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1 平成 24 年度社会教育主事講習[] 講義レジュメ 神奈川県秦野市立西公民館館長 栗原 テーマ内容 公民館運営の実際 平成 25 2 5 () 公民館概論 公民館とは何か 社会教育法上の公民館の規定 公民館の機能 近年の公民館をめぐる動き 秦野市の公民館体制 西公民館の運営状況 公民館運営の実際 -公民館における関係性構築とロビーワーク- 公民館の総合性・柔軟性 社会教育臨床論 公民館施設論・ロビー論から公民館職員論へ関係性を形成・構築するロビーワーク ロビーワーク実践が提起したこと 公民館概論 公民館とは何か 公民館は昭和 21 (1946 )7 月、敗戦の焦土の中で、郷土の復興、人心の回復、 民主主義の浸透を図るため、各地方長官宛に発せられた文部次官通牒「公民館の設 置運営について」によって、その設置が全国に奨励された。通牒では「公民館の趣 旨及目的」を次のように述べている。

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平成 24 年度社会教育主事講習[B]

講義レジュメ

神奈川県秦野市立西公民館館長 栗原 旭

テーマ内容

公民館運営の実際

平成 25 年 2月 5 日(火)

Ⅰ 公民館概論

1 公民館とは何か

2 社会教育法上の公民館の規定

3 公民館の機能

4 近年の公民館をめぐる動き

5 秦野市の公民館体制

6 西公民館の運営状況

Ⅱ 公民館運営の実際 -公民館における関係性構築とロビーワーク-

1 公民館の総合性・柔軟性

2 社会教育臨床論 ‐公民館施設論・ロビー論から公民館職員論へ‐

3 関係性を形成・構築するロビーワーク

4 ロビーワーク実践が提起したこと

Ⅰ 公民館概論

1 公民館とは何か

公民館は昭和 21 年(1946 年)7 月、敗戦の焦土の中で、郷土の復興、人心の回復、

民主主義の浸透を図るため、各地方長官宛に発せられた文部次官通牒「公民館の設

置運営について」によって、その設置が全国に奨励された。通牒では「公民館の趣

旨及目的」を次のように述べている。

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これからの日本に最も大切なことは、すべての国民が豊かな文化的教養を身につけ、他

