【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演...

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2011.1 金属資源レポート 29 19 28 LME1. ベースメタルの価格形成 1-1. 現物市場 ベースメタルを含むコモディティ市場全般に言える ことは、コモディティ価格は現物市場の需給動向を反 映するということである。すなわち現物市場の需給動 向を見ておくことで、価格の方向性をある程度分析・ 予測することができるのである。国際銅研究会(ICSG)、 国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際ニッケル研究会 (INSG)、国際アルミ協会(IAI)、WBMS、各国の政府 機関などのデータや予想を参考にするが、現物市場の 需給動向に関するデータの開示は常に後追い情報とな るため、随時出される主要機関の需給見通しを常にア ップデートすることが肝要である。 またロンドン金属取引所(LME)が毎営業日に公表 する指定倉庫の在庫量を確認し、その傾向から価格動 向を見通すことも重要である。現物市場に関わる業者 であれば、日々の現物ビジネスの動きや現物のプレミ アム動向から需給動向を推察することも必要である。 さらに、昨今では中国市場の動向が需給・価格に大 きな影響を与えていることから、中国の生産・消費動向、 さらに輸入・輸出動向には常に注目しておく必要があ る。 価格を見ていく上でのポイントの 1 つとして、ロン ドン金属取引所はいわゆる先物市場ではない。先物市 場とは簡単にいえば、たとえば6月渡し、7月渡し、 8月渡しと月に1つの値段が立っており、その月が終 われば次の月の取引をしていくのがいわゆる先物市場 である。 1-2. 先物(先渡し)市場 LME は毎日受け渡しが発生する市場であり、その意 味では金の現物取引であり──為替も同様──スポッ トに対して2日後に資金をデリバリする、ないしは受 けることになり、これは LME も全く同じである。た とえば今日取引する場合、購入価格は2日後の受け渡 しの価格になる。これが先渡し市場と言われる LME 独特のコモディティ市場の価格形成と受け渡し条件で ある。 もちろん、価格を見ていく上ではこうした公設市場、 すなわち誰もがアクセス可能な場所において、市場の 価格や出来高、取組高、未決済の建て玉、在庫の動向 などを押さえておく必要がある。たとえば最近のサブ プライムローンの問題において注目されているのは、 米国のボルチモアにおけるアルミ在庫の急増である。 この動きを見れば、やはり米国における建設需要は落 ちてきており、それに伴い在庫が増えているために価 格が下がることが予想できる。このように、それぞれ のファクターを1段、2段と掘り下げて見ていくこと により、直近の価格変動などの分析も可能となる。ま た上海取引所(SHFE)においてはアルミ、銅に加え て最近になり亜鉛まで上場されており、こうした銘柄 の LME 価格との価格差(スプレッド)に注意を向け るほか、昨今新聞をにぎわせているヘッジファンド、 インデックスファンド、CTA の様子から投資家や投機 家の動向をうかがうのである。 1-3. 市場価格の決定要因 市場価格の決定要因としては、まず現実市場の動向 である。特に最近の銅相場においてはストライキや生 産障害などによる供給減少の影響が非常に大きい。ま た逆に価格高騰による鉱山開発の加速または価格下落 による鉱山開発の遅れも要注意である。最近の銅やア ルミ、亜鉛、ニッケルの価格上昇は、1995 〜 1996 年 に高値をつけた際に著しく鉱山開発が進んだ結果、数 年の間に供給が増加し、結果として 2000 年に入り供給 の量がなかなか増えず、その過程で中国における需要 が増えてきたことに伴い需要が逼迫したという経緯に よるのである。したがって、現在価格が上昇中である 本稿においては、ベースメタルの価格形成、価格動向及び LME について解説を行う。 非鉄金属の価格はこの数年上昇を続けており、特に注目度もこれまでにない高まりを見せている。一方で、その価 格がどのような根拠により決められているのかがなかなか伝わりにくい市場であると一般的には認識されている。非 鉄金属、特に銅についてはほかのコモディティに比べ、価格形成の分析方法が難しいというのが筆者の率直な感想で ある。 なお、本稿に掲載の資料はアストマックス株式会社が信頼性が高いとみなす情報などに基づいて作成しているが、 その正確性、完全性などについて保証するものではない。また、本稿掲載の資料に示すデータ、意見は資料作成日の 実績、見解を示すものであるが、これら資料により被った損害を補償するものではない。 697【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】 ベースメタルの価格形成、価格動向と LME の役割 江守 哲 アストマックス株式会社 運用部ファンドマネージャー

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2011.1 金属資源レポート 29

特集・連載

【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

1. ベースメタルの価格形成1-1. 現物市場

ベースメタルを含むコモディティ市場全般に言える

ことは、コモディティ価格は現物市場の需給動向を反

映するということである。すなわち現物市場の需給動

向を見ておくことで、価格の方向性をある程度分析・

予測することができるのである。国際銅研究会(ICSG)、

国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際ニッケル研究会

(INSG)、国際アルミ協会(IAI)、WBMS、各国の政府

機関などのデータや予想を参考にするが、現物市場の

需給動向に関するデータの開示は常に後追い情報とな

るため、随時出される主要機関の需給見通しを常にア

ップデートすることが肝要である。

またロンドン金属取引所(LME)が毎営業日に公表

する指定倉庫の在庫量を確認し、その傾向から価格動

向を見通すことも重要である。現物市場に関わる業者

であれば、日々の現物ビジネスの動きや現物のプレミ

アム動向から需給動向を推察することも必要である。

さらに、昨今では中国市場の動向が需給・価格に大

きな影響を与えていることから、中国の生産・消費動向、

さらに輸入・輸出動向には常に注目しておく必要があ

る。

価格を見ていく上でのポイントの 1 つとして、ロン

ドン金属取引所はいわゆる先物市場ではない。先物市

場とは簡単にいえば、たとえば6月渡し、7月渡し、

8月渡しと月に1つの値段が立っており、その月が終

われば次の月の取引をしていくのがいわゆる先物市場

である。

1-2. 先物(先渡し)市場LME は毎日受け渡しが発生する市場であり、その意

味では金の現物取引であり──為替も同様──スポッ

トに対して2日後に資金をデリバリする、ないしは受

けることになり、これは LME も全く同じである。た

とえば今日取引する場合、購入価格は2日後の受け渡

しの価格になる。これが先渡し市場と言われる LME

独特のコモディティ市場の価格形成と受け渡し条件で

ある。

もちろん、価格を見ていく上ではこうした公設市場、

すなわち誰もがアクセス可能な場所において、市場の

価格や出来高、取組高、未決済の建て玉、在庫の動向

などを押さえておく必要がある。たとえば最近のサブ

プライムローンの問題において注目されているのは、

米国のボルチモアにおけるアルミ在庫の急増である。

この動きを見れば、やはり米国における建設需要は落

ちてきており、それに伴い在庫が増えているために価

格が下がることが予想できる。このように、それぞれ

のファクターを1段、2段と掘り下げて見ていくこと

により、直近の価格変動などの分析も可能となる。ま

た上海取引所(SHFE)においてはアルミ、銅に加え

て最近になり亜鉛まで上場されており、こうした銘柄

の LME 価格との価格差(スプレッド)に注意を向け

るほか、昨今新聞をにぎわせているヘッジファンド、

インデックスファンド、CTA の様子から投資家や投機

家の動向をうかがうのである。

1-3. 市場価格の決定要因市場価格の決定要因としては、まず現実市場の動向

である。特に最近の銅相場においてはストライキや生

産障害などによる供給減少の影響が非常に大きい。ま

た逆に価格高騰による鉱山開発の加速または価格下落

による鉱山開発の遅れも要注意である。最近の銅やア

ルミ、亜鉛、ニッケルの価格上昇は、1995 〜 1996 年

に高値をつけた際に著しく鉱山開発が進んだ結果、数

年の間に供給が増加し、結果として 2000 年に入り供給

の量がなかなか増えず、その過程で中国における需要

が増えてきたことに伴い需要が逼迫したという経緯に

よるのである。したがって、現在価格が上昇中である

 本稿においては、ベースメタルの価格形成、価格動向及び LME について解説を行う。

 非鉄金属の価格はこの数年上昇を続けており、特に注目度もこれまでにない高まりを見せている。一方で、その価

格がどのような根拠により決められているのかがなかなか伝わりにくい市場であると一般的には認識されている。非

鉄金属、特に銅についてはほかのコモディティに比べ、価格形成の分析方法が難しいというのが筆者の率直な感想で

ある。

 なお、本稿に掲載の資料はアストマックス株式会社が信頼性が高いとみなす情報などに基づいて作成しているが、

その正確性、完全性などについて保証するものではない。また、本稿掲載の資料に示すデータ、意見は資料作成日の

実績、見解を示すものであるが、これら資料により被った損害を補償するものではない。

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【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】

ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

江守 哲アストマックス株式会社 運用部ファンドマネージャー

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から、本来は鉱山開発が進み、それに乗って地金の供

給が結果として増えてくるというサイクルに入るはず

であるが、現実にはそうした状況になっておらず、こ

れが価格の高どまりの要因になっているのである。

そしてやはり世界経済の動向や先進国における景気

動向が非常に重要である。特に米国の景気動向が世界

の経済状況を決める状況は変わらない。それに加えて

中国である。こうした新興国における新規の需要が目

覚ましいことが価格の上昇要因になってきている。

このほか、最近では海上運賃である。バルティック

海運指数という指標があり、たとえば銅価格などは

2004 〜 2005 年ぐらいまで、このバルティック海運指

数との連動性が非常に強かった。これは逆に、海上運

賃の動きが結果としてメタルの価格を押し上げる要因

にも一方ではなっているということとして念頭に置い

ておく必要がある。

1-4. 現物価格の決定LME が毎日発表する生産価格の平均が一般的な現物

の受け渡し価格となる(LME セトルメント価格)。こ

れに現物の市場動向や輸送費等々を含めたプレミアム

(現物プレミアム)を加えたものが、CIF 価格と呼ばれ

ているものである。であるから、たとえば日本に現物

を持ってこようとした場合には、LME が発表するセト

ルメント価格に売り手と買い手が決めたプレミアムを

乗せて現金で払う、ないしは多少金利を乗せて後で払

うというやり方になる。実際には日本で物を揚げて倉

庫で渡しを行う場合もある。現実には価格やプレミア

ムを毎日見ながら、一方では倉庫代や輸送費などもす

べてチェックして頭に入れた上でなければビジネスは

できない。実際の現物取引においては単純そうに見え

て実は複雑なことが行われており、表面上は LME の

上昇・下落が取り沙汰されているように見えても、実

はそれだけではなく、プレミアムの部分がむしろ非常

に重要となる。プレミアムが現物の受給を反映してい

ると考えると、この現物プレミアムの上昇・下落が一

義的には価格の方向性の分析をする上での1つの要因

になってくるということも言えるであろう。

2. 需給の推移2-1. 銅

図1は最近における銅の需給動向を示している。こ

のうち図1の左上において青い線は消費量、赤い線は

供給量を示している。2007 年については消費のほうが

増えるという予測になっており、これが結果として銅

価格の高どまり、または再上昇という動きにつながっ

ているのではないかと考えられる。

また基本的なことであるが、図1の左下においてあ

きらかなように地金消費の伸び率(淡い青線)に対し

て地金生産の伸び率(濃い青線)はおよそ1年遅れた

推移となる。すなわち銅生産者は消費の動向に合わせ

て翌年の生産の決定を行うのである。

図1. 銅需給の推移

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ただし、需要の高まりに対して精錬業者が生産を増

やそうとした場合、最近においては──鉱石、銅鉱石

の不足の問題ももちろんあるが──いわゆるスメルタ

ー、精錬キャパシティの不足による生産伸び率の鈍化

が予想される。これにより結果として需給バランスが

再び対等化することによって価格が上昇するとの見方

がなされている。

もう1つ基本的な点に触れておくと、図1の右下は

銅価格の変化率(濃い青線)と、在庫が需要に対して何%

分あるかを示す在庫率(淡い青線)の変化を示しており、

両者は非常に動きが似ている。すなわち在庫率が高い

と価格は下がりやすく、在庫率が低い場合は在庫が足

りないことになるため、結果として価格は上がりやす

くなることを示しているのである。2006 年あたりには

在庫率が若干回復しているが、2007 年に入ってからは

単純な需給バランスから見ていけば(図1の右上)在

庫が非常に不足するために価格が 2006 年から見てさら

に上昇するという状況になっている。

2-2. その他のコモディティほかのコモディティについても見方は基本的に同じ

である。アルミニウムについても需給、生産、消費の

いずれも順調に拡大してきている(図2)。

ニッケルについても同様である(図3)。特にニッケ

ルにおいては、2006 年度において消費量が極端に増え

ており(図3左下)、これにより需給バランスが非常に

悪化した。つまり、供給不足、需要超過となったわけ

であるが、2007 年においてはその反動が予測されてい

るのである(図3右上)。

しばしば新聞などをにぎわせているが、ニッケルは

基本的にステンレスの原材料になる。ニッケルがトン

当たり5万 US$を超えたために代替需要としてクロム

が使われるという話が出た途端にニッケルは大暴落し、

2万 5,000US$まで下がるということが実際に起きて

いる。やはりニッケル相場自身が非常に薄く、参加者

が少なく、出来高も少ない。参加者が限られているマ

ーケットであるため、その値段がこうした現物市場に

おける値決めに使われており、高くなりすぎるために

実際需要が落ちれば値段も下がる。そのように 2007 年

のニッケル相場は上下両方ともに典型的な需給を反映

した値動きとなった。価格の水準は別として、値動き

に関しては非常にセオリーどおりに動いているとの印

象がある。

ここ数年間の需要と供給のバランス、また在庫率で

見た価格変化率を見ても(図3右下)、基本的にはほぼ

同じように動いており、やはり在庫率と価格の変動を

まず押さえておくことが価格を見ていく上で非常に重

要である。

亜鉛については銅やニッケルと比較した場合、セオ

リー的な動きからやや乖離するケースがあるが、基本

的な方向性は銅と同じであると思われる(図4)。

(699)

図2. アルミニウム需給の推移

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図4. 亜鉛需給の推移

図3. ニッケル需給の推移

(700)

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3. 中国の需給の推移前述のように、今、中国一国の需給動向を単体で見

ていくことは重要である。図5は銅(左上)、アルミニ

ウム(右上)、ニッケル(左下)、亜鉛(右下)について、

中国一国における生産と消費の動向を示したものであ

る。一見してわかるとおり、銅の消費の伸びがめざま

しい。また中国は銅については輸入国であるがアルミ

については輸出国であり、中国がどれだけボーキサイ

トを購入してアルミナをつくり、そこから電気分解を

行ってアルミの地金をつくり国外に輸出できるかが、世

界のアルミ需給にとって重要なポイントになっている。

中国は、ニッケルについては輸入国、また亜鉛につ

いては現在生産が若干多いために輸出国としての位置

づけとなる。

図5. 中国の需給の推移

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4. 中国のシェアの推移図6は同様に銅(左上)、アルミニウム(右上)、ニ

