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交通・物流機械の 自動運転 自動運転による経済・産業の革命的変化 2018 10 31 「自動運転に関する分野横断型研究会」編 日本機械学会

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交通・物流機械の

自動運転

自動運転による経済・産業の革命的変化

2018 年 10 月 31 日

「自動運転に関する分野横断型研究会」編

日本機械学会

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巻頭言

昨今の AI, IoT, ビックデータといった革新的技術の急速な進展によって

「第四次産業革命」がおこりつつあると言われている. 政府では第 4 次産業

革命を推進し Society5.0 を実現するために産業界と共に推進策を具現化に向

け様々な取り組みが進められている. 特に自動運転技術は超スマート社会に

おける移動手段を支える基盤技術であり, 内閣府,経済産業省,国土交通省等

が連携しながら研究開発プロジェクトが進められている.

日本機械学会では,自動運転技術に限らず様々な技術領域の研究活動が進め

られているが, その活動の基本は特定の技術領域を基礎とした部門単位での

活動が基本となる. 一方で学会の活動が社会課題にこたえ成果を還元する取

り組みが期待されているが, 前述のような取り組みだけでは限界があり, 本

格的に取り組むためには部門横断的な知の融合が必要不可欠となる.

このような背景の中, 技術ロードマップ委員会交通・物流分野技術ロード

マップ活動(2006年~2014 年)の活動の成果を受け, 2014 年に高田氏の提案

によって, 5 部門から 27名の参加者を得て自動運転 ARM 研究ワーキンググル

ープが発足した. その後, 2015年には,部門協議会所属の形で「自動運転に関

する分野横断型分科会」として 7部門から 36 名の参加を得, 2017年には交

通・物流部門所属の形で「自動運転に関する分野横断型研究会」として, 11

部門1専門会議から 43名の参加を得て現在の形に至っている. 今後は,RC研

究分科会(企業コンソーシアム,オープンイノベーション)の設立を目指して

活動が続けられる予定である.

超スマート社会の実現に向けて学会が研究成果を社会に還元するためには

このような分野横断的な活動を行うことが大切であることは前述したが, そ

れを実践することは容易ではない. 継続されてきた活動はメール会議等の積

極的な活用等の工夫を行いながら, 関係者の意見集約を行った. また年次大

会等の場を通じてその成果の発表を積極的に行ってきた. この度,10年以上に

渡る活動の成果をレポートにまとめることになったものである.

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これもひとえに高田氏の精力的なイニティアティブと参加されたメンバー

の一人一人の貢献によって活動が発展的に広がってきたものであり, 改めて

関係各位のご努力に敬意を表するものである.

平成 30年4月

渡邉 政嘉 (日本機械学会前イノベーションセンター長・

新エネルギー・産業技術総合開発機構)

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まえがき

シュンペーターは, 「交通の歴史は, 革命の歴史」と述べている. ローマの道

から運河, 鉄道, 馬車, 自動車と革命的な変化を生んできたのである. 交通

や物流の分野における革命(自動運転)が経済・産業に対して革命的な変化を

生み出そうとしている. しかしながら, 従来の枠組みでは自動運転のように

AI, IoTなど多くの分野の協調を必要とする研究は困難である. 日本機械学会

「自動運転に関する分野横断型研究会」を設立し, 革命に備える所存である.

研究会では,下記の方針にて活動を進めてきた.

詳細は, 下記に示す本研究会のホームページをご参照ください.

https://www.jsme.or.jp/tld/home/workshop/autonomous_car_site/index.htm

1)自動運転の技術の俯瞰とロードマップ作成

吉川設計学では,まず技術の俯瞰を行い,全体像を把握することが重要とさ

れるため,最初に混沌とした自動運転技術の俯瞰をするための作業を行った.

QFD は,製品開発の肝となる重要な技術であり,機械工学のマトリクス構造に

対応した QFDを使用して技術を俯瞰していく作業を実施した.

(2)イノベーション創出手法の確立

自動運転技術のような大きな革新に対するイノベーション創出力が日本は弱

いため,シュンペーター・糸川英夫を参考にしつつイノベーション創出手法・

組織の確立を図る.

(3)社会全体への教育

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大きな変革について企業や大学の若手を教育することは重要と考えているた

め,講習会や年次大会の特別企画を通じ教育に力を入れていく.さらに研究会

の成果は電子出版により社会へ還元していく.

本編は, 社会全体への教育の一環として, 電子出版するものである.

自動運転は, 新しい技術なので気軽に常時アップデートできる出版形式とし

て, 電子出版を最重要と考えている.

電子出版は,航空母艦のようなものと考えていて, 下記のように進める予定に

なっている. 書籍化(攻撃機,爆撃機に相当する)の話があれば,その都度対応

する予定である.

なお, 書籍化にご興味がある方は, 下記に連絡されたい.

連絡先:日本機械学会「自動運転に関する分野横断型研究会」主査

東京理科大学工学部 高田 博

E-mail:[email protected]

電子出版の概要

・無料で広く社会に還元する.但し,引用する際は,研究会の許諾を得ること.

・Matlab のように(2018a, 2018bのように)半年ごとに改訂.

・執筆期限は,特に設けない.各執筆者は,各自好きな時に書きたいだけ書いて

頂ければよい.

・書籍化の話がもしあれば,対象となる読者を考慮して,電子出版の内容を適宜

取捨選択して対応する.

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目次

第 1 章 自動運転によって社会はどう変わるだろうか

節 1.1 自動運転と産業革命 (高田 博(東京理科大学))

節 1.2 テクニカルファクターの立場から (須田 義大(東京大学))

節 1.3 ヒューマンファクターの立場から (稲垣 敏之(筑波大学))

節 1.4 法律の立場から (近藤 恵嗣(福田・近藤法律事務所))

節 1.5 経済学の立場から (藤本 隆宏(東京大学))

第 2 章 自動運転技術によって交通・物流機械はどう変わるだろうか

節 2.1 航空機(ドローン)の自動運転の現状と課題

(土屋 武司(東京大学))

節 2.2 自動車の自動運転の現状と課題

(中野 公彦(東京大学))

節 2.3 鉄道の自動運転の現状と課題 (水間 毅(東京大学))

節 2.4 船舶の自動運転の現状と課題

(福戸 淳司(海上・港湾・航空技術研究所))

節 2.5 農機の自動運転の現状と課題 (深尾 隆則(立命館大学))

節 2.6 工場内の自動運転の現状と課題 (執筆者選定中)

節 2.7 昇降機の自動運転の現状と課題 (井上 真輔(日立製作所))

節 2.8 建機の自動運転の現状と課題 (執筆者選定中)

第 3 章 自動運転のシステム技術

節 3.1 自動運転システム

(ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク (東京農工大学))

節 3.2 運転支援システム (執筆者選定中)

節 3.3 通信装置 (高田 博 (東京理科大学))

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第 4 章 自動運転の要素技術

節 4.1 ECU 1. CPU, GPU (執筆者選定中)

節 4.2 ECU 2. 制御理論 (執筆者選定中)

節 4.3 センサ 1. 操舵・動力系のセンサ (執筆者選定中)

節 4.4 センサ 2. 衝突防止(自動ブレーキ)用センサ (執筆者選定中)

節 4.5 センサ 3. 周辺状況・画像認識センサ (執筆者選定中)

節 4.6 センサ 4. Connected Car センサ (執筆者選定中)

節 4.7 通信 (今城 昭彦 (三菱電機))

節 4.8 判断技術 (林 隆三 (東京理科大学))

節 4.9 操作技術 (中村 弘毅 (神奈川大学)

節 4.10 HMI (中野 公彦 (東京大学))

第 5 章 自動運転が社会に受け入れられるために必要な技術

節 5.1 社会受容性 (筒井 壽博(弓削商船高専))

節 5.2 フェールセーフ (高田 一 (横浜国立大学))

節 5.3 信頼性とロバスト性 (執筆者選定中)

節 5.4 システムセキュリティ (執筆者選定中)

節 5.5 自動走行システムと社会的責任

(田村 直義(インターリスク総研))

節 5.6 防御・防衛 (筒井 壽博(弓削商船高専))

第 6 章 自動運転に必要な性能

節 6.1 混在交通 (執筆者選定中)

節 6.2 衝突防止 (関根 康史 (福山大学))

節 6.3 環境問題 (高田 博 (東京理科大学))

節 6.4 情報関連技術 (福戸 淳司(海上・港湾・航空技術研究所))

節 6.5 協調走行 (高田 博 (東京理科大学))

節 6.6 システムアーキテクチャと統合 (西村 秀和 (慶應義塾大学))

節 6.7 自動手動切り替え (執筆者選定中)

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節 6.8 熟練者の運転実現 (執筆者選定中)

節 6.9 レーンキープ (秋田 時彦 (豊田工業大学))

第 7 章 自動運転の製品開発技術

節 7.1 イノベーション創出総論(企画段階) (関根 康史 (福山大学))

節 7.2 ”分野横断型”イノベーション創出(企画段階)

(高田 博 (東京理科大学))

節 7.3 モデルベース開発のための機械-電気の統合モデル(概念設計段階)

(角田 鎭男(キャテック))

索引

著者一覧

2D-ARM 図表

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第 1 章 自動運転によって社会はどう変わるだろうか

1.1 自動運転と産業革命 高田 博 (東京理科大学)

サマリ

自動運転が第四次産業革命の中核技術であることを示し,社会全体を考慮し

た開発が必要であることを述べる.日本は,社会システム全体を考慮するよう

なグランドデザインを描くことが苦手であり,大きなイノベーションを実現す

ることも苦手である.研究を進める際に,社会全体の革新を考慮した,従来に

はない進め方・手法が必要である.

ポイント

・第四次産業革命とは?

・日本機械学会の取り組み

・自動運転の技術の俯瞰(2D-ARM)

・自動運転イノベーション創出法(i-ARM)

・自動運転の本質

・自動運転の設計技術(d-ARM)

・自動運転の生産技術(p-ARM)

(1)第四次産業革命とは?

近年, 第四次産業革命という言葉が人口に膾炙するようになった. 筆者は,

「自動運転に関する分野横断型分科会」を始めるまで産業革命という古色蒼

然とした言葉には全く興味がなかった. 専門分野(振動騒音)ともかけ離れ

ている. しかし, 技術ロードマップの観点から見ると, 長期に亘る技術の歴

史を考察する必要があると考えていた. そしてこの機会に産業革命について

少し掘り下げてみようと考えた. 物事を長期的に考察することの大切さを少

しでも示すことができたら幸いである.

図 1 に交通・物流分野における産業革命をまとめた.革命は,生産分野,

製品分野,設計分野に大きく分かれる.それぞれ図 2 に示すように循環的関

係にある.すなわち,生産分野の革命は,製品分野の革命を促し,製品分野

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の革命は,設計分野の革命を促すのである.したがって,図 1 においては,

対角線上に革命が進行していく様を示した.

図 1.交通・物流における産業革命

図 2.産業革命の循環関係

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ドイツにおいて第四次産業革命が提唱されて以来, 我が国も昨年から産業

革命について検討を行っている. 2017 年 5 月に経済産業省の新産業構造ビジ

ョン(1)が示されたが, まだ内容が具体化されていないようである. 現状では,

情報通信に偏っていると思えるので, 筆者は交通・物流の観点から了解可能

な第四の産業革命というものの具体化を試みた.

図 3 に第一次産業革命を示す.第一次産業革命は,有名な蒸気による動力

革命である.ニューコメン,ワット,フルトン,トレビシックなどにより,

蒸気船や蒸気機関車が実用化された.筆者は,1989 年にアメリカ騒音制御学

会がミシガン州アナーバーにおいて開催された折に近隣のフォードミュージ

アムの借り切りツァーに参加したが,そこに世界に現存するものが 3 台しか

ないというニューコメンの蒸気機関(図 4)の実物を見て,その巨大さに圧倒

されたことを覚えている.その巨大な蒸気機関が地下から水をくみ出すだけ

の機能というのも驚いた点である.ワットは,ニューコメンの蒸気機関を改

良し,直線運動を回転運動に変える機構,ガバナー,フライホィールを追加

して,研磨・紡績・製粉に使えるようにして大いに普及した.第一次産業革

命により工場生産が増大し,貿易が活発になった.日本においては,蒸気船

によって政体が変わった.明治維新は,関ケ原の戦いの再戦であり,蒸気船

を積極的に取り入れた諸藩が幕府に勝利した.第一次産業革命の受益者は,

イギリスである.このときの反革命としては,ラッダイト運動がある.ま

た,所得格差が大きくなり社会主義と資本主義の戦いが始まった.

