街区及び敷地レベルを対象とした ヒートアイランド解析評価 ......5 1104...

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大成建設技術センター報 第38号(2005) 14-1 街区及び敷地レベルを対象とした ヒートアイランド解析評価システムの開発 大黒 雅之 *1 ・森川 泰成 *2 Keywords : heat island measures, CFD, radiation-convection-humidity interaction analysis, tree model, projection area ratio of a human body ヒートアイランド対策,CFD,放射・対流・湿度連成解析,樹木モデル,人体の投射面積率 1. 概要 ヒートアイランド対策とされている要素技術や、建 物配置、植栽等、屋外の暑熱緩和に欠かせない項目に ついて、総合的に取り扱える3次元 CFD (Computational Fluid Dynamics 流体解析)によるヒ ートアイランド対策検討ツールを開発した。今回のプ ログラムの特徴は以下のとおりである。 (1)非構造格子による流体解析に対応。 (2)非構造面メッシュに対応したラジオシティー法に よる日射・放射解析に対応。 (3)樹木・芝・水面のような蒸発現象に対応。 (4)並列化されたプログラムであり、高速演算。 (5)人体の投射率分布を用いた平均放射温度(MRT人体が受ける日射やふく射エネルギーの指標として用 いられる)の算出。 (6)気流・放射・気温・湿度を総合的な総合温熱感指 標(SET* 8、体感温度指標として用いられる)の算出。 本報告では、開発したツールの概要と建物の立替プ ロジェクトを想定した解析例を紹介する。 2. はじめに ヒートアイランドの主な要因はコンクリートの建築 物および、コンクリートやアスファルトで覆われた地 表面である。従って、ヒートアイランド現象の緩和に 向けて、これらの計画の段階において熱的な評価を精 度良く行うことは重要となってくる。屋上緑化や保水 性舗装等、個別の技術は開発され適用されてきている が、それが、その場所や周辺の熱環境にどのような効 果をもたらしているのかについて事前に十分な予測が 行われているとは言いがたい。そこで、このようなヒ ートアイランド対策とされている要素技術や、建物配 置、植栽等、屋外の暑熱緩和に欠かせない項目につい て、総合的に取り扱える3次元 CFD によるヒートアイ ランド対策検討ツールを開発した。本報告では、開発 したツールの概要と建物の立替プロジェクトを想定し た解析例を紹介する。 3.3次元CFDによるヒートアイランド対策検 討ツールの概要 筆者らは、これまでに流体解析とラジオシティー法 による日射・放射解析の連成プログラムを開発してき ているが 1) 、本プログラムは構造格子によるものであ り、自由な形状に対応していなかった。また、樹木や 芝のような蒸発現象を扱うことができなかった。今回 開発したプログラムはこのように、筆者らの開発した 既存プログラムを基本として大幅な改良を行ったもの である。今回のプログラムの特徴は(1)非構造格子に よる流体解析(2)非構造面メッシュに対応したラジオ シティー法による日射・放射解析(3)樹木・芝・水面 のような蒸発現象を扱うことが可能(4)並列化により、 高速演算が可能(5)人体の投射率分布を用いた平均放 射温度(MRT)の算出機能(6)気流・放射・気温・ 湿度を総合的に考慮したの総合的な総合温熱感指標 SET*)の算出機能、等である。 -1に本ツールでの計算の全体の流れを示す。入力 の部分では3次元の形状および、日時などの条件を入 力、さらに樹木DBを使って、樹種や樹木の大きさを設 定する。解析の部分では、ラジオシティー法による放 射解析と壁面の熱収支解析を連成し、表面温度(ある *1 技術センター建築技術研究所環境研究室 *2 技術センター建築技術開発部ニューフロンティア技術開発室

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大成建設技術センター報 第38号(2005)

