環境ホルモンと環境問題 - 京都大学OCW環境ホルモンとは 環境ホルモン:外因性内分質攪乱物質(環境 庁、1998年)「環境中にあって本来のホルモ
身の回りの環境汚染は...
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身の回りの環境汚染はアレルギー疾患を悪化させる?
独立行政法人 国立環境研究所環境健康研究領域
高野裕久
環境と疾患(病気)・健康の関係
現代病(生活習慣病・アレルギー疾患) 急増の原因は?
病気の発現・悪化
遺伝子の変異
環境因子の変化
環境要因遺伝要因
急速
環境因子
広義の環境因子
狭義の環境因子(環境汚染物質)
人工産物等による水・大気・土壌の汚染自動車排気、工場排気・排水、農薬、化学物質、等
病原体アレルゲン
運動食物喫煙・飲酒
生活環境
生活習慣
精神的ストレス物理的ストレス等々
公害病 生活環境病(アレルギー疾患等)
生活習慣病
環境汚染物質と生活環境病、生活習慣病の関連は?
狭義の環境因子(環境汚染物質)
デイーゼル排気化学物質
アレルギー疾患、等
糖尿病、肥満、脂肪肝、等
生活環境病
生活習慣病
アレルギーの急増に関わる環境要因
広義の環境要因の変化• 居住環境の変化(居住空間の密閉化によるアレルゲンの増加、建材・生活用品中の化学物質の使用、等)
• 社会衛生環境の変化(結核や細菌感染症、寄生虫疾患の減少、農薬等化学物質の使用、等)
• 食環境の変化(食生活の欧米化・多様化、食品や容器への添加物などの化学物質の多用、等)
狭義の環境要因の変化• 環境汚染(大気汚染、特に浮遊粒子状物質、揮発性化学物質汚染、等)
浮遊粒子状物質Suspended particulate matter : SPM大気中を浮遊する極めて小さな粒子
PM10: 直径10ミクロン以下の粗大粒子土壌や海塩に起源する自然由来の粒子が多い微小粒子に比較し、健康影響は少ないとされている
PM2.5: 直径2.5ミクロン以下の微小粒子燃焼に起源する人工産物が多い芳香族炭化水素等の化学物質、金属成分、イオン成分等多くの物質を含む 肺の深部まで到達し、健康影響大
ディーゼル排気微粒子(diesel exhaust particles : DEP)の平均直径は0.2ミクロン程度(最近はより微小に!!)
大都市のPM2.5の多くの部分を占める
PM・DEPに関する最近の疫学的報告
ヒト集団で濃度とともに増加することが観察される事象
1)全死亡率、慢性閉塞性肺疾患、心疾患による死亡率2)高齢者の全死亡率、心肺疾患による死亡率、呼吸器疾患による救急受診数、脳血管障害に基づく入院数3)小児の死亡率、呼吸器疾患による死亡率、突然死数、呼吸器疾患による救急受診数
4)アレルギー素因を持つ小児の呼吸器症状
5)喘息の症状、病態(薬剤の使用や検査値の悪化)
6)上気道感染症、気管支炎、喘息による受診数
デイーゼル排気微粒子はアレルギー性喘息を悪化させる(動物実験による生物学的妥当性の証明)
DEP: デイーゼル排気微粒子投与群DEP+アレルゲン:デイーゼル排気微粒子とアレルゲンの併用投与群
アレルギー性喘息の重症度
正常群 アレルゲン投与群 DEP DEP+アレルゲン
高
多環芳香族炭化水素
アルコール
硝酸塩
金属 ケトン
芳香族酸
硫酸塩 スルホン酸塩
キノン
ダイオキシン
その他
元素状炭素
一酸化窒素二酸化窒素二酸化硫黄二酸化炭素一酸化炭素
複素環炭化水素アルデヒドアセチレントルエンベンゼンキノンその他
メタンアルコール芳香族ケトンギ酸ハロゲン化物その他
ガス状成分
粒子状成分デイーゼル排気微粒子
ガス状成分
デイーゼル排気の構成
多くの化学物質が含有されている
デイーゼル排気微粒子には、元素状炭素からなる核と、核の周囲や内部に種々の化学物質成分が存在する。
しかし、アレルギー喘息の悪化をもたらす主たる成分が何かは、特定されていなかった。
そこで、デイーゼル排気微粒子を、有機溶媒(ベンゼンやアルコールなど)に溶ける脂溶性化学物質成分と、溶けずに残る残査粒子成分に分け、いかなる成分がアレルギー性喘息を悪化させるかを検討した。
アレルギー性喘息を悪化させるデイーゼル排気微粒子の構成成分は?
