協調学習推薦技術の研究 - IPSJ DBS · 協調学習推薦技術の研究...

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DEIM Forum 2010 F8-4 協調学習推薦技術の研究 ―苦手科目克服のための教材推薦― 和田 雄次 浜詰 祐馬 土肥 紳一 澤本 †† 東京電機大学 情報環境学部 270-1382 千葉県印西市武西学園台 2-1200 東京電機大学大学院 情報環境学研究科 270-1382 千葉県印西市武西学園台 2-1200 †† 岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 020-0193 岩手県岩手郡滝沢村滝沢字巣子 152-52 E-mail: [email protected], [email protected], [email protected], †† [email protected] あらまし 近年,教育機関や企業研修において e ラーニングが普及している.この e ラーニング学習を管理する LMS 等の利用により,教育者の負担が軽減する傾向にある.一方,学習者にとっては必ずしも負担を軽減するもの ではない.例えば,オンライン小テストの反復や,膨大な数の web 教材の閲覧は,学習者にとって負担になる可能 性がある.そこで本研究では特定の学習者に対して苦手科目克服に貢献する教材を推薦する協調学習推薦システム を開発した.また,本システムの実験結果を示す. キーワード e ラーニング,協調学習推薦システム,情報推薦,苦手科目 Research on Collaborative Learning Technology Recommended Study Materials to Overcome the Weak PointYuji Wada Yuma HAMADUME Shinichi Dohi and Jun Sawamoto †† Department of Information Environment, Tokyo Denki University 2-1200 Muzai Gakuendai, Inzai, Chiba, 270-1382 Japan Graduate School of Information Environment, Tokyo Denki University2-1200 Muzai Gakuendai, Inzai, Chiba, 270-1382 Japan †† Faculty of Software and Information Science, Iwate Prefectural University 152-52, Takizawa-aza-Sugo, Takizawa, Iwate, 020-0193 Japan E-mail: [email protected], [email protected], [email protected], †† [email protected] Abstract Recently, e-learning is spread in an educational institution and corporate training. It tends to reduce the educator's load by the use such as LMS that manage this e-learning study. On the other hand, it is not necessarily the one to reduce the load for the learner. For instance, the repetition of online quizzes and the inspection of a great number of web teaching materials have the possibility of becoming a load for the learner. Then, the collaborative learning recommendation system that recommended the teaching material to contribute to weak point subject conquest with a specific learner was developed in the present study. Moreover, the outcome of an experiment of this system is shown. Keyword e-learningcollaborative learning systemrecommend technologyweak point 1. はじめに 多くの高等教育機関や企業研修において, e ラーニン グが盛んに取り入れられ,発展してきた. AHS(Adaptive Hypermedia System) の一部を利用して学習者に適応し た学習コースを推薦するシステム [1] では,従来に比べ 学習効果が高い事が実験結果から確認されたが,オン ライン小テストの結果を基にする為,学習者には負担 がかかる.又,学習履歴を基に関連性の高い教材コン テンツを推薦する 双方向推薦方式 [2] は,教材コンテン ツの配置する順序に関係なく関連性の高い教材コンテ ンツが推薦される事や,アンケート調査 [3] によって学 習時間が短縮出来る事が確認できた.これらの事から

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DEIM Forum 2010 F8-4

協調学習推薦技術の研究 ―苦手科目克服のための教材推薦―

和田 雄次† 浜詰 祐馬‡ 土肥 紳一† 澤本 潤††

†東京電機大学 情報環境学部 〒270-1382 千葉県印西市武西学園台 2-1200 ‡東京電機大学大学院 情報環境学研究科 〒270-1382 千葉県印西市武西学園台 2-1200

††岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 〒020-0193 岩手県岩手郡滝沢村滝沢字巣子 152-52

E-mail:†[email protected],‡[email protected],†[email protected], ††[email protected]

