冷間鍛造の新しい潤滑と動向 -...

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35 Vol.54 2013No.7 SOKEIZAI 半世紀以上にもわたって冷間鍛造の潤滑を支えてきたボンデ潤滑に代わ り、環境保全対策や省力化、海外生産拠点への対応力強化などを目指し た新しい潤滑システムの開発が盛んである。今世紀初頭から市場での採 用が広がっている一液潤滑剤とその動向、課題などについて紹介する。 冷間鍛造の新しい潤滑と動向 1.はじめに 小 見 山 忍 日本パーカライジング ㈱ 自動車産業で用いられるさまざまな機能部品類は 鋳造や熱間鍛造で形作り、冷間鍛造に続く切削によ り複雑な最終形状に仕上げられている。しかし近年 では、FEM シミュレーションを駆使した金型設計 技術や加工法、被加工材やプレス機械周辺技術など の飛躍的な進歩により、冷間精密鍛造による切削加 工レスでの複雑形状部品の製造が可能となりつつあ 1) 、大幅な省力化が進んでいる。 これらの冷間鍛造を可能にしているキーテクノロ ジーのひとつが潤滑である。鍛造時の金型と被加工 材との相対滑り面の摩擦は金型内での被加工材の塑 性流動に大きく影響するため、所望の加工形状を作 り出していくためには安定な低摩擦状態を保持し続 けることが求められる。しかし、塑性加工時の被加 工材表面は、素材の変形抵抗を大きく超える接触圧 力下で金型表面との摺動を伴いながら刻々と引き延 ばされていく特殊な環境であり、そこでの安定的な 潤滑保持は容易なものではない。 冷間鍛造潤滑の代名詞といわれ、この分野を古く から担ってきたリン酸塩/石けん潤滑処理被膜(通 称ボンデ潤滑)は、被加工材表面との化学反応によ り形成される化成処理被膜に類し、その強固な密着 性と安定した潤滑特性により冷間鍛造の発展に大き く貢献してきた。一方で、その被膜処理工程に使用 されるエネルギーや排出される廃水や廃棄物類が環 境保全面で問題にされつつあり、今世紀始め頃から は環境対策としての塗布型一液潤滑剤の開発が盛ん になっている。 本稿では、冷間鍛造の潤滑環境と従来技術、近年、 環境保全と省力化を目的に実用化が進みつつある一 液潤滑剤とその動向、今後の課題などについて紹介 する。  2.1 潤滑環境 図1 にギア部品鍛造を例にとって被加工材表面の 変化を示すシミュレーションイメージを示す 2) 。加 工前の円柱状被加工材側面に位置する潤滑被膜の一 部分の面積を S 0 とする。加工初期の上下端面が拘束 された据込み過程では側方が張出す樽状形状へと変 形が進むが、この時点ではギア歯をつくる側方金型 と被加工材は接触せずに、部分面積 S 0 は軸方向に圧 縮され円周方向に引っ張られた S 1 となる。この時の 表面積拡大は小さいが、自由表面に張出した材料側 部は表面荒れを起すため、その上層に形成された潤 滑被膜の構造は崩壊して脱落するなどのダメージを 2.冷間鍛造の潤滑

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    半世紀以上にもわたって冷間鍛造の潤滑を支えてきたボンデ潤滑に代わり、環境保全対策や省力化、海外生産拠点への対応力強化などを目指した新しい潤滑システムの開発が盛んである。今世紀初頭から市場での採用が広がっている一液潤滑剤とその動向、課題などについて紹介する。

    冷間鍛造の新しい潤滑と動向

    1.はじめに

     小 見 山 忍 日本パーカライジング㈱

     自動車産業で用いられるさまざまな機能部品類は鋳造や熱間鍛造で形作り、冷間鍛造に続く切削により複雑な最終形状に仕上げられている。しかし近年では、FEMシミュレーションを駆使した金型設計技術や加工法、被加工材やプレス機械周辺技術などの飛躍的な進歩により、冷間精密鍛造による切削加工レスでの複雑形状部品の製造が可能となりつつあり1)、大幅な省力化が進んでいる。 これらの冷間鍛造を可能にしているキーテクノロジーのひとつが潤滑である。鍛造時の金型と被加工材との相対滑り面の摩擦は金型内での被加工材の塑性流動に大きく影響するため、所望の加工形状を作り出していくためには安定な低摩擦状態を保持し続けることが求められる。しかし、塑性加工時の被加工材表面は、素材の変形抵抗を大きく超える接触圧力下で金型表面との摺動を伴いながら刻々と引き延

