駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発1...

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1 駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発 西日本旅客鉄道株式会社 千田 光雄 株式会社 日立製作所 高見 誠 株式会社 ジェイアール西日本テクノス 大久保 真一 株式会社 日立ビルシステム 福島 昌春 1.はじめに 「交通バリアフリー法」が施行されたことにより、J R西日本と当社との共同プロジェクトで、駅の環境に適し た駅舎用エレベータ:ジェイ.スリムを開発・導入し、現 在では 200 台を超えている。さらに、このエレベータの 安全・信頼性のレベル向上を図るため、平成 15 年度には 遠隔監視保全システム:ジェイ.アイシステムを開発・導 入し、24 時間体制での監視を行っている。 バリアフリーの推進では、主としてエレベータの導入 が進められているが、 ・ 大規模な駅や高低差の大きい駅ではエレベータより も大きな搬送能力が必要 ・建築基準法等のエスカレータに対する規制緩和 という背景から、今後はエスカレータの整備も進められる ものと考えられる。 エスカレータの整備を進めるにあたっては、コストや 工期等多くの課題があり、これらの課題を克服するため、 次世代のエスカレータ:ジェイ.ステップを開発したので、 以下に、開発概要、特徴などについて紹介する。 2.エスカレータ整備における課題 エスカレータの整備においては、①設置スペースが大 きい、②設置工事期間が長い、③設置工事費が高いなどの 課題がある。特に、エスカレータを老朽取替えする場合に は、お客様にご不便をおかけすることになるので、少しで も工事期間を短くしなければならないが、エスカレータの 下に事務所や店舗があると、これらの移設や撤去等に多く の工事費や工事期間を要してしまう。 また昨年、エスカレータ事故防止対策検討委員会(東 京消防庁主催)から報告されたように、エスカレータでは 毎年多くの事故が発生している。特に 60 歳以上の高齢者 の事故が多く、事故全体の 60%以上を占める(図-1)。 事故の種別では 90%以上が転倒事故となっており、転 倒事故の 80%以上が、乗降時や立っているときに発生し ている。立っているときに転倒事故が発生するのは、歩い ている人との衝突や、安全装置作動等による急停止が要因 となっている。 3.ジェイ.ステップの開発概要 現行のエス カレータの整備 における課題や、 エスカレータに 対する様々なニ ーズを検討した 結果、お客様、 駅係員、保守作 業員という全て の人のことを考 え、さらに、省 エネ・産業廃棄 物低減という地球環境のことも考えた開発コンセプトを作 成した(表-1)。 建築基準法等制約条件の確認や、既存エスカレータの 仕様の再検証などを行った上で、システムや機構の開発を 実施し、「人と環境にやさしいエスカレータ」というキャ ッチフレーズにふさわしい駅舎用エスカレータを実現した (図-2、表-2)。 図-1 エスカレータ事故発生状況 0 50 100 150 200 250 300 350 400 ~9 ~19 ~29 ~39 ~49 ~59 ~69 ~79 ~89 90~ 【年令】 【人】 0 50 100 150 200 250 300 350 400 ~9 ~19 ~29 ~39 ~49 ~59 ~69 ~79 ~89 90~ 【年令】 【人】 図-2 ジェイ.ステップシステム概要図 大阪昇降機センター 24時間監視体制) 監視カメラ インバータ制御盤 可変速度 102030m/min駅舎用自動発停止装置 大阪昇降機センター 24時間監視体制) 各センサー 各センサー 監視カメラ インバータ制御盤 遠隔監視ユニット 駅舎用アナウンス 可変速度 102030m/min駅舎用自動発停止装置 表-1 開発コンセプト ② お客様の乗り・降りし易さの向上 ① 転倒事故の低減 (Ⅰ) 安全性・利便性の向上 (Ⅲ) 省スペース・短工期 ① 取替え工事における支障範囲の縮小 ② 狭隘箇所への新設対応 ・・・・・「トラス・イン・トラス」工法 ② 点検による機器停止時間の低減 ③ 予防保全による機器故障の低減 ① 異常・緊急時の迅速対応 (Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作 ④ 運転管理業務の簡素化 ② お客様の乗り・降りし易さの向上 ① 転倒事故の低減 (Ⅰ) 安全性・利便性の向上 ② お客様の乗り・降りし易さの向上 ① 転倒事故の低減 (Ⅰ) 安全性・利便性の向上 (Ⅲ) 省スペース・短工期 ① 取替え工事における支障範囲の縮小 ② 狭隘箇所への新設対応 ・・・・・「トラス・イン・トラス」工法 (Ⅲ) 省スペース・短工期 ① 取替え工事における支障範囲の縮小 ② 狭隘箇所への新設対応 ・・・・・「トラス・イン・トラス」工法 ② 点検による機器停止時間の低減 ③ 予防保全による機器故障の低減 ① 異常・緊急時の迅速対応 (Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作 ④ 運転管理業務の簡素化 ② 点検による機器停止時間の低減 ③ 予防保全による機器故障の低減 ① 異常・緊急時の迅速対応 (Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作 ④ 運転管理業務の簡素化 論文番号 226

