標準必須特許を巡る紛争の 早期解決に向けた制度の在り方に...

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平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 標準必須特許を巡る紛争の 早期解決に向けた制度の在り方に関する 調査研究報告書 平成30年3月 一般財団法人 知的財産研究教育財団 知的財産研究所

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平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

標準必須特許を巡る紛争の

早期解決に向けた制度の在り方に関する

調査研究報告書

平成30年3月

一般財団法人 知的財産研究教育財団

知的財産研究所

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要 約

まとめ (1)パテント・トロールに関して、その実態、今後の活動の予測及び制度上の対応の

可能性について取りまとめた。 (2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定

方法等の論点について標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインを作成す

る上での留意点を検討すると共に、特許庁で作成しているガイドライン案に対する議

論を行った。

背景 近年の IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及は標準必須特許のラ

イセンス交渉に大きな変化をもたらしている。通信に関する標準必須特許は、製品当

たりの権利数の増加等により、権利関係の全てを把握することが難しい状況になって

いる。また、通信業界の企業同士で行われてきた交渉が、通信業界と異業種との間で

も行われるようになったことで、従前のクロスライセンス等による解決が困難になっ

ている。他方、近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の

権利行使をビジネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動の影響

を懸念する声が出ている。

目的 (1)パテント・トロールの実態及び制度上での対応の可能性について検討を行うとと

もに、(2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの

算定方法についての基本的な考え方を整理して標準必須特許のライセンス交渉に関す

るガイドラインの策定に向けた検討を行うことを目的とする。

国内外公開情報調査 昨年度に実施された2

件の調査報告を主な情

報源とし、情報が不足

している項目について

は、書籍、論文、調査

研究報告書、審議会報

告書、法・判例等検索

データベース及びイン

ターネット情報等を利

用した公開情報調査を

実施した。

委員会 専門的な知見に基づいて、

パテント・トロールの実態

等、及び、標準必須特許のラ

イセンス交渉に関する様々

な論点を検討するために、

学識経験者3名、産業界有

識者5名、弁護士2名及び

弁理士1名の計11名から

なる委員会を5回開催し

た。

国内ヒアリング調査 パテント・トロールに

関する論点及び標準

必須特許のライセン

ス交渉に関する論点

について、各々の論点

に関わりを有する企

業や有識者等を中心

にヒアリング調査を

実施した。

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1. 本調査研究の背景・目的

近年の IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及は標準必須特許のラ

イセンス交渉に大きな変化をもたらしている。

通信に関する標準必須特許は、製品当たりの権利数の増加等により、事業開始前に権利

関係の全てを把握することが難しい状況になっている。また、通信業界の企業同士で行わ

れてきた交渉が、通信業界の企業とそれ以外の製造業やサービス業といった異業種間でも

行われるようになったことで、これまでのようなクロスライセンス等による解決が困難に

なっている。加えて、標準必須特許のライセンス交渉においては、FRAND(Fair,

Reasonable And Non-Discriminatory:公平、合理的かつ非差別的)条件のライセンス料

率を巡って権利者と実施者間で条件が折り合わないケースが多い。

他方、近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の権利行使

をビジネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動が、米国において社

会問題化し、その後に欧州やアジアにも広がっているのではないかと懸念する声が出てい

る。

そこで、このような状況を踏まえ、本調査研究では、裁判例及び過去の調査研究等を通

じて情報の整理を行った上で、有識者から構成される委員会において、(1)パテント・

トロールの実態及び制度上での対応の可能性について検討を行うとともに、(2)標準必

須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定方法について基本

的な考え方を整理し、標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインの策定に向け

た検討を行うことを目的とする。

2. 本調査研究の実施方法

本調査研究では、(1)パテント・トロールの実態及び制度上での対応の可能性、並びに、

(2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定方法

について基本的な考え方の整理、及び、当該整理を参考にした標準必須特許のライセンス

交渉に関するガイドラインについて、関連文献、過去の調査研究報告書、裁判例等の調査

(以下「文献等調査」という。)、国内ヒアリング調査及び委員会による検討を行った。

(1) 文献等調査

平成 28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「IoT 等による産業構造の変化

に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告書」

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(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所、2016 年 12 月)、及び平成 28 年度特許

庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業「主要国における標準必須特許の権利行使の在

り方に関する調査研究報告書」(一般財団法人知的財産研究教育財団、2017 年 3 月)を主

たる情報源とし、これらから把握できない不足情報がある場合には、書籍、論文、調査研

究報告書、審議会報告書、法・判例等検索データベース及びインターネット情報等の公開

情報を利用した調査を実施した。

(2) 国内ヒアリング調査

過去の調査研究報告書や前記の文献等調査報調査からでは得られない情報について、延

べ30名を上限として(同一の有識者に対し、異なる論点による複数回のヒアリングを行

う場合もある)、ヒアリングを行った。ヒアリング先は、標準必須特許に関わりを有する企

業(権利者及び実施者)や有識者等を中心に実施した。

(3) 委員会による検討

専門的な視点からの検討、分析、助言を得るために、本調査研究に関して専門的な知見

を有する者で構成される調査研究委員会を設置し、検討を進めることとした。

(ⅰ) 委員会の構成

委員会を、学識経験者3名、産業界有識者5名、弁護士2名、弁理士1名の計11名で

構成し、委員会を全5回行った。

<議事内容>

第1回委員会:パテント・トロールについての論点確認と検討

第2回委員会:標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的なロイヤルティの考え方

についての論点確認と議論Ⅰ

第3回委員会:標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的なロイヤルティの考え方

についての論点確認と議論Ⅱ

第4回委員会:標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドライン案についての意見

第5回委員会:報告書案の検討

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<委員会名簿>

委員長

平塚 三好 東京理科大学専門職大学院 イノベーション研究科 教授

委員

泉 克幸 京都女子大学法学部 教授

一色 太郎 一色外国法事務弁護士事務所 代表、

外国法事務弁護士 カリフォルニア州・コロンビア特別区法

太田 昌孝 日本弁理士会 執行理事、

インフィニティー特許事務所 弁理士

金子 敏哉 明治大学法学部 准教授

佐藤 裕介 日本製薬工業協会 知的財産委員会 専門委員、

中外製薬株式会社 知的財産部 戦略グループ 課長

設樂 隆一 日本弁護士連合会、

森・濱田松本法律事務所 客員弁護士

鈴木 草平 一般社団法人日本知的財産協会 常務理事、

ソニー知的財産ソリューション株式会社 代表取締役社長

高橋 弘史 一般社団法人電子情報技術産業協会 特許専門委員会 委員、

パナソニックIPマネジメント株式会社 イノベーション知財部 知財開発1課 課長

竹市 博美 一般社団法人日本自動車工業会 知的財産委員会 委員、

トヨタ自動車株式会社 東京技術部 主幹

鶴原 稔也 株式会社サイバー創研 知的財産事業部門 主幹コンサルタント

(敬称略、五十音順)

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3. 調査結果

(1) パテント・トロールの実態と現行制度による対応状況について

(ⅰ) 背景

近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の権利行使をビジ

ネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動が、米国において社会問題

化し、その後に欧州やアジアにも広がるのではないかとの懸念もある。

このような状況を踏まえ、パテント・トロールの実態及び現行制度による対応状況につ

いて、委員会において検討を行った。

(ⅱ) パテント・トロールとは

① パテント・トロールの一般的な定義

何をもってパテント・トロールとするかについて明確な定義は定まっていない。自らは

発明を実施せずにライセンス収入を得る者を指す用語としては、NPE(Non Practicing

Entity:不実施主体)や PAE(Patent Assertion Entity:特許主張主体)が知られている。

しかしながら、これらの用語には大学や公的研究機関等の適切に特許権を活用している者

まで含まれるため、NPE や PAE をいわゆるパテント・トロールと同一視することは適切

ではない。

本委員会においても、パテント・トロールとは、主観的な側面が強く一様な定義は困難

であるとの指摘が多かったが、一般的には、特許権を濫用し、イノベーションを阻害する

者を意味するのではないか、との意見が多く得られた。なお、気に入らない特許権者をパ

テント・トロールと呼んでいるケースもあり、丁寧な議論や整理が必要であるとの注意喚

起の指摘もあった。

② 具体的な行為

パテント・トロールの本質は、イノベーションを阻害する者であることを前提として、

過去の調査研究報告書、米国 FTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会)の報告

書及び企業へのアンケート結果においてパテント・トロールの行為として指摘があったも

のから以下の4要素を抽出した。

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要素① 特許発明のための研究開発を実施しない

要素② 他者から特許権を取得する

要素③ (a) 不適切なライセンス料 を目的として権利行使を行う、又は、

(b) 権利行使を乱発する

要素④ 製造販売等の事業をしておらず、権利行使により得られるライセンス料等

を主な収益源とする

本委員会では、要素①、②、④単独の行為には、正当に研究開発やビジネスを行ってい

る者も含まれ得るため、パテント・トロールの行為の特定として十分ではないとの指摘

があった。

一方で、要素③の行為は単独でも濫用的であり、特に、以下のような行為が含まれるの

ではないか、との指摘があった。

・ 訴訟や無効審判に必要な費用よりも低額な請求を乱発することで不適切な利益を得

ようとする場合

・ 請求額は低額であっても、権利の有効性や侵害該当性に疑義がある特許権に基づい

て、権利行使を乱発する場合

・ 有効性や侵害該当性に関する交渉に一切応じずにライセンス料の請求のみ繰り返す

等、不誠実な交渉に基づいて権利行使する場合

終的には、要素①~④のすべてを満たす行為は、典型的なパテント・トロールと考え

られるのではないか、という指摘が多く得られた。

(ⅲ) パテント・トロールの実態

前記のとおり、パテント・トロールの用語の明確な定義は確立していないため、(ⅱ)の

要素を備えたパテント・トロールの情報を調査することは難しい。ただし、パテント・ト

ロールは NPE 又は PAE の一類型であることから、本調査研究では、必要に応じて NPE

及び PAE についての情報を調査することで、パテント・トロールの実態の参考とした。

① 日本

2016 年のアンケート調査結果によると、2 割強の日本企業(日系企業)が過去 10 年間

に日本においてパテント・トロールからの提訴・警告を受けたと回答しており、特に情報

通信分野がターゲットにされていることも報告されている。ただし、提訴又は警告してき

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た者がパテント・トロールかどうかについては、あくまで回答者の主観による点に留意す

る必要がある。

本委員会では、日本ではいずれの業界においても、現時点ではパテント・トロールの活

動は活発ではないとの認識が共有された。

② 米国

パテント・トロールは、1990 年代終盤以降の米国において活発に活動していたが、近年

はパテント・トロールによる警告や訴訟は減少していることが報告されている。本委員会

においても、複数の委員より、米国においてパテント・トロールに関係する事件数が、2016

年には前年に比べて大幅に減少したとの指摘があった。

この理由としては、米国政府が 2011 年に特許の有効性を再度米国特許商標庁で見直す

手続として当事者系レビュー(IPR: Inter Partes Review)及び付与後レビュー(PGR: Post

Grant Review)手続を新設する等の対策を講じたことや、裁判所による 2006 年の差止基

準の厳格化及び 2017 年の裁判地選択の制限強化等の影響が大きいという指摘がなされた。

③ その他の国

欧州では、NPE による訴訟件数が増加しており、特に、ドイツでは NPE による訴訟の

割合が高いと言われている。また、中国やインドにおいても、NPE による訴訟が確認され

ているが、活発な活動は見られていない。

(ⅳ) 主要国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測

① 日本

現時点において、日本ではパテント・トロールの活動が活発化しているような具体的な

脅威は確認されていない。一方で、これまで通信業界との関わりが浅かった業界を中心に、

将来的なパテント・トロールのリスクへの懸念が示されている。ただし、米国、ドイツ、

中国に比べてパテント・トロールの活動が今後活発になる兆候は今のところ見られない。

② 米国

近年の制度改正や裁判所の判例の影響により、米国におけるパテント・トロールによる

訴訟は減少傾向にある。しかし、米国における特許の価値が低下しすぎたとも指摘されて

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おり、揺り戻しが起こる可能性もあることから、米国におけるパテント・トロールを取り

