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根の酸素消費(呼吸)特性からみた水性植物の低酸素耐性機構の解明 中村 元香contact to: [email protected]
Zizania latifolia
大気と葉内の酸素濃度差
濃度の高い葉から 低い根へ酸素が移動
拡散(Diffusion)・・・受動的 換気(Convection)・・・能動的
大気と葉内の気圧差
若い葉から古い葉に 向かって空気が流れる
大気と葉内との温度・湿度差 により葉内が加圧される
葉間の圧力差で 空気が流れる
Phragmites austlalis
シュート基部の酸素濃度が高まり根へ拡散 Typha angustifolia
Nymphaea
Oryza sativa
Scirpus tabernaemontani
Trapa japonica
<
湛水土壌は低酸素(還元的)なため、陸生植物のように根圏からの酸素獲得が困難となります。そのため、水生植物は発達した通気組織を持ち、シュートを介した根への酸素供給(給気)を行っていることが知られています。送られた酸素は主に根の呼吸によって消費され、栄養塩吸収や成長、生体維持のためのエネルギー(ATP)が生産されます。また、酸素の一部が根から漏出することで、低酸素土壌で溶出する二価酸や硫化水素といった有害物質からの根圏保護に役立ちます。この根への給気方法には2通りあり、換気(convection gas flow) と呼ばれる大気と葉内の気圧差により能動的に行われる給気と、拡散(diffusion) と呼ばれる、大気と葉内の酸素濃度の差で受動的におこる給気があります(Fig. 1)。換気は、シュート間を空気が流れていることでシュートと根の接合部分の酸素濃度を高く維持でき、高い濃度の酸素を根へ送ることができるため、換気植物は拡散植物に比べ高い低酸素耐性をもつ種であると評価されています。しかし湖沼や湿地では、給気能力が異なる種が同所的に分布することから、給気機能の比較からだけでは水性植物の低酸素耐性機構を十分に評価できていません。そこで、本研究ではシュートにおける給気からだけではなく、根の酸素消費(呼吸)に着目して、水生植物の低酸素耐性機構を明らかにしようと試みています。
、
Fig. 1 水生植物の給気方法は2つ。換気植物は拡散植物より高い酸素供給能力をもつ。
(Poorter et al . 1991)
根バイオマス維持
根の成長
Fig. 2 根呼吸で消費される酸素の内訳
(50-70%)
低酸素環境では酸素が制限要因となり、シュートからの給気に依存する水性植物は、根で効率的に酸素を消費することが重要となります。根の呼吸による酸素消費で得られるエネルギー(ATP)の大半が窒素吸収に使われることから、窒素吸収と根の
特性として、窒素吸収形態の違い(NH4+・NO3-)が根の酸素消費に与える影響に
ついて調べました。
Fig. 3D: 単位根重あたりの窒素吸収速度(NNUR)と根呼吸速度(r)との関係r (mmol O2 g-1 root DW d-1)
NNUR
R2=0.73
R2=0.76
**
D
Fig. 3A: 6 0 日間栽培個体の比較
NH4+の利用はNO3-に比べ、少ない酸素で多く窒素を吸収できる。
根の酸素消費において、窒素吸収形態としてNH4+を利用することは、効率的な根の酸素消費を可能にします。一般に水生植物は好アンモニア性植物とされますが、窒素獲得を介した根の酸素消費の点で有利にはたらくからだと考えられます。
ANCOVA ** P < 0.01)n=15 ±S.E.
