し合 って協議をしたりもする。コンピュータを利用した電脳犯罪(コンピュータ犯罪)や、ウイルスを増殖したり、電子会社を混乱させるハッカー(コンピュータ・ システムに侵入する破壊者)対策は世界共通の問題となっている。 ★発信電話番号表示サービス〔1998 年版 情報社会〕 電話をかけてきた相手側の電話番号を着信者側の電話機にディスプレー表示する有料電話サービス。迷惑電話防止策のためにNTTが一九九七(平成九)年一 月から横浜、名古屋、福岡の三市でスタートさせた。九八年度中には全国に普及の予定。液晶の表示画面を備えた新しい電話機をとりつけるか専用アダプター を接続すればいい。発信者が自分の番号を知られたくない場合は、あらかじめ「全番号非通知」か「通話ごと番号非通話」(番号は 184)を選ぶ。 迷惑電話の被害経験者は、同サービスの個人利用者中八二%(NTT調べ)になっているため七○年代から郵政省、NTTが防止策を検討してきた。米英では 九○年代に実施、イギリスでは迷惑相談が二割程度減ったという。しかし、一方で発信側の番号が自動的に知られてしまう危険性もある。匿名でかけた電話な のに身元がわかってしまったり、個人情報がデータに蓄積され、情報として売買されるプライバシー侵害の恐れを指摘する声も多い。郵政省の電気通信審議会 でも個人情報の保護のためのガイドラインを作成している。 ★インターネット国際電話〔1998 年版 情報社会〕 インターネット網と一般国際電話回線を接続した国際電話サービス。郵政省が一九九七(平成九)年八月から解禁した。インターネットを利用してつなぐので、 国際間の料金精算も不要になり、料金は現行の九分の一まで安くなる。たとえば日米間の通話料金はKDD(国際電信電話)の場合は平日の昼間では三分四五 ○円が五○七○円程度になる。ただし音質や通話速度がやや劣り、利用地域も限られる。 NTTの一般電話回線(公衆回線)→KDDなどから借り受けている国際回線(専用回線)→相手国の回線(公衆回線)とつなげるのを「国際公専公サービス」 といい、これはまだ解禁になっていないが、インターネット国際電話は国際公専公サービスの前段措置として認められた。国際公専公サービスも九七年中には 解禁の見通し。 ▲情報社会の基礎概念〔1998 年版 情報社会〕 インターネット、パソコンが普及したといっても、日本は世界に比べてまだ情報後進性が指摘されている。情報社会が高度になっているのは間違いないが、量 的にも質的にも国としてのしっかりした情報社会に対する理念確立が必要である。情報流通の均一化、情報公開制度整備、国民の意識改革など、もう一度基本 に立ち返って見直さなければならない。 ◆都市の情報化度〔1998 年版 情報社会〕

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情報産業 1998 ◎解説の角度〔1998年版 情報社会〕 ●インターネットは、新聞でその文字を見ない日がないくらい生活にとけ込んできた。職場、大学、家庭でも活発にとり入れられ、ホームページから通信教育

サービス、商取引、決済と利用方法も拡大した。日本の場合、人口一○○万人当たりの普及率は世界第一七位と立ち遅れているが、それでもインターネットの

利用者は推定五○○万人に増えた。

●ネットワーク社会の到来で、世界が共通して抱えている事柄が二つある。一つは、WTOの通信自由化交渉合意、OECDの電子商取引の推進提案等にみら

れる世界規模のネットワーク化に備えた国際ルールづくり、そして自国ルールと世界ルールをどう整合させていくかという点である。もう一つは、情報社会に

ありがちな急上昇中の電脳犯罪対策である。日本でもネットワーク上での定期検診データ漏洩、薬物の取引、詐欺、名誉棄損など新たな事態が派生、社会問題

化している。 ●世界の水準に比べ、やや水をあけられている日本は、国際競争力をつけるためのネットワーク振興策を図る一方、国際協調体制の確立、情報倫理教育の徹底

などさまざまな課題を背負って二一世紀に向かうことになる。 ★1998年のキーワード〔1998年版 情報社会〕

★サイバービジネス(cyberbusiness)〔1998年版 情報社会〕 ネットワーク上でデータをやりとりしたり、仮想現実をつくって、客に種々の利用をしてもらうコンピュータ時代の新しいビジネス形態。仮想商店街(バーチ

ャルモール)がその代表例。これはネットワーク上に商店街を出現させて商店、商品を選びながら買い物できるシステム。ビジネスの他にも仮想大学など各種

の仮想社会ができているが、プライバシーの保護が課題となっている。たとえば仮想商店街では、客が立ち寄った店名や回数記録(アクセスログ)などの個人

情報が外部に流れ、DM用に無断で使われる類の問題がある。そこで郵政省の関連団体としてサイバービジネス協議会がつくられ、プライバシー保護のガイド

ラインを作成し、適正なビジネス活動を推進している。 ★サイバースクール(cyberschool)〔1998年版 情報社会〕 世界中の小中学生がインターネットのホームページでいろいろなテーマについて意見交換する世界規模の仮想電子学校。NECが一九九七(平成九)年開校し

た。参加校は日本、アメリカ、イギリス、ロシア、中国など一六カ国の二一校。科学、文化など幅広いテーマを生徒同士が討論したり、講師の著名な学者が解

説したりして知識と交流を深めるのがねらい。

★スモールオフィス・ホームオフィス(SOHO)(Small Office Home Office)〔1998年版 情報社会〕 パソコンを使ってマンションの一室や自宅でビジネスをする新しい職業形態。ワンルームを借りて、パソコン一台を置き、新事業を始めている人も増え出して

いる。もともと一九八○年代、企業合理化に伴う失業者の増加とパソコン普及によってアメリカで活発になったといわれ、アメリカではSOHO人口は五○○

○万人と推定されているが、日本でもバブル崩壊後の企業のリストラによって、組織からの離脱が目立ち、SOHO志向が強まっている。インターネットなど

を使って情報、ノウハウを共有して事業を進める方法が多い。家庭にあるパソコンで内職をして、その結果をメールで送るパソコン内職も主婦の間で広がりつ

つある。ともに一種のテレワークといえる。 ★ワクチン・バンク(vaccine bank)〔1998年版 情報社会〕

コンピュータ・ウイルス対策の組織。ソフトバンクとワクチンソフトの大手、トレンドマイクロ社が、大量にパソコンを使う大企業向けにウイルス撃退を目的

につくった。コンピュータ・ウイルスは年々増え続け、一九九○(平成二)年には一四件だったのが九七年には二○○件にのぼっている。企業にとってはコン

ピュータのデータを破壊されるので大きな問題となっている。ワクチン・バンクはウイルス対策に悩む企業が共同で撃退にあたる組織で、一○○○台以上のパ

ソコンなどがある企業を対象に有料でアドバイスをしたり、ウイルスが侵入した場合は、撃退チームを編成して派遣、対応に当たる。各社がノウハウを出し合

って協議をしたりもする。コンピュータを利用した電脳犯罪(コンピュータ犯罪)や、ウイルスを増殖したり、電子会社を混乱させるハッカー(コンピュータ・

システムに侵入する破壊者)対策は世界共通の問題となっている。 ★発信電話番号表示サービス〔1998年版 情報社会〕

電話をかけてきた相手側の電話番号を着信者側の電話機にディスプレー表示する有料電話サービス。迷惑電話防止策のためにNTTが一九九七(平成九)年一

月から横浜、名古屋、福岡の三市でスタートさせた。九八年度中には全国に普及の予定。液晶の表示画面を備えた新しい電話機をとりつけるか専用アダプター

を接続すればいい。発信者が自分の番号を知られたくない場合は、あらかじめ「全番号非通知」か「通話ごと番号非通話」(番号は 184)を選ぶ。

迷惑電話の被害経験者は、同サービスの個人利用者中八二%(NTT調べ)になっているため七○年代から郵政省、NTTが防止策を検討してきた。米英では

九○年代に実施、イギリスでは迷惑相談が二割程度減ったという。しかし、一方で発信側の番号が自動的に知られてしまう危険性もある。匿名でかけた電話な

のに身元がわかってしまったり、個人情報がデータに蓄積され、情報として売買されるプライバシー侵害の恐れを指摘する声も多い。郵政省の電気通信審議会

でも個人情報の保護のためのガイドラインを作成している。 ★インターネット国際電話〔1998年版 情報社会〕

インターネット網と一般国際電話回線を接続した国際電話サービス。郵政省が一九九七(平成九)年八月から解禁した。インターネットを利用してつなぐので、

国際間の料金精算も不要になり、料金は現行の九分の一まで安くなる。たとえば日米間の通話料金はKDD(国際電信電話)の場合は平日の昼間では三分四五

○円が五○‐七○円程度になる。ただし音質や通話速度がやや劣り、利用地域も限られる。 NTTの一般電話回線(公衆回線)→KDDなどから借り受けている国際回線(専用回線)→相手国の回線(公衆回線)とつなげるのを「国際公専公サービス」

といい、これはまだ解禁になっていないが、インターネット国際電話は国際公専公サービスの前段措置として認められた。国際公専公サービスも九七年中には

解禁の見通し。 ▲情報社会の基礎概念〔1998年版 情報社会〕

インターネット、パソコンが普及したといっても、日本は世界に比べてまだ情報後進性が指摘されている。情報社会が高度になっているのは間違いないが、量

的にも質的にも国としてのしっかりした情報社会に対する理念確立が必要である。情報流通の均一化、情報公開制度整備、国民の意識改革など、もう一度基本

に立ち返って見直さなければならない。 ◆都市の情報化度〔1998年版 情報社会〕

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都市がどのくらい情報化されているかについて、郵政省が一九九七(平成九)年全国調査を実施、その結果を数値でまとめた。地域情報化の一○位までは、北

九州市(福岡県)、神戸市(兵庫県)、堺市(大阪府)、藤沢市、横浜市、川崎市、相模原市(以上神奈川県)、仙台市(宮城県)、名古屋市、豊田市(以上愛知

県)。 調査対象の都市は、三二五五の市町村と特別区。アンケートによる調査で、回収率は一○○%。調査項目は、総合デジタル通信網(ISDN)、光ファイバー

網の整備状況、ケーブルテレビ(CATV)のチャンネル数、役所と家庭のオンラインの進捗程度、遠隔医療サービス、防災無線の有無、公立学校のインター

ネット利用など三七項目にわたり、地域に情報化の選択肢がどのくらい整っているかを調べて数値化した。情報化が進んでいたのはルネッサンス構想で救急情

報システムや生活情報システムを推進してきた北九州市が八九点満点中六八点で一位、以下上記の都市が上位になった。東京都の特別区では新宿区が一二位、

墨田区が一三位にランクされた。最下位は沖縄県の南大東村でゼロ点。長崎、岡山、大分各県の町村も低かった。一○年前の情報化具合と比較すると、国土庁

が過疎地域に指定した一二○八市町村は、一○年前より二・一一倍伸びたが過疎地以外の地域は二・三四倍の伸びで、過疎地域との情報化格差が拡大している

様子がうかがわれる。 ◆情報民主主義(information democracy)〔1998年版 情報社会〕

情報に関する基本的な権利は、次の四つが柱。(1)プライバシーの権利(right of privacy)=私的な情報が他人に知られることから守る権利。(2)知る権利(right to know)=国民が国家機密などの情報を知ることができる権利。政府に情報開示を義務づける情報公開法はアメリカでは三○年以上の歴史をもち、連

邦政府関係だけでも、五○万件以上の情報が公開されている。(3)情報使用権(right to utilize)=あらゆる情報を自由に利用できる権利。国家や大企業の情報独占を防ぐ。(4)情報参加権(right to participate)=データベースなどの管理への参加、政府の重要な施策決定への参加権。(4)により国民の参加する直接民主主義が実現する。これら「知りたい」「知らせたい」「知られたくない」権利は、憲法の理念に基づく基本的な権利である。情報民主主義は、産業民主

主義に代わるものとされている。 ◆マルチメディア(multimedia)〔1998年版 情報社会〕

コンピュータ、電話、テレビを中心とする家電、エレクトロニクス製品などの産業がデジタルの世界で融合して新しい機能を生み出すメディア。次世代通信網

の代表として脚光を浴びている。アメリカが先行して開発を進めているが、日本でも急ピッチで実現のための準備が進められている。容量の大きい光ファイバ

ーを通して情報を送り、映像を伴ったさまざまな情報が双方向で利用できる。テレビで製品を紹介し、自宅にいながら買い物ができるテレビショッピング、テ

レビ電話を備えた端末を家庭と病院に設置しデジタル回線で結び、医者が患者の顔色や患部をみて診断するテレビ電話診療、パソコン通信を利用した在宅勤務

やテレコミューティング(通信勤務)、CD‐ROMと音響、映像を組み合わせた立体データベースなど幅広い応用が考えられ、一部はすでに実験され、実現

してもいる。 ◆ネオダマ〔1998年版 情報社会〕

技術革新の進むコンピュータ・システムの流れはネットワーク化、異なる機種間を接続するオープン化、機器を小型にするダウンサイジング化、そして文字、

音声、画像を合体させるマルチメディア化といわれる。この四つの頭文字をとってコンピュータ・システムの新しい技術の流れを「ネオダマ」という。現在ソ

フト業界は約六○○○社あり、四五万人が従事しているが、中小会社が多く競争も激しい。とくに「ネオダマ」関連の受注の急増で、仕事の内容も従来型が減

り、急速な「ネオダマ」型技術にどう対応していくかが課題となってきている。 ◆データベース(data base)〔1998年版 情報社会〕

膨大な情報を磁気テープやハードディスクなどの形でコンピュータに記憶させ、必要なときデータをすばやく取り出せるシステム。一九五○年代に、米国防総

省が全世界に配備した兵員、兵器、補給品を集中管理するためにつくったデータ基地が語源という。データベース構築機関であるデータバンク(情報銀行 data bank)が情報提供者(IPInformation Provider)から各種情報を受けたり、独自の情報を収集してコンピュータ化する。用途別ではこのデータを一般に有料

で提供する商用データベースと、企業や研究機関などがデータを集中管理し、企業、研究機関内だけで活用するインハウス・データベースに分けられる。 ◆インターネット(internet)〔1998年版 情報社会〕

各国のコンピュータ・ネットワークが互いに接続し合った世界規模のネットワーク。一九六九年米国防総省で始まったARPAネットが母体。九○年代になっ

て商用用途にも飛躍的に増大し、九六年現在、電子メールをやりとりできる国は約一五○カ国、接続されているコンピュータは約一○○○万台、利用者数は推

定一億人(日本は同五○○万人)。ひとつのコンピュータが全体を統括しているのではなく、それぞれのネットワークが共通したルールに従って独自に運営し

ている。インターネットの利用は画面で文書をやりとりする電子メールのほか映像、音声を使った受発信、検索もできる。インターネットへ接続するサービス

会社(プロバイダー)に一定の月額料金を支払い、専用回線を設置すれば海外とも自由にやりとりできる。国際電話回線と連結したインターネット国際電話も

スタートしている。リモコンで簡単操作できるインターネットテレビ、マルチメディア携帯電話、CATV回線を使って定額料金でのインターネット通信サー

ビスなど様々な対応が考えられている。しかし、世界的にみるとまだまだ日本は立ち遅れ、ホスト・コンピュータ台数は、七三万台でアメリカの一○一一万台

に比べ大幅に少なく、人口一○○万人当たりの普及率も世界第一七位と情報通信の後進性が指摘されている。社会的な問題も起きている。ホームページにポル

ノ画像を記録、提供して逮捕された例もその一つ。最近はデマ・メールや中傷も横行、名誉棄損問題に発展するなどフォーラム・トラブルが多発している。 ◆次世代インターネット(next generation internet)〔1998年版 情報社会〕

インターネット利用者にとって、悩みは接続しにくいことと、通信に時間がかかることである。この難点を通信衛星を使って解消する試みが始まっている。三

菱グループが出資している宇宙通信(SCC)の事業によるインターネット・ターボ・サービスで、第二世代のインターネットともいわれる。茨城県のオペレ

ーション・センターを通じ、インターネットの情報を通信衛星スーパーバードA号機に送り、宇宙から降らせる仕組みで、同社独自のサービスのほかプロバイ

ダー(インターネット接続業者)にも貸してサービスする。通信衛星を利用すれば、一定時間に転送できる情報を大量に処理でき、時間のかかる動画、写真も

早く転送できる。利用者は同社を経由して通信衛星にアクセスすればよく、待つこともなく常時パラボラ・アンテナから情報をキャッチ、パソコンに取り入れ

ることができる。パラボラ・アンテナとデコーダー(三万円程度)があればよいという。同社は転送時間短縮のため電話回線の約一○○○倍の早さで情報を送

れるシステムも開発、今後、接続しにくい悩みもなくなるばかりか、インターネット利用の電子新聞、電子出版も可能となりそう。

◆イントラネット(intranet)〔1998年版 情報社会〕 インターネットを社内の通信網に活用する社内インターネット推進計画。社内独自の通信網のLANとインターネットを結びつけるので、イントラ(内部)ネ

ットと名づけて、活用する企業もふえてきた。たとえばパソコン画面に、社内ホームページを設け、商品情報や社内連絡事項を掲示し情報の一元化をはかる。

インターネットで使用される共通の通信手段なので社内ばかりか外部からでも社内情報が得られるほか、インターネットで普及しているソフトを使えばパソコ

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ン会議もできる。ただインターネットは外部からでも接続できるので、極秘情報、機密情報の漏れを防ぐのが課題で、企業独自のパスワードをつくっていると

ころもある。 ◆携帯情報端末〔1998年版 情報社会〕 電子手帳とパソコン、通信機器が融合した携帯情報端末がさまざまなアプローチから開発されている。共通した機能としては、(1)PIM(Personal Information

Manager)と呼ばれるスケジュール、住所録、メモなどの個人の情報を管理する電子秘書機能、(2)携帯電話やPHSなどを通じて電子メールやインターネット、社内LANへのリモートアクセスなどを行う通信機能を持つ。

◆ウインドウズCEマシン〔1998年版 情報社会〕 携帯端末や各種民生機器用OSとしてマイクロソフトが提唱するウインドウズCEを搭載した携帯端末が一九九七(平成九)年六月から発売された。重さは四

○○グラム以下で電池での稼働時間も二○‐四○時間と携帯に適している。通常のウインドウズマシンとのデータ互換性も高い。

◆PDA(Personal Digital Assistants)〔1998年版 情報社会〕 アップル社の Newton Message Pad、米ロボティックス社のパームパイロット、日本でヒット商品になったシャープのザウルスなどいわゆるPDAと呼ばれ

る機器。キーボードではなく手書き認識で文字を入力するタイプが主流である。 PDAはアップル・コンピューター社が九二年一月に提唱した個人向け情報機器の概念。

◆モバイルNC〔1998年版 情報社会〕 ネットワーク・コンピュータ(NC)をモバイル仕様に適応させたもの。日米の一一社が共同で開発し、数年後の実用化を目指している。インターネットなど

のネットワークを通じて Java アプリケーションなどを受け取り実行する。

携帯する機器にアプリケーションや情報をインストールしておく必要がなくなり小型軽量化にとってメリットが大きい。 ◆PHS(Personal Handy-phone System)〔1998年版 情報社会〕

九五年からサービスが始まった簡易型の携帯電話。携帯電話より利用料が割安なこともあり急速に普及している。PHSは半径一○○メートル程度をカバーす

る小型のアンテナを多数配置することで小型化、小電力化を実現、また地下街などでも使用が可能となる。半面、走行中の車や電車では通話できないことや現

状では通話範囲が限定されていることが難点である。

PHSを使用したデータ通信の統一規格であるPIAFS(ピアフ)やDDIのαDATA32 という通信サービスでは三二キロビット/秒のデジタル・データ通信が可能で、携帯情報端末としてのPHSが注目されている。イギリスやアメリカでも同じようなシステムの簡易携帯電話が開発されており、PCS

(Personal Communication Services)と呼ばれる。 ◆携帯電話〔1998年版 情報社会〕

携帯電話でのデータ通信は従来九六○○ビット/秒だったが、NTTドコモは DoPa(ドゥーパ)という二八・八キロビット/秒のパケット通信サービスを開始した。パケット通信のため送受信したデータ量に応じた課金となり、受信後の読んでいる時間は通信料がかからないメリットがある。またマスターネット

との間で電子メールを一○○○字までは一○円の固定料で送れるという「一○円メール」サービスを開始した。

◆電脳博物館(digital museum)〔1998年版 情報社会〕 これまでガラスケースに陳列され、眺めるだけだった収納物に、さわったり、音を確かめたり、喪失したものを再現できるコンピュータ技術によるデジタル・

ミュージアム。東京大学総合研究博物館に誕生した。東大に保管されている六○○万点の学術資料をすべてデジタル化して、コンピュータを通じて自由に触れ

てもらおうとの試み。慶応大学でも図書館に収蔵されている稀覯本を情報機器に読みとってコンピュータに格納、パソコンで公開する研究を進めている。 その他ビデオ、パソコンを使って芸術品を映像、音声で表現する電子アート博物館(NTTインターコミュニケーション・センター)やインターネット上の仮

想美術館もある。 ◆テレワーク(telework)〔1998年版 情報社会〕

郵政省の計画。ネットワークを使い、出勤しなくても自宅や他の場所で、本省にいるときと同じ内容の仕事をすることができるという勤務形態。テレワーク方

式が定着すれば、一般社会にも波及し、通勤混雑も解消、地方の雇用機会の拡大、身体障害者の就労増進にも役立つといわれる。一九九五(平成七)年の国の

新経済計画にも盛り込まれ、九六年には郵政・通産両省が推進会議を発足。郵政省によれば、テレワークによる企業従事者は二○○○年には三五○万人にのぼ

ると試算されている。 ◆電子印鑑(electronic certificate)〔1998年版 情報社会〕

役所にはつきもののハンコによる決済方法をなくし、パソコンと通信ネットワークで決済するコンピュータ決済。一九九七(平成九)年から郵政省で実験が始

まった。画面にパスワードを入力して承認を得る方法で、この方式が進めば、契約や取引に欠かせない印鑑やサインも不要となる。法務省ではコンピュータ決

済、電子署名時代に備えて、すでに「電子署名法」(仮称)制定に向けて検討を開始している。郵政省の実験は、職員一人に一台行き渡っているパソコンと省

内だけのネットワークであるイントラネットを活用して、文書をパソコン画面で検索し合い、パスワードで確認、承認を得るシステム。同省は約三○○○件の

文書を電子決済するなどの実験を行い、九八年から省全体で実施、他の省庁に広げていく。電子署名もほぼ同じシステムで、取引に使われるハンコ、署名の機

能を暗号技術で電子化する。電子印鑑、電子署名は本人がもっている暗号カギでしか用いられず偽造は不可能。解読には別の公開したカギを使うため、暗号カ

ギは送らずに済む。しかし電子署名は法律上では「署名」「押印」に該当しないので、法務省は電子印鑑の場合は証明書を発行するなど法律を整備することに

している。 ◆通信ハブ(information hub)〔1998年版 情報社会〕

通信の中継基地。KDD(国際電信電話)が一九九九年夏をめどに日本を一周する大容量の光海底ケーブルを敷設すると発表したことで、日本がアジアの通信

ハブとなる期待が高まった。KDDの光ケーブル敷設計画は「ジャパン・インフォーメーション・ハイウェイ」と名づけられ、九八年から着工する。敷設地点

は北海道を除く本州、四国、九州の全沿岸一○○キロメートルの公海で、総延長は八五○○キロメートル。ケーブルは電話回線に換算すると一二○万回線にな

る大容量があり、切断しても他のルートから通信できるセルフヒーリング機能がある。投資額は一○○○億円。国内通信網と国際通信ケーブルを接続して各国

のハブ(中継基地)にしようとの計画だ。マルチメディア時代に向け、基盤整備でも一歩を踏み出す。

◆エージェント(agent)〔1998年版 情報社会〕 通常は代理人、斡旋者のことだが、コンピュータの世界では通信ネットワークの中で自由に駆け回り故障やコンピュータウイルスを監視する代理人、つまりコ

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ンピュータウイルス監視ワクチンともいえる存在のプログラム。世界的にコンピュータが接続され、ネットワークが拡大、複雑化されたときに問題となるのは

故障やウイルス。そこで監視役のエージェントをネットワークに放って故障が起きたときには知らせたり伝言も伝える通信回線のパトロール役を務める。すで

に実験が開始されている。 ◆デマメール(demagogie mail)〔1998年版 情報社会〕

実際にない危険情報をつくりあげてインターネットで情報として流す悪質ないたずら。「緊急情報!インターネットにウイルスが侵入」などといったホームペ

ージの投稿欄にデマが入っていたり、「車の当たり屋が横行、ご注意」などの情報を書き込み、ご丁寧にも車ナンバーもついているデマもある。アメリカでは

一九九四年ごろから問題になっているというが、情報過多時代の陰の部分として社会問題となっている。 ◆チェーン・メール(chain mail)〔1998年版 情報社会〕 ネズミ算式に増殖していく手紙のこと。インターネットの電子メールのメーリング・リスト(mailing list)の混乱で、最近、情報渋滞の危険性も指摘されてい

る。メールを出すとグループのメンバーすべてにコピーが送られるシステムがメーリング・リストで、全員が同じ内容を読める。電子会議にも利用でき便利だ

が、チェーン・メール化すると情報がどんどん増殖し、制御がきかなくなりネットワークを混乱させ、正常な流通を妨げる心配もある。輸出用の血液提供を求

めた善意のメールをメーリング・リストにのせたところ、情報が全国をめぐった事例もあり、インターネットの威力と同時に、制御面に脆い部分を浮き彫りに

させた。

◆電子メール爆弾〔1998年版 情報社会〕 意味のないアルファベットを羅列したメールが一分間隔で送られてきて電子メールが使えなくなったり、違うアドレスから毎日意味不明のメールが大量に届く、

といった無目的のメッセージを大量に送りつけてコンピュータの機能をマヒさせる不正アクセス。一九九六年、アメリカで表面化し、ニューヨークではプロバ

イダーのホスト・コンピュータがダウンしてインターネットが接続不能になった事故も起きた。九七(平成九)年、通産省の特別認可法人「情報処理振興事業

協会」(IPA)に初めて五件の被害届けがあり、日本にも上陸していることがわかった。不正アクセスではないが、電子メールのメーリング・リストがネズ

ミ算式に増えるチェーン・メールによるネットワークの混乱も起きている。 ◆ネチケット(netiquette)〔1998年版 情報社会〕 ネットワーク上でのマナー、エチケットをあらわす造語(net etiquette)だが、ネット上でのトラブル多発によって、コンピュータ世界の新しい用語として使

われている。インターネット、パソコン通信などコンピュータによるコミュニケーション形態では、顔が見えないため著作権侵害、メールの横流しなどフォー

ラム・トラブルが派生する。ネットワーク社会のエチケットを守ろうとする運動は、すでに米アトランティック大のアーリーン・リナルディ教授らによって提

唱されているが、日本でも学校単位でネチケットをすすめ、情報倫理教育に役立てるところがふえてきた。 ▲産業と利用システム〔1998年版 情報社会〕

コンピュータを介してのサイバービジネス、SOHOはじめ新形態のビジネスが話題となっている。LANを結びつけた企業のM&Aも活発で、オンライン大

学も誕生した。情報環境は整ってきたといえる。今後は総合デジタルネットワークを通して有機的、広域的利用を図り、産業、取引、ビジネス、生活の変化へ

の対応が迫られている。

◆電子マネー(electronic money)〔1998年版 情報社会〕 紙幣、硬貨を使わずに商取引するコンピュータ決済システム。カード式とネットワーク式がある。カード式マネーは、対面取引のIC(集積回路)カード決済、

あるいはネットワーク上で決済するものもある。ICを組み込んだキャッシュカードに、電話回線などを通して自分の銀行口座からカードにカネを移し、買い

物をする際はICカードを品物を買った店の端末に入れれば決済される仕組み。現在利用されているプリペイドカードは使いみちが限定され、使用回数にも限

りがあるが、ICカードの電子マネーならば口座からカネを移せば何度も使える。カードを紛失しても取引状況が記録されているので、残高復活が可能。

ネットワーク式は、右の一連の取引をすべてパソコンを利用して決済する方法。インターネット上で決済する「Eキャッシュ」(デジキャッシュ社が開発。一

九九五年より決済サービス開始)もアメリカでは行われている。銀行口座から必要なだけインターネットのEキャッシュに移し、支払いや送金をする方法。

このほかサイバーキャッシュと呼ばれる電子マネーの実験も行われている。電子マネーは究極の決済システムといわれ、官民が盛んに実験を行っている。郵政

省は郵貯をカード式にするために、通産省もプロジェクトチームが実験している。都銀ではネットワーク式のインターネット・バンキングを計画中。電子マネ

ーは便利だが、運営に失敗すると経済活動に混乱が生じ、その方策を整備するのが成功のカギといわれる。 ◆インターネット・バンキング(internet banking)〔1998年版 情報社会〕 インターネットを利用して、買い物をした代金を自宅のパソコン操作で決済する自宅決済方法。富士銀行が一九九七(平成九)年クレジット会社ユーシー(U

C)カードと共同で実施した。インターネット上で買い物をした代金を本人の銀行口座から商店の口座に自動的に振り込む。インターネット・ショッピングは

現在でも行われているが、現金自動預払機などを使わなければならない。自宅決済方式はUCカードが顧客情報を富士銀に提供、富士銀はこれを元に本人確認

できる。このほか他の銀行へ振り込み、定期預金への入金も手数料なしでできるので、銀行の窓口へ行かなくても通常の取引が可能。銀行とカード会社の提携

による決済は初めてで、インターネット・バンキングは、新しい銀行業務として他の都銀でも広まりそうだ。 ◆著作権権利情報集中機構(J‐CIS)〔1998年版 情報社会〕

マルチメディア・ソフトの著作権保護を目的に、文化庁が設立する新しい公益法人。文字、データ、画像、動画、音声など多岐にわたる著作権を集中的に管理

しようという構想で二○○○年までに設立される。マルチメディアは文字、映像、音声などデジタル化された情報をコンピュータで融合するシステムで、複雑

な流通経路をたどるため著作権の管理が大きな検討課題だった。種類も膨大で、しかも融合して利用されるため個々のソフトの著作者をつきとめて許諾を得る

のは困難視されてきた。現在でも海賊版ソフトが相当出回っているといわれ、著作権者、ソフト制作者の要請で、九三年一一月、著作権審議会マルチメディア

小委員会が管理体制を提言、文化庁で検討していた。この機構ができれば、ソフト管理面に役立つと期待される。 音楽など著作権の集中管理が行われている分野では、権利者団体のデータベースとJ‐CISとでコンピュータを接続し合い、著作者の特定を検索できるよう

にする。集中管理体制が未整備の写真などの著作権管理は、新しくデーターベースを同機構内で構築し、それぞれの分野の著作権情報を一元的に管理する。利

用者は、J‐CISに端末を接続して、ほしい情報をデータベースで検索、著作権の帰属を知ることができる。著作権所有者 側の著作権料の徴収漏れの防止、

著作権の処理の迅速化もはかれるという。同小委員会は九七年、通信カラオケやインターネットなどの「インタラクティブ送信」(リクエストを受けて送信す

るシステム)についても演奏家、レコード製作者の著作権を認める中間報告をまとめているが、このようなデジタル著作権集中管理機構と合わせてデジタルソ

フトの法体系をどのように整えていくかなど今後の課題は依然として多い。

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◆デジタル化権〔1998年版 情報社会〕

パソコンがあり、ネットワークがつながっていれば、あらゆる情報が得られるような時代となったが、元となる情報は、利用・流通するためにまずデジタル(信

号)化されなければならない。そこで、書物、絵画をデジタル化する権利が注目されてきた。一種の知的所有権であり、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会

長が巨額資金をバックにデジタル権を買い集めているといわれ、浮世絵など日本の美術品がターゲットにされているという。電子美術館に利用するためである。

著作権があるものに関しては使用料が支払われるので問題はないといわれるが、「文化遺産を個人資産にするものである」との批判もある。日本は、海外から

のデジタル化権獲得防止のため、文化庁、出版、電機会社などがタイアップして「デジタルアーカイブ推進協議会」を発足させ、公的美術品などのわが国の組

織によるデジタル化を図っている。 ◆遠隔会議通信〔1998年版 情報社会〕 ISDN(総合デジタル通信網)を利用した音声、映像を伴う遠隔会議用システム。利用者はISDNにより各地のアクセスポイントに接続すると、専用線な

どで国内、海外のMCU(多地点接続装置)を介して三地点以上でも遠隔会議ができる。このサービスはNTTと米ピクチャーテル社日本法人など一六社が共

同出資してつくった遠隔会議通信サービス会社が運営に当たる。同社は複数の遠隔会議用端末を相互に接続する拠点をもち、一九九七(平成九)年度中に一○

○カ所以上のアクセスポイントを設置、将来は最大一○○○地点を結ぶ遠隔会議が可能となる。 ◆パソコン郵便(personal computer mail)〔1998年版 情報社会〕

パソコン通信で封書の郵便物を扱う郵便システム。利用者が自宅のパソコンから文書を入力し、パソコン通信会社を通じて日本橋郵便局のホスト・コンピュー

タに送信、郵便局はプリントアウトして封書郵便を作成し、宛先へ配達する。A4判形式で一五円程度で、ほかに切手代金が必要。郵政省ははがき通信も検討

中で、これが実現すると年賀状形式も変わりそう。パソコン通信による郵送方式は、請求書の発送など現在でも行われているが、大企業に限られ、全封書郵便

一二一億通の一%に満たない。 ◆コール・バック(call back)〔1998年版 情報社会〕

日本から発信する国際電話を安い料金のアメリカ発信に切り替える通話方法。たとえば、日本から電話をかけて二、三度発信音を確かめて受話器をおくと数秒

後にアメリカに設置された交換機が自動的に電話をかけ返してくる(コール・バック)。海外との通信が盛んな企業の、早く安く通話したい、という需要に応

え、アメリカから日本の電話を数秒に一回くらいの割合で呼び出しつづける方法(ポーリング)なども実際に行われている。切り替えを受け持つ専門事業者は

日本で約三○社あり、市場は二○○億円といわれる。日本発の電話料金にくらべ、アメリカ発の通話料は二‐六割も安いところからの料金格差利用の通話方法

で、貿易企業など国際電話を多用するところは経費の節減につながる。しかし、本来は電話発信国に入ってくる料金が、相手国に流れてしまううえに、ポーリ

ング方式だと回線を独占してしまう。国内の設備をただ同然に使っている、とKDDなどは猛反発しているが、コール・バック事業者の届け出義務がないため、

実態もなかなかつかめず、国際電話料金の価格破壊なのか抜け道なのかで議論が巻き起こっている。

◆衛星ラジオ(satellite radio)〔1998年版 情報社会〕 高感度音声のデジタル・ラジオ。赤道上空三万六○○○キロに打ち上げられる静止実験衛星から直接受信して流すので、音声が鮮明になる。災害の場合、ラジ

オが情報伝達に活躍するのは阪神大震災でも証明済みだが、移動中小型携帯ラジオでも試聴でき、過疎地域の難試聴対策にもなる。郵政省は二○○五(平成一

七)年をめどに実用化を計画している。 ラジオでは、他にFMラジオ局で始まっている「見えるラジオ」(FM多重放送)がある。これはラジオに液晶画面をとりつけ、文字情報も得られるマルチ対

応ラジオ。 ▲研究開発と手法・技術〔1998年版 情報社会〕 パソコンを購入しても、操作がわからないという人は多い。マニュアル自体が解読できないのだ。機器の標準化、使い勝手のよい機器の登場は喜ばしいが、操

作性を容易にするには、開発と合わせたわかりやすいマニュアルづくりも念頭に入れなければならない。技術開発は理工系というのではなく、文化系も進出し

ての理文一体の開発も必要だ。

◆VICS(Vehicle Information and Communication System)〔1998年版 情報社会〕 渋滞、交通事故など交通の流れを妨げる出来事が発生した場合、情報をリアルタイムにドライバーに知らせる「道路交通情報通信システム」。ドライバーはカ

ーナビゲーションやFM放送受信機などを通じて情報をキャッチする。VICSセンターが警察、道路公団の交通管制センターから情報を得て流している。日

本は、交通管制センターが全国で一六五カ所、信号機が一五万七七九四基(全ヨーロッパで約五万基)、車両感知器九万四五九七基、交通監視カメラ一八五○

台など交通設備整備は世界でも最高水準に達しており、これらの設備を駆使しての情報だから精度は高く、実用性もある。主な情報は、渋滞(区間、時間)、

工事、事故(場所、区間、内容)、旅行時間(交差点から交差点までの方向別時間)、駐車場(空き、満車)など。一九九六(平成八)年首都圏、近畿圏、主要

高速道でサービスが開始され、全国的にVICSが広がりつつある。

◆AHS〔1998年版 情報社会〕 自動運転道路システム。エンジンをかけ、行き先を指示すれば自動的に目的地に着くことができる。VICS、自動高速料金収受システム(ETC)などの高

速道路交通システム(ITS)の一つ。すでに実際に道路走行実験が行われている。車線中央に、車を磁気で誘導する磁石(磁気ネイル)が埋め込まれ、道路

脇には車の速度を指示したり事故情報などを送受信するケーブルが設置されている。車内には磁気を検知するセンサーをはじめ、前方の車との距離を測り障害

物を感知するレーダー、ケーブルと交信するアンテナ、通信機器があり、ドライバーがアクセル操作やハンドルを回さなくても安全に走ることができる究極の

ドライブといわれている。 ◆ISDN(Integrated Service Digital Network)〔1998年版 情報社会〕

総合デジタル通信網。メディア別に敷設されているテレコム回線を一本化してコストを軽減し、効率、品質ともによいデータを送信する回線網。情報を数値化

して送るデジタル送信、高速、大量の情報が送信できる光ファイバーの登場で一本化が実現した。NTTが一九八四(昭和五九)年、 INS(information network system)と名づけ音声、データ、画像を統合したネットワークの商用を開始したのが最初。世界でもISDNづくりが盛んで、国際電信電話諮問委員

会(CCITT)は、標準伝送容量を一四四キロビット/秒と規定している。しかし、現在サービスが行われているISDNは狭い地域の送信しかできないの

で、広帯域にさらに大量の情報を伝達する計画を、広帯域ISDN(B‐ISDN broadband ISDN)という。

現行のINSの伝送速度が毎秒六四キロビットから一・五メガビットなのに対し、B‐ISDNは一五五メガビットから六二○メガビットの大容量を持ってい

るので、ATMを使えば音声、データ、画像だけでなく、映像、高精細度テレビ、多チャンネル番組の伝送まで可能になる。この通信網を使ったハイキャプテ

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ンもすでに実用化されている。これは従来のキャプテン・システムによる図形、文字情報のほか、カラー写真に音声を加えた情報を高速送信するシステムで、

高画質なので企業の販促、宣伝などに使われている。B‐ISDNによって実質上のマルチメディア通信が実現すると期待されているが、問題は生活面の実用

方法と光ファイバーの敷設方法。郵政省を中心に検討が進められている。 ◆総合知的通信網(UICN)(Universal Intelligent Communication Network)〔1998年版 情報社会〕

総合デジタル通信網(ISDN)の次世代通信網。情報通信と知的分野が融合した通信網。一本の通信線でより多角的な利用法が考えられている。ISDNを

活用し、映像と、パーソナルな通信サービスを目ざすNTTのVI&P(visual intelligent and personal communication service=新高度情報通信サービス)

と似た構想。ネットワークの中核となるのはATM(非同期伝送モード=一種の交換器)で、電話回線に比べ二五○○倍の情報量を処理できる。映像、音声を

同じ信号の固まり(セル)に区分けしてセルごとに高速で伝送するので、電話線一つで電話、データ通信、放送網のほか、たとえば自動翻訳機につなげたり、

テレビもハイビジョン、立体テレビに変えたりすることも可能。二一世紀までに実現が期されている。

◆ATM交換機〔1998年版 情報社会〕 広域総合デジタル通信網(B‐ISDN)はじめ高速通信デジタルネットワークの中核をなす非同期転送モード。企業、大学内や同一区域を汎用コンピュータ、

WS(ワークステーション)パソコンで結ぶLAN(構内情報通信網)、複数のLANをネットするWAN(大規模ネットワーク)が急速に広まり、さらに国

際的なネットワーク化も進んでいる。こうしたデジタルネットの基幹システムとなる交換機がATM。ATM交換機を使うと、毎秒一○○メガ(一メガは一○

○万ビット)以上の膨大な情報量を多数の相手に送ることができる。送る情報量は、たとえば電話回線と比較すると二五○○倍という。伝送速度も早く従来の

デジタル交換機の一○○倍以上。しかも文字情報はもちろん音声、アニメ、映画などの動画、映像も鮮明に伝送できるため情報スーパーハイウェーや双方向C

ATV(ケーブルテレビ)の構築にはなくてはならない機器といわれている。大学や病院などではすでに実験的に実用化され、NTTではATMを利用した専

用線サービス(新高度情報通信サービス)の準備を進めている。次世代通信網時代を見越して、早くもATM交換機をめぐる商戦が活発化、国内の機器メーカ

ーはATM交換機を受注したり現地生産に踏み切るなどアメリカを舞台に激しい戦いを展開している。

▲政策と機関〔1998年版 情報社会〕 電脳犯罪が社会問題となってきた。インターネット利用の詐欺事件、デマメール、プライバシー侵害、パソコン・フォーラムの名誉棄損、と電子画面上のトラ

ブルが絶えない。海外では悪用防止の憲章制定の動きもある。国際ルールづくりも大事だが、二一世紀の飛躍的情報拡大に備えて、義務教育現場での情報倫理

教育の徹底が叫ばれている。 ◆改正NTT法(NTT分割)〔1998年版 情報社会〕

日本電信電話(NTT)を持株会社の下で分離、分割して再編成する法律。一九九七(平成九)年の国会で成立した。骨子はNTTを東西の地域通信会社と長

距離通信会社に分割、前者は公平なサービスを旨とする特殊法人、後者は民間会社にするというものだ。子会社による国際進出も認められた一方、国際通信専

門のKDD(国際電信電話)も国内進出が認められたため、自由な経営による料金サービス競争が激化しそうである。国際新電電も、新電電の日本国際通信と

日本テレコムの合併を決めて対抗措置をとるなど通信業界地図は大きく変わろうとしている。NTTの分割の実施は、九九年の予定。NTTの悲願ともいうべ

き国際進出が果たされたことで、国際サービス獲得レースも熾烈になると予想されるが、海外ではアメリカのAT&T、イギリスのブリティッシュ・テレコム

はじめ巨大通信会社が協調態勢を進めて、サービスを図っている。海外市場を日本の電信会社がどう攻略するかが課題となる。 ◆ネオテレトピア計画(neo teletopia)〔1998年版 情報社会〕

地域の情報化を促進するために一九八五(昭和六○)年スタートした郵政省のテレトピア構想をマルチメディア時代に向けた新しい計画に組み直す新地域情報

開発基盤。ケーブルテレビ(CATV)や移動通信などを利用した高度情報システムを整備しようというのがねらい。今後のテレトピアの事業を、(1)家庭

と医療機関、福祉施設ネットの在宅ケア、(2)CATV利用の遠隔工場、教育、(3)PHS利用の交通、災害、気象情報サービスなどマルチメディア型にな

ると想定、指定地域の自治体(現在一二七都市)が実施する事業に国が費用の三分の一を補助、自治体が出資している第三セクターへの無利子融資の現行の支

援を続ける一方、国の支援を市町村に拡大し小規模の自治体にも情報化を進める。

◆COMETS〔1998年版 情報社会〕 マルチメディア時代の通信放送衛星。他の衛星とのデータ伝送実験のほかデジタル放送、地上局を通さずに自動車電話と直接通信する高度移動体通信の実験を

する。衛星の高さは約八メートル、両翼の長さ約三○メートル、静止初期の重さは約二トンと国内最大の衛星。一九九八(平成一○)年に、H2ロケット5号

機で打ち上げられ、静止軌道に投入される。 ◆イリジウム計画〔1998年版 情報社会〕

低軌道に打ち上げられた六六個の通信衛星を通して、地球のどこでも携帯電話が使えるイリジウム社の衛星携帯電話計画。すでに五個の衛星が打ち上げられ、

一九九八年サービスが始まる。通信事情が悪い地域で働く人にとっては便利だが、通信施設が整備されていない発展途上国にとっては貴重な通信利益が奪われ

ることになり、その補償をどうするかなど問題点は多い。国境のない通信のためには競争を図りつつ、公平な収益配分のための国際秩序が必要となってきてい

る。 ◆情報バリアフリー・テレワークセンター〔1998年版 情報社会〕

情報機器に慣れないため情報社会に取り残されるおそれのある高齢者にコンピュータを活用してもらい、再就労の機会を与えようとする情報弱者対策。キーボ

ードを使えなくても音声や手書きで入力できるコンピュータやタッチパネル式の端末をセンターに設置、情報機器に慣れる環境をつくり、再就職に役立てても

らおうとの試みだ。郵政省、労働省が各地に開設を計画、設置主体の自治体には補助する予定で予算化を図る。 ●最新キーワード〔1998年版 情報社会〕

●情報通信二一世紀ビジョン〔1998年版 情報社会〕 郵政大臣の諮問機関である電気通信審議会の通信政策部会が一九九七(平成九)年にまとめた将来の情報通信に対する報告書。(1)二○一○年のマルチメデ

ィア時代到来までに大容量の総合デジタルネットワーク(電話局と家庭を結ぶ光ファイバー・無線システムの整備、いまの一○倍の速度で映像、音声を送れる

ギガビット級衛星の打ち上げなど)を構築して通信インフラを整え、電話、衛星通信、携帯電話などの通信手段で大量のデータを送受信可能にする、(2)N

TT分割後の地域通信の競争促進、(3)ケーブルテレビ(CATV)と電話回線の融合を図り、ケーブルテレビが電話、インターネットなど通信事業にも進

出できるようにする、(4)多チャンネル時代に対応し、放送局も通信サービス事業ができるよう利用電波ごとに免許を与える帯域免許を検討するなど免許制

度を見直す ―― などを提言している。

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二一世紀の情報通信市場は、日本を除くアジアでは二○一○年に九八七三億ドル(九五年現在二○○二億ドル)と拡大、また日本の市場規模は一二五兆円(同

二九兆円)に成長し、この間の雇用は二四四万人が見込まれると予測している。一方、郵政省の情報通信分野の設備投資額予測では、九六年度四兆五○○○億

円の投資額が、二○○○年に一○%増の五兆円、二○一○年は約五○%増の七兆二○○○億円になる。とくに次世代携帯電話、動画を送信できるマルチメディ

ア対応の移動体通信への投資額が伸びる見通しという。

●フォーラム・トラブル(forum trouble)〔1998年版 情報社会〕 パソコン通信で他人を中傷したり、一九九七(平成九)年の神戸の小学生殺害事件では犯人の名前や顔写真がパソコン画面に流れたり、禁製品の取引、ポルノ

写真の表示など、パソコン運用上のトラブル、犯罪が急増してきた。フォーラム内のトラブルが裁判にもなり、表現の自由の問題もからんで社会的な関心を呼

んでいる。 フォーラム・トラブルの代表例は、九七年五月の東京地裁の判決である。パソコン通信ネットワークで会員が自由に文章を書き込めるフォーラム(電子会議室)

上に「事実無根の中傷を書かれ名誉を傷つけられた」として、東京の女性が、パソコン通信ネットワーク「ニフティサーブ」を主宰するニフティ会社、電子会

議室の運用をまかされているパソコン通信の管理者のシステムオペレーター(シスオペ)と、中傷内容を書いたとされる山口県の男性会員の三者を訴えた事件。

東京地裁は五月二六日、被告三者に計五○万円の支払いを命ずる判決を言い渡して注目された。 原告の女性は九○年九月、ニフティサーブに設けられたフェミニズム会議室に参加、意見交換してきたが、被告の男性が原告の意見に反発し、女性を中傷した

というのが訴訟の内容。東京地裁は、フォーラムの発言は公然性があり、原告の発言は個人攻撃の色彩が強く、シスオペは名誉を傷つけられる内容は削除する

など積極的措置を講ずるべきであるとした。さらにパソコン通信会社ニフティについても使用者責任に基づき賠償責任があると判断した。 国内のパソコン通信の会員はインターネットの登場でやや伸び悩み傾向にあるが、ニューメディア開発協会調べでは九六年六月時点で五七三万人となり、一方、

フォーラムは全パソコン通信でテーマ別に約六三○あり、それぞれの内部にも最大二○までの会議室が設けられている。これらは、パソコン通信は単にマニア

のおしゃべりの伝言板からメディアに成長しており、今回の判決も肥大化したパソコン通信を背景にしているのは確かである。これまでパソコン通信に書き込

まれる発言、情報は事前にチェックできず、会員間の自主規制に委ねられてきたが、判決は法的な基準を示した点で注目される。しかし、電気通信事業法は、

会社が通信内容を検閲することを禁じており、会社に対して発言の削除を義務づけてもいない。問題情報を規制するために裁判の判断による法的措置を押しつ

けることで、発言の自由な流通を阻害するおそれもある。

パソコン通信では、一応の法的判断が示されたが、運営会社という組織のないインターネット上のトラブルをどのように処理するかの問題もある。神戸の小学

六年生、土師淳君殺害事件では、容疑者の中学生の実名や顔写真が表示されたり、他人を犯人と指定した悪質な中傷もあった。フランスではインターネット悪

用を防止するための初の国際原則となる「インターネット憲章」作成をOECD(経済協力開発機構)に提唱、ドイツはマルチメディア法を制定して匿名メデ

ィアの規制に乗り出し、世界知的所有権機関(WIPO)もインターネット情報の知的所有権保護を含めた国際ルールづくりを検討しているが、インターネッ

トの発達を阻害する懸念や政府の干渉に対する批判が一方であり、ネットワークをめぐる課題は多く複雑である。 ●データ放送(data broadcasting)〔1998年版 情報社会〕 テレビ電波のすき間を使って家庭用パソコンに情報を送るシステム。ホームページと同じ形式で家庭用パソコンの閲覧ソフト(ブラウザー)に表示させる。イ

ンターネットと連動させられるので双方向性がある。テレビ朝日、TBSが一九九七(平成九)年放送開始を決めたのに続き、日本テレビ、フジテレビも計画

している。先行したテレビ朝日は松下電器産業と共同開発したADAMSシステムによりニュース、天気予報、イベント情報を流している。この方式はテレビ

番組と独立した情報を扱う。一方、TBSはインフォシティ会社が開発したビットキャストシステムを採用している。これは番組と連動した情報を流す。ニュ

ースで難しい用語があるとき、それを知りたければ、簡単操作で閲覧ソフトに解説が表示される。イベント情報の詳細を知りたければプロバイダー経由でイン

ターネットに接続し、閲覧ソフトに情報が流れてくる。放送と通信、テレビとパソコンがドッキングしたマルチメディアといえる。もともとテレビはアナログ

で情報を処理し、パソコンはデジタルで処理するが、両者の融和を促したのが放送のデジタル化である。 フジテレビが九六年に始めたテレビニュースを検索できる電子新聞は、専用端末が必要だったが、データ放送は、テレビ朝日、TBS両方式とも専用受信ボー

ドをパソコンに組み込むので専用端末は必要としない。しかし、両方式の互換性をどうするかの問題がある。今後はこのようなデータ放送受信機能を備えたパ

ソコンが登場してマルチメディア化も促進されていくとみられるが、普及を成功させるのはデータ放送用の魅力ある情報内容いかんということになろう。

●マルチメディア携帯電話(maltimedia handyphone)〔1998年版 情報社会〕 インターネットにアクセスしたり、テレビも見られる次世代携帯電話。低高度軌道衛星(LEO)を利用して、携帯電話の端末に液晶画面を組み合わせてテレ

ビ放送の受信、インターネット画像の送受信をする。携帯電話とノート型パソコンを接続すればどこからでも高画質なデータ送受信もできる。最近、赤外線通

信で携帯電話とパソコンを結ぶ通信規格が国内の情報機器会社で統一されており、多用な利用が期待されている。 第一世代のマルチメディア型携帯電話はすでに世界で開発が進められ、一九九八(平成一○)年後半には実用化される。この第一世代はどこからでも通話が可

能な携帯電話で、やはりLEOが使われているが二○○六年には寿命が切れる。そこで二○○六年以降に次世代を普及させるのが日本の戦略という。第一世代

の技術の主導権が欧米に握られているのを挽回しようとのねらいもある。郵政省は九六年から周回衛星による移動体通信システム研究会を開いて検討してきた

が、同研究会の早期研究着手が必要との提言で、九七年中に「グローバルマルチメディア移動体通信衛星システム(GMMSS)推進委員会」を発足させ、研

究開発をはじめる。実用化の目標は二○一○年。移動体システム研究会の予測によると、二○一○年にはマルチメディア携帯電話は一五○万人のシェア(第一

世代は一五○○万人)を持ち、通信サービス利益は年間八○○○億円、端末市場は一兆三○○○億円規模になると試算している。しかし、衛星を使うので、電

波の割り当てに関する国際的調整、ネットワーク設計技術、新アンテナ・携帯端末の開発が必要で、研究機関、通信・放送業界と郵政省をはじめとする各省庁

の連携も図られなければならない。このためGMMSSは産学官共同により、これらの問題を解決していく。

●国際電子商取引(global electronic commerce)〔1998年版 情報社会〕 コンピュータ上で契約や決済を行う電子商取引(EC)はインターネットの利用が上昇するにつれて拡大、世界規模で振興策が進んできた。米クリントン大統

領が、ECについて、関税を課さない「自由貿易圏」とすることを提唱、OECD(経済協力開発機構)も推進を合意している。電子商取引は国際ルールづく

りの段階になってきた。 電子商取引はすでに電子マネーなど小規模決済では実験が繰り返され、実用化されつつある。これを地域、国家間を越えて、開発・製造・経営・管理・消費に

わたるあらゆる経済活動で、コンピュータネットワークによって大規模に行おうというものだ。一九九七(平成九)年七月一日、クリントン大統領が電子商取

引の振興策ともいうべき「国際電子商取引のワク組み」を発表してから、ますます注目されてきた。アメリカの振興策は、国境を越えた情報、ソフトに関する

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電子商取引に対しては新たな課税や規制を課さないで、自由に取引をさせ、政府の介入も避けることを眼目にし、「真のグローバルな交易手段」と位置づけて

いる。また、通常取引で関税がかかっているものについては、電子商取引も通常取引と同等に扱うべきだ、としている。アメリカの振興策は、アメリカが優位

に立つソフト産業(映画、コンピュータソフト)、情報産業(データベース、金融サービス)などを海外でも拡大させる国益も絡んでいるが、世界貿易機関(W

TO)に働きかけ、WTOで協議をはじめている。アメリカでは電子商取引推進団体コマースネットが、日本、韓国、カナダなど世界一四カ国と共同でGEC

B(グローバル・エレクトロニック・コマース・ボード)を設立、民間でも国際間の対策を行っている。 これより先の同年五月二六日からパリで開かれたOECD閣僚理事会では国際的に電子商取引を調整することで合意した。調整事項の主なものは消費者保護、

取引ルールの確立、税制の三点。電子商取引では人、物、金が移動しないので、企業間取引の法的安全性、クーリング・オフ(一定期間内の解約権)、領収書、

印紙税の処理が課題となる。実際の取引相手が存在するのか、操作ミスによる契約上のトラブル、悪用、プライバシー問題も起こりやすい。とくに国際電子商

取引では、関税の整合性もある。このためOECDでは各国がそれぞれ制度の整備を進め、調整していくことで合意した。一方、通信サービスの自由化を目ざ

すWTOの基本電気通信交渉は、参加六七カ国が市場開放を認め合っており、九八年からは通信サービス面では外国資本の参入が自由化される見通しとなって

いる。外資自由化に合わせて、国際間の電子商取引促進にアクセルがかかりそうだ。日本では通産省に電子商取引環境整備研究会が設置されており、やはりル

ールづくりを検討している。取引上のトラブル防止方策、そのための法整備、通信・金融上の規制緩和、商慣行の見直しがその課題となっている。 ▽執筆者〔1998年版 パソコン〕

山本直三(やまもと・なおぞう) 愛知学泉大学教授 1929年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東芝OA事業部,東芝OAコンサルタント取締役を経て,現職。OA論専攻。著書は『実践オフィスオ

ートメーション』『日本語ワードプロセッサの活用法』『ワープロ文書生活』『ワープロ市民講座』など。日本事務機械工業会・ワープロ部会長、標準化委員会

で活動。

▲パソコン本体〔1998年版 パソコン〕 ◆CPU(Central Processing Unit)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータの中央演算処理装置。主メモリーから命令を取り出し、それを解析して、コンピュータの各装置に動作指令を出し、プログラムの実行を行う。こ

の動作を次々と連続してプログラムの手順に沿って行う。コンピュータの中核となる部分である。命令の取り出し、解析、動作指令などは、多重・並行的に効

率よく行うのが通常である。つまり現在の命令を解析をしながら次の命令を読み取っているという具合である。

◆メモリー(memory)〔1998年版 パソコン〕 記憶装置のことで、内部記憶装置と外部記憶装置がある。内部では主にRAMが用いられる。外部では、ハードディスク、フロッピーディスク、磁気テープ、

デジタルビデオディスク、光ディスクなどが用いられる。内部メモリーは大きなほどコンピュータの処理能力が高まるが、価格が上がる。 ◆チップセット(chip set)〔1998年版 パソコン〕 パソコンの内部でCPUと各種ハードウェア間のデータの流れをコントロールするLSI。チップセットの能力がパソコンの処理速度を大きく左右する。キャ

シュメモリーの管理はこのチップセットが行っている。 ◆キャシュメモリー(cache memory)〔1998年版 パソコン〕

RAMの一部に特に高速なメモリーを装備し、データ入出力など、最もよく使う処理に用いられ、コンピュータの高速化をもたらす。キャシュメモリーの有無、

その容量・スピードなどはパソコンの高速性能に大いに関係する。 ◆メモリー・インターリーブ(memory interleave)〔1998年版 パソコン〕

周辺装置とメモリーとのデータの伝送を行うとき、単位ごとにデータを順番に転送するのではなく、ある単位を送り始めたら、それに後れて次の転送を多重的

に始め、伝送の効率を高める方式である。

◆ハードディスク(hard disk)〔1998年版 パソコン〕 固定磁気記憶装置のことで、コンピュータの外部記憶装置の主流になっている。最近のパソコンでは、一ギガバイト以上の装置を内蔵するのが通常である。ま

た、外部に外付けの装置を増設することもできる。ハードディスクは、コンピュータの内部メモリーを補強し、OSはじめプログラムのほとんどを記録し、必

要に応じて内部メモリーに高速に呼び出して(ロード)、実行させ、結果やファイルを大量に貯蔵する中核的役割を担う装置である。 ◆コネクタ(connector)〔1998年版 パソコン〕

パソコンとディスプレイなどの外部装置を接続する連結部分。D‐SUB25 ピンというようにコネクタの種類名とピン数で表示することが多い。プリンタではセントロニクス、シリアルポートに使われる RS232、SCSIで使われるアンフェノール・ハーフピッチなどが代表的。外部機器をつなぐ場合はパソコ

ン側のコネクタと外部機器のコネクタの両方に合致するケーブルが必要になる。 ◆PCIバス/ISAバス(peripheral Commponent Interconnect Bus/Industrial Standard Architecture Bus)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータ内部で、データが移動する経路をバスという。PCIバス、ISAバスは、代表的なバス規格。バス幅(一度に転送できるデータの大きさ)はそ

れぞれ三二ビット、一六ビット。ISA(アイサと読む)はATバスとも呼ばれIBM‐PCの拡張バス規格として誕生しAT互換機の標準的バスとなった。

現在では転送速度などでPCIバスが主流となっている。

◆SCSI(Small Computer System Interface)〔1998年版 パソコン〕 パソコンと周辺機器との信号接続のインターフェースの標準規格。スカジとよぶ。例えばOCRやCD‐ROM読み取り装置などを接続するときは、たいがい

はSCSI接続である。 ◆拡張スロット(extended slot)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータなど装置の中にプリント基板などを装着するためのコネクタなどを含むパーツ連結部をスロットという。そのうち、拡張用のコンピュータ基板を

差し込めるように予め備えられているものが拡張スロットである。AT互換機ではISAバス用のスロットとPCIバス用のスロットを持つのが普通。 ◆拡張カード(expansion card)〔1998年版 パソコン〕

拡張スロットに差し込む拡張機能を搭載したプリント基板。音声を出力するサウンドカード、通信を行うモデムカード、LANとの接続をするイーサネットカ

ード、MPEGムービーを解凍・再生するMPEGカード、ビデオ画像をパソコンに取り込むビデオキャプチャーカードなど、さまざまな拡張カードが開発さ

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れている。拡張スロットの数が多ければそれだけパソコンの機能拡張が可能となる。

◆LANカード(LAN card)〔1998年版 パソコン〕 パソコンにオプションとして付属して、これを接続部分としてLANに接続する通信インターフェースである。このカードには、送受信処理、エラー処理など

を行う機能がある。LANアダプターあるいはLANボードとも称する。

◆メモリー・スロット(memory slot)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータのメモリーユニットを取り付ける接続部のこと。例えば、最初に内部メモリーとして一六メガバイトがあるとして、拡張スロットの余裕が二個あ

れば、後で一六メガバイトのメモリー基板を二枚追加して、四八メガバイトにメモリを増強することが可能である。なお、メモリモジュールにはSIMM(Single Inline Memory Module データ幅=三二ビット)とDIMM(Dual Inline Memory Module データ幅=六四ビット)という種類がある。ペンティアムプロセッサはデータ幅として六四ビットが必要であるため、SIMMは同じ大きさのメモリを二枚ペアで使う必要がある。最近はDIMMを使用する傾向になって

きた。 ◆シリアルポート/パラレルポート(serial port / parallel port)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータ本体のコネクタ部であり、このインターフェースを通じて、パソコン本体とプリンタ、モデム、マウス、キーボードなど周辺装置とが、データを

一ビットずつ伝送する。データ伝送の回線は一本であり、スピードは遅いが伝送の質は高い。一方、パラレルポートは、データ伝送が複数回線(八回線など)

で並列的に同時に行われる。シリアル方式に比べスピードは格段に高速であるが、複数の回線間で誘導信号を拾いあうという現象が生じ、ケーブルが長くなる

と伝送品質に問題が生じやすい。 ◆PCカード(PC card)〔1998年版 パソコン〕

ノートパソコンで使用されているパソコンを拡張するためのICカード。PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)という規格で標準化されており、薄さによって TypeI から typeIII まである。最初は外部記憶装置としてのメモリーカードからスタートしたが現在はFAXモデ

ムカードやイーサネットカード、SCSIカードなどパソコンの機能拡張の用途に多く使われている。 ▲キーボード・操作〔1998年版 パソコン〕 ◆キーボード(keyboard)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータに文字や記号を入力するための文字鍵盤装置である。IBM方式の標準キーボードが主流となっている。また、操作を便利にするために拡張部分

を組み込んだ拡張キーボードがある。また、機種により収容文字数や文字位置の異なるものがある。また、数字入力専用のテンキーもある。AT互換機では 101

キーボードと呼ばれる英文のキーボード、106キーボードと呼ばれる日本語用キーボードが主流。親指シフトキーボードと呼ばれる日本語の仮名入力を効率的に行うためのキーボードもある。

◆Ctrl(コントロール)キー(control key)〔1998年版 パソコン〕 キーボードの制御キーのこと、これを押しながら他のキーを押したときに、それぞれの組み合わせにより、特殊な機能が働く。たとえば Ctrl キーを押しながら“C”のキーを押すことで選択部分のコピー処理などが行える。こういった操作を“Ctrl+C”などと記述することも多い。特定の操作を指令するショート

カットなどの操作に用いる。 ◆Alt(アルト/オルタネティブ)キー(alternative key)〔1998年版 パソコン〕

Ctrlキーと同じような意味に用いる。たとえば Altキーを押しながら Tab(タブ)キーを押すと実行中のアプリケーションを切り換えることができる。 ◆Shift(シフト)キー(shift key)〔1998年版 パソコン〕 キーボードのシフトキーのこと。これを押しながら文字キーを押すと、文字キーの上段(upper case)が入力される。たとえば英字の場合は大文字となる。小

文字は下段(lower case)である。Shiftキーは左右に二個ある。 ◆Tab(タブ)キー(tab key)〔1998年版 パソコン〕

キーボードにあるキーの名称であり、このキーは押すと、カーソルがディスプレイのタブセットしてある位置あるいは次の小窓(ボックス)までスキップする。

タブセットは、自由に位置を指定できる。プリンタでは、印字位置がプリンタのタブセットしてある位置まで、スキップする。この機能により、文字位置の桁

合わせなどが効率的にできる。 ◆Esc(エスケープ)キー(escape sequence key)〔1998年版 パソコン〕 特殊な機能を持つキー。例えば、いったん行った操作を取り消すときに、このキーを押す。プログラムの指定により、柔軟に使われる。

◆ショートカットキー(short cut key)〔1998年版 パソコン〕 アイコンやメニューのようなマウスによる操作ではなくキータッチによる簡単な操作手順。たいがいは、ファンクションキー/コントロールキー/Alt キーな

どと他のキーとの組み合わせで行う。その組み合わせはOSで決められているもの、例えば Ctrl+Alt+Del でプログラムの強制終了、アプリケーションごとに決められているものがあり、プルダウンメニューやマニュアルに示される。これも無意識に操作できるほどまでになれば、マウス操作よりも効率がよい。 ◆ブラインドタッチ(blind touch method)〔1998年版 パソコン〕

