小規模で柔軟な区画整理...(寄稿文)1 小規模で柔軟な区画整理 ―...

6
(寄稿文) 1 小規模で柔軟な区画整理 ― 都市のスポンジ化地区での誘導施設整備に向けて ― 国土交通省都市局市街地整備課長 渡 邉 浩 司 1.はじめに わが国では、人口減少下において、持 続可能な都市構造の形成に向けて、平成 26 年に都市再生特別措置法を改正して 立地適正化計画制度を創設し、届出勧告 制度や税財政上のインセンティブ等を講 じながら、まちなかや公共交通沿線への 居住や都市機能の誘導を図っている。 一方で、昨今、人口減少社会を迎えた 地方都市をはじめとした多くの都市の既 成市街地において、空き地等の低未利用 地(空き家、低未利用な青空駐車場等を 含む)が小さな敷地単位で時間的・空間 的にランダムに発生する「都市のスポン ジ化」が進行しており、生活利便性の低 下や居住環境の悪化により、コンパクト なまちづくりを進める上で重大な障害と なっている(図-1)。 そこで、このような都市のスポンジ化 が進む地域、特に、駅前やまちなかの公 共交通の徒歩圏など、既存ストックが集 積した都市の拠点エリアにおいて有効な 「小規模で柔軟な区画整理」の活用を推 進するため、国土交通省都市局では、「小 規模で柔軟な区画整理活用ガイドライ ン」を、まちづくり推進課、都市計画課、 市街地整備課の共同により作成し、平成 3 0 年 1 1 月に公表(国土交通省 HP)した。 本稿では、「小規模で柔軟な区画整理」 について、紹介する。 2.“小規模で”“柔軟な”区 画整理がなぜ有効か? 都市のスポンジ化地区において発生し ているそれぞれの空き地等をみると、面 積が小さい、ばらばらと散在している、 土地の形状が不整形など、使い勝手が悪 いことが多く、単独で有効活用すること が難しい状況となっている(接道状況や 周辺都市基盤が不十分な場合もある)。 潜在的な土地の利用ニーズを的確に把握 し、限られた財政余力の中での、早急か つ効果的な対処が求められる。 そこで、立地適正化計画における都市 機能誘導区域に挙げられるような、駅前 やまちなかの公共交通の徒歩圏など、既 存ストックが集積し都市の拠点となるべ き潜在的な土地利用ニーズが高いエリア (土地利用ニーズの例:『個人としては、 ひとりでは十分に活用できないが、周辺 の権利者等と協力した共同化事業であれ ば、土地活用に挑戦したい』、『民間事業 者としては、想定土地利用に見合った、 整形でまとまった土地さえあれば、賃借 あるいは買い取って、建築事業用地とし て活用したい』、『行政としては、まとまっ 図-1  「都市のスポンジ化」の進行 図-2  「都市のスポンジ化」地区の再生イメージ

Transcript of 小規模で柔軟な区画整理...(寄稿文)1 小規模で柔軟な区画整理 ―...

  • (寄稿文)1

    小規模で柔軟な区画整理― 都市のスポンジ化地区での誘導施設整備に向けて ―

    国土交通省都市局市街地整備課長 渡 邉 浩 司

    1.はじめに

    わが国では、人口減少下において、持続可能な都市構造の形成に向けて、平成26 年に都市再生特別措置法を改正して立地適正化計画制度を創設し、届出勧告制度や税財政上のインセンティブ等を講じながら、まちなかや公共交通沿線への居住や都市機能の誘導を図っている。一方で、昨今、人口減少社会を迎えた

    地方都市をはじめとした多くの都市の既成市街地において、空き地等の低未利用地(空き家、低未利用な青空駐車場等を含む)が小さな敷地単位で時間的・空間的にランダムに発生する「都市のスポンジ化」が進行しており、生活利便性の低下や居住環境の悪化により、コンパクトなまちづくりを進める上で重大な障害となっている(図-1)。そこで、このような都市のスポンジ化

    が進む地域、特に、駅前やまちなかの公共交通の徒歩圏など、既存ストックが集積した都市の拠点エリアにおいて有効な「小規模で柔軟な区画整理」の活用を推進するため、国土交通省都市局では、「小規模で柔軟な区画整理活用ガイドライン」を、まちづくり推進課、都市計画課、市街地整備課の共同により作成し、平成30年 11 月に公表(国土交通省 HP)した。本稿では、「小規模で柔軟な区画整理」

    について、紹介する。

    2.“小規模で”“柔軟な”区画整理がなぜ有効か?

