高加工性高炭素熱延鋼板スーパーホット...

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製品・技術紹介 91 JFE 技報 No. 41 2018 2 月)p. 91-92 Copyright © 2018 JFE Steel Corporation. All Rights Reser ved. 高加工性高炭素熱延鋼板スーパーホット -G High Carbon Hot Rolled Sheet with Excellent Formability “SUPERHOT TM -G” 1. はじめに 自動車駆動系部品やシート部品には強度,耐摩耗性, 寸法精度など品質められ,一部熱間鍛造後した部品どうしを接合して製造される。接合省略して一体成形化 1実現するためプレス加工性れた 軟質高炭素鋼板「スーパーホット -G開発した。開発 しては成形面圧鍛造要素んだ歯型成 形,部分増肉成形,複動成形などを考慮,加工性軟質機械構造用高炭素鋼板目標としたプレス一体成 形部品拡大JFE 独自成分規格とした高加工性高 炭素熱延鋼板「スーパーホット -G製品特長紹介する2. 製品設計 2.1 スーパーホット -G の特長 スーパーホット -G ,優れた板厚精度さらに炭素量JIS 材(SC 材)同等焼入維持しつつプレス成形性れるである2.2 成分設計 S35CS45C 同等 焼入硬さを目標としそれぞれ 0.35 mass C0.45 mass C 2 つのをスーパーホッ -G(規格名 J35CJ48Cとして開発した。開発鋼学組成一例表1 プレス成形性れたものと するためJIS よりも SiMn 添加量低減したこれ 焼入低下B 添加JIS 同等焼入 実現した2.3 加工性向上かつ軟質化のための組織制御 高炭素鋼板のプレス成形性向上させるためには,球状 化焼鈍後炭化物形態分布適切制御する必要があ 。一般,等軸フェライトの粒界球状セメンタイトを一分散させることでプレス成形性向上する 2。軟質化には セメンタイトおよびフェライト粗大化させた 3, 4。一方 でセメンタイトを粗大化すると高周波焼入れの短時間加熱 ではセメンタイトが残留,焼入さの低下5J35C スーパーホット -G および S35C 熱間圧延後および状化焼鈍後のミクロ組織写真 1 S35C 熱間圧延 2017 8 31 日受付 表 1 開発鋼「スーパーホット -G」の化学組成 Table 1 Chemical compositions of “SUPERHOT TM -G”steels (mass%) Designation C Si Mn P S Others J35C 0.35 0.01 0.35 0.017 0.004 B JISS35C 0.32-0.38 0.15-0.35 0.60-0.90 0.030 0.035 - J48C 0.48 0.01 0.35 0.009 0.003 B JISS45C 0.42-0.48 0.15-0.35 0.60-0.90 0.030 0.035 - 写真 1  J35C と S35C の熱間圧延板と球状化焼鈍後鋼板の ミクロ組織 Photo 1 Microstructures of J35C and S35C after hot-rolled and spheroidized steels

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製品・技術紹介

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JFE技報 No. 41(2018年 2月)p. 91-92

Copyright © 2018 JFE Steel Corporation. All Rights Reserved.

高加工性高炭素熱延鋼板スーパーホットⓇ-G

High Carbon Hot Rolled Sheet with Excellent Formability “SUPERHOTTM-G”

1.はじめに

自動車の駆動系部品やシート部品には強度,耐摩耗性,寸法精度など高い品質が求められ,一部は熱間鍛造後に切削した部品どうしを接合して製造される。接合を省略して部品の一体成形化 1)

を実現するため,プレス加工性の優れた軟質な高炭素鋼板「スーパーホットⓇ-G」を開発した。開発に際しては成形面圧の高い鍛造の要素を取り込んだ歯型成形,部分増肉成形,複動成形などを考慮し,加工性に優れた軟質機械構造用高炭素鋼板を目標とした。プレス一体成形部品の拡大に向け,JFE独自成分規格とした高加工性高炭素熱延鋼板「スーパーホットⓇ-G」の製品特長を紹介する。

2.製品設計

2.1 スーパーホットⓇ-Gの特長

スーパーホットⓇ-Gは,優れた板厚精度を有し,さらに同

炭素量の JIS材(SC材)と同等の焼入れ性を維持しつつ,プレス成形性に優れる鋼である。

2.2 成分設計

S35C,S45Cと同等の焼入硬さを目標とし,それぞれ0.35 mass% C,0.45 mass% Cの 2つの鋼をスーパーホットⓇ-G(規格名 J35C,J48C)として開発した。開発鋼の化学組成の一例を表 1に示す。プレス成形性を優れたものとするため,JIS鋼よりも Si,Mnの添加量を低減した。これに伴う焼入れ性の低下を B添加で補い,JIS鋼と同等の焼入れ性を実現した。

