食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み...食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み...

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食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み 201 食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み グユエン ・ヴ ァ ン ・チ ュ エ ン(目 本 女 子大 学 食 物 学科) は じめに 糖 尿 病 は 主 に文 化 ・社 会 ・経済 の発 展 した 先 進 国を中心に発症する疾患であり,その患者数は日 本 に お いて 約500万 人,世 界 的 にみ て も約3,000万 人 以 上 と推 定 さ れ て い る。 従 っ て,糖 尿 病 の 予 防 ・抑制の研究 は極めて重要である。 糖 尿 病 で は,血 糖 値 の 上 昇 を 反映 して タ ンパ ク 質 の糖化反応(メ イ ラー ド反応)が 進行 し,同 時 に過酸化反応が促進することも知られている。こ の2つ の 反 応 に よ って 血 管 障 害,腎 疾 患,白 内 障 な どの 合 併 症 を 引 き起 こす こ と も報 告 され て い る。 従 って,抗 酸 化 剤 を投 与 す る こ とに よ って, 糖尿病合併症を抑制できる可能性があると考えら れ る。 そ こで,本 研 究 は脂 溶 性抗 酸 化 剤 の ビ タ ミ ンE,ア ス タキサ ンチ ン,β一カ ロチ ンお よび水 溶性抗酸化剤のカテキンを用いて,糖尿病ラット に お いて 白内 障 を中 心 と した 合併 症 を抑 制 で き る か ど うか を解 明 す る こ とに した 。 材料および方法 1.試 ア ス タキ サ ンチ ン はオ キ ア ミか ら抽 出 され た も の で(Astax-5000),イ タ ノ冷 凍㈱ よ り提 供 を受 け た もので あ る。 カ テ キ ン は三 井農 林 よ り提 供 さ れ た 茶 カ テ キ ン製 剤"ポ リフェノン100"を用 い た。 ビタ ミンEはdl-a一トコ フェロール アセ テ ー ト(和 光 純 薬㈱)を 用いた 2.動 物 飼 育 条件 実験1:(1)動 物 飼 育 条 件 Wistar系 雄 ラ ッ ト[約10週齢,体 重200~220 g,日生材 ㈱]15匹を15日間予 備飼 育 した 後, Streptozotosin(STZ,5mg/100g体 重)を 滅菌 生理 食 塩 水 に溶 解 して腹 腔 内投 与 し,糖 尿病ラッ ト に し た 。 飼 育 は23±1℃,RH50±5%,12時 毎 の 明暗 サ イ クル で行 わ れ た。 なお,体 重,飼 摂 取 量,尿 量の変化については定期的に記録 た。 (2)飼 料 組 成 基礎飼料組成は次の通 り で あ る:Casein(vita- minfree,20%),Cornoil(vitaminEfree,5% Cellulose(5%),Saccharose(20%),Minera mixture(Harper'smixture,4%),Vitaminm ture(vitaminE,Afree,1%),a-Cornstarch (45%)0 カ ゼ イ ンお よびa一 コ ー ン ス タ ー チ は 日本 ク レ ア ㈱,セ ルロース ・ミネラル混合 ・ビタミン混合 はオ リエ ン タル 酵 母㈱ よ り購 入 した 。 ビタ ミ ンE を除 去 した コー ン油 はエ ー ザ イ㈱ よ り提 供 を受 け た 。 ラ ッ トは投 与 す る飼 料 の 内容 に よ り次 の3群 に 分 け た:(i)C群(n=5)抗 酸化剤無添加群 (ii)A群(n=5)抗酸 化 剤 添 加 群(ビ タ ミ ンE, ビ タ ミ ンA,β 一カ ロ チ ン,ア スタキサンチン各 100ppm添加)(111)T群(n=5)抗 酸 化 剤 添 加 群 [A群 と 同 様+カ テ キ ン(0.5%)] 実験II:Wistar系雄 ラ ッ ト(約8週 齢,体 重約 200g,日本 ク レ ア㈱) .20匹を健 常 群2群 と糖 尿 病 群2群 に分けた。糖尿病ラットの作製および飼 育 条 件 は実 験1と 同様である。 飼料についてはラットの健常群 と糖 尿 病 群 の1 群 に ビ タ ミ ンE欠 乏 食 を,も う一方の健常群 糖尿病群にビタ ミ ンE(1,000ppm添加)食 を自

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食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み 201

食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み

グ ユ エ ン ・ヴ ァ ン ・チ ュ エ ン(目 本女子大学食物学科)