あらまし 近年,教育機関や企業研修において e ラーニングが普及している.この e ラーニング学習を管理する

LMS 等の利用により,教育者の負担が軽減する傾向にある.一方,学習者にとっては必ずしも負担を軽減するもの

ではない.例えば,オンライン小テストの反復や,膨大な数の web 教材の閲覧は,学習者にとって負担になる可能

性がある.そこで本研究では特定の学習者に対して苦手科目克服に貢献する教材を推薦する協調学習推薦システム

を開発した.また,本システムの実験結果を示す. キーワード e ラーニング,協調学習推薦システム,情報推薦,苦手科目

Research on Collaborative Learning Technology -Recommended Study Materials to Overcome the Weak Point-

Yuji Wada† Yuma HAMADUME‡ Shinichi Dohi† and Jun Sawamoto††

†Department of Information Environment, Tokyo Denki University 2-1200 Muzai Gakuendai, Inzai, Chiba, 270-1382 Japan

‡Graduate School of Information Environment, Tokyo Denki University2-1200 Muzai Gakuendai, Inzai, Chiba, 270-1382 Japan

††Faculty of Software and Information Science, Iwate Prefectural University 152-52, Takizawa-aza-Sugo, Takizawa, Iwate, 020-0193 Japan

E-mail:†[email protected],‡[email protected],†[email protected],††[email protected]

Abstract Recently, e-learning is spread in an educational institution and corporate training. It tends to reduce the educator's load by the use such as LMS that manage this e-learning study. On the other hand, it is not necessarily the one to reduce the load for the learner. For instance, the repetition of online quizzes and the inspection of a great number of web teaching materials have the possibility of becoming a load for the learner. Then, the collaborative learning recommendation system that recommended the teaching material to contribute to weak point subject conquest with a specific learner was developed in the present study. Moreover, the outcome of an experiment of this system is shown.

Keyword e-learning,collaborative learning system,recommend technology,weak point

1. はじめに

多くの高等教育機関や企業研修において,eラーニン

グが盛んに取り入れられ,発展してきた.AHS(Adaptive

Hypermedia System)の一部を利用して学習者に適応し

た学習コースを推薦するシステム [1]では,従来に比べ

学習効果が高い事が実験結果から確認されたが,オン

ライン小テストの結果を基にする為,学習者には負担

がかかる.又,学習履歴を基に関連性の高い教材コン

テンツを推薦する双方向推薦方式 [2]は,教材コンテン

ツの配置する順序に関係なく関連性の高い教材コンテ

ンツが推薦される事や,アンケート調査 [3]によって学

習時間が短縮出来る事が確認できた.これらの事から

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学習者に負担をかけず,尚かつ学習者に適応した情報

推薦が必要である.

そこで本研究では学習履歴情報の閲覧回数が多い教

材コンテンツである程つまずき易い箇所と仮定し,そ

の教材コンテンツを学習傾向が類似している学習者に

“苦手科目を克服する為に必要な教材”として推薦す

る協調学習推薦システムを開発した.加えて,学習履

歴情報を持たない新規学習者には,属性データによる

類似嗜好者抽出手法を提案する.

2. AIRS AIRS(An Individual reviewing System)[2]は,本学で開

発している個別復習支援システムである (図1 ).AIRS

は学生の目線で教材 (以下教材コンテンツ )の作成を行

い,分かり易い教材コンテンツを配信する事で,復習

の促進を促す目的で開発された.その中で提供される

教材コンテンツは本学の開講科目である「情報処理の

基礎」と「データベースシステム」の講義を基に作成

された.教材コンテンツは web ページとして表示され

るページを単位として配信する.

図1 AIRS トップページ

2.1 教材コンテンツ 講義データベースシステムの教材コンテンツ「デー

タベースとは」を図2に示す.このように新しく学習

するキーワードの解説や,mysql のクエリを発行する

手順等を示したものになっている.特徴としては,1

つの教材コンテンツにつき3種類の表現方法をもつ事

である.これは,学生によって分かり易い表現は異な

る為,簡潔な表現,詳細な表現,そして動きによる表

現を用いてそれぞれ作成される.

図2 教材コンテンツ

2.2 学習履歴 本研究では e ラーニングシステム AIRS に蓄積され

た学習履歴を用いる.図 3 に示すように,識別番号

(vector_id),日時 (access_time),学習者 ID(user_id),教

材コンテンツの識別番号 (content_id)からなる.1行目

の履歴は 2005 年 10 月 13 日 13 時 42 分 53 秒に学習者

ID0 番が教材コンテンツ 43 を閲覧した事を示している.

