気象庁が運用するアンサンブル...

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気象庁が運用するアンサンブル 予報とその利用 山口 宗彦* 経田 正幸* *気象庁数値予報課 2005.11.19 THORPEX研究連絡会 2回研究集会 [email protected], [email protected] Contents 1. 気象庁のアンサンブル予報 2. アンサンブル予報の利用 3. 確率予報とその検証

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気象庁が運用するアンサンブル予報とその利用

山口 宗彦* 経田 正幸*

*気象庁数値予報課

2005.11.19 THORPEX研究連絡会 第2回研究集会

[email protected], [email protected]

Contents

1. 気象庁のアンサンブル予報

2. アンサンブル予報の利用

3. 確率予報とその検証

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1.気象庁が運用するアンサンブル予報

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時間スケール

1分 1時間 1日 1週間 1ヶ月 季節 1年 10年 100年

10000km

1000km

100km

10km

1km

100m

水平スケール

竜巻

積乱雲

集中豪雨

前線台風

低気圧

ブロッキング

惑星波季節内振動

モンスーンENSO10年規模変動

温暖化

週間

アン

サン

ブル

予報

1ヶ

月ア

ンサ

ンブ

ル予

3ヶ

月ア

ンサ

ンブ

ル予

暖・寒

候期

予報

RSM, GSM

TYM

MSM

気象庁が運用するアンサンブル予報

予報対象に応じて4つのアンサン

ブル予報を運用している

決定

論的

予報

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気象庁アンサンブル予報の諸元(NAPS7)2005年11月現在の仕様(計算機システムはNAPS7)

週間

1ヶ月

3ヶ月

暖・寒候期

25

26

31

31

メンバ数

T106L40 (水平約110km)

T106L40 (水平約110km)

T63L40 (水平約180km)

T63L40 (水平約180km)

予報モデルの解像度

BGM法

BGM法+LAF

SV法

SV法

初期摂動作成手法

1ヶ月予報は週間アンサンブル予

報の延長予報として行われる

暖・寒候期予報は3ヶ月アンサンブ

ル予報の延長予報として行われる

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気象庁アンサンブル予報の諸元(NAPS8)

週間

1ヶ月

3ヶ月

暖・寒候期

51

50

31

31

メンバ数

TL159L40 (水平約110km)

TL159L40 (水平約110km)

TL95L40 (水平約180km)

TL95L40 (水平約180km)

予報モデルの解像度

BGM法

BGM法+LAF

SV法

SV法

TL319L40 (水平約60km) SV法2007年度~

51

51

2007年度~

2007年度~

初期摂動作成手法

2006年3月に計算機システムが更新されNAPS8となる

暖・寒候期予報は3ヶ月アンサンブ

ル予報の延長予報として行われる

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季節予報、発表予報の種類

0日

30日

60日

90日

120日

150日

180日

210日

3か月平均

(夏または冬)

1か月平均 1か月平均 1か月平均

3か月平均

週平均

週平均

2週

平均

4週平均

発表予報

週間

1ヶ月

3ヶ月

暖・寒候期

週間予報支援

モデルの実行頻度

1日1回(12UTC)

毎週1回

毎月1回

2,3,4,9,10月計5回

平均気温、降水量、日照時間、降雪量

について、

少ない(低い) - 平年並み - 多い(高い)

の3階級の確率予報

さらに、1ヶ月予報では、

・向こう1か月の任意7日間平均の天候推移(晴れ日数・降水日数)・気温などの超過確率の発表を検討中

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持続3か月予報

予測と持続の混合 予測持続暖・寒候期予報

持続予報

予測SST

予報開始月 2月目 3月目リードタイム(月) 4月目 5月目 6月目 7月目

混合

現業季節予報モデルに与える海面水温の概念図

持続:予報開始時点のSST偏差を気候値に加えた物を予測値とする

予測:空海によるB海域の予測値から、全球のSSTを統計的に予測

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2. アンサンブル予報の利用

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週間アンサンブル予報の歴史

1999年4月

2001年2月

2001年3月 計算機更新に伴い現業運用開始

2006年3月 計算機更新に伴いメンバ数の増強

2007年4月 予報モデルの高解像度化

〜 試験運用

予報モデルのバージョンアップやアンサンブル初期摂動の作成手法の改良が適宜行われている

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アンサンブル平均とスプレッド(予報のばらつき)の利用

2005年10月の摂動を加えていないコントロールラン(T106L40)の日別RMSE(○か×で表現されている。○はアンサンブル平均予報のRMSEよりも小さいことを意味し、×はその逆を意味する)とアンサンブル平均予報(T106L40M25)の日別RMSE(実線で表現されている)の比較。北半球領域の500hPa高度場で評価。

