学術フロンティア講義 (Sセメスター) 近似を厳密に...
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学術フロンティア講義 (Sセメスター) 近似を厳密に考える
3. シミュレーションと多角形の形齊藤 宣一 (さいとう のりかず)
数理科学研究科 [email protected]
2019年 7月 4日 (木) 5限 521教室
NS 2019.07.04 1 / 62
予定
• 6月 6日 (齊藤宣一) 1. 積分の値を求めること
• 6月 13日 (河澄響矢)
• 6月 20日 (河澄響矢)
• 6月 27日 (齊藤宣一) 2. 方程式の解を求めること
• 7月 4日 (齊藤宣一) 3. シミュレーションと多角形の形 ←− 本日
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1 シミュレーション:ニュートンからスパコンへ
2 三角形分割と有限要素法
3 歴史は繰り返す:曲面の面積
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「シミュレーション」とは何?
シミュレーション (simulation)という言葉はよく聞くが、、、
• 広辞苑では,「物理的・生態的・社会的等のシステムの挙動を,これとほぼ同じ法則に支配される他のシステム,またはコンピュータの挙動によって,模擬すること」
• Wikipediaでは,
• googleでは,
• シュミレーションではない.
この講義で扱うのは,コンピュータを用いたシミューレションコンピュータ上での物理現象の模擬実験 → 例を見てもらいます
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“何”を計算しているか?あいだに数理モデル(方程式)あり
-�
?
6
現象
ビルの間の風の流れ大動脈血流金融派生商品の価格etc.
数理モデル(方程式・不等式)
可視化・数値化
解く
@@
@@
@@
@@I
このような営みはニュートンまで遡ることができる
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ニュートンによる惑星運動の解析
ケプラーの法則1 惑星は太陽を焦点の 1つとする楕円軌道上を運動する (1609)
2 太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定である (1609)
3 惑星の公転周期の自乗は,楕円軌道の長半径の三乗に比例する (1619)
• ヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler, 1571–1630)
• ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe, 1546–1601)
ニュートン (Isaac Newton, 1642–1727)は,これらのことを,微分積分学,力学の法則,万有引力の法則を基に,数学的に説明した.
自然哲学の数学的諸原理 (プリンキピア) 1687年
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惑星運動の方程式
• M: 太陽の質量,m: 惑星の質量.(m/M ≪ 1と仮定)
• 太陽の位置を位置ベクトルの基準 (原点)
• x(t) = (x(t), y(t), z(t)): 時刻 t における惑星の位置ベクトル
• G : 万有引力定数
• r(t) =√x(t)2 + y(t)2 + z(t)2: 太陽と惑星の距離
md2
dt2x(t) = −GMm
r(t)3x(t)
P
m
M
f
NS 2019.07.04 7 / 62
惑星運動の方程式実際は,平面運動を考えれば十分:
d2
dt2x(t) = − GM
r(t)3x(t),
d2
dt2y(t) = − GM
r(t)3y(t)
(適当な初期条件 x(0) = a1, y(0) = a2, x′(0) = a3, y
′(0) = a4)
• この微分方程式 (differential equation)を満たす (x(t), y(t))を見つければ惑星の運動がわかったことになる (これを,微分方程式を解くと言う.)
• 初等的な求積法
d2
dt2x(t) = 2, x(0) = 1, x ′(0) = 1 ⇔ x(t) = t2 + t + 1
• 初等的な求積法は適用できない.• 解を初等的な関数を用いて表現できない.(これを,解析的には解けないと言う)
• しかし,(ニュートンがやったように)間接的な方法で,ケプラーの法則を証明することはできる.