は じめに

糖尿病は主 に文化 ・社会 ・経済 の発展 した先進

国を中心に発症す る疾患であ り,そ の患者数 は日

本 において約500万 人,世 界的 にみて も約3,000万

人 以上 と推 定 されて い る。従 って,糖 尿 病 の予

防 ・抑制の研究 は極めて重要である。

糖尿病で は,血 糖値の上昇を反映 して タンパ ク

質 の糖化反応(メ イ ラー ド反応)が 進行 し,同 時

に過酸化反応が促進す ることも知 られて いる。 こ

の2つ の反応 によって血管障害,腎 疾患,白 内障

な どの合併症 を引 き起 こす ことも報 告 され て い

る。従 って,抗 酸化剤 を投与する ことによって,

糖尿病合併症 を抑制で きる可能性が あると考 えら

れる。 そこで,本 研究 は脂溶性抗酸化剤の ビタミ

ンE,ア ス タキサ ンチ ン,β 一カ ロチ ンお よび水

溶性抗酸化剤のカテ キンを用いて,糖 尿病 ラッ ト

において 白内障 を中心 とした合併症 を抑制で きる

か どうか を解明す ることに した。

材料 および方法

1.試 料

アスタキサ ンチ ンはオキア ミか ら抽出 された も

ので(Astax-5000),イ タ ノ冷凍㈱ より提供 を受

けた もので ある。カテキ ンは三井農林 よ り提供 さ

れた茶カテ キン製剤"ポ リフェノン100"を 用 い

た。 ビタ ミンEはdl-a一 トコ フェロール アセ テ

ー ト(和 光純薬㈱)を 用いた。

2.動 物飼育条件

実験1:(1)動 物飼育条件

Wistar系 雄 ラ ッ ト[約10週 齢,体 重200~220

g,日 生材 ㈱]15匹 を15日 間予 備飼 育 した 後,

Streptozotosin(STZ,5mg/100g体 重)を 滅 菌

生理 食 塩 水 に溶 解 して腹 腔 内投 与 し,糖 尿 病 ラ ッ

トに し た。 飼 育 は23±1℃,RH50±5%,12時 間

毎 の 明暗 サ イ クル で行 わ れ た。 なお,体 重,飼 料

摂 取 量,尿 量 の変 化 に つ い て は 定 期 的 に 記 録 し

た 。

(2)飼 料 組 成

基礎 飼 料 組 成 は次 の通 りで あ る:Casein(vita-

minfree,20%),Cornoil(vitaminEfree,5%),

Cellulose(5%),Saccharose(20%),Mineral

mixture(Harper'smixture,4%),Vitaminmix-

ture(vitaminE,Afree,1%),a-Cornstarch

(45%)0

カ ゼ イ ンお よびa一 コ ー ン ス タ ー チ は 日本 ク レ

ア㈱,セ ル ロー ス ・ミネ ラ ル混 合 ・ビ タ ミ ン混合

はオ リエ ン タル 酵 母㈱ よ り購 入 した 。 ビタ ミンE

を除 去 した コー ン油 はエ ー ザ イ㈱ よ り提 供 を受 け

た 。 ラ ッ トは投 与 す る飼 料 の 内容 に よ り次 の3群

に分 け た:(i)C群(n=5)抗 酸 化 剤 無 添 加 群

(ii)A群(n=5)抗 酸 化 剤 添 加 群(ビ タ ミンE,

ビ タ ミンA,β 一カ ロ チ ン,ア ス タ キ サ ン チ ン 各

100ppm添 加)(111)T群(n=5)抗 酸 化 剤 添 加 群

[A群 と同様+カ テ キ ン(0.5%)]

実験II:Wistar系 雄 ラ ッ ト(約8週 齢,体 重 約

200g,日 本 ク レ ア㈱) .20匹 を健 常 群2群 と糖 尿

病 群2群 に分 けた 。 糖 尿 病 ラ ッ トの作 製 お よび 飼

育 条 件 は実 験1と 同 様 で あ る 。

飼 料 に つ い て は ラ ッ トの 健 常 群 と糖 尿 病 群 の1

群 に ビ タ ミ ンE欠 乏 食 を,も う一 方 の 健 常 群 と

糖 尿 病 群 に ビタ ミンE(1,000ppm添 加)食 を 自

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202 浦上財団研究報告書VoL5(1996)

