退院後レンスを開催し,患者の退院支援の方向性...

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といし・みお和歌山赤十字看護専門学校卒業後,1997年日本赤十字社和歌山医療センター入職,脳神経外科・ICU・循 環器内科を経験。その後日本赤十字看護大学3年次編入・卒業,大阪府立大学大学院看護学研究科博士前期課程看護学専 攻生活支援看護学領域在宅看護CNSコース修了。2007年日本赤十字社和歌山医療センター看護相談室(現・看護部PFM/ 患者総合支援センター)に復職。2019年4月より現職。 Profile キャリア開発ラダーと リンクさせた 入退院支援教育 退特集 東京医療保健大学           和歌山看護学部 看護学科(地域・在宅看護学領域) 助教/在宅看護専門看護師  戸石未央 現在,急速な高齢化を背景として,地域 包括ケアシステムの構築が求められていま す。医療機関では,患者が安心・納得して 退院し,住み慣れた地域で療養生活を継続 するために,入院前から退院後を見据え て,地域に戻ることができる医療を提供す ることが重要です。急性期・回復期・慢性 期など,どの病期を担う医療機関において も,入退院支援の果たす役割は大きいと言 えます。 退院支援に関する診療報酬については, 2008年度に新設されてから,2年ごとに 改定されています。2018年度診療報酬改 定では,入院時支援加算が新設され,退院 支援加算については,その名称が入退院支 援加算に変更されました。患者・家族が限 られた入院期間の中でも適切な治療やケア を受け,適切な時期に,適切な療養場所へ 移行するために,入院前から多職種で行う 退院支援が推進されています。さらに,病 気や障がいを抱えた患者・家族を支えるた めには,急性期,回復期などの機能を持つ 医療機関との連携のみならず,介護との連 携も必要となります。 このような入退院支援の広がりの中で, 病棟看護師には退院支援における役割の拡 大や,患者・家族を生活者としてとらえた 看護実践が期待されています。患者や家族 が望む暮らしを実現するには,患者と家族 を「今までと今,これから」といった時間 軸で理解する姿勢,そのための情報収集の スキル,療養場所や療養方法などに関する 意思決定を支援するスキル,病状・ADLな 2 ナースマネジャー Vol.22 No.5

Transcript of 退院後レンスを開催し,患者の退院支援の方向性...

  •  といし・みお●和歌山赤十字看護専門学校卒業後,1997年日本赤十字社和歌山医療センター入職,脳神経外科・ICU・循環器内科を経験。その後日本赤十字看護大学3年次編入・卒業,大阪府立大学大学院看護学研究科博士前期課程看護学専攻生活支援看護学領域在宅看護CNSコース修了。2007年日本赤十字社和歌山医療センター看護相談室(現・看護部PFM/患者総合支援センター)に復職。2019年4月より現職。

    Profile

    キャリア開発ラダーとリンクさせた入退院支援教育

    退院後の生活を

    イメージできる

    病棟看護師の育成

    特集

    東京医療保健大学          和歌山看護学部 看護学科(地域・在宅看護学領域)

    助教/在宅看護専門看護師 戸石未央

     現在,急速な高齢化を背景として,地域

    包括ケアシステムの構築が求められていま

    す。医療機関では,患者が安心・納得して

    退院し,住み慣れた地域で療養生活を継続

    するために,入院前から退院後を見据え

    て,地域に戻ることができる医療を提供す

    ることが重要です。急性期・回復期・慢性

    期など,どの病期を担う医療機関において

    も,入退院支援の果たす役割は大きいと言

    えます。

     退院支援に関する診療報酬については,

    2008年度に新設されてから,2年ごとに

    改定されています。2018年度診療報酬改

    定では,入院時支援加算が新設され,退院

    支援加算については,その名称が入退院支

    援加算に変更されました。患者・家族が限

    られた入院期間の中でも適切な治療やケア

    を受け,適切な時期に,適切な療養場所へ

    移行するために,入院前から多職種で行う

    退院支援が推進されています。さらに,病

    気や障がいを抱えた患者・家族を支えるた

    めには,急性期,回復期などの機能を持つ

    医療機関との連携のみならず,介護との連

    携も必要となります。

     このような入退院支援の広がりの中で,

    病棟看護師には退院支援における役割の拡

    大や,患者・家族を生活者としてとらえた

    看護実践が期待されています。患者や家族

    が望む暮らしを実現するには,患者と家族

    を「今までと今,これから」といった時間

    軸で理解する姿勢,そのための情報収集の

    スキル,療養場所や療養方法などに関する

    意思決定を支援するスキル,病状・ADLな

    2 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • どの変化を予測するアセスメント能力,在

    宅療養を視野に入れた看護計画立案能力な

    ど多岐にわたる知識・技術が必要です。そ

    のため,病棟看護師に対する入退院支援教

    育は,入退院支援部門と看護部とが協働

    し,プログラムを組み立て,看護師の実践

    能力の段階別に行うことで効果が上がると

    考えています。

     本稿では,筆者が以前勤めていた医療機

    関での経験や取り組みを基に,入退院支援

    のプロセスや,キャリア開発ラダーとリン

    クさせた入退院支援教育についてお話しし

    ます。

    入退院支援プロセスと その実際

    入退院支援プロセス 入退院支援プロセスの一例を図に示しました。

    多職種による情報共有 入退院支援を担当する部門は,医療機関

    によってさまざまですが「患者支援セン

    ター」「入退院支援センター」などの名称

    で,外来の時点から退院までを見据えて,

    その人らしい生き方,望む生活を実現する

    ための支援を多職種で行っています。医師

    や看護師,医療ソーシャルワーカー,薬剤

    師,管理栄養士,事務職などが所属してい

    ることが多いのではないでしょうか。多職

    種による質の高い情報収集と情報共有,多

    角的なアセスメントを行うことによって,

    入院前から退院後の療養生活までの多様な

    支援を行うことが可能となります。

    入院前支援 外来で入院が決定した患者に対し,入院

    前支援担当の看護師が中心となりほかの職

    種(医師・管理栄養士・薬剤師・事務職

    員)が収集した情報を集約し,入院中の看

    護などに必要な療養支援の内容や退院困難

    な要因についてアセスメントを行います。

    アセスメント内容を踏まえ,入院中の療養

    支援計画を立案します。その中で,入院前

    に介入が必要であると判断された患者に対

    しては,入院前支援担当の看護師から情報

    提供を受け,入退院支援部門の専従,専任

    の看護師・専任社会福祉士が,制度活用の

    調整やケアマネジャー,入居施設,入院中

    医療機関(転院の場合)などとの情報交換

    など,入院までの期間にできる支援を行い

    ます。

    入院中の退院支援 入院後は,病棟担当退院支援スタッフが

    病棟看護師と協働して退院支援が必要な患

    者のスクリーニングを実施します。スク

    リーニングでは診療報酬で定められている

    「退院困難な要因」の有無を確認するだけ

    でなく,どのような退院支援が必要となる

    かを予測し,病棟看護師が,今後どのよう

    な情報収集とアセスメントを行っていくべ

    きかについても考えるようにします。この

    際,病棟看護師は病棟担当退院支援スタッ

    フと同様に,患者の退院後の生活をイメー

    ジする力が求められます。

     スクリーニングで退院支援が必要である

    と判断した患者については,病棟看護師は

    退院後の療養生活に視点を置いた看護計画

    を立案し,治療の補助や日常生活援助を行

    いながら,患者や家族から不足していた情

    報を収集したり,望みや意向,不安を傾聴

    したり,疾病や障がいの理解・受容などに

    ついて把握したりします。そして,入院7

    日以内に病棟看護師,病棟担当退院支援ス

    タッフ,入退院支援部門の看護師と社会福

    祉士を中心メンバーとした多職種カンファ

    3ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 図 入退院支援の流れ(例)