14-1

街区及び敷地レベルを対象とした ヒートアイランド解析評価システムの開発

大黒 雅之*1・森川 泰成*2

Keywords : heat island measures, CFD, radiation-convection-humidity interaction analysis, tree model,

projection area ratio of a human body

ヒートアイランド対策,CFD,放射・対流・湿度連成解析,樹木モデル,人体の投射面積率

1. 概要

ヒートアイランド対策とされている要素技術や、建

物配置、植栽等、屋外の暑熱緩和に欠かせない項目に

つ い て 、 総 合 的 に 取 り 扱 え る 3 次 元 CFD

(Computational Fluid Dynamics 流体解析)によるヒ

ートアイランド対策検討ツールを開発した。今回のプ

ログラムの特徴は以下のとおりである。

(1)非構造格子による流体解析に対応。

(2)非構造面メッシュに対応したラジオシティー法に

よる日射・放射解析に対応。

(3)樹木・芝・水面のような蒸発現象に対応。

(4)並列化されたプログラムであり、高速演算。

(5)人体の投射率分布を用いた平均放射温度(MRT、人体が受ける日射やふく射エネルギーの指標として用

いられる)の算出。

(6)気流・放射・気温・湿度を総合的な総合温熱感指

標(SET*8)、体感温度指標として用いられる)の算出。

本報告では、開発したツールの概要と建物の立替プ

ロジェクトを想定した解析例を紹介する。

2. はじめに

ヒートアイランドの主な要因はコンクリートの建築

物および、コンクリートやアスファルトで覆われた地

表面である。従って、ヒートアイランド現象の緩和に

向けて、これらの計画の段階において熱的な評価を精

度良く行うことは重要となってくる。屋上緑化や保水

性舗装等、個別の技術は開発され適用されてきている

が、それが、その場所や周辺の熱環境にどのような効

果をもたらしているのかについて事前に十分な予測が

行われているとは言いがたい。そこで、このようなヒ

ートアイランド対策とされている要素技術や、建物配

置、植栽等、屋外の暑熱緩和に欠かせない項目につい

て、総合的に取り扱える3次元 CFD によるヒートアイ

ランド対策検討ツールを開発した。本報告では、開発

したツールの概要と建物の立替プロジェクトを想定し

た解析例を紹介する。

3.3次元CFDによるヒートアイランド対策検

討ツールの概要

筆者らは、これまでに流体解析とラジオシティー法

による日射・放射解析の連成プログラムを開発してき

ているが 1)、本プログラムは構造格子によるものであ

り、自由な形状に対応していなかった。また、樹木や

芝のような蒸発現象を扱うことができなかった。今回

開発したプログラムはこのように、筆者らの開発した

既存プログラムを基本として大幅な改良を行ったもの

である。今回のプログラムの特徴は(1)非構造格子に

よる流体解析(2)非構造面メッシュに対応したラジオ

シティー法による日射・放射解析(3)樹木・芝・水面

のような蒸発現象を扱うことが可能(4)並列化により、

高速演算が可能(5)人体の投射率分布を用いた平均放

射温度(MRT)の算出機能(6)気流・放射・気温・

湿度を総合的に考慮したの総合的な総合温熱感指標

(SET*)の算出機能、等である。 図-1に本ツールでの計算の全体の流れを示す。入力

の部分では3次元の形状および、日時などの条件を入

力、さらに樹木DBを使って、樹種や樹木の大きさを設

定する。解析の部分では、ラジオシティー法による放

射解析と壁面の熱収支解析を連成し、表面温度(ある

*1 技術センター建築技術研究所環境研究室 *2 技術センター建築技術開発部ニューフロンティア技術開発室

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街区及び敷地レベルを対象としたヒートアイランド解析評価システムの開発

14-2

いは対流熱伝達量)と蒸発量の分布を算出、これを

CFD解析に引き継いで計算を行う。このCFD解析によ

る壁近傍の風速・温度・湿度の分布を放射解析に戻し、 熱収支解析の対流熱伝達量および蒸発量算出の際の条

件とする。この操作を繰り返すことにより完全な双方

向の連成解析をう。ただし、実際には計算負荷軽減の

観点からCFD解析の結果を放射解析に戻さないとする

ことも可能である。 3.1 放射解析

放射解析の概要を表 1 に示す。特徴としては、(1)