巻く情勢を今後も注視する必要がある。

③ 欧州

欧州の中では、特にドイツにおいてパテント・トロールによる紛争が増加する可能性が

ある。その理由として、ドイツの裁判制度では、特許権侵害訴訟と特許有効性の審理とが

分離されており、特許有効性の審理結果を待たずに特許権侵害による差止判決が下される

可能性があることから、濫用的な権利行使が発生しやすい状況にある。

④ 中国

中国では、パテント・トロールの活動は現時点で明示的に確認できていないものの、市

場規模が大きく、パテント・トロールにとって魅力的と考えられるため、今後活動が活発

化する可能性がある。

(ⅴ) 日本におけるパテント・トロールへの制度上の対応

現行制度では、特許法に基づく差止行為に対して独占禁止法による制限や民法上の権利

濫用法理が適用される可能性がある。

すなわち、特許権の行使が知的財産制度の趣旨を逸脱するか、または目的に反する場合

は、独占禁止法が適用される。また、FRAND 宣言(第三者に公平、合理的、非差別な条件

でのライセンスを約する宣言)された標準必須特許(標準規格の利用に際して実施する必

要がある特許)については、民法上の権利濫用の法理により差止請求が制限される場合が

ある。

一方で、日本においては、実際にこれらがパテント・トロールに適用された例は確認で

きていない。

この背景としては、日本においては、

・ 適切な特許審査により特許権の権利範囲が明確である

・ 特許庁における特許の無効手続が適切に運用されており、また、裁判所においても特許

無効の抗弁が適切に扱われていることから、権利の有効性や侵害該当性に疑義のある特

許権の行使が認められにくい

・ 裁判で認められる損害賠償額や裁判手続に要する費用が、パテント・トロールの活動が

活発な米国と比べて相対的に低額である

など、パテント・トロールにとって魅力的ではない環境があると考えられる。

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本委員会の結論としては、特許制度がバランスよく機能している日本では、今後もパテ

ント・トロールは問題になりにくく、現行制度においてパテント・トロールに十分対応で

きているのではないか、との意見が多数を占めた。

(2) 標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインについての検討

第2回委員会と第3回委員会では、「標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的な

ロイヤルティの考え方についての論点確認と議論」を行ったことから、これを「ガイドラ

イン案作成に向けた意見」として検討結果を整理した(図表 1 参照)。

図表 1 ガイドライン案作成に向けた意見の検討結果(項目のみ表示)

(1) 『ガイドラインの目的』について

(2) 『ライセンス交渉の進め方』について

(ⅰ) 『誠実性』について

(ⅱ) 『効率性』について

(3) 『ロイヤルティの算定方法』について

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について

(4) 欧州コミュニケーションについて

一方、第4回委員会では、特許庁より提案されたガイドライン案を配布した上で「標準

必須特許のライセンス交渉に関するガイドライン案についての意見」と題して検討を行っ

たことから、「ガイドライン案に対する意見」として検討結果を整理した(図表 2 参照)。

なお、ここでは、委員会での議論の流れを優先し、「ガイドライン案作成に向けた意見」

と「ガイドライン案に対する意見」とを分けて載せることとした。

図表 2 ガイドライン案に対する意見の検討結果(項目のみ表示)

(1) 『本ガイドラインの目的』について

(ⅰ) 『標準必須特許を巡る課題と背景』について

(ⅱ) 『本ガイドラインの位置づけ』について

(2) 『ライセンス交渉の進め方』について

(ⅰ) 『誠実性』について

(ⅱ) 『効率性』について

(3) 『ロイヤルティの算定方法』について

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について

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(ⅱ) 『非差別的なロイヤルティ』について

(ⅲ) 『その他』について

(4) ガイドライン全般について

(ⅰ) ガイドラインの全体の印象について

(ⅱ) ガイドラインの名称について

(ⅲ) 目次・インデックスについて

4. まとめ

(1)パテント・トロールに関して、その実態、今後の活動の予測及び制度上の対応の可

能性について取りまとめた。

(2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定方法

等の論点について標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインを作成する上での

留意点を検討すると共に、特許庁で作成しているガイドライン案に対する議論を行った。

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はじめに

近年の IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及は標準必須特許のライ

センス交渉に大きな変化をもたらしている。

通信に関する標準必須特許は、製品当たりの権利数の増加等により、事業開始前に権利

関係の全てを把握することが難しい状況になっている。また、通信業界の企業同士で行わ

れてきた交渉が、通信業界の企業とそれ以外の製造業やサービス業といった異業種間でも

行われるようになったことで、これまでのようなクロスライセンス等による解決が困難に

なっている。加えて、標準必須特許のライセンス交渉においては、FRAND(Fair,

Reasonable And Non-Discriminatory:公平、合理的かつ非差別的)条件のライセンス料

率を巡って権利者と実施者間で条件が折り合わないケースが多い。

他方、近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の権利行使

をビジネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動が、米国において社

会問題化し、その後に欧州やアジアにも広がるなど、その影響を懸念する声が出ている。

このような状況を踏まえ、本調査研究では、裁判例及び過去の調査研究等を通じて情報

の整理を行った上で有識者から構成される委員会において、(1)標準必須特許の適切なラ

イセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定方法について基本的な考え方を整理

してガイドラインの策定に向けた検討を行うとともに、(2)パテント・トロールの実態及

び制度上での対応の可能性について検討を行った。

後に、委員会の委員及びオブザーバー各位、国内ヒアリング調査にご協力いただいた

関係各位に対して、この場を借りて深く感謝申し上げる次第である。

平成 30 年 3 月

一般財団法人知的財産研究教育財団

知的財産研究所

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委員会名簿

「標準必須特許を巡る紛争の早期解決に向けた制度の在り方に関する調査研究」委員会

委員長

平塚 三好 東京理科大学専門職大学院 イノベーション研究科 教授

委員

泉 克幸 京都女子大学法学部 教授

一色 太郎 一色外国法事務弁護士事務所 代表、

外国法事務弁護士 カリフォルニア州・コロンビア特別区法

太田 昌孝 日本弁理士会 執行理事、

インフィニティー特許事務所 弁理士

金子 敏哉 明治大学法学部 准教授

佐藤 裕介 日本製薬工業協会 知的財産委員会 専門委員、

中外製薬株式会社 知的財産部 戦略グループ 課長

設樂 隆一 日本弁護士連合会、

森・濱田松本法律事務所 客員弁護士

鈴木 草平 一般社団法人日本知的財産協会 常務理事、

ソニー知的財産ソリューション株式会社 代表取締役社長

高橋 弘史 一般社団法人電子情報技術産業協会 特許専門委員会 委員、

パナソニック IP マネジメント株式会社

イノベーション知財部 知財開発1課 課長

竹市 博美 一般社団法人日本自動車工業会 知的財産委員会 委員、

トヨタ自動車株式会社 東京技術部 主幹

鶴原 稔也 株式会社サイバー創研 知的財産事業部門 主幹コンサルタント

(敬称略、五十音順)

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オブザーバー

五十嵐 志保 日本知的財産協会、ソニー株式会社 知的財産センター

知的財産リスクマネジメント部 訴訟担当部長

石本 真一 日本弁理士会 第2事業部 知的財産制度改革推進室 主任

城山 康文 日本弁護士連合会、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士

日野 英一郎 日本弁護士連合会、シティユーワ法律事務所 弁護士

川上 敏寛 特許庁 総務課 制度審議室長

武重 竜男 特許庁 総務課 企画調査官

今村 亘 特許庁 企画調査課長

関 景輔 特許庁 総務課 制度審議室 室長補佐

小岩 智明 特許庁 総務課 法規班 課長補佐

幸谷 泰造 特許庁 総務課 制度審議室 法制専門官

清水 裕勝 特許庁 総務課 制度審議室 特実係長

大出 真理子 特許庁 総務課 企画班長

松本 要 特許庁 企画調査課 企画班長

足立 昌聡 特許庁 企画調査課 法制専門官

貝沼 憲司 特許庁 企画調査課 研究班長

下井 功介 特許庁 企画調査課 企画班 課長補佐

古田 敦浩 特許庁 審判課 審判企画室 課長補佐

鹿戸 俊介 特許庁 審判課 審判企画室 課長補佐

中野 裕二 経済産業省 産業技術環境局 国際標準課 統括基準認証推進官

宇津木 達郎 内閣府 知的財産戦略推進事務局 参事官補佐

廣瀬 仁貴 法務省 大臣官房司法法制部 部付

橋口 慎一郎 高裁判所 事務総局 行政局第一課 知的財産訴訟係 調査員

事務局

三平 圭祐 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 常務理事

橿本 英吾 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 研究第二部長

橋本 英司 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 主任研究員

福岡 裕貴 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 主任研究員

亀井 秀和 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 研究員

田村 健一 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所 主任研究員

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目次

要約

はじめに

委員会名簿

Ⅰ. 序 .............................................................................................................................. 1

1. 本調査研究の背景 .................................................................................................. 1

2. 本調査研究の目的 .................................................................................................. 1

3. 実施方法 ................................................................................................................ 2

(1) 関連文献、過去の調査研究報告書、裁判例等の調査 ......................................... 2

(2) 国内ヒアリング調査 ........................................................................................... 2

(3) 委員会による検討 .............................................................................................. 2

(ⅰ) 委員会の構成 .................................................................................................. 2

(ⅱ) 開催日時・議題 .............................................................................................. 3

Ⅱ. パテント・トロールの実態と現行制度による対応状況について .............................. 4

1. 背景 ....................................................................................................................... 4

2. パテント・トロールとは ....................................................................................... 4

(1) パテント・トロールの一般的な定義 .................................................................. 4

(ⅰ) 文献等調査の結果 ........................................................................................... 4

(ⅱ) 委員会の意見 .................................................................................................. 6

(2) 具体的な行為 ..................................................................................................... 7

(ⅰ) 文献等調査の結果 ........................................................................................... 7

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 12

3. パテント・トロールの実態 ................................................................................. 14

(1) 日本 .................................................................................................................. 14

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 14

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 18

(2) 米国 .................................................................................................................. 19

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 19

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 28

(3) その他の国 ....................................................................................................... 29

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 29

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 34

4. 主要国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測 ................................... 35

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(1) 日本 .................................................................................................................. 35

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 35

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 37

(2) 米国 .................................................................................................................. 38

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 38

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 39

(3) 欧州 .................................................................................................................. 40

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 40

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 43

(4) 中国 .................................................................................................................. 44

(ⅰ) 文献等調査の結果 ......................................................................................... 44

(ⅱ) 委員会の意見 ................................................................................................ 45

5. 日本におけるパテント・トロールへの制度上の対応 .......................................... 46

(1) 現行制度の概要及び裁判例 .............................................................................. 46

(ⅰ) 法律による対応 ............................................................................................ 46

(ⅱ) 裁判による対応 ............................................................................................ 49

(ⅲ) 特許権侵害訴訟に関する制度面の環境 ........................................................ 53

(2) 委員会の意見 ................................................................................................... 55

6. まとめ .................................................................................................................. 57

Ⅲ. 標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインについての検討 .............................. 58

1. ガイドライン案作成に向けた意見 ....................................................................... 58

(1) 『ガイドラインの目的』について ................................................................... 58

(2) 『ライセンス交渉の進め方』について ............................................................ 61

(ⅰ) 『誠実性』について ..................................................................................... 61

(ⅱ) 『効率性』について ..................................................................................... 63

(3) 『ロイヤルティの算定方法』について ............................................................ 66

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について ............................................................ 66

(4) 欧州コミュニケーションについて ................................................................... 69

2. ガイドライン案に対する意見 .............................................................................. 70

(1) 『本ガイドラインの目的』について ................................................................ 70

(ⅰ) 『標準必須特許を巡る課題と背景』について .............................................. 70

(ⅱ) 『本ガイドラインの位置づけ』について ..................................................... 71

(2) 『ライセンス交渉の進め方』について ............................................................ 72

(ⅰ) 『誠実性』について ..................................................................................... 72

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(ⅱ) 『効率性』について ..................................................................................... 73

(3) 『ロイヤルティの算定方法』について ............................................................ 75

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について ............................................................ 75

(ⅱ) 『非差別的なロイヤルティ』について ........................................................ 76

(ⅲ) 『その他』について ..................................................................................... 77

(4) ガイドライン全般について .............................................................................. 78

(ⅰ) ガイドラインの全体の印象について ............................................................ 78

(ⅱ) ガイドラインの名称について ....................................................................... 78

(ⅲ) 目次・インデックスについて ....................................................................... 78

資料編

資料Ⅰ 標準必須特許に関する参考資料

資料1 標準と標準化プロセス

資料2 標準化機関と特許ポリシー

資料Ⅱ 標準必須特許に関する主要判例

資料Ⅲ 標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)

(パブリックコメント向け公表版)

