投資銀行での利用価値に関する考察

投資銀行におけるブロックチェーン

ブロックチェーンのような革新的技術が収益性向上に苦戦する投資銀行に光明をもたらす可能性多くの新技術と同様、ブロックチェーンは現在大きな注目を集めている技術だ。その潜在的破壊力をインターネットの普及になぞらえ、圧倒的な効率性の向上、数十億ドル規模のコスト削減、そして大幅なリスク低減をもたらすと主張するアナリストがいるが、誇張されている部分も多い。では、ブロックチェーンが提供する具体的な費用対効果、ビジネス用途は実際のところどうなのか?　この問いに対する答えを探るべく、アクセンチュアはエーオン（Aon）のビジネス・ユニットである世界有数のベンチマーク調査会社マクラガン社（McLagan）と共同で、ブロックチェーンがもたらす業務への影響やコスト削減やその他の価値について、データに基づく分析を実施した。

投資銀行におけるブロックチェーン 投資銀行での利用価値に関する考察

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「アクセンチュアはマクラガン社と共同で詳細な分析を行い、ブロックチェーンがもたらす影響や価値について明らかにした」

現在、ほとんどのビジネス・モデルは、データ照合作業（リコンサイル）により支えられている。それぞれが独自のデータ管理を行うこのようなモデルでは、なんらかの処理を行う際に各当事者が都度お互いのデータをやり取りする必要があるなど効率性の面では課題があった。一方で、ブロックチェーンはトランザクション処理にリコンサイルの要素を内包することで、現在よりはるかに効率的なプロセスを実現できる可能性がある。

活用機会ブロックチェーンの登場により、投資銀行は業務システム、リスク管理システム、会計システムを、ブロックチェーンベースの共有データプラットフォームに作り替え、業務プロセスおよびデータインフラの大部分を廃止するチャンスを迎えている。

この変革の実現には時間と労力を要するが、コスト効率性を抜本的に改善する可能性があるため、今後、各投資銀行が本腰を入れて取り組むと予測される。ブロックチェーンがもたらす価値については、既にいくつかの推計があるが、資本市場のトッププレイヤーはブロックチェーンがビジネスに与える影響についてさらに詳細な分析を行う必要がある。特に新技術の将来性を評価する責任を負う経営幹部は、ブロックチェーン導入を推進する事で競争優位性を確保し、株主価値向上につながるということを、レガシーシステムへの対応、制度・規制面の考慮、ステークホルダーとの調整を含めて進める必要がある為、詳細にその価値を理解することが非常に重要になる。

ブロックチェーンが注目される理由とは?

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ブロックチェーンは分散型台帳技術の総称であり、過去に類を見ない高信頼性を担保し、複数の当事者が同一データにほぼ同時にアクセスすることを可能とする、新たなタイプのデータベース

資本市場のトッププレイヤーは、ブロックチェーンがビジネスに与える影響について詳細な分析を行う必要がある。

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調査の概要ブロックチェーンが業務に及ぼすインパクトを完全に理解するため、アクセンチュアはマクラガン社と共同で調査を実施した。マクラガン社は資本市場を対象とする世界有数の調査会社として、毎年大手銀行の包括的な財務調査を実施している。調査に使用しているのは参加行の総勘定元帳から直接取り出した粒度の細かいコストデータだ。この調査では、アクセンチュアの「ハイパフォーマンス・インベストメント・バンク」モデルに、世界の8大投資銀行（収益ベース）からマクラガン社が集計したオペレーショナルコストのデータをマッピングした。その結果、ブロックチェーンが投資銀行のフロントからバックまで、どこにインパクトを与えるか推定した（図1参照）。