キーボードを見ないで行うキー操作方法。キーボードに注意をはらうことが少なくなり、入力対象に注意が向き、効率よく疲れも少なく操作できる。この手法

を修得するには、ホームポジション(指を常に置く基本位置)と指のキー分担を決めて練習し、無意識にキーを選択できるまでにする。

◆ウインドウ(window)〔1998年版 パソコン〕 ディスプレイに窓のように画面を表示し、データおよびその処理方法を窓枠という形態でワンセットで表示できるようにするGUI機能。これにより限られた

面積のディスプレイに、より広い画面を柔軟に表示できる。基本的にメニューバー、コントロールボックス、スクロールバー、ボディの部分などからなる。 ◆MDI(Multi Document Interface)〔1998年版 パソコン〕 ウインドウ環境のもとでのアプリケーションは、画面の上では、ほとんど複数のウインドウの中にデータを表示して作業し、必要に応じてウインドウを切り替

えて、別の画面を表示する。こうした重なり合い、分割された状況がMDIである。ウインドウ環境はこれまでのシンプル画面(SDI)と異なり、MDI環

境を提供しており、プログラムの開発もそれに応じたオブジェクト指向になった。

◆ポインティング(pointing)〔1998年版 パソコン〕 ディスプレイの位置を点指定すること。マウス、ジョイスティックなどをポインティングデバイスと称する。

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◆マウス(mouse)〔1998年版 パソコン〕

ネズミのような形をしたポインターのハンド操作セット。マウスを机上で動かすと、ディスプレイ上で矢印などの形状のポインターないしカーソルがそれにつ

れて移動し、目的のアイコンやメニューをポインターで指して、マウスのボタンをクリック(コツコツと押す)操作する。また画面の一部を選択して、ドラッ

グ&ドロップ、カット&ペーストなど、様々な操作ができる。マウスボタンは一‐三個の方式がある。ノートパソコンなどではキーボード上にマウス機能を固

定して取り付けるトラックボールのような方式が通常である。 ◆ドラッグ・アンド・ドロップ(drag & drop)〔1998年版 パソコン〕

マウスを押して画面のアイコンやオブジェクト(画像など)などを指定して(ハンドルがつくか強調表示される)、ボタンを押したままマウスを動かして(ド

ラッグ)、オブジェクトを移動させて放すこと(ドロップ)。パソコン基本操作のひとつ。 ◆カット・アンド・ペースト/コピー・アンド・ペースト(cut & paste / copy & paste)〔1998年版 パソコン〕

画像でも文字でも一部分を切り取ったりコピーしたりして、その部分を異なる場所に再生(ペースト・貼り付け)すること。パソコンの操作では最もよく用い

る便利な機能で「切って貼る」という感覚。コピーや削除した情報は一時的にクリップボードに保存され何度でも利用できる。画像やテキストの編集や複写な

どが容易にできる。 ◆プロパティ(property)〔1998年版 パソコン〕

ある機能やファイルの属性または特性をいう。プログラミングにおいて、オブジェクト(テキスト、画像、画面など)の特性の一覧を示し、その仕様をそれぞ

れ決めることが普通であるが、この一覧表をプロパティシートと称する。Windows ではファイルの属性や機能の詳細設定をプロパティと呼び、プロパティ・ウィンドウでユーザーが参照したり変更したりできる。

▲周辺装置〔1998年版 パソコン〕 ◆液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)〔1998年版 パソコン〕

液晶とは、ある液状物質に電界や温度を与えると、分子が規則性をもって並ぶ性質(結晶)を言う。この性質を利用した表示装置を液晶ディスプレイと称する。

液晶素子を細かく配列し、文字、画像を表示する。薄型、小型、安価に製造でき、携帯型OA機器の発達に貢献している。液晶は自身で発光せず、外光を必要

とするが、背面から光を出し、反射させて発光させるバックライト方式が普及している。また、薄膜トランジスターを用いた高速表示の方式も普及している。

カラーも表示できる。 ◆ドライブ/ドライバー(drive / driver)〔1998年版 パソコン〕

装置の一般的な名称。たとえば印刷装置はプリンタドライブ、ファイル装置はファイルドライブと称する。なお、これらの装置に入出力制御の基本ソフトをド

ライバーと称し、その装置を用いるとき、装置特有のドライバーソフトをインストールする必要がある。

◆CD‐ROM(Compact Disk Read Only Memory)〔1998年版 パソコン〕 書き込みができず読み取り専用の光記録のディスクで五五○メガバイトの容量がある。音楽用CDと同じ大きさで、デジタル記録をし、プログラムやデータを

大量に記録できる。マルチメディア表現が流行する今日のパソコンでは必要不可欠で、ソフトの供給もフロッピーとともにこれで行われることが多い。

◆MOディスク/光磁気ディスク(Magnet Optical disk)〔1998年版 パソコン〕 レーザー光と磁気コイルを用いて磁性媒体への書き込み読み出しを行う磁気ディスクで、三・五インチで二三○メガバイトないし六四○メガバイトと容量が大

きく、画像を含むような大量記録に利用される。五・二五インチもある。 ◆プリンタ(printer)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータ出力用印刷装置。様々な印刷方式がある。ラインプリンターは一行を一度に印刷して高速であり、汎用コンピュータで専ら使う。シリアルプリン

ターは一文字ごとに印刷するものでパソコンで使う。レーザープリンタ(電子写真方式)とサーマルプリンタ(感熱方式)とバブルジェットプリンタなどがあ

る。

◆バブルジェットプリンタ(bubble jet printer)〔1998年版 パソコン〕 インクジェットプリンタの一種。インクを供給するノズルの発熱体でインクを気化させ、その気泡(バブル)を紙に飛ばして、印字する方式。ノズルの束の集

積により、レーザープリンタに近い文字品質が得られる。カラーインクを用いることにより、カラー印刷も容易である。作動音も静かで装置のコストも低い。 ◆フォント(font)〔1998年版 パソコン〕 同一形状の文字群のセット。通常は明朝、ゴチックなど基本的なフォントをバンドルしているが、他に毛筆体など多くの多彩なフォントが工夫され発売されて

おり、オプションとしてセットできる。しかし、メモリーを大量に占めるので、あまり使わないフォントまでパソコンに入れるのは得策ではない。 ◆アウトライン・フォント(outline font)〔1998年版 パソコン〕

印刷文字の輪郭の曲折点のベクトルデータを記憶する方式のフォント。パターンで記録する方式(ドットパターン)よりも記憶容量が少なくてすむ。文字を表

示するときは、ベクトルデータからプログラム的に復元する。文字の拡大縮小を行ってもなめらかな輪郭の形を表示できる。 ◆イメージリーダー/イメージスキャナー(image reader)〔1998年版 パソコン〕

画像や写真を走査(スキャン)して、デジタルデータとしてコンピュータに読み込む画像読取装置。画像の解像度(DPI)の密度が細かいほど、時間がかか

り、データが多くなり、メモリーも多く要する。カラーの場合は階調が細かいほど、データ量が多くなる。これに関連して、イメージで読み取った文字パター

ンをテキスト文字として認識するソフトもある。 ◆OCR(Optical Character Reader)〔1998年版 パソコン〕

光学的文字読み取り装置。印刷文字あるいは手書き文字をスキャンして読み取り、コンピュータに入力する装置。印刷文字の読み取りは比較的に容易であるが、

手書き文字の読み取りでは、リジェクト文字(排除文字)または誤読文字が多くなる。リジェクト文字が出たときは人間が補足することになる。なお、読み取

りの後のソフトによるテキストの文脈チェックでミスを検出する方法もある。紙の質によってもリジェクト率が変わる。ハンディで簡便なOCRもある。

◆TA(ターミナルアダプタ)(Terminal Adapter)〔1998年版 パソコン〕 ISDN回線で従来のアナログ方式の電話機やモデムを利用したりパソコンとの接続をするための装置。TAのほかに回線の引き込み口にDSU(Digital

Service Unit)と呼ばれる接続装置が必要だが、最近のTAはDSUの機能を内蔵したものも多い。 ▲運用ならびにファイル管理〔1998年版 パソコン〕

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◆フォーマット(format)〔1998年版 パソコン〕

一般に様式のことをいう。ファイルの記録のレイアウト、印刷する帳票のレイアウト、プログラムでの入出力形式のレイアウトなどをフォーマットと称する。

フォーマットを決めることをフォーマッティングという。フロッピーのその作業も、パソコン用に内部記録様式を調えることをいう。 ◆ファイル拡張子(file extension)〔1998年版 パソコン〕

ファイル名称は、ファイル名と拡張子からなり、“filename. bas”というようにファイル名・拡張子で表現する。拡張子によりファイルの性質を把握できる。たとえば、“filename. txt”は、DOSテキストファイルであることを意味している。

◆EXEファイル(execution file)〔1998年版 パソコン〕 プログラムの実行形式のファイルのことで、例として、 “progname.exe” のようにファイル拡張子に exe がつく。このファイルは、呼び出したり、アイコンをクリックすれば、直ちにプログラムの実行を開始する。

◆DOSテキストファイル〔1998年版 パソコン〕 テキスト形式の文字コードのみで構成されたファイル構造を示しており、異なるコンピュータやソフト間で互換性をとるための共通ファイル形式として広く利

用されている。拡張子に “filename. txt” と txt が付属する。 ◆WAVファイル〔1998年版 パソコン〕

音を記録する形式のファイル。この形式のファイル名は、例えば “file-name. wav” と wav の拡張子がつく。このファイルを音声再生ソフトで読み出すと音楽や音声が出力される。 ◆クリップボード(clip-board)〔1998年版 パソコン〕

一時的な情報を張り付ける掲示板のようなもので、パソコンやワープロなどで、情報を臨時に蓄える共通メモリーをいう。画像や文字などの情報を切り取り

(cut)、複写(copy)などの操作をすると、その情報はクリップボードに蓄えられ、貼り付け(paste)により、それをディスプレイ上のポイント指定した位

置に復元あるいは複写できる。 ◆プロテクト(protect)〔1998年版 パソコン〕 データ保護のこと。不注意によるデータの消去・変更や不法コピー対策、第三者によるデータの改ざんや覗き見の予防などの場合に使われることば。フロッピ

ーには、書き込み禁止の窓がついており、窓を開けると、書き込みができず、データにプロテクションがかかる。通信などでデータの保護をするには、暗号文

にして伝送する。プログラムの動作では、他のメモリー領域はプロテクトされ、命令の誤動作によるメモリー破壊から保護するようになっている。

◆レジューム(resume)〔1998年版 パソコン〕 パソコンやワープロなどで、動作の途中で電源を切り、再び電源を入れたとき、元の状態を復元することをレジューム機能と称する。このためには動作停止状

態をそのまま記録する機能を必要とする。ノートパソコンでは頻繁に電源を切ることが多くこの機能が重要になる。 ◆インストール(install)〔1998年版 パソコン〕 設置するという基本的な意味である。パソコンを購入して部屋に設置する物理的な設置と、ソフトウェアをパソコンにセットする設置がある。ソフトをインス

トールするときは、たいがいはそのソフトの setup. exe を実行させると、自動的にインストールが行われる。 ▲OS〔1998年版 パソコン〕

◆OS(Operating System)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータを効果的に使えて、操作、プログラミングを容易にするように整備された基本的なソフトの体系。OSはおおよそ、入出力装置の制御、ジョブ(プ

ログラム)処理の制御、スケジューリング、リンク(結びつけ)、タスク(処理の一つ)の管理、ファイルの目次の管理、誤り制御などの働きをする。

◆BIOS(Basic Input Output System)〔1998年版 パソコン〕 基本入出力システム。パソコンに電源を入れると、最初にBIOSが動き出し、ハードディスクやフロッピーなどからOSプログラムを探し、CPUに必要な

ソフトをディスクなどファイルから探して、ロード(収納)したり、入出力を管理する。 ◆MS/DOS(Microsoft/Disk Operating System)〔1998年版 パソコン〕

マイクロソフト社が開発した一六ビットパソコン用のOS。 ◆DOS/V(Disk Operating System/V)〔1998年版 パソコン〕 日本IBMが開発した三二ビットパソコンのOSでそれ以前に使われていた漢字ROMというハードなしで日本語機能を実現した。このOSの登場で事実上の

世界標準であるPC/AT互換機が日本語に対応できた。このOSに対応するパソコンをDOS/Vマシンと呼び、現在最も普及している。 ◆アーキテクチャー(architecture)〔1998年版 パソコン〕

一般にコンピュータアーキテクチャーと称し、コンピュータおよびOSの基本的な仕様、構成、性能をいう。マイクロプロセッサ時代において、インテルのM

PUなどが中心となっており、現代では三二ビットアーキテクチャーが主流となっている。 ◆ウィンドウズ(Windows)〔1998年版 パソコン〕

マイクロソフト社が開発したOSをいう。ディスプレイに複数のウインドウを示すことができ、自由にそれを選択できること、DOS‐OSをベースにしてお

りファイルは階層構造になっていること、プログラムはアイコンで示され、マウスでクリックするなど、イベント駆動方式のオブジェクト指向の構造になって

いることなどに特徴がある。近くウィンドウズ 98が提供される見込み。ウィンドウズ 95では、これまでの 3・1に比べて著しく改良された。動作が完全な三二ビット方式になったこと、操作面ではスタート画面にすべての必要なアイコンが表示されること、ファイル名が八桁から二五五桁に拡張されたこと、ネットワ

ーク接続機能がバンドルされたことなどである。急速に普及した。 ◆ウィンドウズNT〔1998年版 パソコン〕 マイクロソフト社が開発した高性能パソコンOSで、ネットワーク管理用、端末用がある。UNIXを基本にしており、マイクロカーネル(モジュール構成方

式)を採用し、構成が柔軟で、セキュリティ機能に優れている。ウィンドウズ 95とユーザーインターフェースで互換性がある。 ◆マックOS(Mac OS)〔1998年版 パソコン〕

アップル社が提供する基本オペレーティングシステム。ウィンドウズ、UNIXなどに比べて普及度は低いが、一部では愛用されている。マックOSは、CR

Tを机上(デスクトップ)になぞらえ、すべて机上で仕事を進める感覚で誰でも平易に操作できるように工夫されており、WYSIWIGのマルチドキュメン

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トの操作環境を提供する。

◆FEP(Front End Processor)〔1998年版 パソコン〕 メインの処理に入る前の前処理のこと、基本OSに対して前処理として独立して構成されている。日本語処理において仮名漢字変換などの日本語処理をいうこ

とが多い。日本語FEPにはATOKやMS‐IMEなどがあり、利用者はどれかを選択できる。

◆コンポーネント・ウェア(component ware)〔1998年版 パソコン〕 完成済み部品プログラムのことで、最近のウインドウ環境、グラフィカル(GUI)かつマルチメディアの複雑なハード環境において重要な役割を担う。この

複雑な環境を使いこなすのは、一からでは非常に困難で、例えばウィンドウズ 95 などでは、コンポーネントウェアを基本的に多く持ち、プログラミングを支援している。 ◆OLE(Object Linking and Embedded)〔1998年版 パソコン〕

データをあらゆるアプリケーション間で自由に交換できる開放機能で、現在開発が進行中で、一部提供が始まっている。これが完成すると、例えば画像データ

を一度作成すると、それをあらゆるアプリケーションに導入することができる。

▲ソフト〔1998年版 パソコン〕 ◆バンドル(bundle)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータを販売するとき、基本的な価格の中に含めるソフトをバンドルソフトと称する。バンドルのほかにユーザの注文で追加する内容をオプションと称

する。ソフト有償販売の促進のためバンドル制度ができたが、最近はバンドルの内容が広がる傾向がある。例えば、ウィンドウズ 95 におけるインターネットである。

◆表計算ソフト/表形式DB(spreadsheet program/table style database)〔1998年版 パソコン〕 表計算ソフトは画面上大きな集計表を作成し数値や文字、集計のための計算式などを入力することにより複雑な計算や統計を素早く行うアプリケーション。こ

の表計算ソフトによるデータベースを表形式DBと呼ぶ。 Excel や Lotus 123 などがこれである。 ◆リレーショナルDB(Relational DataBase)〔1998年版 パソコン〕 物理的なデータファイルをもとに、関係式により関連するデータを結びつけて、物理的なファイルとは形式の異なる様々なファイルを生み出すデータベースで

ある。これではファイルは物理的なファイルを一個用意するだけで、それをベースとする多様なファイルを作り出すことができ、ファイルを効率化できる。パ

ソコンでは、ACCESS が一般化している。

◆マクロ(macro)〔1998年版 パソコン〕 アプリケーションの複数命令を組み合せて記述し一命令にまとめたもの。マクロを利用すると、プログラム操作の効率や正確性が向上する。複数のキー操作を

自動学習させ一個のキー操作で実行できるようにする簡略操作方法をキーボードマクロと呼ぶ。 ◆ウィザード(wizard)〔1998年版 パソコン〕 魔法使いの意味で、プログラム支援機能。プログラミングあるいはアプリケーションの利用に当たり、利用者に様々な便利な機能を提供する。例えば、帳票を

設計しようとする時に、予め用意された標準形式を示し選択を促すなど、順番に示される画面から適当なものを選択していくことで複雑な設定を行えるよう利

用者を支援する。

◆クエリー(query)〔1998年版 パソコン〕 検索内容を指定し、検索を実行すること。クエリーの基本的な文法として、キーワードと“and,or,not”など、あるいは、その組み合わせがある。また、ワイルドカードとして*がある。例として、ある項目欄で検索するとして、「情報欄 yes and キーワード欄“*int*”」というクエリーを実行させると、情報関連

のデータで、int という文字がキーワードにあるものを検索することになる。 ◆圧縮/解凍(data compression/extraction)〔1998年版 パソコン〕

データの圧縮により、記録容量、通信時間を節約できる。イメージデータやテキストなどのデータ圧縮とプログラムの圧縮がある。イメージデータ、たとえば

音声、画像などは、同じデータが続くなど冗長性が高いので、かなりの密度にコンパクトにまとめ、利用するときは、圧縮を解いて(解凍)、データを使用す

る。プログラムも同様に、命令が反復する傾向があり、これを符号化して圧縮し、利用するときは解凍して用いる。圧縮と解凍のための応用プログラムが供給

されている。 ◆テキストエディター(text editor)〔1998年版 パソコン〕

文字データファイルを作成したり、編集したりするソフト機能で、文字を扱うような様々な場面で利用する機能である。 ◆フリーウェア/シェアウェア(freeware/shearware)〔1998年版 パソコン〕

無償で提供されているプログラムなどソフトウェアがフリーウェア。パブリック・ドメイン・ソフト(PDF Public Domain Software)とも呼ばれる。相互互恵の精神で提供される。シェアウェアは期間限定で無償で提供され気に入ったら購入する。通常の販売ソフトより安価であることが多い。ともに主にネット

上で提供される。

◆エンハンスドCD(enhansed CD)〔1998年版 パソコン〕 CD‐ROMと音楽用CDが合体し、両方の機能を持つ。音楽に使われていない部分に、データを記録でき るようにしてある。

◆電子書籍〔1998年版 パソコン〕 CD‐ROMやDVDなどに記録した書籍。出版社の例では、文庫一○○冊が一枚のCD‐ROMに収録されているものや二四巻の百科事典が一枚に納まった

ものなどがある。電子書籍の特徴は、ランダムに検索でき、関連のテキストに移動できること、音声や動画も可能なこと、コンパクトなことなどで、新しい図

書概念を生み出している。 ◆電子ブック/EPWING(electronic book/EPWING)〔1998年版 パソコン〕

ともに日本の電子出版で多く使われている統一データ規約。検索機能が特色。電子ブックは八センチのCD‐ROMでソニーなどが発売している電子ブックプ

レイヤーと呼ばれる携帯型のビュアーで見ることができる点がもっとも大きな特色で、文字・音声・モノクロ画像が扱える。EPWINGは通常のCD‐RO

Mの大きさでパソコンで閲覧するが、カラー画像や動画などマルチメディア機能を取り込める。なお、EPWING規約は電子出版の標準フォーマットとして

JIS規格化されている。

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◆エキスパンド・ブック(Expand Book)〔1998年版 パソコン〕

米ボイジャー社の電子出版規約。日本語版もある。画面上に表示されたページを、紙の本をめくるような感覚で操作できることが特色で、読み物に適している。

また、さまざまなマルチメディア手法が盛り込まれる。 作成ソフトを使えば誰でも簡単に電子出版物を作ることができることから草の根電子出版の中心的ツールになっている。

●最新キーワード〔1998年版 パソコン〕 ●キロ/メガ/ギガ〔1998年版 パソコン〕

コンピュータ専門家が、当たり前のようにメガだのギガという言葉を使うが、素人にはどの程度の容量をさしているのか、見当がつかないことが多いと思われ

る。キロは一○○○、メガは一○○○×一○○○、ギガは一○○○×一○○○×一○○○の容量を表している。コンピュータの内部メモリでは、パソコンでも

一六メガバイト、三二メガバイトあるいはそれ以上を持つものが普通になった。昔は、キロの単位で計ったものであり、プログラミングでは、この少ないメモ

リースペースにいかに上手にプログラムを盛り込み、効率的に実行させるかが、プログラマーの腕の見せ所であったが、現在ではそうしたことはほとんど考え

ずともよい。メガのオーダーでスペースがあるからである。それでもマルチメディアの画像や音を扱うとなると、メモリーもギガのオーダーで欲しくなる。フ

ロッピーディスクの出現以前は、長く磁気テープを利用していた。これはギガのオーダーであり、フロッピーディスクの数千枚分の記録ができるが、汎用コン

ピュータで使うもので、しかもランダムの入出力には使えない。フロッピーの容量は三・五インチのものでは、現在では一・四四メガバイトのスペースであり、

まことに便利である。一冊の書物を一五○キロ字=三○○キロバイトと考えれば、フロッピー一枚には、圧縮技術を使わなければ単行本が五冊くらいは入ると

いう計算になる。もっともあまりぎしぎし入れると、使い勝手が悪くなり、万一壊れたときの被害も大きくなるから、三割程度の空きを作っていたほうがよい。

ハードディスクの容量は、八○メガバイト、二○○メガバイトという状況だったが、最近では一ギガを超えたものが使われるようになり、フロッピーの軽便さ

はないとしても大量のデータを蓄え、多数の大きなプログラムを常備することができるようになった。一ギガクラスのハードディスクでは、単行本をゆうに三

万五○○○冊は蓄えることができる。ところがマルティメディア全盛の今日、カラーの画像(階調とカラー情報が増える)や動画や音声の情報が増えると、と

ても収容できなくなる。アナログ情報をデジタル化すると、精密に記録すればするほど、粒子が細かくなり、ビット情報が増えるからである。動画の記録再生

は、普通のパソコンでは、せいぜい一○分程度になってしまう。そこでCD‐ROMなどが利用されるようになったが、これでも映画は入りきらないし、スピ

ードの面で動画の記録再生は無理である。そこで最近考えられたのが、DVDである。これはビデオテープと同等の容量で、しかもデジタル的に記録でき、ラ

ンダムアクセスで、検索機能に優れている。片面で二・六ギガバイトの記録ができるものでは、二六○分映画を記録再生できる。最新規格では四・七ギガバイ

トというから、一五万冊ほどの図書が記録できることになり、ゆうに一枚で図書館に近いものになる。しかもこの図書館は、検索や複写や通信が自由自在、し

かも映像も音声も入る電子図書館である。 ▽執筆者〔1998年版 パソコン〕

山本直三(やまもと・なおぞう) 愛知学泉大学教授 1929年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東芝OA事業部,東芝OAコンサルタント取締役を経て,現職。OA論専攻。著書は『実践オフィスオ

ートメーション』『日本語ワードプロセッサの活用法』『ワープロ文書生活』『ワープロ市民講座』など。日本事務機械工業会・ワープロ部会長、標準化委員会

で活動。

▲パソコン本体〔1998年版 パソコン〕 ◆CPU(Central Processing Unit)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータの中央演算処理装置。主メモリーから命令を取り出し、それを解析して、コンピュータの各装置に動作指令を出し、プログラムの実行を行う。こ

の動作を次々と連続してプログラムの手順に沿って行う。コンピュータの中核となる部分である。命令の取り出し、解析、動作指令などは、多重・並行的に効

率よく行うのが通常である。つまり現在の命令を解析をしながら次の命令を読み取っているという具合である。

◆メモリー(memory)〔1998年版 パソコン〕 記憶装置のことで、内部記憶装置と外部記憶装置がある。内部では主にRAMが用いられる。外部では、ハードディスク、フロッピーディスク、磁気テープ、

デジタルビデオディスク、光ディスクなどが用いられる。内部メモリーは大きなほどコンピュータの処理能力が高まるが、価格が上がる。 ◆チップセット(chip set)〔1998年版 パソコン〕 パソコンの内部でCPUと各種ハードウェア間のデータの流れをコントロールするLSI。チップセットの能力がパソコンの処理速度を大きく左右する。キャ

シュメモリーの管理はこのチップセットが行っている。 ◆キャシュメモリー(cache memory)〔1998年版 パソコン〕

RAMの一部に特に高速なメモリーを装備し、データ入出力など、最もよく使う処理に用いられ、コンピュータの高速化をもたらす。キャシュメモリーの有無、

その容量・スピードなどはパソコンの高速性能に大いに関係する。 ◆メモリー・インターリーブ(memory interleave)〔1998年版 パソコン〕

周辺装置とメモリーとのデータの伝送を行うとき、単位ごとにデータを順番に転送するのではなく、ある単位を送り始めたら、それに後れて次の転送を多重的

に始め、伝送の効率を高める方式である。

◆ハードディスク(hard disk)〔1998年版 パソコン〕 固定磁気記憶装置のことで、コンピュータの外部記憶装置の主流になっている。最近のパソコンでは、一ギガバイト以上の装置を内蔵するのが通常である。ま

た、外部に外付けの装置を増設することもできる。ハードディスクは、コンピュータの内部メモリーを補強し、OSはじめプログラムのほとんどを記録し、必

要に応じて内部メモリーに高速に呼び出して(ロード)、実行させ、結果やファイルを大量に貯蔵する中核的役割を担う装置である。 ◆コネクタ(connector)〔1998年版 パソコン〕

パソコンとディスプレイなどの外部装置を接続する連結部分。D‐SUB25 ピンというようにコネクタの種類名とピン数で表示することが多い。プリンタではセントロニクス、シリアルポートに使われる RS232、SCSIで使われるアンフェノール・ハーフピッチなどが代表的。外部機器をつなぐ場合はパソコ

ン側のコネクタと外部機器のコネクタの両方に合致するケーブルが必要になる。 ◆PCIバス/ISAバス(peripheral Commponent Interconnect Bus/Industrial Standard Architecture Bus)〔1998年版 パソコン〕

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コンピュータ内部で、データが移動する経路をバスという。PCIバス、ISAバスは、代表的なバス規格。バス幅(一度に転送できるデータの大きさ)はそ

れぞれ三二ビット、一六ビット。ISA(アイサと読む)はATバスとも呼ばれIBM‐PCの拡張バス規格として誕生しAT互換機の標準的バスとなった。

現在では転送速度などでPCIバスが主流となっている。 ◆SCSI(Small Computer System Interface)〔1998年版 パソコン〕

パソコンと周辺機器との信号接続のインターフェースの標準規格。スカジとよぶ。例えばOCRやCD‐ROM読み取り装置などを接続するときは、たいがい

はSCSI接続である。

◆拡張スロット(extended slot)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータなど装置の中にプリント基板などを装着するためのコネクタなどを含むパーツ連結部をスロットという。そのうち、拡張用のコンピュータ基板を

差し込めるように予め備えられているものが拡張スロットである。AT互換機ではISAバス用のスロットとPCIバス用のスロットを持つのが普通。

◆拡張カード(expansion card)〔1998年版 パソコン〕 拡張スロットに差し込む拡張機能を搭載したプリント基板。音声を出力するサウンドカード、通信を行うモデムカード、LANとの接続をするイーサネットカ

ード、MPEGムービーを解凍・再生するMPEGカード、ビデオ画像をパソコンに取り込むビデオキャプチャーカードなど、さまざまな拡張カードが開発さ

れている。拡張スロットの数が多ければそれだけパソコンの機能拡張が可能となる。

◆LANカード(LAN card)〔1998年版 パソコン〕 パソコンにオプションとして付属して、これを接続部分としてLANに接続する通信インターフェースである。このカードには、送受信処理、エラー処理など

を行う機能がある。LANアダプターあるいはLANボードとも称する。

◆メモリー・スロット(memory slot)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータのメモリーユニットを取り付ける接続部のこと。例えば、最初に内部メモリーとして一六メガバイトがあるとして、拡張スロットの余裕が二個あ

れば、後で一六メガバイトのメモリー基板を二枚追加して、四八メガバイトにメモリを増強することが可能である。なお、メモリモジュールにはSIMM(Single Inline Memory Module データ幅=三二ビット)とDIMM(Dual Inline Memory Module データ幅=六四ビット)という種類がある。ペンティアムプロセッサはデータ幅として六四ビットが必要であるため、SIMMは同じ大きさのメモリを二枚ペアで使う必要がある。最近はDIMMを使用する傾向になって

きた。 ◆シリアルポート/パラレルポート(serial port / parallel port)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータ本体のコネクタ部であり、このインターフェースを通じて、パソコン本体とプリンタ、モデム、マウス、キーボードなど周辺装置とが、データを

一ビットずつ伝送する。データ伝送の回線は一本であり、スピードは遅いが伝送の質は高い。一方、パラレルポートは、データ伝送が複数回線(八回線など)

で並列的に同時に行われる。シリアル方式に比べスピードは格段に高速であるが、複数の回線間で誘導信号を拾いあうという現象が生じ、ケーブルが長くなる

と伝送品質に問題が生じやすい。 ◆PCカード(PC card)〔1998年版 パソコン〕

ノートパソコンで使用されているパソコンを拡張するためのICカード。PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)という規格で標準化されており、薄さによって TypeI から typeIII まである。最初は外部記憶装置としてのメモリーカードからスタートしたが現在はFAXモデ

ムカードやイーサネットカード、SCSIカードなどパソコンの機能拡張の用途に多く使われている。 ▲キーボード・操作〔1998年版 パソコン〕 ◆キーボード(keyboard)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータに文字や記号を入力するための文字鍵盤装置である。IBM方式の標準キーボードが主流となっている。また、操作を便利にするために拡張部分

を組み込んだ拡張キーボードがある。また、機種により収容文字数や文字位置の異なるものがある。また、数字入力専用のテンキーもある。AT互換機では 101

キーボードと呼ばれる英文のキーボード、106キーボードと呼ばれる日本語用キーボードが主流。親指シフトキーボードと呼ばれる日本語の仮名入力を効率的に行うためのキーボードもある。

◆Ctrl(コントロール)キー(control key)〔1998年版 パソコン〕 キーボードの制御キーのこと、これを押しながら他のキーを押したときに、それぞれの組み合わせにより、特殊な機能が働く。たとえば Ctrl キーを押しながら“C”のキーを押すことで選択部分のコピー処理などが行える。こういった操作を“Ctrl+C”などと記述することも多い。特定の操作を指令するショート

カットなどの操作に用いる。 ◆Alt(アルト/オルタネティブ)キー(alternative key)〔1998年版 パソコン〕

Ctrlキーと同じような意味に用いる。たとえば Altキーを押しながら Tab(タブ)キーを押すと実行中のアプリケーションを切り換えることができる。 ◆Shift(シフト)キー(shift key)〔1998年版 パソコン〕 キーボードのシフトキーのこと。これを押しながら文字キーを押すと、文字キーの上段(upper case)が入力される。たとえば英字の場合は大文字となる。小

文字は下段(lower case)である。Shiftキーは左右に二個ある。 ◆Tab(タブ)キー(tab key)〔1998年版 パソコン〕

キーボードにあるキーの名称であり、このキーは押すと、カーソルがディスプレイのタブセットしてある位置あるいは次の小窓(ボックス)までスキップする。

タブセットは、自由に位置を指定できる。プリンタでは、印字位置がプリンタのタブセットしてある位置まで、スキップする。この機能により、文字位置の桁

合わせなどが効率的にできる。 ◆Esc(エスケープ)キー(escape sequence key)〔1998年版 パソコン〕 特殊な機能を持つキー。例えば、いったん行った操作を取り消すときに、このキーを押す。プログラムの指定により、柔軟に使われる。

◆ショートカットキー(short cut key)〔1998年版 パソコン〕 アイコンやメニューのようなマウスによる操作ではなくキータッチによる簡単な操作手順。たいがいは、ファンクションキー/コントロールキー/Alt キーな

どと他のキーとの組み合わせで行う。その組み合わせはOSで決められているもの、例えば Ctrl+Alt+Del でプログラムの強制終了、アプリケーションごとに決められているものがあり、プルダウンメニューやマニュアルに示される。これも無意識に操作できるほどまでになれば、マウス操作よりも効率がよい。

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◆ブラインドタッチ(blind touch method)〔1998年版 パソコン〕

キーボードを見ないで行うキー操作方法。キーボードに注意をはらうことが少なくなり、入力対象に注意が向き、効率よく疲れも少なく操作できる。この手法

を修得するには、ホームポジション(指を常に置く基本位置)と指のキー分担を決めて練習し、無意識にキーを選択できるまでにする。 ◆ウインドウ(window)〔1998年版 パソコン〕

ディスプレイに窓のように画面を表示し、データおよびその処理方法を窓枠という形態でワンセットで表示できるようにするGUI機能。これにより限られた

面積のディスプレイに、より広い画面を柔軟に表示できる。基本的にメニューバー、コントロールボックス、スクロールバー、ボディの部分などからなる。

◆MDI(Multi Document Interface)〔1998年版 パソコン〕 ウインドウ環境のもとでのアプリケーションは、画面の上では、ほとんど複数のウインドウの中にデータを表示して作業し、必要に応じてウインドウを切り替

えて、別の画面を表示する。こうした重なり合い、分割された状況がMDIである。ウインドウ環境はこれまでのシンプル画面(SDI)と異なり、MDI環

境を提供しており、プログラムの開発もそれに応じたオブジェクト指向になった。 ◆ポインティング(pointing)〔1998年版 パソコン〕

ディスプレイの位置を点指定すること。マウス、ジョイスティックなどをポインティングデバイスと称する。 ◆マウス(mouse)〔1998年版 パソコン〕

ネズミのような形をしたポインターのハンド操作セット。マウスを机上で動かすと、ディスプレイ上で矢印などの形状のポインターないしカーソルがそれにつ

れて移動し、目的のアイコンやメニューをポインターで指して、マウスのボタンをクリック(コツコツと押す)操作する。また画面の一部を選択して、ドラッ

グ&ドロップ、カット&ペーストなど、様々な操作ができる。マウスボタンは一‐三個の方式がある。ノートパソコンなどではキーボード上にマウス機能を固

定して取り付けるトラックボールのような方式が通常である。 ◆ドラッグ・アンド・ドロップ(drag & drop)〔1998年版 パソコン〕

マウスを押して画面のアイコンやオブジェクト(画像など)などを指定して(ハンドルがつくか強調表示される)、ボタンを押したままマウスを動かして(ド

ラッグ)、オブジェクトを移動させて放すこと(ドロップ)。パソコン基本操作のひとつ。 ◆カット・アンド・ペースト/コピー・アンド・ペースト(cut & paste / copy & paste)〔1998年版 パソコン〕

画像でも文字でも一部分を切り取ったりコピーしたりして、その部分を異なる場所に再生(ペースト・貼り付け)すること。パソコンの操作では最もよく用い

る便利な機能で「切って貼る」という感覚。コピーや削除した情報は一時的にクリップボードに保存され何度でも利用できる。画像やテキストの編集や複写な

どが容易にできる。 ◆プロパティ(property)〔1998年版 パソコン〕

ある機能やファイルの属性または特性をいう。プログラミングにおいて、オブジェクト(テキスト、画像、画面など)の特性の一覧を示し、その仕様をそれぞ

れ決めることが普通であるが、この一覧表をプロパティシートと称する。Windows ではファイルの属性や機能の詳細設定をプロパティと呼び、プロパティ・ウィンドウでユーザーが参照したり変更したりできる。

▲周辺装置〔1998年版 パソコン〕 ◆液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)〔1998年版 パソコン〕

液晶とは、ある液状物質に電界や温度を与えると、分子が規則性をもって並ぶ性質(結晶)を言う。この性質を利用した表示装置を液晶ディスプレイと称する。

液晶素子を細かく配列し、文字、画像を表示する。薄型、小型、安価に製造でき、携帯型OA機器の発達に貢献している。液晶は自身で発光せず、外光を必要

とするが、背面から光を出し、反射させて発光させるバックライト方式が普及している。また、薄膜トランジスターを用いた高速表示の方式も普及している。

カラーも表示できる。 ◆ドライブ/ドライバー(drive / driver)〔1998年版 パソコン〕

装置の一般的な名称。たとえば印刷装置はプリンタドライブ、ファイル装置はファイルドライブと称する。なお、これらの装置に入出力制御の基本ソフトをド

ライバーと称し、その装置を用いるとき、装置特有のドライバーソフトをインストールする必要がある。

◆CD‐ROM(Compact Disk Read Only Memory)〔1998年版 パソコン〕 書き込みができず読み取り専用の光記録のディスクで五五○メガバイトの容量がある。音楽用CDと同じ大きさで、デジタル記録をし、プログラムやデータを

大量に記録できる。マルチメディア表現が流行する今日のパソコンでは必要不可欠で、ソフトの供給もフロッピーとともにこれで行われることが多い。

◆MOディスク/光磁気ディスク(Magnet Optical disk)〔1998年版 パソコン〕 レーザー光と磁気コイルを用いて磁性媒体への書き込み読み出しを行う磁気ディスクで、三・五インチで二三○メガバイトないし六四○メガバイトと容量が大

きく、画像を含むような大量記録に利用される。五・二五インチもある。 ◆プリンタ(printer)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータ出力用印刷装置。様々な印刷方式がある。ラインプリンターは一行を一度に印刷して高速であり、汎用コンピュータで専ら使う。シリアルプリン

ターは一文字ごとに印刷するものでパソコンで使う。レーザープリンタ(電子写真方式)とサーマルプリンタ(感熱方式)とバブルジェットプリンタなどがあ

る。

◆バブルジェットプリンタ(bubble jet printer)〔1998年版 パソコン〕 インクジェットプリンタの一種。インクを供給するノズルの発熱体でインクを気化させ、その気泡(バブル)を紙に飛ばして、印字する方式。ノズルの束の集

積により、レーザープリンタに近い文字品質が得られる。カラーインクを用いることにより、カラー印刷も容易である。作動音も静かで装置のコストも低い。 ◆フォント(font)〔1998年版 パソコン〕 同一形状の文字群のセット。通常は明朝、ゴチックなど基本的なフォントをバンドルしているが、他に毛筆体など多くの多彩なフォントが工夫され発売されて

おり、オプションとしてセットできる。しかし、メモリーを大量に占めるので、あまり使わないフォントまでパソコンに入れるのは得策ではない。 ◆アウトライン・フォント(outline font)〔1998年版 パソコン〕

印刷文字の輪郭の曲折点のベクトルデータを記憶する方式のフォント。パターンで記録する方式(ドットパターン)よりも記憶容量が少なくてすむ。文字を表

示するときは、ベクトルデータからプログラム的に復元する。文字の拡大縮小を行ってもなめらかな輪郭の形を表示できる。

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◆イメージリーダー/イメージスキャナー(image reader)〔1998年版 パソコン〕

画像や写真を走査(スキャン)して、デジタルデータとしてコンピュータに読み込む画像読取装置。画像の解像度(DPI)の密度が細かいほど、時間がかか

り、データが多くなり、メモリーも多く要する。カラーの場合は階調が細かいほど、データ量が多くなる。これに関連して、イメージで読み取った文字パター

ンをテキスト文字として認識するソフトもある。

◆OCR(Optical Character Reader)〔1998年版 パソコン〕 光学的文字読み取り装置。印刷文字あるいは手書き文字をスキャンして読み取り、コンピュータに入力する装置。印刷文字の読み取りは比較的に容易であるが、

手書き文字の読み取りでは、リジェクト文字(排除文字)または誤読文字が多くなる。リジェクト文字が出たときは人間が補足することになる。なお、読み取

りの後のソフトによるテキストの文脈チェックでミスを検出する方法もある。紙の質によってもリジェクト率が変わる。ハンディで簡便なOCRもある。 ◆TA(ターミナルアダプタ)(Terminal Adapter)〔1998年版 パソコン〕

ISDN回線で従来のアナログ方式の電話機やモデムを利用したりパソコンとの接続をするための装置。TAのほかに回線の引き込み口にDSU(Digital Service Unit)と呼ばれる接続装置が必要だが、最近のTAはDSUの機能を内蔵したものも多い。

▲運用ならびにファイル管理〔1998年版 パソコン〕 ◆フォーマット(format)〔1998年版 パソコン〕

一般に様式のことをいう。ファイルの記録のレイアウト、印刷する帳票のレイアウト、プログラムでの入出力形式のレイアウトなどをフォーマットと称する。

フォーマットを決めることをフォーマッティングという。フロッピーのその作業も、パソコン用に内部記録様式を調えることをいう。 ◆ファイル拡張子(file extension)〔1998年版 パソコン〕

ファイル名称は、ファイル名と拡張子からなり、“filename. bas”というようにファイル名・拡張子で表現する。拡張子によりファイルの性質を把握できる。たとえば、“filename. txt”は、DOSテキストファイルであることを意味している。

◆EXEファイル(execution file)〔1998年版 パソコン〕 プログラムの実行形式のファイルのことで、例として、 “progname.exe” のようにファイル拡張子に exe がつく。このファイルは、呼び出したり、アイコンをクリックすれば、直ちにプログラムの実行を開始する。

◆DOSテキストファイル〔1998年版 パソコン〕 テキスト形式の文字コードのみで構成されたファイル構造を示しており、異なるコンピュータやソフト間で互換性をとるための共通ファイル形式として広く利

用されている。拡張子に “filename. txt” と txt が付属する。 ◆WAVファイル〔1998年版 パソコン〕

音を記録する形式のファイル。この形式のファイル名は、例えば “file-name. wav” と wav の拡張子がつく。このファイルを音声再生ソフトで読み出すと音楽や音声が出力される。 ◆クリップボード(clip-board)〔1998年版 パソコン〕

一時的な情報を張り付ける掲示板のようなもので、パソコンやワープロなどで、情報を臨時に蓄える共通メモリーをいう。画像や文字などの情報を切り取り

(cut)、複写(copy)などの操作をすると、その情報はクリップボードに蓄えられ、貼り付け(paste)により、それをディスプレイ上のポイント指定した位

置に復元あるいは複写できる。 ◆プロテクト(protect)〔1998年版 パソコン〕 データ保護のこと。不注意によるデータの消去・変更や不法コピー対策、第三者によるデータの改ざんや覗き見の予防などの場合に使われることば。フロッピ

ーには、書き込み禁止の窓がついており、窓を開けると、書き込みができず、データにプロテクションがかかる。通信などでデータの保護をするには、暗号文

にして伝送する。プログラムの動作では、他のメモリー領域はプロテクトされ、命令の誤動作によるメモリー破壊から保護するようになっている。

◆レジューム(resume)〔1998年版 パソコン〕 パソコンやワープロなどで、動作の途中で電源を切り、再び電源を入れたとき、元の状態を復元することをレジューム機能と称する。このためには動作停止状

態をそのまま記録する機能を必要とする。ノートパソコンでは頻繁に電源を切ることが多くこの機能が重要になる。 ◆インストール(install)〔1998年版 パソコン〕 設置するという基本的な意味である。パソコンを購入して部屋に設置する物理的な設置と、ソフトウェアをパソコンにセットする設置がある。ソフトをインス

トールするときは、たいがいはそのソフトの setup. exe を実行させると、自動的にインストールが行われる。 ▲OS〔1998年版 パソコン〕

◆OS(Operating System)〔1998年版 パソコン〕 コンピュータを効果的に使えて、操作、プログラミングを容易にするように整備された基本的なソフトの体系。OSはおおよそ、入出力装置の制御、ジョブ(プ

ログラム)処理の制御、スケジューリング、リンク(結びつけ)、タスク(処理の一つ)の管理、ファイルの目次の管理、誤り制御などの働きをする。

◆BIOS(Basic Input Output System)〔1998年版 パソコン〕 基本入出力システム。パソコンに電源を入れると、最初にBIOSが動き出し、ハードディスクやフロッピーなどからOSプログラムを探し、CPUに必要な

ソフトをディスクなどファイルから探して、ロード(収納)したり、入出力を管理する。 ◆MS/DOS(Microsoft/Disk Operating System)〔1998年版 パソコン〕

マイクロソフト社が開発した一六ビットパソコン用のOS。 ◆DOS/V(Disk Operating System/V)〔1998年版 パソコン〕 日本IBMが開発した三二ビットパソコンのOSでそれ以前に使われていた漢字ROMというハードなしで日本語機能を実現した。このOSの登場で事実上の

世界標準であるPC/AT互換機が日本語に対応できた。このOSに対応するパソコンをDOS/Vマシンと呼び、現在最も普及している。 ◆アーキテクチャー(architecture)〔1998年版 パソコン〕

一般にコンピュータアーキテクチャーと称し、コンピュータおよびOSの基本的な仕様、構成、性能をいう。マイクロプロセッサ時代において、インテルのM

PUなどが中心となっており、現代では三二ビットアーキテクチャーが主流となっている。

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◆ウィンドウズ(Windows)〔1998年版 パソコン〕

マイクロソフト社が開発したOSをいう。ディスプレイに複数のウインドウを示すことができ、自由にそれを選択できること、DOS‐OSをベースにしてお

りファイルは階層構造になっていること、プログラムはアイコンで示され、マウスでクリックするなど、イベント駆動方式のオブジェクト指向の構造になって

いることなどに特徴がある。近くウィンドウズ 98が提供される見込み。ウィンドウズ 95では、これまでの 3・1に比べて著しく改良された。動作が完全な三二

ビット方式になったこと、操作面ではスタート画面にすべての必要なアイコンが表示されること、ファイル名が八桁から二五五桁に拡張されたこと、ネットワ

ーク接続機能がバンドルされたことなどである。急速に普及した。

◆ウィンドウズNT〔1998年版 パソコン〕 マイクロソフト社が開発した高性能パソコンOSで、ネットワーク管理用、端末用がある。UNIXを基本にしており、マイクロカーネル(モジュール構成方

式)を採用し、構成が柔軟で、セキュリティ機能に優れている。ウィンドウズ 95とユーザーインターフェースで互換性がある。

◆マックOS(Mac OS)〔1998年版 パソコン〕 アップル社が提供する基本オペレーティングシステム。ウィンドウズ、UNIXなどに比べて普及度は低いが、一部では愛用されている。マックOSは、CR

Tを机上(デスクトップ)になぞらえ、すべて机上で仕事を進める感覚で誰でも平易に操作できるように工夫されており、WYSIWIGのマルチドキュメン

トの操作環境を提供する。

◆FEP(Front End Processor)〔1998年版 パソコン〕 メインの処理に入る前の前処理のこと、基本OSに対して前処理として独立して構成されている。日本語処理において仮名漢字変換などの日本語処理をいうこ

とが多い。日本語FEPにはATOKやMS‐IMEなどがあり、利用者はどれかを選択できる。

◆コンポーネント・ウェア(component ware)〔1998年版 パソコン〕 完成済み部品プログラムのことで、最近のウインドウ環境、グラフィカル(GUI)かつマルチメディアの複雑なハード環境において重要な役割を担う。この

複雑な環境を使いこなすのは、一からでは非常に困難で、例えばウィンドウズ 95 などでは、コンポーネントウェアを基本的に多く持ち、プログラミングを支援している。 ◆OLE(Object Linking and Embedded)〔1998年版 パソコン〕

データをあらゆるアプリケーション間で自由に交換できる開放機能で、現在開発が進行中で、一部提供が始まっている。これが完成すると、例えば画像データ

を一度作成すると、それをあらゆるアプリケーションに導入することができる。

▲ソフト〔1998年版 パソコン〕 ◆バンドル(bundle)〔1998年版 パソコン〕

コンピュータを販売するとき、基本的な価格の中に含めるソフトをバンドルソフトと称する。バンドルのほかにユーザの注文で追加する内容をオプションと称

する。ソフト有償販売の促進のためバンドル制度ができたが、最近はバンドルの内容が広がる傾向がある。例えば、ウィンドウズ 95 におけるインターネットである。

◆表計算ソフト/表形式DB(spreadsheet program/table style database)〔1998年版 パソコン〕 表計算ソフトは画面上大きな集計表を作成し数値や文字、集計のための計算式などを入力することにより複雑な計算や統計を素早く行うアプリケーション。こ

の表計算ソフトによるデータベースを表形式DBと呼ぶ。 Excel や Lotus 123 などがこれである。 ◆リレーショナルDB(Relational DataBase)〔1998年版 パソコン〕 物理的なデータファイルをもとに、関係式により関連するデータを結びつけて、物理的なファイルとは形式の異なる様々なファイルを生み出すデータベースで

ある。これではファイルは物理的なファイルを一個用意するだけで、それをベースとする多様なファイルを作り出すことができ、ファイルを効率化できる。パ

ソコンでは、ACCESS が一般化している。

◆マクロ(macro)〔1998年版 パソコン〕 アプリケーションの複数命令を組み合せて記述し一命令にまとめたもの。マクロを利用すると、プログラム操作の効率や正確性が向上する。複数のキー操作を

自動学習させ一個のキー操作で実行できるようにする簡略操作方法をキーボードマクロと呼ぶ。 ◆ウィザード(wizard)〔1998年版 パソコン〕 魔法使いの意味で、プログラム支援機能。プログラミングあるいはアプリケーションの利用に当たり、利用者に様々な便利な機能を提供する。例えば、帳票を

設計しようとする時に、予め用意された標準形式を示し選択を促すなど、順番に示される画面から適当なものを選択していくことで複雑な設定を行えるよう利

用者を支援する。

◆クエリー(query)〔1998年版 パソコン〕 検索内容を指定し、検索を実行すること。クエリーの基本的な文法として、キーワードと“and,or,not”など、あるいは、その組み合わせがある。また、ワイルドカードとして*がある。例として、ある項目欄で検索するとして、「情報欄 yes and キーワード欄“*int*”」というクエリーを実行させると、情報関連

のデータで、int という文字がキーワードにあるものを検索することになる。 ◆圧縮/解凍(data compression/extraction)〔1998年版 パソコン〕

データの圧縮により、記録容量、通信時間を節約できる。イメージデータやテキストなどのデータ圧縮とプログラムの圧縮がある。イメージデータ、たとえば

音声、画像などは、同じデータが続くなど冗長性が高いので、かなりの密度にコンパクトにまとめ、利用するときは、圧縮を解いて(解凍)、データを使用す

る。プログラムも同様に、命令が反復する傾向があり、これを符号化して圧縮し、利用するときは解凍して用いる。圧縮と解凍のための応用プログラムが供給

されている。 ◆テキストエディター(text editor)〔1998年版 パソコン〕

文字データファイルを作成したり、編集したりするソフト機能で、文字を扱うような様々な場面で利用する機能である。 ◆フリーウェア/シェアウェア(freeware/shearware)〔1998年版 パソコン〕

無償で提供されているプログラムなどソフトウェアがフリーウェア。パブリック・ドメイン・ソフト(PDF Public Domain Software)とも呼ばれる。相互互恵の精神で提供される。シェアウェアは期間限定で無償で提供され気に入ったら購入する。通常の販売ソフトより安価であることが多い。ともに主にネット

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上で提供される。

◆エンハンスドCD(enhansed CD)〔1998年版 パソコン〕 CD‐ROMと音楽用CDが合体し、両方の機能を持つ。音楽に使われていない部分に、データを記録できるようにしてある。 ◆電子書籍〔1998年版 パソコン〕

CD‐ROMやDVDなどに記録した書籍。出版社の例では、文庫一○○冊が一枚のCD‐ROMに収録されているものや二四巻の百科事典が一枚に納まった

ものなどがある。電子書籍の特徴は、ランダムに検索でき、関連のテキストに移動できること、音声や動画も可能なこと、コンパクトなことなどで、新しい図

書概念を生み出している。 ◆電子ブック/EPWING(electronic book/EPWING)〔1998年版 パソコン〕 ともに日本の電子出版で多く使われている統一データ規約。検索機能が特色。電子ブックは八センチのCD‐ROMでソニーなどが発売している電子ブックプ

レイヤーと呼ばれる携帯型のビュアーで見ることができる点がもっとも大きな特色で、文字・音声・モノクロ画像が扱える。EPWINGは通常のCD‐RO

Mの大きさでパソコンで閲覧するが、カラー画像や動画などマルチメディア機能を取り込める。なお、EPWING規約は電子出版の標準フォーマットとして

JIS規格化されている。 ◆エキスパンド・ブック(Expand Book)〔1998年版 パソコン〕

米ボイジャー社の電子出版規約。日本語版もある。画面上に表示されたページを、紙の本をめくるような感覚で操作できることが特色で、読み物に適している。

また、さまざまなマルチメディア手法が盛り込まれる。 作成ソフトを使えば誰でも簡単に電子出版物を作ることができることから草の根電子出版の中心的ツールになっている。

●最新キーワード〔1998年版 パソコン〕 ●キロ/メガ/ギガ〔1998年版 パソコン〕

コンピュータ専門家が、当たり前のようにメガだのギガという言葉を使うが、素人にはどの程度の容量をさしているのか、見当がつかないことが多いと思われ

る。キロは一○○○、メガは一○○○×一○○○、ギガは一○○○×一○○○×一○○○の容量を表している。コンピュータの内部メモリでは、パソコンでも

一六メガバイト、三二メガバイトあるいはそれ以上を持つものが普通になった。昔は、キロの単位で計ったものであり、プログラミングでは、この少ないメモ

リースペースにいかに上手にプログラムを盛り込み、効率的に実行させるかが、プログラマーの腕の見せ所であったが、現在ではそうしたことはほとんど考え

ずともよい。メガのオーダーでスペースがあるからである。それでもマルチメディアの画像や音を扱うとなると、メモリーもギガのオーダーで欲しくなる。フ

ロッピーディスクの出現以前は、長く磁気テープを利用していた。これはギガのオーダーであり、フロッピーディスクの数千枚分の記録ができるが、汎用コン

ピュータで使うもので、しかもランダムの入出力には使えない。フロッピーの容量は三・五インチのものでは、現在では一・四四メガバイトのスペースであり、

まことに便利である。一冊の書物を一五○キロ字=三○○キロバイトと考えれば、フロッピー一枚には、圧縮技術を使わなければ単行本が五冊くらいは入ると

いう計算になる。もっともあまりぎしぎし入れると、使い勝手が悪くなり、万一壊れたときの被害も大きくなるから、三割程度の空きを作っていたほうがよい。

ハードディスクの容量は、八○メガバイト、二○○メガバイトという状況だったが、最近では一ギガを超えたものが使われるようになり、フロッピーの軽便さ

はないとしても大量のデータを蓄え、多数の大きなプログラムを常備することができるようになった。一ギガクラスのハードディスクでは、単行本をゆうに三

万五○○○冊は蓄えることができる。ところがマルティメディア全盛の今日、カラーの画像(階調とカラー情報が増える)や動画や音声の情報が増えると、と

ても収容できなくなる。アナログ情報をデジタル化すると、精密に記録すればするほど、粒子が細かくなり、ビット情報が増えるからである。動画の記録再生

は、普通のパソコンでは、せいぜい一○分程度になってしまう。そこでCD‐ROMなどが利用されるようになったが、これでも映画は入りきらないし、スピ

ードの面で動画の記録再生は無理である。そこで最近考えられたのが、DVDである。これはビデオテープと同等の容量で、しかもデジタル的に記録でき、ラ

ンダムアクセスで、検索機能に優れている。片面で二・六ギガバイトの記録ができるものでは、二六○分映画を記録再生できる。最新規格では四・七ギガバイ

トというから、一五万冊ほどの図書が記録できることになり、ゆうに一枚で図書館に近いものになる。しかもこの図書館は、検索や複写や通信が自由自在、し

かも映像も音声も入る電子図書館である。 ▽執筆者〔1998年版 コンピュータ〕

細貝康夫(ほそがい・やすお) 福井工業大学講師 1934年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒。防衛庁技官,(株)三菱総合研究所主任研究員などを経て,現職。情報処理論,コンピュータ概論専

攻。著書は『データ保護と暗号化の研究』『コンピュータウイルスの安全対策』『カードビジネスのすべて』など。 ◎解説の角度〔1998年版 コンピュータ〕

●アメリカでは、大企業を中心としてWWWサーバやブラウザなどインターネット技術を使って企業内情報システムを構築するイントラネットが急速に普及し

てきている。わが国の企業もイントラネットの活用に乗り出した。 ●通常では社員しか見られないイントラネットの情報をセキュリティや認証技術を駆使して提携先や取引先企業にまで接続を認めるエクストラネットを構築

するための製品が日本でも販売される。 ●携帯情報端末から自社の情報システムにオンラインで接続し、リアルタイム処理するモバイル・コンピューティングを支えるモバイル情報機器の利用環境が

急速に整ってきている。 ●ウィンドウズNTを装備したパソコンサーバが基幹業務システムや大規模システムに利用されていることから、パソコンサーバを無停止型にするためにクラ

スタリング技術を導入する動きが加速してきている。 ●家庭やオフィスにパソコンが普及したのに伴い、電子メールなどでばらまかれたマクロウィルスとよばれる新しいコンピュータ・ウィルスによる被害が広が

っている。

★1998年のキーワード〔1998年版 コンピュータ〕 ★次世代マックOS〔1998年版 コンピュータ〕

米アップルコンピュータ社は、現在開発中の次世代OS「ラプソデー」において、米マイクロソフト社のOS「ウィンドウズNT」で作動するアプリケーショ

ンソフトを開発できるようにする。

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一つのアプリケーションソフトをマックでもウィンドウズNTでも共用できるようにするために、コアOSとアプリケーションソフトの間をやりとりするAP

I(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)に米ネクスト・ソフトウェア社の「オープンステップ」技術を採用する。ユーザーは、このAPI

に基づいて開発されたソフトを一回購入するだけで、そのソフトやデータをウィンドウズNT機でもマックでも共用できる。 ★電脳墓(cyberstone)〔1998年版 コンピュータ〕

葬式の生前契約などを進めてきた民間団体が「究極の墓、サイバーストーン」と銘打ってインターネットの墓参りシステムを立ち上げた。パソコン画面では、

手元のマウスをクリックするだけで線香やロウソクに火がつき、花を手向けたり、ひしゃくで墓に水をかけることもできる。両側のスピーカーからは「般若心

経」が流れてくる。また、故人の残した座右の銘や遺言、思い出までを肉声で聞くこともできる。さらに、DNAを未来に残す目的で「遺骨」代わりに「遺髪」

を保管する構想を進めている。 ★マクロウィルス(macrovirus)〔1998年版 コンピュータ〕

マクロウィルスとよばれるコンピュータ・ウィルスの被害が一九九七年一月頃から広がっている。この新型のウィルスは、ワープロや表計算ソフトに付属する

「マクロ」という言語で書かれている。素人にも理解しやすく、感染したファイルから比較的簡単ににウィルス本体を探し出せ、また僅かな知識があればウィ

ルスを改造できる。電子メールの一部として知らずに感染させられてしまうので被害が広がりやすい。 「ワズ(Wazzu)」は、マイクロソフト社のワープロソフト「MSワード」に感染し、日本語版では感染も発症もしないが、英語版では文書ファイルをオープ

ンするとある確率で文書内のランダムな位置に「Wazzu」という単語を挿入する。「ラルー(Laroux)」は、表計算ソフト「MSエクセル」の英語・日本語版に感染すると、その後、そのパソコンで作ったMSエクセルのファイルすべてに感染するが、このウィルスは、発症しない。 ★クラスタリング技術(clustering technology)〔1998年版 コンピュータ〕

コンピュータの対障害性を向上する要素技術。同種のコンピュータ、中央演算処理装置(CPU)などをネットワークで複数台を房型に接続して、あたかも一

台のコンピュータのように見せる機能である。これにより、ひとつのシステム単位に障害が発生しても即座に別のコンピュータ、CPUに処理を引き継ぐこと

が可能となる。従来超並列コンピュータや汎用機で使われていたが、最近ではウィンドウズNTを搭載するパソコンサーバの領域で採用されてきている。PC

サーバのクラスタリング技術の主な製品としては、米タンデムコンピュータズのサーバネット、マイクロソフト社のウルフパックなどが発表されている。 ★西暦二○○○年問題〔1998年版 コンピュータ〕

西暦二○○○(平成一二)年になった途端、コンピュータシステムに誤作動が発生という問題である。この問題は、コンピュータの処理能力が低かった時代に

データ量を節約するために西暦の下二ケタで管理してきたのが原因である。

西暦の下二ケタが「○○」のとき、システムが「二○○○」を「一九○○」と認識してしまうわけである。 そのため、システムの停止や日数計算・日付け入力エラーが起こり、受・発注や生産ラインが止まったり、金利や給与計算などが間違ったりするという。

誤動作を防ぐソフトの改良に世界全体として一兆五六○○億ドル(一九五兆円)ものコストがかかるという。対策としては、企業ユーザのシステムを手直しす

る必要がある。また、蓄積データを書き換える必要もある。各コンピュータ・メーカーは、早めに体系的な専門サービス商品を設定し、対応するという。 ★ネットワーク・コンピュータ(NC)(network computer)〔1998年版 コンピュータ〕

オラクル社が一九九六年一月に開発構想を発表したインターネットへの接続機能を備えた、安価な超小型パソコンのことで、五○○ドル・パソコンともいう。 オラクル、サン・マイクロシステムズ、ネットスケープ・コミュニケーションズ、IBM、アップルの五社は、NCハードの規格を統一することで合意した。

合意内容は、(1)アーキテクチャ(設計思想)に依存せず、インターネット接続や画面表示で現在の標準技術を取り入れた端末の仕様を固めること、(2)基

本ソフトやプロセッサに関係なく互換性をもたせること、(3)ネットワーク接続に特化して価格は五○○ドル以下に抑える、などである。その狙いは、「誰で

も簡単に操作できる」機能特化型のクライアント・パソコンをイントラネットの端末や一般家庭向きのNCとして提供することにある。ハードは、三二ビット

のCPUと八MBの記憶装置から構成され、ネットワークやデータベースへの接続機能のほか、映像や音声の処理、ならびにテレビ会議もできる。どのNCで

も動作させるために、Java 対応の同じアプリケーション・ソフトウェアをインターネットからダウンロード(取入れ)して使用する。NC製品には、日本電

算機の「iBOX home」、台湾のアクトテクノロジーの「アクトンNC」があり、ユニデンや赤井電機など一○社が製造・販売するという。 ★非同期式MPU(asynchronous MPU)〔1998年版 コンピュータ〕

東京大学先端技術研究センターの南谷崇教授は、コンピュータの処理能力の飛躍的な向上が期待できる実用的な超小型演算処理装置(MPU)を開発した。時

計の役目を果たすクロック信号を使わず、処理間隔が短い「非同期」を採用しているのが特徴で、クロック信号に基づく現行の同期方式で予想される高速化の

壁を超え、将来のMPUの主流となる可能性がある。このMPUは、電源の電圧や周囲の温度を変動させても安定して動作し、環境変動に強い利点もある。

★MMX MPU(maltimedia extension)〔1998年版 コンピュータ〕 米インテル社は、パソコンで三次元画像や音声処理の能力を向上させる新しい超小型演算処理装置(MPU)「MMXペンティアム2」を発表した。マルチメ

ディア時代に向けたもので、パソコン業界では、このMPUは、次世代の標準になるとみている。このため主要メーカーは、このMMXペンティアム2搭載パ

ソコンの新製品を相次いで発表し、すさまじい販売競争に入った。MMXペンテアム2を使うと、マルチメディア処理能力が向上し、従来のソフトでも処理速

度が一、二割向上、さらにMMX対応のソフトを使えば六割も速くなるという。

★ウィンドウズCE/ハンドヘルド・パソコン(HPC)(Windows CE)〔1998年版 コンピュータ〕 ウィンドウズCEは、米マイクロソフト社が開発した家電/携帯/組み込み機器向けの基本ソフト(OS)である。ウィンドウズ 95 に似た操作方法を採用し

ているが、別のOSである。CE用に開発されたソフトで動作する。 ウィンドウズCEを搭載した小型コンピュータをハンドヘルド・パソコンとよぶ。携帯情報端末(PDA)と異なるのはCE用アプリケーション・ソフトをユ

ーザーが自身で選択し、インストールする点である。ソフトはビジネスからゲーム、さらに通信関連の豊富なアプリケーションソフトを同梱されて提供される。

また、ウィンドウズ 95/NT四・○パソコンとの連携機能もある。主な製品にカシオ計算機の「カシオペア」、日本電気の「モバイルギア」などがある。 ▲話題のコンピュータ〔1998年版 コンピュータ〕

CMOS(相補型金属酸化膜半導体)を全面採用し、小型化・ハイコストパフォーマンス化を図ったり、並列処理を高速化する高速結合装置を開発することに

より、並列処理機能を強化したスーパーコンピュータが出現した。一方、モバイル・コンピューティング向き携帯情報端末は、実用段階に入っている。

◆超並列コンピュータ(super parallel computer)〔1998年版 コンピュータ〕 単一のシステムの中に少なくとも一○○○個以上のプロセッサを連結して、それらが互いに協調動作することによって、複数のプロセッサをうまく制御してプ