ッケル(左下)、亜鉛(右下)についての中国一国にお

ける世界の需給から見たシェアの推移である。いずれ

も右肩上がりになっており、世界の需要と供給が伸び

てはきているものの、それに対して中国においても消

費、生産の両方が拡大している様子がわかるであろう。

たとえば銅については、2000 年における消費のシェア

が 12%であったものが最近では 25%近くにおよんでい

る。すなわち世界中の銅の 1/4 が中国において消費さ

れているのであり、今後は中国における銅の消費動向

が銅価格の方向性を決める1つの要因になってくるの

である。

たとえば米国における石油の消費量は日量およそ

2,000 万〜 2,100 万t弱程度であり、これも世界全体の

消費量の 23 〜 24%程度である。すなわち石油市場を

見る際には米国における需給動向や在庫に目をやり、

次にはシェア第2位である中国の動向を見ていくこと

になるが、非鉄金属に関しては中国のシェアが異常に

高く、そのため米国以上に中国一国の動向をまず見て

おくことが現時点においては重要なのではないかと思

われる。中国のポジションが以前に比べて非常に高く

なっていることについては、いま一度確認しておく必

要があるであろう。

図6. 中国のシェアの推移

5. ベースメタル市場への投資資金の流入5-1. コモディティ市場に流入する投資資金

前節までに触れた需給動向のほか、現在、価格の動

向を決めていく上で重要なポイントを占めているのが

投資資金であり、ファンド等の投機資金がベースメタ

ル価格に対して与える影響は少なくない。

コモディティ(商品)への投資とは、株式投資と考

え方は同じであり、要は経済活動に直接参加すること

である。株式は株そのものに、すなわち企業に対する

投資、ないしは株価に対する投資であるという考え方

があるが、最近では世界においてさまざまなコモディ

ティファンドが設立され投資マネーが入ってきており、

経済サイクルに即して動いているのが実はコモディテ

ィ価格であると考えれば、経済サイクルに乗ってコモ

ディティに投資をしていくという考え方もできるので

あり、そうした観点からも投資マネーがさまざまな形

でベースメタルを含めたコモディティ市場に入ってき

ているのである。

この投資資金のコモディティ市場、特にベースメタ

ル市場への流入はかなり以前から見られ、1990 年代の

いわゆるヘッジファンドの創世期の頃にはジョージ・

ソロスやタイガーファンドなどの大手ヘッジファンド

や投機筋がコモディティ市場に参加しはじめ、ベース

メタル市場への参加が確認されるようになった。かつ

て筆者が東京やロンドンにおいて LME 取引に携わっ

ていた折もそうしたオーダーを目の前に抱えて取引を

行うトレーダーを何人も見ており、投機資金のベース

メタル市場への流入の歴史は意外に短くないのである。

(702)

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【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

当時のヘッジファンドはいわゆる力技の投資スタイル

であり、大量の買いまたは売りを市場で行うことで相

場水準を大きく動かすことで利益を上げるスタイルが

主流であった。

ま た コ モ デ ィ テ ィ 市 場 に は CTA(Commodity

Trade Advisors)が数多く参加している。CTA はト

レンドフォローを主体とした投資スタイルで取引を行

うケースが多く、上昇・下落トレンドが確認されたと

きにはそのトレンドにしたがって取引するため、CTA

の取引によりトレンドが強化されることになる。

5-2. ベースメタル市場の近年の特徴金融機関がコモディティ市場に投資する商品指数フ

ァンドを組成し、株式や為替、債券などの伝統的な投

資対象市場だけでなく、原油、石油製品、穀物、貴金属、

ベースメタルといった世界中のあらゆるコモディティ

に投資できるようになった。このようなコモディティ

ファンドに対して年金や機関投資家が 2000 年代前半に

投資を行い始めたことで大量の投資資金がベースメタ

ル市場に流入し、価格水準が押し上げられることとな

った。その投資資金量は 2006 年時点で 750 億 US$、

2007 年においては 1,000 億〜 1,200 億 US$程度にまで

拡大するといわれている。

こうした投機資金は市場の流動性を高め、ヘッジャ

ーの利便性を向上させる一方、時折、需給の状況を無

視した相場を形成する要因にもなる。投資信託などの

ファンドは、株式と商品との価格の非相関性に注目し

た分散投資を目的に長期的な視野でコモディティ市場

での投資・資産運用を行っている。一方、ヘッジファ

ンドは割安と思われる市場へ資金投入を図り、比較的

短期間で収益を上げることを目的としており、エネル

ギーからベースメタル市場へなどと、循環的に投資対

象を変える習性がある。こうした様々なファンドの動

きは多様であり、動静を把握することは困難である。

5-3. 商品インデックスファンド経由の投資資金額の算出現在(2007 年9月)、いわゆるコモディティ・イン

デックスファンドのおよその残高は 1,200 億 US$──

およそ 13 兆 8,000 億円──程度になり、非常に膨大な

金額が現在コモディティ市場に投資資金として入って

きている。このうちおよそ 700 億 US$がゴールドマン・

サックスによるコモディティ・インデックスファンド、

また 380 億 US$がダウ・ジョーンズと AIG が共同開

発したファンドに入っていると言われており、非常に

ざっくりとした計算をするために、DJ-AIG 指数に配分

されているベースメタルの比率を用いて、どれぐらい

の資金がそれぞれの市場に入っているのかについて試

算を行ったのが表1である。見方が正しいかどうかは

別として、1つのベンチマークにはなるのではないだ

ろうか。たとえば銘柄ごとに比率が異なるが、いわゆ

る実需家以外の市場参加者が相当大きな量を占めてい

ることを見て取ることができるであろう。それぞれの

主要なコモディティ・インデックスファンドの比率を

見ながら、およそどれぐらい入っているかについてイ

メージを持つことは、LME 市場を見ていくという上で

非常に重要なポイントとなる。

(703)

表1. ベースメタル市場への投資資金の流入

商品インデックスファンド経由の投資資金額の算出  投資資金1,200億 US$、DJ-AIG商品指数のベースメタルの構成比率を利用

LMEアルミニウム  LMEアルミ Open Interest=90万枚(2,500US$/t ×25t ×90万枚 =562.5億 US$)  DJ-AIG構成比率=6.8%、1,200億 US$×6.8% =81.6億 US$  インデックスファンド比率概算=81.6億 US$/562.5億 US$=14.5%

LME銅  LME銅 Open Interest=39万枚(7,500US$/t ×25t ×39万枚 =731.3億 US$)  DJ-AIG構成比率=6.2%、1,200億 US$×6.2% =74.4億 US$  インデックスファンド比率概算=74.4億 US$/731.3億 US$=10.2%

LME亜鉛  LME亜鉛 Open Interest=23万枚(3,000US$/t ×25t ×23万枚 =172.5億 US$)  DJ-AIG構成比率=2.8%、1,200億 US$×2.8% =33.6億 US$  インデックスファンド比率概算=33.6億 US$/172.5億 US$=19.5%

LMEニッケル  LMEニッケル Open Interest=7.5万枚(28,500US$/t ×6t ×7.5万枚 =128.3億 US$)  DJ-AIG構成比率=2.7%、1,200億 US$×2.7% =32.4億 US$  インデックスファンド比率概算=32.4億 US$/128.3億 US$=25.3%

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【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

