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過酸化水素を用いたエポキシ化における触媒の特性と 固定化...
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薬学博士学位論文
過酸化水素を用いたエポキシ化における触媒の特性と
固定化に関する研究
請求記号 UT51-61-K268 タイトル 過酸化水素を用いたエポキシ化における触媒
の特性と固定化に関する研究 責任表示 糸井泰[著] 注記 博士論文 授与大学名 富山医科薬科大学 授与大学コード 0082: 富山医科薬科大学 報告番号 甲第 13号 授与年月日 昭和 61年 3月 20日 学位の種類 薬学博士 個人著者標目 糸井泰 NDLC UT51 NDLC UT27 書誌 ID 000000168446
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謝 辞
本研究を行なうにあたり、懇切な御指導と適切な御助言をくださった富山医科薬
科大学薬学部教授 榎本 三郎先生ならびに同大学薬学部助教授 井上 正美先
生に感謝いたします。
また、本研究を始めるきっかけを与えてくださり、かつ、適切な御指導、御助言
をくださった理学博士 渡辺 佳弘氏に感謝いたします。
本論文をまとめるにあたり、適切な御助言をくださった富山医科薬科大学薬学部
教授 吉井 英一先生ならびに同大学和漢薬研究所教授 菊池 徹先生に感謝い
たします。
有機ゲルマニウム化合物および有機錫化合物の合成は、現舞鶴市民病院薬剤師
小島 純氏の御協力を得ました。
その他、いろいろ御協力くださった方々に感謝いたします。
昭和61年8月11日
著者 糸 井 泰
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目次
序言 …3
第1章 酸化モリブデナセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒による
均一系エポキシ化反応
1.1 触媒の種類および反応系の設定 …5
1.2 数種のオレフィンに対するエポキシ化活性と反応機構に対する速度論的考察
…7
第2章 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒およびタングステン酸
-塩化トリブチル錫-活性炭触媒によるオレフィンのエポキシ化
2.1 活性金属種および固定化担体の探索 …14
2.2 エポキシ化に及ぼす有機錫の効果 …16
2.3 タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒の調製 …17
2.4 C5~C10アルケンに対するエポキシ化活性と反応機構に関する速度論的考察
…19
第3章 担体として用いた活性炭の化学処理効果
3.1 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒およびタングステン酸-
塩化トリブチル錫-活性炭触媒における塩基処理効果 …32
3.2 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における担体のアルキル
化あるいはアルキルシリル化がエポキシ化に及ぼす効果 …35
3.3 モリブデンブルー-活性炭(DMFBA処理)における有機ゲルマニウム、
有機錫、有機鉛化合物の添加効果 …37
3.4 C5~C10アルケンおよび不飽和脂肪酸エステルに対するエポキシ化触媒の
繰り返し使用の可能性 …40
第4章 本触媒系における活性種の構造と反応機構
4.1 酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒における
活性種 …44
4.2 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒および タングステン酸
-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における活性種 …47
4.3 本反応系における反応機構 …48
第5章 結論 …50
第6章 実験方法 …51
第7章 文献 …56
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序言
エポキシ化合物は、1,2-ジオール、α-アルカノールアミン、アルコール、ア
リルアルコール、カルボニル化合物等の原料と成り得るので、オレフィンより、こ
れらの化合物を合成する際の中間体として重要である。また、自然界においては、
スクアレンよりコレステロールを生合成する際のスクアレン2,3-エポキシド、昆
虫フェロモン、テルペン類などの植物成分にも数多く見い出されている。 したが
って、エポキシ化合物は、医薬品製造および生化学研究において重要であり、この
合成ならびに生成のメカニズムが注目されている。
合成の歴史を辿れば、既に、有機過酸を用いる方法1)、また、工業的にはクロル
ヒドリン法2)により二段階で無触媒的に行なわれている。
一方、触媒を用いる反応としては、モリブデン触媒とイソブタンもしくはエチル
ベンゼンの空気酸化によって得られる有機過酸化物を酸化剤とするハルコン法3)、
シリカ-チタニア触媒によるシェル法4)が現時点における工業的合成法である。こ
れらのプロセスの開発を行なう過程で、バナジウム、タングステン等の金属触媒が
有機過酸化物の存在下、エポキシ化活性を持つことが見い出された。3)
過酸化水素は酸化剤のうちでは生産量が最も多く5)、供給が安定しており、価格
もtert-ブチルヒドロパーオキシドと比べて10分の1程度であり、これらの面に
おいて有機過酸化物に比べ有利である。したがって、酸化剤として過酸化水素を用
いることができれば、それだけエポキシ化合物の合成が有利になることが考えられ
る。ところが、有機過酸化物を酸化剤とするエポキシ化触媒反応系において、過酸
化水素水を酸化剤として代用すると、生成したエポキシドが水和開裂してジオール
体となり、選択的エポキシ化が起こらない。6) 本研究では、エポキシドの水和
開裂に介在する水の影響を抑えることにより、№130%過酸化水素水を酸化剤と
してもエポキシドのみを生成物とする触媒の開発を目的とした。
その結果、酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒を
見い出し、均一系において30%過酸化水素水を酸化剤とするオレフィンの選択的
エポキシ化を行なうことが出来た。7)
更に、この研究の終結として期待出来る不均一触媒の開発に向かって進んだ。固
定化すると、系からの触媒および生成物などの分離が容易になり、これに加えて、
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取り出した触媒が繰り返し使用できる可能性が生じ、均一系に比べ有利である。従
来、担体の固定化能が完全でない場合、ジオール体が生成すると、ジオール体とモ
リブデン種が「アルコール-モリブデン錯体」 8)を形成し、これが担体から溶出
してしまう。したがって、ジオール体が生成し易い過酸化水素水を酸化剤とした場
合では真の不均一系とならず、繰り返し使用ごとに活性は激減してしまう。
本研究では、モリブデンⅤ価とⅥ価が混合したモリブデン酸化物として古くから
知られている青色色素、モリブデンブルー9)が、水およびアルコール類に容易に
溶解し、無機質担体に良く吸着されること、特に活性炭に対する吸着性が優れてい
ることを見い出し、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を調製した。
10) さらに、タングステン酸に応用したタングステン酸-塩化トリブチル錫-活
性炭触媒を調製し、11) 液相不均一系で30%過酸化水素水を酸化剤とするオレ
フィンのエポキシ化を行なうことが出来た。本論文は、これらの触媒、反応条件、
担体の効果を詳細に解析し30%過酸化水素水を酸化剤とする選択的エポキシ化
反応の活性種、反応機構を明らかにすることを内容として総括的にまとめたもので
ある。
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第1章 酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒に
よる均一系エポキシ化反応
1.1 触媒の種類および反応系の設定
30%過酸化水素水を酸化剤とするオレフィンのエポキシ化を行なうための触媒
を先ず、探索した。すなわち、Al(acac)3、Ce(acac)3、Co(a
cac)3、Cu(acac)2、Cr(acac)3、Fe(acac)3、Mn
(acac)3、MoO-2(acac)2、Ni(acac)2、Rh(acac)
3、TiO(acac)2、VO(acac)2をそれぞれ用い、イソプロピルアル
コールを溶媒とし30%過酸化水素水によるシクロヘキセンの酸化を50℃で1
5時間行なった。このスクリーニングにより、酸化活性の高い触媒として酸化モリ
ブデンアセトネートを選び出すことができた。ところが、この場合、主生成物は、
ジオール体(trans-1,2-シクロヘキサンジオール)であった。以前から、モリブデ
ン種に有機錫化合物を添加すれば、高濃度過酸化水素水(70~90%)を酸化剤
とした場合に、非常に低収率ながらエポキシ化が起こることが知られている。12)
このことに着目し、系に有機錫化合物を添加して反応を行なうことを試みた。T
able1は酸化モリブデンアセチルアセトネートに種々の有機錫化合物を添加し、シ
クロヘキセンの30%過酸化水素水による酸化をおこなったものであり、この添加
により、エポキシ選択性は飛躍的に上昇していることがわかる。エポキシ化反応初
速度を調べると、塩化トリメチル錫を添加した場合に最も効果が高かった。しかし、
15時間後では、酸化ビストリブチル錫の添加が最も高い収率を与えた。すなわち、
イソプロピルアルコール溶媒中、シクロヘキセン3.05M、過酸化水素3.15
×10-1Mのオレフィン過剰の系において72.7%のシクロヘキセンオキシド
を得た。この場合のエポキシ選択率は100%であった。このようにして酸化モリ
ブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒により30%過酸化水
素水によるシクロヘキセンの選択的エポキシ化を行なうことができた。
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Table 1 Effect of organotin compounds on the epoxidation of cyclohexene
With 30% H2O2 in the presence of MoO2(acac)2 at 50℃.