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図 3.第一次産業革命

図 4.ニューコメンの蒸気機関(レプリカ)

図 5 に第二次産業革命を示す. 第二次産業革命は,鉄・石油・車・電気に

よる大量生産革命である. フォード社が実用化した流れ作業(図 6)により石

油動力による自動車・鉄道・航空機・船舶が大量に安価に生産できるように

なった. 受益者は,アメリカやドイツである. アメリカは,特に自動車会社

が大量生産方式により兵器の大増産を行い,日本やドイツとの戦争に勝利し

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パクスアメリカナーナを作り上げた. 筆者は,この時の日本の指導層が産業

革命に無知であったことを非常に残念に思う.彼我の違いを正確に理解でき

ていなかったので,戦争になってしまったのである.現在の状況を明確に理

解することは大切である.産業革命は,国をも滅ぼすほどのパワーを持つこ

とを忘れてはならない.アメリカに開戦した理由は,他にも多くの要因があ

ったのであろうが,最も重要な「アメリカと戦争してはいけない」というこ

とを忘れてしまったのは,返す返す残念である.

図 5.第二次産業革命

図 6.フォード社の流れ作業

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図 7 に第三次産業革命を示す.第三次産業革命は, 20 世紀後半の 50 年に

あたり, 日本が IT を駆使した効率・品質革命を成し遂げた. これにより高性

能かつ高品質の自動車・鉄道・船舶が大量に安価に生産できるようになった.

受益者は, 日本である. 筆者は, 1951 年生まれでこの日本の産業革命の刺激

的な時代の空気を吸って育った. なぜ日本がこれほど短期間で成長したのだ

ろうか?それはドイツも同じであるが, 戦後航空機の開発を禁じられた戦闘

機開発者たちが大挙して民間企業に転じたからである. 例えば, 長谷川龍雄

は, 2.5 流と揶揄される立川飛行機において戦闘機の開発を行っていたが,

戦後すぐ解雇されトヨタに転身し, トヨタの躍進の原動力になったカローラ,

セリカ, カリーナを開発した. 立川飛行機自体は, たま自動車(たま電気自

動車の開発で有名)になり, 後にプリンス自動車となり日産自動車の源流の

一つになったが, 長谷川は立川飛行機を解雇されたのでトヨタに行ったので

ある. 日産自動車はトップ企業になる機会をみすみす逃したことになる. 自

動車に転じた戦闘機開発者には, 一流企業であった中島飛行機から日産自動

車に転身した中川良一, 本田技研に転身し F1 優勝に導いた中村良夫がいる.

鉄道では, 海軍から鉄道技術研究所に転身して新幹線を開発した松平精がい

る. 松平精は,ゼロ戦のフラッター(翼の異常な自励振動)を解決した振動

技術者であり,鉄道における蛇行動のような自励振動を解決し,鉄道の高速

走行技術を確立した.なお 鉄道総合技術研究所には,戦後,1000 名もの軍事

技術者が入所し,世界一となる鉄道技術を開発した.また, 品質では, 海軍

から青山学院大学に転身した田口玄一がいる.コストを上げることなく品質

向上させる技術は,タグチメソッドと呼ばれ,日本製品の安くても品質の良

いものつくりの基礎を築いた.アメリカの産業界でも真っ先に取り入れられ

て,田口は自動車殿堂入りを果たした.トヨタ生産方式で有名な大野耐一は,

トヨタ生え抜きであるが, かんばん方式による生産効率向上によりアメリカ

でも有名である. 筆者は, General Motors において機械振動学を学び, Purdue

大学において機械音響学を学んだため, アメリカの学会活動が長く, アメリ

カの見る目で日本を見てしまう. アメリカから見ると, 日本は尊敬すべき性

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能と品質を持った製品を生み出す国で, 到底敵わないと思える. そして, 日

本の攻勢を恐れている. 日本にいるとそういう空気はまったく感じなかった

が, アメリカでは真剣に日本に学ぼうとしていた. 1989 年ダラスで開催され

た ASME の大会に GMR の研究者に依頼されて出席した折, 日本の攻勢にど

う対応するかというシンポジウムが開催された. ASME としてどのような討

議がされるか興味があったので参加してみると, 大きなホールに 500 人ほど

出席していて, 日本がどれだけ素晴らしい製品を創るかという話を延々とや

っているのにはまったく驚くばかりであった. 日本人は私一人だったので,

とても居心地が悪かったことを覚えている.JSME とは違い ASME は企業に

寄り添っているとも感じた. その後,MIT,ハーバードなど名立たる大学か

ら日本の品質改善技術をテーマとした教科書が出版された.Matlab で有名な

Mathworks 社の技術者から, 品質向上のためトヨタのカイゼンを取り入れて

いることを聞いたときも本当に驚いた. Matlab/Simulink は,モデルベース開

発のツールとして有名である.ちなみに,筆者は,モデルベース開発のキー

となるのは,製品のモデル化技術であると考えており,モデル化技術が用意

されていない Matlab/Simulink は現実の開発では使えないツールであると考え

ているが,世間ではよく売れているようである.Matlab/Simulink を使わない

独特の製品モデル化ツールを自社開発したマツダは,世界で最も優れたモデ

ルベース開発技術を確立している.トヨタはその技術を高く評価しており,

2017 年 11 月にマツダと技術提携をした.

日本の技術の底力を示すものとして,自動車の燃費の推移(図 8)を紹介し

ておく.ここに示すのは,販売された自動車の平均燃費を時系列でプロット

したものである.黒い線は筆者の予測,赤い線は実績を表す.燃費向上は,

総合的な対策が必要な難しい技術なので,予測は線形としたが,実際は,指

数関数のように非線形に向上している.特に,ガソリンエンジンの燃費向上

が革命的である.これを見ると,日本の自動車技術は,革命的であり世界は

とても追いつけない状況にあることがわかる.これは,1997 年のプリウスシ

ョックによって,日本の自動車会社が制御系の重要性を再認識したことが関

係している.JSME でも制御系が重要になると考え,「とことんわかる自動車

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のモデリングと制御」という講習会を 2001 年に開始したところ,従来 30 名

程度の参加者しかなかった講習会に 200 名に急激に増えてびっくりしたこと

を覚えている.この講習会は,エンジン,シャシー制御に関してわかりやす

く教えて,現在まで 17 年続いていいて,延べ 1000 名以上を教育してきた.

日本の制御技術が世界一のレベルになるためのお手伝いができたと自負して

いる次第である.近年主にヨーロッパと中国において自動車の電動化の議論

が起こっているが,これは日本のエンジン技術にはとても追いつけないと彼

らが考えた結果である.このままだと日本車に席巻されるだけと考えると,

電動化という新しいフィールドならばまだ戦えると踏んでいるのであろう.

しかし,電動化技術は現時点では未熟であり,今後も紆余曲折があるだろ

う.これらの地域における日本車のシェアは,アメリカにおける 41%に比較

して,14%という低いシェアであるが,今後大幅に伸びていくことが予想さ

れている.

図 7.第三次産業革命

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図 8.自動車の燃費向上

最後に, 第四次産業革命はまだこれから始まるという段階である. 日本,

ドイツ, アメリカが三つ巴で競争するという事態になっている. これからの

革命なので, 何が本当に起こるかはまだわからない. 筆者は, それは人工知

能革命であると考えている. 工場では, 自動生産, 製品としては, 自動運

転・自動物流, 設計技術としては自動設計である. 2050 年には, 人工知能が

人間を代替する機会が多くなっていると思われるが, 長期的に技術ロードマ

ップにより技術を俯瞰しつつ広い視点を持って開発を進めていく必要がある

と考えている. 人工知能が人間を滅ぼすと警鐘を鳴らす人もいるが, それは

ある意味本当である. 人間の社会を考えながら開発に当たる必要が生じてい

る.

自動車単体では,日本の技術は,世界一であるが,日本の不得意なのは,

社会全体を見てイノベーションを起こすことである.ウォークマンは,単体

の装置としては優れていたと思うが,音楽データを運用する全体的なシステ

ム技術では,i-POD に負けていた.それがスマホの敗北に繋がっていく.し

たがって,より大きな枠組みで物事を考えないとまた 2 回目の敗北を迎える

に違いない.

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第四次産業革命に関する本がたくさん出版されている.図 10 に示すのは,

世界経済フォーラム(2)から引用したものであるが,自動運転に関連する技術

が多い.自動運転の技術で勝利することは,第四次産業革命に勝利すること

と直結すると筆者は見ている.

2017 年の日本機械学会の年次大会のパネルディスカッションにおいて,も

のつくり研究で著名な東京大学の藤本隆宏教授が自動運転に関する 3 つのキ

ーワードを示した.(図 11)上空,低空,地上の 3 つである.上空とは,アメ

リカが独占する ICT システム技術を示し,低空,地上は,日本とドイツがリ

ードしている現在の自動車技術を表現している.日本とドイツは,似ている

が,ドイツはコストが高いところが異なる.ドイツでは,マイスター制度の

歴史があって,エンジニアの社会的地位が日本より高いためか,人件費が日

本よりも高い.またドイツは,日本のようなコストを上げずに品質を向上さ

せるようなタグチメソッドをまだ取り入れていない.自動運転の技術に勝利

するには,アメリカの技術を取り入れることは不可欠であるので,日本とし

てはアメリカと密接に協力しつつ開発を進めていくことが必要である.筆者

は,アメリカなしにドイツと協力することはあまり意味がないと考えてい

る.

図 12 に日本社会への影響をまとめた.第四次産業革命では,順番では国力

減退の時期にあたっていることが心配である.

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図 9.第四次産業革命

図 10.第四次産業革命の技術予測

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図 11.自動運転のキーワード

図 12.産業革命の日本社会への影響

(2)日本機械学会の取り組み

日本機械学会の会員数減少, 特に企業会員数の減少について危機感を持っ

ていたところ, 2014 年の年次大会において「自動車を基軸として見た機械工

学全体の将来展望」(3) のの講演を技術ロードマップ委員会より依頼され

た.筆者は, 長年自動車の完成車メーカにおいて製品開発プロセスの効率向

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上を研究していたが, 完成車メーカでは日本機械学会への興味がなくなる傾

向にある.この現象を理解するため, 日本機械学会と自動車技術会が 2006 年

以降 10 年間に作成・発表してきた技術ロードマップ全部を調査し分類を行っ

た.(図 13)自動車工学はマトリクス構造になっていて, 組織もそれに対応し

たマトリクス組織になっている.(図 14,15)日本の自動車会社の強みは, 機

能・性能への強い拘りがあることであると考えているので,マトリクスの縦

軸(機能・性能)を和魂技術と呼び, 横軸(部品・装置)を洋才技術と呼ん

で分類した.

図 13.技術ロードマップの分類

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図 14.マトリクス組織

図 15.機械工学のマトリクス構造

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図 16.技術ロードマップ分類結果

図 16 に示す通り,日本機械学会の力点は, 機械システム製品の性能・機能

(システム)にはなく, 部品・装置(システムの要素技術)の仕掛けに偏重

している事実が明らかになった.一方, 自動車技術会は和魂と洋才のバラン

スが取れていることがわかる.これが完成車メーカの支持が高い所以である

と考える.特に完成車メーカにおける日本機械学会への興味が失われつつあ

る要因が明確になった.

機械工学便覧の機械工学総論には, 機械の機は仕掛けのこと, 械は何かをさ

せるものとの記述があり, 機械には2つの独立した軸があると記述されている.

これが和魂と洋才の2つの軸である. 日本機械学会の現状は, 和魂が弱く日本

機 学会としか呼べない学会になっている.この状態を改善するために部門横

断活動を恒常的に実施できるような活動への取り組みを技術ロードマップ委

員会において提案したところ,委員全員の賛同を得て部門横断活動の発足が決

定された.

図 17 に現在までの横断的活動の推移を示す.2014 年にワーキンググループ

として 27 名の委員で発足し,2015 年の分科会活動を経て,現在は,研究会と

して 11 部門 1 専門会議 43 名の委員として活動している.研究会委員の募

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集にあたり,従来募集していなかった部門にも募集をした.熱工学部門から 9

名もの委員が出たことにはびっくりした.エンジン技術は,すでに技術的完

成を迎えたためかなと思う次第である.日本機械学会の部門の半分以上の部

門が参加している.

2019 年には,企業コンソーシアムを計画している.現在の研究会は,日本

機械学会の枠組みなので,どうしても産業界からの参加が少ない状況になっ

ている.第四次産業革命に勝利するためには,産業界の参加が必要であると

考えている.活動方針としては,分野横断型,設計学,イノベーションの3

つをキーワードとしている.

