1030 感染症学雑誌 第61巻 第9号

蛍光 標 識 モ ノ ク ローナ ル抗体(Microtrak Herpes)に よ る

単純 ヘ ル ペ ス ウイル ス感 染 症 の診 断

東京大学医学部産婦人科

川 名 尚*

東京大学医科学研究所病理部

倉 田 毅**佐 多 徹 太郎**

岩手医科大学医学部細菌学教室

川 名 林 治 佐 藤 成 大

東京大学医学部皮膚科

玉 置 邦 彦***久 木 田 淳****

東京慈恵会医科大学皮膚科

新 村 真 人 大 木 和

近畿大学医学部皮膚科

手 塚 正 吉 田 正 己

九州大学医学部ウイルス学教室

森 良 一 安 元 慎一 郎* 現:東 京大学医学部附属病院分院産婦人科

* * 現:国 立予防衛生研究所病理部* * * 現:東 京大学医学部附属病院分院皮膚科

* * * * 現:防 衛医科大学校附属病院皮膚科

(昭和62年2月16日 受付)

(昭和62年4月14日 受理)

Key words: Herpes simplex virus, monoclonal antibody, diagnosis

要 旨

最近,米 国 で開発 され た単純 ヘル ペス ウ イル ス1型(HSV-1)並 びに2型(HSV-2)に 対す るマ ウス

モ ノク ローナ ル抗体 にFITCを 標識 した キ ッ ト(MicroTrak, HSV-1 and HSV-2 Culture Confirma-

tion/Typing test及 び,Direct specimen test)の 有用 性 につ き検討 した.

本邦 で分 離 されたHSV-1の137株 中136株(99.4%)が,HSV-2117株 全株 が,そ れ ぞれHSV-1, HSV-

2と 同 定 され,本 キ ッ トが本邦 の単 純 ヘル ペ ス ウイル ス感 染症 に も十分 用 い られ るこ とが 判 明 した.ヘ ル

ペ ス性 病変 部 よ り採 取 した細 胞 を塗抹 した ス ライ ド標本 に本 キ ッ トを反 応 させ た ところ,単 純 ヘル ペス

ウイル ス1型 また は2型 が 分離 で きた122例 中99例(81.8%)に 型 特異 的 な陽性 所見 が得 られ た.ま た,

ウイル ス分離 が陰性 で あ ったヘ ルペ ス性病 変16例 が本法 に よ り診 断 で きた.

本法 は,分 離 培養 法 に比 べ検 出率 はやや 劣 るものの,迅 速 かつ 簡便 で あ るた め,日 常 臨床検 査 として

極 め て有用 な検 査法 で あ る.検 体 の採 取 時期 を選 び,採 取法 に習 熟す れ ば,更 に診 断率 を上 昇 させ る こ

とが で き る と考 え られ る.

別刷請求先:(〒112)文 京区 目白台3-28-6

東京大学医学部附属病院分院産婦人科

川名 尚

昭和62年9月20日 1031

単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus,

HSVと 略)は,種 々な部位に感染し病巣を形成す

る.近 年,皮 膚科,産 婦人科,内 科領域などにお

いてHSV感 染症の増加が報告され1),日常診療に

おける重要性が認識 されている.

一方 ,HSV感 染症に有効 な抗 ウイルス剤が最

近開発されるに及 び,HSVに よる疾患の正確且

つ迅速な診断の必要性が特に高 くなってきた2).

HSV感 染症の最 も確実な診断は,HSVの 分離

であるが,こ れを行 うためには,培 養細胞を常に

準備 してお くなどの手数がかか り,ま た,結 果が

でるまでには,数 日間を要す るため直ちに治療に

反映でき難い点が問題である.

今回,我 々は,蛍 光標識抗1型HSV (HSV-1)

及び抗2型HSV (HSV-2)マ ウスモノクローナル

抗体を用いて病変部から採取 した細胞にHSV-1

またはHSV-2抗 原を証明す る方法を用 いた迅速

診断及 び培養細胞 を用 いて分離 したHSV-1,

HSV-2株 の同定を試み,良 好な結果を得たので報

告する.

