弱酸性次亜塩素酸水溶液のスギ花粉アレルゲン Cryjlに対する...

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36 稿 弱酸性次亜塩素酸水溶液のスギ花粉アレルゲン Cryjl に対 する不活化効果 ThelnactivationEffectofWeakAcidHypochlorousSolutionagainstClYj1,Cedal・PollenAllel・gen 小野 朋子 ・山下 光治 TbmokoO h o,KojiYamashlta 株 式 会社 エ イチ ・エ ス ・ピー 研究開発部 Reseal,Chand¶∋chnologyDevelopmentDivision,HSPcompany 1 . はじめに 実験動物施設の従事者にとって実験動物アレルギ ーは労働安全衛生上深刻な問題 となっている。2009 年に実施 された日本実験動物学会のアンケー トによ ると、回答機関のうち半数近い実験動物施.-,iLで動物 ア レルギーが起 きてお り、生死にかかわるアナフィ ラキシーが 6 件、重度の曙息根症状 も48 件報告 され ている l ) O動物アレルギ-の原因動物はマウス ・ラ ッ ト ・ウサ ギな どで あ り、動物本 体 や床政 、空 中粉 塵 に含 まれ る体 毛 やふ け液、皮脂腺、糞尿など の蛋白抗原が、作業者の口 ・鼻から侵入 し感作が成 立す る。症状は E]の かゆみ ・充血 、 クシャ ミ、喉の かゆみや咳、皮膚のかゆみなどがあ り、稀に全身症 状としてアナフィラキシーショックが出る場合があ 2-4) o これ ら動物 ア レル ギー を防 ぐため には、マ ス ク ・ゴー グル等 で ア レルゲ ン- の曝 露量 を減 らす と ともに、室内の清掃や空気の清浄化によって、アレ ルゲ ン量 その もの を低 減 させ る必 要 があ る本研究では、現在実験動物施設で衛生管理および 消臭対策 と して使用 されている弓もl酸性次亜塩素酸水 溶液(スーパ 一次亜水)の動物 ア レル ゲ ン-の効 果 を 検討する第一段階 として、同 じア レルケン物質であ るスギ花粉アレルゲン (ClYj l ) に対する不活化効果に ついて基礎的に検討を行った 5) 2. 弱酸性次亜塩素酸水溶液 とは 弱酸性次亜塩素酸水溶液は,アルカリ性である次 0 00 0 0 00 0 98 7 6 54 1 (% )掛 7 7 相性 12 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 pH 1 水溶液中での有効塩素の存在形態 亜塩安酸 ナ トリウムに塩酸 を希釈混合 し ,pH 5.5 -6.5 の弱 酸性域 に調製 した ものであ る。図 1 に示 す ように、次亜塩素酸ナ トリウムの pHを弱酸性 に調 製することにより,有効塩素の成分は解離型の次亜 塩素酸イオン(C 10-)か ら非胴維型の次浬塩素酸 (HCIO) の割合が増大する。次亜塩素酸 ナ トリウムの 殺菌効果は水中の総有効塩素膿度ではなく非解離型 の次亜塩素酸(HCIO) の濃度 に依存する。 これは,解 維型 のOC 1-は微 生物の細胞膜 にある脂 質二重層 を通 過できず細胞の外側か らのみ酸化作用を及ぼすのに 対 し,非解離型の HC1 0 は,適度の分子サ イズと'E 気的中性の性質から,容易に微生物の細胞壁および 形質膜 を通過するため,細胞の内側 と外側両面か ら 酸化作用を及ぼ し,殺菌効果および殺菌速度が向上 されるためである 6~7) 0 弱酸性次敢塩素酸水溶液は医療福祉分野および食 品分野で多 く使用 されてきているが、実験動物施設 でも除菌および消臭の目的で作業従事者の手洗い、 器具の洗浄 環境晒掃 、空間-の噴頚等 に使用 され ている 8-9) 0 3. 花粉 ア レルゲ ン CryJ lに対 する弱酸性次亜塩素酸 水溶液の不活化効果 3.1 試験方法 3.1.1 弱酸性次亜塩素酸水溶液の調製 弱酸性次亜塩素酸水溶液は 12% 次亜塩素酸ナ トリ ウムを希釈 して有効塩素濃度 50ppm の次亜塩素酸 ナ トリウ ム水 溶 液 を調 製 し、8.5% の塩酸でこれを pH6.0 に調整 した。対照 と して滅菌蒸留水 を用 いた。 pHEHControllel・PH-51 (( 秩)IWA lU),有効塩素 濃度 はハ ンデ ィ水 質計 ア クアブAQ-102( 柴田科学 (樵))を用いて測定した。 3.1.2 スギ花粉 ア レルゲ ンの調製 本研究ではアレルゲンとしてスギ花粉アレルゲン に着 目 した. 二 ホ ンスギ(C m tomel IaJ'apoDIca) 日本人の約 30%が隈恩 している花粉症の主原因植物 であ り、例年 2-4 月に雄花(図 2-A) か ら放出 され る花粉(図 2-B) によって花粉症が流行する。スギ花粉 ア レルゲ ンは現在 数種 頒 同定 され てい るが 10) 、その 中で俵 も主 要 なア レル ゲ ンは花粉壁外層 お よびその 表面 に付 着す る オー ビクル(微粒子)に存在す る

