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29 石油・天然ガスレビュー 国際エネルギー機関の 東南アジアエネルギーアウトルック IEA’ s SOUTHEAST ASIA ENERGY OUTLOOKを 上流事業の視点で読み解く じめに 国際エネルギー機関(“International Energy Agency”以下IEA)が、2019年 10月30日に東南アジアエネルギーアウト ルック2019年版(“Southeast Asia Energy Outlook 2 0 1 9”以下SEAEO 2019) (全1 9 9頁)を2年ぶりに発表した。 IEAが毎年11月に発表するWorld Energy Outlook(以下WEO)同様これ は将来を予測するための貴重なデータ ブックであるものの、IEAが将来像を “予測(forecast)”したものではなくシナリ オ分析である。シナリオ分析は米国ランド 研究所のハーマン・カーン氏が命名・開発 した「考えられないことを考える」手法で 国際的石油会社大手Royal Dutch Shellが リスクの多い資源開発をどう進めるか苦 労するなかから、この手法を大いに発達 させたことで有名である *1 SEAEO2019では、 「公表政策シナリオ」 と「持続的発展シナリオ」の2つのシナリ オで、現在から2040年までの東南アジア のエネルギー需給について分析してい る。 「公表政策シナリオ“Stated Policies Scenario”(以下STEPS)」は、「現在の政 策と計画によってこの地域がどこに向 かっているのか」を示すシナリオで、現 在当該国政府が公表している政策の枠組 みとその目標に加え既存技術の継続的な 進化によって東南アジアのエネルギーセ クターが2040年に向かう方向性を分析し ている。 「持続的発展シナリオ“Sustainable Development Scenario”(持続可能な開 発シナリオ、以下SDS)は、国連の持続可 能な開発目標(“Sustainable Development Goals”以下SDGs)からエネルギーに関連 する目標を達成するために「どこに向か うのが望ましいか」を示すシナリオであ る。2つのシナリオは異なるアプローチ を採っており、「STEPS」は先に現在の 状況を定義し、そこから2040年の姿を想 定しており、「SDS」は先に2040年にある べき姿を定義してその目標を達成するた めに必要な行動を決めていく手法を採っ ている。 SEAEO2 0 1 9の後半部分は、エアコン 導入、電力市場や電力部門への投資につ いての内容で占められているが本稿では そこは割愛し、主に石油・天然ガス、特 に上流開発の視点に注目して、 WEO2 0 1 9の世界の動きと比較しながら 読み解きたいと思う。 なお、SEAEOはIEAの以下ウェブサ イトから無料でダウンロードすることが できる。 (https://webstore.iea.org/southeast- asia-energy-outlook-2019) 章(基礎情報) ご存じのとおりIEAは第一次石油危機 後の1 9 7 4年に当時の米国国務大臣ヘン リー・アルフレッド・キッシンジャー氏 (「沖縄返還」や「ニクソン・ショック」等 で手腕を発揮)の提唱を受けて経済協力 開発機構(“Organization for Economic Co-operation and Development”以下 OECD)枠内における自律的な機関とし て設立された。IEA事務局はOECD本部 のあるフランスのパリにあり、現在の事 務局長はファティ・ビロル氏(Dr. Fatih Birol) である。加盟国は29カ国で、現在 アジアからのIEAメンバーは日本と韓国 だが、2019年12月のIEA閣僚理事会でイ ンドが準加盟国になることが協議された とのことだ。 日本からは政府、企業が出向者を出し ている。JOGMECからも1名が出向中で ある。石油の備蓄部門ではIEAと永らく 協力関係にあるのに加え、調査部でも LNG情報チームが協力関係を深めてい

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29 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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国際エネルギー機関の東南アジアエネルギーアウトルックIEA’s SOUTHEAST ASIA ENERGY OUTLOOKを上流事業の視点で読み解く

はじめに

 国際エネルギー機関(“International Energy Agency” 以下IEA)が、2019年10月30日に東南アジアエネルギーアウトルック2 0 1 9年版(“Southeast Asia Energy Outlook 2 0 1 9”以下SEAEO 2019)(全199頁)を2年ぶりに発表した。 I E A が 毎 年 1 1 月 に 発 表 す る W o r l d Energy Outlook(以下WEO)同様これは将来を予測するための貴重なデータブックであるものの、IEAが将来像を

“予測(forecast)”したものではなくシナリオ分析である。シナリオ分析は米国ランド研究所のハーマン・カーン氏が命名・開発した「考えられないことを考える」手法で国際的石油会社大手Royal Dutch Shellがリスクの多い資源開発をどう進めるか苦労するなかから、この手法を大いに発達させたことで有名である*1。 SEAEO2019では、「公表政策シナリオ」と「持続的発展シナリオ」の2つのシナリオで、現在から2040年までの東南アジアのエネルギー需給について分析している。 「公表政策シナリオ“Stated Policies Scenario”(以下STEPS)」は、「現在の政策と計画によってこの地域がどこに向