Organotin Initialrate/k Yield/% a)
(Bu3Sn)2O 2.05×10-2 72.7
Bu2SnO 1.89×10-2 61.5
Bu3SnCl 2.58×10-2 45.5
Me3SnCl 3.75×10-2 39.0
(BuSnO)2O 3.93×10-3 36.3
Bu2Sn(OAc)2 5.98×10-3 34.6
Me3SnOH 2.08×10-2 8.6
Cyclohexene 3.05M, MoO2(acac)2 1.09×10 -3M, organotin 2.33×10-2M,
H2O2 3.15×10 -1M, and solvent isopropylalcohol were used.
k:(mol/l)/h. a) Yields were based on H2O2.
Table 2 はシクロヘキセンの過酸化水素によるエポキシ化反応において、酸
化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒の存在下、種々の
アルコール溶媒の効果を調べたものである。
Table 2 Effect of solvents in the epoxidation of cyclohexene with H2O2 in the
presence of MoO2(acac)2 and (n-Bu3Sn)2O.
C-number 1/k 2/k 3/k 4/k 5/k
Isomer
n- 2.68×10-3 7.56×10-3 1.43×10-2 1.50×10-2 1.86×10-2
iso- 2.17×10-2 3.47×10-2 1.37×10-2
sec- 1.94×10-2 2.03×10-2
tert- 1.78×10-2 1.50×10-2.
Cyclohexene 3.05M, MoO2(acac)2 1.09×10 -3.M,(n-Bu3.Sn)-2O1.39×10 -2.M,
H2O2 3.15×10-1M The reaction was carried out at 50℃ k:(mol/l)/h.
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本反応系中には、親油性であるオレフィンと親水性である過酸化水素水が共存す
るので、溶媒としてはアルコール類が適している。メタノールもしくは、C6以上
のアルコールでは、系№4よりオレフィンもしくは過酸化水素水が分離して二層と
なるので適さない。したがって、溶媒としてはプロピルアルコール類、ブチルアル
コール類が適しているが、特にイソプロピルアルコール、イソブチルアルコールが
適している。
1.2数種のオレフィンに対するエポキシ化活性と反応機構に対する速度論的考察
前節の反応系を用い、数種のオレフィンに対するエポキシ化を行なった。すなわ
ちオレフィンとして、シクロヘキセン、スチレン、1-オクテン、1-デセン、塩化ア
リルを用い、オレフィン3.05M、過酸化水素 3.15×10-1M、酸化モリ
ブデンアセチルアセトネート1.09×10 -3M、酸化ビストリブチル錫 1.39×
10 -2M、溶媒イソプロピルアルコールの系で反応を行なった。
各々のオレフィンを用いてエポキシ化速度を求めた結果をFig.1に示す。
反応速度は、シクロヘキセン>スチレン>1-オクテン>1-デセン、塩化アリルの
順となった。また、シクロヘキセンオキシドに対する各オレフィンのエポキシ体の
生成速度比は1:0.7:0.3:0となる。この傾向は、モリブデンヘキサカルボ
ニル-tert-ブチルヒドロパーオキシド系13)と同様である。
しかし、この系ではシクロヘキセンに対するスチレンの生成速度が1:0.1で
あるのに比べて本反応では1:0.7と高いことに特徴がある。
次に、酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒を用い
た本均一系反応の特性を調べる目的で、反応系を構成する各成分濃度を変化させ、
エポキシ化初速度との関係を調べた。
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Fig.1 Epoxidation of various olefins with H2O2 in the presence of MoO2
(acac)2 and (n-Bu3Sn) 2O at 50℃.
Olefin 3.05M, H2O2 3.15×10-1M, MoO2(acac)2 1.09×10
-3M, (n-Bu3Sn)2O 1.39
×10-2M, and solvent isopropylalcohol were used.
The reaction was carried out at 50℃.
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Fig.2 Effect of the concentration of cyclohexene on the
epoxidation rate in the presence of MoO2(acac)2 and (n-Bu3Sn)
2O
H2O2 3.15×10-1M, MoO2(acac)2 1.09×10
-3M, (n-Bu3Sn)2O 1.39×10-2M,
and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried
out at 50℃. Cyclohexene(■)2.44M, (○)1.22M, (●)0.61M, (△)0.3M.
Fig.2は、シクロヘキセン濃度に対するエポキシ化初速度の関係を調べたもの
である。シクロヘキセン濃度に対して1次で依存している。この結果よりシクロヘ
キセンの活性種への配位は弱いことがわかる。
Fig.3は、過酸化水素についての結果を示す。過酸化水素濃度に対して3.1
5×10 -1Mまで初速度は一次で増加し、それ以上の濃度では飽和に達して0次
となっている。この結果より過酸化水素の活性種への配位は強いことがわかる。
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Fig.3 Effect of the concentration of H2O2 on the epoxidation
of cyclohexene in the presence of MoO2(acac)2 and (n-Bu3Sn)2O.
Cyclohexene 3.05M, MoO2(acac)2 1.09×10-3M, (n-Bu3Sn)2O 1.39×10
-2M,
and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried
out at 50℃. H2O2(□)1.26M,(○)6.3×10-1M,(●) 3.15×10-1M,(△)1.58×
10-1M, (▲)7.9×10 -2M.
触媒濃度は反応中一定と考えられるので、これらの結果より速度式を求めると、
1) 過酸化水素濃度3.15×10-1M以下では、
d〔Cyclohexene oxide〕/dt
=k1〔Cyclohexene〕〔H2O2〕
2) 過酸化水素濃度3.15×10-1M以上では、
d〔Cyclohexene oxide〕/dt
=k2〔Cyclohexene〕
と表わすことができる。
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Fig.4に、酸化ビストリブチル錫濃度に対する初速度の関係を示す。
Fig.4 Effect of the concentration of (n-Bu3Sn)2O on the
epoxidation rate in the presence of MoO2(acac)2.
Cyclohexene 3.05M, H2O2 3.15×10-1M, MoO2(acac)2 1.09×10
-3M, and
solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out
at 50℃.
酸化ビストリブチル錫濃度に比例して初速度は上昇し、飽和に達した。この飽和点
における酸化モリブデンアセチルアセトネートと酸化トリブチル錫のモル比は約
1-2となり、モリブデン種と酸化トリブチル錫が一定の割合で複合体を形成し反
応に関与していることが考えられる。
Fig.5は、本反応系において、シクロヘキセンのエポキシ化を行なった際のア
レニウスプロットである。見かけの活性化エネルギーは10.2kcal・mol
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-1であった。これは他の系、たとえば、モリブデン酸、tert-ブチルヒドロパーオ
キシド系の26.9kcal・mol-1 14)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリ
ブデン系の19.0kcal・mol-1 15)、ヘキサメチルホスホトリアミドモリ
ブデン系の15.9kcal・mol-1 16)と比べて小さい値を示した。
Fig. 5 Arrhenius plots for the epoxidation of cyclohexene with
H2O2 in the presence of MoO2(acac)2 and (n-Bu3Sn)2O.
Cyclohexene 3.05M, MoO2(acac)2 1.09×10 -3M, (n-Bu3Sn)2O 1.39×10
-2M,
H2O2 3.15×10 -1M, and solvent isoprpylalcohol were used.
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Fig.6 Epoxidation of cyclohexene with t-BuOOH and H2O2 in the
presence of molybdenum catalyst at 50℃.
Cyclohexene 3.05M, peroxide 3.15×10-1M, MoO2(acac)21.09×10 -3M,
(n-Bu3Sn)2O 1.39×10 -2M, and solvent isopropylalcohol were used.
ところが、Fig.6に示すように、酸化モリブデンアセチルアセトネート、tert-
ブチルヒドロパーオキシド系の反応速度に比べて本反応系の反応速度は小さい。こ
の理由として-53eu 17)という大きな負の活性化エントロピーが計算され、
活性点付近での水分子の拘束による反応阻害が考えられる。
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第2章 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒およびタングステン
酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒によるオレフィンのエポキシ化
2.1 活性金属種および固定化担体の探索
活性種を固定化し、不均一化する試みはこれまでに、1)化学物質と結合させて
不溶化させる方法(ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン系 15)および、〔M
o2O3(S2CNEt2)4〕ジチオカルバメート誘導体系 18)、2)有機ポリマーに
担持させる方法(ポリビニルピリジン-VOSO4系 19)および、Mo(CO)6
-イオン交換樹脂系 20)、3)無機ポリマーに担持させる方法(MoCl5-ゼオ
ライト系21)が報告されている。しかし、これらの場合、酸化剤は全て tert-ブチ
ルヒドロパーオキシドが用いられており、過酸化水素を酸化剤とした系については
全く未知の分野となっている。
そのため、まず、固定化してエポキシ化に働く活性金属種をきめなければならな
い。 Table3はクロム族(Cr,Mo,W)の金属酸化物を活性炭に吸着させた
触媒を用い、シクロヘキセンの過酸化水素による酸化を行なった結果である。
Table 3 Epoxidation of cyclohene with hydrogen peroxide on
various metal oxide-charcoal catalysts.
