顧客満足 - ISO推進者会議ipc-web.jp/information/ipc_dayori/pdf/SU_ISO9001_6.pdf54 連 載...

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52 ある時,偶然耳にしたラジオで次のような話を聞いた ことがある。 その人は公園を歩いていてお婆さんに呼び止められ, 写真を撮ってほしいと依頼された。撮ってあげると,「も 1 枚」という。いわれるままに何枚か撮ってあげたの だが,その間お婆さんはニコリともせず,むしろ怒った ような顔をしていたのが気になった。そのあと公園のベ ンチに一緒に座って少し話をしたのだが,そこでお婆さ んが問わず語りに次のような話をしてくれたのである。 お婆さんは公園のベンチに座って通りがかりの人に時々 写真を撮ってもらっていた。いつも気持ちよく引き受け てくれるのはいいのだが,シャッターを押す段になると 決まってどの人も「はい,チーズ」などといってお婆さ んに笑顔をつくらせようとする。頼んで撮ってもらって いる以上仕方なくつくり笑いをしていたのだが,お婆さ んは本当は「笑っていない顔で写真を撮ってもらいたか った」のである。その日は撮影にあたって何も要求され なかったから,お婆さんは気に入って何枚もリクエスト を重ねたという次第であった。 その人は福祉関係の仕事をしていたのだが,この体験 は衝撃的であった。よかれと思ってしてあげたことが相 手にはかえって迷惑になることもある。福祉の原点は, 「何をしてほしいかをまず聞くこと」であったはずだっ たと,その人は述懐していた。 9001 QMS のねらいは不適合製品の流出防止にある が,製品に関連した要求事項について組織と顧客とに認 識のズレがあると,たとえ不適合品は出ていなくても「顧 客満足」は成立しない。実際にそういう可能性は常に存 在するので,供給者側でそのことに早期に気づいて必要 な軌道修正を行う仕組みが必要になる。それが規格 8.2.1 項の要求である。 組織と顧客との認識のズレはさまざまな局面で随時に 発生しているが,顧客はそのような情報を必ずしも積極 的には発信してくれないので,組織側で多数のアンテナ を張り巡らせ,問題を予兆のうちに検出して対策するこ とが重要になる。 8.2.1 項への対応は定期的なアンケート 調査などだけではカバーできない側面を多く含んでおり, 7.2.3 項(顧客とのコミュニケーション)や 6.2.2 d)項 (従業員の品質意識)との関連が重要である。 組織の業種・業態によって,顧客が限定されている場 合もあれば不特定多数の顧客が対象になる場合もある。 ステップアップ ISO 9001 ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と審査- 顧客満足 規格解説 講師は語る -8.2.1 顧客満足に関する要求事項のポイント エム・アンド・エス・クオリティーガーデン 福田 渚沙男 61.要求事項に関する認識のズレ 2.業種・業態に合わせた対応策

