【設備投資動向と当面の先行き ~増加するキャッシュフロー …...- 77 -...

20
- 7 【設備投資動向と当面の先行き ~増加するキャッシュフロー下での堅実な設備投資~】 今回の景気回復局面では、好調な企業収益を背景とした旺盛な設備投資が行われて いる。 しかしながら、今回の景気回復局面における設備投資を対経常利益比率、対キャッシュ フロー比率などからみると、過去と比べ、慎重さも見受けられる。 そこで、本稿では、今回の景気回復局面における設備投資の状況について、特に キャッシュフローに着目しながら過去の投資行動との相違を考察するとともに、稼働率指数 を用いた設備投資の当面の先行きについても触れることとしたい。 (1)設備投資の概況 ~主なけん引役は、規模別では大企業、業種別では電気機械、輸送用機械、 情報通信業、サービス業~ 設備投資(全産業・全規模)を前年同期比でみると、直近17年10~12月期まで11 期連続でプラスとなっており、前回(12年1~3月期から13年7~9月期)の7期連続を 超えている(第Ⅱ-2-12図)。 第Ⅱ-2-12図 設備投資の推移(前年同期比、全産業・全規模) ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 40 (%) 昭和 55 56 57 58 59 60 61 62 63 平成 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 設備投資(全産業、全規模) 11期連続 11期連続 20期連続 13期連続 7期連続 (注)網掛け部分は、景気後退期を示す(以下の図も同様)。 資料:「法人企業統計調査」(財務省) 設備投資を産業別(製造業・非製造業)・規模別(大企業、中堅企業、中小企業)に 要因分解すると、今回の景気回復局面において、特に17年に入ってからは、製造業、 非製造業ともに大企業による寄与が大きい(第Ⅱ-2-13図)。

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【設備投資動向と当面の先行き

~増加するキャッシュフロー下での堅実な設備投資~】

今回の景気回復局面では、好調な企業収益を背景とした旺盛な設備投資が行われて

いる。

しかしながら、今回の景気回復局面における設備投資を対経常利益比率、対キャッシュ

フロー比率などからみると、過去と比べ、慎重さも見受けられる。

そこで、本稿では、今回の景気回復局面における設備投資の状況について、特に

キャッシュフローに着目しながら過去の投資行動との相違を考察するとともに、稼働率指数

を用いた設備投資の当面の先行きについても触れることとしたい。

(1)設備投資の概況

~主なけん引役は、規模別では大企業、業種別では電気機械、輸送用機械、

情報通信業、サービス業~

設備投資(全産業・全規模)を前年同期比でみると、直近17年10~12月期まで11

期連続でプラスとなっており、前回(12年1~3月期から13年7~9月期)の7期連続を

超えている(第Ⅱ-2-12図)。

第Ⅱ-2-12図 設備投資の推移(前年同期比、全産業・全規模)

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

40

(%)

昭和

55

56 57 58 59 60 61 62 63 平成

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

設備投資(全産業、全規模)

11期連続

11期連続20期連続

13期連続

7期連続

(注)網掛け部分は、景気後退期を示す(以下の図も同様)。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

設備投資を産業別(製造業・非製造業)・規模別(大企業、中堅企業、中小企業)に

要因分解すると、今回の景気回復局面において、特に17年に入ってからは、製造業、

非製造業ともに大企業による寄与が大きい(第Ⅱ-2-13図)。

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第Ⅱ-2-13図 設備投資の要因分解(前年同期比、後方4期移動平均)

(注)ここでは、資本金 10 億円以上を大企業、同 10 億円未満 1 億円以上を中堅企業、1 億円未満 1

千万円以上を中小企業とした(以下、同様)。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

設備投資を製造業、非製造業に分けて、業種別に要因分解すると、今回の景気回復

局面において、製造業では輸送用機械と電気機械、非製造業ではサービス業と情報通

信業が主なけん引役となっていると考えられる(第Ⅱ-2-14図)。

第Ⅱ-2-14図 設備投資の要因分解(前年同期比、後方4期移動平均、全規模)

①製造業

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

30(%)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

製造業(大) 製造業(中堅) 製造業(中小) 非製造業(大) 非製造業(中堅) 非製造業(中小) 合計

▲ 25

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20(%)

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

食料品製造業 繊維工業、衣服・その他の繊維製品製造業

木材・木製品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、印刷・同関連業 化学工業

石油製品・石炭製品製造業 窯業・土石製品製造業

鉄鋼業 金属製品製造業、非鉄金属製造業

一般機械器具製造業 電気機械器具製造業(含む、情報通信機械器具)