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寄 稿

弱酸性次亜塩素酸水溶液のスギ花粉アレルゲンCryjlに対する不活化効果

ThelnactivationEffectofWeakAcidHypochlorousSolutionagainstClYj1,Cedal・PollenAllel・gen

小野 朋子 ・山下 光治

TbmokoOho,KojiYamashlta

株式会社エ イチ ・エ ス ・ピー 研究開発部

Reseal,Chand¶∋chnologyDevelopmentDivision,HSPcompany

1. はじめに

実験動物施設の従事者にとって実験動物アレルギ

ーは労働安全衛生上深刻な問題となっている。2009年に実施された日本実験動物学会のアンケー トによ

ると、回答機関のうち半数近い実験動物施.-,iLLで動物

アレルギーが起きており、生死にかかわるアナフィ

ラキシーが6件、重度の曙息根症状も48件報告され

ている l)O動物アレルギ-の原因動物はマウス ・ラ

ット・ウサギなどであり、動物本体や床政、空中粉

塵に含まれる体毛やふけ、唾液、皮脂腺、糞尿など

の蛋白抗原が、作業者の口 ・鼻から侵入 し感作が成

立する。症状はE]のかゆみ ・充血、クシャミ、喉の

かゆみや咳、皮膚のかゆみなどがあ り、稀に全身症

状としてアナフィラキシーショックが出る場合があ

る2-4)oこれら動物アレルギーを防ぐためには、マス

ク ・ゴーグル等でアレルゲン-の曝露量を減らすと

ともに、室内の清掃や空気の清浄化によって、アレ

ルゲン量そのものを低減させる必要がある。

本研究では、現在実験動物施設で衛生管理および

消臭対策として使用 されている弓もl酸性次亜塩素酸水

溶液(スーパ一次亜水)の動物アレルゲン-の効果を

検討する第一段階として、同 じアレルケン物質であ

るスギ花粉アレルゲン(ClYjl)に対する不活化効果に

ついて基礎的に検討を行った5)。

2.弱酸性次亜塩素酸水溶液とは

弱酸性次亜塩素酸水溶液は,アルカリ性である次

0

0

0

0

0

0

0

0

9

8

7

6

5

4

1

(%)掛77相性

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112pH

図 1 水溶液中での有効塩素の存在形態

亜塩安酸ナ トリウムに塩酸を希釈混合し,pHを5.5-6.5の弱酸性域に調製 したものである。図 1に示す

ように、次亜塩素酸ナ トリウムのpHを弱酸性に調

製することにより,有効塩素の成分は解離型の次亜

塩素酸 イオン(C10-)か ら非胴維型の次浬塩素酸

(HCIO)の割合が増大する。次亜塩素酸ナ トリウムの

殺菌効果は水中の総有効塩素膿度ではなく非解離型

の次亜塩素酸(HCIO)の濃度に依存する。これは,解

維型のOC1-は微生物の細胞膜にある脂質二重層を通

過できず細胞の外側からのみ酸化作用を及ぼすのに

対 し,非解離型のHC10は,適度の分子サイズと'E

気的中性の性質から,容易に微生物の細胞壁および

形質膜を通過するため,細胞の内側と外側両面から

酸化作用を及ぼし,殺菌効果および殺菌速度が向上

されるためである6~7)0

弱酸性次敢塩素酸水溶液は医療福祉分野および食

品分野で多く使用されてきているが、実験動物施設

でも除菌および消臭の目的で作業従事者の手洗い、

器具の洗浄、環境晒掃、空間-の噴頚等に使用され

ている8-9)0

3.花粉アレルゲンCryJlに対する弱酸性次亜塩素酸水溶液の不活化効果

3.1 試験方法

3.1.1 弱酸性次亜塩素酸水溶液の調製

弱酸性次亜塩素酸水溶液は12%次亜塩素酸ナ トリ

ウムを希釈 して有効塩素濃度 50ppm の次亜塩素酸ナ トリウム水溶液を調製 し、8.5%の塩酸でこれを

pH6.0に調整 した。対照として滅菌蒸留水を用いた。

pHはEHControllel・PH-51((秩)IWAlU),有効塩素

濃度はハ ンディ水質計アクアブAQ-102(柴田科学

(樵))を用いて測定 した。

3.1.2 スギ花粉アレルゲンの調製

本研究ではアレルゲンとしてスギ花粉アレルゲン

に着目した.二ホンスギ(Cm tomel・IaJ'apoDIca)は日本人の約30%が隈恩 している花粉症の主原因植物

であり、例年 2-4月に雄花(図 2-A)から放出され

る花粉(図 2-B)によって花粉症が流行する。スギ花粉

アレルゲンは現在数種頒同定されているが 10)、その

中で俵も主要なアレルゲンは花粉壁外層およびその

表面に付着するオービクル(微粒子)に存在する

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図 2 二ホンスギの雄花(A)と花粉(B)

CIYjlである 11-L2)。本試験ではこの ClYJlを対象と

して不活化試験を行った。CIYjl原液として、スギ

花粉粗抽出液(long/mlITEA(樵)東京環境アレルギ

ー研究所)およびニホンスギ雄花(岡山県内)から採取

したスギ花粉を滅菌蒸留水に浮遊させたものを用い、

各々租抽出液およびスギ花粉とした。

3.1.3 水中浮遊アレルゲンの不活化

基礎試験として、水中に浮遊 させたアレルゲンに

対する弱酸性次亜塩素酸水溶液の不活化効果の検討

を行った.試験にあたっては 10mlの弱暇性次亜塩

素酸水溶液および蒸留水に粗抽出液およびスギ花粉

を一定時間接触させた。一定時間後、その一郎を経

時的に採取 し,速やかに0.1%チオ硫酸ナ トリウムを

添加 して有効塩素を失活させたものを試料液としたO

スギ花粉 については有効塩素失活後の試料液に

NaHC03を0.125M となるように添加 して 1時間静

定LClYjlを抽出した.Cryjl濃度は、弱酸性次亜

塩素酸水溶液接触前および接触後の試料液について、

スギ花粉抗原 ClYjl測定キット(二チニチ製薬(株))

