肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳...

10
日消外会議 19(1):19~ 28,1986年 肝切除症例にお ける 分枝鎖 ア ミノ 酸投与 臨床的意義 久留米大学医学部第2外科 (主任 t古 賀道弘教授) CLINICAL SIGNIFICANC■ OF BRANCHDD CHAIN AMINO ACIDS TRANSFUS10N IN HEPATECTOMIZED PATIttNTS Kei HAMASAKI Second Departinent of Surgery,Kurume University (Director: Prof. Michihiro Koga) 肝切除43症 例の術後に分枝鎖 ア ミノ 酸(以下BCAA)輸 液を投与 し, その有効性を検討 した。血奨 ア ミノ 酸は術後21日目まで測定し,HPT,NH3,GOT,Albは 術後1 4 日目までの値を対照3 7 症 例 と比 較 した。術前, 肝硬変例 に血奨 ア ミノ 酸のインバ ランスが認め られたが, B C A A 輸 液投与により補正 された。また B C A A 輸 液は術後のアルプミン 合成を初め とす る蛋 白合成に促進的に働 く 方, 明らか なNH3低 下作用を示 し,術後 の NH3上 昇防止に有用であった。さらに術後早期の ネルギ 源 として 有用性 も示唆 され, 肝切除後の栄養輸液の つ として, B C A A 輸 液は 適 しているもの と思われた。 索引用語 :肝 切除術後の栄養輸液,栄養輸液 と分枝鎖ア ミノ はじおめに 肝は膨大な予備能 と旺盛な再生能を持 臓器であ り,正常な肝であれば,肝大量切除にても量的,機能 的に 定の時間でllk調 に回復す ることが多い 。しかし, わが国において最 も肝切除の対象 となる原発性肝癌は 肝硬変合併例が 多 く,肝切除後,常に肝不全を招来す る危険性をはらんでお り,術後の管理,特に栄養代謝 管理は非常に重要 と言える。肝切除後の肝不全の病態 はいまだ明 らか とは言 えないが ,術後栄養 としての糖 の種類,その投与量,Insulin,giucagOnな どいわゆる hepatOtrophic factOrの 投与 1ち またア ミノ 酸輸液の配 合比などを工夫,検討す ることによ り,残存肝の再生 を円滑に進め ,さ らに術後の果化期を迅速に離脱 させ たならば,肝不全を回避で きるのではないか と諸家に て研究がなされてお リ カゆ 特にLeucine(以 下 Leu), Isoleucine(以 下 Ileu),Valine(以 下 Val)の 分枝鎖 ア ミノ 酸(以下BCAA)の 効果が注 目されている.重 症肝疾患や肝切除後 に血装遊離 ア ミノ 酸のインバ ラン スが認め られ ることは以前 よ り知 られ ていたが , 1976年 ,Fischerら が肝障害患者に,このインバ ラン <1985年 9月11日 受理>別帰U請求先:浜 〒801 北 九州市門司区浜町 3-23 門 司労災病院外 スを補正する目的で,Branched chain ami 下 BCAA)輸 液 (Fischer液 ) を考案 し, 著しい臨床 効果を報 じて以来, わが国において も, この F i s c h e r 液 に準じたBCAA製剤(表1)が作成され(Tokyo University Hospital Fluid(以 下 THF)ほか)6)の ,特 に内科疾患 ( 劇症肝炎, 肝硬変ほか) に対す る効果が 検討 されて きた .今回,われわれは , この B C A A 輸 液が , 肝切除後の栄養輸液 として適 しているか どうか を, 肝切除後の血奨 ア ミノ 酸異常の補正, さらに肝再 生促進, ひいては肝不全の予防 とい う点か ら, 血装 ア ミノ 酸の測定を中心に種 々の血清学的デ タより検討 した。 昭和5 8 年6 月まで に肝 切 除4 3 症 例 に対 して術後 THFを投与 した。投与症例の内訳は (表2)原発性肝 癌39例 , 胆管癌 1 例, 肝内結石症 2 例, 肝血管腫 1 例 であ り, その術式は 2 区域切除1 5 例 ,1区域切除 5例, 亜区域切除 6 例, 部分切除1 7 例 , 硬変併存は2 8 例 であっ た。性別は男33例 , 女1 0 例 と男性が多 く,年齢は平均 57.2歳 (35~ 76歳 )であった。術前肝機能予備力の平 均値は術式別に2区域切除では血清albumin(以 Alb)3.8,血 清cholinesterase(以 下 chE)0.66,ICG 15分 値(以下1〕ICG)16.2,ICG消 失率 (以下KICG)

Transcript of 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳...

Page 1: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

日消外会議 19(1):19~ 28,1986年

肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義

久留米大学医学部第2外科 (主任 t古賀道弘教授)

浜 崎 恵

CLINICAL SIGNIFICANC■ OF BRANCHDD CHAIN AMINO ACIDS

TRANSFUS10N IN HEPATECTOMIZED PATIttNTS

Kei HAMASAKI

Second Departinent of Surgery,Kurume University Sch001 of Medicine

(Director: Prof. Michihiro Koga)

肝切除43症例の術後に分枝鎖アミノ酸 (以下 BCAA)輸 液を投与し,そ の有効性を検討した。血奨アミノ酸は術後21日目まで測定し,HPT,NH3,GOT,Albは 術後14日目までの値を対照37症例と比較した。術前,肝 硬変例に血奨アミノ酸のインバランスが認められたが,BCAA輸 液投与により補正された。また BCAA輸 液は術後のアルプミン合成を初めとする蛋白合成に促進的に働く一方,明 らかなNH3低 下作用を示し,術後のNH3上 昇防止に有用であった。さらに術後早期のエネルギー源としての有用性も示唆され,肝 切除後の栄養輸液の一つとして,BCAA輸 液は適しているものと思われた。