輸送用機械器具製造業 精密機械器具製造業

その他の製造業 製造業

電気機械

輸送用機械

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- 79 -

②非製造業

(注)1.①製造業の図における、電気機械器具製造業に含まれる情報通信機械器具製造業には、電子

部品・デバイス製造業が含まれている。

2.②非製造業の図におけるサービス業(その他)とは、非製造業のうち、掲載業種以外の業種を合

計したものとしている(以下、同様)。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

参考までに、「経済産業省設備投資調査」から、製造業における投資目的別構成比

の推移をみると、最も割合が大きいのは、全期間を通じ「生産能力増強」であるものの、

「更新・維持補修」や「環境保全」の割合が徐々にではあるが拡大しつつあることが特徴

として挙げられる(第Ⅱ-2-15図)。

第Ⅱ-2-15図 投資目的別構成比の推移(製造業)

35.6 36.8 37.4 34.9 32.5 29.7 31.6 33.4 35.842.2 41.9 41.2

46.640.2 38.9 40.3

44.7 44.1

12.5 12.6 11.311.5 13.7 16.2 15.9 15.4 14.2

12.7 15.1 14.813.8

16.6 17.419.3

19.5 19.812.3 10.8 10.510.3 9.9 9.1 8.9 9.4 10.7

9.89.7 9.7

9.19.4 11.2

10.48.0 9.0

16.9 16.3 15.7 16.6 17.6 17.0 17.317.5 16.0 13.9

15.1 14.312.6

13.4 13.012.4

11.2 11.7

19.0 19.8 22.0 23.2 21.7 23.3 22.1 19.5 18.5 15.4 12.0 12.8 14.2 16.1 14.8 12.6 10.6 9.8

0%

20%

40%

60%

80%

100%

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年度

その他

情報化

合理化・省力化

環境保全

省エネ・新エネ

研究開発

更新・維持補修

生産能力増強

3.7

1.3

資料:「経済産業省設備投資調査」

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

(%)

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

農林水産業 鉱業 建設業 電気業・ガス・熱供給・水道業

情報通信業 運輸業 卸売・小売業 不動産業

宿泊業 サービス業(その他) 非製造業

サービス(その他)※16年1~3月期までは、約7割を

「広告・その他の事業サービス業」

が占めている。

サービス(その他)※16年4~6月期以降は、約6割を

「リース業」が占めている。 情報通信

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(2)対経常利益・対キャッシュフローからみる設備投資

~設備投資の対経常利益、対キャッシュフロー比率は縮小傾向~

①対経常利益からみる設備投資

企業が設備投資を行うに際し、投資の判断材料の一つとして経常利益が考えられ

る。そこで設備投資と経常利益の推移をみると、今回の景気回復局面では、設備投

資は着実に伸びてきてはいるものの、経常利益と比べると、その推移は緩やかであり、

16年7~9月期以降、経常利益が設備投資を上回るなど、これまでとは異なった動き

である(第Ⅱ-2-16図)。

第Ⅱ-2-16図 設備投資と経常利益の推移(後方4期合計、全産業・全規模)

0

10

20

30

40

50

60

70

昭和

63

平成

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

(兆円)

経常利益

設備投資

設備投資と経常利益

が逆転。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

設備投資の対経常利益比率(全産業・全規模)の推移をみると、16年4~6月期ま

では水準こそ違うが、100%を超過(設備投資>経常利益)していたものの、同年7~

9月期以降、100%を下回っている。産業別・規模別にみると、直近17年10~12月

期において、100%を超過しているのは、非製造業の大企業と中堅企業だけであり、

これらも、11年以降、急速に縮小傾向にある(第Ⅱ-2-17図)。

第Ⅱ-2-17図 設備投資の対経常利益比率の推移

(後方4期移動平均、全産業・全規模)

①全産業・全規模

50

100

150

200

250

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

(%)

設備投資の対経常利益比率

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- 81 -

②産業別・規模別

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

(%)

製造業(大) 製造業(中堅) 製造業(中小) 非製造業(大) 非製造業(中堅) 非製造業(中小) (注)設備投資の対経常利益比率とは、設備投資を経常利益で除したものである。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