材料 と方法

1. 対象患者 と検体の採取3)4)

昭和59年10月 より昭和60年3月 に至 るまでに主

にヘルペス性病変を主体 として,東 大病院産婦人

科,慈 恵医大病院皮膚科,近 大病院皮膚科,東 大

病院皮膚科,九 大病院皮膚科,岩 手医大病院皮膚

科並びに眼科を訪れた患者計226例 を対象 とした.

病変部位別にみると顔面81例,性 器99例,そ の

他24例 となる.病 変は,主 にヘルペス性と考えら

れるものであるが,鑑 別の難 しい病変や,陰 性対

象 として,他 疾患も一部含 まれている.さ らに,

帯状疱疹22例 についても検討を行 った.

これ らの症例の病変部から,細 胞をポリエステ

ルの綿棒などで採取 し無蛍光スライ ドガラスの2

箇所に塗抹 し,自 然乾燥後,ア セ トンで10分 固定

し直ちに染色を行 うか,4℃ か-70℃ に保存 し,

後 日染色 した.ま た,病 変部からは同時にウイル

スの分離を行い,後 述の方法で同定 と型の決定を

行った.

2. 蛍光抗体法 によるHSV抗 原の検 出3)4)

HSV-1とHSV-2に 対す るマウスモノクローナ

ル 抗 体 に 蛍 光(FITC)標 識 し たMoicro Trak

Herpes (Syva, USA, Ca.そ れ ぞ れ 抗HSV-1,

抗HSV-2と 略 称)を 用 い て,蛍 光 抗 体 直 接 法 に よ

りHSV-1抗 原 又 はHSV-2抗 原 を 検 出 し た.新 鮮

分 離 株 を 感 染 させ た細 胞(主 にVero細 胞)に つ い

て は,カ ル チ ャ ーテ ス ト用 キ ッ ト(HSV-1 and

HSV-2 Culture Confirmation/Typing test)を,

病 変 部 か ら採 取 した 細 胞 につ い て,ダ イ レ ク トテ

ス ト用 キ ッ ト(HSV-1 and HSV-2 Direct speci-

men test)を 用 い た.

ア セ トン固 定 した 感 染 細 胞 ま た は 病 変 部 よ り得

た 細 胞 を塗 抹 した ス ラ イ ドの穴 の 一 方 に抗HSV-

1抗 体 を,も う一 方 に 抗HSV-2抗 体 を 重 層 し,

37℃,15～30分 間,又 は 室 温30～45分 間,湿 潤 箱

に て 反 応 さ せ た 後,リ ン酸 緩 衝 液 と水 に て 洗 浄 後,

緩 衝 グ リセ リン液(pH9.0～9.5,0.5M炭 酸 緩 衝

液1:グ リセ リン特 級 無 蛍 光9)に て 包 埋 し,カ

バ ー グ ラ ス を か け ,蛍 光 顕 微 鏡 に て観 察 し た.陽

性 の 判 定 は,明 瞭 な核 を有 す る細 胞 形 態 の は っ き

りした も の に つ き,細 胞 質 に 特 異 蛍 光 を 認 め た も

の を も っ て した.

判 定 は各 施 設 で 独 立 に行 った.た だ し判 定 に 問

題 が 生 じた 場 合 は,全 施 設 で 討 議 して 最 終 決 定 を

行 った.