図 17.活動の推移

(3)自動運転の技術の俯瞰(2D-ARM)

吉川設計学では,まず技術の俯瞰を行い,全体像を把握することが重要と

される.したがって,最初に混沌とした自動運転技術の俯瞰をするための作

業を行った.(図 18)

品質機能展開(QFD)等を用いて, 製品とその関連技術全体を俯瞰し, 製

品競争力において必須な技術のフィージビリティスタディを行うことが製品

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企画の成否を決定する最重要作業である.QFD は, 製品開発の肝となる重要

な技術であり, 製品企画と密接に結びついているため社外秘の情報であり,

会社の外にはまったく漏れてこない.但し,QFD は言語情報のみで成り立つ

ため,実際の製品開発ではあまり使えない.そこで,QFD を数値モデルとし

て捉える方法が開発され,マツダ,いすゞ自動車において有効に使われてい

る.

QFD には種々の使われ方があるが, 本活動では, 図 15 に示した機械工学の

マトリクス構造に対応した QFD とした.すなわち, QFD を使用して和魂を展

開していく作業として, 以下に示す3ステップを実施した.

1.市場の要求品質を収集

2.要求品質を抽出 (KJ 法, 親和図法)

3.要求品質展開表

ステップ1の市場の要求品質の収集については, エクセルファイルを用

いてメールで収集作業を行った.(図 20)ステップ2では,KJ 法を用いて要

求品質を抽出する.これは,要求品質をカード化して, 似た言葉を括りタイ

トルを付けていく作業である.KJ 法を用いた結果の一部を図 21 に示す.

2014 年に行った結果(図 22)では,まだ言語が少なかったが,2015 年に行

った結果(図 23)では,知見が増えて膨大な要求品質項目が得られた.時間

が経過するにつれて,項目が増えてくるので,再度行えばもっと膨大な要求

品質項目リストになると思われる.ステップ3では図 24 に示す要求品質展開

表を完成する.

マトリクスとして要求品質展開表を表現する.(図 25)和魂項目と洋才項目

には技術ロードマップを関連付ける.この表により,関連するすべての技術

ロードマップにハイパーリンクによってアクセス可能である.この表は,新

しい構造化された 2次元技術ロードマップであり,関連技術全体を俯瞰する

ものになる.この表を 2D-ARM(2 次元 Academic Road Map)と命名した.

2D-ARM の具体例として自動運転に適用した事例について紹介する.技術ロ

ードマップは,2D-ARM の縦軸及び横軸の各項目について分担作成した.以下

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に作成した技術ロードマップを示す.なお,全ての 2D-ARM(4)は日本機械学会

のホームページ(5) にて公開している.

① 和魂技術ロードマップ (図 28-30)

・社会受容性法規対応 責任範囲 事故対応

・社会受容性防御防衛 社会受容性

・社会受容性フェールセーフ

・社会受容性システムセキュリティ

・社会受容性ロバスト

・混在交通

・衝突防止

・環境問題

・救援活動

・自動手動切り替え

・レーンキープ

・システム統合

・情報関連技術

・協調走行

・熟練者の運転実現

② 洋才技術ロードマップ (図 26-27)

・判断技術

・HMI

・社会受容に必要なシステム

・操作技術

・自動運転システム

・運転支援システム

・通信装置

・ECU

・センサ

・通信

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図 18.自動運転技術の俯瞰

図 19.QFD の意味

図 20.QFD ステップ1

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図 21.QFD ステップ2

図 22.QFD 結果(2014 年度)

図 23.QFD 結果(2015 年度)

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図 24.QFD ステップ3

図 25.2D-ARM

図 26.システムを構成する項目

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図 27.要素を構成する項目

図 28.社会を構成する項目

図 29.性能を構成する項目(1)

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図 30.性能を構成する項目(2)

(4)自動運転イノベーション創出法(i-ARM)

第四次産業革命について述べてきたが,筆者が最も心配していることがあ

る.それは「日本人はイノベーションが苦手である」ことである.産業革命

によって従来とはまったく異なる社会システムとなることが目に見えている

が,日本は,その大波に対応できないのではないかと心配しているのであ

る.これから日本は,海図なき航海に出て行くので,何らかの指針となるも

のが必要であると筆者は考えている.

「日本人はイノベーションが苦手である」ことの要因を考えてみたい.

・日本人は,和を重んじるため,個人の異なる考えを排斥しがちである.

・会社が最も大事なので会社の製品開発と関係のないことには手を出せな

い.小集団による製品品質改善活動は,日本人が最も得意とするところであ

る.

・小さな改善活動には熱心であるが,パラダイムが変わるような大きなイノ

ベーションは考えることすらしない.

・イノベーションを実現するための資金が日本では集まりにくい.

・イノベーションは成功する確率が低いため,技術者は報われない.

・例えイノベーションに成功しても,技術者は報われない.

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他にもいろいろ要因はあるかも知れないが,筆者は,イノベーションとはそ

もそも個人の活動であることが,苦手とする大きな要因となっていると思

う.それならば,小集団活動で使えるようなイノベーション創出法を開発す

ればいいのではないかと考えたのである.

自動運転技術の俯瞰を行い,全体像 2D-ARM 表として表現した.次は,全

体像を見ながらイノベーション創出を行う.最初にイノベーションを論じた

経済学者シュンペーターは,初期の著作「経済発展論」のなかで,新結合が

経済発展を促すと述べた.新結合により従来なかった項目を発想するための

ツールが i-ARM である.(図 31)

QFD は設計の有用な技術である.通常は,同じものを区別していく.

i-ARM では,違う言葉の組み合わせから別の全く異なる言葉を創ることでイ

ノベーションを起こす.全体を俯瞰する 2D-ARM は,漏れのない新結合を創

出可能である.i-ARM は,非連続な技術を考察することになる.まず,QFD

の手法とは逆に違う者同士を括ることで,従来なかったイノベーションを生

み出すことを狙いとする.QFD の逆なので,DFQ と称する.(図 32)

言葉の組み合わせから今まで存在しなかったもの・ことを創出する.例と

して,以下のように2つの言葉から別の言葉を創出する.

デジタルカメラ=複写機器+映像機器

iPhone=低機能パソコン+携帯電話

iPad=iPhone+高機能パソコン

アマゾン配送=ドローン+物流機械

自動車=大砲+物流機械

i-ARM は,新技術の新しい使い方を実現する.図 33 に i-ARM 開発ステッ

プを示す.これらの作業は,小集団活動として実践できるのがみそである.

なお,小集団としては,バックグラウンドの異なる人たちが集まる小集団で

あることが重要であり,従来の小集団活動とはまったく異なる集団とするこ

とが肝要である.この活動は,分野横断型小集団活動と名付けるが,従来の

製品品質改善活動における同質な小集団とはまったく異なるものである.

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個人の活動と小集団の活動とで結果が異なるか実証実験を行った.すなわ

ち,2015 年の分科会では,分野横断型小集団活動によるイノベーション創出

を行い,2017 年の研究会では個人によるイノベーション創出を行った.その

結果,分野横断型小集団活動のほうが 10 倍から 20 倍の効率でイノベーショ

ン創出が可能であることが判った.

分野横断型小集団活動のステップは,

1. 2D-ARM による技術全体の俯瞰(できるだけ広い俯瞰,社会も含める)

2. DFQ により 2D-ARM の 1次項目と 2 次項目の言葉から全く異なる言葉

を創出(技術に関するもの,社会システムに関するもの)

① 1次項目

② 2次項目

③ 1次項目と 2次項目

3. QFD により整理

4. フィージビリティスタディ(分野横断型,批判はしない)

5.i-ARM(技術ロードマップ)

6. 概念設計,詳細設計(分野横断型ワイガヤ)

ここで,図 34 に示すように,1 次項目と 2次項目は,2D-ARM の 1 次項目

と 2次項目の言葉である.構造を示す洋才と性能を示す和魂の 2種類がある

ので,構造 VS構造だけでなく,機能 VS機能,機能 VS 構造マトリックスも使

うため,膨大な言葉の組み合わせとなる.創出においては,異なるバックグ

ラウンドを持つ多数の研究者・エンジニアに言葉を発想して頂くことが重要

である.同質の研究者の場合,新しい発想が制限される.また,エンジニア

の質も当然関係してくる.また,従来にはない全く新しい言葉を発想するこ

とが重要である.

図 35 に和魂技術ロードマップ(1次項目)の DFQ 試行結果を示す.1次項

目では,抽象的な言葉の組み合わせであり,よりスケールの大きなイノベー

ションすなわち社会の仕組みを変えるような事柄が発想されることが判っ

た.図 36 に和魂技術ロードマップ(2次項目)の DFQ 試行結果を示す.2次

項目の言葉は,より具体的な言葉であり,具体的な改善などの小さなイノベ

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ーションが創出されることがわかった.現在,機能 VS 機能という組み合わせ

だけ試行したところで,今後構造 VS構造,機能 VS構造の組み合わせも試行

する予定である.

図 31.イノベーションを創出するための i-ARM

図 32.DFQ の意味

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図 33.i-ARM 開発ステップ

図 34.i-ARM で使用する 1 次項目と 2 次項目

図 35.和魂技術ロードマップ(1 次項目)の DFQ 結果

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図 36.和魂技術ロードマップ(2次項目)の DFQ 結果

(5)自動運転の本質

自動運転の効用として,

・高齢化対応

・ドライバ不足

・環境

・交通渋滞

・交通事故

が挙げられる.

それぞれ自動運転において必要な機能が異なる.本稿では,交通事故に着

目して自動運転の本質を考える.

図 37 に人口 10 万人当たりの交通事故死者数を示す.これは 2014 年の国交

省のデータであるが,2015 年以降日本は世界で最も人口 10 万人当たりの交通

事故死者数が少ない国となっている.全世界の交通事故による死者数は,125

万人に達している.アメリカは,日本の 3 倍,中国は,日本の 6倍という数

値になっている.先進国であるアメリカの死者数が多いのは意外である.こ

れは,アメリカは,発展途上国の側面も持っていることを示している.図 38

に先進国における交通事故死者数の推移を示すが,これから近年アメリカが

自動運転に前のめりになっている理由の一端が見て取れる.図 38 に,状態別

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交通事故死者の割合を示すが,日本においては歩行者,老人の死者が多いこ

とがわかる.自動運転の普及により,多くの交通事故死者が助かることにな

る.日本国内だけでは採算が取れなくとも,世界的に見れば十分に採算が取

れる製品になることは間違いない.

図 37.人口 10万人当たりの交通事故死者数(2014 年)

図 38.主な欧米諸国の交通事故死者数の推移(2014 年)

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図 39.状態別交通事故死者数(2014 年)

さて,交通事故を防ぐために必要な機能について考えてみる.それは,

図 40 に示す通り,時間・空間・重力である.交通事故が起きるときは,コン

マ何秒という時間が勝負であり,周囲の自動車,歩行者,自転車の位置を予

測することが重要であり,事故回避動作のためには,重力(4輪のタイヤグリ

ップを確保すること)が重要になる.最後の重力と言う言葉は,少し説明し

ておく.自動車は,そもそも路面をタイヤがしっかりとグリップしているこ

とが必要である.定常状態では,4輪はしっかりグリップして走行している

が,なんらかの操作(ブレーキ,アクセル,ステアリング)によって,4 輪の

荷重が変わってきて,一部グリップが弱くなる状況が生じる.すると自動車

は,操作通りに動いてくれなくなる.ちなみに時間・空間・重力というの

は,相対論を示すキーワードでもある.自動運転は,相対論並みの重要な技

術であると考える次第である.

図 41 と図 42 に事故事例を示す.自動運転の開発では,過去の事故事例を

どの程度防げるかすべて確認することが必要になる.図 41 では,渋滞列の隙

間にいた自転車が飛び出して,それを避けようとした乗用車が咄嗟に左にハ

ンドルを切り,別の車線を走っていた後続のトラックが左にハンドルを切

り,たまたま歩道にいた歩行者 2人が死亡したという事例である.この例で

は,自転車が出てくるかも知れないということで前もって速度を落とすこと

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が必要となるが,自転車が出てくるかどうかと見極める技術がないとスムー

ズな走行は望めなくなってしまう.時間,空間,重力の順で重要度が異な

る.図 42 は,高速道路の追い越し車線上においてトラブルで停車した 2台の

乗用車に後続のトラックが追突し,2名が死亡した事例である.トラックは,

直前まで別のトラックに接近して走行していて,急に前のトラックが走行車

線に移ったら 2 台の乗用車が停車していることに気が付いたが,もう時間的

に間に合わなかったという事例である.この場合は,時間,重力,空間とい

う順で重要である.