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Page 1: 駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発1 駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発 西日本旅客鉄道株式会社 千田 光雄 株式会社

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駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発

西日本旅客鉄道株式会社 千田 光雄 株式会社 日立製作所 高見 誠

株式会社 ジェイアール西日本テクノス 大久保 真一 株式会社 日立ビルシステム 福島 昌春

1.はじめに

「交通バリアフリー法」が施行されたことにより、J

R西日本と当社との共同プロジェクトで、駅の環境に適し

た駅舎用エレベータ:ジェイ.スリムを開発・導入し、現

在では 200 台を超えている。さらに、このエレベータの

安全・信頼性のレベル向上を図るため、平成 15 年度には

遠隔監視保全システム:ジェイ.アイシステムを開発・導

入し、24 時間体制での監視を行っている。

バリアフリーの推進では、主としてエレベータの導入

が進められているが、

・ 大規模な駅や高低差の大きい駅ではエレベータより

も大きな搬送能力が必要

・建築基準法等のエスカレータに対する規制緩和

という背景から、今後はエスカレータの整備も進められる

ものと考えられる。

エスカレータの整備を進めるにあたっては、コストや

工期等多くの課題があり、これらの課題を克服するため、

次世代のエスカレータ:ジェイ.ステップを開発したので、

以下に、開発概要、特徴などについて紹介する。

2.エスカレータ整備における課題

エスカレータの整備においては、①設置スペースが大

きい、②設置工事期間が長い、③設置工事費が高いなどの

課題がある。特に、エスカレータを老朽取替えする場合に

は、お客様にご不便をおかけすることになるので、少しで

も工事期間を短くしなければならないが、エスカレータの

下に事務所や店舗があると、これらの移設や撤去等に多く

の工事費や工事期間を要してしまう。

また昨年、エスカレータ事故防止対策検討委員会(東

京消防庁主催)から報告されたように、エスカレータでは

毎年多くの事故が発生している。特に 60 歳以上の高齢者

の事故が多く、事故全体の 60%以上を占める(図-1)。

事故の種別では 90%以上が転倒事故となっており、転

倒事故の 80%以上が、乗降時や立っているときに発生し

ている。立っているときに転倒事故が発生するのは、歩い

ている人との衝突や、安全装置作動等による急停止が要因

となっている。

3.ジェイ.ステップの開発概要

現 行 の エ ス

カレータの整備

における課題や、

エスカレータに

対する様々なニ

ーズを検討した

結果、お客様、

駅係員、保守作

業員という全て

の人のことを考

え、さらに、省

エネ・産業廃棄

物低減という地球環境のことも考えた開発コンセプトを作

成した(表-1)。

建築基準法等制約条件の確認や、既存エスカレータの

仕様の再検証などを行った上で、システムや機構の開発を

実施し、「人と環境にやさしいエスカレータ」というキャ

ッチフレーズにふさわしい駅舎用エスカレータを実現した

(図-2、表-2)。

図-1 エスカレータ事故発生状況

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図-2 ジェイ.ステップシステム概要図

大阪昇降機センター(24時間監視体制)

各センサー監視カメラ

インバータ制御盤遠隔監視ユニット

駅舎用アナウンス

可変速度(10・20・30m/min)

駅舎用自動発停止装置

大阪昇降機センター(24時間監視体制)

各センサー各センサー監視カメラ

インバータ制御盤遠隔監視ユニット

駅舎用アナウンス

可変速度(10・20・30m/min)

