解説4 — 建設機械の油圧技術動向 -...
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35第 62 巻 第 11 号(2018 年 10 月号)
はじめに
当社では図1に示すように油圧ショベル,ブルドーザ,ホイールローダなど多くの種類の建設機械を開発・生産・販売しており,都市型土木用の小型建機からマイニング用の超大型建機まで豊富な機種を扱っている。建設機械はその機能上,大きな力を出すことが重要であり,多くの用途に油圧システムが用いられている。そして当社では自社の建設機械の機能・性能上,重要な油圧システム・油圧機器は内製を基本として,車両の開発部門とコンポの開発部門が一体となり,長期戦略に基づいた開発を推進中である。
コマツの商品戦略
図2は近年の当社の商品戦略である。フェーズ
1では「ダントツ商品(強い競争力のある商品)」の開発。機械本体の商品力向上が主体であった。フェーズ2では「ダントツサービス」の開発。機械の見える化を進め,機械の稼働率向上,ライフサイクルコストの改善を推進中である。フェーズ3では「施工の見える化」。ICTを活用し建設機械の高度化・知能化を進め,施工システム全体の効率化を推進中である。 油圧システム・油圧機器にも,この商品戦略にベクトルを合せた対応が求められている。その中で,本稿では主に電子制御化に対応した取組みを紹介する。
電子制御化への対応方針
図3は,当社における油圧システムの電子化への取組み方針である。主要な油圧機器はすべて電子制御を可能にしている。
図1 建設機械の例
ホイールローダ
ダンプトラック
ブルドーザ油圧ショベル
図2 当社の商品戦略
成長戦略
ダントツソリューション
*施工の効率化 +施工全体の管理・建機情報と現場管理の融合・顧客の施工全体のコスト削減・建機の高度化・知能化
〔施工の見える化〕
フェーズ 3
ダントツサービス
*機械との コミュニケーション・機械の稼働管理・機械を止めない 提案型サービス・機械のライフサイクル コストの低減
〔機械の見える化〕
フェーズ 2
ダントツ商品
*ダントツ性能 の継続的追究・燃費,排ガス,振動・騒音・作業性,機能,耐久性・デザイン,操作性,安全性
〔機械本体の商品力向上〕
フェーズ 1
AHS 情報化施工(ICT建機)
コマツ 堀 秀司*
*ほり しゅうじ:開発本部 油機開発センタ 制御機器開発G GM
解説4 —建設機械の油圧技術動向―電子制御化への対応―
特集 油圧技術の今がわかる実務講座
36 機 械 設 計
当社の油圧機器の電子制御部は比例ソレノイドを用いた電磁比例制御弁(Electromagnetic
Proportional Control 弁,以下EPC弁と記載)が基本である。建設機械に必要な制御性を有するとともに,耐熱性,耐水性,耐振性など堅牢な耐環境性を有し,建設機械の油圧システムにたいへん相性の良い機器と考えている。図4に制御特性(電流vs出力圧特性)の例,内部構造の例を示す。 また,高精度制御・高応答制御の追求には制御結果の検出が必須であるため,各機器には制御対象部にセンサを装着可能にしている。ただ,精密部品であるセンサ類は,過酷な環境で使用される建設機械とはたいへん相性が悪く,耐熱性,耐水性,耐振性,耐圧性など,設計的にさまざまな工夫が必要である。また,既存の油圧機器へ後付けとなる場合が多く,取付け方法,取付け形状にも工夫が必要である。その結果,基本的にどのセンサも特殊な専用設計になるが,合せてシステムコスト低減にも配慮する必要があり,品質とコストのバランスが大変重要である。
ICT油圧ショベル
図5は ICT施工(ICTを活用し高効率・高精度を
実現した施工)に用いられる ICT油圧ショベルの例である。ブームシリンダ,アームシリンダ,バケットシリンダを制御することでバケット先端の刃先位置を制御している。 バケットの刃先を直線運動させるには,3軸の円弧運動を高精度に連動制御する必要があり,従来のマニュアル制御の車両ではオペレータに高度な技術が求められる。しかし,ICT油圧ショベルの場合には,自動制御により,誰でも簡単に直線運動の作業をすることが可能である。 この刃先制御の精度は電子・油圧制御システムの性能に依存するところが大きく,仕上げ精度向上・作業効率向上のため,高精度化,高応答化の
図3 当社における油圧システムの電子化への取組み方針
モータ
回転センサ
シリンダ
ポンプ
斜板角センサ
ストロークセンサ
ストロークセンサ
メインバルブ
:センサ:EPC弁
EPC制御電流
コントローラ
各センサ信号・圧力センサ・温度センサ, etc
各センサ信号
レバー装置
油圧機器の主な電子化対応機器・EPC弁(電磁比例制御弁)・センサ
図4 EPC弁(電磁比例制御弁)の概要
出力圧特性
電流
出力圧
内部構造
EPC弁(電磁比例制御弁)
37第 62 巻 第 11 号(2018 年 10 月号)
油圧技術の今がわかる実務講座 特集
解説4
ニーズが年々高まっている。
ICT油圧ショベルの部品構成
図6は ICT油圧ショベルの部品構成を示しており,従来の油圧制御の油圧ショベルに対し,多くの専用機器類が追加になっている。 油圧システムに関しては,当社の場合,各シリンダにストロークセンサを追加している。また作業機用バルブは電子制御化するとともに,スプール位置を検出するため,ストロークセンサをブーム用スプール,アーム用スプールに装着し,高速・高精度制御化を追求している。
ICTブルドーザの部品構成
図7は ICTブルドーザの部品構成を示す。油圧ショベルと同様,シリンダにはストロークセンサを追加している。従来はブレード上に,位置センサを設けていたが,耐久性,応答性などに課題があり,シリンダにストロークセンサを設けることで,この課題を解決してきた。 ブルドーザの場合,オペレータに要求される技術が油圧ショベルよりも一層高く,オペレータの確保も大きな課題になっている。この課題解決にも ICT建機が期待されており,アメリカ市場の場
合,ブルドーザの出荷台数の内,すでに ICT仕様車の比率が50%レベルに達している。 今後,作業効率向上・整地精度向上がますます重要となり,油圧システムには一層の高速・高精度制御化が求められている。
EPC弁部(電磁比例制御部)
当社の油圧機器の電子制御部は先述の通りEPC
弁を基本としている。図8は ICT油圧ショベルの作業機バルブおよびEPC弁部である。油圧ショベルの場合,標準仕様車では,依然として純油圧制
図5 ICT油圧ショベルの制御例
・設計面に刃先が 食い込まないように 作業機を停止させずに バケット刃先が設計面 に沿って動くように 制御する。
レバーの操作
設計面
図6 ICT油圧ショベルの部品構成
ストロークセンサ付きシリンダ
12.1インチ大型モニタ
電子制御バルブ
慣性センサIMU
KMTセンサコントローラ
通信モデムGNSSアンテナGNSSレシーバ
測量・制御技術
建機・制御技術
図7 ICTブルドーザの部品構成
慣性センサユニットIMU+
GNSSレシーバ
コントロールボックス
ルーフトップGNSSアンテナ
測量・制御技術通信モデムKMTセンサコントローラ
ストロークセンサ付きシリンダ
電子制御バルブ
電子コントロールレバー
建機・制御技術