千葉大学環境リモートセンシング研究センター · Web view千葉大学環境リモートセンシング研究センター 2019年度共同利用研究公募要項
藻類の多様性 - 国立環境研究所藻類の多様性...
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藻類の多様性-環境問題から保全、そして利用-
河地 正伸
独立行政法人 国立環境研究所生物圏環境研究領域 微生物生態研究室
藻類:水の中を主な生息場所として、光合成を行う生物
いろいろな色やサイズの藻類の培養株
藻類の繁殖で色づいた水
顕微鏡で観察した藻類の動きと微細構造
スジリモジリ運動(ミドリムシ)鞭毛運動(渦鞭毛藻)
南極や北極の海に豊富に生息するパルマ藻
ミクロの目
ミクロの目
食作用を行うハプト藻ハプトネマで捕獲、運搬
食作用で取り込まれた餌
クリソクロムリナ ヒルタ
ハプトネマ
鞭毛
葉緑体
葉緑体
藻類の生息環境 陸水(ため池・沼・湖・水田・・・)
藻類の生息環境 海岸線・海藻
藻類の生息環境 極限環境(温泉・南極・死海・・・)南極(~-40℃)温泉(40~60℃の高温)
死海のほとりのドゥナリエラ・ファーム(海水の10倍の塩濃度)
いろいろな藍藻ドゥナリエラ
藻類の生息環境地衣類=菌類+藻類緊密な共生関係全地表の8%は地衣類で被覆
ウメノキゴケ 切片像 共生藻
菌体
藻類の生息環境 サンゴ礁の褐虫藻
日高道雄教授撮影
サンゴ共生藻
バイオ燃料CO2回収
絶滅危惧種
環境指標
水や大気環境の指標に使われている珪藻と地衣類
シャジクモの多くの種は、全国的に数が減少していて、保全が必要とされています
オイル産生藻類黄色い蛍光がオイル
大量繁殖、毒生産等、自然界や人間社会に問題を引き起こす藻類がいます
有害藻いろいろ
環境問題
1.最近大量繁殖が確認されはじめた藻類、円石藻
2.船舶バラスト水による越境移動が問題視されている藻類、シャットネラ
3.国立環境研究所の藻類カルチャーコレクションについて
藻類の多様性-環境問題から保全、そして利用-
1.最近大量繁殖が確認されはじめた藻類、円石藻
2.船舶バラスト水による越境移動が問題視されている藻類、シャットネラ
3.国立環境研究所の藻類カルチャーコレクションについて
藻類の多様性-環境問題から保全、そして利用-
2-4 µm
6-8 µmGephyrocapsa ericsonii Emiliania
円石藻について •炭酸カルシウムでできた円盤状の殻(円石)で細胞が被覆
•単細胞性、2~80μmサイズ•外洋環境の代表的な藻類•約300種
Calcidiscusの光顕像
15-20 µmOolithotus
円石同士の連結部分
白亜紀に堆積した円石藻の化石
英国イーストボーン白亜の崖
白亜紀の円石藻
この時代の膨大なバイオマスが原油の基に
円石藻
ゲフィロキャプサ オセアニカ
Gephyrocapsa oceanica
2007年4月に博多湾で形成された円石藻大量繁殖の発生状況約1ヶ月継続
衛星画像:提供JAXA
同規模の大量繁殖2004年4月やや小さい規模2008年4月
2007年の大量繁殖前後の細胞数の変化
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000 珪藻・渦鞭毛藻・他
円石藻
★一日で急激に増加
大量繁殖前 後
風や海流で集積?
シスト(休眠細胞)から一斉に発芽?
細胞/
ml
約1ヶ月継続
風や海流で集積?2007年3月後半~4月にかけて、穏やかな天気が継続
福岡市保健環境研究所
2007年4月 円石藻が大量繁殖した際の博多湾 コバルトブルーに変色
シストからの一斉発芽?シスト:休眠性、耐久性を備えた細胞、生存に不適な条件で、形成されて海底に蓄積
海底堆積物中のいろいろなシスト
• 円石藻のシストは不明・・・顕微鏡観察による検出は不可
• リアルタイムPCR法を適用:円石藻のDNAを特異的に増幅して、その増幅速度から細胞数を推定
2007/4堆積物
2008/3堆積物
2008/1海水
2008/4海水
DNA 0 0 20 5,889
顕微鏡 - - 21 6,500
シストからの一斉発芽?リアルタイムPCRによる博多湾堆積物の解析
堆積物中にシストのような細胞はいない!
円石藻の培養株確立
水温
栄養条件
円石をつけた細胞
ミクロな目
円石藻から円石のない細胞が出現!