Repeated measures ANOVA (** P<0.01, * P<0.05)
NH4+ の利用は成長に有利になる
窒素形態のみことなる(NH4+・NO3-)培養液で代表的な大型
根の呼吸による酸素消費で得られるエネルギーは Fig. 2のように窒素吸収、根の生長、根のバイオマス維持に分配されますが、窒素の吸収には根の生長が必要なことから、これら2つは相互に関連し、種により最適になるよう調節されています。水性植物では、根の成長が増えると根全体で消費する酸素が増加するため、特に給気能力の低い種では、酸素供給に応じた根の生長と窒素吸収を行う必要があります。そこで、同所的に生育するが異なる給気機能(能力)をもつヨシ(換気植物:高い給気 能力)と低いマコモ(拡散植物:低い給気能力)を用いて(Fig. 4)、根の生長と窒素吸収、根の呼吸速度を測定しました。
Zizania latifolia:マコモ (拡散→ 給気能力 小)
Phragmites australis:ヨシ (換気 + 拡散→ 給気能力 大)
通気組織(空隙) 大 通気組織(空隙) 小
酸素拡散フラックス (n mol O2 g-1 shoot DW s-1)
換気速度 (ml air shoot-1 m-1)
シュートと根の接合部のO2濃度 (%)
15 - 19 8 - 14
2 - 3
0.7 - 3.2
(Sorell 2003; Yamasaki 1987; Vretare 2001)
0.5 - 1.5
なし
<
Fig. 4 ヨシとマコモの給気能力の比較ヨシは根とシュートの接合部分の酸素濃度を高く保てる(給気能力が高い)
< **
DO濃度 (m mol O2 l-1 )
(mmol O2 g
- DW d-1)
栽培時
>**
(mmol N g-1root DW d-1)
(mmol O2 g-1 root DW d-1)
Z. latifolia (給気・低) P. australis (給気・高)
< ** ANCOVA (P<0.01)
(mmol N g-1 root DW d-1)
** <
n.s.
ヨシ マコモ
(μmol N plant-1 d-1)
(mmol N g-1 root DW d-1)
根を発達させる
N吸収活性を高める
マコモ 給気・) ヨシ(給気・高)
酸素消費が多い
酸素消費が少ない
(μmol O2 root-1 d-1)
p < 0.01, ANO
A
根重 DW)
給気能力の低いマコモは単位根重あたりの呼吸速度が高く、根の酸素消費にとって不利に思えますが(Fig. 5A)、単位根重あたりの窒素吸収速度が高くできます(Fig. 5B)。そのため、根の呼吸で消費する酸素あたりの窒素吸収は多く、効率的に窒素を獲得していることが分かります(Fig. 5C)。
マコモ ヨシ
A
A BC
Fig. 5B: 単位根重あたりの窒素吸収速度(NNUR)
5C 単位根重あたりの呼吸速度(r)と窒素吸収速度(NNUR)との関係 ※r:栽培時の値を使用
マコモ ヨシ
マコモ
ヨシ
r
Fig. 5A: 根の周りの実験溶液の酸素濃度(DO)に対する単位根重あたりの呼吸速度(r) r
A
NNUR NNUR
Fig. 6A: 窒素獲得速度(植物体あたり)
窒素獲得速度
Fig. 6B: 単位根重あたりの窒素吸収速度と根重との関係
B C
Fig. 6C: 根あたりの呼吸速度(根O2消費速度)と根重との関係
栽培期間中に植物体に取り込む窒素吸収速度は両種で同程度ですが(Fig. 6A)、同程度の窒素を獲得するための戦略は異なり、マコモは根量を抑えて根の窒素吸収活性(NNUR)を高めます(Fig. 6B)。一方、ヨシは窒素吸収活性を高めるかわりに根を成長させることで窒素を獲得しています(Fig. 6B)。 ヨシは根あたりの呼吸速度が多くなってしまいますが(Fig. 6C)、給気能力が高いため、これをカバーしていると考えられます。一方、マコモは根量が少なく、根の酸素消費速度を抑えられるため、低い給気能力でも窒素獲得が可能になっていると考えられます。両種は獲得様式が異なり、それぞれ給気に応じた根の酸素消費を行うと考えられます。
2:給気能力の異なる水生植物の窒素獲得を介した根の酸素消費特性
1:根の呼吸による酸素消費と窒素吸収形態(NH4+・NO3-)との関係
マコモ 給気:低ヨシ 給気:高
マコモ 給気:低ヨシ 給気:高
NNUR
3:低酸素環境(ストレス)に対する水生植物の呼吸系の応答 (現在研究中)
(mmol N g-1 root DW d-1)
NH4+ NO3-
n=15 ±S.E.