大きな半球を仮想的な天空とみなし、この半球を15

1個の微小部分に分割することで、天空日射の分布を

考慮している事、(2)反射日射と相互放射の解析にラ

ジオシティー法を採用し、ある程度の精度を保ちなが

ら、計算負荷の軽減を図っている事、(3)樹幹の日射

遮蔽効果と樹木間および他の面との相互放射解析を可

能とした事、(4)形態係数の計算およびラジオシティ

ー法の計算を並列化し、大規模な解析を可能とした事、

(5)MRT(Mean Radiant Temperature 平均放射温度)

の計算において人体の投射率分布を考慮した算出機能

を有している事、等である。

3.2 熱収支解析

熱収支解析の概要を表-2 に示す。特徴としては、

(1)地表面や壁面において芝や保水性材料等の蒸発潜

熱を考慮可能としたこと、(2)樹木の葉面の熱収支解

析を行い、平均表面温度を算出可能としたこと、等で

ある。 3.3 CFD 解析

CFD 解析の概要を表-3 に示す。特徴としては、

(1)非構造格子に対応している事、(2)標準k-εモ

デルを採用している事、(3)樹木による流体力学的抵

抗や乱れの増大を考慮している事、等である。

入力

月、日、時刻、緯度、経度、方位角、気温、湿度、雲量、雲高、建物位置・形状、熱貫流率、反射率、着衣量、代謝量   ・・・・・etc

各物理量の解析

放射解析

直達日射量 天空日射量 大気放射量

日射熱取得量

表面温度

平均放射温度

熱収支解析

対流熱伝達量

貫流熱量

蒸発量

蒸発潜熱

放射収支

CFD解析

風速

気温

湿度

温熱環境評価指標の算出

(気温、平均放射温度、気流、湿度、着衣量、代謝量)温熱環境評価指標 SET*

出力各要素の分布表示  SET*、気温、表面温度  ・・・・・etc

入力

月、日、時刻、緯度、経度、方位角、気温、湿度、雲量、雲高、建物位置・形状、熱貫流率、反射率、着衣量、代謝量   ・・・・・etc

入力

月、日、時刻、緯度、経度、方位角、気温、湿度、雲量、雲高、建物位置・形状、熱貫流率、反射率、着衣量、代謝量   ・・・・・etc

各物理量の解析

放射解析

直達日射量 天空日射量 大気放射量

日射熱取得量

表面温度

平均放射温度

熱収支解析

対流熱伝達量

貫流熱量

蒸発量

蒸発潜熱

放射収支

CFD解析

風速

気温

湿度

温熱環境評価指標の算出

(気温、平均放射温度、気流、湿度、着衣量、代謝量)温熱環境評価指標 SET*

出力各要素の分布表示  SET*、気温、表面温度  ・・・・・etc

図-1 解析フロー

Flowchart of Analysis

8)

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大成建設技術センター報 第38号(2005)

14-3

月 B C

1 1230 0.142 0.0582 1215 0.144 0.0603 1186 0.166 0.0714 1136 0.180 0.0975 1104 0.196 0.1216 1088 0.205 0.1347 1085 0.207 0.1368 1107 0.201 0.1229 1151 0.177 0.092

10 1192 0.160 0.07311 1221 0.149 0.06312 1293 0.142 0.057

A W/m

①直達日射2) 表A2)

イ)晴天時:IDN=Aecp(-B/sinh) IDH=IDNsinh

ロ)中間天・曇天時:IDNC=IDN{(10.0-C)/10.0} IDN:法

線面直達日射量,IDH:水平面直達日射量,A:各

月別の仮想の太陽定数(表A),B:各月別の仮想

の消散係数(表A),h:太陽高度,C:雲量(0.0~

10.0),雲量0=晴天,10=曇天,その他=中間天

②天空日射2),3)

イ)晴天時:ISKY= IDH×C(表A)

ロ)中間天・曇天時:ISKYC= ITH(1.0+0.015C-0.009C2)-IDNC

ISKY:快晴時の水平面天空日射量,ITH:水平面全天日射量(=IDN+ ISKY),C:

雲量(0.0~10.0)