駅舎用自動発停止装置

表-1 開発コンセプト

② お客様の乗り・降りし易さの向上

① 転倒事故の低減

(Ⅰ) 安全性・利便性の向上

(Ⅲ) 省スペース・短工期

① 取替え工事における支障範囲の縮小

② 狭隘箇所への新設対応

・・・・・「トラス・イン・トラス」工法

② 点検による機器停止時間の低減

③ 予防保全による機器故障の低減

① 異常・緊急時の迅速対応

(Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作

④ 運転管理業務の簡素化

② お客様の乗り・降りし易さの向上

① 転倒事故の低減

(Ⅰ) 安全性・利便性の向上

② お客様の乗り・降りし易さの向上

① 転倒事故の低減

(Ⅰ) 安全性・利便性の向上

(Ⅲ) 省スペース・短工期

① 取替え工事における支障範囲の縮小

② 狭隘箇所への新設対応

・・・・・「トラス・イン・トラス」工法

(Ⅲ) 省スペース・短工期

① 取替え工事における支障範囲の縮小

② 狭隘箇所への新設対応

・・・・・「トラス・イン・トラス」工法

② 点検による機器停止時間の低減

③ 予防保全による機器故障の低減

① 異常・緊急時の迅速対応

(Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作

④ 運転管理業務の簡素化

② 点検による機器停止時間の低減

③ 予防保全による機器故障の低減

① 異常・緊急時の迅速対応

(Ⅱ) 遠隔監視・点検・操作

④ 運転管理業務の簡素化

論文番号 226

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D OW N運 転 時 (列 車 か ら降 車 した お 客 様 が 利 用 す るエ スカ レー タ )4:30~ 7:00 ~ 10:00 ~16:00 ~21:00 ~ 1:30

閑散時 間 帯 ラッシュ時間帯 閑散 時間帯 ラッシュ時 間帯 閑散時 間 帯

状 利 用者 無 し時 間(停 止 又は 微速 )  (hr) 1.6 0.85 3.5 3.1 3.4利 用者 有 り時間               (Hr) 0.9 2.15 2.5 1.9 1.1

態 自 動発 停 回数 (自 動発 停有 り時 ) 11 25 47 38 26電 自 動発 停 装置 無し (連 続運 転)     (kW h) 5.0 2.0 11.5 2.1 9.9 30.5 12,792 -力 自 動発 停 装置 有り             (k Wh) 0.9 1.9 2.7 2.1 1.3 8.9 3,757 -71%量 無 人時 微 速運 転- 1            (kW h) 2.3 2.0 4.8 2.1 4.3 15.5 6,504 -49%

無 人時 微 速運 転- 2          (kW h) 2.1 2.0 5.0 2.1 4.0 15.2 6,375 -50%

UP運 転 時 (列 車 に 乗 車 さ れ るお 客 様 が 利 用 す る エス カレー タ)4:30~ 7:00 ~ 10:00 ~16:00 ~21:00 ~ 1:30

閑散時 間 帯 ラッシュ時間帯 閑散 時間帯 ラッシュ時 間帯 閑散時 間 帯

状 利 用者 無 し時 間(停 止又 は 微速 )  (H r) 0 .5 0 .2 1 .2 1 .0 1 .2

利 用者 有 り時間   (H r) 2 .0 2 .9 4 .8 4 .0 3 .4

態 自 動発 停 回数 (自 動発 停有 り時 ) 5 7 47 38 26

電 自 動発 停 装置 無し (連続 運 転 )  (kWh) 9.1 10.9 21.5 15.3 15.8 72.6 30,511 -力 自 動発 停 装置 有り   (kWh) 7.8 10.9 18.9 15.2 13.2 65.9 27,685 -1%量 無 人時 微 速運 転- 1  (k Wh) 8.2 10.9 19.6 15.3 13.9 67.8 28,483 -1%

無 人時 微 速運 転- 2  (k Wh) 5.7 10.9 14.0 15.3 9.8 55.7 23,382 -23%※ 1 :「無 人 時 微 速 運 転 ー 1」は , 微 速 :1 0m / 分 , ラッシュ・閑 散 時 間 帯 共 :30m / 分 の 場 合 を 示 しま す 。※ 2: 「無 人 時 微 速 運 転 ー 2」は ,微 速 :10m / 分 , ラッ シ ュ 時 間 帯 :30m / 分 , 閑 散 時 間 帯 :20m / 分 の 場 合 を 示 し ま す※ 3: 電 気 料 金 算 出 の 1 ヶ 月 を 30 日 と し ま し た 。