    都市のスポンジ化地区において発生しているそれぞれの空き地等をみると、面積が小さい、ばらばらと散在している、土地の形状が不整形など、使い勝手が悪いことが多く、単独で有効活用することが難しい状況となっている(接道状況や周辺都市基盤が不十分な場合もある)。潜在的な土地の利用ニーズを的確に把握し、限られた財政余力の中での、早急か

    つ効果的な対処が求められる。そこで、立地適正化計画における都市

    機能誘導区域に挙げられるような、駅前やまちなかの公共交通の徒歩圏など、既存ストックが集積し都市の拠点となるべき潜在的な土地利用ニーズが高いエリア(土地利用ニーズの例:『個人としては、

    ひとりでは十分に活用できないが、周辺の権利者等と協力した共同化事業であれば、土地活用に挑戦したい』、『民間事業者としては、想定土地利用に見合った、整形でまとまった土地さえあれば、賃借あるいは買い取って、建築事業用地として活用したい』、『行政としては、まとまっ

    図-1  「都市のスポンジ化」の進行

    図-2  「都市のスポンジ化」地区の再生イメージ

  • (寄稿文)2

    た土地を確保し、公共施設の再編計画や立地適正化計画に基づき、戦略的に都市機能施設を導入することでまちの活性化を図りたい』など)に着目し、スポット的にでも、素早く散在する空き地等を集約・再編(整形化)し、集約した土地に、地域に不可欠でまちの顔となる医療・福祉施設等の誘導施設の導入を図ることができれば、散在する空き地等の解消と同時に、まちなかの賑わいの核となる集客力の高い空間を創出することができる。結果、エリアへの訪問者、滞在者が増加することによりエリアのポテンシャルが向上する。これを好機と捉え、誘導施設の導入効

    果を維持・継続しつつ、その周辺にある空き地、空き家、歩道や広場といった公共用地等を、空間的な資源として、地域主導のリノベーション手法により実験的にでも活用する、連鎖的に次の集約・再編プロジェクトを行うなど、まちの魅力を高め、エリア全体の発展を促す自立的

    なまちづくり活動へと段階的に波及させることができれば、各々の活動の相乗効果により都市経営に好循環をもたらす。拠点エリアの「吸引力」が漸進的に強化され、コンパクトなまちづくりの推進に繋げることができる(図-2)。この際、空き地等の集約・再編を担う

    制度として区画整理がある。有効な区画整理手法として、集約換地

    を活用した区画整理(『空間再編賑わい創出事業』など)が挙げられる。また、既成市街地においては、過去に一定程度、道路等の都市基盤が整備された地区もあり、このような地区では、既存ストックを勘案した軽微な公共減歩による公共施設用地の創出、あるいは減歩を伴わず公共施設用地の付け替え等により公共施設の整備改善を図る区画整理手法が求められる。さらに、宅地については、権利関係の輻輳や既存建物が存している状況もみられるため、換地手法を活用して、活用が必要な土地のスポット的な入れ替え

    に伴う土地の集約による有効利用を図る区画整理手法が求められる。このような方法により公共施設の整備改善および宅地の利用増進を図る場面では、これを可能とする手法である『敷地整序型土地区画整理事業』の活用が有効である。これらは代表例であるが、スポンジ化

    が進行し都市の活力が低下し続ける状況下では、このような柔軟な区画整理を(また、必要に応じて手法を組み合わせ)、整備内容を絞り込み、小さくともスピーディに実施し、空間再編により、まずはエリア再生を先導する賑わいの核となる空間を形成することが有効である。エリアの求心力を高め、コンパクトなまちづくりの方向へ戦略的に舵を切ることが求められる(図-3)。

    3.様々な区画整理手法について

    既成市街地のスポンジ化地区で、コンパクトシティの推進のための良質な空間形成のために用いる区画整理は、次に述べる「コンパクト」、「スピーディ」、「フレキシブル」の3要素に対応している必要がある。これに関しては、実務者の技術力・調整力や地元のまちづくり意識等の醸成、官民連携、そして事業の運用工夫など、現場側での努力、工夫により対処できる面が多分にあり、地域の実情に応じた最適解を、知恵を絞って見出していただきたいと考えるが、本稿では、主として、根本となる制度面から、様々な区画整理手法を紹介する。

    (1)区画整理は「コンパクト」かつ「スピーディ」に!