を用いてELISA法にて反応後、マイクロプレー トリ

ー ダI Multi-spectrophotometel・Vient(DalnlPPOnSumitomoPharm)にて450nmの吸光度を測定 して

決定 した。

3.1.4 付着アレルゲンの不活化

実際の生活環境中での花粉アレルゲンの不活化を

想定 し、2種の部材に付着させた付着アレルゲンに

対する弱酸性次_Tk塩素酸水溶液の不活化効果の検討

を行った。担体は、机 ・床等の硬質無礼質表面を想

定 しプラスチックシャーレ(q)86mm (樵)アテクト)お

よびカーテン ・衣類 ,紙など繊維質表面を想定 L波

紘(5×5cm No.2ア ドバンテック東洋(樵))を用いた。

ClTjl原液 0.1mlを担体に塗布 し、室内にて 1時間

乾燥 させた。この担体に対 し、弱酸性次亜塩素酸水

溶液で①浸前処理 くさスプレー処理 (∋噴芹処理を行

った(図 3)0(D浸溝処理

10mlの弱酸性次亜塩素酸水溶液に 10分間静匿浸

清させた。

(診スプレー処理

弱酸性次亜塩素酸水溶液を3回担体にスプレーし

浸晴 ス プ レ ー 噴頼

妻y fJ =r~-i 義

10mlの被験液に 0.5m1×3回噴射 噴霧口から15cmの地点で噴需粒子に30秒間接触

図3 付着アレルゲンに対する不活化試験

(1回 0,5ml),10分間静置させた。

(∋噴霧処現

超音波式噴希器(ステリ愛 (樵)エイチ ・エス ・ピー

噴顕正 320rnl爪)の噴霧口 15cmの地点にて 30秒間

噴芹粒子に接触 させた後、10分間静置させたO

各種処理前および処理後の付着担体 を 10mlの

0.125M NaHC03に回収 して 1時間抽出を行い、処

理前後の Cryjl濃度を測定 した。なお、対照は蒸留

水とした。

4. 結果および考察

4.1 水中浮遊アレルゲンの不活化

図 4に弱酸性次亜塩素酸水溶液に接触 させた場合

の水中浮遊アレルゲン(CⅣjl)の経時変化を示す。初

期の CIYjl濃度は粗抽出液で 0,46ng/ml、スギ花粉

で 56.Ong/mlであった.租抽出液の場合、弱酸性次

亜塩素酸水溶液接触 60秒でClYJl濃度は0.04mg/mlに低下 し、高いアレルゲン不活化効果が認められた。

スギ花粉の場合 も Cryjl濃度は接触 60秒後で

16.211g/lTll、600秒後で3.5ng/mlと経略的に減少 し、

租抽出液と同様に不活化効果が認められた。

4.2 付着アレルゲンの不活化

図 5に粗抽出液およびスギ花粉をプラスチックシ

ャーレに付着 させた場合の弱酸性次亜塩素酸水溶液

の付着アレルゲンの不活化効果を示す。プラスチッ

クシャーレの場合、担体 1枚あたりの処理前の Cryjl

量は粗抽出液で3.6ng、スギ花粉で63.91-gであった。

粗抽出液の場合、浸潰、スプレー、噴洋ともに処理

弓もt7)世t:TFAtu

\BtT)世YTLtTU

㍉0 200 400 600 0 200 400 600

ほ触時rBl(see) は地時間 (see)