Catalyst Conv. Yield / %
% Epoxidea) 1-oneb) Etherc)Diold)
Cr2O3-C 0 0 0 0 0
CrO3-C 36.1 3.3 25.9 0.5 0
H2MoO4-C 11.9 10.9 0 0.8 0.2
(NH4) 6Mo7O24e)-C 11.1 10.3 0.3 0.6 0.2
MoBf)-C 17.1 17.1 0 0 0
H2WO4-C 53.8 6.3 9.2 14.2 17.5
Cyclohexene- 3 25M, H2 O2 .5.88× 10 - 1 .M,metaloxide3.47× 10 -
5.M,char-coal0.4g,solventisopropylalcoholwereused.a)Cyclohexeneoxide.b)2
-Cyclohexen-1-one.c)1- 2 -Cyclohexanediolmonoisopropylether.d)1- 2
-Cyclohexanediol.e)Ammoniummolybdate.f)Molybdenumblue.
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酸化クロム(Ⅲ)-活性炭では活性を示さず、酸化クロム(Ⅵ)-活性炭ではα,
β-不飽和ケトンである 2-シクロヘキセン-1-オンが主生成物となる興味ある結果
を与えた。タングステン酸-活性炭ではエポキシドの水和開裂物であるジオール体
(1,2-シクロヘキサンジオール)が主生成物となった。
一方、モリブデン種を活性炭に吸着させたものでは、エポキシ体(シクロヘキセ
ンオキシド)が主生成物となった。とりわけ、モリブデンブルー-活性炭では非常
に高い選択率を与えたので、活性金属種としてモリブデンブルーが適当なものと認
めた。ここで用いたモリブデンブルーは、水およびアルコール類に易溶な青色色素
で古くから知られており、モリブデンⅤ価とⅥ価の混合モリブデン酸化物(Mo2
O5・4MoO3) 22)である。
Table4 Effect of carrier in the epoxidation of cyclohexene in
the presence of MoB.
Carrier Conv. Yield / %
% Epoxidea)1-oneb)Etherc)Diold)
SiO2 12.4 0.7 0 8.3 3.4
γ-Al2O3 13.4 0 0 4.3 9.1
ZnO 0.2 0.2 0 0 0
CaO 0 0 0 0 0
TiO2 22.3 0.9 11.5 7.7 2.2
KG 28.3 0.9 10.0 13.4 3.9
Charcoal(Palm) 17.1 17.1 0 0 0
(Coal) 8.3 6.6 0 1.1 0.6
(Bone) 29.3 18.2 0 6.1 5.3
Cyclohexene 4.43M,1.25%MoB-carrier0.4g, H2O2 8.02×10-1M, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃
for 24h. a)Cyclohexeneoxide. b)2-Cyclohexen-1-one.
c)1,2-Cyclohexanediolmonoisopropylether. d)1,2-Cyclohexanediol.
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17
次に、モリブデンブルーを担持させる有効な担体を探索した。
Table4には、種々の担体にモリブデンブルーを吸着させたものを触媒とし、シ
クロヘキセンの、酸化を行なった結果を示す。活性炭以外の担体ではモリブデンブ
ルーの吸着性が弱く、活性炭では、Palm系、Coal系、Bone系、いずれ
もモリブデンブルーを強く吸着し、エポキシ体の収率、選択率共に他の担体と比べ
て高くなることを確かめた。とりわけ、Palm系活性炭が高選択率を示した。従
ってモリブデンブルーを担持させる担体としてはPalm系活性炭が最適であり、
触媒系をモリブデンブルー-活性炭に絞ることができた。
2.2 エポキシ化に及ぼす有機錫の効果
モリブデンブルー-活性炭触媒を用いてシクロヘキセンの過酸化水素による酸
化を行なうと、反応終了後の収率は17.1%であり、これ以上の収率の上昇は認
めなかった。そこで、均一系で添加効果のあった有機錫化合物に着目し、モリブデ
ンブルー-活性炭触媒に有機錫化合物を加え、シクロヘキセンの過酸化水素による
エポキシ化を行なった。結果をTable5に示す。
Table 5 Effect of organotin compound in the epoxidation of cyclohexene with
30% H2O2 in the presence of MoB-charcoal catalyst.
Organotin Yield / %a)
Epoxideb) Etherc) Diold)
Me3SnCl2 23.6 0 0
Me3SnOH 17.2 0 0.5
Bu3SnCl 53.2 0 0
(n-Bu3Sn)2O 42.5 0.7 2.0
Cyclohexene 4.43M, 1.25%MoB-C 0.4g, H2 O2 8.02× 10- 1 M,
organotincompound 1-38×10 -2M, and solvent isopropylalcohol were
used. The reaction was carried out at 50℃for 8h. a)The yields
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were based on H2 O2 b)Cyclohexeneoxied. c)1,2-Cyclohexanediol
monoisopropylether. d)1,2-Cyclohexanediol.
塩化トリブチル錫の添加効果が最も高く、エポキシ体の収率は53.2%と飛躍的
に上昇した。有機錫化合物の中ではメチル基をもつものより、ブチル基をもつもの
の効果が高く、また、酸化物より塩化物の効果が高い。このようにしてモリブデン
ブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を調製し、シクロヘキセンの選択的エポキ
シ化を行なうことができた。
2.3 タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒の調製
前節で、有機錫化合物を加えることによりエポキシ化選択性が上昇することがわ
かった。このことに注目し、生成したエポキシ体の水和開裂を促進するためエポキ
シ化選択性が低いとされている 23)タングステン酸を固定化し、選択的エポキ
シ化を行なう不均一触媒を調製することを試みた。最近、タングステン酸ナトリウ
ムを触媒とし、相間移動剤の存在下、低濃度過酸化水素水によりシクロヘキセン等
のエポキシ化が起こるという報告がある。24)しかし、固体触媒では未だ成功して
いない。
Table6は、タングステン触媒を用い、シクロヘキセンの過酸化水素による酸化
を行なった結果である。
Table 6 Epoxidation of Cyclohexene with hydrogen peroxide using tungstic acid
catalysts.
Catalyst Conv. Yield / %
% Epoxidea) Etherb) Diolc)
H2WO4 87.5 1.6 10.7 75.2
H2WO4-charcoal 34.8 5.5 6.6 22.7
H2WO4- Bu3SnCl –C 41.1 41.1 0 0 Cyclohexene 1.8M, H2O2 1.8M, 1.8%H2WO4-C 0.4g,Bu3SnCl 1.57×10
-2M, and
solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃ for
15h .a)Cyclohexeneoxide. b)1,2-Cyclohexanediolmonoisopropylether.
c)1,2-Cyclohexanediol.
-
19
タングステン酸を触媒とすると、ジオール体が主生成物となる。タングステン酸を
活性炭に吸着させた固定化触媒を用いると若干のエポキシ体の選択率の上昇はあ
るものの依然としてジオール体が主生成物となる。ところが、タングステン酸-活
性炭触媒に塩化トリブチル錫を添加した系で反応を行なうと、モリブデンブルー-
塩化トリブチル錫-活性炭触媒でのエポキシ体の収率(53%)よりは低いが、収
率43%、選択率100%に達した。
Table7 Effect of various organotincompounds as cocatalyst on the epoxidation
of cyclohexene with H2O2 on H 2WO4-charcoal
Organotin Conv. Yield / %
% Epoxidea) Etherb) Diolc)
Me3SnCl 30.3 30.3 0 0
Bu3SnCl 68.0 68.0 0 0
Ph3SnCl 55.8 51.5 4.3 0
Me3SnOH 30.4 30.4 0 0
(BuSnO) 2O 42.8 35.6 7.2 0
Bu3SnO 59.2 59.2 0 0
(n-Bu3Sn)2O 59.2 59.2 0 0
Bu2Sn(OAc) 2 61.3 58.6 0 2.7
BuSn(OAc) 3 53.2 51.6 0 1.6
Ph3Sn(OAc) 58.0 52.5 5.5 0
(Cyclohexyl) 3SnOH 48.6 48.6 0 0
Bu4Sn 64.6 38.5 26.0 0.1
Ph4Sn 35.2 24.9 10.3 0
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8% H2WO4-C 0.4g, organotin 1.48×
10 -2M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried
out at 50℃ for 15h.
a)Cyclohexeneoxide. b)1,2-Cyclo-hexanediolmonoisopropylether.
c)1,2-Cyclohexanediol.The pH of support is 7.
-
20
次いで、タングステン酸-活性炭触媒に添加する種々の有機錫化合物の効果を調
べた。その結果をTable7に示す。有機錫化合物では塩化トリブチル錫が最も高い
添加効果を示し、収率68・0%に達した。有機錫化合物の効果は、アルキル基が
フェニル基あるいはメチル基のものより、ブチル基をもつものの効果が高い。また、
テトラアルキル体よりトリアルキル体の効果が高い。他の置換基ではアセチル基、
水酸基、酸化物より塩化物の効果が高い。 以上の知見を基にして、タングステン
酸を固定化したタングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を調製し、シクロ
ヘキセンの選択的エポキシ化を行なうことが可能となった。
2.4 C5-C10アルケンに対するエポキシ化活性と反応機構に関する速度論的
考察
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いた反応系および、タン
グステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いた反応系において、反応系を構
成する各成分濃度を変化させてエポキシ化初速度との関係を調べた。
Fig.7は、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用い、シクロ
ヘキセンの過酸化水素によるエポキシ化を行なったときのシクロヘキセン濃度あ
るいは過酸化水素濃度とエポキシ化初速度の関係を調べたものである。
シクロヘキセン、過酸化水素両濃度に対して初速度はいずれも飽和に達している。
このことより、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いた反応系
では、活性種へのシクロヘキセンおよび過酸化水素への配位は均一系と比べはるか
に強いことがわかる。
-
21
Fig.7 Effect of the concentration of cyclohexene and H2O2 on the epoxidation
rate in the presence of MoB-Bu3SnCl-charcoal.