• しかし,それでは,ある時刻 t で,x(t) =?,y(t) =?はわからないまま.▷ そこで,x(tn) ≈ X n,y(tn) ≈ Y n を求める (数値解法,近似解法)
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例題例として,次の微分方程式を満たす u(t)を求める.
du(t)
dt= u(t) (0 < t < 1), u(0) = 1
微分係数の定義から du
dt(t) = lim
h→0
u(t + h)− u(t)
h≈ u(t + h)− u(t)
hが期待できる.そ
こで,正の整数 N をとって,t 軸上に分点
tn = nh (n = 0, 1, . . . ,N), h = 1/N
を取り,Un ≈ u(tn)を求めるために,
Un+1 − Un
h= Un (Euler法)
を解く.実は,UN = (1 + 1N)N → e.
t
uu(t)
U1U2
U5
t1 t2 t5
a
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惑星運動の方程式を解く
Euler法 Heun法
Runge-Kutta法
ある条件下での計算例すべて,h = 0.01,T = 16π良い方法もあれば良くない方法もある
NS 2019.07.04 10 / 62
数理モデルとシミューション
-�
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6
?
6
近似
コンピュータ
現象
ビルの間の風の流れ大動脈血流金融派生商品の価格etc.
数理モデル(微分方程式)
連続的な変数・値
可視化・数値化
離散化
@@
@@
@@
@@I
現象を模倣しているのは数理モデル数理モデルを “解く”ことで現象の理解や予想が可能になる
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数理モデルとシミューション
• 現実の問題(をモデル化した方程式)を解くには,もっともっと,労力がかかる.スーパーコンピュータが必要になることもある.
• 数理モデルの導出や,その数学的正当性の研究は,数学の重要な課題.
• それを解くための数値解法の提案や,その数学的正当性の研究も,数学の重要な課題.
• 実は,これらのことと,三角形の形について考察することは,深く関係がある.
NS 2019.07.04 12 / 62
1 シミュレーション:ニュートンからスパコンへ
2 三角形分割と有限要素法
3 歴史は繰り返す:曲面の面積
NS 2019.07.04 13 / 62
膜の釣り合い
xy 平面上に置かれた枠 Γに薄い膜が張ってある.膜に力を加えた時,膜はどう変形するか?
0
0.5
1
1.5
2 0
0.5
1
1.5
2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
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Poisson方程式
“答え”は,Poisson(ポワッソン)方程式を解けば得られる.
∂2u
∂x2+
∂2u
∂y2= −f (x , y)
[∆u = −f ∆ ラプラシアン
]• u = u(x , y) 膜の変位(高さ),f (x , y) 膜に加える力
• Simeon Denis Poisson (1781–1840)
• 偏微分(一つの変数は “気にせず”,もう一つの変数について微分する)
∂u
∂x(a, b) = ux(a, b) = lim
h→0
u(a+ h, b)− u(a, b)
h.
NS 2019.07.04 15 / 62
それでは,どうやって解くか?
0
0.5
1
1.5
2 0
0.5
1
1.5
2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ
る.(図の例では N = 76)
0
0.5
1
1.5
2 0
0.5
1
1.5
2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”
u4
u13
u32
P4
P13
P32
[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.
[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...
. . ....
aN1 · · · aNN
u1...uN
=
F1
.
.
.FN
になる (???).あとは,これを解けば良い.
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有限要素法このような方法を有限要素法 (finite element method, FEM) という.
• 計算対象は,Poisson方程式に留まらない.空間 3次元・時間 1次元の問題でも活躍する
• 計算対象を,三角形・四面体に分割し,各四面体上で,近似方程式をたてて,それを統合し,近似解(数値解)を得る
• 普通,連立一次方程式を解くことに帰着される.未知数の数は,1010 程度になることも.
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計算された膜の形
f (x , y) = 5という一様な力を加える.