月平均すると、アンサンブル平均予報の方がコントロールランの予報よりもRMSEが小さい

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一部のメンバーが

谷を深く予想

2メンバーが谷を深く予想

Aを挟んで、谷の予測

の位相がずれている

5700mと5760mの等高度線図(それぞれ下左と下右、ス

パゲッティダイアグラム)を見ると、日本付近が深い谷になる可能性があることが分かる。また、アリューシャンの南の谷については、気圧の谷の位相がずれる可能性があることが分かる。

X Y ZA

アンサンブル平均とスプレッド(予報のばらつき)の利用

スプレッドの大きさから予報の信頼度情報や顕著な気象現象の出現確率がわかる

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予報したい(神のみぞ知る真の)確率密度分布

地点時系列図の利用

頻度

アンサンブル予報を行い、有限のアンサンブルメンバで離散化して表現する

最大値最小値

中央

第3四

分値

第1四

分値

2次元の情報を1次元に焼きな

おして、地点時系列図に応用する。

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地点時系列図の利用

2005年1月24日12UTC初期値の週間アンサンブル予報による米子ポイントの850hPa気温の時系列予報。

肌色●:実況(観測値)、緑ーは平年値を表す

5日程度のリードタ

イムで低温が予測できている。

スプレッドが、予報後半の平均的な大きさよりも小さく、予報の信頼性が高い

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3.確率予報とその検証

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確率予報

高知(70% )

東京(10% )

確率予報の例。台風の接近確率マップ。

接近確率(%)

実際の台風進路

アンサンブル予報を使うと、確率的な予報が直接行える。

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確率予報の検証

確率予報の統計的検証の基本スコアとして、ブライアスコア(Brier Score) があげられる。確率予報値をpi 、実況値をai 、サンプル数をN とすると、

である。ここで、ai は予報した現象が起きたら 1 、起きなかった

ら 0 とする。値が小さいほど確率予報の精度が良く、0 %と

100 %のみを予報し、すべて適中の場合最小値 0、 0%と100%の

みを予報し、すべて不適中の場合最大値 1 である。また、確

率予報の信頼度が同じでも、0%や100%に近い確率値の予報

比率(分離度)の高さがスコアに大きく影響する。

2

1)(1 N

iii ap

Nブライアスコア=

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対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

横軸:予報時間、左縦軸:ブライアスコア、右縦軸:ブライアスキルスコア

しきい値:気候値+25mを超える確率

赤:ブライアスコア

ピンク:信頼度 のブライアスコア

ピンク(点線):信頼度のブライアスコアを10倍したもの

オレンジ:分離度 のブライアスコア

青:不確実のブライアスコア(気候値予報)

緑:ブライアスキルスコア

ブライアスコアによる検証

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確率予報の使い方

降水確率 p %の事例が100回あり、毎回対策を取った場合の対策費の合計は、1回あたりの対策費Cとすると、100×Cである。この場合、降水の出現頻度は100回中p回であることが期待されるので、損失をLとすると、損失の合計額は100×(p/100)×Lである。

したがって、毎回対策をとることによって得ることが期待される利益Gは、

対策をとる確率予報値の閾値の決め方

G = 100 ×(p / 100) ×L - 100 × C

G > 0 には、 C / L < (p/100)

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赤・ピンク・緑・青・紫は、予報時間24,72,120,168,216時間の確率予報の検証を意味する。

グラフそばの値をしきい値とした場合最大の利益が得られ、縦軸の割合だけ利益が得られる。

対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

横軸:コスト/ロス比、縦軸:軽減率、しきい値:気候値+25mを超える確率

気象庁週間アンサンブル予報の確率予報の検証損失軽減率グラフ(Reduction rate of total loss)

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気象庁の取り組み

・全国農業気象協議会

・電力気象連絡会危機管理

気象予測研究コンソーシアム

アンサンブル予報の利用

さらに、(現在進行中である)