図 40.交通事故低減を目標とした場合のキーワード

図 41.事故事例1

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図 42.事故事例2

時間が重要な機能であることを見てきた.時間を最短にする装置につい

て考えてみる.(図 43)人間の 100 倍高速に判断できる高速 AI チップ,エン

ジンより応答が 500 倍速いモーターの2つを備えた自動運転可能な電気自動

車が現在のところ最適であると筆者は考えている.電気自動車は,重力対応

として最高度のシャシー制御技術.予防安全技術を備えていなければならな

い.また,出来る限り軽量であることが必要である.

図 44 に ECU の開発動向を示すが,高速,低電力で動くことが求められて

いる.CPU の開発は,アメリカの独壇場であり,現在,アメリカの ICT 企業

間で技術者の囲い込みが進んでいる.

図 45 にマイコン動作周波数の年次推移と自動運転研究の嚆矢となった

DARPA のグランドチャレンジ,アーバンチャレンジの時期を示す.2005 年

ころは,まだマイコンの動作周波数は右肩上がりに向上すると見られていた

ため,今後の自動運転は容易に実現可能であると考えて,多くの研究者が自

動運転研究に参入した経緯がある.しかし,2018 年になるとどうやらマイコ

ン速度は頭打ちになることが確かであると考えられている.すなわちムーア

の法則が成立しなくなっている.個別の CPU の作動速度はすでに限界に近付

いていることから,図 46 に示す通り,PC の CPU においては,マルチコア,

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マルチスレッド化で発熱を抑えつつできるだけ高速で動かす仕組みになって

きている.

図 43.時間を最短にする装置

図 44.ECUの開発動向

図 45.ムーアの法則が飽和に達していること

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図 46.PC の CPU の動向

図 47.高速 AI プロセッサの開発動向

図 47 に示す通り AI プロセッサにおいてもマルチコアの CPU と GPU を

使って低発熱かつ高速処理化を狙っている.Nvidia のような一般には知名度

が低い会社が本命となりそうな AI プロセッサを開発しているように,ICT の

世界においては会社の興廃を左右する戦いが始まっている.

(6)自動運転の設計技術(d-ARM)

自動運転研究における設計技術については未検討であり,まだまだこれか

らの検討が必要とされる状況にある.自動運転の設計技術としては,図 48 に

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示す通り,時間・空間・重力をいかに制御するかに掛かっていると考える.

時間制御技術,空間制御技術の向上は言うまでもないが,特に重力制御技術

は,今後更なる高度化が必要になると考える.タイヤグリップの向上がその

なかでも重要である.

自動運転の機能評価技術としては,図 49 に示す通り,実機評価法の確立,

仮想評価法の確立,評価方法の標準化が必要となる.現時点では,自動運転

の実機評価のためのコース(図 50)が設計されている段階である.膨大な事

故事例を仮想評価することが可能になれば,交通事故死者数を更に大幅に減

少させることが可能になる.標準化された仮想評価法が確立されると,自動

運転の機能ランキングも算出可能となる.現時点では,各社が各様のアルゴ

リズムで自動運転を開発していて,各社の自動運転の機能の比較が困難な状

況である.

図 48.自動運転の設計技術

図 49.自動運転の機能評価技術

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図 50.自動運転の実機評価

図 51.制御系のモデルベース開発の必要性

図 52.モデルベース開発の肝はモデル化技術

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自動運転の仮想評価法は,図 51 に示すモデルベース開発の発展形になる.

図 52 に示す通りモデルベース開発で最も重要な技術は,モデル化技術であり,

制度良いモデル化技術の開発が必要である.

(7)自動運転の生産技術(p-ARM)

自動運転の生産技術については未検討である.図 53 に示す通り,もし電気

自動車の自動運転車が主流となれば,もはや自動車は,高級なスマホになり,

現実のスマホのように中国などにコストで敗北することが予想される.そうな

らないように対応策を考える必要があると考えている.

図 53.自動運転車の生産技術

(8)結言

第三次産業革命の勝者である日本は,第四次産業革命において勝利でき

るだろうか?日本は,どん底から這い上がる力は世界屈指である.しかし,

成功体験があるからこそ慢心が心配である.驕る平家は久しからずという格

言が気になるところでえある.単体の機械だけを見れば日本の技術は,世界

最高峰であり,自動運転車の開発においても敗北するとは思わない.

産業革命は,社会変革をもたらすことを述べたが,日本は,変革の際の社

会のグランドデザインを設計することに慣れていない.戦後の日本は,アメ

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リカから与えられた日本国憲法を基本にして社会のグランドデザインを作り

上げた.日本が独自にグランドデザインを設計した経験はないと言ってい

い.そこで,社会全体の仕組みの再構築といったより大きな視点での取り組

みが重要であると考えている.社会のいたるところでイノベーションが求め

られているので,技術者にとってやりがいのある楽しい時代であると考えら

れる.

スマホで日本企業が敗れたのはグランドデザインがなかったからである.

同じ失敗を繰り返さないようにするには自動運転開発に際して従来とは違う

枠組みが必要であり,産学官を結集した横軸の共同作業が重要であると考え

る.

文 献

(1) http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530007/20170530007-2.pdf

(2) 第四次産業革命~ダボス会議が予測する未来,クラウス・シュワブ,日本経済

新聞社,2016

(3) 高田 博,“自動車から見た機械工学全体の将来展望“,日本機械学会 2014年度年

次大会講演論文集〔2014.9.7-10, 東京〕, P00100

(4) 高田博,自動運転技術でみた部門横断の技術ロードマップ,日本機械学会誌,

2016 年 5 月号,Vol.119,No. 1170 (2016), pp. 287-292.

(5) 日本機械学会, 自動運転に関する分野横断型分科会で作成したロードマップ,

https://www.jsme.or.jp/innovationcenter/uploads/sites/6/2016/09/ARM-2D.zip (2016)

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第 6 章 自動運転に必要な性能

6. 3 環境問題 高田 博 (東京理科大学)

サマリ

自動運転が環境対策としても有効であることを示す.

ポイント

・燃費削減の原理・原則に基づいた削減策

・社会システム全体の効率化による燃費削減

・車外情報の有効活用による燃費削減

1990 年代から地球温暖化が問題となり, 交通機械の世界では, 二酸化炭素

排出量削減すなわち燃費向上が至上命題となって現在に至っている. 単体の

交通機械の燃費向上がまず検討されているが, 今後は自動運転による社会全

体の効率化によるシステマチックな燃費向上研究が活発となろう.

(1) 単体の交通機械の燃費向上

自動運転による社会全体の効率化によるシステマチックな燃費向上の論説

に入る前に単体の交通機械の燃費向上技術について簡単にまとめておく. 図 1

は, 自動車の燃費低減メカニズムを示す. また, 図 2 にそれぞれの損失や抵抗

に対して検討されている対策をリストアップしておく.

エンジンについては, 燃焼効率 50%を目指す SIP の革新的燃焼技術プログ

ラムが産官学の連携にて進められている. 2017 年でガソリン 46%, ディーゼ

ル 49%に到達している. また, 日の丸燃焼解析ソフトウェア「HINOCA(ヒノ

カ)」の開発を進めている. SIP は, 野心的な達成目標のみならず産官学の連携

研究の具体的な形を示したところが画期的であると考えている.

空気抵抗は, 車速の二乗で抵抗が大きくなるため, 特に高速道路を走行する

際に最も重要なファクターとなる. 大型トラックにおいては, 空気抵抗係数が

大きいため, 速度 80km 走行においてすでに全走行抵抗の 6 割を占めるほど大

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きな抵抗である.

図 3~7にはそれぞれの対策における技術ロードマップ(日本機械学会交通・

物流部門作成 本稿が初出になる)を示す.

図 1 自動車の燃費低減メカニズム

図 2 検討されている対策

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図3. 空気抵抗低減の技術ロードマップ

図 4. 転がり抵抗低減の技術ロードマップ

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図 5. 車両重量低減の技術ロードマップ

図 6. 伝達損失低減の技術ロードマップ

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図 7. ブレーキ損失低減の技術ロードマップ

また, モーダルシフトの必要性も指摘されている. 図8, 9に旅客輸送, 貨

物輸送における各種交通機械の二酸化炭素の排出量の比較を示す. 旅客輸送

では, バスや乗用車などの短距離輸送は, 二酸化炭素の排出量が多く, 対策が

必要であることがわかる. 鉄道などの長距離輸送は, 二酸化炭素の排出量が少

ない利点はあるが, 駅を降りてからの短距離輸送はどうしても必要である.

(大都市のように駅が密集している場合は除く)貨物輸送でも同様である.

モーダルシフトは, 長距離と短距離の特性を考えると限界があるため, 短距離

輸送の二酸化炭素の排出量削減の検討がどうしても必要になる. そこで自動

運転の技術による二酸化炭素の排出量削減への期待が高まるのである.

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図 8. 旅客輸送における各種交通機械のCO2排出量(国土交通省)

図9. 貨物輸送における各種交通機械のCO2排出量(国土交通省)

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(2) 自動運転による燃費向上

図 10~13 に燃費削減の原理・原則に基づいた削減策リストを示す.

図 10. 燃費削減の原理・原則に基づいた削減策リスト(1)

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図 11. 燃費削減の原理・原則に基づいた削減策リスト(2)

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図 12. 燃費削減の原理・原則に基づいた削減策リスト(3)

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図 13. 燃費削減の原理・原則に基づいた削減策リスト(4)

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これらのリストは, 日本機械学会交通・物流部門が技術ロードマップ委員

会の活動の一環として作成したもので, 交通機械単体のみならずその周辺も

含めた社会全体としての省エネルギーの手段を考察したところが特徴である.

本稿が初出になる.

考え方としては,

CO2 排出量 = (移動量) × (単位移動量当たりの必要エネルギー) ×

(単位必要エネルギー当たりの CO2 排出量) × (台数)

と定義してそれぞれの項目に対して削減策をリストアップしたものである.

以下, このリストに基づいて自動運転との関連について考察していく.

① 保有台数の減少

自動運転車は, 現時点で単体としての燃費低減技術が最大限盛り込まれた

車両になると考えられる. 価格が高くなるので最高の燃費低減技術をすべて

盛り込むことが可能である. 自動運転車のカーシェアリングの普及によって

レガシー車(非自動運転車)保有台数の減少が引き起こされるだけでなく,

シェアリングによって自動運転車の使用割合が劇的に増加していく.

現状の日本の自家用車の稼働率は, 2%程度(アメリカでは, 4%)であり, カ

ーシェアリングによって稼働率を 20%程度向上させることができる.また, 平

均使用年数も 12 年から 2 年程度に短縮されるため, その時点における最高の

低燃費技術を享受できる.(6)

保有台数は 10 分の一となり, 自動車製造会社にとっては打撃になるように

思えるが, 自動運転車なので価格が 10 倍になり, さらに稼働率上昇により買

い替えサイクルが短期化するため市場規模は変わらない.

② 乗合カーシェアリング

自動運転カーシェアリングの車両としては小型バスも考えられる. 同じ目

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的地に向けた自動運転小型バスの乗合いによって大幅な CO2 排出量低減が達

成できる可能性がある.

③ 衝突しない車の実現による軽量化

自動運転車によって衝突しない車両が実現できる可能性がある. 実現でき

れば受動安全装備がすべて不要となり, 軽量化が達成できる. 軽量化が達成で

きれば車両は慣性の法則により発進しやすく曲がりやすく停止しやすい車両

になり, より衝突しない車両となるというスパイラルアップが完成する.

④ 速度制限

自動運転車は, AI が運転するシステムである. AI では, GPS によって走って

いる場所を特定でき, その場所の法定走行速度情報も得られるため, 厳密な順

法走行が可能であることから, 燃費低減となる.

⑤ 交通流改善

自動運転車は, 車両周辺の道路混雑状況を把握することができる. したがっ

て, 自動的に混雑していない道路を選択して走行することが可能になる.

⑥ 平均旅行速度向上

東京の自家用車の平均旅行速度は 25km/時である. (高速道路一般国道の

平均) ベルリンでは 36km/時, ロンドンでは 26km/時, パリでは 34km/時, コ

ペンハーゲンでは 50km/時であり, 東京の平均旅行速度は, 世界で最も遅い平

均旅行速度になっている. 車両の燃費の最も高い速度は 60km であり, より高

速化が望まれる. 図 14 に本研究会で作成した平均旅行速度向上の予測(7)を示

す.

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図 14. 都市間交通と都市内交通における自動運転による平均旅行速度予測

⑦ オンデマンドバスシステム

ラストマイル自動走行システムとして実証実験が盛んに進められている.