NH4+
NO3-
(しかし、しばしば同所的に分布する種でも給気能力は異なる)
Fig. 3C: NH4+利用による高いS/R比は、低酸素環境下で根に対する酸素供給器官を大きくでき、低酸素に有利な形態といえる
Fig. 3B:
10cm
※0-22:栽培開始0日-22日間, 22-42:栽培開始22日から42日間, 42-60:栽培開始42日から60日間 ※各プロットは各栽培期間の平均値
マコモ 給気:低ヨシ 給気:高
根重(mg DW) 根重(mg DW)
n = 6t-test (P ≧ 0.05)
n = 6, ±SERepeated measured ANOVA (**P < 0.01)
n = 6, ±SEt-test (*P < 0.05)
栽培期間中(45日間)の個体の窒素獲得速度は両種で同程度
根のO2消費速度
1,2より、これまで水生植物の低酸素耐性機構は、シュートから根への給気能力の比較が中心でしたが、窒素獲得を介した根の酸素消費特性を考慮することでより詳しく評価できることが示唆されました。
呼吸による酸素消費は密接に関連しています(Fig. 2)。そこで、まず、窒素吸収
抽水植物のヨシ(Phragmites australis: 換気植物)を栽培し、成長、窒素吸収、根の呼吸速度を測定しました。
窒素吸収形態としてNH4+を用い、低酸素環境(N2ガスでバブリング)で栽培し、両種を比較しました。
酸素が律速要因となる水生植物にとって、根の呼吸で消費する酸素でより多くのエネルギー(ATP)を生産することは、生育にとって重要となります。しかし、植物は必ずしも最大効率でATPを生産しているわけではありません。植物のミトコンドリア電子伝達系には、ATPと共役しているシトクロム経路(CP)と共役していないAOXが存在し、CPではなくAOXに電子が分配されると、呼吸系から生産されるATP量は1/3程度になってしまいます(Noguchi et al. 2001a)。しかし一方で、AOX経路は、低酸素などのストレスでミトコンドリア電子伝鎖が過還元状態になるのを回避し、ROS(活性酸素)の生産を調節するのに役立つという報告があります(Bailey-Serres and Voesenek, 2008)。そのため、低酸素環境下で生育する水生植物は、低酸素ストレスを回避するとともに、高いATP生産を可能とする様な、効率的な根の酸素消費を行っていると考えられます。
給気能力の低い種では、高い種に比べ、よりATP生産効率を高めることが低酸素環境での効率的な根の酸素消費につながると考えられますが、
通常、給気能力が高い種は低い種に対し、根で利用可能な酸素が多く、根の酸素アベイラビリティの変化は小さいと考えられますが、冠水などで給気が抑制されると、ATP生産のための酸素が減少し、さらに、急激な酸素濃度の変化により低酸素ストレスを受けやすくなる可能性があります。一方、給気能力の低い種であっても、水深が深いより低酸素環境に生育できる種は、冠水などによる酸素アベイラビリティの変化に対して高い適応性をもち、ATP生産を下げず、酸素ストレスを回避している可能性も考えられます。そのため、水生植物にとって根の酸素アベイラビリティの変化に対する呼吸系の応答は、低酸素環境での生育を決める要因の1つとなり、また、給気能力の異なる種間では異なる応答が見られると考えられます。そこで、現在は、給気能力の異なる種(ヨシ、イネ)を用いて以下を検証しています。
0
2
4
6
0-22 22-42 42-60
C
S/R 比
NH4+NO3-
>**
0 - 22 22 - 42 42 - 60
6
4
2
0
0
10
20
30
40
50
0-22 22-42 42-60
B
RGR
(mg g-1 DW d-1)
NH4+NO3-
>*
0 - 22 22 - 42 42 - 60
50
40
30
20
100
2:酸素アベイラビリティの変化に対する呼吸系の応答1:低酸素ストレスに対する応答
根で利用可能な酸素は給気能力によって異なり、また、高い給気能力を持っていても冠水などによりシュートからの酸素供給が無くなることで変化する。
窒素吸収