鋼部材の終局挙動解明と 鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価 ·...

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鋼部材の終局挙動解明と 鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価 山田 東京工業大学 教授

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鋼部材の終局挙動解明と

鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価

山田 哲

東京工業大学 教授

論文の構成

第1章 ランダムな繰り返し軸応力を受ける鋼材の履歴モデル構築と損傷評価

第2章 ランダムな繰り返し荷重のもとで鋼部材に蓄積する損傷と延性破壊によって破断する梁の塑性変形能力評価

第3章 局部座屈によって最大耐力が決まる柱の終局挙動と塑性変形能力評価

第4章 部材の終局挙動に基づく鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価

1.1)山田 哲, 今枝知子, 岡田 健:バウシンガー効果を考慮した構造用鋼材の簡潔な履歴モデル,日本建築学会構造系論文集第559号, pp.225-232, 2002年9月1.2)山田 哲, 吉敷祥一:バウシンガー効果を考慮したダンパー用鋼材の簡潔な履歴モデル,日本建築学会構造系論文集第581号, pp.109-116, 2004年7月

第1章 ランダムな繰り返し軸応力を受ける鋼材の履歴モデル構築と損傷評価 (1/2)

鋼部材の解析において部材内の局所的な損傷の累積を直接的に評価するため、鋼材の真応力度-真歪度関係を、骨格曲線・バウシンガー部・弾性序荷部から構

成される、簡潔な履歴モデルとして構築した。このモデルを構築したことで、部材解析において、骨格曲線に着目した損傷評価法による部材内局所の損傷評価が

可能となった。

-0.05 -0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05ε

-500

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

500

σ 

(MPa

)

実験結果

履歴モデル

t

t試験体 アクチュエーター

反力柱

平行移動装置 面外変形拘束治具

反力ブロック

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.20

20

40

60

80

100

定振幅載荷

オフセット載荷

定振幅→引張載荷

漸増振幅→引張載荷

ランダム→引張載荷

T/ 0

S+/ 0

1.3)山田 哲,焦 瑜,吉敷祥一,柴田篤宏:軸方向に任意の載荷履歴を受ける鋼材の塑性変形能力,日本建築学会構造系論文集 第75巻 第656号, pp.1909-1916, 2010年10月

第1章 ランダムな繰り返し軸応力を受ける鋼材の履歴モデル構築と損傷評価 (2/2)

ランダムな繰り返し軸応力を受ける鋼材が破断するまでの累積塑性歪が、履歴曲線から抽出した引張側骨格曲線での累積塑性歪との関係で評価できることを示した。 t

t

骨格曲線 バウシンガー部

S+ S-

B- B+= +

履歴曲線

引張側骨格曲線 分解

損傷限界(延性破断)

2.1)山田 哲, 鄭 景 洙, 吉敷祥一:繰り返し荷重を受ける鋼部材と鋼材の損傷の関係,日本建築学会構造系論文集第603号, pp.139-146, 2006年5月

第2章 ランダムな繰り返し荷重のもとで鋼部材に蓄積する損傷と延性破壊によって破断する梁の塑性変形能力評価(1/2)

1章で構築した鋼材の履歴モデルを、一定軸力下でランダムな繰り返し曲げを受ける鋼部材の解析に適用して解析を行い、部材の荷重-変形関係における骨格曲

線の進展と最大耐力を支配する箇所における骨格曲線の進展は鋼種や載荷履歴によらず一定の関係があることを明らかにし、最大耐力を支配する箇所における歪レベルでの損傷の進展に基づき鋼部材の塑性変形能力評価・終局挙動の追跡を行う本研究の根拠を示した。

-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03θ (rad)

-4000

-2000

0

2000

4000

M (k

N ・m

)

骨格曲線

-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02公称歪度

-600

-400

-200

0

200

400

600

公称応力度

(MP

a)破断に着目

-0.03-0.02-0.0100.010.02公称歪度

-600

-400

-200

0

200

400

600

公称応力度

(MP

a)

局部座屈に着目

PQθ

M

荷重-変形関係 応力度-歪度関係 応力度-歪度関係

2.2)山田 哲,焦 瑜,吉敷祥一:スカラップ底からの延性破壊によって決まる鉄骨梁の塑性変形能力評価法,日本建築学会構造系論文集,第80巻 第711号,pp.676-777,2015年5月2.3)Satoshi YAMADA, Yu JIAO, Hiroyukki NARIHARA, Satoshi YASUDA and Takashi HASEGAWA;Plastic Deformation Capacity of Steel Beam-to-Column Connection under Long-duration Earthquake,International Journal of High-Rise Buildings, Vol 3, No 3, 231-241, 2014.9

