敗血症の未来敗血症とは?・以前は「菌血症」と考えられていたが、1990年代以...

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2015年7月7日 慈恵ICU勉強会 横田 泰佑 Lancet Infect Dis 2015;15: 581–614 敗血症の未来

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2015年7月7日慈恵ICU勉強会

横田 泰佑

Lancet  Infect  Dis  2015;15:  581–614  

敗血症の未来

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目次

1.Introduc+on:序論  2.Defini+on:定義  3.Epidemiology:疫学  4.Diagnosis:診断  (a.血液培養,b.MADI-­‐TOF,c.PCR法,d.バイオマーカー)  5.Therapy:治療  (a.抗菌薬,b.分子標的治療薬,c.その他)  6.  Discussion:議論  7.  Editorial:論説

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1.Introduc+on:序論

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敗血症とは?

・以前は「菌血症」と考えられていたが、1990年代以降は血液中の有無ではなく、全身性炎症反応症候群(SIRS)を伴う感染症と捉えれるようになった。    ・しかし、全身炎症の程度は病原体や宿主により千差万別であり、免疫抑制や二次感染なども関与するため、複雑な病態である。    ・そのため、現在は「全身症状を伴う感染症またはその疑い」と定義されている。

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PAMPs:病原体関連分子パターン、DAMPs:ダメージ関連分子パターン、PRRs:パターン認識受容体、LPS:リポ多糖、TLRs(Toll-­‐like  receptors)  

 ・PRRsで最も代表的で研究が進んでいるのは、エンドトキシンであるLPSを認識するTLRsである。  

Lancet  2013;  381:  774–75  

敗血症の病態

炎症性サイトカイン産生 PRRsによる認識

宿主免疫細胞(DAMPs)

病原体(PAMPs)

Sep+c  shock 細胞傷害

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過去 古代~19世紀

古代ギリシアの頃より存在し、ヒポクラテスが「瘴気」という説をとなえた。  

1991年 敗血症の概念と定義は、ACCPとSCCMによる初の国際カンファレンスで決定された。ここでSIRS基準が示された。

2001年 2回目の国際カンファレンスで、症状と徴候がより多彩であることがわかってきたため、PIRO  system提唱された。  

2004年 sepsis診療に関する初めてのガイドラインとして、Surviving    Sepsis  Campaign  Guidelines(SSCG)が発表された。

2008年 改訂版となるSSCG2008が発表された。    

2012年 SSCG2012が発表された。SIRSの用語がなくなった。  

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現在 敗血症のアウトカムは改善している!  

Crit  Care  Med  2010;  38:  367–74  

↓  1.敗血症の早期認知の増加(国際カンファレンスetc.)  2.患者管理の改善(輸液、昇圧剤etc.)  3.治療プロセスの改善(抗菌薬etc.)  

↓  しかし、いわゆる特効薬は存在せず、  死亡率は25~30%で、  敗血症性ショックでは40~50%である。  Lancet  Respir  Med  2014;  2:  380–86  

   

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現在 有効性が否定  ・活性化プロテインCは、死亡率を減少させるとされたがPROWESS-­‐SHOCK試験で市場から撤退した。    

・強化インスリン療法は、the  NICE-­‐SUGAR  Studyで有効性が否定された。    

有効性が疑問視  ・EGDT(early  goal-­‐directed  therapy) 遵守による管理では、死亡率に差がない。N  Engl  J  Med  2014;  371:  1496–506    

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未来へ向けて ・アウトカムは改善しているが、以前死亡率は高い。SSCG発行後に敗血症の罹患率は年々上昇している。  →定義と疫学の確認    ・病態生理は理解が進んでいるが、治療の改善効果の余地は存在する。  →診断と治療の確認    ・未来の研究を発展させるために、現在の敗血症へのアプローチの仕方を考える。  

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2.Defini+on:定義

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古い定義 ・敗血症は感染によって発症したSIRSとする。  

<SIRSの定義>  以下の4項目のうち2項目以上が該当する場合。  1)体温>38℃または<36℃  2)心拍数>90回/分  3)呼吸数>20回/分またはPaCO2<32  Torr  4)末梢白血球数>12,000/μlまたは<4,000/μl,  あるいは未熟白血球>10%    