かっているのか」を示すシナリオで、現在当該国政府が公表している政策の枠組みとその目標に加え既存技術の継続的な進化によって東南アジアのエネルギーセクターが2040年に向かう方向性を分析している。 「持続的発展シナリオ“Sustainable Development Scenario”(持続可能な開発シナリオ、以下SDS)は、国連の持続可能な開発目標(“Sustainable Development Goals”以下SDGs)からエネルギーに関連する目標を達成するために「どこに向かうのが望ましいか」を示すシナリオである。2つのシナリオは異なるアプローチを採っており、「STEPS」は先に現在の状況を定義し、そこから2040年の姿を想定しており、「SDS」は先に2040年にあるべき姿を定義してその目標を達成するために必要な行動を決めていく手法を採っている。 SEAEO2019の後半部分は、エアコン導入、電力市場や電力部門への投資についての内容で占められているが本稿ではそこは割愛し、主に石油・天然ガス、特に 上 流 開 発 の 視 点 に 注 目 し て 、WEO2019の世界の動きと比較しながら読み解きたいと思う。 なお、SEAEOはIEAの以下ウェブサ

イトから無料でダウンロードすることができる。

(https://webstore.iea.org/southeast-asia-energy-outlook-2019)

序章(基礎情報)

 ご存じのとおりIEAは第一次石油危機後の197 4年に当時の米国国務大臣ヘンリー・アルフレッド・キッシンジャー氏

(「沖縄返還」や「ニクソン・ショック」等で手腕を発揮)の提唱を受けて経済協力開発機構(“Organization for Economic Co-operation and Development”以下 OECD)枠内における自律的な機関として設立された。IEA事務局はOECD本部のあるフランスのパリにあり、現在の事務局長はファティ・ビロル氏(Dr. Fatih Birol) である。加盟国は29カ国で、現在アジアからのIEAメンバーは日本と韓国だが、2019年12月のIEA閣僚理事会でインドが準加盟国になることが協議されたとのことだ。 日本からは政府、企業が出向者を出している。JOGMECからも1名が出向中である。石油の備蓄部門ではIEAと永らく協力関係にあるのに加え、調査部でもLNG情報チームが協力関係を深めてい

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るところである。 さて、SEAEOが調査対象とする東南アジアとは、東南アジア諸国連合に属すブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス人民共和国、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、シンガ ポ ー ル 、 タ イ 、 ベ ト ナ ム ( 以 下 、ASEAN)である(図1)。 SEAEOは、2013年に初版が発表された。「東南アジア(=ASEAN)10カ国は、中国およびインドとともに、世界エネルギーシステムの重心をアジアに移動させている」とのIEAの認識のもと、東南アジアのエネルギーの将来展望と、それがこの地域および世界のエネルギー市場と政策決定に対して与える影響を評価したものである。その後、2年毎に2015年、201 7年にも追加レポートを発行している。 過去のSEAEOで取り上げられた項目は、⑴東南アジアのエネルギー需要見通し、⑵成熟油田での生産の減衰と新規大規模油田の可能性が限定的であることに起因する石油輸入依存度の上昇とその影響、⑶天然ガスと石炭の生産と国内供給の見通し、⑷東南アジアの電力部門のエ

ネルギーミックスと石炭火力発電所への対応、⑸炭化水素への補助金の段階的廃止と近代的エネルギー供給へのアクセス、⑹投資誘致策の充実の重要性、⑺エネルギー効率改善の必然性と対応等である。 今回のSEAEO2019は第4版になるが、これまで同様上記7つの項目の進展を定点観測している。 SEAEOに入る前に、まず、ASEANの現状を外務省が発表する「目で見るASEAN-ASEAN経済統計基礎資料-」からの情報でおさらいしておく(表1、表2、図2、図3、図4参照)。 ASEANの面積は449万km2で世界全体の約3%で、日本の約12倍の広さである。人口は約6億5千万人で世界全体の約9%

で、日本の約5倍である。国内総生産(GDP)は約3兆米ドルで、世界全体の約3%で、日本の60%である。一人当たりのGDPは4,5 4 0米ドルで、世界平均の約40%で、日本の約12%である。