第2章 ランダムな繰り返し荷重のもとで鋼部材に蓄積する損傷と延性破壊によって破断する梁の塑性変形能力評価(2/2)

梁端ウェブ接合部におけるモーメント伝達効率の低下を考慮した面内解析に、1章で構築した鋼材の履歴モデルを適用することで、荷重-変形関係だけでなく接合部

近傍フランジの歪履歴も良好に追跡できること、危険断面フランジの累積塑性歪に着目することで、延性破断によって決まる梁の塑性変形能力評価できることを示した。

H/2・歪ゲージ

歪ゲージ

歪ゲージ16.25

16.25

16.25

16.25

16.25

16.25

16.25

16.25

16.25

65

65

2213.875

88

88

接合部近傍のモデル化 荷重-変形関係

危険断面フランジの歪履歴

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20

2

4

6

8

10T/ 0

s+/ 0

損傷限界(延性破断)

0 0 .1 0 .2 0 .3 0 .4 0 .5 0 .6 0 .7累積部材角 (rad)

-0 .02

-0 .01

0

0 .01

0 .02

0 .03

0 .04

0 .05

0 .06歪

実験結果

解析結果

-0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06θ (rad)

-600

-400

-200

0

200

400

600M (kN)

実験結果

解析結果

×

3.1)山田 哲, 秋山 宏, 桑村 仁:局部座屈を伴う箱形断面鋼部材の劣化域を含む終局挙動,日本建築学会構造系論文報告集第444号, pp.135-143, 1993年2月3.2)山田 哲, 秋山 宏, 桑村 仁:局部座屈を伴うH形断面鋼部材の劣化挙動,日本建築学会構造系論文報告集第454号, pp.179-186, 1993年12月3.3)山田 哲, 秋山 宏, 桑村 仁:局部座屈を伴う箱形断面鋼部材の変動軸力下における終局挙動,日本建築学会構造系論文集第461号, pp.115-122, 1994年7月

第3章 局部座屈によって最大耐力が決まる柱の終局挙動と塑性変形能力評価 (1/3)

圧縮を受ける短柱の局部座屈を伴う終局挙動をモデル化し、これを数値積分による面内解析法において局部座屈が発生する領域に適用し、一定軸力下において一方向せん断曲げを受ける鋼部材の、局部座屈発生により決まる最大耐力およ

びそれ以降の劣化域も含む荷重-変形関係の解析方法として提案した。

Sσ

σ

Tσ

ε ε=σ/E

tan- 1Etan- 1E

tan- 1E

y

y

y

y y u

d 1

d 2

μo ・εy

短柱圧縮試験結果に基づく劣化挙動のモデル化

0 5 10 15 20 25 300.00

0.25

0.50

0.75

1.00

1.25

1.50

B/t=25

B/t=33

B/t=42

数値解析

3.4)山田 哲,石田孝徳,島田侑子:局部座屈を伴う角形鋼管柱の劣化域における履歴モデル,日本建築学会構造系論文集 第77巻 第674号, pp.627-636,2012年4月

第3章 局部座屈によって最大耐力が決まる柱の終局挙動と塑性変形能力評価 (2/3)

さらに、既往の繰り返し載荷実験結果を整理分析し、数値解析で追跡可能な変形領域の拡張も行い、中低層鉄骨造建物の柱に多用される冷間ロール成形角形鋼管柱について、一定軸力のもとでの劣化域を含む繰り返し履歴挙動のモデル化を行った。

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8θ/θp

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5M/Mp

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8θ/θp

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5M/Mp

3.5)山田 哲,石田孝徳,島田侑子,松永達哉:一定軸力下で水平2方向外力を受ける角形鋼管柱の繰り返し載荷実験,日本建築学会構造系論文集 第78巻 第683号, pp.203-212, 2013年1月

第3章 局部座屈によって最大耐力が決まる柱の終局挙動と塑性変形能力評価 (3/3)

冷間ロール成形角形鋼管柱について、実際の地震荷重のような水平2方向の外力を受けた場合の終局挙動についても、水平2方向繰り返し載荷実験を行うとともに、水平2方向外力下での局部座屈に支配される劣化域を含む履歴挙動が、構面内挙動の履歴モデルをMSS(Multiple Shear Spring)*)に適用することで追跡できることを明らかにした。