日本版敗血症診療ガイドライン

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古い定義の問題点

SIRS基準は、臨床的で簡便であり迅速に診断が可能であるため、重症患者のスクリーニングとして広く浸透  

↓  問題点  

・非感染性疾患の除外診断が必要である。  ・幅広く軽症侵襲下患者を拾い上げる。  ・炎症を標的としたさまざまな臨床試験は否定的な結果に終わっている。  ・抗炎症反応の免疫抑制状態を標的としていない。  

↓  新しい定義が必要  

           

         

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新しい定義

・敗血症とは、全身症状を伴う感染症またはその疑いと定義される。  

・重症敗血症とは、敗血症にこれに起因する臓器障害や組織低灌流が加わったもの。

・敗血症性ショックとは、敗血症に適切な輸液蘇生を行っても低血圧が持続するもの。

SSCG2012.Crit  Care  Med  2013;  41:  580–637  

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新しい定義 <敗血症を疑わせる所見> 全身所見 発熱>38.3℃、低体温<36℃、頻脈>90/分または年齢別正常値の2SDを超える、頻呼吸、意識変容、著明な浮腫・体液増加(24時間で>20ml/kg)、高血糖(非糖尿病患者で血糖値>140mg/dl) 炎症所見 白血球増多または減少(WBC>12,000/μlまたは<4,000/μl)、未熟白血球>10%、CRP:正常値の2SDを超える、PCT:正常値の2SDを超える 循環所見 低血圧:収縮期血圧<90 mmHgあるいは普段から40 mmHgを超える低下・平均血圧<70 mmHg・正常値の2SDを超える低下 臓器障害所見

低酸素血症 :P/F比<300、急性乏尿 :適切な輸液負荷にかかわらず尿量<0.5 ml/kg/hrが2時間以上持続、クレアチニンの上昇:>0.5 mg/dl、凝固異常:PT-INR>1.5またはAPTT>60秒、イレウス、血小板減少:<10万/μl、高ビリルビン血症:T-Bil>4 mg/dl 組織灌流所見 高乳酸血症:>1mmol/l、毛細血管再充満速度の延長または冷たく湿った皮膚

SSCG2012.Crit  Care  Med  2013;  41:  580–637  

 

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新しい定義 <Severe  sepsis診断のための臓器不全の定義>  低血圧:敗血症に伴うもの  高乳酸血症:施設ごとの正常値上限以上  乏尿:適切な輸液負荷にかかわらず<0.5ml/kg/hr    が2時間以上持続  急性肺損傷:肺炎なし+P/F比<250           肺炎あり+P/F比<200  クレアチニン>2mg/dL  ビリルビン>2mg/dL  血小板数<10万/μL  PT-­‐INR>1.5  

SSCG2012.Crit  Care  Med  2013;  41:  580–637  

     

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定義の未解決な問題 ・SIRS基準のような実用的で、簡易な定義は、治療の現場では有用である。    ・一方、臨床試験で使用する定義は、患者選択のために厳密な必要がある。    ・しかし、敗血症は、糖尿病におけるHbA1cのような診断のためのバイオマーカーは現在も存在しないため、定義は不明確なままである。  

↓  ・例えば子供の髄膜炎と高齢者の肺炎を同じ疾患として扱っていいのか?

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定義のまとめ

SIRS基準  (1991~2011年)  

↓  SSCG2012「全身症状を伴う感染症またはその疑い」  

(2012年~)  ↓  

次の定義?

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3.Epidemiology:疫学

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疫学研究の問題点

・アメリカ  大規模な疫学研究の多くはICD-­‐9-­‐CMのsepsisに関連する病名がついた患者をsepsis患者として退院情報から抽出し、頻度を算出している。    ・他の国では、主にACCP/SCCMの基準(Crit  Care  Med  2003;  

31:  1250–56)を使用している。  ↓  

敗血症の定義が異なる。

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疫学研究の問題点

現在の調査対象  1.  ICUなどの、感染と臓器不全を起こしている重症患者のデータベースを対象にする。(高所得国)  2.ICD-­‐9か10で定義される病院の退院データベースを使用する。(アメリカ)  3.死亡記録を使用する。(LMICs:低中所得国・低所得国)  