ストラテジー

コア・インベストメント・バンク

コーポレート・コア

デリバリー・クライアント・サービス

ｱｶｳﾝﾄ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

ｾﾙ / ｸﾛｽｾﾙﾌﾟﾛﾀﾞｸﾄ&ｻｰﾋﾞｽ ﾋﾞｼﾞﾈｽ･ｻｰﾋﾞｽ･ﾌﾟﾛｳﾞｨｼﾞｮﾆﾝｸﾞ

ｻｰﾋﾞｽ･ﾕｰｾｰｼﾞ･ﾄﾗｯｷﾝｸﾞ&ｺﾝﾄﾛｰﾙ

クロスプロダクト・プロセッシング

ﾃﾞｰﾀ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄｺﾝﾌｧﾒｰｼｮﾝ

ｸﾘｱﾘﾝｸ ･゙ｾﾄﾙﾒﾝﾄ

ｷｬｯｼｭ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ&ﾍﾟｲﾒﾝﾄ

ﾚﾍﾞﾆｭｰ･ｱｶｳﾝﾃｨﾝｸﾞ&ｺﾝﾄﾛｰﾙ

ｲﾝﾍﾞﾝﾄﾘ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

ｺﾗﾃﾗﾙ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ ﾄﾚｰﾄﾞ･ﾗｲﾌｻｲｸﾙ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

アセット・ライアビリティ・マネジメント

ファイナンス レギュレートリー ヒューマン・リソース

リスク・マネジメント

ｲﾝｳﾞｫﾙｳﾞﾒﾝﾄ ｵﾌﾞｾﾝﾄﾗﾙ ｶｳﾝﾀｰﾊﾟｰﾄ

ﾘｸｳｨﾃﾞｨﾃｨ･ﾘｽｸ

ｵﾍﾟﾚｰｼｮﾅﾙ･ﾘｽｸ

ｸﾚｼﾞｯﾄ･ﾘｽｸ

ﾏｰｹｯﾄ･ﾘｽｸ

テクノロジー

ｲﾝﾌﾗｽﾄﾗｸﾁｬｰ

ｱﾌﾟﾘｹｰｼｮﾝ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

ｱﾌﾟﾘｹｰｼｮﾝ･ﾃﾞｨﾍﾞﾛﾌﾟﾒﾝﾄ

IT･ｽﾄﾗﾃｼﾞｰ

リソース・マネジメント

ｻｰﾄﾞﾊﾟｰﾃｨ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

ﾌﾟﾛｷｭｱﾒﾝﾄ

HRｵﾍﾟﾚｰｼｮﾝ&ｻﾎﾟｰﾄ

HRｻｰﾋﾞｽ&ｱﾄﾞﾐﾆｽﾄﾚｰｼｮﾝ

ﾀﾚﾝﾄ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄ

ｵｰｶﾞﾆｾﾞｰｼｮﾝ･ﾏﾈｼﾞﾒﾝﾄﾘｰｶﾞﾙ&

ｺﾝﾌﾟﾗｲｱﾝｽ

ｵｰﾃﾞｨｯﾄ

ｺｽﾄｱｶｳﾝﾃｨﾝｸﾞ&ﾚﾎﾟｰﾃｨﾝｸﾞ

ｴｸｽﾀｰﾅﾙ ﾚﾎﾟｰﾃｨﾝｸﾞ

ﾌｧｲﾅﾝｽｺﾝﾄﾛｰﾙ

ﾋﾞｼﾞﾈｽ･ﾃﾞｨｼｼﾞｮﾝ･ｻﾎﾟｰﾄﾄﾚｼﾞｬﾘｰ

ﾊﾞﾗﾝｽｼｰﾄ

ｺﾝﾄﾛｰﾙ･ﾚﾎﾟｰﾃｨﾝｸﾞ

リサーチ トレーディング プライマリ・ファイナンス

ﾏｸﾛ･

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ｵﾍﾟﾚｰｼｮﾝ･ｽﾄﾗﾃｼﾞｰ

ﾋﾞｼﾞﾈｽ･ﾕﾆｯﾄ･ｽﾄﾗﾃｼﾞｰ

コスト削減効果 70%以上50-70%

25-50%

25%未満対象外

図 1

アクセンチュア・ハイパフォーマンス・インベストメント・バンクモデル© - ブロックチェーンのインパクト

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調査結果マクラガン社のデータから50種類以上のオペレーショナルコストをアクセンチュアの「ハイパフォーマンス・インベストメント・バンク」モデルにマッピングした結果、明確な示唆が得られた。次の4点は、我々の分析を通して得られた、主な削減効果である。