    入院予定の決定

    入院 緊急入院

    情報収集

    療養支援

    情報収集・確認

    スクリーニング項目に   非該当に  

    1週間ごとに評価

    スクリーニング項目に   非該当に  

    退院支援計画書作成

    患者・家族と面談

    多職種カンファレンス

    退院支援 要

    入退院支援部門へ依頼

    退院支援計画の内容を患者または家族に説明し交付

    退院支援計画に沿って退院支援を実施(在宅移行・施設入所・転院支援)

    退院前カンファレンス(必要時)

    退院支援 不要 必要時退院指導実施(病棟看護師にて)

    病棟で支援

    モニタリング

    退院支援開始時期

    退院決定

    療養支援計画立案と共有計画書の説明と交付

    入院前

    入院7日以降

    入院7日以内

    入院3日以内

    情報収集実施者:入院前支援担当看護師 ※ほかの職種:医師(術前のみ)・管理栄養士・

    薬剤師・事務職員内容:情報収集・ほかの職種からの情報を集約し,入院中の看護や栄養管理など

    にかかわる必要な支援内容や退院困難な要因についてアセスメントする

    退院後

    退院

    退院

    療養支援計画の立案と共有/計画書の説明と交付実施者:入院前支援担当看護師内容:①アセスメント内容を踏まえ,入院中の療養支援計画を立案し,患者またはそ

    の家族等に交付して説明   ②入院予定の病棟職員と情報共有   ③特に退院困難であると予測された場合は入退院支援部門の専従,専任の看護

    師・社会福祉士とカンファレンスを実施し情報提供・方向性の確認・入院前介入の必要性などについて協議

    療養支援実施者:入退院支援部門の専従,専任の看護師・社会福祉士内容:入院前に介入が必要であると判断された患者に対して,制度活用などの調整

    やケアマネジャーや入居施設,入院中医療機関に連絡を取り,情報交換などを行う。得た情報やアセスメント内容は,病棟の退院支援担当者と情報共有

    スクリーニング(入院3日以内)実施者:病棟看護師と病棟退院支援担当者内容:退院困難な要因についてアセスメント

    し,退院支援が必要な患者を抽出する

    非該当に がついた場合でも,退院していない場合は1週間ごとに評価する

    患者・家族と面談(入院7日以内)実施者:病棟看護師(可能であれば病棟退院支援担当者も一緒に)内容:看護師患者・家族と退院支援の方向性について話し合う

    多職種カンファレンス(入院7日以内)実施者:病棟看護師,病棟退院支援担当者,入退院支援加算1専従(もしくは専任)

    看護師・専任(もしくは専従)社会福祉士など内容:退院支援の方向性や看護計画について話し合い,退院支援計画書に着手する

    退院支援計画書の説明・交付(支援開始時)実施者:病棟退院支援担当者(依頼した場合)    病棟看護師(病棟で支援する場合)内容:患者または家族に退院支援計画について説明と

    交付   退院支援計画書に患者・家族のサイン

    モニタリング実施者:病棟看護師・外来看護師・病棟退院支援担当者など内容:療養生活が安定しているのかなどの確認・評価方法:外来での面談,電話で確認,退院後訪問指導 など