天空日射量の求め方は以下の通りである。

解析領域の空間スケールを無視できるほどの十分に大きな半径を有する半

球を仮想的に天空とみなす。この半球を151個の微小部分に分割し、天空

日射量を各部分に分割して設定する。151個に分割した天空と各面要素間

との障害物判定により天空の形態係数が考慮され天空日射量が求まる。

半球面上nの相対輝度Lrclは、Lrcl(ZS,z,ξ)= = Lrcl[n]ここで、

ξ:天空要素と太陽との角距離,z:天空要素の天頂距離(π/2-γ,γ:天

空要素の高度),ZS:太陽の天頂距離(π/2-h,h:太陽の高度)

f(x)=0・91+10×exp(-3x)+0.45cos2x,φ(y)=1・0-exp(-0.32×secy)

天空要素と太陽との角距離ξは、cosξ=sinh・sinγ+cosh・cosγ・cos(i α S・

α i), αS:太陽の方位ベクトル,α:天空要素の方位ベクトル

相対輝度の合計量Rrclは、 従って半球面上nでの天空日

射量Isky[n]は、Isky[n]= Isky×Lrcl[n]/Rrclとなる。

(CIE標準晴天空,中間天空,曇天空の三つに大別された相対輝度の分布

式:曇量0=晴天,10=曇天,その他=中間天)

③反射日射

ラジオシティ法4)

を採用。複雑形状に対応可能。ある程度の精度を保ち計算

量の短縮が図れる。※形態投影角,投影分割数,対象分割数,短波計算

限界を入力する※短波反射率,短波透過率は入力値(各材料毎に入力可)

④大気放射

イ)快晴時: a4aa f076.0526.0(TJ +σ= …大気から地表面への長波放射量

(Bruntの式)

ロ)中間天・曇天時:

)}]10/)(1(1){076.0474.0(1[4 CCfTJ haaac −−+−= σ

Ta:大気温度[K],fa:水蒸気圧[mmHg],C:曇量(0.0~10.0),Ch:曇高天空

の形態係数は天空日射と同様である(151個に分割した天空と各面要素間と

の障害物判定)※Ta:大気温度,fa:水蒸気圧,C:曇量,Ch:曇高は入力値,

σ:ステファンボルツマン定数

⑤相互放射

ラジオシティ法を採用。複雑形状に対応。ある程度の精度を保ち計算量の

短縮が図れる。※形態投影角,投影分割数,対象分割数,長波計算限界

は入力値 ※長波反射率は入力値(各材料毎に入力可)

⑥天空形態係数

151個に分割した天空と各面要素間との障害物判定により天空の形態係数

が考慮される。

⑦壁-壁の形態係数

立体角投射法による。メッシュの分割が粗いと誤差が大きくなる。※形態投

影角,投影分割数,対象分割数は入力値

⑧対流熱伝達率

入力値、または、気流解析結果より、各壁面付近のV(風速)を求める。αを各

壁面の対流熱伝達率とすると、α=5.3+3.6V(V≦5),α=6.47V0.78(V>5)。

⑨樹木による放射減退効果の組み込み5)

本樹木モデルにおける放射減衰効果のモデル化の概要を示す。

1) 樹木は四角錘を2つを組み合わせた樹冠で構成され樹冠が中空に浮

いている状態を仮定。

2) 放射束が樹冠に入射した場合、減衰するものとする。長波短波共に

放射粒子 1 個につき{1-exp(-k’ al)}の割合で減衰すると仮定した。

k′:消散係数[-] a:樹冠の葉面積密度[m2/m3] l:通過距離[m]

以上の仮定に基づき、樹木表面と各壁面の形態係数を算出し、他の面同

様に放射計算を行う。

⑩MRT

人体に入射する全放射エネルギーからMRTを算出する。6)

)4/1(

1 1

1⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛++= ∑ ∑

= =−−

n

idhd

h

hn

iihis

p

pihil RfFBFBMRT

εα

εα

σ

( )∑=

− =m

jjj

hih dA

RfF

12 cos1 θ

π

σ:ステファンボルツマン定数, ihF − :人体と壁面・天空等との形体係数 dR :