索引用語 :肝切除術後の栄養輸液,栄 養輸液と分枝鎖アミノ酸

はじおめに

肝は膨大な予備能と旺盛な再生能を持つ臓器であ

り,正 常な肝であれば,肝 大量切除にても量的,機 能

的に一定の時間でllk調に回復することが多い。しかし,

わが国において最も肝切除の対象となる原発性肝癌は

肝硬変合併例が多く,肝 切除後,常 に肝不全を招来す

る危険性をはらんでおり,術 後の管理,特 に栄養代謝

管理は非常に重要と言える。肝切除後の肝不全の病態

はいまだ明らかとは言えないが,術 後栄養としての糖

の種類,そ の投与量,Insulin,giucagOnなどいわゆる

hepatOtrophic factOrの投与1ちまたアミノ酸輸液の配

合比などを工夫,検 討することにより,残 存肝の再生

を円滑に進め,さ らに術後の果化期を迅速に離脱させ

たならば,肝 不全を回避できるのではないかと諸家に

て研究がなされておリカゆ特にLeucine(以下 Leu),

Isoleucine(以下 Ileu),Valine(以下 Val)の 分枝鎖アミノ酸 (以下 BCAA)の 効果が注目されている.重

症肝疾患や肝切除後に血装遊離アミノ酸のインバラン

スが認められることは以前より知 られていたがり,1976年,Fischerらゆが肝障害患者に,こ のインバラン

<1985年 9月11日受理>別 帰U請求先 :浜崎 恵〒801 北九州市門司区浜町 3-23 門 司労災病院外科

スを補正する目的で,Branched chain amino acids(以

下 BCAA)輸 液 (Fischer液)を 考案し,著 しい臨床

効果を報じて以来,わが国においても,このFischer液

に準 じた BCAA製 剤 (表 1)が 作成 され (Tokyo

University Hospital Fluid(以下 THF)ほ か)6)の,特

に内科疾患 (劇症肝炎,肝 硬変ほか)に 対する効果が

検討されてきたり.今 回,わ れわれは,こ のBCAA輸

液が,肝 切除後の栄養輸液として適しているかどうか

を,肝 切除後の血奨アミノ酸異常の補正, さらに肝再

生促進,ひ いては肝不全の予防という点から,血 装ア

ミノ酸の測定を中心に種々の血清学的データより検討

した。

対 象

昭和58年 6月 までに肝切除43症例に対 して術後

THFを 投与した。投与症例の内訳は(表2)原 発性肝

癌39例,胆 管癌 1例,肝 内結石症 2例,肝 血管腫 1例

であり,その術式は2区域切除15例,1区 域切除5例,

亜区域切除6例,部分切除17例,硬変併存は28例であっ

た。性別は男33例,女 10例と男性が多く,年 齢は平均

57.2歳 (35~76歳)で あった。術前肝機能予備力の平

均値は術式別に 2区 域切除では血清 albumin(以下

Alb)3.8,血 清cholinesterase(以下 chE)0.66,ICG

15分値 (以下1〕ICG)16.2,ICG消 失率 (以下KICG)

Page 2: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

Fl郎`8『液

剛」・‐98剛‐・Tr口m的町脚附」・・‐8的」・=‐8」・,rl」・S.r的的」・8‐B」・8rB・・8,8

4.5

5.5

4t2

0・3

0・3

・3.3

2.2

3.7

‐・2

4.8

”0,2

0,2

0・7

0・3

0・8

3.3

0・8

3.0

3‘‐

5.3

2,S

S..

8.2

・0・2

20(20)

表 1

肝切除症例における分枝鎖アミ

投与した分枝鎖アミノ酸製剤の組成

B C A A 輸 液

ノ酸投与の臨床的意義 日 消外会誌 19巻 1号

表 3 THF投 与,未 投与肝切除症例とその術式

THF投 与肝切除症例

原 発 性 所 お 39"