0
0.5
1
1.5
2 0
0.5
1
1.5
2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
0
0.5
1
1.5
2 0
0.5
1
1.5
2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
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-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
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計算に使った三角形分割
NS 2019.07.04 19 / 62
有限要素法の世界
• 現在,最も強力な微分方程式の数値解法 (の内の一つ)• 流体力学,電磁気学,構造力学,生命科学,臨床医学,· · ·• 汎用コード,商用ソフト,フリーソフト,· · ·• 端正な数学理論,,· · ·
• 航空工学の急速な発展 (1940年代後半 ∼)· · · 固体力学・構造力学の分野• Turner, Clough, Martin and Topp (1956)• Clough (1960) finite-element, · · ·
• 数学的研究の黎明期 (1960後 ∼1970前)• 有限要素法は Galerkin法 (Ritz法)の特殊な場合,· · ·• 微分方程式の弱解を近似している,· · ·
• 齊藤宣一,数値解析—偏微分方程式の解を見る,「数学の現在 e(斎藤,河東,小林編),東京大学出版会,2016年,3,240円」の第 8講
NS 2019.07.04 20 / 62
ある論文の冒頭部分、、、
As Henri Poincare once remarked, solution of a mathematical problem is a phrase ofindefinite meaning. Pure mathematicians sometimes are satisfied with showing that thenon-existence of a solution implies a logical contradiction, while engineers might considera numerical result as the only reasonable goal. Such one sided views seem to reflecthuman limitations rather than objective values. In itself mathematics is an indivisibleorganism uniting theoretical contemplation and active application.
This address will deal with a topic in which such a synthesis of theoretical and applied
mathematics has become particularly convincing. · · ·
これは次の論文 (1943年!)の冒頭部分:R. Courant: Variational methods for the solution of problems of equilibrium andvibrations, Bull. Amer. Math. Soc. 49 (1943) 1–23.
pdfファイルが入手可能です.一読を薦めます.
NS 2019.07.04 21 / 62
有限要素法の誕生: Courant (1943) Appendix
しかし,この手法が現実的な手法として認識されるには,電子計算機 (コンピュータ)の登場を待たねばならなかった.
NS 2019.07.04 22 / 62
R. Courant
Richard Courant (1888–1972)
• 師匠は D. Hilbert
• ニューヨーク大学教授 (1936–)
• Courant Institute of MathematicalSciences
• Methoden der Mathematischen Physik数理物理学の方法, クーラン & ヒルベルト
• What is Mathematics? (数学とは何か)ロビンズと共著
• C. リード:クーラント—数学界の不死鳥,(加藤瑞枝 訳),岩波書店,1978年
(From Wikipedia)
NS 2019.07.04 23 / 62
Navier-Stoke方程式Poisson方程式よりも現実的な例として,
Navier-Stokes方程式∂ui∂t
+3∑
j=1
uj∂ui∂xj
= ν∆ui −1
ρ
∂p
∂xi+ fi , (i = 1, 2, 3)
3∑j=1
∂uj∂xj
= 0.
• 粘性非圧縮性流体(液体 +気体)の運動を記述• u(x1, x2, x3, t) = (u1, u2, u3): 速度ベクトル場• p(x1, x2, x3, t): 圧力スカラー場• f (x1, x2, x3, t) = (f1, f2, f3): 外から流体に働く力の総和• ρ: 質量密度 (正定数); ν: 動粘性係数 (正定数)
• L. M. H. Navier (1827), G. G. Stokes (1845)
• 岡本久:Navier-Stokes方程式の数理,東大出版,2009年
NS 2019.07.04 24 / 62
なぜ解きたいか?
理工学の立場これを解くことでいろいろなことがわかる.必要性は論を待たない.
数学の立場からわからないことだらけ
Millennium Problem (The Clay Mathematics Institute)
Navier-Stokes方程式を R3で考え,f = 0とする.このとき,“任意”の初期値に対して,
∥u(·, t)∥2L2(R3)3 =
∫R3
|u(x , t)|2 dx <∞
を満たす時間大域的古典解の存在・非存在?
$1 million ≈ 1億円
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計算例2つの円柱を通り過ぎる流れ.
このように複雑な形状をした領域を,どうやって三角形に分割すれば良いであろうか?一例を紹介する.