    4 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • レンスを開催し,患者の退院支援の方向性

    について協議します。病棟看護師は,この

    多職種カンファレンスで話し合った内容を

    基に,看護計画の修正を行います。退院後

    も継続するケアは何か? そのケアは在宅

    で継続できる方法なのか? そのケアは誰

    が行うのか? など,退院の2~3週間後

    の療養生活が安定することを目的に,自宅

    や地域でどのようにしたら必要なケアが継

    続できるのかを考え,支援を実施していき

    ます。

     病状が安定するころになると,病棟看護

    師では調整が困難なケースに対して,病棟

    担当退院支援スタッフが病棟看護師と協働

    しながら患者・家族の意思決定支援を行っ

    たり,決定した内容を実現するために地

    域・社会資源との連携・調整を行ったりし

    ます。自宅や施設へ退院する際,必要時に

    は地域の関係職種と退院前カンファレンス

    を実施しますが,その際に,病棟看護師は

    入院中の経過や残された看護問題,退院後

    に必要な医療・介護の内容について情報提

    供を行います。

    退院後のモニタリング 退院後2~3週間は,病状の不安定な時

    期であり,患者・家族の療養生活が安定し

    ているか,社会資源が活用できているかな

    どについて,訪問看護師やケアマネジャー

    から情報を得たり,外来受診時や退院後訪

    問指導で直接確認したりします。▲

    退院に向けた看護計画 入院中の看護を退院に向けた看護へと展

    開していく際には,患者・家族を生活者と

    してとらえる視点,病気や人生を過去・現

    在・未来という時間軸でとらえる視点が重要

    となります。退院日ではなく,退院の2~

    3週間後の療養生活の安定を目的とするこ

    とで,入院中の看護が途切れることなく,

    患者・家族を含め,地域の関連職種へとつ

    なぐことが可能となります。

    キャリア開発ラダーと リンクさせた入退院支援教育

    ラダー別入退院支援研修 筆者は,以前の職場で看護部のキャリア

    開発ラダーにおける入退院支援研修の企

    画・運営に携わっていました。入退院支援

    研修を企画するに当たり,地域の現状や地

    域における医療機関の役割から,看護師に

    求められる役割についても分析を行い,入

    退院支援に必要な病棟看護師の能力やスキ

    ルを意識し目的を検討しました。実際には

    「患者・家族を総合的にとらえ,退院後も

    生活に戻ることができる看護が実施できる

    こと」「退院後の生活に視点を置いた看護

    計画を立案できること」を目的として,研

    修企画・運営を行いました(表)。新人研修 入退院支援の基礎として,情報収集がで

    きることを目的としています。入退院支援

    の概要に関する講義を行った後に,事例検

    討を通して学ぶ内容としています。入院時

    の患者の基礎情報を簡単に提示し,退院支

    援の必要性を判断するためのほかの情報

    や,何のためにその情報を得るのかをグ

    ループでディスカッションしてもらいま

    す。情報は,ただ項目を埋めるように収集

    すればよいというものではなく,意図を

    持って収集する必要があるからです。ま

    た,ディスカッションには入退院支援部門

    の看護師が参加し,適宜助言を行いました。

    レベルⅠ・Ⅱ研修 退院支援における病棟看護師の役割を理

    解し,退院後の療養生活が安定して継続で

    5ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 表入退院支援関連研修案一覧

    テーマ

    目的

    目標

    時間

    方法

    評価

    方法

    講師

    対象者

    研修

    基礎編:入退院支援に必要な情報

    •入退院支援の必要性を理解し,

    入退院支援に必要な情報が分か

    1.入退院支援の概要を理解する

    2.入退院支援に必要な情報が分

    かる

    75分

    講義・グループワーク

    •入退院支援の講義の後に,事例

    を通して必要な情報についてグ

    ループワークを行う

    •アンケート

    入退院支援部門の看護師

    ファシリテーター:入退院支援部

    門の看護師

    新人看護師全員新人研修

    入退院支援の概要/医療機関の機能/介

    護保険/訪問看護/エンドオブライフケ

    ア/高齢者の住まい/障害サービス/回

    復期リハビリテーション病棟における看

    護/経管栄養に関する意思決定/看護小

    規模多機能型居宅介護について/福祉用

    具/入退院支援の倫理 など

    •入退院支援に必要な社会資源の種類,

    活用方法が分かる

    •外来や病棟の支援に役立てることがで

    きる

    1.社会資源の概要を理解できる

    2.社会資源の活用方法が理解できる

    3.訪問看護や回復期リハビリテーショ

    ン病棟の看護について理解できる

    40~60分

    講義やグループワーク

    •テーマに合わせた講義やグループワー

    •アンケート

    入退院支援部門の看護師・社会福祉士

    外部講師(他医療機関の看護師/訪問看

    護師など)

    メディカルスタッフ

    公開研修

    ラダー研修

    病棟における入退院支援アセスメント

    •入退院支援にかかわる病棟看護師の役

    割を理解する

    •退院後の療養生活が安定して継続でき

    るようアセスメントし,退院に向けた

    看護計画を立案できる

    1.入退院支援(在宅・転院)の仕組み

    と支援方法を理解する

    2.入退院支援における看護師の役割を

    理解する

    3.社会資源の種類と活用方法が分かる

    4.患者と家族の退院に対する意向を調

    整し,希望の生活に沿った看護計画

    が立案できる

    90分×2回

    講義(30分)・グループワーク(60分)

    •入退院支援看護師がファシリテーター

    に入ったグループワークを中心に行い,

    その後入退院支援やアセスメントにつ

    いて講義

    •アンケート

    •事後レポート(研修後にかかわった入

    退院支援のケースレポート)

    入退院支援部門の看護師

    ファシリテーター:入退院支援部門の看

    護師

    レベルⅠ・Ⅱを目指す看護師

    レベルⅠ・Ⅱ

    実践編:病棟で行う入退院支援

    •地域包括ケアシステムにおける急性期病院の病

    棟看護師の役割を理解し,病棟の入退院支援実

    践においてリーダーシップを発揮できる

    •患者と家族が安心して退院できるよう「生活を

    つなぐ」ための支援方法を実践できる

    1.患者と家族の退院に関する意向を調整でき,

    意思決定を支援することができる

    2.退院に向けた看護計画立案ができ実践できる

    3.療養の場に移行するための社会資源の選択が

    できる

    4.病棟での入退院支援を推進するためにスタッ

    フへの指導ができる

    1回目:講義・グループワーク 90分

    2回目以降

    •受講者の目的や希望に合わせ,マンツーマンで

    指導し実践内容を検討。受講者は病棟などで取

    り組む

    最終回:成果発表会 90分

    •多職種に公開し,発表会参加者との意見交換を

    行う

    •アンケート

    •取り組みに対する姿勢,発表内容

    •事後レポート(研修参加して学んだこと,今後

    の課題について)

    入退院支援部門の看護師

    レベルⅢを目指す看護師

    レベルⅢ

    6 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • きるような看護計画を立案できることを目

    的としています。実践的な内容にするため

    に,講義の時間を短くし,グループでの事

    例検討を中心に研修を行いました。

     入院時の情報からアセスメントをした上

    で,さらに入院5日目の状態についてファ

    シリテーターから情報収集をします。そし

    て,それらの情報から看護計画を立案して

    もらいます。退院後の療養生活の安定を入

    院中の看護の目的として看護計画を立案し

    たことがない病棟看護師にとっては,この

    事例検討は難しく感じるため,ファシリ

    テーターとして退院支援部門の看護師がグ

    ループワークに参加し,助言しながら進行

    しました。

    レベルⅢ研修 地域包括ケアシステムにおける急性期病

    院の病棟看護師の役割を理解して,職場で

    主体的に退院支援を実践でき,病棟での退

    院支援を推進するためのスタッフ指導もで

    きる看護師の育成を目的としています。

     まず,退院支援に関する講義,グループ

    ディスカッションと個人ワークを行い,自

    部署や自分が抱える退院支援の課題の明確

    化に向けて,現状を振り返り,分析を行い

    ます。その後,さらに入退院支援に関する

    課題を抽出し,課題解決のための実践内容

    や方法について個人ワークを行います。そ

    のワークを基に受講者と筆者が面接を行

    い,個別に目標・実践内容・実践方法を検

    討し,病棟や退院支援部門で取り組んでも

    らいました。約1カ月後の成果発表会で

    は,多職種に公開することで自部署以外か

    らの意見や助言をもらうことができました。

    その他の研修・勉強会 キャリア開発ラダー研修は,看護師の情

    報収集やアセスメントなど実践能力の向上

    が目的であるため,退院支援に関係する知

    識の習得については,多職種を対象に公開

    研修を月1回実施しました。▲

    ラダー別入退院支援研修の評価研修の評価 研修終了直後と年度末に,研修の目的・

    目標設定,内容・方法が適切であったか,

    看護部の目指す看護師教育に沿っていたか

    などを看護部の教育担当者とディスカッ

    ションします。このディスカッションによ

    り,次年度の研修内容・方法の検討を行う

    ことが可能となりました。看護部が求める

    看護師像に沿うことだけでなく,地域の

    ニーズを踏まえ,医療機関の看護師に求め

    られる能力やスキルについて意見を交わす

    ことも重要だと考えます。

    受講者の評価 すべての研修で,受講者に対して,研修

    目標にどの程度到達したかを自己評価して

    もらうためにアンケートを実施しました。

    そのほかに,レベルⅠ・Ⅱでは,研修後に

    退院支援を意識してかかわってもらった

    ケースレポート,レベルⅢでは研修に取り

    組む姿勢や発表内容,事後レポートで評価

    を行いました。これらの評価を看護部の教

    育担当者と共有しました。▲

    入退院支援教育の効果 看護部のキャリア開発ラダー研修とリン

    クし,継続した教育が可能となったこと

    で,入退院支援は看護の役割であるという

    認識が定着し,情報収集の量・質,アセス

    メント力,意思決定支援の実施,訪問看護

    師やケアマネジャーなど病院外の関係職者

    との連携などのスキルが向上しました。

     病棟内を一緒に歩きながら,ベッドサイ

    ドで清拭をしながら,患者に今後の生活へ

    の思いを聴く看護師,ADLを上げるため

    7ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 今どきナースとのかかわり方 ゆとり・さとり世代の傾向と対策●発達障害の特性があるタイプへの対応 ほか