省 エネ率

省 エネ率月 当りの電 気料 金

(円)

月 当りの電 気料 金

(円)

1日 当 りの消費 電力 量

(k Wh)

1日 当 りの消費 電力 量

(k Wh)

図-5 消費電力シミュレーション

( 1 ) 高齢者等に配慮した速度制御

運転速度別の乗降しやすさについてのアンケート調査

の結果では、現状の一般的な速度 30m/min では高齢者の

半数近くが少し早すぎると感じており、速度を 20m/min

にした場合、大きく乗降しやすさが改善されていることが

分かった(図-3)。

駅のエスカレータのニーズは、どちらかというと通勤

ラッシュ対応のために高速化が求められている。しかし、

一方でお客様の安全性向上、特に高齢者の転倒事故の低減

をするために、高齢者が乗り降りしやすい速度、即ち、遅

い速度での運転を導入しなければならないと考えた。この

どちらのニーズにも応えられるように、ラッシュ時間帯で

は従来と同じ速度あるいは高速で運転し、昼間時間帯では

速度を遅く、そしてお客様がいない場合は、微速運転にて

待機するといった、速度の3段切り替えができる可変速制

御システムを開発した(図-4)。

また、この可変速制御システムでは、低速や微速運転

により消費電力が大きく低減でき、さらに、機械部分の稼

働量も低減するので、稼働量に応じて劣化・磨耗する手摺

り等の部品については、取替周期延長を図ることができる。

従来のエスカレータと閑散時に低速運転した場合のジ

ェイ.ステップとを比較した消費電力シミュレーションで

は、運転方向により効果に違いはあるが、微速待機運転や

低速運転により平均的に 30%以上の消費電力削減効果が

期待できる(図-5)。また、修繕費シミュレーションで

は、ハンドレールの取替え周期が5年から8年、駆動ロー

ラーが4年から5年等、消耗部品の取替え周期の延命化に

より、経年 20 年後におけるライフサイクルコストでは

10%の削減が期待できる(図-6)。

( 2 ) 異常時等における安全性向上

① 緩やか停止システム

転倒事故のもう一つの要因である、安全装置等作動に

よる急停止の衝撃についても、安全性を向上させるために

は対策を実施する必要がある。

そこで、ジェイ.ステップでは今回導入した速度を可

変できるインバータ制御の特性を活かし、緩やかに停止す

るシステムを

開発した。本

システムは、

インバータに

よりブレーキ

を制御するシ

ステムで、停

止による衝撃

力を従来の2

分の1にした。

J.step減速度:0.3m/s2

従来機減速度:0.7m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

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停止距離

(mm)

従来型

停止距離が約2倍

J.step

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

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停止距離

(mm)(mm)

従来型従来型

停止距離が約2倍

J.stepJ.step

J.step減速度:0.3m/s2J.step減速度:0.3m/s2

従来機減速度:0.7m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

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停止距離

(mm)

従来型

停止距離が約2倍

J.step

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

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停止距離

(mm)(mm)

従来型従来型

停止距離が約2倍

J.stepJ.step

従来機減速度:0.7m/s2従来機減速度:0.7m/s2従来機減速度:0.7m/s2従来機減速度:0.7m/s2従来機減速度:0.7m/s2従来機減速度:0.7m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

100

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400

500

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停止距離

(mm)

従来型

停止距離が約2倍

J.step

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

一般的に制動距離:0.2m前後減 速 度:0.8~0.9m/s2

建築基準法上の上限値

100

200

300

400

500

600

停止距離

(mm)(mm)

従来型従来型

停止距離が約2倍

J.stepJ.step

図-7 緩やか停止制御システム

図-4 可変速制御

(m /m in )

0

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利 用 者 無 利 用 者 多 利 用 者 少 利 用 者 多

時 間

従 来 型( 常 に 定 速 運 転 )

微 速

低 速

中 速

J .s te p( 可 変 速 運 転 )

高 齢 者 等 の 利 用 : 多

無 人 時 微 速

(m /m in )

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利 用 者 無 利 用 者 多 利 用 者 少 利 用 者 多

時 間

従 来 型( 常 に 定 速 運 転 )

微 速

低 速

中 速

J .s te p( 可 変 速 運 転 )