1.25%MoB-charcoa l0.4g, Bu3SnCl 1.39×10 -2.M, and solvent isopropylalcoal
were used. The reaction was carried out at 50℃.
一方、Fig.8は、タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いた反
応系の場合である。シクロヘキセン、過酸化水素両濃度に比例して初速度は1次で
上昇する。このことより、タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒では、
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒と比べて、活性種へのシクロヘ
キセンおよび過酸化水素の配位は弱い。
-
22
Fig.8 Effect of the concentration of cyclohexene and H2O2 on the epoxidation
rate in the presence of H2WO4- Bu3SnCl -charcoal.
1.8% H2WO4-C0.4g, Bu3SnCl 1.59×10 -2.M, and solvent isopropylalcohol were
used. The reaction was carried out at 50℃.
Fig.9(1)は、モリブデンブルー-活性炭触媒に塩化トリブチル錫を添加し
たときの塩化トリブチル錫濃度とエポキシ化初速度の関係を示したものである。初
速度は濃度に比例して上昇し、飽和に達する。この飽和点におけるモリブデンブル
ーと塩化トリブチル錫のモル比は約1:6となり、一定のモル比で添加効果が飽和
することより、均一系の場合と同様モリブデン種と塩化トリブチル錫が一定の割合
で複合体を形成し、反応に関与していると考えられる。
一方、Fig.9(2)は、同様に塩化トリブチル錫を添加したときの塩化トリブ
チル錫の添加濃度とエポキシ化初速度の関係を調べたものである。添加濃度に比例
して初速度はゆるやかに上昇する。
-
23
Fig.9 Effect of the concentration of Bu3SnCl and Me3SnCl as co-catalyst
in the epoxidation of cyclohexenewith H2O2 on MoB-charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10 -2M, 1.25%MoB-C 0.4g, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at
50℃.
実際に、塩化トリブチル錫の初速度が塩化トリブチル錫の初速度より、約10倍速
いことからもわかるように、モリブデン種と複合体を形成すると考えられる塩化ト
リブチル錫の効果が塩化トリブチル錫の効果より高く、複合体形成がエポキシ化に
有利に作用していると考えられる。
Fig.10は、タングステン酸-活性炭触媒に塩化トリブチル錫を添加したとき
の添加濃度とエポキシ化初速度の関係を示したものである。この場合においても添
加濃度に比例して初速度は上昇し飽和に達する。この飽和点におけるタングステン
酸と塩化トリブチル錫のモル比は約1:4となり、タングステン種と塩化トリブチ
ル錫が一定の割合の複合体を形成し、反応に関与していることが考えられる。そこ
で実際のエポキシ化反応では飽和値以上の濃度を添加して行なっている。
-
24
Fig.10 Effect of the concentration of Bu3SnCl as cocatalyst in the
epoxidation of cyclohexene with H2O2 on H2WO4-charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8%H2WO4-C 0.4g, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃.
Table8は、タングステン酸-活性炭触媒に塩化トリブチル錫を添加して反応を行
なったときの添加量と15時間後の生成物を調べたものである。塩化トリブチル錫
の添加量が増加するにつれて、副生成物のエーテル体(1-2-シクロヘキサンジオ
ールモノイソプロピルエーテル)とジオール体(1,2-シクロヘキサンジオール)の
生成量が減少している。エポキシドのエーテル体もしくはジオール体への開裂は酸
によって促進されるので、この場合、タングステン酸の酸の部分に塩化トリブチル
錫が結合もしくは配位して、酸の部分によるエポキシドの開裂作用をブロックし、
その結果、選択性が上昇していると考えられる。
-
25
Table8 Effectof Bu3SnCl in the epoxidation of cyclohexene with H2O2 on H2WO4-charcoal catalyst.
Bu3SnCl Conv. Yield / %
% Epoxidea) Etherb) Diolc)
0 49.8 8.2 14.6 27.0
10 51.2 19.9 15.9 15.4
20 58.1 43. 0 15.1 0
40 67.9 61.0 6.9 0
50 68.0 68.0 0 0
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8%H2WO4-C 0.4g, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃
for 15h. a)Cyclohexeneoxide. b)1,2-Cyclohexanediolmonoisopropylether.
c)1,2-Cyclohexanediol.
Fig.11は、モリブデンブルー-活性炭触媒を用いてシクロヘキセンの過酸化
水素によるエポキシ化を行なった際のアレニウスプロットである。見かけの活性化
エネルギーは、8.6kcal・mol -1.である。一方、Fig.12は、モリブデンブ
ルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いてシクロヘキセンの過酸化水素によ
るエポキシ化をおこなったときのアレニウスプロットである。見かけの活性化エネ
ルギーは1-35kcal・mol -1.である。
-
26
Fig.11 Arrhenius plots for the epoxidation with MoB-charcoal catalyst.
Cyclohexene 4.43M, H2O2. 8.02×10- 1M, 1.25%MoB-C 0.4g, and solvent
isopropylalcohol were used.
-
27
Fig.12 Arrhenius plots for the epoxidation with MoB-Bu3SnCl–charcoal catalyst.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.39×10
-2
M, and solvent isopropylalcohol were used.
-
28
Table9は、モリブデンブルー-活性炭触媒および、モリブデンブルー-塩化ト
リブチル錫-活性炭触媒における熱力学的データを示したものである。モリブデン
ブルー-活性炭触媒による反応は、活性化エネルギーが小さいので一見、有利に見
えるが、実際の反応速度定数は、約10倍モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-
活性炭触媒の方が大きい。この結果に対するひとつの説明は、速度定数と活性化エ
ネルギーより求めた活性化エントロピーがモリブデンブルー-活性炭触媒系でよ
り大きな負の値をとることに原因があると考えることである。このことより、モリ
ブデンブルー-活性炭触媒では活性種付近が過酸化水素水中の水分子の配位より
おおわれ、シクロヘキセンの配位を妨げているモデルが考えられるのに対し、塩化
トリブチル錫を添加した系では活性種に塩化トリブチル錫が配位することにより、
活性種付近が疎水性となり、水の配位を妨げシクロヘキセンの配位を容易にするの
で、その結果、反応性が高くなるモデルが推察できる。
Table 9 Enthalpy and Entropy of activation in the epoxidation of cyclohexene
on MoB-charcoal and MoB-Bu3SnCl-charcoal at 318゜k.
Catalyst Ea k △H‡ △S‡
(kcal/mol) ((mol/l)/sec) (kcal/mol) (eu)
MoB-C 8.6 1.84×10-2 8.0 -42
MoB- Bu3SnCl –C 13.5 1.69×10 -1 12.9 -22
Cyclohexene 4.43M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.39×10-2M, H2O2 8.02×10
-1
M, and solvent isopropylalcohol were used.
Fig.13は、タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いたシクロヘ
キセンの過酸化水素によるエポキシ化反応において系に加えた水の濃度とエポキ
シ化初速度の関係を調べたものである。
-
29
Fig.13 Effect of the concentration of water on the epoxidation of cyclohexene
with H2O2 in the presence of H2WO4- Bu3SnCl-charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8%H2WO4-C 0.4g, Bu3SnCl 1.59×
10 -2M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out
at 50℃.
水の濃度が高くなるにつれて初速度は小さくなっていく。またこの場合、副生成物
は全く認められないので活性種付近は疎水的雰囲気となっていることがわかるが、
まわりに水分子が多くなるとそれだけシクロヘキセンの活性種への配位が妨げら
れ初速度が低下すると考えられる。
Fig.14は、タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いたシクロ
ヘキセンの過酸化水素によるエポキシ化におけるアレニウスプロットである。見か
-
30
けの活性化エネルギーは11-2kcal・mol -1.であ。この値はモリブデンブルー
-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いた反応系の1-35kcal・mol -1.と比べ
ほぼ、同様の値を示しているので機構的にも類似しているものと考えられる。
Fig.14 Arrhenius plots for the epoxidation of cyclohexene with H2O2 in the presence of H2WO4-Bu3SnCl-charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8%H2WO4-C 0.4g, Bu3SnCl 1.59×
10-2M, and solvent isopropylalcohol were used.