仮説:円石のない細胞が一斉に円石を付けはじめると・・・⇒急速に大量繁殖したかのように見えるのかもしれない・・・
円石のない細胞
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
07/4/25
07/6/8
07/8/6
0711/7
08/1/9
08/2/14
08/3/12
08/4/5
08/5/8
円石藻
■珪藻・渦鞭毛藻・その他
細胞/
ml
春 夏 秋 冬 春
2007 2008
博多湾における円石藻と他の微細藻の季節的変化
珪藻 渦鞭毛藻
珪藻と渦鞭毛藻は沿岸域の代表的な微細藻(植物プランクトン)
珪藻等がいないときに円石藻は増殖!
博多湾のリン濃度とクロロフィル量の経年変化
福岡市資料より全リン濃度
クロロフィル量
赤潮件数、特に珪藻赤潮件数が減少
平成5年からリンの高度処理がスタート
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
07/4/25
07/6/8
07/8/6
0711/7
08/1/9
08/2/14
08/3/12
08/4/5
08/5/8
円石藻
■珪藻・渦鞭毛藻・その他
細胞/
ml
春 夏 秋 冬 春
2007 2008
博多湾における円石藻と他の微細藻の季節的変化
珪藻 渦鞭毛藻
珪藻と渦鞭毛藻は沿岸域の代表的な微細藻(植物プランクトン)
珪藻等がいないときに円石藻は増殖!
穏やかな天気貧栄養環境
珪藻優占
宙の目
ミクロの目
沿岸環境栄養塩豊富
撹拌により底泥から栄養塩溶出
円石藻優占
円石藻
外洋から移入
1.最近大量繁殖が確認されはじめた藻類、円石藻
2.船舶バラスト水による越境移動が問題視されている藻類、シャットネラ
3.国立環境研究所の藻類カルチャーコレクションについて
藻類の多様性-環境問題から保全、そして利用-
荷室バラストタンク
バラスト水とは?
バラスト水:船舶が荷下ろしの際に、重しとして取り込む海水
バラストタンク:バラスト水を入れるタンク
港湾の海水とともにいろいろな海洋生物が取り込まれます
バラストタンク
空荷状態は不安定
安定
石炭を積み込み始めたバラ積み船バランスを取るためにバラスト水を排出
バラスト水の問題
• 膨大な量の海水や堆積物が短期間に長距離を移動して、排出されている(年間30~40億トン)
• バラスト水とともに越境移動した海洋生物による被害続出北米西岸で東アジアから移入したカイアシ類により、在来種絶滅;北米から移入したクシクラゲ類によって黒海のアンチョビー漁業が壊滅状態に・・・)
• バラスト水問題の便宜的対策、リバラスト(港で入れたバラスト水を生物の少ない外洋の海水に置換する措置)による海洋汚染や島嶼生態系への影響も懸念
ナノ-マイクロプランクトン(微細藻類、シスト、原生動物)
マイクロ-メソプランクトン (動物プランクトン、原生動物)
海藻類
バラストタンク内で確認される海洋生物いろいろ
魚イソギンチャクゴカイ・・・
ピコプランクトン(細菌、微細藻類)
2μm以下 2~20μm
20μm~2mm
もっと大型
シスト:休眠性・耐久性をもつ特殊な細胞
変種マリナ
変種アンティカ 変種オバタ
シャットネラ(Chattonella)・・・養殖魚に大きな被害を与える赤潮生物
遺伝的多様性、分類、生活史、生態に関する研究
•不等毛植物門 ラフィド藻綱• 2本鞭毛、・多数の黄色の葉緑体•西日本を中心に分布•赤潮生物として最も大きな漁業被害を起こす種(2009年にも有明八代海で32億円の被害)
世界各地のシャットネラの分布と被害報告年
1969-日本
1996-オーストラリア・ニュージランド
1997-USA西岸
1991-東南アジア
1991-北欧
1995-ブラジル
日本から世界に船舶バラスト水で拡散!?
リバラスト
リバラストバラスト水を外洋水に置換 調査期間
2004~2009
石炭・鉄鉱石運搬船(東京湾・瀬戸内海・東北⇌豪州
東海岸)全長230m、58,000トンバラストタンク総容量:
コンテナ船(東京・瀬戸内海等-アジア各国-USA)
全長300m、75,519トンバラストタンク総容量:22,481m3
リバラスト
•温度が大きく変化(2週間で8~40℃)日本⇒オーストラリア(バラスト水満載)冬の日本8℃⇒赤道域32℃⇒夏のオーストラリア27℃オーストラリア⇒日本(最下層にバラスト水)エンジン等の影響で最大40˚Cに
•暗黒条件•水圧や撹拌• Cd、Zn、Fe等の濃度:海水の10~数千倍
バラストタンク内環境の特徴
海洋生物にとって過酷な環境
Pseudo-nitzschia spp.