直達日射量, isB :天空日射を含む短波のラジオシティー, ilB :大気放射含

む長波のラジオシティー, hα :人体の短波吸収率, hε :人体の長波吸収

率, hdf :人体の直達日射に対する投射面積率, hf :対象パッチ方向の人体

の投射面積率, jθ :対象パッチのポーラーアングル

⑪気流(対流計算)

短波解析→対流計算→長波解析

⑫評価指標8)

SET* 湿度,着衣量,代謝量は入力値

表-1 放射解析の概要

Outline of Radiation Analysis1)

)0()Z(f

)z()(f

Soφ⋅

φ⋅ξ

∑==

151

1nrclrel ]n[LR

2

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街区及び敷地レベルを対象としたヒートアイランド解析評価システムの開発

14-4

( ) ( ) sux j

j

=∂∂

+∂∂ ρρt

( ) ( ) iii

ijijj

i sgxpuu

xu

t+−+

∂∂

−=−∂∂

+∂∂ )( 0ρρτρρ

( ) ( ) ( ) hj

iij

jjjhtj

jt s

xu

xpup

tFhu

xh

t+

∂∂

+∂∂

+∂∂

=−∂∂

+∂∂ τρρ ,

( ) ( ) mjmjj

sFmux

mt

=−∂∂

+∂∂

,ρρ

(1)表面温度 1. Surface Js + Jn+ qc+ qe + qr= 0 qc= α(θo− Tw) qe= Lβαe (fo− fw) qr= k(θi− Tw) Js:日射熱取得量(直立・天空・反射日射量) [W] Jn n:夜間放射量(大気・相互放射) [W] qc :対流熱伝達量[W] α :対流熱伝達率[W/m2K](風速には気流解析結果を用いる場合と

想定値を入力する場合がある。) θo :空気温度[℃] Tw:個体(壁体)表面温度 qe:蒸発潜熱[W] αe:湿気伝達率[kg/m2skPa](αe=7.0×10-6αc) L:水の単位蒸発潜熱[J/kg] β:蒸発効率 [-] fo:空気の水蒸気分圧[kPa] fw:表面の飽和水蒸気分圧[kPa] qr:貫流熱量[W] k:熱貫流率[W/m2K] θI:内部温度[℃]

(2)樹冠における熱収支の組み込み5)

樹冠に含まれる全葉表面合計を求めこれに対する、平均的な熱

収支を解くことにより、樹幹の平均温度求める。 Jsl+ Jnl+ qcl+ qel= 0 qcl= Alαcl (θo− Tl) qel= Al Lβlαel (fo− fl) Jsl :樹冠に吸収される日射量[W] Jnl :樹冠に吸収される長波放射量[W] qcl : 樹冠の対流熱伝達量[W] Tl :樹冠の平均温度[℃] qel : 樹冠の蒸発潜熱[W] fo :樹冠の平均温度に対する飽和水蒸気分圧 [kPa] fl :樹冠付近の水蒸気分圧 [kPa] βl :樹冠の蒸発効率[-] αcl:樹冠の対流熱伝導率[W/m2K] αel:樹冠の湿気伝達率[kg/m2skPa](αel=7.0×10-6αcl) Al :樹冠の全葉面積[m2] (Al =[樹幹体積]×[葉面積密度]×2)

a) 連続の式

b)Navier-Stokes 方程式 c)エネルギー方程式 d)湿気輸送方程式 e)乱流モデル

乱流エネルギーk 及び,エネルギー散逸率εの輸送方程式を以下

に示す.

i

i

i

itBt

jk

effj

j xu

kxu

PPxkku

xk

t ∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+

∂∂

−−+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∂∂

−∂∂

+∂∂ ρμρεμ

σμ

ρρ32)(~)(

=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∂∂

−∂∂

+∂∂

j

effj

j xu

xtε

σμ

ερρεε

~)(

i

iBt

i

i

i

itt x

uC

kCP

kC

xu

kxu

Pk

C∂∂

+−+⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+

∂∂

− ρεερμερμμεεεεε 4

2

231 32

εμ μ

μ

2kcft

ρ=

, teff μμμ += , j

iij x

usP

∂∂

≡ 2, ith

iB x

gP

∂∂

−≡ρ

ρσ1

, Cμ σk σe σh σm Cε1 Cε2 Cε3 Cε4

0.09 1.0 1.22 0.9 0.9 1.44 1.92 0.0 or 1.44 -0.33 PB>0 の場合は Cε3=1.44,それ以外の場合は Cε3= 0 である.