2005 年から 2008 年までの運用で,学習履歴は延べ 2

万 7000 件を超える数が収集されている.

図3 学習履歴の一部

3. 協調学習推薦システム 提案方式の特徴は苦手箇所が類似している学習者を

発見し,苦手を克服した情報を推薦する事である.図4

にその全体の流れを示す.基データに学習履歴を用い,

協調学習推薦システムによって教材コンテンツが推薦

される仕組みである.又,学習履歴を持たない新規学

習者は属性情報を使用した推薦を行う.

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図 4 システム全体の流れ

3.1 学習者の閲覧回数を表すデータ まず前処理として学習履歴を変換し,各学習者がそ

れぞれの教材コンテンツを閲覧した回数を表すデータ

を生成する.図 5 にその一部を示す.1行目は学習者

0 番の閲覧回数を表し,content1 を 53 回,content4 を

49 回,content7 を 40 回閲覧した事を示している.又,

直接見える数値以外にも,学習者の興味や習熟度とい

った学習者の特徴を表していると考えられる.特に

図 5 閲覧回数を表すデータ

AIRS のような学習をサポートする事が目的となるシ

ステムの場合,学習者の目的は講義の予習か復習であ

るが,これまでの利用期間は試験前と限定していた為,

復習と考えて良い.つまり理解が十分でない箇所や苦

手な部分を示していると考えられる.

3.2 類似学習者の抽出 3.1 節の各学習者の閲覧回数を表すデータを比較し,

苦手箇所が似ている学習者,即ち類似学習者を抽出す

る.図 6 に類似学習者を抽出する考え方を示す.ここ

で,学習者と B さん C さんは学習履歴を持っていると

する.この時,学習者は変数の種類,while 文の基本,

if 文の基本を閲覧し,B さんも同様に変数の種類,while

文の基本, if 文の基本を閲覧していた.そして C さん

は変数の種類,代入の基本,関数従属性を閲覧してい

たとする.この場合,学習者と B さんが閲覧した教材

は類似している為,学習者と B さんは類似度が高く,

類似学習者となる.

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図 6 類似学習者の抽出方法

実際の類似学習者の抽出には協調フィルタリング

等に用いられる相関係数アルゴリズム [4]を利用する.

本研究に適応した形の計算式を以下の (1)に示す.

𝑹𝑹𝐚𝐚𝐚𝐚 =� (𝒂𝒂𝒊𝒊 − 𝒂𝒂

_)(𝒃𝒃𝒊𝒊 − 𝒃𝒃

_)

𝑻𝑻

𝒊𝒊=𝟏𝟏

�∑𝑻𝑻𝒊𝒊=𝟏𝟏 (𝒂𝒂𝒊𝒊 − 𝒂𝒂_

)𝟐𝟐�∑𝑻𝑻𝒊𝒊=𝟏𝟏 (𝒃𝒃𝒊𝒊 − 𝒃𝒃_)𝟐𝟐

(1)

Rab とは,学習者 a と学習者 b の類似度である.R

は類似度 (Resemblance)の頭文字 R を意味する.R の値

は 1.0~-1.0 をとり,1.0 に近いほど類似している事

を示し,-1.0 に近づく程類似していない事を示し,

値が 0 に場合は関係性が無い事を示す.分子は共分散,

分母は標準偏差の積を表している.𝑎𝑎𝑖𝑖は学習者 a が i

番目の教材コンテンツを閲覧した回数,𝑎𝑎_は学習者 a

が 1 つあたりの教材コンテンツを閲覧する平均閲覧回

数を表す.T は教材コンテンツ (Teaching Materials)の総

数を表す.この方法によって求めた類似度の高い学習

者を類似学習者として抽出する.