↓  調査方法が異なる。  

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患者数の変遷 ・最初の毎年の推定敗血症患者数は世界中に  1500~1900万人である。しかし、これはアメリカのICD-­‐9の退院患者データを使用し、全ての国が同じような危険因子があると仮定している。  Lancet  2010;376:  1339–46  

 ・高所得国のシステマチックレビューでは、毎年3100万人が敗血症になり、その内2400万人が重症敗血症で、600万人が死亡している。  Crit  Care  2015;  19  (suppl  1):  P21  

→高所得国では、罹患率は上昇している。

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死亡率の変遷

文献 地域 院内死亡率 JAMA  2014;  311:  1308–16

オーストラリア・ニュージーランド

2000年35%  2012年18.4%  

Lancet  Respir  Med  2014;  2:  380–86  

84か国(アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、東アジアなど)

22.4%  

Crit  Care  Med  2001;  29:  1303–10

アメリカ 28.6%(1995年:発症数は10万人の内300人)  

Crit  Care  Med  2013;  41:  1167–74

アメリカ 14.7~29.9%(2004~2009年:発症数は10万人の内300~1031人)

→これらの研究は、死亡記録は使用していない。

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・ランダム化比較試験    ・期間:1991~2009年    ・対象:36のマルチセンターでICD-­‐9-­‐CM  でコードされるsevere  sepsisかsep+c  shockの入院患者    ・結果:死亡率は  毎年3~5%減少。     Crit  Care  Med  2014;  42:  625–31  

死亡率の変遷

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・1990~2013年    ・188国の主に  死亡記録を使用して調査。    ・高所得国では高齢者の、アフリカ地域では小児の死亡数が多い。  

Lancet  2015;  385:  117–71

死亡率の変遷

Global  Burden  of  Diseases(疾病負担)  project  

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妊婦・新生児の敗血症は、死亡原因の分類で、敗血症ではなく、新生児障害・母体障害して数えられる。  →死亡記録を使用する限界を示す。

Lancet  2015;  385:  117–71  

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疫学研究のまとめ

・疫学研究で対象が異なり、過剰診断などの可能性もある。  

↓  ・死亡率や  罹患率について一概に判断するのは難しい。

N  Engl  J  Med  2014;  370:  1673–76

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重症敗血症の死亡率に関連する危険因子 Lancet  Infect  Dis  2015;15:  586  

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宿主

・癌、肝硬変、AIDSのような慢性疾患は、敗血症や臓器不全のリスクを上げる。    

・アルコール:敗血症の増加とアウトカムの増悪に関連する。  Chest  2014;146:  1029–37    

・喫煙:喫煙者の肺炎球菌性肺炎が死亡率を上げる。  J  Intern  Med  2011;  269:  258–69    

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宿主 ・運動:運動不足の人は、2.13倍敗血症の死亡リスクが高い。 PLoS  One  2013;  8:  e79344    ・性別:男性>女性  (男性ホルモンと女性ホルモンの違いが原因)  Shock  2001;16:  340–43      

・人種:人口1000人当たりの死亡率は、  黒人系2.6人>白人系1.7人  (原因は、黒人系の方が、経済状況が悪く、ワクチン未接種の割合が多いなど。また、遺伝的素因も指摘。)  JAMA  2010;  303:  2495–503      

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遺伝子多型 遺伝子名

遺伝子多型・人種

文献

CD14 -­‐159C/T・アジア人  PLoS  One  2013;  8:  e71237

IL(interleukin)-­‐10 -­‐1082A/G・アジア人 Mol  Biol  Rep  2013;  40:  4327–32

TNF(tumor  necrosis  factor)2

–308G/A  or  A/A・アジア人 Crit  Care  Med  2010;  38:  276–82

TLR(toll-­‐like  receptor)4

Asp299Gly  Thr399Ile・白人とアフリカ人

Tuberculosis  (Edinb)  2004;  84:  347–52

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病原体 ・細菌  患者数:グラム陰性菌(62.2%)>グラム陽性菌(46.8%)  JAMA2009;  302:  2323–29  