注)t:時間,xi:直交座標 (i=1,2,3),ui: xi 方向の流体の絶対

速度成分, p:ピエゾ圧力 =ps-ρ0gmxm.ここで ps は静圧,ρ0

は参照密度,gm は重力場成分,及び xm はρ0 が定義される基準

座標,ρ:密度,τij:応力テンソル成分,sm:質量ソース,si:運動

量ソース成分,T:温度,m:水蒸気の質量分率, Fht,j:xj 方向の熱

拡散エネルギーフラックス,Sh:エネルギーソース,ht:熱的エン

タルピー f)樹木モデルの流体力学的影響の組み込み 樹木の風速に対する流体力学的抵抗を(1)式でモデル化し、i方向成分の運動方程式右辺に付加する。

2

jjd uauCρ− (1)

Cd:樹冠の抵抗係数(Cd =0.2 文)[-] a(x1,x2,x3):樹冠の葉面積密度[m2/m3] η:緑被率(樹木を含むメッシュの水平面積のうち

樹木で覆われている水平面積の割合)

また、樹木による乱れの増大の効果を再現するため、乱流エネ

ルギーk の方程式、粘性消散率εの方程式の右辺にも、各々に

示す項が付加される。

k 方程式の付加項: )2/3(jd auCρ (2)

ε方程式の付加項: )2/3(jdp auCC

kρε

ε(3)

表-2 熱収支解析モデルの概要

Outline of Heat Balance Analysis

表-3 熱流体解析モデルの概要5)7)

Outline of CFD Analysis

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大成建設技術センター報 第38号(2005)

14-5

4.計算例

4.1 計算対象および計算条件

計算対象として市街地における、建物の立替プロジ

ェクトを想定した。図-2 にその概要を示す。ケース 1が既存の老朽化した建物を想定したもので、建物はコ

ンクリート、地表面はアスファルト舗装を想定した。

建蔽率は 42%、容積率は約 300%、建物高さは 27mで

ある。これに対して、ケース2は立替後を想定して いる。ヒートアイランド対策として考慮した点は、

(1)建蔽率を 17%とし、高さを 68mと高層化する事

により風通しに配慮、(2)屋上緑化および空地緑化に

よる温熱環境の改善、(3)樹木による日陰の形成によ

る温熱環境改善、等である。 解析対象範囲は対象建物を含む水平方向 500m×500

mの市街地とし、高さ方向 200mとした。建物の地域

は東京、評価対象日時は7月 20 日 14 時、快晴の条件

とした。放射解析および熱収支解析による表面温度分

布の解析を行ったのち、夏日中の卓越風である南南東

の風 5m/s(高さ 74.6m)を想定した風の流入条件を

与え、CFD による流れと気温・湿度分布の解析を行っ

た。風速の垂直プロファイルは 1/4 乗則、気温 30℃、

相対湿度は約 60%とした。メッシュ分割は水平方向は

約 4m間隔で 125×125 メッシュ、高さ方向には 0.5m~10m間隔で 30 とした。総メッシュ数は 468750 メッ

シュである。 4.2 解析結果

4.2.1 風の流れの解析結果(図-3)

ケース 1 の既存対象建物では、敷地の風上側に建物が

あり、さらに道路を挟んですぐ正面に隣接する建物が

あるため、風通しが非常に悪くなっており、特に対象

建物の風下側で広い低風速域が見られる。これに対し

て、ケース2の立替後では建蔽率を 17%として、高層

化し、建物も敷地中央付近として風上側の建物との間

隔が増加したこと、等により、南南東からの風が対象

建物周辺に進入するようになり、気流による体感温度

の低下と、上空の涼しい空気との換気効果が期待でき

る。 4.2.2 気温分布の解析結果(図-4)