NS 2019.07.04 26 / 62
Voronoi図
P1,P2, . . . ,PN:母点の集合, |x | =√
x21 + x22
Vi = {x ∈ R2 | |x − Pi | < |x − Pj | (j = 1, . . . ,N, j = i)}
NS 2019.07.04 27 / 62
Voronoi図
実際に使う時は,境界の上に多めに母点を配置しておく.
NS 2019.07.04 28 / 62
Delaunay三角形分割
Voronoi領域が境界辺を共有するとき,それらの母点を線分で結ぶ.
このようにして得られる三角形分割を,Delaunay(ドロネー)三角形分割と言う.
NS 2019.07.04 29 / 62
Delaunay三角形分割
Voronoi領域が境界辺を共有するとき,それらの母点を線分で結ぶ.
このようにして得られる三角形分割を,Delaunay(ドロネー)三角形分割と言う.
(それでは,どうやって Voronoi図を得るのだろうか?)もちろん,三角形分割の作り方は,これだけではない.
NS 2019.07.04 30 / 62
何が良い三角形分割か?1 構造保存与えられた三角形分割 T で,エネルギー保存,正値性保存,順序保存など(問題により異なる)が再現されるか?
2 安定性・収束性三角形分割の族 {T } = {TN}N(三角形の集合の集合)を考えるとき,
uN → u (N →∞) [収束性]
となるか?N →∞は,頂点の数を増やすこと=三角形分割を細かくしていくこと,に対応している.
{TN}N
{TN}N
NS 2019.07.04 31 / 62
収束性と三角形分割の条件
収束性が肯定的に解決されるための条件として,次が知られている:
最小角条件 (M. Zlamal, 1968)
適当な正の数 αに対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,α以上となるように,分割を細かくすれば良い.
最大角条件 (I. Babuska and A. K. Aziz, 1976)
適当な数 β (60◦ ≤ β < 180◦) に対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,β 以下となるように,分割を細かくすれば良い.
外接半径条件 (小林・土屋, 2014)
分割に現れる三角形の外接円の半径が 0に近づくように,分割を細かくすれば良い.
NS 2019.07.04 32 / 62
有限要素法の数学理論
• 有限要素法の一つの顕著な特徴は,端正な数学理論 によってその正当性が保証されていること.収束性の結果はその典型例.
• 是非説明したいが,そのためには,Schwartzの超関数 (distribution),Hilbert空間,Sobolev空間などの数学的概念が必要になる.実際,数学科では,4年生と大学院の講義で基礎的な部分のみを扱う.
• そこで,もう少し簡単な問題を対象にして,三角形分割の細分化について検討してみる.
NS 2019.07.04 33 / 62
1 シミュレーション:ニュートンからスパコンへ
2 三角形分割と有限要素法
3 歴史は繰り返す:曲面の面積
NS 2019.07.04 34 / 62
図形の面積
xa b
xa b
xa b
NS 2019.07.04 35 / 62
図形の面積
• 実際には,三角形を小さくしなければならないのは,曲がった部分の近くのみ
• 先に曲線上に点をたくさん置いて,それらが頂点となるように三角形をつくる
NS 2019.07.04 36 / 62
曲面の面積
-2-1.5
-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2-1
-0.5
0
0.5
1
1
2
3
4
5
6
7
-2-1.5
-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2-1
-0.5
0
0.5
1
1
2
3
4
5
6
7
• 各三角形の各頂点は曲面上にあり,各三角形は三頂点を結んでてきる平らな図形(ふつうの三角形)とする
• 三角形をすべて集めてできる図形は,もとの曲面には含まれない• このような三角形の集合を曲面の三角形分割• 三角形の面積の総和を三角形分割の面積• 三角形を小さくしていく操作を分割を細かくするという
NS 2019.07.04 37 / 62
いろいろな曲面
−4
−2
0
2
4
−4
−2
0
2
4
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
−10
−5
0
5
10
−10
−5
0
5
10
−1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
−10−5
05
10−8
−6
−4
−2
0
2
4
6
8
−2
0
2
−3−2
−10
12
3
−3
−2
−1
0
1
2
3
−1
−0.5
0
0.5
1
NS 2019.07.04 38 / 62
円周の側面の面積を求めてみよう
半径 r,高さ hの円柱を考える.側面の面積は,S = 2πrhと習った.
