ミューオン原子を用いた軽い粒子の探索ppp.ws/PPP2018/slides/uesaka.pdfミューオン原子を用いた軽い粒子の探索 2018年8月7日@ 京大基研, 素粒子物理学の進展
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小林・益川 理論
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小林先生、益川先生、ノーベル物理学賞ご受賞
おめでとうございます。
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小林・益川 論文
タイトル: くりこみ可能な弱い相互作用の理論における CP対称性の破れ
要旨:
くりこみ可能な弱い相互作用の理論の枠組みで、CP対称性の破れの問題を
研究する。クォークを4つしか含まないスキームでは、何らかの新粒子を導
入しないかぎり、CP対称性の破れを説明する現実的な模型が存在しないこ
とが結論される。いくつかの可能な CP対称性の破れの模型を議論する。
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くりこみ可能な電弱統一模型+ CP対称性の破れ⇓
第3世代のクォーク (トップクォークとボトムクォーク)を予言!!
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1. クォーク・レプトンとは?
クォーク: 強い相互作用をする「色荷」をもち、束縛状態となって、中性子や陽子、さらには原子核を構成する素粒子。(社交的でいつも何人かで群れたがる素粒子)
レプトン: 強い相互作用をする「色荷」をもたず、単独で存在する素粒子。電子やニュートリノなど。(孤独ずきで一匹狼な素粒子)
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南部先生の解説書のタイトルにもなっている。この本は必読!!
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クォークとレプトンに関する現在の知識
3世代のクォークとレプトン: μ, τ , c, s, t, bは崩壊する不安定粒子
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小林・益川論文時 (1972年)の多くの素粒子研究者の理解
1.5世代分のクォークと 2世代分のレプトン。チャームクォークの存在は理論的に予言されていたが、多くの研究者は信用していなかった。クォークについても信用しない研究者が多数だった。
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一方、1972年当時、小林先生と益川先生の目には、
2世代分のクォークと 2世代分のレプトンが見えていた。
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小林・益川論文の結論:くりこみ可能なワインバーグ・サラムの電弱統一模型で CP対称性の破れを説明するには、クォーク 4つ(2世代)では不十分。
小林・益川論文の予言:6つのクォーク(3世代分)が存在するはず
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小林・益川論文 (1972年)以降に発見された素粒子
1974年: チャーム (c)クォークの発見 (Richter, Ting)
1976年ノーベル賞受賞
1976年: タウ (τ)レプトンの発見 (Perl)
1995年ノーベル賞受賞
1977年: ボトム (b)クォークの発見 (Lederman, 山内泰二ら)
1995年: トップ (t)クォークの発見 (Fermilab CDF実験、D0実験)
2001年: τ ニュートリノの観測 (丹羽(名大)ら)
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クォークとレプトンに関する現在の知識
小林・益川の予言どおり、3世代のクォークとレプトンが確立
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2. 小林・益川論文 (1972年)ごろまでの素粒子研究の流れ
1956年: 坂田模型(名大): クォーク模型につながる模型
1961年: 対称性の自発的破れの概念の導入(南部、2008年ノーベル賞)
1962年: ニュートリノ混合の理論(牧、中川、坂田)
1964年: ゲルマンとツヴァイクによる「クォーク」の導入アップ (u)、ダウン (d)、ストレンジ (s)クォーク
1964年: クォーク・レプトン対応に基づいてチャームクォーク存在の可能性が示唆される(牧(名大)ら)
1964年: ヒッグス機構の発見(Higgs, Englert, Brout)
1964年: K中間子崩壊での CP対称性の破れの発見(Cronin, Fitch, 1980
年ノーベル賞)
1967年: 南部らによる色荷の概念の導入
1967年: ワインバーグとサラムによる電弱相互作用の統一理論(1979年ノーベル賞)
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1969年: 電子・陽子 深非弾性散乱実験で、陽子のなかに「つぶつぶ」(クォーク)が存在することが検証される(フリードマン、ケンドール、テイラー、1990年ノーベル賞)
1970年: ワインバーグ・サラムの電弱統一模型の枠組みでのチャーム (c)
クォークの理論的必要性が、グラショウ、イリオポウロス、マイアニによって示される。
1971年: 宇宙線中にチャームクォークを含むと思われる新粒子を発見(丹生(名大)ら)
1972年: ワインバーグ・サラムの電弱統一模型のくりこみ可能性の証明(トフーフト、ヴェルトマン、1999年ノーベル賞)
1972年: クォーク間の強い相互作用を記述する量子色力学 (QCD)の初期の提案(フリッチ、ゲルマン)
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• 1972年までに、素粒子標準模型 (ワインバーグ・サラム模型+量子色力学)の骨格は出来上がりつつあった。これを信じればチャーム (c)クォークの存在は必然。
• ただし、この時点では、小林先生、益川先生を除く、圧倒的多数の研究者はまだ標準模型を信用していない。
• 標準模型を信じたとき、未解明の謎は、CP対称性の破れに絞られる(小林・益川理論による第3世代クォークの導入によって解決)
小林先生と益川先生は、状況を正しく認識し、正しい問題を解こうとしていた!
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キーワード:くりこみ可能な理論とは?有限個の入力パラメータがあれば、必要に応じて必要な精度であらゆる物理量を計算することができるような理論。
量 子 電 磁 気 学 の くり こ み( 朝 永 ら )
電 弱 統 一 理 論 の く りこみ(トフーフトら)
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キーワード: CP対称性の破れとは?