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ログラムを分散処理するコンピュータのこと。

市場動向としては、米インテル社は最大四○○○個のプロセッサを使って処理速度が三○○ギガFLOPS(毎秒三○○○億回の浮動小数点演算速度)のPA

RAGON XP/Sを、そして米シンキングマシン社は、一万六三八四個のプロセッサを使って処理速度が一テラFLOPS(毎秒一兆回の浮動小数点演算

速度)のCM‐五を発表している。

研究開発動向としては、筑波大学計算物理学研究センターが中心になって開発してきた科学計算用の超並列コンピュータ「CP‐PACS」が一九九六年五月

に完成した。「CP‐PACS」は一○二四個のプロセッサを搭載し、演算の最大速度は、三○○ギガFLOPSである。秋までにプロセッサを二○四八個に

増設し六○○ギガFLOPSを実現するとのことである。電子技術総合研究所は、八○個のプロセッサを搭載した並列コンピュータ「EM‐X」を試作した。

在来の並列機は、一つ一つのプロセッサが別のプロセッサをメモリとデータ交換するのに一○○命令程度かかるのに対して、試作機は一命令で済むように設計

した。その結果、処理性能は在来の並列機の約五倍を示したという。

◆脳型コンピュータ(brain computer)〔1998年版 コンピュータ〕 「脳型コンピュータ」とは、人間の脳の働きをまねて、直観による情報処理や価値判断の能力をもたせたコンピュータである。

開発動向としては、通商産業省工業技術院は、「ブレインウェア(脳機能情報処理)」と名付けた研究プロジェクトを一九九五年度から開始した。超高速の情報

処理ができる超並列処理コンピュータや、学習機能に優れたニューラルネットなどの既存技術の長所を組み合わせるほか、シリコン半導体を応用して集積度を

高めたり、バイオ素子を使って自然な言葉や音声で命令できるシステムの開発を目指す。また、カオス理論や非線形学などの最新の知見を取り入れる。 東京大学先端技術研究センターでは、「神経細胞は、自分が最も心地よい状態に努力すると、自然に最適な答えが導き出せる」という学習の法則をロボットの

アームを制御する頭脳に組み込んだ。すると、アームの一部を針で刺すと、アームは素早い動きで針から逃れた。

東京工業大学の研究グループは、ニューロン(神経単位)が結合指定する「シナプス」という部分と同じ働きをするトランジスタを作った。そして、シナプス

は刺激が何度も伝わると、刺激に応じて結合を強めるという「ヘブの法則」を用いてシナプスの働きを再現した。

◆CMOS並列機(CMOS parallel computer)〔1998年版 コンピュータ〕 大型汎用コンピュータでは、CMOSプロセッサの開発と並列処理技術の進歩により、高速化競争が激化している。各社のCMOSプロセッサの性能は、二四

MIPSから四五MIPSの範囲にある。

日本IBMは八個のプロセッサを搭載したIBM9672‐R2/R3型並列サーバを一九九五年八月に、日本電気は三二個のプロセッサを搭載したPX 7800 を九六年三月に、日本ユニシスは八個のプロセッサを搭載したITASCA3800 を九六年三月に出荷した。日立製作所は三二個のプロセッサを搭載した「MP

5600プロセッサグループ」を九六年四月に発売した。富士通は八個のプロセッサを搭載したGS8600を九六年一○月から出荷。 ◆マルチメディア・パソコン(multimedia personal computer)〔1998年版 コンピュータ〕

音声、静止画像、動画像、文字などマルチメディア情報を一括して扱うために、高度なグラフィック機能、オーディオ機能、通信機能を備えたパソコンのこと。

CD‐ROMタイトル(ソフトウェア)を動かすためCD‐ROM駆動装置、カラー表示ディスプレイ、スピーカー、テレビチューナー、FAXモデムなどを

一体化し、情報量の多い動画像や音声のデータが扱えるようになっている。

利用範囲としては、企業では社内教育、商品のプレゼンテーションなどであるが、家庭ではテレビ、音楽、ゲームなどが楽しめる。将来は教育全般やエンター

テインメント、種々のガイド、趣味などの分野に広がるだろう。

◆携帯情報端末(PDA)(Personal Digital Assistant)〔1998年版 コンピュータ〕 PDAは、ワープロ、ペン入力、通信、住所録などの機能を備えた手帳サイズ(A5判)ほどの超小型パソコンで携帯情報端末とよばれている。 一九九四年にゼネラル・マジック社のPDA用OS「マジック・キャップ」を搭載した「マジックリンク」をソニーが発売した。「マジックリンク」は、エイ

ジェント指向型通信ソフト「テレスクリプト」を備えており、電子メール機能は評価が高い。米アップルコンピュータ社が九六年六月に発売した「アップル・

メッセージパッド」は、ビデオ・カセットほどの大きさで重量は四八○グラムであり、液晶表示装置を搭載し、LCD上に手書き入力した筆跡をそのまま画像

として保存したり、ペン入力機能や手書き文字認識機能を備えており、外部接続の周辺装置を通じてFAX通信や電子メールを送信することもできる。 日本における主な製品は、シャープの「カラーザウルス」、京セラの通信機能一体型の「データスコープ」、東芝のPHS内臓型PDA「GENIO」、松下電

器産業の「ピノキオ」、日本電気の「モバイルギア」などがある。 ◆スーパー・コンピュータ(super computer)〔1998年版 コンピュータ〕 同時代のコンピュータの中で最も超高速の演算能力をもつものをよぶ名称である。原子力、気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。

最初米クレイ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷され、この名が浮上した。 市場動向としては、米クレイ社は、処理性能が一・二テラFLOPS(一テラFLOPSは毎秒に一兆回の浮動少数点演算速度)のCRAYCT3Eを一九九

五(平成七)年一一月に販売した。次に、日本電気は処理性能が一テラFLOPSである最上位機種「SX‐4」を九五年一二月に出荷した。これに対して富

士通は、処理性能が一・一二テラFLOPSである「VPP700Eシリーズ」を九七年二月に発表した。 ◆データフローマシン/DDMP(data flow machine)〔1998年版 コンピュータ〕

アメリカ・マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュータの一種で、データ駆動コンピュータともよばれる。このコンピュ

ータには命令の逐次実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。その代わり、各命令は命令の種類と命令の実行結果の行先情報をもち、プログラム自体

はデータの依存関係を示すデータフローとして表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理を要求される科学技術計算用として期待されてい

る。

シャープは、画像の圧縮や伸張が従来のプロセッサより三○倍以上速いデータ駆動方式のプロセッサチップDDMPを開発した。処理能力は、一秒間に三八○

○万回のデータ処理を行える。データ処理を行う高速演算コアは、データ入力部、プログラム制御部、演算部とデータを一時保存する発火制御部の四つの部分

からなる。データがこの四つの部分を回る間に必要な処理が行われる。

◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔1998年版 コンピュータ〕 このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、システムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、

別名ノンストップコンピュータという。そのため、従来の汎用機に比べてオンライン取引の処理に適している。一方、ウィンドウズNT四・○を搭載した二台

のパソコンサーバをクラスタリング技術を使って接続し、無停止型を実現する方法もある。

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導入効果として、(1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、(2)故障に強く、二四時間無停止の稼動が可能、(3)システムを柔軟

に拡張できるなどがある。 このマシンの技術動向は、RISCチップを採用し高性能化している、データベース機能の充実によりデータベースマシンとしても利用できる、など。 ◆ニューロ・コンピュータ(neuro computers)〔1998年版 コンピュータ〕

脳を構成している神経細胞(neuron)・神経回線網(neural network)の構造・情報処理機能をモデル化し、高度の情報処理装置の実現を目指したコンピュータをニューラル・コンピュータ(neural computers)とよび、この原理を既存のノイマン型コンピュータの上にソフト的に、またはハード的に模倣したコンピ

ュータをニューロ・コンピュータと通常称している。 ニューロ・コンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で並列分散的に情報処理を行うところに特徴がある。このアプローチ

のことをコネクショニズムとか並列分散ともよぶ。

応用分野には、英文の音読学習、両眼立体視モデル、パターンの認識・理解、ロボット制御、金融関係の予測、大量あいまい情報の処理などへの適用例が多く

みられる。

◆光コンピュータ(optical computer)〔1998年版 コンピュータ〕 光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処

理、(2)信号の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域性、(6)信号の多様性、などである。 現在研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2)並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、(3)並列デジタル演

算方式の三つがある。

目指すところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロ・コンピュータの技術として期待されている。しかし、その実現には光技術に適したアーキテ

クチャの研究をはじめ光インタコネクション(素子間を光で接ぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発など多くの課題がある。

◆光ニューロ・コンピュータ(optical neuro computer)〔1998年版 コンピュータ〕 ニューロ・コンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレ

ンズの組合せやホログラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロ・コンピュータである。

光ニューロ・コンピュータの特徴は、(1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニューロン間配線が可能である、(2)光波は互いにクロストーク

(混線・混信)を受けないで伝搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができるなどである。

ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学習機能をもつコンピュータの研究が進められている。 ◆二世代ファジー/ファジー・コンピュータ(the second generation fuzzy/fuzzy computer)〔1998年版 コンピュータ〕

ファジーとは、柔らかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われているノイマン型コンピュータは1か0か、正か負か、というように二値論理

(デジタル論理)で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値がうまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシップ関数という一種の確率変数で中間的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるようにした。

第一世代ファジーは、地下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発揮した。第二世代ファジーは、人間や社会に直接働きかけ、知識処理

に威力を発揮するといわれている。人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらをコンピュータでやらせようとするのがファジー・

コンピュータである。九州工業大学では、ファジー・チップを開発し、本格的なコンピュータ化を目指している。 ファジー・ソフトウェアはコンピュータ言語でこれを実現させたもので、ファジーProlog、ファジーLISP、ファジー・プロダクションシステムなどが開発されている。

▲コンピュータ・ネットワーク〔1998年版 コンピュータ〕 社内ネットにインターネットの情報技術を活用したイントラネットの構築が「企業内情報革命」として脚光を浴びている。また、外部の情報資源を外部委託す

ることができるエクストラネットの製品が登場した。これらのネット構築には、ファイアウォール技術や認証技術が必須である。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔1998年版 コンピュータ〕

独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することができるように結合させたシステムのこと。 コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機

的に結びついていることがあげられる。

その効果には、(1)通信回線の共用による通信コストの削減、(2)分散による信頼性の向上、(3)異業種間の結合による複合型業務処理の実現化、(4)情

報流通の促進などがある。

コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN)に大別される。 ◆HTML(Hypertext Markup Language)〔1998年版 コンピュータ〕 WWWのホームページや、その他のハイパーテキスト文書を作成するために使用される標準のハイパーテキスト言語のことである。

インターネットでHTML文書(ドキュメント)をアクセスすると、テキスト、グラフィックス、そして他の文書へのリンクが混在したものを表示する。その

中のリンクを選択すると、それに関連した文書が自動的に開かれる。HTML文書には、多くの場合、“.html”という拡張子が使われる。

◆WWW/ホームページ(World Wide Web / home page)〔1998年版 コンピュータ〕 ワールド・ワイド・ウェブまたはスリーダブリュと読む。WWWとは、HTMLを用いてインターネット上の分散データベースに蓄積されたハイパーテキスト・

ページの膨大な集合の統合システムのこと。CERN(ヨーロッパ合同原子核研究機構)で開発された情報表示システムである。クライアント/サーバ型のア

プリケーションでマルチメディア対応となっている。 ◆ウェブ・ブラウザ(Web browser)〔1998年版 コンピュータ〕

インターネット情報検索閲覧用応用ソフトウェアのこと。ウェブ上で複数のHTML文書へのリンクを可能とするWWWのクライアント用ソフトウェアで、ネ

ットスケープ社の「ネットスケープ・ナビゲータ」、マイクロソフト社「インターネット・エクスプローラー」や「Hot Java」がある。数多くの文書を拾い読

みして(browsing)、興味のあるオブジェクトを見つけたとき、それをマウス(ポインティングデバイス)でクリック(指示)すると、自動的に目的の文書があるインターネット・ホストにアクセスする。したがって、ユーザーはIPアドレス(各コンピュータごとにもつ固有の番地)やホスト・システム名などの詳

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細を知らなくても閲覧できる。

◆TCP/IP(転送制御プロトコル/インターネット・プロトコル)(Transmission Control Protocol / Internal Protocol)〔1998年版 コンピュータ〕 コンピュータ・ネットワークの標準プロトコル(通信規約)で、インターネットの基盤をなす情報技術である。一九七○年代にアメリカ国防省防衛高等技術研

究計画局によって最初に開発された。

これらは、インターネット/イントラネット・アクセス、パケット通信、パソコン会議、ターミナル・エミュレーションを統括する。 TCPはデータが正しく伝送されたことを保証するプロトコルであり、IPはコンピュータに依存しないプロトコルで、パソコンからメインフレームまで、あ

らゆる機種のコンピュータに接続する。また、異なったネットワークをまとめて一つのネットワークにすることもできる。 ◆ファイアウォール(firewall)〔1998年版 コンピュータ〕 外部からネットワークへの不法侵入を防ぐ技術やソフトウェアをファイアウォール(防火壁または防御壁)という。インターネット/イントラネット環境では、

セキュリティ(安全保護)を確保する必須の情報技術である。 ファイアウォールの役割は、インターネットとイントラネットの間に位置し、インターネットからの不法侵入を防ぎながら、社内ユーザーによるインターネッ

トへの利用制限を設けることにある。ファイアウォールの種類は、(1)パケット・フィルタリング方式、(2)サーキットレベル・ゲートウェイ方式、(3)

アプリケーション・ゲートウェイ方式の三つに大別される。その防御の仕組みは、ルータ(LANを相互に接続する装置)やゲートウェイ(複数のネットワー

クを接続するときの装置)で、情報のフィルタリングおよび発信元や発信先、パスワードなどの識別を行うものである。主な製品としては、チェック・ポイン

ト・ソフトウェア・テクノロジーズ社のファイアウォール‐1、米セキュア・コンピューティングのボーダーウェア、日本電気の「Goah/Privatenet SV」、米トラステッド・インフォメーション・システムズの「Gauntled」などがある。

◆ファイル圧縮/解凍(file compresion / depresion)〔1998年版 コンピュータ〕 ファイルの圧縮とは、ファイルの容量をできるだけ小さくすること。これによりディスクの容量を節約でき、ファイル伝送時間を短縮することができる。解凍

とは、圧縮されたデータをもとに戻すことをいう。 ◆エムペグ(MPEG)(Moving Picture Expert Group)〔1998年版 コンピュータ〕 MPEGとは、映画など動画像の情報を何十分の一にも圧縮する技術のこと。ムービング・ピクチャ・エキスパート・グループの略で、動画像圧縮に関する各

国の専門家会合のこと。ここで合意した標準規格をMPEG1(CDなど蓄積型メディアの圧縮)とかMPEG2(通信型メディアの圧縮)と名付けている。

また、MPEG4は、インターネットやテレビ会議システムなどの適用を予定しており、九八年一一月をめざして標準化作業が続いている。

◆ホスト・コンピュータ(host computer)〔1998年版 コンピュータ〕 複数のコンピュータを一緒に使用する場合、フロントエンドプロセッサ(前置処理装置)に対して背後にいて、主役(ホスト役)となるコンピュータをホスト・

コンピュータという。 たとえば、大型コンピュータをホスト・コンピュータとして、それに、フロントエンドプロセッサのミニコンやパソコンを回線でつなぎ、非常に時間がかかり

複雑な処理をホスト側にやらせて、ミニコンやパソコンは端末としてデータの入出力を行ったり、パソコンがホストからの指示により各種の処理を分担して行

ったりする。 ◆ネットワークOS(NOS)(Network Operating System)〔1998年版 コンピュータ〕

NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時に、OSIの中位レイヤ層のプロトコル処理を行う基本ソフトウェア

のことである。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリンタの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。主な

製品には、VINES六・三J、Net Ware四・一Jがある。

その導入効果は、(1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェアを選択できる、(2)既存の情報資産が継承できる、(3)パソコン

の能力を最大限に引き出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できるなどである。

◆デジタル署名(digital signature)〔1998年版 コンピュータ〕 データ通信では、手紙のように本人確認のための直筆署名を付けられない。デジタル署名とは、デジタル通信情報に対し、送信者の身元の識別・確認と情報の

内容が偽造されていないことを識別・確認する手続きである。デジタル署名は安全性の面から、(1)署名文が第三者によって偽造されない、(2)署名文が受

信者によって偽造できない、(3)署名文を送った事実をあとで送信者が否定できない、ことの三つの条件を満たす必要がある。 デジタル署名には、通信者間で署名生成に使用する情報を秘密にもつ一般署名と、送信者が調停者にメッセージと署名を認証してもらう調停署名がある。調停

署名は条件(3)を満たす。慣用暗号方式では、条件(1)だけを満たし、一方、RSA公開鍵暗号方式は条件(1)と(2)を満たす。それゆえ、重要なデ

ータ通信では、RSA公開鍵暗号方式と調停署名を用いるのがよい。

◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Standard)〔1998年版 コンピュータ〕 DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が一九七七年に公布したアメリカ連邦政府機関の標準暗号方式である。NBSが七三年に公募した中からIBMが

開発・提案した方式を採用した。DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣用暗号方式の一種である。その処理手順は、

六四ビットに分けられた平文の入力を五六ビットの鍵が制御しながら、一六段にわたる転置と換字処理を行って六四ビットの強力な暗号文を出力する。復号は、

これと逆の操作によって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこと、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なことである。

◆公開鍵暗号方式(public-key cryptosystem)〔1998年版 コンピュータ〕 スタンフォード大学のヘルマン、ディフィー、マークルらが共同で発案した新しい暗号方式で、その原理は、次のとおりである。受信者が一対の暗号化鍵(公

開鍵)と復号鍵(秘密鍵)を作成し、復号鍵を秘密に保持するとともに暗号化鍵を公開して送信者に配送する。送信者は配送された暗号化鍵で平文(通信文)

を暗号化し、暗号文を受信者に送信する。受信者は受信した暗号文を復号鍵で復号し、平文を得る。この方式は、一九七七年マサチューセッツ大学のリベスト

らが素因数分解の困難さを利用したエレガントなアルゴリズムを開発し実現化した。彼らの頭文字をとってRSA方式という。この方式の特徴は、暗号化鍵を

公開しているため鍵管理が容易であり、また、デジタル署名が容易に実現できることである。 RSA129とよばれる「究極の暗号」は、米ベル通信研究所のアージェント・レンストラ博士らによって公表から一七年目に解読された。暗号文の解読に何兆

年を要するが、博士は世界各地の研究者の協力で一六○○台のコンピュータを八カ月間動かして解読し、賞金一○○米ドルの小切手をリベスト氏から受領した。

暗号文の正解は「気むずかしいヒゲワシ」であった。

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◆イントラネット構築専用サーバ〔1998年版 コンピュータ〕

企業内情報システムであるイントラネットを構築するための専用サーバのこと。イントラネットで情報を扱うために必要なソフトウェアがあらかじめ組み込ま

れている。主な製品としては、日本電気「ゴア/イントラSV」、日本DECの「アルファ XLイントラネットサーバ」、ヒューレット・パッカードの「イン

トラネット・プラス」などがある。

▲コンピュータの利用〔1998年版 コンピュータ〕 人間の知的活動を支援するための道具として、コンピュータが利用されている。生物の生態や振舞いから特別な問題を解決するアルゴリズムが研究・開発され

ている。 また、ホワイトカラーの生産性を高めるグループウェアや機械翻訳、電子化辞書などの製品が実用化段階に突入している。 ◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔1998年版 コンピュータ〕

人工知能研究が正式に始まったのは、一九五六年に行われたダートマス会議である。人工知能とは、高度情報処理技術者育成指針(中央情報教育研究所編)に

よれば「人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータプログラムに取り組み、知的な振舞いをするコンピュータシステムを実現する技術」としている。

AIに期待されている効果は、情報を相互に独立な個々のモジュールを内部にもち、ユーザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。 AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーションによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュ

ータが使われている。この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力をコンピュータに与えることを目的とし、知識

工学とよばれる分野に属している。応用面ではエキスパートシステムがある。 ◆群知能〔1998年版 コンピュータ〕

個々のアリ(蟻)は、餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で物をくわえたり放したりしているだけで「餌を探して集める」と考えて行動する

わけではない。しかし、こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」という目的が達せられる。「賢くない」アリを多数

集めると、単純な足し算ではなく、群れにそれ以上の知能、つまり群知能が生まれる。こんなアリの生態を工学的に活用する研究が始まっている。 三菱電機中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいを基に餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手がかりにコンピュ

ータが内容ごとに分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベースにある大量の文書情報の自動分類に有効。

東京大学工学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かっ

て誘導する研究を進めている。群知能では一台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を

搭載しにくいマイクロマシンに適しているという。 ◆最大クリーク問題の解明法〔1998年版 コンピュータ〕

情報科学で最難問の一つ、集団の中で特定の性質をもった最大のグループを見つけ出す「最大クリーク(派閥)問題」を高精度で画期的なスピードで解くこと

に、電気通信大学電子情報学科の富田悦次教授らのグループが成功し、電子情報通信学会で発表した。 この問題は、たとえば二国間を「友好的」か「非友好的」に分けた場合、どの二国間をとっても友好的な国どうしの最大派閥を探すことである。これを厳密に

解くためには、あらゆる国の組合せが派閥かどうかしらみつぶしに調べる必要がある。この方法だと国の数が増えると膨大な計算時間が必要になる。そこで実

用的な意味で正解に近い答を高速で得る近似解法が求められていた。近似解法の基本的な計算手順は六段階(行)で表すことができ、パソコンでもプログラム

を組める。 実用分野には、電子回路回線の最短化や作業工程の最適化といった工業面のほか、高収益店舗の最適配置、人員の適正配置、放送周波数の割り当てなど産業上

の合理化、効率化への適用が考えられる。

◆遺伝的アルゴリズム(GA)(Genetic Algorithm)〔1998年版 コンピュータ〕 GAはミシガン大学のJ・ホランドによって一九七五年に提案され発展してきた。GAは生物が遺伝子を組み換えながら進化する「進化過程」をモデルとした

確率的アルゴリズムである。つまり、遺伝子に見立てた複数の個体(解の候補)からなる集団を用いて、解の候補を次々に組み換えて最適解を探索する計算手

法である。GAでは、解の候補をビット列に置き換える。ビット列の解釈を与えるのが適応度関数である。その関数は各ビット列に対して、与えられた問題空

間におけるその問題の強さ(適応度)を与える。次にビット列を部分的に入れ替える「交叉」や、確率的に選んだ適当なビットを反転させる「突然変異」の処

理を施す。その中から所定の条件を満たす(適応度の高い)解の候補だけを取捨選択して、同様の操作を繰り返す。環境に適応した生物だけが生き残れるよう

に、条件を満たす解の候補が自動的に作成できる。GAは組み合せが多すぎて解く方がまったく分からない問題でも、比較的スムーズに最適解を求めることが

できる。 GAの応用事例には、並列コンピュータのタスク割当、パターン認識、通信ネットワークの設計、最良な生産計画を発見するプログラムの作成、最適な物流計

画システムの立案、ロボットの運動制御などがある。 ◆第四世代言語(4GL)(4th Generation Languages)〔1998年版 コンピュータ〕 第四世代言語の明確な定義はない。通常は、データベースの扱いを前提としたオンライン事務処理用のアプリケーションを対話型で開発するための支援ツール

のこと。 習得とシステムの変更が容易で、COBOLやFORTRANなどより生産性が数倍以上向上するといわれている。ほとんどの事務処理業務に適用できるが、

それぞれ得意な適用分野をもっているために、各言語を使いわけることが望ましい。 今後は、4GLはシステム開発全体を支援する一貫支援ツール群の中核になるとみられている。また、オブジェクト指向の概念を取り入れたイベント駆動型4

GLの開発が進められている。現在、知られている4GLには、IBMのCSP、ユニシスのMAPPER、インフォメーション・ビルダースのFOCUSな

どがある。 ◆DBMS(データベース管理システム)(Database Management System)〔1998年版 コンピュータ〕

データベースの維持と運用、すなわち、複数のユーザーが同時に更新や検索をしても効率よく処理しかつデータに矛盾が起こらないように管理するソフトウェ

アをDBMSという。また、DBMSをハードウェア化して組み込んだコンピュータをデータベース・マシンという。

DBMSは汎用ソフトウェアとして多くの商用システムが開発されており、これらはデータ構造から、階層型、ネットワーク型、リレーショナル型に分類する

ことができる。近年、オブジェクト指向DBMSが登場しはじめ、複雑な図形データの管理や、音声、イメージ等のマルチメディア・データの統合管理に威力

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を発揮している。

◆SGML(標準一般化マーク付け言語)(Standard Generalized Markup Language)〔1998年版 コンピュータ〕 SGMLは、卓上出版(DTP)を実現するための文書処理系の言語であり、文書中に論理構造を示すマークであるタグ(荷札)および文書構造の記述方法を

指定することができる。

その導入効果は、マルチベンダ環境における文書の交換や電子的処理を可能にすることである。また、情報をプリンタ、ディスプレイ、CD‐ROMなどの様々

な媒体へ出力したり、情報の取り出しができることである。

SGMLは、国際標準化機構(ISO)で標準化されており、欧米の公的機関をはじめ、アメリカ国防総省や欧州共同体出版局など公的機関、さらにオックス

フォード大学出版局で採用している。もちろん、アメリカ国防総省のCALSにおいてもこの言語が規格として採用されている。 日本では、一九八九(平成一)年五月に通商産業省の指導で日本規格協会を事務局に印刷、出版、電機メーカーなど三五社が「SGML懇談会」を発足させ、

九二年にJIS化、九三年より特許公報をSGML化しCD‐ROM化するなどの対応をとった。最近では、CALSに対応するために産業界でも文書のSG

ML化への取り組みが進んでいる。

◆グループウェア(groupware)〔1998年版 コンピュータ〕 協調して作業を進めるグループのために特別に設計されたシステムのこと。また、グループによる知的生産活動を支援するコンピュータ・システムともいわれ

る。グループウェアの導入目的は、組織やチームなどグループによる仕事の効率化を図るとともに創造的な仕事を支援することである。主な製品には、オンラ

イン・マルチメディア会議システム、共同執筆・デザイン・出版システム、フィルタリング機能付き電子メール、ワークフロー管理ソフトウェア、共同意思決

定支援システムなどがある。主な製品には、ロータスの「ノーツ」、マイクロソフトの「Ex-chage」、ノベルの「Group Wise」、富士通の「Team WARE」、

日立制作所の「Groupmax」、日本電気の「Star Office」などがある。 ◆自然言語処理〔1998年版 コンピュータ〕

自然言語とは、相互の意思疎通を行う手段として、人類の誕生とともに自然発生的に生まれ、人類の進化とともに発展してきた言語をいう。計算機を用いて自

然言語を処理するのが自然言語処理である。その意義は、言語理解の過程がどのようになっているかを研究し、使用言語の相違に基づく意味上の差違を解消し

て、人間とコンピュータとの新しいインタフェースを確立することである。

応用として、ワードプロセッサの文字作成支援、データベース・システムの自然言語インタフェースによる検索、機械翻訳やエキスパート・システムへの質問

応答などがある。

◆機械翻訳(machine translation)〔1998年版 コンピュータ〕 機械翻訳とは、コンピュータを用いてある言語(原言語)で書かれた表現(原文)から、原文と同じ意味をもつ他の言語(目標言語)の表現(訳文)を生成す

る技術である。機械翻訳システムの導入目的は、翻訳のコスト削減やスピードアップを実現することである。 翻訳方式は、次の三つの方式に大別される。(1)直接変換方式 単語の置き換えや語順変換等により原文から直接訳文に変換する。(2)トランスファ方式 原

文を解析し、原言語の中間表現を目標言語の中間表現に変換してから、訳文を生成する。(3)中間(ピボット)言語方式 意味解析を徹底的に行い、原文を

原言語に依存しない普遍的意味表現(中間言語)に変換してから、訳文を生成する。 ◆電子化辞書〔1998年版 コンピュータ〕

日本電子化辞書研究所は、人間の言葉をコンピュータに理解させるための電子化辞書を開発した。開発した電子化辞書は、単語辞書、対訳辞書、概念辞書、共

起辞書の四種類である。 電子化辞書は、それぞれの単語がもつ意味を背景にある概念をもとに体系的に整理したものでコンピュータに単語の意味を正しく認識させることができる。辞

書の構造は日本語でも英語でも共通になり、正確な訳文を作る次世代の機械翻訳や人工知能の研究などに応用できるという。 単語辞書は、単語の意味をコンピュータが理解できるように言葉ではなく、特定の概念に対応づけて整理した。つまり、ある単語の意味に関する概念を単語ご

とに整理、概念の番号で表した。単語の数は、日本語版が二五万語、英語版が一九万語。概念辞書はコンピュータに単語の意味を理解させるもので、四○万種

の概念について、どの概念とどの概念がどんなつながりにあるかを系統的に整理した。対訳辞書は、異なる国の単語を相互に調べることができる。共起辞書は、

言葉の言い回しに関する情報を提供する。また、コーパス(例文)辞書の開発も進めている。 ◆仮想現実感(VR)/人工現実感(AR)(virtual reality/artificial reality)〔1998年版 コンピュータ〕 仮想現実感とは、人間の感覚器にコンピュータによる合成情報を直接提示し、人間周囲に人工的な空間を生成することである。これは人工現実感とも称されて

いる。人工現実感の研究は、現在、機械技術研究所や米航空宇宙局で進められている。 仮想体験システムは、仮想現実感の技術を応用して、仮想環境を作り出し対話的に疑似体験を提供するシステムのこと。事例には、住宅展示場で特殊なアイフ

ォンというメガネに写る虚像とデータグローブによりキッチンルームの体験をしたり、難病児の医療用として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教

育用としてタービン発電機の生産工場モデルで危険な作業の安全性を学ぶことなどがある。 ◆CASE(Computer Aided Software Engineering)〔1998年版 コンピュータ〕

CASEは一九八六年頃から使われはじめた言葉で、コンピュータ支援ソフトウェア工学とよばれ、その目的はソフトウェアのライフサイクル全般にわたる自

動化である。

第一世代CASEは、ソフトウェア開発において、要求分析から基本設計まで上流工程を支援するアッパーCASEと、詳細設計から原始プログラムや設計書

や操作説明書などのドキュメント(文書)の自動作成まで下流工程を支援するロウアーCASEからなる。

現在は第二世代CASEの統合型CASEに移っている。それは、要求分析から保守に至るソフトウェアのライフサイクル全体にわたって、一元的な開発環境

を取り扱うことができる。統合型CASEでは、統一されたユーザー・インタフェースによって各工程別ツールにアクセスできること、各工程で作成されたド

キュメント、原始プログラム、テストデータといったソフトウェア資産が共通データベースに標準化された形式で保管されることが不可欠である。

◆CALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support)〔1998年版 コンピュータ〕 CALSとは、調達側、供給側にとって製品やシステムの調達(契約、設計、製造、試験、納入)から運用・維持、廃棄・再利用までの全ライフサイクルにわ

たって品質の向上、経費の削減、リードタイムの短縮を目的とする概念/運動のことである。 その実現の方法は、(1)最新技術情報を使った技術データやビジネスデータのデジタル化とデータベース化、(2)国際標準の活用(オープンシステム化)、(3)

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ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の実施である。

その意義は、契約内容、設計情報、保守マニュアルなどすべてのデータが電子化されることによって、情報伝達の品質向上と経費の削減が可能となる。 また、情報の共有や再利用が容易となることから産業活動や経済社会システムの効率化が促進され、海外企業との共同開発・部材調達も可能となる。 通商産業省は、一九九五(平成七)年四月から鉄鋼、電機、航空機、エンジニアリング、電力業界など大手企業数十社と共同で生産・調達・運用支援統合情報

システムの技術研究開発を開始させる。同組合では、技術調査・実態調査、アメリカのCALS標準の日本での適応検証、CALSの実証モデルの構築、CA

LS標準、規格、ソフトウェアなどの汎用化などを進める。同組合ではCALS推進協議会を設立し、(1)発電所のポンプシステムをモデルにした実用化、(2)

自動車、鉄鋼など他産業での応用に取り組む。 ◆電子商取引(EC)(Erectronic Commerce)〔1998年版 コンピュータ〕 商取引のすべての業務プロセスの情報交換をオープンネットワーク上で電子化して行うこと。

通商産業省では、ECの分類を三つに大別している。(1)企業‐消費者ネットワーク インターネットを介して商取引を行う。(2)不特定企業間の不特定多

数ネットワーク EDI(電子データ交換)を利用して企業間と不特定多数の商取引を行う。(3)企業間の特定ネットワーク CALSを利用して、特定企

業間の商取引を行う。 企業‐消費者間ECには、次の課題がある。(1)商品属性情報の標準化、(2)複合コンテンツ対応技術、(3)コンテンンツプロバイダー/バーチャルモー

ルのビジネスプロセスの標準化、(4)各種暗号化技術、(5)セキュリティ・プロトコル技術、(6)バーチャルモール構築技術、(7)本人確認技術、(8)

ICカード関連技術、(9)認証局接続技術。 ▲コンピュータの基礎用語〔1998年版 コンピュータ〕

◆アーキテクチャ(architecture)〔1998年版 コンピュータ〕 ハードウェア、ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成上の考え方や構成方法のこと。これによりコンピュータシステムの使

い勝手、処理速度などの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶装置やレジスタのアドレス方式、バスの構成方法、

入出力チャネルの構造、演算制御や割り込みの方法などがある。 また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の機能と構成、使用言語、プログラム間のインタフェースなどである。

◆RISC(縮小命令セットコンピュータ)/CISC(複合命令セットコンピュータ)(Reduced Instruction Set Computer/Complex Instruction Set Computer)〔1998年版 コンピュータ〕

RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する言葉である。 従来からのCISCは、複雑な命令語体系をもち、同じ処理を行うプログラムを少ない命令数で実現するよう設計されている。そのため計算速度やコストが犠

牲にされていた。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純化してスピードアップとコスト削減を図った。現在はRISC

チップの低価格化が進み、ビジネスWSの市場が拡大されている。また、無停止型のOLTPマシンにも搭載されており、さらに六四ビットのRISCを搭載

し、処理能力が二○○MIPSもあるWSが発売され、六四ビットの時代に突入する。

◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔1998年版 コンピュータ〕 TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそれぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させ

るOS(基本ソフト)のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて一九八四年から開始された。TRON基礎プロジェクトとしてB

TRON(ヒューマン・インタフェースをつかさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通信ネットワーク向きOSインタフェ

ース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、TRONCHIP(三二ビットVLSIマイクロプロセッサ)がある。

TRON応用プロジェクトとして電脳ビル、電脳住宅、電脳都市、電脳自動車網、TRONマルチメディア通信などがある。また、NTTは、CTRONをI

SDN機器のOSの統一規格にすることを決定している。サン・マイクロシステムズはプリンタや各種周辺機器をリアルタイムで制御するOSとしてITRO

Nを採用した。 ◆プラットフォーム(platform)〔1998年版 コンピュータ〕

プラットフォームとは、コンピュータの基盤のことであり、ハードウェアとソフトウェアとがある。ハードウェアでは、かつては汎用コンピュータが唯一のプ

ラットフォームであったが、八○年代以降はパソコンが普及し、そしてワークステーションが台頭して、プラットフォームも多様化の時代となった。ソフトウ

ェア・プラットフォームは基本ソフトウェア(OS)のこと。IBM社のOS/2Warp、マイクロソフト社のWindows95、アップル社のMacOSなどが次世

代ソフトウェア・プラットフォームの主導権を競っている。 ◆システム・ソフトウェア(system software)〔1998年版 コンピュータ〕

ハードウェアの機能を効率的に活用させるとともに、コンピュータの利用を容易にさせるための機能をもつソフトウェア。基本ソフトウェアとミドルウェアか

ら構成される。 ◆基本ソフトウェア(operating system)〔1998年版 コンピュータ〕

広義のOS。基本ソフトウェアは、制御プログラム(狭義のOS)、汎用言語プロセッサ、サービスプログラムから構成される。 (1)制御システムは、コンピュータに付属する各種資源(コンピュータ本体、ディスプレイ、プリンタ、記憶装置など)を効率的に管理し、ユーザープログ

ラムからの要求に対して資源を割り当てたり、各プログラムの実行をスケジュールし、監視する。 (2)汎用言語プロセッサは、各種言語のコンパイル、アセンブル、リンケージなどの役割を行う。

(3)サービスプログラムは、ダンプルーチン、プリントルーチン、エディタなどのサービスを提供する。 (1)のうち、IBMのOS/2Warp は、主記憶容量が最小四MBでも動作し、全体的な性能が向上している。特に、動画・静止画・音声を扱うマルチメディア機能が充実している。さらに、ワープロやチャートなどの統合ソフト、テレビ会議、インターネットへの接続、ファクシミリ通信ソフト、パソコン通信ソ

フトなどの通信機能と各種の応用ソフトが添付される。マイクロソフトのウィンドウズ 95 は、シェル(ユーザーとコンピュータの仲立ちをするソフト)が本格的に改良され、操作性が向上している。また、ディレクトリの構造をすぐに見られる「explorer」というユーティリティや三次元グラフィックス「Open G

L」が搭載されている。さらに、ネットワーク機能として、パソコン通信サービスのサポート、電子メールの送受信、FAXの送受信、インターネットへのア

クセス、ダイアラー、電話回線やケーブル接続による他のコンピュータとの接続などがある。

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◆ミドルウェア(midleware)〔1998年版 コンピュータ〕

基本ソフトウェアと応用ソフトウェアとの中間に位置し、多様な利用分野に共通する基本的機能・サービスを実現するソフトウェアのこと。 主なプロダクトとして、DBMS、通信管理システム、ソフトウェア開発支援システム(CASEを含む)、第四世代言語、EUCツール、GUI制御、ワー

ドプロセッサ、グラフィック処理、運用管理ツールなどがある。ミドルウェアの役割は、一般に、ユーザーがその機能を利用するためのプログラミング・イン

タフェースをもっていることから、ユーザーがアプリケーションに要求する機能をすべて独自に開発するのではなく、目的に合ったミドルウェアを選択させ、

そのインタフェースを利用して高度でオープンな情報システムを素早く開発させることである。

◆UNIX〔1998年版 コンピュータ〕 UNIXは、一九六九年に米AT&Tベル研究所がPDP7上に開発した時分割方式のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステム(OS)で

ある。七一年にPDP11上に移植する際にC言語で書き直され、移植性の高いオープンシステムのOSとなった。七五年頃からソースプログラムが大学、研究

所、企業等に配布されるようになって急速に普及・発展した。 UNIXの優れている点は、(1)高品位文書の作成が容易、(2)文書検索が容易、(3)オープンシステム、(4)優れた操作性などである。

◆コンパイラ/インタプリタ(compiler/interpreter)〔1998年版 コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語

の総称。 一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。この機械語を人間が直接理解し、使用することは、不可能に近い。そこでプログラムを

人間が使用する口語に近い形で記述し、その言語の機械語への翻訳をコンパイラが行う形式をとるほうがプログラムの作成、保守には有利である。

また、機械語はコンピュータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。そこで各コンピュータがこのコンパイラを

用意することによって、人間が記述するプログラムをコンピュータに左右されにくいものにした。コンパイラはすべての処理の実行に先立って機械語への翻訳

を一括して行うが、処理の実行に際して次の命令文を逐次、機械語に翻訳する方式の言語をインタプリタとよぶ。コンパイラに比べて処理速度の遅さなどの問

題点はあるが、結果の確認などがその場でできるため、プログラムの入門用やデバックに幅広く利用されている。BASICなどが有名である。 ◆オープン・システム(open system)〔1998年版 コンピュータ〕

一般には一つのメーカーやベンダーに依存しない、標準化または開示されたインタフェースをもつコンピュータ・システムのこと。 オープン・システム化の意義として、情報システムの相互運用性の確保を図り、ユーザーの機器選択の幅を広げるとともに不必要な重複投資を回避すること、

情報通信環境をつくり、業界内や業界間の情報流通の促進を図ること、マルチベンダー環境を生かして継承情報資源の有効活用を図ること、ソフトウェア・パ

ッケージの市場創出によりソフトウェア開発費を軽減することがある。オープン・システムのOSには一九九四年の半ばまでに世界統一規格が決まったUNI

XやIBMのOS/2Warp があり、オープン・プロトコル・アーキテクチャには標準OSI(開放型システム間相互接続)がある。また、ネットワークOSも開発されており、代表的なものに米ノベル社の NetWare、米マイクロソフト社のLANマネジャやWindowsNTなどがある。 ◆分散統合処理〔1998年版 コンピュータ〕

分散処理とは、一台のコンピュータで行っていた処理を処理レベルにあわせて何台かのコンピュータを使用し、段階的または並列的に行うシステムの総称のこ

と。分散統合処理とは、ホストコンピュータの機能を分散することおよび分散から統合することである。ユーザー部門に分散配置されたワークステーションや

パソコンの高度化によってデータやプログラムの重複管理、データの全社的な共有化ニーズが増加し、処理機能が限界にきている。これらに対処するため、分

散統合処理が必要になってきた。具体的なシステムとしては、クライアント・サーバシステムやパソコンLANがある。 ◆マルチタスク(multitasking)〔1998年版 コンピュータ〕

コンピュータ処理において、見かけ上、同時に複数の仕事(タスク)を処理できるようにした処理方式をいう。同種の用語にマルチジョブがある。また、同時

に一つの仕事しかできないものをシングルタスクという。マルチタスクは一般に仮想記憶を前提としており、大型コンピュータやミニコンではCPU(中央処

理装置)の能力が高くマルチタスク方式が当然となっているが一九八七年頃からパソコンにおいてもマルチタスク方式が採用され始めた。 ◆トランザクション(transaction)〔1998年版 コンピュータ〕

遠隔地の端末から利用者がコンピュータに処理を要求する単位をトランザクションといい、トランザクションをリアルタイムで逐一処理していくコンピュータ

の処理形態をトランザクション処理という。航空機や鉄道の座席予約や預貯金システムなどが代表的なもので、リアルタイム性、障害時の復旧、排他制御、高

い処理効率などが要求される処理である。

◆ヒューマン・インタフェース(HI)(Human Interface)〔1998年版 コンピュータ〕 ヒューマン・インタフェースとは、人間とコンピュータシステムとの接点となる技術である。HIの目的は、一般のユーザに対して計算機科学の成果を享受さ

せることである。つまり、従来のHIは、主にユーザーフレンドリ・システムをめざす側面が強かった。HI技術の進展により、人間とコンピュータという二

つの異なった性格を有する知的主体を有機的に結合し、トータルとして最高の性能を発揮させることである。 HI向上のための研究とは、人間にとっての使いやすさの追求であり、自然さ、便利さ、安全性などの観点から各種の研究開発が行われている。これまでの変

遷をたどってみると、(1)カードによる一括処理、(2)TSS端末による対話型処理、(3)コマンドやメニューによる操作指示、(4)マルチウィンドウの

画面に向かってマウスによる操作指示、(5)共通の作業をしているグループを支援するグループウェア、(6)人工現実感(VR)、自然言語、マルチメディ

アを上手に使う対話インタフェース、などへ移行してきている。 ◆グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)〔1998年版 コンピュータ〕

GUIは、ユーザーと計算機システムの節点となる技術で、視覚に訴えたグラフィック表示(アイコン)で、ユーザーにとって簡潔で理解しやすい環境を提供

するものである。 GUIの意義は、ユーザーと計算機の間に発生する複雑さを抑え、ユーザーの生産性、満足度を最大化すること、ユーザーがアクセスする範囲を拡大し、かつ

て可能でなかったことを可能にすること、ウィンドウ画面におけるグラフィック情報の直感的なわかりやすさと操作性を人間工学の観点から研究することであ

る。

GUIの研究は米ゼロックス社を中心に一九七○年代から始まったが、その商品化ではアップル社がパソコン上で実現させた。GUI構築ツールには、MS‐

DOSではMS-Windows、OS/2では Presentation Manager、UNIXではMotifや Open Lookなどがある。

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◆マルチウィンドウ(multi-window)〔1998年版 コンピュータ〕

マルチウィンドウは、コンピュータのディスプレイの画面をウィンドウ(窓)とよばれる複数の領域に分割して、同時に複数の処理の状況を見られるようにす

るものである。マンマシン・インタフェース向上の要求に伴い、一九八二年頃から一般にパソコンやワークステーション(WS)への適用が始まった。マルチ

ウィンドウ・システムにはマルチタスクをサポートしているか否か、それぞれのウィンドウで動いているタスク間でデータ交換ができるか否かなどの違いがあ

る。 ◆仮想記憶(virtual memory)〔1998年版 コンピュータ〕

一般に現在のコンピュータは、主記憶装置に展開されたプログラムの実行しかできないため、主記憶の容量を超えた大規模なプログラムはそのままでは実行で

きない。また主記憶を構成する素子はその速度要求等との関連から非常に高価なものが使用され一概にこの部分を大容量のものにするわけにもいかない。そこ

で考えだされたのが比較的安価な補助記憶装置を利用する仮想記憶である。

仮想記憶は、プログラムの実行に先だってその処理を行うために必要な部分のみを主記憶に読み込み、不必要になった部分を主記憶から排除するという処理を

繰り返すことで、あたかも補助記憶装置も主記憶の一部分であるかのように利用する。

◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔1998年版 コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。一MIPS(ミップス)とは一秒間に一○○万回の命令が実行できること。現在の超大型コンピュ

ータは、およそ一○から一○○MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すFLOPS(フロップス)、論理演算の単

位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●最新キーワード〔1998年版 コンピュータ〕

●イントラネット(intranet)〔1998年版 コンピュータ〕 WWWサーバやウェブ・ブラウザなどのインターネット技術を活用したオープンな企業内コンピュータ・ネットワーク(LAN)、つまり企業内情報システム

のこと。 イントラネットは、企業内ネットワークと社内WWWサーバを中核にして構築し、クライアントはインターネットと同一のブラウザ(検索閲覧ソフトウェア)

で利用する。そのため、これまでの情報システムに比べ、初期導入費用が安く、構築も段階的に簡単にできる。それに情報の発信や閲覧が容易にできるという

特徴がある。 イントラネット構築のポイントとしては、次の二つがあげられている。(1)インターネットとの接続、LAN/WANの構築、ネットワーク・コンピュータ

体制の確立などの通信インフラの整備、(2)WWWブラウザやグループウェアなどネットワーク統合ソフトウェアを上手に使い分けること。 導入目的は、エンドユーザの使い勝手を向上させ、世界共通のインフラの上で、社内と社外の情報資源のシームレスな活用を実現すること、およびイントラネ

ットが企業の内側だけに閉ざされることなく、インターネットの膨大な知的情報資源と、コストゼロの公共的な通信インフラを利用しながら、全社的な「情報

の共有」によって、経営資源のオープンな活用を図ることである。 ●エクストラネット(extranet)〔1998年版 コンピュータ〕

イントラネットを介して、企業のイントラネット内に社外の特定の提携先や取引先だけが接続できるネットのこと。イントラネットの「イントラ」が企業内を

意味するのに対して「エクストラ」は企業外を指す。通常は、社員しか見られないイントラネット内の情報を、セキュリティや認証技術を駆使して提携先・取

引先企業にまで接続を認めるネットである。エクストラネットを導入すれば、設計・開発から生産、販売、さらに福利・厚生などの諸業務までネットを通じて

受発注できる。コスト削減をめざして業務を外部委託(アウトソーシング)するうえで外注管理のコストや手間が軽減できるという。 ●リアルワールド・コンピューティング計画(real world computing program)〔1998年版 コンピュータ〕

略称RWC計画。通産省は一九九三(平成五)年度から「より人間に近い情報処理」の実現をめざして、RWC計画(通称四次元コンピュータ計画)を本格的

に開始した。二一世紀の高度情報化社会において必要とされる先進的で柔軟な情報基盤技術の研究開発を目的とする。期待される「柔らかな情報処理機能」と

しては、「メタ確率空間でのベイス推定」の理論基盤の上に、(1)不完全な情報や誤りを含む複雑に関連し合った情報を総合し、有意な時間内に適当な判断や

問題解決を行う機能、(2)オープンなシステムの中で必要な情報や知識を能動的に獲得し、具体例から一般的な知識を帰納的かつ実時間的に修得する機能、(3)

多様な利用者や使用環境の変化に対してシステムが自らを適応させ、有効な時間内に変容する機能、などである。つぎに「超並列超分散処理」を実現するため

には、(1)汎用超並列システム、(2)ニューラルシステム、(3)統合システムの抽象化と設計などの新情報処理技術のシステム基盤を確立することである。

また、光技術の役割は、情報媒体としての特徴を生かし、(1)並列ディジタル光コンピュータ、(2)光ニューロ・コンピュータ、(3)光インターコネクシ

ョンを提供することである。 ●BPRを支える情報技術(information technology to support business process reengineering)〔1998年版 コンピュータ〕

M・ハマー&J・チャンピーによれば、BPR(業務革新)を支える情報技術の役割は、従来のプロセスを改善することではなく、古いルールを破壊し、まっ

たく新しい業務プロセスを創造することであるという。一方、T・ダベンポートによれば、情報技術はプロセスにおける活動を変革させるイネーブラー(促進

剤)の役割を果たすという。

BPRを支える情報技術には、次のものがあげられる。 (1)グループウェア 共同作業を支援する、(2)オブジェクト指向 実世界のシミュレーションが可能になり、それに基づき適切な行動がとれるようにな

る、(3)ワークフロー管理ソフトウェア 業務の流れを自動化することによって、業務プロセスの無駄を排除し、確実な連係を促進する、(4)クライアント・

サーバ 共通処理をサーバ側に置き、クライアントに独自性をもたせることによって、標準化から解放され、働く人々の能力にあった活動形態がとれる、(5)

データベース 複数の業務プロセスが情報を共有して使用できる、(6)エキスパートシステム ゼネラリストでも専門的な仕事を可能にする、(7)EUC技

術 現場の情報を多様な視点で積極的に活用できることから、ユーザーが自律的に自らの裁量で行動を進めることができる。 ●ハイパーメディア(hyper media)〔1998年版 コンピュータ〕

ハイパーメディアとは、テキスト、音声、図形、アニメーションやビデオの画像など複数の情報を意味上まとまりのあるノード(node)とよばれる小部分に分割し、ノード間をリンクにより関係づけたネットワーク(網の目)構造のことである。このリンク機能を使用して情報を有機的につなぎ、芋づる(ナビゲーシ

ョン)式に関連する情報を対話的に引き出すことができる。ハイパーメディアの意義は、人間の思考を豊かな表現力で容易にかつ自由に関係づけて、思考支援

やコミュニケーションの円滑化を図ることである。ハイパーメディア構築ツールの特徴は、(1)具体的なデータ値に対して次々と直接操作を行うナビゲーシ

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ョンによる情報検索機能、(2)データと手続きの一体化によって、データ自身に関連情報を引き出す操作が付与されることである。この応用としては、電子

出版、文書化を容易にする知的ファイリングシステム、企業電子編集印刷システム、思考支援システム、画像や音声の解説付き教育システム、ビジュアルなガ

イドシステムなどがあげられる。 ●クライアント・サーバ・システム(CSS)(Cliant Server System)〔1998年版 コンピュータ〕

クライアント(顧客、具体的にはユーザーのパソコン)からLAN(構内情報通信網)上の異なる複数のパソコン、ワークステーション、メインフレームなど

の情報資源(サーバ)を連携させ、分散処理するシステムのこと。資源を提供する側をサーバ、サーバに処理を要求する側をクライアントという。ただし、サ

ーバとは、LANにおいては、ファイル、プリンタ、通信などの特別な機能を専門的に行うプロセッサを指す。CSSは次の四つのシステム開発・運用環境を

提供する。 (1)EUC環境 クライアントに対してデータファイル、プリンタ、プログラムなどを共用する連携機能を提供する。(2)GUI操作環境 エンドユーザ

ーが可視的にわかりやすく簡単に操作できる環境を提供する。(3)相互運用支援環境/オープン環境 異機種のホスト・コンピュータとクライアントとを接

続し、かつオープン使用を可能とする環境を提供する。(4)システムインテグレーション支援環境 CASEなどの情報システム構築の支援環境を提供する。

●エンドユーザー・コンピューティング(EUC)〔1998年版 コンピュータ〕 EUCとは、エンドユーザー(利用部門)が自部門の情報システムに対して設計・構築・運用等のすべてを主体的に行うこと。その思想は、利用部門の不満が

始まりという。つまり、情報システム部門は利用部門の情報化要求に対して、硬直肥大化した情報システムの保守や運用で手一杯のため、サービスの低下やシ

ステムのバックログ(開発待ち)の増加という事態が発生した。このような状況に対して当然利用部門は自分たちを主体に意識、やり方、体制を変えようとす

る動きが現れた。また、この時期にEUCを支援する技術として、第四世代言語、GUI、表計算ソフトウェア、統合型CASE、オープン・システム化技術

等が登場した。 EUCの実現化には、(1)操作が容易で利用部門が直接使用できる第四世代言語の利用、(2)ネットワーク化により、利用部門の共同作業が可能となったパ

ソコンLAN(構内情報通信網)の利用、(3)利用部門が計画、分析、設計作業に参加すれば、情報システムを自動作成できる統合型CASEの利用、とい

う三つの形態がある。 ●オブジェクト指向概念(object-oriented concept)〔1998年版 コンピュータ〕

データと手続きを一体化(カプセル化)したオブジェクトという自律的機能モジュールが互いにメッセージをやり取りしながら協調して問題を解決するという

考え方である。個々のオブジェクトは、あるオブジェクトからメッセージを受けると、手続きが起動され、自分自身に記述されている手続きを実行する。ただ

し、データに対しては、情報を隠ぺいしているため外部から直接アクセスできない。したがって、オブジェクト同士の独立性は非常に高いため、プログラムが

単純化され、生産性と信頼性の高いシステムを構築できる。

また、データの値が未定の場合、オブジェクトをクラスとして定義し、機能が同じでデータの値だけが異なる複数個のオブジェクト(インスタント)を効率よ

く生成できる。さらに、上位クラスのもつ手続きを下位クラスの手続きとして継承できるような階層構造により、少しずつ機能の異なるオブジェクトを効率よ

く作成できる。

この概念に基づいて Smalltalk 80 や Lisp などのオブジェクト指向プログラミング言語やオブジェクト指向データベース・システムなどが開発されている。

●エージェント指向概念(agent-oriented concept)〔1998年版 コンピュータ〕 エージェントとは、「そのものの基本意思決定原理に基づき自己の信念や興味に応じて行動するモジュールのこと」である。つまり、エージェントは自分の行

動を自分で決定し、自発的に活動する。

例えばエージェントシステムが組み込まれたネットワーク管理システムの場合、このシステムを作動すると、端末画面にロボットの姿をしたエージェント(代

理人)が現れ、「私はネットワークを管理するエージェントです」と自己紹介する。ユーザーが、「今、ネットワークがダウンしているので、故障の原因を調査

して報告して欲しい」と依頼する。エージェントは、ネットワーク管理システムに入り込み、故障箇所を調査し、故障の原因と修復手段を報告書にまとめて提

出する。

ユーザーが細かな指示を出さなくても、意思を伝えるだけで作業をしてくれるシステムで、まるで人間を相手にしているように使えるのが特徴である。エージ

ェント指向は、分散人工知能技術の応用として発展してきている。 エージェント開発用のプログラミング言語としては、ゼネラル・マジックの「テレスクリプト」、富士通の「April」などがある。

▽執筆者〔1998年版 放送・映像〕 志賀信夫(しが・のぶお)

放送批評懇談会理事長 1929年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。共立女子大・多摩大講師。著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニューメディアの時代』など。メディ

ア・ワークショップ代表理事。

◎解説の角度〔1998年版 放送・映像〕 ●地上デジタル放送について「二○○○年以前に開始できるようにする」と、郵政省は従来のスケジュールを五年間前倒しに進めた。欧米が一九九八年の放送

開始をすでに固めたので、日本でも衛星、地上を含めた放送全体のデジタル化を一挙に推進したい考えを具体化した方針であり、検討会を発足させた。 ●この地上放送デジタル化は、以下の三段階で進められる。(1)方式の策定 野外実験を拡充、九八年ごろ暫定方式を策定。(2)チャンネルプランの策定 電

波伝播特性を調査分析、九八年末に全国チャンネルプラン案を策定。(3)実用規模による地上デジタル放送の実施 九八年秋ごろマルチメディアサービスの

開発実験をする。 ●地上放送はデジタル化によって、以下のメリットがある。(1)多チャンネル化。(2)高画質化(現行の六メガヘルツの帯域で、標準テレビ放送三チャンネ

ルないし高精細度放送一チャンネルの放送が可能)。(3)高性能化・マルチメディア化。 ●現行の地上放送をデジタル放送に移行する場合、設備投資、サイマル放送の実施などを含め民放テレビ全体では一兆円近くの費用がかかり、NHKと合わせ

ると二兆円以上の出費となる大事業である。 ★1998年のキーワード〔1998年版 放送・映像〕

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★委託・受託放送制度〔1998年版 放送・映像〕

伝送事業(ハード)と放送事業(ソフト)を分ける制度。前者が受託事業、後者が委託事業となる。CS(通信衛星)放送において、初めて、委託・受託放送

制度ができ、ソフトとハードの分離が行われた。伝送事業と放送事業とを分離することにより、伝送施設に係る資金負担が不要となることから、放送事業(番

組の制作・調達および供給)への参入が容易となる。だがその反面、競争が激化し、質の低い番組が増加する恐れや、委託事業者の認可にあたって、チャンネ

ル内容を規制される恐れがある。今後、BS(衛星)放送やケーブルテレビ、地上放送においても、この制度の導入が検討されており、BS‐4後発機(二○

○○年を目標にデジタル放送を開始する予定)の免許形態においては、放送衛星局の管理主体(ハード)と番組編成主体(ソフト)を分離する受託・委託放送

制度の導入方針が打ち出された。 ★インターレス方式/プログレッシブ方式〔1998年版 放送・映像〕 双方ともテレビ画像を表示する方式。インターレス(飛び越し走査)方式は、一コマ目が偶数番目の走査線を、二コマ目が奇数番目の走査線を、というように、

一コマにつき半数ずつの走査線、それを交互に使い画像を表示させる。現在のテレビ放送は、このインターレス方式であり、動画の表示に適した方式である。

それに対し、プログレッシブ(順次走査)方式は、すべてのコマですべての走査線を使う。そのため、文字などにちらつきがでないので、パソコン業界が強く

推している。次世代テレビでは、どちらの方式が採用されるか注目を浴びている。 ★放送と人権等権利に関する委員会機構(BRO)(Broadcast and Human Rights / Other Related Rights Organization)〔1998年版 放送・映像〕

「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」(郵政省放送行政局長の私的諮問委員会)における苦情対応機関に関する討議を受けて、一九九七

(平成九)年、放送事業者が自主的に設置した機構。同機構の評議委員会が、放送と人権等権利に関する委員会の委員の選任を行う。初代委員長には有馬朗人、

委員には、他に飽戸弘、大宅映子、佐藤庄一郎、清水英夫、田島泰彦、芳賀綏、渡邊眞次が選ばれた。当面は人権に関わる苦情にのみしぼって対応していく(電

話 03・5212・1333)。 ★CM欠落問題〔1998年版 放送・映像〕

福岡放送が一九九六(平成八)年にスポンサー一二社から受注したスポットCM五○三本を、契約どおり放送せず欠落させた問題。スポンサーから契約どおり

にスポットCMが放送されていないのではないかとの指摘を受け、社内で調査したところ発覚した。CMが契約どおり放送されたかは、スポンサーが確認しな

ければならず、大量のCMを流すスポンサーにとって、すべてのCMをチェックすることは困難。スポットCMの需要が高まり、受注過剰になったことも一因。

北陸放送においても、同様の問題が発覚、よく調べてみると、四一四六本もCM飛ばしが行われていた。民放連は「CM取引検討特別委員会」を設置、再発防

止に向けての具体的な対応策を講じ、早期の信頼回復を図った。

▲放送事業〔1998年版 放送・映像〕 放送を取り巻く環境は、デジタル技術を中心にして技術革新が急速に進んだ。そのため、郵政省の「放送高度化ビジョン懇談会」は、九六年四月「放送高度化

ビジョン」の中間報告を行い、二○一○年のチャンネル数「四○○‐五○○程度に達すると考えられる」という数字を発表した。 九七年の「通信白書」では、「放送革命」という言葉が用いられるほど大きな変革を迫られた。それは、衛星デジタル放送の実現で、電波の稀少性が現実のも

のではなくなったからである。CATVについては、光ファイバー網が全国に普及、最も低い場合で約四一%、最も高い場合で六○%の家庭に普及するだろう

と予測している。地上放送は地域番組を通じて地域の一体化に大きな役割を果たし、移動受信などのニーズに対応、今後も発展していくものと見られている。 ◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔1998年版 放送・映像〕

東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に向けて放送する特殊法人。その運営は受信料【一九九七(平成九)年度は収入五九四五億円で全

収入の九七・三%】でまかなわれている。NHKの電波は、地上放送と衛星放送の二種、合計して七波がある。前者には総合、教育の二テレビ、ラジオ第一と

第二およびFMラジオがある。後者には衛星第一と第二の二テレビがある。それに加えて、九四年からハイビジョンの実用化試験放送を行い、九八年に予定さ

れている本放送に備えている。また、九六年三月からFM文字多重放送を開始した。国際放送では、ラジオ日本とNHKテレビ国際放送の二種がある。ラジオ

日本は二二言語、一日延べ六五時間放送している。NHKテレビ国際放送は九五年四月から開始し、北米で一日平均五時間三○分、ヨーロッパで一日平均四時

間四○分、放送を行っている。放送法によって以下のようなことが定められている。(1)視聴者の要望に応えて報道・教育・教養・娯楽の各分野にわたって

放送すること。(2)放送サービスが全国のすみずみまでゆきわたるように放送局を建設し、あわせて、地域社会に必要なローカルサービスをすること。(3)

放送の進歩発展に必要な研究や調査をすること。(4)国際放送をすること。 事業計画・収支決算は国会の審議を経ることを求められている。なお、運営の基本計画は、全国から選ばれた小林庄一郎、青木彰、櫻井孝頴ら一二名の学識経

験者からなる経営委員会で決める。九七年度の事業計画では、地域放送の充実・強化、長野冬季オリンピック放送の実施、デジタル放送技術の研究開発などが

挙げられた。 また、NHKは九五年三月に放送開始七○周年を迎え、これを契機に今後一○年の新しいビジョン「NEXT10」をかかげた。「NEXT10」の取り組みは、

以下の五項目のビジョンに従い行われる。(1)視聴者本位制です。(2)二一世紀のテーマに着手します。(3)建て前主義をやめます。(4)「革新する総合

メディア」です。(5)「さすがNHK」になります。その開始と同時に、「NHK」のロゴも新しくなった。 NHKは関連団体と連携をとりつつ良質なソフトをより廉価で安定的に確保、多角的なメディアミックス事業、国際的な情報発信や交換、ハイビジョンなどニ

ューメディア事業の推進などを目標にして、公共放送に寄与する関連事業を積極的に行い、公共放送事業の円滑な遂行にあてている。関連団体は、NHKエン

タープライズ 21 などの放送番組の企画・制作、販売分野が八社、NHKきんきメディアプランなどの地域関連団体が六社、NHK総合ビジネスなどの業務支

援分野が六社、NHKサービスセンターなどの公益サービス分野が七社、福利厚生団体が二社となっており、形態も株式会社、財団法人、社会福祉法人などさ

まざまである。九六年度末の受信契約総数は、地上放送がおよそ三六二九万件、衛星放送が八一七万件となっている。大型企画番組は、「疾走アジア」「家族の

肖像」など多彩な番組を編成している。 ◆民放(民間放送)〔1998年版 放送・映像〕 放送番組や局の経営の費用を、スポンサー(広告主)が支払う広告料金(電波料、製作費、ネット費)で賄う商業放送、および契約者から視聴料金をとる有料

放送。一九九七(平成九)年八月一日現在、地上系が、音声放送九七社(中波四七社、短波一社、FM=県域と外国語で計四九社)、テレビ放送一二六社、文

字放送九社、衛星系が、音声放送二社(BS一社、CS一社)、CS放送(音声放送一社=一七チャンネル、テレビ放送一三社)、CSデジタル多チャンネル放

送(音声放送五社=一○五チャンネル、テレビ放送五三社=八五チャンネル)、同データ放送専門一社である。五一(昭和二六)年九月一日、名古屋の中部日

本放送と大阪の新日本放送(現・毎日放送)がそれぞれラジオ放送を開始。テレビは五三年八月二八日、東京の日本テレビが初放送を開始した。これら地上系

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に対し、衛星系はJSB(日本衛星放送)が九一年四月一日に放送を開始した。JSBの設備を利用したPCM音声放送(テレビジョン音声多重放送)セント・

ギガは九一年九月一日に放送を始めた。CS(通信衛星)によるテレビ放送は、日本ケーブルテレビジョン、スターチャンネル、ミュージックチャンネルの三

社が九二年五月一日からそれぞれ有料放送を開始した。民放一八四社(衛星系民放除く)の九六年度決算によると、営業収入の総額は二兆四六四九億七一○○

万円。既存局では前年度から七・九%の増収となり、九四年度から三期連続の増収増益となった。

◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔1998年版 放送・映像〕 日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦を図る目的で、民放誕生の年〔一九五一(昭和二六)年〕、初の免許を受けた一六社によって設立

され、九七年八月一日現在の会員社計は一九○社である。内訳はラジオ単営六三社(うち衛星系BS一社、CS一社)、テレビ単営九一社(うち衛星系BS一

社)、ラ・テ兼営三六社となっている。事務所の所在地は東京都千代田区の文芸春秋西館。 ◆放送法〔1998年版 放送・映像〕

国民生活に大きな影響力を持つ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。一九五○(昭和二五)

年春の国会で制定され、国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督について定め、また、電波法による放送局の免許

というかたちで放送事業者としての地位を得た民放については、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。まだ民放テレビが生まれていなか

った五○年に制定された放送法なので、何回も小幅な改正がなされてきたが、八九年の改正は通信衛星による放送を認めた点で、注目に値する。九四年六月、

「放送法の一部を改正する法律」では衛星通信による海外からの放送番組の受信と海外への発信を許し、「放送番組素材利用促進事業の推進に関する臨時措置

法」を第一二九回臨時国会で通過させた。九五年四月、訂正放送に関する放送法一部改正案が成立した。改正法は、事実でない放送をしたという理由で権利を

侵害されたとの請求があった場合に、訂正放送や取消放送を請求できる期間を放送後二週間以内から三カ月以内に延長し、あわせて放送番組の保存期間を放送

後三週間から三カ月に延長するなど、視聴者の人権を尊重する内容になった。 ◆ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)(Association of all Japan TV Program Production)〔1998年版 放送・映像〕