距 管 お 1弱

肝 内 情 石 定 2例

肝 血 管 臣 1 例

8t 43切

肝 切 除 術 式

2 区 峰 切 除 1514)例

1 区嬢 切 際 5 1 4 ) 傷

軍 区 嫁 切 験 6 1 4 ) 観

部 分 切 除 1 7 ( ■) 例

( )口空合併

THF未 投与肝切除症例

原 発 性 師 題 30例

担 奮 癌 1例

肝 内 指 石 症 2例

席 血 害 8 27J

肝 B ' 2碗

計 37例

肝 切 除 術 式

2 区 t 切 膝 13(4)例

1 区 城 切 際 110例

部 分 切 除 13113)餌

( )確空合併

CG 12.9, KICG O.139, R maxl.2, HPT 66.3, T

BO.8,亜 区域切除ではAlb 3.4,chE O.48,15'ICG

22.9,KICG O.126,R maxl,1,HPT 83.2,T.Bl.0,

部分切除ではAlb 3.5,chE O.49,15'ICG 26.4,KICG

O.124,R maxl.3,HPT 64.5,T.Bl.0で あった。

術後合併症は肝不全,高 ビリルビン血症,術 後膵炎,

腎機能不全などが認められ,肝 不全 3症例が今回の術

後入院中に死亡した.THF投 与症例43例の術後14日

目までのHPT,血 清 ammOnia(以 下 NH3),血 清

transaminase(以下 GOT),血 清 Alb,血清total bilir‐

ubin(以下 T.B)を THF未 投与37症例と比較検討した

が,未 投与例の内訳は (表3)原 発性肝癌30例,胆 管

癌 1例,肝 内結石症 2例,肝 血管腫 2例,肝 膿瘍 2例

であった。

方 法

今回の43症例の術後輸液は (表4)糖 液 として

20~50%Glucose液を投与 し,insulinをGlucose 5

~8gに1単位,glucagonは2~4mg/day使用した,7

日目までの投与総力Pリ ーは,平 均1233±490ca1/

day,力Pリー/窒素は平均189±74ca1/dayであった。

凍結血装は術後7日目までに800~1,200m1/day使用

し,THFは 500m1/dayを術直後より平均14日間,午前

表4 対象肝切除症例の術後基本輸液

表 2 THF使 用肝切除症例

0.233,ICG最大除去率(以下 R max)1,4,hepaplastin

test(以下 HPT)81.9,total bilirubin(以下 T.B)

0,8であり, 1区域切除では Alb 3.6,chE O.62,15'I

氏 名 性 年 令 疾 患 名 肝硬変 手 術 術 式 合 併 症

6 席 不 全

肝 細 胞 癌 + t区 々 切除 ― ― ~

肝 劇 胞 な 十 部 分 切 除 _ ―

~

腫 誉 細 胞 お 十 1 区 城 切 稼

6

研 細 胞 癌 + 部 分 切 際 心 不 全

肝 細 胞 な 十 部 分 切 除

6

肝 割 胞 お 十 部 分 切 除

6

所 細 胞 癌 部 分 切 除

肝 細 胞 右 2区 域切際

肝 細 胞 応 十 部 分 切 路

席 鯛 胞 な + 憂 区 域 切 際

肝 細 胞 お + 部 分 切 際

a 肝 割 胞 癒

2 区 塩 切 除 ― ― ~

a 肝 細 胞 病

2区 jt切除

2区 な 切除

8 肝 細 胞 癒

室 区 域 切 除 怖 後 解 焚

肝 細 胞 石

,侵 能不全

肝 細 胞 お

肝 細 胞 お 十

部 分 切 除 百ビツルヒンlE定

肝 細 胞 病

術 松 肝 炎

肝 綱 胞 商 十

む ――

~

肝 畑 胞 稿 + 部 分 切 除

公 肝 細 胞 瓶

部 分 切 除 ― ~

211~50%猛 液にて0.1~049/k3/hr

THF 5的 超/日術直後より平均14日間

術後7日目までCa2:1233±490 Ca″

Ca2/N:189±74 Ca,

衛後7日 目まで

平均800~12側前/日

Page 3: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

1986年1月

9:00か ら午後12:00ま でに投与した。血奨アミノ酸の測定は術後21日目まで, 日立自動アミノ酸分析器に

て行った。HPT,NH3,GOT,Aib,T・ Bは THF投 与

例,未 投与例ともに術後14日目まで隔日に測定し両者

を比較検討した。採血はすべて早朝空腹時に行った。

結 果

1,術 前血奨アミノ酸値 (図1)

術前の血装アミノ酸分析にて,MethiOnine(以 下Met),BCAA,芳 香族 ア ミノ酸 (Phenylalanine十

TyrOsine,以 下 AAA),BCAA/AAA(以 下 m01ar

rate:MR)の 値を硬変併存の有無で比較すると,Metでは硬変例が高く,BCAAで は硬変例が低い傾向に

あった。 さ らにAAAは 硬変例で有意の差をもって高

くなっており,MRも 硬変例で有意に低値を示した。

2.Met,BCAA,AAA,MRの 術後推移

図1 術 前の血奨ァミノ酸値

術 前 “ 寝 憂 〔キ) ●

硬 愛 (―)。

Mshbnine BCAA AAA MR

BCAA: Leucine tt lsoleucine tt Valineであ る

branched chain amino acids(分枝鎖アミノ酸)の

AAA:phenylalaninettThrosineであるaromatic

amino acids(芳香族アミノ酸)の 略

MR: Leucine ttlsoleucine tt Valine/

P h e n y l a l a n i n e t t T h r o s i n eであるm o l a r r a t eの略

21(21)

以上のような術前値を示 した Met,BCAA,AAA,

MRが ,肝 切除後,THFを 投与することにより,ど の

ような値で推移するのか検討した。Metは (図 2上 )

THFに 少量含まれているが,術前34.05±11.54nmo1/

mlあ ったものが術後 1日 目に18.02±10.13nmo1/ml

と低下した後, 3日 目, 5日 日と日を経るにつれて増

加, 7日 目に術前値よりわずかに高い値まで上昇し,

その後は大きな変動は示していない。硬変の有無によ

る違いは7日 目までは,ほ ぼ術前値の差のままで硬変

例が高値で推移した。THFに 高濃度含まれるBCAA

は (図 2下 ),術 後 1日 目に,術 前の382.80±80.63

nmo1/mlか ら296.26±99,01と低下した。しかし,術後

3日 目には,す ぐに418.99±244.75 nmo1/mlを示し,

術前値以上に回復,そ の後も著しい低下は示さず推移

した。硬変例は3日 目に481.75±285.79,非硬変例は,

それより遅れて5日 目に486.51±285.87を示し,そ れ

ぞれのピークを認めた。AAA(図 3上 )も Metと 同様

にTHFに 少量含まれているが,術 後 1日 目149.33土

図2 Met,BCAAの 術後推移

1 4 2 1

術後日数

●ヽ 一 領 変 くキ)

