金属製カーテンウォールセラミックスアーカイブズ 144 セラミックス...

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セラミックスアーカイブズ 143 セラミックス 432008No. 2 見学可能(図4) 東京都 江東区 トステムショールーム 東京 B1F http://www.tostem. co.jp/showroom/ Key-words : 金 属 製, カーテンウォール,ア ルミニウム 金属製カーテンウォール (1960 年代~現在) 昨今,首都圏(丸の内,汐留,六本木など)での再開発により,超高層オフィス・ホテ ル・集合住宅などのビル建築物の外壁には,主に耐久性や意匠性の観点から金属製カーテ ンウォールが多く採用されている. その先駆けになった霞が関三井ビル(1968)は,国内初めての超高層ビルにカーテン ウォールを採用したもので,高層化への新技術,工法,材料の基本となる建物となった. その後,ファサード 注1) としての表現力や技術力の向上がみられ,金属(アルミニウム) の表面処理技術の進化,さらにはセラミック,木など異種材料との複合など,金属製カー テンウォールの技術の応用により,豊かな表現をつくり出すことも可能になった.近年, 地球環境問題を背景に省エネ工法技術や耐震工法技術など意匠・構造・設備的にさらなる 進化・発展を続けている. 1.製品適用分野 ビル建築物の外壁・外装材 2.適用分野の背景 1960 年代,日本国内のカーテンウォールは金属系 と PC 系(プレキャストコンクリート)系の二つが主 流となり,最初の本格的な金属製カーテンウォール は,ホテルニューオータニ(1964)や霞が関三井ビル (1968)が挙げられる.霞が関三井ビルは国内ではじ めての超高層ビルにカーテンウォールが採用されたも ので,柔構造に相応しい工業化時代の外壁構法となっ た.その後,軽量で加工性に優れることから新宿副都 心の超高層ビル群,1980 年代に入り東京・関西圏で の超高層ビルのファサードと して定着した.40 年経った今, 多様化した外装デザインと同 時に環境配慮を背景にした超 寿命を可能にした性能(耐候 性・耐震性・水密性など)を 満足する形に進化を続けてい る. 3.製品の特徴と仕様 金属製カーテンウォールは いくつかの部材で構成されて おり,ガラスの部分をどのよ うに支持するか,ガラスや壁 材などにかかる風圧をどのよ うに躯体に伝えるかという構 造的役割の他,意匠上の特徴 などから構成方式が分類でき る. (図1) また,構成する材料は,目 的別に大きくは二つに分類でき,一つは周囲の景観・ 美観を左右する意匠的要素の強い表面材で,もう一つ は各種性能・機能を満足させるための機能材である. 表面に使用される金属材料はアルミニウム合金,ス チール,ステンレスなどがあるが,今はアルミニウム 合金が主流である. 金属製カーテンウォールに要求される重要な性能 は,耐風圧性能,水密性能,層間変位追従性能,気密 性能,遮音性能,断熱性能などである. アルミ部材(断面)の形状は,各メーカーで要求性 能をクリアーし規格化された商品(標準品)がある. また,大型物件などでは,物件毎に押出型をつくる特 注品がある. (図2) 特注品を用いた物件では,物件毎 注 1 建築物の立面の うち,外観上で主要な 部分となる面のことを いう. 図1 金属製カーテンウォールの分類と代表例 カーテンウォールには,カーテンウォール本体の材料・構造要素の他に,意匠上または採光などを考慮してガラ ス主体のもの,逆に壁主体のものなどがある. 金属系パネル型 金属系フレーム型

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    143セラミックス 43(2008)No. 2

    見学可能(図4)東京都 江東区トステムショールーム東京 B1Fhttp://www.tostem.co.jp/showroom/

    Key-words:金属製,カーテンウォール,アルミニウム

     

    金属製カーテンウォール(1960年代~現在)

     昨今,首都圏(丸の内,汐留,六本木など)での再開発により,超高層オフィス・ホテル・集合住宅などのビル建築物の外壁には,主に耐久性や意匠性の観点から金属製カーテンウォールが多く採用されている. その先駆けになった霞が関三井ビル(1968)は,国内初めての超高層ビルにカーテンウォールを採用したもので,高層化への新技術,工法,材料の基本となる建物となった.その後,ファサード注1)としての表現力や技術力の向上がみられ,金属(アルミニウム)の表面処理技術の進化,さらにはセラミック,木など異種材料との複合など,金属製カーテンウォールの技術の応用により,豊かな表現をつくり出すことも可能になった.近年,地球環境問題を背景に省エネ工法技術や耐震工法技術など意匠・構造・設備的にさらなる進化・発展を続けている.

    1.製品適用分野 ビル建築物の外壁・外装材

    2.適用分野の背景 1960 年代,日本国内のカーテンウォールは金属系

    と PC 系(プレキャストコンクリート)系の二つが主

    流となり,最初の本格的な金属製カーテンウォール

    は,ホテルニューオータニ(1964)や霞が関三井ビル

    (1968)が挙げられる.霞が関三井ビルは国内ではじ

    めての超高層ビルにカーテンウォールが採用されたも

    ので,柔構造に相応しい工業化時代の外壁構法となっ

    た.その後,軽量で加工性に優れることから新宿副都

    心の超高層ビル群,1980 年代に入り東京・関西圏で

    の超高層ビルのファサードと

    して定着した.40年経った今,

    多様化した外装デザインと同

    時に環境配慮を背景にした超

    寿命を可能にした性能(耐候

    性・耐震性・水密性など)を

    満足する形に進化を続けてい

    る.