死亡リスクはグラム陰性菌で増加している。  Crit  Care  Med  2004;  32:  1510–26    

・Focus  死亡に関連するのは、腹腔内感染症(75%)が最も多く、尿路感染症(26%)が最も少ない。Am  J  Respir  Crit  Care  Med  2014;  189:  1204–13    

・地域差  多くの地域で原因菌について同じような分布を示すが、アフリカはマラリアやHIV/エイズが多く、死亡するのはほとんどが幼児である。    

 

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ヘルスケアシステム ・低所得国  ICUのベッド数が少ない。PLoS  One  2015;10:  e0116949  

 ・低中所得国  VAP(人工呼吸器関連肺炎)とCLABSI(中心静脈ライン関連血流感染症)とCAUTI(カテーテル関連尿路感染)の割合が高い。Am  J  Infect  Control  2014;  42:  942–56    

・高所得国  平均寿命が高いので、敗血症の危険因子である高齢と関連が強い。Crit  Care  Med  2012;40:754-­‐61  

化学療法や外傷治療や臓器移植などの敗血症のハイリスクである免疫抑制患者が多い。  

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疫学のまとめ

・研究:死亡率は全体的に減少していると思われるが、一概に死亡率が下がった、罹患率が上がったとは言えない。    ・危険因子:年齢や人種、病原体の地域差、医療の質などの違いにより、個々の患者で敗血症の危険因子には違いがある。

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4.Diagnosis:診断

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診断のタイムスケール

培養結果前→PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法  培養陽性→MALDI-­‐TOF(タンパク質マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)  

↓  これらの新しい技術により、過去10年病原菌の識別が速くなっている。

血液培養

Lancet  Infect  Dis  2015;15:  589  

薬剤感受性試験

グラム染色

培養陽性

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a.血液培養

・現在も診断のゴールドスタンダードである。    

・重症敗血症と敗血症性ショックの患者で、

30~40%陽性になる。Crit  Care  Med  2004;  32  (suppl):  S495–512  

その内、検出されるまでの時間は、  24時間以内に90%、48時間後に95%、72時間後に99%である。J  Clin  Microbiol  1998;  36:  657–61    

・血液培養で原因菌の検知率は、  1セット65.1%、2セット80.4%、3セット95.7%である。  Clin  Infect  Dis  2004  ;38:1724-­‐30

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b.MALDI-­‐TOF ブルカー・ダルトニクス株式会社

・2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんの研究成果を発端とする  タンパク質質量分析。  ・利点:利点は同定結果が速い。サンプル量が微量で良いため、多数のサンプルを一気に同定可能。  ・問題点:薬剤感受性試験が不可能。同定できない菌種がある。

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b.MALDI-­‐TOF 文献 血液培養数/正確に同定

した割合 主に目的とした菌

PLoS  One  2009;  4:  e8041

562/76% Staphylococci

J  Clin  Microbiol  2010;  48:  1542–48

388/90.8% 細菌とカンジダ

Clin  Microbiol  Infect  2011;  17:  1007–12  

330/85% グラム陰性菌

J  Clin  Microbiol  2012;  50:  3324–28

61/85.2%   細菌と真菌

Clin  Infect  Dis  2013;  56:  1101–07  

202/86.7% グラム陰性菌

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・菌血症またはカンジダ感染の患者501人を  介入群(256人)と  介入前(245人)で比較。    ・適切な抗菌薬を投与するまでの期間、30日死亡率、ICU滞在日数が減少。  

b.MALDI-­‐TOF

Clin  Infect  Dis  2013;  57:  1237–45

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c.PCR法

・利点:病原菌識別のTurn  around  +me(検査依頼から結果報告までに要する時間)を減らし、感度を高める。培養が難しいものも診断可能。抗生剤投与された患者で有効。  ・問題点:血液サンプルが少ないと、偽陰性率が高い。  Intensive  Care  Med  2011;  37:  355–56  

死滅した微生物を検出する可能性がある。  

株式会社島津製作所

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c.PCR法 文献 PCR法 患者 研究結果

J  Clin  Microbiol  2011;49:  2252–58

the  LightCycler  SepZFast  test  (ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)