設備投資の対経常利益比率を要因分解すると、今回の景気回復局面において、

全産業・全規模の設備投資要因はプラスに寄与しているものの、経常利益要因(逆サ

イクル)が設備投資要因を上回るプラスのため、結果的に、設備投資の対経常利益

比率は縮小傾向になっている(第Ⅱ-2-18(①)図)。

ただし、産業別・規模別にみると、今回の景気回復局面では、前掲第Ⅱ-2-13

図で触れたとおり、製造業、非製造業の大企業(②③図)はともに設備投資を積極的

に行っているため、製造業では徐々に設備投資の対経常利益比率の縮小幅が狭ま

り、非製造業では、17年7~9月期から同比率はプラスに転じている。他方、製造業、

非製造業の中小企業(④⑤図)は同比率の縮小幅が狭まってはいるものの、経常利

益要因を上回るほどの設備投資要因はなく、非製造業の中小企業では17年4~6月

期以降、設備投資要因自身が設備投資の対経常利益比率の押し下げ要因となって

いる。

第Ⅱ-2-18図 設備投資の対経常利益比率の要因分解

(前年同期比、後方4期移動平均) ①全産業・全規模

▲ 40

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

40(%)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

経常利益要因(逆サイクル)

設備投資要因

設備投資の対経常利益比率

設備投資要因はプラスだが、

経常利益要因(逆サイクル)

が、それを上回っている。

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- 82 -

②製造業・大企業 ③非製造業・大企業

④製造業・中小企業 ⑤非製造業・中小企業

(注)設備投資の対経常利益比率の要因分解は以下のとおり。

IPR = I / P より

△IPR ≒ ΔI / P - ΔP×I/P2

〔設備投資要因〕 〔経常利益要因〕

IPR:設備投資の対経常利益比率 I:設備投資 P:経常利益

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

②対キャッシュフローからみる設備投資

次に、設備投資とキャッシュフローの推移をみると、6年7~9月期以前は、フリー

キャッシュフロー(「キャッシュフロー」-「設備投資」)がマイナスであったが、同年10

~12月期以降、フリーキャッシュフローはプラスに転じ、直近17年10~12月期では、

約 18 兆円(後方4半期合計)にまで増加した(第Ⅱ-2-19図)。

▲ 80

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80(%)

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

経常利益要因(逆サイクル)

設備投資要因

設備投資の対経常利益比率

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80(%)

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

経常利益要因(逆サイクル)

設備投資要因

設備投資の対経常利益比率

▲ 40

▲ 20

0

20

40(%)

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

経常利益要因(逆サイクル)

設備投資要因

設備投資の対経常利益比率

▲ 35▲ 30▲ 25▲ 20▲ 15▲ 10▲ 5

05

1015

(%)

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

経常利益要因(逆サイクル)

設備投資要因

設備投資の対経常利益比率

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- 83 -

第Ⅱ-2-19図 設備投資と減価償却費とキャッシュフローの推移

(後方4期合計、全産業・全規模)

①設備投資と減価償却費とキャッシュフローの推移

10

20

30

40

50

60

70

昭和

63

平成

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

(兆円)設備投資

減価償却費

キャッシュフロー

設備投資とキャッシュフローが逆転。

②フリーキャッシュフローの推移

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

昭和

63

平成

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

(兆円)

フリーキャッシュフロー(「キャッシュフロー」-「設備投資」)

(注)キャッシュフローの求め方は以下のとおり。

キャッシュフロー = 経常利益/2 + 減価償却費

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

設備投資の対キャッシュフロー比率の推移をみると、6年10~12月以降、100%を

下回っており、17年に入ってから下げ止まりの兆しが見られるものの、全体的にその

比率は縮小傾向である(第Ⅱ-2-20図)。キャッシュフローを上回る設備投資を行う

ケースを「積極的な投資姿勢」と考えるとするならば、今回の景気回復局面において、

これまでのところ、全体的に「慎重な投資姿勢」であるといえる。

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第Ⅱ-2-20図 設備投資の対キャッシュフロー比率の推移

(全産業・全規模、後方4期移動平均)

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

150

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

(%)全産業 製造業 非製造業

(注)設備投資の対キャッシュフロー比率とは、設備投資をキャッシュフローで除したものである。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

フリーキャッシュフローの推移を産業別・規模別にみると、今回の景気回復局面で

は、全産業・全規模で、キャッシュフローが設備投資を超過しており、特に、製造業

(大企業)、非製造業(大企業、中小企業)が大きい(第Ⅱ-2-21図)。

第Ⅱ-2-21図 産業別・規模別のフリーキャッシュフローの推移(後方4期合計)

▲ 8

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

(兆円)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

製造業(大) 製造業(中堅) 製造業(中小) 非製造業(大) 非製造業(中堅) 非製造業(中小)

非製造業

(中小)

製造業

(大)

非製造業

(大)