    看護部全体で行う離職ゼロへのチャレンジ●全員で育て共に成長する職場風土をつくる ほか

    部署ごとの3大デビュー支援 新人・夜勤・リーダー ~病棟レポート~●「共に成長しよう」の思いを込めた詳細な支援計画と技術指導で ほか

    個別支援におけるメンタルケア●困ったケースへの個別対応の実際とメンタルヘルスの視点からの解説 ほか

    施設になじむ看護師を採用する●採用時に病院のニーズに合った人材を見つけるコツとポイント ほか

    主な内容

    最新刊劇的な改善を実現した指導する側、される側が共に成長する「あったか風土」の作り方!

    日総研 601906お申込みは 検索

    [編著] 谷原弘之 川崎医療福祉大学 臨床心理学科 教授[執筆] 川崎医科大学附属病院 看護部 川崎医科大学総合医療センター 看護部

    B5判 200頁 定価 3,200円+税

    に,自宅の間取りに沿った訓練方法を理学

    療法士と検討する看護師,病状により退院

    困難と判断されていても本当は退院したい

    患者の思いに寄り添い,家族と一緒に外

    出・外泊の計画を立てる看護師など,退院

    後の療養生活を見据え,本人・家族に寄り

    添った看護を提供できる看護師が増えまし

    た。看護師の意識やスキルは,研修開始前

    と比べ,全体的に底上げができてきたと実

    感しています。

    入退院支援教育の課題

     レベルⅠ・Ⅱの研修では,退院後の療養

    生活の安定化を目標に看護計画を立てられ

    るよう研修を進めていきますが,「この看

    護計画で患者さんは,退院できますか?」

    と問うと,「できない」という答えが返っ

    てきます。研修内で十分に理解し,実践ま

    で落とし込むことは困難でした。

     病院の中で完結する看護を展開していた

    看護師の認識を変えていくには,このよう

    な研修を繰り返し,実践の場で一緒に考え

    ることが必要です。そして「退院できる看

    護計画が立案できる」ようにすることが今

    後の課題です。医療モデルから生活モデル

    へと切り替え,生活・暮らしの場を中心に

    据えた地域包括ケアシステムにおける看護

    の役割を認識することで,看護計画は変

    わっていくと考えます。

    まとめ

     日本看護協会の“看護の将来ビジョン”1)

    では,地域の状況を踏まえ,多職種と協働

    して外部機関と調整し,住み慣れた地域に

    戻ることを支援することが,新たな看護師

    の役割として明記されています。

     社会情勢や診療報酬などによって病院に

    求められる機能が変わっていく中で,看護

    管理者や入退院支援担当者は,人々や地域

    が求める「退院支援」のあり様を認識し,

    地域の医療機関,在宅医療,介護などの実

    情を把握した上で,どのような入退院支援

    の仕組みが必要なのか,どのような看護職が

    求められているのかを理解し,継続的に教

    育内容を考えていく必要があると考えます。

    引用・参考文献1)公益社団法人日本看護協会:2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン,P.14,2015.http://www.nurse.or.jp/home/about/vision/pdf/vision-4C.pdf(2020年6月閲覧)2)宇都宮宏子:ケアプロセスマネジメントを「退院支援の3段階プロセス」から考える,看護管理,Vol.28,No.11,P.966 ~971,2018.3)山田雅子:次の世代に託せる看護とは何か,看護教育,Vol.61,No.6,P.464 ~470,2020.4)戸石未央:クリニカルラダーとリンクさせた退院支援教育の実際,地域連携入退院と在宅支援,Vol.10,No.4,P.21 ~28,2017.

    8 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 入院時・退院前・退院後訪問の実際と効果~患者・家族の意向を重視した退院調整に向けて

     こんどう・ひろこ●2003年NTT東日本伊豆病院入職。2013年回復期リハビリテーション病棟協議会認定看護師資格取得。2017年より回復期リハビリテーション病棟看護長,2020年より現職。