由摂取 させた。

実験III:Wistar系 雄 ラ ッ ト(約8週 齢,体 重

約200g,日 本 ク レア㈱)15匹 を一週 間 予備飼 育

した後 ラ ッ トは2群 に分 けた。糖尿病 ラ ッ トの作

製 および飼育条件 は実験1と 同様で ある。一方 を

ビタ ミンE欠 乏食群(8匹),他 方 を ビタ ミンE

欠乏食アス タキサ ンチ ン添加群(7匹)と した。

3.動 物の解剖 および組織の摘出 ・保存法

ラッ トを各実験で一定期 間飼育 した後,12時 間

絶食 させ,腹 腔内 にペン トバ ルビタールナ トリウ

ム(50mg/ml)を100μ1/100gb.w.注 射 して 麻 酔

をか けた後,開 腹 して,大 動 脈 よ り血液 を採 取

し,遠 心分 離(10°C,3,000rpm,10分)を 行 っ

て血清お よび赤血球を得た。 また,大 動脈か ら生

理食塩水 を注入 して臓器 中の残留血液 を洗浄 した

後,肝 臓 ・腎臓 ・背の皮膚を摘出 した。各臓器は

使用時 まで:1℃ で保存 した。

4.血 液成 分分析法

(1)過 酸化脂質量

過酸化脂質量 は宮澤 らが開発 した化学発 光法1)

によって測定 した。

(2)肝 臓 の脂肪酸組成の測定

肝臓 の脂肪酸組成 は常 法によ り,フ ッ化ホ ウ素

メタノール法でエステル化を行 ない,ガ ス クロマ

トグラフを用いて分析 した。

(3)血 糖値 および糖化ヘモグロビンの測定

血 糖値 はglucoseoxidase法 に よっ て測 定 し

た。血液中の糖化ヘ モグロビンはBumnら2)に よ

って開発 されたaffinitychromatography[ロ ペ

ッ ト・AF,日 本 ケ ミファ㈱]で 測定 した。

5.コ ラーゲ ン溶解性 の測定

コラーゲ ンはSchiniderら の方法3)に よって抽

出し,そ の溶解性は中性塩,酢 酸,ペ プシ ン抽 出

法 で測定 した4)0

結果 および考察

1.糖 尿病ラ ッ トにおける脂溶性および水溶性

抗酸化剤の効果

抗酸化剤の経口投与が どの程度過酸化脂質の生

成 を抑制す ることができるのか検討するため,ホ

スファチ ジル コリンヒドロペルオキシ ド(PCO

OH)量 を測定 した。 その結 果をFigure1に 示

した。 ビタ ミンE欠 乏群 と比 較す る と,健 常 ラ

Fig.1LipidPeroxidationofLiverofDiabeticandNormal

Rats

VitamineE.β 一caroteneandcatechinwereusedas

antioxidants.PCOOHconcentrationwasmeasuredbv

chemiluminescence-highperformanceliquidchromato-

graphy.

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食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み 203