人に頼らず自主的に物を考へ平和的協力的に行動する習性を養ふことである。そして之を

基礎として盛んに平和的産業を興し、新しい民主日本に生れ変ることである。 その為には教育の普及を何よりも必要とする。わが国の教育は国民学校や青年学校を通

して一応どんな田舎にも普及した形ではあるが、今後の国民教育は青少年を対象とするの

みでなく、大人も子供も男も女も、産業人も教育者もみんながお互に睦み合ひ導き合つて

お互の教養を高めてゆく様な方法が取られねばならない。 公民館は全国の各町村に設置せられ、此処に常時に町村民が打ち集つて談論し読書し、

生活上産業上の指導を受けお互の交友を深める場所である。それは謂はヾ郷土に於ける公

民学校、図書館、博物館、公会堂、町村民集会所、産業指導所などの機能を兼ねた文化教

養の機関である。それは亦青年団婦人会などの町村に於ける文化団体の本部ともなり、各

団体が相提携して町村振興の底力を生み出す場所でもある。此の施設は上からの命令で設

置されるのでなく、真に町村民の自主的な要望と協力によつて設置せられ、又町村自身の

創意と財力によつて維持せられてゆくことが理想である。 その後、昭和 24 年(1949 年)に社会教育法が制定された。この中で「公民館は、

市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に

関する各種の事業を行い、もって住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図

り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与する」と規定され、公民館はわが国の

社会教育の基礎的機関として位置づけられた。

しかし、社会教育法制定から 60 年を経た今日、公民館は施設の統廃合や首長部局

への所管移行、コミュニティセンター化、指定管理者の導入など施設運営で大きな

変化にさらされており、改めて存在意義が問われている。 近年の全国での推移をみると、施設数は平成 11 年度 19,063 か所を最高に平成 23

年度では 15,400 か所に減っている。また職員数は平成 14 年度 57,907 人を最高に平

成 23 年度では 49,257 人となっている。(社会教育調査中間報告(文部科学省)) 2 社会教育法上の公民館の規定

(1)目 的(第 20条) 公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即

する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養の向上、健康

の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的

とする。 (対象区域)設置運営基準 第2条 公民館を設置する市(特別区を含む。以下同じ。)町村は、公民館活動の効果を高める

ため、人口密度、地形、交通条件、日常生活圏、社会教育関係団体の活動状況等を勘案

して、当該市町村の区域内において、公民館の事業の主たる対象となる区域(第六条第

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二項において「対象区域」という。)を定めるものとする。

<教育基本法> (生涯学習の理念) 第3条 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、

その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、

その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。

<社会教育法> (国及び地方公共団体の任務) 第3条 国及び地方公共団体は、この法律及び他の法令の定めるところにより、社会

教育の奨励に必要な施設の設置及び運営、集会の開催、資料の作製、頒布その他の

方法により、すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生

活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成するように努めなければならな

い。 2 国及び地方公共団体は、前項の任務を行うに当たつては、国民の学習に対する多

様な需要を踏まえ、これに適切に対応するために必要な学習の機会の提供及びその 奨励を行うことにより、生涯学習の振興に寄与することとなるよう努めるものとす る。

(2)公民館の設置者(第 21 条) ①公民館は、市町村が設置する。

②前項の場合を除くほか、公民館は、公民館の設置を目的とする一般社団法人又は一

般財団法人でなければ設置することができない。 (3)公民館の事業(第 22 条) 公民館は、第 20 条の目的達成のために、おおむね、左

の事業を行う。但し、この法律及び他の法令によつて禁じられたものは、この限りで

ない。 1.定期講座を開設すること。 2.討論会、講習会、講演会、実習会、展示会等を

開催すること。 3.図書、記録、模型、資料等を備え、その利用を図ること。 4.体育、レクリエーション等に関する集会を開催すること。 5.各種の団体、機

関等の連絡を図ること。 6.その施設を住民の集会その他の公共的利用に供す

ること。 (4)公民館の運営方針(第 23 条) 公民館は、次の行為を行つてはならない。

1.もつぱら営利を目的として事業を行い、特定の営利事業に公民館の名称を利用さ

せその他営利事業を援助すること。 2.特定の政党の利害に関する事業を行い、又は公私の選挙に関し、特定の候補者を

支持すること。 3.市町村の設置する公民館は、特定の宗教を支持し、又は特定の教派、宗派若しく

は教団を支援してはならない。 (5)公民館の基準(第 23 条の 2) 文部科学大臣は、公民館の健全な発達を図るため

に、公民館の設置及び運営上必要な基準を定めるものとする。 (6)公民館の職員 (第 27 条)

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①公民館に館長を置き、主事その他必要な職員を置くことができる。 ②館長は、公民館の行う各種の事業の企画実施その他必要な事務を行い、所属職員を

監督する。 ③主事は、館長の命を受け、公民館の事業の実施にあたる。

(第 28 条) 市町村の設置する公民館の館長、主事その他必要な職員は、教育長の推

薦により、当該市町村の教育委員会が任命する。 (7) 公民館運営審議会(第 29条) ①公民館に公民館運営審議会を置くことができる。 ②公民館運営審議会は、館長の諮問に応じ、公民館における各種の事業の企画実施につ

き調査審議するものとする。 (第 30 条) ①市町村の設置する公民館にあつては、公民館運営審議会の委員は、当該市

町村の教育委員会が委嘱する。 ②前項の公民館運営審議会の委員の委嘱の基準、定数及び任期その他当該公民館運営審

議会に関し必要な事項は、当該市町村の条例で定める。この場合において、委員の委

嘱の基準については、文部科学省令で定める基準を参酌するものとする。 公民館運営審議会の委員の委嘱の基準を条例で定めるに当たって参酌すべき基準を定める

省令(平成二十三年十二月一日文部科学省令第四十二号) 地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関す