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

ある時,偶然耳にしたラジオで次のような話を聞いた

ことがある。 その人は公園を歩いていてお婆さんに呼び止められ,

写真を撮ってほしいと依頼された。撮ってあげると,「も

う 1 枚」という。いわれるままに何枚か撮ってあげたの

だが,その間お婆さんはニコリともせず,むしろ怒った

ような顔をしていたのが気になった。そのあと公園のベ

ンチに一緒に座って少し話をしたのだが,そこでお婆さ

んが問わず語りに次のような話をしてくれたのである。

お婆さんは公園のベンチに座って通りがかりの人に時々

写真を撮ってもらっていた。いつも気持ちよく引き受け

てくれるのはいいのだが,シャッターを押す段になると

決まってどの人も「はい,チーズ」などといってお婆さ

んに笑顔をつくらせようとする。頼んで撮ってもらって

いる以上仕方なくつくり笑いをしていたのだが,お婆さ

んは本当は「笑っていない顔で写真を撮ってもらいたか

った」のである。その日は撮影にあたって何も要求され

なかったから,お婆さんは気に入って何枚もリクエスト

を重ねたという次第であった。 その人は福祉関係の仕事をしていたのだが,この体験

は衝撃的であった。よかれと思ってしてあげたことが相

手にはかえって迷惑になることもある。福祉の原点は,

「何をしてほしいかをまず聞くこと」であったはずだっ

たと,その人は述懐していた。 9001のQMSのねらいは不適合製品の流出防止にある

が,製品に関連した要求事項について組織と顧客とに認

識のズレがあると,たとえ不適合品は出ていなくても「顧

客満足」は成立しない。実際にそういう可能性は常に存

在するので,供給者側でそのことに早期に気づいて必要

な軌道修正を行う仕組みが必要になる。それが規格 8.2.1項の要求である。 組織と顧客との認識のズレはさまざまな局面で随時に

発生しているが,顧客はそのような情報を必ずしも積極

的には発信してくれないので,組織側で多数のアンテナ

を張り巡らせ,問題を予兆のうちに検出して対策するこ

とが重要になる。8.2.1 項への対応は定期的なアンケート

調査などだけではカバーできない側面を多く含んでおり,

7.2.3 項(顧客とのコミュニケーション)や 6.2.2 d)項

(従業員の品質意識)との関連が重要である。 組織の業種・業態によって,顧客が限定されている場

合もあれば不特定多数の顧客が対象になる場合もある。

連 載 ステップアップ ISO 9001

-ISO認証取得の資源投入をムダにしないQMSの運用と審査-

顧客満足

規格解説 講師は語る -8.2.1 顧客満足に関する要求事項のポイント-

エム・アンド・エス・クオリティーガーデン

福田 渚沙男

第6回

1.要求事項に関する認識のズレ

2.業種・業態に合わせた対応策

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前者では顧客は組織との長期にわたるパートナーシップ

を前提にさまざまな付帯的サービスを要求してくる傾向

があり,それらへの対応がまずいと顧客不満足が発生す

る。また,後者ではマーケティング戦略としての顧客の

絞り込みや層別が重要で,それらについての方針が明確

になっていないと「顧客関連のプロセス」が迷走しかね

ない。8.2.1 項の運用は,こうした事情も考慮に入れて計

画することが重要である。 組織では,製品実現にあたり法規制にしたがわなけれ

ばならないのは当然だと考えられているが,顧客要求に

関しては必ずしもそうではなく,「組織の事情の許す範

囲で」そのことを考えていけばいいのだと考える傾向が

強い。法規制に関して「どんなに苦しくてもそれは守る」

あるいは「ムリなく守れるように仕事のやり方のほうを

変えていく」ことができるのならば,顧客要求の充足に

関してもそのようなアプローチが可能なはずである。実

際,規格は組織にそのような姿勢をとらせることを経営

者の責任として要求している(5.1 経営者のコミットメ

ント a)項)。 顧客満足に関する監視の結果を前向きに QMS の改善

に結びつけるためには,口先だけでない本当の「顧客重

視」の組織体制が必要であることを強調しておきたい。 (Susao FUKUDA)

本稿の主題として,「実践編として有効な顧客満足情

報の収集と活用」についてのテーマをいただいた。その

背景は,ISO 9000 に取り組み,顧客満足の向上に取り

組んだ多くの企業が存在するが,十分に規格の要求事項

にしたがって効果をあげているとはいいがたいところに

起因している。 そこで,顧客満足の情報とは何かを説明し,同時に獲

得した顧客満足情報を活用することにより,どのように

マネジメントに役立つかを解説する。

顧客満足の観点で ISO 9000 を導入した時,情報の収

集や活用の仕方に,次の 4 つの重要な観点が存在する。

それぞれについて解説を行う。 ・顧客情報の集め方が適切でない ・顧客情報には定量的データと定性的情報(言語情報)