敗血症疑いの新生児と小児803人

感度85%・特異度93.5%

PLoS  One  2014;  9:  e87315  

Magicplex  Sepsis  Real-­‐Zme  Test  (Seegene社)と  SepsiTest  (Molzym社)

2つ以上SIRS基準を満たす125人の患者

Magicplex:感度11%・特異度96%  SepsiTest:感度37%・特異度77%  (サンプル血液1ml)  

J  Clin  Microbiol  2014;  52:  3164–74

PCR/ESI-­‐MS   血流感染が疑われる患者331人

感度83%・特異度94%

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d.バイオマーカー ・現在、臨床応用されているのは、CRPとPCTのみ  

 ・CRP  感染以外の侵襲でも上昇するので特異度が低い。  

新しいバイオマーカーが必要  ・PCT(プロカルシトニン)  日本では2006年から保険適応。  SSCG2012では、PCTを用いた抗菌薬の中止を推奨。  →非感染性の炎症の際にも上昇する。  PCT値に基づく抗生剤開始判断は、ICUにおける抗菌薬消費量を減らさない。  Crit  Care  Med  2012;  40:  2304–09  

 

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・システマチックレビューとメタ解析  ・30研究、患者3244人  ・1863人(57%)がSepsis、  1381人が非感染の(43%)SIRSのみ   ・平均感度は77%(95%CI0.74~0.81)  平均特異度は79%(95%CI0.74~0.84)  AUCは0.85(95%CI0.81~0.88)    ・PCT単独での診断は推奨されない。  Lancet  Infect  Dis  2013;  13:  426–35

プロカルシトニン

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sTREM-­‐1(soluble  triggering  receptor  expressed  on  myeloid  cells-­‐1)

・免疫グロブリンスーパーファミリーの一つ。  ・細菌や真菌の存在下で暴露された貪食細胞での産生が増える膜蛋白。    

ICUとCCU 2009;33(7):569~574

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sTREM-­‐1 慈恵ICU勉強会2014.10.14

Crit  Care  2012;16:R229

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CD64 免疫グロブリンFc受容体タイプ1である。  活性化型好中球で表現される。  問題点:フローサイトメトリーのために測定しにくい。  ・デザイン:前向き観察研究  ・対象:ICU入院中の18歳以上の成人  ・感度89%・特異度87%  

Clin  Infect  Dis  2014;  58:  820–29

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PSP(膵石タンパク質)

・PSPは膵液や膵石に存在し、膵臓組織の損傷がない場合でも、ストレスで誘導される。    ・方法:ICU入室後6時間以内に219人の患者から測定した。  ・感度90%・特異度83%  ・PCTより敗血症の入院死亡の予測になる可能性がある。    

Crit  Care  2013;  17:  R60

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理想のバイオマーカー ・すでに170を超えるバイオマーカーの検討が行われているが、単独で感度・特異度90%超えるものは存在しない。  

↓  <現場での実用のために>  

・迅速に結果を知ることができる  ・高感度と高特異度  ・完全自動化技術  ・短いTurn-­‐around  +me  ・  POCT(point-­‐of-­‐care  tests)検査として利用できる  ・低コスト  →この研究には、マルチセンター化し、多数の患者登録が必要と思われる。オミックス技術の進歩に期待。  

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診断のまとめ

・新しい技術として、  MALDI-­‐TOFとPCR法があり、  実用化のために、研究が進行中。    ・PCT以外のバイオマーカーの研究も進行中。  単独で使用できる理想のバイオマーカーの誕生に期待。

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5.Therapy:治療

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治療

a.抗菌薬  (併用療法・持続投与・De-­‐escala+on)    b.分子標的治療薬  (上皮細胞・血管内皮細胞・免疫細胞に存在する分子をターゲットにした新薬)    c.その他

(PMX-­‐DHPetc.)    