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

このように設備投資を対キャッシュフロー比率からみると、17年以降下げ止まりの兆し

がみられるものの、今回の景気回復局面を通してみると、全体として縮小傾向にある。し

かしながら、我が国の企業が、過剰設備という過去の苦い経験を教訓とし、キャッシュフ

ローをもっぱら設備投資に振り向けるのではなく、有利子負債の圧縮など他の用途にも

活用されていると考えられるため、次に、こうしたキャッシュフローや余剰資金の使途に

ついて考察したい。

全産業・全規模でフ

リーキャッシュフローが

増加。

17年以降、下げ止まり

の兆しがみられるが、

全体としては、これまで

のところ、縮小傾向で

推移。

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(3)キャッシュフロー・余剰資金の使途

~有利子負債圧縮や配当金などに充当~

キャッシュフローや余剰資金の使途を探るために、「設備投資行動等に関する意識調

査結果(16年11月調査)」(日本政策投資銀行)を参考にすると、有利子負債が適正水

準達成後の負債圧縮に代わる資金使途という制約付きであるが、全産業で、最も割合

が多かった資金使途は「国内設備投資の増加」(約 4 割)であったものの、その次に割

合が多かった資金使途が「一層の有利子負債圧縮」(約 3 割)であった(第Ⅱ-2-22

図)。

第Ⅱ-2-22図 有利子負債が適正水準達成後の負債圧縮に代わる資金使途

(16年11月調査)

37

32

41

8

15

3

3

3

3

11

13

10

8

5

9

27

26

27

6

5

6

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全産業

製造業

非製造業

国内設備投資の増加 海外投資の増加 国内M&A

配当増、自社株買い等の株主還元 金融資産の増加 一層の有利子負債圧縮

その他 資料:「設備投資行動等に関する意識調査結果」(日本政策投資銀行)

ここでは設備投資以外のキャッシュフローの使途として、有利子負債圧縮に加え、前

掲第Ⅱ-2-22図では、全産業で合わせて約 1 割を占める、配当金(11%)と M&A

(3%)について考察したい。

①有利子負債圧縮

設備投資とキャッシュフローの関係を前掲「設備投資行動等に関する意識調査結

果(16年11月調査)」からみると、16年11月時点においては、有利子負債圧縮をし

ている企業が全産業ベースで約 6 割、このうち、来期以降も有利子負債圧縮を継続

する企業の有利子負債圧縮減少の要因は、「財務体質の改善が第一の目標のため、

有利子負債圧縮を優先し、投資を絞り込んでいる」とした企業が約 7 割となっており、

両者を単純に掛け合わせると、全産業ベースの約 4 割が、16年11月当時、来期以

降も有利子負債圧縮を優先し投資を絞り込む、としている(第Ⅱ-2-23図)。

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第Ⅱ-2-23図 有利子負債圧縮のスタンスと減少要因(16年11月調査)

①有利子負債圧縮のスタンス

58

62

55

6

6

6

23

21

24

13

10

15

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全産業

製造業

非製造業

今期も実施しており、来期以降も継続。 今期中に概ね適正基準に達し、来期以降は継続する必要はない。

既に適正水準に達しており、圧縮を行っていない。 その他

②有利子負債減少の要因

67

62

71

33

38

29

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全産業

製造業

非製造業

財務体質の改善が第一の目標のため、有利子負債の圧縮を優先し、投資を絞り込んでいる。

現在、望ましい投資は実施しているが、会社全体の収益力が高いので、資金が余剰となり結果的に有利子負債の返済に回っている。

資料:「設備投資行動等に関する意識調査結果」(日本政策投資銀行)

翌年に行われた同調査「設備投資行動等に関する意識調査結果(17年11月調

査)」では、設問形式が若干異なるため単純に比較は出来ないが、有利子負債圧縮

と設備投資の関係をみると、「有利子負債圧縮を進める一方、投資も望ましい水準を

維持」すると回答した企業が全産業で 5 割を超過し、「今期、来期ともに投資額を抑

制してでも有利子負債圧縮を継続」の企業を加えると 7 割近い企業が今後も有利子

負債圧縮を進めると回答している。このことから、キャッシュフローが、これまで有利子

負債圧縮のために活用されており、依然、多くの企業で有利子負債圧縮が経営課題

の一つであると考えられる(第Ⅱ-2-24図)。

その一方で、「有利子負債は既に適正水準に達しており、負債圧縮は行っていな

い」と回答している企業の割合が前回調査よりも増加(23%→28%)しており、有利子

負債圧縮に目処が立った企業も増えている。

Page 11: 【設備投資動向と当面の先行き ~増加するキャッシュフロー …...- 77 - 【設備投資動向と当面の先行き ~増加するキャッシュフロー下での堅実な設備投資~】