3. HSVの 分 離 と同 定 と型 決 定

HSVの 分 離 に用 いた 培 養 細 胞 は,全 施 設 と も

Vero細 胞 で あ った.分 離 され た ウ イ ル ス の 型 の

決 定 は マ イ ク ロ プ レー トを 用 い た 中 和 法5),電 子

顕 微 鏡 に よ る方 法6),HSV-DNAの 分 析 に よ る方

法7),ニ ワ ト リ胎 児 細 胞 に お け る ブ ラ ック形 成 能

の差 を 利 用 した 方 法8)な どで あ る.ウ イ ル ス の 分

離 は,今 回 の研 究 に 参 加 した8施 設 の うち5施 設

(岩 手 医 大 細 菌 学 教 室,東 大 産 婦 人 科,東 大 医 科 研

病 理,近 畿 医 大 皮 膚 科,九 大 ウ イル ス学 教 室)が

担 当 した.こ れ らの 施 設 問 のHSVの 型 決 定 の 精

度 を確 認 す るた め に,コ ー ドしたHSV 16株 につ

い てそ れ ぞ れ の施 設 で 通 常 行 って い る方 法 で 型 の

決 定 を行 った と ころ,全 施 設 で完 全 に 同一 の 結 果

が 得 られ た.

4. 新 鮮 分 離 株

各 施 設 で 既 に 分 離 し て 同 定 と型 の決 定 が 行 わ れ

1032 感染症学雑誌 第61巻 第9号

Table 1 Number of HSV isolates and clinical specimens

* NT: Neutralization method

FA: Fluorescent antibody technique

DNA: Restriction endonuclease cleavage pattern

PL: Plaque formation

EM: Electron microscopical observation

Table 2 HSV detection results of MicroTrak

Herpes culture confirmation typing test on

known HSV-1, HSV-2, VZV and CMV

て い るHSV-1とHSV-2を 用 い た.施 設 別 の 株 数

と ウ イ ル ス の 同 定 と型 識 別 法 をTable 1に 示 し

た.同 定 と型 決 定 法 は,中 和 法 に よ って 行 わ れ た

もの が 大 部 分 で あ るが,一 部 は,DNAの 制 限 酵 素

切 断 パ タ ー ン,感 染 細 胞 の 電 子 顕 微 鏡 に よ る観 察,

ブ ラ ック形 成 能 に よ って型 識 別 を行 った.水 痘 帯

状 疸 疹 ウイ ル ス(Varicella zoster virus; VZV),

サ イ トメ ガ ロ ウ イ ル ス(Cytomegalovirus; CMV)

は,蛍 光 抗 体 法 に よ って 同 定 さ れ た もの で あ る.

合 計 す る とHSV-1は137株,HSV-2は117株,VZV

は16株,CMVは1株 で あ った.こ れ ら の ウイ ル ス

を,Vero又 はHEL細 胞 に感 染 させ,CPE++～+++

とな っ た とこ ろ で,細 胞 を採 取 して ス ライ ドガ ラ

ス に塗 抹 標 本 を作 成 し て検 体 と した.陰 性 コ ン ト

ロー ル と し て,培 養 した 非 感 染 細 胞 を 同様 の 方 法

で塗 抹 標 本 と した.

結 果

a. カル チ ャ ー テ ス トの成 績(Table 2)

既 知 のHSV 254株(HSV-1 137株,HSV-2 117

株),VZV 16株,CMV1株 を 感 染 させ た 細 胞 を

カ ル チ ャー キ ッ トテ ス トの 抗HSV-1抗 体,抗

HSV-2抗 体 を 用 い て染 色 した.

HSV-1 138株 の うち137株 が 抗HSV-1抗 体 と反

応 し,HSV-2抗 体 とは 全 く反 応 しな か っ た(写 真

1).1株 は 抗HSV-1抗 体 と抗HSV-2抗 体 の 両 者

に も反 応 し,型 の識 別 が で き な か った.

HSV-21 17株 で は,全 株 が 抗HSV-2抗 体 と反 応

し,抗HSV-1抗 体 とは全 く反 応 しな か った(写 真

2).

陽 性 部 は この標 識 抗 体 で は,1型 は 均 質 膜 状 に,

2型 は 一 部 ド ッ ト状(顆 粒 状)に 染 色 され た.

VZVとCMV感 染 細 胞 に は,抗HSV-1抗 体,抗

HSV-2抗 体 と も全 く反 応 し な か っ た.