SEAEOの対象地域図1

出所:SEAEO2015、P29

ASEANの基礎データ(2018年)表1

面積 449万km2 日本(37.8万km2)の11.9倍、世界の3.3%

人口 6億5,390万人 日本(1億2,653万人)の5.2倍、世界の8.6%

GDP 2兆9,690億米ドル 日本(4兆9,709億米ドル)の60%、世界の3.4%

1人当たりのGDP 4,540米ドル 日本(39,287米ドル)、世界平均の40.2%

貿易(輸出+輸入) 2兆8,527億米ドル 日本(1兆5,145億米ドル)、世界の7.3%

出所:外務省「目で見るASEAN 令和元年8月」

インドネシア40.9%

フィリピン16.3%

ベトナム14.6%

タイ10.6%

ミャンマー8.2%

マレーシア4.8%カンボジア2.5%

ラオス1.1% シンガポール0.9%ブルネイ0.1%

ASEAN全人口の国別内訳

ASEAN基礎データ1図2

出所:外務省「目で見るASEAN 令和元年8月」

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31 石油・天然ガスレビュー

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 また、図2から読み取れるように、ASEAN全人口の約4割はインドネシアが占める。次いでフィリピン、ベトナム、タイ、ミャンマーの順。一番人口が少ないのはブルネイである。 表2、図3から読み取れるように、ASEANは人口は他の地域経済統合体を上回るものの、経済規模ではEUおよびNAFTAを大きく下回っている。また、ASEANの一人あたりのGDPが世界平均からも相当低く、MERCOSURよりも低いことは注目すべきだろう。 また、図4から読み取れるように、2018年のASEANの貿易は輸出が輸入を上回り約200億米ドルの黒字である。貿易相手先としては輸出、輸入ともに、2 0%強がASEAN域内で取引されており、ASEANの域外貿易では、輸出入ともに中国、EUの順に大きな構成比を占め、米国、日本を加えた4カ国でASEANの域外貿易全体の約5割に達する。

1. ASEANにおけるエネルギー需給の現状

 図5に示したとおり、WEO2019によれば2018年の世界の1次エネルギー需要は14,384Mtoe(百万トン石油換算)で、これに対しASEANの同需要は701Mtoeである。ASEAN地域の1次エネルギー需 要 は 世 界 の わ ず か 4 . 9 % で あ り 、

MERCOSUR

0.67

ASEAN

6.54

EU

5.13

NAFTA

4.90

MERCOSUR ASEAN

2.97

EU

18.75

NAFTA

23.43

MERCOSUR

2.62

3.05

億人 <人口> 兆米ドル <GDP>

万米ドル <1人当たりGDP> 兆米ドル <貿易(輸出+輸入)>

0

0

1

2

3

4

5

1

2

3

4

5

6

7

ASEAN

0.45

EU

3.65

NAFTA

4.78

MERCOSUR ASEAN

2.85

EU

12.88

NAFTA

6.08

0.86

0

5

10

15

20

25

0

2

4

6

8

10

12

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ASEAN基礎データ2図3

出所:外務省「目で見るASEAN 令和元年8月」

域内輸出24.2%

中国14.0%

EU11.3%

米国11.3%

日本8.0%

香港7.0%

韓国4.2%

インド3.5%

その他16.5%

ASEANの輸出1兆 4,367 億米ドル ASEANの輸入1兆 4,160 億米ドル

域内輸入21.7%

EU9.0%

日本8.6%

米国7.5%

韓国7.2%

台湾 4.5%

サウジアラビア2.3%

域外輸出75.8%

域外輸入78.3% 中国

20.5%

その他18.7%

ASEAN基礎データ3(2018年)図4

出所:外務省「目で見るASEAN 令和元年8月」

他の地域経済統合体との比較(2018年)表2

加盟国 人口 GDP 1人当たりGDP 貿易総額(輸出+輸入)

東南アジア諸国連合(ASEAN) 10カ国 6億5,390万人 2兆9,690億米ドル 4,540米ドル 2兆8,527億米ドル

欧州連合(EU) 28カ国(注1) 5億1,321万人 18兆7,486億米ドル 36,531米ドル 12兆8,772億米ドル

北米自由貿易協定(NAFTA)(注3)

3カ国米、カナダ、メキシコ 4億9,042万人 23兆4,272米ドル 47,770米ドル 6兆830億米ドル

南米共同市場(MERCOSUR) 6カ国(注2) 3億459万人 2兆6,242億米ドル 8,615米ドル 6,661億米ドル

(注1) EU:ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、デンマーク、アイルランド、英国、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、フィンランド、オーストリア、スウェーデン、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロベニア、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニア、キプロス、マルタ、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア

(注2)MERCOSUR:アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ(注3) NAFTAは加盟国間の再交渉により新たな自由貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効をもって切り替わる。

USMCAは2018年11月に署名され2020年1月現在は協定発効に必要な各国の立法府による批准手続き中である。出所:外務省「目で見るASEAN 令和元年8月」

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ASEANの人口比が世界の8.6%なのに対し、エネルギー需要が相対的に低い水準にあることを示している。  気候変動という視点では、同じくWEO2019によれば2018年の世界のCO2