- 87 -

第Ⅱ-2-24図 有利子負債圧縮と設備投資の関係(17年11月調査)

55

56

55

13

11

15

4

5

3

28

28

28

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全産業

製造業

非製造業

有利子負債圧縮を進める一方、投資も望ましい水準を維持。

今期、来期ともに投資額を抑制してでも有利子負債圧縮を継続。

有利子負債は今期中に概ね適正水準に達し、来年度以降は負債圧縮を継続する必要はない。

有利子負債は既に適正水準に達しており、負債圧縮は行っていない。

資料:「設備投資行動等に関する意識調査結果」(日本政策投資銀行)

有利子負債残高の減少を確認するために、有利子負債残高の対キャッシュフロー

比率の推移をみると、6年をピークに縮小傾向にあり、今回の景気回復局面では、バ

ブル崩壊以前の水準となっている(第Ⅱ-2-25図)。

第Ⅱ-2-25図 有利子負債残高の対キャッシュフロー比率の推移

(後方4期移動平均、全規模)

2

4

6

8

10

12

14

16

昭和

63

平成

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

(倍)

全産業

製造業

非製造業

(注)有利子負債残高の対キャッシュフロー比率の求め方は以下のとおり。

有利子負債残高の対キャッシュフロー比率 = 有利子負債残高 ÷ キャッシュフロー

有利子負債残高=長期借入金(期末)+短期借入金(期末)+社債(期末)

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

合計約 7 割が来期以降も有利子負債圧縮を継続。

前回調査よりも負債圧縮を行って

いない企業の割合は増加。

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- 88 -

有利子負債残高を産業別・規模別に要因分解すると、今回の景気回復局面では

有利子負債残高の減少に大きく寄与したのは非製造業(大企業、中小企業)と製造

業(大企業)であり、これらは前掲第Ⅱ-2-21図において、フリーキャッシュフローが

特に大きい産業・規模と同じであり、ここからもフリーキャッシュフローが有利子負債圧

縮に活用された可能性が推察される(第Ⅱ-2-26図)。

第Ⅱ-2-26図 有利子負債残高の要因分解(前年同期比、後方4期移動平均)

(注)今回の景気回復局面(14年1~3月期から直近の17年10~12月期)における有利子負債残高

(全業種・全規模)の前年同期比の平均値(▲2.9%)と産業別・規模別の寄与度平均は、以下のと

おり(網掛けは、寄与度上位3業種・規模を表す)。 (%)

全業種全規模

製造業大企業

製造業中堅企業

製造業中小企業

非製造業大企業

非製造業中堅企業

非製造業中小企業

▲ 2.9 ▲ 0.5 ▲ 0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.9 ▲ 0.3 ▲ 0.8

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

フリーキャッシュフローが有利子負債圧縮ために使われたとすれば、両者は逆相関

の関係となると思われる。今回の景気回復局面では、全業種・全規模で相関係数が

▲0.812 という比較的高い逆相関係数が得られ、ここからもフリーキャッシュフローが

有利子負債圧縮に活用されたことが示唆される(第Ⅱ-2-27図)。

▲ 10▲ 8▲ 6▲ 4▲ 2

02468

1012141618

(%)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

製造業(大) 製造業(中堅) 製造業(中小) 非製造業(大)

非製造業(中堅) 非製造業(中小) 合計

製造業(大)、非製

造業(大、中小)の寄

与が大きい。

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- 89 -

第Ⅱ-2-27図 フリーキャッシュフローと有利子負債残高の推移(全産業・全規模)

0

100

200

300

400

500

600

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

(兆円)

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25(兆円)

フリーキャッシュフロー(右目盛)

有利子負債残高

(注)1.フリーキャッシュフローは、後方4期合計値、有利子負債残高は後方4期移動平均とした。

2.今回の景気回復局面(14年1~3月期から直近の17年10~12月期)における有利子負債残高

とフリーキャッシュフローの相関関係は以下のとおり(網掛けは、相関係数が 0.7 以上のものを表

す)。

全業種全規模

製造業大企業

製造業中堅企業

製造業中小企業

非製造業大企業

非製造業中堅企業

非製造業中小企業

▲ 0.812 ▲ 0.719 ▲ 0.566 ▲ 0.395 ▲ 0.713 ▲ 0.727 ▲ 0.740

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

キャッシュフローが「設備投資」「借入金返済」「その他の資産増・負債減」という形

で充当されると仮定した場合、今回の景気回復局面では、設備投資と借入金返済の

合計額がキャッシュフローを上回っており、設備投資とバランスシートの調整の両者が

並行して行われていることがうかがわれる(第Ⅱ-2-28図)。

第Ⅱ-2-28図 キャッシュフローの充当状況(後方4期合計、全産業・全規模)