また,13回 行 った 非 感 染 細 胞 に対 す る反 応 は 全

て 陰 性 で あ った.本 キ ッ トの抗HSV-1抗 体 は,本

邦 で 分 離 され たHSV-1の99.4%に,抗HSV-2抗

体 は本 邦 で 分 離 さ れ た も の の100%に 反 応 した こ

と に な る.

b. ダ イ レ ク トテ ス トの 成 績

ヘ ル ペ ス 性 病 変 部 か ら採 取 した 塗 抹 標 本 に つ い

て,本 キ ッ トの 抗HSV-1抗 体 と抗HSV-2抗 体 を

用 い て ど の程 度 陽 性 所 見 が 得 ら れ る か を 検 討 し

た.同 時 に ウ イ ル ス の 分 離 培 養 も行 い そ の 陽 性 成

績 と比 較 した.

1) 総 合 成 績(Table 3)

分 離 法 に よ って ヘ ル ペ ス 性 病 変 と診 断 し得 た

122例(HSV-1 82例,HSV-2 40例)の うち,99例

(81.8%)が 本 法 に よ っ て 分離 に よ る型 と一 致 して

昭和62年9月20日 1033

写真1

写真2

Table 3 Results of MicroTrak direct test

compared with culture confirmation results

陽 性 所 見 が得 られ た.陽 性 所 見 は得 られ た が,型

が 違 っ た もの が1例,陽 性 所 見 の得 られ な か った

も の が14例,判 定 が 困 難 で あ った も の が8例 で

あ っ た.分 離 法 と本 法 に よ る型 識 別 の 一 致 率 は 分

離 法 陽 性100例 中99例(99.0%)が 本 法 で も同 じ型

に よ るヘ ル ペ ス ウ イル ス感 染 を 同 定 す る こ とが で

きた.ま た,分 離 が 陰 性 で あ った が,本 法 に よ り

明 らか なHSV抗 原 を証 明 し,HSV感 染 を 証 明 し

得 た 例 が16例(HSV-1 10例,HSV-2 6例)あ っ

た.

Table 4 Results of MicroTrak direct test on

labial and facial herpes

Table 5 Results of MicroTrak direct test on

genital herpes

VZVに よ る病 変 か ら採 取 した 細 胞 に は,22例,

全 例 が 陰 性 所 見 で あ った.

2) 病 変 部 位 別 の 成績

(イ)口 唇 ・顔 面 ヘ ル ペ ス(Table 4)

口唇 や 顔 面 の ヘ ル ペ ス性 病 変 につ い て み る と,

分 離 陽 性 の51例 中47例(92.1%)が 本 法 に よ り診

断 さ れ た.一 方,分 離 が 陰 性 で あ った も の9例 が,

本 法 に よ り陽 性 所 見 が 得 られ た.分 離 陽 性 例 は 合

計51例 で あ った の に 対 し,本 法 の陽 性 例 は56例 と,

本 法 に よ る陽 性 例 の方 が か え って 多 く,口 唇 ・顔

面 ヘ ル ペ ス の 診 断 に有 力 な検 査 法 で あ る こ とを 示

して い る.

(ロ)性 器 ヘ ル ペ ス(Table 5)

性 器 ヘ ル ペ ス で は,分 離 陽 性 の58例 中46例

(86.8%)に 本 法 で 陽 性 所 見 が 得 られ た.HSV-1を

分 離 した 例 で は20例 中10例(50%),HSV-2を 分 離

した 例 で は38例 中36例(94,7%)に 陽 性 所 見 が 得

られ た.一 方,6例 の 分 離 陰 性 例 に 本 法 で 陽 性 所

見 が 得 られ た.

写 真3にHSV-1に よ る女 性 性 器 ヘ ル ペ ス の 病

変 か ら得 られ た 材 料 に お け る陽 性 所 見 を,写 真4

に 同 じ くHSV-2に お け る病 変 か ら得 られ た 陽 性

所 見 を 示 した.