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Ⅰ. 序

1. 本調査研究の背景

近年の IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及は標準必須特許のライ

センス交渉に大きな変化をもたらしている。

通信に関する標準必須特許は、製品当たりの権利数の増加等により、事業開始前に権利

関係の全てを把握することが難しい状況になっている。また、通信業界の企業同士で行わ

れてきた交渉が、通信業界の企業とそれ以外の製造業やサービス業といった異業種間でも

行われるようになったことで、これまでのようなクロスライセンス等による解決が困難に

なっている。加えて、標準必須特許のライセンス交渉においては、FRAND(Fair,

Reasonable And Non-Discriminatory:公平、合理的かつ非差別的)条件のライセンス料

率を巡って権利者と実施者間で条件が折り合わないケースが多く、訴訟となっている場合

がある。

他方、近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の権利行使

をビジネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動が、米国において社

会問題化し、その後に欧州やアジアにも広がっているのではないかと懸念する声が出てい

る。

2. 本調査研究の目的

上述のような状況を踏まえ、本調査研究では、裁判例及び過去の調査研究等を通じて情

報の整理を行った上で、有識者から構成される委員会において、(1)パテント・トロール

の実態及び制度上での対応の可能性について検討を行うとともに、(2)標準必須特許の適

切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定方法について基本的な考え方

を整理してガイドラインの策定に向けた検討を行った。

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3. 実施方法

(1) 関連文献、過去の調査研究報告書、裁判例等の調査1

平成 29 年度に実施された2件の調査報告書2を主たる情報源とし、これらから把握でき

ない不足情報がある場合には、書籍、論文、調査研究報告書、審議会報告書、法令・判例

等検索データベース及びインターネット情報等の公開情報を利用した調査を実施した。海

外の不足状況も調査対象に含めたが、原則として、調査対象国は米国、英国、ドイツ、フ

ランス、中国、韓国、インドの7ヶ国とした。

原則として、調査対象範囲は、①標準(必須)特許に関連する判例、②標準特許に対す

る実施料率等に関連する判例についての事例とした。

(2) 国内ヒアリング調査

過去の調査研究報告書や文献等調査からでは得られない情報について、延べ30名を上

限として(同一の有識者に対し、異なる論点による複数回のヒアリングを行う場合もある)、

ヒアリングを行った。ヒアリング先は、標準必須特許に関わりを有する企業(権利者及び

実施者)や有識者等を中心に実施した。

(3) 委員会による検討

専門的な視点からの検討、分析、助言を得るために、本調査研究に関して専門的な知見

を有する者で構成される調査研究委員会を設置し、検討を進めることとした。

(ⅰ) 委員会の構成

委員会を、学識経験者3名、産業界有識者5名、弁護士2名、弁理士1名の計11名で

構成した。

1 以下「文献等調査」という。 2 平成 28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財

制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告書」(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所、2016年 12 月)(以下「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関す

る調査研究報告書」という。)、及び 平成 28 年度特許庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関す

る調査研究報告書」(一般財団法人知的財産研究教育財団、2017 年 3 月)(以下「主要国における標準必須特許の権利行

使の在り方に関する調査研究報告書」という。)

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(ⅱ) 開催日時・議題

委員会の開催日時と主な議題は、以下の通りである。

第1回委員会:平成 29 年 10 月 2 日(月) 14:00~17:00

パテント・トロールに関する論点確認と議論

第2回委員会:平成 29 年 11 月 29 日(水) 10:00~13:00

標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的なロイヤルティの考え方についての

論点確認と議論Ⅰ

第3回委員会:平成 29 年 12 月 15 日(金) 14:00~17:00

標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的なロイヤルティの考え方についての

論点確認と議論Ⅱ

第4回委員会:平成 30 年 2 月 16 日(金) 10:00~12:30

標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドライン案についての意見

第5回委員会:平成 30 年 2 月 26 日(月) 14:00~16:00

報告書案の検討

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Ⅱ. パテント・トロールの実態と現行制度による対応状況について

1. 背景

近年、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的として、特許権の権利行使をビジ

ネスとして行う者(いわゆるパテント・トロール)による活動が、米国において社会問題

化し、その後に欧州やアジアにも広がるのではないかとの懸念もある。

このような状況を踏まえ、パテント・トロールの実態及び現行制度による対応状況につ

いて、第Ⅰ章で示した委員会を構成し、検討を行った。

2. パテント・トロールとは

(1) パテント・トロールの一般的な定義

(ⅰ) 文献等調査の結果

パテント・トロールの定義については、必ずしも確立されたものはないが、次のような

定義が提案されている。

① TMI 総合法律事務所「知的財産プロフェッショナル用語辞典」(2010 年 5 月)200 頁

『「パテント・トロール」という用語は、米国インテル社の元社内弁護士 Peter Detkin

氏による造語で、橋の元に潜んで橋を渡る者から通行料をとる北欧の民話中の妖精トロ

ールに由来するといわれている。』

② 一色太郎「米国特許権保護の現状~パテント・トロール対策およびその影響~3」第 17

回特許制度小委員会 配付資料(2016 年 12 月)3 頁

『トロール=「特許権を濫用し、イノベーションを阻害するもの」』

③ 一色太郎「米国特許権保護の現状─特許権の制限とパテント・トロールへの影響─4」

知財管理 66 巻 9 号 1105 頁(2016 年 9 月)

『トロールの呼称は,「特許権を濫用し,イノベーションを阻害するもの」の意で用いら

れることが多い。

NPE(Non‐Practicing Entity)とトロールが同義に扱われることがあるが,NPE と

3 以下「米国特許権保護の現状~パテント・トロール対策およびその影響~」という。 4 以下「米国特許権保護の現状─特許権の制限とパテント・トロールへの影響─」という。

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は文字通り「特許発明を実施しないもの」であり,これには大学,研究開発機関,個人

発明家,さらには撤退したビジネスに関する特許権を活用する事業会社なども含まれ得

る。技術の開発や普及に貢献する NPE を,トロールとみなすべきではない。

また,特許管理会社を一概にトロールとみなすことも問題である。特許管理会社も多

種多様であり,ライセンシングのノウハウやリソースを欠く個人発明家らと事業会社の

マッチングを行うもの,特許資産を適正に評価することで特許権の流通を活性化し,イ

ノベーション促進に貢献するものも多く存在する。

近では,特許権行使主体(Patent Assertion Entity:PAE)をトロールと同義に扱

うケースが増えている。PAE とは一般的に,技術開発や技術移転をサポートせず,ライ

センス収益を上げる目的で特許権を行使するものを指す。

トロール・ビジネスの本質は,特許使用に伴う正当な対価を求めるのではなく,訴訟

対応コストを回避するための対価をライセンス料名目で徴収することにある。PAE の多

くは,特許の有効性などの実体法上の議論にあまり関心を示さず,訴訟対応コストを下

回るライセンス料を提示することで,早期和解を図ることに腐心する傾向があり,この

ような PAE こそトロールとみなされるべきであろう。』

④ 小林和人「新たな特許防衛のしくみと PAE 対策の動向とその分析」パテント 68 巻 6 号

62 頁(2015 年 6 月)

『特許の権利行使を専業として収益を得る組織を「パテントトロール」と呼ぶ。』

⑤ 西口博之「我が国企業のパテント・トロール対応策」パテント 68 巻 2 号 86 頁(2015

年 2 月)

『パテント・トロールとは,ある特許について,その特許をビジネスに利用しておらず,

利用する意思もなく又殆どの場合はビジネスに利用したこと自体がないにも関わらず,

その特許を使って莫大な利益を上げようとする人物・企業・組織を指す』

⑥ 平塚三好「パテントトロールに関する一考察-裁定制度の活用の提案-」特許ニュース

12879 号 3 頁(財団法人経済産業調査会、2010 年 12 月)

『パテントトロールには、未だに明確な定義は与えられていないが、一例として「発明

を実施しておらず且つ将来実施する意図がなく且つ(多くの場合)過去全く実施したこ

とのない特許から大きな利益を得ようとする者」とされている。』

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(ⅱ) 委員会の意見

前記の文献等調査結果を踏まえても、何をもってパテント・トロールとするかについて

明確な定義は定まっていないと言える。また、自らは発明を実施せずにライセンス収入を

得る者を指す用語としては、NPE(Non Practicing Entity:不実施主体)や PAE(Patent

Assertion Entity:特許主張主体)が知られているが、これらの用語には大学や公的研究機

関等の適切に特許権を活用している者まで含まれるため、NPE や PAE をいわゆるパテン

ト・トロールと同一視することは適切ではないと考えられる。

本委員会においては、パテント・トロールとは、主観的な側面が強く一様な定義は困難

であるとの指摘が多かったが、前記(ⅰ)②等と同様、一般的には、特許権を濫用し、イ

ノベーションを阻害する者を意味するのではないか、との意見が多く得られた。また、気

に入らない特許権者をパテント・トロールと呼んでいるケースもあり、丁寧な議論や整理

が必要であるとの注意喚起の指摘もあった。

なお、本委員会では、パテント・トロールの定義について以下の意見が出された。

・ パテント・トロールとは、イノベーションを阻害するものである。日本企業を含め多く

の企業が、研究開発に投資をして特許を取り、場合によってはそれを売却することによ

って収益を得て、その収益を次の開発に投資することによってもイノベーションへ貢献

していると考えられるため、全体で見てイノベーションに貢献している者をパテント・

トロールに含めてしまうのは問題である。

・ 主体よりも行為態様に着目し、両者(特許権者と特許発明の実施者)の交渉過程を考慮

すべきである。第四次産業革命により IoT 技術が進歩すると、異業種間の交渉が行われ

るようになり、相場観の共有がより一層難しくなるため、交渉過程で誠実に議論するこ

とが重要となる。

・ 一つに定義することは難しいため、結局は個別の事情を鑑みて全体としてパテント・

トロールか否かを判断することになるのではないか。

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(2) 具体的な行為

次に、前記のパテント・トロールの定義案を踏まえつつ、以下の文献等調査結果を参考

として、パテント・トロールの具体的な行為について検討を行った。

(ⅰ) 文献等調査の結果

パテント・トロールの具体的な行為に関する文献等調査結果は以下のとおりである。

① 過去の調査研究報告書

・ 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」56 頁

『特許を保有する特許権者が、自己の事業範囲の変更等によって事業を他社に譲渡する

場合に、特許権は自社に残し事業譲渡先に実施許諾を行う場合と、特許権も一緒に譲渡

する場合がある。また、事業の譲渡とは別に特許権のみを第三者に譲渡する場合もある。

その譲渡先が非実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)・特許主張主体(PAE:Patent

Assertion Entity)である場合も多い。NPE の定義を、単純に非実施主体としてしまう

と、技術の研究・開発・設計のみを事業として行い、その技術を用いた製造や販売を実

施許諾した他社に任せる企業や、そもそも技術の研究・開発のみを行う大学・研究機関

なども含まれてしまう。

より狭義には、自らは研究・開発を行わず、研究開発以外の方法(他社からの譲渡な

ど)で特許を取得している企業である。また、他の事業は行っているが、特定の領域の

事業を中止し、それまでに行った発明の特許を所有のみしており、それらの実施許諾の

みを行っている場合は、その特定領域に限ってのみ、NPEとみなされることがある。

また、PAEは、NPEに含まれると考えられるが、さらに積極的に特許の権利行使を主

たる事業として行う主体である。その際に、自社が開発した技術の場合もあれば、第三

者の特許を権利行使するために積極的に買い集める場合もある。』

・ 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と

NPE の動向に関する調査研究報告書」ⅱ頁, 24 頁

『自ら製造・販売等の事業をしていない者が、和解金やライセンス料を得ることを目的

として特許権を取得・行使する事例が米国において複数あるとされ、このような者の一

部はパテント・トロールと呼ばれる。』,

『米国においては、いわゆるパテント・トロール問題は、1990 年代頃より電気通信等の

特定業種を中心に顕在化してきた現象である。NPE が知的財産を金銭化する手段はラ

イセンス提供による実施許諾料、特許権の売却益、そして特許侵害訴訟による損害賠償

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金(又は和解金)の獲得の3つの方法があり得るが、そのうち特許権侵害訴訟による損

害賠償金(又は和解金)の獲得を行いすぎると、パテント・トロールとみなされるおそ

れがある。』

② 米国 FTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会)の報告書

・ 「Patent Assertion Entity Activity: An FTC Study5」1 頁

『Patent assertion entities (PAEs) are businesses that acquire patents from third

parties and seek to generate revenue by asserting them against alleged infringers.