6. ベースメタルの価格動向前節までにおいては価格形成の根拠や判断の材料に

ついて触れたが、本節においてはこれらを踏まえ、価

格の分析をどのように行うかについて触れていきたい。

6-1. 世界の現物需給バランス需給バランスはもっとも重要な指標である。生産・

需要の伸び、在庫バランス、在庫率などは価格分析・

予測のための重要なデータとなる。

また中国の需給動向にも注意が必要である。銅・ニ

ッケルは輸入ポジション、アルミ・亜鉛は輸出ポジシ

ョンであり、銘柄によって需給の状況が異なる。また、

中国の消費量の増加から、アルミ・亜鉛についても輸

出量は限られてくる可能性があり、これが将来の価格

上昇要因となる可能性がある。

6-2. LME在庫動向ロンドン金属取引所が指定した各地域に位置する倉

庫に搬入されている在庫量が毎営業日に発表される。

その在庫のトレンドを分析することで、価格の方向性

などをつかむことが可能となる。

6-3. 金融市場・投資家動向ベースメタルはインフラ整備に使われる重要な素材

である。したがって、需給は経済動向に大きく左右さ

れる。景気動向が上向けば、需要が増加して在庫が減

少するため価格は上昇しやすくなる。逆に景気後退懸

念が高まると、需要低迷から在庫が増加し、これが価

格下落要因となる。

また、株式市場との連動性が高いことにも留意すべ

きである。特に米国株との相関性は高く、株価動向に

も常に注意が必要であろう。米国の経済指標にも注意

が必要となる。特に GDP 成長率や住宅関連指標と価格

の関係について見ておくことが肝要である。

さらに、ヘッジファンドや CTA、さらにインデック

スファンドなどの投資家からの資金流入の動きにも注

意が必要である。LME 市場は他の金融市場と異なり、

市場規模が小さいため、資金量が大きいと価格が大き

く変動するケースが少なくない。

7. 銅の現物需給と価格の関係そこで、実際の現物市場から見た場合の銅の適正価

格を簡単に計算してみたい。図7は、在庫と価格の関

係から見た想定値である。

図7の左は銅の在庫率と価格の関係を非常に単純な

相関チャートで示している。これは 1996 年以降のデー

タであるが、これを見ると 2005 年までは在庫率と価格

の動きの相関が非常に明確であったが、2006 年に銅の

値段が突拍子もなく上がったために、長らく続いてい

た在庫率と価格の関係が完全に崩れている。2007 年に

ついては図のような予測になっており、適正価格はト

ン当たり 4,810US$程度となるが、現在は 8,000US$ま

で上がってきているため、これでは説明がつきにくい。

一方、図7の右は、需要と供給のバランスを単純に

引き、そのバランスが前年から見てどれぐらい変動し

たかに対して、今度は価格がそれに対して何%変動し

たかの相関分析である。相関係数がかなり低くなるが、

およその想定値を計算することができ、これによれば

想定理論値は 9,600US$程度となる。

以上は一例であり、このほかにもいくつかこうした

在庫と価格の関係のチャートを作成し、その中から相

関係数の高いものに対して多目にウエートをかけ、そ

れを全体で案分して適正価格の計算を行うと、およそ

7,500US$となる。すなわち 2007 年の銅の価格にかな

り近づいてくることになるのである。これは結果論に

なってしまうが、需給データから価格の方向性を見て

いく方法は、やり方としては間違っていないのではな

いだろうか。

図7. 銅の現物需給と価格の関係

(704)

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8. アルミの現物需給と価格の関係本稿においてとりあげている銅、アルミニウム、亜鉛、

ニッケルの 4 銘柄の中では、実はアルミニウムが最も

価格分析が困難な銘柄である。アルミニウムは LME

への上場もつい最近であり、また以前は生産者が価格

を決めていた。さらに、アルミニウムはボーキサイト

からつくる。銅、鉛、亜鉛、ニッケルは基本的には同

じようなところで採れるため価格の連動が理解しやす

いが、アルミにはそのような相関性がない。そのため

在庫率や在庫動向から価格を見ていくのが非常に難し

い銘柄である。

そのあたりを踏まえ、在庫率と価格変動率の関係か

ら価格の予測を端的に行ったのが図8であり、相関係

数も非常に高く、有効性が期待できる。これによれば、

2007 年におけるアルミニウム価格の平均は 2,725US

$であり、現在は 2,500US$程度であるから、現在の

価格のほうが多少安いことになるが、おおよそのとこ

ろにはおさまってくるようである。

9. ニッケルの現物需給と価格の関係ニッケルについてはさらに相関係数が高く(図9)、

これは分析の上で非常に有効性が高いと思われる。図

9の左は在庫率と価格の関係であり、需要と供給のバ

ランスと価格の上昇・下落で見ていくと、およそ2万

US$を割るぐらいの水準となり、現在の価格に近づい

てくる。また図9の右のように在庫バランスと価格の

変動率を見ていくと、さらに現在の価格に近くなって

くるのであり、およそ2万 US$程度が適正価格となる

のであろう。

前述のようにステンレスの需要が落ちてくることに

よりこうした需給バランスになっていくことを考える

と、やはり5万 US$台まで価格が上昇したことによる

需要減退が需給バランスに反映され、その結果として

価格も下がってきたのであろう。そして現在の在庫動

向が大きく変わらない限り、価格はなかなか上がりに

くい状況をイメージすることができるであろう。

図8. アルミの現物需給と価格の関係

(705)

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図9. ニッケルの現物需給と価格の関係

10. 亜鉛の現物需給と価格の関係亜鉛については相関係数が基本的にそれほど高いわ

けではないが(図 10)、方向性としては1つのライン

に収斂してくる形になっており、想定理論値を見ても

現在の価格を多少下回っているが、それほど大きく乖

離しているわけではない。

図10. 亜鉛の現物需給と価格の関係

(706)

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11. 中国の現物需給と価格の関係以上のように考えると、非鉄金属に関しては需要と

供給のバランスをまず年ごとにチェックし、毎年のデ

ータを積み重ねていくことにより積算された需給のバ

ランスを知ることができ、また単年で見た場合におい

ても需給バランスのずれの規模を価格と比較すること

により、ないしはその価格の変動率と比較することに

より、およその価格の推定が可能となる。こうした価

格の推定に際しては冒頭で述べた主要機関の発表する

需給データを常にウォッチしてそれをアップデートし

ていくことにより、それまでの価格帯、ないしは以降

の価格帯のイメージを持つ作業が可能になってくると

考える。たとえば筆者は、銅については国際銅研究会

が毎月発表するデータを発表ごとに打ち込んで需給バ

ランスを見る作業を実際に続けており、またニッケル、

鉛、亜鉛についても同様の作業を行って、現在の価格

の高い・安いについてのチェックを継続的に行ってい

る。

こうした作業については、実はやはり中国一国につ

いても行っておく必要があるであろう。

図 11 は中国における銅(左上)、アルミニウム(右上)、

ニッケル(左下)、亜鉛(右下)の需要と供給のバラン

スから見た価格帯の想定値である。毎年の在庫バラン

スを横軸に、またそれに対する価格を縦軸にとった非

常に単純な相関分析であるが、特に銅、アルミ、ニッ

ケルについては非常に高い相関性が見られる。すなわ

ち、世界の需給バランスよりも中国一国の需給バラン

スから価格を想定したほうが、直近の価格に近い数値

が得られるのではないだろうか。その意味では、最も

信憑性が高いのがニッケルであり、2万 6,000US$が

LME におけるニッケル価格の適正価格となる。ただし、

残念なことに亜鉛はまったく機能していないという側

面もあり、やはりこれだけで分析するのは難しいとも

思われるが、考え方としては、世界における需給バラ

ンスのみならず中国における需給バランスも合わせて

見ていくことが重要であるということはいえるのでは

ないだろうか。

図11. 中国の現物需給と価格の関係

なお、今年ないしは来年、さらに再来年以降の需給

バランスを分析していく作業は実際には非常に困難、

というよりもほぼ不可能といってもよいであろう。し

かし市場というものはおもしろいものであり、ある程

度の予測をいろいろな会社が行っており、その発表さ

れた需給バランスが市場のコンセンサスになっていく

のである。また、その中で価格が構成されていくとい

う関係も存在しており、そのため各主要機関の発表以

外にも、いろいろな会社による需給データなども参考

にしながら全体のマーケットの需給バランスの方向性

を見ていくことを意識し、そこに前述のような分析を

加味していくことにより来年、再来年以降の価格の方

向性を見出していくようにするのが望ましいのではな

いだろうか。

(707)

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図12. LME在庫と価格の推移

12. LME 在庫と価格の推移前節までにおいて触れたのは現物需給についてであ

ったが、やはりどうしてもタイムラグが生じることと

なるため、短期的な部分を見ていく上では LME が毎

営業日に発表している在庫動向を見ていく必要がある。

これだけを見ていても、価格の方向性のイメージは十

分に持ち得るのではないかと思われる。

図 12 の左上は LME における銅の在庫と価格推移を

示しており、これを見ると 2003 年以降、在庫が急減し、

それにより価格が上がっている。こうした急激な在庫

の現象は価格の上昇要因になるため、これを毎日──

かつて発表は 1 週間に 1 回であった──、どこの地域

の在庫が増えたのか減ったのかというところまで見て

いけば、かなりまとまったデータになるため、それを

反映させながら価格の方向性を見ていくという作業を

毎日行うことができる。

図 12 の右下の亜鉛についても 2005 年前半までは在

庫が多かったが、これが急減することにより価格が急

騰している。ニッケル(図 12 の左下)も同様である。

アルミの場合は非常に高い水準で推移しており、アル

ミの価格の上昇についてはほかの銘柄の上昇に伴う要

因のほうがむしろ強いと思われる。

(708)