◇ 'gw tf次壬生兼加 は 頴(50['LJTTl) II JEy水

図 4 弱酸性次亜塩素酸水溶液に租抽出液およびス

ギ花粉を接触 させた場合のClYjl不活化効果

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4

3

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(達筆

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(車型ぎ)叫TLt.U

田 処理前 □ 慧慧慧次亜塩相 生 蒸留水

図 5 プラスチックシャーレに付着 した粗抽出液お

よびスギ花粉に対する弱酸性次亜塩素酸水溶

液の CIYjl不活化効果

後の C工Yjl量は担体 1枚あたり0.2、0.4、0.3ngとなり、蒸留水同処理 した場合と比較 して高い不活化

効果が止められた。一方、スギ花粉の場合は処理に

よって不活化効果が異なった。股も不活化効果が苗

かったのは浸漬処理で担体 1枚あた りの CITjl屋は

5.5ng、次いでスプレーの 34.9ngであり、噴霧では

63.7ngとほとんど不活化効果が認められなかった。図6に租抽出液およびスギ花粉を渡紙に付-右させ

た場合の弱酸性次亜塩素酸水溶液の付着アレルゲン

の不活化効果を示す。避紙の場合、担体 1枚あたり

の処理前の CIYjliJ主は租抽出液で 1.3ng、スギ花粉

で 100.2ngであった。租抽出液の場合、最も高い不

活化効果を示 したのは浸慣処理で、次いで噴芹、ス

プレーの順であり、処理後の CIYjl是は担体 1枚あ

たり各々0.08、0.4、0.8ngであった。一方、スギ花

粉の場合は、浸清、スプレー、噴霧の順で不活化効

果が高 く、処理後の Crカ1畳は担体 1枚あたり各々

12.0、34.1、85.2ngであった。

4.3 考察

以上の結果より、弱酸性次亜塩紫酸水溶液はスギ

花粉アレルゲンCIYjlに対 して不活化効果を有することが分かった。本試験では、スギ花粉よりも粗抽

出液に対 して高い不活化効果が認められた。これは、

Cryjlの濃度がスギ花粉の方が高いこと、粗相L桐互

は Cryjlが溶液中に溶解 しているのに対 し、スギ花粉は花粉外壁や微粒子内に内在 しているため、弱酸

性次亜塩素酸水溶液が接触 ・不活化するまでに時間

を要したことなどが考えられる。

また、付着アレルゲンに対 しても、いずれの条件

においても蒸留水と比較して次亜塩素酸水溶液で処

42186420

LL

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JBtT)TIF̂To

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欝 処理前 □ 翌警護次亜塩棚 骨 蒸留7k

図 6 ろ紙に付着 した租抽出液およびスギ花粉に対

する 弱酸性次亜塩素酸水溶液の CryJl不活

化効果

理 したほ うが CryJl量は低減 していることか ら

CryJlに対 して不活化効果が認められた。最も効果があったのは浸描処理であった.これは、接触効率

が良いことと、浸溶液中に ClYjlが流出し担体への

付冶品が減少 したためと考えられる.また、粗抽出

液をプラスチック表面に付着させた場合は、各処理

方法とも噴霧安定した不活化効果が得られた。また、

スプレーおよび噴斉は浸清処理よりも効果が低かっ

たが、実際に担体に接触 した水最を計測すると、浸

清、スプレー、噴幕の順に 10ml、1.5m1、0.13mlで

あり、スプレーおよび噴霧は弱酸性次亜塩素酸水溶

液の接触丘が少なかったことが影響 していると考え

られる。

今回検討 した 3種の使用方法は、現在、現場で除

菌や消臭目的でよく実施されている手法である。花

粉アレルゲンの不活化に対 しても、有効塩素濃度や

接触時間等の最適な適用条件を探索 し、有効な使用

方法を提案 したい。また、花粉の多くは空中に浮遊

した状態から、眼、鼻、喉の粘膜に付着することに

よってアレルギーを発病することから、浮遊状態の

花粉アレルゲンに対する不活化効果についても検討

を進めたい。

5.おわりに

本研究では、アレルゲンとしてスギ花粉に著目し、

弱酸性次亜塩素酸水溶液の不活化効果について検討

を行い、高い不活化効果を得ることができた。スギ

