陰嚢内血腫の 1例 - 徳島赤十字病院...画 陰嚢内血腫の1例 守山和道...

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陰嚢内血腫の 1 山和道 上間健造 桜井紀嗣 小松島赤十字病院泌尿器科 要旨 症例は 、60 歳男性。人間 ドックで精巣腫蕩を疑われ、 当科受診する 。左陰嚢内容は 、小児頭大 に腫脹 し、充実性で透 光性はなかっ た。陰嚢水腫及び精巣腫蕩が疑われ精査加療を予定した 。 4日後陰嚢を軽度打撲し、陰嚢腫脹の増大がみ られたため、陰嚢内容の破裂 を疑い高位除皐術を施行した 。病理組織学的検査の結果、悪性所見認めら れず、 陰嚢水腫 の破裂に よる陰嚢内血腫と診断 した。 キーワード:陰嚢水腫破裂、陰謹内血腫 はじめに 陰護水腫の破裂 は、非常に希であり、 本邦では文献 的に 2 例の報告があるのみである。今回我々は、 精巣 腫蕩 も疑われた陰嚢水腫の破裂 による、 陰嚢内血腫の 一例を経験したので報告する 。 患者 : 60 歳、男性 主訴:左陰嚢の腫癌 症例 既往歴:特記すべきことなし 現病歴:約 1 年前より 左陰謹内の無痛性腫癌 に気付く も放置していた。 1997 1 月人間ドックで精巣腫虜疑 い、前立腺肥大症 を指摘され、 2 12 日当科を受診す る。左陰嚢内容 は、小児頭大 に腫脹 し、充実性で透光 性は なかっ た。超音波と CT 検査では、内部やや不均 ーであるが液体の貯留が認めら れた。陰嚢水腫・精巣 腫壌が疑われ、 高位除皐術を予定 した。 2 16 日夜、 20cm の高さより尻餅をついたところ、左陰嚢内容 が裂けたようになり、腫脹がさらに増大してきたため 翌日受診する 。初診時に比べ陰嚢 は腫大 し、 陰茎 にま で及ぶ皮下出血がみられた。左陰嚢内容は、充実性で 表面平滑。圧痛はなかった。左陰嚢水腫・精巣腫虜の 破裂が疑われたため、同日緊急手術を施行した。 初診時検査成績 末梢血液所見:RBC 520 x 10 4 /mnLHb14.4g/dl Ht VOL.3 NO.1 MARCH 1998 45.5 %, WBC7020/m l I PLT24.4 x 10 4 /m llI血液生 化学 : Na139mEqll K 3.4mEqll Cl100mEqll Ca9.7mg/dl BUN14mg/dl Cr0.6mg/dl UA4.5 mg/dl P 2.7 /dl GOT16IU Il, GPT17IU/l ALP174IU Il, r -GTP45IU Il, LDH241IU Il, CRP 0.7mg/dl AFP 2.0ng/ml s-HCG 0.10ng/ml 未満 画像診断 陰嚢部単純 CT (初診時)左陰嚢内容は、 9x 11 x 10cm 大 に腫大 し、辺縁 は smooth 、内部density はやや不均一でやや low o (Fig. 1) 陰嚢部単純 CT (打撲後)初診時 CT と比べ左陰 嚢内容 はさらに腫大 し、内部density も不均ー となっ ている 。 (Fig.2) F ig. 1 陰嚢内血腫の 1 I J 49

Transcript of 陰嚢内血腫の 1例 - 徳島赤十字病院...画 陰嚢内血腫の1例 守山和道...