13. LME 在庫と Cash-3m のスプレッドの関係ここまで価格の方向性について触れてきたが、実は

重要なのは価格の上昇・下落ではなく、現物価格と、

それより後に行われる受け渡しの際の取引価格の関係

である。

一般に、LME の価格をたずねた場合、それは3か月

後の受け渡しにおける価格を指している。業界ではス

リーマンス(3 month)といい、新聞などでは3か月

物という表現が使われている。これに対して、現物価

格を LME においては Cash といっている。冒頭で述べ

たように、Cash とは今日価格を決め、2営業日後に受

け渡しを行うもののことをいう。この Cash が、LME

が毎営業日に発表しているセトルメント価格であり、

リングにおいて1日4回行われる取引のうちの午前中

の2回目の最終価格がセトルメント価格であり、その

価格のベースになる受け渡しの部分を Cash といって

いる。

ロイターやブルームバーグなどのベンダーを見ると、

まず3か月物の価格があり、次に Cash と3か月物の

価格差を意味するスプレッドが出てくる。たとえば

「80b」とか「10c」と書かれており、「80b」は 80US$の

バックワーデーション、すなわち逆ざやを意味し、ま

た「10c」は 10US$のコンタンゴ、すなわち順ざやを

表している。この Cash と3か月後渡しの価格の差が

どちらに動いているのかが、実は価格の上げ下げより

も重視されるのである。LME のディーラーなども値段

の上がり下がりではなく在庫の動向とこのスプレッド

(価格差)、すなわち現物と3か月後渡しの価格差が広

がっているのか縮まっているのか、逆ざやになってい

るのか順ざやになっているのかに注意を向けている。

図 13 の4点のチャートにおいて、太い実線は C-3M、

すなわち Cash と 3 month の価格差、つまりスプレッ

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ドを表している。

逆ざやとは、物が足りない状態を指す。つまり、

Cash が3か月後渡しの価格よりも高いのである。逆に

順ざやとは物が余っているから Cash が3か月後渡し

の価格よりも安い状態を指している。筆者は金融機関

の人々と話をする機会が多いが、逆ざやになるという

ことを発想として持つことが一般的には難しいようで

ある。物がなければ今買いたい、今買いたいという人

が増えれば、3か月後の価格よりも現在の価格のほう

が当然高くなる。順ざやのマーケットにおいては今よ

りも将来のほうが高くなるという発言をしばしば耳に

するが、実は逆であり、物が余っているから現在の価

格のほうが将来の価格よりも安いのである。

したがって、現在、銅の需給が非常に逼迫している

から、期近と期先の価格を比較すると期近のほうが高

いのである。アルミは逆に順ざやになっており、これ

は図 13 の右上に見るように在庫が余っているからであ

る。

順ざやとは将来価格が上がることを意味しているわ

けではない。このあたりの誤解は世の中に意外なほど

あふれているが、いわゆるコモディティの需給とは「今」

物があるのか・ないのかが基準であり、「将来」ではな

い。「将来に対して今」どうであるかという視点を持つ

ことが求められるのである。

図 13 の左上の銅に関するチャートを見ると、在庫が

減少すると同時に Cash と 3 month の差が広がってい

くのがわかる。つまり、広がっていくということは、

期近が高くなっていくということである。在庫が減る

から物がなくなる。今買いたい人がたくさんいるから

なくなるわけである。つまり、3 month に対して Cash

の価格が高くなっている。逆にアルミの場合(図 13 右

上)は在庫が多いために Cash が安くなっている。ニ

ッケルも同様であり(図 13 左下)、在庫が極端に減っ

たために現物の値段のほうが高くなっている。亜鉛(図

13 右下)は Cash が下がり、急に逆ざやになっている。

こうした状況が、LME 相場における価格形成上の典

型的な特徴である。であるから、LME における価格を

見る場合には、3 month 単体の価格のほかにこの Cash

と 3 month の差に注意を払った上でマーケットを見て

いくことが重要となる。

図13. LME在庫と Cash−3mのスプレッドの関係

(709)

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図14. LME在庫日数と価格の関係(2003年以降)

14. LME 在庫日数と価格の関係図 14 は LME 在庫日数と価格の関係である。銘柄に

よっては相関係数が非常に高いものがあり、たとえば

銅(図 14 左上)は最近の在庫日数に対する価格が高く

なっているために相関関係が完全に崩れており、ニッ

ケルについても多少の崩れが見られる。

(710)

15. LME 在庫変動を利用した価格予測モデル図 15 は、LME から毎日発表される在庫を用いて著

者が独自に作成したものであり、かなり「ひねり」を

加えている。当初は LME 在庫の増減から価格が上昇・

下落の単純なモデルを作成したところ、LME 在庫が減

ってくると、やはり価格が上がりやすい。つまり、図

15 の4つのチャートにおいては青地が上側にある部分

は価格の上昇を、また下側にある部分は価格の下落を

表しており、このうち銅のチャート(図 15 左上)を見

ると、下落から上昇に転じるサインが出た時点におい

ては 5,500US$以下だったところ、上昇のサインが出

てからは 3,000US$近く上がっている。

ニッケルに関しても(図 15 左下)、在庫の減少を加

味して計算した結果、5月のあたりから価格は下落と

の分析が出ると、それにより一瞬価格は上がったがそ

の後は下落を続けており、亜鉛(図 15 右下)やアルミ

(右上)についても同様である。この LME 在庫の増減

を利用した価格分析によると、特に銅とニッケルにつ

いてはかなり確度の高い予測が可能であることがわか

っている。

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図15. LME在庫変動を利用した価格予測モデル

(711)

16. LME 及び SHFE の在庫変動LME のほか、亜鉛、銅、アルミは中国・上海先物取

引所(SHFE)にも上場されており、ここから在庫が

発表されている。図16はLMEとSHFEにおける銅(上)

とアルミ(下)の在庫変動の推移である──亜鉛は最

近になり上場されたばかりであるため、ここでは触れ

ない。これを見ると、LME 在庫が増えて SHFE 在庫

が減少するケースが最近増えていることがわかる。こ

れは実際に中国の人々が、中国で余った在庫を LME

の倉庫に移動し、中国における価格が高くなると今度

は LME の倉庫から中国の倉庫へ持ってくるというこ

とを頻繁に行っているためである。中国から近いとこ

ろではシンガポールと韓国に LME の指定倉庫があり、

ここにおける在庫の増減を毎日観察することができれ

ば、中国からの出庫や中国への在庫の移動を分析する

ことができるため、まず中国における需給動向を把握

し、次には価格の予測も可能となる。この SHFE 在庫

と LME 在庫、及びアジア周辺の倉庫における在庫の

増減が、ますます重要なファクターになってきている

のである。

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図16. LME及び SHFEの在庫変動

(712)

図17. 商品市場における投資資金の循環

17. 商品市場における投資資金の循環次に、最近における投資資金の動きについて触れて

おきたい。

図 17 は 2003 年以降における主要商品の動向として

金、原油、銅、トウモロコシをとりあげたものである。

2004 年以降の特徴としては、まず原油価格の高騰に伴

い、原油価格に投資資金が流入したことが特徴である。

次に、金が上がり始めた直後から非鉄金属の銅の価格

が上がり、それにおくれてトウモロコシが最近になっ

て上がってきており、投機資金もそれぞれのコモディ

ティ銘柄に循環して入ってきている。原油にはずっと

とどまっているが、その後、金、非鉄金属、最後は穀

物に資金が入ってきていることから、おそらく今後は

コーヒーや砂糖などに同様の傾向が出てくるであろう。

ここにおいては、資金が循環している中で、銅を含

めた非鉄金属の価格が上がってきているということを

念頭に置いておきたい。

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18. 銅・アルミ価格と米国株の関係投資家、投機家は米国の株価に対して強い関心を向

