暖温帯域での高齢化した里山構成種7種の萌芽能力hyogo-nourinsuisangc.jp/sinrin/images/yamase2012.pdf ·...

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結果 各樹種の萌芽枝の発生株率と残存株率 発生株率は,照葉樹種>夏緑樹種 同じ夏緑樹種でも,アベマキ>コナラ コナラは,発生株率(1成長期間後)残存株率(3成長期間後)の低下が顕著 発生要因モデル 南西向き斜面のコナラと急傾斜地のエノキは,乾燥立地のために萌芽再生しにくい 樹齢が高いほど萌芽再生の可能性は低い 樹齢60年の発生確率は,夏緑樹種(コナラ,エノキ)が低く,照葉樹種(シラカシ,スダジ イ)が高い(図5 伐採高は,コナラは高いほど発生確率が高く,シラカシとスダジイは伐採高が低いほど 発生確率が高い(図6コナラの残存要因モデル コナラ伐採より1成長期間後では,伐採高が高いほど発生確率は緩やかに高まるが, 3成長期間後では,萌芽枝の残存確率は伐採高が高いほど急激に低下(図7 伐採高10㎝の残存株の割合は32%に対し,伐採高150㎝では7植生変化の予測 夏緑樹種の発生株率は照葉樹種よりも低いことから,照葉性二次林が再生する 0 10 20 30 40 50 60 70 1~5 6~10 10~15 16~20 21~25 26~30 31~35 36~40 41~45 46~50 51~55 56~60 61~65 66~70 71~75 76~80 81~85 86~90 91~95 96~100 101~105 106~110 111~ 面積・千ha 背景 里山の放置 放置された暖温帯域の里山は,長期的には照葉樹林化が進行する (服部ほか1995 照葉樹林化に伴う常緑植物の増加は,夏緑性植物の種多様性の低下を招 く(松村ほか2007 里山放置による高齢化は,ナラ類の大径木化を伴うことから,ナラ類集団枯 損(ナラ枯れ)の被害を受けやすい(小林・上田2005萌芽更新への期待 照葉樹林化抑制やナラ枯れの 解決策として,萌芽更新に期待 全国の里山では,林齢51-55生の広葉樹二次林の面積が最 も多くなっている(平成18年度 末現在,林野庁2007 高齢化した構成種に関する報告 は,ミズナラ(小谷2005)やコナ ラ(松浦ほか2002)に限定 目的 高齢化した広葉樹二次林を構成する代表的な7樹種(アベ マキ,コナラ,アラカシ,シラカシ,スダジイ,エノキ,ヤブツ バキ)について,萌芽能力を比較する 萌芽更新の可能性を高めるための管理方法を探る 照葉樹林化の抑制を目的とした萌芽更新の可能性を明らか にする 調査地と方法 調査地 兵庫県内の暖温帯域に位置する広葉樹二次林 最低500 m 2 以上の皆伐を実施した合計12調査地(図4 暖かさ指数104.6~130.8・月極相は照葉樹林と推定 調査対象樹種および調査方法 3調査地以上(1調査地あたり10個体以上)で観察された 7樹種(表1解析方法 一般化線形混合モデル(GLMM 樹種別に萌芽枝の発生要因モデルと残存要因モデルを 構築(AIC最小モデルを選択) 1) 萌芽枝の発生要因モデルfamily=binomial, link関数=logit2) 萌芽枝の残存要因モデルfamily=binomial, link関数=logit結論 里山構成種7樹種のうち,高齢化に伴う萌芽再生の低下は,コナラで最も顕著である 萌芽更新の可能性を高めるには, 伐採高は低いほどよい(コナラの場合) 暖温帯域において,高齢化したコナラが優占する広葉樹二次林を伐採した場合,照葉 樹種の優占する照葉性二次林が再生し,照葉樹林化が促進される可能性が高い P2-1-39 暖温帯域での高齢化した里山構成種 7種の萌芽能○山瀬敬太郎 [email protected] 兵庫県立農林水産技術総合センター 4.調査地点 1.各樹種の個体数と樹齢 5.樹齢と萌芽枝の発生との関係.実線はGLM回帰より求めた発生確率,○印は観察値を示す 6.伐採高と萌芽枝の発生との関係.実線はGLM回帰より求めた発生確率,○印は観察値を示す 1.放置に伴う照葉樹林化 2.ナラ枯れによる大径木の被害 3.兵庫県内の広葉樹二次林の 林齢別面積(平成18年度) 7.伐採高と萌芽枝の発生(左)および残存(右)との関係.実線は GLM回帰より求めた発生(残存)確率,○印は観察値を示す 2.各樹種の発生株率および残存株率 50 100 150 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 50 100 150 200 250 300 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Probability of sprout 50 100 150 200 250 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Probability of sprout コナラ シラカシ スダジイ 伐採高・㎝ 伐採高・㎝ 伐採高・㎝ 50 100 150 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 伐採高・㎝ 樹種 1成長期間経過後の 発生株率(%) 3成長期間経過後の 残存株率(%) コナラ 55.9 36.4 エノキ 68.8 62.5 アベマキ 91.8 90.0 シラカシ 94.9 94.9 スダジイ 96.6 95.5 アラカシ 100.0 100.0 ヤブツバキ 100.0 100.0 樹種 個体数 樹齢 Min. Max. コナラ 179 31 84 エノキ 32 27 127 アベマキ 98 31 73 シラカシ 78 28 93 スダジイ 88 31 98 アラカシ 91 30 64 ヤブツバキ 31 32 86 50 100 150 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 伐採高・㎝ 選択された変数 推定回帰係数 コナラ 北東方向の斜面方位 南西方向の斜面方位 傾斜 樹齢 伐採高 -0.0227 コナラ 57年生 アベマキ 59年生 シラカシ 63年生 スダジイ 61年生 アラカシ 63年生 ヤブツバキ 63年生 エノキ 54年生 983042伐採高130選択された変数 推定回帰係数 コナラ エノキ アベマキ シラカシ スダジイ アラカシ ヤブツバキ 北東方向の斜面方位 6.39 南西方向の斜面方位 -2.71 傾斜 -0.0432 樹齢 -0.104 -0.0335 -0.0784 -0.0662 伐採高 0.0145 -0.0289 -0.0205 応答変数 萌芽枝の発生(有=1,無=0説明変数 斜面方位(南西 or 北東の2方向),傾斜,樹齢,伐採高 変量効果 調査地 応答変数 萌芽枝の残存(生=1,死=0説明変数 斜面方位(南西 or 北東の2方向),傾斜,樹齢,伐採高 変量効果 調査地 40 60 80 100 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 樹齢 40 60 80 100 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 樹齢 40 60 80 100 120 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 樹齢 40 60 80 100 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 樹齢 コナラ エノキ シラカシ スダジイ 31% 68% 96% 99% 伐採高 樹齢 萌芽枝の発生(1成長期間後) および残存(3成長期間後) 斜面方位 傾斜 直径