2.3 加工性向上かつ軟質化のための組織制御

高炭素鋼板のプレス成形性を向上させるためには,球状化焼鈍後の炭化物の形態や分布を適切に制御する必要がある。一般に,等軸フェライトの粒界に球状セメンタイトを均一分散させることでプレス成形性が向上する 2)。軟質化にはセメンタイトおよびフェライト粒を粗大化させた 3, 4)。一方でセメンタイトを粗大化すると高周波焼入れの短時間加熱ではセメンタイトが残留し,焼入れ硬さの低下を招く 5)。J35CスーパーホットⓇ-Gおよび S35Cの熱間圧延後および球状化焼鈍後のミクロ組織を写真 1に示す。S35Cの熱間圧延

2017年 8月 31日受付

表1 開発鋼「スーパーホットⓇ-G」の化学組成Table 1 Chemical compositions of “SUPERHOTTM-G”steels

(mass%)

Designation C Si Mn P S Others

J35C 0.35 0.01 0.35 0.017 0.004 B

【JIS】S35C 0.32-0.38 0.15-0.35 0.60-0.90 ≦0.030 ≦0.035 -

J48C 0.48 0.01 0.35 0.009 0.003 B

【JIS】S45C 0.42-0.48 0.15-0.35 0.60-0.90 ≦0.030 ≦0.035 -

写真1 �J35Cと S35Cの熱間圧延板と球状化焼鈍後鋼板のミクロ組織

Photo 1 Microstructures of J35C and S35C after hot-rolled and spheroidized steels

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高加工性高炭素熱延鋼板スーパーホットⓇ -G

- 92 -JFE技報 No. 41(2018年 2月)Copyright © 2018 JFE Steel Corporation. All Rights Reserved. 禁無断転載

材では粗大なフェライトとパーライトとなっているため,球状化焼鈍で不均一組織が形成されるのに対して,J35Cスー

パーホットⓇ-Gの熱間圧延材では均一なパーライト組織間に

微細なフェライトが分散しているため,球状化焼鈍で均一かつ粒内のセメンタイトが少ない粒径 10 μm超の等軸フェライト粒が形成されている。

3.製品特性

板厚 4.0 mmのスーパーホットⓇ-G(規格名 J35C,J48C)の機械的特性値(球状化焼鈍後)を表 2に示す。いずれの鋼板も JIS規格材(S35C,S45C)と比べて引張強さが約90 MPa低下,伸びが約 5%上昇し,これにより,プレス一体成形時の厳しい成形に適した素材となっている。高周波焼入れ(加熱 1 000℃)を実施した鋼板の焼入れ端からの硬度分布曲線を図1に示す。J48CはS45Cと同等の焼入れ硬さ,深さが得られている。

4.適用可能部品

スーパーホットⓇ-Gの対象は,自動車の駆動系部品のなか

でも AT(Automatic transmission)のクラッチハブ/ドラム,CVT(Continuosly transmission)のピストン/シリンダ,発電機兼用スタータのロータホルダなど回転部品が主たる部品である。現在,自動車メーカーおよび部品メーカーの数社とトライアル評価を進めている。その例として,ロータホルダを模擬した部品(写真 2)への適用事例を述べる。材料は板厚 4.0 mmの J48C熱間圧延鋼板と S35C熱間圧延鋼板とを用い,冷間プレス加工を行った。試作部品は,中空ボスが高い円筒状の部品(外径:110.6 mm,高さ 43.8 mm)である。S35C材では中空ボスの増肉加工において,ボス部の根元を起点に割れが発生したが,加工性に優れた J48Cでは割れることなくプレス成形することができた。

5.おわりに

スーパーホットⓇ-Gは,これまでプレス成形が難しかった

機械構造部品の素材鋼板として好適である。多くのお客様で継続して各種部品の適用評価をしており,今後採用拡大が期待されている。

参考文献 1) 前田昭宏ほか.塑性と加工.1998, vol. 39, p. 8. 2) 中村展之ほか.塑性と加工.2010, vol. 51, p. 628. 3) 藤田毅ほか.NKK技報.1998, No. 164, p. 17. 4) 大沼郁雄ほか.日本金属学会誌.1994, vol. 58, p. 1133. 5) 宮本友佳ほか.日本熱処理技術協会講演大会講演集.2017, vol. 83, p.

27.

〈問い合わせ先〉JFEスチール 薄板セクター部 TEL:03-3597-3735 FAX:03-3597-3035 ホームページ:http://www.jfe-steel.co.jp/products/usuita/f00.html

表2 開発鋼板「スーパーホットⓇ-G」の機械的特性Table 2 Mechanical properties of “SUPERHOTTM-G”steel sheets

Designation YP (MPa) TS (MPa) El (%) HRB

J35C 261 419 40 71

【JIS】S35C 315 510 35 79

J48C 315 455 36 75

【JIS】S45C 345 532 30 81

Test piece:JIS No. 5 Thickness:4.0 mmYP:Yield point TS:Tensile strength El:ElongationHRB:Rockwell hardness 写真2 �(a)J48C熱間圧延鋼板および(b)S35C熱間圧延鋼板に

よるロータホルダ模擬部品(試作:株式会社ニチダイ)

Photo 2 Rotor holder parts made of J48C hot rolled steel sheet and S35C hot rolled steel sheet (by NICHIDAI Co., Ltd.)

図1 高周波焼入れ材(加熱1�000℃)の硬度分布曲線

Fig. 1 Hardness curve of induction hardening sample