PAEs monetize their patents primarily through licensing negotiations with alleged

infringers, infringement litigation, or both. In other words, PAEs do not rely on

producing, manufacturing, or selling goods. When negotiating, a PAE’s objective is

to enter into a royalty-bearing or lump-sum license. When litigating, to generate

any revenue, a PAE must either settle with the defendant or ultimately prevail in

litigation and obtain relief from the court.』

(参考訳:特許主張主体(PAE)とは、第三者から特許を取得し、被疑侵害者に対して

権利を主張することで収益を上げる事業である。PAE は主に、被疑侵害者とのライセ

ンス交渉、侵害訴訟、又はその両方を通じて、特許を収益化する。即ち、PAE は製品

の製造や販売を行っていない。交渉する際の、PAE の目的はロイヤルティ又は一括払

いライセンスを締結することである。訴訟を起こすときは、収益を生み出すために、

PAE は被告と和解するか、 終的に訴訟に勝ち、裁判所から救済されなければならな

い。)

5 Federal Trade Commission “Patent Assertion Entity Activity”(2016 年 10 月) (以下“Patent Assertion Entity Activity”という。) https://www.ftc.gov/system/files/documents/reports/patent-assertion-entity-activity-ftc-study/p131203_patent_assertion_entity_activity_an_ftc_study_0.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日]

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③ 過去の調査研究報告書における企業へのアンケート結果

2016 年度に報告された調査研究では、日本企業がどのような者や行動をパテント・トロ

ールと考えるかについて、IoT 関連企業にアンケート調査が実施されているが、各社認識

にばらつきがあり、日本におけるパテント・トロールを明確に定義することは困難であっ

たとの報告がなされている6。また、同調査研究では、併せてヒアリング調査も実施されて

おり、その結果、どのような企業や言動をパテント・トロールとみなすかについては事業

者ごとに認識の分かれるところとなった旨、報告されている。なお、同報告書では、比較

的多かった回答(複数回答可)として、以下を列挙している。

技術移転や開発を支援する目的ではなく、専らライセンス料を獲得する目的で特許を

用いる(56 者中 25 者回答)

権利侵害の可能性を問わずに特許権侵害訴訟を乱発する(56 者中 18 者回答)

収益のうち一定以上の割合が特許権の行使による和解金又は損害賠償金である(56 者

中 19 者回答)

行使する特許権が他者から承継したものである(56 者中 19 者回答)

図表 1 パテント・トロールが取る行動として日本企業が考えるものに近い行為7(複数回答可)

6 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告

書」25 頁 7 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告

書」26 頁:図表 6

17

25

9

18

14

13

19

5

10

19

1. 自ら製品の製造開発や販売などを行わないもの

の、特許権を保有する

2. 技術移転や開発を支援する目的ではなく、専らラ

イセンス料を獲得する目的で特許を用いる

3. これまで実施されておらず、今後も実施される見

込みのない特許に基づいて多額の金銭をせしめる

4. 権利侵害の可能性を問わず、権利侵害訴訟を乱発

する

5. 事前に権利侵害の可能性を検証するなどにより、

選択的に訴訟を行う

6. 事前に警告状の送付やライセンス交渉などを行う

ことがなく、訴訟を提起する

7. 収益のうち一定以上の割合が特許権の行使による

和解金又は損害賠償金である

8. 収益の割合によらず、和解金又は損害賠償金によ

る収益がある

9. 訴訟の提起の有無によらず、特許の売買益やライ

センス収入が一定程度ある

10. 行使する特許権が他者から承継したものである

(ア)特許権の行使

の態様

(イ)権利侵

害訴訟数

(ウ)

訴訟に

至るま

での事

前交渉

の有無

(エ)収益割合

(オ)

行使す

る特許

権の由

来につ

いて

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④ 濫用的な権利行使に関する公開情報

濫用的だと思われる権利行使に関して、2016 年に行われた企業・大学・TLO・弁護士事

務所・弁理士事務所への国内アンケート調査8では、「特許権と被疑侵害製品との対比を十

分に行わずに、訴訟(警告)を乱発する」という回答が も多い一方で、「主な収益が特許

権の行使による者からの権利行使」、「他者から取得した特許権を行使する」はそれに比較

すると少なく、事業形態よりも、権利行使の形態が問題と考えられると報告されている9。

また、同調査では、中小企業では、「他者から取得した特許権を行使する」ことが濫用的だ

と考えている割合が、大企業よりも多いとも報告されている。

図表 2-1 権利行使が濫用的だと思われる場合10(複数回答可)

図表 2-2 図表 2-1 の回答者の内訳(括弧内は回答者数)

大企業

(72) 中小企業

(68) NPE (4)

大学 (10)

事務所 (13)

合計 (167)

訴訟・警告乱発 68 57 4 10 10 149主収益目的の権利行使 28 21 0 3 2 54取得権利行使 9 11 0 0 0 20その他 7 2 0 0 4 13無回答 1 4 0 0 0 5

同調査では、「その他」の具体的な意見として、「権利の有効性に疑義がある場合」や「特

許の価値に相応しない対価を請求する場合」などが挙げられている。

8 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」国内アンケート調査 9 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」425 頁 10 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」425-426 頁 :「Q5. 貴社はどのような権利行使が濫用的だと思いますか(複数回答可)」に対する回答

149

54

20

13

5

0 20 40 60 80 100 120 140 160

特許権と被疑侵害製品との対比を十分に行わず

に、訴訟(警告)を乱発する

主な収益が特許権の行使による者からの権利行使

他者から取得した特許権を行使する

その他

無回答

件数

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なお、前記の国内アンケート調査における企業の意見は以下のとおりであった。

訴訟の乱発

・ 有効性の疑わしい特許権による訴訟の乱発。

・ あくまでも高額なライセンス料の徴収を目的に「特許権と被疑侵害製品との対比を十分

に行わずに、訴訟(警告)を乱発する」の行為等、訴訟等の権利行使を乱発し、実施者

に対して消耗戦を企てる行為。

・ 非侵害判決が確定した後の、同じ特許権で同じ製品に対する再度の侵害訴訟提起。

高額な対価の請求

・ 訴訟を盾にした、特許の対象技術の価値に相応しない対価の請求。

差止請求権等の不必要な行使

・ 差止の必要がないのに差止請求や保全手続をとること。

・ 権利行使がそもそも権利の持つ価値の実現化といえない場合の、特に差止請求権の行使。

・ 一部の部品に係る特許による製品全体の差止め請求、警告。

その他(濫用的行為)

・ 事実上の部品の供給等とからめたライセンス受諾の強要。

・ 実用新案登録出願をしただけの状態での、類似品としての販売の差止め請求。技術的な

裏付けのない状態での警告。

その他(意見)

・ 個別具体的な事実に基づく判断なので、一概にはいえない。

・ NPE からの権利行使も濫用的だと思うが、いわゆる法律上の濫用とは異なると思う。

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- 12 -

(ⅱ) 委員会の意見

2.(1)(ⅱ)で得られた意見のとおり、パテント・トロールの本質はイノベーション

を阻害する者であることを前提として、①「過去の調査研究報告書」、②「米国 FTC の報

告書」、③「企業へのアンケート結果」等をもとに検討した結果、パテント・トロールの行

為として以下の 4 要素を抽出した。

要素① 特許発明のための研究開発を実施しない

要素② 他者から特許権を取得する

要素③ (a) 不適切なライセンス料を目的として権利行使を行う、又は、

(b) 権利行使を乱発する

要素④ 製造販売等の事業をしておらず、

権利行使により得られるライセンス料等を主な収益源とする

本委員会では、要素①、②、④単独の行為には、正当に研究開発やビジネスを行ってい

る者も含まれ得るため、パテント・トロールの行為の特定として十分ではないとの指摘が

あった。

一方で、要素③の行為は単独でも濫用的であり、④「濫用的な権利行使に関する公開情

報」等も踏まえると、特に、要素③には以下のような行為が含まれるのではないか、との

指摘があった。

・ 訴訟や無効審判に必要な費用よりも低額な請求を乱発することで不適切な利益を得

ようとする行為

・ 請求額は低額であっても、権利の有効性や侵害該当性に疑義がある特許権に基づい

て、権利行使を乱発する行為

・ 有効性や侵害該当性に関する交渉に一切応じずにライセンス料の請求のみ繰り返す

等、不誠実な交渉に基づいて権利行使する行為

終的には、要素①~④のすべてを満たす行為は、典型的なパテント・トロールと考え

られるのではないか、という指摘が多く得られた。

なお、本委員会では、パテント・トロールの行為について以下の意見も出された。

・ 要素③の(a)「不適切なライセンス料」とは、典型的には「不当に多額なライセンス料」

を指すのではないか。

・ 要素①から④まで全て揃っている場合に、それをパテント・トロールと言うことに問題

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はない。ただし、要素①及び②だけをもってイノベーションを阻害すると言うのは不適

切であり、また、要素④に関しても、いろいろな形でイノベーションに貢献することが

できるため、ライセンス料を得ることを目的とすることをもってパテント・トロールと

言うことには、問題がある。そうすると、やはり問題となるのは要素③である。

・ 要素③に関連して、一部のパテント・トロールは、投資ファンド的に資金を集めており、

これが権利行使の乱発につながっていて問題となっている。

・ 特許本来の価値と請求しているライセンス料とのバランスを著しく欠いている、もしく

は不当な目的で権利行使をしているというようなところまで踏み込んで判断する必要

がある。明らかに特許性の低い特許による権利行使もあるが、経済合理性の点からライ

センス料を支払う場合がある。要素③の「不適切」は重要な要素であるが抽象的である

ため、その意味を整理すべきではないか。

・ 権利行使については、単純なライセンス交渉という場合や、いきなり訴訟が提起される

場合等を含めて考えてもよいのではないか。

・ 要素①の研究開発と要素④の製造販売をまとめてもよいのではないか。

・ 4要素に加え、さらに要素を追加することで定義を明確にするという方向よりも、いく

つか具体的な事例を挙げる方がわかりやすいのではないか。

・ 正当な対価と比較して著しく高いというのが不適切なライセンス料の判断材料になる

が、判決まで進むケースは少ないため、正当な対価を導き出すのは難しい。業界などに

よってライセンス料率は異なるため、例えば各業界の標準的なレートを参酌すべき。

・ 定義を設けることで、パテント・トロールか否かを線引きすることになるため、まとめ

方は難しい。「権利濫用」や「不適切」の基準は、時代や背景等によって異なる。定義は

あいまいなでも良いのではないか。また、定義自体が独り歩きしないような注意すべき

である。

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- 14 -

3. パテント・トロールの実態

前記のとおり、パテント・トロ-ルの用語の明確な定義は確立していないため、2.(2)

(ⅱ)の要素を備えたパテント・トロールの情報を調査することは難しい。ただし、パテ

ント・トロールは NPE 又は PAE の一類型であることから、本調査研究では、必要に応じ

て NPE 及び PAE についての情報を参考にすることで、各国におけるパテント・トロール

の実態について検討した。

(1) 日本

(ⅰ) 文献等調査の結果

日本におけるパテント・トロールの実態に関する文献等調査結果は以下のとおりである。

① 日本国内におけるパテント・トロール活動

2016 年に行われたアンケート調査11では、日本企業(日系企業)が、パテント・トロー

ル12から提訴を受けた、又はパテント・トロールから警告状が送付された(以下「パテント・

トロールから提訴・警告を受けた」という。)国に関して、過去 10 年において 31 者中 20

者が米国において提訴・警告を受けており、次いで、31 者中 7 者が日本において提訴・警

告を受けたと回答している。

図表 3 過去 10 年において各国でパテント・トロールから提訴・警告を受けた者の数13

(回答数 31)

11 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内アンケート調査 12 アンケート調査において、IoT 関連の日本企業がパテント・トロールと考えた者(その行為については、本調査報告

書の図表 1 を参照)。「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に

関する調査研究報告書」の調査におけるパテント・トロールについては、以下同様。 13 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」80 頁:図表 30

20

7

2

1

1

米国

日本

欧州(ドイツ以外)

ドイツ

中国

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また、同時に行われたアンケート調査では、「米国と比べ日本での活動は活発ではなく、

問題になるとも感じていない」と回答した日本企業が 70%ある一方で、「米国に比べ日本で

の活動は活発ではないが、看過できるものではない」と回答した日本企業も 22%あった。

図表 4 日本と米国におけるパテント・トロール活動についての認識14(回答数23)