主たる製作会社で組織された社団法人(静永純一理事長)。一九八二(昭和五七)年三月に設立。八六年五月より社団法人となる。九七年八月現在、正会員社

が六五社、テレビ局などの賛助会員社四八社で構成される。シンポジウムを開いたり、テレビ局や著作権団体と交渉するなどの活動を行っている。ほかにも、

製作会社を目指す人を対象とした会社説明会とパネル・ディスカッションを兼ねたテレビ・エクザムを毎年開催している。また、毎年六月にATP賞を選んで

いる。ドラマ、ドキュメンタリー、情報バラエティの三部門に分け、それぞれ二番組ずつ、計六番組を選び、その中からグランプリを決める。九七年のATP

賞グランプリは「二○世紀末黙示録~もの食う人びと」が受賞した。

◆東京メトロポリタンテレビ(JOMX‐TV)〔1998年版 放送・映像〕 東京で六番目の地上民放テレビ局で、一四チャンネル。既存の在京民放テレビ局とは異なる点がいくつかあげられる。(1)全国のテレビ局に配信せず、対象

エリアも関東一帯ではなく、東京だけを対象にしている。(2)VHF(超短波)帯ではなく、UHF(極超短波)帯の電波を利用して放送する。(3)ニュー

スを主体とする二四時間放送。(4)ニュースや番組の取材から編集を映像記者(ビデオジャーナリスト)が行う。一九九五(平成七)年一一月一日から放送

を開始。本社は、臨海副都心のテレコムセンタービル。電波の届かない地域は中継局がカバーする。受信できる地域は、都内全域と横浜市、大宮市、船橋市な

どを含む東京三○キロメートル圏。資本金は一五○億円と、TBS(約四四○億円)、日本テレビ(約一八三億円)に次ぎ、地上民放テレビでは三番目の規模

だが、役職員の数は一一○人と超スリムな経営となる。番組内容は、ニュース、天気・交通情報、映像記者報告、インタビュー、都の情報で構成される「東京

NEWS」、長めの時間をとった映像記者報告、ドキュメンタリーを紹介する「ニュースマガジン」、スポーツ中継、防災番組などであるが、UHF用のアンテ

ナが必要なのが課題である。九七年六月、後藤亘エフエム東京社長が新社長を兼任、ラジオ感覚の都民参加型テレビを目指して再出発した。開業後一年余で、

五五億円以上の累積損を抱え、新ビジョンでの出直しをはかっている。

◆メガメディア化〔1998年版 放送・映像〕 コンテンツ(番組)の制作から配送・端末放送までを行うべく、メディア企業が合併、提携によって大型化すること。通信・放送業界の規制緩和がこうしたメ

ディア再編を促すきっかけとなった。 アメリカでは、一九九五年一一月に、三大ネットワークに対してプライムタイムの番組の自社制作を禁止する「フィンシン・ルール」が廃止された。この規制

緩和をにらんで、九五年七月から八月にかけて、三大ネットワークのうち、ABCは娯楽産業大手のウォルト・ディズニー・カンパニーに買収され、CBSは

総合電機メーカーのウエスチングハウスに買収された。NBCは八六年にゼネラル・エレクトリックの傘下に入ったので、三大ネットワークの中から独立系ネ

ットワークは姿を消すことになった。

九五年九月、タイム・ワーナー(TW)は、CNNを抱えるターナー・ブロードキャスティング(TBS)を買収することを決め、合意に達した。米連邦取引

委員会(FTC)は、この合併がCATVの運営や番組製作において過度の集中を引き起こすとしてきたが、九六年七月、条件つきで了解した。同年一○月に

は買収手続きが完了した。 日本では、九六(平成八)年六月に、オーストラリアのニューズ・コーポレーションと日本のソフトバンク社が、合弁会社を設立し、旺文社メディアを買収す

ることで、テレビ朝日の株を二一%取得したが、九七年に朝日新聞がその株を買い戻した。またニューズ社は、日本のCSデジタル放送に参入を計画、Jスカ

イBをソフトバンク、ソニー、フジテレビと設立した。このような外国資本の参入は、日本の伝送路とコンテンツの統合、つまり、メガメディア化を促進させ

ている。

今後とも、国内外において、通信、放送、映画、コンピュータ、エレクトロニクスなどの産業を巻き込んだメガメディア化が予想される。 ◆国際放送(overseas broadcasting)〔1998年版 放送・映像〕

外国において受信されることを目的とする海外向け放送のこと。日本では定期的放送を一九三五(昭和一○)年六月に開始した。国際放送は放送法に基づいて

NHKに交付金が支出され、これとNHK自体の経費で行われている。現在、「ラジオ日本」と「NHKテレビ国際放送」の二つが放送されている。 「ラジオ日本」は、放送を短波で行っている。日本語と英語で全世界に放送する「一般向け放送」が、一日延べ三一時間、特定の地域にその地域で使われてい

る言葉を用いた「地域向け放送」が、一日延べ三四時間、二一の言語で行われている。週間放送時間で比べると、世界の国際放送の中では、第八位の規模にな

る。日本から全世界へ向ける「直接送信」と、イギリス、カナダ、シンガポール、スリランカ、ガボン、仏領ギアナ、アセンション島の世界七カ所の中継送信

局を経由する「間接送信」とがあり、一日二五○本以上のニュースや番組を二四時間世界に向けて発信している。九三(平成五)年、最新のコンピュータ技術、

デジタル技術を取り入れ、運行システムを改善した。テレビの海外向け発信が認められて、九五(平成七)年四月からNHKは欧米で「NHKテレビ国際放送」

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を開始した。衛星サトコムK‐1を使用して、北米では一日平均五時間程度、衛星アストラ1-bを使用して、ヨーロッパでは平均三時間一○分程度放送を行っ

ている。番組編成はニュースが中心である。アジアではテレビ国際放送は行っていないが、衛星パンナムサット2を使用してアジア諸国の放送局やCATV局

に番組を提供している。民放は、九四年の放送法一部改正により国際放送が可能になった。シンガポールに設立されたジャパン・エンターテイメント・テレビ

ジョン(JET)は、九七年一月から、通信衛星を利用し、アジアに向けて、日本のテレビ番組の放送を開始した。JETはTBS、住友商事、米TCI(テ

レ・コミュニケーションズ)が出資、各民放キー局に番組提供を申し入れている。 ◆越境テレビ(spillover)〔1998年版 放送・映像〕

衛星放送などの電波が、本来対象としていない、国境を越えた近隣の国に漏れる現象。衛星放送が開始され顕著となった。一九九一年八月から三八カ国・二七

億人をカバーするスターTVが放送を開始して以来、、アジア各国は新たな衛星を使った放送をつぎつぎに計画、越境するテレビ電波が急増することになった。

アジアの中でも大小一万余の群島国であるインドネシアでは、地上波のテレビやケーブルテレビにとって立地条件が悪く、衛星の集まる赤道上空のもとに国が

位置したせいもあって、七六年七月という早い段階で国内通信衛星パラパを打ち上げた。インドネシアは、タイ、フィリピンなどの周辺国に余剰チャンネルを

貸し出したり、自由にアジア上空に電波を送信できる規則「アジア・フリー・スカイ・ルール」を提唱するなど、越境電波の受信には寛容な姿勢を示している。

しかし、NHKの衛星放送に対して韓国が「電波による文化の侵略」と批判するなど、アジアの多くの国々では、越境テレビを問題視してきた。 ◆衛星放送〔1998年版 放送・映像〕

赤道上空三万六○○○キロの静止軌道上に浮かぶ放送衛星(BS)および通信衛星(CS)から家庭に直接電波を届ける放送。地球局から衛星に電波を送り(ア

ップリンク)、それを受信した衛星は電波をトランスポンダ(中継器)にて増幅して地上に送り返す。家庭では、送られてきた電波をパラボラアンテナで受け

視聴する。電波が上空から届くので途中さえぎるものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。音声は、PCM方式による高品質のデジ

タルサウンドであるため、低い音から高い音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現できる。また、衛星一つで日本全国をカバーできるのも利点の

一つであるが、地域に密着したローカル情報には向かない。さらに、地上波に比べ、大容量の情報を送れるので、ハイビジョン放送に利用されている。中継局

や送電線が必要ないので、災害時や海上、僻地でも受信できることも強み。日本では一九八九(平成一)年にNHKがBS二波による本放送を開始したことに

より衛星放送が始まった。現在、日本で放送に使用されている衛星はBS3、JCSAT2、JCSAT3、スーパーバードBの四つである。 ◆通信衛星(CS)(Communications Satellite)〔1998年版 放送・映像〕

一九六四(昭和三九)年に暫定制度として発足、七三年に恒久制度となったインテルサット(国際電気通信衛星機構)は、現在約二○基の通信衛星を配置し、

多国間にまたがる通信サービスを行っている。企業は電話、データ伝送、テレビ局は映像伝送のため、そのサービスを利用している。七六年に暫定制度として

発足、七九年に国際機関となったインマルサット(国際海事衛星機構)は、衛星を船舶通信に利用する目的で設立された。しかし、船舶通信だけでは需要が伸

びず、八五年に航空機との通信、八九年には地上の移動体通信に利用できるよう条約が改正された。テレビ局や通信社・新聞社が僻地等からのデータ伝送に利

用している。民間企業としては、欧米間、南北米間の通信サービスを行うパンナムサットや、欧州のアストラ、アジア地域のアジアサットなどが登場した。八

○年代に入り、ユーテルサットやアラブサットなど広範囲ではないものの近隣諸国への伝送を可能にする通信衛星機構が現れた。現在では、ケーブルテレビ向

けの番組供給に利用されたり、出力が上がったこともあって、アストラのようにDTH(直接受信衛星放送)サービスを行う衛星も増えた。

◆BS放送〔1998年版 放送・映像〕 衛星放送の中でも、放送衛星(BSBroadcasting Satellite)を使った放送。放送衛星はテレビの難視聴解消を主目的として打ち上げられた。通信衛星(CS)

と違って、BSは衛星の位置に取り決めがあり、国際的にチャンネル数が割り当てられている。NHKの衛星放送は、放送衛星2-bにより試験放送を続けてきたが、一九八九(平成一)年六月一日から本放送となった。同年六月三日からは二波による二四時間放送を開始した。NHK衛星第一テレビはニュース&スポ

ーツチャンネルとして、国内外の情報を一○○%独自放送し、衛星第二テレビはカルチャー&エンターテイメントチャンネルとして、娯楽や芸能・文化を中心

に定曜・定時編成し、海外のソフトも放送している。衛星第二は難視聴解消のために、地上放送の同時放送のほか、先行・時差放送や同種番組の集中編成など

も行っている。九七年度の衛星放送契約数は九七年六月末現在で八三四万四四○九件に達した。

放送衛星BS‐3が九○年に打ち上げられ、九一年から二チャンネルが三チャンネルとなった。それは、民放初の日本衛星放送(JSB=愛称WOWOW ワ

ウワウ)が放送を開始したからである。WOWOWは、音楽、映画、スポーツを中心とした編成をし、九七年度に加入世帯二三○万軒に近づいた。

現在、BS‐3の一チャンネルはハイビジョンの試験放送にも使用されている。また、放送衛星を利用した初のデジタル音声放送局、衛星デジタル音楽放送(S

DAB=愛称セント・ギガ)は九一年三月、本放送を開始した。 九七年に次期放送衛星BS‐4が打ち上げられる予定であり、その八チャンネルをめぐって、放送事業者間での調整が行われている。

◆CS放送〔1998年版 放送・映像〕 通信衛星(CS)を使った放送。周波数は国際的に取り決められるものの、放送衛星(BS)と違って衛星の軌道位置がいくつも取れるのが特徴。もともとが

通信衛星のため、国際的な対応も可能で、国内から海外に発信することもできる点でBSより自由度が高いといえる。また、BSに比べて出力が小さいので、

パラボラアンテナの口径が大きくないと受信できなかったが、最近ではそのアンテナも小型化し、どこの家庭でも簡単に設置できるようになった。 一九八九(平成一)年に日本通信衛星および宇宙通信のCSがそれぞれ打ち上げられた。これらのCSを利用した放送サービスを行うため、同年一○月に放送

法と電波法が一部改正された。その改正により、放送サービスを行う事業者は、CSを管理・運用する受託放送事業者とCSのトランスポンダを借用して実際

に番組サービスを行う委託放送事業者に分けられ、後者の事業者を認可制としている。

受託放送事業者は日本衛星通信とサテライトジャパンが合併してできた日本サテライトシステムズと宇宙通信の二社。委託放送事業者は、日本サテライトシス

テムズの衛星JCSAT2を使う「CSバーン」系が五社、宇宙通信の衛星スーパーバードBを使う「スカイポートTV」系が八社で計一三社だったが、デジ

タル衛星放送パーフェクTVが登場してからは、「CSバーン」は、そのチャンネルを利用するようになった。 また、CSを利用したPCM音声放送局は、九二年の放送開始時には六社あったが、合併が相次ぎ、九六年一○月、エフエム東京系のミュージックバード一社

に集約された。

パーフェクTVは九六年一○月から無料放送を開始し、九七年一月から有料放送に移行した。ディレクTV、JスカイBが後を追って、衛星放送が真っ先にデ

ジタル化を進めている。

◆インテルサット(INTELSAT)〔1998年版 放送・映像〕 アメリカの主唱で設立された国際電気通信衛星機構。事務局ワシントン。一九六四年に日本を含む一九の西側諸国によって暫定制度として発足、その後七三年

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に恒久制度へ移行し、法人格の国際機関となった。日本の出資額は現在アメリカ、イギリスに次いで第三位である。現在、大西洋上に一○基、太平洋上に四基、

インド洋上に四基、太平洋とインド洋の中間に一基、計一九基の通信衛星を配置し、インテルサット非加盟国を含む全ての地域に対して商業ベースで通信サー

ビスを提供している。インテルサットのサービスには、テレビ局向け映像伝送のほかに電話や企業向けデータ通信などがある。テレビ中継のためにインテルサ

ット衛星を使うのは、オリンピックやワールドカップ・サッカーなど世界的スポーツイベントの中継、日々行われているニュース素材や番組の国際的配信など

であり、その量は年々増加してきている。 ◆デジタル放送(digital broadcasting)〔1998年版 放送・映像〕

従来のアナログ放送は一つの電波には一つの映像しか乗せられず、音声は別の電波で送る必要があった。これに対し、デジタル放送は一つの電波に複数の映像

や音声などを乗せられるほか、品質を落とさずに情報を圧縮できるため、従来のアナログ放送一チャンネルの周波数帯で四‐八チャンネルを設定できる。また、

コンピュータを使って情報をコントロールしやすく、視聴者側からの注文による情報も送れる「双方向性」をも可能にする。アメリカでは、すでにデジタル衛

星放送(DSB)による多チャンネル放送を開始しており、世界的に放送のデジタル化が進みつつある。日本では、一九九六(平成八)年に通信衛星(CS)

のデジタル放送を開始した。放送衛星(BS)でのデジタル放送の導入時期についてはBS‐4の後発機からデジタル高精細度を中心として取り入れられるこ

とになった。さらに、従来二○○五年ごろを想定していた地上波のデジタル化が、二○○○年までに早められる事態に変化した。放送界はデジタル・イノベー

ションによって、郵政省の「通信白書」でさえ“放送革命”とよぶ大変革の時代を迎えた。これまで議論されてきた「放送と通信の融合」「グローバル化」「規

格変化」「有料放送の増加」「多チャンネル化」などが一挙に現実のものとなってきたからである。 ◆CSデジタル放送〔1998年版 放送・映像〕 通信衛星(CS)を利用し直接、家庭に配信するデジタル放送。デジタル技術を用いているため、一○○チャンネル以上の多チャンネル、高画質、高音質が特

徴である。アメリカでは、一九九四年六月、ヒューズ社が事業を開始した。その「DIRECTV(ディレク・ティービー)」は、サービス開始以来一年で一

○○万世帯と受信契約を結び、チャンネル数も約二○○チャンネルとなって、約三○○万世帯に普及した。日本では、九五(平成七)年八月、日本サテライト

システムズ(JSAT)が打ち上げた通信衛星JCSAT3に搭載したトランスポンダ(中継器)八本を利用し、九六年四月から試験放送を開始、同年一○月

から無料放送、九七年一月から有料放送に移行した。この日本初のデジタル衛星放送サービス「PerfecTV(パーフェク・ティービー)」は、JSAT、伊藤忠商事、日商岩井、三井物産、住友商事が共同出資する日本デジタル放送サービスが運営している。衛星の管理は受託放送事業者であるJSATが、顧客の管理

は日本デジタル放送サービスがそれぞれ行い、委託放送事業者が番組の供給を行う。映画、スポーツ、娯楽、教養、ニュースなど、五七チャンネルでスタート、

八八チャンネルに増えた。視聴者は専用の受信機器をそろえ、視聴料を払い、サービスを受けることになる。「パーフェクTV」に続き、「ディレクTV」が九

七年冬に放送を開始する計画である。「ディレクTV」は、米ヒューズ・コミュニケーションズ、日本の大手ビデオレンタルチェーンであるカルチュア・コン

ビニエンス・クラブ(CCC)、大日本印刷、松下電器、宇宙通信が共同出資するディレクTVジャパンが運営する。

そのほか、CSアナログ放送を行っているスカイポートTVの「スカイD」、世界のメディア王マードックによる「JスカイB」がCSデジタル放送を計画し

ている。 多チャンネルになるため、番組内容はより専門性の高いものが増えるだろうし、トランスポンダ利用料が大幅に安くなるので、番組提供業者が参入しやすくな

る。その一方、質の低い番組の増加や、番組の編集責任に対する認識の低下が懸念されている。

●計画中の CSデジタル衛星放送(予定) ※ ■サービス名

[1] 経営主体 [2] 放送開始・時期

[3] チャンネル数 [4] 使用衛星

[5] 主な出資者 [6] 主な番組・供給会社

■パーフェクTV [1] 日本デジタル放送サービス

[2] 無料放送 96年 10月・有料放送 97年 1月 [3] テレビ 70 音声 103

[4] JCSAT-3 [5] 三井物産/伊藤忠/日商岩井/住友商事/JSAT [6] 日本テレビ/にっかつ/吉本興業/日本経済新聞社/第一興商 他

■ディレクTV

[1] ディレク TVジャパン [2] 97年 12月 [3] テレビ 100程度

[4] スーパーバード C [5] ディレク TVインターナショナル/CCC/松下電器/大日本印刷/宇宙通信/三菱商事/三菱電機

[6] 米ディレク TVなど

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■JスカイB

[1] ジェイ・スカイ・ビー [2] 98年 [3] 100程度

[4] 未定 [5] 豪ニューズコープ社/ソフトバンク/ソニー/フジテレビ

[6] テレビ朝日/20世紀フォックス/小学館/東映/朝日新聞社 他

◆総合デジタル放送(ISDB)(Integrated Service of Digital Broadcasting)〔1998年版 放送・映像〕

複数の映像・音声・文字・図形・データなど各種情報をデジタル化して、小さな単位に分割し、まとめたものを一つのチャンネルで送る放送。視聴者は一台の

受像機で受信し、受信したものは好きな時間に自由に選択し、組み合わせたり、加工して利用できる。たとえば、二四時間いつでも天気予報を見たり、スポー

ツ中継では好きな選手だけを追ったり、過去の成績を取り出して見たりできる。通信業界の次世代通信サービスがISDN(総合デジタル通信網)だとしたら、

放送業界の次世代放送サービスはISDBとなる。NHK技術研究所で実験中。

◆FM文字多重放送〔1998年版 放送・映像〕 「見えるラジオ」の愛称もある。FM波にデジタル信号を重ね、文字、データなどの情報を送り、専用受信機で受信するFM文字多重放送で、TOKYO F

Mが一九九四(平成六)年一○月から放送を行ったのが始まり。全国的な放送は九五年四月からのスタートとなった。放送を行っているのは、JFN(全国F

M放送協議会)に加盟する三三社で、主な情報はTOKYO FMがCSを用いたJFNの番組配信システムで各局に配信し、地域の情報をそれと組み合わせ

提供する。放送内容は、(1)オンエア中の曲名やリクエスト電話・FAX番号などの「番組情報チャンネル」、(2)ニュースやスポーツの結果などの「ニュ

ース&スポーツチャンネル」、(3)天気、降水確率、気温などの「天気情報チャンネル」、(4)渋滞状況などの「交通情報チャンネル」、(5)占い、クイズな

どの「エンターテイメントチャンネル」の五チャンネルで二四時間放送。受信機には、一五文字×二行の文字を表示する液晶パネルがついている。受信機の種

類は、PDA(個人用情報端末)型のものが最もポピュラーで二万円台で登場した。ほかにも、カーナビ型、車載型、ラジMD型、ミニコンポ型などが発売さ

れる予定。商業放送なので、三六画面のうち六画面がCMとして表示される。つまり、自動でページをめくらせている場合、六分間に一分の割合でCMが入る。

情報をプリントアウトできるなどの「データ情報サービス」、街頭やタクシー車内の電光掲示板スタイルの受信機「パパラビジョン」サービス、野球中継で次

のバッターのバッティングを予想するゲームなどの対話型サービス「ジーコム」、自由な周波数の利用を可能とする制度の導入により実現するページング(ポ

ケベル)サービスなど、今後も新事業を展開していく予定だ。TOKYO FMは「見えるラジオ」でNAB(全米放送事業者連盟)から「放送事業国際特別

功労賞」を受賞するなど伝送技術が高く評価された。JFNに続いて、関東ではJ‐WAVEの「アラジン」、大阪ではFM802 の「ウオッチ・ミー」が放送を開始。NHKも九六年三月から全国八地域で放送を開始した。 ◆JET・テレビジョン〔1998年版 放送・映像〕

JETは、ジャパン・エンターテイメントの頭文字を重ねたもの。TBSが住友商事らとシンガポールに設立したアジア諸国向け二四時間配信の衛星デジタル

テレビ放送。台湾で三○○万世帯が視聴する日本の民放番組だけの専門チャンネルは初めてであり、現代日本の生活文化を紹介する貴重な窓といえる。

◆テレビ音声多重放送〔1998年版 放送・映像〕 現在使っている電波のすき間を利用してステレオ、二カ国語放送、第二音声放送を出すこと。一九八一(昭和五六)年、郵政省はNHKと民放三八社に対し、

テレビ音声多重放送の補完的利用の拡大を許可した。従来の音声多重放送は「ステレオ」か「二カ国語」放送の二つに限られていたが、利用方法の拡大が認め

られ、現在の多重放送は、(1)主番組に関連のある放送なら第二音声でどんな放送でも流すことができる。(2)災害情報なら、主番組とは無関係に出せるこ

とになり、多重ニュースやプロ野球中継のやじうま放送、歌舞伎の解説放送などもできる。

◆静止画放送(still picture broadcasting)〔1998年版 放送・映像〕

通常のテレビのような動画ではなく、一コマ一コマの静止画像(文字、イラスト、スチール写真など)と音声によって構成される番組をテレビの電波で送る放

送。わが国で開発されているのは、テレビ電波一チャンネル分の専用波を使って、同時に約五○種類の音声つきカラー静止画番組を送ることができる方式。視

聴者はテレビ受像機にアダプターをつけることにより、希望する時間に必要な静止画番組を選んで見ることができるのが特徴で、生活情報や学習・教養番組、

趣味の番組など利用範囲は広い。なお、ハイビジョンの静止画は、岐阜美術館などにおいて、ハイビジョンギャラリーとして利用され、話題を呼んでいる。 ◆文字放送〔1998年版 放送・映像〕

テレビ画面の映像を構成する順次走査の下から上に戻る時間的すき間「垂直帰線消去期間」を利用し、現行の空中波で文字や図形を送信するシステム。現行テ

レビのNTSC基準では五二五本の走査線があるが、「垂直帰線消去期間」は二一本あり、そのうち四本が使用可能となっている。利用者は、文字放送用アダ

プターが必要。事業者は広告を主要財源とし、無料でニュース、天気予報、交通情報などを提供する。NHKや民放事業者によって文字放送サービスは、現在

大部分の都府県で実施されている。 ◆移動体向け文字放送〔1998年版 放送・映像〕

JR山手線の新型車両に搭載されている移動体用文字放送受信機はエル・エス・アイ・ジャパンが開発し、一九九一(平成三)年秋から日本テレビ系のアクセ

ス・フォアが放送ソフトを制作・放送している。

電車のような移動体ではアンテナの指向性が常に変わるため、従来は「文字放送の受信は無理」とされていた。この課題を解決するため、(1)移動体に取り

つけた四本のアンテナからそれぞれ文字放送信号を読み込み、その中から最良のデータを一つ選ぶマルチチューナー方式と、(2)これだけでは受信が不安定

なため、反復複合方式技術を併用した。文字放送では、一つの番組を繰り返し送出する。この仕組みを利用し、一回の周期で画面が完成しない場合でも、次の

周期で得た画面と次々と合成、これによって、移動体でも室内と同品質の文字放送ができるようになった。車載用受信機の商品化には目下慎重になっている。

それは一セット九万八○○○円で売る計画を立てているものの、この価格では年間一万セット売れないと採算が合わない現状にあるからであり、“ニューメデ

ィア期待の星”といわれながらも、利用方法の開発が目下の急務とされている。 ◆ナローキャスティング(narrowcasting)〔1998年版 放送・映像〕

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文字どおりブロードキャスティング(broadcasting=放送)の対語で、地域的、階層的に、限定された視聴者を対象とするテレビ放送を意味する言葉。ケーブ

ルテレビやコミュニティ放送がもたらした新しい概念。 ケーブルテレビが、限られた地域を対象としていることや、非常に多くのチャンネルを収容するケーブルの特性を利用して、一つ一つのチャンネルのサービス

内容を細分化し、たとえばニュース、映画、スポーツなどの専門チャンネルとして使っていることなどから広く使われはじめた言葉。

◆CATV(cable television;community antenna television)〔1998年版 放送・映像〕 ケーブルテレビ、有線テレビ。CATVは大別すると都市型と農村型とに分けられ、農村型CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の

特徴は多チャンネル・娯楽情報タイプといえる。一九九六(平成八)年三月末現在、CATV局数は六万三九六三施設で、加入世帯数は約一○一○万世帯。普

及率は初めて一○%を超えた。 一九五五(昭和三○)年四月にテレビ難視聴対策施設として、群馬県伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、BS、CS放送といった衛星メディアの台頭

や、ソフト面のプラス要素もあって、これから本格的な発展への重要な段階を迎えるといえそうだ。九六年一○月、武蔵野三鷹ケーブルテレビが商用サービス

としては日本初のCATVを利用したインターネット接続サービスを開始した。放送以外のCATV利用も進み、電話やインターネットに接続して通信サービ

スに活路を見出している。デジタル化すれば、チャンネル数が現在の五倍程度に増え、画質もよくなり、通信事業を推進するうえでも、大きな強みといえる。 ◆都市型CATV〔1998年版 放送・映像〕

都市型CATVの定義は、(1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)一万以上、(2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が五チャンネ

ル以上、(3)双方向機能があるCATVのことである。多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから五十数チャンネルが日本の現状で、アメリカの

ように一五○チャンネルのものはない。

加入時の費用は、契約料五万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利用料は基本が月額三○○○円前後、それに加えて映画などのチャンネ

ルを別料金にしている局もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごとに料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、一九九○(平

成二)年七月から自社配給洋画の配信について始めた。 このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多チャンネル時代に入ろうとしている。今後は放送だけでなく、テレビ

ショッピングやテレビ電話、遠隔医療への利用も考えられており、マルチメディア時代を加速させる新たなネットワークとして、インターネットや電話などの

双方向通信サービス・実験が行われている。 CATVのデジタル化は、九七年末から本格化の見通しであり、その時期での実用化は、東京ケーブルネットワーク(東京都文京区・荒川区)、杉並ケーブル

(東京都杉並区)、日本ネットワークサービス(山梨県甲府市)である。また来年夏には、近鉄ケーブルネットワーク(奈良市)等々が開始の予定であり、多

チャンネル化、通信サービスへの対応・高品質化をめざしてのCATVデジタル化はいよいよ実用化段階に入る。

◆ペイテレビ(pay television)〔1998年版 放送・映像〕 特定の契約者に有料で特別の番組を提供するテレビシステム。その方法は主としてケーブルシステム(ペイケーブル)で行われている。ペイケーブルは、有料

テレビ用の番組提供会社が国内衛星を使って新しい劇映画やスポーツのビッグイベント、有名ステージショーなど魅力ある番組を、このCATVに分配するこ

とで急速に伸びた。CS(通信衛星)放送でも始められ、デジタル衛星放送になれば、一挙に拡大されそうであり、今後大きな進展が期待される。 ◆有線放送〔1998年版 放送・映像〕

ケーブルを通じて音楽や情報を放送する業種。これまでは夜の盛り場のバーや飲食店などに、演歌などのレコードを流していたが、最近は一般家庭向けに方向

を変えだしている。現在、家庭への普及を計っている業者は約一○社、加入者は一○万世帯を上回っているという。業界の最大手の大阪有線放送社(大阪ゆう

せん)は、日本最大の四四○チャンネルを有しており、従来の飲食店向けの営業方針を大きく転換、一般家庭への進出をねらっており、一九九三(平成五)年

BBCインターナショナルの放送も流した。業界第二位のキャンシステム株式会社も八八年から家庭への売り込みに力をいれている。が、九六年から衛星デジ

タルによるラジオ放送が出現し、有線放送は新しい活路を見出すのに腐心している。

◆外国語FM放送〔1998年版 放送・映像〕 在日外国人向けのFMラジオ放送。一九九五(平成七)年一○月に大阪では「関西インターメディア」が、東京では九六年四月に「エフエムインターウェーブ」

が開局した。英字新聞の発行会社ジャパンタイムス社が主体となり、三井物産や徳間書店が参加したのが「エフエムインターウェーブ(インターFM)」。周波

数は七六・一メガヘルツで、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県は全域で、群馬県、栃木県、茨城県は一部地域で受信できる。音楽番組を主軸にしながら、ニ

ュースや来日する海外の政治家、経済人などのインタビュー番組、外国人向けの生活関連情報、娯楽情報なども放送する。〈東京発の情報発信〉〈地域密着型メ

ディア〉〈災害発生時の緊急情報と避難ルートガイド〉などを番組編成の基本にしている。番組で使う言語は、英語を中心に北京語、韓国・朝鮮語、スペイン

語、ポルトガル語、タガログ語、タイ語、インドネシア語の一○カ国語。かつてFM東京がポルトガル語とタガログ語を使用した外国人を対象にした放送を行

ったことがあったが、現在は放送していない。受信可能な地域に住む外国人は約四○万人ほどなので、日本在住の聴取者をどれだけ増やせるかが課題となって

いる。 関西電力が中心となって設立した「関西インターメディア」は一足早く開局しており、十数カ国語の言語を使い、音楽番組、情報番組を放送している。これら

の外国語FM放送は、ブラジル系の労働者にポルトガル語放送で喜んでもらったり、ペルー日本大使館人質事件では、国際コミュニケーションに思わぬ貢献を

したりしたが、FM地域局が増え、関東の一部で混信が起き、苦情も出ている。

◆放送大学(university of air)〔1998年版 放送・映像〕 テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として一九八三(昭和五八)年四月発足、八五年開校された。教養学部のみの単科大学で三コースと六専攻がある。関東でテ

レビ放送、FM放送による授業放送を実施している。視聴できない人を対象に、ビデオ、オーディオテープの視聴により授業を行う地域学習センターが設置さ

れている。受講者は全科、専科、科目の各履修生にわかれる。全科履修生は四年以上在学し、一二四単位を取得すると「学士(教養)」の学位が得られる。他

は卒業を目的とせず、自分の学習したい科目を約三○○の科目から選択し、講義をうける受講者。放送大学は学生を受け入れてから一二年経ち、九七年三月時

点で九九五二人が卒業単位をとって学士となり、九七年度四月入学の学生数は六万五九八一人。面接授業では私語がまったくなく、一般の大学生とは違った自

主性が見られる。現在関東地区に限られているが、九八年一月からCSデジタル放送を利用し、全国に放送する予定であり、単位互換を認める協定締結校は短

大・大学を含めて九七年八月現在で早くも一一一校。さらに増える見通しだ。生涯学習熱の後押しをしているかと思っていたところ、教養科目は放送大学でと

いう新時代を迎えようとしている。

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▲電波と放送技術〔1998年版 放送・映像〕

無線による放送を所管する電波監理審議会と有線テレビジョン放送と有線ラジオ放送とを所管する電気通信審議会有線放送部会の両委員会によって、放送の高

度化と将来像の検討が行われてきたが、コンピュータとの関連が深まるという技術的な結論が出た。放送のデジタル化により、放送と通信および放送とコンピ

ュータとは、デジタルという共通の技術基盤を有して進み、番組制作や受像機端末の面においても、コンピュータは放送に急速に接近してきて、相互の関係は

サービス面においても急速に結びつくとしている。 ◆デジタル放送システム〔1998年版 放送・映像〕

取材、編集、番組送出に、デジタル機器を使うことにより、番組の製作からオンエアするまでの時間を短縮できるシステム。デジタル機器とコンピュータを組

み合わせて使うことにより、速く、容易に編集できるノンリニア編集が可能となる。これまでのテープからテープへの編集では編集を重ねるごとに画質が劣化

してしまったが、デジタル機器を使ったノンリニア編集では画質は劣化しない。また、卓上操作で番組が制作できるため(DTPP=Desk Top Program

Production)、設備がコンパクトになり、小さなテレビ局や放送が多チャンネル化した場合には不可欠になると予想される。 デジタル放送システムの市場では、放送局用機器や取材用カメラの市場で圧倒的優位に立つソニーと追撃する松下がしのぎを削っている。

◆衛星データ放送〔1998年版 放送・映像〕 衛星放送の電波にデジタル信号を重畳して、ファクシミリ、静止画、番組コードなどを放送する。一九九四(平成六)年九月に実用化が可能になり、九五年四

月からセント・ギガ(衛星デジタル音楽放送)が放送を開始した。BSチューナーに任天堂「スーパーファミコン」と専用アダプターを接続し受信する。放送

内容は、ゲームソフト、カラオケ、天気予報など。将来、統合デジタル放送(ISDB)に発展すると期待されている。 ◆SNG(Satellite News Gathering)〔1998年版 放送・映像〕

サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用し、テレビニュースの取材機能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュ

ースは、ENG(Electric News Gathering)で取材しており、遠隔等で取材したものを局に送信する場合、FPU(Field Pick-up Unit)でマイクロ伝送して

いるが、離島や遠隔の山間部からの送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカでは早くから実用化され、コーナ

スというSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立された。加盟六八社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを一日四‐五回ネットしている。日

本では一九八九(平成一)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は湾岸戦争以降競って

準備を進め、態勢を固めた。 ◆ビデオ・オン・デマンド(VOD)/ニュース・オン・デマンド(NOD)(Video On Demand/News On Demand)〔1998年版 放送・映像〕

現在のCATVでも、数十チャンネルの中から好きな番組を選べるが、放送日時は家庭から指定できない。ところが、「ビデオ・オン・デマンド」は、家庭に

いながらにして好きな番組を見たい時に呼び出せる。家庭で好きな番組を選び、端末機で注文すると、すぐにその家のテレビに送信される。ビデオレンタル店

に行かずに好きな映画を見られるほか、実用化が進めば、見逃したドラマやニュースなどを、呼び出して見ることもできる。「ニュース・オン・デマンド」と

は、その好きなニュースを注文して視聴するシステムをいう。 一九九四(平成六)年七月から、関西文化学術研究都市で始まった、光ファイバーを使ったマルチメディア実験では、このビデオ・オン・デマンドが目玉とな

っており、三○○のモニター世帯に光ファイバーを引き、実用化へのステップにしている。 ◆ハイビジョン/高精細度テレビ(HDTV)(High Definition Television)〔1998年版 放送・映像〕

通常、日本ではHDTVのことを「ハイビジョン」という愛称で呼び、ミューズ方式による高精細度テレビのことを指す。 一九七○(昭和四五)年初めからNHKが中心となって開発してきたハイビジョンは、現行テレビに比べて走査線が約二倍の一一二五本、画面は縦横比が九対

一六であり、情報量も約五倍、ミューズ式コンバーターを含めた受像機で、九四年一一月からNHKと民放六社が実用化試験放送開始、二○○○年ごろ打ち上

げのBS‐4後発機がデジタルHDTV中心になる。 日本のハイビジョン方式は、九○年五月デュッセルドルフでの国際無線通信諮問委員会(CCIR)総会で国際規格として認められた。九一年一一月から放送

衛星BS―3b の使用による一日八時間の試験放送が開始、九六年度から放送時間を拡大、NHK・民放合わせて、平日一日一三時間、土曜・日曜一日一四時間の放送を実施している。九七年一○月からNHKは一日八時間の放送枠を三時間拡大、一日一一時間ハイビジョン放送を行うので、民放とあわせると一日一

七時間の放送となる。 ハイビジョンは、実用化への第一歩として、横長テレビを発表し、九二(平成四)年から、バルセロナ五輪にあわせてミューズ式本格受像機を一○○万円前後

でメーカー各社が発売した。値段が高かった受像機は、最も低価格のものが五○万円をきり低廉価が進んできた。また、大きかった受像機は、壁掛けテレビの

開発により重量、奥行きを抑えることが可能となる。 高品位で高精細な映像を持つハイビジョンは、放送以外の分野(美術館、博物館、映画、医療、教育など)に利用されだしたが、広範な産業応用への期待もさ

れている。全国の多くの美術館や地方自治体などのホールではハイビジョン機器をすでに設置し、部分拡大や資料交換などに活用し始めた。九六年にはハイビ

ジョン用レーザーディスクが発売された。九七年八月のNHKの調査によると、累計出荷台数は四二万台、またM―Nコンバーター内蔵テレビの出荷累計は五

九万台となり、ハイビジョン視聴可能受信機は一○○万台を突破した。

◆ワイドクリアビジョン/EDTV‐2(Enhanced Definition Television)〔1998年版 放送・映像〕 民放のテレビ番組を見ていると、画面の隅に「クリアビジョン」という文字が出ていることが多い。NHKの「ハイビジョン」に対抗して、民放が開発に力を

入れている高画質テレビであり、EDTV(エンハンスト・ディフィニションTV)の愛称である。従来のテレビと両立させて使うことができ、チラつきや色

にじみを防ぎ、ゴーストがないので鮮明に見える。第一世代クリアビジョン放送は、一九八九(平成一)年八月に本放送を開始、現在は民放のほとんどの局が

実施している。さらに性能のよい第二世代クリアビジョンとして開発されたのがEDTV‐2で、統一名称が「ワイドクリアビジョン」となる。画面の縦横比

はハイビジョンと同じ九対一六の横長の画面で、高画質化を実現した。すでに一部メーカーは「パノラマビジョン」などと宣伝して販売、九四年の出荷台数は

一○○万台を超えた。従来の標準テレビの画面では上下に絵のない「レターボックス型」になる。九五年七月に、日本テレビが本格放送を開始した。

◆壁掛けテレビ〔1998年版 放送・映像〕 フラットTV(flat TV)ともいわれる。これは現在のブラウン管の代わりに、薄型になるディスプレイ素子(液晶、プラズマ・ディスプレイ、発光ダイオ

ード)を画素表示に用いて、パネルのように壁に掛けられるテレビ受像機。一九九六(平成八)年からプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)の量産化が

スタートした。四○インチクラスのもので、厚さが五から七・五センチ、重量が一四キロから一八キロ。ハイビジョン仕様のPDPは、さらに高度な技術を使

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用するため高価であり、いかにして価格を下げるかが今後の課題になる。

◆立体テレビ(stereoscopic television)〔1998年版 放送・映像〕 テレビ画像を三次元的に再現する方式。撮影するときに二眼で撮影する二眼式と多眼で撮影する多眼式との二つに大別され、それぞれにいくつか方式がある。

どの方式にもいまだに問題がある。放送での実用化は難しい状態にあり、医学用、工業用、教育用などの専門分野の利用への開発を進めている。

日本では、「オズの魔法使い」〔日本テレビ一九七四(昭和四九)年・人形劇〕、「家なき子」(日本テレビ七七年・アニメーション)、「ゴリラの復讐」(テレビ東

京八三年・怪獣もの)などが立体テレビとして放送されたが、いずれも特殊な眼鏡をかけないと、立体的に見えなかった。こうした特別な眼鏡をつけなくても

立体的に見える立体テレビを松下電器が科学万博’85に出展した。この試作品は、左の目と右の目に、それぞれ異なる方向から画像が入るように工夫、眼鏡なしの立体画像を可能にした。NHKは’89「技研公開」において、世界初のハイビジョン立体テレビを展示したが、これまた眼鏡を使用していた。なお、NHKは’90「技研公開」で液晶投射型メガネなし立体テレビを一般公開、注目を集めた。また、イギリスのデルタ・グループは「ディープ・ビジョン」という受

像機に特殊スクリーンを装着する眼鏡不要の新方式立体テレビを開発した。さらにホログラフィー映像をコンピュータで次々につくり出す立体テレビ「ホロテ

レビ」もアメリカのMITで開発された。九六年には、NHK技研が、眼鏡不要で視点が少々動いてもよい立体テレビを試作した。これは、視差がある四つの

映像を次々と切り替えながら表示することで、実現した。 ◆バーチャル・ビジョン(virtual vision)〔1998年版 放送・映像〕

携帯用メガネ型テレビ。超小型の液晶ビデオディスプレイと精巧な光学反射レンズを、ステレオヘッドホンに組み込んだメガネに装着した「アイウエア」。こ

のテレビ付き眼鏡と、チューナー、アンテナを収納した「ベルトバック」との二つで構成され、アイウエアを装着したユーザーの視界の一部に、カラーテレビ

映像やビデオ映像、テレビゲーム画面などを映し出す、まったく新しい映像機器。従来のポータブルテレビや液晶テレビのように持ち歩く必要がなく、眼鏡付

きヘッドホンを頭に掛け、常に自分の視界の一部にテレビやビデオ画面を映すことができる。効き目のほうの眼鏡のグラスの下部に液晶と反射レンズをつけた

ヘッドホンを使ったほうがよく、左右のグラスに別々に装着した機器が用意されている。

野球場やサッカー場で、試合を観戦しながら、テレビのクローズアップ映像を瞬時に体験することが可能であり、この新機器の使用方法は幅広く、好みの番組

を見ながら車の洗車や買物もでき、自由なテレビライフを実現できる。また、ベルトバックはビデオカメラが接続可能で、ユーザーは小さなファインダーを覗

くことから解放され、撮影しながら同時に周囲の状況も見ることができる。人込みでも快適でしかも安全な撮影が可能である。

▲放送番組関連〔1998年版 放送・映像〕 多チャンネル化により、放送番組の幅が広がるが、そのため良質な番組だけでなく、質の低い番組も増加する恐れがある。多様な専門放送や複数チャンネルの

登場は、放送番組の従来の編成に変え、視聴者が見たい時に見たい番組を視聴することを可能にする。 ◆二四時間テレビ放送〔1998年版 放送・映像〕

二四時間ぶっ続けのテレビ放送。定時放送はNHKの衛星第一放送が最初で、「ワールドニュース」「衛星スペシャル」「スポーツミッドナイト」などが主な番

組。溶鉱炉と同じで、衛星放送は火を消さないほうが効率がいいからだ。一九八七(昭和六二)年七月から放送をスタート、九六年から総合テレビでも二四時

間放送が開始された。また民放では、日本テレビが開局二五年記念番組として、七八年八月二六日から二七日まで「二四時間テレビ」を放送、現在まで毎年続

けている。フジテレビと東京放送は地上波としては世界初の本格的二四時間放送を八七年一○月から実施した。日本テレビとテレビ朝日は、八八年一○月から

開始した。NTV系のチャリティー番組「二四時間テレビ・愛は地球を救う」は九七年で二○回目となった。フジテレビも夏の風物詩「FNSの日」を放送、

九七年で一一回目を迎えた。また、テレビ朝日は九七年一一月に「熱血チャレンジ宣言」というタイトルの二七時間連続放送の特別番組を毎年行うことにした。 ◆チャイドル〔1998年版 放送・映像〕 チャイルド・アイドルの略。小・中学生のアイドル的存在の人気タレントが「チャイドル」。昔のアイドルのように、お仕着せの作られたスターではなく、同

世代の女の子が「友達になりたい」と身近に感ずるような存在であり、彼女たち自身もそれなりの自己主張を持っているのが特徴といえる。 人気の二大チャイドルと騒がれているのが、野村佑香、前田愛の二人で、ともに一三歳。両人はいまや小・中学生のカリスマ的存在といわれ、野村は三歳のこ

ろからCMやモデルの仕事をし、三年前に映画デビュー、いまはテレビの仕事が多い。前田は小学五年生の時にスカウトされ、民放テレビドラマやCMに出演

している。

野村や前田と一緒にフジテレビ「木曜の怪談」シリーズに出ていた浜立麻矢(一四歳)と大村彩子(一二歳)もトップ・チャイドルといわれ、四人でCDも出

した。また、NHKの連続テレビ小説「ふたりっ子」に出演した三倉茉菜・佳菜姉妹、さらに同じNHK番組「あぐり」に出演した吉野紗香(一五歳)や前田

の妹・亜季(一二歳)、TBSの秋の連続ドラマに出演が決まった鈴木杏(一○歳)などが目下話題のチャイドルだ。この風潮をとらえ、TBSは連続ドラマ

「金のたまご」を放送した。 ◆インタラクティブ・ドラマ/双方向ドラマ(interactive drama)〔1998年版 放送・映像〕

視聴者がストーリー展開を電話投票で選択し、投票によって複数用意された結末のうち一つだけが放送されるというドラマ。一九九六(平成八)年六月、関西

テレビとフジテレビが「東芝インタラクティブ劇場・犯人がいっぱい!」を深夜に放送した。主人公が殺人事件を解決するというストーリーで、三つの二者択

一の選択肢が設けられた。CMの間に投票の受け付けと集計を行い、CM終了後、票の多かった選択肢にそったストーリーが放送され、八つ用意されたうちの

一つの結末にたどりついた。NTTの電話投票システム「テレゴング」を利用したが、ドラマでの利用はこれが初めて。マルチメディア時代の双方向放送の一

つの例といえる。

◆TVショッピング〔1998年版 放送・映像〕 テレビでコマーシャルや番組を放送し、その視聴者を対象とした通信販売。これまでは、スポットCMによる通信販売が主流だったが、最近では情報番組の形

態をとり、一商品を三○分間ほど説明する商品広告「インフォマーシャル【information(情報)と commercial(コマーシャル)との合成語〕」による通信販売が売上げを伸ばし、二兆円近くになった。 一九九四(平成六)年七月からテレビ東京で放送を開始した「テレ・コン・ワールド」が日本初のインフォマーシャル。テレ・コン・ワールドは三井物産と米

ナショナル・メディア社との提携によって実施されている。それに続いて、九五年一二月から、住友商事と米ホームショッピング・ネットワークによる「住商

HSNダイレクト」、九六年一月から三菱商事、同年四月からフジサンケイリビングサービスなどがそれぞれ放送を開始した。日本テレビも九六年一○月から

インフォマーシャル放送を開始、地上民放キー局すべてが通信販売を行っている。パーフェクTVやディレクTVといったCSデジタル衛星放送においても、

ショッピング専門チャンネルが大きな目玉になりそうだ。パーフェクTVで放映している「ショップチャンネル」は生放送中に顧客と電話でやりとりできる双

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方向サービスを武器とし、「今後はこんなデザインの指輪が欲しい」という視聴者の声を商品開発や仕入れに反映させている。また、テレビ神奈川はプロ野球

中継とテレビ通販番組を組み合わせた番組を放送して話題になった。ゲームの合間のコマーシャル(CM)をすべてカット。代わりに長野五輪の公式グッズの

商品紹介を織り込んだ。 ◆視聴率(rating)〔1998年版 放送・映像〕

ある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率。ラジオの場合は聴取率。現在、視聴率調査には個人面接法と調査機を用いる方法の二つが

ある。個人面接法は、層化、無作為、多段階抽出法で選んだ数千の視聴者を、調査員が一人ひとり訪ねて、どの番組を見たかを答えてもらうもの。調査機によ

る方法は、テレビ受像機にメーターをとりつけて、いつ、何時間、どのチャンネルを見ていたかを記録するもの。ビデオ・リサーチとニールセンの二つの調査

会社がこの方法によって、東京、大阪、名古屋などの地区で調査している。個人面接法と調査機を用いる方法では、前者が個人単位、後者が世帯単位であるが、

広告主は世界的な傾向からみても、個人視聴率に切り換えたほうがいいと主張、一九九七(平成九)年四月からピープルメーターを用いた個人視聴率調査が行

われている。 なお全国視聴率一%当たり推定視聴者人数は一一○万人である。視聴率を、放送開始から終了までの「全日」、午後七時から一○時までの「ゴールデンタイム」、

同七時から一一時の「プライムタイム」の三分類してそれぞれ出し、それらで比較。この三つともトップとなるのを視聴率三冠王、最近では、これに午前六時

から午後七時、午後一一時から午前零時までの「ノンプライム」を加えたトップを四冠王と俗称する。

◆個人視聴率〔1998年版 放送・映像〕 調査の対象を世帯単位から個人単位に変えた視聴率。視聴者の世代、性別がはっきりする。テレビが一家に一台から一人に一台になりつつあることや、ある世

代や性別の視聴者をターゲットにした番組が増えて家族全員でテレビを視聴することが少なくなってきていることが移行の背景にある。広告効率を高めたい広

告主側の要望に応えて、視聴率調査会社ニールセン・ジャパンは、調査システムに疑問が残るという民放側の強い反対の中、一九九四(平成六)年一一月から

個人視聴率の調査を開始した。ビデオ・リサーチも九五年三月より、個人視聴率調査の実験を開始した。

ニールセンの調査には、改良型ピープルメーターとよばれる機械が使われている。テレビを見る時、調査協力者が自分のボタンを押すと電話回線を通じてニー

ルセンに送られる。ボタンの押し忘れを気づかせるため、センサーがついている。ビデオ・リサーチ社は関東地区でピープルメーターを、九六年秋からテスト

施行、九七年春から正式稼働させた。このメーターは「世帯」視聴率と「個人」視聴率を同時に測定する機械である。この機械をサンプル世帯に取り付け、テ

レビの見始めと終了時に対象者にリモコンの「自分のボタン」を押してもらい、各個人の視聴を識別する。サンプル数は関東地区で六○○世帯、約一九○○人

の個人が対象者となっている。関東地区の「母集団」とよばれる調査対象全体は一四六○万のテレビ所有世帯であり、標本世帯六○○の調査システムははたし

て視聴実態を正しく反映しているかどうか疑問も出ている。 ◆ニールセン調査(Nielsen research)〔1998年版 放送・映像〕

アメリカのニールセン視聴率調査会社の調査。調査の方法は日本では、東京、大阪などに一定のサンプル(標本)の家庭を選び、そこの受像機にオーディオ・

メーターをとりつけ、視聴状況を集積し、パーセンテージとして表す。 ◆ビデオ・リサーチ〔1998年版 放送・映像〕

民放二○社、東芝、電通、博報堂、大広の出資による日本最大手の総合調査会社。テレビ視聴率調査はミノル・メーターにより関東地区(標本数三○○世帯)、

関西地区(同二五○)。ビデオ・S・メーターにより名古屋地区(同二五○)、北部九州地区(同二○○)、札幌地区(同二○○)、仙台地区(同二○○)、広島

地区(同二○○)、静岡地区(同二○○)。日記式により長野地区(同四○○)の九地区について定期的に調査を実施している。 ▲映像とビデオ〔1998年版 放送・映像〕 放送に使われている映像は、人間や自然を撮影したフィルムやビデオ、人工的に創り出したアニメーションやCG(コンピュータ・グラフィックス)の二種に

大別できるが、現在のところは、ビデオの使用が圧倒的に多い。だが、ビデオ・テープの編集には時間と経費がかかり、CDなどノンリニア機器の記録・再生

によるリアルタイム機能が求められだしている。テープレス放送の新しい時代が間もなく日本にも訪れるだろう。

◆映像文化〔1998年版 放送・映像〕 映画、テレビなどの映像媒体の発達によって、映像は現代社会に氾濫するようになり、活字文化中心社会から映像文化を主体とする時代に移りつつある。すな

わち、動く映像によって芸術や大衆文化が創造され、それが社会に大きな影響を与えるようになった。さらに、マルチメディア時代は“映像新時代”とよばれ

ているように、多様な映像を使ったコミュニケーションが用いられるようになり、それがまた新しい文化を形成するだろうとみられている。電話はテレビ電話、

レコードはビデオディスク、有線放送は有線テレビへ、さらにビデオテックス、ハイビジョンなどの登場によって、映像を用いたコミュニケーション活動は一

段と活発化するに違いない。そうなると、映像が持っている単一・具象表現は、大きな社会問題となってくる。それは、人間のプライバシーを犯し、想像力を

退化させることになりかねないからである。しかし同時に映像そのものは外部撮影のものばかりでなく、CG(コンピュータ・グラフィックス)のように人間

や物体の内部に視点を設定した映像を創ることが可能になり、映像文化の範囲や考え方を大きく変えるだろう。また、CGの発達は人間の絵を描く手法を変革、

映像の概念を根本的に変えかねない。 ◆3D映像(立体映像)(3‐dimension scenography)〔1998年版 放送・映像〕

映像を三次元的に再現する方式。二台のカメラで撮影し、二台の映写機で写すステレオスペース方式によるもの、一台の撮影機、映写機ですべてまかなう七○

ミリ立体映画、コンピュータ・グラフィックスを使って画像をつくったものなど、さまざまな立体映像がある。

立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角を変えることである。そこで、立体視するためには、右目で見た画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左

右の目にそれぞれの画像だけを送りこまなくてはならない。そのために赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィルターの眼鏡が必要

になる。二色焼付けした立体写真のアナグリフ式はカラー画像ではできない。しかし、観客にとって左右一八○度、前後には一二五度の範囲がすべて立体映像

で占められるので、完全に画像の中に入りこんだ感じになる。ステレオスペース方式はポラロイド方式でカラー映像が可能。大型画面にするため七○ミリフィ

ルムを二本使うシステム。また眼鏡なしでも立体映像を体験できるようになった。

◆バーチャル・セット(virtual set)〔1998年版 放送・映像〕 コンピュータ・グラフィックス(CG)によって作られたテレビ番組の美術セット。美術セットをすべてCGで作り、ブルーバック前に立つ出演者とリアルタ

イムで合成する。実際のセットで表現するには困難な、もしくは、不可能な空間に、出演者を立たせることができる。また、セットを保管しておくスペースや、

セットを組み立てる時間を省くことができる。一九九六(平成八)年四月から日本テレビ「あさ天5」が、毎日放送の番組としては初めて運用を開始した。

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◆ビデオジャーナリスト(video journalist)〔1998年版 放送・映像〕

小型のビデオカメラを用いて、撮影から取材、編集、解説にいたるまでを、一人でこなす映像記者のこと。略称VJ。映像記者。「ビデオジャーナリスト」の

名称を付けたマイケル・ローゼンブルムは、「一人の記者がペンを持つように、ビデオカメラを常に所持して映像という言葉で表現する人」と定義づけ、「低コ

スト、規模縮小の設備で、テレビ界を変革させる武器になる」と断言している。市販のビデオカメラを手にしライトマンやオーディオマンの助けも借りずに、

一人で被写対象を撮影するばかりか、そのカメラを三脚の上にのせ、カメラに向かって、自分自身でコメントをも語る。機動性にすぐれ、相手により近づき等

身大の取材ができるのが長所。ノルウェーの「テレビ・ベルゲン」が、VJを用いた最初のテレビ局で、一九九○年代になって、アメリカのCATV向け二四

時間ニュース専門局「ニューヨーク1」などでVJが活躍しだした。VJは、あくまでもジャーナリストであって、一人で撮影や編集をこなせばいいというわ

けではない。本当の意味でのVJは日本でも数少ない。 ◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔1998年版 放送・映像〕

テレビ番組やビデオアートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。テレビ放送開始三○周年の記念番組を制作しようとして、草創期のビデオ

番組がほとんど残っていないのに気づき、一九八二(昭和五七)年九月「放送文化財保存問題研究会」が発足した。同研究会は八三年から「テレビ番組を開か

れた文化財とする運動」(略称 ビデオ・プール video-pool)を展開し、八四年国会議員と懇談したり、シンポジウムを開いたりした。八五年には、放送文化基金助成を得て「草創期テレビ保存番組リスト~昭和四五年までの公的記録保存資料から~」を作製した。NHKが八一年に「放送番組ライブラリー」を設置

したが今はなく、現在、過去に放送された番組など総合的なビデオ映像を公開しているのは、郵政省が法的にただ一つ指定した「放送番組センター」のみであ

る。放送番組センターの「放送ライブラリー」(問い合わせ先 045・223・2111)は、横浜のみなとみらい地区にあるが、九八年に横浜市中区に完成する横浜市情報文化センター内に移転する予定である。文部省が教材としてビデオを認可してから、ビデオをライブラリー化していろいろなところで利用する傾向が高ま

り、東京・青山の「こどもの城」でもビデオ図書館を開いた。 ◆Vチップ/ペアレンタルロック(V-tip/parental lock)〔1998年版 放送・映像〕

過激な暴力、性描写のシーンを、ランクに応じて、画面に写らないようにする装置。Vはバイオレンス(Violence)のV。電波とともに送られてくるランク情報を、テレビに内蔵された半導体が、あらかじめ設定されたランクと照らし合わせ、送られてくる映像を画面に写すか写さないかを判断する。 アメリカの「一九九六年電気通信法」が、一三インチ以上の受像機にVチップを搭載することの義務を規定した。これに対して、言論の自由の侵害と米テレビ

界は反発した。ランク付けをどのように行うかなど課題が残っている。 日本でこれに類する装置はペアレンタルロックで、子供に見せたくない番組を親が暗号によって「鍵」をするという仕組み。一九九五(平成七)年九月から郵

政省内に設けられた「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」において、ペアレンタルロックを導入するか等が議論された。 ●最新キーワード〔1998年版 放送・映像〕

●IRD(アイ・アール・ディー)(Integrated Receiver/Decorder)〔1998年版 放送・映像〕 ヨーロッパ、アジア、アメリカなどの各地域で、合計一七の多チャンネル・デジタル衛星テレビ放送が行われている(資料1)が、これらはいずれもスクラン

ブルのかかった有料放送。受信には専用のデコーダーが必要である。デジタル放送では、チャンネル数が一○○前後と圧倒的に多いため、デコーダー方式の持

つ意味が非常に大きく、特定の方式が確立できれば、市場を支配できる。 デジタルテレビのデコーダーを組み合わせた受信者用端末がIRDであり、IRDは「セット・トップ・ボックス」とも呼ばれている。これは、単に放送の受

信だけではなく、双方向サービスやコンピュータとの接続を可能にするなど、マルチメディア・ターミナルとしても機能するため、各事業者はそれぞれ独自の

方式を開発し、マーケットシェアの拡大を目指している。 デジタルテレビ放送の基盤になる技術は、(1) 動画圧縮方式と伝送方式、それに(2) スクランブル方式と顧客管理システムであり、(1) は国際統一規格ができた

が、(2) は方式統一に失敗、六つのデコーダー方式が現在使われている。デジタル放送にアクセスするためには、スクランブル(暗号)を解く鍵と料金支払いなどの顧客情報を備えた磁気カード(スマートカード)を所有することが条件となるので、CA(条件付きアクセス)方式と呼ばれ、そのCA方式は前述どお

り六種類である。(資料2) それらのうち、最も多く採用されているのは、ビデオクライプトであり、この方式はマードックのニューズ・コーポレーション傘下のニューズ・データーコム

社がイスラエルのメーカーと共同開発したものである。ビデオクライプトは世界各国の八つのデジタル衛星放送会社がすでに使っているか使用する予定である

(資料3)。

(資料1)世界のデジタル衛星放送(1997年 1月現在) ※

★サービス名 [1] 実施主体 [2] テレビチャンネル数

[3] 開始時期 [4] 契約数(万)

▲ヨーロッパ

★(伊)Telepi ゙ u Setelite [1] Telepi ゙ u [2] 7(+PPV×9)

[3] 1996. 1 [4] ―― ★(仏)Canal Setelite Numerique

[1] Canal Plus

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[2] 30(+PPV×9)

[3] 1996. 4

[4] 22 ★(独)DF1

[1] Kirch [2] 24 [3] 1996. 7

[4] 2 ★(オランダ)NetHold<ベネルックス向け・同北欧向け>

[1] NetHold [2] 27 [3] 1996. 7

[4] ―― ★(仏)TPS [1] TFI,公共フランステレビほか

[2] 24 [3] 1996.12 [4] 3.4

★(仏)AB Sat

[1] AB Productions [2] 18 [3] 1996.12

[4] ――

▲北米

★Primestar [1] TCI ほか

[2] 95 [3] 1994. 4

[4] 125 ★Direc Tv

[1] Hughs [2] 175 [3] 1994. 6

[4] 200 ★USSB

[1] Hubbard Broadcasting

[2] 20 [3] 1994. 6

[4] 80

★DISH

[1] Echostar [2] 80以上 [3] 1996. 3

[4] 20 ★Alphastar

[1] Alphastar

[2] 120 [3] 1996. 7 [4] 1.2

▲中南米 ★Galaxy Latin America

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[1] Direc Tv International ほか

[2] 50以上 [3] 1996. 7

[4] ―― ★Sky Latin America

[1] News Corp., Globo,Televisa

[2] 60 [3] 1996.10

[4] ―― ▲アジア ★(香港)Star TV

[1] Star TV [2] 5 [3] 1996. 4

[4] ―― ★(マレーシア)Astro Digital

[1] Measat Networp Systems [2] 23 [3] 1996.10 [4] 3.5 ★(日本)パーフェク TV

[1] 日本デジタル放送サービス

[2] 70 [3] 1996.10 [4] 17.8

(資料2)CA方式

※方式または受信者端末・【開発主体(所属メディア企業グループ)】 VideoCrypt・【News Datacom(ニューズ・コープ)】

d-box・【Irdeto(NetHold)/Betatechnik(キルヒ)】 Mediabox / Medeiaguard・【SECA(ペルテルスマン/カナルプラス)】 Viaccess・【フランス・テレコム】

Nagravision・【Nagra-Kudelski(カナルプラス)】 Digicipher・【General Instrument】

(資料3)Video Crypt方式によるデジタル衛星放送 ※サービス名 [事業者・開始時期]

DirecTv / USSB [DirecTv / USSB(米)・1994. 6] Star TV [Star TV(香港)・1996. 4]

GLA(Galaxy Latin America) [GLA(米ほか)・1996. 6] Astro Digital [Measat(マレーシア)・1996.10] Sky Latin America [Sky Latin America(国際コンソーシアム)・1996.10]

ディレク TVジャパン [ディレク TVジャパン・1997予定] J Sky B [BskyBほか・1997予定]

B Sky B Digital [B sky B (英)・1997秋予定]

●ITビジョン(アイティービジョン)〔1998年版 放送・映像〕 わが国初の双方向テレビ放送であり、一九九六(平成八)年一○月テレビ東京で放送開始した。テレビ視聴者を対象とした簡単な操作性と、番組に連動したサ

ービスを行えることを特徴としている。

放送局からのテレビ番組を、映像信号のすき間を使って受像機に送り、受像機では送られてきた番組を内蔵されたマイコンでグラフィカルに画面に表示する。

さらに受像機にはモデムを内蔵しており、視聴者がリモコンで選択したデータは電話回線を通じてサーバー会社に自動的に送られ、応答サーバーで情報が処

理・加工され、その結果を放送局やその他情報提供者にフィードバックする。ITビジョンは放送電波と電話回線による双方向システムの他に、電話回線のみ

を利用した双方向システム(オンラインITサービス)もあり、すでに多くのサービスが実現されている。サービスの主なものは基本的に三つ。(1)は番組

Page 41: 情報産業 1998 - pds15.egloos.compds15.egloos.com/pds/200911/25/34/media1998.pdfサービス、商取引、決済と利用方法も拡大した。 ... などさまざまな課題を背負って二一世紀に向かうことになる。

に関する情報を見たり、電話回線を使って番組に参加できる「連動ITサービス」、(2)テレビ番組とは独立した情報やクイズなどをサービスする「独立IT

サービス」、(3)電話回線だけを使って情報を得る「オンラインITサービス」である。 ●国会中継専用テレビ〔1998年版 放送・映像〕 CS(通信衛星)やCATVを媒体として、本会議や各種委員会審議の模様を各家庭に伝えるテレビ。最初から最後まで、無編集、ノーカット、コメントなし

で、原則として発言者だけを映す。現在、開局準備が進められている段階。この国会テレビの構想は、リクルート事件後の政治改革論議を進める中で、自民党

から提案があり、一九九一(平成三)年三月、各党の賛成を得て、衆議院に「国会審議テレビ中継に関する小委員会」が設けられた。また、参議院でも議院運

営委員会を中心に、時期を同じくして調査会がスタートした。九三年には、日本でのC‐SPAN(アメリカの議会中継専門テレビ局)の配給会社「C‐NE

T」の田中良紀社長が、「国会TVを実現し、二一世紀型国会をつくる会」を発足させ、国会テレビの推進にあたった。 九七年、民間の政治改革推進協議会(民間政治臨調)が財界などの出資で株式会社設立案をまとめたが、参院の同意を得られず、宙に浮いた。九七年、国会テ

