脳卒中片麻痺患者の実用歩行...
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脳卒中片麻痺患者の実用歩行獲得に至る要因の考察
~2ヶ月間で2動作前型歩行獲得に至った症例を通して~
京丹後市立弥栄病院 リハビリテーション科
○中西 康二 梅田 匡純 大江 寿
•脳卒中片麻痺患者における杖歩行には2動作歩行と3動作歩行とがある。
•阿部らによると実用性の観点からすると2動作歩行の方が実用性に長けているとされている。
• 2動作歩行の獲得は難しく、片麻痺患者においては随意性が影響すると考えていた。
•今回、それぞれ病期の異なる(急性期から回復期、維持期)、重度片麻痺ブルンストロームステージ(以下BRS)Ⅱ~Ⅲの脳卒中片麻痺患者に対して装具療法を実施し、2ヶ月間の介入にて2動作前型歩行を獲得した要因を考察する。
はじめに
説明と同意 症例報告を行うにあたり、患者に対してヘルシンキ宣言に従い報告する内容を説明し、同意を得た。
1
年齢 50代
疾患名 延髄梗塞
病期 急性期~回復期
下肢BRS(介入前/後) (Ⅱ/Ⅲ)
介入前移動手段 車いす介助
介入までの期間 発症より2週後
歩行獲得までの期間 介入より2ヶ月間
症例 A
IC Tst Msw
介入前
介入後 2月2日 2月19日 2月23日 3月1日 3月3日
系列1 15.2 12.2 11.27 9.2 8.2
15.2
12.2 11.27
9.2 8.2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
時間(秒)
10m歩行 経時的変化
2
年齢 30代
疾患名 視床出血
病期 維持期
下肢BRS(介入前/後) (Ⅱ/Ⅱ)
介入前移動手段 車いす自立
介入までの期間 発症より5年後
歩行獲得までの期間 介入より2ヶ月間
症例 B
IC Tst Msw
介入前
介入後
41.5
25.8
18.6 14.9
11.6 11.3 11 10.6 9.7
0
10
20
30
40
50
7月
23日
8月5
日
8月6
日
8月
13日
8月
20日
8月
25日
8月
27日
9月1
日
9月3
日
9月
10日
9月
24日
系列1 41.5 25.8 18.6 14.9 11.6 11.2 11.3 11 9.9 10.6 9.7
10m歩行 経時的変化
3
時間(秒)
方法 介入方法
環境 課題 目的
平行棒 ・静的立位姿勢保持 ・2動作前型歩行練習 ・ジャンプ
・ターミナルスタンスでのトレイリングポジションの静的姿勢保持
杖(ロフストランド杖) ・2動作前型歩行練習 ・体幹伸展を促通しての歩行動作確保
階段 ・1段1足での昇降練習 ・抗重力伸展活動の促通
独歩 ・2動作前型歩行練習 ・下肢伸展筋の筋力増強
エルゴメーター ・ペダリング ・屈曲・伸展の交互運動
期間 2ヶ月間 2週間 開始
平行棒外歩行自立
2動作前型歩行 平行棒内歩行自立
2動作前型歩行 目標
4
静的姿勢保持
立脚相 遊脚相
歩行を最も単純化した力学的課題
立脚相 倒立振り子 支持性 遊脚相 二重振り子 受動的
・本来遊脚相では随意的な膝の運動は必要ない。足が重いと感じるのは股関節が 十分に機能していない事に他ならない(石井慎一郎)
・上記の課題を達成するために獲得が必要な能力として、ターミナルスタンス、プレスイングでのトレイリングポジションの保持が最重要課題であると考える。
考察 歩行に求める課題
歩行 立脚 倒立振り子 文献9より抜粋
歩行 遊脚 二重振り子 文献9より抜粋
文献10より抜粋
5
考察 脳卒中患者において求められる装具の役割 APAの説明 金属支柱の問題点
装具の目的:装具による難易度調整
自由度制約による課題の単純化
遊脚問題 立脚問題
双方の問題を
同時に解決できない 長下肢装具では立脚時での安定性は得られるが、 遊脚時でのクリアランスの問題が生じる。
短下肢装具では遊脚時でのクリアランスは得られやすいが、立脚時での安定性は得られにくい。
皮質網様体脊髄路の機能として先行性姿勢調節(APA)
が残存していれば、健常側下肢を振り出す際に麻痺側下肢での支持性が得られる。この部分が得られれば、無意識下での歩行獲得につなげられる。
文献6より抜粋
文献9より抜粋 文献9より抜粋
6
足関節背屈制動 足関節背屈遊動
考察 装具特性①②