画 陰嚢内血腫の 1例

守山和道 上間健造 桜井紀嗣

小松島赤十字病院泌尿器科

要旨

症例は、60歳男性。人間 ドックで精巣腫蕩を疑われ、 当科受診する。左陰嚢内容は、小児頭大に腫脹し、充実性で透

光性はなかった。陰嚢水腫及び精巣腫蕩が疑われ精査加療を予定した。4日後陰嚢を軽度打撲し、 陰嚢腫脹の増大がみ

られたため、陰嚢内容の破裂を疑い高位除皐術を施行した。病理組織学的検査の結果、悪性所見認められず、 陰嚢水腫

の破裂による陰嚢内血腫と診断した。

キーワード:陰嚢水腫破裂、陰謹内血腫

はじめに

陰護水腫の破裂は、非常に希であり、 本邦では文献

的に 2例の報告があるのみである。今回我々 は、 精巣

腫蕩も疑われた陰嚢水腫の破裂による、 陰嚢内血腫の

一例を経験したので報告する。

患者 :60歳、男性

主訴:左陰嚢の腫癌

症例

既往歴:特記すべきことなし

現病歴 :約 1年前より左陰謹内の無痛性腫癌に気付く

も放置していた。 1997年 1月人間ドックで精巣腫虜疑

い、前立腺肥大症を指摘され、 2月12日当科を受診す

る。左陰嚢内容は、小児頭大に腫脹し、充実性で透光

性はなかった。超音波と CT検査では、内部やや不均

ーであるが液体の貯留が認められた。陰嚢水腫・精巣

腫壌が疑われ、 高位除皐術を予定した。 2月16日夜、

約20cmの高さより尻餅をついたところ、左陰嚢内容

が裂けたようになり、腫脹がさらに増大してきたため

翌日受診する。初診時に比べ陰嚢は腫大し、 陰茎にま

で及ぶ皮下出血がみられた。左陰嚢内容は、充実性で

表面平滑。圧痛はなかった。左陰嚢水腫・精巣腫虜の

破裂が疑われたため、同日緊急手術を施行した。

初診時検査成績

末梢血液所見:RBC 520x104/mnL Hb 14.4g/dl, Ht

VOL.3 NO.1 MARCH 1998

45.5 %, WBC 7020/mllI, PLT 24.4 x 104/mllI血液生

化学 :Na 139mEqll, K 3.4mEqll, Cl100mEqll,

Ca9.7mg/dl, BUN 14mg/dl, Cr 0.6mg/dl, UA 4.5

mg/dl, P 2.7昭 /dl,GOT 16 IUIl, GPT 17 IU/l,

ALP 174 IUIl, r -GTP 45 IUIl, LDH 241 IUIl,

CRP 0.7mg/dl, AFP 2.0ng/ml

s-HCG 0.10ng/ml未満

画像診断

陰嚢部単純 CT (初診時)左陰嚢内容は、 9x

11 x 10cm大に腫大し、辺縁はsmooth、内部density

はやや不均一でやや lowo (Fig. 1)

陰嚢部単純 CT (打撲後)初診時 CTと比べ左陰

嚢内容はさらに腫大し、内部densityも不均ーとなっ

ている。 (Fig.2)

F ig. 1

陰嚢内血腫の 1伊IJ 49

Fig. 2

手術所見

陰嚢全体が腫脹し、皮下出血もみられ、陰茎まで腫

脹していた。(Fig.3)硬膜外麻酔下、外鼠径輪~陰

嚢まで皮盾切開し皮下を剥離した。精索から精管を剥

離した後、阻血した。陰嚢内は、 固有鞘膜外周に沿っ

て血腫がみられ、陰嚢中隔部の癒着が強く、剥離の際、

固有鞘膜が破れ古い血液様の内容液が排出された。こ

の部分で破裂したと思われた。腫溜内を観察したとこ

ろ、内部に硬結部があり、 malignancyも否定でき

Fig. 3

一一一一一なかったため、外鼠径輪部で、 精管 ・精索血管を結紫 Fig. 4

切断し、腫痛を摘出した。 いなかった。他の 2症例は、水腫根治術 ・陰麓内血腫

摘出標本の割面:内部に古い血腫がみられ、鞘膜壁は

肥厚し、硬化していた。精巣は、肉眼的に異常所見は

認められなかった。 (Fig.4)

除去術を施行されていたが、本症例では、初診時より、

また術中所見より malignancyも否定できなかったた

め陰嚢内容摘出術及び血腫除去術を施行した。非常に

希ではあるが、日常比較的みられる陰謹水腫も破裂す

る危険性があることに注意する必要があると恩われ

病理組織診断:腫蕩性変化なく、古い血腫とその周囲 た。

の結合織の出血が認められた。

術後経過:経過良好で 3月1日退院となる。 結語 :陰嚢水腫の破裂による陰嚢内血腫の一例を経験

考察 :文献的には、 2例の報告例があり、 一例は陰嚢

水腫で、数回穿刺を受け、軽度打撲で破裂したものでも

う一例は、シートベルトの圧迫により陰嚢水腫が破裂

したものであった。本症例も含め、いずれも軽度の鈍

的外力によって破裂しており、水腫の緊満状態、水腫

壁の肥厚 ・硬化が原因と思われた。また、成書には水

腫の破裂は「ただちに引き裂かれる様な激痛と極度の

ショックのごとき急性症状で現れる」と記載されてい

るが、いずれの症例もこのような急性症状はみられて

50 陰嚢内血腫の l例

したので若干の文献的考察を加えて報告 した。

文 献

1) I鳴尾精一、他.シートベルトの圧迫により破裂 し

た陰嚢水腫の一例. 日泌会誌 77 : 1547,1986

2)佐々木英夫、他:外傷性陰嚢水腫破裂の一例. 日

泌会誌 77 : 1896, 1986

3)鈴木和浩、他:急性陰嚢症の臨床的検討.泌尿紀

要 37・1287-1291,1991

Komatushima R巴d Cross Hospital Medical J ournal

Scrotal Hematoma : A Case Report

Kazumichi MORIY AMA, Kenzo UEMA, Noritsugu SAKURAI

Division of Urology, Komatushima Red Cross Hospital

The case was a 60-year-old male who was suspected of having a testicular tumor at a medical checkup

and thus consulted us. The left scrotal contents were swollen to the size of a child's head and was solid

without light permeability. Scrotal hydrocele or testicular tumor was suspected and careful examination

with treatment were thus scheduled. Four days later, the patient got a mild bruise on the scrotum, which

caused the increase of the scrotal swelling. Thus, rupture of the scrotal contents was susp巴ctedand high

orchiectomy was performed. Histopathological examinations revealed no malignant findings and the case

was diagnosed as scrotal hematoma due to rupture of scrotal hydrocele.

Keywords: rupture of scrotal hydrocele, scrotal hematoma

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal 3 : 49-51,1998

VOL.3 NO.1 MARCH 1998 陰嚢内血腫の 1例 51