CP対称性: 粒子と反粒子は電荷の符号を除いて同じ性質を持つ。
電子 (e−): 電荷 −1 質量 me− = 0.511MeV
陽電子 (e+): 電荷 +1 質量 me+ = 0.511MeV
陽子 (p): 電荷 +1 質量 mp = 938.27MeV
反陽子 (p): 電荷 −1 質量 mp = 938.27MeV
じつは、場の量子論では
me− = me+ , mp = mp, (1)
は、いつでも厳密に成り立っていることが知られている。
CP対称性が破れることができるのはもう少し複雑な場合。
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CP対称性の破れの例:
• K 中間子崩壊での CPの破れ
– CP対称性で禁止された崩壊過程:
KL → ππ
が Cronin らにより発見される (1964年)。
– KL のセミレプトニック崩壊
Γ(KL → �+νπ−) > Γ(KL → �−νπ+)
• B 中間子崩壊での CPの破れ (飯嶋さんのお話)
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• CP対称性が厳密であれば、宇宙の粒子の数と反粒子の数は同じはず。でも、我々の宇宙はほぼ粒子だけでできている。反粒子はどこにいったのか?
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3. 小林・益川論文
主要な結論: ヒッグス粒子(素粒子質量の起源を説明する粒子)をひとつしか含まない、2世代クォーク模型(4クォーク模型)では、K 中間子崩壊で測定された CP対称性の破れを説明することができない。
CP対称性の破れを説明する上で必要な模型の拡張の可能性:
• ヒッグス粒子の数を増やす• クォークの世代の数を増やす (小林・益川理論)小林・益川論文では二つの可能性を両方とも議論している!!
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CP対称性を場の理論(素粒子論の基礎言語)の言葉で表すと:大胆におおざっぱに言うと、CP対称性は
i ↔ −i
としても理論が不変ということ。
虚数単位 i ;
i2 = −1
虚数単位の −iも;
(−i)2 = −1
数学的には iも −iも同じ性質。
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CPの破れのエッセンスは複素位相の存在
• 2世代模型での弱い相互作用(uL, cL)γµ
⎛⎝ Vud Vus
Vcd Vcs
⎞⎠
⎛⎝ dL
sL
⎞⎠ W+
µ
2x2ユニタリー行列に含まれる3つの複素位相は、クォーク場uL, cL, dL, sLの位相を再定義することでなくすことができる。CP対称性は破れない。
• 3世代模型での弱い相互作用
(uL, cL, tL)γµ
⎛⎜⎜⎝
Vud Vus Vub
Vcd Vcs Vcb
Vtd Vts Vtb
⎞⎟⎟⎠
⎛⎜⎜⎝
dL
sL
bL
⎞⎟⎟⎠W+
µ
3x3ユニタリー行列には6つの複素位相が含まれる。クォーク場 uL, cL, tL, dL, sL, bL の位相をどう再定義してもひとつだけ複素位相が残ってしまう。 CP対称性が破れる。
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小林・益川行列 (KM行列)の複素位相
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その後の発展
1976年: K 中間子で測定された CP対称性の破れが、実際に小林・益川の3世代クォーク模型で説明可能であることの理解 (菅原ら)
1981年: B 中間子崩壊での大きな CPの破れを予言 (三田名大名誉教授ら)
2002年 Bファクトリーでの小林・益川理論の精密検証 (飯嶋さん)
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現在の小林・益川行列
ρ-1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2
η
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
2φ
1φ
3φ
ρ-1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2
η
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
3φ
3φ
2φ
2φ
dmΔ
Kε
Kε
dmΔ & smΔ
ubV
1φsin2
< 01
φsol. w/ cos2(excl. at CL > 0.95)
excluded area has CL > 0.95
excluded at CL > 0.95
Summer 2007
CKMf i t t e r
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4. どのくらい小林・益川論文は先駆的な業績だったのか?
1972年、小林・益川理論が発表される。
1975年以前に小林・益川論文を引用した論文の数:2
1976年、最初の第3世代素粒子である τ レプトンが発見される。
1976年に小林・益川論文を引用した論文の数:21
現在の小林・益川論文の総被引用数: 5480
素粒子物理の業界でこれまでに2番目に多く引用されている論文。1番多く
引用されているのは ワインバーグの電弱統一理論 (総被引用数 6659)。3番
目がマルダセーナの AdS/CFT対応 (総被引用数 4540)。
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5. 未解明のなぞ: 小林・益川を超える
• 小林・益川理論は、宇宙の粒子・反粒子非対称性を説明することに成功していない。⇒ 小林・益川以外にも CPの破れが存在する!!
• なぜ、3世代なのか?(世代の数は3つしかないことが確定している。LEP実験)
• 調節可能なパラメータが多すぎる!!⇒ 標準模型の背後には、小林・益川行列を決定する原理が隠れているはず!!
• ...
未解明のなぞがいっぱい!!理論屋はあらゆる可能性(超対称性、大統一理論、フレーバー対称性、余剰次元 · · ·)を模索中。これらの実験的検証については、次の飯嶋さん・戸本さんのトークで。
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もっとわかりやすい説明はホームカミングディ(10月18日)豊田講堂2階 小林・益川 展示で!!
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