14 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」82 頁:図表 33

70%

22%

4%

4%

0%

米国と比べ日本での活動は活発ではな

く、問題になるとも感じてない

米国に比べて日本での活動は活発では

ないが、看過できるものではない

日本の方が活発に活動している

その他

米国も日本も変わらない

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② NPE からの権利行使の実態

2016 年に行われた、NPE からの権利行使の経験についての国内ヒアリングでは、以下

のような回答が得られている15。

NPE からの権利行使の経験あり(提訴・警告を受けたことがある)

無線分野では、 近アメリカの大手トロールが日本で権利行使をしてきたものがある。

日本では、トロールによる訴訟は増えていると思うが、アメリカほどの急激な伸びはな

いと思う。アメリカでは中小のトロールが増えている。

警告を受けたことがあるのは、主にアメリカからである。アメリカを中心にして、ワー

ルドワイドのポートフォリオで警告してくるので、その中に日本の特許がある。

日本では訴訟はない。警告は年間 2~3 件くらい。権利を見て関係なければ特にリアク

ションを返さないこともある。相手方が代理人(弁護士)を立てている場合、(権利の侵

害の可能性について一定の検討がされている蓋然性が高いことから)基本的に対応して

いる。

日本、海外を含めて、今から 3、4 年前は件数が非常に多かった。今は米国の他、ヨーロ

ッパにおいても減少している。

該当する特許を利用した製品ではなく、上位のシステムを対象とした権利行使を行って

くる NPE がいる。このような今までになかった形の権利行使では、ベンチマークがな

いため、対応に苦慮している。

事業展開に合わせて権利行使される数が変動する。情報通信関係で、システム機器など

の分野へ展開していくと、様々な部品、製品を組み合わせることになることもあり、権

利を踏むことになる。

PAE に限らず、全体的に比較的少なくなってきていたが、また若干増えてきた気がする。

通信の世代が変わると増える傾向があるかもしれない。

NPE からの権利行使の経験なし

NPE(パテントトロール)の訴訟件数は 5 年前と比べると劇的に減ってきている印象で

ある。日本特許だけを主張してきた案件はない。欧州において、NPE による権利行使は

増えており、米国から欧州に舞台がシフトしている印象である。

NPE 等から権利行使を受けたことはないが、NPE 等から特許の買い取りや連携につい

てのアプローチはあった。

15 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」520-521 頁

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③ パテント・トロールによる特許権侵害訴訟の実態

2014 年に行われた、特許権等の紛争解決の実態に関する調査16では、我が国の地方裁判

所における知的財産権関連民事訴訟の新受件数は、2013 年で 552 件、うち特許権に関する

ものは 164 件、実用新案に関するものは 8 件、意匠権に関するものは 12 件であった。

2016 年に行われた 高裁判所判例データベース知的財産裁判例集の調査17では、パテン

ト・トロールによる特許権侵害訴訟と考えられるものを検索した結果、平成 18 年~平成

26 年の間では情報通信分野を中心に一年当たり数件程度であった。

パテント・トロールが行使した特許権が属する技術分野に関し、2016 年に行われたアン

ケート調査結果では、以下に示すとおり、情報通信分野や電機・精密機械分野が主なター

ゲットとなっている。また、ヒアリングにおいては、通信機能を軸として、電機・精密機

械から自動車、住宅、医療等にターゲットが移ると考えられるとの声も聞かれた。

図表 5 パテント・トロールが行使した特許権が属する技術分野18

技術分野 標準必須特許

1.情報通信分野 9 3

2.電機・精密機械分野 4 0

3.自動車関連分野 0 0

4.OA 機器分野 0 0

5.製薬分野 1 0

6.化学分野 0 0

7.住宅分野 0 0

8.その他 0 0

16 平成 26 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究報告書」(一般財団法

人知的財産研究所、2015 年 3 月)10 頁 17 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」において、 高裁判所判例データベース知的財産裁判例集より検索。他者から承継した特許権を行使しており行

使した特許権に係る発明について自ら実施していない者を当事者に含む事例を NPE による特許権侵害訴訟として調

査。 18 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」85 頁:図表 37

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(ⅱ) 委員会の意見

①の図表 3 に示された 2016 年のアンケート調査結果によると、2 割強の日本企業(日系

企業)が過去 10 年間に日本においてパテント・トロールからの提訴・警告を受けたと回答

しており、③にあるとおり、特に情報通信分野がパテント・トロールはのターゲットにし

ていることも報告されている。一方で、②の国内ヒアリングの結果では、パテント・トロ

ールや NPE による権利行使は減少しているとの意見も複数あった。

そして、本委員会では、①~③も踏まえて、日本ではいずれの業界においても、現時点

ではパテント・トロールの活動は活発ではないとの認識が共有された。

なお、本委員会では、日本におけるパテント・トロールの実態について以下の意見も出

された。

・ 今までに日本で受けた特許訴訟も存在はするが、件数は極めて少ない。少ない理由は、

日本では予見可能性が高いためと考えられる。日本のみで訴えられるケースはない。

・ 電機業界では、トロールは存在しているが、件数的には減ってきている印象。

・ 自動車業界では、現時点で大きな問題として表面化していない。

・ 医薬業界では、ゼロではないが、現在パテント・トロールによって大きな問題になっ

ているという話はない。

また、本委員会では、提訴又は警告してきた者が2.(2)(ⅱ)で定義されたパテン

ト・トロールに該当するかどうかについては、あくまで回答者の主観による点に留意する

必要があるとの指摘もあった。

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(2) 米国

(ⅰ) 文献等調査の結果

米国におけるパテント・トロールの実態に関する文献等調査結果は以下のとおりである。

① 1980 年代以降の動向概要

以下のとおり、パテント・トロールは 1990 年代終盤以降に台頭し、2010 年代に社会問

題化したと考えられている。

「米国特許権保護の現状~パテント・トロール対策およびその影響~19」3-4 頁

『 ● 1980 年~ :プロパテント方針

● 1990 年代終盤 :パテント・トロールの台頭

● 2000 年~ :特許制度の弊害の表面化

米国連邦取引委員会(2003 年)および全米科学アカデミー(2004 年)は、有

効性に疑義のある特許がイノベーションを阻害していると報告

● 2005 年 :特許法改正法案の上程

先願主義への移行、特許権付与後異議申立制度の拡充などを提案

● 2010 年~ :トロールの社会問題化

中小企業に無差別に警告状を送りつけるトロールの出現』

② NPE による特許権侵害訴訟の提起件数・金額

2015 年の米国における特許権侵害訴訟数の提訴数は 5,838 件であり、うち NPE による

特許権侵害訴訟の提訴数が 3,909 件(特許権侵害訴訟の 67%)である20。2012 年に AIA

(America Invents Act:米国改正特許法)が施行された後、訴訟の提起件数は 2015 年ま

で増加傾向にあるものの、2016 年は連邦地裁への提起件数が大幅に減少しており、NPE

による駆け込み提起の反動や、NPE 以外により提起件数が減少した可能性が指摘されてい

る21。

19 前掲(注 3)参照 20 Unified Patents “2017 Patent Dispute Report: Year in Review” Figure 8, https://www.unifiedpatents.com/news/2017/12/26/2017-patent-dispute-report-year-in-review [ 終アクセス日:2018年 2 月 8 日] 21 創英国際特許法律事務所「米国特許訴訟の提起件数、2016 年は大幅減~USPTO の当事者系レビュー申立件数は微減

~」(2017 年 3 月)

http://www.soei.com/blog/2017/03/07/%EF%BC%BB%E7%89%B9%E8%A8%B1%EF%BC%BD%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E7%89%B9%E8%A8%B1%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E3%81%AE%E6%8F%90%E8%B5%B7%E4%BB%B6%E6%95%B0%E3%80%812016%E5%B9%B4%E3%81%AF%E5%A4%A7%E5%B9%85%E6%B8%9B/ [ 終アクセス

日:2017 年 7 月 31 日]

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また、NPE による特許権侵害訴訟を通じた被害額を見ると、米国企業の NPE への支払

総額は 2011 年に 64 億ドルでその後も増加傾向にあり、2014 年には 82 億ドルとなってい

たが、2015 年で 74 億ドルと前年に比べて微減している。

図表 6 連邦地裁への訴訟提起件数22

図表 7 米国における NPE への支払総額23,24

22 Unified Patents “2017 Patent Dispute Report: Year in Review” Figure 8 23 RPX Corporation “2015 Report NPE Litigation, Patent Marketplace, and NPE Cost”(以下“2015 Report NPE Litigation, Patent Marketplace, and NPE Cost”という。)72 頁, http://www.rpxcorp.com/wp-content/uploads/sites/2/2016/07/RPX-2015-Report-072616.FinalZ.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 24 弁護費用は、(一日あたりの平均弁護費用)×(NPE による特許権侵害訴訟日数の合計)。和解又は審判費用は、(訴

訟ごとの平均和解金及び審判費用)×(年度ごとの決着審判数)にて算出。

3083 39092630 2099

18821929

17521550

2014 2015 2016 2017

(件)

(年)

NPE Non-NPE

4.6

6.46.9

7.8 8.27.4

2010 2011 2012 2013 2014 2015

($B)

(年)

訴訟費用 和解金または損害賠償金

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③ 業界・分野別動向

図表 8 2015 年の NPE による特許権侵害訴訟(分野別)25,26

(a) 電機・通信業界(IT・IoT 関連)

NPE や PAE などの特許実施許諾会社には、情報通信分野の特許権を取り扱う会社が多

いが、これには、情報通信分野の特性によって、当該分野における特許権を入手かつ実施

許諾しやすいといった事情があるためと考えられると報告されている27。

RPX Corporation の調べによると、NPE 訴訟においては、e コマース、ソフトウェア関

連特許による訴訟が も多く28、訴訟の対象(被告)は、Samsung や Apple をはじめとす

るハイテク大企業が中心となっている29。IT・IoT 関連企業を含む情報通信業界は、従前よ

りパテント・トロールのターゲットの中心であったが、特にワイヤレス通信に関する技術

は注目されており、通信機器技術の応用される電子機器の変遷に沿って対象の業種も推移

してきている。

25 “2015 Report NPE Litigation, Patent Marketplace, and NPE Cost” 30 頁 26 同一の原告により、少なくとも1つ以上共通する特許又は特許群を利用した複数の特許権侵害訴訟を“1 campaign”(=訴訟数:1)とカウントし、調査対象の campaign における分野別の割合を示している。 27 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」56-57 頁では、以下の事情が挙げられ

ている。 (a) 他分野に比べて、一つの製品に用いられる技術が多く、それだけ関係する特許権の数も多い。 (b) 2001 年の IT ブームの崩壊によって、多くの IT 企業が倒産し、その倒産した企業の特許権が市場に流通してい

る。 (c) 大規模な研究設備等を有さずに、比較的容易に発明を創出できる(個人発明家等)。 (d) 先行技術文献がないことを理由に、比較的単純なアイデア的発明が特許になっている。 (e) 一つの製品に係る特許権の数が多く、一般企業が実施している可能性が高い。 (f) 一つの製品に係る特許権の数が多いため、製品の製造、販売等には、他人の特許権の実施許諾が不可欠になってい

る。 (g) 比較的安価かつ入手しやすい製品が多く、侵害の立証が比較的容易である。 (h) 部品や要素技術ないしは標準化技術は、複数の一般企業が共通して実施している。

28 “2015 Report NPE Litigation, Patent Marketplace, and NPE Cost” 30 頁 29 “2015 Report NPE Litigation, Patent Marketplace, and NPE Cost” 34 頁