3.3 推薦教材の抽出 ここでは類似学習者の履歴が苦手を克服した履歴

を持つと仮定し,類似学習者の閲覧回数が多い教材コ

ンテンツを苦手克服に貢献する教材コンテンツとして

抽出する.図 7 に推薦教材の抽出方法を示す.ここで

類似学習者は変数の種類を 3 回,While 文の基本を 9

回, if 文の基本を 5 回,配列の基本を 2 回閲覧してい

るとする.この中から推薦教材を抽出するならば,閲

覧回数の多い While 文の基本と if 文の基本が学習者へ

推薦される.

図 7 推薦教材の抽出方法

実際に推薦教材を抽出する為の計算は,協調フィル

タリング等でも用いられる予測値を求める方法 [4]で

行う.基となるデータは類似学習者の類似度 ,及び類似

学習者の学習者ベクトル,求める値は閲覧回数の予測

値である.以下 (2)に本研究で用いる予測値の計算式を

示す.

𝑃𝑃𝑎𝑎 ,1 = 𝛼𝛼_

+� (𝐶𝐶𝑖𝑖,1 − 𝐶𝐶𝑖𝑖

_)𝑟𝑟ai

𝑈𝑈𝑖𝑖∈User

∑ |𝑟𝑟ai |𝑈𝑈𝑖𝑖∈User

(2)

ここで𝑃𝑃𝑎𝑎 ,1は,学習者 a が教材コンテンツ 1 を苦手克

服する為に必要な予測値 (予測閲覧回数と呼ぶ ).例え

ば𝑃𝑃𝑎𝑎 ,1の値が 3.4 の場合,学習者 a は教材コンテンツ 1

を約 3 回閲覧すれば苦手を克服出来ると考えられる.𝛼𝛼_

は,学習者 a と相関を持つ学習者の集合 (類似度が 0 以

外の学習者 )が,教材コンテンツを閲覧した回数の平均

値,即ち平均閲覧回数の平均.User は学習者 a と相関

を持つ学習者の集合,その中で i 番目の学習者を𝑈𝑈𝑖𝑖と

する.Ci,1 は i 番目の学習者が教材コンテンツ 1 を閲覧

した回数,𝐶𝐶𝑖𝑖_は i 番目の学習者が1つの教材コンテン

ツを平均何回見たかという平均閲覧回数, 𝑟𝑟aiは学習者

a と学習者 b の類似度を表す.この様に,予測閲覧回

数の値が大きい教材コンテンツを推薦教材として抽出

する.

4. 協調学習推薦の事例 4.1 学習履歴の分析

まず,総閲覧回数による学習者の分布を以下のグラ

フ図 8 に示す.ここに示した学習者は合計 368 名であ

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る.これらの学習者に対する推薦教材の抽出,及び分

析を行った.

図 8 学習者の分布

4.2 推薦教材の比較 各学習者における推薦教材を比較する為,図 6 の 368

人の学習履歴からに4人を選択した.その結果,1~50

回 閲 覧 し て い る 学 習 者 が 2 人 (user_id=10,200) ,

101~150 回閲覧している学習者が1人 (user_id=336),

201~250 回閲覧している学習者が1人 (user_id=427)と

なった.表 1 に4人の推薦教材を示す.ここで,推薦

教材 1~4 は苦手克服に有効と考えられる順に並んでお

り,括弧内の数字は以前に閲覧された回数を表してい

る.ここで,推薦教材 1,3,4 に着目すると各学習者

に共通する推薦教材が無い事がわかる.よって,有効

性①学習者に適応した教材コンテンツを推薦している

可能性が高いと考えられる.

表 1 4人の推薦教材の比較 user

_id 10 200 336 427

推薦

教材 1 線形探

索 (0) ハ ッ シ

ュ 法 の 衝

突 (0)

変数 (0) 配 列(0)

推薦

教材 2 プログ

ラム内蔵

方式 (0)

チ ェ イ

ン法 (0) バ ブ ル

ソートの

複雑性 (0)

プ ロ

グ ラ ム

内 蔵 方

式 (0) 推薦

教材 3 制御部

とデータ

パ ス 部(0)

オ ー プ

ン ア ド レ

ス (0)

プ ロ グ

ラム内蔵

方式の特

徴 (0)

デ ー

タ ベ ー

ス (5)

推薦

教材 4 バイト

(0) 論 理 デ

ー タ モ デ

ル (0)

挿 入 ソ

ートの複

雑性 (0)

3 層

ス キ ー

マ (7)

又,user_id427 番以外の3人に着目すると,括弧内

の数字が全て 0 である.即ち,推薦教材は今まで一度

も閲覧していないものだった.この事から,有効性②

学習者が今まで知らなかった教材コンテンツが推薦さ

れると考えられる.