デイーゼル排気微粒子に含まれる脂溶性化学物質がアレルギー性喘息を悪化させる
アレルギー性喘息の重症度
アレルゲンDEP含有化学物質
+アレルゲン
DEP残渣粒子+
アレルゲン
DEP粒子全体+
アレルゲン
高
ここまでのまとめ
• デイーゼル排気微粒子に含有される化学物質成分が、アレルギー性喘息を悪化させる。
一方、• デイーゼル排気微粒子だけでなく、われわれの身の回りには、大気汚染物質や化学物質等、非常に多くの環境汚染物質が存在する。
• また、アレルギー性喘息以外にも、アトピー性皮膚炎や花粉症等のアレルギー疾患が、近年、急速に増加してきた。
身の周りに存在する環境汚染(化学)物質が、
アレルギー疾患を悪化させる可能性はないのだろうか?
生活環境
アレルゲン:ダニ、ペット、カビ、花粉、食品、等
化学物質:建材・家具、生活用品、殺虫剤、食品・容器、等
粒子状物質:燃焼器具、喫煙、生活用品、ナノマテリアル、等
大気汚染物質粒子状物質デイーゼル粒子、黄砂花粉、等
ガス状物質化学物質
喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、等?
環境化学物質の高次機能への影響を総合的に評価する in vivo モデル
の開発と検証
独立行政法人 国立環境研究所
特別研究
平成17-19年度
背景アレルギー疾患は急増している。
その一方、環境汚染化学物質は年々増加しており、その健康影響を速やかに明らかにする必要がある。また、環境汚染物質の健康影響については、大量曝露による毒性発現という観点ではなく、少量曝露による免疫・アレルギー、内分泌、神経・行動等を主軸とする高次機能への影響(かく乱影響)という観点から再評価する必要性が増している。
影響の種類により、作用する量は異なる!より少量では毒性よりかく乱が重要!!
強
影響の強さや頻度
アルコールの量
肝臓に対する毒性急性中毒による死亡
転倒してケガをする危険度(神経系や運動系機能のかく乱)
かく乱影響は免疫・アレルギー系、内分泌系、神経・行動系に出現しやすい!
免疫・アレルギー系の影響・症状
神経・行動系の影響・症状 内分泌系の影響・症状
アトピー性皮膚炎花粉症
気管支喘息の増悪
頭痛不安、抑うつ記憶障害等
月経異常不定愁訴等
シックハウス症候群シックスクール症候群
比較的低濃度化学物質により惹起される疾患群でみられる症状
「シックハウス症候群」や「シックスクール症候群」に見られる化学物質の健康影響は、「アレルギー疾患」を有する人々にアレルギー症状の悪化として発現しやすい。
いかなる汚染物質がアレルギー疾患を悪化させる可能性があるか評価する必要がある!
感受性の高い動物環境汚染物質
アレルゲン
免疫・アレルギー系への影響
神経・行動系への影響内分泌系への影響
アレルギー増悪影響を評価する手法の開発と検証
環境汚染化学物質のアレルギー悪化影響を検知しうる実験動物を用いた評価系をわれわれは既に開発している!