    ばされていく特殊な環境であり、そこでの安定的な潤滑保持は容易なものではない。 冷間鍛造潤滑の代名詞といわれ、この分野を古くから担ってきたリン酸塩/石けん潤滑処理被膜(通称ボンデ潤滑)は、被加工材表面との化学反応により形成される化成処理被膜に類し、その強固な密着性と安定した潤滑特性により冷間鍛造の発展に大きく貢献してきた。一方で、その被膜処理工程に使用されるエネルギーや排出される廃水や廃棄物類が環境保全面で問題にされつつあり、今世紀始め頃からは環境対策としての塗布型一液潤滑剤の開発が盛んになっている。 本稿では、冷間鍛造の潤滑環境と従来技術、近年、環境保全と省力化を目的に実用化が進みつつある一液潤滑剤とその動向、今後の課題などについて紹介する。 

    2.1 潤滑環境 図1にギア部品鍛造を例にとって被加工材表面の変化を示すシミュレーションイメージを示す 2)。加工前の円柱状被加工材側面に位置する潤滑被膜の一部分の面積を S0 とする。加工初期の上下端面が拘束された据込み過程では側方が張出す樽状形状へと変

    形が進むが、この時点ではギア歯をつくる側方金型と被加工材は接触せずに、部分面積 S0 は軸方向に圧縮され円周方向に引っ張られた S1 となる。この時の表面積拡大は小さいが、自由表面に張出した材料側部は表面荒れを起すため、その上層に形成された潤滑被膜の構造は崩壊して脱落するなどのダメージを

    2.冷間鍛造の潤滑

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    起しやすい 3)。引き続いてギア歯成形過程に入り材料が歯型に沿って充填されていくが、その時の被加工材表面は面積 S2 の如く大きく引き延ばされながら高接触圧力環境で金型表面を摺動する。被加工材表面とともに潤滑皮膜は薄く引き延ばされ、数百℃にもなる摩擦面温度でのダメージも加わる。このような環境でも摩擦の低減と焼付きの抑制に十分な機能を果たせないと、金型内への材料の充填が上手くいかずに鍛造品の寸法精度が得られなかったり、加工荷重の増大や焼付きにより金型寿命を低下させてしまうなどの致命的な不具合を生じる。冷間鍛造における潤滑がさらされる環境は複雑且つ特異的である。

    2.2 従来の潤滑と問題点 冷間鍛造で潤滑が必要とされる金型と被加工材との相対滑り面の接触圧力や表面拡大量が大きくなると、被加工材表面の平滑化が進み十分な油膜厚みを保持できなくなるために鍛造油などの流体潤滑膜での対応は難しくなる。そのため通常は固体状の潤滑被膜で被加工材表面を被服保護する方法がとられる。ここで古くからもっとも広範囲に用いられているのが通称ボンデ潤滑とも呼ばれるリン酸塩被膜と石けん系潤滑剤を組み合わせた潤滑方法である。 これらは鉄鋼材料を酸性処理液で溶解しながら、その表面に緻密なリン酸塩結晶を晶出する化成処理と、その結晶性被膜表面に石けん潤滑剤もしくは固体潤滑剤などを付与する潤滑処理との組合せにより得られる。鉄鋼材料表面に強固に付着するリン酸塩結晶は結晶格子間の結合力が弱いへき開面を有し 4)、摩擦面では結晶にかかるせん断力により容易にへき開面での破壊を起すことで摩擦抵抗を低減するとともに、へき開した結晶がカードを敷き詰めるような

    図 1 鍛造工程における複雑な表面拡大の例

    イメージで展延していくことで被加工材表面の拡大に追従し鋼表面の露出を防いでいるものと考えられている。図 2に被加工材表面のリン酸亜鉛被膜について、鍛造前後で結晶面の配向状態を比較した結果を示す。 X 線回折チャート上でのリン酸亜鉛(Zn3(PO4)2・4H2O)のへき開面ピーク(020)とそれ以外の特徴ピーク(311)との強度比(020)/(311)が鍛造後に顕著に増大しており、鍛造時のリン酸亜鉛結晶のへき開と展延によりへき開面(020)の面配向が強まったものと解釈できる。 リン酸塩結晶の上層に付与する潤滑層はさらに摩擦を低減する役割を有し、用途により様々な潤滑剤が用いられる。リン酸塩被膜との反応を伴うアルカリ石けん系潤滑処理はもっともポピュラーであるが、その他にも金属石けん水分散液での簡易潤滑処理や、強加工用途向けの二硫化モリブデン系潤滑処理などがある。これらの潤滑被膜層は、リン酸塩結晶の粗さに保持されるように付着し、鍛造時の摩擦面にも効率良く導入される。 リン酸塩被膜を、アルカリ石けん系潤滑処理液に浸漬すると、  Zn3(PO4)2+6C17H35COONa →