次に、活性種に対する担体の保持性について調べた。Chart.1にそのプロセスを
示す。まず、シクロヘキセンを原料とする過酸化水素によるエポキシ化を50℃、
1時間行ない、50℃でろ過し、触媒とろ液に分離する。この時、エポキシ体の収
率は34.0%であった。ろ過したろ液に活性種が溶出しているとすれば、このろ
-
31
液を加熱すると反応が進み、収率はさらに上昇するものと考えられる。そこで、こ
のろ液を50℃、15時間加熱した後収率を求めると34.6%と加熱前と同様の
値を与えた。一方ろ過した触媒を用い新たに原料、過酸化水素を加え、イソプロピ
ルアルコール中50℃、15時間反応を行なうとエポキシ体の収率は5-20%に
達した。このことより、活性種は明らかにろ液中には存在せず、活性炭上に全て担
持されていることがわかった。
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用い30%過酸化水素水
を酸化剤としてシクロヘキセン、スチレン、α-メチルスチレン、1-オクテン、塩
化アリルをエポキシ化した結果をTable10に示す。
先の均一系エポキシ化反応と比べて活性序列は同様であるが、スチレンを空気雰
囲気中で反応させた場合、酸化開裂物であるベンズアルデヒドが生成する。そこで
反応をアルゴン雰囲気中で行なうと酸化開裂物の生成が抑えられエポキシ体が主
生成物として得られた。
Chart1 Cyclohexene
+Catalyst+i-PrOH
30% H2O2
1) 50℃, 1h
2) filtration
Yield 34.0%
Catalyst Filtrate
Cyclohexene
30% H2O2 50℃, 15h 50℃, 15h
i-PrOH
ii-
Yield 52.0% Yield 34.6%
-
32
Table 10 Epoxidation of various olefins with H2O2 on MoB-charcoal in the
presence of Bu3SnCl.
Olefin Yield/%
Epoxide By-product
Cyclohexene 53.6 0
Styrene 18.4 8.1
Benzaldehyde
α-methylstyrene 10.2 0
Octene 17.1 0
Allylchloride 0 0
Olefin4.43M, H2O2 8.02×10-1M,1.25%MoB-C0.4g, Bu3SnCl 1.39×10
-2.M, and
solvent isopropylalcohol wer eused. The reaction was carried out at 50℃
for24h.
-
33
第3章 担体として用いた活性炭の化学処理効果25)
3.1 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒および、タングステン
酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における担体の酸および塩基処理効果
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いるシクロヘキセンの
エポキシ化において、53%の収率を与えた時点で、過酸化水素がほとんど全て消
費されていた。このように収率の低い原因として過酸化水素の競争的な分解、すな
わち活性炭表面での自発的分解が考えられた。そこで活性炭表面に前処理を施すす
ことにより、過酸化水素の分解を抑えることができれば収率はそれだけ上昇するこ
とが予想された。
活性炭は製品として水に懸濁したとき一定のpHを持つように指定されている
が、無機酸もしくは無機塩基により容易に調節することができる26)
Fig.15 Effect of pH of charcoal as support in the epoxidation of cyclohexene
with30% H2O2 on MoB- Bu3SnCl -charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1-25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.48×10
-2
M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at
50℃ for 15 h. Yields were based on H2O2.
-
34
Fig.15は、予めpHを2から10に調節した活性炭を用いて調製したモリブデ
ンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いてシクロヘキセンの過酸化水素
によるエポキシ化を行なったときの活性炭の前処理pHとエポキシ体の収率およ
び選択性の関係を調べたものである。
pH7のとき最も処理効果が高く、収率60%、選択率100%に達し、pHが酸
性にかたむくにつれ選択率が低下し、逆にpHが塩基性にかたむくにつれ選択率は
100%のままで、収率が低下する。酸性側では活性炭表面の酸によるエポキシド
の開裂促進が考えられ、また塩基性側では塩基による酸化水素の分解促進が考えら
れた。Fig.16は、タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒を用いたシ
クロヘキセンの過酸化水素によるエポキシ化における活性炭の前処理pHとエポ
キシ化反応初速度の関係を調べたものである。この場合もpH7のとき初速度は最
高値を示し、酸性側、塩基性側にかたむくにつれ初速度は小さくなる傾向を示した。
-
35
Fig. 16 Effect of pH of charcoal as support in the epoxidation of cyclohexene
with H2O2 on H2WO4-Bu3SnCl -charcoal.
Cyclohexene 4.43M, H2O2 8.02×10-1M, 1.8%H2WO4-C 0.4g, Bu3SnCl 1.59×10
-2M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out
at 50℃.
-
36
3.2モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における担体のアルキル
化あるいはアルキルシリル化がエポキシ化に及ぼす効果
活性炭は通常、水蒸気、塩化亜鉛により賦活される。この時の通常反応温度は、
800~1000℃に達する。この操作により、活性炭の無定形炭素の黒鉛結晶子
の端には主として酸素原子が結合して表面官能基を形成していることが知られて
いる。この表面官能基としてカルボキシル基、フェノール性水酸基の様な酸性官能
基、カルボニル基、キノン基の様な中性官能基および構造不明な塩基性官能基など
が知られており、活性炭の種類、賦活の方法などにより、存在する表面官能基の種
類や比率は異なる27)
前節で、活性炭のpH前処理を行なった触媒を用いて反応を行なっても収率は2
0%止まりであった。そこで、活性炭を種々のアルキル化剤、アルキルシリル化剤
等で化学処理し、活性炭表面に存在する表面官能基をブロックすることによって過
酸化水素の分解を抑えることを試みた。結果をTable11に示す。N,O-ビス(ト
リメチルシリル)アセタミド(BSA)もしくは、N,N-ジメチルホルムアミドジ
ブチルアセタール(DMFBA)で活性炭を前処理した後調製した触媒を用いた時、
最も処理効果が高く、シクロヘキセンと過酸化水素を等モル加えた系でエポキシ体
の収率70%台に達した。N,N-ジメチルホルムアミドジアルキルアセタール類で
は、メチル<エチル<ブチルという順で処理効果が高くなった。ジアゾメタンにお
いても幾分、処理効果が認められた。
Fig.17は、無処理の活性炭、BSAもしくはDMFBAで処理された活性炭
を一定量の過酸化水素水-イソプロピルアルコール溶液中に加え、50℃で振とう
しながら、過酸化水素の分解を経時的にヨウ素滴定法により調べたものである。無
処理の活性炭では明らかに過酸化水素の分解率が高い。BSAもしくはDMFBA
によって処理された活性炭では、無処理の活性炭と比べて分解が抑えられているこ
とがわかる。また、活性炭を全く加えないものにおいても、ある程度、過酸化水素
を分解しているので、BSAもしくはDMFBAで処理することによって活性炭表
面による過酸化水素の分解が約半分に抑えられたことがわかる。
-
37
Table11 Effect of the treatment of charcoal as support in the
epoxidation of cyclohexene with H2O- 2(30%) using MoB-charcoal
catalyst.
Compound Conv. Yield/%
% Epoxidea) Etherb) Diolc)
Bis(trimethylsilyl)- 70.5 70.5 0 0
acetamide (BSA)
N,N-dimethylformamide- 70.9 70.9 0 0
dibutylacetal(DMFBA)
N,N-dimethylformamide- 46.0 46.0 0 0
Diethylacetal
N,N-dimethylformamide- 42.8 42.8 0 0
Dimethylacetal
Diazomethane 60.6 60.6 0 0
Trifluoroaceticacid 57.4 41.9 3.6 11.9
Cyclohexene1.8M, H2O2 1.8M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnC l1.57×10-2M, and
solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out
at 50 ℃ for 15h. a)Cyclohexeneoxide.
b)1,2-Cyclohexanediolmonoiso-propylether.c)1,2-Cyclohexanediol.
Fig.17 The decomposition of H2O2 in the presence of BSA- or
DMFBA-treated charcoal and untreated charcoal in isopropyl alcohol
at 50℃.
-
38
(○):Blank, (▲):BSA-treatedcharcoal, (△):DMFBA-treatedcharcoal,
(●):Untreatedcharcoal.
-
39
3.3モリブデンブルー-活性炭(DMFBA処理)における有機ゲルマニウム、
有機錫、有機鉛化合物の添加効果
モリブデンブルー-活性炭(DMFBA処理)に助触媒として添加する化合物と
して、炭素族である有機ゲルマニウム、有機錫、有機鉛化合物を用い、それぞれの
化合物のエポキシ化反応に対する効果について調べた。 Table12は、種々の有
機ゲルマニウム化合物をモリブデンブルー-活性炭(DMFBA処理)触媒を用い
た反応系に添加し、シクロヘキセンの過酸化水素によるエポキシ化をシクロヘキセ
ンと過酸化水素が等モル存在する系で反応を行なった結果である。
Table12 Effect of various alkylgermanium compounds in the
epoxi-dation of cyclohexene using 30% H2O2 in the presence of
MoB-charcoal catalyst.