h
2 π r
NS 2019.07.04 39 / 62
方法 1
円柱を縦に m等分底面の円周上に等間隔に n個の点を取る上面と下面の対応する点を線で結ぶ長方形に対角線を入れて三角形を作る
h / m
h / m
m = n = 10
NS 2019.07.04 40 / 62
方法 1
各三角形の高さは h
m
底辺の長さは,2r sin180◦
n
各三角形の面積 1
22r sin
180◦
n· hm
したがって,三角形分割の面積は,
mn · 2 · 122r sin
180◦
n· hm
= 2rhn sin180◦
n.
mには関係しないので,これを Snと書こう.
Sn = 2rhn sin180◦
n.
r
180 /n
r sin (180 /n)
NS 2019.07.04 41 / 62
方法 1で実際に計算してみる
r = 2,h = 5とする.
このとき,S = 2πrh = 20π = 62.83185 · · ·.
n Sn |Sn − 20π|16 62.4289 0.403032 62.7310 0.100964 62.8066 0.0252128 62.8255 0.0063256 62.8303 0.0016512 62.8315 0.0004
NS 2019.07.04 42 / 62
方法 2
多面体の作り方は,これだけではない!円柱を縦に 2m等分各 “切れ目”の底面の円周上に等間隔に n個の点を取る(前と同じ)ただし,今度は,半分ずらしたものを交互に考えるこれらを利用して三角形を作る
h / (2m)
h / (2m)
h / (2m)
h / (2m) m = 5, n = 10
NS 2019.07.04 43 / 62
方法 2
先ほどと同様に,三角形の面積を計算して,三角形分割の面積を求めると
1
2· 2r sin 180◦
n︸ ︷︷ ︸底辺
·
√r2
(1− cos
180◦
n
)2
+
(h
2m
)2
︸ ︷︷ ︸高さ
· (2 · n · 2m)︸ ︷︷ ︸個数
.
今度は,mと nの値を指定しなければならないので,m = nとして,上の面積をTn と書こう.再度,r = 2,h = 5の場合を計算する(S = 62.8318 · · ·).
n Tn |Tn − 20π|16 64.2894 1.457532 63.2058 0.373964 62.9260 0.0941128 62.8554 0.0236256 62.8377 0.0059512 62.8333 0.0015
NS 2019.07.04 44 / 62
方法 2
ところが、、、、
m = n2 とおいて,面積を T ′n と書く
n T ′n |T ′
n − 20π|16 253.5 190.632 255.3 192.464 255.7 192.9128 255.8 193.0256 255.9 193.0512 255.9 193.1
n = 5,m = 25
面積が,全然異なる値 (256?) に近づいてしまう!
NS 2019.07.04 45 / 62
方法 2
さらに、、、、
m = n3 とおいて,面積を T ′′n と書く
n T ′′n |T ′′
n − 20π|16 3931.2 3868.432 7918.7 7855.964 15865.8 15802.9128 31745.7 31682.9256 63498.5 63435.7
n = 3,m = 27
面積が,どんどん大きくなってしまう!
NS 2019.07.04 46 / 62
シュワルツの提灯
一松信,解析学序説 (下巻),裳華房,1967年, p. 199
· · · この立体を仮にシュワルツの提灯とよぼう.· · · よく考えてみればこれは当然かもしれない.nに比べて mをものすごく多くすれば,小三角形は激しく波うち,見掛け上狭い範囲に,おびただしい面積をもつ面がおりたたまれていることになる(提灯という名前はこれからつけた).曲線の場合には内接折れ線を細かくすれば,弦と弧の方向が自然に近づいてきたが,曲面の場合には,ただ分割を細かくしただけではそうなってくれないのである.