排出量は3 3 , 2 4 3Mtで、ASEANは

1,429Mtと世界の4.3%を占めるに過ぎない。人口比でみるとASEANのCO2排出量も相対的に低い水準にある。これは、1人あたりのGDPが低いことと、ASEANの一次エネルギーミックスの違いから起因するものと考えられる。世界の一次エ

ネルギーミックスのなかで化石燃料の比率は81%であるのに対し、ASEANでは74%とASEANの炭化水素比率の方が少ない。また、CO2排出量にカウントされない植物由来の薪や炭の使用が高いことも特長である。 さて、図6では、ASEANでいかなるエネルギーが、どのような用途に用いられているかが示されている。石油は輸送用燃料、ガスは製造業・工業用(含む発電用)、石炭も製造業・工業用(含む発電用)が主体であることが分かる。 また、公共交通機関があまり発達していないASEANでは、輸送手段としてバイクや自動車へ頼らざるを得ず、エネルギーミックスのなかで石油依存が高くなっていると解説されている(SEAEO2019、P40)。 また、最終消費に占める電力割合は2018年が16%で、世界全体の19%(日本は28%)に比べ電化が遅れていることが伺える。加えて、電化率の低さがASEAN全体の課 題 と な っ て おり、ASEAN各国は表3のような目標を設定している。 専門家には既知のことであろうが、東南アジアは石油、天然ガスおよび石炭を合わせた化石燃料全体の需給バランスをみると、2004年からすでに化石燃料の純輸入ポジションとなっており、その輸入量は拡大している。 経済成長に伴う自動車やバイク等輸送用燃料需要の高まりと、域内石油生産量の減少が重なったことがその理由である。 石油だけを見ると1990年代後半に他の炭化水素燃料全体に先行して純輸入ポジションが始まり2018年時点の純輸入量は約日量4.2百万バレル(生産量日量2.3百万バレル-需要量日量6.5百万バレル)に達している。 天然ガスについては2018年時点では、まだ、5 0bcm程度生産量が需要量を上回っている(生産量2 1 0bcm-需要量160bcm)。 このような炭化水素資源の輸入増加は

3,821

4,501

3,273

14,384

7010

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

世界 ASEAN

1次エネルギー需要

1次エネルギー需要

再エネ バイオエナジー 水力 原子力 天然ガス 石油 石炭

143

244

135

701

0

100

200

300

400

500

600

700

800

ASEAN

世界の化石燃料比率81%

Mtoe Mtoe

ASEANの化石燃料比率74%

2018年の世界とASEANの1次エネルギー需要とエネルギーミックス図5

出所:WEO2019を基に作成

ASEANのセクター別最終エネルギー消費(2000-2018)図6

出所:SEAEO2019、P29

各国の電化目標表3

国 現状 目標

インドネシア 98.14% 2025年までに、電化率99.7%の達成。

ラオス 93.6% 2025年までに電化率98%の達成。

ミャンマー 69.8% 2030年までに電化率80%の達成。

フィリピン 93% 2022年までに電化率100%達成。

ベトナム 100% 2020年までに、最も遠い郊外の場所に電力供給を行う。

出所:現状:World Bank Data 2017年時点、2019.10.28、目標SEA2019、P52-P54

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33 石油・天然ガスレビュー

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国富の流出にもつながるため、炭化水素資源を増産し、その自給率の向上が望まれるところであるが、残念ながら十分な投資が行われているとは言い難い。 図7で分かるとおり、世界の他のエリアと比較するとASEANの石油・天然ガス分野への投資は2015年と2018年の比較で減少していることが分かる。 現在世界最大の産油国となった米国が、国際比較のなかでも石油・天然ガス向けに多額の投資を維持していることとは対照的である。 この投資の縮小は国家収入の減少につながるのみならず、石油の輸入依存増や石油備蓄の不足も重なって、安定的な石油・ガス供給確保の観点からも、大きな課題を突き付けている。

2. SEAEO2019のシナリオの主要論点と方向性

 SEAEO2019の2040年に向けたシナリオ分析は、表4の主な前提条件を考慮して作成されている。 これら主な想定のもと、STEPSシナリオで進む方向性を見極め、一方SDSで

は、国連SDGs内のエネルギーに関連する目標 (経済成長を続けつつ、エネルギーアクセス比率の向上、CO2排出量を30%削減等)を達成するシナリオである。 表4にあるように、2018-2040年に向け1次エネルギー需要はSTEPSでは2018年比 59%増加し1,114Mtoe(Mtoe:百万トン石油換算)、SDSでは同2 2%増の858Mtoeとのシナリオである。 WEO201 9にある1次エネルギー需要ミックスの内訳(図9)をみると、STEPSでは石油・ガスの需要量が2 0 1 8年の3 7 9Mtoeから2 0 4 0年の5 7 5Mtoeへ