Alkylgermanium Conv. Yield/%
Compound % Epoxidea) Etherb) Diolc)
Ph4Ge 23.1 14.3 2.4 6.4
Ph3GeBr 24.1 5.7 5.8 12.6
(Ph3Ge) 2O 18.1 15.1 1.0 2.0
Ph3GeCl 16.5 16.0 0.5 0
Bu4Ge 15.4 15.4 0 0
Bu3GeBr 14.5 13.4 1.1 0
(Bu3Ge) 2O 23.1 11.5 3.4 8.2
Bu3GeCl 23.5 9.6 2.9 11.0
Et4Ge 17.6 11.3 1.9 4.3
(Et3Ge) 2O 13.8 13.8 0 0
Not added 14.2 10.6 1.0 2.6
Cyclohexene 1.76M, H2O2 1.76M, 1.25%MoB-C 0.4g, alkylgermanium 1.31×10-2
M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at
50℃ for 15h. a)Cyclohexeneoxide. b)1,2-Cyclo-hexanediolmonoisopropylether.
c)1,2-Cyclohexanediol.
-
40
有機ゲルマニウム化合物を全く加えない系では、エポキシ体の収率は10.6%で
あった。有機ゲルマニウム化合物を加えたものでは、全く加えない系よりは、やや
変換率および収率共に高くなるが、大きな効果は見られない。
Table13 Effect of various alkyltin compounds in the epoxidation of cyclohexene
with 30% H2O2 in the presence of MoB-charcoal catalyst.
Alkyltin Conv. Yield/%
Compound % Epoxidea) Etherb) Diolc)
Ph4Sn 22.2 14.9 1.8 5.7
Ph3SnBr 25.6 18.3 2.2 5.1
Ph3SnCl 40.5 21.1 6.9 12.6
Bu4Sn 31.2 31.2 0 0
Bu3SnBr 49.9 41.0 2.2 6.7
Bu3SnCl 70.5 70.5 0 0
(Bu3Sn) 2O 63.2 63.2 0 0
Bu2SnO 43.2 30.5 2.1 10.6
Bu2Sn(OAc) 2 46.5 35.4 3.0 8.0
(BuSnO) 2O 22.4 22.4 0 0
BuSn(OAc) 3 41.9 21.7 3.4 16.8
Ph3Sn(OAc) 31.3 7.9 5.3 18.1
Me3SnCl 28.3 28.3 0 0
Me3SnOH 28.0 28.0 0 0
Sn(OAc) 2 20.7 9.8 2.4 8.6
Cyclohexene 1.76M, 1.25%MoB-C 0.4g, alkyltincompound 1.31×10-2M, and
solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃ for
15h. Charcoal was treated with DMFBA. a)Cyclohexeneoxide.
b)1,2-Cyclohexanediolmonoisopropylether. c)1,2-Cyclohexanediol.
-
41
一方、Table13は、種々の有機錫化合物の添加効果を同様に調べたものである。
塩化トリブチル錫の添加効果が最も高いことがわかる。また、アルキル基の効果で
は、フェニル基もしくはメチル基をもつものよりブチル基をもつものの効果が高く、
アルキル基の数では、トリアルキル体の効果が最も高い。他の置換基では、塩化物、
酸化物の順に効果が高い。
Table14は、同じ置換基すなわちトリフェニル基、臭素化物をもつ有機ゲルマ
ニウム、有機錫、有機鉛化合物の添加効果を比較したものである。 変換率では臭
化トリフェニル鉛の44.9%が最も高く、置換基の種類の異なる有機鉛化合物で
は選択率も上昇する可能性は否定できず、有機鉛化合物の添加効果が最も高くなる
可能性はある。しかし、有機鉛化合物は、有機ゲルマニウム、有機錫化合物に比べ
て毒性が強く、取り扱い、合成が困難なこと、市販品がほとんどないことより、実
用的なものとはいい難い。このことより、助触媒としては、有機錫化合物、とりわ
け塩化トリブチル錫が適当であると考えられる。
Table14 Effect of alkylgermanium, alkyltin and alkyllead compounds in the
epoxidation of cyclohexene.
Compound Conv. Yield/%
% Epoxidea) Etherb) Diolc)
Ph3GeBr 24.1 14.3 2.4 6.4
Ph3SnBr 25.6 18.3 2.2 5.1
Ph3PbBr 44.9 5.9 18.0 21.0
Cyclohexene 1.76M, H2O21.76M, 1.25%MoB-C 0.4g, alkylmetal compound 1.31×
10 -2M, and solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out
at 50 ℃ for 15h. a)Cyclohexeneoxied.
b)1,2-Cyclo-hexanediolmonoisopropylether. c)1,2-Cyclohexanediol.
-
42
3.4 C5~C10アルケンおよび不飽和脂肪酸エステルに対するエポキシ化
と触媒の繰り返し使用の可能性
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭(DMFBA処理)触媒、もしく
はタングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭(DMFBA処理)触媒を用い、シ
クロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1-オクテン-
2-オクテン、1-デセンの30%過酸化水素水による酸化をオレフィンと過酸化水素
が等モルの系において行なった。結果をTable15に示す。
Table15 Epoxidation of various olefins with H2O2 using (A)MoB- Bu3SnCl
-charcoal(DMFBA) and (B)H2WO4-Bu3SnCl -charcoal(DMFBA).
Olefin Catalyst Temp. Yield/%
℃ Epoxide By-product
Cyclopentene A 23 77.4 0
B 23 74.4 0
Cyclohexene A 50 70.9 0
B 50 63.7 0
Cycloheptene A 50 77.0 0
Cyclooctene A 50 81.0 0
1-Octene A 50 32.5 0
2-Octene A 50 76.2 0
B 50 76.3 0
1-Decene A 50 36.4 0
Olefin 1.8M, H2O21.8M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.57×10-2M, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out for 15h.
モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒の場合、シクロペンテン77.
4%、シクロヘキセン70.9%、シクロヘプテン77.0%、シクロオクテン81.
0%、1-オクテン32.5%-2-オクテン76.2%、1-デセン36.4%と、末端
オレフィンでは30%台、内部オレフィンでは60~80%の収率を得ることがで
-
43
きた。タングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭(DMFBA処理)触媒では、
シクロペンテン74.4%、シクロヘキセン63.7%、2-オクテン76.3%
の収率を得た。
ところが、前節の結果より処理された活性炭においても15時間で約30%の過
酸化水素水の分解を起こすことがわかっている。そこでオレフィンの1-3倍モル
の過酸化水素を加えた系で、オレフィンのエポキシ化を行なった。№46 Table
16に結果を示す。シクロペンテン87.0%、シクロヘキセン79-3%、シクロ
ヘプテン87-2%、シクロオクテン96.0%、1-オクテン40.0%-2-オクテン
88.7%、1-デセン41.1%と、末端オレフィンで40%台、内部オレフィンで
80~90%に達し、ほぼ満足すべき収率を得ることができた。
Table16 Epoxidation of various olefins with H2 O2 using MoB-Bu3SnCl-charcoal(DMFBA).
Olefin Temp. Yield/%
℃ Epoxide By-product
Cyclopentene 23 87.0 0
Cyclohexene 50 79.3 0
Cycloheptene 50 87.2 0
Cyclooctene 50 96.0 0
1-Octene 50 40.0 0
2-Octene 50 88.7 0
1-Decene 50 41.1 0
Olefin 1.8M, H2O2 2.34M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.57×10-2M, and solvent
isopropylalcohol were used. The reaction was carried out for 15h.
次にモリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭(DMFBA処理)触媒によ
る反応系を不飽和脂肪酸に応用した。
-
44
Table17は、エルカ酸エチル、オレイン酸エチル、エライジン酸エチル、ウン
デシレン酸エチル-2-ヘキセン酸エチル、3-ヘキセン酸エチルの30%過酸化水素
水によるエポキシ化を行なった結果である。内部シス二重結合をもつエルカ酸エチ
ルおよびオレイン酸エチルの収率はそれぞれ77%、76%と内部トランス二重結
合をもつエライジン酸エチルの40%もしくは末端二重結合をもつウンデシル酸
エチルの29%に比べて高い収率を示す傾向が見られる。また、共役系、カルボニ
ル基のα,β位に二重結合をもつ 2-ヘキセン酸エチルおよび、β,γ位に二重結
合をもつ3-ヘキセン酸エチルの酸化では生成物は得られなかった。
Table17 Epoxidation of various unsaturated fatty acidesters with 30%H2O2 in
the presence of MoB- Bu3SnCl -charcoal(DMFBA) catalyst.
Material Epoxide Yield/%
Ethylerucate 77
Ethyloleate 76
Ethylelaidate 40
Ethylundecylenate 29
Ethyl2-hexenoate 0
Ethyl3-hexenoate 0
Material 0.2M, H2O2 1.18M, 1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.02×10-2M, and
solvent isopropylalcohol were used. The reaction was carried out at 50℃ for
15h.
しかし、本反応系はこのようにオレフィン誘導体のエポキシ化に応用でき、発展
性のあるものであると考えられる。 不均一化触媒において触媒の繰り返し使用の
可能性は重要である。そこで、本触媒系におけるその可能性について調べた。
Table18は、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭(DMFBA処理)
触媒によるシクロヘキセンの30%過酸化水素水によるエポキシ化を繰り返し行
なったものおよび、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭(BSA処理)
-
45
触媒によるエポキシ化を繰り返し行なったものである。いずれの場合もオレフィン
の1-3倍モルの過酸化水素をもちいた。 シクロヘキセンの繰り返しエポキシ化
の場合、収率は73、67、60%、シクロオクテンの場合、95、96、90%
となり、幾分収率は低下するが、繰り返し使用の可能性は十分あると考えている。
Table18 The epoxidation of cyclohexeneandcyclooctene with H2O2 by using
recovered catalysts.