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Page 1: 暖温帯域での高齢化した里山構成種7種の萌芽能力hyogo-nourinsuisangc.jp/sinrin/images/yamase2012.pdf · 7樹種(表1) 解析方法 一般化線形混合モデル(GLMM)

結果 各樹種の萌芽枝の発生株率と残存株率

発生株率は,照葉樹種>夏緑樹種

同じ夏緑樹種でも,アベマキ>コナラ

コナラは,発生株率(1成長期間後)→

残存株率(3成長期間後)の低下が顕著

発生要因モデル

南西向き斜面のコナラと急傾斜地のエノキは,乾燥立地のために萌芽再生しにくい

樹齢が高いほど萌芽再生の可能性は低い

樹齢60年の発生確率は,夏緑樹種(コナラ,エノキ)が低く,照葉樹種(シラカシ,スダジイ)が高い(図5)

伐採高は,コナラは高いほど発生確率が高く,シラカシとスダジイは伐採高が低いほど発生確率が高い(図6)

コナラの残存要因モデル

コナラ伐採より1成長期間後では,伐採高が高いほど発生確率は緩やかに高まるが, 3成長期間後では,萌芽枝の残存確率は伐採高が高いほど急激に低下(図7)

伐採高10㎝の残存株の割合は32%に対し,伐採高150㎝では7%

植生変化の予測

夏緑樹種の発生株率は照葉樹種よりも低いことから,照葉性二次林が再生する

0 10 20 30 40 50 60 70

1~56~10

10~1516~2021~2526~3031~3536~4041~4546~5051~5556~6061~6566~7071~7576~8081~8586~9091~95

96~100101~105106~110

111~

林齢

面積・千ha

背景 里山の放置 放置された暖温帯域の里山は,長期的には照葉樹林化が進行する

(服部ほか1995) 照葉樹林化に伴う常緑植物の増加は,夏緑性植物の種多様性の低下を招

く(松村ほか2007) 里山放置による高齢化は,ナラ類の大径木化を伴うことから,ナラ類集団枯

損(ナラ枯れ)の被害を受けやすい(小林・上田2005)

萌芽更新への期待 照葉樹林化抑制やナラ枯れの

解決策として,萌芽更新に期待

全国の里山では,林齢51-55年

生の広葉樹二次林の面積が最

も多くなっている(平成18年度

末現在,林野庁2007) 高齢化した構成種に関する報告

は,ミズナラ(小谷2005)やコナ

ラ(松浦ほか2002)に限定

目的 高齢化した広葉樹二次林を構成する代表的な7樹種(アベマキ,コナラ,アラカシ,シラカシ,スダジイ,エノキ,ヤブツバキ)について,萌芽能力を比較する

萌芽更新の可能性を高めるための管理方法を探る

照葉樹林化の抑制を目的とした萌芽更新の可能性を明らかにする

調査地と方法 調査地

兵庫県内の暖温帯域に位置する広葉樹二次林

最低500 m2以上の皆伐を実施した合計12調査地(図4) 暖かさ指数104.6~130.8℃・月→極相は照葉樹林と推定

調査対象樹種および調査方法

3調査地以上(1調査地あたり10個体以上)で観察された

7樹種(表1)