4.3 全体の推薦教材 1 の比較 4.2 節の有効性①②について全員の学習者のデータ

から最も予測値が高かった推薦教材 1 の出現回数を比

較し,検証した.その結果を図 9 のグラフに示す.

図 9 統計データでの推薦教材 1 の比較

有効性①の学習者に適応している可能性について

は,一部の教材コンテンツに推薦が偏っている事から

問題がある事がわかった.教材番号 3 の「データベー

ス」が 136 件も出現している事がわかった.即ち 368

名の内,約 35%が同じ教材コンテンツが推薦されてい

る.この 136 名を分析した結果,130 名の総閲覧回数

が 10 回以下である事がわかった.この事から,閲覧回

数が少ない学習者は学習者特性が明確にならず,統計

的に閲覧される事が多い「データベース」が推薦され

たと考えられる.

又,「変数」の出現回数が全体の 9%の 33 件,「プロ

グラム内蔵方式」の出現回数が全体の 16%の 59 件と

なった.これらの教材コンテンツの出現回数の偏りは,

閲覧回数が原因ではなかった.これら以外の項目では,

多いものでも出現回数が 20 回程度であり,全体の 5%

が重なった事になるが,比較的少ない値だと考えられ

る.更に,閲覧回数が少ない学習者を除いた 238 名の

内,ここで挙げた3つの偏った教材コンテンツ以外が

推薦された学習者は 61%の 146 名となった.この事か

ら,現在はある程度学習者に適応した推薦が出来てい

ると考えられる.

0

50

100

150

200

250

300

1~50 51~100 101~150 151~200 201~250 251~

学習

者の

数(人

)

総閲覧回数(回)

教材番号

020406080

100120140

1 33 65 97 129

161

193

225

257

289

321

353

385

417

449

481

513

545

577

609

641

673

705

737

769

出現回数

「データベース」

「変数」

「プログラ

ム内蔵方式」

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一方,有効性②の未知の教材コンテンツが推薦され

る点については,学習者全員のデータにおいて推薦教

材の過去閲覧回数を比較した.その結果,推薦教材 1~4

の過去閲覧回数が全て 0 回だった学習者は 368 名の内

246 名 (約 67%)となった.又,全ての推薦教材 1476 項

目 (368×4)の内,過去の閲覧回数が 0 回である推薦教

材は 1302 項目 (約 88%)となった.この事から,多くの

学習者に対して,未知の教材コンテンツが推薦される

と考えられる.

5. 類似嗜好者抽出手法 学習履歴を持たない新規学習者に対し,属性データ

を用いて類似嗜好者を抽出する方法を提案する.

5.1 属性データ ここでは個人情報である年齢,性別に,その人の興

味を示す趣味嗜好,更に学習に関する情報である得意

科目,苦手科目,平均学習時間などから学習嗜好を,

又セメスター等を表す学習期間を取得する.

5.2 類似嗜好者の抽出 図 10 に属性データによる類似嗜好者を抽出する考

え方を示す.ここで,新規学習者の苦手科目は情報,

得意科目は英語,趣味は水泳,D さんの苦手科目は情

報,得意科目は英語,趣味は野球,E さんの苦手科目

は英語,得意科目は情報,趣味は天体観測である.こ

の時,新規学習者と D さんは学習嗜好と趣味嗜好が似

ている為,類似嗜好者と考えられる.