Olefin Catalyst Number of Yieldo f
(Modifier) reactions epoxide/%
Cyclohexene MoB-Bu3SnCl 1 73
(DMFBA) 2 67
3 60
Cyclooctene MoB- Bu3SnCl –C 1 95 (BSA) 2 96
3 90
Olefin1.8M, H2O2 2.34M,1.25%MoB-C 0.4g, Bu3SnCl 1.57×10-2M, and solvent
isopropylalcohol were used.The reaction was carried out at 50℃ for 15h.
-
46
第4章 本触媒系における活性種の構造と反応機構
4.1 酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチチル錫触媒にお
ける活性種
酸化モリブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒を用いる均
一系において、反応液の調製は、少量のイソプロピルアルコールに溶かした酸化モ
リブデンアセチルアセトネート中に酸化ビストリブチル錫を添加するが、この時、
ただちに白色沈殿を生じ、同時に酸化モリブデンアセチルアセトネートの黄色が消
失する。この白色沈殿は、イソプロピルアルコール、シクロヘキセンに溶解せず、
過酸化水素水を加え、水浴上で加温すれば、極めて短時間に溶解する。この白色沈
殿は、過酸化水素によるシクロヘキセンのエポキシ化触媒としての活性をもち、反
応終了後、過酸化水素が消費されると再び沈殿として析出する。このことより、こ
の白色沈殿は本反応系の前駆活性種であると考えた。
この沈殿物を取り出してIRスペクトルを調べると、Chart2に示すように酸化
モリブデンアセチルアセトネートのアセチルアセトンに由来する1395、142
0、1460、1580cm-1の吸収が消失している。また、酸化ビストリブチ
ル錫みられた1372、1525cm-1の吸収帯も消失している。そして、これ
に代わって800~900cm-1のブロードな強い吸収が現われた。Sn-O-S
n結合は種々の酸によって簡単に切断され付加化合物を作ることも知られている2
8)さらに、Chart3に示すようにこの白色沈殿の元素分析値はMoO2((C4H9)
3SnO)2の組成に一致している。
一方、チオシアン酸吸光光度法29)により白色沈殿中のモリブデン量を、また、
灰化処理後、キレート滴定法30)により錫量を調べ両者の重量モル比を比較してみ
るとMo:Sn=1:1.9であった。これらのことより、本均一系反応において、
Chart3の(1)に示すような構造の前駆活性種が過酸化水素の存在下エポキシ化
活性種となり、反応を促進しているものと考えられる。
-
47
Chart 2
MoO2(acac) 2
白色沈殿
(n-Bu3Sn) 2O
-
48
Chart 3
MoO2(acac) 2+(Bu3Sn) 2O
O
白色沈殿 Bu3Sn-O-Mo-O-SnBu3
C(%) H(%) O
Found 38.42 7.22
Calcd. 38.95 7.36 (1)
Mo:Thiocyanateabsorptiometry
Sn:Chelatometrictitration
Mo:Sn=1:1.9
O
Bu3Sn-O-W-O-SnBu3
O
Infraredspectrum
2940cm-1(S)
1465cm-1(M) (2)
1390cm-1(W)
1095cm-1(W)
800~900cm-1(S)
-
49
MoB+ Bu3SnCl H2WO4+ Bu3SnCl
白色沈殿 白色沈殿
C(%) H(%) C(%) H(%)
Found 39.07 7.28 Found 34.84 6.46
Calcd. 38.95 7.36 Calcd 34.82 6.57
(1) (2)
Infrared spectrum Infrared spectrum
2940cm-1(S) 2940cm-1(S)
1465cm-1(M) 1465cm-1(M)
1390cm-1(W) 1390cm-1(W)
1095cm-1(W) 1095cm-1(W)
800~900cm-1(S) 800~900cm-1(S)
4.2 モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒および、タングステン
酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における活性種
モリブデンブルーと塩化トリブチル錫を触媒とし、イソプロピルアルコール溶媒
中シクロヘキセンの過酸化水素による酸化を行なうと反応終了後、白色沈殿が生ず
る。また、タングステン酸と塩化トリブチル錫を触媒とした場合でも同様に反応終
了後、白色沈殿が生ずる。これらの沈殿のIRスペクトルは、均一系の白色沈殿と
一致し、元素分析値も、それぞれMoO2((C4H9)3SnO)2、WO2((C4
H9)3SnO)2と一致する。そこでこれらの白色沈殿をそれぞれChart3の(1)
と(2)の構造であると推定した。これらの白色沈殿は過酸化水素によるシクロヘ
キセンのエポキシ化を促進する。また、これらの白色沈殿を少量の過酸化水素水、
およびイソプロピルアルコールに溶解させ、活性炭に吸着させたものを触媒として
シクロヘキセンの過酸化水素による酸化を行なうと選択的エポキシ化が起こる。こ
-
50
のことより、これらの白色沈殿が、モリブデンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭
触媒およびタングステン酸-塩化トリブチル錫-活性炭触媒における前駆活性種
と同様のものであると考えられ、これが過酸化水素により活性種となっていると考
えられる。
4.3 本反応系における反応機構
前節で得られた白色沈殿に過酸化水素を作用させた後エーテル抽出すると、淡黄
色の粉末が得られる。この淡黄色の粉末と白色沈殿のIRスペクトルを比べてみる
と、白色沈殿に見られなかった3200cm -1の水酸基の吸収が淡黄色粉末に現
われ、白色沈殿に見られた800~900cm -1のMo=O結合の強い吸収31)
が、淡黄色粉末で減少した。このことは、白色沈殿のMo=O結合が、淡黄色粉末
ではMo-OH結合に変化したと推定される。これより、Chart4に示すように、
白色沈殿(A)が過酸化水素により、μ-Peroxo型のモリブデン過酸化物32)とな
った淡黄色粉末(B)が活性種として考えられる。したがって反応機構としては、
先ず、白色沈殿に相当する(A)に、過酸化水素が作用して、淡黄色粉末に相当す
る(B)のμ-Peroxo型モリブデン過酸化物となり、これとシクロヘキセンが反応
し、シクロヘキセンのエポキシ化が起こり、水1分子が生成すると共に(B)は再
び(A)にもどるというサイクルが考えられる。
-
51
Chart 4
IR(cm-1) 白色沈殿 淡黄色粉末
白色沈殿+H2O2 3200 - S
2940 S S
淡黄色粉末 1465 M M
1390 W W
1095 W W
800~900 S M
(B)
HO OOH
Bu3SnO-Mo-OSnBu3 Cyclohexene
O
O
H2O2 Bu3SnO-Mo-OSnBu3O Epoxide + H2O
O
(A)
-
52
第5章 結論
従来、低濃度過酸化水素水では、オレフィンのエポキシ化に際してエポキシドの
水和開裂が逐時的に進むため、選択的にエポキシ化合物を得ることがむずかしいと
されていた。
本研究では30%過酸化水素水を酸化剤とするエポキシ化触媒として、酸化モリ
ブデンアセチルアセトネート-酸化ビストリブチル錫触媒による均一系、モリブデ
ンブルー-塩化トリブチル錫-活性炭触媒および、タングステン酸-塩化トリブチ
ル錫-活性炭触媒による不均一反応系が実現され、イソプロピルアルコール中でオ
レフィンを高収率高選択的にエポキシ化することができた。同時に、本触媒系の特
性を明らかにしたが、この際、モリブデン種あるいはタングステン種に有機錫が結
合したμ-Peroxo型モリブデン過酸化物がエポキシ化を行なって触媒的にサイク
ルを起こす機構を明らかにした。
-
53
第6章 実験方法
6.1 第1章の実験
試薬:シクロヘキセン30%過酸化水素水は林純薬工業(株)の特級試薬、スチレ
ン、1-オクテン、1-デセンは、東京化成(株)の特級試薬、アリルクロライド、イ
ソプロピルアルコールその他のアルコール類は和光純薬(株)の特級試薬、酸化ビ
ストリブチル錫、塩化トリブチル錫は共同薬品(株)、塩化トリメチル錫はAldrich
社、水酸化トリメチル錫はC.A.Krausらの方法33)にしたがってアルカリ溶
液中より加水分解、昇華法によって得たものを用いた。オレフィン類は予め蒸留し
て用いた。
実験方法:50mlの丸底フラスコにシクロヘキセン、過酸化水素水、溶媒のイソ
プロピルアルコールを加え、均一下、所定温度(50℃±0.01°)の恒温槽内
で行なった。すなわち、少量のイソプロピルアルコールに溶解させた酸化モリブデ
ンアセチルアセトネート10mgに有機錫化合物200mg加え、さらにイソプロピ
ルアルコール10ml、シクロヘキセン32g、30%過酸化水素水1.0mlを加え
反応を開始した。一定時間ごとにサンプリングを行ない、内部標準として0.7
mol・l -1のトルエン/イソプロピルアルコール溶液1.0mlを加え、その0.3
μlについてガスクロマトグラフ(Hitachi 063)により昇温法(40~15
0℃ 3°/min)で分析した。カラム-20%PEG-20M(3i.d.×1minlength)
キャリアーガス:ヘリウムなお、副生成物の 1,2-シクロヘキサンジオールは、
NMRスペクトルを標準チャートと照合する方法によりトランス型であることを、
また、1,2-シクロヘキサンジオールモノイソプロピルエーテルは200MHzNMR
スペクトルメーター(VarianXL200)でデカップリング法にてトランス型で
あることを確認した。NMR(CDCl-3) 1.00~1.40(10H,m,
CH 2orCH-3)、1.68(2H,m,CH2)、2.00(2H,m,CH2)、
3.08(1H,ddd,J=9,9,2Hz,CH)3.36(1H,ddd,
J=9,9,2Hz,CH )、3.73(H,m,CH )
-
54
6.2 第2章の実験
試薬:シクロヘキセン30%過酸化水素水は林純薬(株)の特級試薬、塩化トリメ
チル錫はAldrich社、塩化トリブチル錫、塩化トリフェニル錫は東京化成(株)
の一級試薬、酸化ジブチル錫、水酸化トリシクロヘキシル錫は和光純薬(株)、そ
の他の有機錫は共同薬品工業(株)のものをもちいた。活性炭はダイヤキャタリス
ト&ケミカルズ社DC-5200Wを使用直前に65メッシュ以下に粉砕して用
いた。シクロヘキセンは使用前、蒸留して用いた。
モリブデンブルーの調製:0.5gの金属モリブデン0mlの水で懸濁し30%過
酸化水素水1mlを徐々に加え、一夜室温で反応後、未反応金属モリブデンを遠心
分離し、減圧下で、水を除去した後、エタノールに溶解し、エタノールを留去する
と、青黒色のモリブデンブルー0-25gが得られる。
モリブデンブルー-活性炭触媒の調製:少量の水(1~2滴)とイソプロピルア
ルコール(10ml)に溶解させた青色のモリブデンブルー(5 )溶液に活性炭(0.