が存在する ・情報が価値をもつためには,時間的な新鮮さが重要

である ・集めた情報を改善に用いる

(1) 顧客情報の集め方

なぜ顧客情報の集め方が適切でないかであるが,図 1

実践ガイド

有効な顧客満足情報の収集と活用

キヤノン㈱ 情報通信システム本部 畠中 伸敏

1.はじめに

3.トップのコミットメント

2.顧客満足情報の収集と活用

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

に示すように,お客が満足した場合と,不満足に終わっ

た場合では情報の収集の仕方に違いがある。たとえば不

良品を購入したお客は,アンケートに答えるよりも,直

接,コールセンターにクレームや苦情を申し立てる。 他方,製品を購入して喜んだお客がコールセンターに

電話をして,喜んでいることを伝えることはない。この

ようなお客の心の中に沈みこむ情報は,アンケートなど

を用いて顕在化することにより情報としてつかむことが

できる。 さらにもう 1 つの問題は,対象製品の市場タイプがマ

スのマーケットであるか,個のマーケットであるかの違

いを理解していないために,情報の収集方法の適切性が

欠けることである。 従来のマーケティングの手法は大量に生産して大量に

売り込むために開発された手法で,個人や特定の企業を

囲い込むための個のマーケティングの手法としては適切

とはいえない。個のマーケットの例には,IBM のソフト

ウェア開発が存在する。IBM は顧客先と業務プロセスを

共有し,顧客が提案するのではなく,開発すべきソフト

を IBM が提案し,開発したソフトを顧客に売りつける。

このほかにオーダーメードの背広や注文建築なども該当

する。 このような個のマーケットでは,アンケートにより顧

客情報をつかむよりも常に情報が入るので,顧客とのコ

ミュニケーションを深くすることにより,現在および将

来の顧客のニーズをつかむことが容易である。

(2) 個のマーケティングでの顧客情報の集め方と定性的

データの扱い

図 2 に示した営業日報の例では,お客がソフトハウス

と決別して,注文を打ち切ろうとしている。このような

状況でアンケートを行い,ヒストグラムを作成し相関分

析を行っている間に,お客は発注停止を行って,他社に

発注する可能性がある。 図 2 の営業日報の内容から,ガソリンの噴射ノズルの

コントロールを間違えると急発進,急加速となり重大な

自動車事故につながりかねない。わずか数行の言語デー

タであるが,定性的なデータは定性的なものとして受け

とめ,言語データの内容に着目することが重要である。 同様に営業日報の内容から,「①善後処置が図られて

いない」「②二次バグ」など経営者が意志決定する上で重

要な情報がもたらされている。 ①については前回,善後処置を申し入れたが,担当者

ベースで処理が運ばれ,是正処置に結びついていない。

また,当社の経営者に現場の情報が伝わらず,組織や体

制上の問題が大きく存在している。

図 1 顧客満足情報の種類と活用

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②についてはバグが収束するのではなく,手直しを行

ったことにより,バグが新たに発生している。構造設計

そのものに問題があり,小手先の修正で対応することは

不可能である。担当したソフト設計担当者の力量不足は

疑う余地がない。したがってプロジェクトチームのメン

バーを入れ換えて,開発チームを再編成し,再設計とプ

ログラムをつくり直すことが急務である。

(3) 顧客情報の鮮度

ところで,ISO 9001 の 8.2.1 顧客満足では「顧客要求

事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように

受けとめているかの情報を監視すること」とある。活用

するタイミングを考えないのであれば記録でもよく,

「情報」である必要はない。少なくともマネジメントに

効果的に活用されることを意図している。1 年に 1 回実

施されるアンケートの情報の入手は,1 年間の反省や次

期製品へ反映することに意義がある。 しかし,図 2 の営業日報の顧客がまさに注文を打ち切

ろうとしている時は,すばやく経営者に現場の情報がも

たらされ,経営者から次の指示を仰ぐ必要がある。経営

者の意志決定の時期と,もたらされる情報の時間的ずれ

は意志決定の不確実性を増大させ,決定される意志決定

が後手に回り,マネジメントとしての効果を生まない。

(4) 顧客情報の活用

図 3 は電気機器の修理を行ったサービスマンについて,

お客を対象にした修理後のアンケート調査の用紙と分析

結果である。 アンケート調査を行うメリットは,サービスマンに直

接いいにくいことも答えやすいということである。アン

ケート調査の重要なことは,何を検証するかである。 電気機器の修理の事例では,特定のサービスマンが訪

問すると,決まってお客からクレームが生じる。そこで,

アンケート調査を実施した。 図 3 のアンケート調査の分析結果から,担当したサー

ビスマンは言葉づかいがよく,マナーもそこそこである

が,修理が終わったあとの顧客への説明が不十分で,約

束した時間に訪問せず,修理のために費やす時間の使い

方に問題がある。総合評価の顧客満足度も悪く,顧客が

大きく不満を感じている。 他方,図 3 のレーダチャートのサービスマン全体の平

均から,当社の「修理の完全性」はよいが「マナー」や

「説明責任」はよくないことが,当社の共通した問題点

として浮かび上がる。この問題点のうち,「説明責任」と

再購入の意向との相関係数が 0.7 と強いので,この部分

の改善を図れば全体の顧客満足度は向上する。当社では

修理規定を見直し,修理報告書に顧客の承認欄を設け,

お客が修理内容を納得したあとに承認印をもらうことと

した。 また,図 2 のソフトハウスの場合は,営業日報という

わずかな情報から,重要品質問題を捉え,是正処置のた

めのプロジェクト組織の変更,構造設計の再設計および

プログラムの再作成,開発体制など改善のためのトリガ

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図 2 営業日報の活用事例

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

ーを得ている。 ここで非常に重要なことは,顧客満足情報を収集して

終わるのではなく,集めた情報を活用して品質マネジメ

ントシステムの改善を図ることがなければ,顧客満足の

向上はあり得ないという点である。ISO 9000 を導入し

て,効果がないと感じている企業は,この部分がほとん

ど欠けている。 本事例以外に,図 1 に活用効果のあるものを列挙した。

もちろん,列挙したもの以外にも,活用できるものが多

く存在する。 ここまで,顧客満足情報の種類について述べたが,顧

客満足情報は顧客満足の成熟度のレベルと密接な関係が

ある。

3.顧客満足の成熟度と顧客情報の関係

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図 3 顧客満足のアンケート用紙と分析結果

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その関係を図 4 に示す。ISO 9000 の審査登録をする

ための顧客満足のレベルは「顧客が不満のないレベル」

であることから,顧客満足のレベルの 2 より上のレベル

である(2 は含まない)。 ISO 9000 審査登録の段階では,クレームの情報を収

集して,お客の不満を解消するのみで,ISO 9000 の要

求事項を満たしたことになる。しかし,ISO 9000 の効

果を上げ,顧客満足の成熟度のレベルを向上させるため

には,クレーム情報の収集のみでは,顧客満足の成熟度

のレベルを向上させることはできない。 顧客満足の成熟度のレベルは,成熟度の段階に応じて,

「顧客が満足」の段階から,「競争業者より優位」「顧客

の期待を超える」となる。当然,上位レベルになるにし

たがい,他社と比較するのであるから,自社のみの情報

では顧客満足の成熟度のレベルがどの状態にあるか判断

できない。J. D. Power Asia Pacific, Inc.などの調査会社

の情報や,それぞれの企業における代理店情報,アンテ

ナショップの他社の顧客満足情報が有益である。 ところで,ISO 9000 の品質マネジメントシステム 8

原則の顧客重視では「組織はその顧客に依存しており,

そのために,現在及び将来の顧客ニーズを理解し,顧客

要求事項を満たし,顧客の期待を超えるように努力すべ

きである」とあり,「顧客の期待を超える」ことを努力目

標に掲げている。仮にこの目標に到達することができれ

ば,ヒット商品となることは間違いない。ただし,使い

こなせない余分な機能がついて,顧客を混乱に陥れる製

品は「顧客の期待を超える」とはいわない。あくまで「現

在及び将来の顧客ニーズ」にもとづかなければ,機能が

余分に付加されていても価値が存在しない。 世の中のヒット商品の多くは,「顧客の期待を超え

た」時に,ヒット商品となっている。たとえば 1981 年

に大ヒット商品となったキヤノンの 1 成分トナーの複写

機 NP-400RE は,それまでのトナーが鉄粉とカーボンの

2 成分だったものを 1 成分とすることにより,複写機の

機構が単純化し,筐体が小さくなると同時に,一桁高い

信頼性を実現した。この例は,単純化して「顧客の期待

を超えた」商品である。 顧客満足の成熟度のレベルの軸を下方にたどり「信頼

2.

3.

5.

4.

1. MTBF

MTBF

J.D.Power AsiaPacific,INC., JNN

J.D.Power AsiaPacific,INC., JNN

ISO 9000

図 4 顧客満足の成熟度のレベルと情報

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

関係の崩壊」を解説すると,記憶にも新しい 2005 年 4月 25 日に発生した JR 西日本の福知山線の脱線事故,

2000 年 12 月の三菱自動車のパジェロのブレーキ事故, 2000年7月の雪印乳業の大腸菌による食中毒事故,2001年 10 月の雪印食品の牛肉偽装事件など,お客との信頼