レビ衆院案は、(1)衆院の審議映像を既存・新規の放送局にすべて無償で提供する、(2)そのうえで衆院が独自に通信衛星一チャンネルを確保して衆院のす

べての審議を生放送と録画で中継放送する、(3)必要な経費を来年度予算請求に盛り込み、放送法改正案などを次期通常国会に提出して九八年度を目途に放

送を開始する、が柱になる。衆院が国会テレビの重要性を踏まえ、衆院の責任で中継放送する直営方式を決断したのは画期的であり、ノーカット、無編集であ

るが、形式的には国営放送で、年間経費が一億円程度必要とされる。しかし参院の対応は鈍く、熱意はうかがえない。

●コミュニティ放送〔1998年版 放送・映像〕 通常のFMより出力の小さいFM放送局。従来の県域単位のラジオではカバーできない地域情報の提供を通じて、地域の活性化を図るねらいで、一九九二(平

成四)年に制度化された。コミュニティ放送は一地域一局に制限されていたが、九四年五月に複数設置が認められたり、当初出力は一ワットと制限されていた

が、それではカバーできる地域が狭いため、九五年三月に出力の上限が一ワットから一○ワットに引き上げられたり、といった規制緩和がなされた。九二年一

二月に北海道函館市の「FMいるか」が開局して以来、コミュニティ放送局は増え続け、九七年六月現在、全国で七三局になった。

▽執筆者〔1998年版 広告宣伝〕 小林太三郎(こばやし・たさぶろう) 早稲田大学名誉教授/埼玉女子短期大学学長

1923年群馬県生まれ。早大文学部卒,同大大学院修了。日本学術会議会員,日本広告学会会長。商学博士。著書は「広告管理の理論と実際」「現代広告

入門」「広告」「産業広告」「広告のチェックリスト」「広告宣伝」「生きる広告」ほか。

◎解説の角度〔1998年版 広告宣伝〕 ●わが国の一九九六年の総広告費は五兆七六九九億円で前年比一○六・三%、前年から増加傾向が続き、年間通して好調に推移した。日本経済の景気回復基調、

企業業績の改善、情報・通信分野の市場拡大、自動車業界の積極的な販促運動のほか、景品規制緩和、衆議院選挙、消費税率引き上げ前の駆け込み需要、新会

社発足などがプラス要因となって、広告活動が広範囲で活発に。テレビ広告の活況が牽引し、マスコミ各媒体が前年より高い伸び。「情報・通信」(電話、パソ

コン)、「自動車・関連品」をはじめ、多くの業種で広告費が大幅な伸び。

●すべての媒体で前年に引き続き広告費が増加。テレビが活況持続、SP広告は前年並みの伸び。新聞(前年比一○六・二%) ―― 年間通して好調に増加。

自動車の広告増加で、地方紙が中央紙よりやや高い伸び。雑誌(前年比一○八・八%) ―― 前年をさらに上回る高い伸び。創刊活動が活発で、女性誌、パ

ソコン誌が拡大。ラジオ(前年比一○四・八%) ―― 前年の伸びを上回った。FMが引き続き好調。テレビ(前年比一○九・二%) ―― スポットが活

況持続。規制緩和の進展、消費税増税前の駆け込み需要などがプラス要因。SP(前年比一○三・五%) ―― 前年(前年比一○三・六%)並みの伸び。「D

M」「折込」が引き続き好調。全般に年の後半に鈍化。ニューメディア(前年比一一○・一%) ―― ケーブルテレビの伸展で二年連続二けたの伸び。

●九七年におけるわが国主要広告主二一五社の広告関連重要課題は、一位・販売部門の連携と実施の強化、二位・ブランド広告の戦略的効率運用、三位・総合

的企業イメージの強化確立、以下、トータルな広告宣伝予算の効率化、マーケティング連動の体制づくり、トップの明確な意志疎通強化、効果測定と評価シス

テムの検討、広告会社等との連携強化と活用、全社的広報機能への参画と遂行、の順である。 ★1998年のキーワード〔1998年版 広告宣伝〕

★バナー広告(banner, banner advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 広告界で使われるバナー広告には、POP広告分野のプラスチックや紙や布製で作られた長方形、三角形、半円形の旗広告と、インターネット広告の分野のバ

ナー広告、つまり他社のホームページにメッセージ・写真・イラストなどを入れ込んだ帯状のバナーメッセージ広告の二種類である。また、ジャーナリズムの

第一面の全段抜き大見出し(〔banner〕line, screamer, streamer)としてこの用語が用いられることもある。インターネット広告の一種としてのバナー広告の効果は、インプレッション効果とレスポンス効果の二つが考えられる。前者はバナーの露出効果であり、バナー広告のスペースは極めて限られているので、動

画の利用は露出を刺激する力がある。後者の効果はバナーを見てユーザーがクリックする結果の成果を意味する。広告主サイドへのアクセス数がこの効果を示

すものである。トヨタ自動車は一九九六(平成八)年一二月発売の新型乗用車「カムリグラシア」で、インターネット広告を展開したことがある。一二月中は

インターネットと一部の雑誌だけで広告。バナー立ち上げ一カ月で約一七○件の購入検討の問い合わせ(セールス・リード)があったようだ。バナー広告のイ

ンパクトの増大策、その技法、管理方法などの研究がこれからは次第に高まるようになるのは必至。なお、バナー広告の認知度について一言。情報通信総合研

究所(東京)が、九六年一○月‐一二月五日まで、研究所のホームページで調査したところによると、約一四○○名のインターネット利用者の回答(広告掲載

のページがあることを知っているか、見たことがあるかに対し)は知っていると見たことがあるがそれぞれ九割以上、しかし実際にクリックし内容を見る人は

四割程度のようである。

★MCR(Media Contact Report)〔1998年版 広告宣伝〕 メディア・コンタクト・レポートはビデオ・リサーチ社が開発したもの。従来四年毎に実施してきた「生活時間調査」をリニューアル、「メディア・コンタク

ト・レポート」と名称を変更し、一九九七(平成九)年二月からこの調査を実施中である。調査設計/東京駅を中心とした半径三○キロメートル圏、調査対象

/満一○‐六九歳の男女個人、標本抽出/住民基本台帳より無作為二段抽出法、指令サンプルは二六○○標本、調査方法/配布回収法、報告書仕様〈調査結果

要約〉一日二四時間の使い方(生活時間量)、曜日時間帯別起床在宅率の変化、普段の生活時間、メディア到達率〈生活行動実態数表編〉自宅内・自宅外の毎

一五分生活行動、それらの毎六○分生活行動、生活行動一日当たりの消費時間(全体、性・年齢・職業別)、毎一五分起床在宅率(上項目と同じ)、毎一五分起

床在宅者構成割合(上項目と同じ)〈生活行動意識・実態数表編〉普段の生活行動習慣、自由時間の過ごし方、生活時間変化、メディア別情報源に対する評価、

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メディア別接触状況、閲読新聞、閲読雑誌などが扱われている。現代人のメディア接触状況と生活行動の関係、新しい通信メディアは消費者にどう受け入れら

れ、今後どのように浸透していくか、PM(ピープルメーター)視聴率を補強するデータの必要性などに答えるレポートといえよう。 ★CM放送確認〔1998年版 広告宣伝〕 一九九六(平成八)年には地方放送局のテレビCM未放送問題が発生した。某放送局の未放送問題調査委員会は、七月に中間報告書をまとめ、九六年六月‐九

七年六月の未放送本数は東京・大阪扱いで合計一八一社、二五六九本であると発表。この原因は、(1)仮押さえの時間取り機能を利用して放送通知書をスポ

ンサーに送付、代金を請求していた、(2)集中する時間枠からスポットCMがあふれる状況が続いたが、現場担当者は東京支社、本社編成部との連絡・調整

を怠った、(3)管理者のチェック機能が働かなかった、(4)九五年秋の未放送の際、内部処理で済ませたため、再発防止策の確立機会を逸したのが原因のよ

うである。広告会社、放送会社、日本広告業協会、民間放送連盟、その他の関係諸機関も、その対応・再発防止に努めているが、CM放送確認の制度の確立と

実施化は、広告産業界発展にとって急務なので、これからの対処が注目されているのが現況。

★個人情報誌〔1998年版 広告宣伝〕 一九九六(平成八)年から続いているものに、例えば「ベル友募集」「エアマックス中古買う」「合コンしよう」などの広告件数がかなり掲載されている個人情

報誌が目につくようになった。この個人情報誌はタウン誌などの巻末にあった「友達募集」などの読者コーナーだけが、一冊になったといったような雑誌とい

えよう。売買と出会いが大きな内容分野になっている。個人情報誌は九六年から九七年にかけて発行されたものが多い。発行は月刊か月二回のものが目立つ。

発行部数(サーキュレーション)は二万‐二○万部のようである。リクルートフロムエー(本社東京)は九七年に入って「じゃマール」の東海、九 州、関西、

北海道の各版を創刊している。各版の情報は一五○○件‐七○○○件程度。他にも地域限定個人情報誌がみられる(例/札幌中心の「みるザス」誌)。個人情

報誌の利用者は自分の情報が外部でどう使われるか十分注意することが肝心。一般的に編集側は利用者の本人責任を強調している。

★音の出るポスター〔1998年版 広告宣伝〕 ポスターの前を人が通ると、オーディエンスをセンサーがキャッチし、音声メッセージが流れるという仕組みのポスターがこれである。都選管が一九九七(平

成九)年の都議選から使い始めたもので、選挙管理委員会は各市町村に声の出るポスターを一台ずつ配布し、選挙関心を高めるためこのポスターを利用し始め

た。都選管が作製した声の出るポスターのメッセージは「(飯島直子のイラストを配した)みんなで行こうね!七月六日東京都議会議員選挙」で、視覚プラス

聴覚効果をねらっているのが話題となった。

★屋外広告の広告塔〔1998年版 広告宣伝〕 ターゲットへの広告露出効果を一層ねらい、リレーションシップ・マーケティング(例/スポンサーになっていることをターゲットにした訴え、好意・友好関

係を創成すこと)に配慮し、かつ企業の流する全広告コミュニケーション、トータル・マーケティング・コミュニケーションの統合化をねらうために、広告主

が“広告塔”をうまく使い込むようになってきたことは最近の目立った傾向である。アメリカでのボストン・マラソンで優勝したファツマ・ロバ(エチオピア)

の胸にはナイキ・マークが光っていた。六位の浅利純子(ダイハツ)の足にはミズノのシューズが。有力選手を自社の広告塔にするスポーツ用品メーカーの動

きをご覧いただきたい。日本国内のマラソンのテレビ中継の視聴率は一般に高い。マークをつけた有名選手が二時間以上も走ることは、広告露出、ブランドや

企業名知覚化などにとり、極めて有効である。広告塔の効果・効率的利用(広告塔管理)はこれからますます注目されるようになるだろう。

▲広告の機能と広告環境〔1998年版 広告宣伝〕 ◆広告の差別化〔1998年版 広告宣伝〕

広告表現の差別化、広告による商品の差別化などと同義で、広告表現面での差づくりを意味する。広告表現面で、他社のものと差をつけ、より効果・効率的な、

強力な市場インパクトをねらおうと、広告主側が強く心掛けているのが現況といえよう。表現方法の一つとして奇抜とか珍奇な広告コミュニケーションを効果

的にする一つの要因だが、所定の広告メッセージ目標の遂行にこれが同調していなければもとより意味はない。

◆リセッション広告(recession advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 リセッション(景気後退)を全面的または部分的に扱った広告である。大別して扱い方に二つの流れがみられよう。(1)ウォール・ストリート・ジャーナル

が行った広告、たとえば、リセッションのとき広告出稿を減退すると景気がよくなる時には企業の伸長とか上昇の時期が遅れるようになるなど、これまでの調

査・観察資料を踏まえて、リセッション時には広告の出稿が戦略的に大切だとアピールする広告、(2)リセッションを逆に利用し、「ダウンした市場にいかに

入り込むか、その方法を教えます」からリード文が始まる新聞広告の対住宅購買助言広告が一例となる。 ◆おとり広告〔1998年版 広告宣伝〕 広告である一部商品価格が非常に安い旨を強調する場合、広告主にその商品を売る意思がなく、店に誘導した消費者に他のより高い商品や広告主にとってより

有利な商品を買わせようと意図しているときは、その広告はおとり広告として広告規制の対象となる。一九八二(昭和五七)年六月公正取引委員会は景品表示

法四条三号の規制により、「おとり広告に関する表示」を不当表示として規定、同年一二月から施行されたが、広告に掲載された商品やサービスが「実際に取

引することができないもの」とか「取引の対象となり得ないもの」である場合に、その広告が「おとり広告」と規定された。しかし、九三年四月二八日に「お

とり広告に関する表示」は以下のように変更され、九三年五月から施行されている。 ●おとり広告に関する表示

[1993(平成5)年4月 28日、公正取引委員会告示第 17号] 一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引す

る手段として行う次の各号の一に掲げる表示

1 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は

役務についての表示 2 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務に

ついての表示 3 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客の一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記

載されていない場合のその商品又は役務のついての表示 4 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその

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商品又は役務についての表示

◆新オープン懸賞(new open sweepstake)〔1998年版 広告宣伝〕 オープン懸賞とは懸賞によって一般消費者に賞品・賞金などを提供するもので、その告知を主に広告を通じて行う場合をいう。いかなる場合でも取引に付随し

ないことを条件とする。「取引に付随しない」とは、「商品を買わなければならないというものでない」の意。また買うことにつながる可能性がある場合は、取

引に付随するとみなされるので注意が必要(商品の容器や包装に問題を表示すること、容器や包装に示されている文字・模様などを模写したものを掲示させる

こと、容器・包装に問題の答・ヒントが書いてあって、買うことで回答を容易にすること、小売店舗に応募用紙・応募箱を置くこと、小売店に行かないと応募

内容が明らかでないこと、などがないようにすること)。 一般業種オープン懸賞の制限内容は一○○万円以内(総額制限なし)であったが、公正取引委員会は一九九五(平成七)年六月末に公表した景品表示法の運用

基準を緩和するための改正案につき各方面から意見を聴取検討後、オープン懸賞の上限を一○○○万円に引き上げる、商品購入者・小売店の入店者全員にもれ

なく景品類を提供する総付け景品の最高額五万円の上限枠を撤廃する、百貨店やスーパーでの景品付き販売を解禁する、などと改正した。以上は、思いきった

規制緩和策で、競争政策のいっそうの推進として注目される。

◆ブランド資産評価(brand asset valuator)〔1998年版 広告宣伝〕 アメリカの大手広告会社(ヤング・アンド・ルビカム社)が開発したブランド資産評価(システム)。ブランドがどのような過程で構築され、知覚・評価され

るかを調査し、ブランドの力、潜在力を測定するシステムである。全世界を通じ、三万人の消費者、六○○○種のブランド(グローバル・ブランド四五○種類

が含まれる)を対象に、なぜあるブランドが成功・失敗したかについて、ブランド構築プロセスの中から差別(differentiation)、関連(relevance)、尊重(esteem)、親密(familiality)の四要因の視点から調査分析する。この成果は、得意先の広告主を担当するブランド・マネジャー、クリエイターなどに、広告戦略・戦術

面での開発に利用されている。同社によれば、ブランド構築と商品が売れるプロセスは異なるようである。 ◆日本広告審査機構(日広審JARO)(Japan Advertising Review Organization)〔1998年版 広告宣伝〕

広告主、媒体、広告代理業を主体とする会員から構成されている広告の審査機関で、広告問題の審査、処理にあたる部門と、この機構の運営にあたる二つの部

門からなっている。その事業内容は次のとおりである。(1)広告、表示に関する問い合わせの受付、処理、(2)広告、表示に関する審査、指導、(3)広告、

表示に関する諸基準の作成、(4)広告主、媒体、広告代理業の自主規制機構との連携、協力、(5)消費者団体、関係官庁との連絡、協調、(6)企業、消費

者に対する教育、PR活動、(7)情報センター機能の確立、(8)その他、目的達成のための必要事項、などである。一九七四(昭和四九)年一○月から業務

を開始したが、その審査、処理部門には関係団体協議会、業務委員会、審査委員会をおき、諸々の問い合わせの審議と処理に当たる。審査委員会の裁定の結果、

広告主側に非ありとすれば、広告主に広告の修正・停止を求める。広告主がこれに従わない場合、この委員会は公表、媒体各社に広告掲載の差止め処理ができ

る。事務局は問い合わせの窓口となり、可能な範囲で処理することとなっている。

◆公共広告機構(Public Service Advertising Organization)〔1998年版 広告宣伝〕 一九七一(昭和四六)年、関西に発足し、現在では東京にも本部を構える、公共広告を推進する非営利団体である。アメリカには、広告協議会(AC Advertising Council)があって、小児マヒ、町の清潔、山火事、汚染防止などをテーマにした公共広告を展開してきたが、これをお手本にした機関が公共広告機構といえ

る。機構の会員となった企業から資金を、媒体側から割安な紙面や時間を提供してもらい、資源、食糧、福祉、身体障害者、留学生の扱い、道徳、その他をテ

ーマにした広告を行ってきている。九二年五月発行の、(1)公共広告機構二○年史、(2)七二年‐九一年までのキャンペーン作品集は機構を知るうえで大い

に役立とう。 ◆国際広告のエージェンシー・ネットワーク(agency network of international advrertising)〔1998年版 広告宣伝〕 エージェンシー・ネットワークは、競合的でない、経営規模もだいたい類似したいくつかの広告会社が、参加広告会社相互間でのアイディア交換、必要情報の

収集・提供、広告・マーケティング・サービスの提供などを通じ、相互の利益をたかめるためにつくられるエージェンシーのグループで、これは国内的と国際

的のネットワークに区分される。このエージェンシー・ネットワークは一九二○年代にアメリカに登場した。リン・エリス・グループが二九年に発足、これが

最初のエージェンシー・ネットワークとなったのである。中堅広告会社がエージェンシー・ネットワークに参加するケースが一般的である。広告会社の多くは、

グローバル・コミュニケーション時代、広告会社のサービスの国際化に対応するため、国際広告のネットワーク問題に関心を強めている。

▲広告業界〔1998年版 広告宣伝〕 ◆クリエイティブ・エージェンシー(creative agency)〔1998年版 広告宣伝〕 広告代理業の一種であるが、おもに広告のクリエイティブ・サービス(広告制作サービス)を、広告主に対して提供する代理業である。アメリカでは発達して

いる。マーケティング・サービス、市場調査、広告効果測定、その他の総合広告代理業が提供しているようなサービスは、できる限り外部の専門機関を利用し

てこれらの面を適当に処理しつつ、ユニークな広告クリエイティビティ面に主力をおく代理業といえる。

◆ハウス・エージェンシー(house agency; inhouse agency)〔1998年版 広告宣伝〕 広告代理業の特殊なタイプで一般に、特定の広告主によって、財務的に管理、所有されている広告代理業をさす。広告主からみれば、自社だけの専属代理業と

いったものになる。広告主専属広告会社または代理業ともよばれている。大規模広告主の場合には、広告予算がきわめて大であるので、これを使うと媒体手数

料が回収でき、経済的であると同時に、企業機密を保持することができるといった長所はあるが、独立の広告代理業のもつ客観性、広告表現の創造性、媒体支

配力(または共生力)、豊富な広告知識と広告経験、バイタリティ、機動力といったものに欠けるおそれがある。とくにクリエイティビティのマンネリ化を防

ぐのがむずかしくなる。この種のエージェンシーは現在販売促進の分野で利用されているのが目につく。 ◆広告ネット(advertising network)〔1998年版 広告宣伝〕

たとえば、ある親会社(広告会社)がその傘下各広告会社ネットワーク内の特定部門を統合し、その特定領域を表示したグローバル・ネットワークのことを「広

告ネット」とよぶ。この好例はS&S(サーチ&サーチ)で、傘下各会社ネットワーク内のヘルスケア部門を統合、グローバル・ヘルスケア広告ネットワーク

「ヘルスコム」という機関を創設した。大型広告会社のグローバル・サービス提供の戦略的提供方法として関心を集めている。

◆ビリング(billing)〔1998年版 広告宣伝〕 広告代理業が取引先の広告主(クライアント〈client〉、またはアカウント〈account〉ともよばれる。なお、一般によく使われているスポンサー〈sponsor〉は、

ラジオとかテレビの広告主を意味するもので、印刷媒体には適用されない)に請求する媒体料金に、広告スペースやタイムの購入以外の代理業が提供するサー

ビスの代金の合計がビリングになる。これは広告代理業の「取扱い高」ともいわれている。広告会社が広告主に請求する金額のこと。

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◆プレゼンテーション(presentation)〔1998年版 広告宣伝〕

広告代理業が、見込み広告主および取引中の広告主などを対象にして提出する広告キャンペーン計画書をふくむ提示・説明活動をいう。もっとも広告代理業が

これまで取引してきた広告主に対して、取引継続のために提出する広告計画書の提示説明活動を、レコメンデーション(recommendation)と区別してよぶこともある。プレゼンテーションとは、一般的に広告代理業が広告主を対象にして行う場合が多いが、また媒体社がタイム・スペース販売のために広告代理業ま

たは広告主に対してあるいは独立制作プロダクションが広告代理業、媒体社、広告主に対して行う特定キャンペーンに関するクリエイティブ企画、特定問題に

対する一連の解決策の提示説明、などをさしていう場合もある。

◆VPコーディネーター(visual presentation coordinator)〔1998年版 広告宣伝〕 デパートなどでの、消費者に伝えるメッセージの視覚的伝達がビジュアル・プレゼンテーションである。VPコーディネーターは、商品を陳列するデコレータ

ー、照明をデザインする照明デザイナーではなく、視覚面のプレゼンテーションのアイディア、プランをあつかい、その領域に関係する人々をまとめあげる人

である。 ▲広告計画・広告管理とその周辺〔1998年版 広告宣伝〕

◆パブリック・リレーションズ(PR)(public relations)〔1998年版 広告宣伝〕 個人または組織体が、相手の意見とか態度を好ましい方向に指向する際にみられるもので、「個人ないし組織体で持続的または、長期的な基礎に立って、自身

に対して公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動」と定義されている。企業に例をとれば、一般大衆、消費者、従業員(その家族とか関係筋)、販売業者、

資材仕入先の関係業者、株主、債権者、銀行などの金融関係、政府諸機関、教育機関、その他のグループなどがPR活動の対象となりうる。活動に際しては、

(1)各関係グループの意見、または態度調査を行う、(2)好ましくないと思われている面を是正し、好ましいと思われている面をいっそう助長するような

考え方がなされていなければならない。PR活動の種類にはいろいろ含まれるが、パブリシティ、MPRおよびCPRもPRの一部である。 ◆MPR/CPR(Marketing PR / Corporate PR)〔1998年版 広告宣伝〕

トータル・マーケティング連動と企業コミュニケーション連動の点から最近注目されているものに、これらに結びつくPR(MPRとCPR)問題がある。M

PRは、マーケティング・パブリック・リレーションズの略語。一部の研究者の間には「MPRは、信頼できる情報の伝達と、企業とその商品は消費者のニー

ズ・欲求・関心・利益などに直結しているという印象を通して、買い手の購買と満足を促進するプログラムの計画・実施・評価のプロセスである」といった見

方もある(トーマス・L・ハリス「マーケターのPRガイド」一九九一)。MPRは、マーケティング戦略・戦術に連動するマーケティング関連のPRである。

MPRはマーケティング・マネジメントの一機能であり、この使命はマネジメント目標の遂行に役立つことにある。

これに対し、CPR(コーポレート・パブリック・リレーションズ)は企業目標の遂行面でサポートするもので、コーポレート・マネジメントの一機能となる。

PRは、もともと個人ないし組織体が、持続的・長期的な基礎にたって、自身に対しての公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動である。この場合、その対

象には、地域社会、顧客・消費者(産業用品のユーザーを含む)、従業員、金融機関、原料仕入先、流通関係、政府・公共機関、教育機関、調査機関、媒体関

係機関、その他のグループが考えられる。 ◆コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)〔1998年版 広告宣伝〕

これは次のように解される。(1)PRと同意語、(2)PRとコーポレート・アイデンティティ(CI)を含む用語、(3)企業または機関とか組織体の各部

門、段階のコミュニケーションを統合する統一的コミュニケーション活動。アメリカのある企業はコーポレート・コミュニケーションの中に、(1)プレス関

係、社内コミュニケーション、(2)エディトリアル・サービス(講演、文献・資料提供、投資家関係など)、(3)パブリック・アフェアー(政府関係、地域

社会関係、消費者関係、慈善活動関係など)、(4)広告などを含ませているが、これは広義的なものとみてよい。アメリカのPR・コンサルタントの一部は「コ

ーポレート・コミュニケーションズ」という言葉をPRの代わりに使っている。

◆スタンバイ・コミュニケーション(standby communications)〔1998年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションの「スタンバイ」は「緊急時用に用意されている」「いざというときに頼りになる」「待機している…」などを意味する。この

用意されている、“いざ鎌倉”時を待っている、コミュニケーションのことが、スタンバイ・コミュニケーションである。この緊急時の「思いがけないたいへ

んな不幸」がディザスター(disaster)と呼ばれ、このディザスターの抑制がディザスター・コンテインメント(disaster containment)と呼称されている。

不慮の出来事をうまく抑える計画が、広告とかPRの世界では「ディザスター・コンテインメント・プラン」(災難抑制計画)といわれるところのものである。 この災難抑制のために用意するコミュニケーションが、企業にとってますます大切となるのは必至。コーポレート・コミュニケーション、PR、企業広告視点

などから、その重要性はいっそう増すことになろう。

◆クライシス・コミュニケーション(crisis communications)〔1998年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションは緊急事態に対応するメッセージであるので、クライシス・コミュニケーションとも呼ばれる。ジャーナリスト高雄宏政氏は、

緊急事態を、アクシデント(災害、事故、事件)、企業内不祥事(反社会的行為、経営危機、企業機密の漏洩)、企業・業界問題(企業・業界への告発、誤報、

誹謗中傷)の三つに区分している。 ◆メディア・ミックス(media mix)〔1998年版 広告宣伝〕

広告媒体、つまり新聞、雑誌、ラジオ、テレビはじめ屋外広告媒体、交通広告媒体、ダイレクト・メール、劇場媒体(または映画広告媒体)、POP広告、新

聞折込広告、その他の広告媒体などを組み合わせることをいう。メディア・ミックスは広告媒体戦略に関するもので、広告主(企業側)にとって所定の広告メ

ッセージを見込市場に効率的に伝達するためにはこれがどうしても必要になる。 ◆広告質(quality of advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

最近、テレビの視聴質が話題となっているが、広告質は広告の一面をあらわすもの。現在、わが国の広告産業界で云々されている広告「質」問題はおよその次

のとおり。(1)新聞媒体の質=新聞広告の注目率(媒体サーキュレーション~媒体到達率~広告(物)露出・注目率関係視点からの)、クーポン広告の新聞媒

体・広告の活性化問題など、(2)テレビ媒体の質=視聴質【ピープルメーター方式やフルパッシブメーター方式によるテレビの視聴】、電波料金の考え方・扱

い方、CM著作権への対応など、(3)雑誌媒体の質=雑誌発行・販売部数のいっそうの明確化による雑誌媒体・広告質の向上。 ◆流通広告(trade advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

チャンネル広告ともよばれている。これは消費者用品、または産業用品メーカーや卸商などが、小売業者を対象にして、当該商品のストックと売上げ増進をめ

ざして行う広告。つまり、流通経路上の販売機関を対象にする広告。流通広告には主としてDM広告と業界紙・誌が用いられるが、ときに業界紙・誌の代わり

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として一般紙・誌が用いられることもある。

◆意見広告(opinion advertising; issue advertising; advocacy advertising; protest advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 個人ならびに組織体が特定の重要な事柄についてそれぞれの意見を陳述する広告が意見広告である。わが国のある新聞社は、これについて「(1)表現が妥当

なものは掲載する。ただしその意見について署名者が責任をもち得ないと判断されるものは掲載しない。(2)広告および広告の機能を否定するものは掲載し

ない。(3)紛争中の意見は公共性が高いもので表現の妥当なものに限り掲載する。ただし裁判中の関係当事者の意見は原則として判決確定前は掲載しない。(4)

個人の意見広告は内容、肩書きを問わず掲載しない」と広告掲載基準で規定している。

◆アドボカシ広告(advocacy advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 企業と消費者間の信頼関係を回復しようとする広告。企業の動き、実態を知らせて、特定の企業活動とか利潤獲得がいかに適正であるかを理解させ、その企業

を支持させ支援を求めるための広告である。定訳はないがいまのところ擁護広告、または主張広告といえよう。これまでの企業広告とは広告姿勢がいささか異

なる。わが国でもこの種の広告は次第に考えられるようになるだろう。

◆タイ・アップ広告/タイ・イン広告(tie-up ad./tie-in ad.)〔1998年版 広告宣伝〕 ある広告主が同業者とか関連産業界の諸企業または商店街の諸企業などとタイ・アップする広告(水平的共同広告)、さらには広告主が自社の流通経路(たと

えば販売店など)と共同して行う広告(垂直的共同広告)をタイ・アップ広告、タイ・イン広告、ジョイント広告、または共同広告という。 ◆リスポンス広告(response advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 広告の受け手から反応を直接得ることを目的とした広告を意味する。この目的に基づいたダイレクト・メール、通信販売用の広告などがその一例である。最近

は新聞、雑誌、新聞折込、ラジオ、テレビなどにもこの広告が掲載または流されるようになった。別名としてダイレクト・リスポンス広告、リザルト広告、直

接反応広告などがある。

◆カギつき広告(keyed advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 「カギ」(key)とは、広告でクーポンの返送をねらうとか、カタログ、サンプルなどを請求させる場合に、どの媒体、あるいは、どのコピーをみてそうしたのかを確認するための符号である。カギつき広告の使用目的は、(1)媒体価値測定、(2)コピー測定、(3)新製品の興味測定などで、一般には媒体価値測定

に使用されることが多い。つまり、新聞ごと雑誌ごとに送り先の番地や係名を変えたり、購読紙・誌を書かせたりして、回答を分析できるようにする。また、

このカギを各広告コピーごとに変えるようにするとコピーの評価もできる。これは、スプリットラン・テスト(splitrun test 分割掲載法)で、よくみられる

ものである。 ◆ティーザー広告(teaser advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

広告キャンペーンの際、とくにその冒頭で「何の広告だろうか?」という疑問を消費者に抱かせることで、それらへの注意と関心を集めるために商品名とか広

告主などを判別できるようなメッセージを用いず、回を追って徐々にその商品名、広告主名を明らかにしていくか、あるいはある一定時点でそのベールを一挙

に脱ぐかのいずれかの方法により、その注意と関心の高まりはいうまでもなく、さらにこれらを確信・購買の段階へまで押し上げようとする広告のテクニック

を意味する。印刷広告の場合は、シリーズ形式の広告をこのために用いる。覆面広告はこの別名である。一九九六(平成八)年三月、「dos」という三人グループが初のシングルCDを出し、いきなり売り上げチャート上位に昇ったことがある。ポップス音楽界の小室氏は、九六年初めから意図的に三人グループのテレ

ビ露出を控え、デビューまでの過程をうまく小出しにし、オーディエンスの関心を持続するティーザー効果的なものをねらい、結果的にはヒットチャートの上

位にならせたことがある。 ◆マルティプル・ページ広告(multiple pages advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

マルティプル広告ともいわれ多ページ広告、すなわち雑誌広告でいえば、たとえば、八ページ、一○ページというように数ページ構成の広告を意味する。 ◆イン・フロア広告(in-floor advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

小売店のフロア・スペースを使用したPOP広告で、ダラスのインドア・メディア・グループ社で開発したもの。二フィート×二フィート、二フィート×四フ

ィートの四色刷広告パネルが床スペースに埋め込まれたもので、表面は透明で丈夫なポリカーボネート製タイルでカバーされており、パネルの変換は簡単。イ

ン・ストアの戦略的な場に置けるから効果も大きい。この広告の媒体料金はマーケットごとに店舗数と各店の買物客取引回数に基づいて体系づけられ、一年が

四サイクルに区分され、一二週間で一サイクルというプログラム単位で契約が行われている。

◆インターネット広告(internet advertising, advertising on the internet)〔1998年版 広告宣伝〕 インターネットはインターネット上で広告を展開する媒体。この媒体を利用する広告がインターネット広告である。これには各種の広告があり、よく知られて

いるものにバナー広告がある。新聞社をはじめとしたマスメディアが運営するホームページはアクセス数が多く、媒体価値が高く、バナー(見出し広告)が流

され広告媒体化している。このマスメディア形以外に、検索サービス系ブラウザー(インターネットをみるためのソフト)系ホームページなども広告媒体化の

点で注目されている。

インターネット広告には、Yahoo!Japanという人気サイトに、縦三センチ×横一五センチのカラーの動画広告を掲出し、そこをクリックすると広告主のサブサイトにジャンプするという仕組みのバナー広告、登録されたユーザーのメールボックスに電子メールでニュースを配信する電子メール利用のメディアがある

が、これもインターネットの一つ。DMタイプのインターネット広告とでもいえよう。パソコンのスクリーンセーバー画面にインターネット経由で定期的に広

告を配信するスクリーンセーバー広告もある。なお、ユーザーにインターネット接続料金の割引を与え会員になってもらい、その会員に広告を配信するときに

会員制メディア広告が登場するというもの。 参考までに、一九九六年九月‐一二月に全米広告主協会会員社を対象にしたこの協会の調査によると、インターネット広告費の経費は、回答社の五六%は媒体

予算から、五四%はマーケティング/ブランド予算、一○%はプロモーション予算から投入するとのこと。またウェブサイトで広告を売る会社は六%、してい

ない八八%、していないが計画しているかについては、計画なし二六%、計画あり一○%(内七%は三‐六月未満のうちに計画中)、不明四八%、無回答一七%。

またウェブ広告に関して重大な問題は、ROI六五%、媒体測定四八%、他媒体との比較媒体測定四六%、インターネットでの広告技術法知識欠如一○%、(以

下略)とも回答している(全米広告主協会「ウェブサイト管理&インターネット広告傾向」調査、九七年四月発行より)。 ▲広告媒体と広告表現〔1998年版 広告宣伝〕

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◆インタラクティブ・メディア(interactive media)〔1998年版 広告宣伝〕

インタラクティブは相互に関係し合うとか、「双方向の」を意味する。インタラクティブ・テレビジョンはその一種。たとえば、アメリカのインタラクティブ・

ネットワーク社は、現在、サンフランシスコを中心に加入世帯を拡大中だが、電話回線にコントロール・ユニットを接続、テレビのスポーツやドラマ、ニュー

ス、教育番組などに連動したクイズやデータなどをFM波で伝送、ユニット画面に表示された質問にキーパッドで答えると、即座に順位とか点数がわかる仕組

みになっている。視聴者のテレビ参加性はこれにより高まるというもの。マルチメディア・サービスの幅はこれからいよいよ広まろう。 ◆変則統合CM〔1998年版 広告宣伝〕

統合CMとはラジオやテレビの番組の主なパフォーマンスの中で流されるCMで、番組内容がCMの一部になるといったコマーシャルのこと。 番組とCMの区分が視聴者にははっきり分からないので、この種の広告への批判も一部には出ている。電波広告のタイプの一つに「統合(型)広告」がすでに

あるが、前述のものは、番組とCMの差をいっそう分からなくしているので、筆者は変則統合CMと名づけている。

◆電子新聞用双方向広告システム〔1998年版 広告宣伝〕 電子新聞の画面構成を想定し、それに広告を組み込む形で制作したもので、新聞記事の見出しが並ぶ画面では記事の下方に広告を配置し、画面上の広告部分を

クリックすると詳細な広告を見ることができる仕組みのもの。テレビCMのように画面を映し出すのではなく、双方向型の特徴を出し、詳細な商品カタログの

検索やくじ引きなどができる。加えて、広告商品をその場で発注できるオンライン・ショッピング機能や割引券を出力する機能なども盛り込まれている。電通

は一九九四(平成六)年七月、この種の双方向型広告システムの試作品を開発、注目された。

◆パルシング(pulsing)〔1998年版 広告宣伝〕

電波広告を波形に流す戦略・戦術。これはウェーブ理論とかフライティング(flighting)ともいわれ、ある時期に広告量を増大し、その後減少、再び増やすというようなウェーブ状の広告量・広告投入の技法。このパルシング・キャンペーンには、広告メッセージの質、フライト間の間隔、メディア・ミックスなどが

考慮される。 ◆アール・エフ・エム(RFM)(recency, frequency and monetary value)〔1998年版 広告宣伝〕 「リーセンシィ」は特定の顧客リストに掲載されている人または企業の、最も最近の購入・問い合わせ・その他の記録ずみ行動、「フリークエンシィ」はそれ

らの購入・その他の活動の回数、「マネタリー・バリュー」は所定の期間(通常一二カ月)に顧客が支払った金額を意味する。ダイレクト・マーケティングや

ダイレクト・リスポンス広告の効果・効率を高めようとすれば、顧客別のRFMのデータベースがつくられていなければならない。

◆連合広告〔1998年版 広告宣伝〕 数社の広告主が一つのスペースに相乗りで広告を出稿する形式をとる広告。新聞社・広告会社が特定テーマのもとに広告特集紙(誌)を企画・編集する。数社

広告主からなる広告は、この一種となる。日産自動車は「グラツィア」の創刊号をはじめ、女性誌四誌にコーセー化粧品との連合広告を流したことがある。雑

誌媒体側も連合広告には目下関心を高めている。媒体側には、広告出稿量を増大する一手段となるし、広告主にとっては、共同広告(またはジョイント広告、

タイイン広告)の機会作りにこの広告は役立つ。

◆メディアジャック〔1998年版 広告宣伝〕 広告主が広告のために電車や新聞などの広告スペースを占領すること。キリンビールが東京急行電鉄の東横線、田園都市線それぞれ一編成八両、一○両をハイ

ネケン、ドライビールの広告だらけにしたこと、明治製菓が江の島電鉄などでマーブルチョコレートやスナック菓子の独占広告を行うなどはこの一例。この種

の広告はブロックバスター(高性能爆弾広告)ともよばれているが、高インパクトをねらう広告として広告主の間では話題となっていた。 ◆クーポン広告(coupon ad., couponing)〔1998年版 広告宣伝〕

「日米構造協議」の影響を受け、いっそう目立つようになったものの一つにクーポン問題がある。クーポン広告はクーポンつきの広告を意味する(クーポンと

は一種の割引券で、消費者はクーポン券をその売り手に示し、所定額を割り引いてもらう)。クーポンは、新規購入者の試用・試買の促進、反復購入の刺激づ

け、市場シェアの防衛、広告の補強、販売店の在庫プッシュ、小売店側の協力を得るなどの面で役立つ。新聞本紙、雑誌、DM、新聞特集紙が利用されるよう

になった(メーカー・クーポンの場合)。日本においてクーポン広告産業が成長するには、広告主、広告会社、販促会社、印刷会社、調査会社、さらには消費

者などのクーポンの受け手が、クーポニングの仕組みや機能を理解していなければならないし、クーポン産業の発展に欠くことのできない、クーポン・リデン

プション(償還)、クーポン・クリアランス(精算)などのシステムの確立、関連会社・協会の成長も大切となるし、加えて、流通業者のクーポンを十分に理

解したうえでの協力(メーカー・クーポンの場合)が必要となるところである。一九九○(平成二)年はクーポン広告元年となった。九一年初め関連地区で、

読売新聞と朝日新聞のメーカー・クーポンが流れたが、残念ながらクーポン広告が日本市場に定着するまでにはなおもある程度の期間が必要。広告会社、広告

媒体側は本格的なクーポン時代の到来は、ここしばらくは見込めないとみているのが現状。なお、クーポンの実践については、「実践クーポン広告」(一九九三

年三月、電通)を参照のこと。 ◆FSI(free standing insert)〔1998年版 広告宣伝〕 アメリカでクーポン広告配布手段として最も利用されているのがこのフリー・スタンディング・インサートで、インサート、フリー・スタンディング・スタフ

ァーともよばれ、また日曜付録版(サンディ・サプルメント)の新聞に挿入されるので、日曜新聞インサートともいわれている。日曜新聞のFSIには単独ク

ーポン・インサート、共同クーポン・インサートの二種類があるが、わが国の場合は後者に関心が高まるようになるだろう(日米の新聞事情が異なるので、F

SIは日曜新聞に限定せず、もう少し幅広く解釈してよい)。 ◆コーポレート・カラー(CC)(corporate color)〔1998年版 広告宣伝〕

企業カラーを意味する。コニカ株式会社は、コニカブルーを企業カラーとしている。これは明るく、さわやかで、清潔感のあるブルーである。清水建設株式会

社は、純白、青、赤、黒からなる四色をCCとしている。純白は光を、青は空と海と水、赤は生命ある血液イメージから人間、黒は無限空間のイメージから宇

宙を意味しているようである。日本中央競馬会は深みと落ち着きのある緑色をシンボルカラーとしている。CCはコーポレート・アイデンティティ(CI)の

一部となるもので、CIと無関係では存在しない。 ◆タイトル・スポンサーシップ(title sponsorship)〔1998年版 広告宣伝〕

スポーツの試合名の前に広告主名がつくとすると、これはタイトル・スポンサーシップによるものとなる。アメリカで人気のある「ゲーター・ボウル」の前に

「マツダ」がついての「マツダ・ゲーター・ボウル」、「サン・ボウル」の前に保険会社名がつく「ジョンハンコック・サン・ボウル」はこの一例。日本関係で

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は、KDDの名を冠した第一回ラグビーワールドカップ、サントリー・ジャパン・オープンテニス、三洋証券ニッポンカップヨットマッチレースなどがその一

例。テレビネットワーク側の経営財務事情から特定期間、特定スポンサー料を払ってもらい、タイトル・スポンサーになってもらうという動きも出てきた。タ

イトル・スポンサーシップのほうが、試合中にCMをいれるより効果的という考え方も広告主側の一部にあるようだ。 ◆サーキュレーション(circulation)〔1998年版 広告宣伝〕

一般に広告媒体の伝達流布の度合いをさす用語であるが、その意味するところは媒体ごとに異なる。新聞と雑誌についてはその発行部数もしくは販売部数を、

ラジオ・テレビについてはある時点で使用されているセット数、もしくは一定地域(聴取・視聴地域)内のラジオあるいはテレビの所有セット数を意味してい

る。また、屋外広告については、ある特定の屋外広告を見る機会をもっている歩行者、車両利用者の数をいい、交通広告では広告掲載中の乗客数もしくは各駅

の乗降客数をいう。最近、特にアメリカの媒体分析の専門家の間ではサーキュレーション概念を新聞と雑誌だけに限定し、他の媒体については、オーディエン

ス(audience 視聴者・聴取者など)概念を用いる傾向がでているが、これは新聞と雑誌についてのサーキュレーション数字を、定期的に公表しているABC

(Audit Bureau of Circulation 発行部数公査機関)の活動に負うところが大きいといわれる。わが国では一九五八(昭和三三)年に創立された日本ABC協会がこれを行っている。

◆視聴質〔1998年版 広告宣伝〕 広告コミュニケーションの効果・効率化の視点から視聴質が注目・研究されているが、これは有効ターゲットの視聴者、視聴反応、番組・CMなどの質を意味

する。民放連の研究調査によると、広告主、テレビ局営業担当者、広告会社とも、視聴者の質、視聴反応の質、番組の質、CMの質についての回答順位は三者

とも同一だったが、広告主側は実際に獲得されたターゲット観点からの「ターゲット視聴者の率」、テレビ局側は人口統計的属性視点からの「予想ターゲット

の視聴者の属性」のほうにウェイトを置いているようだ。広告主側の視聴質提起は「個人視聴率の継続的安定的入手」にあり、ピープル・メーターなどによる

広告質の研究に関心を強めている。テレビ局側は「現行の視聴率調査・主義を尊重しつつも何らかの修正を求める広告主側の考えを変えて、これと局側の問題

意識を摺り合わせるときがきているのではないか」といった考え方もあった。視聴質の一つの問題に個人視聴率の問題がある。この個人視聴率の算出法は以下

のとおり。世帯視聴率に対して、個人視聴率はテレビ所有世帯に住んでいる総人数のうち何人がテレビを見ていたかを示す。標本世帯のテレビにピープル・メ

ーターとよぶ機械を設置し、四歳以上の家族全員にテレビを見る際にあらかじめ決めた本人用のボタンを押してもらう。チャンネルを変えた場合は自動的に記

録される。一分ごとに測定したデータは電話回線を通じて調査会社に送られる。日本広告主協会は、この動きを要望してきたが、民放側は「調査精度に問題が

ある」などとして受け入れに消極的であった。調査会社が標本世帯を増やすなど、改善を進めてきたのを受けて、一九九七(平成九)年四月からの正式導入が

決まったものである。

◆OHM/移動オーディエンス(Out-of-Home Media and mobile audiences)〔1998年版 広告宣伝〕 広告オーディエンスの中で移動性の強いものは、「モービール(オートバイル)オーディエンス」と呼ばれる。屋外広告や交通広告の対象者がこの種のオーデ

ィエンスとなる。この屋外広告媒体と交通広告媒体は屋外に配置・掲出されるから、OHMと呼ばれる。家庭内にはいり込む媒体(広告)、さらには、消費者

が購入決定をしたり購入行動をとるPOPでの媒体(広告)についての戦略・戦術の理論と実際は今日ではかなり高度化してきたが、この両者間、または両者

の繋ぎとなるものがOHMである。このOHM(広告)のうまいブリッジ戦略・戦術が適切かつ効果的に計画・処理されていないと、これら両者の力と効果が、

下回りがちになることはここに言及するまでもない。 ◆屋外広告のリースボード〔1998年版 広告宣伝〕

リースボードはリース形式の屋外広告板で、広告費の効果・効率的利用化、特定地域の集中メッセージ化、市場細分化、販売刺激化のためにいっそう注目され

るようになってきた。これは、(1)都市型リースボード、(2)駅対象型、(3)特定立地型、(4)学校対象型に区分される。広告主は広告の設置地域、サイ

ズ、料金・契約期間、目標のターゲット、外照設備、屋外広告効果資料(サーキュレーション、インパクト係数、到達率、露出回数、その他など)を踏まえて

リースボードを選んでいる。 ◆ダイレクト・メール広告(DM)(direct mail advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

郵便によって直接見込客へ送り届けられる広告。ダイレクト・アド(直接広告 direct advertising)の一種で、俗に宛名広告ともよばれる。郵送先の宛名が明記され、受信人へ直接に届けられるという個人的な性格をもつだけに、選ばれた人という優越感を対象者に与えることができる広告である。実施のタイミング

やスペースの利用などの表現上の問題、それにもまして適切な対象者の選定という点に意をはらえば、かなりの効果が期待できる広告である。通信販売店、百

貨店を中心に現在盛んに利用されている。 ◆ハウス・オーガン(house organ)〔1998年版 広告宣伝〕

機関誌。企業が、グッド・ウィル(好意とか信頼)の育成、売上高の増加、一般大衆の意見の創成を意図して、従業員、セールスマン、販売店、消費者一般の

理解と信頼を得るために発行する定期・不定期刊行物のこと。一般に無料であり、形式はブックレット形式、新聞形式、会報形式などがあり、ほとんどは企業

の総務部、広報部、広告部、販売部、販促部あるいは人事部などで作られる。別名、カンパニー・マガジン(company magazine)とか、カンパニー・ペーパー(company paper)といわれる。 ◆ストア配布媒体(store-delivered media)〔1998年版 広告宣伝〕

顧客が店内にいる間にメッセージを流すシステム、媒体・販促手段のこと。(1)客の購買頻度を高めるプログラム、(2)インストア・コミュニケーション【シ

ョッピング・カートに広告メッセージを付ける、小売店のフロア・タイルを広告のスペースにする(アドバータイル)、ストアのアイル上に掲出されるアイル

ビジョン、ショッピング・カートの前に掲出されるビルボード、カートにつけられるビデオカート、POPラジオ、インストアのクーポニングおよびサンプル

配布】、(3)特殊援助(インストアのマーチャンダイジングのプロモーションを担当する販売促進活動、商品調査から販売員の補足サービスまで提供するシス

テム)、(4)テーク・ワン(インストアでのクーポン配布システム、店舗用で広告・促進メッセージを配るシステム)などが、主要項目となる。 ◆テレ・コンワールド〔1998年版 広告宣伝〕 深深夜といってもよい午前三時、四時台に放送されるTVショッピングへの興味・関心が一段と高まっているが、その走りともいえるのが、テレビ東京が一九

九四(平成六)年七月から放送終了間際の時間帯に流している新手の買い物情報番組「テレ・コン ワールド」(月‐金)というプログラム。このプログラム

の特徴は、商品紹介の方法がドラマ型で、一商品に一五分程度の時間をかけ、広告商品の特性に合わせ、時には公開ショー番組風、ときに郊外ロケをかなり入

れ込むアプローチをとることもある。約一時間の放送時間に広告商品が四点ほど扱われ、それぞれが独立したプログラムような感じを与え、オーディエンスを

惹きつける力は強力。この手法はフィラデルフィアをベースにするナショナル・メディア社が考案したもの。この種のものはインフォマーシャルとも呼べる。

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広告商品は、ナショナル・メディア社の子会社、クアンタム・インタナショナル(本社はロンドン)が自社開発し製造している。この動きは地方にも広がり始

め、地方のローカル局が相次いで参入しているのが現況。 ◆ストーリー・ボード(story board)〔1998年版 広告宣伝〕 テレビCMを作る場合の基礎となる「絵の部分」と「コピーの部分」からなるスクリプト(原稿)をストーリー・ボードという(絵コンテともよばれる)。つ

まりCMのストーリーまたは流れにそって一連の絵とか映像が描かれ、その下または横に映像の説明文が加えられたもので、このボードにはチャート式、アコ

ーディオン式などの種類がある。

◆コピー(copy)〔1998年版 広告宣伝〕 一般に印刷媒体に掲載される広告メッセージの活字になる部分、電波広告の場合ではCMの部分、さらにはアナウンサーやCMタレントがCM用として話す部

分などをいい、印刷広告の場合には、(1)見出し(ヘッド)、(2)副見出し(サブ・ヘッド)、(3)本文(ボディ・コピーまたはテキスト)、(4)小説明(キ

ャプション)、(5)ブラーブ(またはバルーン)、(6)ボックス(またはパネル)、(7)スローガン、ロゴタイプの諸要素からなる。 ◆否定訴求(negative appeal)〔1998年版 広告宣伝〕

広告商品の特徴・便益点を、マイナスのシーンや状況を醸しながら訴えること。不安感や恐れをかきたて、これをいわんとするところに結びつけるのが、否定

訴求のねらいだがあまり暗すぎると否定訴求も逆効果になることもある。この逆が、肯定訴求(positive appeal)である。これはこういうプラス、便宜がある

から魅力的とストレートに訴えるもので、広告では一般にこの種のアピールが用いられる。 ◆シズル広告(sizzle advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に訴え、実感として感じさせる五感広告の一つで、シズルとは(油で揚げたり、熱したり鉄板に水を落としたときなどのような)

ジュージューとかシューシューという音のこと。魅力的な音をたてて、相手にその商品を食べたくならせるような広告がシズル広告である。その音からの高ま

る感じがシズル感と呼ばれる。ビールの泡は、シズル広告、シズル感を説明するうえでの好例。

◆比較広告(comparison advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 特定広告商品の特徴を他社商品(または自社のこれまでの商品)と比較する比較型の広告を比較広告という。自社のこれまでの商品と自社新商品の比較広告は、

これまでにもよく行われてきているが、他社商品との比較はややもすると中傷・誹謗となるので、わが国の広告産業界ではこの点を恐れている。

公正取引委員会は貿易摩擦問題に関連し、外国企業を考慮し、景品表示法では比較広告を制限または禁止していないことを再確認するとともに比較広告のガイ

ドラインの作成や比較広告基準の設定に心掛け、ついに一九八七(昭和六二)年四月「比較広告に関する景品表示の考え方」(比較広告のガイドライン)を発

表した。比較広告は広告主間でいまのところ自粛されているので、ガイドラインの実践的利用化は目立たない。なおJARO(日本広告審査機構)は比較広告

のガイドラインを一九九○(平成二)年に制定した。

九一年、日本ペプシコーラはコカコーラとの比較広告を流したが、広告業界ではその賛否両論があった。ターゲットに誤認を与えないか、広告フォーマット(ユ

ーモア・スタイル)の適正性と利用の限界などに意見がみられた。ペプシコーラの九一年秋のTV比較広告では、比較のコーラ名は視聴者にわからないよう作

られていた。また、日本ゼネラルモーターズの、トヨタ、日産のライバル車種とGM車を並べ、性能、価格などを比較した広告は話題となった比較広告の一例。

「ダイエットペプシは、おすすめできません。… …ダイエットペプシは、コカ・コーラ・ライトの一二分の一カロリーだから。」の新聞広告も記憶に残る比

較広告である。急激ではないが、徐々に目につくようになろう。銀行広告面での比較広告は九三年から解禁された。

◆カテゴリー広告(category advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 市場環境の変化とともに、個々のブランドを対象としたブランド管理にとって代わり、最近では一つのカテゴリー(範疇)に属する多種類の製品ブランド全体

の利益を一括して考える管理方法、すなわちカテゴリー・マネジメントが一部からより注目されるようになってきている。例えば、プロクター・アンド・ギャ

ンブル社の食器洗い用洗剤のカテゴリー広告(印刷広告の場合)では、四つのブランド(ジョイ、アイボリー、キャスケード、ドーン)がいずれも食器の衛生

問題を解決すると訴求し、また同社の洗濯用洗剤カテゴリー広告(テレビCM)では、濃縮洗剤がゴミの量を少なくするのに役立つと環境問題をも取り上げて

いる。 カテゴリー広告はカテゴリー内の各ブランドに共通する強力なメッセージで、PB商品や他の低価商品との競争に対抗するためといわれているが、長期的には

ブランド・アイデンティティ、ブランド・エクイティを弱める要因にもなるのではないかという見方が、マーケティング・コミュニケーション業界にもある。 ◆奇抜広告〔1998年版 広告宣伝〕 広告表現のインパクト効果を高めるため、相手に“奇抜”な印象を与える広告メッセージのこと。一九九一年、イタリアの代表的ファッションメーカー、ベネ

トンは、へその緒がついたままの新生児の広告ポスターを流した。イギリス広告協会は同社に対しそのポスター撤去を命じた経緯がある。広告界では、古くか

らキュリオシティ広告(珍奇とか奇異広告)というコトバが用いられているが、ベネトン式のものは、単に注意・関心喚起だけのものでなく、広告主のトップ

の哲学がその背景となっているようで、その点これまでのものといささか異質である。 ◆3Bの法則〔1998年版 広告宣伝〕 3Bはビューティ(Beauty 美女)、ベイビィ(Baby 赤ちゃん)、ビィースト(Beast 動物)を意味する。これらの要素は広告の注目率や閲読率を高めやす

いから、広告メッセージをつくる際は、3Bを考慮することが大切というのが、3Bの法則である。 ◆記事体広告(editorial advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

記事のような構成でつくられている広告のこと。記事広告、記事型(または体)広告ともよばれているもので、広告メッセージの一つの型(フォーマット)。

最近の広告は、生活情報、商品情報を意欲的に提供するものが多くなったが、そのためによく記事型の広告が利用されている。日本新聞協会は新聞記事と混同

されるおそれがあるので、この種の広告には「広告」とか「PR」と表示するよう関係者に働きかけている。 ◆AIDMA(アイドマ)の原則〔1998年版 広告宣伝〕 消費者の購買心理過程を表したものといわれ、広告制作での基本原則とされている。Aは注意(attention)、Iは興味(interest)、Dは欲求(desire)、Mは記

憶(memory)、Aは行為(action)を意味する。 「注意させ、興味を抱かせ、欲しがらせ、心にきざみつかせ、買わせる」ように意図した広告制作が、最も有効な広告物を誕生させるということである。この

原則とならんで、AIDCAまたはAIDAの原則も広くいわれている。この場合のCは確信(conviction)を意味する。 ◆5Iのルール〔1998年版 広告宣伝〕

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広告コピーをつくるときのコピー・ライティング・ルールのなかに5Iのルールがある。広告は、すばらしいアイデア(idea)から出発すること、直接的なイ

ンパクト(immediate impact)という観点からつくられていること、メッセージは最初から最後までずっと興味(incessant interest)をもって見られ読まれるように構成されていること、見込客にとっての必要な情報(information)が十分かつうまく盛り込まれていること、衝動を駆り立てる力(impulsion)を備えていることを意味する。

◆バイソシエーション(bisociation)〔1998年版 広告宣伝〕 テレビCMの一つのスタイルで、アーサー・ケスターによる新造語である。ある要素に関係のない要素を、また一般的な視覚的な要素に似つかわしくない言葉

などを結びつけて(つまり「ニュー・コンビネーション」により)テレビCMの表現力をより強めようとするCMの一フォーマット(型)を意味する。「反コ

ピー」(例、ミスタードーナツのCMで、二人の客が「結局、景品は景品やな」というのに対し、店員に「物の価値のわからないお客さんですね」と言わせる

のも、反コピーの一例)も拡大解釈すれば、ニュー・コンビネーション、つまり、バイソシエーションの一作品例といえよう。

◆インフォマーシャル(informercial)〔1998年版 広告宣伝〕 インフォメーション(情報)とコマーシャルの二つの言葉から合成されたもので、ニューメディアを通じての情報提供型広告、つまりニューメディア時代の情

報量の多い長めのコマーシャルを意味する。 ◆クレスタ賞(CRESTA Awards/Creative Standards Awards)〔1998年版 広告宣伝〕

国際広告協会(IAA)がクリエイティブ・スタンダード・インターナショナルと共同で制定した国際広告賞で、公共広告を含む消費者広告と産業広告の二つ

の分野に同じ比重を置いて審査する賞。一九九三年から設けられた新しい国際賞である。世界各地のクリエイティブおよびIAA支部クリエイターによる第一

次選考を行い、国際審査委員会において、二七カ国の審査員による最終審査が行われる。審査基準はクリエイティブ・アイディアのオリジナリティーと作品の

質にあるとのこと、この賞についての日本での問い合わせ先はIAA日本支部(03・3561・6280)。 ▲広告調査と方法〔1998年版 広告宣伝〕

◆タキストスコープ(tachistoscope)〔1998年版 広告宣伝〕 広告コピーの事前テストに、この器具がよく用いられている。これは各種の速度・メッセージ露出・照度という条件の下で、いろいろな刺激の呈示を可能にす

るアタッチメントをともなうスライド・プロジェクターである。広告中に盛り込まれた、イラストレーション、コピー、シンボル・マーク、その他が特定の時

間や照度の下でどのくらい広告の受け手にわかるものかが、この器具から明らかになるので、制作者には効果の可能性の判断や広告メッセージを改良したりす

るのにこの結果は役立つ。このテスト時のメッセージ露出秒数は、一○○○分の一秒から数秒まであり、また照度も、適当に変えることもできるが、これらの

条件はテスト広告物のねらい、種類、掲示される場所、テスト個所などによって、それぞれ違うことになる。 ◆サイコガルバノメーター(psychogalvanometer; galvanometer)〔1998年版 広告宣伝〕

各種の心理的刺激に対する人びとの感情と反応を、精神電気反射の面から測定する計器である。この反応は、GSR(皮膚電気反射 galvanic skin reflex)、PGR(精神電気反応 psycho galvanic response)ともよばれている。人間の神経活動が電気的なものであって、興奮などの精神的な動揺による発汗活動の増大が、皮膚表面の電気抵抗を弱める結果、生体電流の増大として測定できることを利用した測定器で、俗に「うそ発見器」(lie-detector)とよばれているも

の。 ◆TENS(Telephone Networks System)〔1998年版 広告宣伝〕

対象者と会議室にいる司会者を電話回線で結んでインタビューする調査システム(電通リサーチが開発)をいう。対象者は、自宅、職場から参加できる、全国

規模のききとりが可能、対象者がリラックスしているのでホンネがきける、クライアントも司会者と同席し、その場で質問ができる、システムの持ち運びが可

能であるといった特徴がある。

◆フルパッシブ・メーター(full passive meter)〔1998年版 広告宣伝〕 TV視聴率の調査方式の一種で、調査対象世帯のTVセットに小型のカメラを設置し、事前に、家族の顔をメーター内蔵のコンピュータに記録しておく。各時

点で捕らえたイメージとのすり合わせを行って、誰が視聴しているかを記録する。測定に際して、ボタンを押すなどの視聴者の作業は、全く必要ない方式。 ◆コスト・パー・サウザンド(CPT)(Cost Per Thousand)〔1998年版 広告宣伝〕

広告に使用する媒体比較のための経費効率の指標として一般に利用される。すなわち広告の到達読者(視聴者)一○○○人、あるいは一○○○世帯当たりに必

要な経費として表される。基本的には次の公式で計算される。

CPT=広告料金/到達読者(視聴者)×1000

◆CPR(Cost Per Response)〔1998年版 広告宣伝〕 広告の反応当たりのコストをいう。たとえばある雑誌に広告を流したとする。その媒体料金を踏まえたうえで特定の反応または注文総量から、反応・注文当た

りのコストを求めたものがCPR。広告産業界には以前からCPM(到達一○○○当たりのコスト)という媒体評価基準が用いられているが、これからは必要

によって、CPRの視点からの媒体評価が重要視されるようになる(ダイレクト・マーケティングとか、ダイレクト・リスポンス広告の場合)。 ◆クリッピング・サービス/広報効果分析レポート〔1998年版 広告宣伝〕

広告主に代わって、広告主関係の新聞のパブリシティを切り抜き、朝一番に契約企業側に届けるサービスを、デスクワン(東京・本郷、社長 瀧川忠雄)はク

ライアント七○社に提供中。記事抽出対象新聞は東京地区最終版の朝日、読売、毎日、日経、産経の五つで、パブリシティ記事を収集し、特定企業に関する記

事のスペースに一平方センチメートル当たりの出稿単価を掛け、広告換算値を算出している。記事が企業のイメージ創成に役立つなら「好意」、逆に事故・事

件などの加害者として扱われるものは「非好意」、自己責任のない事件・減益決算などの場合のものはニュートラルとして評価される。この種のクリッピング・

サービス会社は全国で約二○社だが、広報効果度の分析はこの業界では初めてとのこと。

◆GRP(Gross Rating Point)〔1998年版 広告宣伝〕 広告主が利用する各種銘柄媒体(=ビークル)のレーティングの合計が、GRP(グロス・レーティング・ポイント)である。いまある広告主が、ラジオ媒体

を通じて、一日に五本のラジオ・スポット(スポットの平均聴取率を三%とする)を一週間続けて使ったとすれば、一週間のGRPは一○五ポイント。したが

って、電波媒体の場合でいえば、これは延べ聴取・視聴率を意味することになる。印刷媒体の場合は延べ注目率といったものになる。

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◆フォーカス・グループ法(focus group method)〔1998年版 広告宣伝〕

広告の事前テスト法のひとつで、企業がねらう見込標的市場から一○~二○名内外をしぼり、抽出し、彼らを、一つのグループにし、テストすべき特定のトピ

ックについて討議させる。訓練を受けた有能な面接調査員が、テスト資料とか資材を彼らに上手に呈示するとともに、グループのディスカッションをうまくガ

イドする。この目的は、ある問題についての情報を得ることで、最終的な回答を求めることではない。ディスカッションは、一般にテープに収められ、この会

合終了後、調査員がこの話し合いを分析し内容や合意点をまとめあげる。ある広告コンセプトまたは戦略の価値を求めるためには、標的市場から二~三のフォ

ーカス・グループを抽出し使えばよいという声もある。

◆新CMテストシステム/アドバンス(Advance plan)〔1998年版 広告宣伝〕 この「アドバンス」はCM作品自体のインパクトから評価、診断を行うもので、東京三○キロメートル圏に居住する一八~四○歳の男女一二○名をクオーター・

サンプリング法で選定、毎月一回最多六年のCMを集合テスト方式で調査するというやり方をとる。調査項目の(1)「CMに対する興味・関心」では、作品

の興味・関心に加え、場面ごとの好意・非好意的評価を秒単位で測定し、興味反応曲線をえがく。(2)「購買喚起力」面では、視聴による商品購入意志の変化

を、四八パターンに分け、各自の変容の大きさに応じ得点を加算し、購買喚起力を推計する。(3)「効果性評定」面では、CMの出来栄えをイメージ側面から

評価。制作者・生活者双方の視点から肯定・否定各二四、計四八の形容詞の選択で、CMの効果的判定を情緒性、伝達性、斬新性、躍動性の四評価軸から測定。

(4)「好意度」では、「好きな」「また見たくなる」「共感できる」の三尺度からCMの出来具合を判定する。このほか(5)「CMの表現要素」、(6)「CMの

内容再生」、(7)「CMの良い点、悪い点」、(8)「伝達内容理解度」をも調査している(電通の開発によるもの)。 ◆サブリミナル・アド(subliminal advertising)〔1998年版 広告宣伝〕 潜在意識下に訴える広告。サブリミナルとは“意識されない”の意味。テレビ、映画、ラジオなどに認知不可能な早い速度または小さい音量で広告を出す方法

をいう。一九五七年にアメリカで、映画館で上映中のフィルムに重ねて、「コーラを飲もう、ポップコーンを食べよう」という広告を三○○○分の一秒で出し

たところ館内売店のコーラやポップコーンの売上げが激増したという。

その後、何回か試みられたが、実際の効果は明らかにされなかったことや、倫理的な問題指摘などのため、ほとんど行われなかったが、松竹映画「RAMPO」

やTBSがテレビの報道番組(九五年五月七日、一四日)の中でこの手法を用いて話題となった。 ●最新キーワード〔1998年版 広告宣伝〕

●ブランド・エクイティ(brand equity)〔1998年版 広告宣伝〕 ブランド・エクァティとも呼ばれ、ブランドの資産とか財産を意味する。最近これが、マーケティング・コミュニケーション、広告、プロモーション、販売促