    3.製品の特徴と仕様 金属製カーテンウォールは

    いくつかの部材で構成されて

    おり,ガラスの部分をどのよ

    うに支持するか,ガラスや壁

    材などにかかる風圧をどのよ

    うに躯体に伝えるかという構

    造的役割の他,意匠上の特徴

    などから構成方式が分類でき

    る.(図1)

     また,構成する材料は,目

    的別に大きくは二つに分類でき,一つは周囲の景観・

    美観を左右する意匠的要素の強い表面材で,もう一つ

    は各種性能・機能を満足させるための機能材である.

     表面に使用される金属材料はアルミニウム合金,ス

    チール,ステンレスなどがあるが,今はアルミニウム

    合金が主流である.

     金属製カーテンウォールに要求される重要な性能

    は,耐風圧性能,水密性能,層間変位追従性能,気密

    性能,遮音性能,断熱性能などである.

     アルミ部材(断面)の形状は,各メーカーで要求性

    能をクリアーし規格化された商品(標準品)がある.

    また,大型物件などでは,物件毎に押出型をつくる特

    注品がある.(図2)特注品を用いた物件では,物件毎

    注 1 建築物の立面のうち,外観上で主要な部分となる面のことをいう.

    図1 金属製カーテンウォールの分類と代表例カーテンウォールには,カーテンウォール本体の材料・構造要素の他に,意匠上または採光などを考慮してガラス主体のもの,逆に壁主体のものなどがある.

    金属系パネル型 金属系フレーム型

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    144 セラミックス 43(2008)No. 2

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    に実大実験を行い前述の性能を確認することがよくあ

    る.

    4.製法 ここでは,アルミニウム合金製カーテンウォールの

    製法について記述する.カーテンウォールの製造は設

    計図書,仕様書および製作要領書

    に基づいて進める.主な製造工程

    は下記の通りである.(ユニットタ

    イプの場合)

    ①押出し形材の製造

    ビレットを加熱した後,様々な形

    状のダイスを介して押出す.

    ②表面処理

    押出し工程で製造された形材は,

    長尺のまま表面処理を行う.(陽極

    酸化皮膜注2)の場合)

    ③形材加工

     工作図に従って形材を切断し,

    穴明け,切り欠き加工を行う.

    ④金具・部品取付け

    現場取付けのための金物部品や,

    水密性,気密性保持のためのガス

    ケット類などを取付ける.

    ⑤部材の組立

    工場でのユニット組み作業は,物

    件ごとに組立架台を設定して,そ

    の上で行われる.

    注 2 耐食性・耐磨耗性に優れた皮膜で,電解着色法は処理方法の一つ.色合いとしては,ゴールド,アンバー,ブロンズ,ブラックがある.

    図2 金属製カーテンウォールの構成部材と断面形状例規格化された標準タイプ(商品名:EX-Ⅱ)の構成部材(左図)昨今の超高層カーテンウォール用の代表的な断面形状例(商品名:GTウォールⅡ)(右図)

    押出し形材製造工程

    表面処理工程

    図3 金属製カーテンウォールの製造工程押出し形材製造工程:ビレットと呼ばれる円柱状のアルミニウムの塊を熱して,複雑な形状を形どったダイスに高圧の押付ける.ダイスを通って出てきたアルミニウムを引っ張り出す.

    アルミの表面処理:普及当初は陽極酸化皮膜注2)が主流であったが,1980年代からフッ素樹脂などの塗装が,色の多種性,汚染物質に対する耐候性などのメリットから特に大型物件では多く採用されるようになった.近年では,環境対応に注力した技術が開発され,陽極酸化皮膜注2)の高耐候化(商品名:テクスガード(TEXGUARD))も美しい金属面とアルミ素地のもつ自然な風合いを長く維持できる表面処理として,実用化されている.

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    145セラミックス 43(2008)No. 2

     5.施工 カーテンウォール工事は施工要領書に基づき,品質

    と日程を維持し,確実な工事を進める.

     施工方法については,設計段階で決定・製作された

    工法で下記の通り大きく二つに区分できる.

    ①ノックダウウン工法

     工場では組立ては行われず部材,ガラス,シールな

    どの構成材料のほとんどを現場で取付ける.

    ②ユニット工法

     部材,ガラス,耐火材などのカーテンウォール構成

    材料の大部分を工場で組込んだ大型ユニットを現場で

    取付ける.

     特に,超高層ビルなどの大型物件はユニット工法が

    採用されることが多く,ロボットによる取付けも行わ

    れている.

    6.将来の展望 建物の顔としての常に最先端を追求するファサード

    デザインにあって,金属製カーテンォールの担う役割

    は大きい.ファサードエンジニアとして,常に新しい

    技術開発にチャレンジしつつ,安全・安心を提供する

    とともに,新時代の都市景観の創造に寄与していきた

    い.

    文 献カーテンウォール工業会,“カーテンウォールってなんだろう”

    (1995)

    野平 修,建築技術,669, 99-192(2005)

    [連絡先] 樋口 豊     トステム(株)ビル技術部 技術開発グループ 〒 136─8535 江東区大島 2─1─1

    図4 長尺セラミックとアルミニウム合金の複合カーテンウォール長尺のセラミックタイルと金属製カーテーウォールを組合せた商品「イーシス」.金属では表現できない素材感を演出する.

    図5 省エネ型カーテンウォール「ダブルスキン」二重の窓に換気,日射調整の機能を組込んだ「ダブルスキン工法」により,熱・光をコントロールし,高い省エネを実現.