関係を喪失した事件・事故は枚挙にいとまがない。 しかし,クレームの情報が単なるクレームとして終わ

るか,顧客との信頼関係を喪失して,社会次元の問題ま

で発展するかは,入手した情報への組織の反応の仕方に

ある。 雪印乳業の大腸菌食中毒事故の例では,2000 年 6 月

26 日に和歌山県のご婦人から「子供 2 人が腹痛を起こし

ている」という第一報がコールセンターにもたらされた。

その時,コールセンターの担当者は「何千人かに 1 人は

腹痛を起こすのですよ」と一笑に伏した。1 週間後の

2000 年 7 月 5 日には,大腸菌による食中毒者が 1 万 656人となった。重要な顧客情報がもたらされても,組織が

すばやく反応しなければ,重大な事件・事故へと発展す

る。少なくとも現場で起こった重要な情報については,

エスカレーションルールをつくり,すみやかに経営上層

部にもたらされるように仕組みづくりを行い,組織を活

性化する必要がある。

このように,図 4 の軸の上方はヒット商品への方向で

あり,下方は市場から撤退する方向である。 図 5 はインクジェットプリンタの市場シェア推移の図

である。BCN 総研によれば,「複合プリンタに重点を置

く B 社と,単機能インクジェットに重点を置く A 社で,

メーカ間のスタンスの違いが際立っている」といってい

るが,A 社は 8 年振りに首位奪還を果たした。 ところで,A 社の顧客満足度の向上がささやかれてい

たので,日科技連のセミナー講師が集まった席で,A 社

とB社のインクジェットプリンタの満足度についてイン

タビューを行ったところ,2003 年より前は B 社の方が

よく,2003 年以降はわずかであるが A 社が B 社を超え

ているとのことであった。恐らく顧客満足度の調査会社

を用いて調査を行っても,同じ結果が得られる。 つまり,A 社の製品改良や製品価格低減の努力が顧客

に受け入れられ,顧客満足度を向上させ,市場地位が逆

転したようである。 このように,顧客満足度と製品の市場地位との間には,

少なからず関係が存在する。

4.顧客満足による効果

40

60 A

B

BCN

50

30`01 `02 `03 `04

B

(%)

A B

図 5 インクジェットプリンタの市場シェアの推移

59

上記の効果以外に,顧客満足の向上により,新規顧客

獲得コストや顧客維持のコストが低減する。その例とし

ては,インターネットブロードバンドの会員獲得や英国

航空(British Air Way)などの多数の例が存在する。 2000 年 12 月 16 日に ISO 9000 の改訂がされ,5 年が

経過しようとする中で,ISO 9000 で要求する顧客満足

の向上に取り組み,事業を好転させた企業が存在し,一

方で失敗した企業も多く存在する。 その大きな違いは,顧客満足の情報をどのように入手

し,どのように活用するかである。筆者の知るところで

は,顧客満足に取り組むと売上が増大するはずであると

いって,顧客満足度と販売高を見比べ,改善を継続的に

行って,今なお年率 10 パーセント以上の売上が増大し

ている企業が存在する。 他方で,アンケート調査を行い,顧客満足度を 5 段階

評価で真面目に行っていても,改善努力をしない企業は,

顧客の方からコストダウンをいい渡され,企業の存続を

かけて四苦八苦している。 このように,利益の向上につながる顧客満足の情報の

つかみ方と,その情報をいかに活用して改善に結びつけ

ていくかが重要である。 本稿が ISO 9000 を取り組む上で参考になれば幸いで

ある。 (Nobutoshi HATANAKA)

参考文献 [1] 今野勤,畠中伸敏,久保田健二(2002):『ISO 9000 顧客満

足システムの構築』,日科技連出版社。

5.おわりに

ISO 14001

日科技連・環境マネジメントシステム審査登録組織のお知らせ 日科技連・ISO 審査登録センターは,環境マネジメントシステム審査により下記組織の新規登録を決定しました。

<5月度新規登録>

組織名 事業所名 所在地 登録番号 適用規格 審査登録範囲 発効日

東静工業㈱ 本社及び群馬工場 埼玉県新座市畑中 2-16-22 JUSE-EG-218 JIS Q

14001:2004 トランス・コイル製品設計開発,製造及び販売 2005/5/26

ミヤシタ木材興業㈱ 本社 東京都江東区古石場 2-12-

13 JUSE-EG-219 JIS Q

14001:2004 内装工事における設計・施工から付帯サービス 2005/5/26

藤森工業㈱ 名張事業所 三重県名張市蔵持町芝出1109-1

JUSE-EG-221 JIS Q 14001:2004

医薬・医療・食品・産業用包装材料の設計・開発から製造・出荷まで

2005/5/26

eDC グループ管理部門

㈱エスシーシー 管理統括部,企画調整室,宇宙技術開発㈱ 管理統括部 総務人事課,学校法人電子開発学園九州 総務部

東京都中野区中野 5-62-1 JUSE-EG-231 JIS Q 14001:1996

eDC グループ(ソフトウェア開発,宇宙関連業務,情報教育の専門学校)の管理業務

2005/5/26

カガク印刷㈱ 本社 千葉県市川市塩浜 3-27-9 JUSE-EG-234 JIS Q 14001:2004 印刷物の製造から引渡しまで 2005/5/26

日科技連・ISO 審査登録センターは,次の組織の審査登録を取り消します。取り消しの理由については,当該組織に直接お問い

合わせいただくか,当センターへお問い合わせください。

JUSE-EG-002 ニッタムアー㈱ 適用規格 JIS Q 14001:1996 JUSE-EG-185 三笠電器工業㈱ 適用規格 JIS Q 14001:1996

お問合せ先:(財)日本科学技術連盟・ISO 審査登録センター 環境登録業務課 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷 5-10-11 TEL.03-5379-1326 FAX.03-5379-1220