    土地区画整理事業の活用傾向には、大きな変化がみられる。平成の初期から概ね 30 年間で、全国

    において事業認可された土地区画整理事業の平均事業規模、そして平均事業期間を比較すると、いずれも半減している。新市街地の整備から、既成市街地の再生へ都市政策が徐々にシフトしてきた中で、既成市街地の再生のための区画整理は、既存ストックや土地利用状況を勘案し、土地の入替え等を主眼に、より整備内容を絞り込んで行うため、全国的により小規模・短期間で実施する傾向に変化している。また、事業規模についてクローズアップし、2ha未満の小規模な事業地区の割合を調べてみると、近年、大きく増加している。なかには、敷地整序型土地

    図-4 区画整理は「コンパクト」かつ「スピーディ」に!

    図-3  「都市のスポンジ化」対策を担う区画整理

  • (寄稿文)3

    区画整理事業を活用し数千㎡規模で1~2年程度で行われるものもある。また、区画整理は、事業内容に応じて、

    地方公共団体、土地区画整理組合、個人(一人・共同)、都市再生機構、公社など、様々な事業施行主体による実施が可能であるが、この施行主体別の割合についても変化の傾向がみられる。旧来より「組合施行」が多くを占める中、近年、少人数で行う「個人施行(一人・共同)」の割合が、相対的にではあるが増加している(図-4)。

    (2)区画整理は「フレキシブル」に!区画整理は、照応の原則、権利者の意

    向調整および公平性の確保など、一定の留意事項はあるが、土地の区画形質の変更および公共施設の新設・再編により、土地の利用計画に応じた最適な土地の位置・規模・形状等に柔軟に組み替えることを技術的に可能としている。加えて、事業手法および換地手法とし

    て、その方策の充実が図られてきた。具体的には、照応の原則における各要素のうち、宅地の位置についての照応の例外が認められる「集約換地」や、一定程度整備された基盤を勘案し、土地の入れ替えや公共施設の再配置(付け替え)等を主眼において敷地レベルで行う「敷地整序型土地区画整理事業」、また、複数の街区に細分化された土地を集約・整形して大型の街区を創出することにより、敷地の一体化による有効高度利用と公共施設の再編を図る「大街区化」、さらに、物理的に離れている地区にあっても、両地区が、誘導施設への参加者の集約等のため密接不可分の場合に実施可能な「飛び施行」、土地区画整理法施行規則第8条第1項ただし書きを適用し、敷地界などによる「柔軟な施行地区設定」などがある。また、熟度の高い箇所から順次事業を立ち上げ、小規模な土地区画整理事業を順次実施することで、連鎖的に地区全体の整備を図る「小規模連鎖型土地区

    画整理事業」や、あらかじめ都市計画で定めた事業施行区域について、事業の熟度や緊急性を考慮して複数の事業施行地区に分割して、当面、施行地区に含めない区域も必要に応じ設けて段階的に進める「段階的施行」(※予め将来の市街地整備の方針を明らかにしておくことが重要)もある。都市のスポンジ化地区の再生にあたっては、その対策の緊急性を考慮し、集約・再編が可能な箇所を優先して速やかに事業を行うことが必要と考えられることから、リスクを抑えるため、小さく始め、徐々に再編エリアを拡げるような発想も重要である(図-5)。また、先に挙げた個人施行は、全員合

    意のもと行う施行形態ではあるが、その分、事業施行内容の自由度が高い柔軟な手法といえる。以上、制度面での柔軟な手法をいくつ

    かピックアップしたが、一方で、事業施行実態をみると、長年の事業実績の積み重ねの中で、区画整理は減歩を伴うもの、道路に囲まれるなど一定・一体の施行地区が必要、照応の原則により原位置にこだわる、など、既成概念に基づく画一的な運用がなされてきた面もあるのが実態である。当課では、平成 19 年に「多様で柔軟な市街地整備手法について」、平成 29 年に「柔らかい区画整理事例集」といった、全国における柔軟な区画整理の事例を厳選し紹介した事例集を作成・公表(国土交通省 HP)している。当該事例集では、先に挙げた柔軟な区画整理手法の実践例として、公共施設の再配置、土地の交換分合を主体とした事業(公共減歩を伴わない事業)、敷地規模等に応じた保留地減歩と負担金設定を柔軟に選択した事業、事業目的や地域の実情に応じた柔軟な区域設定を行った事業などを紹介しているので、参照されたい。小規模で柔軟な区画整理を行う場合、