高 齢 者 等 の 利 用 : 多

無 人 時 微 速

開  発  項  目 仕     様 記         事

制  御  方  式 マイコン・インバータ制御 自動速度制御可

運  転  速  度 10・20・30m/min 保守モード運転速度付

遠  隔  機  能 遠隔状態監視・保全 従来監視項目+α

遠隔画像監視 異常時ポップアップ、常時記録

遠隔操作 アナウンス、スケジュール他変更

く    し    板 樹脂製・高強度タイプ 緩傾斜

自 動 発 停 止 運 転 微速運転方式 駅員操作省力化対応

光電管ポールタイプ 3段LED表示付、遠隔監視カメラ内蔵型

オ ー ト ア ナ ウ ン ス 駅舎用アナウンス 音量可変型(3段式)、遠隔操作対応

ハンドレール清掃装置 ウレタン対応型装置 幅狭型、液補充等保守長周期タイプ

潤    滑    油 長周期オイル 給油量1/2

表-2 ジェイ.ステップ仕様

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年間修繕費

累積修繕費

【百万円】 【百万円】

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従来機修繕費J.step修繕費

従来機累積修繕費J.Step累積修繕費

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年間修繕費

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【百万円】 【百万円】

【経年】

従来機修繕費J.step修繕費

従来機累積修繕費J.Step累積修繕費

従来機修繕費J.step修繕費

従来機累積修繕費J.Step累積修繕費

従来機修繕費J.step修繕費

従来機累積修繕費J.Step累積修繕費

図-6 修繕費シミュレーション

図-3 運転速度別乗り降りしやすさ

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運転速度(m/分)

評価

割合

(%)

●エスカレータ昇り運転での乗り心地評価【高齢者50人の評価】

(やや)乗りにくい◆

(少し)速すぎる▲

(やや)降りにくい■

(少し)遅すぎる●

(やや)乗りにくい◆

(少し)速すぎる▲

(やや)降りにくい■

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運転速度(m/分)

評価

割合

(%)