進、PRなどの分野でより注目・研究されるようになってきた。デイヴィット・A・アーカー教授は、次のように述べている。「ブランド・エクイティはブラ

ンド、そのネームやシンボルに結びつくブランドの資産・負債のセットを意味する」「ブランド・エクイティを示すための資産または負債は、ブランドの名称

とシンボルにリンクしていなければならない。ブランド名とかシンボルを変えるべきなら、資産または負債の全部とかその一部は、新しい名やシンボルに変わ

るとしても、冒されるかまたは喪失してしまうことにもなろう」と。 ●グリーン・マーケティング広告(green marketing advertising)〔1998年版 広告宣伝〕

環境保護に連動したマーケティングに基づく広告がこれになる。最近は環境保護をテーマにした広告が増えている。「自然が日本の住まいを育ててくれました。

だから、私たちは、自然を育ててゆきたいと考えています」(ミサワホーム)、「地球と話をしましたか」(NTTデータ通信)、などの新聞広告はグリーン・マ

ーケティング広告の一例。またアメリカでは、広告関係者は環境保護の波にのっているが、その広告表現に誇張と混乱がみられるという声もあり、この分野の

広告のガイドラインの自主規制や立法制定化の動きが広告産業界にみられる。ミネソタ州政府合同専門家チームは、一九九○年初め、ガイドラインを公表し、

九一年には「グリーン・リポート 11」をまとめている。アメリカ広告業協会(4A)も、ガイドラインを公表した。アメリカ連邦取引委員会もガイドライン化

の動きを示している。イギリスでもこの種の動きが目立つ。イギリス・民放テレビ協会(ITVA)は、グリーン広告のガイドラインを発表。これは環境に無

害とか有益といった点を強調するグリーン広告への苦情の強まりに対する動きで、環境に有益という広告表現は、その商品の製造から処分までの全過程を踏ま

えて判断されることになる。「地球の友」などの環境保護団体は、このガイドラインをとりあえず歓迎している。わが国でもこの種の広告の定義、枠づけ、ガ

イドラインが関係筋から検討されていることを付言しておく。この広告は企業広告やブランド・エクイティ創成に連動する。この種の広告意識が、関係者間に

より強まってきたことは喜ばしい。 ●IA/MC(統合広告/マーケティング・コミュニケーション)(Integrated advertising / Marketing Communication)〔1998年版 広告宣伝〕 アメリカ・ノースカロライナ大学では「広告学科」の名称を「統合広告/マーケティング・コミュニケーション学科」と変更。これからの広告はこのような視

点から扱うようにしないと「ニュー・アドバタイジング」といえる広告は考えられないという見方をする。広告の進んだ国々は、このIA/MC時代をますま

す迎えるようになるのは必至である。IMC(Integrated marketing communication インテグレーティッド・マーケティング・コミュニケーション)の定

義にはいろいろなものがあるが、有力なものの一つが以下の考え方である。「IMCのプロセスは測定可能で、効果的かつ効率的な双方向的コミュニケーショ

ン・プログラムを開発することを意図している」、そして「IMCアプローチはデータベース、行動的セグメンテーション、全形態のコミュニケーションの利

用、特定の反応、測定と評価によっている」(IMCは消費者とかオーディエンスのブランドまたは企業接触の全ソースを考慮する)という。またIMCにつ

いてのキーワードとして、「プロセス」「行動に影響する」「ブランド・コンタクツ」「双方向」「測定可能」を指摘・強調していたが、IMCやニュー・アドバ

タイジングを具体化する際にはこれらの考え方は大いに参考になる。

わが国ではIMCの研究が、広告会社、大学、その他の機関ですでに始められているが、研究および適用・具現化が可能になるには、それに必要な諸条件・環

境がある程度まで整い、かつ広告主、広告会社、販促会社、調査会社、媒体社、教育・研究機関などの理解・協力・助言・その成果報告の積み重ねが得られる

ようになるのがその前提条件。最近はIMCプロセスを開発するためのIMCオーディット(検査)の研究と実務が本格化してきたことを強調しておきたい。 ●ピープルメーター(PM)(people meter)〔1998年版 広告宣伝〕 ピープルメーターとは、「TVの状態と個人の視聴行動という二つの別のメーターの記録をつき合わせることによって個人視聴率を測定する技術である。現在

よく用いられているのは、パネルメンバーがリモコンについている個人に割り振られた自分のボタンを各視聴セッションの初めと終わりに押すという方式であ

る。したがって、個人の視聴記録は、TVの状態にON‐OFF記録が重ね合わせて記録される形をとる」[ヨーロッパ放送連盟/EBU(European

Broadcasting Union)の見解]。 わが国の広告主は個人視聴率の測定に関心を強めているが、ニールセン・ジャパンは一九九四(平成六)年、個人視聴率データをラインメーターによる機械式

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(PMに登録ボタンの押し忘れを防止するためのセンサーのついた「アドバンスト・ピープル・メーター(APM)」という方式を採用している)に変更する

ことを発表し、これに対し日本民間放送連盟は、放送事業者との話し合いを持つよう求めた。ニールセン社のPMサービスについてのこれからの動きが注目さ

れるところである。 ビデオリサーチ社は九七年四月からPMの機械式調査を実施した。VR社の調査システムは、誰がテレビを見ているかを、モニター家庭の人間が手動で登録す

るピープル・メーター(PM)方式、調査対象は精度を保つため六○○世帯、約一九二○人に広げる。 ▽執筆者〔1998年版 マーケティング〕

村田昭治(むらた・しょうじ) 慶応義塾大学教授 1932年生まれ。慶大経済学部卒。現在,同大商学部教授。著書は『マーケティング』『活性経営の知恵』『心と感性の経営』『評判が市場を創る』など。

斉藤通貴(さいとう・みちたか) 慶応義塾大学助教授

1955年東京生まれ。慶大商学部卒。現在,同大商学部助教授。 ◎解説の角度〔1998年版 マーケティング〕

●近年、経営やマーケティング環境は劇的な変化を示し、この変化へのマーケティング対応が要請されている。消費者の知識、情報探索力といった消費技術は

ますます向上し、よりよい価格と価値・クオリティのバランスが求められている。また、マルチメディアに象徴される情報・通信技術革新が、消費技術の高度

化に拍車をかけ、オン・ディマンド型のあり方が議論され、ワン・トゥ・ワン・マーケティングが注目されている。ビジネスと社会・自然環境との関係への関

心は、ソサイエタル・マーケティング・コンセプトへの注目を集めている。一方、価値観の多様化傾向の進展は、製品開発におけるニーズ認識の困難さを克服

し、魅力的な価値を提供する対話型マーケティングの重要性を増やしている。継続的な消費者との対話やリレーションシップが鍵となろう。豊かな生活を希求

する市場への対応は、新たな価値提供を試みる小売新業態の発展・成長を促進している。よりよい価格―価値バランス、品揃えをもつディスカウンターの成長

は、パワーセンターといった業態の新展開を生み出している。 ▲環境変化とマーケティング〔1998年版 マーケティング〕

◆市場成熟化(market maturization)〔1998年版 マーケティング〕 市場の発展段階をちょうど人間の一生にたとえた場合に、成長過程から熟年に相当する時期を意味する。成熟化の特徴はつぎの経済・社会のさまざまな局面で

みることができる。(1)産業構造面からは、第三次産業への比重の高まり、(2)物質的側面から、精神的側面へ、(3)消費者ニーズの個性化、多様化傾向、

(4)経済成長率は鈍化し、福祉の充実がすすむ、(5)社会全般の安定化傾向。近年の市場成熟化、経営環境の厳しさは、企業の対応行動に大きな変化をも

たらす要因となっている。 ◆飽和化市場(saturation market)〔1998年版 マーケティング〕 一世帯当たりの普及率がほぼ限界普及率近くに達し、買替えによる購入比率が高く、市場そのものの伸びが、限界に達しているマーケット。化粧品、カメラ、

菓子、医薬品などのマーケットに広く見られる。飽和化市場では従来の普及率を高める市場開拓方法にだけ頼ることには無理があり必然的に発想基盤を変えた

市場開拓方法が求められる。そこに新製品開発、商品イメージの転換、従来のターゲットから新しいターゲットへの切替えなどによる新市場の創造、新規需要

の開発のもつ重要性がある。消費財関連企業を中心に、飽和市場の打開策は、今後のマーケティング活動の主流をなすテーマとなろう。 ◆脱・飽和化市場(postsaturated market)〔1998年版 マーケティング〕 飽和状態になっているマーケットからの企業努力による脱出作戦。企業多角化、異分野への進出、成長分野への参入などによって、ゴーイング・コンサーン(先

進企業体)としての存続を図る脱出志向は、業種・業界の如何を問わず、一層強化されそうである。 ◆顧客満足(CS)(Customer Satisfaction)〔1998年版 マーケティング〕

今日のマーケティングの基本的な考え方は、顧客のニーズを満たすこと=顧客満足を追求し、その結果として企業は利益を享受することにある。この意味では、

顧客満足という概念自体は決して新しいものではないが、あらためて顧客満足(CS)についての関心が高まっている。

従来は、売上げや収益によってCSを間接的に測っていたが、CSを経営全体の目標として置き、直接的に測定していこうという考え方が、今日のCSである。 ◆ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプト/ソサイエタル・マーケティング・コンセプト(humanistic marketing concept/societal marketing concept)〔1998年版 マーケティング〕

顧客のニーズ(欠乏感)やウォンツ(欠乏感を満たすための商品やサービスにたいする欲求)を満たし、その結果として企業は価値を実現し利益を獲得してい

こうというマーケティング・コンセプトにたいして、その問題点を解決するためのマーケティング理念として考えられたもの。P・コトラーによれば、従来の

マーケティング・コンセプトでは、消費者の短期的なウォンツのみが考えられており、長期的なニーズは軽視されてきた。たとえば、タバコへのウォンツを満

たすことは、長期的な消費者の利益にはならない。ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプトは、消費者の長期的利益を考えたマーケティングを展

開すべきだというマーケティング理念である。しかし、消費者の利益に貢献することは、必ずしも社会の利益を生むことにはならない。そこで、単に標的市場

の利益にとどまらず、社会の利益を同時に実現できるマーケティングが望まれる。こうした理念がソサイエタル・マーケティング・コンセプトである。 ◆ワン・トゥ・ワン・マーケティング(one to one marketing)〔1998年版 マーケティング〕

データ・ベース、コンピュータ、ネットワーク、テレコミュニケーションをはじめとする情報・通信技術の発展によって、顧客とのワン・トゥ・ワン(一対一)

の相互関係を前提としたマーケティングが可能となった。これをワン・トゥ・ワン・マーケティングという。一九六○年代のマス・マーケティングから七○年

代、八○年代のセグメンテッド・マーケティングへの移行は、多様なセグメントへの効果的なマーケティングを追求したものであったが、それは単にマス・マ

ーケティングよりも市場規模が小さくなっただけであった。顧客との関係性を前提としたリレーションシップ・マーケティングを情報テクノロジーで武装する

ことにより、顧客一人一人を把握し、一対一で対話し、個別の仕様に従ってカスタマイズ(個客化)した製品・サービスの提供を可能にした。消費者の個性化・

多様化が進展する中で、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの重要性の認識が高まっている。

■マス・マーケティング → ■ワン・トゥ・ワン・マーケティング 顧客獲得(Customer-getting)→ 顧客維持(Customer-Keeping)

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販売・取引(Transaction)→ 関係づくり(Relationship)

販売促進戦略(Promotion)→ 顧客サービス中心(Customer Service) 市場シェア(Market Share)→ 顧客シェア(Customer Share) 製品品質志向→ クォリティ中心(顧客を満足させる性質)

To Automate→ To Informate 集中処理志向→ 分散協調志向

マネジメント志向(Management)→ エンパワーメント志向(Empowerment) モノローグ型(Monologue)→ 対話型(Dialogue)

※〔「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」D.ペパーズ, M.ロジャーズ, 井関利明監訳, P.vi,ダイヤモンド社〕

◆従業員満足(ES)(Employee Satisfaction)〔1998年版 マーケティング〕 CS(顧客満足)は企業の環境(市場)にたいする考え方であるが、ES(従業員満足)は、CSを実現する企業内組織の満足がCS同様に重要であり、企業

の業績を左右する問題であるとして議論をよんでいる。多元的価値社会の到来と共に、いかにESを高め組織のモラルやモチベーションを向上させていくか、

ESを高める新たな組織観とは何かが模索されている。 ◆感性消費(emotional consumption)〔1998年版 マーケティング〕

感覚や気分を基準において物・サービスを消費すること。さまざまの消費場面における選択肢が増大し、消費の多様化・個性化・分散化傾向が強まっている。

とくに人並み意識が希薄になるにつれて、人々が「良い・悪い」という社会的規範や価値観に従った消費行動よりも、むしろ「好き・嫌い」という価値観に従

った消費行動をとるようになってきている。この「好き・嫌い」という選択基準を「感性」と称している。このような消費行動をとる具体的な商品ジャンルに

は、ファッション性・嗜好性の強いもので、機能的・品質的に商品間の差異がほとんどないもの、例えば雑誌、文房具、食品といった分野で顕著な傾向を示し

ている。しかもこうした行動をとるのはヤング層・女性層に多い。

◆ハイ・クオリティ型消費(high quality consumption)〔1998年版 マーケティング〕 消費と所得は不可分の関係にあるが、本物、真の高級品に糸目をつけずにする消費をハイ・クオリティ型消費と呼ぶ。オーセンティック(authentic)型消費

ともいう。成熟社会に見られる一つの消費性向である。 ◆階層消費時代〔1998年版 マーケティング〕

「中流意識」が、上、下に分化し、消費面の格差が拡大しつつあるとの時代認識。大衆消費時代の終焉は各方面で議論され「分衆の時代」「階層の時代」「小衆

の時代」といった呼び方がなされている。現実に、明日の食事にもこと欠くというほどの貧乏層は見当たらないにせよ、そうだからといって余裕はないという

ニュープア層の増加は「中流層」を分化させると同時に、消費市場にも大きなインパクトを与えている。

◆消費のUカーブ〔1998年版 マーケティング〕 高額商品に対する所得と支出の傾向を描いたカーブ。一般に、所得が高い人ほど高級商品を購入すると考えられるが、アメリカでの高級車の購買者調査によれ

ば、図〈†10〉のような結果が得られた。ここでの所得は納税額を基準にしているため、低所得者層にはドラッグ・ディーラー(麻薬の販売者)などのアンダーグラウンド・ビジネスでの高所得者が実際には含まれていること、また、一台の車を共同で購入している例もみられる。興味深い点は、状況は異なるが、日

本でも同じような傾向がみられることである。この理由は、中間層が家やマンションのローン、子供の教育などへの支出額が大きい傾向があるのに対し、若い

独身層は所得の絶対額が低いにもかかわらず、すべての所得を自分一人のために支出できるからであろう。こうした傾向は自動車、オーディオ、レジャー関連

支出に顕著にみられる。

◆バイイング・パワー(buying power)〔1998年版 マーケティング〕 大規模小売業とくに量販店がもつ巨大な販売力を背景にした仕入力・購買力を意味する。これはスケール・メリットによる流通効率化、消費者利益に貢献する

一方、他方では合理的、公正な商取引から逸脱した範囲で、売り手へのパワー・プレッシャー、取引における優越的地位の乱用という経済的摩擦を起こしやす

い。 ◆デモンストレーション効果(demonstration effect)〔1998年版 マーケティング〕

もともとは経済学用語で、「人々はより高い所得層の消費にひかれ、経済的なゆとりができると消費を増大させる傾向」があり、これをデモンストレーション

効果と呼ぶ。略してデモ効果ともいう。今日の消費社会のなかでは、このデモ効果が薄れ、必ずしも企業側の期待する成果をもたらさなくなりつつある。

◆テスト・マーケティング(test marketing)〔1998年版 マーケティング〕 全国マーケットを狙った商品企画やイベント企画を、いきなり打ったのでは、もし失敗した場合、そのこうむるリスクは計り知れない。そのため限定した市場

で本番と同じマーケティング活動をテスト的に行い、その実施結果から、本格展開の際に修正する点があれば調整して、本番に備えるというもの。そのような

目的で実施されるものであるため、テスト・マーケティングの対象地域としては広島、静岡、札幌など全国市場をコンパクトにした平均的な市場特性をもった

ところが、一般的には選択される。

◆マーチャンダイジング(merchandising)〔1998年版 マーケティング〕 一般に商品化計画と訳されている。適正な商品を、適正な値段で、適正な時期に、適正な数量を提供するための計画。つまり、科学的な手法をもとにした売れ

る製品づくり、または適切な品揃え計画のこと。前者はメーカーの立場、後者は流通業者の立場に立ったものであるが、マーチャンダイジングは、とくに後者

を意味する場合が多い。 ◆プロダクト・プランニング(product planning)〔1998年版 マーケティング〕

製品計画という。消費者ニーズに、的確に適応するための計画をさす。マーチャンダイジングが主として流通業者のそれを意味するのに対し、製品計画はメー

カーのそれを意味する。その内容は科学的な市場調査に立脚し、(1)製品・パッケージの開発・改良、(2)ブランドの設定、(3)価格決定、(4)製品に付

随したサービスの開発、(5)製品ミックスの構成などが含まれる。 ◆テレ・マーケティング(telephone and telegraph marketing)〔1998年版 マーケティング〕

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電話を中心とした通信手段によるマーケティング活動。ダイレクト・マーケティングのひとつ。訪問販売と比較し、相対的に低コストで、販促活動と連動させ

れば消費者へのそれなりの効果も期待できるため、関係者の関心を集めている。アメリカでは急成長を遂げているといわれるが、わが国ではいまだ電話セール

スの印象がよくなく、その普及には多くの壁を乗り越えなければならないだろう。 ◆パーソナル・マーチャンダイジング(personal merchandising)〔1998年版 マーケティング〕

文字どおり、個人を対象とした品揃えのこと。マーケティングの世界では、これまで不特定多数の大衆相手に商売を行ってきたところが多いが、これからは「あ

なただけ」という限定付の商売が必要とされている。しかし行き過ぎたパーソナル・マーチャンダイジングは、結局、注文生産、注文販売とならざるを得ない

だけに企業としてのプロフィットをどう確保していくか、消費の多様化・差別化といわれながらもきわめて類型的・均質的といわれる時代背景のなかでどんな

コンセプトでロットをくくるかが大きな問題である。 ◆対話型マーケティング(dialogue marketing)〔1998年版 マーケティング〕

顧客との対話によってマーケティングを成功に導こうとする新しいマーケティング戦略の考え方。マーケティング戦略を策定するうえで、まず標的市場のニー

ズを確定し、その市場ニーズに適合したマーケティング・ミックスを計画することが重視されてきた。マーケティングの成功は、出発点である市場ニーズの的

確な把握、そのニーズへの製品・価格・プロモーション・流通チャネルの適合化に鍵があると考えられてきた。しかし、今日の新製品開発の現場では、市場ニ

ーズは先に存在・確定するものではなく、不断の顧客との対話のプロセスを通じて徐々に理解され、明らかになっていくという構成的な立場がよく見られるよ

うになった。市場が多様化・多次元化すればするほど市場ニーズを最初に確定することは困難になり、むしろ顧客との対話を通じて発見し、マーケティング・

ミックスも調整されていくという視点が重要であるという戦略論である。 ◆ダイレクト・マーケティング(direct marketing)〔1998年版 マーケティング〕

流通チャンネルを少しでも短くし、マーケティング担当機関の数を減らすことを指向する考え方。最近は、とくに顧客に関するデータ・ベースを武器とした通

信販売等の無店舗販売を指して用いられることが多い。その背景には、大衆消費社会の到来、知的水準の高度化、女性の社会進出といった社会的要因とともに、

日常の義務的買物行動が苦痛となってきた消費者の心理的要因も考えられる。わが国におけるダイレクト・マーケティングはここのところ多様な広がりを見せ

ており、この分野への新規参入業者が盛んである。しかもメーカー、商社、卸売業、スーパー、小売業、出版社といった多種多様の業種・業態にまたがってお

り、通信販売、訪問販売をはじめとしたダイレクト・マーケティングは消費生活に革新をもたらす要素を多分に含んでいる。

◆マーケット・セグメンテーション(market segmentation)〔1998年版 マーケティング〕 市場細分化。市場を、顧客の所得、地域、嗜好、年齢、職業等、およそ販売に影響を与える要因をすべて考慮に入れて細分化し、それぞれの特性に応じたきめ

細かい商品政策によりマーケティングを行うこと。それを生産、製品、販売の側からいうと、ディファレンシエーション(differentiation)すなわち多種化、多様化になる。自動車会社が、小型大衆車から大型高級車までフルラインの乗用車をもとうとするのは、この戦略に立つものである。

◆すきま戦略(niche strategy)〔1998年版 マーケティング〕 市場のすきまを埋めていく戦略。niche(ニッチ)とは、くぼみ、適所という意味。たとえばコンビニエンス・ストアの急成長の背景には、大手スーパー、一般小売店のカバーしえないマーケット・ニーズ(すきま)があったからだといわれる。そのすきまに応えるべくコンビニエンス・ストアは、立地的便宜性、品

揃え面での便宜性、時間的便宜性をもって対応している。さらに最近では、宅配便、クリーニング、DPEの取次など、商品以外のサービス合戦が展開されて

いる。こうしたすきま戦略は、市場の成熟度が増すほど、いっそう重視される。

◆セールス・プロモーション(SP)(Sales Promotion)〔1998年版 マーケティング〕 広義では販売促進、狭義では、広告、人的販売、パブリシティを除いたものをいう。各種の方法を通じて需要を喚起し刺激すること。つまり、見込顧客に対し、

商品なりサービスなりについて需要をもつよう仕向け、あるいは、その欲望をさらに大きく、さらに強くさせるように仕向けることである。質的レベルでの競

争が激化する中で、このセールス・プロモーション活動は現代マーケティングの中心課題のひとつとなっている。 ◆消費者インセンティブ(consumer's incentive)〔1998年版 マーケティング〕

セールス・プロモーション(SP)の一環として、消費者を対象に企業が行う購買刺激、動機づけのこと。具体的な方法にはサンプリング(見本配布)、キャ

ンペーン、各種講演会、工場見学会などがある。近年、市場の成熟化、飽和化傾向が強まるなかで、消費者の商品(商店)選択基準が企業そのもののイメージ

と密接に結びつくようになってきた。消費者インセンティブは間接的な形ではあるが消費者の信頼感を高め、消費刺激効果のある手段として重要な位置を占め

る。最近では知名度、認知度を高める広告と同時にSP活動の主流となりつつある。 ◆POSシステム(Point Of Sales system)〔1998年版 マーケティング〕

販売時点情報管理システム。販売時点(小売店頭)における販売活動を総合的に把握するシステム。本社(本部)と各店舗の端末(レジスター)を連結させる

ことで、販売時点での売上管理、在庫管理、商品管理などが容易にできる仕組みである。このシステムを信用販売に適用すれば、端末機にセットされたカード

によって、利用者の信用照会、計算処理ができる。これをさらに利用者の銀行口座と結べば、自動振替による決済もでき、情報管理の合理化、イノベーション

手段として、流通業界で広く採用されつつある。一三桁のバーコードを使ってすべてが管理できる仕組みになっている。一三桁ある数字のうち、最初の二桁が

国名、次の五桁が会社名、その次の五桁が商品名を表し、最後の一桁は数字(コード)のエラーをチェックするための数字。このため価格は別途に表示される。

◆スーパー・タグ(super tag)〔1998年版 マーケティング〕 商品に取り付けられた送受信のための小さいIC素子と印刷されたアンテナ(約三センチ四方)に電波を当てると、商品の種類と値段を示す電波を発信し、商

品五○個の値段を一秒で読みとることができる装置。これによって、これまでのPOSレジのように、いちいち値段を読みとることが必要なくなり、買い物カ

ートのごちゃ混ぜになった商品の値段が一度にわかるようになる。この技術は、イギリスのブリティッシュ・テクノロジー・グループと南アフリカの研究開発

機関であるCSIRによって開発されている。現在では、IC一つ当たり数百円かかるが、大量生産できれば二円以下になる見込みで、実用の可能性が期待さ

れる。 ◆物流バーコード〔1998年版 マーケティング〕

POSが店頭でバーコードを用いるのに対して、物流上の検品、仕分け、在庫管理のためにダンボールに表示され、用いられるバーコードで、アメリカやヨー

ロッパで普及してきている。わが国では、菓子、日用雑貨、化粧品、医薬品メーカー、大手量販店などが採用しはじめており、今後、入荷のさいの検品自動化

などを目的として、普及することが予想される。一般に日本共通商品コード(JAN)に商品の数(仕入数)を加えた標準物流シンボル(ITF)が国際コー

ド協会(EAN)で決められ、用いられている。

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◆新型コード(new code)〔1998年版 マーケティング〕

従来のバーコードに対し、漢字の「田」の字を基本パターンとしたコード。従来のバーコードは世界的コンピュータ・メーカーのIBMが特許をもっており、

きわめて高い印刷精度が要求されている。新型コードは、たとえ多少の誤差があったとしても読取りには差し支えないうえ、原版一点あたり二○円と割安で、

盛り込める情報量も多く、二段重ねにすれば二五六種の表現が可能とあって、関係各方面に大きな反響を与えている。この新型コードは、「カルラコード」と

名づけられ、特許を申請中。カルラシステム(株)が、その運営にあたっている。幅広い利用法が考えられ、今後、情報化社会の申し子ともいうべき役割を果

たす可能性を秘めている。

◆ベリコード(beli-code)〔1998年版 マーケティング〕 アメリカのベリテックス社が開発したもので、POSで用いられる従来のバーコードの八倍以上の情報量が入力可能な商品管理システムに用いられるコード。

新製品の急増に伴うバーコード不足が深刻化している現在、有望な代替システムと考えられる。正方形を升目状に区切ったところに白と黒の模様により商品情

報を記録、読み取り装置とコンピュータで情報の解析が可能となる。 ◆サンプル・セーリング・システム(sample selling system)〔1998年版 マーケティング〕

商品のサンプルだけで小売するシステム。スーパーや百貨店で商品のサンプルだけを陳列しておき、顧客が好みの商品を買うとき、その商品のコードナンバー

が打ってあるカードを店員から受け取って、それを売り場に持って行くと、帰るまでに無人倉庫から品物が受渡し口に届く。大型スーパーの今後を示唆するひ

とつの形といえる。 ▲流通・物流〔1998年版 マーケティング〕 ◆戦略的同盟/製販同盟(strategic alliance)〔1998年版 マーケティング〕

生活者である顧客に対しての価値づくりこそが、今日のメーカー・サービス業・小売業を問わず重要な問題であるという認識が高まっている。この価値づくり

を行うためには、関係する企業間の協働関係が必要であり、この関係を戦略的に作り上げようとする同盟関係を戦略的同盟という。その代表的なものとして、

小売の大規模化による交渉力の増大とともにメーカーと小売間に発展していったこれまでの競争関係に代わって、川下の顧客の生活情報をもつ小売業とその情

報を活かして自らの製品開発力を発揮できるメーカーとの製販同盟が挙げられる。 戦略的同盟を結んでいる企業としてアメリカのウォルマートとP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、日本ではダイエーと味の素、セブン・イレブン・

ジャパンとアメリカの食料品メーカー、フィリップ・モリスなどがある。ウォルマート社では、顧客に対する価値づくりの観点から、メーカーとの価値観の共

有・強い協力体制・コスト圧縮と効率改善と高いレベルのサービスの両立を果たすために、メーカーとの戦略的同盟を結んだ。同社の全店のPOSデータは、

衛星通信によってリアル・タイムに同盟関係のメーカーに送られ、それによって効果的な製品開発を可能にし、在庫管理・物流などのコスト効率を改善し、特

売ではないEDLP(Every Day Low Price 安定的に毎日安い)を実現している。こうした企業間の同盟関係は、顧客満足型経営の重要性の認識の高まりと

共に、ますます進展していくことが予測される。 ◆物流管理(physical distribution management)〔1998年版 マーケティング〕 物流とは、物的流通の略であり、生産から消費にいたる物の流れを、経済的、技術的に合理化するための計画的・組織的マネジメント体系の一環をいう。物流

は、流通近代化として国民経済の課題であると同時に、個別企業の立場からマーケティング活動の合理化を促進する課題となっている。後者の観点からは、物

的流通を表す用語としてビジネス・ロジスティックス(business logistics)または、単にロジスティックスと表現することもある。

◆コントラクト・ウェアハウス(contract warehouse)〔1998年版 マーケティング〕 物流業の新しい経営形態で、委託倉庫(コントラクト・ウェアハウス)型の物流サービス業務を行う。コントラクトとは本来「契約」という意味。食品、化粧

品、家庭用品などの直接的に競合関係のない異業種メーカーからの委託を受け、保管、配送業務を協業化し、受注や配送情報もコンピュータで処理して効率的

な物流管理を行うところに特徴がある。通常、一社のコントラクト・ウェアハウスは二○‐三○社のメーカーからの委託を受ける。アメリカを中心に最近台頭

してきたが、わが国においても大手運輸業者(西濃運輸)と中堅倉庫業者(鈴与倉庫)による共同出資で同様の新型物流サービス業への全国展開が見られる。

◆パレチゼーション(palletization)〔1998年版 マーケティング〕 商品自体は全然動かさずに、商品をのせたパレット(荷台)だけを動かすというユニット輸送システムの一つ。パレット輸送は物流における荷役の陰の主役と

いわれ、一般的なパレットの普及は年平均三○%の割合で伸長しており、今後ともこのパーセンテージはくずれないとされている。しかし、通産省が一貫パレ

チゼーション用に決定した規格パレット(8型と 11 型)の普及率が低く、パレットプール制、パレットレンタル、輸送体制におけるパレチゼーション未確立など多くの問題を残している。

◆コンテナリゼーション(containerization)〔1998年版 マーケティング〕 輸送のコンテナを工場にもちこみ、そのまま積載し、トレーラーで引いて直接、生産者から需要者へと運ぶ。梱包、荷役のコストダウン、輸送のスピードアッ

プをねらったもので、これを陸上コンテナという。新鮮な野菜、魚介類を小売へ直送するコールドチェーンの花形にもなる。陸上コンテナをそのまま船に積ん

で、港から港まで運ぶとすれば、大洋を越えて、工場と需要者を直結するドア・ツー・ドアが実現する。これを海上コンテナという。コンテナリゼーションは、

積みおろしの時間と労力をこれまでよりも大幅に短縮できる輸送革命である。

◆ピッキング・システム(picking system)〔1998年版 マーケティング〕 商品を仕分けし、それを取り出す一連の仕組み。ピッキングとは、商品を小分けすること。物流を担当する卸売業の主要な業務のひとつであり、この合理化は

受・発注業務や在庫管理と密接に結びつき、業績そのものを左右する重要な問題となっている。かつての人海戦術に頼ったやり方から、今日ではコンピュータ

を駆使したものに変化し、得意先からの少量多頻度注文に的確に対応すべく機械化が進展している。卸売業の真剣勝負をかけたサバイバル競争の一端を示した

ものでもある。 ▲販売形態と新商法〔1998年版 マーケティング〕 ◆再販指定商品の全廃〔1998年版 マーケティング〕

メーカーによる再販価格の維持は独占禁止法によって禁じられているが、指定再販と法定再販対象商品については例外とされてきた。これまで再販指定であっ

た医薬品、化粧品の一部も一九九七(平成九)年四月より指定から外され、指定再販制は全廃された。その結果、法定再販対象の新聞、書籍、レコードなどの

著作物だけが再販商品となった。 ◆オープン価格〔1998年版 マーケティング〕

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定価や標準価格、メーカー希望小売価格とは異なり、小売店が自由に値をつけることができる価格(制度)で、家電、食品、玩具業界などで増えている。オー

プン価格への移行傾向の背景には、実売価格との差が大きい、地域・店舗によって流通・人件費などの小売側のコストが異なるために小売店が価格を決めた方

がよいという考え方がある。公正取引委員会は、家電製品についてのオープン価格への切り替え基準として、「半数以上の店が二割以上値引きしている場合か、

三分の二以上の店が一五%以上の値引きをしている商品はオープン価格にする」と定めている。今日、この基準に該当する製品が増加しており、一九九三(平

成五)年一一月、公取委によるオープン化の徹底がはかられ、ビデオカメラなど家電メーカー八社は、三六四機種のオープン価格移行を行った。オープン価格

化された商品では、メーカー希望小売価格と実際の小売価格を対照させて表示することは不当景品類及び不当表示法で禁じられている。紳士服ディスカウンタ

ーで問題になっている仕入れ価格を大幅に上回る自店通常販売価格との比較によって値引率が高いように見せかける不当な二重価格表示などの問題の解決や、

小売努力による低価格化の進展、といった望ましい点がある反面、基準価格が表示されなくなるために、消費者の商品知識や品質を見る目が必要となる。 ◆ストア・コンセプト(store concept)〔1998年版 マーケティング〕

店づくり、店舗運営における基本をなす考え方、理念。小売業における経営戦略の出発点をなすものであって、百貨店、専門店といった業態においては、とく

にこのストア・コンセプトが明確化されていない限り、マーチャンダイジング政策やイメージ戦略など市場標的と離れたところで見当外れの経営努力を行いか

ねない。既存店舗のリニューアル作戦がストア・コンセプトの洗い直しからスタートするのは、このためである。 ◆サイバー・ビジネス(cyber business)〔1998年版 マーケティング〕

「通信に関する現状報告」(通信白書)によれば、サイバー・ビジネスは、インターネットを使って日本語のホームページを開き、消費者に直接販売するビジ

ネス。食品、衣料品、書籍をはじめさまざまなサイバー店舗による通信販売ビジネスが展開されている。サイバービジネスの市場規模は、一九九六(平成八)

年度推計で二八五億円、前年比四○倍の急成長を遂げた。この市場規模は、世界市場の八%(九五年度一%)を占め、アメリカの七七%に比べるとまだまだ低

いものの、今後の成長が期待できる。 ◆スーパー・マーケット(super market)〔1998年版 マーケティング〕

食料品など日用品を中心に、セルフサービス、現金販売、大量・廉価販売を原則とする小売店。アメリカで不景気の一九三○年ごろから大都市郊外のあき倉庫

を使って超格安で、ビン・かん詰食料品などを大量販売したのが起源である。その特色は、(1)客は入口でバギー(手押車の一種)または手さげかごをとっ

て、店内に入る。(2)特殊な売場以外は店員がいない。(3)商品はすべての客の手のとどく範囲内に陳列されている。(4)必ず価格の表示がある。(5)客

は自分の欲する品物をバギーまたは手さげかごに入れて、出口で会計をする。(6)買物は袋に入れて持ち帰る。 ◆無店舗販売〔1998年版 マーケティング〕

店舗を構えずに、日用品、食料品、雑貨等の商品を販売する仕組みで、通信販売、カタログ販売、テレフォン・ショッピングなどの長所をとり入れた新しい小

売業態の一つである。消費者への時間や利便性にアピールするものとして注目を集めており、生活変化に応じた利用者層の存在はその発展の行方を握っている。

こうした無店舗販売の市場規模は、推定で一兆円にのぼるものとされ、その売上げは年率二桁の伸びを示している。 ◆ウェアハウス・ストア(warehouse store)〔1998年版 マーケティング〕 新しいタイプのディスカウント・ストア。できるだけ低コストな店づくりで、商品を安く提供することを目的とした小売業。ウェアハウスとは「倉庫」を意味

する。しかし、近年アメリカでは、カラフルな店内装飾を施し、顧客獲得に工夫を凝らした店舗づくりで成長を遂げるところが多くなってきた。この傾向は消

長の激しいアメリカ小売業界における競争の激しさを端的に示すものであり、わが国においても小売の未来業態のひとつとして大いに注目される。

◆カテゴリー・キラー(category killer)〔1998年版 マーケティング〕 アメリカのトイザラスのように、ある商品分野における圧倒的な品揃えとメーカーとの直接取引などによる、徹底したディスカウントを特徴とする巨大専門店。

大規模店舗法の改正による出店規制の緩和によって、海外のこうした小売業の参入が進展していくと考えられる。

◆ホールセール・クラブ(wholesale club)〔1998年版 マーケティング〕 ホールセールとは「卸売」という意味で、コストをかけない倉庫のような店舗で、一定の会費を払った会員はディスカウント価格で買物ができる、一九七○年

代にアメリカで登場した小売形態。日本では九二(平成四)年一○月にダイエーが兵庫県神戸ハーバーランドに会員制のホールセール・クラブ「Kou's」(コウズ)を開店した。しかし、アメリカではホールセール・クラブの成長は頭打ちになり、代わってパワーセンターが成長している。

◆パワー・センター(power center)〔1998年版 マーケティング〕 一九八○年代にアメリカで生まれ、急成長した流通形態。一店でも相当の集客力を持つ多くのディスカウンターやカテゴリー・キラーを同じ敷地内に集め、運

営されている。日本でもパワー・センター形式のものが見られるが、アメリカに比べ、強力なディスカウンター、カテゴリー・キラーの生育が遅かった。本格

的なパワー・センターの成長の鍵は、こうしたディスカウンター業態の発展にあり、その意味では今後のパワー・センターの成長が期待できる。 ◆ファクトリー・アウトレット(工場直販店)(factoty outlet)〔1998年版 マーケティング〕

有名ブランド商品が割安で買える工場直販店のこと。アメリカではじまった新業態で、通常の使用では気にならない程度のキズもの(通常の販売には適さない

商品)を、直営店でかなり安く売っている。日本でも直営店ではないが、アウトレットで買い付けた商品を売る店も現れている。 ◆コンビニエンス・ストア(convenience store)〔1998年版 マーケティング〕

大規模小売業が提供できないような便利さ(コンビニエンス)を顧客に提供することを目的とした小型スーパー・ストア。便利さのなかには、(1)立地的便

利さ―大半が住宅地に近接して立地し、周辺に住む顧客に生活必需品を中心として手軽に購入できる便利さを提供。(2)時間的便利さ―交代制、ところによ

っては二四時間営業、一般小売店の営業時間外や休日にも開店することによって、いつでも消費者に商品を提供できる便利さを提供。(3)品揃え面の便利さ

―緊急度の高い日常生活の必需品をできるだけ幅広く揃えることによって、顧客の生活に密着したどのような注文にもその場で応じうる便利さの提供、といっ

た三本の柱が含まれる。地域密着型の小売業態として、今後の動向が大いに注目される。 ◆ストア・オートメーション(SA)(Store Automation)〔1998年版 マーケティング〕 現代のハイテク機器を駆使した、小売店舗の自動化システム。たとえば、POSシステムと連動した陳列棚の価格表示自動化システム、光ファイバーによる店

内情報システムなど。こうした小売店舗の装置化は演出効果、雰囲気づくりに効果を発揮しようが、業態や業種による人間を重視したイメージ展開が新しい時

代に即した店づくりの基本的課題として残されている。

◆量販店〔1998年版 マーケティング〕 大量に商品を販売できる小売店。具体的には、ダイエー、西友ストア、イトーヨーカ堂などをはじめとする大手スーパーを暗黙裡に指すことが多いが、家庭電

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気専門店でも特定のメーカー系列に属することなく、各地域に支店をもち大きな売上高を誇る店舗をも含めて使われる。商品に基づく業種区分ではなく、店舗

数や売上高を基準にした業態区分のひとつである。 ◆質販店〔1998年版 マーケティング〕 「質」を販売することに主眼を置いた店。いわゆる量販店の対語。戦後に登場したわが国のスーパーは大量仕入、大量販売を中心とした安売り哲学で急成長を

遂げてきた。しかしここへきて、消費者の購買行動における品質重視の傾向、競争の激化に伴う差別化戦略の必要性から、画一的な商法では、企業の存続その

ものが危ぶまれる情勢となっている。「質販店」という言葉で表現される裏には、流通業界首脳の危機感、現状打開にかける意気込みをみてとることができる。

品質重視の経営姿勢は、終局的には高級化路線を歩むことになり、低価格を志向する消費者の存在がどのようにスーパー経営のなかにとり入れられるかが、成

否の鍵を握っているようである。 ◆ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア(general merchandise store)〔1998年版 マーケティング〕

小売業における業態の一つで総合的な品揃えをはかり一般大衆消費者を対象に販売するところから、総合小売業(GMS)といわれる。アメリカ流通業界の雄、

シアーズ・ローバック社はGMSの典型である。百貨店とはマーチャンダイズ・ポリシーの面で一線を画し超高級品は取り扱わない。わが国では、大手スーパ

ーチェーンの一部の店舗(準百貨店ともいうべき大型店舗)にこの傾向がうかがえる。 ◆フランチャイズ・チェーン(franchise chain)〔1998年版 マーケティング〕

商品の流通やサービスについて、フランチャイズ(特権)をもっている親業者(フランチャイザー franchiser)が、チェーンに参加する独立店(フランチャイジー franchisee)に対し、一定地域内の独占的販売権を与え、サービスを提供する契約を結び、その見返りとして、加盟独立店から特約料を徴収するようなチェーンをいう。契約チェーンと訳すこともある。このチェーンは強力な中央統制力(経営力)というレギュラー・チェーンの長所と、独立した資本・経営

手腕・意欲というボランタリー・チェーンの長所を組み合わせようとするところに特色がある。加盟独立店は、本部が指導する標準化された経営手法に従って

いれば、商品管理や販売促進策を本部がやってくれるから、地域特権を利用して、販売に専念すればよいことになる。この制度はアメリカで発達したものであ

るが、わが国にも、一九七○年代に入って急速に普及した。 ◆アンテナ・ショップ/パイロット・ショップ/センサー・ショップ(antenna shop/pilot shop/sensor shop)〔1998年版 マーケティング〕 メーカーや問屋が、消費動向、売れ筋商品、地域特性を把握し、自社の経営管理に役立てることを目的に、通常は直営方式で展開する店舗。情報収集や実験が

本来の目的であるが、最近の小売経営環境の激化にともなって、本格的な小売店経営に乗り出すところがふえている。最近では、有名企業が全く会社名を伏せ

た形で独自の事業として展開する覆面ショップも出てきている。実験段階にとどまっているうちはよいが、本格的展開にあたっては、経費面、人材面でネック

になることがある。アパレル業界、ファッション業界をはじめとする変化の激しい業界に多くみられる。 ◆通信販売(mail-order selling)〔1998年版 マーケティング〕

新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・カタログ等で広告し、郵便・電話等で注文を受け、商品を配送する販売方法。世界最大のアメリカの小売商シアーズ・ローバッ

ク社は、この方法で成長した。わが国では、欧米に比べると小売業売上げ全体に占める通販の比率は低いが、他の販売形態による売上げの伸びが低下するなか

で、近年、その伸び率の高いことが注目を集めている。高まる女性の社会進出、通販商品のクオリティと信頼性の向上、情報技術革新によるメディアの多様化

が、通信販売の成長性に拍車をかけている。また「訪問販売等に関する法律」では、その適正化のための法律関係を明確化し、とくにネガティブ・オプション

を全面的に規制している。

◆カタログ・ショッピング(catalog shopping)〔1998年版 マーケティング〕 カタログを参考に購買するもので、通信販売の一形態である。使用される媒体が印刷媒体(新聞、雑誌、DM等)であるところに特徴がある。この電波媒体版

がいわゆるテレビ・ショッピング、ラジオ・ショッピングとよばれるものである。カタログ販売はかつての郵便主体の注文方法から電話主体へ、代金の決済方

法にもクレジット・カードや銀行口座からの引落しが用いられるようになり、時代背景の変化とともに変貌を遂げつつある。カタログ販売も市場の成熟化、知

的水準・文化水準の高度化といった背景に支えられ、カタログを使った通信販売を利用する家庭が増えている。商品を見る目の肥えた現代の消費者は、しっか

りした商品の品揃え能力、価格設定の妥当な業者を選別する力を備えているだけに、消費者の支持が得られるよう評価を高めることが、次の飛躍につながる要

因となろう。

◆訪問販売(call sales)〔1998年版 マーケティング〕 販売員が直接顧客を戸別訪問し、必要な商品・サービス説明を行って販売するもの。伝統的な販売方法のひとつであるが、近年はダイレクト・マーケティング

やニューメディアの発達によって、訪問販売に参入する企業が多い。その背景には、(1)店舗への設備投資が不要、(2)潜在需要の開拓が可能、といった企

業側の積極的な市場開発努力がある。しかし、訪問販売は通信販売と同様、トラブルの発生が多いため「訪問販売等に関する法律」を強化し、消費者の便益を

守るよう一一二国会で改正された。改正のポイントは、(1)これまで規制の対象外とされていたサービス商品も含む、(2)場合によっては刑事罰の対象とな

りうることを盛り込んでおり、一九八八(昭和六三)年秋から実施されている。訪問販売の対象となる商品は多様であるが、化粧品・ミシン・書籍・ベッドな

どはその代表である。 ◆ケータリング・サービス(catering service)〔1998年版 マーケティング〕

ケータリングとは要求される品物を手渡すことを意味するが、それが転じて宴会、パーティー・イベントなどの設営・演出・料理の仕出しまでも含んだサービ

ス事業を意味するようになってきている。大手都市ホテルが新たな市場として力を注いでいるが、最近は大手レストラン・チェーンも参入し、競争が展開され

つつある。 ◆アポイントメント・セールス(appointment sales)〔1998年版 マーケティング〕

訪問販売の新種の一つ。同窓会名簿や組織団体のリストを手懸りに特定の人を電話で呼び出し、日時、場所を約束したうえで特典を説明し商品を売るやり方を

とる。商品には語学用教材、海外旅行などがつきもので、支払能力のない学生などが被害にあうことが多い。強引な勧誘方法、不要不急の商品、契約段階での

トラブルなど問題の多い商法。

◆コンサルティング営業(consulting business)〔1998年版 マーケティング〕 単に得意先や取引先に製品を販売するだけでなく、得意先・取引先と一緒になって諸々の企画を提案していくこと。コンサルティングとは、いろいろな形で相

談に乗ることを意味する。これからの営業マンには本来の営業マンの役割に加えて、コンサルタント的能力が強く要請される。 ◆業態〔1998年版 マーケティング〕

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小売業における営業形態。つまり、電気店、金物店、菓子店といった区分が取扱商品に基づく業種分類であるのに対し、百貨店、専門店、コンビニエンス・ス

トアなどは小売業態に関するものである。「業態」という言葉が出現してきた背景には、消費者の生活ニーズの多様化、新しい経営形態の小売業が出現してい

るなど、多くの変化が潜んでいる。 ▲製品とブランド〔1998年版 マーケティング〕

◆プロダクト・ライアビリティ(PL)(Product Liability)〔1998年版 マーケティング〕 製造物責任・生産物責任。狭義には、企業がその生産・販売した製品について消費者や社会一般に対する責任を意味し、広義には、製品の品質・機能・効用へ

の責任はもとより、当該製品の使用中・使用後の環境への影響にまで責任をもつべきだとする企業の姿勢・基本理念をも含んだものである。 ◆Sマーク〔1998年版 マーケティング〕 消費生活用製品安全法により日常生活で活用されるものの中から安全性について問題がありそうな製品について、そのものの安全性を確保するために必要な構

造、強度、爆発性、可燃性などについての基準を作成し、検定、型式承認などを行い、適合すると認めたものに「S」マークをつける。Sマークは一般消費者

の生命・身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いものを「特定製品」として政令で指定し、安全基準に適合していれば、「S」(Safetyの略)マークをつけ、

かつ、Sマークのない製品の販売は禁止されている。 ◆リパック(repack)〔1998年版 マーケティング〕

再包装すること。一度包装されたものをすべて外して再び包装しなおし、それと同時に日付を変えること。とくにスーパーでは生鮮品などがパック入りの状態

でセルフ形式中心に販売されるために、パックにつけられた「日付」が消費者にとって重要な意味をもっている。したがって、リパックは、製造年月日、加工

年月日の適正表示に対する業者側の苦肉の対応策ともいえるが、消費者の日付に対する関心の高さから今後は論議をよぶであろう。

◆ブランド戦略〔1998年版 マーケティング〕 ブランド(brand 商標)を売り込み、他の同一製品と自己の製品とを差別し競争上有利な地位を築くマーケティング戦略。高価な商品や嗜好品のような商品

はもとより、従来ブランドなど問題にならないとされてきた分野にも、この戦略は広まりつつある。従来は、メーカー・ブランドが中心であったが、百貨店・

スーパー・生協など流通業者が自社ブランドをメーカーにつけさせ、自己の責任で販売する例が急増している。今後この傾向はあらゆる商品に広まるであろう

が、それにつれて消費者はブランドの内容に目を向けなければならない。

◆ブランド・エクイティ(brand equity)〔1998年版 マーケティング〕 ブランド、ブランド・ネーム、シンボル性によって形成されるブランドの資産と負債であり、ブランド・エクイティがプラスの資産となる時は企業とその製品・

サービスの価値を増大させ、一方、負債となる時は減少させるというブランドに対する考え方である。D・A・アーカーによればブランド・エクイティは次の

五つの要素から構成され、ブランドを育成することによって競争上の優位性を獲得し、効果的ブランド戦略を展開するうえで重要な概念であるといえよう。(1)

ブランド・ロイヤルティ、(2)ブランド・ネームの認知度、(3)知覚される品質、(4)ブランド連想、(5)ブランドに関する特許・商標・チャネルなどの

所有権。 ◆ナショナル・ブランド(NB)(National Brand)〔1998年版 マーケティング〕

AMA(アメリカ・マーケティング協会)の定義によれば「通常、広い地域にわたる適用を確保している、製造業者あるいは生産者のブランド」である。一般

に製造業者ブランドと呼ばれ、PB(プライベート・ブランド)に対応する用語として使われる。

◆デザイナーズ・アンド・キャラクター・ブランド(DC商品)(designer's and character brand)〔1998年版 マーケティング〕 有名デザイナーの手になるブランド商品。著名ブランドの商品群を揃えることで多様化した消費者の差別欲求を充足させ、デザイン・品質に対する価値を高め、

店舗イメージや店格の向上を図ろうとするもの。最近では、大手百貨店が独自の売り場展開を行い、需要の掘り起こしや独特のイメージ作りを競っており、小

売マーチャンダイジングの軸となっている。 ◆シングル対象商品(goods for single market)〔1998年版 マーケティング〕

一人暮らしを対象とした商品。パーソナル用の家電品、デザインや機能に工夫をこらした時計や電話機など、その数は確実に増えている。単身赴任世帯、一人

暮らしの女性世帯などを念頭においた商品の開発は、多様に分解するマーケット・ニーズに応える一方で、シングル・ライフをあるボリューム・ゾーンとして

把握するには感性をみがく必要があり、それだけに、ヒットする要因をていねいに分析しておくことが重要となる。 ◆プライベート・ブランド(private brand)〔1998年版 マーケティング〕 略してPBともいう。ブランド戦略のひとつだが、商品開発は、安価で良質の商品を求める消費者のニーズに合わせている。すなわち、既存の生産、流通ルー

トでは安くて品質がよい商品を仕入れるには限界があるところから、主としてスーパー・マーケットなどの大手小売業者が、自社の顧客に合わせて独自のブラ

ンドによる商品の開発を行い、売り出したものをさす。この場合の製造業者は、一流メーカーであることが多く、生産されたものはすべて発注者である小売業

者が買い取る。したがって、メーカーの危険負担は小さくてすみ、消費者は一流メーカーの品を安く買うことができる。生協のコープ商品もPB商品の一種で

ある。 ◆ストア・ブランド(SB)(Store Brand)〔1998年版 マーケティング〕

PB(プライベート・ブランド)の同義語。従来のPBがむだなコストを省き、実質価値を重視するという、本来の意味を失い、消費者に悪いイメージを印象

づけ、単にNB(ナショナル・ブランド)の対立語になり下がってしまったことを考慮した大手スーパーの一部では、ブランドと新しい店舗イメージとの一体

化をはかるために、ことばそのものを替えて、あえてSBの呼称を採用している。 ◆ノーブランド(no brand)〔1998年版 マーケティング〕

加工食品、日用雑貨品などの家庭用品を中心として、ブランド名をまったくつけず、白紙にその商品の一般名称(マヨネーズ、洗剤、ウイスキーなど)と容量

および法律で定められた事項のみ記されている商品。カラー印刷のラベルや写真の類も全くなく、その分だけSB(ストア・ブランド)商品と比べ一○‐三五%

程度安価である。ジェネリック・ブランド(generic brand)、ノーネーム(no name)、プレインラップ(plain wrap)などともよばれる。ブランド離れをはじ

めた、わが国消費者にとっても、低価格志向の強い層を中心に、ノーブランド商品が受け入れられていく可能性は大きいとみられる。一部の大手スーパーやボ

ックス・ストアでは、ノーブランド商品を主力とした品揃えで、消費者への浸透をはかっているところもあるが、品質における信頼性の面では、解決すべき問

題も多い。 ◆個店ブランド(individual store brand)〔1998年版 マーケティング〕

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その店でしか購入できない、独自のブランド。PBのバリエーションの一つと考えられるが、PBやSBが増える中で、どれだけの地位を築くことができるか

は、未知数の要素が多い。 ▽執筆者〔1998年版 現代産業〕 牧野 昇(まきの・のぼる)

三菱総合研究所相談役 1921年栃木県生まれ。東大卒,同大大学院修了。工学博士,技術士。東大講師,三菱製鋼取締役,三菱総合研究所取締役会長を経て,現職。著書は『逆

説日本産業論』『新・企業繁栄論』など多数。MTマグネットの発明者として知られる。 松井幹雄(まつい・みきお) 三菱総合研究所研究理事

◎解説の角度〔1998年版 現代産業〕 ●日本産業は歴史的な転換期を迎えており、九○年代後半は次の発展に向けての構造改革と条件整備に費やされることになろう。日本産業が直面する環境は、

ボーダレス化、情報ネットワーク化さらに高齢化・少子化社会の進行であり、しかも変化が早く競争の激しいグローバリゼーションが進展している。 ●日本の目指す改革は、横並びの競争から環境に対する多様な挑戦や試行が可能なシステム、つまり自由で効率的な市場メカニズムが機能し、企業家精神が発

揮できるシステムへの転換であり、とりわけアングロサクソン型の競争システムが事実上国際的スタンダードになるとする見方も一部に出ている。九六年後半

から日本産業の二極化、即ちリストラをいち早く終えて業績的にも過去最高の水準に迫る先行産業‐自動車、エレクトロニクス、OA機器等‐と、かつての規

制産業でしかもバブル経済の強い影響を受けて未だリストラの過程にある建設、不動産、金融サービス等、さらにそれぞれが強者と弱者に二分化されるという

兆候も顕著になってきた。 ●海外への本格的な生産移転(空洞化)や国際調達の拡大、情報ネットワーク化も産業のあり方に大きなインパクトを与えはじめている。特にインターネット

に代表される情報ネットワーク化の動きは、中期的にみて産業構造や企業戦略に大きな影響を与えることが確実視され、情報戦略の優劣が企業の盛衰を決める

という見方が高まってきた。 ●このように環境変化が加速化する中で、企業は組織を簡素化し意思決定のスピードを早め、グローバルな視野に立った企業活動の最適配分・立地を求める動

きも強い。 ▲産業発展と産業構造〔1998年版 現代産業〕

キャッチアップを終えた日本の企業は、円高や貿易摩擦に直面する中でアジア地域をはじめ海外との企業内分業を積極的に進めグローバルなレベルでの構造変

革に取り組んでいる。日本は、賃金・土地価格にはじまり、エネルギー、輸送費その他産業の活動を支える投入要素の費用が世界の中で最も高い国になってし

まった。しかも製品市場から、製品を作り出すシステム、インフラストラクチャーへと競争が拡大している中で日本産業の競争力にとって大きなマイナス要因

である。 従来と同じ製品を同じ方法で国内生産するので、コスト的に競争できないために海外へ生産移転が行われ、その海外工場からの製品輸入が増える。日本は新製

品の開発や、海外向け生産設備などに製造業の主力が移り、貿易の対象にならない環境、医療・福祉等第三次産業のウェイトが高まっている。 もう一つの変化は、情報ネットワーク関連の技術革新とコスト低下が、新たな産業連関の形成や新産業の成長を促していることで、例えばエレクトロニック・

コマース、エレクトロニック・バンキングなどインターネット関連ビジネス等の成長がその一例である。 ◆産業構造の高度化〔1998年版 現代産業〕 高次の発展段階への移行をともなう産業構造の変化のこと。農林漁業(第一次産業)の支配的な産業構造が、鉱・工業(第二次産業)のウェイトの高い構造へ

と移行する工業化、初期の工業化を主導した軽工業(消費財産業)から重化学工業(生産財・資本財産業)へと工業内部のウェイトが変化する重工業化、加工

度の低い素材産業から、加工産業や組立産業、とりわけ組立産業のウェイトが増大する高加工度化の傾向や、サービス産業(第三次産業)のウェイトが増大す

るサービス化などの発展段階がある。産業構造の高加工度化、サービス化が進む一方、エレクトロニクス・情報通信分野の技術革新が進み、金融、流通、情報

通信等、ソフトウェアを中心に産業の情報化・知識集約化、さらに情報そのものをビジネスの対象とする情報の産業化が進展する。最近のコンピュータ関連機

器の値下がりと普及で高度情報社会に向かう産業構造の変化が加速する兆しをみせている。 ◆産業の空洞化〔1998年版 現代産業〕 ディインダストリアリゼーション(deindustrialization)。主要産業の海外進出に伴い国内の産業活動、特に製造業が衰退に向かうこと。急激な円高傾向や貿易

摩擦の激化などによる輸出の停滞に伴い、自動車・エレクトロニクスなど、わが国の代表的なハイテク輸出産業の現地生産化に拍車がかかった一九八○年代後

半に空洞化が議論された。ちなみに、九五(平成七)年度の海外直接投資額は四兆九五六○億円と対前年比一五・八%増となった。地域別に見ると、北米向け

が減少から増加に転じたが、アジアではASEANと中国向けの増加が顕著であった。 このような産業の現地生産化はわが国の地域的産業・経済の発展を損ない、マクロ的な産業・経済活動にも支障をきたすと空洞化が危惧されたが、実態はむし

ろ国際分業をすすめ、わが国産業の高度化を促しているといえよう。

九五年に入り円高が進んだために、改めて空洞化(hollowing out)が問題化した。八○年代に設立した海外の組立工場向けに日本から部品を輸出するという戦略が円高でコスト的に成立しなくなり、本格的な生産設備を現地へ移行せざるをえなくなったためである。いま必要とされるのは、次の技術開発、とりわけ新

製品開発のための本格的な取り組みであり、これによってのみ空洞化は回避できる。この他、外国企業の受入れも大きな課題となっている。 ◆フルセット型産業構造〔1998年版 現代産業〕

日本は、欧米を含む先進工業国の中で、全ての産業分野を一定レベルで国内に抱え込みながら、工業化を進めてきた唯一の国である。例えば、鉄鋼、造船、化

学、自動車、エレクトロニクス、繊維等を一国内にすべて丸抱えしている国は、工業化と並行して水平分業を進めそれぞれ得意産業を保有しながら、貿易を通

じて相互に依存しあう関係を形成した欧米諸国にはみられない。ちなみにヨーロッパでは、鉄鋼はドイツ、造船はイギリス、化学はドイツ、精密機械はスイス、

繊維はフランスとイタリアというように得意分野がはっきりしていた。 日本が産業を一式丸抱えした理由は、明治以来の工業化の過程で周囲に水平分業を展開する工業国が存在しなかったためだが、最近では軍需との関係が強い航

空宇宙産業等の海外依存型産業も出ている。いずれにしても昨今の東アジア地域の急速な工業化が水平分業を促し、日本のフルセット型産業構造の転換を不可

避にしている。

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◆地域ベンチャー〔1998年版 現代産業〕

「地方分権化と地方の時代」をむかえ健康・医療や環境をはじめ、地域密着・生活関連型の「地域ベンチャー」の成長に期待が集まり、全国各地域で地元企業

による異業種交流や地域活性化のための株式会社の設立も行われている。一九八○年代に脚光を浴びたハイテク技術やソフトウェア開発など研究開発型ベンチ

ャー・ビジネスや、大分県の一村一品運動から全国的に広がった地域産業おこしが一段落したこと、リゾート開発がバブル経済の崩壊で見直されるなど、地域

産業の不振が続いていた。このため、例えば九○年代初めの新規開業率(全法人に占める新規設立法人の割合)は、ピーク時の半分近くまで低下している。 しかし平成不況からの回復過程で、普通の中小企業や大企業の下請けで技術を蓄積した企業が地域のニーズを掘り起こしさまざまな地域ビジネスに挑戦しはじ

めている。マクロ的にも内需型成長をめざす日本経済の構造変化が進む中で、地域が新しい消費市場として浮上し、さまざまなビジネスが各地に育つ可能性が

出てきた。一例を挙げると生ゴミを肥料に変えるプラント、廃棄プラスチックの再処理技術、マイタケの人工栽培、学習塾などであり、産業の活性化、雇用の

受け皿として地域ベンチャーへの期待は大きい。

◆主導産業(リーディング・インダストリー)(leading industries)〔1998年版 現代産業〕 経済発展の各段階で、成長を牽引し一国の経済や国民生活に多大な影響を及ぼす産業のこと。主導産業の基準には、産業としての規模と成長性、他産業の発展

を誘発する波及効果の大きさ、輸出や雇用に対する寄与などがあげられよう。戦後の経済復興期から高度成長期における主導産業は、石炭・繊維・鉄鋼・造船、

化学、自動車・家電などのエネルギー多消費型の重化学工業や耐久消費財の製造業であった。一九八○年代に入り、技術革新の新しいうねりが生じ、マイクロ

エレクトロニクス革命・高度情報化の推進役であるエレクトロニクス産業や広義の情報産業が、リーディング・インダストリーとして登場しつつある。半導体

技術やデジタル技術、マルチメディア、通信技術などが革命的に進歩しつつあり、マルチメディアを軸にした人類未知の新しい時代が到来しようとしている。 ◆サポーティング・インダストリー(supporting industry)〔1998年版 現代産業〕

鋳物、鍛造など素形材や金型、部品および工作機械など機械工業の生産活動を支える裾野、周辺産業のこと。アジア諸国の工業化は一九八○年代から輸出産業

に主導されて急速な勢いで進行しており、引き続き二一世紀に向けて成長が期待されている。その中で、エネルギー、港湾・輸送・通信施設など社会資本の不

足とともにアジア諸国のサポーティング・インダストリーの脆弱性が問題になっている。これらの分野は中小企業で3K(きつい・きたない・きけん)業種に

属しているものが多く、わが国では人手を集めにくくなっているが、産業の高度化を狙うアジア諸国にとっては欠くことの出来ない産業である。一九九三(平

成五)年一月宮沢首相がASEAN諸国を訪問した際にその育成への協力が表明されており、今後わが国からサポーティング・インダストリーのアジア諸国へ

の工場進出や技術移転がさらに増大することになろう。 ◆産業用財産業〔1998年版 現代産業〕

産業用電子機器、半導体などの高度機能部品や金型など熟練を要する機械部品、あるいは工作機械、産業用ロボット、半導体製造装置などの技術集約的な資本

財を供給する産業の総称。世界的に競争が激しくなる中で、生産技術の高度化、効率化が進み、また品質要求が厳しくなってきたために、エレクトロニクス製

品、自動車など消費財の加工・組立てを行っている産業やその部品産業などを中心に内外の需要が増えている。 わが国が、これまでに蓄積した高度な生産技術を生かせる分野であり、独壇場といえるものも多い。海外に展開するわが国企業向けだけでなく、世界各地の企

業向けに今後の需要拡大が期待され、わが国総輸出の七割近くを占めるに至っている。

◆文化産業〔1998年版 現代産業〕 急速な工業化を軸とした経済の高度成長によって、わが国の国民所得が先進国間の比較でみてもトップグループ水準に上昇したことを背景に、余暇=消費生活

と就業=勤労生活の内容をもっと豊かでゆとりあるものにしようという主張が強くなり、最近では生活大国構想が提唱されている。豊かさとは選択の多様性で

あるという主張もある。産業発展のうえでは、「脱工業化」「サービス経済化」「第三次産業化」の段階に達したというべきであり、文化教室、旅行、音楽、各

種イベント、ファッション、演劇、伝統工芸、そして多様な余暇商品・サービスの供給といった文化的、情緒的な満足を与える多様な文化産業が成長している。

機器等を含め総額三○兆円と言われるパチンコ産業はわが国の代表的な文化産業であろう。また、文化や福祉事業を企業が支援するフィランソロピーも注目を

浴びはじめた。欧米企業には、税引前利益の一%程度を社会に還元するのはあたりまえのこととする考え方がある。わが国でも利益の一%を社会への貢献に寄

付しようという活動が出ている。 ◆プロセス・イノベーション(process innovation)〔1998年版 現代産業〕

既存の製品の生産工程や生産技術を改良したり、新工程を創り出すことによって製品コストを削減する、あるいは品質・性能を改善する技術革新のこと。これ

に対応するのがプロダクト・イノベーション(product innovation)で、従来存在しなかった画期的な新製品を開発する技術革新である。最近世界から注目される日本の研究開発能力は、アメリカと対等ないしそれを上回る水準に到達している分野も少なくないが、内容をみると基礎研究よりも応用・開発研究に特徴

があり、それに裏打ちされたプロセス・イノベーションに強みがある。 VTR、テレビ、半導体、コンピュータ等は、いずれもアメリカで発明されたが、日本がこれに継続的な改良を加え、生産工程の技術革新によってコスト削減