ッ トの 肝 臓1g当 た りのPCOOHが1645±126

pmo1で あるの に対 して,糖 尿 病 ラッ トは2794±

493pmolと 有意 に高値 を示 し,糖 尿病 は過酸 化

脂質 の蓄積 を促進す ると考 えられた。 また抗酸化

剤 を投与 した糖 尿病 ラ ッ トのPCOOHは972±

111pmolと な り,抗 酸化剤 の投与 によっ て過 酸

化脂質 の生成が有意 に抑制 された。

脂質 は,タ ンパ ク質 とならんで生体 を構成す る

主要な成分 であ り,重 要 な役割 を持っている。生

体膜 の主成分 である リン脂質のホスフ ァチジル コ

リン(PC)は 活性 酸素 の作用 によってホス ファ

チジル コリンヒ ドロペル オキシ ド(PCOOH)と

な る ことが知 られ て い る。PCOOH量 は加齢 に

ともな って増加 してい くことも知 られて お りS),

加齢に ともな う生体機能 の低下 と関係が深いとい

われている。

本研究で は,Figure1に 示 して ある ように,

糖尿病によって過酸化脂質の生成が促進 されるこ

とが確認された。 また抗酸化剤投与に よって過酸

化脂質の蓄積 が有意 に抑制 され ることが明 らか と

なった。従って糖尿病 において も抗酸化剤は生体

機能 の維持 に有効であるこ とが示唆 された。

2.糖 尿病 ラッ トにおけるビタミンEの 効果 に

つ いて

上 記の結果 では脂溶性(ビ タ ミンE,β 一カロ

チ ン,ビ タ ミンA,ア スタキサ ンチ ン)お よび水

溶性抗酸化剤(カ テキン)の 混合物は,生 体 内で

起 きる過酸化反応を抑制す ることが確認 された。

そ こで次に,ビ タミンEの みで はどの程度過酸化

反応およびグ リケーシ ョンを抑制で きるのか検討

した。

(1)過 酸化脂質量

過 酸化 脂質(PCOOH)量 につ いて はFigure

2に 示 してあ る。糖尿病群 において,ビ タ ミンE

欠 乏 ラ ッ トの肝 臓1g当 た りのPCOOH量 が

2591±462pmolで あ るのに対 し,ビ タ ミンE投

与 ラ ッ トは115±37pmolで あ り,ビ タ ミンE投

与群の過酸化脂質量が低い ことがわか った。 また

健常群 において も同様 に ビタ ミンEの 投与 によ

って過酸化脂質量 は低下する ことがわか った。従

って,ビ タ ミンEの 投与に よって過酸化脂質の蓄

積 は有意に抑制 された。

Fig.2LipidPeroxidationofLiverofDiabeticandNormalRats

PCOOHconcentrationwasmeasuredbychemiluminescence-

highperformanceliquidchromatography.

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204 浦上財団研究報告書VoL5(1996)

糖尿病 とビタミンEと の関係 について は近年注

目され てお り,多 くの研究が行われて いる。 ビタ

ミンE投 与 によって糖尿病性 腎症 にお ける腎近

位 尿細 管細 胞 の変 性 が抑 え られ る と報 告 され

たη。 また,糖 尿病の問歓性鍍行 患者 に対 する ビ

タ ミンE投 与 で は,歩 行距 離が延 長 し,下 肢 の

動脈血流量 も増大 した。

(2)脂 肪酸組成の変化

ラ ッ ト肝臓 中 の脂 肪酸組 成 をTable1に 示 し

た。糖尿病群 において,不 飽和脂肪酸で あるオ レ

イン酸,リ ノール酸やアラキ ドン酸の減少 はビタ

ミンEの 投与 に よって有意 に抑制 された。健 常

群 においても同 じ傾向を示 し,不 飽和脂肪酸量,

ビタ ミンE投 与群が明 らか に多い こ とがわ か っ

た。従 って,糖 尿病群 において もビタ ミンEが 脂

肪酸 の酸化 を抑制 した と考 えられ る。

(3)血 糖値,糖 化ヘモグロビ ンの変化

ビタ ミンE投 与が血糖値 および糖化ヘモグロ ビ

ンの上昇 を抑制 で きるか どうか検 討 した結果 は

Table2に 示 してあ る。糖尿 病 ラ ッ トの血 糖値

は,ビ タ ミンE欠 乏群 で711mg/dlに 対 し,投 与

群 では674mg/dlと な り,ビ タ ミンEの 投与 に よ

って血糖値が低下する傾向 を示 した。健常ラ ッ ト

においても,ビ タ ミンE投 与群 は血糖値が有意 に

低下 した。 これは末梢組織 における糖の利用が ビ

タ ミンEに よって充進 され たた めと考 えられる。

また,糖 化ヘモグロビン量 につ いては,糖 尿病

群 では差 は見 られなかったが,健 常群においては

ビタ ミンE欠 乏群で6.1%に 対 し投与群 では5.3%

と,ビ タ ミンE投 与 によって有意 にヘモグロ ビン

TablelFattyAcidCompositionofDiabeticandNormalRats

Table2 BloodSugarandGlycohemoglobin(GHb)inBloodofDiabeticandNormalRats

の糖化が撫制 され ることが わか った。糖 化ヘモグ

ロビンは血糖値 を反映 することが知 られている。

従 って糖化ヘモグ ロビンの低下 は,ビ タ ミンEに

よる血糖値の低下を反映 していると考え られる。

糖化ヘ モグロビンはヘモグロビンにグル コースが

結合 したアマ ドリ化合物で あり,こ の生成は血糖

値 を反映す るといわれている1°)ことから,血 糖値

と糖化ヘモ グロビンは密接 な関わ りがある と考 え

られ る。 この糖化ヘモグロビン値 は糖尿病 患者 の

血糖 コン トロールの指標 として現在広 く臨床 に も

応用 されてい る。

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食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み 2〔,5