けている。そこで非鉄金属の価格と米国における株価

指数──代表的なものとして S&P500 ──の関係を見

ていくと(銅:図 18 左、アルミ:図 18 右)、2003 年

から 2006 年の半ばぐらいまでにおいては順相関、すな

わち株価が上がると銅価格も上がるという構造になっ

ている。最近においても多少の関係のずれはあるもの

の、やはり株価が強いと非鉄金属は上がりやすいとい

う傾向を引き続き見ることができるようである。ニッ

ケルと亜鉛についても同様であることを図 19 で確認す

ることができるであろう。

図19. ニッケル・亜鉛価格と米国株の関係

図18. 銅・アルミ価格と米国株の関係

(713)

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19. サブプライムローンの主要市場への影響図 20 はサブプライムローンの主要市場への影響を示

すチャートであり、あえて日経平均を加えた興味深い

チャートである。サブプライムローン問題が起きる直

近の高値は7月 19 日にあり、その位置を 100 とすると

(赤い破線)米国の株もかなり上がってはいるが、日経

平均の動きに高い連動性を見せているのが実は銅とア

ルミである。その意味では、株価=景気動向の先行指

標と考えるのであれば、やはりベースメタルは景気動

向との連動性が非常に高いのである。逆に小麦などは

現在世界的に需給が逼迫しているために価格が上昇し

ており、投資資金も入っているが、どちらかというと

需給を背景とした上昇になっている。トウモロコシや

大豆、原油なども確かに下げはしたが価格は回復して

おり、やはり株価との関係が強いのはベースメタルで

あり、景気動向、株価動向を確実におさえておかなけ

れば非鉄金属の価格の方向性を見ていくのは難しいの

である。

図20. サブプライムローンの主要市場への影響

20. 金融市場の混乱とベースメタル価格の動向過去の金融混乱や金融市場の混乱とその後のそれぞ

れの市場における価格動向として、ブラックマンデー

及び LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメン

ト)、IT バブル、そして今回のサブプライムローン問

題に着目すると、サブプライムローン問題における価

格動向は、どちらかというと LTCM 破綻の年の価格の

動きに非常によく似ている(図 21)。

非鉄金属は高どまりはしていながらもなかなか価格

は回復を見せず、特にアルミは非常に低迷しており、

最近価格が上がってきてはいるがまだまだ安い水準で

ある。仮にこのまま株価が戻らなければ非鉄金属の値

段も戻りにくいことが想像され、この点からもやはり

ベースメタルの価格そのものを見ていく上での1つの

指標としての株価の重要性を再認識することができる

であろう。

(714)

図21. 金融市場の混乱とベースメタル価格の動向

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図22. 銅・アルミ価格と米国住宅関連指標の関係

21. 銅・アルミ価格と米国住宅関連指標の関係上記の銅、アルミに関しては建設用の需要が非常に

強いため、住宅関連指標との関連について述べておく。

図 22 においては住宅関連の指標として住宅着工件数を

とりあげており、特にアルミについては価格を見てい

く上で重要な指標となるであろう。やはり建設需要の

回復なくしては市場のセンチメントとしてなかなか値

段が上がりにくいとの認識が持たれてしまうため、こ

うした住宅関連の指標が回復しなければ、特にアルミ

の場合は価格の回復が難しいようである。

(715)

22. LME の歴史繰り返しとなるが、現物市場の値決めは LME で取

引される価格をベースに行われている。LME は世界の

ベースメタル市場関係者がもっとも注目する公設市場

である。LME においてはアルミ、銅、亜鉛、ニッケル

などが取引されており、その価格は現物価格を決定す

るための世界的なベンチマークとして幅広く利用され

ている。

LME は 1877 年に設立された。しかし、その起源は

1571 年に遡る。当時、金属のトレーダーらは非公式に

定期的な会合を持つようになっていた。19 世紀の産業

革命により、英国においてはメタル消費量が急激に増

加し、外国からの原料輸入が不可欠となった結果、そ

れらを調達するビジネスに多額な投資をしなければな

らない商人は、非常に大きな金銭的リスクを負わなけ

ればならないことを知った。当時の航海は長く、危険

であり、船荷の価格は英国に到着する前に暴落してし

まう可能性もあった。そこで、取引市場は急速に発展し、

金属は船の到着日から見積もられた受渡日ベースの価

格で売られるようになった。つまり、これにより売り

手は価格が下がるリスクを避けることができ、買い手

は価格が上がるリスクを避けられることを意味する。

当時 LME はこのような過程を契約商品すべての規

格化及び取引時間の固定により、取引の集中する単一

市場をつくることを通じて形式化し、成立した。その後、

長年にわたって価格形成の過程はより洗練され、価格

リスクを管理するために、先物、オプション、さらに

それらの派生商品を利用するあらゆる分野の産業界の

顧客が取引を行っている。これがヘッジであり、現在

の取引所の主要な機能の1つとなっている。

LME の歴史におけるトピックの1つに、1985 年の

錫危機がある。国連の錫協定に基づき価格維持のため

錫地金を買い支えてきた ITC 緩衝在庫管理官による債

務不履行を発端に錫市場は大混乱となり、LME は対応

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策として錫取引を停止し、市場を閉鎖した。この事件

により、リングメンバーの撤退が相次ぐなど LME の

権威と信用は失墜することとなった。以前よりイング

ランド銀行や政府機関からクリアリングシステム導入

を求められてきた LME は錫事件の発生を防ぐことが

できず、発生後も自主的な対応策を欠いていたことか

ら、同システムの導入に踏み切り、これが功を奏する

形で危機は沈静化した。

写真1はかつての、また写真2は最近のリーディン

グの光景である。18 社から出たリングメンバーによる

取引の模様で、赤いシートにディーラーとして各社1

名が座り、それぞれのメタルを取引するのである。こ

こで自分が買う価格、また売る価格を叫び──いわゆ

るシャウト──、そのため相手に聞こえるぐらい大き

な声を出せない人間はチーフディーラーになることが

できない。およそ銅で1人、アルミで1人、鉛・亜鉛

写真1. 昔のリーディング光景

(716)

写真2. 最近のリーディング状況

で1人、ニッケルで1人、また人数の多いディーラー

の会社であれば、それ以外にスプレッドを専門に担当

する人間やオプションだけの担当を設けるなど、いろ

いろなやり方がとられているが、基本的にはメタルで

分けられている。

筆者の友人に実際にディーラーを務めているイギリ

ス人がおり、彼によれば非常に難しい市場であるとい

うことである。ディーラーがシャウトするその背後に

は実際の取引価格をチェックする人間が控えているが、

これが相当の熟練を要する立場である。たまに若い人

間が後ろにつくと、今いくらで決まったのかとたずね

てもわからない場合があり、たとえイギリス人であっ

ても熟練した人物でなければ務まらないのである。非

常に特殊で、職人かたぎの市場のようである。最近に

おいてはスクリーンに数字を映し出し、それを見なが

ら取引できるようになっている。

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【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