●エスカレータ昇り運転での乗り心地評価【高齢者50人の評価】

(やや)乗りにくい◆

(少し)速すぎる▲

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(少し)遅すぎる●

(やや)乗りにくい◆

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これにより停止距離が従来の約 2 倍になるが、建築基準

法上の上限値はクリアしている。

振り子を用いた衝撃試験を行った結果、現行の減速度

では振り子が左右に大きく振れるのに対し、インバータ制

御による減速度では振り子がほとんど振れないことが確認

できた(図-7)。

② 降り口混雑検知システム

列車のダイヤが事故などで乱れた場合、ホーム上は多

くのお客様で混雑し、エスカレータ降り口付近にも多くの

お客様が滞留することがあるが、エスカレータを停止させ

ない限り、次から次へとエスカレータからお客様が降りて

きて、将棋倒し状態になり転倒事故が発生する危険性があ

る。このような事故が発生しないように、駅係員がエスカ

レータの停止操作をしなければならないが、その他の対応

に追われていて、エスカレータ操作を行えない場合がある。

そこで、降り口付近が混雑したことを検知する監視機

能を設け、監視センターにリアルタイム画像を送信し、状

況を確認した上で、注意案内を行い、エスカレータの速度

を遅くしたり、

停止したりを

遠隔で操作で

きるシステム

を開発した

(図-8)。

また設定によ

り、自動停止

させることも

可能である。

( 3 ) 遠隔監視保全・操作によるダ ウ ン タ イ ムの低減

ジェイ.ステップでは、既存の遠隔監視機能に、画像

伝送および遠隔操作機能を加えた遠隔監視システムを開発

した。

遠隔監視では、設備監視、映像監視、エスカレータ制

御の3つの監視モニターにより、情報取得や操作を行う

(図-9)。

① 遠隔監視保全

運転速度やハンドレール走行距離、ハンドレールスリ

ップ率等をセンターで監視することにより、状態監視保全

を高機能化し、現地点検の簡素化を図った。

② 遠隔操作

監視センターでは、安全スイッチの作動時には、瞬時

に作動状況が確認でき、かつ故障発生と同時に配信される

監視カメラのリアルタイム画像により、転倒事故等が発生

していないかを確認できる。駅係員の代わりに、監視セン

ター操作にて遠隔復帰を行うことも可能である。また、状

況に応じてお客様に注意を促すアナウンス内容の変更も遠

隔操作にて行うことができる。

この遠隔操作

機能を更に拡張し

て、監視センター

から各エスカレー

タに、駅の利用実

態に応じた運転ス

ケジュールを入

力・登録すること

もできる。このス

ケジュール運転を

活用することによ

り、駅係員の運転

管理業務の効率化

が図られ、夜間無

人駅などにおいて

も終電までエスカ

レータを運転でき、

利便性の向上が可

能となる(図-1

0)。

( 4 ) 本体構造のコンパクト化と工期短縮

現在のエスカレータには、幅が狭いタイプやピット深

さが浅いタイプなど様々なタイプがあるが、ジェイステッ

プでは、制御盤の配置や電動機・減速機の一体化の開発を

行った結果、幅・ピット深さ・全長の 3 次元の寸法を同時

に縮小し、狭隘な箇所における設置の自由度を向上するこ

とができた(表-3)。

また、3 次元の寸法を同時に縮小できたことにより、エ

スカレータ取替工事において、既設エスカレータの構造物

(トラス)の中に、新設のエスカレータを納めるという

「トラス・イン・トラス工法」が可能となった(図-1

1)。この工法を採用すると、エスカレータ下の事務所や

店舗の天井等に対する支障が生じなく、また旧トラスの上

図-10 スケジュール運転

自 動 起 動 自 動 停 止

手 動 起 動 手 動 停 止

11:00 14:006:00 終 電 後始 発 前

凡  例

:定 格 速 度 & 微 速 待 機 運 転 無

:定 格 速 度 & 微 速 待 機 運 転 有

:低 速 度 & 微 速 待 機 運 転 有

:使 用 禁 止 時 間(万 一 使 用 時 に は 注 意 放 送 & 低 速 運 転 )

自 動 起 動 自 動 停 止

手 動 起 動 手 動 停 止

11:00 14:006:00 終 電 後始 発 前

凡  例

:定 格 速 度 & 微 速 待 機 運 転 無

:定 格 速 度 & 微 速 待 機 運 転 有

:低 速 度 & 微 速 待 機 運 転 有

:使 用 禁 止 時 間(万 一 使 用 時 に は 注 意 放 送 & 低 速 運 転 )

遠隔速度制御

遠隔案内

発報

図-8 降り場混雑検知システム

図-9 遠隔監視システム

設備監視モニター

映像監視モニター

制御モニター

メーカー A社 B社 C社 D社部位 新設仕様 取替仕様 標準 幅狭 標準 幅狭 標準 幅狭 標準上部水平部 2,250 2,100 2,300 2,300 2,300 2,300 2,200 2,300 2,300下部水平部 1,900 1,900 1,950 1,950 1,980 1,980 1,850 1,980 1,980トラス幅 1,310 1,310 1,500 1,310 1,500 1,390 1,500 1,320 1,550トラス上下部深さ 970 970 1,000 1,000 1,030 1,030 1,043 1,000 1,020トラス中間部深さ 880 780 880 880 915 915 932 900 910設置幅 1,360 1,360 1,550 1,360 1,550 1,400 1,550 1,340 1,550

テクノス

表-3 エスカレータ主要寸法比較表

Page 4: 駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発1 駅舎用エスカレータ:ジェイ.ステップの開発 西日本旅客鉄道株式会社 千田 光雄 株式会社