60

連 載 /ステップアップ ISO 9001

S.H 今回のテーマは「顧客満足」です。規格では顧客

満足について,情報の入手と使用の方法を決めるよう求

めています。この要求に対して,どのように取り組んで

いますか。 Y.K 当社ではまず,お客様から入ってくる苦情や問合

せについての問題解決と処理を行います。これらの情報

を,毎日のように改善チームで処理してフィードバック

しています。 一般的にいう満足度調査も行っています。新商品は市

場導入後3ヵ月以内に顧客の反応を調査しています。そ

うやって品質改善に結びつける。当社の社員がお客様を

訪問するのが困難な場合は,郵送調査をしています。ま

た,調査会社を通じて,自社のお客様だけでなく他社製

品のユーザーの意見も収集し,製品や組織の改善活動に

役立てています。 ほかに OEM 先での表彰制度なども,CS の一環とし

て,情報としてもらって活用しています。もちろん,い

いことばかりではなくて,お叱りをいただくこともあり

ます。 年に1回,すべてのお客様の評価をまとめて分析をし

て「品質決算」を行い,来期の課題に生かしています。 しかし,提供している品質とアンケート調査などのCSが必ずしもうまく結びつかないことで悩んでいます。お

客様は満足といっているのに売上は必ずしも伸びないと

か,お客様は不満だといっているが,どこを直せばいい

のかわからない。ネガティブな苦情やクレームは,比較

的わかりやすく直せますが,アンケートなどの満足度調

査の情報はむずかしいです。 N.S 当社の場合,納品先である親会社を顧客に位置づ

けています。まずは,出荷品質をいかに親会社の受入れ

検査に対し 100 パーセントに近づけるか。また,親会社

を通して入ってくるエンドユーザーからのクレームをい

かにゼロに近づけていくか。親会社に集まって数字やク

レーム内容を検討し,歯止めをします。しかし,いわば

「攻めの品質」には入りきれていない。不良やクレーム

をゼロにすればいいとはかぎらないように思います。 S.H 顧客が関心をもち,期待しているから,こうして

もらいたいという意見が出てくる。クレームが出ないの

は顧客が関心を示していないからかもしれません。 N.S クレームがすべて企業の製品価値のマイナス部分

とはいえません。クレームの中には改善の要素が入って

います。 M.H わが社では百貨店,量販店,専門店などの販売形

態がありますが,販売アドバイザーが常駐している店は,

コンサルをしながらの販売ですので当然クレームが少な

い。手間をかければクレームは減るわけですが,お金を

かけずにクレームを減らす方法が見つかればいいのです

が。 To.S うちでも顧客が施工に入ると,いろいろなクレー

ムが出てきます。設計者が顧客,施主とよく話をしてデ

ザインしているか。それは設計者の個人の能力にかかわ

ってきます。できあがったものが本当に施主のニーズに

合っているのか,設計会社のむずかしいところです。 S.H そういうかたちで入手した情報を次の設計・開発

にも使うことができますね。 T.N ソフトウェア会社でも,サポート,設計支援など

の「人」のサービスがあります。技術だけではなく,顧

客との接触の仕方,接触度合いの強さが重要になってき

ます。さらに,要望をどう受け止めるか,どう提案する

顧客満足をディスカッションする

クレームは宝の山

ISO推進者会議

ディスカッションメンバー

S.H (建設コンサルタント業) テーマリーダー

Y.K (電子機器,事務機器メーカー) Y.A (通信機器メーカー)

N.S (精密部品メーカー) K.K (電線・電気器具メーカー)

H.S (建設コンサルタント業) N.K (QMS 主任審査員)

M.H (衣料品メーカー) T.S (建設業)

To.S (建設コンサルタント業) M.T (プリント基板メーカー)

T.N (システム開発業)