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70%財務報告コストの削減余地データ品質、透明性、内部統制の合理化、最適化により財務コストの70%を削減できる可能性がある。

50%オペレーションコストの削減余地リコンサイル、コンファメーション、不一致分析の必要性が軽減するため、取引事務、ミドルオフィス、決済、清算、および調査などの業務オペレーションコストを50%削減できる可能性がある。

30-50%コンプライアンス関連コストの削減余地金融取引の透明性、監査性改善により、フロントオフィス、バックオフィス両方でコンプライアンス関連コストを30-50%削減できる可能性がある。

50%中央集権型オペレーションによるコスト削減余地より堅牢な個人認証やクライアントデータの共有化を行うことによりKYC（Know Your Customer）や口座開設といった業務に関連するコストを50%削減できる可能性がある。

現段階では、これら推計は控えめである可能性がある。この推計ではビジネスオペレーションとセントラルオペレーションは1、図1の「アクセンチュア・ハイパフォーマンス・インベストメント・バンクモデル」に示したとおり、約50%-70%のコスト削減が可能であることを示唆している。しかし、我々の初期的なユース・ケース、実現性検証結果（PoC）、簡易テスト結果を加味すると、コスト削減効果はさらに増え合計70%を超える可能性を示唆している。その結果、年間のコスト削減額は約120億ドル（38%）に相当することになる。前述の80億ドルをベースとして、120億ドルとの平均を計算すると、年間100億ドルのコスト削減が可能になると推計される。

現 在 の 各 投 資 銀 行 の コ ス ト 構 造 を 見 ると、8行全体で300億ドルのコストのうち少なくとも80億ドル（約27%）の削減が可能となる。なお、この推計にはブロックチェーン導入に係る投資および費用は含まれていない。

2億8,000万ドル2016年に資本市場参加者がブロックチェーンに支出する金額- 当初予想の2倍

30%年間コスト削減額の予想平均値

当然、重大な問題や法規制上の障害によりブロックチェーンの普及が阻まれた場合、これらのコスト削減は実現しないことになる。しかし、特に今のように資本コストが増加し従来のやり方では利益拡大が難しい時代において、金融業界でコストの大幅な削減見通しからブロックチェーンへの投資が加速化していることは驚くに値しない。2015年9月、金融専門の独立系調査会社アイテ・グループは、2016年における資本市場参加者のブロックチェーンへの支出金額は約1億2,500万ドルになると予測した2。その9カ月後、独立系のベンチマーク調査会社グリニッチ・アソシエイツは、2016年における資本市場参加者によるブロックチェーンへの支出金額をアイテ社の予測の2倍以上である2億8,000万ドル3近くになると発表した。これは資本市場におけるブロックチェーンへの投資が単に加速化しているだけでなく、その加速スピードが合計額を正確に定量化できないほど急であることを示唆している。

前提条件分析を進めるうえで、以下のような保守的な前提を採用した。

• ネットワーク効果は成熟市場で2025年までのみ考慮

• ブロックチェーンの採用とレガシーインフラの撤去が法・規制面から許容される。2008年の信用危機を受け、規制当局は清算・決済インフラ（ACH, RTGS, CCP, CSD）を強化してきた。実際のところブロックチェーンのネットワークが安全で信頼性、耐障害性の高い手段だという絶対的な信頼性がない限り、規制当局は、この清算・決済インフラの役割を大幅に減らすことは躊躇すると思われる。