4

に設置できる特殊揚重機を用いると、側面や上部に対する

支障も生じないので、店舗の移設や休業が回避でき、階段

に対する支障も 小限となり、工事期間の短縮や工事費の

低減が図れる(図-12)。

なお、平成 17 年 12 月の広島駅の取替え工事にてこの

「トラス・イン・トラス工法」を実施したところ、従来工

法に比べ約 18 日間の工期短縮、工事費約 7 百万円の削減

(支障移転回避)の効果があったことを確認した。

(5)その他の安全性・利便性・作業性向上対策

利用されるお客様の安全性・利便性を向上させる為に、

乗降時にアナウンスが聴き取り易い指向性スピーカー、高

寿命で破損しにくいLED式フットライト(写真-1)、

視認性の向上が図れる運転制御ポール(3段LED付き・

カメラ内蔵型)、ステップ間隔が分かりやすい蛍光デマケ

ーションコム、つまずき事故低減を図れる緩傾斜・高強度

クシ板、保守の作業性向上が図れる新型オイルパン清掃装

置(写真-2)等の開発を行った。

4.おわりに

本エスカレータは、平成 17 年度より大阪駅他に設置し、

稼働を開始している(写真-3)。また、今回の開発では

LED式フットライト他 10 件の特許を出願中である(表

-4)。

今回開発したイ

ンバータ制御システ

ム、遠隔監視システ

ム等は、鉄道駅舎の

みならず公共性の高

いエスカレータには

お客様の安全性を向

上させるために必要

不可欠な機能と考え

る。これらの整備を

推進する為に今後は、

「トラス・イン・ト

ラス工法」をさらに

深度化させ、工期短

縮・工事費低減を達

成することや、イン

バータ制御による消

費電力の低減や部品

取替え周期の延命化

の効果についてフォ

ローを行い、ライフ

サイクルコストの低

減について検証を行っていきたい。

後に、本開発においては、人と環境にやさしいエス

カレータをスローガンに、関係者がそれぞれ今まで培った

技術・ノウハウを活用し、一体となって取組んだことが、

駅舎に適合したエスカレータを実現できた一番大きなポイ

ントと考える。

今後も各種設備において、このような横断的活動を展

開し、よりよい設備の提案やその実現を行う所存である。 写真-1 LED式フットライト

写真-2 オイルパン清掃装置

図-11 「トラス・イン・トラス工法」

1F 事 務 所

旧 トラス

階 段 が 広 く使 え る

新 トラス

従 来 に 比 べ てコンパ クトな 仮 囲 い

仮 囲 い特 殊 揚 重 機

天 井 支 障 しな い の で仮 囲 い ・支 障 移 転 不 要

2F 天 井

2F 店 舗

1F 天 井

1F 事 務 所

旧 トラス

階 段 が 広 く使 え る

新 トラス

従 来 に 比 べ てコンパ クトな 仮 囲 い

仮 囲 い特 殊 揚 重 機

天 井 支 障 しな い の で仮 囲 い ・支 障 移 転 不 要天 井 支 障 しな い の で仮 囲 い ・支 障 移 転 不 要

2F 天 井

2F 店 舗

1F 天 井

図-12 取替え工事工程(工期)比較図

仮囲い及び天井等支障付帯工事

店舗・CD支障工事  (天井支障)

既設エスカレータ撤去工事

エスカレータ新設

エスカレータ外装及び付帯復旧工事

店舗・CD支障復旧工事

使 用 開 始

工程工事内容

10 20 30 40 50 60

従来工法

トラスイントラス工法仮囲い及び天井等支障付帯工事

店舗・CD支障工事  (天井支障)

既設エスカレータ撤去工事

エスカレータ新設

エスカレータ外装及び付帯復旧工事

店舗・CD支障復旧工事

使 用 開 始

工程工事内容

10 20 30 40 50 60

仮囲い及び天井等支障付帯工事

店舗・CD支障工事  (天井支障)

既設エスカレータ撤去工事

エスカレータ新設

エスカレータ外装及び付帯復旧工事

店舗・CD支障復旧工事

使 用 開 始

工程工事内容

10 20 30 40 50 60

従来工法

トラスイントラス工法

従来工法

トラスイントラス工法

写真-3 大阪駅エスカレータ

 特許共同出願(計10件)

 ハンドレール清掃装置

 LED式フットライト

 監視カメラ内蔵型自動発停装置

 清掃が容易なオイルパン構造

 省スペース型トラス構造

 保守用速度切替装置

 乗り場・降り場異常混雑検出装置

件        名区分

 光電装置付きポール 意匠登録出願

 前輪止め輪の改良

 誘導柵(光電ポール)

 エスカレータ制御システム

 商標登録出願  (ジェイ.ステップ)

 特許共同出願(計10件)

 ハンドレール清掃装置

 LED式フットライト

 監視カメラ内蔵型自動発停装置

 清掃が容易なオイルパン構造

 省スペース型トラス構造

 保守用速度切替装置

 乗り場・降り場異常混雑検出装置

件        名区分

 光電装置付きポール 意匠登録出願

 前輪止め輪の改良

 誘導柵(光電ポール)

 エスカレータ制御システム

 商標登録出願  (ジェイ.ステップ)

表-4 特許他出願一覧