196Mtoe増加している。 SEAEO2019では特に石油はASEAN全体での輸入依存度が2018年の65%から2040年には80%を超えるほど深刻化するとみている。そして、それら石油・ガスの需要の増加分を輸入で賄うため、炭化水素資源の輸入額は2018年の約1,000億米ドルから2040年に3,000億米ドル強へ2,0 0 0億米ドル強が増えると分析している。 一方、SDSでは、自動車・バイクの燃費向上により、輸送用に利用されている石油の需要をほぼ現状維持としたまま、

エネルギー投資額に関する国際比較図7

出所:SEAEO2019、P48

STEPS、SDSの主な前提条件一覧表4

項 目 2018年 2040年STEPS 2040年SDS

人 口 654百万人 768百万人

大気汚染、気候リスク、環境破壊による早期死亡者数* 45万人 約65万人 約15万人

人口の都市居住率 49% 61%

経済成長率 5.2% 4.4%

1次エネルギー需要 701Mtoe 1,114Mtoe 858Mtoe

発電量 1,045TWh 2,345TWh 2,083TWh

エネルギー依存度(Mtoe/USD1,000ppp) 0.08 0.06 0.05

電化率向上 45百万人未電化 各国の目標*早期死亡者数:平均寿命より早く死亡した人数の意味出所:WEO2019、SEAEO2019

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発電用に多く利用されている天然ガスや石炭を、再生可能エネルギー(以下再エネ)へシフトすることにより2018年から2040年の天然ガスの需要増をSTEPSの111MtoeからSDSの66Mtoeへ45Mtoe減

らし、石炭の需要増をSTEPSの129MtoeからSDSでは逆に89Mtoe減少させることで、エネルギー輸入支出を現状とほぼ同等に維持されるシナリオとなっている。また、特に発電用の石炭の使用を大

幅に減らすことにより、CO2排出量およびPM(健康に影響を及ぼす粒子状物質)の発生をおさえ、早期死亡者数も大幅に減らすことが可能になるシナリオとなっている。 SDSは、図10で説明されているように、STEPSに加え、⑴再エネの導入の増加、⑵エネルギー効率の改善、⑶燃料転換、⑷CCSU等の実施により達成されるものである。

3. ASEANの石油・天然ガスの探鉱・開発に関する記載内容

 石油・天然ガスの資源量については、やや古い情報だがSEAEO2013に記載がある。 石油の資源量についてはASEAN全体の究極可採埋蔵量、残存可採埋蔵量および確認埋蔵量が、それぞれ1,1 3 6億バレル、723億バレル、129億バレルとなっている。世界に占める割合をみるとそれぞれ1.7%、1.4%、0.8%と世界で見ると相対的に小規模であることがわかる。また、ASEANの油田は成熟油田が多く、1990年代に既に生産の最盛期を過ぎて徐々に生産が減少していることに加えて大規模炭化水素資源の新たな発見が限定的であることから、既存油田の回収率を向上させることや、大水深等のフロンティアへの探鉱・開発の促進するために、規制緩和やリスクや技術的難度に応じた優遇策の導入の必要性を示している。 残存可採埋蔵量の大きさを国別に比べると、インドネシア、マレーシア、ベトナム、タイ、ブルネイ、フィリピン、その他の国と続く(図11:石油の資源量については、SEAEO20 1 7に20 1 6年末のデータが更新されているので、本稿巻末に参考として掲載する*2)。  天 然 ガ ス の 資 源 量 に つ い て は 、ASEAN全体の究極可採埋蔵量、残存可採埋蔵量および確認埋蔵量が、それぞれ31.0tcf、26.6tcf、7.5tcfとなっている。世界に占める割合をみるとそれぞれ3.5%、3.4%、3.5%であり、石油に比べると世界に占める割合が大きいことが分かる。

シナリオ別2040年時点のASEANにおける1次エネルギー需要、エネルギー輸入額、早期死亡者数の見通し図8

出所:SEAEO2019、P19

143143272272

5454

244244

329329

224224

135135

246246

201201

33

441616

3131

4545127127

137137

98983535

9696

232232701

1,114

858

0

200

400

600

800

1,000

1,200

2018 2040STEPS 2040SDSその他再エネ バイオエネルギー 水力 原子力 天然ガス 石油 石炭

2020 242466

3535 3030

2626

1919 2222

2323

22 33

55

1818 1212

1111

55 992727

0102030405060708090100

2018 2040STEPS 2040SDS

Mtoe

1次エネルギー需要ミックス

エネルギーミックス:割合

%

シナリオ別1次エネルギー需要のエネルギーミックスの2018年と2040年の対比図9

出所:WEO2019に基づきJOGMEC作成

CO2排出量削減に関するSTEPSとSDSの比較図10

出所:SEAEO2019、P10

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35 石油・天然ガスレビュー

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また、2012年時点で天然ガスの生産量は過去20年で2倍を超える増加とある。 ASEANの天然ガスの新規大規模資源は全体的に沖合深海や需要地から遠隔地に賦存しているため、国内消費のためにはパイプラインや液化施設の整備が必要