• 土地・建物に関連するコストへの影響は参入対象外。

• 固定費と変動費の差は考慮した。

8つの投資銀行における 80億ドル以上のコスト削減可能性

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2008年の世界的な金融危機以降、資本市場参加者は、主に規制順守に必要なコストの上昇、資本コストと流動性コストの上昇、収入の減少により、利益の大幅な低下に見舞われてきた。

「我々の推計では、投資銀行はIT予算の約3分の2をバックオフィスのレガシーインフラに、さらに毎年数10億ドルをコスト削減策に費やしている。」

つまり、持続的な利益改善につながらないプロセスをサポートするために、あまりにも多くの時間と労力、資本を投じているという事だ。この状況を打破すべく、投資銀行、中央銀行、取引所、清算機関は、これまでのコスト要因を捨て、収益性を高め、資本利益率を向上すべく、急ぎブロックチェーンの実験に取り組んでいる。但し、ブロックチェーンは投資銀行が抱えるあらゆる病を治してくれる万能薬ではない。多くの場合は、あえて手間とコストをかけてブロックチェーンに取り組まなくても、以前からあるデータベース構造やプロセスで同じような結果を達成できると考えられる。例えば、自動化や人員削減、アウトソーシング/オフショアリングがこれに該当する。

暗号化ハッシュ、分散型データベース、分散型コンセンサスなど、ブロックチェーンを構成する要素は新しいものではない。しかし、これらを組み合わせることで産まれる新しいデータ共有と資産移転の形態により、仲介人、清算機関、コストがかかるリコンサイルプロセスを省くことができる。

ブロックチェーンの本質とその意味

最終的には現在のバックオフィスの大部分を撤去し、主要な業務を業界共通インフラに委ねることができるようになる事で、コスト構造に多大な影響を与えるものと思われる。

年間数十億ドルを削減

決済期間の短縮

コストにダイナミックに影響

コンファメーション、リコンサイル、キャッシュマネジメント、その他、例外対応に向けたビジネスプロセスには年間数十億ドルが掛かっており、莫大なコスト削減効果を期待できる。

原資産となる商品の特性や取引相手方の求める要件にもよるが、マーケット・メーカーの業務を成立させつつDVP決済の期間を短縮、又は完全になくすことにより、決済を効率化することができる。

それでもなお、ブロックチェーンが、完全ではないかもしれないが、多くの既存の決済・清算プロセスを劇的に減らす力を持っていることは明らかだ。

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類似する事例がインターネットの普及である。変化を受け入れた人達はまったく新しい製品やビジネスモデルを作り、その見返りを享受した。もちろん、莫大なコストをかけて失敗に終わったビジネスモデルも多数あった。同様に、ブロックチェーンは業界プレイヤーに、データ共有プロセスを根本から見直すことを求めている。これは投資銀行に対し、現在のビジネスモデル、業務オペレーション、収益構造の再構築を促し、短期的にも長期的にも著しい影響を与える為、後戻りはできない。一方で、経営幹部は、ブロックチェーンの恩恵を享受できる立場を保ちながら多額の損失を避けるためリスクヘッジすることも検討する必要がある。その為には投資銀行は労働力の最適化、データセンター要件、ストレージ、ネットワーキング、セキュリティに対する戦略と取り組みを再考する必要がある。インターネットと同じく、ブロックチェーンがもたらす新たな収益と恩恵を手にするのに最も近い場所にいるのは早期導入者（アーリーアダプター）であろう。投資銀行は数々の革新的技術を導入してきた経験から、社内ラボを設立したり、業界団体に参加したり、スタートアップ企業への出資や合弁会社設立といった戦略を進めてきている。

多くの関心を集め、技術革新と投資が続けられているこの将来性豊かなチャンスを掴む準備はできているだろうか。

ブロックチェーンの普及に向けて

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ブロックチェーンが金融サービス、特に資本市場で大きな話題になっているのには相応の理由がある。私たちはブロックチェーンにより、現在のエコシステムプレイヤーが完全にいなくなったり、全て置き換わったりするとは考えていないが、そのインパクトは業界を一変させるものだと考えている。