    3Zn(C17H35COO)2+ 2Na3PO4  で示されるアルカリ石けんとの複分解反応により潤滑性能に優れる亜鉛石けん層を表面に生成する。通常、その上層には未反応で付着するアルカリ石けん層が形成され、リン酸塩 +石けん潤滑被膜の断面イメージは図 3に示すような 3層構造となる。 一方でリン酸塩処理への問題点の指摘も多い。たとえば、リン酸塩と石けん潤滑を組み合わせた被膜に代表される化成処理の工程は複雑である。図 4に被膜処理工程の一例を示す。被加工材表面の清浄化

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    特集 省エネ・省資源・環境対応を目指した鍛造技術

    図2 鍛造前後でのリン酸亜鉛被膜の結晶面配向の変化

    図 3 リン酸亜鉛結晶外観とボンデ潤滑のイメージ

    とスケール除去、リン酸塩被膜形成と中和工程を経ての石けん処理など、工程間には多量の廃水を伴う水洗工程も存在する。それぞれの工程管理は最終的な被膜性能に影響を及ぼすためトラブルにもなりやすい。鉄鋼材料を溶解して晶出するリン酸塩処理では、処理液中に絶えず溶入してくる鉄分をリン酸鉄結晶などの副生成物として系外に排除している。重金属含有廃水や廃石けんなどの排出量も多く、これ

    らは多量の産業廃棄物となる。また、塑性加工用リン酸塩の処理液温度は比較的高いため、熱源や工業用水などにかかるコストも大きい。具体的なコストには現れてこないが、複雑な処理工程の処理液管理、処理槽中の熱交換器表面などに多量に固着する化成スラッジの定期除去など、実際には多くの人手も掛かっている。

    図 4 リン酸塩系潤滑被膜の処理工程例

    2000 年前後から市場にも投入されてきた。図 6に一液潤滑被膜処理のライン構成例を示す。一液潤滑被膜の処理プロセスからは廃水や産業廃棄物などは発生せず、被膜処理に要するスペースやエネルギーコストも小さい。被膜処理部を鍛造機に直結するインラインプロセスも可能であり、ものづくり現場のレイ

    3.環境保全と工程短縮を目指した新しい潤滑

     前述した背景からボンデ潤滑を代替できる新たな潤滑剤を求める声が高まり、近年、多くの新たな潤滑関連技術が開発されている(図 5)。特に注目されているのは一液潤滑剤である。これらはボンデ潤滑のような化成処理とは全く異なる簡便な塗布型処理法により被膜形成される新しいタイプの潤滑技術で、

    鍛造後

    鍛造前

    2Theta deg

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    アウトを大幅に改善できる可能性をもつ。また、これらの潤滑性能は被膜処理工程には殆ど依存せず、被加工材種が変わっても一定の性能が保証されるため、煩雑なライン管理も不要となるなど、今後の冷間鍛造潤滑のトレンドとして期待が大きい。 写真 1にプレス機に併設された一液潤滑剤処理装置の実用例を示す。コンパクトな処理設備内で湯洗、処理液塗布、乾燥までをこなしており、各プレス機に併設されている。この工場では、外注ボンデ処理から一液潤滑剤での内製化への全面移行により工程間在庫は消え、リードタイムが劇的に短縮された。被膜処理コストの大幅削減に加えて最適被膜厚みの設定によって欠肉などの寸法不良も抑えられるなど製品クオリティーの向上にも繋がっている。 現在、市場に出ている一液潤滑剤の多くは、被膜ベースの無機塩や樹脂、ワックスや石けんなどの潤滑成分、二硫化モリブデンや黒鉛などの固体潤滑剤、極圧添

    加剤などにより構成され、それらの組み合わせ方によりさまざまな特徴をだしている5)~ 8)。これらの一例について被膜形成過程を図 7に示す7)。この被膜剤は素材との密着性が良く耐熱性に優れた無機塩をベースに、摩擦係数の低減効果が高い潤滑成分が配合された水性塗料状の液体である。塗布された素材表面で水分が揮発していくことによりそれぞれの成分が分離し、無機塩からなる被膜を潤滑成分が覆う二層構造被膜を形成するユニークなものである。一液潤滑剤は、塗布型被膜であっても被膜中での各成分の分布状態を任意にコントロールすることも可能で、薄膜での高機能化を実現している。また、一液潤滑剤の被膜厚みは処理液濃度で容易にコントロールできるため、必要に応じた被膜厚みでの加工が可能となり精密鍛造などの要求に対応し易いことも特徴の一つである。 一般に一液潤滑剤における被膜ベース成分の役割は、ボンデ潤滑におけるリン酸塩被膜と同様に焼付きを防ぐことと石けんなどの潤滑成分を摩擦面に導入・