鉄道の駅から自宅や商店まで必要なときだけバスを走らせるシステムが可能

となるため燃費の大幅削減が可能となる. 自動運転のためドライバーも不要

となり, コストは大幅に低減できることから過疎地帯での運行が可能となる.

ラストマイル自動走行の一般的な目的は, 過疎地域における交通需要に答え

ること, 古いニュータウンの再生, 観光地の交通需要に答えること, 大学やテ

ーマパーク内の交通需要に答えることが挙げられているが, 環境に対する影

響も見逃せない利点である. 現在, 小型カート, 小型バス, BRT を利用した実

証実験が行われている. 実証実験の例としては以下が挙げられる. ここでは,

SIP と経済産業省関係を挙げたが, 地方自治体やタクシー業界, ロボット会社

などがそれぞれ多くの実証実験を行っている.

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・沖縄(観光地モデル実験, コミュニティバス実験)

・石垣島(コミュニティバス実験)

・輪島(市街地モデル実験)

・永平寺(過疎地モデル実験, 図 15)

・日立(コミュニティバス実験)

・東近江(道の駅(山間部)観光地モデル実験)

・芝公園(コミュニティバス実験)

図 15.永平寺における自動運転車の実証実験

(モーターファン WEB サイトから転載)

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⑧ 自動運転隊列走行(8)

大型トラック輸送は, 日本の物流の根幹をなしている. しかし, トラックの

キャブを見ればわかる通り, 空力特性は乗用車に比較すると大幅に劣る. トラ

ックの空気抵抗は, 80km 走行時には全走行抵抗の 60%を占めるため, 高速道

路におけるトラックの空気抵抗低減が全体の燃費を押し上げる. トラックの

隊列走行の検討は, 2008 年から 2013 年にかけてエネルギーITS プロジェクト

(東大, 東北大など大学とトラック 4 社連携研究, 図 16)が推進され, 3 台隊

列(間隔 4m)にて燃費 15%削減が達成されている. また, 経済産業省と国土

交通省, 国内トラックメーカー4社による高速道路での隊列走行実証実験が

2018 年 1 月から始まっている. 4社共同で開発した協調型車間距離維持支援

システム(CACC)を搭載したトラックが隊列を組んで走行するものである.

CACC は車両間通信で先行車の制御情報を受信し, 加減速を自動で行い, 車間

距離を一定に保つ機能である. 2019 年には後続車を無人にできるシステムを

搭載した隊列走行の実証実験を実施し, 2020 年には高速道路で後続車が無人

の隊列走行を実現する計画である. 運送会社では, トラックドライバーの確保

に悩んでおり, 無人ドライバ走行への期待が大きい.

隊列走行システムは, 失陥しないように冗長システムとなっていてコスト

は上昇するが, 大型トラックの単価は2千万円を超える超高価車であるので,

搭載可能となる. 白線認識装置(カメラ, レーザ), 車間距離認識装置(レー

ザ, ミリ波), 障害物認識装置(レーザ, ミリ波, ステレオカメラ), 車車間

通信(無線, 光)のような冗長システムとなっている.

実現に向けて高速道路における下記のような種々のケーススタディを行う

必要がある.

・隊列に割り込みで参加するケース

・隊列から離脱するケース

・低速で走行する乗用車に追従するケース

・隊列走行中に乗用車が間に割り込むケース

・障害物を回避するケース

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・横風が突発的に吹くケース

・先頭車両が交代するケース(先頭車両の燃費は低減できない)

・事故が起きるケース(責任は誰なのか?)

・異なる運送会社が混在するケース(先頭の会社だけが損をする)

・荷物が所定時間に到着しなかったケース

図 16.エネルギーITS プロジェクトの走行風景

(NEDO の WEB サイトから転載)

⑨ 渋滞減少

平均旅行速度を下げているのは渋滞である. 自動運転車は, 車外との通信が

可能なので, 中央の管制システムと情報の授受をすることが可能である. 中央

の管制システムが, ビッグデータ分析を行い, 個々の自動運転車に適切な指令

を出すことができれば渋滞減少につなげることができる.

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⑩ モーダルシフトシステム効率向上

前節において, モーダルシフトは重要であることを述べた. 自動車単独での

燃費の大幅向上は困難であるが, 他のより燃費の良い交通機械との連携をす

ることにより, 大幅な燃費向上が得られる. 但し, それには利便性が必要とな

る. 単にコストアップするだけでは, 普及することはできない. 利便性として

は, 下記のようなものが考えられる.

・過疎地における鉄道と自動運転車の連携+自動運転化

JR 北海道とトヨタが開発した DMV(デュアルモード車両)という

ものがある. これは線路と道路の両方を走行可能な車両である. 線路を

走行する場合は, 鉄輪を使用するので, 転がり抵抗がゼロに近くなるた

め, 燃費低減となる. この車両を自動運転車(レール上, 公道上)とす

れば過疎地において活躍可能となる. DMV は北海道では実用化を断念

したが, その後も地方鉄道(徳島 図 17)にて導入検討が行われてい

る. 将来的には, 自動運転化が必要になる.

図 17.DMV(徳島新聞 WEB サイトから転載)

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・多島海における自動運転船と自動運転車の連携

(シームレス小型船, 図 18, 図19)

瀬戸内海のような離島が多い地域では, 交通と物流に課題を抱えて

いる. 自動運転船と自動運転車のセットにより燃費向上を図りつつ課

題を解決可能である. 但し現状では, 自動運転化はされていない.

図18.シームレス小型船全景

(日本機械学会交通・物流部門 WEB サイトから転載)

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図 19.シームレス小型船船内

(日本機械学会交通・物流部門 WEB サイトから転載)

・過疎地におけるドローンと自動運転車の連携(8)(図20)

自動運転車(隊列走行)などで近くまで荷物を運び, 最後はドロー

ンにて荷物を必要な場所に届ける.

図20.ドローン宅配(ダイアモンドオンライン WEB サイトから転載)

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⑪ エコドライブ

実用燃費がドライバによって異なることはよく知られている. エンジンは,

負荷と回転数により効率が異なる. 実用燃費の優れたドライバは, 最も効率の

良い燃費の目玉と呼ばれる領域をできるだけ使用することで高い燃費を実現

している. 自動運転車では, 燃費の目玉を考慮しつつ最大の燃費が得られる速

度で走ることが可能である. 個別ドライバによる運転の仕方を, 熟練ドライバ

の運転に変えて, 誰でも燃費最大の走り方にすることができる.

自動運転車は, AI が運転するシステムである. 人間が運転するシステムで

は, 燃費の良い運転ができるドライバとそうでないドライバがいるため, 低燃

費車になっても必ずしも実用燃費は向上しない難点がある. AI に最高の燃費

となるドライバの運転技術を移植すればすべての車両の実用燃費が向上する

のである.

⑫ 交通需要管理

オンデマンドバスと同じく需要に応じた配車にすることにより, バスやタ

クシーの低燃費化が望める. また, 渋滞も防ぐことができる.

⑬ 都市のコンパクト化

社会システムとしてのコンパクトシティの推進は 2003 年から提唱されてい

る. 地球温暖化を目指したものであり, 自転車の利用が前提となっている. し

かし, 現実には, コンパクト化は進んでいない. 自転車利用に頼るには物流の

観点から無理が多いからである. 小型の自動運転車を使うことにより物流の

問題は解決できる可能性がある. 将来的には, 歩行者自転車層と自動運転車層

の 2 層化により, より優れた交通と物流が可能となる.

⑭ 空気抵抗低減

トラックの空気抵抗低減を隊列走行にて解決できることを述べた. 乗用車

においても同様な隊列走行による空気抵抗低減は可能であるが, 乗用車の隊

列走行はもともと Cd 値が小さいためあまり効果がない. 乗用車においては,

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風の向きによる最適走行速度システムが有効であろう. 向かい風の場合は, 空

気抵抗を下げるために低速走行にし, 追い風のときは高速走行にする.

⑮ 減圧トンネルによる空気抵抗低減

イーロンマスクの提唱する真空チューブは, 空気抵抗をゼロとする超高速

輸送システムである. 減圧トンネルは, トンネルのなかを真空に近く減圧す

る. これによりトンネルの多い日本の高速道路では無視できない燃費低減と

なる.

⑯ アイドルストップ

車両が動いていないとき, エンジンのみならず全システムをシャットダウ

ンにする. 稼働していないときはエネルギーロスをできうる限り避けること

が肝要である.

⑰ エネルギー回収効率向上

ブレーキ等車両走行の運動エネルギーを車外に発散する場合は, エネルギ

ーロスになる. できるだけ車外に発散するエネルギーロスを抑える運転をす

る.

(3) 結言

この節の最後に感じたことをまとめておく.

・環境問題解決に自動運転車が寄与できる.

・社会システムも考慮した大きな目で見なければならない.

・今後多くの考えが出てくると思われるので, どんどん改訂していく必要

がある.

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文 献

(6) 日本機械学会「自動運転に関する分野横断型分科会」第5回会合における話題

提供資料(法政大学 糸久准教授)

(7) 日本機械学会, 自動運転に関する分野横断型分科会で作成したロードマップ,

https://www.jsme.or.jp/innovationcenter/uploads/sites/6/2016/09/ARM-2D.zip(2016)

(8) 日本機械学会講習会「自動運転の社会的効用」講習会テキスト,2017

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第 6 章 自動運転に必要な性能

6.9 レーンキープ 秋田 時彦 (豊田工業大学)

サマリ

ここでは,レーンキープの開発及び製品化の歴史を述べ,実現するための技

術要素を環境認識と制御技術に分けて概説する.さらに今後の方向性について

も述べる.

ポイント

・レーンキープとは

・走行レーン認識技術

・ステアリング制御技術

(1) はじめに

レーンキープとは,一般的には Lane Keeping Assistance System (LKAS)

のことを指し,高速道路などでの巡航走行中に,運転負荷の軽減及び車線逸

脱事故の低減のために,車線内へ走行維持する様にステアリングを制御する

ものである(図 1).特に北米ではレーン逸脱事故の割合が多く,効果が期待で

きる(図 2).現状では,あくまで支援の位置付けとなっており,ドライバの操

作が長時間不要な自動操舵は許されていない.しかし,ここでは将来像も示

すため,ドライバの介在しない自動操舵も含めて説明する.

図 1.レーンキープアシストの効果 図 2. 北米におけるレーン逸脱

事故の割合

※ 出典: JNCAP homepage ※ 出典: NHTSA RDCW-Final-Report-Vol.1-June

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まず,LKAS については,高速道路での長時間に渡る定速走行の支援を目的

としており,高速道路の白線を車載カメラにて検出して,レーン内を走行する

様に弱い操舵トルクで電動パワーステアリング (Electric Power Steering:

EPS)などを支援制御するもので,ドライバは基本的にステリングホイールに

手を添えて制御しなければならない.これは自動運転レベル 2 に該当する.こ

れに関して,本節ではカメラの白線検出概要とステアリング制御手法について

概説する.また,ドライバの手放し運転などのシステムへの過剰な依存を防止

する方法についても触れる.

※出典: cartech homepage

図 3. フロントカメラを用いて白線を検知しステアリング制御する LKAS

レーンキープの将来動向として,自動運転レベル 3 以上の自動操舵について

も概説する.自動運転レベル 3 では,ドライバが必要に応じて操舵しなければ

ならないが,基本的には手放しを許容するため,走行領域の頑健な認識が必要

となる.この方法についても解説する.自動運転レベル 4 と 5 ではさらにその

要求が高くなるが,特にレベル 5 では走行環境が制約されないため,現状では

実現は難しい.

(2) 開発と製品化の歴史

レーンキープの研究開発の歴史は自動運転・自動操舵の歴史と重なるが,こ

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こで概観する.最初の研究は 1950 年代に遡り,誘導ケーブルを用いたガイド

方式による自動操舵の研究が,津川らによって行われた 0.その後,1970~80

年代にはカメラを用いたマシンビジョンによる自律型システムの研究がドイ

ツ(図 4),米国,日本の各所にて行われたが,カメラの性能やコンピュータの

計算能力などの電子技術が十分で無かったため,製品化には至らなかった 2) .

1980 年台半ば頃から,路面に埋設した磁気ネイルを用いたガイド方式の研究

なども行われ 3) ,米国や日本にて,実際の高速道路で実証実験やデモ走行が行

われた(図 5).2000 年代になると,さらに実用化を目指し,愛知万博などで来

場者への輸送サービスが行われたり,トラックの編隊走行における自動操舵の

実証実験が行われた 4) .