36%12%

10%9%

6%6%6%

4%3%

2%2%2%3%

eコマース、ソフトウェア

家電、PC

コンシューマープロダクト

ネットワーク

金融サービス

メディア・コンテンツ

モバイル通信・機器

自動車

半導体

医療

物流

工業製品

その他

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(b) 自動車業界

自動車業界については、かつてスマートフォン等に用いられていた通信技術等が、自動

化運転技術や社内モビリティ技術の進化によって応用されてきたことにより、近年パテン

ト・トロールのターゲットとなりつつある。特に自動車においては、 終製品の金額が高

額になるため、賠償金請求としても高額の金額を請求しやすいことが、パテント・トロー

ルにとって特許権侵害訴訟を提起するインセンティブになっていると考えられると報告さ

れている30。

RPX Corporation の調査によると、自動車分野の米国特許侵害訴訟において NPE 訴訟

の占める割合は、2014 年は 88%、2013 年は 94%である31。NPE が自動車産業をターゲッ

トとした理由は、自動車産業特有の構造にあるとする意見もある。すなわち、自動車を製

造する場合、部品を製造し、その部品を組み立てるという過程をとるが、その全てを自動

車メーカーが製造しているわけではなく、自動車を製造、販売するメーカーと部品を製造

するサプライヤーが存在する。そして、複数のサプライヤーが、同じ働きをする部品を製

造し、複数のメーカーに納入している。NPE はこのような複雑な供給構造を背景に、自動

車産業をターゲットとしている32。

特に 2012 年以降に被告となっている上位 5 位の自動車メーカーは、Ford(30 件)、ト

ヨタ(30 件)、BMW(29 件)、Hyundai(29 件)、Mercedes-Benz(27 件)であり、6 位

には日産(26 件)、10 位にはホンダ(17 件)など日本企業も並んでいる33。

(c) 製薬業界

製薬業界については、これまで物質特許が多く、特許権利範囲が比較的明確であること、

そして一つの製品に関連する特許の数が限られていることから、パテント・トロールの訴

訟対象となることは少なかった。また、研究開発費に莫大な資金を要するために新規参入

が難しい点や、大企業が多いという業界構造により十分な先行技術調査が実施されている

点も、パテント・トロールの訴訟対象となることが少なかった背景として挙げられる34。

しかし、近年の米国のパテント・トロール対策の影響を受け、直接的な訴訟でなく、IPR

制度を活用した被害に遭う事例が出てきたと言われている。例えば、製薬企業の有する特

定薬剤の特許に対し、IPR 申請を行うと発表することで、当該企業の株を空売りし、特許

30 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」105 頁 31 Unified Patents “NPE Activity in Automotive Zone”(2015 年 7 月 1 日)(以下“NPE Activity in Automotive Zone”という。)TABLE1, https://www.unifiedpatents.com/news/2016/5/5/npe-activity-in-automotive-zone [ 終アクセス

日:2017 年 7 月 31 日] 32 ライアン・ゴールドスティン「自動車産業における NPE 訴訟の現状と理解」知財研フォーラム 103 号(2015 年)

18 頁 33 “NPE Activity in Automotive Zone” TABLE 3 34 大熊靖夫他「米国、日本、台湾、欧州におけるパテントトロール(要約)仮訳」特技懇 244 号(2007 年)(以下「パ

テントトロール(要約)仮訳」という。)92-93 頁

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- 23 -

が無効と判断されたところで利益を得そうなライバル会社の株を買うことによって利益を

上げるといった投資戦略を米国ヘッジファンドが採用したとの報道が 2015 年になされて

いる35。この米国ヘッジファンドは、知的財産コンサルタントと協働し、製薬会社が米国市

場を搾取しているとの主張の下、数十の IPR を提起し、そのうち 7 つの審判を開始するよ

う PTAB(Patent Trial and Appeal Board:米国特許商標法の特許審判部)を説得したと

の事例が報告されている36。協働した米国ヘッジファンドと知的財産コンサルタントの

IPR 申し立てには、主要な収益発生医薬品を対象とした特許も含まれているため、製薬企

業にとって特許の無効化が承認された場合の影響は多大なものとなる。こうした事例は、

特許権侵害訴訟提起による賠償金額や和解金の支払いを得るといったパテント・トロール

の手法とは異なるが、IPR 制度を活用する新たなビジネスの一つとして捉えることできる

と報告されている37。

また、医薬分野におけるパテント・トロールの動向として、特許権収集から始める従来

型パテント・トロールに加え、標的となる製品を選定して攻撃する標的指向型パテント・

トロールが出現してきていると言われている38。

④ 近年の NPE による訴訟の対象

近年 NPE による訴訟の対象は、当該特許の技術を活用している製造業の企業のみなら

ず、技術を用いた製品のエンドユーザーまで拡大していることが指摘されている。FTC の

調査では、PAE(NPE)からの警告状を受け取った者の 17%、PAE(NPE)が提訴した訴

訟の被告の 13%が小売業を営む企業であった。それには、実店舗を有する小売業だけでな

く、オンライン店舗等の店舗を有さない企業も含まれている39。また、小売業が訴訟対象と

なった特許の技術区分を見てみると、75%がコンピュータ及びソフトウェア特許であった

40。このような調査結果からも、ソフトウェア特許の訴訟ターゲットに、製品メーカーのみ

ならず、店舗を有して小売業を営む企業まで含まれていることが伺える。

また、ターゲットとなる企業が広範囲にわたる一方で、主たるターゲットや高額事例が

特定企業に集中する傾向も見られた。同調査では、調査期間中、企業の 73%は調査対象で

ある 256 の NPE のうち 1 者のみからの提訴であったが、2%の企業は 5 者以上から提訴さ

35 JOSEPH WALKER・ROB COPELAND「特許無効化と空売り―著名ヘッジファンドの新戦略」,Wall Street Journal(2015 年 4 月 8 日), http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580567912142785720 [ 終ア

クセス日:2017 年 7 月 31 日] 36 デヴィッド・マクマン、ローレン・カンポ「物議を醸す新たなヘッジファンド戦略により、近時特許法改正の予期せ

ぬ結果が露呈」知財ぷりずむ 14 巻 159 号(2015 年 12 月)23-32 頁 37 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」106 頁 38 平成 27 年度企業弁理士知財委員会「企業内弁理士からみたパテントトロールの動向」パテント 70 巻 5 号(2017年)102-111 頁 39 “Patent Assertion Entity Activity” 63-65 頁 40 “Patent Assertion Entity Activity” 74-75 頁

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れ、中には 17 者より提訴があった企業もあった41。このことから、NPE によるターゲッ

トが広がる一方で、同じ企業が複数回訴えられるなど、ターゲットが特定の企業に集中す

るケースがあることも示唆されると報告されている42。同調査では、上位 25 社の企業が支

払ったロイヤルティが、NPE が受け取ったロイヤルティの 69%を占めており、その上位

25 社の半数以上が ICT 関連企業であることも報告されている。

また、これまで、PAE から権利行使を受ける業界はある程度決まっていたが、今後、IoT

の発展により、モノとモノとがネットワークでつながることが予想され、ネットワーク化

が進展すると、異なる企業間で同様の技術(標準化技術を含む)が使われることになるた

め、PAE がターゲットを広げ、今まで PAE とは関わりがなかった業界もターゲットにな

る可能性があるとも言われている43。

このように、通信技術が普及し、当該通信技術を使用する事業者が一定の利益を上げる

ようになってくると、パテント・トロールは、これまでターゲットにしてきた通信企業の

みならず、通信技術を使用する他業種の事業者などにも広がっていくことが懸念される。

2016 年のアンケート調査44の結果からも、今後 3~5 年後にパテント・トロールの標的と

なりうる企業として、IoT 分野に展開しようとしている企業を挙げる声があり、様々な業

種の日本企業も、IoT 分野におけるパテント・トロールのリスクを抱える可能性が示唆さ

れると報告されている45。

⑤ パテント・トロールを巡る米国政府の対応

米国でパテント・トロール活動が活発化した背景には、ⅰ.米国における損害賠償額の

高さ、ⅱ.特許権者側の勝訴率の高さ(裁判地の選択)、ⅲ.差止請求権の活用による早期

和解促進、ⅳ.高額な裁判費用の忌避による早期和解促進、ⅴ.有効性の疑わしいソフト

ウェア特許の存在、ⅵ.特許無効化手続の整備不足、ⅶ.権利行使リスクの低さと和解金

の経済合理性が挙げられる46。

パテント・トロールの台頭により特許制度及び訴訟制度の課題が浮き彫りとなったこと

から、米国政府は、2005 年を境にそれまでのプロパテント方針を転換し、2013 年以降に

は、パテント・トロール対策の名目で数々のトロール対策法案が上程された。

米国特許改正法(AIA:America Invents Act)については、2005 年に改正案が上程さ

41 “Patent Assertion Entity Activity” 54-57 頁 42 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」73 頁 43 総合企画委員会「PAE を巡る動向と日本企業としての対策」知財管理 66 巻 4 号(2016 年 4 月)373-395 頁 44 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内アンケート調査 45 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」108 頁 46 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」31-42 頁

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れ、パテント・トロールの被害が顕著な IT 業界とプロパテント政策支持の製薬業界との対

立を経て、2011 年に成立した。AIA 成立以降、特許権侵害訴訟数は 2015 年まで増加を続

けているものの、提訴された企業数(被告数)は一定の範囲で推移している47。これは AIA

により単一訴訟における複数被告の併合制限が影響しており、複数の相手を対象にまとめ

て訴訟を起こすことに制限がかかったためと考えられている48。

(a) 特許の無効化手続の整備

特許の無効化のための費用と期間に対する問題意識により、2011 年の AIA では、無効

化審判制度が全面的に見直されて、当事者系再審査が廃止され、代わりに当事者系レビュ

ー(IPR:Inter Partes Review)及び付与後レビュー(PGR:Post Grant Review)手続が

新設された。さらに、2020 年 9 月廃止予定の暫定手続ではあるものの、金融商品やサービ

スに関するビジネス方法特許を対象とする特定ビジネス方法特許レビュー制度(CBM:

Covered Business Method Review)も新たに設けられた。

(b) 訴訟費用の実質的低減

訴訟コストの増大を抑えるため、2007 年以降、議会及び裁判所は、不公正行為、故意侵

害の立証基準を大幅に厳格化し、さらに改正の議論を活発化させている。また、2011 年に

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC:Court of Appeals for the Federal Circuit)は、不公正行

為の判断基準を大幅に厳格化し、これまで一体で考慮されていた判断基準の要素を、「重要

性」と「欺く意図」の個別に判断すべきとし、さらに個々の基準も引き上げられた49。さら

に、2015 年 12 月、連邦民事訴訟規則が改正され、ディスカバリーの範囲が事案における

必要性と均整のとれたものに制限された50。

⑥ パテント・トロールを巡る裁判所の動向

(a) 差止基準の厳格化

米国特許法第 283 条では、差止めは裁判官の裁量で認めてよいとされ、任意的既定の位

置づけとなっている。従来、CAFC は、特許権侵害訴訟で勝訴した特許権者に、ほぼ差止

めを認めていた。しかし、2006 年の eBay Inc. v. MercExchage判決以降、差止めの要件が大

幅に厳格化されたため、差止請求が却下されるケースが増加している。同事件では、差止

47 “2015 NPE Activity Highlights” 5 頁 48 「米国特許権保護の現状─特許権の制限とパテント・トロールへの影響─」11 頁 49 一色太郎「米国における特許権制限の動きが及ぼす影響-特許権価値の低下とパテント・トロールの衰退」Business Law Journal 2015 年 6 月号(87 号)(以下「米国における特許権制限の動きが及ぼす影響」という。)114 頁 50 “Rule 26 – Duty to Disclose; General Provisions Governing Discovery”, Federal Rules of Civil Procedure 2017 Edition, https://www.federalrulesofcivilprocedure.org/frcp/title-v-disclosures-and-discovery/rule-26-duty-to-disclose-general-provisions-governing-discovery/ [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日]