    Profile

    NTT東日本伊豆病院 内科病棟 看護長 近藤浩子

    特集退院後の生活を

    イメージできる

    病棟看護師の育成

    在宅訪問を始めるまでの 経緯

     当院は,静岡県東部にある196床を有す

    る企業立病院であり,回復期リハビリテー

    ション科,一般内科,精神科の4病棟と,

    外来,予防医学科,在宅診療科,認知症疾

    患医療センターで構成されている。地域医

    療機関と円滑な連携を図り,地域医療,リ

    ハビリテーション医療の拠点として,地域

    全体に貢献することを役割としている。

     超高齢社会が到来し,住み慣れた地域で

    自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける

    ことができるよう,地域包括ケアシステム

    の構築が推進されている。その中で,医療

    機関を退院した後,安心・安全に在宅療養

    に移行し在宅での生活が継続できるよう,

    2016年度診療報酬改定で「退院後訪問指

    導料」が新設された。

     当院では,その人らしく地域で生活でき

    るよう,多職種が協働して生活指導や退院

    支援を行っているが,退院後も在宅で継続

    される医療処置や指導,看護診断の評価を

    行う仕組みがなかった。そのため,患者・

    家族の退院後の生活にかかわる困り事に対

    応できず,在宅での療養生活が継続できな

    くなることがあった。

     そこで,2016年に退院後訪問指導,2018

    年に入院時訪問指導の仕組みをつくった。

    退院後訪問指導においては,全病棟の看護

    師が必要に応じて外来看護師,訪問看護

    師,退院支援看護師と一緒に,退院後の生

    活において予測される問題がある担当患者

    の元を訪問している。これにより,入院治

    療を経て在宅へスムーズに移行し,安心・

    安全に療養生活が継続できる体制を実践し

    ている(表1)。

    在宅訪問の実際

    入院時訪問指導 入院時に生活の場で患者・家族のニーズ

    をとらえ,目標を共有するために,入院か

    ら1週間以内に看護師と理学療法士・作業

    療法士が一緒に患者の自宅を訪問する。ま

    23ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • た,住環境を評価し,リハビリテーション

    実施計画書を作成して,患者に適したリハ

    ビリテーションを実施する。入院時訪問指

    導の要否は,入院当日に担当多職種が参加

    する入院時合同評価の場で参加者全員で検

    討し,決定する。

     入院時に自宅を訪問し,生活の場で患者・

    家族のニーズを確認することで,それを実

    現するために,今後多職種でどのように取

    り組んでいくかを具体的にすることができ,

    退院時ゴールも早期に設定できる。また,入

    院前はどのような環境で食事,洗面,排泄,

    入浴をしていたのか,趣味や今までの社会

    参加の様子が分かるため,看護師は入院当

    初から退院後の在宅での生活をイメージし

    やすくなり,それを基に患者にかかわるこ

    とができる。また,介護者の生活や介護状

    況も把握できるため,退院後の介護力が分

    かり,入院して間もない患者・家族の不安

    も生活の場で解決することができている。▲

    退院前訪問 自宅に戻る準備を行うために,患者・家

    族と一緒に看護師,理学療法士・作業療法

    士,ソーシャルワーカーが患者の自宅を訪

    問する。退院前訪問の要否やどの職種が行

    くかは,患者の状況に応じて多職種が参加す

    る定期カンファレンスで検討し,決定する。

     療法士は主に自宅環境を確認し,患者の

    身体機能に応じて環境調整の提案をする。

    看護師は,自宅環境の中で食事,洗面,排

    泄,入浴をどのように行うか患者と検討し,

    入院生活の中に自宅と同様の方法を取り入

    れ練習する。また,介護が必要な場合は,

    自宅環境で行う介護方法を指導できるよう

    に計画し練習する。時に,ケアマネジャー,

    医療福祉業者も退院前訪問に参加し,サー

    ビスの検討や具体的な改修の提案など,家族

    の希望や不安に対応できるようにしている。

     退院前訪問に医療と生活の2つの視点を

    持つ看護師が参加することで,医療ニーズや

    生活に関する情報を提供でき,在宅生活に移

    行する上での課題が明らかとなり,退院まで

    の間その課題に取り組むことができている。▲

    退院後訪問指導 患者が安心して在宅生活へ移行し継続す

    ることができるよう,入院中担当している

    看護師が患者の自宅を訪問し,退院後の生

    活において予測される看護問題について,

    生活の場で患者・家族と共に解決を図る。

    定期カンファレンスで退院後訪問指導の必

    要性を検討し,患者の状況に応じて担当看

    護師に加え,外来看護師,訪問看護師,退

    院支援看護師が同行する。内容は,医療処

    置やケアが適切に実施できているか,安全

    に生活できているか,行った介護指導が実

    表1回復期リハビリテーション病棟における入院時~退院後の流れ

    入院時

    入院1週間以内

    入院初期入院1週間後,(その後4週間ごと)

    入院中期

    入院後期

    退院後

    【入院時合同評価】情報収集・共有,患者ニーズの確認,

    身体機能の評価,目標設定↓

    【入院時訪問指導】↓

    【定期カンファレンス】カンファレンス後,患者・家族と面談

    ↓【退院前訪問】

    ↓【退院前カンファレンス】【在宅支援カンファレンス】

    退院【退院後訪問指導】

    時期 内容

    24 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 施できているかの確認と指導,困り事や不

    安への対応である(表2)。 担当看護師が退院した患者の在宅生活を

    実際に見て確認することで,問題を解決す

    るだけでなく,入院中に行った退院支援を

    振り返り課題を明らかにすることができ,

    今後の看護に生かすことができる。また,

    「その人らしい生活」とは何かを考える機会

    となり,この経験の積み重ねにより,退院

    後の生活をイメージする力が養われていく。

     実際に退院後訪問指導を行ったケースの

    中に,息子と2人暮らしで,息子のために

    ご飯を炊いて帰宅を待つことが生きがいで

    ある80代の女性Aさんがいた。転倒リスク

    が非常に高く,つかまりながら米を研ぐこ

    とはできるが,釜を持ち運ぶことは危険で

    あった。そこで,軽い釜を用いて少量の米

    を炊くこと,炊飯器も低い位置に設定する

    ことを提案した。また,リハビリテーショ

    ンでも米を研ぐ練習を行った。

     看護師が退院後訪問指導に行くと,ご飯

    を炊き息子の帰りを待つ生活を送る生き生

    きとした笑顔のAさんに会うことができた。

    しかし,いすに座る際に転倒したことがあ

    ることを聞き,再度環境調整を行った。本

    ケースでは,自分の生きがいとする役割を

    発揮することで,自分らしく在宅で生活す

    ることができることを実感した。

     一方,患者も,入院中かかわった看護師

    が自宅に来て一緒に問題を解決することで,

    安心感が得られ,在宅生活を継続すること

    ができる。また,外来看護師や訪問看護師

    が同行することで,生活の場で患者・家族

    も交えた情報交換や問題解決が行え,顔を

    合わせた継続看護が実践できる(写真1)。

    多職種カンファレンス, 在宅支援カンファレンスの実際

    多職種カンファレンス 入院1週間後,その後は4週間ごとに,

    写真1 退院後訪問指導における食事介助の指導表2

    2019年度に行った退院後訪問指導の内容(合計件数40件)