    これまでの、面的な市街地整備の広がりを目的に行われてきた区画整理と大きく異なる点は、スポット的な建築計画の実現、核となる都市空間の形成等を目的に、その内容をある程度、事前に明確に描いた上で、その目的の実現のため、必要となる事業箇所、内容を設計して行う点である。このため、事業実施前段階における、周辺も含めたまちづくり計画の共有、地元調整、建築・外構(交流広場や歩行空間等)計画との密な連携が特に重要といえる。そして、事業後のまちの人々の活動、そしてまちの維持・発展について

    図-5 区画整理はフレキシブルに!

  • (寄稿文)4

    も、きめ細やかに想定して進めることも重要である。

    4.新たな制度「空間再編賑わい創出事業」

    (1)「照応の原則」と集約換地の特例

    空き地等の利用促進によるまちの賑わい創出に向けて、立地適正化計画に定める都市機能誘導区域、居住誘導区域を中心に、都市のスポンジ化対策を総合的に推進する「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(平成30年法律第22号)」が、平成30年7月15日に施行された。「空間再編賑わい創出事業」は、この総合施策のひとつとして、都市機能誘導区域に主眼を置いて創設された新たな制度である「誘導施設整備区」を活用した土地区画整理事業手法の通称である。「誘導施設整備区」とは、土地区画整理事業における集約換地の特例制度である(都市再生特別措置法律第 105 条の2から第 105 条の4)。区画整理における換地は、施行地区内の地権者等の公平と利益の保護を図るため、「照応の原則」に基づき、換地後と従前宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するよう定めることを原則としている(土地区画整理法第 89条第1項より)。関係権利者全員の合意により、位置の

    照応によらず行われている任意の集約換地もあるが、あくまで合意の範囲ということで、集約内容の調整に限界が生じ、土地の集約が十分にできなかったケース

    がしばしばみられる。このため、一定数の権利者で行う組合施行や公共団体施行等で、都市の低密度化等の課題に対応したコンパクトなまちづくりを進めるため散在する空き地等を活用し都市機能の増進に寄与する誘導施設の導入を図ることが必要な場合は、集約換地の特例制度である誘導施設整備区を活用することが、計画的に土地の集約を行う上で有効である。誘導施設整備区は、その特別な公益的な制度目的をふまえ、例外的に従前の宅地の位置にかかわらず、当該区域内に、所有者からの申出に基づき、換地を定めることができる。なお、結果的に、当該区域内から移転いただく権利者も生じるが、このような方も、原則、事業区域内に換地されるため、誘導施設の整備効果等、事業効果を享受できる(図-6)。

    (2)「空間再編賑わい創出事業」活用のメリット

    「空間再編賑わい創出事業」とは、『事業計画に「誘導施設整備区」を定め、空き地等を集約し、集約した土地に医療・福祉施設等の誘導施設の整備を図る土地区画整理事業』と定義している。誘導施設整備区の区域は、誘導施設を有する建築物の整備用地(※建築物の床の一部に整備する場合も含む)となるので、導入する誘導施設の機能・規模に応じて定める。事業活用の主なメリットとしては、散

    在する空き地等の解消と同時に誘導施設を整備するための敷地が確保できること、

    まちの将来像や導入する誘導施設に適した都市基盤の改善・整備が可能であること、誘導施設整備区制度は集約換地の特例であり、関係権利者全員の同意を必要としないため、一部の反対地権者等がいても事業実施が可能であることなどが挙げられる。さらに、資金面においては、国からの交付金(都市再生区画整理事業)の交付制度・都市開発資金貸付金の融資制度について、別途、支援要件を満たすことで、活用が可能である。この際、それぞれの要件について、小規模な事業も支援できるよう、従来の交付・融資の要件から、面積要件の引き下げを行っている(例:都市再生区画整理事業における面積要件:換算面積※ 2.0ha 以 上→ 0.5ha 以上へ引き下げ(※事業を施行する地区の面積に「指定容積率/ 100」を乗じたもの))。交付金(都市再生区画整理事業)では、土地区画整理事業のための調査設計費、誘導施設整備区からの移転補償費、道路や公園等の公共施設工事費、宅地整地費、地区計画等に基づき整備する公開空地整備費等の支援を国費率2分の1で受けることができる(図-7)。なお、税制面においては、通常の土地区画整理事業と同様に税制上の特例措置を適用することができる。