い ― 硬 変 ( ―)

― 平 均 傾

11 14 21

術後日数

, 一 寝 室 ( →)

。ヽ 一 確 費 ← )

― 平 均 ■

Page 4: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

22(22) 肝 切除症例における分枝鎖ア

62.87と低下した後,徐 々に増加傾向が認められた。し

かし,そ の増加も極端な上昇はなく,特 に硬変例でさ

え著しい高値を示すことなく推移した。MRは (図3

下)術 後 7日 目までは術前とほぼ同様の値で推移した

後, 9日 目,11日 目にそれぞれ1.64±0.573,1.67土

0.475と低値を示した。しかし,全 経過を通して1.0以

下の著しい低値を示すことはなかった。

3.THF投 与群と未投与両者間の術後 HPT, Alb,

NH3,T・ B,GOT値 の比較

HPT,Alb,NH3,T・ B,GOTを THF投 与群,未 投

与群とも術後14日目まで測定し,両 者の値をそれぞれ

比較することによりTHFが これらの検査データにど

のように影響するのかを検討した。HPTで は(図4),

THF投 与群の術前値74.87±16.44%は未投与群の術

前値84.89±13.21%よりも有意に低値を示したが,術

後には1日 目に若千低下するものの3日 目にはほぼ術

図3 AAA,MRの 術後推移

AAA

ノ酸投与の臨床的意義 日 消外会誌 19巻 1号

図4 THF投 与群と未投与群間のHPT値 の比較

7 9 11 14術後日数

前値近くにまで回復し,特 に1,3,5日 日は術前値と

は逆に未投与群 よりも高値を示 した。これに対 し

THF未 投与群の場合,術 後 1日 目に著しく低下した

後,徐 々に上昇はしているが,結 局は術前値よりかな

り低値で推移した。Albも (図5)HPTと 同じく術前

図5 THF投 与群と未投与群間のalb値の比較

11 14術後日数

11 14術後日数

●―一 寝 安 ( + 〕

。 ― 硬 安 ← )

― 平 均 値

1 4 2 1

術後 日数

い一 寝 室 ( わ。 ―寝 宝 ←)― 一 平 均 “

1 4 2 1

術後日数

e THF f,58

o- - THF *f58

1 _ 、

ィ 1 、

図6 THF投 与群と未投与群間のNH3値 の比較

Page 5: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

1986年1月

有意に低値を示した THF投 与群が 3日 目から11日目

までは術前 とは逆に未投与群 よりも高い値で推移 し

た。NH3(図 6),T・ B(図 7)は 術後同様な動きをし

てお り,THF投 与群が 3日 日以降,未投与群よりも低

く推移 してお り,特 に NH3の 術後 3日 日と11日目の

THF投 与群は有意の低下を示した。GOTは (図8)

術前 THF投 与群が有意に高値を示 しており,術 後 も

ほぼこれと同様の差を保って推移 し,未 投与群 との違

いは認めなかった。

4.個 々の血奨アミノ酸の推移 (図 9a~ f)

個々の血奨アミノ酸の推移を THF中 に合有 される

濃度別に検討した,Val,Leu,Ileu,Proline(以下 PrO),

Alanine(以下 Ala)は THFに 高濃度含まれているが,

その うちVal,Leu,Ileuは 術後 1日 目に低下するもの

の,THFに より高濃度輸液されるためか術後 3日 目

にはもう術前値近 くか,そ れ以上に回復 し,そ の後は

大きな変動は示さず推移 した。これに対しPrO,Alaは

高濃度投与されているにもかかわらず術後 3日 目に最

図7 THF投 与群と未投与群間のTB値 の比較

|

P r e . 1 o s z 9 1 1 1 4術後日数

図8 THF投 与群と未投与群間の GOT値 の比幹

23(23)

も低値を示した後,術 前値までに回復するのに11日目

ま で を 要 した。次 に T H F に 中 等 度 含 ま れ る

Threonine(以 下 Thr),Serine(以 下 Ser),Glycine

(以下 Gly),Histidine(以 下 His)で は His以 外は術

後11日目まで徐々に術前値に回復する推移を示 した

が,Hisは 術前,術後を通してほとんど同様の値で推移

してお り,大 きな変動は認めなかった。THFに ごく少

量含まれているにすぎない Phe,Tyrは 同じAAAで

あ りながら,そ の術後推移は大 きく果ってお り,Tyr

は術後 1,3,5日 と低下し, 7日 目で術前直以上に上

昇しているのに対し,Pheは 術後 1,3日 と術前値より

わずかに高 く上昇 した後は大 きな変動は示 さなかっ

た。最後 に THFに 全 く含 まれていない Glutamic

acid(以下 Glu)の 術後推移をみると,術 後 1,3日 と

低下 した後,11日 日に初めて術前値以上に上昇した。

5.糖 原性,ケ ト原性ア ミノ酸の術後推移 (図 9a

図9 個 々のアミノ酸の術後推移☆高濃度群 ★ 中濃度群

●低濃度群 Ⅲ非含有群

糖 原 性…PrO.Ala.Gly.Thr.Ser.Glu.

ケト原性"・Val.Leu.Ileu.His,Tyr.Phe.