    継続されている医療処置

    全身状態

    介護指導

    認知症のある

    高齢者の生活

    独居高齢者の生活

    •褥瘡処置•在宅酸素の管理•膀胱瘻,人工肛門の管理

    •インスリン注射,血糖測定

    •全身状態,皮膚の観察•排便コントロール状況•飲水・食事摂取量

    •起居・移乗動作介助,その他のADL動作介助•吸引手技•安全な食事介助•介護者の不安,困り事への対応

    •安全に生活できているか,環境,サービスの確認と指導

    •介護者の困り事への対応

    •安全に生活できているか,環境,サービスの確認と指導

    •困り事への対応

    ○○○

    評価項目 算定内容

    25ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 担当医師,看護師,理学療法士・作業療法

    士,ソーシャルワーカー,必要に応じて薬

    剤師,栄養士が集まり,多職種で定期カン

    ファレンスを開催している(写真2)。現状の認知・身体機能の評価,医療処置・ケア

    や日常生活,介護保険などの社会的背景に

    関する情報交換・共有,課題の明確化や検

    討,設定されている目標の評価,今後の目

    標設定を行っている。看護師は定期カンファ

    レンスに参加することで,多職種からの専

    門的な見解を聴き,患者を多角的にとらえ

    ることができる。そして,患者のADLを向

    上させ自宅に戻れるようにするために,多

    職種で目標をすり合わせ,その目標を達成

    するために看護師や他職種が何をどのよう

    に進めていくか具体的にすることができる。

     退院前には,患者・家族と地域のサービ

    ス担当者,病棟看護師,ソーシャルワー

    カー,他関連部署の看護師が集まり,退院

    前カンファレンスを開催している。ここで

    は,患者・家族の意向や希望を確認し,必

    要となる地域サービスや社会資源の内容,

    退院後の療養生活に向けて解決すべき課題

    を明らかにしている。これにより,患者・

    家族,地域のサービス担当者,院内の担当

    者が一堂に顔を合わせ,つながりを持つこ

    とができ,各担当者の役割も明確となる。

    院内にとどまらず,他施設の人と情報交

    換・共有が行え,地域の連携を深めること

    ができる。病棟看護師が参加することによ

    り,どのような情報を地域の担当者に伝え

    る必要があるのかを考え,発信し,また地

    域の情報を得て学ぶことができる。▲

    在宅支援カンファレンス 当院通院患者,訪問看護利用患者が退院

    後の在宅生活を継続できるよう,また病

    棟・外来・訪問の連携を強化し入退院の質

    を向上させるために,内科病棟では毎週,

    回復期リハビリテーション病棟(以下,回

    復期病棟)・精神科病棟では月1回,病

    棟・外来・訪問・退院支援の看護師が集ま

    りカンファレンスを開催している。

     病棟看護師からは,退院する患者の退院

    時の看護上の問題点や退院指導の内容を伝

    え,参加者全員で共有する。患者が外来・

    訪問看護を利用した時には,問題が解決で

    きているか,指導したことが実践できてい

    るか,困り事はないか確認し,病棟看護師

    へフィードバックする。フィードバックを

    受けた病棟看護師は,退院後の在宅生活の

    様子が分かるだけでなく,自分の行った退

    院支援を振り返り評価できる。また,外来

    に依頼しておくことで,実際に患者が受診

    した際には外来へ行き,直接自分の目で患

    者を看て,様子を聴くことも行っている。

    病棟看護師の意識の変化

     退院後訪問指導導入後は,患者が退院後

    の生活において予測される問題がある場合,

    看護長から担当看護師に声をかけ,退院後

    訪問指導を行う機会をつくっていった。導

    入当初,担当看護師からは,1人で慣れな

    い自宅に行くことや,何を見てどう対処す

    写真2 多職種による定期カンファレンス

    26 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • ればよいのかということについて,不安が

    多かった。そこで,退院後の在宅生活がイ

    メージできない看護師には,患者の今の日

    常生活と入院前の生活,自宅環境を照らし

    合わせ,一つひとつ具体的にイメージでき

    るように導いた。そして,どのような問題

    が予測されるか一緒に考え,それに対する

    解決方法を指導した。また,若手看護師の

    場合は,看護主任または先輩看護師,他部

    門の看護師と一緒に行くことができるよう

    勤務を調整した。

     担当の看護師は,在宅生活を送っている

    患者の姿を直接見て話を聴き,問題が解決

    できると,安堵の表情でうれしそうに病棟

    に帰ってくる。その際,「どうだった?」と

    必ず聴くようにしているが,どの看護師も

    鮮明に自宅での患者の様子を話してくれ

    る。この積み重ねにより,看護師は入院時

    から患者・家族と向き合い,ニーズを確認

    し,「その人らしい生活」が自宅で送れる

    ように患者・家族と一緒に考え,退院支援

    を行うことができるようになる。そして今

    では,看護師の方から「この患者さんの退

    院後訪問指導に行きたいです」と申し出る

    ようになった。

     当院回復期病棟に所属している看護師か

    ら,退院後訪問指導を行ったことで,自分

    自身の行った看護を振り返ることができ,

    さまざまな気づきがあったという意見が聞

    かれた。このインタビュー結果をまとめ,

    第30回日本リハビリテーション看護学会

    学術大会で発表した。その結論の中で,「多

    職種連携の重要性や在宅と病院の環境の違

    いに気づき,回復期看護師としての専門性

    や役割を認識して,患者・家族の意向を重

    視した退院調整の実施へと生かせるように

    なった」と述べている。退院後訪問指導を

    行うことで,看護師は多くの気づきを得て

    確実に成長することができている。

    経営面の影響,今後の課題

     2019年度の当院の退院後訪問指導件数

    は40件で,そのうち退院後訪問指導料を算

    定できたものは12件であった(表2参照)。内科病棟では,褥瘡処置や酸素の管理など

    医療ニーズの高い患者への訪問が多く,こ

    れらは算定ができる。しかし,回復期病棟

    では,脳血管疾患により身体障害が残存す

    る患者や,高次脳機能障害を有する患者が,

    家族の介護の下,自宅で安全に過ごすこと

    ができているか,また糖尿病を合併してい

    る患者が,在宅生活でインスリン注射の管

    理が行えているか,生活スタイルの変化に

    伴って血糖値に変化が見られないかを確認

    することがほとんどであった。これらは退

    院後訪問指導料の算定要件に入っていない

    ため,現在無料で訪問指導を行っている。

     しかし,患者が住み慣れた地域で自分ら

    しい暮らしを人生の最期まで続けることが

    できるためには,算定できない内容であっ

    ても退院後訪問指導は必要となる。また,

    看護師が在宅生活を見てイメージする力を

    養うことにもつながっている。そのため,

    算定要件が拡大されるように働きかけてい

    くことが今後の課題である。

    引用・参考文献1)塩田美佐代:退院後訪問指導導入に向けた院内の仕組みづくり,地域連携入退院と在宅支援,Vol.10,No.6,P.78 ~84,2018.2)上星浩子:その人らしさを支える退院支援―ストレングスモデルの活用と多職種連携,月刊ナースマネジャー,Vol.21,No.12,P.76 ~81,2020.3)宇都宮宏子:これからの入退院支援・在宅移行支援―「ケアプロセスマネジメント」と「意思決定支援」の視点から,看護管理,Vol.28,No.11,P.960 ~964,2018.4)江口理恵子:退院後訪問指導を経験した看護師の気付き,第30回日本リハビリテーション看護学会学術大会発表,2018.

    27ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 看護部長 杉山由香1984年浜松市立看護専門学校第2看護学科卒業後,浜松医療センター入職。2001年看護長,2014年看護部副部長,2017年看護部長,2018年副院長に就任。2017年に認定看護管理者資格を取得。

    看護部副部長 高橋円香1987年埼玉県立衛生短期大学第2看護学科卒業後,浜松医療センター入職。2009年看護長,2016年看護部副部長に就任。2017年に認定看護管理者資格を取得。