0
20
40
60
80
100
120
140
160
SW01BW01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Ceratium furca
0
0.5
1
1.5
2
2.5
SW01BW
01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Chaetoceros curvisetus
0
100
200
300
400
500
600
700
SW01BW01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Chaetoceros debilis
0
20
4060
80
100
120
140160
180
200
SW01BW01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Dictyocah fibula
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
SW01BW
01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Cylindrotheca closterium
0
5
10
15
20
25
SW01BW01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
Asterionella glacialis
0
50
100
150
200
250
300
SW01BW01 02 03 04 05 06 07 08 10 12 15
S
B
リバラスト
石炭運搬船0412バラストタンク内で植物プランクトン(微細藻類)の数は大きく減少
シャットネラは未確認
リバラスト:バラスト水を外洋水に置換
バラストタンク内の生存能力実験
通常細胞/ml シスト/kg堆積物航海前 500 404航海後 0 705
2ヶ月間の航海前後のシャットネラの細胞数
シャットネラのシスト
シスト:休眠性・耐久性をもつ特殊な細胞
• 培養株と港湾堆積物• 特殊容器に入れて、タンク内に設置• 2ヶ月間の航海後の細胞数の変化• 港湾堆積物中のシャットネラの細胞はリアルタイムPCR法で検出
通常の細胞(栄養細胞)
バラストタンク最下層の堆積物
船舶のタイプ 航路 採集年月 シスト/kg堆積物石炭運搬船 日‐豪 0710 142コンテナ船 欧‐アジア 0508 0自動車船A 不明 0607 9.9自動車船B 日‐米 0607 0
いろいろな輸送船舶のバラストタンクに含まれていたシャットネラのシスト
バラストタンク内の生存調査
ミクロの目
リアルタイムPCRという高感度の検出法で、シャットネラのシストの存在をはじめて確認
荷下ろし時に港湾海水をタンクに取水
荷積み時にバラスト水を排水
日本
オーストラリア
空荷状態バラスト水満載
赤道
2ヶ月間の航海後でもシャットネラのシストの生存を確認バラストタンクの堆積物からシャットネラのシストを検出
船舶を介したシャットネラの移動の可能性を示唆
1.最近大量繁殖が確認されはじめた藻類、円石藻
2.船舶バラスト水による越境移動が問題視されている藻類、シャットネラ
3.国立環境研究所の藻類カルチャーコレクションについて
藻類の多様性-環境問題から保全、そして利用-
培養株を保存・管理して、利用者に分譲
培養株とは?
自然界
1細胞を分離して培養液へ
一定条件で培養細胞分裂・増殖安定的に維持
研究材料いろいろな実験
培養株確立種の同定
カルチャーコレクション
定期的に培養株の状態を検査
継代保存のための植え継ぎ作業
器具洗浄・滅菌、培地作成分譲株発送寄託株受付無菌化
種名チェック等々一定温度・光条件で培養
凍結保存
カルチャーコレクション
定期的に培養株の状態を検査
継代保存のための植え継ぎ作業
論文・報告書等で使われた培養株
↓長期的に保存
↓様々な研究に活用研究の発展に不可欠一定温度・光条件で培養
凍結保存
組織的に効率よく、集中管理
↓多数の培養株を保
存可能
1983年に設立藻類に特化したコレクション
研究所内外から株を受け入れて、品質、分類情報等を審査した上で公開
ホームページと株カタログ
2,224株を公開中(2010/6)独自性の高いコレクション
環境分野や様々な研究分野、応用、教育等で利用
2009年発行のカタログ
国立環境研究所 微生物系統保存施設NIESカルチャーコレクション
http://mcc.nies.go.jp
環境問題に関わる藻類 分類学上重要な株
赤潮やアオコを形成する株や毒を生産する株 (250株)、絶滅が心配される種 (300株)・・・全体の約1/3
新種記載の標本に指定された株、記載論文で使われた株等の受入(約130株)
Gonium maiaprilis(NIES-2457)
正基準標本(ホロタイプ)に指定された培養
Hayama et al. 2010
ゲノム情報が整備された株 有用物質を生産する株全ゲノムが解読された株Microcystis aeruginosa NIES-843Thermosynechococcus elongatus NIES-2133 Cyanidioschyzon merolae NIES-1332 ・・・
オルガネラゲノムやESTが解読された株Chlamydomonas reinhardtii NIES-2235Mesostigma viride NIES-296Oltmansiellopsis viridis NIES-360Nephroselmis olivacea NIES-484・・・
高度不飽和脂肪酸 (EPA, DHA)生産株Nannochloropsis NIES-2145, 2146Glossomastix NIES-1002, 1302, 2503, 2504オイル生産株Botryococcus NIES-836, 2199多糖生産株Porphyridium NIES-1957, 1958, 1959, 1960……..
最後に・・・ 藻類の多様性について
進化・系統的に多様な生物を含んでいて、研究材料・教材として魅力的!? ミクロな目で見ると特に面白い!
新種発見は日常茶飯事、最近でも新しい「門」が設立・・・藻類の多様性は、一部だけが明らかに!
赤潮問題でも、原因種が変遷して予防と対策を困難なものに・・・ 突然問題となった種が新種だったり!
顕微鏡でじっくり観察するDNAを詳しく解析する
ミクロな目を活用する