図 4. VITAII の公道自動運転実験 図 5. 米国サンディエゴの高速道路での自

動運転実験

※出典: Prometheus Project 広報資料 ※出典: UC Berkeley 広報資料

製品としては,2001 年に日産自動車より,レーンキープサポートシステム

の名称で世界で初めて商品化された 5) (図 6).その後,ホンダ,トヨタ自動車

などから相次いで製品化された.これらは全て自動運転レベル 2 で定義される

システムであるが,自動運転レベル 3 のシステムは,世界で初めて 2017 年に

Audi から製品化された.ただし,速度 60km/h 以下の制限付きで,まだドイ

ツ国内でしか認可されていない 6) .

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※出典: 日産シーマ広報資料

図 6. 世界初のレーンキープサポートシステム構成図

現在,国内で販売される製品は,国土交通省の定める以下の技術指針に準拠

していなければならない.

1. ドライバが機能をオン/オフできるスイッチを備えていなければならない.

また,エンジンをかけた直後はオフでなければならない.

2. システムの作動下限速度が 65km/h 以上であること.これは,高速道路・

自動車専用道路を対象であることにより,一般道の法定速度 60km/h より

高い数値に定められている.各社の下限速度は 65km/h で統一されてい

る.

3. 機能の作動状態がメータなどで常に表示されること.各社ともにメータ内

のディスプレイ上に,白線やハンドルのデザインの表示を行っている.

4. カーブ半径が 1,000m よりも急な道路まで作動可能な機能は,ハンドルか

ら手を離した場合に機能を停止させること.

乗用車向けではないが,現在商用化されているシステムとしては,自動運転

レベル 4 の低速 EV シャトルバスがあり,2016 年からシンガポールの植物園

などにて商用運用されている.この走路検知には GNSS(Global Navigation

Satellite System)と LiDAR(Light Detection and Ranging)を用いた自己位置

推定技術が使われている.このシステムは,一度走路をマニュアル走行し,そ

の形状をデジタル地図として記憶してこれに基づき自動走行を実現させてい

る.

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(3) 走路認識技術

ここでは,走路を認識するための各種方式についてその得失と併せ概説する.

技術詳細については参考文献を参照されたい.

(a) カメラ

現状,乗用車向けの LKAS 用走路認識に使われている唯一のセンサである.

ルームミラーの裏側に設置したカメラの画像を用いて前方のレーンマーカを

検知し,その内側を走路とし,ステアリング制御の目標軌跡を生成する.

カメラは 3 次元空間情報を 2 次元画像に射影投影する.投影された画像に対

し,各種演算を行って車両の走行領域を抽出するが,まず現在製品に使われて

いる車線境界を表すレーンマークの検出方法を説明する 7) -9) .前方風景の輝度

画像に対して,まず微分を行い境界点群を抽出し,その点群に対してレーンを

構成する直線若しくは曲線をモデル当てはめによりもとめる.この微分手法は

各種あるが,一般的に Sobel フィルタが使われる.精度良くエッジの細線を求

める方法として Canny edge detector などがあるが,計算量の問題があり,製

品としては殆ど使われていない.直線若しくは曲線のモデル当て嵌めに関して,

一般的には Hough 変換がよく利用される.他にも計算量やメモリ量を考慮し

て RANSAC が使われることもある.曲線の場合は,道路曲線や道路縦断勾配

曲線を考慮した多項式曲線モデルが必要であるが,高次のモデル誤差を考える

と 2 次多項式,最大でも 3 次が使われる.実環境では影やレーンマーク掠れな

ど各種ノイズが含まれているため,得られたレーン境界を用いて,実際の道路

境界を推定する必要がある.これには,道路に関する知識を用いてフィルタリ

ング処理を行う.この道路に関する知識は,レーンマークの幅,レーンの幅,

レーンの平行性,時系列の連続性,カーブマークなどの特殊パターンなどであ

る.さらに,レーンには黄色線や 2 重線,分岐・合流などのゼブラマーク,北

米での鋲マーカ(Botts’ Dots と呼ばれている.図 7)などもあり,それぞれに対

応したフィルタが必要となる.

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図 7. 北米の鋲マーカ(Botts’ Dots)道路シーン

図 8. 朝日に向けたカメラの路面反射画像

※リアカメラとの比較のため,フロントカメラを後方に向けている

レーンマーク検出の課題について言及する 10) .太陽が低い位置にある早朝

や夕方に,太陽に向かって走行すると路面が全反射を起こしレーンマークが見

えない場合がある(図 8).これに関しては,リアやサイドカメラを用いること

で路面反射の影響を無くし,レーンを検出することで補完できる.ただし,前

方カメラの様にプレビュー情報が利用できず,遅れが発生するので,GNSS と

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デジタル地図を利用するなどの改善策が必要である.レーンマークは,摩耗で

消失したり,逆光や夜間雨天時の照明映り込みなどで見えない時がある.また,

明るい状況で影の中にレーンマークが入っている場合,カメラのダイナミック

レンジが低いと見えなくなる場合がある.その様な場合でも平坦な走路面を検

出し,補完できることがある.それには,画像上での特徴点を追跡し,三角測

量の原理で立体物を復元する Structure from Motion (SfM)の技術を応用する.

これにより 3 次元復元された環境の中で,平坦な領域を走行可能領域として制

御に用いる.ただし,特徴点検出のために背景に明瞭な画像パターンが必要で,

検出には限界がある.さらに豪雨,霧,降雪などカメラでは見えない環境での

検出は不可能であり,システム停止か別のセンサを利用するしかない.

(b) 磁気ネイル

路面の走行軌道に磁石を埋め込み,それを車載の磁気センサで読み込むこと

で,軌道からのズレを検出してレーンキープ制御に利用する方法が,1980 年

代から研究開発されている.照明や天候の変動にも強いため,愛知万博にてパ

ーク内移動手段として利用するなど,各所で実証実験が行われた(図 9).しか

し,設置やメンテナンスのコストの問題で実用化には至っていない.近年,愛

知製鋼にて低コストのMI磁気センサが開発され,道の駅などでの自動運転EV

シャトル実証実験に使われて再び注目されつつある(図 10).

高速走行において必要なプレビュー情報はそのままでは得られないが,磁気

ネイルの N/S 極性を使って前方の道路曲率をコード化する研究も行われた.

低速の EV シャトルではプレビュー情報は不要である.

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図 9. 愛知万博の自動運転バス(IMTS)

※出典: Wikipedia

図 10. MI 磁気センサを用いた磁気ネイルシステム

※出典: 2017 年 ITS 世界会議愛知製鋼展示パネル

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(c) GNSS (Global Navigation Satellite System)

GPS(Global Positioning System)に代表される衛星を使った測位システム

で,民生で使われるものは 10m 程度の誤差があるため,そのままではレーン

キープには利用できない.数 cm の測位精度が得られる準天頂衛星システム

(Quasi-Zenith Satellite System, みちびき)が整備されつつあり 11) ,その利

用可能性も期待されているが,トンネルや高架下などあり常時受信の保証が無

く,他のセンサとの併用で用いられると考える.

(d) LiDAR (Light Detection and Ranging)

レーザパルス光を照射し,その反射時間(TOF: Time Of Flight)から距離を測

定するが,照射光の分解能が高いため,高精度な測量が可能である.これを回

転機構などで周囲に照射し,周辺環境の 3 次元形状を測定し,自己位置を推定

してレーンキープに利用可能である.自動運転の実証実験やデモ用のセンサと

して標準的に使われているが,現状では高コスト,設置における意匠,デジタ

ル地図整備などの問題があり,低速自動運転EVシャトル向けなど一部を除き,

実用化には至っていない.

レーザレーダを用いてレーンマークを検出する研究も行われたが 12) ,レー

ンキープとしてはプレビューのための遠方での分解能が不足しているため,そ

のままでは利用できず,近傍カメラ利用と同様,地図との併用などが必要であ

る.

(e) ミリ波レーダ

カメラなどでは照明環境や悪天候時に検出がレーンマークを検出出来ない

ため,耐環境性の高いミリ波レーダを用いる方法が研究されている.通常のペ

イントによるレーンマークは電波反射が小さいため,そのままでは検出できな

い.そこで,電波反射する導体を混入させたペイントと反射面を形成するリブ

を付けたレーンマークが研究された 13) , 14) .しかし,高さのあるリブの設置性

の問題やメンテナンスを含めたコストの問題があり,実用化には至っていない.

一方,カメラや LiDAR と同様,背景構造物の反射から相対位置を求め,自己

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位置推定する方法が開発されている.ただし,安定した反射体の構造物は常時

検知できるものでは無く,特別なデジタル地図が必要なため,製品化はされて

いるが,まだ実際の車両には採用されていない.

(4) ステアリング制御技術

レーンキープに必要な制御技術を,制御則とそのためのモデル化に分けて説

明する.

I. モデル化

基本的に定速走行を前提としているため,左右輪の和を取った 2 輪モデルを

利用する(図 11).これは,前後の荷重移動が無く,タイヤ摩擦限界よりも十分

小さな領域での制御であるため,車両の横方向と回転運動に関する線形運動方

程式で扱える.レーン位置制御のため,さらに目標軌道からの横偏差と変位角

に関する運動方程式も必要である 15) (図 12).

図 11. レーンキープ制御設計用 2 輪モデル 図 12. レーンと車両の関

係モデル

基本的には,これらを用いて制御則を設計する.必要に応じて操舵系機構の

遅れも考慮し,運動方程式を追加する 20) .

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II. 制御

基本的な制御は以下で説明する最適制御が用いられるが,LKAS の支援制御

の場合は,ドライバが制御主体であるため,トルク制約と違和感の無い介入制

御が必要で,舵角やトルク偏差に応じた非線形ゲインを用いる.一般的には,

偏差が少ない時にはフィードバックゲインを小さく,大きくなるほどゲインを

大きくする.レーンキープ制御に関しては,技術的には確立されていると考え

て良い.

(a) LQG (Linear Quadratic Gaussian, 線形 2 次ガウス型制御)

当初,主に使われた方式である.2 輪モデルの全ての状態をフィードバック

し,その応答の 2 乗誤差を最小化するパラメータを求めるものである.理論的

には最適化されているが,パラメータの重みを試行錯誤で調整する必要がある

16) 17) 18) .レーン位置など計測ノイズが大きいので,Kalman filter がよく使わ

れる.

(b) MPC (Model Prediction Control, モデル予測制御)

これは,モデルから一定時間後の状態を予測計算し,それが目標と一致する

様に制御入力(この場合はステアリングトルク)を最適化計算するものである.

LQ 制御と計算上では等価であるが,MPC の方が直感的で設計しやすいため,

レーンキープ制御には一般的によく使われる.

(5) 関連技術

(a) ステアリングホイール把持検出

LKAS はあくまでドライバが運転主体の支援制御であるため,ドライバが運

転操作をしていることを検知して支援操作を中断する仕組みが現状では義務

付けられている.ステアリングトルクから推定する方法とステアリング把持セ

ンサを使う方法がある.ステアリングトルクからドライバの操舵を推定するに

は,制御アルゴリズムから推定した必要操舵トルクが一定以上ある場合に,

EPS の印加トルクが無いことを検知することで実現できる.これは特別なセ

ンサ不要で推定できるが,必要操舵トルクが小さい場合は推定できない場合が

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あり,完全では無い.容量センサなどのステアリング把持センサを使う場合は

常時検出可能であるが,コストアップとなる.よって,現状ではステアリング

把持センサは殆ど使われていない.

上記はドライバのハンドル操作を検出するものであるが,さらにドライバの

視線検出や意識検出が要求されてくる.(Hands off, Eyes off, Brain off) ここ

では詳細な議論は他の章に譲るが,正確な検出は非常に難しい.

(b) 自動運転とマニュアル運転の切り替え

レーンキープ関連の重要な技術の一つではあるが,別の章にて説明されてい

るため,そちらを参照されたい.

(c) ブレーキ制御による LDP (Lane Departure Prevention System, レーン

逸脱防止システム)

EPS が付いていない大型車両では,LKA を実現するために専用のステアリ

ングアクチュエータを追加する必要があり,コストアップとなる.そのため,

ESC(Electronic Stability Control)を利用して,車両がレーンを逸脱しそうに

なった場合に,反対側の車輪のブレーキをかけることよりレーン中央へ戻すヨ

ーレイトを発生し,逸脱防止機能を実現することができる.これは既に日産よ

り製品化されたが 19) ,EPS 装着車両では不要であることと,ブレーキによる

減速感やパッド摩耗により,将来的に普及は見込まれない.