花粉アレルゲンCryjlおよび動物アレルゲンはいず

れもタンパク質や多糖類であるため、弱酸性次亜塩

素酸水溶液は動物アレルゲンにも不活化効果を有す

ることが期待される。今後、各種の動物アレルゲン

に対する弱酸性次亜塩素酸水溶液の不活化効果につ

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いても基礎的に検討 し、実験動物施設内での有効な

動物アレルゲン対策方法の開発 を目指 したい。

6.謝辞

本研究を遂行するにあた り、ご指導ご鞭権を賜 り

ました岡山県JT_業技術センター研究開発部福崎智司

先生および化学 ・新素材グループの皆様、島根大学

生物資源科学部生態環境科学科、佐藤利夫先生に深

謝致 します。

7.参考文献

1)米川博通、動物アレルギーの現状(アンケー ト調査

の結果)、実験動物技術、45(2)、103-108、2010

2)熊井恵美、動物アレルギーおよびアナフィラキシー

発症峠の対策、実験動物技術、45(2)、109・112、2010

3)坂口雅弘、動物 アレルギー、実験動物技術、45(2)、

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4)Venables,K.M.etal.,Laboratoryanimal

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5)/ト野朋子、

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集、2011

6)福崎智司、

論 と実際、2005

7)福崎智司、

LLJ下光治、佐藤利夫、弱酸性次亜塩-;I(壬

スギ花粉アレルゲンCIYjlに対する不

日本防菌防徴学会第 39回年次大会要旨

次亜塩素酸を基盤とする洗浄 ・殺歯の理

NewFoodlndustIy、47(6)、 9・22、

次亜塩素酸ナ トリウムの特性 と洗浄 ・

殺菌への効果的な利用、食品工業、49(16)、36-43、

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8)山下光治、三宅真名 他、弱酸性次亜塩素酸水 を用

いた動物実験施設での衛生管理の可能性 -ホルマ

リン煉蒸に替わる新たな消毒資材 としての活用、

岡山実験動物研究会報、20、28-32、2003

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9)ching,F.Letal,ApplicationofHypochLorousAcidinManagementofMouseFacility,第 54回日本実験動物学会総会講演要旨集.2007

10)FuJimura,T.etal,Two-dimensionallgE-bindingspectl・um of Japanese cedaI・ (Crytomerlajaponica)pouen allel・genS,IntALrCh A山ergylmmumol,133(2),125-135,2004

ll)中柵 正夫、佐藤文隆 他、スギ花粉アレルケンClYJlとCry12の発芽花粉における局在性、日本花粉学会会誌、50(1)、15-22、2004

12)MariaS.Cetal,Immunocytochemical

localizationofClYj1,themajoralleL・genOfCIYPtOmeriajaponica(Taxodiaceae)inCupL・eSSuSarizonicaandCupl・eSSuSsempel・Ⅵ 工・enS(Cupressaceae)pollengTalnS,Sexualplantreproduction,16(1),9-15,2003

要約

弱酸性次亜塩素酸水溶液(スーパー次亜水)の動物

ア レルゲ ン不活化への前段階 として、スギ花粉アレ

ルゲン CⅣjlに対する不活化効果を検討 した。 スギ

花粉の粗抽出液およびスギ花粉本体に対 し、有効塩

素濃度 50ppm の弱酸性次亜塩素酸水溶液は高い不

活化効果 を有 していた。 また、波紙やプラスチ ック

表面 に付着 したア レルゲンに対 しても、浸潰、スプ

レ-、噴霧の各種処理 を行 うことにより、アレルケ

ンの不活化が可能であった。今後、空気中に浮遊す

るア レルゲ ンに対する不活化効果を検討するととも

に、各種動物アレルゲ ンに対する不活化効果につい

ても検討 したい。