(図9a)

14 21術後日数

14 21

行後日数

培競控

TIII土

― THF必 辞

O――THF本 笹与麻

11 14

術後日数

Page 6: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

24(24)

( 図9 b )

肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義

( 図9 c )

1 4 2 1

行後 回数

e t ――配 = ( + )

。 一 寝 変 ( 一)

ト ー 平 均 “

日消外会誌 19巻 1号

P r e , 1 3 5 7 9 1 1 1 4 2 1術後日数

みやかに肝の量的,機能的な回復をはかることにより,

この肝不全を回避する努力が必要となる。肝切除の栄

養管理に関しては,古 くはDavislのがRatの肝切除後

に高蛋白,高 含水炭素食を与えた群とそうでない群と

の比較をした報告など,か なり以前より研究がされて

おり,最 近では本邦においても,多 施設で, この栄養

管理に関しての多くの報告がみられるlD121.肝切除後

の栄養,代 謝管理を行うに際して,い わゆる糖質,脂

質,蛋 白質などの栄養素の重要性について,そ れぞれ

検討を加えるべきであろうが,Packlめらが肝切除後の

血清アルブミンの急速な低下を報じて以来,肝 切除後

においては,代 謝の中心をなすものは蛋白代謝である

とされている。 し かし, この蛋白代謝も独立したもの

ではなく,糖 ,脂 質代謝と相互に関連しあっており,

単一にとらえられるものではない,蛋 白の元をなすア

ミノ酸の代謝に関する報告は多いが,1974年 以来,

Fischerlわらは肝硬変などの慢性肝疾患において,血中

AAA,Metの 上昇とBCAAの 低下が認められ, この

BCAA/AAA比 の低下が肝性脳症の発症進展に重要

な役割を果たしているとし, この状態にBCAAを 投

数日2‐確

一l

,―

―T

P r e t 1 3 5 7 9 1 1 1 4 2 1術絵日数

~f)

以上の12種のアミノ酸を別の観点から,糖 原性,ケ

ト原性の2つ に分け,そ の術後推移を検討したが, ケ

ト原性のアミノ酸相互には大きな共通点は認められな

いのに対し,糖 原性のPro,Ala,Ser,Gly,Thr,Gluの

6種は,術 後早期に術前値よりも低下した後,徐 々に

上昇し,11日 目でようやく術前値にまで回復するほぼ

同様の推移を示す共通点が認められた,

考 察

近年,腹 部超音波検査を中心とした画像診断の発達

は著しく,肝 切除の適応となるような微小な肝病変が

早期に発見されるようになった。そのうえ肝臓外科の

分野では, この超音波装置を駆使した術式の確立など

によって,肝 切除が容易に行えるようになり,原 発性

肝癌を中心とした多くの疾患に対して積極的に肝切除

が施行されているり。しかしながら,障 害肝の切除や,

正常肝であっても大量肝切除を行うと,術 後に致命的

な肝不全に陥いる可能性があり,術 前の肝予備能の判

定,術 式の選択はもちろん,術 後の適切な栄養管理に

より,肝 が元来もっている旺盛な再生能を活用し,す

e t 一寝 理 くキ)

い 一 硬 変 ( ―)

ト ー 平 均 宮

Page 7: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

1986年1月

( 図9 d )

25(25)

(図 9e)

H isr

T T T I T T " I- "

14 21術後日強

P r e . 1 3 5 7 9 1 1 1 4 2 1術後日数

与することにより,血 装遊離アミノ酸のインバランス

を正常化させ,肝 性脳症を改善することができると報

告している。このインバランスの成因については,肝

硬変では門脈一大静脈短絡形成があり,イ ンスリンの

不活化が行われず,高 インスリン血症がみられる1"と

ともに,BCAAは 骨格筋で代謝,そ の取り込みはイン

スリン依存性であることが加わり,BCAAの 取り込み

が克進し,血中濃度の低下を招くI。と考えられている。

またSoeterslつらはAAAの 増加の原因はインス リ

ン/グルカゴン比の低下による代謝の異化刺激と肝に

おけるアミノ酸の処理能力の低下によるとしている。

われわれの症例においても,術 前の血奨アミノ酸のイ

ンバランスが認められ,AAA,Metが 硬変例で有意に

上昇しており,BCAA,MRも 硬変例で低値を示した。

この状態は肝切除によりさらに肝の代謝能力が低下

し,AAAが 上昇することによって著しいものとなる

ことが予想され,肝 性脳症の発生の危険性が増すこと

になる。この血奨アミノ酸のインバランスを改善する

ことは,THF投 与の一つの目的であるが,実際に,術

後AAAの 著しい上昇は抑えられている。また BCAA

寝 = 〔+ )

寝 = ( ―)

平 均 “

14 21術後日数

Pre. 1 3 5 7 9 11 14 21

行後日数

は骨格筋において代謝され,肝 機能の良悪によって,

その代謝はあまり影響を受けず,投 与したBCAAを

反映してか,そ れだけ上昇しており,そ の結果として

MRは 高値で推移した。MRの 低下により肝性脳症が

発生するとしたFischerら'の理論から言えば,そ の

予防の意味からもBCAA輸 液の投与は有用となる。

血清アルブミンの術後代謝に関しては,一 般に手術

侵襲後において肝における蛋白合成機能の元進が認め

られ1ゆ,肝切除後においても,Mttamdariりらは,肝 ポ

リブームの蛋白合成能の増加によリアルブミンの合成

能が増加すると報告している。 し かし, このように肝

切除後の肝における蛋白合成がさかんに行われている

ものの,肝容積が小さいため,そ の量が不十分であり,

アルブミン合成が盛んになるのは4日 以降であるとい

う報告192の21)もみられる。他方,手術後は蛋白異化が充

進221するとともに,血管外の露出がおこり,一般に血清

アルブミン濃度の低下が認められる。この結果,膠 質

浸透圧が低下し,ア ルブミン合成がぶ活化されること

になるlD20.っまり,アルブミンの異化元進が著しい時

期においても,一 方では肝においてさかんにアルブミ

1

● ― 硬 愛 ( + )