(ハ)そ の他(Table 6)

1034 感染症学雑誌 第61巻 第9号

写真3

写真4

Table 6 Results of MicroTrak direct test on

other herpetic diseases

そ の 他 に ば,角 膜 や 指 の ヘ ル ペ ス 性 病 変 が 含 ま

れ る が,分 離 陽 性 の11例 中7例 に本 法 で 陽 性 所 見

が 得 られ た.

3) 病 変 別 に よ る 成績

ヘ ル ペ ス性 の病 変 を,水疱 ・膿 疱,糜 爛 ・潰 瘍,

痂 皮 に 分 け て本 法 の 陽 性 率 を 検 討 した.

水 疱 ・膿 疱 で は,分 離 陽 性 め70例 中65例(92-9%)

が 本 法 で も 陽 性 所 見 が 得 られ た.分 離 が 陰 性 で

あ った が 本 法 で 陽 性 所 見 の 得 られ た も の は5例

あ った(Table 7).廉 爛 ・潰 瘍 で は,分 離 陽 性 の

45例 中31例(68-9%)に 本 法 で 陽 性 所 見が 得 られ

Table 7 Results of MicroTrak direct test on

vesicular herpetic lesions

Table 8 Results of MicroTrak direct test on

ulcerative herpetic lesions

Table 9 Results of MicroTrak direct test on

crusted herpetic lesions

て い る.HSV-1を 分離 した25例 中12例 しか本 法 で

陽 性 所 見 が 得 られ な か った の に 対 し,HSV-2を 分

離 した20例 で は19例 に 本 法 で も陽 性 所 見 が得 られ

た(Table 8).痂 皮 で は,分 離 陽 性3例 の うち2

例 が 本 法 で 陽 性 で あ った(Table 9).興 味 あ る こ

とは,分 離 が 陰 性 で あ るが 本 法 で 診 断 され た た も

の が5例 あ り,8例 の 痂 皮 の うち7例 ま で が 本 法

で 陽 性 と な り,分 離 よ り も良好 な 成 績 を 示 した.

病 変 別 に分 離 法 と ダ イ レ ク トテ ス トに よ る陽 性

率 に つ い て 整 理 した(Table 10).水 疱 ・膿 疱 で は,

分 離 法 と本 法 の 診 断 率 は,大 体一 致 し,糜 爛 ・潰

瘍 で は,分 離 法 の 方 が や や 優 れ て いた が,痂 皮 で

は 本法 の 方 が 分 離 法 よ り も優 れ て いた.

考 察

本 キ ッ トに 用 い ら れ て い る 抗HSV-1,及 び 抗

HSV-2抗 体 は,そ れ ぞ れ,HSV-1に 特 異 的 な 分 子

昭和62年9月20日 1035

Table 10 Comparison of positive rate of culture

test and MicroTrak direct test regarding vari-

ous herpetic lesions

量8万 と12万 ダル トン のglycoprotein C,並 び に

分子 量14万,5.5万,3.8万 ダ ル トンのHSV-2特 異

蛋 白に 対 す る マ ウ ス モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 で これ に

蛍 光 色 素 を標 識 し,キ ッ トと した もの で あ る9).

本 キ ッ トの 開 発 され た 米 国 に お け る成 績 で は,

新 鮮 分 離 株117株 の 型 識 別 は,DNAの 制 限 酵 素 切

断 パ タ ー ン に よ る型 識 別 と100%一 致 し た と い

う10).

今 回,本 邦 で 分離 され 既 に 同 定 され て い るHSV-1

137株 中136株,HSV-2117株 全 株 が,本 キ ッ トに

よ り明 瞭 に 同定 され た こ とは,キ ッ トが 本 邦 で十

分 に 使 用 で き る こ とを 意 味 して い る.抗HSV-1抗

体 は,HSV-1感 染 細 胞 にの み 明 瞭 に反 応 し,HSV-2

感 染 細 胞 に は反 応 せ ず,抗HSV-2抗 体 もHSV-2感

染 細 胞 に は反 応 し,HSV-1感 染 細胞 に は反 応 せ ず,

高 い 特 異 性 が 証 明 され た.ま た,陰 性 細 胞 は,暗

赤 色 に染 色 され 特 異 蛍 光 を 示 す 陽 性細 胞 を よ り鮮

明 に判 定 で き る よ うに工 夫 され て い る.蛍 光 も 明

瞭 で判 断 に苦 しむ こ と もな く,本 キ ッ トに 含 ま れ

る抗 体 量 も適 度 で あ る こ とが 示 さ れ た.染 色 所 見

で も,HSV-1とHSV-2の 感 染 細 胞 で は 明 瞭 な 差

異 が み られ た.