(注)1.ここでの「借入金」の定義は以下のとおり。

借入金=長期借入金(期末)+短期借入金(期末)+社債(期末)

なお、借入金はマイナスであり、プラスの場合は返済金を意味する。

2.「その他」は、キャッシュフローから設備投資と借入金を差し引いた残差である。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80

100

(兆円)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

設備投資 借入金(含む、社債) その他 キャッシュフロー

充当

調達

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- 90 -

改めて、企業のバランスシート調整が進んでいることを確認するために、企業の財

務安定性を測る指標の一つである自己資本比率(自己資本÷総資産)の推移をみる

と、全産業、製造業、非製造業のいずれも上昇(改善)しており、バブル崩壊以降、企

業が自己資本を引き上げる様子がうかがえる(第Ⅱ-2-29図)。

第Ⅱ-2-29図 自己資本比率の推移(後方4期移動平均、全規模)

10

15

20

25

30

35

40

45

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

(%)全産業 製造業 非製造業

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

今回の景気回復局面においても、企業が自己資本を引き上げる動きは進んでおり、

自己資本比率を要因分解すると、自己資本要因によるところは大きいものの、16年1

0~12月期から17年4~6月期を除けば、有利子負債要因も自己資本比率の上昇

に寄与している。前回の景気回復局面(11年1~3月期から12年10~12月期)の自

己資本比率の上昇要因がもっぱら自己資本要因のみだったことと比べると、今回の

景気回復局面における有利子負債削減が、自己資本比率の上昇、ひいては、バラン

スシート調整に一定の役割を果たしているものと考えられる(第Ⅱ-2-30図)。

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- 91 -

第Ⅱ-2-30図 自己資本比率の要因分解

(後方4期移動平均、前年同期比、全産業・全規模)

(注)自己資本比率の要因分解は以下のとおり。 Ke

Ta(=Ke+Lr+Lo)Rke =

より

ΔKe ΔKe・Ke ΔLr・Ke ΔLo・Ke(Ke+Lr+Lo) (Ke+Lr+Lo)2 (Ke+Lr+Lo)2 (Ke+Lr+Lo)2

〔有利子負債要因〕 〔その他負債要因〕

- - -

〔自己資本要因〕

ΔRke =

Rke:自己資本比率 Ta:総資産 Ke:自己資本注) Lr:有利子負債 Lo:その他の負債

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

注)自己資本は、資本金、資本剰余金(資本取引から生じた剰余金)、利益剰余金(損益取引から生じた

剰余金)、その他の資本、自己株式に分けられる。17年10~12月期(17年末)における自己資本の

割合は以下のとおり。約 5 割を利益剰余金が占めている。

自己資本の内訳(17年末、全産業・全規模)

21.9 52.0 6.5

▲ 2.1

19.7

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

17年末

(%)

自己株式 資本金 資本剰余金 利益剰余金 その他の資本

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

(%)

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

自己資本要因 有利子負債要因(逆サイクル) その他負債要因(逆サイクル) 自己資本比率

有利子負債要因も自己

資本比率上昇に寄与。

前回の景気回復局面では、

もっぱら自己資本要因によっ

て自己資本比率が上昇。

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- 92 -

②配当金とM&A

配当金についてみると、全体としては、14年以降、急速に増加しており、特に製造

業(大企業)、非製造業(大企業)が大半を占めている(第Ⅱ-2-31図)。

増加するキャッシュフローは、特に大企業における配当の増加という形でも活用さ

れていることが推察される。

第Ⅱ-2-31図 配当金額の推移

0

1

2

3

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

(兆円)

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10(兆円)

全産業・全規模(右目盛)

