可逆反応 - 名城大学可逆反応 ・可逆反応とは何か ・可逆反応と平衡状態...

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可逆反応 ・可逆反応とは何か ・可逆反応と平衡状態 ・平衡定数:熱力学を使って考察する ・平衡移動の法則(ル・シャトリエの原理) ・前駆平衡反応 可逆反応とは何か 可逆反応とは何か A B 素反応 (1):A → B 素反応 (2):B → A 右向き・左向きの両方が同時に進行する反応 正反応 逆反応 時間 濃度 最初は B がないので正反応のみ進行 徐々に B→A の反応が増加 正反応と逆反応が 同じ速度で進行 (平衡状態) A → B のみの場合

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可逆反応

・可逆反応とは何か

・可逆反応と平衡状態

・平衡定数:熱力学を使って考察する

・平衡移動の法則(ル・シャトリエの原理)

・前駆平衡反応

可逆反応とは何か

可逆反応とは何か

A B素反応 (1):A → B

素反応 (2):B → A

右向き・左向きの両方が同時に進行する反応

正反応

逆反応

時間

濃度

最初は B がないので正反応のみ進行

徐々に B→A の反応が増加

正反応と逆反応が 同じ速度で進行 (平衡状態)

A → B のみの場合

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可逆反応の速度論

A B素反応 (1):A → B

素反応 (2):B → A

正反応

逆反応

○「A → B」と「B → A」は独立に進行すると考える(逐次反応の時と同じ)

・「A → B」(正反応)の反応速度は [A] の関数・「B → A」(逆反応)の反応速度は [B] の関数

考え方のポイント

・A, B の物質量変化は正反応・逆反応の  両方の反応速度に依存する(A は正反応で減り、逆反応で増えるため)

可逆反応の微分速度式

(仮に素反応がどちらも一次反応であるとする)

反応速度 = k1[A]

A の減少速度 = ‒k1[A]

B の増加速度 = +k1[A]

反応(1)だけ考えるのなら

d[A]dt

= −k1[A]

d[B]dt

= k1[A]

他の反応もあるので

d[A]dt

= −k1[A]

d[B]dt

= k1[A]

+

+

反応(1)の分他の反応の分

素反応 (1):A → B

A B素反応 (1):A → B

素反応 (2):B → A

正反応

逆反応

可逆反応の微分速度式(つづき)

反応速度 = k–1[B]

B の減少速度 = ‒k–1[B]

A の増加速度 = +k–1[B]

反応(2)だけ考えるのなら 反応(1)と合わせて考えると

反応(1)の分反応(2)の分

素反応 (2):B → A

d[B]dt

= −k−1[B]

d[A]dt

= k−1[B]

d[B]dt

= k1[A]− k−1[B]

d[A]dt

= −k1[A]+ k−1[B]

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可逆反応の積分速度式*微分速度式を初期濃度 [A]0, [B]0 = 0 として解く。(テキスト 61 ページ)

まず、[A]+[B] = [A]0 (一定)が常に成り立つので、d[A]dt

= −k1[A]+ k−1 [A]0 −[A]( ) = − k1 + k−1( )[A]+ k−1[A]0d[A]

− k1 + k−1( )[A]+ k−1[A]0= dt

−1

k1 + k−1ln − k1 + k−1( )[A]+ k−1[A]0( )⎡⎣ ⎤⎦[A]0

[A]= t

両辺を 0 から t まで積分すると(左辺は [A]0 から [A] まで)

−1

k1 + k−1ln− k1 + k−1( )[A]+ k−1[A]0

−k1[A]0= t

− k1 + k−1( )[A]+ k−1[A]0−k1[A]0

= exp −(k1 + k−1)t( ) ∴[A]=k−1 + k1 exp −(k1 + k−1)t( )

k1 + k−1[A]0

可逆反応の積分速度式(図示)

[A]= [A]0k−1 + k1 exp(−(k1 + k−1)t)

k1 + k−1

[B]= [A]0k1 − k1 exp(−(k1 + k−1)t)

k1 + k−1

時間

濃度

平衡状態

可逆反応と平衡状態

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平衡状態の取り扱い(その1)

時間

濃度

平衡状態

平衡状態での A, B の濃度は?

積分速度式で t → ∞ とすれば求められる

[A]= [A]0k−1 + k1 exp(−(k1 + k−1)t)

k1 + k−1

これが0になる [A]∞ = [A]0k−1

k1 + k−1∴

[B]∞ = [A]0k1

k1 + k−1

平衡状態の取り扱い(その2)平衡状態での A, B の濃度は?(別法)

平衡状態では [A] は変化しない d[A]dt

= 0⇒d[A]dt

= −k1[A]∞ + k−1[B]∞ = 0

k1[A]∞ = k−1[B]∞[B]∞[A]∞

=k1k−1

∴ (ここから [A]∞ + [B]∞ = [A]0 を使えば  前ページと同じ式が出て来る)

平衡定数[B]∞[A]∞

=k1k−1

= K

※「化学平衡の法則」で出てくる 平衡定数と同じ

やや複雑な平衡反応

A + B C + D

d[A]dt

= −k2[A][B]+ k−2[C][D]

d[A]dt

= 0

−k2[A]∞[B]∞ + k−2[C]∞[D]∞ = 0

平衡状態では [A] は変化しないので

平衡定数

(行き・帰りとも  二次反応と仮定した)