解析方法 一般化線形混合モデル(GLMM) 樹種別に萌芽枝の発生要因モデルと残存要因モデルを

構築(AIC最小モデルを選択)

1) 萌芽枝の発生要因モデル(family=binomial, link関数=logit)

2) 萌芽枝の残存要因モデル(family=binomial, link関数=logit)

結論 里山構成種7樹種のうち,高齢化に伴う萌芽再生の低下は,コナラで最も顕著である

萌芽更新の可能性を高めるには,

伐採高は低いほどよい(コナラの場合)

暖温帯域において,高齢化したコナラが優占する広葉樹二次林を伐採した場合,照葉樹種の優占する照葉性二次林が再生し,照葉樹林化が促進される可能性が高い

P2-1-39

暖温帯域での高齢化した里山構成種7種の萌芽能力

○山瀬敬太郎 [email protected] 兵庫県立農林水産技術総合センター

図4.調査地点

表1.各樹種の個体数と樹齢

図5.樹齢と萌芽枝の発生との関係.実線はGLM回帰より求めた発生確率,○印は観察値を示す

図6.伐採高と萌芽枝の発生との関係.実線はGLM回帰より求めた発生確率,○印は観察値を示す

図1.放置に伴う照葉樹林化 図2.ナラ枯れによる大径木の被害

図3.兵庫県内の広葉樹二次林の林齢別面積(平成18年度)

図7.伐採高と萌芽枝の発生(左)および残存(右)との関係.実線はGLM回帰より求めた発生(残存)確率,○印は観察値を示す

表2.各樹種の発生株率および残存株率

50 100 150

0.0

0.2

0.4

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Stump height (cm)

Pro

ba

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rou

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0 50 100 150 200 250 300

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Stump height (cm)

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Stump height (cm)

Pro

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発生確率

コナラ シラカシ スダジイ

伐採高・㎝ 伐採高・㎝ 伐採高・㎝

50 100 150

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Stump height (cm)

Pro

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発生確率

伐採高・㎝

樹種 1成長期間経過後の

発生株率(%) 3成長期間経過後の

残存株率(%)

コナラ 55.9 36.4

エノキ 68.8 62.5

アベマキ 91.8 90.0

シラカシ 94.9 94.9

スダジイ 96.6 95.5

アラカシ 100.0 100.0

ヤブツバキ 100.0 100.0

樹種 個体数 樹齢

Min. Max.

コナラ 179 31 ~ 84

エノキ 32 27 ~ 127

アベマキ 98 31 ~ 73

シラカシ 78 28 ~ 93

スダジイ 88 31 ~ 98

アラカシ 91 30 ~ 64

ヤブツバキ 31 32 ~ 86 50 100 150

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Stump height (cm)

Pro

ba

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f su

rviv

al

残存確率

伐採高・㎝

選択された変数 推定回帰係数

コナラ

北東方向の斜面方位 -

南西方向の斜面方位 -

傾斜 -

樹齢 -

伐採高 -0.0227

コナラ 57年生

アベマキ59年生

シラカシ63年生

スダジイ61年生

アラカシ63年生

ヤブツバキ63年生

エノキ54年生

98㎝ 30㎝ 42㎝ 伐採高130㎝

選択された変数 推定回帰係数

コナラ エノキ アベマキ シラカシ スダジイ アラカシ ヤブツバキ

北東方向の斜面方位 6.39 - - - - - -

南西方向の斜面方位 -2.71 - - - - - -

傾斜 - -0.0432 - - - - -

樹齢 -0.104 -0.0335 - -0.0784 -0.0662 - -

伐採高 0.0145 - - -0.0289 -0.0205 - -

応答変数 萌芽枝の発生(有=1,無=0)

説明変数 斜面方位(南西 or 北東の2方向),傾斜,樹齢,伐採高

変量効果 調査地

応答変数 萌芽枝の残存(生=1,死=0)

説明変数 斜面方位(南西 or 北東の2方向),傾斜,樹齢,伐採高

変量効果 調査地

40 60 80 100

0.0

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Age

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40 60 80 100

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40 60 80 100 120

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樹齢

40 60 80 100

0.0

0.2

0.4

0.6

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Age

Pro

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f sp

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t

樹齢

発生確率

コナラ エノキ シラカシ スダジイ

31%

68%

96% 99%

伐採高

樹齢

萌芽枝の発生(1成長期間後) および残存(3成長期間後)

斜面方位

傾斜

直径