る法律(平成二十三年法律第百五号)の一部の施行に伴い、及び社会教育法(昭和二十四

年法律第二百七号)第三十条第二項の規定に基づき、公民館運営審議会の委員の委嘱の基

準を条例で定めるに当たって参酌すべき基準を定める省令を次のように定める。

社会教育法第三十条第二項の文部科学省令で定める基準は、学校教育及び社会教育の関

係者、家庭教育の向上に資する活動を行う者並びに学識経験のある者の中から委嘱するこ

ととする。 附 則 この省令は、平成二十四年四月一日から施行する。

(8)運営の状況に関する評価等(第 32条) 公民館は、当該公民館の運営の状況につい

て評価を行うとともに、その結果に基づき公民館の運営の改善を図るため必要な措置

を講ずるよう努めなければならない。 (9)運営の状況に関する情報の提供(第 32 条の 2) 公民館は、当該公民館の事業に関

する地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力

の推進に資するため、当該公民館の運営の状況に関する情報を積極的に提供するよう

努めなければならない。 3 公民館の機能

(公民館の設置及び運営に関する基準(平成 15 年文部科学省告示第 112 号で規定) (1)地域の学習拠点としての機能の発揮(第 3条)

①講座の開設、講習会の開催等 ②関係機関等との共同連携による、多様な学習機会の提供 ③インターネットその他の高度情報通信ネットワークの活用等の方法による、学習情報の

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提供の充実 (2)地域の家庭教育支援拠点としての機能の発揮(第 4 条)

家庭教育に関する学習機会及び学習情報の提供、相談及び助言の実施、交流機会の提供

等の方法による家庭教育への支援の充実 (3)奉仕活動・体験活動の推進(第 5条)

ボランティアの養成のための研修会を開催する等の方法による、奉仕活動・体験活動

に関する学習機会及び学習情報の提供の充実 (4)学校、家庭及び地域社会との連携等(第 6 条)

①関係機関及び関係団体との緊密な連絡、協力等の方法による学校、家庭及び地域社会と

の連携の推進 ②対象区域内の類似施設への必要な協力及び支援

③事業への青少年、高齢者、障害者、乳幼児の保護者等の参加促進 ④地域住民等の学習の成果並びに知識及び技能の活用

(5) 地域の実情を踏まえた運営(第 7条)

①公民館運営審議会設置等による、地域の実情に応じ、地域住民の意向を適切に反映した

公民館の運営 ②開館日及び開館時間の設定で、地域の実情を勘案し、夜間開館の実施等の方法により、

地域住民の利用の便宜を図ること (6)事業評価(第 10条)

各年度の事業の状況について、公民館運営審議会等の協力を得つつ、自ら点検及び評価を

行い、その結果を地域住民に対して公表 *基準第 8 条は職員を、第 9 条は施設及び設備を規定。 ◎中央教育審議会「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型

社会の構築を目指して~(答申)」(平成 20年 2月 19日)より

(地域の教育力向上のための社会教育施設の活用) ○ 民間事業者等も含めた多様な学習機会が提供されるようになっているが、社会

教育施設は、行政が地域住民のニーズを把握し、主導的に学習機会を企画し、自ら

提供することができる地域の学習拠点である。これらの社会教育施設において、地

域が抱える様々な教育課題への対応、社会の要請が高い分野の学習や家庭教育支援

等、地域における学習拠点・活動拠点としての取組を推進することが必要である。

○ 具体的には、例えば公民館においては、高齢者を交えた三世代交流等の実施や、

各地域において受け継がれている子どもの遊び文化の伝承等を通じて、世代を超え

た交流の場として活性化を図ることが必要である。また、地域が抱える課題への対

応として、大学・高等専門学校・高等学校との連携講座等、学校と連携した教育活

動の実施、高齢者、障害者、外国人等地域において支援を必要としている者への対

応、裁判員制度、地域防犯、消費者教育等の社会の要請が高いと考えられる事柄に

ついての学習機会の提供が望まれる。

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○ 例えば、公民館においては、各地域の実情やニーズに応じて、民間等では提供されにく