。―― 寝 奏 ( ―)

― 平 均 宮

Page 8: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

26(26)

(図 9f)

ン合成が行われ,血 中に放出されているのである。今

回の症4/11の血清アルブ ミン値の推移をみると,THF

未投与群では,や は り術後低下するものの,投 与群で

はほとんど低下は認められず,何 らかの THFの アル

ブミン合成への影響が示唆された。

肝切除後の肝機能を評価す る検査 の一つである

HPTは ,血液凝固因子活性を測定 したもので,これら

の因子は肝で合成され,肝 の蛍白合成能を正確に表現

するといわれている20251.血清アルブミン値 と同様に

HPTも 術後早期の推移をみるとTHF群 に有効な差

が認められており,ア ルブミン合成に限らず,肝 の蛋

白合成一般にTHFの 投与は良い条件を与えているの

かもしれない。

肝性脳症に対 して,大 きな役害Jを果たしている高ア

ンモニア血症に対 して,以 前 より,Arginine(以 下

Arg),Glutamineや Omithine,Asparagineなどのア

ミノ酸製剤が,ア ンモニア濃度の低下剤として使われ

てきた20。しかし, これを肝切除後に使用するには 1

~2種 のア ミノ酸を大量に投与することがア ミノ酸

肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義 日消外会議 19巻 1号

プールの不均衡を助長させ,円 滑な蛋白合成を障害す

る点2のゃ,障 害肝ではUrea生 成酵索のArg活 性が低

い点2ゆなどについて疑間が残る。そこでアンモニア低

下作用があるといわれる2913いTHFを 肝切除後に使用

したのだが,明 らかに血清アンモニアの低下を認め,

高アンモニア血症の予防という点からは良好な結果を

得た。これは投与された大量のBCAAが 骨格筋に

よって代謝される際にアンモニアを積極的に摂取し,

解毒している機序によるものと思われる3,321.

術後のBCAA投 与に関して, さらに大きな利点と

なるものに,術 後の異化状態の改善ということがあげ

られる.Cuthbertson3のが手術侵襲に伴 う代謝性変動

について,酸 素消費の増大と尿中窒素排泄の増加を報

告して以来,外 傷や手術侵襲により,生 体は体蛋自の

崩壊,す なわち異化に傾くことが知られている。 こ れ

に対 し,最 近sepsisや手術後の異化期において,

BCAAの 投 与 が 蛋 白 代 謝 の 改 善, つ ま り

Anticatabolic effectをもっていることが明らかとな

り3つ39,本邦においても,辞 ら3いは,14C‐Pイ シンを用

いてtracer実験により,ア ラエン合成を通じ14C‐ロイ

シンが糖新生に深く関与し,術 後のエネルギー源とし

て,術 後早期のBCAAの 積極的投与を示唆している。

肝切除後の肝再生を迅速に進め,す みやかに術前の

大きさ,機 能をもつ状態に回復したならば,そ れだけ

肝不全に陥いる可能性を少なくすることができると考

えられる.肝 再生に対してアミノ酸がどのように関与

しているのかは,一 つには肝再生の過程で蛋白合成,

DNA合 成3つにおける重要な素材としてアミノ酸が働

くことが考えられ, さらに質,量 の問題に対しては,

切除肝や培養肝細胞を使って,実 験的に検討がなされ

てきた3ゆ3り。15N‐rィ シンをtracerとして硬変肝切除

後の残存肝における蛋白合成能を測定し,硬 変肝切除

後にBCAA richな アミノ酸組成液の投与が有用であ

るとする報告や,投与ルートに関しては,末永4のはァミ

ノ酸を経門脈的に肝内投与するとDNA標 識率は末精

静脈投与より有意に上昇して,門 脈血中のアミノ酸が

肝再生の促進に重要な役割を果すと報告している。本

研究では肝再生の直接的な指標となる血清学的,形 態

学的検査は行われておらず,明 確に結論づけることは

できないが,既 述の報告から,肝 再生に対 しても

BCAA輸 液は促進的に働く可能性が示唆された。また

アミノ酸投与ルートは,わ れわれはすべて未精静脈よ

り投与したが,経門脈的投与の方がより生理的であり,

肝再生に対してもより有効なルートである可能性が高

11 14 21術後日数

← ― ■ ■ t 4 j

。 ―寝 宝 ←)