4g)を加え室温で静かに振とうさせ吸着させる。その後、ろ過、イソプロピルア
ルコールによる洗浄を行ない、乾燥させることにより調製した。
タングステン酸-活性炭触媒の調製:少量の過酸化水素水(1~2滴)とイソプ
ロピルアルコール(10ml)に溶解させたタングステン酸(10 )に活性炭(0.
4g)を加え、モリブデンブルー-活性炭と同様に調製した。
エポキシ化反応:反応液は、50mlの平底マイヤー中、2mlのイソプロピルアル
コールに懸濁させた触媒および有機錫(50 )を加え-30分以上かくはんさせた
後、残りのイソプロピルアルコール(5ml)、シクロヘキセン3-2g30%過酸化
水素水(1ml)を加え、調製し、反応を開始した。反応はホットプレートつきマグ
ネティックスタラーで油浴中加熱かくはんした(50℃±1°)。所定時間毎にサ
ンプリング(0.5ml)を行ない、マイクロフィルターで遠心ろ過した後、内部標
準として0.7mol・l -1.トルエン/イソプロピルアルコール溶液を1.0ml加
-
55
え、その0-3μlを昇温ガスクロマトググラフィーにより分析した。
6-3 第3章の実験
試薬:N,N-ジメチルホルムアミドジアルキルアセタール、N,O-ビストリメチ
ルシリルアセタミド、トリフルオロ酢酸、エライジン酸、ウンデシレン酸は和光純
薬工業(株)、N-ニトロソメチル尿素は片山化学工業(株)、エルカ酸エチル、オ
レイン酸エチル、2-ヘキセン酸-3-ヘキセン酸は東京化成(株)製を用いた。エラ
イジン酸、ウンデシレン酸-2-ヘキセン酸、3-ヘキセン酸は、エタノール、硫酸を
用い、室温でエステル化した。
有機ゲルマニウム化合物:テトラフェニルゲルマニウム 34)臭化トリフェニル
ゲルマニウム 35)、酸化ビストリフェニルゲルマニウム 36)-37)、塩化ト
リフェニルゲルマニウム 38)、テトラブチルゲルマニウム 39)、臭化トリブチ
ルゲルマニウム 35)、酸化ビストリブチルゲルマニウム 36)-37)、塩化ト
リブチルゲルマニウム 38)、テトラエチルゲルマニウム 37)、酸化ビストリエ
チルゲルマニウム 36)-37)は文献の方法で合成した。
有機錫化合物:臭化トリフェニル錫 35)、臭化トリブチル錫-35)は文献の
方法で合成した。その他の有機錫は市販品を用いた。(前節参照)
有機鉛化合物:臭化トリフェニル鉛は、ICNPharmaceuticalInc.製を用いた。
活性炭の酸、塩基処理:活性炭(0.4g)を10mlの蒸留水に懸濁させ、液のp
Hを2から10の所定の値に1Nもしくは0.1N塩酸および水酸化ナトリウムを
用いて調整し、液を沸騰させた後、微調整を行ない、ろ過、乾燥させて処理した。
活性炭の化学処理:ヘキサン中、活性炭(0.4g)に、N,N-ジメチルホルムア
ミドジブチルアセタールもしくは、N,O-ビストリメチルシリルアセタミドもしく
は、ジアゾメタンもしくは、トリフルオロ酢酸(50 )を入れ、50℃で2時間
かくはん処理した後、ろ過ヘキサンによる洗浄、乾燥させて調製した。
-
56
不飽和脂肪酸エステルのエポキシ化:触媒、不飽和脂肪酸エステル1g30%過
酸化水素水2ml、溶媒のイソプロピルアルコール12mlを加え、50℃、15時
間反応後、触媒をろ過し、イソプロピルアルコールを減圧下で留去し、エーテル(3
0ml)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水した後、エーテルを留去し、K
ieselgel60(Merck社)を充填剤とし、ベンゼン-ヘキサン(9:1)を溶離
液とするカラムクロマトグラフィーで分取した。分取物は、高速液体クロマトグラ
フ(Hitachi633A,M&Sパック,C18逆相カラム(4φ×15┥),メタ
ノール)にて純度を確め、元素分析、200MHzNMRスペクトルメーター(Varian
XL-200)により確認した。
エルカ酸エチル オキシド 無色結晶 mp-26°~27℃NMR(CD
Cl-3) δ:0.88(3H,t,J=6Hz,CH-3.)、1.00~1.72(3
4H,m,CH -2)、-228(3H,t,J=8Hz,№61CH -3)-2.90(2
H,m,CH )、4.13(2H,q,J=8Hz,CH-2.).Anal.Cal
cd for C2-2H44.O3.:C、75.33;H,12.12. Fou
nd:C,75.55;H,1-230.
オレイン酸エチル オキシド 無色油状物NMR(CDCl3.) δ:O.9
2(3H,t,J=6Hz,CH-3.)、1.12~1.76(32H,m,CH-2.)、
-232(3H,t,J=8Hz,CH -3)、-295(2H,m,CH )、4.18
(2H,q,J=8Hz,CH-2.).Anal.Calcd for C20.H
42.O3.:C,7-357;H,11.7-3 Found:C,73.53;H,
11.8-2
エライジン酸エチル オキシド 無色油状物NMR(CDCl3.) δ:0.
90(3H,t,J=6Hz,CH-3.)、1.06~1.76(32H,m,CH -
2)、-231(3H,t,J=8Hz,CH -3)、-268(2H,m,CH )、4.
17(2H,q,J=8Hz,CH-2.).Anal.Calcd for C2
0.H42.O3.:C,7-357;H,11.7-3 Found:C,73-23;
H,11.74.
ウンデシレン酸エチル オキシド 無色油状物NMR(CDCl3.) δ:
1.12~1.90(16H,m,CH -2)、-232(3H,t,J=8Hz,C
-
57
H -3)、-242~-260(1H,m,CH )-2.72~02(2H,m,CH-2.)、
4.17(2H,q,J=8Hz,CH-2.).Anal.Calcd for C
1-3H24.O3.:C,68.38;H,10.59. Found:C,68.1
0;H,10.75.
6.4 第4章の実験
白色沈殿:酸化モリブデンアセチルアセトネートと酸化ビストリブチル錫、モリ
ブデンブルーと塩化トリブチル錫、およびタングステン酸と塩化トリブチル錫によ
り生じた白色沈殿は、素焼き板により採取し、アルコール洗浄後、乾燥させた。
淡黄色粉末:白色沈殿を水に懸濁し、極めて少量の過酸化水素水を加え、水浴上
で50℃に保つ。白色沈殿が溶解すると同時に、エーテルで抽出する。無水硫酸ナ
トリウムで乾燥後-30℃の水浴でエーテルを留去すると、淡黄色の粉末が得られ
る。
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第7章 文献
1)日本化学会編 新実験