い分野の講座開設や子育ての拠点となる活動を積極的に行うなど、「社会の要請」に応じ

た学習活動の機会の量的・質的な充実に努め、その成果を地域の教育力の向上に生かすこ

とが求められる。また、関係機関・団体と連携・協力しつつ、地域の課題解決に向けた支援

を行い、地域における「公共」を形成するための拠点となることが求められる。

○公民館の館長や主事等の職員については、公民館が地域住民に最も身近な社会教育施設と

して適切な学習機会を提供するなど能動的、積極的な活動を行うため、一人一人が国際化、

情報化、高齢化等に伴う社会的要請及び地域の課題等の調査分析能力や、地域住民のニーズ

を的確に把握する能力を持つことが期待され、種々の研修機会を利用して専門性のある職員

としての資質の向上を図ることが望まれる。

4 近年の公民館をめぐる動き

(1)職員の非常勤化、他の行政業務の兼任化

(2)教育委員会から首長部局への移管

(3)指定管理者制度・PFIの導入

企業、NPO、地域団体等の参入→運営主体の多様性 (4)施設維持費・施設更新費用の確保困難による施設統廃合

5 秦野市の公民館体制(平成25年2月現在)

(1) 秦野市の人口

(平成 24 年 10 月1 日現在)

総数169,961人 世帯数 70,506世帯

秦野市の位置図

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年齢別人口(住民基本台帳人口平成 24年 9月末)

年齢 人口 構成比

0 ~ 1 4 歳 21,271人 12.8% 1 5 ~ 6 4歳 107,572人 65.0%

6 5 歳~ 36,752人 22.2% 合計 165,595人

(2)所 管 教育委員会教育部生涯学習課

(3)公民館数 11館

(4)開館日及び開館時間 毎月第2又は第3月曜日の休館、及び年末年始休を除き

通年開館、午前8時30分から午後10時まで

(5)職員体制

西公民館 他館(連絡所兼務)

館長 常勤職 1人 常勤職又は再任用 1人

嘱託員 非常勤職 3人 非常勤職 4又は5人

図書職員 臨時職 3人 西公民館と同じ

昼間(清掃) 派遣職員 3人 西公民館と同じ

夜間(警備) 派遣職員 3人 西公民館と同じ

計 13人 14人又は 15人

*嘱託員は月 15 日勤務、図書職員は週 20 時間未満以内、派遣職員の昼間は午前のみ、

夜間は午後 5 時から勤務。そのため西公民館では通常は公民館業務は 2 人又は 3 人で

運営。

(6)事業予算 報償費各館 12万円平均

(7)公民館運営協議会 各館に設置 委員 12人以内

6 西公民館の運営状況

(1)沿 革

西公民館は昭和 31 年(1956 年)西秦野町立公民館として発足し、昭和 38 年(1963年)に西秦野町と秦野市との合併により秦野市立西公民館となり、昭和 48 年(1973年)には鉄筋コンクリート造りの施設として現在地に移り今に至っている。 旧西秦野町区域内では平成 5 年に上公民館、平成 7 年に渋沢公民館、平成 17 年

に堀川公民館が設置されている。 隣接して西中学校があるが、学校体育館やプールが老朽化しており、公民館も築

40 年を迎え傷みが激しいため、市の公共施設再配置計画では学校施設と生涯学習

施設との複合化をシンボル事業として挙げている。

以下は「平成 24 年度西公民館運営状況について(平成 24 年 7 月現在)」より抜粋

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(2)地区の人口状況

2 西地区の人口状況

秦野市の人口は平成 23年 10月 1日現在 169,939 人で、5年前と比較すると 1,352

人の増加となっている。しかし地区別にみると増加しているのは本町と南だけであ

り、ほかの地区では減少を来たしている。中でも減少数の一番多いのは西地区である

(40,040人→39,498人 542人減)。

西地区内では減少数の多いところは、並木町(151 人減)、堀西(126人減)、弥生町

(102 人減)である。また増加しているのは渋沢上一丁目(172 人)、曲松一丁目(86人)

などである。

減少地域ではリーマンショック以降のアパート住人の転出が多かったことなどが

聞かれる。

全体として人口が減少傾向にある中で高齢化が進行し、地域ではともすると高齢者

問題だけに目を向けがちであるが、未来を担う子どもたちを地域でどのように育成す

るかということも大きな課題である。

(3)施設利用状況

会議室等3 和室1 調理室1 大会議室1

23 年度の年間利用者は、延べ 3,059 件、42,054 人となっている。これは 22 年度よ りも、件数で 471 件増、人数 1,246 人増となっている。 ただし、22 年度は耐震工事のため 1 月と 2 月に休館をしている。この期間を除いて