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a.抗菌薬

・SSCG2012で、1時間以内の抗菌薬投与を推奨。    ・単剤療法:広域スペクトラムペニシリン(βラクタム阻害剤との合剤を含む)か第3・4世代のセファロスポリンやカルバペネムが使用される。    ・併用療法:βラクタム系とアミノグリコシド系やフルオロキノロン系や抗グラム陽性菌剤や多剤耐性グラム陰性菌に活性を持つ抗菌薬が使用される。  

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単剤療法vs併用療法 ・併用療法の方がグラム陰性菌の敗血症治療に優れているという後ろ向き観察研究がある。  Crit  Care  Med  2010;  38:  1773–85  

 ・一方、単剤療法の方が効果が同じで、毒性が少ないというメタ解析もある。  Cochrane  Database  Syst  Rev  2014;  1:  CD003344    

・βラクタム系単剤と、βラクタム系とアミノグリコシド系の併用を比較したシステマチックレビューを行い、アミノグリコシド系の併用は腎傷害の発生を有意に高める。  Database  Syst  Rev  2014;  1:  CD003344    

 

   

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単剤療法vs併用療法 ・2つの大規模な多施設研究で、VAPや重症敗血症に対し、メロペネムにフルオロキノロン系を併用する優位性はない。  Crit  Care  Med  2008;36:  737–44,  JAMA  2012;  307:  2390–99  

 ・緑膿菌は単剤療法と併用療法では、死亡率に有意差はない。  JAMA  2012;  307:  2390–99  

 

結論:併用療法の明らかな優位性はない。しかし、単剤での初期治療で万が一、真の起因菌に対して抗菌域が外れた場合、予後が著しく悪化する危険性がある。

 

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持続投与vs間欠投与 ・オーストラリアと香港のICUで行われた二重盲検無作為化比較試験    ・対象:患者60人にTAZ/PIPC,MEPM,  Zcarcillin-­‐clavulanateのいずれかを投与または投与予定    ・治療3日目と4日目のトラフ血中濃度が緑膿菌のMICブレイクポイント以上になる率  

↓  より大規模な研究で、持続投与の効果を吟味する必要がある。  

Clin  Infect  Dis  2013;  56:  236–44  

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De-­‐escala+on ・前向き観察研究  ・ICUの712人の敗血症患者でde-­‐escala+onした群で90日死亡率が減少した。  (オッズ比0.55,  95%:CI  0.34–0.87;  p=0.011)  

↓  研究数が少ないことが問題。    Intensive  Care  Med  2014;  40:  32–40

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b.分子標的治療薬

・今までは、SIRS基準のため、炎症過剰状態を標的とした治療が行われていた。しかし、最近は、早期から炎症性・抗炎症性の両方のサイトカインが活性化されていることが確認されている。  

↓  炎症過剰:上皮細胞の破綻、血管内皮細胞機能障害  炎症抑制:免疫抑制細胞の活性化  

↓  PRRsは上皮細胞、血管内皮細胞、免疫細胞に存在          

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上皮細胞の破綻 ・腎臓の上皮細胞はNa-­‐K勾配に関係する。    ・腸粘膜に上皮細胞は存在し、腸機能障害は敗血症性ショックで共通して起こる。    