    図 5 冷間塑性加工用潤滑関連の国内特許出願状況※圧延油関係を除く

    図 6 一液潤滑被膜処理ライン構成例

    写真 1 一液潤滑剤塗布装置の実用例(協和工業株式会社)

    図 7 一液潤滑被膜の形成モデル例 7)

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    保持することである。写真 2に表面拡大が大きいしごき加工試験 9)を行った鋼表面の比較を示す。鍛造油のみで加工したしごき面では激しい焼付き状況が見られるが、リン酸塩結晶被膜および一液潤滑剤の被膜ベースでは大幅に焼付きが抑制されている。ここでは両者ともに油や石けんなどの潤滑成分を付与せずに加工しているが、実際の使用に際してはこれらの有機潤滑成分を共存するため、さらに摩擦を大幅に低減できる。 一液潤滑剤は、自動車部品関連を中心に冷間鍛造分野における適用範囲が拡大しつつあり、図 8に示すように現在ではボンデ潤滑に迫るところまできている 10)。

    写真 2 潤滑被膜ベースの焼付き抑制能

    図 8 一液潤滑剤の適用範囲 10)

    4.最近の要求と課題

    4.1 鍛造性能 鍛造周辺技術の発展により、一液潤滑剤の適用範囲の拡大が求められており、加工難易度に対してより安定な潤滑状態を維持していくことが課題となっている。高接触圧力と表面拡大により薄く引き延ばされた潤滑被膜では焼付きを防止しにくくなり、数百℃の摩擦面温度により液状に溶融した有機潤滑成分は摩擦面から流去されやすくなるなど、加工難易度が高まる鍛造面での摩擦状態は刻々と変化していく。 図 9は、伊藤らが後方穿孔加工に類するテーパーカップ試験を用いて調査した鍛造中における各潤滑被膜の荷重変化を示したものである 11)。Lub. A は

    図 9 テーパーカップ試験での各潤滑剤の比較例 11)

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    リン酸亜鉛被膜処理、Lub. B はホウ酸カリウムが主成分である一液白色乾燥被膜型の水溶性潤滑剤、Lub. C は主に二硫化モリブデンが添加された水溶性潤滑剤、Lub. D は硫化油脂を主成分とした鍛造用潤滑油であり、表面積拡大比が 1~3 倍程度の据込み形摩擦試験であるリング圧縮試験でのそれぞれの摩擦係数は Lub. A が 0.12 その他は 0.11 と同程度だとされている。図では、テーパーカップ試験での鍛造深さ(Forging depth)により被加工材の表面積拡大比(Surface expansion ratio)が大きくなっていくなか、Lub. A のリン酸亜鉛被膜処理の荷重(Maximum forging load)には殆ど変化が見られず摩擦係数が安定していたことが推測されるのに対して、他の潤滑剤の成形荷重は顕著に増大し摩擦面の状態が変化していることが分かる。これらの加工面には肉眼で見られるような明瞭なかじりは見られていないとのことであるが、摩擦面の状態悪化は焼付きへの進展や金型寿命などへの影響が懸念されるものである。 図 10に金型表面粗さ(突出山部高さ Rpk)による鍛造試験時の潤滑被膜の摩擦変化を示す12)。わずか 1/100µm レベルの金型表面変化でも加工度が高い条件では薄く引き延ばされた被膜への負荷が増大し摩擦が高まっていく。この例でもボンデ潤滑よりも一液潤滑の方が影響を受けやすいことがわかる。 今後、金型の長寿命化や精密な寸法精度への取り組みが、複雑な形状と高まる加工度とともに求められてくることが予想され、さらに厳しい条件下でも安定した低摩擦維持が可能な潤滑材料の開発も必要である。