となることや一部の大規模油田にはCO2

含有量が高いため、開発コストが高額になることや高い技術力が必要になる点が示されている。 残存可採埋蔵量の大きさを国別に比べると、インドネシア、マレーシア、ベト

ナム、ブルネイ、タイ、フィリピン、その他の国と続く(図12)。 またSEAEO20 1 9には、200 0年から2019年第2四半期までのASEANの国別およびタイプ別石油・ガスの発見埋蔵量の推移(図13参照)が示されている。 図13では、ASEAN地域全体で石油・ガスの発見埋蔵量は2 0 0 0年をピークに2018年にかけて大きく減少していることが分かる。特に2005年以降は2012年を除き2000年比1/3以下の発見にとどまっている。また、石油とガスの割合ではガスの発見埋蔵量の方が多いことも分かる。特に2005年以降はガスの割合が顕著になっている。2018年、2019年にはインドネシアやマレーシアでのガス田発見があり、やや盛り返した印象だが、これを維持するためには石油・天然ガス開発へのより一層の投資が必要であると考えられる。 次にSEAEO2017にあるASEANのタイプ別エネルギー投資額の推移を合わせて確認したい(図14参照)。 図14を見ると図13とほぼ同時期の石油・ガスセクターへの投資額の推移が分かる。全体的な傾向として、2000年から2016年にかけて投資額は大きく増えており、2010年以降は2000年比で常に2倍以上の額の投資が続いていたことが分かる。 これらを統合すると、SEAEO2013で示された、『ASEANでは新規の有望な大規模油田が限られていること』や『天然ガス田の探鉱・開発には大水深や環境対策等で高い技術力とコストが必要になること』に合致しているように思われる。 SEAEO2019では、既存油田からの生産減を食い止めることと石油・ガス資源の油層・ガス層からの回収率向上が、ASEANの石油・ガス生産国にとって重要な課題と指摘しており、政策の改善、技術開発と多様な事業戦略の組み合わせにより、石油ガス開発投資を盛り返すことを示している。特に油価が低迷する時期では、コストの高い原油の増進回収法

ASEANの国別石油資源量2012年末(単位:10億バレル)図11

出所:SEAEO2013、P75

ASEANの国別天然ガス資源量2012年末(単位:10億バレル)図12

出所:SEAEO2013、P83

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(以下EOR)や大水深での物理探査は敬遠される傾向があるので、それらへの投資の魅力を高めるためにも、契約条件の改善や投資コスト回収のインセンティブの向上が役立つとのコメントがSEAEO 2019に記されている。今後、各国政府が対外開放に舵を切ることに期待したい。

4. ASEANの石油・天然ガスの生産量・輸入量に関する記載内容

 WEO2019のデータを使いASEANと世界の石油生産量の見通しを比較してみる(図15参照)。 世界の石油生産量は2018-2040年にかけてSTEPSでは、0.4%/年で増加し、2018年の日量95.4百万バレルから、2040年に日量103.5百万バレルに増加すると見込まれている。 これに対し、ASEANの石油生産量は-1.9%/年で減少すると見込まれており2018年の生産量日量2.3百万バレルから2040年には日量1.5百万バレルへ減少する見込みとなっている(図16参照)。ASEANの石油需要は経済成長に伴って堅調に増加し、2018年の日量6.5百万バレルから2040年には日量9百万バレル強へ増加するため、石油輸入量は2018年の日量4.2百万バレルから、2040年には日量7.5百万バレル強へ増加する見込みである。  天 然 ガ ス 生 産 量 に つ い て も 、WEO2019のデータで世界の見通しと比較してみる(図17参照)。 世界の天然ガス生産量は、STEPSで2018-2040年にかけて1.4%/年で増加し、2018年の年間3,937bcmから、2040年に年間5,404bcmに増加する。 ASEANの天然ガス生産量は世界の伸び率と比較し半分程度の0.7%/年の増加ではあるが、2 0 1 8年の年間生産量2 1 2bcmから2 0 4 0年には年間生産量2 4 7 b c m へ 増 加 す る 見 込 み で あ る 。ASEANの天然ガス需要は2 0 1 8年の160bcmから2040年には300bcmへ増加する見込みで、2018年は52bcmの輸出ポジションであるが、2020年代後半から天然

石油-ASEAN(右軸) 石油-Opec(右軸)石油-世界全体(左軸)