比較すると、件数で 4 件増、人数 4,670 人減となっている。

*この人数の大幅な減少には、①東日本大震災による計画停電のため 4 月までの

夜間閉館 ②8月の記録的な猛暑による団体の活動控え ③1階各部屋の空調工

事な ④公民館まつりの集計法の変更など 23年度の特別な要因がある。平成 24

年度は回復している。

(4)図書室利用状況

西公民館の図書室利用者は全公民館の中でも少ない。これは図書室自体スペース

が狭隘であり、蔵書が 6,266 冊(一般書 3,229 冊、児童書 832 冊、絵本 1,334 冊、

その他 871 冊(平成 24 年 3 月))と少ないということもある。 平成 23 年度の全体の延べ貸出者数は前年度に比し 142 人減となっている。一般

貸し出し利用者は高齢者が多いが、この層の大きな利用減少は 22 年 12 月から始

まっている。この時期に病気などで来館できなくなった利用者が数人いられると推

察される。 しかし 23 年度の大きな変化は児童の貸し出しが 150 人増と伸びたことである。

これは近隣に住む児童たちと公民館との毎日、毎回の付き合いで形成してきた関係

がなしたものである。 23 年度は公民館ロビーにも図書コーナーを設け、図書室も本を読めるスペース

を広げた。また 9 月からは「図書室だより」も発行してきた。

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24 年 4 月からはテーマを決めて図書館から本を取り寄せロビーで展示、貸し出

しする「図書企画展」を行っている。またテーマに合わせた「ブックトーク」(読書会)も始めた。

(5)平成24年度運営目標

平成 23 年度は西公民館にとり、地域に目を向けた本来の公民館機能を取り戻そ うとした一年であった。これまでの運営はともすると次のような面が見られた。

① 地域との関係が希薄で、地域の状況把握が不十分である。

② 講座や教室という名称の事業の目的設定が明確でない。

③ 講座参加者との関係性構築が想定されておらず、講座参加者と公民館職員

との接点がないような事業進行になっている。

これらの点は職員の力量によるものだろうが、残念ながらこのような運営が続い

たために本館は貸し館中心の公民館というイメージを持たれている。 そのため 23 年度は公民館運営協議会委員の方々とともに公民館の運営方針を基

礎から変更し、地域の中での人間関係を結ぶ取り組み、地域の子どもの現状を共通

認識するような取り組みをしてきた。 このような取り組みは直ちに成果が出るものではない。しかし、今後、新たな施

設を考える際にも忘れてはならない視点となるだろう。

(1)女性の異世代間・異地区間交流による社会参加促進と連帯意識の醸成

平成 23年度は女性の異世代間交流を主眼に試行したが、引き続き公民館運営協議

会委員の方々と連携しながら、女性交流の可能性を拡げていく。

(2)子どもの育成を基軸とした地域連携

子ども会育成会、青少年指導員など地域団体や青少年団体と連携し、地域におけ

る子どもの状況や課題の認識を共有しながら、公民館としての事業化、また連携の

土壌としてのネットワークづくりを進めていきたい。

(3)公民館における文学活動の素地形成

西公民館の他の公民館にない特徴は、短歌や俳句、読書会といった文学活動の団体が

活動を継続していることである。また歴史についても今年度から古文書の学習サークル

が活動拠点にしてくれている。 しかし、このような伝統的な文化活動も現在存亡の危機にある。このような活動の灯

を消さないようにためにも、公民館利用団体と連携しながら、公民館の文学的歴史的素

地を改めてつくっていきたい。

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Ⅱ 公民館運営の実際

-公民館における関係性構築とロビーワーク-

1 公民館の総合性・柔軟性

(1) 公民館の多様性・曖昧性

「公民館と一口に言っても、多種多様であることがわかるであろう。何もしないの

も公民館であるし、いろいろなことが可能になるのも公民館であるといえよう」(碓

井正久・倉内史郎編著『改訂 新社会教育』(学文社、1996 年)(鈴木眞理))