研究を目的とした、予報データの提供

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アンサンブル予報を使った確率予報(1)

• 全メンバー中の出現率を確率予報値とする

• 例えば、5日後(7月20日)の東京付近日中の地上気温が30℃を超えるメンバーが20メンバー存在した場合、その確率は80%(=20/25)。– 1つの予報は、0%か100%– 気候値予報は、過去30年において、7月20日の日

中最高気温が30℃を超える割合を確率予報値とする。

– 実況は、超えた・超えないの0か1

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アンサンブル予報を使った確率予報(2)

確率予報の統計的検証の基本スコアとして、ブライアスコア(Brier Score)があげられる。確率予報値をpi、実況値をai、サンプル数をNとすると、

である。ここで、aiは予報した現象が起きたら1、起きなかったら0とす

る。値が小さいほど確率予報の精度が良く、0%と100%のみを予報

し、すべて適中の場合最小値0、0%と100%のみを予報し、すべて

不適中の場合最大値1である。また、確率予報の信頼度が同じで

も、0%や100%に近い確率値の予報比率(分離度)の高さがスコア

に大きく影響する。

2

1)(1 N

iii ap

Nブライアスコア=

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アンサンブル予報を使った確率予報(3)

• 気候値予報より情報価値のある予報であるかどうか– ブライアスキルスコア(BSS)– 確率予報のブライアスコアをBS、気候値予報

のブライアスコアをBScとすると、 BSSは、BSS=(BSc-BS)/BSc で表

される値。0より大きい値であれば、気候値予報より価値ある予報であるといえる。

– 年々変動や季節変動に関係なく、 BSS(スキル

スコア全般)は値の大小で成績比較が可能

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対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

横軸:予報時間、左縦軸:ブライアスコア、右縦軸:ブライアスキルスコア

しきい値:気候値+25mを超える確率

気象庁週間アンサンブル予報の確率予報の検証ブライアスコア(Brier Score)

赤:ブライアスコア

ピンク:信頼度のブライアスコア

ピンク(点線):信頼度のブライアスコアを10倍したもの

オレンジ:分離度のブライアスコア

青:不確実のブライアスコア(気候値予報)

緑:ブライアスキルスコア

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気象庁週間アンサンブル予報の確率予報の検証確率値別出現率グラフ(Reliability Diagram)

赤・ピンク・緑・青・紺・紫は、予報時間24,48,72,96,144,192時間の確率予報の検証を意味する。

折線グラフは、確率予報の信頼度を表す。

頻度分布は、確率予報の分離度を表す。

対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

横軸:確率予報値、折線に対する縦軸:実況の出現率、頻度分布に対する

縦軸:予報頻度

しきい値:気候値+25mを超える確率

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気象庁週間アンサンブル予報の確率予報の検証ROC図(Relative Operation Characteristics)

赤・ピンク・緑・青・紺・紫は、予報時間24,48,72,96,144,192時間の確率予報の検証を意味する。

曲線をROC曲線(ROC curve)と呼ぶ。また、曲線に囲まれた左下の面積をROC面積(ROC area)と呼ぶ。

ここでは、4%刻みでスコアを求め、ROC曲線を描いている。

対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

縦軸:適中率、横軸:空振り率、しきい値:気候値+25mを超える確率

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確率予報の使い方降水確率p%の事例が100回あり、毎回対策を取った場合

の対策費の合計は、1回あたりの対策費Cとすると、100×Cである。この場合、降水の出現頻度は100回中p回であることが期待されるので、1回あたりの損失をLとすると、損失の合計額は100×p×Lである。

したがって、毎回対策をとることによって得ることが期待される利益Gは、

CLpG 100100=

pLCG /0には、

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気象庁週間アンサンブル予報の確率予報の検証損失軽減率グラフ(Reduction rate of total loss)

赤・ピンク・緑・青・紫は、予報時間24,72,120,168,216時間の確率予報の検証を意味する。

グラフそばの値をしきい値とした場合最大の利益が得られ、縦軸の割合だけ利益が得られる。

対象月:2003年4月、対象領域:北半球域(北緯20度以北)

横軸:コスト/ロス比、縦軸:軽減率、しきい値:気候値+25mを超える確率