製造業・大企業

製造業・中堅企業

製造業・中小企業

非製造業・大企業

非製造業・中堅企業

非製造業・中小企業

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

キャッシュフローの使い道の一つとしてM&A(企業の買収・合併)も考えられる注1)。

5年を底に、我が国のM&Aの件数注2)や投資有価証券は増加している。配当を増加

させている背景には、安定株主化を図り、企業の買収対策としての側面も考えられる

(第Ⅱ-2-32図)。

注1)M&A はすべてがキャッシュ(現金)によって行われる訳ではないことに留意されたい。M&A の形態

としては、合併、買収、営業譲渡、資本参加などがあるが、例えば、17年において、100%子会社

化する際に現金が用いられたケースは、全 107 件中 29 件(件数ベースで約 27%)となっている。

ただし、前年の16年は、全 111 件中 45 件(同 41%)となっており、年によっても異なる。

注2) 公表金額と件数の推移をみると、17年は前年に比べ、件数は増加したものの金額がやや減少した

ため、1 件当たり平均約 70 億円(前年は同約 98 億円)となったが、直近18年1~3月期では、1

件当たり平均約 105 億円となっている。

公表金額と件数の推移

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

平成9

10 11 12 13 14 15 16 17年

18年(1-3)月

(10億円)

020040060080010001200140016001800

(件数)

金額

件数(右目盛)

資料:「マール」((株)レコフ)

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- 93 -

第Ⅱ-2-32図 M&A の件数と投資有価証券の推移

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

18年Ⅰ期

(件)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

(兆円)

M&A(件数)

投資有価証券(右目盛)

(注)1.M&A の件数には、グループ内 M&A は含まれていない。

2.投資有価証券とは、関係会社株式(売買目的有価証券に該当する株式及び親会社株式を除

く。)その他流動資産に属さない有価証券を指す。

資料:「マール」((株)レコフ)

M&Aの目的をみると、14年以降どの年も約7割が既存強化を挙げており、多角

化よりも、企業の本業回帰により競争力の強化を図る志向がうかがえる(第Ⅱ-2-3

3図)。

第Ⅱ-2-33図 M&Aの目的別分類

76.368.3 68.7 68.7

73.6

6.9 5.8 8.49.0

6.4

9.7 14.614.7

12.2

5.41.5

1.71.83.2

5.3

3.34.24.5

2.3 2.3

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

14年 15年 16年 17年 18年1~3月

その他・不明

新規参入・多角化

バイアウト・投資

関係強化

周辺拡充

既存強化

(注)バイアウトとは企業買収や経営権の取得などを意味する。

資料:「マール」((株)レコフ)

このようにキャッシュフローや余剰資金は、有利子負債圧縮を通じた財務体質の強

化やM&Aによる企業の競争力の強化などに活用されていると考えられる。

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- 94 -

(4)稼働率指数からみる当面の見通し

最後に、「鉱工業指数」の稼働率指数から設備投資の当面の見通しについて、考察

してみたい。

一般に、稼働率が高まれば、設備投資を誘発するものと考えられるので、製造工業の

稼働率指数と設備投資の推移をみると、稼働率指数が設備投資に先行する形で両者

に相関があることが推察される(第Ⅱ-2-34図)。

第Ⅱ-2-34図 稼働率指数(製造工業)と設備投資(製造業・全規模)の推移

(季節調整済)

1

2

3

4

5

6

7

昭和63

平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17年

18年

(兆)

80

90

100

110

120

130

140(12年=100)

設備投資(製造業、全規模)

稼働率指数(製造工業)(右目盛)

(注)設備投資は、X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に調整している。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)、「鉱工業指数」

そこで、全期間(63年以降)と全期間を 3 区分した期間(第①期(昭和63年~平成

5年)、第②期(6年~11年)、第③期(12年~17年))で両者の相関をとると、各期間

で最も相関が高いラグとその相関係数は、全期間では、稼働率指数の先行性が 4 期

の 0.918、第①期では、同 5 期の 0.887、第②期では、同 2 期の 0.887、第③期では、

同 3 期の 0.922、という結果となった(第Ⅱ-2-4表)。

直近の第③期について、稼働率指数の先行性が 3 期の場合の回帰分析を行うと、

統計量的にほぼ有意な結果が得られたことから、現在でも稼働率が上昇(低下)すれ

ば製造業の設備投資も上昇(低下)する可能性が高いことが示唆される。

また、各期を個別にみると第①期は、一致の相関係数が 0.284 と比較的低く、バブ

ル期が含まれるこの時期は、稼働率が他の期に比べ重視されずに設備投資が行わ

れたとも考えられる。第②期については、一致の相関係数が 0.674 と他の期に比べ

高く、2 期先行が最も高い相関係数が得られていることから、この時期は、稼働率を比

較的重視しながら柔軟に設備投資が行われていたと考えられる。他方、直近の第③

第①期 第②期 第③期

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- 95 -

期については、最も高い相関のラグが稼働率指数の先行性が 3 期ということで、第②

期に比べると 1 期分早く、かつ、その相関係数が各期間で最も高いものが得られたこ

とから、稼働率を他の期間に比べ重視しており、設備投資姿勢が慎重、言い換えれ

ば堅実と考えられる。

第Ⅱ-2-4表 稼働率指数(製造工業)と設備投資(製造業・全規模)の相関関係

全期間(昭和63~平成17年)