(d) フロントカメラ以外のセンサを用いた LKA

前述した様にフロントカメラにて前方レーンが見えなくなった場合に,リア

カメラなどの周辺監視カメラを用いて LKA を実現することが可能である.た

だし,前方道路形状情報が無いため,そのままでは遅れが生じるので,GNSS

などからの補完情報を用いて制御を行うことが考えられる 20) .前述したトラ

ックの編隊自動走行においても,短い車間距離で前方トラックに追従している

際に同様に前方が見えないため,側方のカメラやレーザレーダにて近傍のレー

ンを検出する必要があり,同様の技術が応用できる.

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(6) 将来動向

基本的にはレーンキープは自動運転の一部であり,将来動向もそれに準ずる

が,関連部分を以下に記述する.

・自動運転レベルは,現状の高速道路専用の 2から,3,4,5,さらには一般道

での利用に進んでいくが,それに伴い走路認識のロバスト性・耐環境性の向

上が要求されるため,徐々に改良されていく.

・乗用車向けのレーンキープにおける走路認識は,基本的にドライバと同様に

レーンマークを認識する必要があるため,当面は可視光カメラが主流のま

まである.しかし,耐環境性向上にはアクティブセンサが必要で,補完セン

サとして,以下が採用されていくが,コストの問題もあり,一部の高級車を

除き,普及には時間を要する.

(補完センサ)

・LiDAR

レーンマークの検出も可能な場合もあるが,遠方では精度が不足するため,

構造物を検出し,自車との相対位置をデジタルマップから推定する方法が

利用される.

・ミリ波レーダ

電波反射の明確な構造物を検出し,自車との相対位置をデジタルマップか

ら推定する方法が利用される.

・GNSSとデジタルマップ

前述の通り,みちびきの様な高精度 GNSS で自車位置を推定して走行軌道

を求める.

・自動運転 EV シャトルにおいては,最初から一般道を想定しているため,乗

用車向けとは異なり,レーンマークは利用せず,以下のセンサが利用される.

(利用センサ)

・GNSSとデジタルマップ

前述の通り,準天頂衛星が整備され,常時位置精度が数 cm になれば利用

が進むが,当面フェールセーフ用の下記に示す自律型センサとの併用され

る.

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・LiDAR

決められた経路を走行するので,最初に一度その経路を走行してシステム

が LiDAR の反射点群を用いたデジタル地図を生成し,運用時にはその地図

を利用して自己位置推定して自動走行する.

・磁気ネイル

磁気ネイルと車載センサ,磁気ネイルメンテナンスシステムが低コスト化

され,耐環境性が高いため,利用が拡大されていく.しかし,インフラコス

トはある程度かかるため,地域は限定される.

・ステアリング制御に関しては,既に完成の域に達しているため,将来的にも

大きな進展は無い.

文 献

1) 津川定之,自動運転システムの 60 年,計測と制御,Vol.54,No.11, pp.789-

802, 2015.

2) B. Ulmer, VITA II-active collision avoidance in real traffic, Proceedings of

the Intelligent Vehicles '94 Symposium, pp. 1-6. 1994.

3) S. Shladover, C. Desoer, J. Hedrick, M. Tomizuka, J. Walrand, W. Zhang, D.

McMahon, H. Peng, S. Sheikholeslam and N. McKeown: Automated vehicle

control developments in the PATH program, Vehicular Technology, IEEE

Transactions on, 40, 1, pp. 114-130, 1991.

4) 青木啓二,森田康裕,自動運転・隊列走行システムの開発(第 1 報),自動車技

術会学術講演会 講演予稿集,No.94-09, pp.1-4, 2009.

5) 毛利宏,白土良太,古性裕之,画像処理による車線追従制御の検討,電子情報

通信学会技術研究報告. Vol.101, No.285, pp.55-60, 2001.

6) https://www.audi.jp/piloted_driving/

7) 峯田憲一,鵜浦清純,池田哲夫:レーンキープアシストシステムにおける白線

認識システムの開発, Honda R&D Technical Review, Vol. 12, No. 1, pp. 101-

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108, 2000.

8) M. Nishida, S. Kawasaki, A. Watanabe:Development of Lane Recognition

Algorithm for Steering Assistance System, SAE Technical Paper 2005-01-

1606, 2005.

9) 秋田時彦: 第 1 章 第6節 後方モニターカメラを用いた走行支援システム,

【最新版】車載用センサ/カメラ技術と安全運転支援システム, 技術情報協会,

2009.

10) Tokihiko Akita, Masahiro Mizuno: Comparison Between Front and Rear

Camera for Lane Recognition, Proceedings of the 15th World Congress on

ITS, No.10094, 2008.

11) http://qzss.go.jp/news/archive/meclo_171108.html

12) 小川高志, 高木聖和, レーザレーダによる車線認識技術, 自動車技術会学術講

演会前刷集 42-06, pp. 5-8, 2006.

13) 日本自動車研究所, 平成 26 年度 戦略的イノベーション創造プログラム(自

動走行システム):全天候型白線識別技術の開発及び実証 報告書, 2014.

14) 石本幸太郎, 長谷川渉, 杉山裕一, 中村英夫, 後呂孝亮, 岸田正幸, ミリ波レ

ーダによるリブ式白線検知, 富士通テン技報 Vol.34 No.1, pp. 9-17, 2017.

15) 安部正人: 第 3 章 車両運動の基礎,自動車の運動と制御,東京,山海堂, pp.

49-104, 1992

16) 定野温,知久直哉,芥川清,渡辺敏之,島影正康:レーンキープサポートシス

テム, 自動車技術, Vol. 55, No. 11, pp.36-41, 2001.

17) M. Shimakage, H. Kawazoe, O. Sadano, T. Murakami: Design of Lane-

keeping Control with Steering Torque Input for a Lane-keeping Support

System, SAE Paper, No.2001-01-0480, pp. 1-8, 2001.

18) M. Tsuji, R. Shirato, H. Furusho, K. Akutagawa: Estimation of Road

Configuration and Vehicle Attitude by Lane Detection for a Lane-Keeping

System, SAE Paper, No. 2001-01-0799, pp.1-7 , 2001.

19) 早川泰久, 佐藤行, 作井寛史, レーンデパーチャープリベンション(LDP)シス

テムの開発 (特集 Safety Shield コンセプトに基づく安全新技術), 日産技報

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(63), pp. 11-14, 2008.

20) 秋田時彦, 水野将弘: 後方カメラを利用したレーンキープアシストシステム,

自動車技術会論文集,Vol.40, No.6, pp.1575-1580, 2009.

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第 7 章 自動運転の製品開発技術

7. 2 ”分野横断型”イノベーション創出(企画段階)

高田 博 (東京理科大学)

サマリ

自動運転車の企画においては機械, 制御, 情報通信及び人工知能のみならず

社会, ビジネスという文系の分野及び設計学という方法論も含めた分野横断

型活動が重要になってくる. 本稿では, 自動運転車の企画段階における”分野

横断型”イノベーション創出方法について述べる.

ポイント

・自動運転の企画段階における 3 軸で整理する技術の俯瞰(5 年先まで俯瞰)

・新結合による“分野横断型”イノベーション創出(30 年先まで俯瞰)

・“分野横断型”ペア・システム(上記の実行において必要な創造性組織)

(1) スティーブ・ジョブズの事例

アップル社は, スティーブ・ジョブズによる革新によって, 世界で最も価値

ある企業に成長した. その時の状況は現在の自動車産業と似ている. 成功して

盤石に思えた企業もすぐに赤字に転落する. アップルのやり方(当時のアップ

ルはPCの販売がうまくいかず倒産寸前だった)は下記のステップを踏んでい

る.

1.ジョブズがイノベーションのアイデア出し

2.ウォズニアクが設計して動くものにする

3.製造を外部に委託

4.株式配当金をゼロにすることで開発資金確保

倒産寸前という状況で死に物狂いにならないとイノベーションは成功しな

い. アップル社の成功は倒産寸前の状況により社内の保守反動勢力が弱かっ

たことが大きい. アイデアを出しても設計が動かなければ製品化できない. 倒

産寸前という状況が開発部門全体の奮起を促したのである. 当時, ソニーも開

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発できたであろう技術であるが, ソニーでは社内の現状維持勢力(保守反動勢

力ではない)が開発を阻止していた. ソニーはウォークマンの成功により音楽

再生装置の世界で世界トップであり, そこから得られる利益を維持しようと

していた. 筆者もウォークマンの愛好者であったが, アップルの音楽デジタル

化イノベーションに対抗したソニーのアンチデジタルソフトがソニーのCD

に仕込まれていたので, ソニーを見限った. 世の中のニーズに抵抗する企業は,

ユーザーからすぐに見限られる.

現時点で自動車の分野では, 日本は, 日本人の得意とするたゆまない改善,

すり合わせにより世界の自動車産業の勝利者となっている. 欧米の自動車産

業は, 日本に負けて危機に瀕していて, ちょうど以前のアップルと同じよう

な立場にある. アップルと同じように死に物狂いで自動運転というイノベー

ションを進めているところである. イノベーションは, 日本人は得意ではな

いので, 何等かの対抗策がなければ, 欧米に負けてしまうことは明らかであ

ると考え,“分野横断型”イノベーション創出の体系化を行うことにした.

(2)“分野横断型”イノベーション創出

① 技術及び社会の俯瞰(5 年先まで俯瞰)

設計学(例えば, 吉川弘之の設計学(9)参照)では, まず全体の俯瞰(現状把

握)が必要であると考える. 本創出法では, 異なる分野の専門家集団により最

初に充分な時間をかけて, システム/要素技術軸, 機能/性能軸, ビジネス/社会

軸の3軸で俯瞰し, さらに技術ロードマップを作成して, 異なる分野間の認識

の統一化を図る. 認識を統一することは根幹をなす部分であり, 非常に重要で

あるが, 当研究会では 2 年を費やした. 今後のイノベーション創出過程におい

て重要なステップになるため漏れのない俯瞰が必要である. 漏れのない俯瞰

のために, QFD を用いて市場の要求品質を収集, 要求品質を抽出(KJ 法, 親和

図法), 要求品質展開表を作成するステップを踏む. このステップは, 企業の

製品企画で実施することと等価である. 当研究会では, このステップを 2 回実

施したが, 2 回目になると知識が増えるため膨大な作業になった.

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② “分野横断型”イノベーション創出(30 年先まで俯瞰)

最初にイノベーションを論じたシュムペーターは初期の主著『経済発展の理

論」(10)でイノベーションという言葉はまだ使っていないが, 「新結合 new

combination が経済発展を生む」としている. この新結合という考え方で従

来存在しないこと・ものを創出していく. この作業は, 俯瞰のステップで用い

た QFD とは真逆となり, 全く違う言葉の組み合わせから新結合を創出する

ものになるので, DFQ(QFD の逆)と名付ける. QFD では, 現時点で見えて

いること・ものを整理整頓する作業となるが, DFQ では, 現時点で見えてい

ないこと・ものを創造する作業となる. したがって, QFD より膨大な時間が

かかるし, 単独で実施するには困難が大きい. そこで, この作業では, 下記に

示す“分野横断型”ペア・システムという組織的活動が不可欠である.

③ “分野横断型”ペア・システム

イノベーション創出作業は, 非常に高度な知的作業になるので, 当研究会では,

個人で実施, 6 名の小集団で実施, 2 名の小集団で実施といくつか方法を検討し

た. その結果, 専門分野が全く異なる 2 名の小集団により最も効率よく創出で

きることが判明した. これは, 糸川英夫の主張(11)を裏付けるものである.