ト ー 平 均 “

9 11 14 21術後日数

Page 9: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

1986年1月

いことなどを考えあわせると,容 易には臨床的に汎用

し難いが,経 門脈投与の可能性について,今 後さらに

検討を加えたい。

肝切除後の血奨アミノ酸濃度の推移については,国

谷4りは成犬の70%肝 切除で認めた結果,血 清アミノ酸

濃度は肝切除後に著しく増加した後 5日 目までに術前

値に戻り,特 にphe,Tyrの 増加が著しいことを報告

し,そ の原因としては,肝 障害によるアミノ酸処理能の低下,組 織蛋自の異化作用の元進, アミノ酸プール

からの逸脱が考えられると述べている。 し かし,わ れ

われの測定では,術直後のPheの 上昇は軽度であり,Tyrは 逆に低下を認めた。さらにTHFに 多量に含ま

れるにもかかわらず,Val,Leu,Ileu,Pro,Alaさ えも

術直後の上昇は認められず,術 前値と同様か逆に減少

しており,THF投 与が,血奨アミノ酸代謝の変化をも

たらし, このような違いとなったものと思われる。つ

まり,THFに よる外来性のアミノ酸のみならず,これ

らによる既存の血奨アミノ酸への影響により,ア ミノ

酸の直接的な酸化によるエネルギー源としての利用,

糖新生への利用, さらに蛋白合成への利用などがぶ活

化され,血 奨アミノ酸の低下をきたした可能性も考え

られる。ことにglucogenic amino acidであるPro,

Ala,Ser,Gly,Thr,Gluが 術後に同じようなパターン

で低下傾向を示した点を考慮すると, これらのアミノ

酸が糖新生へと利用されたことを強く示唆しているの

かもしれない。しかし,ア ミノ酸の代謝は,一 様に考

えられるものではなく,たとえば,Alaひ とつについて

も,手 術侵襲後の肝に到達したAlaの 主なる代謝経路は糖新生への経路であり,術 後の高血糖の成因のひと

つは肝におけるglucogenic amino acidからの糖新生

の元進であるとする報告421ゃ,逆 にブドウ糖とAlaを

同時に投与する場合,ブ ドウ糖およびAlaと も互い

に, 自身の酸化に対して相乗的な効果をもっており,

Alaの 直接的な酸化によるエネルギー源への利用を示

唆した報告4めなどがあり,一つのアミノ酸についても,

その状況の違いにより,種 々の代謝様式を示すことが

考えられる。

このように,BCAA輸 液投与は,有 効と考えられた

が,今 回の43症例の予後をみると, 3症 例が肝不全に

陥り死亡した。術前の肝予備力は,こ の3症例を含め,

十分にそれぞれの術式に耐えうるものであり40,そ の

うえ,肝 不全の原因として,そ れぞれ術後の断端部大

量出血,閉 塞性黄疸,急 性解炎というアクシデントが

大きく関与していたことを考えあわせると, この肝不

27(27)

全は,BCAAを 中心とする栄養輸液だけでは,防 ぎえ

るものではなかったものと考えられ,栄 養管理という一つの方面だけではなく,総 合的な術後管理の努力の

必要性が痛感させられた。

結 論

肝切除患者43症例 に対 して,術 後 BCAA輸 液

(THF)を 投与し,血 奨アミノ酸,HPT,NH3,GOT,

Alb,T・Bを 測定することにより,その有効性について

検討した結果,次 のような結論を得た。

1.肝 硬変症例の術前において,AAA, BCAA,

MethiOnineのインパランスが認められた。

2.肝 切除後のAAA, BCAAの インバランスが

BCAA輸 液により補正された。

3.Alb合 成を初めとして,HPTょ りみて,肝 の蛋

自合成にBCAA輸 液は促進的に働いた。

4.BCAA輸 液は,明 らかなNH3低 下作用を示し,

術後のNH3上 昇防止に有効であった。術後早期のエネ

ルギー源としてのBCAA輸 液の有用性が示唆され

ブと.

稿を終わるにあたり御指導,御 校閲を賜わりました古賀

道弘教授に深甚なる感謝の意を表わすとともに,直 接御指

導を頂きました中山和道助教授,才津秀樹先生をはじめ,本

研究に御協力を頂いた研究室員一同に心よりの謝意を捧げ

ます。なお,本論文の要旨は第69回日本消化器病学会総会お

よび第21回日本消化器外科学会総会において発表した。

文 献

1)服部 信 ,野田八嗣,日中延善ほか :インスリン・

グルカゴン療法の理論的背景.日 臨 40:831--886, 1982

2)葛 西洋一,国谷敏彦 i肝切除と術前後の栄養管理.手術 35!1363-1371,1982

3 ) 佐藤 博,確 井貞仁 :肝臓手術.消 外 6 : 4 2 5--431, 1983

4) Vヽalshe JM: Disturbances Of amino acid

metabolism following liver iniury: Study bymeans of paper chromatography,Q J Med 22:

483--505, 19535 ) F i s c h e r J E , R o s e n H M , E b e i d A M e t a l i T h e

efect of nomalization of plasma amino acidson hepatic encephalopathy in mano Surgery80 : 77--91, 1976

6)武 藤泰敏 t肝不全用特殊組成アミノ酸輪液製剤.種類・成分比.投 与法,日 臨 40:817-823,1982

7)三篠健昌,比田井耕,和国達雄ほか :肝不全用アミノ酸輸液THFお よび類粒THF‐Gに ついて.THF研 究会会報 1:1-9,1980

8)海 藤 勇 ,鈴木一幸,加藤章信ほか t分枝鎖アミノ

酸輸液の肝性昏睡覚醒効果.日臨 40:811-816,1982

9)日 本肝癌研究会 :原発性肝癌に関する追跡調査.

Page 10: 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義journal.jsgs.or.jp/pdf/019010019.pdfMet),BCAA,芳 香族アミノ酸(Phenylalanine十 TyrOsine,以下AAA),BCAA/AAA(以

28(28) 肝切除症例における分枝鎖アミノ酸投与の臨床的意義 日消外会議 19巻 1号

肝臓 23!675-681,19821 0 ) D a v i s N C , Vヽ h i p p l e G H : L i v e r r e g e n e r a t i o n

follo、ving chioroforttn injury as induenced by

various diet Arch lnt MIed 23 1 711-722, 1921

11)葛西洋一,国 谷敏彦 1肝切除後の栄養管理.手 術

35 i 1363--1371, 1981

12)岡 本英三,山 中若樹 1肝切除後の管理.消 外 2:

1207--1212, 1979

13)Pack GT, Baker H Vヽ i Total right hepatic

lobectomy Ann Surg 138:253--258, 1953

14)Fischer JE,Yoshimura N,Aguirre A et ali

Plasma amino acid in patients with hepatic

encephalopathy Am J Surg 127:40-47, 1974

15)Greco AV,Crucitti F,Ghirlanda G: Insulin

and glucagon concentrations in portal and

peripheral veins in patients with hepatic cirr・hosis,Diabetologia 17 1 23-28, 1979

16)Muro HN,Femstrom JD,Wurtman RJ: In‐

sulin,plasma amino acid imbalance and hepatic

cOma. Lancet l : 722--724, 1975

17)Soeters PB, Fischer JE: Instlin, giucagon,

amino acid imbalance, and hepatic ence‐

phalopathy Lancet 2:880-882, 197618)辞 光 明 :手術侵襲後のエネルギー.蛋 白代謝に

関する実験的研究.日 外会誌 83:1177-1189,

1982

19)Majamdar C,Tsukada K,Lieman L: Liver

protein synthesis after partial hepatectomy andacute stress.J B101 Chem 242:700-704,1967

20)Braun cA,Marsh JB,Drabkin DC: Synthesis

Of plasma alburnin and tissue proteins in r

egenerating liver. Metabollsm ll :957--966,

1962

21)国 谷敏彦 :肝再生とアミノ酸代謝に関する研究.

日外会誌 821748-758,198122)武 藤輝一,小 山 真 ,岩渕 真 ほか :蛋白代謝.手

at 251977--984, 1971

23)Rothschild MA, Oratz M, Evans CD et al:

R01e of hepatic in↓erstitial albuminin regulat‐

in g a l b u m i n s y n t h e s i s . A m J P h y S 1 0 1 2 1 0 :

57--62, 1966

24)竹 谷 弘 :肝切除術とヘパブラスチンテス ト.外

科治療 12!1715-1718,197925)大 塚雅昭 :肝切除後のrapid tum over serum

proteinの変動.日 消外会誌 1611678-1683,

1983

26)Najarian JS,Happer HA: Comparative effect

of arginine and mono sodiu■ l glutamate on

blood amlnonia.Proc Soc Expt Blol Med 92:

560--563, 1956

27)渡 辺明治,東 浚 宏,小畑尚宏ほか :劇症肝炎の治

療における分枝鎖アミノ酸輸液の臨床的意義.肝

臓 20:702-713,197928)Wolfe SJ,Fast BB,StomontJM et ali Treat‐

ment of hepatic coma:Use of krebs urea cycle

intermediation(1‐arginine,d卜ornithine).J Lab

Clin Med 51 :672--689, 1958

29)三 條健昌,北 田井耕,川 崎誠治ほか tTHFに 関す

る基礎的研究.THF研 究会会報,第 4巻 ,近 代企

画,1981,p174-18730)神 代龍吉,前山豊明,九山 泉 ほか :特殊組成アミ

ノ酸輸液 THFの 使用lra験.肝 性脳症30例での臨

床効果.薬 理と治療 10!755-783,1982

31)Lockwood AH,Mcdonald JM, Reiman RE:

The dynaHlics of anlmonia inetabolisln in man

Effects of liver diseace and hyperammonemia.J

Clin I Invest 63:449--460, 1979

32)橋 本 修 ,林 真 功,盲藤公志郎ほか :肝性脳症に

おけるアミノ酸代謝 とその治療.臨 科 17:1290--1300, 1981

33)Cuthbertson DP: The disturbance of

metabolisln produced by bony and non‐ bony

ilttury6 With notes on certain abnorlnal condi‐

tions of bone.Biochem J 24:1244-1263, 1930

34)Freud H,Hoover HC,Atamian S et al: In‐

fusion of th branched chain aminc acids in post‐

operative patients.Ann Surg 190:18-23, 1979

35)Blackbum GL,Moldawer LL,Usui S et al:

Branched chain amino acid administration and

metabolism during starvation,iniury and infec‐

tion.Surg 86 i 307--315, 1979

36)辞 光 明,吉川恵次,勝井 豊 ほか :術後早期のア

ミノ酸代謝の研究一筋組織を中心として一.外 科

と代謝 ・栄養 15:57-64,1981

37)Cater DB,Holmes BE,Mce LK: Cell division

and nucleic acid synthesis in the regenerating

liver of the rat.Acta Radio1 46:655--667, 1956

38)Mondon GE,Mortimore CE: Etects of insulin

on amino acid release and urea fomation in

perfused rat liver.Am J PhySi01 212:173-178,1967

39)Fischer MM, Kerly M: Aminc acid

metabolism in the perfused rat liver.J phySi01

174:273--294, 1964

40)末 永昌宏 :肝切除後の再生に関わる門脈性因子に

ついての実験的研究一特にアミノ酸の果す役割 り

について一。日外会議 84i424-436,1983

41)国 谷敏彦 ;肝再生とアミノ酸代謝に関する研究.

日外会誌 82:748-758,198142)吉 川恵次,辞 光 明,三科 武 ほか :手術侵襲に伴

う肝でのアラエンからの糖新生.外科と代謝・栄養

16i 55--64, 1982

43)百瀬健彦,芳田一宏,前田正之ほか :手術侵襲と脂

肪乳剤,ブ ドウ糖およびアラエンのエネルギー代

謝における相互関係.外 科と代謝 ・栄養 15t97--102, 1981

44)野 口 孝 ,水 本龍二 1肝癌の切除療法一肝の予備

力を中心とした手術適応規準一.肝 ・胆 ・膵 5:

1089--1095, 1982