た だ,HSV-1の うち1株 に 抗HSV-1と 抗HSV-

2の 両 者 に 染 色 さ れ た も の が あ った.本 例 が,

HSV-1とHSV-2の 混 合 感 染 で あ っ た の か,本

キ ッ トに 由来 す る問 題 が 関 係 して い る の か,不 明

で あ る.

同 じ ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス 群 に 属 す るVZVと

CMVに 対 して,全 く反 応 し な か った こ と は,本

キ ッ トがHSVに 特 異 的 で あ る こ とを 示 す も の で

あ る.

マイクロラック・ダイレク トテス ト用キットは,

上記のカルチャー用キ ットと同じ抗体を用いてい

るが臨床材料より得 られた塗抹標本を検査すると

い う不利な条件に対処するためにい くつか工夫が

なされている.ダ イレク トとは,臨 床材料を直接

染色す るという意味で,カ ルチャーテス トが一度

分離 したものについて染色す るのにくらべるとよ

り直接的な診断法 とい うことになる.

ダイレク トテス トでは,分 離陽性例122例 中99例

(81.8%)が1型 か2型 かを区別 した上でヘルペス

ウイルス感染症 と診断されている.こ の数値は,

必ず しも満足できるものではないが,本 法が2時

間足 らずの うちに,し か も簡単な操作や簡単な装

置で診断できることを考え合わせると,臨 床的に

は,極 めて有用であると思われる.今 回の成績は

米国における成績88%9)に 比べ るとやや低いが,

臨床検体を扱 うので,こ の程度の差は止むを得ま

い.特 筆すべ きは,臨 床的には単純ヘルペスウイ

ルス感染症 と考えられながら,分 離が陰性であっ

た16例 に本法でヘルペスウイルス感染症と診断で

きたことである.こ れは分離法に優 る点であろう.

最終的に本法により診断できた症例は,HSV-1に

よるもの,HSV-2に よるもの合わせて116例 あ り,

分離法により診断できた例が122例 であったのに

くらべ,決 して遜色のないものであった.分 離法

が陽性で本法が陰性であった14例 のスライ ドにつ

いて,後 にHSVに 対するポ リクロナール抗体に

蛍光標識したものを用いて再度検討 したが,や は

り陽性細胞を発見することはできなかった.即 ち,

陰性となった理由は,検 体採取に問題があったの

であ り,本 キ ットの反応性に問題があったのでは

ない と考えられた.ま た判定困難 となった ものの

一部は,特 異蛍光を発す る物体があるものの細胞

形態をはっきりとは示 していないために判定でき

なかった ものであった.こ の点でも細胞採取に問

題が残されている.ま た子宮頚部 より採取 した細

胞 に,非 特異的に反応するものがあるよ うで,本

法を子宮頚部の病変 に用いる ときは注意を要す

る.

皮膚のヘルペス性病変は,水 疱,膿 疱から痂皮

へと変化す るが,活 性あるいはウィルス粒子は,

1036 感染症学雑誌 第61巻 第9号

前者 には多 く含 まれるが後者 には少な く,HSV

感染表皮細胞は前者により多 く含まれていると云

われている.し かし,後 者には,な お,ウ イルス

抗原が残存 しているものがあり,こ れが蛍光抗体

法で検出できることがあると考えられる.い ずれ

にせ よ,発 症 してからなるべ く早い時期に検査す

ることが大切で,本 研究でも,水 疱・膿疱,糜 爛・

潰瘍,痂 皮の順で,分 離法並びに本法の陽性率が

低下 している.