(4)コ ラーゲンの溶解性

コラーゲ ン溶解性の差は架橋の形成 と関係があ

る と報 告されて いる31。そ こで本研究で は,架 橋

の形成が ビタ ミンEを 投与 することで抑 え られ る

のか検討す るため,糖 尿病 ラッ トの皮膚 コラーゲ

ンを中性塩,酢 酸,ペ プシンで順 に抽 出 し,不 溶

性 コラーゲ ンと分け,各 抽出液 に含 まれるコラー

ゲン量 を比 較 した。 その結果 についてはTable3

に示 してあ る。糖尿病 ラ ットは健常群 に比 べて不

溶性 コラーゲ ン量が多 く,糖 尿病に よって架橋 の

形成が促進 されている と考 えられた。 しかし,糖

尿病 ・健常 群 ともに,ビ タ ミンE投 与 による溶解

性の有意差 は見 られなか った。

コラーゲ ンは繊維状 のタンパ ク質であ り,3本

の ポリペプチ ド鎖がらせ ん状に絡み合 う構造 を持

ってい る。 コラーゲンは一般に物理 的強度 が強 い

ことが知 られているが,こ れは鎖 と鎖 の間が結合

して架橋 を形成 しているため と考え られ る。物理

的強度は加齢 とともに上昇する ことが知 られて い

るが,こ れ も糖 との反応 により架橋 が増加す るた

め と考え られる。

生体 タンパク質 は糖 との反応によって,そ の最

終生成物 として蛍光 を有する架橋 を形成 するとい

われてい る8)。特に コラーゲ ンの ような寿命 の長

いタ ンパ ク質 が糖 と反応する と,分 子内,分 子間

で架橋 を形成 してコラーゲ ン本来 の持つ弾力性 を

失い,タ ンパ ク質が変性する。 コラーゲンは骨,

皮膚,水 晶体,血 管壁等に存在 するため,こ れら

の組織における架橋形成は,動 脈硬化や腎疾 患,

白内障な ど糖尿病の合併症 と関係が深い と考えら

れる。

従って本研究で糖尿病 ラ ットは不溶性 コラーゲ

ンが増加 したが,こ れは架橋の形成が進 んだため

と考え られた。 また,糖 尿病群 ・健常群 ともに,

ビタ ミンE投 与 によって各抽出液に含 まれるコラ

ーゲンの割合 に変化は見 られなかった。 これ らの

結果か ら架橋の形成には過酸化脂質はあ まり関与

していない と推測 され た。 しか し,invitro系 で

活性酸素 の一つであ るヒドロキシラジカルをコラ

ーゲンに作用す ると架橋 が速やかに増加 する こと

も知 られ ていることか ら,今 後 も架橋の形成 と過

酸化反応 との関わ り合いについて再検討する必要

がある と思われ る。

(5)白 内障について

糖尿病 ラッ トにお ける白内障の進行状 況を観察

し,ビ タ ミンEの 経口投与 が白内障の進行を抑制

で きるか どうか検 討 した。白 内障の進行状 況 は

Table4に 示 してあ る。 ビタ ミンE欠 乏群 は40日

目頃から白内障が発症 し,90日 目にはほ とん どの

眼に白濁が見 られ るようになり,170日 目には眼

は真白 に濁 って赤みが ほ とん ど見 られ な くな っ

た。 これ に対 して ビタ ミンE投 与群は白内障の発

症時期が遅 く,白 く濁 り始 めたのは135日 目頃の

ものが多か った。従ってビタミンEの 投与によっ

Table3SolubilityofSkinCollagenofDiabeticandNormalRats

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206 浦上財 団研究報 告書Vol.5(1996)