指標:アレルギー性炎症の症状増悪、組織の炎症性変化増悪、催炎症性分子の遺伝子発現
曝露 感作
環境ホルモンDEP等
影響を評価
フタル酸ジエチルヘキシルはアトピー性皮膚炎を悪化させる
ヘマトキシリンエオジン染色
(×100)
(×400)
トルイジンブルー染色
正常 ダニアレルゲン投与
ダニアレルゲン投与+DEHP 曝露
vehicle+saline
ダニアレルゲン投与+DEHP曝露
(×200)
(×400)
肥満細胞
脱顆粒肥満細胞
正常ダニアレルゲン投与
正常
ダニアレルゲン投与
ダニアレルゲン投与+DEHP曝露
DEHP: フタル酸ジエチルヘキシル
フタル酸ジエチルヘキシルはアトピー性皮膚炎の病理組織学的変化も悪化させる
アレルギー疾患で重要な役割を演じている好酸球や活性化した肥満細胞の数を算定
*; p<0.01†; p<0.01
アトピー性皮膚炎の重症度
A: 正常群、B: アレルゲンや化学物質を溶解した溶液のみの群C: ダニアレルゲンのみを投与
D-G: フタル酸ジエチルヘキシルを量 (0.8-100μg)を変えてアレルゲンとともに曝露
A B C D E F G
高
O
O
o
o
フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)
プラスチックを成形する可塑剤として工業用、一般製品に汎用されている(いた)。(塩化ビニル樹脂、壁紙、床材、農業用シート、合成皮革、玩具など)
フタル酸エステルの消費量
→世界で3.5 million tons/year
そのうち、DEHPは50%を占める。
内分泌かく乱物質とも・・・
(日本や欧米では食器や玩具には使用されないようになった)
NOAEL(無毒性量): 19mg/kg/day (肝臓の組織変化で判定)
一日予測摂取量:6µg/kg/day(3-30µg/kg/day)一日予測最大摂取量:44µg/kg/day(50µg/kg/day)
種々の化学物質のアトピー性皮膚炎悪化影響の一覧
耳介厚 症状スコア
可塑剤 フタル酸エステル フタル酸ジイソノニル DINP ↑
アジピン酸エステル アジピン酸ジイソノニル DINA → →
その他可塑剤 トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル) TOTM → →
樹脂原材料 樹脂原材料 ビスフェノールA BPA ↑↑ →
スチレン スチレンモノマー ST ↑↑ ↑
コーティング剤・界面活性剤合成原料 有機フッ素化合物 ペルフルオロオクタン酸 PFOA ↓
有機フッ素化合物 ペルフルオロオクタンスルホン酸 PFOS → →
アルキルフェノール類 4-ノニルフェノール NP
アルキルフェノール類 4-t-オクチルフェノール OP ↑ ↑
アルキルフェノール類 p-t-ブチルフェノール BP
船底塗料、防汚剤 有機スズ化合物 塩化トリブチルスズ TBT → →
大気中浮遊粒子状物質 DEP構成成分 ベンゾピレン BaP ↑ ↑
DEP構成成分 1,2-ナフトキノン NQ ↑ ↑
DEP構成成分 9,10-フェナントラキノン PQ ↑↑ ↑
食品中化学物質 アクリルアミド AA ↓
接着剤、セロハン、殺虫剤などの製造 フタル酸エステル フタル酸ジブチル DBP →
化粧品・香料の溶媒、可塑剤 フタル酸エステル フタル酸ジエチル DEP → →
用途・発生源 分類 物質名結果
略称
種々の環境汚染物質が、様々な濃度(量)において、
アレルギー疾患を悪化させている可能性は否定できません。
われわれは、現在、アレルギーを悪化させる可能性がある環境汚染物質を、なお一層簡単に、早く、かつ、できるだけ多くチェックできる方法の開発に
取り組んでいます。
培養細胞を用い、簡単に、早く、多くの物質の影響を検討
多数の培養スペースがある培養皿で細胞を培養
なるべく簡単に、早く、たくさんの物質を、様々な濃度で調べることができるように配慮
末梢血液
骨髄
環境汚染(化学)物質
アレルゲン
細胞表面分子、抗原提示機能、リンパ球増殖・アレルゲンによる細胞増殖、サイトカイン、ケモカインやその受容体の産生、等
アレルギー疾患の発症・悪化を修飾する可能性がある環境汚染物質を検索
免疫・アレルギーに関わる細胞
様々な影響の指標を検討特に、実際の動物モデルにおける悪化影響と相関のよい指標を選択
判定まで1週間以内
脾臓
アトピー・アレルギーをおこしやすい動物
ごく身近に存在する環境汚染物質が、アレルギー疾患をさらに悪化させうることが示されています。
生活環境 生活習慣
化学物質:建材・家具、生活用品、殺虫剤、食品・容器、等
粒子状物質:燃焼器具、喫煙、生活用品、ナノマテリアル、等
大気汚染物質粒子状物質デイーゼル粒子、黄砂花粉、等
ガス状物質化学物質
生活環境病アレルギー疾患、等
生活習慣病糖尿病、肥満、等
ありふれた病気を、ありふれた汚染物質が、さらに悪化させている可能性も否定できません。
我々は、今ここにある危機をきちんと認識しなければなりません。