ヘルペスウイルスによる病変部か ら感染細胞を

採取 し,こ れを塗抹標本 とし蛍光抗体法にてウイ

ルス抗原を証明す る本法の陽性率を上昇 させるに

は,次 の点に注意を払 う必要がある.(1)病 期の

なるべ く早いうちに採取する.(2)水 疱 ・膿疱で

は,水疱または膿疱を被 っている皮膚を採取 して,

これからスタンプ標本を作る.(3)糜 爛 ・潰瘍で

は,糜 爛面 ・潰瘍面を強 くこすって細胞を採取す

る.(4)数 カ所 より検体を採取する.

本法では,単 にHSV感 染症の診断がで きるば

か りでな く,HSVの1型 によるものか2型 によ

るものかが診断できる.HSVの 型は,そ の感染源

を知 る上で重要な指標 となるばか りでな く,性 器

ヘルペスに関 しては,2型 によるものは,1型 に

よるものより再発する リスクが高いと云われてお

り11),予後を判断す る上にも役立つ.ま た,抗 ウイ

ルス剤に対す る感受性も1型,2型 で差がみ られ

てお り12),治療法の選択にも有用である.

ウイルス感染症の診断には,ウ イルスを直接分

離培養して診断するのが確実であるが,検 体の運

搬や検査に手間と時間を要する点で問題がある.

その点,簡 便に病変部から直接感染細胞を証明す

ることがで きる方法は,感 度はやや落ちても臨床

的には十分な価値がある.ヘ ルペスウイルス感染

症では,血 清抗体 による診断法には,い くつかの

限界があ り,ウ イルス抗原を証明する本法の方が

遙かに優れている.性 器ヘルペスウイルス感染症

が増加の傾向にあ り,正 しい診断による的確な治

療の選択が切望 される今 日,マ イクロトラックヘ

ルペスダイレク トテス トは,そ の特異性,簡 便性

の点か ら十分に評価 してよい診断キ ットであろ

う.(本 試薬は(株)ダ イシバより提供を うけた).

文 献

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昭和62年9月20日 1037

Detection of Herpes Simplex Virus (HSV) Infection by UsingFITC-Labeled Monoclonal Antibodies (MicroTrak Method)

Takashi KAWANADepartment of Obstetrics and Gynecology, University of Tokyo

Tsuyoshi KURATA & Tetsutaro SATADepartment of Pathology, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo

Rinji KAWANA & Seidai SATOHDepartment of Bacteriology, Iwate Medical University

Kunihiko TAMAKI & Atsushi KUKITADepartment of Dermatology, University of Tokyo

Michihito NIIMURA & Yawara OHKIDepartment of Dermatology, Jikei University School of Medicine

Tadashi TEZUKA & Masaki YOSHIDADepartment of Dermatology, Kinki University School of Medicine

Ryoichi MORI & Shinichiro YASUMOTODepartment of Virology, Kyushu University

The usefulness of FITC-labeled monoclonal antibodies against HSV-1 and HSV-2 (MicroTrakHSV-1/HSV-2 Direct Specimen Identification/Typing Test and Culture Confirmation Test) for theidentification of fresh HSV isolates and for the detection of HSV infection in clinical specimens wasstudied.

The Culture Confirmation Test identified 136 out of 137 known HSV-1 strains (99.4%) isolated inJapan as HSV-1 strains (99.4%) and all of 117 known HSV-2 strains as HSV-2.

Ninety nine out of 122 (81.8%) clinical specimens obtained from culture proven herpetic lesionswere determined as HSV-1 or HSV-2 infection by Direct Specimen Identification/Typing test.

Sixteen clinical specimens obtained from culture negative lesions were positive for HSV antigenand were diagnosed as herpetic lesions.

Though its sensitivity is somewhat lower than that of culture method, it gives results within 2hours after specimen receipt, indicating that it is very useful for rapid diagnosis of HSV infection.