Table4Degree*ofCataractofDiabeticRats

て白内障が抑制 される ことが明 らか となった。健

常群 においては,ビ タ ミンE欠 乏お よび投与群 と

もに,眼 の 白濁 は見 られなかった。

白内障 は水晶体が濁る疾 患で,老 人に多い病気

の一 つであ るが,糖 尿病 の進行 にともなって発症

し進展す ることも知 られている。水晶体 は完全 な

透 明性 を持 ち,外 界の像を常 に網膜面 に結像させ

ている。 しか し長期の糖 尿病 の罹患 によって水 晶

体 は白濁化 し,最 終的には失明に至 る。 しか し普

遍的な疾患であ りなが ら,そ の成因 はまだ明 らか

となってはいない。

水晶体 に存在す るアル ドースレダクターゼは糖

に作用 して活性 化 され ることが知 られてい る9)。

現在,こ の酵素阻害剤が白内障の発症 を抑 えるこ

とがわか ってお りi°),アル ドース レダクターゼが

血液 中グル コー スに作用 してソルビ トール を蓄積

し,浸 透圧 を高めて浮腫を生 じる と推測 されてい

る。

Monnier"'ら は水晶体に蛍光物 質を観 察 し老化

や糖 尿病 の進行 にともな って増加 するこ とを報告

した。最近 この蛍光物質の一つがペン トシジンと

呼ばれる架橋 であることが明 らか となってきてお

り,水 晶体 が糖 と反応 して架橋 を形成 するこ とが

白内障の原因ではないか とも考え られている。

また白内障の形成 には過酸化反 応 も大 きな役割

を果た している といわれてい る。 酸化剤 の経 口投

与 によって,水 晶体膜の ジスルフ ィド結合 の形成

を促進 し,白 内障が促進 され ることが明 らか とな

ってい る12)。

本研究における糖尿病お よび健 常ラ ッ トでは,

架橋お よび糖 化ヘモグロビンの形成はビタ ミンE

投与 によってあ まり抑 えられないのに対 して,過

酸化反応は著 しく抑制 された。従って,白 内障の

成因 には様々な推測が なされてい るが,本 研究 で

白内障の発症お よび進行が ビタミンEの 投与 によ

って著 し く抑制する ことがで きた ことか ら13)・14),

白内障の形成はメイラー ド反応 よりも過酸化反応

の方が大 きく関与 していると考 えられた。

3.糖 尿病ラ ッ トの 白内障 におけ るアスタキサ

ンチ ンの効果

上記の経過をふ まえて,ビ タミンEよ り抗酸化

性が強いアスタキサンチンを糖尿病ラ ッ トに経 口

投 与 し,検 討 した。そ の結果(Table5),ア ス

タキサ ンチ ンを投与 することによって白内障がか

Table5Degree*ofCataractofDiabeticRats

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食餌性抗酸化剤による糖尿病改善の試み 207

な り抑制で きることが明 らか となった。

以上の研究結果 により,抗 酸化剤の投与 は過酸

化反応 を抑制 し,白 内障を著し く抑制 した。 また

糖化反応につ いて も若干抑制 する傾向 を示 した。

従 って,糖 尿病の合併症は抗酸化剤の投与 によっ

て,あ る程度改善で きる と推測 された。

本研究を遂行す るにあた り,研 究助成 を賜 わ り

ました浦上食品 ・食文化振興財団 に心 より感謝 の

意 を表 します と共に貴財 団の益々の ご発展 を祈念

申し上げ ます。

文 献

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14)品 田恵 子,監 物 南 美,グ ユエ ン ・ヴ ァン ・チ ュエ ン,

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208 URAKAMIFOUNDATIONMEMOIRSVoL5(1996)

EffectofAntioxidantsontheImprovementofDiabetesMellitusinRats

NguyenvanChuyen(DepartmentofFoQd&Nutrition.JapanWomen'sUniversity}

Itisknownthatthereactionbetweenglucoseandproteincontributestotheincrease

ofchemicalmodificationandcross-linkingoflong-livestissuesproteinindiabetes

mellitus.Glycatedcollagenandglycohemoglobin(GHbA,C)levelishigherindiabetic

patientsthanhealthysubjects.Indiabetesmellitus,lipidperoxidationisalsoknowntobe

accelerated.

Inthisstudy,antioxidantssuchasvitaminE,beta-carotene,astaxanthinandcatechin

wereadministeredtoSTZdiabeticratstomakeclearthatwhetherantioxidantscould

improvetheglycationandcomplicationofdiabetesornot.Theratswerefedforashort

term(2months)orlongterm(7months)withvariousantioxidants.LipidperoYidation,

glycohemoglobin,solubilityofskincollagen,anddegreeofcataractofratsweremeasured.

Then,thefollowingsweremadeclear:1)Stronginhibitionoflipidperoxidationwas

observed,2)Catechininhibitedtheformationofglycohemoglobin,3)Inhibitionofcross

-linkingofcollagenwasobservedinasmallextent ,4)Cataractwasstronglyinhibitedby

vitaminEandastaxanthin,5)Itisestimatedthatcataractismainlycausedbylipid

peroxidationratherthanglycation.

Fromtheaboveresults,itcanbeconcludedthatantioxidantsimprovethecomplica-

tionofdiabetesmellitus.