「ブロックチェーンは業界プレイヤーに、データ共有プロセスを根本から見直すことを求めている。後戻りはできない。」

アクションを加速する為のステップブロックチェーン技術の活用に際しては、以下のような重要な問いについて考え、アクションプランの作成を始めるとよい。

ブロックチェーンのメリットを享受するには

ブロックチェーン技術の活用には莫大なメリット。

まずは、そのポテンシャルを最大限に引き出すため、投資銀行のエコシステムの大部分を分散型台帳技術に合わせる作業が必要だが、すでに業界トップの企業が現時点で何が可能かを実証している。

明確なビジョンを持ち、適切な対応を行うことで短期的な効果を得ながら、持続的な利益、コスト削減、長期的な競争優位を実現するため、より効率的で安全で、しかも費用対効果の高いオペレーティング・モデルを構築することが重要だ。

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戦略 整合性

知見 調査

ビジネスを次のレベルに発展させるための戦略は何か、その戦略を達成するうえでどの技術を組み合わせればよいか。どこに最大の価値を見出すか。?

自社の中長期投資計画は、技術、人材、マーケットの期待とどう整合性を取っていくのか。投資や構築の対象は、すでにある機能に限定するのか、それとも将来的なものも含めるか。

最新動向を知り、イノベーションを自社にとって最も有利になるよう働きかけるために、適切な業界、規制、業界横断のイノベーションの取り組みに参加できているか。

ブロックチェーンの分散型台帳技術環境をサポートするのに必要な人材と技術的リソースを調査したか。

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注：

1 オペレーションとは：

a) ビジネスオペレーション：トレード・サポート、ミドル・オフィス、クリアランス/セトルメント/インヴェスティゲーション、ドキュメンテーション/コンファメーション、オペレーショナル・コントロール、カスタマー・サービス/クライアント・リレーションシップ・マネジメント、OTCクリアリング

b) セントラルオペレーション：ファンド・トランスファー、コラテラル・マネジメント/マージン、コーポレート・アクション/インカムプロセッシング、スタティック・データ/データマネジメント・マネジメント、リコンサイル/インヴェスティゲーション、クライアント・バリュエーション/プライシング、ネットワーク・マネジメント、ノウ・ユア・クライアント/クライアント・オンボーディング、オペレーショナル・コントロール - シェアード・サービス、タックス・オペレーション

2 アイテ・グループ：詳細レポートを参照（英語）

3 グリニッチ・アソシエイツ：詳細レポートを参照（英語）

アクセンチュアについてアクセンチュアは「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供する世界最大級の総合コンサルティング企業です。世界最大の規模を誇るデリバリーネットワークに裏打ちされた、40を超す業界とあらゆる業務に対応可能な豊富な経験と専門スキルなどの強みを生かし、ビジネスとテクノロジーを融合させて、お客様のハイパフォーマンス実現と、持続可能な価値創出を支援しています。世界120カ国以上のお客様にサービスを提供する39万4,000人以上の社員が、イノベーションの創出と世界中の人々のより豊かな生活の実現に取り組んでいます。

アクセンチュアの詳細はwww.accenture.comを、アクセンチュア株式会社の詳細はwww.accenture.com/jp をご覧ください。

マクラガン社についてマクラガン社は金融サービス業界で報酬制度のコンサルティング、業務に関するベンチマーキング、ベストプラクティスの調査を提供しています。マクラガン社はソート・リーダー（思想的指導者）として50年間にわたって蓄積してきた戦略、業績、人材管理、報酬データを事実に基づくアドバイスと組み合わせることで、貴社に最適なテイラード・ソリューションを開発します。マクラガン社はエーオン（NYSE:AON）のビジネス・ユニットであるエーオン・ヒューイットの一部です。マクラガン社の詳細についてはmclagan.aon.comをご覧ください。

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