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命令の発令に必要な4つの要件が示された51。

差止めを認めなければ回復不能な損害を被ること

法律上の救済措置(損害賠償)では原告の損害を救済するのに不適切であること

原告と被告の被害バランスを考慮すると、衡平法上の措置(差止め)が適切であること

差止めを認めても公共の利益を損なわないこと

(b) 裁判地の制限強化

特許侵害警告を受けた者は、確認判決訴訟(declaratory judgement)を提起することで

自ら裁判地を選択できる権利を有するが、裁判所は、2007 年頃から被告の裁判地選択権を

強化する対策を取り始めている。例えば、確認訴訟の提起には、係争性基準を満たす必要

があるが、2007 年に米国連邦 高裁判所は、MedImmune, Inc. v. Genentech, Inc.の訴訟

判決においてこの基準を大幅に緩和している52。さらに、これまではほとんど裁判所の移送

が認められていなかったものの、2009 年のテキサス州からカリフォルニア州への移送を命

じた TS Tech 社の事案をきっかけに、CAFC は、原告による裁判地選択を支持する理由が

ない限り、地裁はより適切な裁判地への移送申立を認容しなければならないとしている53。

さらに、2017 年 5 月 22 日、米国連邦 高裁判所は、TC Heartland LLC v. Kraft Food

Brands Grp. LLC 事件において、「特許侵害訴訟は、被告が法人登録している州の裁判所、

又は、侵害行為が発生し、さらに、被告が日常的かつ確立された事業拠点を持つ地区の裁

判所でしか提訴できない」と判示し54、以後、自由に裁判地を選択することは難しくなって

いる。

(c) 損害賠償算定基準の厳格化

米国特許権侵害訴訟における賠償額は時に非常に高額となるが、背景となる損害額の算

定方法が近年裁判所によって見直されてきている。2012 年に、CAFC は、全市場価値ルー

ルの適用について、その適用範囲を特許発明が製品全体の需要をけん引する場合のみに限

定するとの判決を下した55。さらに、CAFC は、25%ルール56の適用を廃し、対象特許の製

51 平成 22 年度特許庁産業財産制度問題調査研究「権利行使態様の多様化を踏まえた特許権の効力のあり方に関する調

査研究報告書」11-13 頁(一般財団法人知的財産研究所、2011 年 2 月) 52 MedImmune, Inc. v. Genentech, Inc., 549 U.S. 118 (2007) 53 In re TS Tech USA Corp., 551 F.3d 1315 (Fed. Cir. 2008) 54 TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC, 137 S. Ct. 1514 (2017), JETRO ニューヨーク知財部「米国 高裁、TC Heartland, LLC 事件 CAFC 判決を棄却」(2017 年 5 月)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2017/20170525.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 55 LaserDynamics, Inc. v. Quanta Computer, Inc., 694 F.3d 51 (Fed. Cir. 2012) 56 『以前は,対象特許の内容にかかわらず,製品利益に占める特許の貢献度を 25%と推定し,損害額算定の起算点と

する「25%ルール」の適用が認められた。これは例えば,数百件の特許でカバーされる製品であっても,訴訟対象特許

の製品利益への貢献度を一旦 25%とした上で,特許の内容を踏まえ,貢献度を調整することを意味する。』(「米国特許

権保護の現状─特許権の制限とパテント・トロールへの影響─」7 頁)

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品価値寄与度をベースに賠償額を認定することとした57。

(d) 特許性基準の厳格化

米国連邦 高裁判所は、2010 年以降、米国特許法第 101 条で定められている特許適格性

(Patent eligibility)に関するいくつかの判断を示し、特許性基準を厳格化する判決を下

している。

2014 年に、米国連邦 高裁判所は、Alice Corporation Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l 事

件について、Alice Corporation の特許は特許適格性を有さない主題に関わるとした CAFC

の判決を支持した58。判決文では、「当該特許のクレームは、第三者を介する決済という抽

象的アイデアを、詳細を特定しない一般的コンピュータを用いて実施に移すという指示に

過ぎない」と判断している。同判決後、コンピュータを算出処理の手法としてのみ用いる

ようなビジネス方法クレームは、特許性が拒絶されやすくなったとされており、ソフトウ

ェア特許のうち 90%近くが拒絶されているというデータもある59。米国内の大手 IT 企業及

び事業者側の法律・特許関係者からは、米国における特許の予見性が高まったこと、低質

な特許の減少に対し歓迎の声も多く聞こえたが、一方で米国における特許価値を制限する

ものであるとの懸念の声も出ている。

そのような中で、米国特許商標局(USPTO:United States Patent and Trademark Office)

は 2017 年 7 月 25 日に特許適格性に関する報告書60を公表した。報告書では、パブリック

コメント等の意見を、①近年の 高裁判決に対する一般的な意見、②近年の 高裁判決に

対する技術分野に特異的な意見(ライフサイエンス分野、コンピュータ関連分野)、③今後

講ずるべき措置に関する意見、の3つの項目に分けてとりまとめている61。項目③に関して

は、立法的措置ではなく司法による判例法の更なる発展を求める意見、特許適格性につい

ての審査ガイドラインの事例や説明を充実させるなどの行政的な措置を求める意見、特許

適格性の判断の境界線をより適切なものにするための立法的措置を求める意見が紹介され

ている。

(e) 敗訴側の弁護士費用の負担

米国での権利行使における主たる金銭上のリスクは弁護士費用の負担である。NPE は、

弁護士報酬を成功報酬型で支払うこと、またディスカバリーの負担も少ないことから、権

57 Uniloc USA, Inc. v. Microsoft Corp., 632 F.3d 1292 (Fed. Cir. 2011) 58 Alice Corporation Pty Ltd. v. CLS Bank International et al., 134 S. Ct. 2347 (2014) 59 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査 60 USPTO “PATENT ELIGIBLE SUBJECT MATTER: REPORT ON VIEWS AND RECOMMENDATIONS FROM THE PUBLIC”(2017 年 7 月 25 日), https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/101-Report_FINAL.pdf [ 終アクセス日:2017 年 9 月 25 日] 61 JETRO NY 知財部「USPTO 特許適格性に関する報告書を公表」(2017 年 8 月), https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2017/20170803.pdf [ 終アクセス日:2017 年 9 月 25 日]

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利行使における金銭的リスクは相対的に低い。更に、米国訴訟では、米国特許法第 285 条

により、「例外的ケース(exceptional case)」においてのみ、敗訴側に勝訴側弁護士費用の

負担を命じられるが、そのケースも非常に稀であったため、勝訴の見込みが少なくとも訴

訟に踏み切ることが比較的容易であったと言われている62。そこで、2014 年に米国連邦

高裁判所は、Octane Fitness, LLC v. Icon Health and Fitness 事件の判決において、敗訴

側の主張や訴訟遂行上の行為が他の事件と比べ際立っている場合は、「例外的ケース」に当

てはまるとし63、例外的ケースの基準を緩和した。

(ⅱ) 委員会の意見

①「1980 年代以降の動向概要」、②「NPE による特許権侵害訴訟の提起件数・金額」等

によると、パテント・トロールは、1990 年代終盤以降の米国において活発に活動しており、

③「業界・分野別動向」より、主に電機・通信業界をターゲットにしていたことも認めら

れる。一方、②では、近年はパテント・トロールによる警告や訴訟は減少していることも

報告されている。

本委員会においても、複数の委員より、米国においてパテント・トロールに関係する事

件数が、2016 年には前年に比べて大幅に減少したとの指摘があった。

この理由としては、④に示すように米国政府が 2011 年に特許の有効性を再度米国特許

商標庁で見直す手続として、当事者系レビュー(IPR)及び付与後レビュー(PGR)手続を

新設する等の対策を講じたことや、⑤に示すように裁判所による 2006 年の差止基準の厳

格化及び 2017 年の裁判地の制限強化等の影響が大きいという指摘がなされた。

なお、本委員会では、米国におけるパテント・トロールの実態について以下の意見も出

された。

・ 訴訟案件が一番多い業界と一般的に考えられる電機・通信業界においては、米国で受け

るトロールの訴訟件数は AIA 等により減少しており、ピーク時の半分程度となってい

る。米国では、UI(ユーザ・インターフェース)等を含めて、比較的分かりやすい技術

内容の特許による権利行使が多い。

・ 米国では、AIA や判例によってパテント・トロールの紛争件数や被害額が大きく減少し

ている。さまざまな対策によって、パテント・トロールの活動が制限された一方で、特

許権が弱まっていると言える。

62 「米国における特許権制限の動きが及ぼす影響」113 頁 63 Octane Fitness, LLC v. ICON Health & Fitness, Inc., 134 S. Ct. 1749 (2014)

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(3) その他の国

(ⅰ) 文献等調査の結果

欧州、中国及びインドにおけるパテント・トロールの実態に関する文献等調査結果は以

下のとおりである。

① 欧州における NPE による特許権侵害訴訟

欧州において確認された NPE による特許権侵害訴訟は、2010 年は 8 件であったが、

2015 年には 52 件となっている。また被告の数は、2010 年は 10 者であったが、2015 年に

は 112 者となっている64,65。

図表 9 欧州における NPE による特許権侵害訴訟数66,67

② 欧州における PAE の活動

2016 年に発行された欧州委員会(EC:European Commission)によるレポート68によ

ると、欧州で活動している PAE は 32 者確認されている。PAE の大半は米国に拠点を置い

64 ClearViewIP“NEW FRONTIERS FOR NPES”, http://www.clearviewip.com/new-frontiers-npes/ [ 終アクセス

日:2016 年 12 月 21 日] 65 Darts-ip "NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures”(2018 年 2 月)(以下"NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures”という。)6 頁, http://ip2innovate.eu/wp-content/uploads/2018/02/NPE_Litigation_in_the_European_Union.pdf [ 終アクセス日:2018 年 2 月 27 日] による

と、欧州における NPE の特許権侵害訴訟件数は、2016 年に 169 件、2017 年に 173 件と増加傾向にあり、ここ 10 年

間の平均で毎年約 19%増加していると報告されている。 66 ClearViewIP“NEW FRONTIERS FOR NPES”, http://www.clearviewip.com/new-frontiers-npes/ [ 終アクセス

日:2017 年 7 月 31 日] 67 欧州で活動していることが確認されている 11 者の NPE による特許権侵害訴訟数と被告者数 68 Nikolaus Thumm, Garry Gabison, “Patent Assertion Entities in Europe”(European Commission, 2016 年)(以

下“Patent Assertion Entities in Europe”EC という。)141-143 頁 http://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/bitstream/JRC103321/lfna28145enn.pdf [ 終アクセス日:2017 年 8月 9 日]

10 16

41

76 82

112

8 10 12 16

24

52

2010 2011 2012 2013 2014 2015

(人、件)

(年)

被告の数 訴訟数

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ているが(32 者中 16 者)、欧州を拠点とする PAE も約 47%(32 者中 15 者)を占めてい

る。また、欧州諸国で比較すると、ドイツを拠点とする PAE が も多いが(3 者、欧州全

体の 20%)、英国、オランダ、ルクセンブルク、スウェーデンも、ドイツに次いで多いと報

告されている。

図表 10 欧州で活動する PAE の拠点分布69

同レポートによると、PAE が保有する特許の技術分野について、ICT に関連する分野(コ

ンピュータ、ディスプレイ、エレクトロニクス、電気通信、電気工学、インターネットア

プリケーション、ソフトウェア、放送、半導体及びナビゲーション)が大部分を占めてお

り(92%)、特に、通信、コンピューティング、エレクトロニクス、半導体の技術分野が多

く(66%を占める)、その中でも電気通信は約 30%と も多いとされている。また、バイ

オテクノロジー、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、自動車などの非 ICT 分野に関連

する特許も 8%を占めていることが報告されている。

欧州において PAE が通信分野で も多く活動する要因には、欧州企業が 80 年代及び 90

年代に通信分野で重要な役割を果たし、非常に多くの特許が付与されていたこと、当時規

格に参加していた企業の多くが通信分野で活発ではなくなり、その中には現在は収益を

PAE に頼っている企業もあること、PAE に譲渡された通信分野の特許ポートフォリオの大

部分が幅広い製品に対して主張できる SEP であること、等があると考えられている70。

69 “Patent Assertion Entities in Europe”EC 141 頁 70 “Patent Assertion Entities in Europe”EC 50 頁

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図表 11 PAE が保有する特許の技術分野の分布71

③ ドイツにおける NPE による特許権侵害訴訟

Brian Love らの調査によるドイツにおける NPE 及び PAE の特許訴訟の推移を以下に

示す。ドイツでは、2004 年から 2008 年にかけて PAE による特許権侵害訴訟が大幅に増

加しており、その後も増加している可能性が高いと言われている72,73。

71 “Patent Assertion Entities in Europe”EC 142 頁 72 Brian Love, Christian Helmers, Fabian Gaessler, Max Ernicke, “Patent Assertion Entities in Europe”(Santa Clara University School of Law, 2015 年 11 月 12 日)(以下“Patent Assertion Entities in Europe”SC という。)6 頁

http://digitalcommons.law.scu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1914&context=facpubs [ 終アクセス日:2017 年 8 月

9 日] 73 IP2I(Intellectual Property 2 Innovate) “EXAMPLES OF LAWSUITS INITIATED BY PATENT ASSERTION ENTITIES IN EUROPE” http://ip2innovate.eu/wp-content/uploads/2017/04/IP2I_Examples-of-lawsuits-involving-PAEs-in-Europe_040417.pdf [ 終アクセス日:2018 年 2 月 28 日]では、完全な情報ではないが、公表されている情報