2% 1% N.A8% 6% 6%

39% 39% 37%

61% 61% 63%

95.4103.5

65.1

0102030405060708090100

0

20

40

60

80

100

120

2018 2040STEPS 2040SDS

生産シェア

石油生産

石油-Asia Pacific(右軸)石油-Non-opec(右軸)

mbd %

シナリオ別石油生産量見通し(2018-2040)図15

出所:WEO2019に基づき作成

ASEANの国別およびタイプ別石油・ガス発見埋蔵量の推移(2000-2019)図13

出所:SEAOE2019、P82

ASEANのタイプ別エネルギー投資額推移(2000-2016)図14

※(残念ながら)SEAEO2019にはこの情報が示されていない。出所:SEAOE2017、P46

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ガスも輸入ポジションになり、2040年には5 3bcmの輸入が見込まれている(図18)。

5. 廃坑費用に関する特記事項

 SEAEO2019では、沖合鉱区の廃坑費について新たな記述がある。 SEAOEが初めて廃坑について取り上げたのはSEAEO2 0 1 3で、その時はASEAN Coun c i l o n P e t r o l e um

(ASCOPE)が2012年に「東南アジアにおける洋上石油・ガス構造物廃坑ガイドライン」を出版したと紹介した。具体的な対象坑数や廃坑費用に関しては今回初めて言及されている。 図19のとおり、東南アジアにおいて設置後3 0年以上を経過した海洋構造物

(生産プラットホーム等)の処理や生産井の廃坑に関する費用が急増する可能性が高く、各国の経済や環境にも環境を及ぼしかねない。 2030年までに実に200以上の沖合油ガス田が生産を停止する見込みである。 また、全ての生産中の沖合油ガス田の40%は既に20年以上生産している。政府は廃坑費用のために30%-50%の税額控除を行っているが、引き続き廃坑のコストオーバーランは大きなコスト上昇リスクである。将来はもっと深海部での廃坑も必要になるため、人工の漁礁としての再利用ができるかなどによって、大きな差を生みそうだ。IEAは、一様に予測するのは難しいとしながらも、それらコストを全体で300億ドルから1,000億ドルの間になると見込んでいる。 ASEANでは、廃坑の経験が少ないため、先行する米国や北海での事例を参考に資金面、運用面と環境リスクを考慮した制度設計の充実が重要であるとしている。

ASEANの石油の需給バランス見通し(STEPS)図16

出所:SEAOE2019、P77

ASEANの天然ガスの需給バランス見通し(STEPS)図18

出所:SEAOE2019、P79

5%5% 5%5%N.AN.A

15%15% 16%16% 21%21%

3,9373,937

5,4045,404

3,8543,854

0102030405060708090100

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

2018 2040STEPS 2040SDS

天然ガス-ASEAN(右軸) Asia-Pacific(右軸) 天然ガス-世界全体(左軸)

bcm %

エリア別シェア

天然ガス生産量

シナリオ別天然ガス生産量見通し(2018-2040)図17

出所:WEO2019に基づき作成

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6. エネルギー投資の見通し

 WEO2019では、STEPSで2019-2040年の石油と天然ガス供給に関する世界の累積投資額を19兆7,3 00億ドルと見込んでいる(表5参照)。 そのなかで、アジア・太平洋地域での投資は3兆2,840億ドルで約17%に相当する。その内約62%が上流事業へ向けられると見込まれている。 そこにはASEAN固有の金額は示されていないが、SEAEO2019で想定されている2 0 4 0年時点での石油生産日量1.5百 万 バ レ ル や 天 然 ガ ス 生 産 量 年 間247bcmを実現するためには、ASEANでも、石油・天然ガス分野向けに十分な投資が必要となる。 SEAEO2019では、ASEAN域内の上流企業のASEAN域内投資の割合が2000年の90%から2018年に75%に低下しており、今後も域外投資を増加し、そこで得たCashを国内に再投資する機会が増えるとしている。 一旦SEAEOから離れるが、将来のASEANの石油ガス上流事業投資に関する重要な事象が昨今発生している(表6、表7参照)。

生産中の洋上鉱区国別生産年数と洋上生産設備のタイプ別稼働年数図19

出所:SEAEO2019、P84

石油天然ガス供給のための2019–2040年の累積投資額見通し(地域別)表5

出所:WEO2019、P146

単位:10億ドル(2018年時点)