*)和田 章,広瀬景一:2方向地震動を受ける無限均等ラーメン構造の弾塑性応答性状,日本建築学会構造系論文報告集第399号,pp.37-47,1989年5月

MSS

←実験結果

←解析結果

X軸周り y軸周り

4.1)山田 哲, 秋山 宏:局部座屈を伴う鋼部材の挙動に立脚した多層骨組の弾塑性応答解析,日本建築学会構造系論文集 第463号, pp.125-133, 1994年9月4.2)山田 哲, 秋山 宏:柱脚の固定度が鋼構造多層骨組の終局耐震性能に与える影響,日本建築学会構造系論文集 第496号, pp.113-118, 1997年6月

第4章 部材の終局挙動に基づく鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価 (1/3)

局部座屈発生に起因する鋼部材の劣化挙動を反映した平面骨組の応答解析を行い、部材の変形能力と骨組の終局耐震性能の関係を検討した。解析結果から、(1)柱崩壊型の骨組では劣化を開始した部位に損傷が集中し骨組の崩壊に結びつくこと(2)柱脚の固定度を低減することで骨組の終局耐震性能が向上すること

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0 1 2 3∞0.5

柱脚の固定度

耐震性能

部材の挙動

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 200.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

LB05LB25

LB40

FRAC

4.3)山田 哲, 秋山 宏, 貞許美和:スリップ型の復元力特性を有する柱脚の弾塑性挙動が鋼構造多層骨組の終局耐震性能に及ぼす影響,日本建築学会構造系論文集 第502号, pp.141-147, 1997年12月4.4)山田 哲, 松本由香:梁部材の終局挙動が鋼構造多層骨組の耐震性能に与える影響,日本建築学会構造系論文集 第535号, pp.133-140, 2000年9月

第4章 部材の終局挙動に基づく鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価 (2/3)

(3)アンカ-ボルト降伏型の露出型柱脚を先行降伏させることで、特に柱の変形能力が低い場合には終局耐震性能が大幅に向上すること(4)梁降伏型骨組において梁の局部座屈発生を抑える設計は有効であることなどを明らかにした。

0 5 10 15 20 250

100

200

300

400

500

600

骨組の吸収エネルギー

部材の損傷の程度

×

×

×

4.5)山田 哲,島田侑子:水平二方向入力を受ける層崩壊型鋼構造多層骨組の倒壊挙動と終局耐震性能,日本建築学会構造系論文集 第76巻 第662号, pp.837-834,2011年4月

第4章 部材の終局挙動に基づく鋼構造剛接骨組の終局耐震性能評価 (3/3)

局部座屈発生に起因する鋼部材の劣化挙動を反映した、水平二方向の自由度を有する質点系の水平二方向入力弾塑性応答解析を行い、層剛性が負に転じると変形は劣化し始めた方向に進展すること、1層崩壊型骨組が水平二方向入力を受

け倒壊に至るまでに倒壊する方向で吸収できるエネルギーは、一方向に変形させていった場合と同程度であることなどを明らかにした。

x

y

θ=π/Ns

Ns:Number of spring

EWNS Q col

δcol

Qpd

Q orth

δorth

↑ NS方向の挙動

オービット

EW方向の挙動 →

-400 -200 0 200 400

-400

-200

0

200

400

入力波の方向性(入力エネルギー)

×

謝辞

本研究は、東京大学工学部建築学科において、局部座屈をテーマに卒業研究を行ったことがバックグランドとなっています。東京大学名誉教授加藤 勉先生には、本研究を行う大きなきっかけを頂きました。また、東京大学名誉教授秋山 宏先生には、本研究で扱っている鋼部材の終局挙動や骨組の終局耐震性能に関する研究の基本だけで無く、研究への取り組み方など、幅広いご指導を頂きました。恩師である両先生からこれまで頂いてきた数々のご指導に、心より御礼申し上げます。

また、東京工業大学名誉教授和田 章先生には、研究を行う上でいろいろ便宜をはかって頂いただけで無く、機会ある毎に激励を頂きました。心より御礼申し上げます。

研究を進めるにあたっては、東京大学秋山研究室および東京工業大学山田研究室のOB・OG諸氏をはじめ、多くの方のご支援、ご協力を頂きました。皆さんと一

緒に研究できたことで、なんとか今日までやってこれました。どうも有り難うございました。