NS 2019.07.04 47 / 62
復習方法 1に出てくる三角形はすべて直角三角形.
a
b
θ
a = 2r sin180◦
n,
b =h
m.
方法 2に出てくる三角形はすべて二等辺三角形.
a
b
θ
a = 2r sin180◦
n,
b =
√r2
(1− cos
180◦
n
)2
+
(h
2m
)2
.
注意以後は,弧度法を採用する
NS 2019.07.04 48 / 62
方法 1で求めた面積
求めた面積は
Sn = 2rhn sinπ
n= 2rhn ·
sin πn
πn
· πn= 2rhπ ·
sin πn
πn
.
したがって,Sn → 2πrh (n→∞)
となる.
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方法 2で求めた面積
考えやすいように変形したものは,
T = 2πrsin π
nπn
√h2 + π4r2
(m
n2
)2(sin π
2nπ2n
)4
.
• m = nのとき, m
n2=
1
n→ 0なので,
T → 2πr · 1 ·√h2 + π4r2 · 0 · 14 = 2πrh.
• m = n2 のとき, m
n2= 1なので,
T → 2πr · 1 ·√h2 + π4r2 · 1 · 14 = 2πr
√h2 + π4r2 = 255.884 · · · .
• m = n3 のとき, m
n2= nなので,,,
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曲面の三角形分割研究課題規則的な三角形ではなく,いろいろな形の三角形を,無作為に並べて三角形分割を作ったとき,分割を細かくすれば,曲面の面積を計算できるか?(そもそも “曲面の面積”とは何か?)
• 対象は,円柱の側面に限らず,“一般の曲面”
• このような問題意識は,数学的な面白さだけでなく,極小曲面の研究で重要• 与えられた閉曲線に,面積が最小となるように,曲面を張る問題• 石鹸膜の実験• 第 1回フィールズ賞 (1936) J. Douglas
• 本当は,「三角形分割が可能か」という問題と「可能な場合それを具体的にどうやって構成するか」という問題がある
-2-1.5
-1-0.5
0 0.5
1 1.5
2-1
-0.5
0
0.5
1
1
2
3
4
5
6
7
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三角形分割の例
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ラーデマッヘルの条件
ラーデマッヘル (H. Rademacher)の条件 (1919, 1920)
適当な正の数 αに対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,α以上となるように,分割を細かくすれば良い.
θ
a
b 0 < α ≤ θ ≤ tan θ =b
a
(0 ≤ θ < π/2)
これは,分割を細かくする過程において,三角形が “つぶれない” ことを要請している.
円柱の側面積の例で,この条件の意味を検証してみよう.
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方法 2の解析方法 2に出てくる三角形はすべて二等辺三角形.
a
b
θ
a = 2r sinπ
n,
b =
√r 2
(1− cos
π
n
)2
+
(h
2m
)2
.
tan θ =1
r
πn
sin πn
√1
n2r2π2
4
(sin π
2nπ2n
)4
+h2
4π2
( n
m
)2
→
{1r ·
h2π (m = n)
0 (m = n2, n3)(n 十分大).
すなわち,ラーデマッヘルの条件は,• m = nのときは満たされる,しかし,• m = n2, n3 のときは満たされない.
NS 2019.07.04 54 / 62
方法 1の解析方法 1に出てくる三角形はすべて直角三角形.
a
b
θ
a = 2r sinπ
n,
b =h
m.
• mは,nとは無関係に,どのようにとっても良かった.• 例えば,m = n2 とすると,nが十分大きいとき,
tan θ =hn2
2r sin πn
=h
2rπ
πn
sin πn
· 1n→ h
2rπ· 1 · 0 = 0
となり,ラーデマッヘルの条件は満たされない.• 方法 1がうまくいくことの説明にはなっていない.
NS 2019.07.04 55 / 62
ヤングの条件ヤング (Young)の条件 (1921)
適当な正の数 β (60◦ ≤ β < 180◦)に対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,β 以下となるように,分割を細かくすれば良い.