第①期(昭和63~平成5年)

第②期(6~11年)

第③期(12~17年)

5期先行 0.906 0.887 0.485 0.750

4期先行 0.918 0.840 0.594 0.873

3期先行 0.897 0.744 0.816 0.922

2期先行 0.843 0.617 0.887 0.864

1期先行 0.751 0.453 0.827 0.742

一致 0.627 0.284 0.674 0.550 (注)1.設備投資は、X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に調整している。

2.第③期(12年~17年)における「3 期先行」の回帰の結果は以下のとおり。

I = 90913.87 Ro(-3) ‐ 5240780

(10.409) (-6.162)

R2 = 0.851 D.W.=1.064 ( )内は t 値。

I:設備投資(単位:百万円) Ro:稼働率指数 R2:決定係数 D.W.:ダービン・ワトソン値

資料:「法人企業統計調査」(財務省)、「鉱工業指数」

注)参考までに第3次産業の能力・稼働率指数(試算値)を用い、第3次産業の設備投資との相関をみる

と、最も高い相関が得られたのは稼働率指数(試算値)の先行性が 2 期の 0.867 であった。この期間

を回帰分析すると、統計量的にも有意な結果が得られた。

第3次産業の稼働率指数(試算値)と設備投資(全規模)の推移と相関係数(季節調整済)

①推移

5

6

7

8

9

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

(兆円)

97

98

99

100

101

102

103

104(12年=100)

設備投資

稼働率指数(試算値)(右目盛)

②相関係数

12年~17年

3期先行 0.776

2期先行 0.867

1期先行 0.860一致 0.780

(注)1.設備投資は、X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に調整している。

2.第3次産業の稼働率指数(試算値)と定義を合わせるため、設備投資は、非製造業計より農林水

産業、鉱業、建設業を除いたものとしている。

3.「2 期先行」の回帰の結果は以下のとおり。

I = 452082.795 Ro(-2) ‐ 38388265.29

(7.767) (-6.570)

R2 = 0.751 D.W.=1.622 ( )内は t 値。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

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- 96 -

前掲第Ⅱ-2-4表の回帰式を用い、稼働率指数から製造業の設備投資を試算する

と、本試算結果からは、当面、設備投資は堅調に推移することが期待される注)(第Ⅱ-2

-35図)。

第Ⅱ-2-35図 製造業の設備投資の実績値と推計値の推移(季節調整済)

0

1

2

3

4

5

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ17

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ18

Ⅲ年

Ⅳ┘

(兆円)

設備投資(実績)

設備投資(推計値)

(注)設備投資(実績)は、X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に調整している。

資料:「法人企業統計調査」(財務省)

キャッシュフローを上回る設備投資を行うケースを「積極的な投資姿勢」ととらえるとする

ならば、今回の景気回復局面ではこれまでのところ「慎重な投資姿勢」といえるが、これは

キャッシュフローが有利子負債圧縮など、設備投資のような実物投資以外の用途にも充て

られてきたためと考えられる。こうしたフリーキャッシュフローが有利子負債圧縮やM&Aな

どに活用されることは、財務体質の強化や企業の競争力強化につながることから、我が国

企業が、過剰設備という過去の苦い経験を教訓とし、一層、発展・成長するために余剰資

金が設備投資以外にも有効に活用されているとも考えられる。

稼働率指数からも当面の設備投資は底堅さが感じられ、さらに、前述に確認したとおり、

これまで企業は財務体質の改善を図りながら堅実な設備投資を行ってきたと考えられるた

め、急激に低下する可能性は低く、息の長い設備投資が続くことが期待される。

注)「全国企業短期経済観測調査(短観)」から今年度(18年度)の設備投資額をみると、18年3月調

査時点では、前年度比▲1.3%であるものの、15~17年度の過去3年間の経緯から、プラス修正さ

れる可能性は高く、今年度の設備投資は、堅調に推移するものと考えられる。

設備投資額の年度計画(全産業・全規模)

(注)設備投資額は土地投資額を含み、ソフトウエア投資額を除いたものである。

資料:「全国企業短期経済観測調査」(日本銀行)

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

3月調査 6月調査 9月調査 12月調査 実績見込(3月)

実績(6月)

(%)12年度

13年度

14年度

15年度(旧ベース)

15年度(新ベース)

16年度

17年度

18年度

17年度

16年度

18年度 15年度