    図-6 集約換地の特例「誘導施設整備区」の概要

  • (寄稿文)5

    5.事業後のまちの維持・発展に向けて

    (1)賑わい創出のための施設の整備・活用上の工夫

    さて、本稿では、地域に不可欠な誘導施設整備を目的とした区画整理の紹介をしているが、承知のとおり、施設機能をただ導入することのみに終始してしまえば、形成される空間もそれなりのものになってしまう。都市活動の場として、確実に地域の方々に活用いただける、親しみのある場となるよう、地域の実情を十分に捉え、配置計画、空間設計、そしてその活用スキームの工夫が必要である。誘導施設整備によって、まちの核を形成している近年の事例から、空間を「つくること」に関しては、例えば次のような工夫が想定される。①周辺との連携②誘導施設の機能(コンテンツ)を工夫③公共・公益施設の集約・複合化④地域のための交流空間(憩いの場)の形成

    ⑤空間の高質化上記の①については、周辺の街並みや

    自然など地域資源を活かした空間設計、また、施設敷地外の公共交通機関等から施設への導線上の歩行空間等の一体的な空間設計、近傍施設との需要の高め合い

    を意識した施設設計などがある。②については、利用者目線に立って、民間の創意工夫や地域文化等を活かして、官民連携により、導入するコンテンツを工夫することなどが考えられる。③については、地域に分散する公共・公益施設を集約・複合化することで、施設の維持管理コストを抑えるとともに大きな人の流れをつくること、④については、賑わい施設と一体となって、地元住民等の憩いの場となる広場等を併せて整備することで日常的に活動が生まれる空間を目指すこと、また、都市に貴重な緑地や水辺空間の創出、快適な環境の形成を図ることで、心地よい空間として魅力を向上させることが考えられる。⑤については、都市活動を誘発させる場としての、電源等インフラ設備や建物のファサードやストリートファニチャー、舗装など空間のしつらえを工夫することが考えられる。また、事業施行にあわせて地区計画を定めることで、地域の実情にあったよりきめ細かい規制を行うことなども考えられる。なお、その他、誘導施設や交流広場な

    ど上物の整備費等への交付金支援が可能な都市再構築支援事業などの国の支援制度も設けられているため、活用を検討されたい。

    (2)市街地整備後の大きな課題これまで形成されてきた市街地につい

    て、適切に維持・管理がなされず、時間の経過とともに、相続等を契機とした敷地の細分化、街並み景観の悪化や土地利用の陳腐化など、ストックの劣化・陳腐化が進行し、根本的な課題となっている。これからは、市街地整備や建築によっ

    て「つくること」だけで終わるのではなく、整備後においても、エリアで維持管理・運営(マネジメント)を行い、地域を「育てること」がより一層求められている。

    (3)継続的に誘導効果を発揮するための維持管理手法

    まちの賑わい創出に向けて整備した誘導施設について、継続的に誘導効果を発揮するためには、民間活力を積極的に導入し、地域を巻き込んだ施設の維持管理・運営手法を検討する必要がある。例えば、次のようなマネジメント方策が考えられる。A.エリアマネジメントB.都市機能のマネジメントC.身の回りの公共空間のマネジメント上記のA.について、エリアマネジメ