    浜松医療センター新連載

    当院の概要 当院は,静岡県西部地域を診療圏とする

    606床の中核医療機関です。34の診療科

    があり,高度急性期医療,救急医療,周産

    期小児医療,がん診療連携拠点病院などの

    役割を担っています。病院理念に「安全・

    安心な地域に信頼される病院」を掲げ,地

    域連携の強化と,高度で良質な医療を提供

    することにより,地域の医療水準の向上を

    図ることを目標としています。

     2020年に入って猛威を振るっている新

    型コロナウイルス感染症への対応について

    は,職員が一丸となって地域住民の生命と

    健康を守れるよう日々の医療に従事してい

    ます。看護部は,「地域の皆さま一人ひと

    りが大切にされたと感じられる看護を行い

    ます」の理念に向かい,看護を語ることを

    大切にしながら,質の高い看護サービスの

    提供を目指しています。

    看護管理者教育における シャドウイング 以前,認定看護管理者教育課程セカンド

    レベル,サードレベルを受講した際,看護

    管理臨地実習で看護部長のシャドウイング

    を経験しました。自施設の課題を持ち,少

    し緊張しながら研修を受ける中で,メン

    ターの看護部長がとてもパワフルで大きな

    存在であると感じました。と同時に,看護

    管理者としての視点とその実践を目の前で

    学ぶ機会を得て,机上では得られない学び

    の効果を確認することができました。

     看護教育におけるシャドウイングとは,

    ロールモデルの後ろに影のようについて,

    その仕事内容や職場の様子を観察する手法

    です。当院では,看護学生や新人教育にお

    いてこの方法を取り入れていましたが,管

    理者研修としては導入していませんでし

    た。それが今回,他施設の看護管理者と次

    看護管理者たちの学びの現状と課題~なぜ他施設との合同研修が必要か

    34 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 世代の看護管理者の育成について話し合う

    機会があり,合同研修,シャドウイング研

    修を行うことが企画され,実施に至りまし

    た。研修後の学びとして,看護管理につい

    ての興味・関心がさらに強くなり,モチ

    ベーションの向上や実践モデルの獲得につ

    ながり,管理的視点が拡大された結果に手

    ごたえを感じました。

    * * *

     本連載では,当院の看護管理者の教育支

    援を振り返りながら,他施設と行った研修

    の経緯と内容を紹介します。なお,当院で

    は看護長・副看護長という役職名称を使用

    していますが,本文では師長・副師長で統

    一します。

    課題となっている 「次世代の看護管理者の育成」 医療を取り巻く環境は,とても速いス

    ピードで変化しています。医療が高度化,

    複雑化している中,的確に対応するために

    は,自施設や自部署における課題解決に向

    け,看護管理者が幅広い視野で主体的かつ

    柔軟に対応できる力が求められています。

     各施設の看護代表者が集まり,組織運営

    や人材育成,地域における看護の質向上に

    ついて情報交換をする際には,次世代の看

    護管理者の育成が一つの共通課題となって

    います。

    当院における看護管理者の現状 当院の看護職員数は,春に49人の新人

    を迎え642人になりました(2020年4月

    1日現在)。看護管理者は看護部長1人,

    副部長(副参事を含む)4人,師長21人,

    副師長52人の構成です。

     師長は,師長経験5年未満が13人(62%),

    5年以上10年未満が5人(24%),10年以

    上が3人(14%)であり,副師長は,副師

    長経験5年未満が25人(48%),5年以上

    10年未満が18人(35%),10年以上が9

    人(17%)です。この先5年間に半数の

    師長が退職を迎えることや,4年後には新

    病院の設立を控えていること,看護管理経

    験5年未満が約半数を占めていることもあ

    り,次世代の看護管理者の育成が重要であ

    ると考えています。

    看護管理者への教育支援 看護管理者の教育は,臨床現場における

    課題解決に主体的に取り組み,組織理念に

    向けてマネジメントできることを目的とし

    ています。教育支援として,看護協会で実

    施されている認定看護管理者教育課程をは

    じめとする院外での看護管理者研修の受

    講,院内では師長を対象に年2回の管理者

    研修を行っています。

     当院では,看護を語ることを大切にして

    います。日常の中で語り合うことはもちろ

    んですが,師長・副師長が数人ずつグルー

    プになり,互いの事例を共有する時間を設

    けています。また,副師長を対象に副師長

    会を開催し,看護管理に関する学習会を

    行っています。次世代の看護管理者を担う

    副師長は,ロールモデルとして組織運営の

    要となり,その教育は重要です。

    副師長会と副師長教育 副師長会は,看護部運営の円滑化を図る

    ために看護に関する事項の協議を行うこと,

    看護業務に関することやその他の看護管理

    に関する事項を検討することを目的として

    います。看護の現場での課題についてPDCA

    サイクルを回し改善に取り組むと共に,看

    護管理者として必要な情報や知識を共有す

    る機会となるように企画しています。

     方法としては,副師長を数人ごとのグ

    35ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • ループに分け,グループごとのテーマにつ

    いてPDCAサイクルを回して1年間活動し

    ました。毎年繰り返す中で,3年前からグ

    ループを部署別とし,グループでテーマを

    決め,短期目標を定めて1年後のゴールに

    向けて活動することにしました。それぞれ

    のグループが工夫を凝らし,取り組みが進

    められました(表)。

     年度末には,各部署での活動をスライド

    にまとめ活動報告会を開催し,お互いの取

    り組みについて共有しました。

    他施設(A病院)との 合同管理者研修「KAIZEN」

    開催に至った経緯 A病院は,設置母体は違いますが同規模

    の病院であり,当院との教育関連病院で

    す。診療についてはすでに連携をとってお

    り,医師同士の交流,また一部の分野の認

    定看護師同士の交流もありました。そのつ

    ながりもあり,看護管理者にもネットワー

    クが広げられました。

     A病院の看護管理者と,互いの施設の現

    状と課題について情報を共有する機会があ

    り,その中で看護管理者への教育支援が特

    に課題となっていることが共通していると

    分かりました。A病院でもPDCAサイクル

    を回した取り組みを実施しており,合同研

    修を行うことにより管理的視野を広げられ

    るのではないかと考えました。

     A病院との研修企画会議が進む中で,よ

    り管理的な視点から部署の課題を明確に

    し,客観的に評価することはできないだろ

    うかと話し合いました。その結果,互いの

    病院でのロールモデルの実際の活動を見

    て・聞いて・体験しながら学ばせてもらい

    たいとの考えに至り,シャドウイング研修

    が企画されました。他施設の師長へのシャ

    ドウイングを行うことにより,自分の組織

    を俯瞰し,管理的視点を拡大できることを

    期待しました。

    シャドウイングおよび 合同管理者研修の準備研修内容に関するA病院との会議 リモート会議を実施し,管理者研修の目

    的,目標,研修内容について討議しました。

    研修名は,部署の課題解決に向けてPDCA

    サイクルを回し,主体的に取り組むことが

    できる看護管理者の育成を目指して管理者

    研修「KAIZEN」とし,研修プログラムを

    次のように決定しました。

    研修プログラム1)目的

     部署の課題に対し,取り組んだ成果を可

    視化し,情報交換をすることを通して,2施

    設の看護の質向上につながる機会とする。

    2)目標

    ・2施設間で情報交換をすることで,管理的視野を広げることができる。

    ・グループワークを通して,部署の課題を明確にすることができる。

    ・部署の課題について,PDCAサイクルを回しながら取り組むことができる。

    ・副師長としての管理能力を高めることができる。

    3)シャドウイング

    期間:1日

    内容:当院副師長は,A病院師長のもとで

    シャドウイングを行う。A病院副師長

    は,当院の師長のもとでシャドウイング

    を行う。

     研修生は,自部署の課題解決に向けた

    実践を通して,事前に自己目標を明確に

    しておく。

    36 ナースマネジャー Vol.22 No.5

  • 退院後の生活を見据えた支援に向けて

    あなたもできる!参画型看護

    患者に寄り添った看護実践ができる~患者参画型看護計画を通して~

    高齢入院患者の合併症を予防しよう!