• 最大角が 180◦ に近づかないことを要請しているので,結果的に,三角形がつぶれないことを要請している.
θ
• したがって,ラーデマッヘルの条件と同じことを言っているようだが,実は,• 今度は,任意の直角三角形が許容される → 方法 1が正当化される.
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歴史は繰り返すか?以前紹介した有限要素法の収束条件は,ラーデマッヘルやヤングの条件と全く同じである.
最小角条件 (M. Zlamal, 1968)
適当な正の数 αに対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,α以上となるように,分割を細かくすれば良い.
最大角条件 (I. Babuska and A. K. Aziz, 1976)
適当な数 β (60◦ ≤ β < 180◦) に対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,β 以下となるように,分割を細かくすれば良い.
すなわち,彼らの条件は,50年のときを経て,有限要素法の文脈で再発見された,といえる.ただし,有限要素法の研究では,もう少し深いことまで考察している.さらに,有限要素法からの “逆輸入”で外接半径条件の下でも,曲面の面積を計算できることもわかる.
外接半径条件 (小林・土屋, 2014)
分割に現れる三角形の外接円の半径が 0に近づくように,分割を細かくすれば良い.
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まとめ
• 有限要素法は (空間 2次元のとき),計算領域を三角形分割することに基づく方法であり,様々な物理現象のコンピュータ・シミュレーションで利用される.
• その数学的正当性を検討する際には,“分割を細かくする際の三角形の形状”という新しい問題に直面する.
• 結果として導入される様々な条件は,全く別の文脈で,すでに得られているものと全く同じであった.数学では,しばしば,このようなことがある.
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これで全 3回の講義は終わりですご清聴ありがとうございました
齊藤 宣一(さいとう のりかず)http://www.infsup.jp/saito/
参考文献• T. Rado, On the problem of Plateau, Chelsea Publ., 1951.
• K. Kobayashi and T. Tsuchiya, On the circumradius condition for piecewise lineartriangular elements, Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, Vol. 32(2015) 65–76, DOI: 10.1007/s13160-014-0161-5
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MATLABについて
• この講義では,計算を行う際に,数値計算システムMATLAB
https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/dics/ja/matlabcwl.htm
を利用した.• 現在,欧米の数値解析のテキストの計算例は,“ほとんどすべて”MATLABとを用いて作成されている.プログラム例もMATLABで書かれている.すなわち,欧米の大学生は,MATLABを用いた数値計算の経験をしていると思って間違いない.
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MATLABの利用
東京大学ではMATLABの包括的ライセンスを購入しているので,すべての学生は,教育用計算機システム (ECCS)以外でも,自分のコンピュータでの利用が可能である.• UTokyo Accountを利用してMathWorksアカウントを取得する必要があるそのためには,“科学の技法・東京大学「初年次ゼミナール理科」副読本(2019年度版)”
https://fye.c.u-tokyo.ac.jp/students/
の Step 4.1 MathWorksアカウントの取得とMATLABの利用を参照すると良い.
• ダウンロードの方法も副読本に記されている.オンラインで利用する際には,MathWorksアカウントを取得した後に,
MATLAB Online https://matlab.mathworks.com/
にアクセスする.
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レポート問題問題 1と問題 2は必須である.
問題 1
第 2回の資料の p. 6の定理をもとに,Newton法と簡易 Newton法のどちらが収束が速いかを考察せよ.ヒント:xk → a (k →∞)と |xk − a|が十分小さいことを仮定して,p. 6の定理から何がわかるのかを考える.
問題 2
第 2回の資料の p. 22の設定のもとで,(#)を示せ.
以下の問題 3は,選択である.意欲のある人は挑戦してください.
問題 3∫ π
0
sin x dx = 2を複合 Simpson則で計算し,収束の速さ (hを変化させたときに誤差がどのように 0に減衰するか?)を調べよ.第 2回の資料の p. 27の例題について同じことを調べよ.
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