Crit  Care  2014;  18:  216

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上皮細胞ターゲットの新薬

IL-­‐22 タイトジャンクションを促進する上皮細胞成長因子で、アポトーシスを防止

前臨床試験

GM-­‐CSF 上皮および骨髄細胞増殖因子 前臨床試験・パイロットスタディ

IL-­‐11 腸上皮細胞の上皮細胞増殖因子

前臨床試験・パイロットスタディ

IGF-1 腸の透過性を減少し、アポトーシスを防止

前臨床試験

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血管内皮細胞機能障害

血管内皮細胞は、血管細胞の内側に位置するので、最も炎症の影響を受けやすい。血栓形成(凝固線溶異常)・浮腫(アルブミンや免疫グロブリンなどの血管外漏出)が起こる。  

血管内皮細胞

Intensive  Care  Med    2013;  39:  1839–42

プロテアーゼ活性化受容体:血管内皮保護作用

切断

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血管内皮細胞ターゲットの新薬

トロンボモジュリン 血管内皮細胞のアポトーシスを防ぐ  

第Ⅲ相試験

Selepressin V1A受容体に結合する血管収縮剤

第Ⅱ相試験

フィブリノペプタイドBβ15-­‐42   血管内皮細胞の接着分子であるVE-­‐カドヘリンを生産

第Ⅱ相試験

VEGF(血管内皮細胞増殖因子)受容体

VE-­‐カドヘリン損失を防ぐ 早期臨床試験

ペプデュシ 修飾ペプチドで、血管内皮細胞膜を安定させる

前臨床試験・早期臨床試験

C5a阻害薬

血管内皮細胞透過性亢進とアポトーシスを防止

前臨床試験・早期臨床試験

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High-­‐mobility  group  box  1  (HMGB1) ・HMGB1は、核内に存在するDNA結合蛋白であり、ネクローシスが起きたときに放出される。HMGB1は上皮細胞や血管内皮細胞などのほとんど全ての細胞で発現している。    ・ リコビナントA-­‐Boxは拮抗薬として使用されていて、敗血症の臓器不全を防ぎ、死亡率を下げる。Mol  Med  2003;  9:  37–45        

Immunity  2014;  40:  463–75

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免疫調節療法  (免疫細胞ターゲット)

N  Engl  J  Med  2010;  363:  87–89

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免疫調節療法(免疫細胞ターゲット)

IL-­‐1受容体拮抗物質

血球貪食症候群を防ぐ

第Ⅱ相試験

IL-­‐7 リンパ球増殖作用・抗アポトーシス作用

前臨床試験

IL-­‐15 リンパ球増殖作用・抗アポトーシス作用

前臨床試験

抗PD(programmed  death  receptor  )1抗体

T細胞機能を抑制する共刺激分子PD-­‐1/PD-­‐Lを阻害

前臨床試験

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c.その他

PMX-­‐DHP 第Ⅲ相試験 Crit  Care  2007;  11:  R47

低用量コルチコステロイド

第Ⅲ相試験 Crit  Care  Resusc  2013;  15:  83–88

β刺激薬(エスモロール)

第Ⅱ相試験 JAMA  2013;  310:  1683–91

経口プロテアーゼ阻害剤

第Ⅱ相試験 Sci  Transl  Med  2013;  5:  169ra11

チモシンα1 第Ⅱ相試験 Crit  Care  2013;  17:  R8

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治療のまとめ

・抗菌薬  投与方法の研究が進行中。    ・分子標的治療薬  多くが早期臨床試験や前臨床試験の段階。    ・その他  PMX-­‐DHPと低用量コルチコステロイドが第Ⅲ相試験の結果待ち。    

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6.  Discussion:議論

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過去の臨床試験

「SIRSの定義」により、早期の患者認知が広まった。しかし、炎症を標的とした100以上の臨床試験が行われたが、新しい治療には結びついていない。  Trends  Mol  Med  2014;  20:  195–203  

↓  原因  1.単なる過剰な炎症状態と考えていた。  2.マウス敗血症モデルを人に近い病態モデルと考えた。  

↓  これからの臨床試験をどうするか?  

 

 

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これからの臨床試験 1.介入する患者集団の特定(例えば肺炎に感染源を制限)    2.  適応研究デザイン  初のコンピューターシミレーションは第Ⅱ相試験まで行われた。Crit  Care  Med  2013;41:  1674–78  

 3.アウトカムの評価項目の選択  (28日死亡率+長期の生存率or人工呼吸器日数or  血液浄化療法etc.)    *規制当局の役割も重要 FDA(米国食品医薬品局)→活性化プロテインCを認可 EMA(欧州医薬品庁)→PROWESS-SHOCK試験を行った  

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これからの臨床試験 敗血症の不均質(heterogeneity)が新しい治療薬開発の妨げに。  

↓  個別化医療(personalised  medicine)  

腫瘍では、遺伝子多型の研究結果に基づいて実際に行われている。(例:乳癌発症に関係する遺伝的変異を持つ→予防的乳房切除)  

↓  特異的なバイオマーカーの存在(例:前立腺癌のPSA)  

↓  理想は、敗血症でも動物実験でバイオマーカーを用いて使用モデルに近い患者選択を行い、新薬の効果と機序を確認した後、人で研究する。実際は、コンピューターシミレーションなどが行われているのみ。  

 

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これからの診断と治療 ・診断  MALDI-­‐TOFやPCR法などにより、この数年で診断の  スピードが上がった。  

↓  しかし、敗血症を認知できなければ、検体は提出されない。  

↓  敗血症の早期認知は重要!  