大腿カフの フロントデザイン
足関節背屈制動
・装具装着時の膝継手位置は、人体における膝関節回転軸中心にあり、立脚での床反力ベクトルは膝前方を通る。よって正常な立位姿勢と同様に立脚での安定性に適している。
・足関節の背屈角度を制限すると膝軸のモーメントアームが小さくなるので、膝屈曲方向への外的モーメントが減少する。よって荷重位での下腿前傾を防ぐ(膝折れ予防・膝のコントロールの課題容易化)。
正常な立位と重心線 文献11より転記
膝に対する 外的モーメント
モーメントアーム モーメントアーム
膝に対する 外的モーメント(小)
考察 装具特性③④
プラスチック素材
CCAD継手
・動作のタイミングを制動する場面にて無段階での調整が可能 ・歩行の難易度を選択的に調整することができる
・金属支柱では関節の動きを制限し、関節運動終期において反対側への力が生じる。
・プラスチック素材であれば、しなりによって、関節運動終期での反対側への力は生じず、関節運動の制御を補助する。
金属支柱 プラスチック素材
加速度
反発力
加速度
反発力
可撓性により抑えられた加速度
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考察 装具特性
遊脚相でのクリアランス確保 立脚相での安定性保持
文献10より抜粋
歩行 立脚 倒立振り子 文献9より抜粋
歩行 遊脚 二重振り子 文献9より抜粋
• プラスチック長下肢装具では立脚後期を装具特性により可能としている。
• 姿勢制御の手段として、随意的に支えず、装具にもたれながら装具の機械特性に任せて可能にしているため、過剰な努力は必要としていない。これにより遊脚時の脱力も達成されて、動作の難易度を低く設定できていると考えられる。
• 遊脚問題に関しても膝関節の継手は固定しておらず、クリアランスの確保も可能である。
• 運動制約と自由度確保を共有したなかでの運動課題の単純化を可能にすることができた結果、短期間での動作学習が得られたと考える。
9
•病期の違った重度片麻痺患者が2ヶ月で2動作前型歩行を獲得した。
•歩行動作の単純化した力学的課題は立脚相では倒立振り子、遊脚相では二重振り子の機能となる。
•神経学的メカニズムから考え、網様体脊髄路の機能が機能すれば歩行は可能である。
•歩行の力学的課題を達成するためには既存の金属支柱付長下肢装具では立脚と遊脚、双方の課題を達成することは難しい。
• プラスチック長下肢装具の特性は歩行の力学的課題を達成することができ、神経学的メカニズムを考慮した動作訓練を行う事で2ヶ月間での歩行動作獲得につながったと考察する。
まとめ 10
参考文献 1.大畑光司:装具歩行のバイオメカニクス.PTジャーナル47(7):611-620.2013
2.松山徹:脳卒中片麻痺患者の杖歩行の分析(第1報).理学療法学12.169.1985
3.永田雅章:片麻痺患者の杖歩行の分析.リハビリテーション医学28(1):27-37.1991
4.原寛美・他:脳卒中理学療法の理論と技術.MEDICAL VIEW.2013
5.嶋田智明・他:筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版株式会社.2005
6.高草木薫:運動麻痺と皮質網様体投射.脊椎脊髄ジャーナル27(2).99-105.2014
7.才藤栄一・他:運動学習から見た装具.総合リハ38(6).545-550.2010
8.梅田匡純・他:立脚相の筋活動からみたプラスチック長下肢装具適応の検討.第5回脳血管障害への下肢装具カンファレンス2016.18-19.2016
9.石井慎一郎:動作分析 臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践.メジカルレビュー社.2013
10.武田功・他:ペリー歩行分析 正常歩行と異常歩行 原著第2版.医歯薬出版株式会社.2016
11.大橋正洋・他:歩行の運動学.理学療法.26(1).11-18.2009
12.阿部浩明・他:急性期から行う脳疎中重度片麻痺例に対する歩行トレーニング.理学療法の歩みVol27(1).17-27.2016
•課題の適切化に伴い、短期間での歩行再建を可能にすることで、最終目標を立案しやすくすることができる。また、回復期における期間内でのFIM効率にも有用となると考えられる。
研究としての意義