を実現した。現在、世界市場での競争力は日本が強いが、アジア諸国を中心に発展途上国の追い上げも進展している。日本の今後の課題はプロダクト・イノベ

ーションといえよう。 ▲産業政策と産業動向〔1998年版 現代産業〕

鉄鋼、自動車など欧米諸国ですでに確立した産業を日本に輸入・育成する場合の産業政策と、欧米でも産業として創成期にあるマルチメディア、バイオテクノ

ロジーなど新産業を育成するための産業政策は異なる。

日本は、既存産業を欧米から導入する際に、官主導の下に効率的に技術導入を行ったり、新設備の特別償却を実施するなど産業の移植・育成に成功した。しか

し、製品コンセプトの創造や市場の開発を、それもリスク負担しながら進めなければならない新産業の場合、政府の果たすべき役割も当然変わらなければなら

ない。従来の規制や行政指導に代わり市場メカニズムを前提にした新しいルール作りや、ハイリスク・ハイリターンのベンチャー企業を創りだす企業家活動と

それを支える税制その他インセンティブの導入など仕組みづくりが課題となってきた。 ◆科学技術基本法〔1998年版 現代産業〕

今後のわが国科学技術政策の基本的な枠組みを定めたもので、二一世紀に向けて科学技術創造立国をめざす科学技術振興のバックボーンとなる法律。一九九五

(平成七)年一一月に制定された。政府は、この基本法に基づき、研究開発の推進に関する総合的な方針、研究開発環境の整備に関し講ずべき施策等を内容と

する科学技術基本計画を策定することが義務づけられており、現在、人材・資金の流動性を備えた競争的な研究環境、高い水準の研究開発基盤、研究者の活発

な創造的研究活動で経済社会の発展に寄与することなどが検討されている。

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二一世紀初頭に対国内総生産(GDP)比率で政府の研究開発投資を、欧米主要先進国並みの一%に引き上げることを目指しており、立ち遅れていた基礎研究

の充実が期待される。またこれにより、新しい産業の創出や学術面での国際貢献も進むことになる。 ◆産業構造審議会と二一世紀の産業構造〔1998年版 現代産業〕 産業構造審議会総合部会基本問題小委員会は、一九九四(平成六)年六月および九五年一○月に日本経済の構造改革への取り組みについてまとめを行っている。

さらに、九六年一一月にはわが国経済をめぐる動向および本格的な高齢社会におけるわが国経済の姿を展望し、経済活力を維持していくための課題・対応策に

ついて中間とりまとめを行なっている。そこでは、経済構造改革及び財政・社会保障改革を強力に断行しなければ、産業の空洞化が現実のものとなり、また、

高齢化の急速な進展に伴い経済活力が阻害される懸念が大きいと結論づけている。 課題として、第一に労働生産性の向上が不可欠で、そのためには高付加価値の新規産業の創出や、徹底した規制緩和と物流インフラの整備による高コスト構造

の是正、雇用・企業組織・税制など制度の抜本的な改革を挙げている。第二に公的分野の徹底した見直し、効率化を行い勤労者世代・企業等の公的負担の増加

を抑制することが必要だとしている。 ◆エネルギー・環境の基盤技術開発〔1998年版 現代産業〕

通産省は一九九四(平成六)年度から一○年計画で、エネルギー・環境関連の共通基盤技術の研究開発として、エネルギー変換、輸送、貯蔵、利用、排出の各

分野にまたがる革新技術で、耐熱性材料などを研究する「革新的エネルギー効率発現材料」、新たな触媒などを開発する「物質・エネルギー変換技術」、生物機

能をエネルギー変換などに応用する「バイオエネルギー技術」、および「新エネルギー構成・創生技術」の四分野から約三○テーマに取り組んできたが、これ

らの中の省エネルギーやリサイクル分野で、環境保全を焦点に早期に実現が期待できる技術開発に的をしぼって後押しする制度の創設を九七年九月に発表した。

創設するのは省エネルギー・新エネルギーの研究を進める「即効的・革新的エネルギー環境技術研究開発」とリサイクル技術が対象の「新規リサイクル製品等

関連技術開発」の二つで、特にエネルギー環境技術開発では一六億円を概算要求し、力点がおかれている。 ◆独占禁止法(独禁法)〔1998年版 現代産業〕

財閥解体のあとを受け、経済民主化のために一九四七(昭和二二)年に制定された法律で、正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と

いう。事業者の公正かつ自由な競争を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を図ることを究極の目的として、(1)私的独占、(2)不当な取引制限、(3)

不公正な取引方法の禁止、を三本柱とする。

独禁法の運営には、学識経験者によって構成され、内閣から独立し、調査、勧告、審判などの権限をもつ公正取引委員会(公取委)があたる。七三‐七四年の

物価狂乱における企業行動への社会的批判のもとに、七七年に成立した改正独禁法は、(1)独占的状態が認められる場合に公取委は営業の一部譲渡などを命

ずることができる(企業分割規定)、(2)違法カルテルに対する課徴金規定、(3)価格の同調的引上げ理由の報告に対する規定、(4)株式保有制限の強化規

定などである。経済大国になった日本は、例えば株式の持ち合いや系列、行政指導など海外から批判の高まる日本型経済システムを世界に通用するフェアーで

透明なシステムへと変えていかなければならないが、その過程で独禁法の果たす役割は大きい。なお、九七年六月に同法の一部改正に関する法律が国会で可決

され、懸案となっていた第九条の純粋持株会社禁止規定は廃止された。 ◆海外生産比率〔1998年版 現代産業〕

製造企業の売上高に占める海外現地法人売上高の比率。円高、貿易摩擦等各種要因により生産拠点の海外シフトが進行している。わが国製造企業の海外生産比

率は、一九八五(昭和六○)年度の三%から九五年には九・一%程度に高まっている。しかし、アメリカは九一年度ですでに二七%台に達しており、ドイツも

九三年で二三・○%と推定されている。今後、円高等を背景にわが国企業の国際的な企業内分業が進み、わが国でもこの比率はさらに高まる見通しである。こ

の数値は、グローバルな視点からする経営資源の最適配分の状況を示しているが、この点でもわが国製造業の活動は一段と高度化することになろう。 ◆系列(KEIRETSU)〔1998年版 現代産業〕

日本の企業間あるいは企業グループにみられる長期継続的取引関係で海外で注目され、かつ日本企業の競争力の強さの源泉であるとする見方もある。企業間、

グループ内取引だけではなく、役員の派遣など人的関係や、株式を保有する資本関係などが併存する場合が多く、それらも強弱さまざまなレベルがある。

系列のタイプは大別すると旧財閥系企業グループで三井、三菱、住友など有力銀行をメインバンクとする異業種の企業集団と、独立型企業グループとして日立、

松下、トヨタなど有力大企業を核として形成される関連企業群の二つのタイプがある。系列は、グループ内での取引を優先している閉鎖集団であり、海外企業

による日本市場への参入を阻害しているという指摘もあるが、実態をみると必ずしもそうとはいえない部分が多い。競争環境の変化に合わせて系列の内容が常

に変化していることも見逃せない。 また、アメリカの自動車メーカーで日本の系列を導入した結果、大幅なコスト削減と品質向上に成功したという事例でわかるように、系列は経済合理的で日本

固有の制度といえないところがある。 ◆事業革新法〔1998年版 現代産業〕

正式名称は、「特定事業者の事業革新の円滑化に関する臨時措置法」。急激な円高、アジア諸国の急速な成長、国内設備投資の低迷など環境変化に直面している

日本産業が、国際競争力を低下させ「空洞化」することへの対応策として、一九九五(平成七)年四月に施行された。法律の狙いは、対象企業の事業の効率性

や新規性を追求する仕組みを低利融資や設備投資減税、試験研究促進税制などで支援することにより、国内生産活動の活性化を図ることにある。過去にも石油

危機やプラザ合意後の急速な円高など環境変化に対応した企業の不況対策やリストラを支援する施策がとられたが、今回の企業革新法は、既存の経営資源を活

用した事業革新、対象業種は、一六五業種が指定され製造業に加えて関連卸、小売などに範囲が広げられた。また、企業間の経営資源の異動および対象企業の

子会社などが行う事業革新のための取組みも支援対策になっている。 ◆インキュベータ(incubator)〔1998年版 現代産業〕

生まれたばかりの乳児を育てる保育器の意。独自の創造性に富んだ技術、経営ノウハウ等を持つ研究開発型中小企業(ベンチャー・ビジネス)の旺盛な企業化

意欲に着目し、自治体などが中心となって研究施設・機器、資金などの援助を行い、新たな産業創出の場と機会を与える方法をいう。いわば雛を若鳥に育てる

機能のことで、研究開発を行う中小企業などを対象とし、自立化を支援するものである。貸与する施設・機器としては共同研究を行う部屋、事業所の用に供す

る部屋、電子計算機、事務機器、視聴覚機器などが考えられる。アメリカが発祥の地であるが、日本においても熊本県のマイコン・テクノハウス、大分県の地

域技術振興財団などリサーチ・コアの中心施設の一つとしてインキュベータ的機能をもつ第三セクターが誕生した。

また、川崎市に本格的なインキュベータ施設である「かながわサイエンスパーク」(KSP)が誕生し、大手企業以外にハイテク関連ベンチャー企業が入居し

ている。

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▲産業立地・技術進歩〔1998年版 現代産業〕

日本は第二次大戦後世界の生産基地としてモノ作りを担当してきたが、一九九○年代に入り東アジア、中国がその役割を日本に代わって果たしはじめた。単純

な労働力や機械を使ったモノ作りの場としては、日本は既に競争力を失っており、海外からの輸入品で置き換わりつつある。日本が目指すべき方向は、世界各

地域にモノを作るための機械設備や現地では作れない高級部品、ソフトウェアを提供したり、新しい技術を開発するフロントランナーの役割である。

◆ゼロ・エミッション計画(Zero Emission Recycle Initiative)〔1998年版 現代産業〕 産業廃棄物ゼロという新しい産業社会のあり方を探るめに国連大学が推進しているプロジェクト。ビールの醸造かすを再利用する等のテーマが取り上げられて

いる。 一九九五(平成七)年四月には東京で国際会議も開催された。ゼロ・エミッション計画は、「自然界では無駄に失われるものは何もない。唯一廃棄物を出して

いる生物種は人間だ」という認識に立っている。しかし人間が作り上げた産業社会でも、ある企業の廃棄物は別の企業にとって原料という関係が成り立ち、さ

まざまな産業を組み合わせることで個々の企業活動に伴って発生する廃棄物を社会全体としてゼロにすることができる。これがゼロ・エミッション計画の狙い

である。こうした考え方は決して新しいものではない。しかし、日常身の回りに廃棄物が溢れゴミの山ができている状況が出現すると、これまでは夢物語でし

かなかった異端の発想が現実味を帯びる。現在の産業・技術を続ける限り、産業社会の今後の発展は維持できなくなるといえる。 ◆マイクロマシン(micromachine)〔1998年版 現代産業〕

一立方センチ程度のスペースに収まる自律的な走行機械の総称で、現在、次のような三種類のマイクロマシンが考えられている。 ミリシステム(小型化機械) ミリオーダーの精密加工や組立技術を極限化したもの。 マイクロシステム(微小電気機器システム) ミクロンオーダーのチップ状の機械装置で、多くの機械システムを同時に組み立てた状態で作ることができる。

ナノシステム(分子機械) 分子・原子操作によって組み立てられるナノメーターオーダーの高分子機械のことであり、分子生物学の発達によって可能性が開

けてきた。

マイクロマシンは、機械の概念を根本的に変えると考えられており、その応用は、医療、バイオテクノロジーをはじめ微細加工、組立て、半導体製造装置など、

広い分野で期待される。通産省が一九九一(平成三)年度から一○カ年計画で総額二五○億円を投じるなど、「マイクロマシン技術開発プロジェクト」が動い

ている。マイクロマシンの市場は、二○一○年で情報通信や医療、環境、航空宇宙などで最大三兆二○○○億円と見積られており、九六年から試作品作りも始

まっている。 ◆アミューズメント・サイエンス(amusement science)〔1998年版 現代産業〕

ソーラーカーレースやロボットコンテストなど、ゲーム感覚でハイテク技術を駆使したユニークな研究開発や技術の商品化を目指す新しい試み。研究開発が本

来持つ面白さや感動を呼び戻し、組織や発想が硬直化して行き詰まっているといわれる日本企業や大学の研究開発の現場に、柔軟な発想やダイナミックな組織

活力をもたらすきっかけとして注目されてきた。大企業の中には、意図的にアミューズメントサイエンスに取り組む企業が増えている。遊びごころが新規事業

につながるケースも少なくない。大手時計メーカーが売り出したマイクロロボットは、山登りコンテストに参加し人気を博した作品を商品化したものである。

センサーや超小型モーター、CPUなど時計の最先端技術を駆使した世界最小のロボットである。

◆バーチャル・リアリティ(Virtual Reality)〔1998年版 現代産業〕 バーチャル・リアリティ(仮想現実感)とは、コンピュータ技術を駆使して現実には存在しない空間を再現し、その中に置かれた人間に、あたかもその空間に

いるかのような疑似体験をさせようとするものである。 しかも再現性が高く、体験者の動きに対応して空間自体が自由に変化するところに特徴がある。宇宙体験やレーシング体験などエンターテインメント、さらに

医療分野への応用も期待されている。市場規模は今後二一世紀にかけて飛躍的に増大することが予想されている。

◆ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)(Human Frontier Science Program)〔1998年版 現代産業〕 科学技術の分野においてわが国が国際貢献を図ると共に、基礎研究の推進による国際公共財を創出する目的で、一九八七(昭和六二)年六月のベネチア・サミ

ットでわが国が提唱した大型基礎研究プロジェクト。生体の持つ優れた機能の解明のための基礎研究を国際協力を通じて推進しようとするもので、わが国のイ

ニシアチブが高く評価されている。八八年に正式に合意され、八九年には、フランスのストラスブールに実施主体として国際ヒューマン・フロンティア・サイ

エンス・プログラム推進機構(HFSPO)が設立された。 プログラムの事業内容は、国際共同研究チームへの研究費助成、研究者の海外研究費助成、国際研究集会開催助成などとなっている。また助成対象分野は、脳

機能の解明、生体機能の分子論的アプローチによる解明の二分野における基礎研究が合意されている。ちなみに九六年には、合計三四○名がこのプログラムの

助成対象者となった。 ◆マクロ・エンジニアリング(ME)(macro-engineering)〔1998年版 現代産業〕

古代のピラミッド、近代のスエズ運河、現代の宇宙開発のように、その時代の最高の技術と最大の組織、巨大な資金を投入して営まれる巨大プロジェクトの計

画・運営・管理のためのトータル・システムのこと。投資規模が大きく長期間にわたるので、経済分野や技術分野への波及効果が大きい点に特色がある。二一

世紀に向けて、世界経済の活性化をめざし技術革新により身近となってきたニューフロンティア(宇宙・海洋など)開発、パナマ第二運河開発などグローバル

な再開発への関心が高まっている。 日本では日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が設立されている。八八年には世界のマクロエンジニアリング学会が連合した組織(IAMES)も発足

した。 ◆ISO9000〔1998年版 現代産業〕

国際標準化機構(ISO)の品質保証規格である「ISO9000 シリーズ」とは、工場や事業所の品質管理システムそのものを第三者(審査登録機関)が検査し、品質保証システムが適切に機能していることを制度的に保証することである。製品それ自体の形状や材質、信頼性を保証する日本工業規格のJISマーク

表示許可制度とは異なり、品質管理のシステムそのものを評価する。一九七○年代欧米諸国では、品質管理システムを向上することにより企業の競争力を強め、

同時に製品の信頼性・安全性の確立をめざした。その後国ごとにバラバラだった規格を共通化しようという動きが強まり、八七年に英米規格をベースに制定さ

れたのが「ISO9000」である。EC域内での商取引にはこの規格の取得が必要条件とされている場合が多いため、わが国企業も一斉にその取得を始めている。

「ISO9000 シリーズ」の認証取得は、PL訴訟への対応やトラブル防止のうえでも強力な武器になるメリットが認識され、取得件数は製造業を中心に急増している。

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◆CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)(Continuous Acquisition and Life-cycle Support ;Commerce at Light Speed)〔1998年版 現代産業〕

標準化と情報統合化技術を用いて、デジタル・データの生成・交換・管理・利用をよりいっそう効率的に行い、設計・開発・生産・調達・管理・保守といった

ライフサイクル全般に関わる、経費の節減、リードタイムの短縮、品質の向上を目標とする。一九八五年、アメリカ国防省がコンピュータによる調達とロジス

ティック(後方支援活動)を効率化するための構想として発表したもの。最近ではアメリカ商務省が製造業の競争力向上に役立つものとして注目し防衛産業か

ら一般産業へと発展、内容も高度化している。 さらに今後は世界の企業をネットワークで接続し、あらゆる企業情報をデジタル化し自由に交換できるネットワークとデータベースを構築する壮大な構想に変

わろうとしており、現在の産業を根本的に変化させる可能性がでてきた。日本でも九五(平成七)年から通産省などが音頭を取り産業界と共同でCALSに関

する幾つかの技術開発プロジェクトをスタートさせている。 ◆BOT方式(Build Operation Transfer)〔1998年版 現代産業〕

民間企業が、発展途上国政府との契約により、実施するインフラ事業で、施設の建設(Build)、運営(Operate)までを一貫して請け負い、一定の運営期間内に投資を回収した後に施設を発展途上国に移転(Transfer)する方法。

発展途上国、特に急速な経済成長を遂げつつある東アジアでは、今後経済活動の拡大にともない道路・港湾、エネルギーをはじめ厖大な社会資本(インフラス

トラクチャー)整備が必要となってくる。ちなみに世界銀行の報告によると一九九五年から一○年間に東アジアおよび太平洋地域の途上国全体で約一・三‐一・

五兆ドルの新たな投資が必要と見込まれている。しかし現地国では、資本と技術の絶対量が不足しているために、規制緩和や金融・資本市場の整備など民間投

資を受け入れる投資環境の整備に取り組むとともに、外国の民間資本や技術を効率的に活用する民活インフラ整備を進めている。このためBOT方式はますま

す増加していくとみられている。

◆フロン規制(Fluorine regulation)〔1998年版 現代産業〕 ここでいうフロンとは塩素を含むフッ素化合物(フロン 113、フロン 134a など)であって、電子部品の洗浄用、カーエアコンあるいは冷蔵庫・クーラーの冷

媒として欠くことのできない物質となっている。このフロンは、大気中に放出されると成層圏に滞留してオゾン層を破壊、地球に降り注ぐ紫外線の増加によっ

て地球上の生物が多大な影響を受けるといわれている(地球規模の環境問題)。フロンによる環境破壊の危険性がカリフォルニア大学のローランド教授によっ

て指摘されたのが一九七四年のこと。その後、国連環境計画(UNEP)が中心となって対策を検討し、八七年にはフロン生産量の半減を盛り込んだ「モント

リオール議定書」が制定されている。日本もこの議定書にサインするとともに、八八(昭和六三)年には「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法

律」を制定、積極的にフロン規制にのり出した。オゾン層保護対策とともにフロン代替品の開発が急務となっていたが、国内企業は代替フロンへの転換を終え

ており、特定フロンの回収率は九八‐九九年をピークに減少する。 ◆BBレシオ〔1998年版 現代産業〕

北米半導体市場の需給バランスを表す指数で、アメリカ半導体工業会が毎月上旬に作成している出荷(Book)額に対する受注(Bill)額の比率(レシオ)で、BBはそれぞれの頭文字をとったもの。過去三カ月間にアメリカとヨーロッパの半導体メーカーがアメリカ市場で受注した金額の平均値を同じく出荷額の平均

値で割って算出する。仮に出荷額が一で、受注額が一・二だとBBレシオは一・二となる。BBレシオが一を上回れば市場の需給関係が逼迫し、逆に一を割る

と需給がだぶつくことを意味している。半導体産業では「シリコンサイクル」といわれる、ほぼ四年間隔で好不況を繰り返す景気のサイクルが観察されている

が、現実には、製品技術の世代交代や、需要市場の需給変動などが激しく変化が加速しているため市場動向の見極めが難しい。半導体関係者は、半導体市場の

需給動向を示すBBレシオを手掛かりに経営の舵取りを行ってきた。 ▲新産業・新製品〔1998年版 現代産業〕 日本産業は、内需に依存する成長への切り替えを、それも早いテンポで転換することを迫られている。具体的には国内市場向けの新商品・技術開発による新市

場の開拓や新産業の創出である。マルチメディアを中心とする情報通信分野、企業活動支援関連分野、環境・リサイクル分野、人材関連分野、高齢化社会に向

けた医療・福祉、住宅等の分野が市場として有望とされているが、これらの分野は従来政府の規制が厳しかったという点で共通している。新産業・新製品の妨

げとなっている経済規制の原則撤廃が急がれる。 ◆先端的基盤科学技術〔1998年版 現代産業〕

各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で、異なる分野の間で共通に利用できる基盤となり、またそれらの分野をいっそう発展させる鍵となる

技術。これらの技術は、異分野科学技術の相互乗り入れを促進し、新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供

することが期待される。具体的な技術の事例を挙げると、極微小な物質を高精度で計測・操作する技術、リアルタイム・多次元の観測・表示技術、あるいは微

小要素デバイス技術、微小制御技術、微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術等がある。さらに、地球環境への影響を与えない永続的な生産

活動、高齢化に適応した機械システムの構築技術など自然環境との調和、人間・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための基盤技術

が重要になっている。 先端的基盤技術の研究開発を計画的に推進するために科学技術会議で四三課題・一七七テーマを決め今後一○年間で一兆二○○○億円の研究資金を想定した開

発基本計画が策定されている。

◆電気自動車〔1998年版 現代産業〕 悪化する大都市の大気汚染を緩和するための有望技術として脚光を浴びている。環境規制の厳しいアメリカ・カリフォルニア州が一九九八年から、低公害車の

最低販売比率規制を実施し電気自動車の販売を促進する計画をスタートさせるため、世界の自動車メーカーが開発に力を入れている。電池をエネルギー源とし

電動モーターで自動車を走らせるという発想は古く、自動車が発明された直後にはガソリン車より普及した時期もあるが、性能が劣り出番がなくなった。

これまで電気自動車に搭載されるのは鉛蓄電池が最も多かったが、エネルギー密度が小さいという問題点があった。しかし、新電池の技術開発が急速に進んで

いる。例えば九六(平成八)年日本で発表されたニッケル水素電池を使った試作車は、実用的な車体と装備を持ち、一回の充電で走行できる距離が二一五キロ、

時速一二五キロを出せるところにまできている。

◆グリーン・テクノロジー(green technology)〔1998年版 現代産業〕 地球環境を守り、再生させるグリーン・テクノロジーが注目されている。省エネルギー技術は従来から取り組みが行われ、効率向上のためのコージェネレーシ

ョン、ヒートポンプなどが実用化の段階に入っているし、二酸化炭素も日本で年間一人当たり二・五トン排出され、その抑制は大きな課題となっている。これ

以外では、廃棄物を限りなくゼロに近づける新しい生産システムの開発、油や化学物質に汚染された土壌を微生物の力を借りて浄化する生物的環境浄化技術の

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開発が進んでいる。また温暖化やオゾン層の破壊、農地の砂漠化など地球規模で進む環境変動を捉えるために人工衛星を使った観測技術も実用化しつつある。

砂漠化地帯では水分をいかに貯蔵するか、地下にダムを建設したり、吸水性素材の開発などの実験が行われている。 ◆航空・宇宙産業(aero craft,space industry)〔1998年版 現代産業〕 航空機、ロケット、人工衛星、推進材、通信機器、誘導・制御用のエレクトロニクス機器の製造など、高々度空間や宇宙空間利用に係るハードウェアの生産お

よびソフトウェアの開発を行う産業のこと。ハイテクの粋を集めた産業であるだけに、技術波及効果は大きく、国の技術基盤強化に結びつく。冷戦崩壊に伴う

軍縮の進展のため、アメリカ、ソ連をはじめ各国で新しい環境に対応するための合併・提携や激しい生き残り競争が展開されており、世界的な産業の再編成は

さけられない。しかし、二一世紀に向けてH‐2ロケット開発、有人型の宇宙実験である国際宇宙ステーション計画(JEM)、新素材や新薬開発をめざした

宇宙実験、スペースプレーン(宇宙往還機)、超音速輸送機(SST/HST)、月面基地建設(一九八八年一一月、民間企業二○社により「月面基地と月資源

開発研究会」が発足)など、大型プロジェクトが目白押しの状況である。宇宙開発委員会では、二○○○年の市場規模を一兆円と予測している。

◆社会開発産業〔1998年版 現代産業〕 社会開発という言葉は、昭和三○年代の後半から、しばしば使われるようになったが、「生活大国」という一九九○年代の日本の最大の課題がクローズアップ

される中で、改めてその活性化が必要になってきた。一般的には社会開発を、「人間の諸活動の社会的環境・基盤を改善・整備すること」と規定することがで

きよう。(1)住環境・医療・保健・教育・レジャーなどの生活環境基盤の整備、(2)地域・都市開発・交通・輸送通信、情報など国土の開発・整備、(3)

立地、廃棄物処理、流通など産業活動の環境整備などが含まれる。こうした開発には、社会的な共通部門、共同消費的なものが多いため、市場経済にゆだねる

ことは不可能または不適当なものも多い。したがって、社会開発推進の主体は一般に公共部門ないし第三セクターや、それに準ずるものとなっている。他方、

社会開発には複雑で大規模なシステム技術を必要とするものが多いので、民間のディベロッパー、エンジニアリング産業の取組みが期待される。

◆ヘルス・ケア産業〔1998年版 現代産業〕 現在は物質的充足の時代といわれ、「物ばなれ」の傾向が著しい時代である。この波に乗っていくには物的製品の中に新しいニーズや変わりつつある価値を組

み込むことが重要になろう。「物ばなれの時代」において、人々が最も関心を抱いている生命・健康に関して新しい視点から将来の発展可能性を模索している

状態にある。栄養の過剰摂取、運動不足から文明病といわれる生命・健康への歪みが顕在化してきた。西暦二○○○年には六五歳以上の老人が二一三三・八万

人程度に達することからも、健康産業への支出は増大するものと考えられる。同産業の内容を概観するに、(1)生体開発分野として、レーザー診断・治療、

生体代替治療、新薬品、漢方薬、(2)健康開発分野として電子血圧計、スポーツ飲料、乳酸菌食品、(3)食料分野として、ニューフード・プロセス、植物工

場、(4)アスレチッククラブやスポーツクラブがある。この分野を支える技術には、エレクトロニクス、ニュー・マテリアル、ライフサイエンスなどがある。

◆環境産業〔1998年版 現代産業〕 廃棄物のリサイクルや処理、省エネ、環境の修復など環境関連産業の育成や振興を促進する動きが強まっており、環境に関連した市場規模は現在の一五兆円か

ら、二○一○年には三五兆円規模に成長すると推定されている。しかし技術が未開発であったり、あってもコストが高いなどの問題点が多く異業種間の情報交

換も難しいといわれる。また、産業廃棄物の処理や、リサイクル製品の市場とその拡大は、政府規制や制度・商慣行などが関係している場合がほとんどで個別

企業の対応力では限界がある。このため通産省では、工業製品の環境負荷を軽減するリサイクル生産システム「エコ・ファクトリー」プロジェクトを一九九三

(平成五)年度からスタートさせているが、さらに九六年初めに環境関連産業の振興を図るために「エコ・レギュレーション・フォーラム」を設立し、民間企

業や地方自治体の取り組み支援に乗り出している。

◆情報サービス産業(infomation service industry)〔1998年版 現代産業〕 情報サービス産業とは社会・経済・技術に関連する各種の情報やデータ類を、収集、分析、計算・加工するとか、それらをもとにコンピュータシステムを開発

するなどにより、顧客に情報サービスを提供する産業のこと。具体的には、調査・コンサルティング、受託計算、ソフトウェア開発、システム等管理運営受託、

データ通信事業等の業務がある。コンピュータやエレクトロニクス等の技術革新、産業・経済から家庭分野にまで及ぶソフト化、マルチメディア化の傾向に伴

い、情報サービス産業も急速な発展を遂げており、売上高も一九七五(昭和五○)年の二七五○億円から九五(平成七)年の六兆三六二二億円へと伸長してい

る。しかし、九一年後半から成長率に翳りが出て、九二年をピークに売上高規模は縮小している。業界が技術的・構造的に大きな変化の時期を迎えつつあるこ

とが明らかになってきた。特に、パソコンの販売台数が急速に伸びており、九五年末日本市場で発売されたウインドウズ 95 やインターネットの活況は情報サ

ービス産業がネットワーク社会に向けて新たな成長段階に入ったことを示している。 ◆遺伝子情報産業〔1998年版 現代産業〕 遺伝子の構造や多様な機能を解明する基礎研究が急速に進んでいるが、その成果を活用することで、医療、食料品をはじめ化学、環境、電子機械などさまざま

な分野で新産業の可能性が指摘されている。例えば、人の思考メカニズムや神経の情報伝達メカニズムを応用したコンピュータの開発、遺伝子情報をパスワー

ドの代わりに活用するセキュリティーシステム、寒さや乾燥に強い農産物の開発などはその一例にすぎない。通産省は一九九六(平成八)年初めに遺伝子情報

産業を二一世紀の基幹産業にするための処方箋を盛り込んだ報告書をまとめたが、その市場規模は二○一○年で一○兆円に成長すると試算している。なお、こ

の分野の取り組みではアメリカが基礎研究と産業化を担うベンチャービジネスの両面で日本の一歩前を進んでいる。 ●最新キーワード〔1998年版 現代産業〕

●特許赤字〔1998年版 現代産業〕 日本の技術力を示す指標の一つである特許収支の赤字(特許やノウハウなど知的所有権の売買に伴って生じる使用料の対外支払い・受け取りの差額)が増勢に

転じている。一九九六(平成八年)年の特許赤字は前年比六・四%増の三四一九億円と、二年続けて増加。これはマルチメディアの普及に伴いアメリカからの

コンピュータソフト輸入などが急増しているからで、わが国ソフト開発力の弱さを示している。

日本企業のアジア進出に伴い現地法人からの特許・ノウハウ料の受け取りも増加しているが、ソフト輸入の増加がそれを上回った。 ●リバース・エンジニアリング(reverse engineering)〔1998年版 現代産業〕 製品を分析・分解してその構造や性能、製法等を知ることを指す。製品の生産プロセスを逆方向に進む技術という意味でリバースと呼ばれ、新製品や競争相手

の製品の分析・評価をする目的で産業界で利用されている。混ぜて使うと危険な洗剤の使用説明書を作成する際には、他の洗剤の成分を知る必要がある。 しかし類似品が容易に作れる等悪用の問題が生じる可能性がある。特にコンピュータ・ソフトは、内容が解明できれば容易に類似品がつくれることもあって、

アメリカは最近、知的所有権保護のために制度として認めるべきでないと主張している。 ●環境JIS/JISQ14000シリーズ〔1998年版 現代産業〕

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原料の調達、生産、販売、リサイクルなど企業活動のあらゆる面で環境への影響を評価・点検し、改善を進めるための指針。一九九六(平成八)年発効した国

際標準化機構(ISO)が定める環境管理システムと環境監査に関する国際規格ISO14000に準拠する日本工業規格(JIS)として、工業技術院が九六年一○月に制定した。JISそのものに強制力はないが、業界標準として採用されたり政府調達の際の条件となる場合が多く、企業は事実上取得を義務づけられ

ている。また世界的に環境問題に対する関心が高まる中で、環境JISをめぐる関連ビジネスの動きも強まっている。

●次世代メモリー〔1998年版 現代産業〕 現在パソコンやオフコンなどに使われている四・一六メガビットDRAMといったIC(半導体集積回路)に対しより記憶量の大きい六四・二五六メガビット

DRAM等を総称する用語。一九九七(平成九)年以降に本格的な普及期を迎える見通しで半導体メーカーの開発競争が激化している。さらに二○○○年頃に

は一ギガ(一○億)ビットの時代が予想されている。ちなみに一ギガの半導体メモリーには、新聞紙面四○○○ページの情報量を蓄積することが可能である。

現行DRAMの場合、シリコンウェファーにICチップを焼き付ける時の線幅が○・五ミクロンの微細加工能力をもつ半導体製造装置で量産できる。しかし次

世代メモリーでは○・三五ミクロン以上の加工技術が必要であり、一工場当たりの投資額も現在の五○○億円が一○○○億円に倍増する。このため一社単独で

次世代メモリーの開発や量産工場を建設することが厳しく、半導体メーカーは提携の動きを強めている。

●職人大学〔1998年版 現代産業〕 中小企業の経営者や熟練工が中心になって、技能職人の地位を向上させ若い後継者を育てようという運動が全国に広がりはじめている。一九九七(平成九)年

四月に設立された国際技能振興財団は、全国各地に一○校の「職人大学」を設立することを目指しており、すでに新潟県佐渡島、金沢市、群馬県月夜野町など

が名乗りをあげている。名人級の職人を教授にして日本の職人的技能の継承、発展させることが当面の目的だが、将来は、ドイツのマイスター制度のような技

能者の地位向上につながる制度づくりもめざす。

●マルチメディア(multimedia)〔1998年版 現代産業〕 従来の通信、放送といった異なったサービス形態を融合して音声、データ、画像をデジタルで高速に送受信できる形態を指す。通信、AV(オーディオ・ビジ

ュアル)、コンピュータ等総合的な技術力が不可欠になる。 マルチメディアの市場は、郵政省では二○一○年に一二三兆円で、国内生産額の五・七%に相当すると推定している。その内訳は、映像番組配信、テレビ・シ

ョッピング、ソフト配信、ネットワーク端末等光ファイバー網整備により創出される新市場が五六兆円、既存のマルチメディアが光ファイバー網で加速化する

市場が六七兆円に拡大する。なお、新市場により二四○万人の新たな雇用が創出される。 ●ウイナーズ・テイク・オール(winners take all)〔1998年版 現代産業〕

有名スポーツ選手、大スターと普通の選手・スターの報酬はびっくりするほど大きな格差があり、一般の労働者の賃金とは異なる決まり方をしている。つまり

他者よりどれだけ優れているかという相対的な格差、希少価値で決まり、客観的な基準で計った能力や人気度の差とは関係ない。コンピュータソフトの分野で

は「勝者が総取りをするのが常識」といわれている。このような現象を「ウイナーズ・テイク・オール」という。相対的格差で報酬が決る分野は、グローバル

化が進み情報社会の進展に従って増える傾向があるといわれ、例えば、弁護士、医者、評論家、経営者等の報酬にもこの特徴が見られる。 ▽執筆者〔1998年版 知的所有権〕

大楽光江(だいらく・みつえ) 北陸大学助教授

北海道生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士課程修了。北陸大学法学部助教授。著作権審議会専門委員。 ▲知的所有権用語〔1998年版 知的所有権〕

◎解説の角度〔1998年版 知的所有権〕 ●不動産価格も株価も円も下落が続き、アジア各国にも不況の波が押し寄せている。目に見えるモノが財産としての信用を失い続ける中で、(1)アイデア、(2)

作詩作曲など表現、(3)ビジネスのシンボルマークとしての商標など「見えない財産」を保護する知的所有権の価値が、ますます注目されている。 ●特許権・商標権・著作権といった「知的所有権」は、頭脳労働から生み出される情報を保護する権利である。熱狂的人気を集めた「たまごっち」にも、知的

所有権の保護対象となりうるアイデアと表現とマークが凝縮されている。たった一つのファミコン・ソフトや、作曲、発明でも、知的所有権保護の利用で巨大

なビジネスに急成長する可能性がある。知的所有権は、個人にも企業にも国家にも貴重な戦略資源である。個人・企業には権利使用料(ロイヤルティ)収入と

して、国家にはその収入からの税収と対外競争力の源として、利益をもたらすからだ。

●一九九六年の商標法条約発効・新著作権条約二件の成立も、戦略資源としての知的所有権の重要性を各国が認識したことによるが、自由貿易推進と権利保護

の対立、ハイテクへの対応など、まだまだ問題は多い。

◆知的所有権(intellectual property)〔1998年版 知的所有権〕 知的財産権または無体財産権とも。発明・デザイン・小説など精神的創作努力の結果としての知的成果物を保護する権利の総称。物権(土地所有権など、物に

対する権利)、債権(貸金返還請求権など、他人にある行為を請求できる権利)とならぶ財産権で、知的成果という目に見えない財産(無体財産)に対する権

利。 産業の振興をめざす工業所有権(industrial property)〔特許権(patent)・実用新案権(utility model)・意匠権(registered design)・商標権(registered

trademark)】、文化の発展をめざす著作権(copyright)、およびその他の権利に大別できる。著作権と工業所有権の主な違いは、(1)権利の成立に出願・登録手続きが必要か(工業所有権では必要だが、著作権では不要)、(2)他人が独立に創作したものを侵害として排除できるか(原則として、著作権では排除でき

ず、工業所有権では先に権利が成立していれば排除できる)、および(3)期間(工業所有権は著作権より短期)の点である。現行法上保護される知的所有権

の全体を大まかに示すと、以下のようになる。

●特許権 〔根拠法〕‐‐特許法

〔保護対象〕‐‐発明(自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの) 〔保護期間〕‐‐出願日から二〇年

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〔保護のための条件〕‐‐産業上利用可能性、新規性、進歩性

●実用新案権 〔根拠法〕‐‐実用新案法

〔保護対象〕‐‐考案(自然法則を利用した技術的思想の創作であって、物品の形状、構造または組合せに係わるもの) 〔保護期間〕‐‐出願日から六年

〔保護のための条件〕‐‐産業上利用可能性、新規性、進歩性

●意匠権

〔根拠法〕‐‐意匠法 〔保護対象〕‐‐意匠(物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの)

〔保護期間〕‐‐設定登録から一五年 〔保護のための条件〕‐‐工業上利用可能性、新規性、創作性

●商標権 〔根拠法〕‐‐商標法

〔保護対象〕‐‐商標またはサービスマーク(文字・図形・記号を単独か結合させて、またはそれらと色彩を結合させて、商品または役務の出所を示すために

使われるもの)

設定登録から一〇年。更新可能。 〔保護のための条件〕‐‐自己の商品または役務を他人のものから識別させうること。

●著作権 〔根拠法〕‐‐著作権法

〔保護対象〕‐‐著作物(思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの。

〔保護のための条件〕‐‐オリジナリティ(他人の作品を模倣したものでないこと) 〔保護期間〕‐‐創作時から著作者死後五〇年, ただし, 法人著作物・映画・写真については公表後五〇年 ※なお著作権は以下の二つに分かれる。

▲著作者人格権(Moral Right)

〔根拠法〕‐‐著作権法 〔内容〕‐‐公表権、氏名表示権、および同一性保持権(著作物の内容を他人に勝手に変えられない権利)。著作者(個人・法人)のみに属する権利(一身専

属権)譲渡できない。著作者の死後も一定の保護。

▲著作財産権

〔根拠法〕‐‐著作権法 〔内容〕‐‐複製権、上演権、放送権、口述権、展示権、上映権、貸与権、翻訳権など。

●その他 トレード・シークレット(不正競争防止法による) 半導体回路配置(半導体集積回路の回路配置に関する法律による)

植物新品種(種苗法) ◆知的所有権の成立〔1998年版 知的所有権〕

知的所有権がどのように成立するかは、著作権と工業所有権とで異なる。 (1)著作権は、日本が加入しているベルヌ条約との関係上、何の手続も要せず創作時に自動的に発生し(無方式主義)、著作者が最初の著作権者になる。著

作者から著作権の譲渡を受けた者が次の著作権者となる。しかし著作者人格権は著作者にとどまる。著作権は、複製権や貸与権など各種の権利を内容とするの

で、その一部または全部を譲渡したり、ライセンス(権利の使用許諾)したりできる。ライセンスの対価がロイヤルティ(権利使用料)である。著作権の担当

官庁は文化庁。

(2)工業所有権については、特許・実用新案・意匠・商標の各々で手続は少々違うものの、特許庁での出願と審査を要する。ただし実用新案は、一九九三(平

成五)年四月二三日公布の改正法により、審査制度廃止。九四年一月一日からは実体審査なしの設定登録で権利発生。九○年一二月からは、世界初の電子出願

(コンピュータ・オンラインでの出願)が可能となっている。成立した各権利は譲渡もライセンスも可能。日本の特許出願手続の概要は以下のとおり。

(1) 出願〔出願後七年以内に「審査請求」〕

(2) 方式審査〔書類が整っているか〕 (3) 出願公開〔出願後一八ヵ月以内に、自動的に内容を公開特許公報で公開。→重複研究・出願の廃止〕

(4) 実体審査〔出願内容が特許に適当かにつき審査→産業上利用可能性・新規性・進歩性について。ここで拒絶査定となった場合は、拒絶査定不服審判を受けられる。〕

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(5) 特許査定

(6) 特許料納付 (7) 設定登録〔特許権発生、出願後二〇年継続〕 (8) 特許公報に掲載〔公報発行後六ヵ月内に、権利付与の判断に対して第三者が異議申立てできる。〕

(9) 特許権存続〔(8) の特許異議申立ての結果如何では特許取消し〕 ◆先願主義/先発明主義〔1998年版 知的所有権〕

同一内容の出願がなされた場合に誰を優先するか、についての考え方。先に出願した者を優先するのが、先願主義(first-to-file system)で日本をはじめとしてほとんどの国で採用されている。これに対し、特許について先に発明した者を優先するのが先発明主義(first-to-invent system)。アメリカは、先進国では唯一、先発明主義を採用しているため問題とされている(アメリカでは、意匠も特許で保護される)。先発明主義では、誰が最初に発明したかを決定する必要

があるが、そのための手続が抵触審査(interference)である。 ◆特許審査基準(patent examination standards)〔1998年版 知的所有権〕

出願された発明が特許適格かどうかについての特許庁の判断基準。一九九三(平成五)年、技術革新への対応と国際調和を目的として大幅改定。(1)審査基

準の整理統合による明確化、(2)特許請求範囲の拡大による発明者の権利強化、(3)コンピュータ・プログラムとバイオテクノロジーに関する特許取得条件

の明確化、など。 ◆工業所有権の権利内容〔1998年版 知的所有権〕 (1)特許権 特許を付与された発明を、排他的(独占的)に、業として(反復継続的に)、実施(使用、および発明製品の生産・譲渡・貸渡し・輸入など)

できる権利。保護される発明の範囲は、願書に添付される明細書の「特許請求の範囲」により特定。 (2)実用新案権 考案を業として実施できる排他的権利。

(3)意匠権 登録意匠を業として排他的に実施(その意匠を付した物品の製造・使用・譲渡・輸入など)する権利。 (4)商標権 指定商品に登録商標を排他的に使用する権利。使用とは、商品やその包装に商標を付すこと、商標付商品の譲渡・引渡し・輸入など、広告での

使用、などをいう。

◆著作隣接権(neighboring right)〔1998年版 知的所有権〕 実演家(performers 俳優・演奏家・歌手・演出家など)、レコード製作者、(有線)放送事業者を保護する権利。これらの者は、著作物の創作はしないが、著

作物伝達という重要な役割を果たしているので著作権と隣接する権利によって保護される。内容は、実演家の録音・録画権や放送権、レコード製作者の複製権・

貸与権、放送事業者の複製権・再放送権など。カラオケボックスなどでのCD録音は、カラオケ用音楽の演奏家の著作隣接権との関係で問題がある。存続期間

は、実演・音の最初の固定・放送の翌年から起算して五○年。 ◆知的所有権の侵害〔1998年版 知的所有権〕 知的所有権者に権利として認められる行為を他人が無断で行うと、正当事由がない限り権利侵害(infringement)となる。侵害に対する救済手段(remedies)

として、差止請求・損害賠償請求・不当利得返還請求・信用回復措置請求などがある。また、懲役・罰金などの刑事制裁の定めもある。 ◆水際措置〔1998年版 知的所有権〕

偽ブランド商品などの不正商品(知的所有権侵害物品)を水際つまり国境で阻止するための措置。具体的には、税関での輸入差止による。大蔵省によると、一

九九六(平成八)年度の差止点数は、化粧品・バッグ・衣類など約九二万点(三四六三件)。 ◆知的所有権担保融資〔1998年版 知的所有権〕

不動産など物的担保のない場合の多いベンチャー企業でも融資を受けられるように、知的所有権を担保とする方法。しかし、各権利の評価基準の設定が難しい。

特許権評価では、製品売上予想から製造原価などを引いて収益を予想する方法などがある。最初の制度化は、一九九五(平成七)年日本開発銀行。九七年度か

ら横浜市も開始。 ◆知的所有権訴訟費用保険〔1998年版 知的所有権〕

国内国外での知的所有権侵害訴訟の費用をカバーする保険。損害賠償金・和解金などは除外。工業所有権を対象とし、著作権は含まない。一九九四(平成六)

年九月に損害保険各社が発売。侵害訴訟の多発と、特にアメリカでの高額な訴訟費用から、需要が見込まれる。 ◆サービスマーク(service mark)〔1998年版 知的所有権〕

運輸・金融・放送・保険・飲食業など自己の提供するサービス(役務)を他人のサービスから区別するためのマーク(標章)〔図〕。これに対し商標(trade mark)は、スカーフの「エルメス」のように自己の「商」品を他人の商品から区別するための「標」識である。いずれも商標法の保護対象だがサービスマーク保護は

一九九二年四月から。登録第一号はオリックス。 ◆営業秘密(trade secret)〔1998年版 知的所有権〕 企業が秘密として管理している、事業活動に有用な技術情報または営業情報で、公然と知られてはいないもの。代表例はコカコーラ原液の処方。他に研究デー

タ・設計図・顧客名簿・販売マニュアルなどを含む。一九九一(平成三)年六月一五日施行の改正不正競争防止法で新たに保護された。改正の背景は、情報化

社会の進展で企業の秘密情報の重要性が増したことと、GATTウルグアイ・ラウンドのTRIP(知的所有権の貿易関連側面)交渉でその保護が問題となっ

たこと。いわゆる「ノウハウ(企業経験から蓄積された秘訣一般)」では範囲が不明確とされた。特許はアイデアの公開を代償として保護するが、営業秘密保

護制度は、非公開での保護を目的として不正な取得・使用・開示に対する差止・損害賠償・信用回復措置の請求を認める。

◆不正競争防止法(Unfair Competition Prevention Law)〔1998年版 知的所有権〕 一九三四(昭和九)年制定。広く知られた他人の氏名・商号・標章などの商品表示また営業表示を使用して混同させるなどの不正競争行為に対して、差止、損

害賠償、信用回復措置を請求できるとする法律。一部の行為につき罰則もある。九一(平成三)年に営業秘密保護を加え、九三年五月全面改正された。改正内

容は、(1)ひらがな表記化、(2)目的・定義規定の新設、(3)商品形態の模倣(デッドコピー)・著名表示の無断使用(「ソニー」パチンコ店など)・サービ

スの不当表示(専門家と称して素人を派遣)などを規制対象に追加、(4)罰金額引上げ(上限五○万円を三○○万円)、法人重課(最高一億円)の追加、など

である。 ◆コンピュータ・プログラムの保護〔1998年版 知的所有権〕

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コンピュータに不可欠なプログラムの開発には巨額の資金を要するので、その財産的価値は大きい。しかしコピーは簡単なので、海賊版が出回ると開発した企

業の被害は大きい。主に著作権で保護するのが日米はじめ世界的傾向(アメリカは一九八○年、日本は八五年から)。ただしプログラム言語・規約(言語用法

の約束事項)・解法(アルゴリズム、指令の組合せ方法)は保護されない。一方、コンピュータ・プログラムには、デバグ(間違いを除くこと)やバージョン・

アップなどの改変が必要なので、無断改変を禁止する同一性保持権を制限して、それらを認める特例がおかれている。しかし、著作権の保護は表現にしか及ば

ないので、最近はプログラムの内容となっているアイデアを保護するため特許出願をする例も増えている。 ◆半導体回路配置の保護〔1998年版 知的所有権〕

半導体チップの回路配置は、多額の投資によってデザインされるのにコピーは簡単なため、アメリカが一九八四年に半導体チップ保護法を制定した翌八五(昭

和六○)年、日本も保護法を制定(半導体集積回路の回路配置に関する法律)。回路配置の創作者は同法により、回路配置利用権を設定登録すれば、回路配置

を排他的に製造・譲渡・貸渡し・展示・輸入できる。権利存続期間は登録日から一○年。侵害に対しては差止・損害賠償の請求が可能。罰則もある。

◆バイオテクノロジーの保護〔1998年版 知的所有権〕 遺伝子組換え、細胞融合などのバイオ技術の進歩により、ポテトとトマトからのポマトなど植物新品種や、石油分解バクテリア(微生物)・がんにかかりやす

い実験用ネズミの登場など、生命体に関わるアイデアの保護が問題となっている。バイオ技術は薬品・食品・化学・農業など応用範囲が広く、心筋梗塞治療用

TPAのように日米企業間で特許紛争を生じているものも多い。植物新品種は「植物新品種の保護に関する国際条約(日本は一九八二年加入)」の九一(平成

三)年三月の改正で、バイオ技術によるものも含めて、種苗法と特許法による二重の保護が可能となった。種苗法による保護は登録日から一五年(果樹など永

年性植物は一八年)存続。微生物の発明には特許が可能である。動物については倫理的反対など難問が多い。 ◆キャラクター・マーチャンダイジング(character merchandising)〔1998年版 知的所有権〕

スヌーピーやアンパンマンなどの人気キャラクターを、商品につけたりサービスの宣伝に使ったりすること。著作権・意匠権・商標権・不正競争防止法・民法

(契約法・不法行為法)・独禁法など多くの法律が関係する。権利を侵害せずにキャラクター・マーチャンダイジングを行うには、権利者とライセンス契約を

結ぶ必要がある。 ◆フランチャイジング(franchizing)〔1998年版 知的所有権〕 ハンバーガー・チェーンのように、フランチャイザー(事業本部)が、フランチャイジー(加盟店)に、チェーン全体を統一的イメージで事業展開するために、

自己の商標の下に築いた広範な経営ノウハウ(店舗の内外装・運営マニュアル・商品展開・仕入れ方法など)を提供し、見返りに加盟金や売上の一部を受ける、

契約関係。これによってフランチャイザーは、最小限の投資で地域を拡大できる。加盟者は独立の個人や企業だが、全体としてフランチャイザーを頂点とする

単一の事業体のような外観となる。契約の中核は商標ライセンスだが、フランチャイザーの有する権利内容によって、特許権・意匠権・著作権・営業秘密など

多種多様な知的所有権のライセンスが関わってくる場合が多い。

◆職務創作〔1998年版 知的所有権〕 使用者(国・地方公共団体・法人・団体など)の指揮監督下での、従業者の創作活動とその成果。従業者には役員・公務員・顧問・出向社員など、指揮監督関

係にある者を広く含む。「法人などの発意で職務上作成される著作物」を職務著作といい、著作権は原則としてその法人などに帰属する。他方、「使用者などの

業務範囲に属する発明(または考案、意匠)の創作行為が、従業者の現在または過去の職務に属する場合」を職務発明(考案、意匠)といい、この場合は職務

著作とは逆に、特許などを受ける権利は従業者に属する。ただし使用者は、その特許権などを無償で利用できる(通常実施権)。

◆仲介業務団体〔1998年版 知的所有権〕 著作権者には著作物を利用する権利があるが、多数の利用者に個別に許諾を与えるのは大変なので、法律にもとづき著作権者から権利行使の委託を受け、集中

処理できるように設けられた団体。日本音楽著作権協会(JASRAC)・日本文芸著作権保護同盟・日本放送作家組合等がある。

◆知的所有権の国際的保護〔1998年版 知的所有権〕 知的所有権は、独自の産業・文化政策にもとづいて各国が保護を与えるという性質上、各国の領土内で成立し国内でのみ効力を有する(属地主義 principle of

territoriality)のが原則。各国は、二国間または多国間の条約がなければ、外国で成立した知的所有権を承認する義務はない。そこで、諸国で知的所有権を確保しようとすれば、各国個別の手続が必要となる。一方、経済相互依存の進展により、知的所有権保護のための国際的ネットワークとして各種条約が重要性を

増している。 ◆世界知的所有権機関(WIPO)(World Intellectual Property Organization)〔1998年版 知的所有権〕 国連の一六の専門機関の一つ(一九七四年)。本部はスイスのジュネーブ。六七年にストックホルムで署名された「世界知的所有権機関を設立する条約」にも

とづき、七○年設立。前身は、工業所有権保護のためのパリ条約(一八八三年)と著作権保護のためのベルヌ条約(一八八六年)の合同事務局〔一八九三年、

BIRPI(知的所有権保護合同国際事務局)〕。世界の知的所有権保護の促進と、パリ同盟やベルヌ同盟など各種の知的所有権同盟の管理への協力を目的とし、

工業所有権と著作権という二大領域を対象とする。特に発展途上国における知的所有権制度の近代化の支援に力を入れている。一九九七年七月末現在一六四カ

国が加盟(日本は七五年四月)。 ◆AIPPI(国際工業所有権保護協会)(Association Internationale pour la Protection de la Propri#t# Industrielle)〔1998年版 知的所有権〕

パリ条約を締結に導いた官民の代表者により、工業所有権の国際的保護を目的として一八九七年に設立された世界組織。本部はスイスのチューリッヒ。日本を

はじめ、米・英・独・仏・ロシアなど世界九七カ国に各国部会を有し、高度の専門家約六五○○名の会員を擁する。途上国の工業所有権制度整備の支援など、

WIPOと表裏一体の国際活動を行っている。国際的専門家集団としてWIPOから諮問を受けることも多い。最新の工業所有権問題が議論される三年ごとの

世界総会での決議内容は、WIPOでの条約案の起草などに強い影響を与えている。AIPPI日本部会は、通産省・特許庁・外務省・経団連・日商などの勧

奨により、五六年に設立。会長は経団連会長が兼務。法人・個人を含め会員約一○○○名と世界最大の部会である。主要各国特許庁および関係諸機関と密接に

情報交流し、日本の工業所有権制度の向上をめざし、幅広い国際活動を展開。業務拡大のため、九一年に社団法人日本国際工業所有権保護協会(AIPPI・

JAPAN)を設立。同法人は、工業所有権の国際的な保護と育成を図り、日本の産業と経済の発展に寄与することを目的とする。

◆ALAI(国際著作権保護協会)(Association Litt#raire et Artistique Internationale)〔1998年版 知的所有権〕 著作権の国際的保護を目的に一八七八年にビクトル・ユーゴーを名誉会長として創設。ベルヌ条約成立はその八年後。本部パリ。会員は各国の大学教授・著作

者・法曹・官僚など。WIPO、UNESCOへの専門的助言で著作権関係の条約改正に大きな影響を与える。一九九七(平成九)年、日本支部発足(事務局

は(社)著作権情報センター)。

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◆特許制度の統一〔1998年版 知的所有権〕

WIPOでの各国制度の調和(harmonization)のための特許調和条約案検討作業は、アメリカが先発明主義に固執し、さらに審査期間短縮が条約案に含まれないことを理由に合意を拒否したため、一九九四(平成六)年九月には条約案が否決され、白紙に戻った。 ◆パリ条約(the Paris Convention for the Protection of Industrial Property)〔1998年版 知的所有権〕

「工業所有権の保護に関する一八八三年三月二○日のパリ条約」が正式名称。工業所有権の国際的保護のための基本的な条約。締約国は同盟(union)を形成。加盟国間の関係を強化するためである。一九九七年一月一日現在一四○カ国加盟〔日本は一八九九(明治三二)年七月〕。最新のストックホルム改正(一九六

七年)まで、数次の改正を経ている。 保護の対象は、発明・実用新案・意匠・商標・サービスマーク・商号(企業の名称)・地理的表示(原産地表示と原産地名称)と広く、さらに不正競争防止規

定も含む。

基本原理は、(1)内国民待遇(national treatment 他の同盟国の国民に、自国民と同一の保護を与える)、(2)優先権(right of priority)制度、および(3)共通規定(締約国すべてが従うべき最低限の保護規定)。優先権とは、ある締約国での出願後一定期間(特許・実用新案は一二カ月、意匠・商標は六カ月)内

の他の締約国への出願は、最初の出願と同じ日に出願したとみなす制度。同期間中は新規性が確保されるので、出願人はその間にどの国の保護を求めるかを考

えて手続できるのが利点。共通規定の内容は、特許独立の原則(independence of patents ある国で無効とされても他国での特許の効力は左右されない)など。

同盟国は、この条約の規定に反しないかぎり相互に工業所有権保護に関する「特別の取決め(special agreements)」を締結できる(一九条)。同条にもとづく多国間または二国間の条約・協定は数多い。その中でWIPOが管理するものは次のとおり。 (1)特許協力条約(PCT Patent Cooperation Treaty) 各国特許庁への重複出願の回避と出願人・特許庁の負担減とを目的として、一九七○年ワシント

ンで締結された特許出願方式統一のための条約。七八年一月発効。九七年二月二六日現在八九カ国加入(日本は七八年一○月)。この条約により、一件の出願

で、指定した国々で別々に出願したと同様の効果が生じる。また同条約は、十分な審査能力のない国でも安定した特許を付与できるように、先行技術(prior art)

調査に当たる国際調査機関(International Searching Authority)の制度を規定。九六年のWIPOの国際出願受理件数は四万七二九一件、一出願当たりの平均指定国数は五六・一八カ国(九六年)。 (2)植物新品種保護のための国際条約(International Convention for the Protection of New Varieties of Plants, 1961) 植物新品種育成者の国際的保護制

度を定める。締約国は同盟(UPOVUnion for the Protection of New Varieties of Plants)を形成。九二年一月一日現在、二一カ国加盟(日本は八二年九月)。 (3)商標法条約

(4)さらに、(1)特許につき、ストラスブール協定(国際特許分類 1971)、ブダペスト条約(特許手続上の微生物寄託の国際的承認 1977)、(2)意匠につき、ハーグ協定(意匠の国際寄託 1925)、ロカルノ協定(工業的意匠の国際分類 1968)、(3)商標につき、マドリッド協定(標章の国際登録 1891)、

ニース協定(標章登録用の商品・サービスの国際分類 1957)、ウィーン協定(標章の図形要素の国際分類 1973)、(4)その他、マドリッド協定(虚偽・誤導的な原産地表示の防止 1891)、リスボン協定(原産地名称の保護と国際登録 1958)、ワシントン条約(半導体集積回路 1989―未発効)、など。このうち日本未加入は、ハーグ、ロカルノ、ウィーン、リスボンの各協定。

◆欧州特許条約(EPC)(European Patent Convention)〔1998年版 知的所有権〕 一九七七年発効。パリ条約の特別取決めとしての広域特許条約。この条約で欧州特許機構とその運営にあたる欧州特許庁(EPO European Patent Office ミ

ュンヘン)が設置された。加盟国は九○年現在一四カ国。単一の手続(EPOでの出願・審査)によって、保護を希望して指定した複数の締約国での国内特許

の取得を可能とする。締約国以外(例、日本)からの出願も可能。PCT出願の際にEPOを指定することもできる。付与された欧州特許は各指定締約国で国

内法に応じた内容の相互に独立した特許となる。

◆ベルヌ条約(the Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)〔1998年版 知的所有権〕 著作権に関する基本的条約(正式には、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)。一八八六年スイスのベルンで締結。一九七一年のパリ改正まで

数次の改正。締約国は同盟を形成。九七年七月末現在一二五カ国加盟(日本は一八九九年、アメリカは一九八八年)。(1)内国民待遇、(2)無方式主義(著

作権は創作時に発生)などが原則。著作権の保護期間を創作後著作者の生存間と死後五○年とするなど最低保護基準を定める一方、途上国には翻訳権と複製権

につき例外を設定。 ◆万国著作権条約(the Universal Copyright Convention, 1952)〔1998年版 知的所有権〕 著作権の発生に登録などの方式を要する国はベルヌ条約には加入できないので、それらの諸国とベルヌ同盟加盟国をつなぐために締結された条約。ユネスコが

管理。日本は一九五六(昭和三一)年加入。内容は、(1)方式主義の国でも(C)表示をつければ著作権を取得できる、(2)保護期間は最低著作者の死後二

五年、(3)翻訳権の強制許諾制、など。

◆新著作権条約二件成立〔1998年版 知的所有権〕 一九九六年一二月二○日、WIPOで、ベルヌ条約パリ改正以来四半世紀ぶりに、次のような新たな著作権条約が二件締結された。いずれも、三○カ国の批准

で発効する。

(1)WIPO著作権条約(WCT WIPO Copyright Treaty) 主な内容は、(1)コンピュータ・プログラムとデータベースを保護、(2)一定の限定

つきで、著作者に「頒布権(著作物を販売その他の所有権の移転を通じて公衆が入手できるようにする権利)」、「コンピュータ・プログラム、映画著作物、レ

コードの商業的貸与権」、「有線・無線による公衆への伝達を許諾する権利」を認める、(3)写真著作物の保護期間を創作後二五年から死後五○年に延長、(4)

コピー防止など技術的保護装置に対する法的保護、(5)著作権管理情報の改変に対する規制。一般的頒布権以外ほぼ対応済みの日本も、写真保護を公表後五

○年から死後五○年とするなど必要な改正をした(九六年、(4)(5)は検討中)。 (2)WIPO実演・レコード条約(WPPT WIPO Performances and Phonograms Treaty) 実演家に対し(1)人格権、(2)その録音物につき複

製権・頒布権・商業的貸与権・公衆に利用可能とする権利、(3)ライブ実演につき放送権・公衆への伝達権・(レコードなどに)固定する権利を認め、レコー

ド製作者に対しても(2)の各権利を認める、という内容。日本は「公衆に利用可能とする権利」につき立法(九七年一月一日施行、(1)は検討中)。 ◆ローマ条約(Rome Convention for the Protection of Performers, Producers of Phonograms and Broadcasting Organizations)〔1998年版 知的所有権〕

実演家・レコード製作者・放送事業者の保護に関する条約(一九六一年)。九七年七月末現在、英仏独を含め五二カ国加入(日本は八九年、アメリカは未加入)。 ◆TRIPS協定(Agreement on TradeRelated Aspects of Intellectual Property Rights)〔1998年版 知的所有権〕

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貿易関連知的所有権に関する協定。WTO設立協定の三附属書の一つ(Annex 1C)。

(1)知的所有権保護の最低基準、(2)知的所有権の分野への内国民待遇と最恵国待遇の適用、(3)権利執行(enforcement)制度、を内容とする。(1)では、営業秘密やサービスマークの保護、特許期間を出願から二○年以上とする、医薬特許を認める、などを規定。WTO加盟国(一九九七年七月末現在一三一

カ国・地域)は、この協定によりパリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路に関するワシントン条約(一九八九年)の各条約に未加入でも、加入国同様の

保護義務を負うことになった。日本も、原子核変換物質の発明を特許対象とし、特許期間を出願日から二○年とするなど、各種の法改正を行った。 ◆TRIPS理事会(the Council for TradeRelated Aspects of Intellectual Property Rights, The Council for TRIPS)〔1998年版 知的所有権〕

貿易関連知的所有権に関する理事会。WTO設立協定により、一般理事会の下に、物品貿易、サービス貿易に関する各理事会とともに設置された理事会。TR

IPS協定運用の監視を担当。 ◆日米知的所有権紛争〔1998年版 知的所有権〕

一九八五年世界最大の債務国に転落したアメリカは、国際競争力強化のため、知的所有権強化を通商政策の柱として八八年の包括通商競争力法のいわゆるスペ

シャル三○一条(知的所有権保護の不備な国の特定・通商制裁)にもとづいて諸国に圧力をかけている。同条による調査と制裁決定に当たるのがUSTR(ア

メリカ通商代表部)。このような国家レベルでの通商紛争に加えて、日・米企業間の知的所有権侵害訴訟も多い。日本企業は米国特許取得件数の上位にランク

されるが、基本的な特許よりも周辺的な特許が多い点が弱み。また特許範囲を広く解釈するアメリカの「均等論」や、素人の陪審員による特許の陪審裁判・広

範囲な証拠提出を求める「開示手続」など日本にはない訴訟手続が、日本企業に不利との指摘もある。 特許侵害事件は、連邦裁判所に提訴されるほか、包括通商法で強化された関税法三三七条に基づきITC(国際貿易委員会 International Trade Commission)に、アメリカ国内の知的所有権を侵害する輸入品の通関禁止を求めることもできる。ITCでは一年内に決着するため、提訴するアメリカ企業は、対応に追わ

れる日本企業より有利となる。 ◆並行輸入/BBS事件(parallel import)〔1998年版 知的所有権〕

知的所有権の保護対象となる商品(ブランド品、特許製品、著作権保護商品など)が権利者によって製造され適法に市場におかれた場合に、権利者から輸入ラ

イセンスを得ずに、その真正商品をその市場で購入して輸入すること。無権利者の製造した不正商品ではないこと、輸入総代理店を通さず直接買付輸入するこ

と、が特徴。内外価格差から最近急増しているが、輸入国での権利者による輸入差止を認めるか問題となっている。商標で保護されるブランド品については、

万年筆に関する一九七○(昭和五五)年のパーカー判決以来、真正商品の並行輸入は適法とされてきたが、著作権と特許権では判例が分かれ、国際的にも論争

を呼んでいる。著作権についてはビデオ・カセットの東京地裁判決(「一○一匹わんちゃん」事件、一九九四年七月一日で並行輸入が違法とされ確定)。特許権

では、ドイツの自動車部品メーカーBBS社のアルミホィールに関して、違法(東京地裁、九四年七月)から適法(東京高裁、九五年三月)と動き、最高裁で

も適法とされた(九七年七月)。特許製品の並行輸入は特許侵害にあたらない、としたのである。TRIPS協定でも並行輸入は問題とされながら合意を見な

かった。並行輸入の問題は自由貿易促進と知的所有権保護とのバランスという難題をはらんでいる。最高裁判決は、国際取引での商品流通の自由を尊重しつつ、

外国での販売時に譲受人と販売先・使用地域から日本を除外することを合意し、その旨明示すれば日本への輸入の差止も可能として、特許権者の保護にも配慮

した。

◆インターネットと著作権〔1998年版 知的所有権〕 コンピュータ・ネットワークの急速な世界的広がりにより、音声・文字・図形・映像がデジタル情報として双方向で世界中を飛び交う時代になった。アメリカ