61

かも非常に大事なことだと思います。 営業から入ってくる情報には,会社の大きな事業レベ

ルでの評価があります。うちの事業はこういうスタンス

で今やっているが,こんなスタンスではどうかとか,対

応が遅いとか,事業レベルでの日常的な評価です。これ

に CS アンケートを加え,製品の評価になります。しか

し,クレーム対応処置をしても,是正処置につながるよ

うな情報がなかなか出てきません。そのクレームを処置

してしまえば忘れてしまう。その情報をいかに引き出す

かが課題となっています。 Y.A うちは各事業部で苦情や要望をすべて「お客様対

応書」に記入して対応し, 終的には本部の品証にあが

ってくる仕組みになっています。しかし,お客様へ個別

に対応して済ませてしまうと,「なぜいちいち書かなけ

ればいけないのか」という。フィードバックのためだと

いっても,そんな時間はないという。たくさん書く事業

部と,そうではないところに分かれている。しかし上で

は,一生懸命書いてくれたところは苦情が多い,何も書

かないところは成績がいいという,間違った分析をして

しまう。 Y.K 書けば自分にもプラスになるということならば,

強制しなくても少しずつ増えていくでしょう。私たちも,

書いてくれた人に情報をフィードバックしてあげる。そ

うすれば記入率が高まっていくと思います。 K.K クレーム情報はたいへん役立ちます。当社の場合,

クレームはメーカーからきます。お客様の声は営業に入

ってきますが,それがクレームか,それとも問合せかと

いう識別をその段階でするのはむずかしいので,全部に

ついて「品質連絡票」を書かせます。当然,個別の対応

もしますが,それを展開して,有効に役立てることもで

きる。四半期や年間で集計をして,クレームがなくなる

手法を考えていくようにしています。 H.S クレームにきちんと対応することでむしろお客様

との関係がよくなり,そのあとの仕事につながるケース

もあります。アンケートよりクレームからスタートして

いるほうが,お客様からの信頼を勝ち取れるというケー

スもあります。

K.N クレームからいかにしてお客様の要望や,期待を

読み取るか。何のためにお客様の声を聞きたいのか,こ

のモチベーションを職場にかかわっている人たちにどう

やってもってもらうかを,推進役や当事者である部署の

中で共通認識をもてればいいのではないでしょうかと思

います。 N.S どうしてもクレームは出てしまうけれど,「クレ

ームは宝なり」と受け止め,有効な情報として改善に使

うという前向きな活動につなげる。マイナスの要素では

なくプラスに切り替えて活用していくというスタンスが

大事だと思います。 T.S お客様のアンケートの回収率が上がらずに悩んだ

こともあります。しかし,特典をつけたところ,回収率

が上がりました。お客様も正直で,何かのプラスがあれ

ば書いてくれるようになります。お客様としては,会社

が得するだけで,こちらは営業に追いかけまわされるの

ではないかと考えているかもしれない。でも,何かのき

っかけで書いてもらい,それに「ここがよくなりました。

ありがとうございます」とお返しできれば,感じ方も変

わってきます。 Y.K 当社の保守サービス部門でメンテナンスを行うカ

スタマーエンジニアの調査でも同じです。カスタマーエ

ンジニアは非常に真面目でよくインプットしてくれます

が,インプットしたのだからいい製品として返してくれ

アンケートは役に立つのか

62

連 載 /ステップアップ ISO 9001

といわれます。やはりフィードバックが大事です。 M.T アンケート調査を行うと,お客様によって考えが

まったく違う。たとえば梱包について,あるお客様から

の回答では5段階評価の2,ほかのお客様は5だったと

します。この差はなぜかと考え,お客様にご不満な点を

問いかけたところ,「紙に包んでいると,ゴミが増える」

「傷がつくものではないので,そのまま段ボール箱に入

れてほしい」という。こちらとしては,紙に包んで梱包

したほうが,確実にきれいにお納めできる。しかし,お

客様によってはムダだという。アンケートから得られる

いい情報もありますが,当社のほうで自信をもっている

部分で低い数字が出ることもある。 窓口になる営業の担当者とお客様との人間関係も影響

するので,アンケート自体の信頼性も考えさせられます。 Y.K たしかに,アンケート調査の結果と提唱している

品質レベルの環境を見ると,調査の結果の信憑性に疑問

が生じることがある。たとえば,機械の故障頻度につい

て,あるお客様から「非常に不満である」と返ってきた。

しかし,そのお客様の故障実績を調べてみたら,ほとん

ど故障していない。あまりアンケートの回答に頼りすぎ

てもいけないと思っています。 K.K 当社は部品メーカーで,一般消費者とじかに接す

ることがありません。私はむしろ,アンケート調査は不

要だと思っていました。日ごろから顧客に営業が対応し

ていく中で,情報が入ってくる。あえて聞くことではな

いと思っていました。 また,営業ではいろいろなデモや展示会をして,お客

さまの声を聞いています。しかし営業部門では,これは

受注に結びつけるための販売活動で,お客さま満足度の

指標ではないと認識していました。そうではない,これ

もお客様満足度情報だ,と営業の部門長と議論をしまし

た。販売実績の数字だけではなく,お客様との討議の中

身をデータとして記録してほしい。そう話していたら,

近,営業の部門長が「アンケート調査をしよう」とい

いはじめました。部品メーカーのお客様の満足度は何を

もってはかるのか。お客様にアンケートを取れば,答え

が見えてくるかもしれません。

M.H わが社でも調査会社に依頼して,年1回,ユーザ

ーを対象にアンケート調査を行っています。しかし,調

査をしなくてもわかっているようなことも結果として出

てきます。この課題を解決しないかぎり,商品も売れな

くなってくるでしょう。 近はお客様の好みが多様化し

ています。今までは宣伝量と売上は比例していましたが,

近はニーズの多様化により必ずしも比例しなくなって

きています。 Y.K 展示会や店頭で直接聞いたお客様の声は記録にと

どめていますか。 M.H 気になったことは残しています。 Y.K お客様の話をメモに残し,それをテキストマイニ