(2)公民館の総合性・柔軟性

(公民館の総合性は)「そのことは時に、公民館があいまいな性格をもつとの批判を

招き、施設機能の分化・高度化の志向を生むが、他方では公民館が総合性をもつが故

に、時代を超えてさまざまな地域社会の必要性にこたえる柔軟性を保持し、住民をま

きこんだ社会教育・学校外教育活動の拠点として存在意義を持ち続けている理由とも

なっている」(佐藤一子「草の根に広がる世界の社会教育施設」小林文人・佐藤一子

編著『世界の社会教育施設と公民館 草の根の参加と学び』(エイデル研究所、2001

年))

2 社会教育臨床論 -公民館施設論・ロビー論から公民館職員論へ-

<提起1>

「社会教育施設論の骨格は、①設置目的を達成するための施設・設備、②利用者の

要求にこたえる事業の実施、そして③利用者の自己教育活動を援助する施設職員か

ら構成され、しかもそれが三位一体であることを原則としている。その原則を踏ま

え、社会教育活動を「社会教育施設・職員」論として自覚することで、新しい地平

を切りひらくこととしたい」(小林文人・末本誠編著『社会教育基礎論』(国土社、

1991年)上田幸夫)

父の日料理教室 父親も一緒に

自治会長をお迎えしての女性交流会

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<提起2>

「ひろいロビーがあればそれだけで新しいタイプの公民館になるわけではない。そ

こを運営する知恵と技が必要とされる。(中略)肝心なことは、その場のコミュニ

ケーションを、これまでの公民館とはちがったものにしていくことだ」(久田邦明

著『生涯学習論』(現代書館、2010 年))

<提起3>

「公民館は学習事業をやっていればいいという固定観念がいまだ根強い」 「ロビーを閉鎖的な親密圏と共生的なコミュニケーションを媒介とする「コミュニ

ケーション・スペース」として捉えてみたい」(日本公民館学会編『公民館のデザイ

ン』(エイデル研究所、2010 年)井口啓太郎「ロビーをどう活用するか-コミュニ

ケーション・スペースとしての可能性-」)

3 関係性を形成・構築するロビーワーク

(1)関係性(relationship)

関係だけではなく精神面や能力面が付加されており、「価値ある良き信頼関係を

いかに継続、強化、発展させて事業の将来価値をつくるかという絆の力」(嶋口

充輝『柔らかいマーケティングの論理』(ダイヤモンド社、1997 年)以下嶋口に

よる)

・関係性マーケティングの基本要件・・・「問いかけ可能性(addressability)」 関係性を構築しようとする相手(パートナー)の名前や住所(所在)が直接(ダ

イレクトに)明確に把握でき、個別対応できる可能性

(2)ロビーワーク

「ロビーを利用した個人に公民館の行事や講座に参加させるように仕組む活動」

(稲生勁吾編著『生涯学習・社会教育概論』(樹村房、改訂 1995年)(岡本包治)

「(ロビーワークをユースワークと呼ぶ)ユースワークは、若者が直面する困難

な課題の改善、解決のために働きかける面と、若者が持つ健康的な力、成長す

る力を拡大できるように働きかけるという両面を持っている。」

「ユースワーカーはインフォーマルなかかわりあいを通じてこの学び合いの場

を培う役割を担おうとしている。」

「若者とのかかわりでワーカーは常にその場その場での判断を求められてい

る。今、声をかけるかどうか、じっくりと話を聞くのか、何か提案すべきなの

か、強く指示するのか、どう伝えるのかなどその場その場で何らかの意図を持

って働きかけをする。相手の反応や周囲の若者たちの反応によって、その後の

働きかけを変えていく。」(日本社会教育学会編『学びあうコミュニティを培う

社会教育が提案する新しい専門職像』(東洋館出版社、2009年)(京都市青少年

活動センター 大場孝弘))

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栗 原

「持ち前の施設空間で行われる職員による関係性構築の日常的な対面的

活動」

4 ロビーワーク実践が提起したこと

① 偶発的な出会いを学習につなげる。 ② 関係性の構築が新たな学習を生み出す。 ③ 公民館が学習の可能性を有した居場所になる。