    図 10 金型表面粗さによる潤滑剤の摩擦状態変化

    4.2 その他の諸性能 ネットシェイプ化が進むなか、一液潤滑被膜には鍛造以外の諸性能も求められるようになってきた。例えば、精密な寸法精度を得るためには鍛造時に発生する被膜カスによる悪影響を抑制しなくてはならない。ボンデ潤滑でも同様であるが、特に問題となるのが潤滑被膜中に含まれる石けん成分やワックス類などの有機系の潤滑成分である。これらは加工中の熱により溶融し液状化することで金型の細部に流れていき、冷えて固まったものが蓄積していくことで被加工材が充填されるための空間を埋めてしまうのである。これらを回避し且つ潤滑性を維持するためには、鍛造中に溶融し難い潤滑材料の開発が求められることになる。このような新たな潤滑材料を用いることで鍛造時の被膜カスの影響を極力抑えた被膜剤も開発されており(図 11)、従来型一液潤滑剤では被膜カスが顕著に付着しているのに対して、開発品でのカス付着は殆ど見られない 10)。 その他、冷間鍛造後の部品形状が最終製品に近くなるほど、鍛造後の防錆性も求められるケースがでてくる。そもそもボンデ潤滑でベースとなるリン酸

    図 11 鍛造カス対策品の効果 10)

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    特集 省エネ・省資源・環境対応を目指した鍛造技術

    亜鉛結晶被膜は自動車ボディを始めとした鉄鋼材料表面への塗装における防錆下地処理としても広く用いられているものであり、その防錆力により鍛造後の薄膜状態でも防錆性に優れていた。一方、これまでの一液潤滑剤の防錆性には不足感が指摘されてきた。そのような用途に対応すべく、最近では高耐食

    性の一液潤滑剤も開発されている 13)。これらは被膜形成と同時に被加工材表面に不動態化層を生成するように設計されたものであり、写真 3のように実用レベルの暴露期間に対して明らかな防錆効果をしめし、実部品への採用も進んでいる。

    5.おわりに

     環境保全や省力・省コスト化、グローバル展開への適用性までもが求められる時流から、ボンデ潤滑代替の様々な潤滑技術が登場してきている。一液潤滑剤に代表されるこれらの代替技術の今後の発展は冷間鍛造の可能性をさらに広げるひとつの鍵でもある。本稿で紹介したように、自動車部品用途の冷間鍛造を中心にボンデ潤滑から一液潤滑剤への置き換え検討が急速に進んでいるなかでは、加工形態や加工度、バッチプロセスやインラインプロセスなどの被膜処理方法への適合性、被膜形成後の放置環境での性能維持や防錆なども含めて、被膜設計では様々な条件への対応も必要となってきており技術開発は活発化している。また、これらを使いこなす生産システムの検討 14)も重要である。一液潤滑剤に代表される新たな潤滑技術を軸とした生産現場の省力化改革は、今後、大いに進むものと思われる。

     参考文献1 ) 近藤一義:塑性と加工,38-438(1997)605-610.2 ) 小見山忍:月刊トライボロジー,296(2012)48-50.3 ) 王志剛,小見山忍,徳永龍一,山岡祐一:塑性と加工,51-591(2010)336-341.

    4 )盛屋喜夫:日本パーカライジング技報,16(2004)3-8.5 ) 日比徹,辰巳和夫,池末冨三夫,八木勝春:第 186 回塑性加工シンポジウム資料(1999)23-32.

    6 ) 樫村徳俊,竹内雅彦,小田太,河原文雄,尾嶋平次郎,伴野満:塑性と加工,41-469(2000)109-114.

    7 ) 吉田昌之,今井康夫,山口英宏,永田秀二:日本パーカライジング技報,15(2003)3-9.

    8 ) 上田孝行,河添健一,平田幸四郎,小見山忍:日本塑性加工学会第 54 回伸線技術分科会資料(2002).

    9) M. Hirose, Z. Wang & S. Komiyama : Key Eng. Mater., Vols. 535-536 (2013) pp. 243-246.

    10) 清水秋雄:日本パーカライジング技報,20(2008)33-39.

    11) 伊藤樹一,吉田広明,五十川幸宏,土井善久,堂田邦明:塑性と加工,48-555(2007)303-307.

    12) 小見山忍,王志剛,徳永龍一,山岡祐一:塑性と加工,51-591(2010)342-347.

    13) 藤脇健史:日本パーカライジング技報,23(2011)47-52.14) 高橋寛和,林直樹,慶島浩二,松井浩孝:第 15 回資源

    循環型ものづくりシンポジウム資料(2010)140-147.

    日本パーカライジング株式会社 総合技術研究所 〒254-0012 神奈川県平塚市大神 2784TEL. 0463-55-4431 FAX. 0463-54-7328http://www.parker.co.jp/

    ボンデ潤滑被膜 一液潤滑剤 開発品

    写真 3 据込み加工後冬場 3か月間工場屋内暴露発錆状況 13)