ングすれば,本当の CS 情報が取れるといわれています。

自分たちで品質調査の帳票をつくると,こちらの意図が

入ってしまう。むしろお客さまの素直な気持ちで,好き

に書いてもらうほうがいい場合もあります。 M.H 開発段階ではモニターの意見をもらいますが,意

見が開発側にとって都合のいいことばかりでも,辛辣な

ことばかりでも困ります。開発の現場は,そのはざまで

苦労しています。お客様が何を本当に希望していて,何

が不満足なのか,なかなかわからない。 T.N アンケートの回答を自分たちでいかに整理し,改

善につなげるか。仕組みはあっても,運用面でうまくい

かない。十分活かせていない。 しかし,アンケートにしてもクレームにしても,結局

は日ごろから組織が抱えている課題を浮き彫りにするき

っかけになる。組織の中でも業種が違う部門はあり,そ

れぞれが何かやろうとしても,ベクトルが合わないこと

もある。そこへアンケートで問題が出てくると,そのベ

クトルを合わせる機会になるというメリットはあります。 S.H 顧客満足の大きなファクターの一つに,従業員満

足もあるのではないでしょうか。従業員が満足できない

ということは,会社のほうを向いてお客様と話をしてい

る状況といえます。そういう中でお客様と 100 パーセン

ト腹を割った話はやはりできない。 K.N 「顧客満足の実現のため」という大きなテーマの

中で,「従業員満足なくして顧客満足なし」ということは

63

いえると思います。 T.S 当社は建設業で,直接お客様に対して仕事をして

います。顧客満足では「完全地域密着」「お客様の生の声

をどうやって集めるか」「お客さまの立場に立った業務

ができるか」という3つのテーマで取り組んでいます。 1つめでいえば,会社とお客様の考え方の違い,距離

をいかにして近づけるか。「お客様はどんな建設会社に

頼みたいのか」を会社の中で議論しあってもなかなか答

えは出ない。会社本意の回答しか出てこないので悩んで

います。 たとえば「どんな医者にかかりたいか」と考えると,

気軽に相談できるとか,わかりやすい言葉で説明しても

らえる,生活習慣についてのアドバイスもできる。では

建設業は「家の習慣」,メンテナンスについてもアドバイ

スできたほうがいいのではないか。そういう方向で,会

社の思い込みとお客様の望むことの距離を近づけるヒン

トを探しています。 当社のイメージはどうですかと聞くと,いいイメージ

もあれば悪いイメージもあります。今はさまざまな取組

みをしていく中で,徐々に会社本意で考えていたお客様

の立場を見直している段階です。 S.H お客様がどのように感じ,受け止められているか,

いろいろなかたちで情報を収集しています。しかし,集

めた情報が本当に役に立っているのか疑問です。 T.S 当社はアンケートにしても直接お客様のところに

うかがい,生の声を聞いて,その声を会社で取り上げる

ために,朝礼の際に社員がローテーションで1分間スピ

ーチをしています。そのスピーチは,お客様や業者の声,

または日ごろの業務の中で感じていることなどを題材に

し,改善のヒントにしていきます。 S.H 建設関連業の場合,国土交通省などでは委託業務

などについては,成果品の品質や業務遂行プロセスなど

についての評価結果を「委託業務成績評定通知書」とい

う形で受注業者に知らせてくれます。それをベースにし

て,うちの会社のどこが弱いのかをつかみ,改善のため

の情報として活用していくようにしています。 しかし,点数がよくなっても,何が原因でよくなった

のかが見えてこない。本当にほしい情報がつかめていな

いのが実態です。また, 前線で顧客と対応している営

業も,受託した業務の成果や遂行プロセスについて顧客

がどのように受け止めているかを CS カードに書いて報

告するようにしていますが,書くのが面倒だといって報

告しないことがあります。こうしたことは,人事評価あ

るいは業績評価と連動させれば解消できるのではないか

と思っています。 H.S わが社も,顧客の9割は国土交通省,県,市町村

です。やはりそういう仕事では「業務成績評定」をもら

います。顧客と受注者のコンタクトは良好だったか,工

程管理はどうかなど二十数項目にわたります。100 点満

点で,平均点は 72~73 点くらいです。80 点を超えると

高評価といえ,のちの指名参加に影響してきます。これ

もお客様からくる大事な情報だと思っています。 業務成績評定をいただけないお客様にも,これに沿っ

た内容で業務アンケートの記入をお願いしています。業

務評定には個々の管理技術者や調査技術者の評価も含ま

れていて,業務アンケートにもそれを取り入れましたが,

お客様は書きづらいのか全項目を 高ランクの5でつけ

てくるなど,情報に歪みが生じています。その改善と,

現在の回収率 47~48 パーセントをもっとあげていくこ

とが今後の課題です。

情報は活用できなければ意味がない

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

過去3年間で,業務評定は 100 点満点で2~3点上が

り,アンケートも5段階評価で平均 3.2 点だったものが

3.5 点まで上がってきています。評価が上がった理由は

よくわかりませんが,取組みをつづけることで,社員に

自覚が芽生えたためかもしれません。 T.N TR0005 では,顧客満足の測り方,捉え方につい

て,組織のレベル1から5までがあります。仕組みがあ

って,その仕組みを実行しているというとレベル2で,

レベル3になると,組織像が明確にされている。自分た

ちの組織として何の目的があって業務計画をつくってい

るのか。お客様は誰なのか。何を目的にアンケートをす

るのか。その背景を押さえていることがレベル3となっ

ている。 組織像が明確かということは,組織像が従業員にも展

開されているか。アンケートを実施する事務局だけでは

なくて,営業マン,現場の人たちも含めて,従業員自身

が組織像を把握しているのかという,もっと根が深いと

ころがあるのかもしれない。ある意味,従業員満足の部

分にもかかわってくるのではないでしょうか。 M.H 顧客というのは customer でしょう。customer は習慣づけたお客様だから,お客様は誰か,私たちが決め