これも繰り返しとなるが、公式の価格は1日に4回

発表され、そのうちの午前中の2回目の値段がいわゆ

る公式価格として毎日発表され、それが実際の現物価

格の値決めに使われている。すなわち LME における

価格が世界のベースメタルの受け渡しの基準になって

いるのである。

23. LME の会員制度と最近の動きLME の会員カテゴリーは7つに分類され、その中で

もカテゴリー1の「リングディーリングメンバー」、カ

テゴリー2の「アソシエート・ブローカー・クリアリ

ングメンバー」が中心的な役割を担う。リングディー

リングメンバーはリング取引への参加権を唯一所持す

る会員であり、インターオフィス取引も 24 時間行うこ

とができ、また顧客との取引も行うことが可能である。

また、同メンバーの全ては LCH(London Clearing

House)の清算会員でもある。リングディーリングメ

ンバー数は、80 年代半ばの 35 社から現在は 11 社と、

近年減少傾向にある。

LME は従来、当業者中心の市場であったが、最近の

コモディティ投資への世界的な関心の高まりを受け、

金融機関系会社による市場参加が増加し、取引所全体

の出来高も増加している。

また LME は最近においては伝統的な非鉄金属だけ

でなく、新規商品開発にも力を入れている。1999 年に

は銀先物(2002 年上場廃止)、2000 年には上場6商品

の価格をベースにした商品指数である LMEX、2002 年

には北米特殊アルミニウム合金、2005 年には世界初の

プラスチック先物を上場した。また、鉄鋼についても

上場の予定である。

さらに、最近の世界の先物市場においては、電子取

引システムの利用が急速に拡大しているが、LME も

2001 年2月に LME セレクトと呼ばれる電子取引を導

入し、これまで電話で行われてきた場外のインターオ

フィス取引の代替手段として利用が急増している。

2006 年6月には、アジア市場からの取引の取り込みを

目的に、電子取引の時間帯を6時間拡大し、午前1時

から午後7時まで取引が行われるようになった。また、

2006 年 12 月に電子取引システム上にて銅・アルミニ

ウム・亜鉛のミニ先物取引(標準取引単位 25 tのとこ

ろ、ミニ取引は5t)の取引を開始している。

なお LME は電子取引の推進に力を入れているもの

の、LME セレクト上における取引は、取引所全体で見

ると、出来高、価格指標性の観点からそれほど大きな

地位を占めているとは言えず、依然リング取引が中心

的な役割を果たしている。

24. LME の取引制度24-1. 取引期間

LME は先物市場(Futures Market)ではなく、先

渡市場(Forward Market)である。そのため、限月制

を採用しておらず納会日も特定されていない。受渡日

(プロンプト・デート)はキャッシュ(契約日の翌々日

受渡し)から3月先までは毎日、その後3か月以内は

毎水曜日、さらにその後 21 か月以内は第3水曜日に設

定されている。特に受渡しが毎日可能という点が、当

業者にとっての利便性を高めている。取引はキャッシ

ュ及び3か月先の日に集中しており、アウトライト(売

りまたは買いの単独)の取引は主にこの受渡日で行わ

れている。

24-2. 取引形態LME における取引形態はオープンアウトクライ取

引、インターオフィス電話取引、及び前述の電子取引

プラットフォームである LME セレクトの3種に分類

される。オープンアウトクライは午前 11 時 45 分から

午後5時の間に行われ、リング取引及びカーブ取引か

ら構成される。リング取引は流動性が最も高く、世界

の価格指標を形成する場として機能している。前述の

ようにリング取引は1日4回行われ、その中でもファ

ースト・セッション(前場)の2回目の価格は公式価

格(オフィシャルプライス)とされ、現物価格の値決

めに利用される国際的指標になっている。各セッショ

ンのリング取引終了後には、上場商品全てを同時に取

引するカーブ取引が行われる。

インターオフィス電話取引は 24 時間取引が可能で、

LME のオープンアウトクライ時間帯外での取引を希望

する世界の非鉄関連業者のニーズを満たすものとして

利用されている。なお、ニューヨーク取引時間帯のも

のは NY カーブ、東京取引時間帯のものは東京カーブ

と呼ぶこともある。

24-3. 受渡し制度LME での受渡しは、取引所が指定した倉庫が発行し

たワラント(倉荷証券)をもって行う。指定倉庫は 32

の地域に約 400 か所存在し、アメリカ、ヨーロッパ、

中東、極東アジアをカバーしており、LME が指定した

ブランドの地金のみ、受渡しに利用することができる。

ワラントの受渡しは SWORD システムを用いて行われ、

同システム上では、ワラントは集中保管され、受渡し

は口座間の振替により電子的に行われる。

なお、LME の受渡し制度において特徴的なのは、相

対取引でありながらロンドンクリアリングハウスとい

う清算機関が間に入り、毎日受渡しがあるにもかかわ

らず、この清算機関を通した取引ができることである。

先渡し市場の中で清算機関を用いて取引を行えるのは、

おそらく世界で LME だけであろう。

25. LME の機能と役割25-1. ヘッジング(Hedging)

LME は現物市場のヘッジ市場として開設された歴史

がある。LME にあるヘッジ、価格設定、現物受け渡し

の機能を持ち合わせており、ユーザーである実需家や

トレーダーは LME 市場を利用して保有する現物ポジ

(717)

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【資源開発基礎講座 第6回(平成19年9月28日開催)講演】ベースメタルの価格形成、価格動向とLMEの役割