石油・ガスセクター 上流事業 輸送 製油所 上流事業22年間平均

全般 石油・ガス 石油 ガス 石油 石油・ガス

北米 5,492 4,547 141 665 139 207

中南米 1,817 1,558 115 103 40 71

ヨーロッパ 1,618 1,201 18 320 80 55

アフリカ 1,911 1,623 68 167 54 74

中東 2,711 2,098 183 291 140 95

ユーラシア 2,496 2,089 36 329 42 95

アジア・太平州 3,284 2,052 80 747 405 93

船舶 402 n.a 286 116 n.a n.a

STEPS全世界合計 19,731 15,167 927 2,737 899 689

SDS全世界合計 13,227 10,085 332 2,272 538 458

東南アジア・大洋州におけるIOC等のポートフォリオの組み換え表6

出所:各種ソースよりJOGMEC作成

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 メジャー企業等の国際石油会社(以下IOC)は、ポートフォリオの組み換え(能動的)やASEAN諸国の内国企業優先策等の影響を受け(受動的)、ASEAN地域の権益・資産を縮小する傾向が続いている。 マレーシアでは、ExxonMobilが2014年にPM0 8鉱区と2 0 1 9年に2 0 0 8PSC、GPSC1&2、ND10およびSBV&W鉱区からの撤退を発表した。また、Shel lは2018年にLNG Tigaから撤退した。 インドネシアでは、2017年末にTotalがオペレーターを務めるマハカム鉱区の利益分与契約(PSC)の期日が満了し、企業側は契約継続を申し入れたが政府は国有石油会社PT PERTAMINA(以下、PERTAMINA)へオペレーターの役割と権益を引き継ぐことに決定した。 また、2021年8月にはChevronがオペレーターを務めるロカン鉱区PSCが、期限を迎え同じくPERTAMINAに権益を引き継ぐことになっている。 ミャンマーでは、ShellがBlock A4とBlock AD-2を、ChevronがBlock A5とBlock AD-3の探鉱作業を次のステージへ進めないとの報道がある。 タイでは、ChevronがErawan Gas Blockから、入札の末に期限が切れる

2 0 2 2年と2 0 2 3年にタイ国営上流企業PTTEPへ引き継ぐことになっている。  こ れ ら 事 例 の よ う に 、 こ れ ま でASEANの上流事業をけん引してきた、IOCがASEANの石油ガス権益・資産を縮小・売却するなか、権益を引き継いだ各国の国営石油会社(以下NOC)がIOCと同様の成果、つまり新たな埋蔵量の発見や生産量の維持・拡大に貢献できるかが注目される。一般的にはIOCが撤退した油ガス田は生産量が減少するような事例が報じられている。実際にインドネシアのPERTAMINAがIOCから引き継いだ油ガス田からの生産計画量を維持することができず、現在大きな課題となっている。 ASEAN各国が再びIOCと共同で、油・ガス田開発を図ろうとするのかどうか注目される。

終わりに

 SEAEO2019の現行政策に基づいたシナリオであるSTEPSでは、2018年から2040年にかけてASEANの石油生産量は減少の見通しであり、天然ガス生産量については微増の見通しだが、需要伸びの方が大きく、2040年時点では石油・天然

ガス共に輸入ポジションとなるシナリオである。 複数のIOCや独立系IOC、更にはA S E A N 域 内 の 上 流 企 業 ま で も が 、ASEANの石油・天然ガス上流事業から、米国やASEAN以外の地域の事業へポートフォリオを組み替える状況が続いている。 これはASEANの(陸域や沖合浅海に多い)既存の石油・ガス鉱区で生産量の減衰が予想されること、既存の成熟鉱区では多額の廃坑費用が見込まれること、新たな探鉱開発では大水深などフロンティア地域に移行しているなどの理由で投資コストが大きくなる傾向等に起因するとみられる。 ASEANでは、大規模な石油・天然ガス資源の発見が期待できないとの声も聞かれるが、ASEAN諸国が、同地域の資源を効果的に探鉱開発し、同地域に必要なエネルギーを確保・維持するためにも、事業者や投資家にとって透明性が高く、魅力的な契約条件や制度をスピーディーに提示することが必要な時期にあることを強く感じる。

(JOGMEC調査部調査課 庄子 達也)

東南アジア・大洋州におけるIOC等の国別権益分布2019年12月時点表7

(注)○:権益保有市場、△:権益保有市場(権益縮小市場)出所:各種ソースよりJOGMEC作成

インドネシア マレーシア ブルネイ タイ ミャンマー ベトナム フィリピン カンボジア ラオス 東ティモール 豪州 PNG

ExxonMobil 〇 △ 〇 〇 〇 〇

Royal Dutch Shell 〇 △ 〇 △ △ 〇 〇

TOTAL △ 〇 △ 〇 〇 〇 〇 〇 〇

Chevron △ △ △ △ 〇

BP 〇 〇 〇 〇

ConocoPhillips 〇 〇 〇 △ △

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<参考文献>*1:谷口智彦著『日本人のための現在史講義』草思社文庫、p28*2:ASEANの国別石油資源量2016年末(単位:10億バレル)

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出所:SEAEO2017、P75