なければいけない。新しい客層を開拓していくのか,今

までのお客様(customer)だけを大事にするのか。それ

によってアンケートの取り方1つとっても違ってきます。 S.H 発注者と,実際に使用する人のどちらを顧客とす

るかによっても違う。たとえば道路の設計なら,直接の

顧客は官公庁ですが,道路ができると,それを利用する

歩行者や車の運転手が実際のお客様になります。顧客を

どう絞って満足度を測るか,非常に悩ましいところだと

思います。 メーカーさんの場合,使われる方がエンドユーザーで,

いろいろなかたちで情報を入手できると思います。 K.N 私は以前,ソフトウェア開発の仕事をしていまし

た。仕事は大きく分けて2つあり,1つは特定のお客様

からの受託でソフトウェアを開発して納める仕事です。

もう1つが量販するパッケージソフトを企画開発して量

産し,市場に出し,バージョンアップをかけていく仕事

でした。 受注業務の場合,メンテナンス契約がなければ,納め

たら仕事は終わりです。ただ,同じお客様からリピート

のオーダーがあり,関係がつづいているということは,

ご満足いただいているのではないか。直接「満足してい

ますか」と聞かなくても,仕事をいただけることで,ご

満足いただいているという捉え方もできます。 逆に1回だけで終わってしまうケースもあります。ソ

フトウェアの場合,何年かたつと開発環境が変わります

から,納品済みでも新しいプラットフォームへの移植や

再構築というビジネスチャンスがあるはずですが,それ

につなげられない。 残念なのは QMS の推進役をした時,その仕事は適用

範囲に加えられなかったんです(笑)。受託チームの顧客

満足の把握の仕方の1例として,リピートオーダーとい

う考え方があるのではないですかというアドバイスだけ

はしたのですが。 量産品のほうはお客様が不特定多数で,反応はなかな

か見えません。しかし,ソフトウェアには残念ながらバ

グがつきもので,使っていくと不具合が出てくることが

あります。すると,何かおかしいとお客様が問い合わせ

てくださる。それが商品自体の改善を図るチャンスにも

なります。 Y.K 業種,業態によって CS 情報の収集,活用の仕方

が違う。それに得られた情報の使い方,解析がかなりむ

ずかしい。たとえば5段階評価で5だったらなぜ5を付

けたのか,4ならなぜ4を付けてくれたのかをナレティ

ブに書いてもらう。その情報を整理してみると,課題が

だんだん見えてきます。 K.N 何の目的でアンケートを実施したのか,何が知り

たかったのか。規格で求められているからではなく,何

を知りたくてこのアンケートをとるのか,目的意識をも

っていなければならない。何となく情報が集まったから

分析しようか,という状況では使えない情報しか集まら

ないでしょう。

65

今月のテーマは「顧客満足」です。顧客満足に関する

規格要求事項は,規格 8.2.1 項「組織は,品質マネジメ

ントシステムの成果を含む測定の一つとして,顧客要求

事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように

受けとめているかについての情報を監視すること。この

情報の入手及び使用の方法を決めること」というもので

す。その上で,規格 5.2 項で,「顧客満足の向上を目指す

こと」が要求されています。 ◆◆◆

審査に行った時にこの 8.2.1 項を審査しますと,組織

によっていろいろな方法論をとっているのに出会います。

ディスカッションの中でもいくつかの方法が出てきまし

たが,比較的多いのは,アンケート調査や顧客訪問調査

です。ここで大事なことは,いろいろな方法論で情報を

集めて何に使うかということで,ディスカッションの

後のまとめのところで,K.N さんが発言されているよう

に,「何を知りたくてこのアンケートをとるのか」です。

アンケートにしても,顧客訪問にしても,満足度合いは

個人差がかなり出てきます。途中 T.N さんの発言にある

ように,TR Q 0005『クォリティマネジメントシステム

-持続可能な成長の指針』の中にいくつかの顧客満足の

測定の指針や,あるいは S.H さんの発言のように従業員

満足についても指針が出ていますので,1 つの参考にな

るのではないでしょうか。 ◆◆◆

さて,顧客満足を向上させる目的を考えてみましょう。

顧客満足度を上げることにより,売上をのばす,世間か

らすばらしい会社と認められる,苦情・クレームのたぐ

いの減少などいろいろな目的があるでしょう。その指標

としては直接的な指標(例:アンケート調査のように顧

客の評価を直接測定する)および間接的な指標(例:注

文のリピート率で評価する)の 2 通りがありそうです。

また,業種が製造業の場合とサービス業の場合では異な

るでしょう。サービス業に特徴的なのは(サービス業だ

けにかぎりませんが),顧客満足を決定するもっとも大き

な要素は,「事前期待」と「事後評価」との充足の度合い

で決定されるようです(日科技連:通信教育「お客様へ

のサービス向上基礎講座」テキストより)。とくにサービ

ス業の場合は,顧客の事後評価を得やすいこともあり,

顧客満足の情報を入手しやすいと思われますが,一方で

は同じサービスに対して,顧客によって満足の仕方が異

なると思われますので,どう解析し,その情報をどう利

用するかは一苦労あるでしょう。審査で時々感じること

は,規格 8.2.1 に対応して顧客満足度を評価している組

織は多々ありますが,それを顧客満足の向上の目的にな

かなか結びついていない組織が多いようです。 ◆◆◆

顧客満足を考える時にもう 1 つ大事なことがあります。

それはN.Sさん,H.Sさんなどが発言されているように,

顧客は誰かということです。顧客満足ですから,顧客を

明確にしないと顧客満足がぼやけてしまいます。また顧

客満足は継続的に監視することが必要です。私が審査し

たある会社では,顧客満足を測定するために年 1 回アン

ケート調査をしていましたが,毎年アンケートが終了す

ると,社内でアンケート項目についての議論があり,翌

年はそれを反映してアンケート内容を変えて調査をして

いました。アンケートを向上させることは大事ですが,

このようにすると前年との比較あるいは長期的に満足度

一口アドバイス

QMS 主任審査員 篠原 健雄((財)日本科学技術連盟 嘱託)

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

が変化しているかがわかりません。アンケートを実施す

る場合には,様式を慎重に決めて,しばらく変えないほ

うがよいと思います。 ◆◆◆

次に間接的な評価方法を考えてみましょう。もっとも

一般的な評価因子は,クレームあるいは注文のリピート

率ではないでしょうか。またクレームには,数の問題と

程度の問題があります。これもアンケートと同じで,顧

客のレベルによってばらつきが大きいと思われます。デ

ィスカッションの 初の部分で,「クレームは宝の山」と

のサブタイトルがついていました。確かに「クレームは

宝の山」です。一方,別の見方をすれば,クレームは問

題が発生して「是正処置」を実施し再発防止することで

あり,クレームになる前の要望の段階で感度鋭く顧客情

報として取り込み,「予防処置」を実施するほうがもっと

効果的なはずです。これが規格で要求している「顧客が

どのように受け止めているかについての情報」ではない

でしょうか。 すなわち,ディスカッションの中で Y.A さんや K.K

さんなどが発言しているように,「お客様対応書」のよう

な顧客情報を記述する組織が 近多くなっています。問

題は Y.A さんが発言されているように,この書類が多い

部門はクレームが多いという評価をされる傾向にありま

す。まず,気になったことや顧客の連絡事項は必ず記録

する習慣づけが必要でしょう。これが本当の宝の山にな

るのではないかと考えます。 ◆◆◆

後に顧客満足度の比較的高いと思われる組織の特徴

ですが,ムリをしてアンケートを取っていない組織もか

なりあります。むしろ,顧客からの情報を確実に記録と

して残し,内部コミュニケーションを生かしてその情報

を全員で共有化するようなシステムをもっている組織が

多いと思います。顧客重視は,品質マネジメントの 8 原

則の 初に出てくる原則です。それだけ重いものですし,

方法もいろいろと考えられます。これといった決定的な

方法はありませんが,顧客満足に関する組織の目的に沿

って顧客満足度を測定し,それを向上するようにがんば

ってください。 (Takeo SHINOHARA)