[C]∞[D]∞[A]∞[B]∞

=k2k−2

= K

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平衡定数: 熱力学を使って考察する

速度論と熱力学

A B速度論:[A], [B] の時間変化に注目

熱力学:時間変化しない「状態」の     性質に注目

平衡状態

A → B、B → A の反応は起きている

⇒ 速度論で取り扱い可能

[A], [B] は時間変化しない⇒ 熱力学でも取り扱い可能

熱力学による化学平衡の取り扱い

エネルギー

反応座標

AB

反応物

生成物

反応物・生成物の「状態」 (エネルギー)に注目する

遷移状態には注目しない

ギブズの自由エネルギー G = H – TS

H(エンタルピー):化学変化の場合は「結合エネルギー」S(エントロピー):化学変化の場合は「構成分子の自由度」

多くの場合は「結合が強い方に」進む(H が負に大きい)場合によっては「自由度が大きい」方が優先する(S が正に大きい)

自発過程では ΔG < 0

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平衡状態と自由エネルギー*AB

A ‒ dξB + dξ

⇒ 反応が右向きに dξ 進んだ状態を考える(ξ=グザイ=反応の進行度)

この時の自由エネルギー変化は dG = −µAdξ +µBdξ

µA, µB は、A, B の「化学ポテンシャル」=単位濃度あたりの自由エネルギー変化(=A の濃度を d[A] 変化させたら全体の自由エネルギーが µA×d[A] 変化する)

化学ポテンシャルは濃度に依存する: µA = µ0A + RT ln[A] µB = µ

0B + RT ln[B],

(µA0, µB0 は「標準状態」での化学ポテンシャル)

「反応に伴う自由エネルギー変化」

dG = −(µ 0A + RT ln[A])dξ + (µ0B + RT ln[B])dξこれより、

ΔG =dGdξ

(意味は「単位量だけ反応が進行した時の G の変化量」)

ΔG = (−µ 0A +µ0B)+ RT ln

[B][A]

= ΔG0 + RT ln [B][A]

平衡状態と自由エネルギー(つづき)*

AB

A ‒ dξB + dξ

平衡状態:自由エネルギーが極小 =反応が微小量進行しても G は変化しない

ΔG =dGdξ

= 0

0 = ΔG0 + RT ln[B]eq[A]eq

平衡状態での A, B の濃度を [A]eq, [B]eq とすると、

∴[B]eq[A]eq

= exp −ΔG0

RT⎛

⎝⎜

⎠⎟= K

(結果は重要なので覚えておくこと)

平衡状態と自由エネルギー:一般化

n1A1 + n2A2 + ... m2B1 + m2B2 + ...

dG = −(n1µA1 + n2µA2 +!)dξ + (m1µB1 +m2µB2 +!)dξ

反応が右向きに dξ 進むと、A1, A2, ... は n1 dξ, n2 dξ,... 減少し、 B1, B2, ... は m1 dξ, m2 dξ, ... 増加する。

ΔG =dGdξ

= (−n1µ0A1 −!+m1µ

0B1 +!)+ RT (−n1 ln[A1]−!+m1 ln[B1]+!)

= ΔG0 + RT ln [B1]m1 ×!

[A1]n1 ×!

[B1]m1 ×!

[A1]n1 ×!

= exp −ΔG0

RT⎛

⎝⎜

⎠⎟= K平衡状態では

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平衡移動の法則 (ル・シャトリエの原理)

平衡移動の法則(ル・シャトリエの原理)(1)平衡状態の系に外部から変化を加えると、 その変化を打ち消すように平衡が移動する。

濃度(圧力)を変化させたとき

A + B C K =[C][A][B]

ここにAを加えると?

反応が右に進んで、[A], [B] が減り、[C]が増える。K が元と同じになったところで止まる。

そのままだと K の値が小さくなってしまう。

⇒「平衡定数」の式を使って定量化できる

平衡移動の法則(ル・シャトリエの原理)(2)

全体の圧力を変化させたとき

A + B C K =[C][A][B]

全体の濃度(圧力)を減らすと?

そのままだと K の値が大きくなってしまう。

反応が左に進んで、[A], [B] が増え、[C]が減る。

K が元と同じになったところで止まる。

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平衡移動の法則(ル・シャトリエの原理)(3)

温度を変化させたとき

A + B C K =[C][A][B]

温度を上げると?

正反応が発熱反応とする

反応は、熱を吸収する方向に進む。(つまり左に進む)理由発熱反応の平衡定数は、温度が上がると減少する。

説明

van’t Hoff の式 d(lnK )dT

=ΔHRT 2

ΔH:反応エンタルピー (発熱反応では負の値)

発熱反応では右辺が負 → 温度が上がると ln K が減少 → K も減少

前駆平衡反応

前駆平衡反応逐次反応のうち、最初の段階が「速い平衡反応」とみなせるとき、 この段階を「前駆平衡」と呼ぶ。

前駆平衡反応の速度式

ポイント:中間体 C の濃度を平衡式で表す。

A + B C DK k1

速い平衡前駆平衡

[C][A][B]

= K [C]= K[A][B]

d[D]dt

= k1[C]= k1K[A][B]

よって

(二次反応として解析できる)

※ 平衡定数の K (大文字)と速度定数の k (小文字)を区別すること