④ 技術ロードマップ

QFD, DFQ の事例に示す 2 次項目に対して、今後 30 年間の技術ロードマッ

プを作成する。技術ロードマップによって今後の研究開発の優先順位を明らか

にすることが目的である。

またこの作成作業によって、分野横断型チームメンバーがそれぞれの専門分野

とは異なる分野についての理解を深めることができる。

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(3) 技術及び社会の俯瞰の事例(5 年先まで俯瞰)

① システム/要素技術軸

表1に当研究会で実施したシステム/要素技術軸のQFD結果を示す. 技術

の進歩が速いので, 毎年見直しを行う必要があると考えられる. (本事例は, 4

年前に実施したもの)

1次ラベル 2次ラベル 3次ラベル

システム

自動運転システ

自律型安全運転支援装置

協調型安全運転支援装置

車群制御・交通管制装置

レベル1システム

レベル2システム

レベル3システム

レベル4システム

運転支援システ

車線維持支援装置

渋滞走行支援装置

衝突回避装置自動ブレーキ+ステアリング

衝突被害軽減自動ブレーキ

交差点制御装置

プラトーン走行装置

車間距離制御ACC装置

車線変更支援装置

駐車支援装置

合分流支援装置

右左折支援装置

自動発進/停止支援装置

歩行者等を認知可能な安全運転支援装置

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通信装置

車車間通信装置

路車間通信装置

歩車間通信装置

クラウド

要素技術

ECU

ECU

OS ソフトウェア

フェールセ|フ

異常診断

センサ

ミリ波レーダー

マイクロ波レーダー

3次元 LIDAR

カメラ

GNSS |GPS 等|

超音波センサ

磁気センサ

音響センサ

赤外センサ

電波/電界センサ

センサフュージョン

通信

電波ビーコン

光ビーコン

磁気マーカー |道路埋設型等|

RFID/トランスポンダ

Bluetooth

ループコイル

漏洩同軸ケーブル | LCX |

通信衛星

放送波, FM多重

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判断技術

地図生成

自己位置の同定

横方向位置の同定

走行経路

衝突可能性

車体の衝突部位

操作タイミング

運転嗜好

走行安定化のための推定

操作技術

制動 |ブレーキ自動制御|

操舵 |ハンドル, 操舵角自動制御|

駆動力(アクセル, エンジン駆動力, 変速比

制御)

サスペンション制御

複数を同時に操作するもの

車内警報

車外警報

HMI

監視 運転手→機械

監視 機械→運転手

切り替え 手動運転→自動運転

切り替え 自動運転→手動運転

操作方法 音声認識

操作方法 ジェスチャ認識

操作方法 遠隔操作

表示装置

調停

記録システム ドライブレコーダ

データレコーダ

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社会受容

に必要な

システム

ナビ走行記録

表1 システム/要素技術軸のQFD結果

② 機能/性能軸

表 2に当研究会で実施した機能/性能軸のQFD結果を示す. 技術の進歩

が速いので, 毎年見直しを行う必要があると考えられる. (本事例は, 4 年前

に実施したもの)

1次ラベ

ル 2次ラベル 3次ラベル

社会受

容性

社会受容

ドライバに問題なく受容される

自動運転価値の評価手法

社会受容性が獲得できる

安全性が実証できる

フェールセーフ

フェールセーフである

自動運転システム故障時の車両挙動の規定

フェールセーフ車両制御ができる

制御コンピュータのフェールセーフ化ができる

アクチュエータのフェールセーフ化ができる

異常を検出し自動的に故障系を切り離し異常

動作を防止できる

システムの健全性チェック

自動運転の健全性モニタリング

自動運転の不具合の確認と遠隔対処

信頼性 システムに高い信頼性がある

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高い信頼性を持つ

車車間通信の信頼性が高い

ドライバ以上の機械の信頼性がある(不注意・

漫然・居眠り・病的)

ロバスト性

車の暴走を防ぐ

制御のロバスト性がある

制御の安全性が実証できる

太陽光, 降雨時の影響を排除できる

システムセキ

ュリティ

車両外部からの制御性

車両電子システムのセキュリティの確保

データ保護(個人情報)

システム保護(ハッキング対処)

コスト コスト分担手法(インフラ含)

経済効果(社会受容性とリンク)

知的財産保護 知的財産保護

法規対応 法律解釈対応

法改正対応

維持管理

バージョンアップ対応できる

維持管理が効率化できる

欠航率の低減

経年劣化の管理

メンテナンス最適化

責任範囲 リスクマネジメント(責任所在)

ドライバとシステムの責任範囲が明確化になる

事故対応

事故時の対処

事故他車の救援

火災対応

公共交通 公共交通との連携ができる

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混在交

公共交通衰退をカバーする

公共交通利用情報が提供できる

公共交通の運行・運行管理支援できる

商用車対応

商用車の運行管理を支援できる

商用車の連続自動運転ができる

モーダルシフト対応

混在交通

手動と自動の混在交通に対応できる

多様な自動運転方式の共存(混在)に対応可

他の運転車から変に見られない運転

大型中型小型

車に対応 自車の大きさに応じた制御能力の違いの考慮

衝突防

全天候型の高

信頼な衝突防

止(自動車, 二

輪車, 自転車,

落下物, 歩行

者)

危険警告できる

危険防止できる

前方障害物衝突防止支援できる

カーブ進入危険防止支援できる

出合い頭衝突防止支援できる

右折衝突防止支援できる

横断歩道歩行者衝突防止支援できる

前方障害物との衝突防止ができる

障害物との衝突回避ができる

停止車両, 歩行者との衝突防止のための自動

停止ができる

移動物標のセンシング

戦略的な衝突コースの回避

緊急衝突回避

衝突回避時の相手の行動の不確実性への対

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衝突回避合意

形成 車車間通信による衝突回避法の合意形成

環境問

交通流最適化 交通流が最適化できる

自律分散性

環境

環境負荷を最小化できる

カーシェアリングでの活用

燃料の選択(得やすさ, 給油のし易さ, メンテナ

ンスフリー)

環境負荷低減

省燃費

自然エネルギーの利用

情報関

連技術

道路・交通環

境情報

道路インフラとの連携

交通関連情報を提供できる

目的地情報を提供できる

走行環境情報を提供できる

交通事故時の交通規制情報を提供できる

通行規制情報を提供できる

路面情報活用

できる

運転操作に関する環境情報の検出と認識がで

きる

道路交通環境情報を得る

渋滞や事故などの交通障害情報を得る

走行進路上の環境情報を得る

進路前方の道路形状や路面状態などの走路

状態情報を得る

他車両や歩行者など道路を共同利用する他者

の相対位置情報と行動情報を得る

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道路線形, 気象条件による最高速度制御がで

きる

道路環境ビックデータベース化ができる

固定物標のセンシングとデータベース化

対環境性能(寒冷地, 酷暑地)

経路案内

車両位置の外部(インフラ等)への通知

経路案内できる

目的にあわせた具体的走行計画を立案できる

出発地から目的地までの間の地図や経路情報

を得る

自車状態情報を得る

走路における自車位置(縦方向と横方向の位

置)情報を得る

目的地までのルート生成ができる

高精度道路デジタル地図データを得る

目的地までの走行軌跡座標の生成ができる

高精度位置認識ができる

安全な計画経路(航路)を選択

外部からの計画経路提供による交通流制御

計画通り走行させる機能(経路と速度 精度

は?)

気象に対応した最適計画経路の策定

協調走

車間距離制御

低速車両との安全車間距離維持ができる

高精度に車間距離制御できる

車間保持

支援できる

応答性 リアルタイム性

ネットワークの時変性

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アクセルとブレーキの応答性

交差点・IC

交差点での直進, 右折, 左折走行ができる

ICでの合流/分流ができる

交差点部での安全走行(信号, 一時停止, 右

折)ができる

道路環境認識標識認識ができる

協調走行

状況判断と運転操作計画が立案できる

運転操作目標の設定とそれに基づく操作がで

きる

前方空間および後方からの接近車情報による

レーンチェンジ制御ができる

側方及び後側方車両認識ができる

高信頼な路車間・車車間通信による協調走行

ができる

割り込み車(一般車)に対応できる

HMI HMI ドライバへの適切な情報提供(HMI)

システム

統合 システム統合

システム統合に際して失敗しない

システム成長(ロードマップ)妥当性

自動手

動切り替

運転監視 運転監視手法(システム)

運転監視手法(マネジメント)

自動手動切り

替え

自動と手動の機能切替ができる

ドライバの状態把握(手動運転切替可否判断)

自動運転への介入システムの確立

熟練者

の運転

実現

熟練者の運転

熟練ドライバのよい運転を実現する

ドライバと同等の認知能力がある

人間の運転スキルの低下対策

揺れや加速度の低減

レーンキープ 車線逸脱防止支援できる

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レーンキ

ープ

白線追従走行ができる

レーンに沿った自動操舵ができる

全天候型での車線識別ができる(雨天, 降雪,

夜間, 晴天, 曇天, 西日等)

部分的白線画像ができる

白線認識のロバスト性がある

道路形状に対するロバスト性に優れた高精度

な車線維持できる

白線がない又は白線認識ができない場合安全

を確保できる

表 2 機能/性能軸のQFD結果

図 1 機能/性能軸のQFDカード事例

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③ ビジネス/社会軸

表 3に当研究会で実施したビジネス/社会軸のQFD結果を示す. 技術の進

歩が速いので, 毎年見直しを行う必要があると考えられる. (本事例は, 半

年前に実施したもの)

1次ラベル 2次ラベル 3次ラベル

アフターサ

ービス

車検 自動運転車向け車検テストベッド

ソフトウェア

更新

自動運転向けAIネット更新サービス

ダイナミックマップネット更新サービス

ソフトウェアネット更新サービス

ハードウェ

ア更新

最新版に交換可能なCPU

自動運転付加装置

最新版に交換可能なGPU

最新版に交換可能なセンサ

最新版に交換可能な通信装置

シェアリン

ライドシェア

リング

通勤通学ライドシェリング

ライドシェアリング

カーシェアリ

ング

都市部でのカーシェアリング

タクシーより安い利用料金

グリーンカーシェアリング(EV, 小型車)

高級車シェアリング

個人所有カーシェアリング

オンデマンドカーシェアリング

給油充電 無人給油・充電

カーシェアリング専用充電スタンド

開発 部品性能

GPSの補完システム

自動運転車向けアンチウィルス製品

道路環境に応じた自動改変タイヤ

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軽量化ボディ

軽量車載電池

部品低コス

ト化

センサ低価格化

低コスト 3D LIDAR

低コストカメラ

低コストミリ波レーダー

低コストドライバーモニタリング

開発技術

分野横断型自動運転車モデル

自動運転車テストベッド

AIによる低コストソフトウェア開発

AIによる低コストソフトウェア事前バーチャル検

証試験

走行映像データ・事故データ等の戦略的収集・

利活用

性能評価 AI対人間カーレース

自動運転性能レース(客観的性能ランキング)

社会運用

免許 自動運転限定免許(子供でも取得できる)

保険

無事故化→保険料安く

事故の際の責任の所在

保険料

付加価値

観光 自動運転世界旅行

観光自動運転バス

時間有効利

寝台車(夕方乗ったら朝着く)

自動運転車のホテル仕様夜行バス

走行レストラン

移動中会議室

物品販売 無人販売車

道路上での物品販売

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魅力付加

無休憩で継続運転

子守(揺する)

自動運転車向け対話ロボット

生産

生産システ

ム 生産システム連動 物流カート

収穫 自動野菜収穫

自動果実収穫

ビジネスモ

デル

医療介護

介護ビジネス

自動運転車いす

医療機器搬送カート

ラストマイル

近距離移動手段に電動自動運転車

自動運転自転車

自動運転バイク

ドローン自動運転乗用車

自動運転超小型車

緊急車両 自動パトカー

無人救急車

ゴミ収集 自動清掃車

自動ごみ収集車

運行管理

交通ダイヤの設定の必要性

働く車を衛星で統括

運行管理ビジネス・ソフトウェア

無人車両運行アプリ

個人スケジューラとの連携

自動配送

運送の自動運転化

自動運転トラック

自動運転デリバリー

無人配送

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ドローン自動宅配

トラック無人隊列走行

代行運転

飲酒運転の解消

渋滞の解消

危険物の運搬

居眠り運転の解消

夜間走行技術

代行運転(飲酒時)

自動送迎 無人送り迎え

自動バレーパーキング

無人公共交

無人バス

無人タクシ

災害 災害

災害地への物資輸送(無人・安全)

災害現場探査・調査

災害時自動運転電力供給車

災害時自動運転水食糧供給車

災害時の効率的避難

マルチモ

ーダル

両用車

無人水陸両用車

離島交通巡回バス(自動運転船+自動運転バ

ス)

無人鉄道道路両用車

航空船舶 無人船

無人航空機(飛行機・ヘリコプター)

ドライブ環

道路 自動走行レーンの設置

情報化された道路

歩行者 ウェアラブル自動運転向け安全スーツ

表 3 ビジネス/社会軸のQFD結果

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図 2 ビジネス/社会軸のQFDカード化事例

(4)“分野横断型”イノベーション創出の事例(30 年先まで俯瞰)

執筆時点において, まだDFQ結果はまとめられていない. 膨大な時間が

かかるため, 一部しか完了していない. まとまり次第掲載する予定である.

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(5)技術ロードマップの事例

① システム/要素技術軸の事例

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② 機能/性能軸の事例

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文 献

(9) 吉川弘之,冨山哲男,“設計学”,放送大学教育振興会,2002.

(10) J.A. シュムペーター, “経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子およ

び景気の回転に関する一研究”, 岩波書店, 1977.

(11) 糸川英夫,“糸川英夫の創造性組織工学講座”,プレジデント社,1993.

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交通・物流機械の自動運転 2018b

自動運転による経済・産業の革命的変化

日本機械学会「自動運転に関する分野横断型研究会」編

2018年 10月 31日 発行

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交通・物流機械の

自動運転

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