では、クリントン大統領が情報ネットワークを全米に高速道路のようにはりめぐらそうとしている(情報スーパーハイウェイ)。インターネットはそのような

高速情報網の一例だが、憲法上(表現の自由など)・契約法上(インターネットの取引)の問題、情報セキュリティ管理、商標・サービスマークとドメインネ

ームとの関係、など多様な問題がある。特に著作権について問題が多い。ネットワーク上を流れる情報内容(コンテンツ)の相当部分が著作権保護の対象とな

るからだ。インターネットに関する著作権問題は、(1)コンテンツがデジタル化されている点と、(2)ネットワークの双方向性(インターアクティビティ)

から生じ、具体的には次のような点がある。(1)デジタル情報は品質劣化なく容易に複製できるため、複製権が侵害されやすい。(2)インターアクティブで

あるため、入手情報の表現を修正・変更してさらに流すことができるが、これは著作者人格権の中の同一性保持権や著作財産権の一種である翻案権の侵害とな

りうる。(3)情報を流す行為が著作者の「公衆への伝達の権利」との関係で問題となりうる。また、(4)実演やCDからの音楽をサーバーに蓄積する行為は

実演家とレコード会社の「公衆に利用可能(送信可能)とする権利」の侵害となりうる(九八年一月一日から)。さらに(5)著作物の利用許諾に関して、現

行の仲介業務団体制度を含め権利の集中的管理制度の見直しが必要か。(6)送信による出版という事態にどう対応するか、などの問題。 ●最新キーワード〔1998年版 知的所有権〕

●プロ・パテント政策〔1998年版 知的所有権〕 パテント(特許権)を含む知的所有権を重視し、保護を強化しようとする政策。アメリカで一九八五年に大統領に提出されたヤング報告書が、産業空洞化に悩

むアメリカの国際競争力の強化をめざして提唱。八五年から九四年までの技術貿易収支(国家的なロイヤルティ収支)は、アメリカが約一五兆七○○○億円の

黒字、日本は四兆二○○○億円の赤字。日本の特許庁も最近、休眠状態の特許の活用を進めるなど、この政策を打ち出している。具体策として、アメリカでは

独禁法の緩和・権利者に有利な解釈などがあるが、日本でも保護強化のために侵害者に対してアメリカ同様実損の三倍までの額の損害賠償を命じうる懲罰的賠

償制度(punitive damages)の導入を要望する声が出ている。日本企業でも知的所有権を積極的に自社商品と位置づけ、その対価としてのロイヤルティ収入が年間四○○億円を超えるものがある。技術開発も権利の確保・ライセンス利用・侵害への毅然とした対応ではじめて十分な経営戦略となることを直視した結果

だろう。 ●商標法条約(TLT)(Trademark Law Treaty, 1994)〔1998年版 知的所有権〕

各国・地域での商標(サービスマークを含む)登録手続のユーザーフレンドリー化と国際的調和を目的とする条約。商標もサービスマークも人気が出れば企業

の貴重な財産になるが、国際取引の進展と共に各国登録制度の調和がますます重要になったことを反映して成立。一九九七年四月一七日現在、八カ国加入(日

本は同年四月)。内容は、(1)一件の出願で複数の商品・サービス区分を指定できる方式を導入、(2)登録更新時の実体審査の禁止、(3)権利移転手続の簡

素化など。 日本もこれに応じた整備をすると同時に、三七年ぶりに商標法を大改正した(平成八年法六八号、原則九七年四月一日施行)。この新商標法の内容は、(1)同

条約への対応、(2)登録したが使われていない商標(不使用商標)は保護に値しないので、その登録取消審判手続を緩和(法律上の利害関係がない者も同手

続を請求できるようにするなど)、(3)短ライフサイクル商品にも合理的な登録料の分割納付制度(一○年分一括から五年分ずつ納入へ)の導入、(4)商標

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権成立の迅速化(出願公告制度を廃止して、異議申立を登録後とする付与後異議申立制度の導入など)、(5)著名商標の保護(外国周知商標の日本未登録につ

けこんで高く買い取らせようと登録出願する場合には、不正目的出願として排除するなど)、(6)商品の形そのものなど立体商標も認める。 ▽執筆者〔1998年版 交通運輸〕 高田邦道(たかだ・くにみち)

日本大学教授 1941年大分県生まれ。日本大学理工学部卒。現在,日本大学理工学部教授。著書は『地区交通計画』『都市交通計画』など。

◎解説の角度〔1998年版 交通運輸〕 ●全国の交通事故死亡者数は、この1/4世紀にわたって年間一万人を数えている。この問題は、国民の第一級の課題であることには間違いないが、その対応

から逃げている感は否めない。

●人はこれを交通戦争と呼んでいる。ベトナム戦争での戦死者に匹敵する以上の死亡者数と注目を集めて以来、三○年を経過している。この間、交差点の改良

など工学的手法の導入によって一時減少したものの、その後徐々に回復、安定(?)して長期的に一万人という事故対策目標値ともいえる基準ができあがって

しまった。この解決には、交通技術者の育成、交通管理と道路管理のドッキング、交通安全の財源確保とその有効利用等構造的課題を多く抱え、多岐にわたる

省庁部課の一元化が望まれている。

●このような中、行政改革案づくりが進み、交通情報省なるものの実現が期待された。しかし、その経緯を見る限り、期待は見事に裏切られている。ハイモビ

リティが達成された今日、安全と環境に真剣に取り組む必要があろう。なかでも平和国家を標榜している日本なのだから、交通戦争終結への体制づくりが改革

の柱になってもよいと考えるのは著者だけであろうか。

▲エコ交通〔1998年版 交通運輸〕 ◆窒素酸化物自動車排出総量削減法〔1998年版 交通運輸〕

ディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOX)の総量削減を目指した特別措置法。NOXは一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)などの総称で、酸

性雨や光化学大気汚染の原因物質となる。その発生源としては、これまで工場のボイラーなどの固定発生源が主であったが、近年特に大都市においては、自動

車などの移動発生源が主になってきた。したがって、車種別排ガス濃度を規制(単体規制)していたのに対し、単に総量規制、NOX規制ともいう。トラック、

バスの使用者にNOX排出の少ない車種の使用を義務づけるための排出基準を作り、NOX汚染のひどい大都市を対象とした特定地域で基準不適合車の使用を

制限する。また特定地域の一般、運輸事業に対し、関係省庁が低公害車の導入や共同配送システムを取り入れるなどの対策を求める。

◆低公害車〔1998年版 交通運輸〕 現行のガソリン車やディーゼル車に比べて、大気汚染あるいは地球温暖化物質といわれているCO2、NO、NOXなどの排出量が少ないメタノール、天然ガ

ス、水素、電気、ソーラーなどを動力源とする自動車をいう。クリーンカーともいう。数年来の研究成果によってガソリン車の性能に近づき、実用実験段階に

入ってきたが、まだコストが高いこともあって、一般的な普及には時間を要するとみられている。しかし、一部公用車や集配車には採用が始まっている。都心

部あるいはリゾート地において低公害車しか走れない地域をつくり、これを少しずつふやしていくのが最も実用的だといわれている。そのシステム化としてI

CVSやTULIPが提案されている。 ◆電気自動車(electric vehicle)〔1998年版 交通運輸〕

電池をエネルギー源として走る車。略してEVあるいはEV車ともいう。ガソリン車に比べて走行距離、充電、最高速度などにまだ課題が残されているが、配

送車や、低公害の要求が強い工場内、リゾート地、公園内など限定された利用には十分耐えうるまで技術は上がってきている。公共団体で試用されているほか

補助金つきの電気自動車試用制度などができ、約二三○○台が登録され、実用化への腕だめしが行われている。ただ技術が上がってきても普及に最もネックと

なるのは充電。充電ステーションの建設は、EV車の普及にとって不可欠である。そこで、地方自治体、電力会社、ガス会社などの駐車場をEV専用のパーキ

ングとして、共同利用できるEVコミュニティ構想、あるエリアまで従来の交通機関を利用し、エリア内はすべてEV車を移動システムとするEVシティ構想、

原子力発電所の周辺市町村などにEV車を購入し、電池をカセット式にし、電池交換型EV車の利用構想を基本にもつEVビレッジ構想などが提案され、その

実現に向けて研究中である。

◆ルシオール〔1998年版 交通運輸〕 国立環境研究所などにより開発された高性能電気自動車。従来のようにガソリン車の車体をベースにして電気自動車用に改造するのではなく、最初から電気自

動車用に設計を行ったグランドアップ車。駆動用モーター、減速ギア、ベアリング、機械ブレーキを一体型にまとめて後輪に組み込む新形式の駆動システムと

電池に電池状態監視センサーと充電器を取り付け残存容量を正確にモニターする電池管理システムを持っているのが特徴。最高時速一三○キロ、一充電走行距

離一三○キロを実現。ルシオールとはフランス語で蛍(luciole)という意。

◆天然ガス車〔1998年版 交通運輸〕 天然ガスを燃料とする車。天然ガス貯蔵運搬方式の違いにより圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas CNG車)自動車のほかに、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)自動車および、活性炭等による吸着貯蔵天然ガス(Absorbed Natural Gas)自動車に分類される。この中でCNG車が世界的にみて主流である。

CNG車はNOX(窒素酸化物)だけでなく、SOX(硫黄酸化物)、一酸化炭素もほとんど排出しない低公害車。開発に取り組んでいた通産省と日本ガス協

会は、地方自治体に貸し出し、公道上でのテストを始めた。

◆近未来型地域交通システム〔1998年版 交通運輸〕 騒音や排気ガスの少ない、気持ちよく暮らせる町づくりのために、超小型の電気自動車や二輪車などを限定された地域の住民が共同で利用する本田技研工業が

研究開発中のシステム。ICVS(Intelligent Community Vehicle System)とも呼ばれる。ICVSは、駅やスーパーなどの目的地で乗り捨てれば、駐車中に自動的に充電ができ、使いたい時に誰にでも使える。静かでクリーン、小さいボディにより駐車スペースの節約や渋滞緩和の役割も持ち、町づくり、特に歴

史的都市などへの導入が期待されている。使用される車両は、モーター搭載の自転車、実用電気スクーター、生活エリア用電気自動車、通勤通学用一人乗り電

気自動車など。 ◆チューリップ作戦(TULIP)〔1998年版 交通運輸〕

フランスのプジョー・シトロエンが開発した乗り捨てコミューターと呼ばれる新しい都市交通システム。TULIPとは Transport Urbain Libre Individuel Publicの略。公共的乗り物でありながら、個人が自由に乗り回せる都市型交通との意。都市内に何カ所かのステーションを作り、それぞれにチューリップモー

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ビルと呼ぶ小型の電気自動車を数台ずつ配備する。年会費を払ってリモコン装置を受け取った利用者は登録した暗証番号を使って、リモコンで予約、ドアの開

閉、ハンドルロックの解除を行う。リモコンは携帯電話の機能をもち、交通情報も得られる。どのステーションでも乗り捨て可能。二人乗りで最高時速七五キ

ロ。一回の充電で六○キロの走行可能。使用料金は、日本円で約六四○円/時。 ◆超小型車〔1998年版 交通運輸〕

省エネルギー、省スペース、低公害、リサイクルをコンセプトに運輸省交通安全公害研究所が一九九六(平成八)年度から四年がかりで開発に乗り出した超小

型マイカー。大きさは、軽自動車より「二まわりほど小さい」全長二・五メートル前後の二人乗り。乗車効率、駐車効率ともに悪いマイカーの欠点を克服する

ために欧州の自動車メーカーでも開発中。二○○五年に試作車発表。二○一○年量産体制が目標。小さい車の課題の安全については、外側を硬く、内側を軟ら

かくした「ナッツ(木の実)形式」のボディーが採用される。 ◆エコステーション〔1998年版 交通運輸〕

環境対策の一つの柱は電気や圧縮天然ガス、メタノールなどクリーンエネルギーを使う自動車の普及である。エコステーションはこれら石油代替エネルギーの

自動車への供給所である。クリーンエネルギーの自動車を普及させるには、エコステーションの全国ネットの整備が必要。エコは ecology(生態学)の略称。

◆モーダルシフト(modal shift)〔1998年版 交通運輸〕 利用交通機関(modal輸送形態)間の転移(Shift)をいう。排出ガスの抑制あるいは運転手不足のため、トラックから鉄道、あるいは船に輸送モードを変える

こと。しかし、末端輸送はトラック輸送に依存せざるを得ないので、協同一貫輸送が必要となる。協同一貫輸送の典型的な例としては船とトラックのフェリー

輸送や鉄道とトラックのピギーバック輸送(piggyback transportation)などの組み合わせ輸送。また、コンテナやパレットを使用したひとまとめ輸送がある。わが国では、このような協同一貫輸送ができる環境がまだ構築されていない。

◆ノーマイカーデー〔1998年版 交通運輸〕 大気汚染や、違法駐車、道路渋滞、交通事故などいっこうに改善されない自動車公害問題の解決の糸口として日を決めて不要不急の自動車利用を自粛する呼び

かけ。東京都や周辺の県市で節車デーとして毎週水曜日をこの日にあてている。したがって、水曜カー規制あるいは水曜カー抑制ともよばれる。東京都の経過

報告では、水曜前後の火曜と木曜に交通量が増加しているなど効果ははかばかしくなく、その見直しが迫られている。 ◆交通アセスメント〔1998年版 交通運輸〕

大型店などを建てた場合に付近の交通に及ぼす影響を事前に予測し、駐車場の拡大や道路沿い部分に駐車待機用の車線を作るなどの対策を講ずるための制度。

ある程度の規模の店舗や娯楽施設、オフィスビルなどを建設する場合、計画段階で完成後にどの程度の車の出入量があるかを予測し、その数値に基づいて対策

を検討する。具体的な対策は、自治体や建設省と、建設者が協議して決める。アセスメント(assessment)は環境などを事前に評価すること。 ◆ビオトープネットワーク〔1998年版 交通運輸〕

ビオトープ(Biotope)とは、生物の多様な生息空間を意味しており、道路空間においては、のり面、環境施設帯、インターチェンジのオープンスペース等を活用して創出される。ビオトープネットワークは、生物の移動を確保するため、ビオトープを道路空間や公園、河川等の空間を利用してネットワーク化するこ

とである。自然環境の保全・回復、あるいは道路建設の際の自然との共生において欠かせない視点である。バイパス整備後の廃道などは、これまで放置のまま

で自然回復に時間がかかっていたが、これからは自然道(ネイチャートレイル naturetrail)施策として取り入れることになった。 ◆エコロード〔1998年版 交通運輸〕

生態系に配慮し、環境に対する影響を極力減らすべく設計された道路。道路建設によって、いわゆる「けものみち」が遮断され、生息地帯が分断されたり、小

動物が側溝に落ちて死亡するなど自然環境への影響が指摘された。そのため、動物たちが通るために道路下にトンネルや切り土部分でオーバーブリッジを設け

たりしてけものみちをつくり、道路建設と生態系との調和を図ることを目的としている。生態学(ecology)のエコと道路(road)のロードを組み合わせた造

語。 ◆エコポート〔1998年版 交通運輸〕

生物、生態系に配慮し、自然環境と共生した、アメニティ豊かな、環境への負荷の少ない総合的かつ計画的取組みを施し、将来世代への豊かな港湾環境の継承

を目指す港湾。環境共生港湾ともいう。一九九二(平成四)年に設置された「港湾・海洋環境有識者懇談会」の提言と九三年一一月に制定された環境基本法の

理念を踏まえて九四年三月に策定された新たな港湾環境政策。港湾局長がモデル港(地区)を指定し、モデル事業の認定を行った上で、港湾環境インフラの総

合的な整備を重点的、先行的に行う事業。 ◆ITS関係略語一覧〔1998年版 交通運輸〕

AHSS:Advanced Highway Safety System (道路安全システム) AMIS:Advanced Mobile Information Systems (交通情報提供システム)

AMTICS:Advanced Mobile Traffic Information and Communication Systems (新自動車交通情報通信システム) ARTS:Advanced Road Transportation Systems (次世代道路交通システム) ASV:Advanced Safety Vehicle (先進安全自動車)

ATES:Advanced Transport Efficiency System (輸送効率化システム) ATIS:Advanced Taffic Information Service (交通情報サービス)

AVM:Automatic Vehicle Monitoring System (車両位置等自動表示システム) DRGS:Dynamic Route Guidance Systems (動的経路誘導システム)

DRIVE:Dedicated Road Infrastructure for Vehicle safety in Europe (欧州交通安全道路施設) EPMS:Environment Protection Management Systems (交通公害低減システム) EURECA:EUropean REsearch Coordination Agency (欧州研究協力機関)

ISTEA:Intermodal Surface Transportation Efficiency Act (陸上交通効率化法) ITS:Intelligent Transport Systems (次世代道路交通システム)

IVHS:Intelligent Vehicle Highway Systems(Society) (知能化車両・道路システム) MOCS:Mobile Operation Control Systems (車両運行管理システム)

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PROMETHEUS:PROgraMme for a European Traffic with Highest Efficiencyand Unprecedented Safety (欧州高効率高安全交通プログラム)

PTPS:Public Transportation Priority Systems (公共車両優先システム) RACS:Road/Automobile Communication System (路車間情報システム) SSVS:Super Smart Vehicle System (スーパー・スマート・ビークル・システム)

UTMS:Universal Traffic Management System(Society) (新交通管理システム) VERTIS:VEhicle Road and Traffic Intelligence Society (道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会)

VICS:Vehicle Information and Communication System (道路交通情報通信システム) ◆ITS関係略語一覧〔1998年版 交通運輸〕 AHSS:Advanced Highway Safety System (道路安全システム)

AMIS:Advanced Mobile Information Systems (交通情報提供システム) AMTICS:Advanced Mobile Traffic Information and Communication Systems (新自動車交通情報通信システム)

ARTS:Advanced Road Transportation Systems (次世代道路交通システム) ASV:Advanced Safety Vehicle (先進安全自動車)

ATES:Advanced Transport Efficiency System (輸送効率化システム) ATIS:Advanced Taffic Information Service (交通情報サービス) AVM:Automatic Vehicle Monitoring System (車両位置等自動表示システム)

DRGS:Dynamic Route Guidance Systems (動的経路誘導システム) DRIVE:Dedicated Road Infrastructure for Vehicle safety in Europe (欧州交通安全道路施設)

EPMS:Environment Protection Management Systems (交通公害低減システム) EURECA:EUropean REsearch Coordination Agency (欧州研究協力機関) ISTEA:Intermodal Surface Transportation Efficiency Act (陸上交通効率化法)

ITS:Intelligent Transport Systems (次世代道路交通システム) IVHS:Intelligent Vehicle Highway Systems(Society) (知能化車両・道路システム)

MOCS:Mobile Operation Control Systems (車両運行管理システム) PROMETHEUS:PROgraMme for a European Traffic with Highest Efficiencyand Unprecedented Safety (欧州高効率高安全交通プログラム)

PTPS:Public Transportation Priority Systems (公共車両優先システム) RACS:Road/Automobile Communication System (路車間情報システム) SSVS:Super Smart Vehicle System (スーパー・スマート・ビークル・システム)

UTMS:Universal Traffic Management System(Society) (新交通管理システム) VERTIS:VEhicle Road and Traffic Intelligence Society (道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会)

VICS:Vehicle Information and Communication System (道路交通情報通信システム) ◆プロメテウス(PROMETHEUS)計画〔1998年版 交通運輸〕 一九八五年の欧州閣僚会議で合意された欧州先端技術共同研究計画「ユーレカ(EURECA)計画」の一環として、事故防止、燃費向上、輸送率向上、運転

者の負担軽減、環境汚染の軽減を目的とした自動車中心のインフラ開発計画。ベンツ、ボルボ、BMWなど自動車メーカー一四社を主体に、推進されている。 ◆ARTS/次世代道路交通システム〔1998年版 交通運輸〕

アメリカのITS、ヨーロッパのプロメテウス、ドライブ計画と同様に、わが国における道路と車のリアルタイムの双方向通信等により、安全で輸送効率が高

く、道路と車が一体化して快適な道路交通の実現をはかることを目的として計画が提案されている。将来的には、自動運転システム、最適経路案内システム、

および高度運行システムをめざしている。このARTSを支える技術としてVICS、AHSS、ATESがある。 ◆AHSS/道路安全システム〔1998年版 交通運輸〕 路外逸脱防止システム、衝突防止システム、路面状況警戒システム、道路構造警戒システム、事故通報システムなどの総称。システムの最終目標は、自動運転

システムであるが、例えば衝突回避機能は追突(車間距離)だけでなく、側面や出会い頭などの衝突まで含めると、まだその道は遠い。しかし、人系、車系、

道系の三者がよりよい関係になるためには車のインテリジェント化は必要である。そのため、機能のステップアップで対応していくことが重要で、現段階はワ

ーニング(ブザーなどによる警告)、続いてワーニングと自動制御(ブレーキの場合)およびワーニングと自動操舵(ハンドルの場合)、そして最後は自動運転

になる。 ◆ATES/輸送効率化システム〔1998年版 交通運輸〕

高度運行を目指したシステム。車両間隔を小さくして、かつ安全な運行を無人化によって実現を目指す高密度運行システム、車両ID技術などを用いて道路上

を走る個別の車両を把握することによって最適経路で管理できるトラック・バス運行管理システム、料金自動徴収システムなどの開発が進んでいる。

◆路車間情報システム〔1998年版 交通運輸〕 道路沿いに、一定間隔に設置された情報通信基地ビーコン(beacon)の電波を自動車のマイコンがキャッチ、車の現在位置や経路誘導(ナビゲーション

navigation)を画面表示し、目的地までの最短経路情報を提供するなどのシステム。ほかに渋滞、工事、給油施設、サービスエリアの内容、駐車情報などを知る交通情報およびデータサービス、基地との個別通信機能の設置などの機能拡大を目指している。これらの実用化実験を東京都心部で繰り返している。 ◆VICS/道路交通情報通信システム〔1998年版 交通運輸〕

極超短波やマイクロ波などの電波を利用し、走行中の運転席わきの画面で前方の道路形態や混雑具合などが確認できる一般自動車用道路情報システム。建設省、

警察庁、郵政省の三省庁が協力して進めている。車載のカーナビゲーションシステムへ道路交通状況、最適経路誘導、目的地や駐車場などの道路案内、走行中

の車両位置や路線名の確認といった情報を路上に設置したビーコンやFM多重放送により送信、道路交通の高速情報化を促進させる計画である。かつて、建設

省がRACSを、警察庁がAMTICS(アムティックス)を独自に進めてきたが、これに郵政省を加えてVICSとして統合し、一九九一(平成三)年一○

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月には、VICS推進協議会(民間の任意団体)も組織された。九六年四月から首都圏および東名・名神高速道路全線でスタートした。

◆UTMS/新交通管理システム〔1998年版 交通運輸〕 光センサーの双方向通信機能により、交通情報をきめ細かく収集し、かつ提供することにより、交通流を総合的に管理し、「安全、快適にして環境に優しい車

社会」を実現するためのシステム。特徴は、高度化された情報収集と提供の機能を生かして、車両との対話型双方向通信システムを取り入れ、ITCS、AM

IS、DRGS、PTPS、MOCS、およびEPMSの六つのサブシステムで構成されている。警察庁指導の下、UTMS推進協議会が一九九三(平成五)

年から研究開発を始め、九四年七月に横浜でデモ実験を行った。今後はVICSに併せて実用化することが検討されている。

◆SSVS〔1998年版 交通運輸〕 スーパースマートビークルシステムと和製英語でカナガキを使っているが、長いので通常SSVSの略称が用いられる。電子技術情報処理技術、通信技術等を

駆使して、危険検知・回避技術、運転支援技術、交通輸送制御技術等を総合的に発展させ、実効道路容量の増大、高度な輸送サービスと安全要求への対応、高

齢化社会のイメージオペレーション化等を同時に目指すシステム。クルマ社会の健全化、高度化を目的に、具体的には、(1)車間通信を利用して、情報交換、

意思疎通を図る協調走行システム、(2)超小型車システム、(3)緊急回避等積極的運転システム、(4)交差点の通信設備の充電とそれから情報を入手する

高知能交差点システム、(5)インテリジェント物流情報システムの提案を行い、二○‐三○年後を目途にこれらのシステム開発を進めている。九○年から通

産省主導で、(財)自動車走行電子技術協会で検討している。

◆アティス/ATIS(交通情報サービス)〔1998年版 交通運輸〕 警視庁の交通情報をタクシーや運送会社に、リアルタイムで有料提供するシステム名。第三セクター方式で会社を設立、警視庁交通管制システムと連動して、

事故発生地点や通行規制区間などの交通情報をパソコン通信などで提供するシステムで、全国初の試み。この情報収集によって渋滞地域を避けた効率的な配車、

運行計画がつくられることが期待されている。将来的には一般家庭や自動車などへの提供の拡大が見込まれている。 ◆AVMシステム(車両位置等自動表示システム)〔1998年版 交通運輸〕

車両の位置や空車の情報を、無線を使って自動的に把握し各地に散らばっているタクシーを効率的に配車するシステム。地域ごとに設置したサインポスト(分

散送信局)が位置情報を特定の周波数で常時送り出し、ポストの地域内に入ったタクシーは、位置情報をキャッチすると同時に、位置情報と車両番号、空車か

どうかの情報を基地局に発信、基地局と公衆回線で結ばれた配車指令室のコンピュータが検索し、配車指定場所の近くにいる空車タクシーの車両番号を表示す

る。したがって、利用者に車両番号がすぐに知らされ、待ち時間が少なくなるほかに、タクシーの運転手も配車呼び出しを待つ必要がなく、配車も公平にでき、

無線配車を待つ無駄な走りが必要なくなった。また、このような移動体と外部との情報交換が行えるトラック運送業におけるシステムをMCA(Multi Channel

Access)という。 ◆ASV/先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle)〔1998年版 交通運輸〕

エレクトロニクス技術の応用により自動車を知能化し、ドライバーが運転する車としての安全性を格段に高め、事故予防、被害軽減に役立たせる目的で開発さ

れる自動車。ハイテク安全車ともいう。一九九一(平成三)年から運輸省に設置されたASV推進検討会で研究開発が進められ、九六年参加九メーカーの試作

車が披露された。二一世紀初頭の実用化がねらい。ASVが目指す安全対策は、予防安全、事故回避対策、衝突時の被害軽減、衝突後の災害拡大防止である。

◆ノンストップ自動料金収受システム(ETC)(Electronic CollectionSystem)〔1998年版 交通運輸〕 車を止めずに通行料金の支払いができるシステム。ロードカードシステム、ETCシステムともいう。有料道路の料金所が渋滞のボトルネックになるケースが

多く、この解消に頭を悩ませている。このシステムはあらかじめバックミラーの裏などにICカードを挿入した発進装置を取り付けておく。自動車が有料道路

に入る際、アンテナの横を通過するだけで瞬時に道路管理者側の電算機と交信し、積載したICカードにどの入り口を使ったかを記録する。出口でも同様の交

信を行い距離に応じた料金が確定する仕組みになっている。このように電波の発信能力をもつカードは、「ワイヤレスカード」あるいは「電波カード」とも呼

ばれ、鉄道駅の改札口への実用化も検討されている。 ▲生活環境と交通〔1998年版 交通運輸〕

◆LRT(Light Rail Transit)〔1998年版 交通運輸〕 わが国では軽快電車、ライトレール、次世代路面電車とよばれている。欧州では Light Rapid Transitの略とする都市もある。LRTのコンセプトは、かつて

の路面電車に比べて高速性に優れており、都心部では駅間の短い低速運行で、車や歩行者と共存し、郊外部では郊外電車並の五○‐七○キロ/時で走る。これ

に加えて低騒音・低振動、輸送力(時間当たり一万五○○○人の旅客輸送が可能)に優れ、地下鉄とバスの中間に位置する交通システムとしてヨーロッパを中

心に人気がでている。建設コストも低廉で、環境時代の都市交通として注目を集めはじめた。そのうえ、電車の床が停留所と同じ平面の超低床車で、お年寄り

や車いすも乗り降りが簡単の福祉型でもある。したがって、スーパー市電とも呼ばれる。LRTの車両は、LRV(light rail vehicle)と呼ばれ、この呼称が使われる場合もある。わが国では、路面電車が生き残っている広島、長崎、熊本などを中心に、その普及・再生が進められている。

◆NAGT(新全自動化軌道交通機関)(New Automated Guideway Transit)〔1998年版 交通運輸〕 最新のコンピュータ制御技術を応用し、比較的狭い範囲内の多様な短距離トリップをカバーする完全自動運転の新しい都市交通システムの総称。例としてはG

RT(Group Rapid Transit 中量高速交通機関)、PRT(Personal Rapid Transit個別高速交通機関)などがあげられる。GRTは、小型バス程度の大きさ

の乗り合いの車両が、複数ルートをもつ路線を柔軟に自動運行するシステム。PRTは、乗り合いをせず、個別乗車の小型車両がネットワーク状につくられた

軌道上をタクシーのように乗客の要望に従い自動的に運行するシステム。NAGTは、車の抑制に代わる手段とされながら、採算、景観、および防犯上の理由

から空港内施設の連絡線以外の実現は見送られている。 ◆常磐新線法案〔1998年版 交通運輸〕

正式名称は「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法案」。この法案が、常磐新線(第二常磐ともいう)を念頭においてで

きているための通称名。大都市地域の鉄道建設は地価高騰で建設しにくい。そこで、土地所有者が土地を持ち寄って住宅団地などを開発する土地区画整理事業

を適用し、鉄道や駅舎用地を道路と同じように優先的に安い価格で提供してもらう。鉄道や駅ができれば土地の値段も上がり、土地所有者の利益にもなる。地

方自治体も固定資産税などが増加となるので、助成などを行っても見合うという図式。なお、現在の私鉄の新線建設に対する国の補助金はP線方式、この常磐

新線への補助は、スーパーP線方式とよばれている。なお、P線のPは private。常磐新線は、東京・秋葉原から茨城・つくば市までの五八・三キロ、一九駅。

総事業費八○○○億。一九九四(平成六)年一○月に起工式が行われ、当初の予定より五年遅れて二○○五年度開業を目指している。 ◆リニア地下鉄(linear metro)〔1998年版 交通運輸〕

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リニアモーター電車を用いた地下鉄。正式にはリニアモーター駆動小型地下鉄。また、LIM地下鉄あるいはリニアメトロともよぶ。リニアモーターカーは高

速性だけでなく、建設費、車両、電気設備、保安費の安価性、省エネ性、低騒音性、急こう配走行などの優れた特性をもつ。この特性に着目し、モノレールに

代わる都市の新しい交通システムとして注目されている。大阪市の京橋―花博会場間全長五・二キロを結ぶリニア地下鉄は世界で初めて。東京都の「地下の山

手線」と称される都営一二号線でも採用が決まり、一九九二(平成四)年三月から一部開業し、九六年には放射部(光が丘―西新宿)が開通した。全面開業は

二○○○年度の予定。 ◆バス・ロケーション・システム(bus location system)〔1998年版 交通運輸〕

車両の走行位置をリアルタイムで把握し、停留所および営業所においてバスの運行状況を表示し、利用者利便の向上、運行管理の効率化を図るシステム。一九

八○(昭和五五)年ごろから試験的に導入されてきたが、鉄道なみのサービスを目指してより多くの路線に採用される。 ◆バスレーン(bus lane)〔1998年版 交通運輸〕

バスの定時運行を確保するために、区間や時間帯を限って、バス専用あるいはバス優先に指定された車線。客を乗せたタクシー、一定人数以上が乗っている乗

用車(HOV)のバスレーン走行を認める場合もある。バス専用レーン(exclusive bus lane)は、路線バス等が独占して使用し得る車線をいう。バス専用線、

バス専用通行帯ともいう。バス優先レーン(bus priority lane)は、路線バス等が他車両に優先して使用し得る車線。バス優先車線、バス優先通行帯ともいう。また、広幅員道路での一方通行で逆方向へバスレーンだけ認める場合を、バス逆行レーン(リバーシブル・レーン)という。これらの策は道路幅員の狭いわが

国ではあまり効果を上げていなかったが、交通渋滞、環境対策の一環として自家用車の削減が必要である。 ◆コミュニティバス〔1998年版 交通運輸〕 路線バスと乗合タクシーの間を埋める小型バスで、バス不便地域を運行する新乗り合いバスの総称。交通体系の確立、高齢者・障害者のモビリティの確保、環

境負荷の軽減などから公共交通システムとして輸送サービスが都市あるいは地域に必要である。しかし、人口密度や道路整備の状況、地理的条件などから従来

のバス、鉄道のサービス圏外地域で公共交通再生の道を探っている。武蔵野市のムーバス、大田市のシティライナーおおた、神栖町のタウンストリームなどネ

ーミングにまで気を配り、採算面の不足は市がカバーするなどマイカーの問題を克服すべく努力が続けられている。フィリピンのジプニー(Jeepney)のような外国人労働者による低賃金ドライバーの確保、あるいは欧州のようなマイカーの課金の投入などの施策が成功のカギを握っているが、わが国の現状では難し

く、都市交通の手段として定着するか疑問視されている。

◆ノンステップバス〔1998年版 交通運輸〕 高齢者・障害者などを含む、すべての人が乗降しやすいバスとして開発されたもので、床を低くして乗降口の階段をなくしたバス。床の高さが九○センチある

通常のバスから三○センチまで下げた低床で、段差がある歩道の場合は、車イスも利用できる。歩道がない場合も、地面からの段差が小さいため大きく足を持

ち上げにくい高齢者や子供、身体障害者、また大きな荷物を持った人など、だれにでも乗降が楽になる。車いす用のリフトバスやスロープ付きバスもあるが、

乗降に時間がかかるうえ、対象となる人が少ないなどの難点があった。北海道旭川市で本格的に導入したほか東京など大都市でも試験運行を始めている。 ◆パーク・アンド・バスライド・システム〔1998年版 交通運輸〕 インターチェンジ周辺に駐車場を設け、そこから高速バスに乗換えて目的地へ向かう方式。アメリカではオイルショック以来、一人乗り乗用車の削減を目指し、

HOV(High Occupancy Vehicle 高密度乗車車両)対策を行っている。特に、郊外のショッピングセンターの駐車場やインターチェンジの未利用地を使って乗用車による集散とバスの大量性を組み合わせている。鉄道輸送の少ないアメリカでは、これもパーク・アンド・ライドとよんでいるが、わが国では鉄道利用

のパーク・アンド・ライドと区別して用いている。運輸省が実現を目指して東関東自動車道を利用して四街道市をモデルに検討を進めている。混雑の著しい鉄

道を補完するシステムとして全員がすわっていける高速バス通勤の導入は注目されている。問題は、都心部近くの道路混雑への対応と帰宅時間が不規則な通勤

事情に適するかという点である。前者は都心周辺の最寄駅でバスから鉄道にさらに乗り継ぐトリプル・モード・システム、後者は帰りの鉄道利用割引制度など

弾力的な都市交通の運用が図れれば、実現可能であり、その整備が急がれる。 ◆パーク・アンド・レールライド〔1998年版 交通運輸〕

交通混雑を緩和するために、車を都市郊外の駐車場に止めて、鉄道に乗り換えて都心あるいは特定地域に入る方式。一般には、パーク・アンド・ライド(Park & Ride)方式と呼称されている。しかし、鉄道に乗り換えることを強調したい点とパーク・アンド・バスライドと区別したいためにレールライドを用いている。

ドイツを中心とした欧州の都市では総合交通対策として積極的に活用されているシステム。日本では駐車料金が高いことや他都市へ行く人のために公共側が駐

車場を提供する必要がないなど消極的であった。しかし、観光都市鎌倉で市民運動を行政が協力する形で実験が行われて一躍注目されるようになった。 ◆ゾーン運賃制〔1998年版 交通運輸〕

上限・下限のゾーン(幅)を設定し、その範囲内で複数の許可運賃が併存するタクシー運賃制度。幅運賃制ともいう。タクシー運賃は、初乗り運賃といわれる

基本料金と、それに走行距離と走行時間によって追加される料金とで構成される。さらに深夜早朝には割増料金が追加される。そして、「同一地域・同一運賃」

制が原則で、運輸省の許可を必要とした。この運賃体系が長い間続いてきたが、「タクシー運賃が必ず同じ基準で統一される必要がない」との大阪地裁の判断

などから一九九三(平成五)年五月の運輸政策審議会の答申で自由化への道が開かれ、同一地域での幾通りかの運賃を認める多重運賃制が導入された。そして、

九六年のタクシー運賃・料金の決定方式の自由化策の提案になった。ほかに、平均的な事業者の標準原価を基に上限運賃を設定し、それ以下なら自動的に許可

する上限価格運賃制(プライスキャップ制ともいう)などが考えられている。 ◆三四○円タクシー〔1998年版 交通運輸〕

中型車初乗り二キロ六五○円を消費税率アップにより六六○円に値上げする動きに対し、初乗りを一キロ、三四○円に短縮設定、二五○メートルごとに八○円

加算して、二キロを超える料金を初乗り六六○円タクシーと同じにするタクシーの料金体系。同一地域・同一運賃制に反対して料金値下げ訴訟を闘った京都の

MKタクシーに端を発し、近距離やお年寄り、病人が乗り易い制度が規制緩和の一環で考えられ、タクシー運賃の弾力化運用がはじまっている。例えば、一○

人乗りのジャンボタクシーを使った均一運賃の路線タクシー、三○○円で一定ルート運行タクシー、主要観光地路線を定間隔で運行する観光路線タクシー、定

期観光タクシーなどの構想が上がっている。

◆ゾーンシステム〔1998年版 交通運輸〕 正確にはトラフィック・ゾーン・システム。都心部を数個のゾーンに分け、互いのゾーンへの自動車交通の行き帰りを禁じた交通システム。歩行者や市電・バ

スなどの公共交通を優遇し、自動車利用の抑制や歩行空間の確保による都心の交通秩序化を求めるとともに都心域の活性化を推進することを狙いとする。典型

例は一九七○年に導入したスウェーデンのイエテボリ。欧州各都市で類似のシステムを採用している。

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◆ゾーン 30〔1998年版 交通運輸〕

時速三○キロメートル以下の速度規制を実施している地区。幹線道路は多くの交通量を高速にさばくことを目的とする一方、非幹線道路では速度を抑え、歩行

者の安全を確保して歩行者と自動車の共存を目指している。自動車交通の自由性は人類が勝ち得た最大の機械文明であるが、交通事故や交通公害などのマイナ

ス面も大きい。そこで車の機能を発揮できる区間と車のマイナス面を小さくする区間との使い分けをすることが車社会を維持できる最大のポイントと考えての

策。ゾーン 30 では幹線道路から非幹線道路へはスピードを落として流入し、非幹線道路からは飛び出さないよう出入口を絞るとか、地区内はハンプ(hump=路面の部分的な盛り上げ舗装)、シケイン(chicane=クランクやスラローム型による車道の蛇行)、ボラード(bollards=柱状の車止め)などの工夫で車の速

度を抑制してある。ドイツでは法制化され、わが国でも検討が求められている。 ◆コミュニティ・ゾーン〔1998年版 交通運輸〕 地区内は、歩行者等が優先される空間であるとの考えに基づき、住居系地区などにおいて、ゾーン内の速度規制と、コミュニティ道路の整備などにより通過交

通の進入を抑え、歩行者が安心して歩ける空間が確保された地区。第六次交通安全施設等整備事業五カ年計画の事業計画の一つで、本格的な高齢社会に備えて

の新しい交通安全対策として、一九九六(平成八)年四月より発足した。一方、第一二次道路整備五カ年計画でも道路の歩行空間の有効活用手法の一つとして

位置づけられている。過去に、スクールゾーン規制、生活ゾーン交通規制など面的な交通対策が実施されてきたが、道路交通量管理者の協力で、コミュニティ・

ゾーンが本格的な面(地区)交通管理として定着するかどうか注目されている。

◆リバーシブル・レーン(reversible lane)〔1998年版 交通運輸〕 一日のうちの時間帯により、車両の通行方向を切り換えて使う車線。可逆車線ともいう。奇数車線がとれる幅員をもつ道路で、朝夕の需要に合せて上下線の通

行を逆転させる方式で、欧州では古くから採用されていた。警視庁交通部では一九九四(平成六)年四月から渋滞の激しかった隅田川の永代橋で時間帯によっ

て五車線のうち中央の一車線の通行を逆転させる方法をとった。中央車線の切り換え時の混乱を防ぐために、センターラインを光らせたり、車線ごとに○×式

の信号機を設けたりする工夫をしている。

◆ゴールド免許〔1998年版 交通運輸〕 正確にはゴールドカード運転免許証。運転免許証の有効期間中に無事故、無違反であった優良運転者に、次の更新期間を五年に延長するメリット制度が導入さ

れた運転免許証。ねらいは、ゴールド免許というアメを与えることで安全意識の向上を誘発することにある。同時に若者の事故に対しては教習課程の強化、高

齢者の事故に対しては運動機能検査や講習の義務化というムチが加えられた。また、最初の免許を取った人用は若葉免許(黄緑色)として区別した。これに現

行の有効期間三年の一般用免許は青色とした。この免許制度が三種の色分けになったことから、免許証色分け制ともよばれている。一九九四(平成六)年の五

月から実施された。 ◆シルバーマーク〔1998年版 交通運輸〕

七五歳以上の高齢者に身体機能の衰えを自覚してもらおうと、免許更新時にブレーキ操作の遅れなどをチェックし、その結果で「シルバーマーク」を表示する

ことを推奨する制度。この表示のある車への幅寄せや割り込みを違反としている。また、ドライバーが高齢になったり、身体的障害が生じた時は自発的な免許

返納制度が設定された。

◆レッド・ゾーン〔1998年版 交通運輸〕 交通流への影響の大きい交差点付近において駐停車禁止をドライバーに強く訴えるため、交差点から約三○メートル区間の路側帯を赤色にぬると同時に立看板

をたて、ドライバーの自発的な違法駐車の抑止気運を促す交通管理の方法。警視庁が東京靖国通り・専大前交差点から須田町交差点までの六交差点で一九九三

(平成五)年八月から実験中。レッド・ゾーンの導入で路上駐車が全くなくなったわけではないが、タクシー等の乗降など停車に分類できる短時間駐車に限ら

れてきており、効果はでているとみられている。しかし、この方策を拡大しても罰則等がないため問題も多く、ローディングゾーンやタクシーの乗降区間の設

置などと合わせて実施することが求められている。 ◆交通需要マネジメント(transportation demand management)〔1998年版 交通運輸〕

これまで道路交通円滑化の施策のために、交通容量の拡大を図ってきた。しかし、増加し続ける需要に対応できなくなってきたので、交通需要を抑制する施策

が必要となった。しかし、ただ単に抑制するだけでは国民生活に支障をきたすので、車の利用の仕方や生活の工夫によって自動車交通量を削減する方法で道路

交通を管理していくことをいう。具体的には相乗り制度や効率的な物流システムを構築することで交通量を削減したり、時差通勤によって交通需要を平準化す

る。アメリカではTDMの略称でよばれている。 ◆バンプーリング〔1998年版 交通運輸〕

会社が購入したバンの運転者を社員から公募して同じ地域に住む通勤者を相乗りさせるシステム。運転者は副収入を得、同乗者は通勤費の節約ができ、会社は

自動車交通量を削減することで社会貢献ができる。アメリカの3Mではじめたのが最初。第二次オイルショック後、カーター政権時代の節エネの交通対策の一

つとしてとり上げられ、普及した。バン(van)の本来の意は有蓋貨物運搬車で、これを数人から二○人程度の旅客用に改造した。マイカーに相乗りするものをカープーリングという。自治体等で義務化され、HOVレーンの運用やカープーリング車等の優先駐車場の設置など都市交通政策の後押しがあって、車社会

の通勤交通として定着してきた。

◆HOVレーン〔1998年版 交通運輸〕 多人数乗車車両レーン。複数、できるだけ多人数が乗り込んだ車をHOV(High Occupancy Vehicle)という。このHOVだけが走れるレーンのこと。通勤時

の自動車交通量を削減するために相乗り車を奨励し、その後押しとしての交通政策の一つ。車線数の多いアメリカの大都市での交通政策ならではの策ともいえ

る。

◆フレックス週休二日制〔1998年版 交通運輸〕 週休二日のうち、一日を土曜日に特定せず他の曜日に会社内で振り分け、通勤交通需要を分散させようとするシステム。国際交通安全学会の提言によるもので、

平均的に休日分散ができれば、通勤交通需要は、一六・九%減少し、ゴルフなどの施設も安価に有効利用できるとしている。東京都心では、完全週休二日制(全

ての土日休み)が八九%まで進んでおり、土曜日のラッシュ交通需要は激減している。交通施設の有効利用の面からも有効なシステムである。官公庁および全

ての企業の足並みが揃えば実施可能性は高い。

◆ロード・プライシング(road pricing)〔1998年版 交通運輸〕 混雑する道路施設を、さらに効率的に利用するという観点から混雑税(congestion tax)あるいは混雑料金(congestion charges)を課す道路料金制度。最近で

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は環境税も含めて考えられている。この考え方を世に広めたのは一九六四年のスミード・レポート(イギリス)。最近では混雑対策だけでなく、自動車公害の

発生源対策のひとつとして自動車使用状況に応じて発生する社会的限界費用に対応した料金を課し、自動車利用者の交通行動を社会的に望ましい方向に誘導す

ることもできるとして再び注目されはじめた。これまでは七五年にシンガポールで、朝のピーク時間帯に都心部へ流入する車に特別な乗り入れ許可証を購入さ

せた地域ライセンス制(area licensing scheme)を実施している。現在はプリペイド式のERP(電子式道路料金制 Electronic Road Pricing)システム導入

の検討をしている。また、オスロ(九○年導入)などノルウェーの三都市ではトールリング(Toll Ring)と呼ばれる自動車から都心流入料金を徴収し、交通施設整備の財源とするシステムを導入している。

◆時差通勤通学推進計画〔1998年版 交通運輸〕 時差出勤とは地域あるいは会社内で出勤時間を転移させて通勤ピークを崩そうとする方法。大都市圏での深刻な鉄道の通勤・通学混雑を緩和するために、総務

庁など一八省庁で構成する交通対策本部がまとめた推進計画。一九九六(平成八)年から五カ年間で一五‐二○%の混雑率の緩和を目標に置く。他に、フレッ

クス週休二日制や混雑していない時間帯の運賃を割安にする時差回数券の普及が盛り込まれている。 ◆アイドリング・ストップ運動〔1998年版 交通運輸〕

駐停車中の車のエンジンをかけっ放しにする「アイドリング」をストップしようとする運動。排ガスや騒音対策にもなる。第二次オイルショックのあと節エネ

対策としてアイドリングを規制する条例を制定した自治体もあったが、十分な運用がなされていなかった。最近になって地球温暖化対策の一環や観光地などの

環境対策のために再びこの運動の波が拡がりはじめた。欧米では「三分以上は禁止」、信号や踏切待ちで「三台目以降はエンジン停止」などの規制をしている

国がある。 ▲物流と交通〔1998年版 交通運輸〕

◆コンソリデーション・システム(consolidation system)〔1998年版 交通運輸〕 都市内でランダムに発生している雑貨の小口・短距離の配送を一定のルールに基づいて「結束化」「統合化」し、混載化して都市交通の緩和に寄与しようとい

う地域共同集配送システム。わが国では、通産省が一九七三(昭和四八)年度に研究発表したが、集配は営業を兼務、コンソリデーションのためのデポ(depot 荷物集荷所)が必要などの理由で、実現へ向けての研究さえ行われなかった。しかし、昨今の交通事情、運転手不足などから再開発地域などへの導入に検討の

価値があるとして、にわかに浮上してきている。

◆地下物流システム〔1998年版 交通運輸〕 都市の地下空間を利用して都市内貨物輸送を行うシステム。都市内の小口貨物の輸送をトラックから代替することを目的としており、労働力、環境、道路混雑

等の面で、その効果が期待されている。建設省の構想では、地下専用レーンでは電気モーターで誘導、各端末からはトラック自体のエンジンで移動できる「デ

ュアル・モード・トラック」方式による方法を検討している。しかし、都心部のターミナル建設には検討しなければならない課題も多い。

◆トラックタイム・プラン〔1998年版 交通運輸〕 これまで道路上に設置されたパーキング・メーターのスペースを集配時間帯は貨物車に利用させるシステムの実験計画。警視庁の指揮の下、東京日本橋繊維問

屋街で一九九四(平成六)年六月から実験を開始。午前七時から一○時まで、午後四時三○分から七時までを貨物車による集配時間帯、午前一○時から午後四

時三○分までを乗用車専用の時間帯とし、道路空間を二次元利用(デュアル・ユース dual use)させ、道路混雑の解消と駐車スペースの確保が狙い。乗用車専用時間帯は従来どおり有料、貨物専用時間帯は集配貨物車ステッカー掲出制度を導入して無料。トラック業界は大歓迎だが、地元商店は、時間帯によっては

自社あるいは顧客の駐車がままならないための不満はあるが、地元の自主管理と物流業界の協力、行政の進行役が、うまくかみ合って成功するか注目されてい

る。 ◆ポケット・ローディング・システム(pocket loading system)〔1998年版 交通運輸〕

ポケット・ローディングとは、二―三台程度の路外に設置された貨物の積みおろしスペースのこと。再開発事業等で狭小の余剰区画を利用してのミニ公園をポ

ケット・パークとよんでいるが、これの貨物の積みおろし版。ただし、対象スペースは、再開発などの余剰区画だけでなく、公民館など公共施設あるいは民間

施設の専用駐車場、および月極駐車場。これらの一部を利用して、おおむね一○○メートル以内の間隔で設置し、地区あるいは都市の単位でネットワーク化し

て、利用状況の情報提供あるいは次の移動先への予約システムを付加したものをポケット・ローディング・システムという。タイヤロック駐車装置(駐車区画

内にストッパーをとりつけパーキングメーターと連動して、規定の駐車時間を超えると自動的にせり上がって、車が移動できる装置)を用いることで自動取締

りが可能で、路外で貨物の積みおろしができる。一つ一つは小規模な施設だが都市単位でネットワーク化できることから公共的施設として取り扱うことができ

る。特に路線型商業地あるいは五・五メートル以下の道路の多い地区で特に有効。また、住宅地など一般に時間貸し駐車場のない場所では、パーキング用を付

加あるいは時間帯による併用をすればなお有効に機能する。東京都の板橋区と練馬区で駐車施設整備基本計画に折り込まれている。また、一九九六(平成八)

年一二月から高松市で実験を開始した。

◆テクノスーパーライナー〔1998年版 交通運輸〕 ガスタービン・エンジンを動力源とし、ジェット水流の力で時速九三キロ以上で航行する超高速貨物船。計画によると、航続距離は九三○キロ、貨物積載量は

約一○○○トン、普通のコンテナ船の二・五倍のスピードをもつため、中国、台湾、韓国とは一日輸送圏になる。そのため海のハイウェイあるいは海の新幹線

とよばれる。運輸省では造船各社と共同で開発を進めており、実験船での最終的な総合実験に入った。一九九四(平成六)年七月から全国三三港に寄港し、荷

物積み込みなどのデータを集めている。実験船「飛翔(ひしょう)」は全長七○メートル、全幅一八・六メートルで実船の二分の一の大きさ。速力は時速一○

○キロで、空気の圧力で船体を浮かし、水の抵抗を少なくする気圧式複合支持船。今後、航海実験を経て、一九九八年度末の実用化を目指すが、技術面ではメ

ドがたったものの高い船価・燃費と帰り荷の集約などの課題が残されている。水中翼船タイプの実験船の「疾風(はやて)」もある。tecno(技術 tecnology

の略)、super(超越)と liner(定期船)を組み合わせた造語。略してTSLともよぶ。 ◆オムニトラックス〔1998年版 交通運輸〕 通信衛星による輸送情報サービスのシステム。走行中の車両と本部を衛星で結び、双方向の通信ができる。したがって、走行中のトラックにターミナルへの立

ち寄りなどの指示が自由にでき、積載率の向上のほか緊急出荷された荷物などこれまで臨時便で対応してきた分の節約が可能と期待されており、トラック輸送

の品質保証には欠かせないシステムとなりつつある。オムニ(omni)とは「全」とか「総」の意で、乗合バス(omnibus)のトラック版。

▲一般ユーザーと交通〔1998年版 交通運輸〕 ◆希望番号制〔1998年版 交通運輸〕

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車の登録の際に、希望のナンバーを申請し、空きがあれば可能な範囲で好きなアルファベットや数字の組み合わせができる制度。希望ナンバー制、選択ナンバ

ー制ともいう。増え続ける登録車への対応策として、車種を示す分類番号の二ケタから三ケタ化に対応できるシステムが完成し、車のナンバープレート(四ケ

タ番号部分)を登録順から希望番号制に変更することが可能になった。陸運局は一九九八(平成一○)年五月から全国二五地域で新規登録者に限りモデル的に

導入する。

◆ユーザー車検〔1998年版 交通運輸〕 いわゆる車検とは、道路運送車両法の「継続検査」のこと。安全な走行ができるためにブレーキランプ、サイドスリップ、排ガスなどの検査が義務づけられて

いる。検査の手段が複雑なため点検整備事業をすることができるのは自動車整備士の資格を持つ技術者のいる認定工場に限られる。このように車検代行に委託

する車検に対し、ユーザー自ら車検場とよばれる運輸省の陸運支局や自動車検査登録事務所へ出向いて継続検査を受けることをユーザー車検と呼称している。

ちなみに、アメリカは州によって異なり車検のない州も八州ある。イギリスは初回は三年目で、その後は毎年、フランスは初回が四年、二回目からは二年ごと。

◆エアバッグ(air bag)〔1998年版 交通運輸〕 衝突時、前方からの強い衝撃をセンサー装置が感知してバッグ内に高圧ガスを自動的に注入、膨らんだバッグが人の顔面を自動的に受け止める装置のこと。交

通事故対策には決め手がなく、衝突事故からドライバーや同乗者を守るこの装置は、これまで上級車のオプションによる装備が中心であったが、最近は大衆車

にも標準装備される気運が生まれてきた。また、歩行者と衝突した場合、頭部をフロントフードに打ち付けるのを防ぐためのフードエアバッグシステムも開発

されている。なお、アメリカではエアバッグと自動シートベルトなど自動防御装置の装備が乗用車、軽トラック、ミニバンなどの九○年型車から義務づけられ

ている。一方で、助手席の幼児の圧迫死が増加し、エアバッグの危険性も指摘され、正しい使用法の啓発運動が始まった。 ◆アンチロックブレーキシステム(ABS)(Anti-Lock Brake System)〔1998年版 交通運輸〕

急制動時または滑りやすい路面における制動時に発生する車輪のロック現象(車輪の回転が止まり、自動車が路面を滑走する現象)を防止する装置。車輪の回

転を検出しながらコンピュータによってブレーキの効きを自動制御してロックを防止する結果、制動距離の短縮、姿勢安定性の確保および操縦性が向上する。

すでに一部に実現されているが、値段的にも性能的にも一般に普及するにはもう数年を必要としている。トヨタ、日産とも二○○○年を目標に標準装備化する

方針。 ◆パブリック・インボルブメント(Public Involvement)〔1998年版 交通運輸〕

PI方式とも呼ばれる。住民参加手法の一つとして計画策定段階で幅広く意見を聞く機会を設けて、道路の新たな長期計画に反映させる方式。九八年度から始

まる第一二次道路整備五カ年計画にこの方式をとり入れ、多様化する国民ニーズを道路づくりに反映させるのが目的。これまで、「道路審議会基本政策部会二

一世紀のみちを考える委員会」が道づくりに関する「渋滞の解消」や「情報通信技術と交通」などへのテーマを提示し、意見を募集した冊子「キックオフ・レ

ポート」、キックオフ・レポートで募集した意見を集計・分析した「ボイス・レポート」、ボイス・レポートを踏えた新たな道路計画の提言を公表、改めて評価

と意見を求めた中間とりまとめ冊子を発行し、いろいろな立場の人の意見を吸収して道路審議会建議「道路政策変革への提言―より高い社会的価値をめざして

―」を発行した。 ◆高速自動車国道(national expressway)〔1998年版 交通運輸〕

自動車の高速交通の用に供する道路で、道路法による道路分類の一つ。日本道路公団が建設管理する有料道路。一九六五(昭和四○)年七月に開通した小牧―

西宮間の、名神高速道路が最初。国土開発幹線自動車道(national development arterial expressway)の建設法では、全国の都市、農村からおおむね二時間

以内で到達できることを目標に四七路線、約一一五二○キロが定められている。一九九七(平成九)年三月末現在までに六一一四キロを供用。高速道路ではな

いが、国の道路整備計画に基づいて都市内にネットをもつ自動車専用道路に首都高速道路、阪神高速道路などがある。 ◆高規格道路〔1998年版 交通運輸〕

高速で走れるような幾何線形、アクセスコントロール(access control 道路への出入をインターチェンジ、あるいは信号交差点に制限すること)、照明設備などの基準をもった道路のこと。高速道路とよばれている国土開発幹線自動車道はもちろん高規格道路ではあるが、次のような定義をして高速道路と区別してい

る。すなわち、一般道路よりは高い基準だが従来の高速道路と比べて車線数の減少や制限速度のダウンした自動車専用道のこと。高速道路網の計画は当初一万

四○○○キロであったが、採算の見込みがたたないなど大幅に計画が遅れている。そのため、四全総の全国一日行動圏構想をバックアップするためには国土開

発幹線自動車道を補完する新たな高速道路、ここでいう高規格道路が必要となり約二四八○キロメートルが計画されている。一九九七(平成九)年三月現在、

国土開発幹線自動車道を除く供用区間は本四架線(一○八キロ)を含めて六五四キロ。 ◆第二東名/第二名神〔1998年版 交通運輸〕

東京―大阪間の高速道路の交通需要の増大への対応と、二一世紀の高速交通体系の基幹路線としての位置づけによって建設される第二東海自動車道(第二東名)

と近畿自動車道(第二名神)の通称。横浜市―愛知県東海市(二九○キロ)、愛知県飛鳥村―神戸市(一六五キロ)の二路線に、すでに着工中の伊勢湾岸道路、

未定の東京―横浜間で構成される。両路線とも全線六車線(片側三車線)、設計速度一四○キロ。その他主要な道路構造は、一車線三・七五メートル(現行は

三・五メートル)、道路幅三五‐三六メートル(現行は三○メートル)、勾配一○○○分の二(現行は一○○○分の四)に格上げされる。開通は二○○○年の見

込み。

◆外環道〔1998年版 交通運輸〕 東京外郭環状道路の略称。通称は外環。東京都大田区から市川市に至る八五キロの環状道路。併設の国道二九八号や植樹帯などを含めた幅員は六○メートル。

このルートは、一都三県の住宅密集地を通るので環境問題を理由に約二○年間住民の反対運動が続いている。しかし、東京にとっては都心を通過する車を減ら

す重要な道路であり、外周県にとっては主要な高速道路へのアクセスルートである。したがって、一方ではその建設が急がれていた。外環の構造は標準区間が

六二メートルの幅員の四○メートル分を、植樹帯、地域生活道路、歩道にあてている。一九九二(平成四)年に和光市から三郷市までの二六・七キロメートル

が開通。九四年三月には常磐自動車道と関越自動車道がつながった。難航している市川や練馬地区でも立体道路制度の導入が可能となり解決の方向がみえてき

た。

◆圏央道〔1998年版 交通運輸〕 首都圏中央連絡自動車道の略称。都心から放射状に延びている東名、中央、関越、東北、常磐、東関東の各高速道路を四、五○キロで、また東京湾岸、東京湾

横断道と結ぶ環状高速道路。東京圏の多極分散型への改造と、交通混雑緩和のための国土庁提唱による基幹プロジェクト。路線は一都四県にまたがり、総延長

二七○キロ。一期工事分は、関越から中央までの埼玉県部分五○キロ。そのうち埼玉県入間市から鶴ケ島町の関越自動車道までの約一九・八キロは一九九六(平

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成八)年開通。全線にわたる供用開始は二○一○年から一五年の間、総事業費は三兆円と想定されている。

◆斜張橋(cable-stayed bridge)〔1998年版 交通運輸〕 橋梁上の塔から、斜めに直線上に張られたケーブルによって、桁を支間の中間でつった橋梁形式。都市に建設される道路は、その機能だけでなく構造物自体の

美観も求められる。特に、市街地のみの道路を対象にしている首都高速道路では、この点に神経を使い、これからの建設予定地には斜張橋の優雅な姿をたっぷ

り見せようとしている。 一九八七(昭和六二)年秋開通した葛飾江戸川線に架かるのはS字形曲線斜張橋で愛称を「かつしかハーブ橋」として地元になじんでもらえるようにした。ま

た、九四年一二月に完成した高速湾岸線(四期)の横浜市大黒埠頭と扇島を結ぶ鶴見つばさ橋は橋長一○二○メートル、主径間長五一○メートルの世界最大の

斜張橋になった。 ◆明石大橋〔1998年版 交通運輸〕

本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートの北半分に当たる明石海峡を渡す長大橋。正式には明石海峡大橋。全長三九一○メートル、ケーブルが支える二本の主塔の

間隔が一九九○メートルで、完成すれば世界最長のつり橋となる。一九八七(昭和六二)年、建設が本格的にスタート。完成予定は九八年。

◆本四架橋〔1998年版 交通運輸〕 本州と四国を橋で結ぶ神戸―鳴門、児島―坂出、尾道―今治の三ルートの総称。石油ショック後三ルートの同時着工を凍結していたが、一九七五(昭和五○)

年から再開。このうち大三島橋(三二八メートル)が七九年五月、因島大橋(一三三九メートル)が八三年一二月、大鳴門橋(一七二九メートル)が八五年六

月、伯方(はかた)―大島大橋(伯方橋部分三三四メートル)が八八年一月に開通した。そして、八八年四月に瀬戸大橋が完成し、児島―坂出間(道路部三七・

三キロ、鉄道部三二・四キロ)が開通、本州と四国が陸続きとなった。さらに、明石大橋と来島大橋(第一大橋九九メートル、第二大橋一四八○メートル、第

三大橋一六五○メートル)が着工の運びとなり、完成に一歩近づいた。なお、尾道―今治ルートの開通は九九年春の見込み。 ◆立体道路制度〔1998年版 交通運輸〕

道路建設予定地で再開発がなされる場合、新築のビルや低層部などに区分地上権などを取得、ここに道路を通すことができる制度。これまでの道路建設は用地

の所有権を取得することを原則に行われてきたが、道路とビルが一体的に建設できるこの制度は、地権者が細分化している地域、騒音問題などで沿道住民が反

対している地域で有効であるとみられている。ベルリンのシュランゲンバター通り沿いのアウトバーンを包み込んだ住宅が最初。わが国でも外環道和光ICと

大泉IC(練馬区)間の道路上に住都公団が住宅団地を建設した。また、首都高速道路一号上野線二期分の高架下に住宅を入れる計画が進んでいる。 ◆駐車施設整備基本計画〔1998年版 交通運輸〕

各市町村が、駐車問題の現況およびそれを踏まえた市町村の駐車対策についての基本方針を定め、駐車施設の整備推進方策を明らかにする計画。バブル時代に

起きた駐車問題は、駐車場不足に原因ありとし、駐車場建設の補助、融資をはじめ国営駐車場が建設できるまでに駐車場整備のための制度は確立した。一方、

都市サイドにおいてはむやみに駐車場建設がなされても困ることから、各市町村の実態と上位計画の将来的推移を念頭に効果的かつ適切に駐車施設の整備を計

画している。今回の諸規則の改正に伴い駐車施設整備計画を定めたのは名古屋市が最初。東京では足立区が一九九二(平成四)年六月に定めたのが最初。 ◆車庫法〔1998年版 交通運輸〕

一九六二(昭和三七)年に制定された自動車の保管場所の確保等に関する法律のこと。自動車の保有にあたって保管場所を確保すること(車庫の確保義務)を

義務づけ、同一場所に一二時間以上駐車することや夜間八時間以上駐車すること(青空駐車)を禁止した。車の保有にあたっては警察による車庫証明を必要と

し、これを車庫証明制度という。この制度は、増加する車のねぐら確保の方法として諸外国から評価されているが、折からの駐車場不足と激増する車保有から

諸々の駐車問題を提起してきた。これに対応すべく、警察庁では九一(平成三)年七月から、(1)車庫の所在地は二キロ以内、(2)車庫証明を受けた車にス

テッカー(保管場所標章)を貼る、(3)軽自動車にも車庫証明制度を導入等の改正車庫法を施行した。軽自動車の車庫確保義務づけは、九六年一月から人口

三○万人以上の市などにも拡大した。 ◆駐車場案内・誘導システム〔1998年版 交通運輸〕

商業・業務地、あるいは観光地などに訪ねる客を、駐車場の場所まで標示板によって案内あるいは誘導するシステム。案内システムは対象地区あるいは対象駐

車場までの案内。一方、誘導システムは駐車場の「空き」情報によって掲示駐車場までの車の誘導。最近では、駐車場の入出庫状況を自動的に把握し、コンピ

ュータで計算して、道路上の標示板に掲示できるようになった。東京・新宿地区に一九九三年四月導入された。 ◆付置義務駐車場〔1998年版 交通運輸〕 地方公共団体は、三○○○平方メートル以上の建築物を新築、もしくは増築しようとする者に対して駐車場を合わせて設置するよう義務づけることができる。

このような駐車場を付置義務駐車場という。都市部での駐車場不足を解消するため、建設省では「付置義務」を強化する方針を打ち出し、対象としていた付置

義務対象建築物を一○○○‐一五○○平方メートル程度に引き下げる一方、一台当たりの駐車所要面積を二・五メートル×六メートルから二・三メートル×五

メートルに縮小した。しかし、問題は付置義務の対象にならない中小雑居ビルと一世帯六○平方メートル程度の大規模住宅である。前者はいくつかのビルをま

とめて共同の駐車場をつくり、所有者から負担金を徴収し、自治体も交えて整備する共同駐車場制度を、後者は世帯数に合わせた駐車台数を義務づけること等

を行政指導している。