図 10 類似嗜好者の抽出方法

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5.3 属性データの体系化 属性データの体系化を行う事により,属性データ間

の関係を表現する.多くの属性情報を提示し,学習者

特性を明確にする為,一般的に広く知られている各辞

典を参考にした [5].図 11 に趣味嗜好に関する属性を

体系化したグラフの一部を示す.ルートノードを趣味

嗜好とし,その子ノードがジャンル,更に階層が深く

なるにつれてより詳細にジャンル分けした.例えば第

一層のスポーツを第二層では水泳,釣り,陸上,スキ

ー等の競技の大枠で分け,水泳はシンクロ,競泳,水

球など競技の種類で分けている.そして,競泳は泳ぎ

方(具体的な競技名)で最終的に分かれるよう体系化

した.この階層が深い位置での属性程具体的である為,

属性が共通した場合の類似度は高いと考えられる.こ

こでは 1 層 0.5p,2 層 1p,3 層 2p,4 層 4p とした.又,

水球は球技であり且つ水泳である.このような属性の

場合,どちらの種目からも関連を持たせ,選択出来る

ようにした.

図 11 趣味嗜好データの体系化

5.4 趣味嗜好データの取得 学習者に体系化された項目の中から属性を選択し

てもらい,その情報をデータベースに蓄積する事で学

習者の特性を属性データで表したテーブルを生成する.

図 12 に入力インタフェースによる属性データの詳細

化,属性データを取得したテーブル,及び類似度計算

の計算方法を示す.例えば,入力インタフェースから

趣味嗜好→スポーツ→水泳→平泳ぎと選択していった

場合,釣り 0,水泳 1,クロール 0,平泳ぎ 2,スキー0,

スポーツ 0.5 というデータがテーブルに生成される.

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図 12 属性データ入力インタフェースによる属性データの詳細化,属性データの特性を表すテーブル,類似度計

算の方法

5.5 類似嗜好者の算出 5.4 節で求めたテーブルを用いて,新規学習者の類

似嗜好者を求める方法を示す.まず山田さんと A 氏の

場合,スポーツで類似している為,類似度は 0.5p とな

る.続いて例と B 氏では平泳ぎで類似している為,2p,

C 氏は水泳で 1p となる.このように階層が深い位置で

類似すればする程高い類似度となる.又,一見関係が

無い様に見える釣りと水泳は,スポーツというジャン

ルで類似している事で類似性があるといえる.この様

にして算出した類似度と,3.3 節の推薦教材の抽出を

行い,新規学習者に対する推薦を行う.

6 まとめ 本研究では学習者の苦手克服に貢献する教材を推

薦するシステムの開発を行った.実験では各学習者に

対する推薦教材の抽出を行い,学習者に適応した推薦

と未知の教材が推薦される可能性を示した.しかし,

本研究の目的でもある苦手科目の克服に貢献する教材

コンテンツであるかについては,過去の学習者の履歴

から導く事は出来なかった.今後,苦手克服に貢献す

る教材コンテンツであるかを検証する為には,実際に

推薦機能を利用してもらった後で,アンケート調査や,

学習履歴を分析する事によって証明していく必要があ

る.又,新規学習者に対する推薦方法において,属性

情報の体系化,及びアルゴリズムを提案した.今後は,

新規学習者に対する推薦アルゴリズムを実装する予定

である.

謝 辞 本研究は,科学研究費補助金(基盤研究 (C) 課題

番号 21500908)の支援による.

参 考 文 献 [1] E. Triantafillou, A.Pomportsis, S. Demetriadis and E.Georgiadou, “The value of adaptivity based on cognitive style: an empirical study”, British Journal of educational technology,Vol.35, pp95-106(2004). [2] Y. Wada, S. Matsuzawa, M. Yamaguchi, and S. Dohi,” Proposal and Verification of Bidirectional Recommendation System or Learning Web Digital Texts,” The 2nd International Conference on the Applications of Digital Information and Web Technologies(ICADIWT2009),pp.210-215 (2009-08). [3] Y. Wada, Y. Hamadume, S. Dohi and J. Sawamoto,” Technology for Recommending Optimum Learning Texts Based on Data Mining of Learning Historical Data,” International Workshop on Information (IWIN 2009), pp.143-150(2009-09). [4] 管坂玉美,横尾真,寺野隆雄,山口高平:”第3章.

情 報 推 薦 シ ス テ ム ” , e ビ ジ ネ ス の 理 論 と 応 用 ,

pp69-74(2003).

[5] 大辞林 第 3 版 .