ションまたは将来の価格変動に対するヘッジ(価格変

動リスクの回避)が可能となる。

LME 市場におけるヘッジは、市場参加者の立場によ

ってその方法は異なる。生産者は将来の値下がりのリ

スクを回避するために先物の受渡日にて売りヘッジを

行い、需要家は将来の原材料購入時における値上がり

のリスクを回避するために、あらかじめ先物の受渡日

にて買いヘッジを行うのである。また、トレーダーは

保有する在庫価値の値下がりのリスクを回避するため

に、先物の受渡日で売りヘッジを行う。また将来の販

売価格が決定した場合には、先物の受渡日で買いヘッ

ジを行う。ヘッジングを行う際には先渡しのポジショ

ンの売りまたは買いだけでなく、オプションを利用す

ることも可能である。

25-2. 投資市場としての役割昨今においては投資マネーが流入しており、従来の

現物市場のヘッジ機能だけでなく、投資市場または資

産運用市場としての役割も求められている。経済のイ

ンフラ整備に使用されるベースメタルに間接的に投資

することは、経済活動そのものに投資することを意味

しており、株式や債券などといった伝統的なアセット

クラスと同等に扱われることが今後は増えることが予

想される。

25-3. LME市場動向からの情報LME 市場で取引を行うこと、取引ブローカーからの

市場情報を入手することが可能となる。この情報を利

用して価格分析を行えるだけでなく、実際のヘッジ戦

略に生かすことができる。

26. ヘッジングにおけるポイントとリスク26-1. 先渡し日の理論価格

先物価格は理論的には現物価格から受渡日までの金

利、保管料、保険料(=現物の保管コスト)が上乗せ

される。先物価格が現在の価格から保管コストを上乗

せした理論価格になれば、現物の保管コストを保有し

て先物を売ることで在庫ヘッジが可能となる。しかし、

このような状況下では、すべての現物市場関係者が同

じ行為を行うため、結果的に先物価格は理論価格を超

えることはない。

26-2. スプレッドリスク(Spread Risk)市場価格が決まる要因としては、現物の需給やポジ

ションの需給が挙げられる。現物が不足している場合

や、LME 市場の参加者のポジションがショート(売り

持ち)に傾いている場合には期近の価格が上昇し、逆

ざやになりやすい。一方、現物が潤沢な場合や LME

市場の参加者のポジションがロングポジション(買い

持ち)に傾いている場合には、期近の価格が下落し、

順ざやになりやすい。

スプレッドは金利などでは説明が不可能な場合がほ

とんどであり、現物需給のバランスからスプレッド幅

を理論的に算出することはできない。また、ファーフ

ォワード(超先物)のスプレッドは理論的に説明しづ

らいケースが多く、値動きを注意深く見ておく必要が

ある。

また3か月先物の価格の変動以上にスプレッドの変

動リスクは大きく、ヘッジを行う際には先物価格で行

うことになるため、先物までのスプレッドの変動がヘ

ッジコストに大きな影響を与えることになる。

26-3. ポジション維持コスト(マージンリスク、Margin Risk)LME 市場では通常は相対取引のため、マージン(委

託証拠金)を要求しないケースが多い。しかし、ボラ

ティリティが高まった場合にはマージンを要求される

ケースがある。買いヘッジのポジションを保有したの

ちに価格が大きく下落した場合や、売りポジションを

保有した後に価格が急騰した場合にはマージンを要求

されることになる。また、追加マージン回避のための

ポジション解消が価格を大きく変動させるケースがあ

る。

27. スプレッド(Spread)の基本前述のようにコンタンゴ(順ざや)であるかバック

ワーデーション(逆ざや)であるかが非常に重要である。

つまり現在の市場構造においてスプレッド構造がどう

なっているのかをまず理解することが大事だというこ

とである(図 23)。期近が高いのか期先が安いのか、

その逆なのか、まずこれを頭に入れる必要がある。ス

プレッドは近い将来の需給状況や価格動向を表す重要

な指標ともいえるため、非鉄金属相場の短期的な方向

性を見るうえできわめて重要である。現物が不足して

いる場合には、期近価格が高くなることでバックワー

デーションになりやすい。逆に現物が余剰であれば、

コンタンゴになるケースが多い。このように、需給動

向を反映するスプレッドの拡大・縮小の動きを取引対

象とすることも可能である。実際のところ、LME 市場

のディーラーたちは一般的には3か月先物などのベン

チマークを単体で取引することは少ない。取引相手や

顧客から価格の提示を求められ、実際に取引を行った

場合には、即座にその取引の反対売買を行うケースが

多い。それよりも、ディーラーの基本的な収益源はむ

しろスプレッドの歪みを利用した取引である。3か月

先物は短期間で大きく変動するリスクがあるが、それ

に対してスプレッドの動きは若干緩慢であり、市場全

体の動きを踏まえた上でポジションを取ることが可能

である。また、現物業者においても、スプレッドの変

動が後述する価格ヘッジ取引に大きな影響を与えるだ

けに、3か月先物などの価格そのものの動きよりもむ

しろスプレッドの動きに注目しておく必要があるとい

えよう。

(718)

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28. ヘッジの基本的手法(Contango Market)図 24 にヘッジングの考え方の例を示す。今、銅の現

物(Physical)を持っていて、2007 年1月 10 日に2月

渡しで 1,000tを 7,000US$で購入したとする。それと

同時に、LME において先渡し5月でトン当たり 100US

$、順ざやになっている値段で 100t売却したとする。

すなわちヘッジングである。購入価格に対して、価格

の下落のリスクを回避するために 1,000tを 100US$高

いところで先渡しにより1月 10 日に売却をした。

日が進み、5月 15 日に5月渡しで現物がたまたま売

れた。1,000tが 8,000US$で売れたため、現物の収支

は 100 万 US$になった。

一方、同じときにたまたま現物が売れたため、LME

において先渡しで売っていたものを 8,000US$で買い

戻そうとすると、この収支は 90 万 US$のロスになる。

しかし、最初の時点で 100US$高く売っているから、

結果としてその 100US$×1,000t= 10 万 US$分が利

益になるのである。これがヘッジングの考え方である。

逆に現物を安く売っても、あらかじめ先物で売って

おけば、結果として収支は同じになる。なぜ利益にな

るかというと、先ほどと同様、現物を買った価格を決

めたときに、あらかじめ LME の市場で先物を売って

おり、この売っていた値段がトン当たり 100US$高い

からである。つまりコンタンゴの状況だったからとい

うことになる。

図23. スプレッド(Spread)の基本

(719)

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図24. ヘッジの基本的手法(Contango Market)

(720)

29. ヘッジの基本的手法(Backwardation)逆ざやの場合を示したのが図 25 である。逆ざやの場

合、現物の価格に対して 100US$安くしか売れないわ

けである。結果として、その 100US$分はどのように

ヘッジしても絶対にロスになることになる。これは現

物を高く売ろうが安く売ろうが必ずそうなる。すなわ

ち LME の市場において逆ざやになっていた場合には、

現物の在庫を持っていてもヘッジは 100%不可能なの

である。持っている価格に対して、どのような場所に

おいての受け渡しで売ろうと現在より高い価格で売る

ことはできず、これが LME 市場を使ったヘッジング

の最も難しいところである。

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30. ヘッジング総括30-1. 完全なヘッジは存在しない

先物価格は現物価格から算出される理論値では取引

されない。したがって、価格リスクを 100%ヘッジす

ることは不可能である。できるだけ有利なタイミング

や受渡日を検討した上で行う必要がある。ただし、ヘ

ッジのタイミングを意図的にずらすことは、ある種の

投機的行為と同じであり、できるだけ避けるべきであ

る。

30-2. 無駄なヘッジはしないヘッジングはコストである。LME 市場における取引

を増やせば増やすほど、コストを支払うことになる。

実際の取引には、オファー/ビッドのスプレッド、フ

ォワードにおけるスプレッド、取引手数料(Brokerage)

などが掛かる。取引量の増加は現物取引を含めた採算

を悪化させる要因となる。

30-3. Optionを利用することも検討する理論的なヘッジスキームだけでは、ヘッジを行うこ

とはできない。したがって、オプションなどを利用し

てコストを下げることも検討すべきであろう。OTM(ア

ウト・オブ・ザ・マネー)のオプションを売ることで

得たプレミアム収入をもとにヘッジスキームを組むこ

とや、逆に ITM(イン・ザ・マネー)のオプションを

売り、ヘッジ価格を引き上げるなどのスキームも検討

に値するであろう。オプションの買いによるヘッジも

可能ではあるが、コストを支払うことになるため、単

純なオプションの買いのみのスキームはできるだけ避

けるべきであろう。

30-4. ヘッジで利益を上げることを考えないヘッジはあくまで本業である現物市場での取引にお

ける価格変動リスクを回避するための手段である。し

たがって、LME 市場での取引において利益を上げるこ

とを考えるのではなく、あくまで価格変動リスクを回

避するためだけに市場を利用することを考えるべきで

ある。

30-5. LMEは特殊な公設市場ロンドン金属取引所は先渡市場でありながら、クリ

アリング機能も持ち合わせる特異な市場である。過去

の事例からも LME 取引の不透明性が指摘されるが、

電子取引の導入などから徐々に透明性は増している。

いずれにしても、あらゆる市場関係者にとって、これ

まで以上に利用価値の大きな市場になっている。

図25. ヘッジの基本的手法(Backwardation)

(721)

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31. おしまいに筆者は長らく銅を含めて非鉄金属を見ているが、銅

などは基本的にずっと逆ざやである。商社の立場から

すると現物を抱えた瞬間にロスとなり、LME 市場にお

いてヘッジとしてどのように先渡し市場を使っても絶

対に利益が出てこないため、スペキュレーション取引

を行ったり、オプションを使ったりと、いろいろな手

法をとり混ぜ、結果として在庫の価格ヘッジをうまく

行わなければならない。

逆に言えば鉱山会社も同じである。持っている資産

を先渡しで売っておこうと思えば、今の価格よりも安

くしか売れないということになる。その意味では、逆

ざやの構造というのは現物市場関係者にとってやっか

いである。これは至極当然のことで、物がないから逆

ざやになっているわけであり、物がないということは、

やはり現物市場の人間すべてにとって非常にやっかい

な状況である。これは急落のリスクを考えれば、生産

者にとっても同様である。

逆ざやの市場をどううまく使うかは、永遠に解決さ

れない難しいテーマであり、また現物市場が結果とし

て逼迫している中で LME 市場をどううまく使ってい

くかについても回答を求めるのは困難である。前節冒

頭に掲げたように、とにかく完全なヘッジは存在しな

いということである。

繰り返しになるが、LME 価格、ないしはベースメタ

ルの価格は一義的には需給動向が反映されていると筆

者は考えており、毎月出てくる需給データに加え、毎

日出てくる LME の在庫動向を注意深く見ていきなが

ら、最終的にこの市場をどう使うかという観点から

LME 市場を見ていくその視点の中に、今後のさまざま

な取引において参考となる要素が浮かび上がってくる。

(2010.11.20)

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