    患者・家族と語り,考え,悩み,その思いを参画型看護へつなげる

    患者さんの“したい”に応えたい

    褥瘡専任看護師が褥瘡予防策の役割を理解し活動できる

    診療材料のムダ減少プロジェクト再開!!

    身体拘束~ZEゼRロO~を目指して!!

    話そう・考え続けよう行動制限守ろう患者さんの笑顔

    手順を守ってみんなハッピー!

    自分の家族が拘束されたらどうですか?減らしませんか身体拘束

    必要ですか?その抑制~パートⅡ~

    患者と看護職員の安全を守る!~インシデント防止の取り組み~

    チームで守る!赤ちゃんの安全

    転倒転落リスクの視点で患者の認知・ADLに合わせて病床環境を整える

    患者が安全・安心して過ごせる職場環境を整える

    チーム全体の危機管理意識の向上を図り,患者の安全を守る療養環境を整える

    安全確認点滴編~点滴急速落下0を目指そう~

    増やせ!0レベル報告目指せ!患者への安全な透析看護

    大腸内視鏡検査説明で患者の待ち時間を削減します

    病棟看護職員が,入院・転入時より退院後の生活を見据えた看護アセスメントができ,介入することができる

    参画型看護計画の立案を1人○例は実施し,患者家族の思いを知り生活を支える

    システム化して実績アップ(目標は2018年の1割増し)

    誤嚥性肺炎の発生数を増加させない(○件/月)

    看護スタッフが参画型看護を実践し記録に残すことができる

    看護職員全員が参画型看護計画に取り組むことができる参画型看護実践の事例を通して看護の楽しさや喜びを共有できる

    褥瘡リスクアセスメント・褥瘡予防治療計画書の目的・活用方法が理解でき指導できる

    2019年度の診療材料の損失が,2018年度より減少する

    病棟看護職員が身体拘束の三原則に基づき患者の状態をアセスメントすることができる毎日評価・修正することができる病棟内の身体拘束件数が減少する

    身体拘束率,転倒転落インシデントのアクシデント件数が2018年度より減少する

    身体拘束フローチャートを用いて,事故・自己抜去を○件以下にする

    2018年度より身体拘束患者割合が1割以上減少する

    不必要な身体拘束が減り,患者のADLを維持できる

    2018年度よりインシデントが2割減少する

    インシデントについて有効な対応策をとり,同じインシデントを繰り返さない

    DiNQL:転倒転落発生率2.7%以下発生件数:2018年度以下患者の転倒転落リスクアセスメント再評価率:90%

    2018年度に修正した手順を遵守し,2018年度と同じくインシデントを0件にする

    6R,KYT,安全ラウンドを継続し,2018年度よりインシデントが1割減少する

    点滴の急速落下が「0件」になる

    インシデント報告を共有し,患者への安全安楽な透析看護を行う

    大腸内視鏡検査説明を受ける患者の待ち時間が短縮する

    部署 テーマ

    表●2019年度 PDCA活動

    37ナースマネジャー Vol.22 No.5

  •  研修生は,「シャドウイングを通して

    学んだこと,看護管理者としての課題」

    をまとめる。

    4)合同情報交換会

    期間:半日

    事前課題:「自部署で課題と思っているこ

    と」を記載し提出する。

    活動報告:当院およびA病院からそれぞれ

    2人ずつ(計4人)が,PDCAサイクル

    を回しながら取り組んできた内容および

    シャドウイングで学んだことを報告する。

    グループワーク:4~5人のグループをつ

    くり,2施設合同のメンバー構成とする。

    事前課題をもとに「改善に向けて看護管理

    者が取り組むこと」をテーマに話し合う。

    発表および全体討議

    * * *

     今回は,他施設合同で管理者研修を行う

    に至った背景,シャドウイング研修を取り

    入れた経緯について紹介しました。次回は,

    他施設合同による管理者研修「KAIZEN」

    の実際について紹介します。

    「これは無理。指導しきれない」…など受講生のお困り事例に対応策を回答

    日総研 14957学習のねらいは 検索

    本誌購読者 16,000円 一般 19,000円参加料/税込

    太田夏江氏

    プログラム

    どうしても理解できない人と一緒に働く時の

    イライラ・モヤモヤ改善術

    仙台20年 12/19(土)ショーケー本館ビル

    [時間]10:00~16:00

    大阪 20年 8/19(水)田村駒ビル平日・昼間

    1.現場で必要な人間関係とそれを「ぶち壊す」人たち●チームワークが求められる職場の理想の形 ほか

    2.イライラする人・させる人 それぞれの特徴と原因●人間関係でイライラする人の特徴 ほか

    3.人間関係は選択理論でラクになる!  ~内的コントロール心理学のススメ~●外的コントロール心理学と選択理論心理学の違い ほか

    4.感情コントロールを身につける! アンガーマネジメント●怒りの仕組み・コントロール ●怒りの上手な伝え方 ほか

    5.相手のタイプ別に見るイライラ・モヤモヤ解消の関わり方●愚痴や悪口、不平不満ばかり言う人 ほか

    6.見方を変える・受け止め方を変えるトレーニング●効果的な聴き方の基本 ●スタッフとの対話のスキル ほか

    7.まとめ・質疑応答

    マーベルハート 主宰/心理カウンセラー(医療従事者の心とからだの相談スペシャリスト)

    困ったスタッフ・呆れたスタッフに振り回されないためのスキルを身につける!

    畠山昌樹氏 医師

    プログラム

    アスペルガーをカミングアウトしたお医者さんが、自らの体験を基にアドバイス

    [時間]10:00~16:00

    本誌購読者 16,000円   一般 19,000円

    参加料税込

    日総研 14512ねらい・お客様の声は 検索

    1.発達障がいとは? (発達多様性) ●発達障がいの思考過程を理解する! -その特性- ほか

    2.発達障がいの理解と支援 ●心の理論・どんな思考をしているか? ●求められるコミュニケーション ほか

    3.困ったケースの対応策 ●間違えやすい対応・常識外れのうまくいく対応  ほか

    4.職場(病院・施設・教育現場)での取り組み方 ●定期的なコミュニケーション(接遇等)の勉強会 ほか

    5.「発達障がい」以外のピットフォール(若年性認知症・うつ病) ●「新しい仕事がぜんぜん覚えられない・以前できていた仕事が  できなくなってきた・やさしくしてもマイナス思考」 ほか

    6.発達障がい者の労務管理 ●指導しきれない場合、見切る場合のポイントは? ほか

    7.受講生のお困り事例にアドバイス/質疑応答

    もしかして、この人“発達障がい!?”

    そんな方への接し方、職場適応支援

    東京20年 8/29(土)KFC Hall & Rooms

    38 ナースマネジャー Vol.22 No.5