ケース1では建物の風下側に風が通らなくなってい

るため、アスファルトからの対流顕熱が停滞し、気温

が 32℃を超える領域が相当な範囲で見られる。これに

対して、ケース2では、前述のように風通しが改善さ

れたことに加えて、芝や樹木による緑化により、地表

面や建物屋上の表面温度が低下し、気温を上昇させる

対流顕熱が大幅に減少したことから 32℃を超える部分

はほとんどなくなり、敷地だけで見ると全体が 1℃程

度低下している。また、周辺の道路や風下の気温低下

にも寄与している。 4.2.3 MRT の解析結果(図-5)

MRT には日射を考慮しているため、直達日射の当た

り方を反映した結果となる。ケース1では建物の北側

にやや広い空地があり、日向になり、かつアスファル

トであるために、表面温度が高くなり、MRT が 60℃を超える領域が相当見られる。これに対して、ケース

2では、前述のように風通しに配慮して、南側に大き

な空地を設けているが、樹木により日陰を形成したこ

とに加え、地表面を芝としたことにより表面温度が低

下しており、ケース 1 に比べ MRT は全体的に低下し

ている。 4.2.4 湿度の解析結果(図-6)

芝や樹木は蒸発作用により気温上昇を抑える効果が

あるが、一方で水分を放出するため、湿度上昇が懸念

される。ケース 1 とケース 2 の湿度解析結果を図-6 に

示す。今回の解析では、湿度上昇は 0.1g/kg程度

(相対湿度では気温低下の影響もあり 5%程度)であ

る。 4.2.5 総合温熱感指標(SET*)(図-7)

後に、総合的な総合温熱感指標(SET*、体感温

度の指標として用いられる)の分布を図-7 に示す。ま

た、これまでの結果を敷地平均で整理したものを表-4に示す。図-7 より総合的な体感温度で見た場合、湿度

上昇による体感温度の上昇よりも、空地の確保による

風通しへの配慮と芝や樹木を用いた緑化による、気流

速度の改善や、気温の低下、MRT の低下の効果が大き

く、今回の対策案は十分な効果が期待できる事等が分

かる。

5.まとめ

ヒートアイランド対策とされている要素技術や、建

物配置、植栽等、屋外の暑熱緩和に欠かせない項目に

ついて、総合的に取り扱える3次元 CFD によるヒート

アイランド対策検討ツールを開発した。本報告では、

開発したツールの概要と建物の立替プロジェクトを想

定した解析例を紹介した。このようなヒートアイラン

ド対策を施した建築物の計画を進めていくことにより、

都市全体のヒートアイランド現象の大幅な改善、さら

には熱中症予防としての効果が期待できると考える。

Page 6: 街区及び敷地レベルを対象とした ヒートアイランド解析評価 ......5 1104 0.196 0.121 6 1088 0.205 0.134 7 1085 0.207 0.136 8 1107 0.201 0.122 9 1151 0.177 0.092

街区及び敷地レベルを対象としたヒートアイランド解析評価システムの開発

14-6

図-2 解析対象建物

Building Configuration and planting condition

図-3 風速の比較 m/s

Comparison of air velocity.

図-4 気温の比較 ℃

Comparison of air temperature.

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

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大成建設技術センター報 第38号(2005)

14-7

図-5 MRTの比較 ℃

Comparison of MRT

図-6 絶対湿度の比較 kg/kg’

Comparison of humidity

図-7 SET*の比較 ℃

Comparison of SET*.

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

(a) case1 Existing Building (b) case2 New Building

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街区及び敷地レベルを対象としたヒートアイランド解析評価システムの開発

14-8

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法に関する研究-川風の温熱空気環境改善効果の解析-、

日本建築学会技術報告集、第16号、pp.185-190、

2002.12

ケース

番号

平均風速

m/s

平均気温

平均 MRT

平均湿度

g/kg

平均 SET*

1 0.68 31.9 57.9 0.0177(59.2) 36.9

2 1.14 30.7 47.5 0.0181(64.8) 32.7

表-4 平均値の比較

Summary of Results