    ントは、地域でまちの将来像を共有し、官民連携による公共空間・民地が一体となったトータルでの高質な空間形成、整

    図-7 「空間再編賑わい創出事業」の創設

  • (寄稿文)6

    備計画段階からの管理運営に関するルールづくり、そして実践を、地域が自立的に進めるものである。定義としては「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」のことをいう。「良好な環境や地域の価値の維持・向上」には、快適で魅力に富む環境の創出や美しい街並みの形成、資産価値の保全・増進等に加えて、人をひきつけるブランド力の形成、安全・安心な地域づくり、良好なコミュニティの形成、地域の伝承・文化の継承等、ソフトな領域のものも含まれる。土地区画整理事業との関連においては、『施策・事業に向けた機運の醸成や合意形成などの初動期段階の取組(まちづくりの動機づけや計画づくりのコーディネート等)』、『段階的・連鎖的な各種事業、施策の総合的展開などの事業期段階の取組(事業調整、民地を活用した公共的空間の確保、デザインマネジメント等)』、『整備後の市街地の適切な運営・管理を通じた持続的な市街地の質や価値の維持・向上(土地利用誘導、導入機能誘導、賑わい創出のイベント活動のプロデュース、公共的空間の管理・活用等)』を一体のプロセスとして展開することが考えられる。なお、すでに都市基盤整備も完了し、人々の日常生活が営まれている地域において、突然、エリアマネジメントに取り組むことは、現実的には多大な労力と時間を要する。ビジョンの共有化や事業実施など、市街地整備の具体の動きを好機ととらえ積極的にエリアマネジメントへとつなげていくことが重要である。また、事業周辺のエリアも含めてマネジメント活動を展開することで、取組効果を周辺に波及させていくことが望まれる。エリアマネジメントの実施は、快適な

    地域環境の確保や地域活力の回復等の効果があり、更には、地域の方々の、地域への愛着や満足度の高まりに繋がることが期待される。B.については、事業運営の観点から、

    PPP / PFI をはじめ、事業用定期借地権設定、土地信託、SPC 方式等による民間活力の導入により、予算の縮減、早期整備、創意工夫に満ちた空間形成が期待できる。また、民間事業者による都市施設や地区施設の円滑かつ確実な整備・管理を図るため、地方公共団体と民間事業者で結ぶ都市施設等整備協定制度の活用も考えられる。

    C.については、交流広場等の地域コミュニティが共同で整備・管理する施設についての協定制度「立地誘導促進施設協定」の活用により、身の回りの公共空間の創出、維持管理を図ることや、地域の状況をきめ細やかに把握し、都市計画の案の作成、意見の調整等を行う住民団体等を、市町村が「都市計画協力団体」として指定し、地域と行政が協同したより質の高いまちづくりの実現を図ることなどが考えられる。

    6.おわりに

    コンパクトなまちづくりを契機として、土地区画整理事業を介して都市の魅力向上を図ろうとする際、道路や公園、広場、緑地、親水空間などの公共空間に着目すると、その配置、形態や用途については、例えば道路は四角四面のように、ある程度、機械的に、画一的に既に決められているものとして、その空間のしつらえ(ストリートファニチャー、舗装、建物のファサードなど)を工夫することに注視しがちである。しつらえを工夫することも重要であるが、区画整理は、全国画一的な「決められた形」ではなく、地域の実情に応じて柔軟に役割を変える「マルチツール」であるというのが本質的な仕組みである。根本的な公共空間の配置、形態や用途から(例えば車道でなく広場や歩行空間を主軸とした空間構成とする等)、そして宅地も含めた上物や周辺環境も勘案し総合的に、地域特性を重視し、個性ある空間としてデザインすることが可能であることも忘れてはならない。事前にそのエリアにおけるあるべき都市活動の場を目的像として、ヒューマンスケールできめ細やかに描いた上で、時に公共空間の配置・用途換えなどのダイナミックな、また、時に整備内容を抑えたミニマムな空間再編ツールとしての適切かつ効果的な活用が望まれる。今回紹介した小規模で柔軟な区画整理

    は、ポイントを絞って小さく柔軟にスピーディに行う。その分、単体のプロジェクトで完結しないよう、一定のエリアのまちづくり構想を立てて、その実現の要となる各箇所で「戦略的に」空間再編を連鎖で起こし、効果的に相乗効果を図り、一体感のある魅力溢れる都市空間エリアとして構築していく姿勢が、より効果的といえる。さらに、既成市街地で、既存ストック

    を勘案しながら行うため、区画整理で行

    われる土地の入れ替えや小規模な公共施設の整備・改善のみでは、土地の価値の大幅な増進は期待できないことが想定される。目的を実現してはじめて、すなわち、土地・建物の一体利用や有効利用、さらに魅力的かつ持続的な都市活動の場の実現、そして波及によりエリアの価値を高めることで大きな増進が期待できる。つまり、あらかじめまちを「育てる」ことに重点を置いて、「つくる」だけでなく「つくり、育てる」を一連かつ、一体的に完遂してこそ効果を発揮するツールといえる。今後もこのような制度の活用を推進し

    ていきたい。