 ・治療  分子標的薬の多くは前臨床試験や第Ⅱ相試験の段階  

↓  抗菌薬が治療の基本のまま!

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未来のために行動すべきこと

・臨床研究で使用される新しい敗血症の定義の作成    ・WHOによる国内登録簿の設立    ・現場のスタッフのトレーニングの改善    ・SSCGのような早期認知のためのキャンペーンを行う    ・低所得国での対症療法の改善  

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未来のために行動すべきこと

・個別化医療の発展のために、臨床科学に投資を増やす    ・新薬開発のために、製薬会社や規制当局と学会が一緒に臨床試験を行う    ・敗血症の長期合併症の認知機能障害および筋力低下の認知を増加させ、その予防と管理のための新たな方法を開発する

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7.  Editorial:論説

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Editorial ・敗血症の世界中の推定発症率は数千万人である。毎年600~800万人は死亡している。また、長期合併症として、認知機能障害や筋力低下などの頻度は高く、介護などの財政負担になる可能性がある。    ・未来では、分子標的薬の進歩が個別化医療を実現し、  敗血症の治療を変える可能性がある。理想のバイオマーカーができれば、新しい定義ができる可能性がある。    ・現在は、輸液や昇圧剤などの全身管理と抗菌薬が、最も信頼できる治療方法である。敗血症の早期認知が広まれば、アウトカムの改善と新しい治療戦略が生まれるかもしれない。  

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Editorial

・今年、臨床研究のデータベースを基にした簡素化された診断基準を用いて作られた新しい定義を、国際的なグループが公表予定。  

PRRs

宿主反応

細胞と臓器レベルの異常

PAMP:病原体関連分子パターン    DAMP:ダメージ関連分子パターン    PRRs:パターン認識受容体    

2015年の敗血症の  病態生理のコンセプト

Intensive  Care  Med  2015;41:909–911  

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Editorial ウガンダのICUでは、死亡率が約30~40%  BMC  Res  Notes  2012;  5:  475  

アメリカは、敗血症の死亡率は約15~30%  Crit  Care  Med  2013;41:1167-­‐74  

↓  高所得国と低所得国では、死亡率に差がある。  例えば、アフリカと欧米では、遺伝的素因や病原体に違いがあり、個別化医療の実現のために、今後はGlobal  Burden  of  Diseases  projectのような国際的な研究と調査が必要である。  

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まとめ

定義  定義自体が重要なのではなく、現在は早期認知が重要。  未来では、理想のバイオマーカーができれば、新しい  定義ができる可能性がある。    疫学  死亡率は全体的に減少していると思われるが、  低所得国では高く、今後のリサーチには含めるべき。  敗血症の生存者では、認知機能障害や筋力低下の訴えが多く、その研究も始まっている。今後の研究結果が待たれる。    

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まとめ 診断  現在は、血液培養が基本。  未来では、理想のバイオマーカーなどにより新しい  診断基準が示されているかもしれない。    治療  現在は、抗菌薬が基本だが、投与方法に議論がある。分子標的治療薬などは、臨床試験の結果待ち。  未来では、個別化医療が実現しているかもしれない。その実現のために、国際的な調査と研究を、今後は行う必要がある。

 

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私見

・理想のバイオマーカーが誕生すれば、敗血症の  定義・疫学・診断・治療の全てが変わる可能性がある。    ・現在、敗血症で研究されているバイオマーカーもその可能性があるが、実用化には時間がかかると思われる。(例として、糖尿病のHbA1cを例にすると、1968年に発見されているが、診断基準として導入されたのは、2010年。)  

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私見

・また、分子標的薬、MALDI-­‐TOF、PCR法などの発展にも期待したいが、現在の敗血症の診断と治療がすぐに大きく変わることはないと思われる。    ・実際の現場では、診断は、全身所見で何か原因不明の異常があるときは、鑑別の1つに敗血症を考えて、血液培養・抗菌薬投与が基本と思われる。      

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敗血症の認識を広めるため、皆さん、  毎年9月13日は何の日かご存じですか?  

↓  

世界敗血症の日(World  Sepsis  Day)