をもとに 2010 年から 2017 年における欧州各国の PAE 訴訟のリストが公開されている。このリストをもとに 2010 年

から 2017 年における各国の PAE 訴訟件数を求めると、ドイツ 18 件、フランス 5 件、オランダ 3 件、英国 2 件、イタ

リア 2 件、スイス 1 件、スペイン 1 件、ベルギー1 件、スウェーデン 1 件となっていた。

ソフトウェア

5%放送

2%ナビゲーション

5%バイオテクノロジー

2%ライフサイエンス

2%ナノテクノロジー

2%

自動車

2%

半導体

10%

コンピュータ

17%ディスプレイ

7%

エレクトロニクス

10%

インターネット

5%

電気通信

29%

電気工学

2%

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図表 12 ドイツにおける特許訴訟74

また、Darts-ip の調査によると、2013~2017 年において、欧州各国の NPE の特許権侵

害訴訟の割合は、フランス 4%、イタリア 6%、オランダ 5.5%、英国 4.2%に対し、ドイツ

は 19.5%と も多いと報告されている75。

図表 13 欧州における NPE 訴訟の割合76

74 “Patent Assertion Entities in Europe”SC 6 頁 75 “NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures” 11 頁 76 “NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures” 11 頁:FIGURE 4

0

100

200

300

400

500

600

700

800

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

(件

(年)

PAE

他のNPE

その他

4%

19.5%

6%

5.5%

4.2%

96%

80.5%

94%

94.5%

95.8%

フランス

ドイツ

イタリア

オランダ

英国

NPE訴訟 非NPE訴訟

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- 33 -

④ 中国における NPE による特許権侵害訴訟

中国では、中国に拠点を置く訴訟を目的とした大規模な NPE はまだ確認されておらず、

中国のパテント・トロールの多くはむしろ個人発明者や小規模なものが多いこと、また米

国発のパテント・トロールが米国での提訴と同時に中国でも提訴する傾向が見受けられる

ことが指摘されている77。

そのような中、2016 年 11 月にカナダの WiLAN Inc.の中国における子会社である

Wireless Future Technologies, Inc.が Sony Mobile Communications (China) Co., Ltd.に対し中

国で特許権侵害訴訟を提起した78。中国における NPE による標準必須特許を対象とする特

許権侵害訴訟としては初めての事案であり79、今後の NPE の動向が注目される80。

⑤ インドにおける NPE による特許権侵害訴訟81

インドは、電気通信領域の 大の貢献者であり、広範な市場の一つである。NPE による

訴訟の例として、Vringo v. ZTE、Vringo v. ZTE,Indamart、及び Vringo v. Asus Tek, Nuage

など82の特許権侵害訴訟がある。

77 金杜法律事務所「中国知財関連ニュース」2015 年 7 月号 2 頁、

http://www.jiii.or.jp/chizaiyorozuya/pdf/kawara/CN_IPNews030_20150803.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 78 Jacob Schindler “NPE assertion comes to China as WiLAN subsidiary files SEP suit against Sony in Nanjing – UPDATED”, http://www.iam-media.com/blog/detail.aspx?g=cdfe23cc-d26c-411e-9766-a6e87a6d0fbf [ 終アクセス

日:2017 年 7 月 31 日] 79 平成 25 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「侵害訴訟等における特許の安定性に資する特許制度・運用

に関する調査研究報告書」(一般財団法人知的財産研究所、2014 年 2 月)47 頁 80 Wireless Future Technologies v. Sony Mobile Communications (China)(南京中級人民法院, 2017 年)。2016 年 10月 31 日に提訴されたが、2017 年 4 月 12 日に取り下げられている(詳細は資料編・資料ⅡのⅨ参照)。 81 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」112-113 頁 82 その他、Best IT World Private v. Telefonaktiebolaget LM Ericsson(デリー高等裁判所, 2015 年)等

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(ⅱ) 委員会の意見

①「欧州における NPE による特許権侵害訴訟」、②「欧州における PAE の活動」及び③

「ドイツにおける NPE による特許権侵害訴訟」等によると、欧州では、NPE による訴訟

件数が増加しており、特に、ドイツでは NPE による訴訟の割合が高いことが報告されて

いる。そして、②より、欧州においても、ICT に関連する分野の PAE(NPE)が多いこと

も確認された。

また、④「中国における NPE による特許権侵害訴訟」、⑤「インドにおける NPE によ

る特許権侵害訴訟」等によると、中国やインドにおいても NPE による訴訟が確認されて

いるが、活発な活動は見られていない。

本委員会においても、前記の文献等調査結果のとおり、欧州では、NPE による訴訟件数

が増加しており、特に、ドイツでは NPE による訴訟の割合が高い一方、中国やインドで

は、NPE による活発な活動は見られていないという意見が共有された。

なお、本委員会では、欧州や中国等の地域・国におけるパテント・トロールの実態につ

いて以下の意見が出された。

・ 欧州では訴訟は増えているが乱発といった数には至っていない。但し、ドイツについて

は、特許の有効性の判断前に差止請求の判断が出る場合があるため、対応が難しい制度

となっている。

・ 中国でも訴訟はあるが大きな問題とはなっていない。裁判制度が整っているため、特許

無効の審決を得ることができれば侵害訴訟が終了するケースが多い。

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4. 主要国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測

さらに、本委員会では、前記のパテント・トロールの実態を踏まえて、パテント・トロ

ールの今後の活動についても検討した。

(1) 日本

(ⅰ) 文献等調査の結果

日本におけるパテント・トロールの今後の活動の予測に関する文献等調査結果は以下の

とおりである。

① 日本市場に関する参考情報

日本企業を対象としているパテント・トロールの特許権侵害訴訟は、多くが「日本企業

における米国での事業」が対象であるとの声がある83。しかしながら、一年当たり数件程度

NPE からの特許権侵害訴訟が見られることを踏まえると、日本においても NPE の動向を

注視する必要があるとも報告されている84。

また、2016 年に行われたアンケート調査結果85によると、今後 3~5 年程度で日本の特

許権に基づくパテント・トロールの活動が増すと考える企業は約 30%(26 者中 8 者86)あ

り、今後 3~5 年程度でパテント・トロールが活発になると予想される国としては、中国を

挙げる日本企業は 43%(35 者中 15 者、複数回答可、以下同じ)、ドイツを挙げる日本企業

は 29%(35 者中 10 者)、米国を挙げる日本企業は 11%(35 者中 4 者)、日本を挙げる日

本企業は 9%(35 者中 3 者)であった。

日本市場においては、特許権者が特許権侵害訴訟を提起しても勝訴の際の損害賠償金額

や和解金の期待水準が米国と比較して大きくないことから、NPE にとっては対象市場とし

ての優先順位は低いと考えられている87。

83 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査 84 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」97 頁 85 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内アンケート調査 86 なお、残りの 18 者は「変わらない」と回答している(「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制

度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告書」174 頁)。 87 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査

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図表 14 今後 3~5 年でパテント・トロールが活発になると考える国88

一方で、2016 年に行われたアンケート調査結果89では、日本の特許権について、パテン

ト・トロールから売買又はライセンスに関する接触を受けたことがあるとする企業が 27 者

中 6 者確認されている。具体的にはパテント・トロールからの権利侵害の通告をはじめと

して、パテント・トロールによる業界他社への売却予告、パテント・トロールにより将来

の事業展開を見据えた特許権売却の勧誘、パテント・トロールの権利活用により得た利益

を還元することの提案に関する接触事例があり、水面下でパテント・トロールの活動が見

られていることが確認された。米国 NPE が日本特許を用いて権利行使を行った事例が現

実に存在することを踏まえると、日本においても将来的な対応を視野に入れつつパテント・

トロールの動向を注視していく必要があると報告されている90。

日本企業の多くは、知的財産の金銭化を図ることについては消極的であり、特許権の売

却を行う日本企業は現在のところ限定的である。そのため、NPE が日本の特許権を保有す

る機会もまた限られているのが現状であると考えられると報告されている91。

しかしながら、近年、日本企業においても事業の縮小及び撤退等に伴い、不要な特許を

売却する事例が見られ始めている。ヒアリングにおいても、売却先の企業からパテント・

トロールに当該特許が渡り、権利行使されるリスクもあり、特に NPE が標準必須特許を

保有し、権利を行使することへの懸念が聞かれている。そして、パテント・トロールから

の権利行使のリスク防止の観点からは、このように事業縮小によって市場に流出する特許

がパテント・トロールに譲渡されないための環境の整備が重要と考えられるとも報告され

ている92。

88 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」102 頁:図表 44 89 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内アンケート調査(166 頁) 90 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」102 頁 91 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」102 頁 92 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

43%

29%

11%

9%

6%

3%

中国

ドイツ

米国

日本

欧州(ドイツ以外)

その他

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(ⅱ) 委員会の意見

3.(1)の日本におけるパテント・トロールの実態及び①「日本市場に関する参考情報」

等によると、現時点において、日本ではパテント・トロールの活動が活発化している具体

的な脅威は少ないものの、一方で、日本の特許権について、パテント・トロールから売買

又はライセンスに関する接触を受けたことがあるとする企業が 2 割強も確認されており、

将来的な対応を視野に入れつつパテント・トロールの動向を注視していく必要があること

が報告されている。

本委員会においても、これまで通信業界との関わりが浅かった業界を中心に、将来的な

パテント・トロールの活動への懸念が示された。

ただし、日本においては、パテント・トロールの活動が今後活発になる兆候は今のとこ

ろ見られないという認識が共有された。

なお、本委員会では、日本におけるパテント・トロールの今後の活動の予測について以

下の意見が出された。

・ 自動車業界では、今後、コネクテッドカーのように通信機能を有した製品が主流となり

得るため、トロールに狙われるリスクが高まると考えている。

・ 医薬業界では、将来的に、バイオ・再生医療・デジタルヘルスケアなどの分野へ進んだ

場合にトロールの影響を受ける可能性があると考えられる。

告書」102 頁

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(2) 米国

(ⅰ) 文献等調査の結果

米国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測に関する文献等調査結果は以下の

とおりである。

ホワイトハウスは、2014 年 4 月に「特許制度の強化と技術革新の育成」というパテン

ト・トロール対策の取組進捗状況を発表した。ホワイトハウスが取り上げた対策は以下の

広範囲に及んでおり、今後、制度整備の強化の取り組みが進められると考えられると報告

されている93,94。

特許権の真の利害関係者の開示

(訴訟提起時のペーパカンパニーからの訴訟防止)

権利範囲の明確化を促進するための USPTO における特許審査体制の充実

パテント・トロール活動の国民一般への周知の支援

パテント・トロールから送られてきた警告状の保管及び公開の推進

ITC と連邦地裁等の関係機関間のレビューを開始

なお、ドナルド・トランプ氏が、2017 年 1 月 20 日に第 48 代アメリカ合衆国大統領に

就任し、今後、米国の知財政策がどのような方向に向かうのか注目されている95,96。

93 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」53 頁 94 神野直美、大貫敏史「パテントトロールを巡る 近の動き」(2014 年 1 月) https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/03/PatentTroll.pdf [ 終アクセス日:2018 年 2 月 28 日], 新間祐一郎「米国におけるパテントト

ロールをめぐる近時の状況及び法改正について」(2014 年 5 月) http://ichien-yugo311.jp/compla/download?action=cabinet_action_main_download&block_id=401&room_id=1&cabinet_id=5&file_id=88&upload_id=611 [ 終アクセス日:2018 年 2 月 28 日] によると、2013 年 6 月 4 日にホワイトハウスのパテン

ト・トロール対策が公表され、2014 年 2 月 20 日にパテント・トロール対策の取組状況が公表されている。 95 特許行政年次報告書 2017 年版(特許庁、2017 年)246 頁,257 頁 96 「トランプ大統領は選挙キャンペーンで特許政策についてはほとんど述べていないので不明な点が多い」, Michael J. Caridi・服部健一「トランプ新大統領の下での米国特許制度の行方」 https://www.jmcti.org/trade/bull/ipr1/i.p.print/Future_of_patent_law_01-30-2017.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月

31 日]

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(ⅱ) 委員会の意見

3.(2)の米国におけるパテント・トロールの実態及び(ⅰ)「文献等調査の結果」等

によると、近年の制度改正や裁判所の判例の影響により、米国におけるパテント・トロー

ルによる訴訟は減少傾向にあることが確認された。

一方で、本委員会では、米国では特許の価値が低下しすぎたとも指摘されており、揺り

戻しが起こる可能性もあることから、米国におけるパテント・トロールを取り巻く情勢を

今後も注視する必要があるという認識が共有された。

なお、本委員会では、米国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測について以

下の意見が出された。

・ オバマ政権時代は、IT 企業からの意見を尊重して、特許権を弱めるアンチパテント寄り

の政策をとっていたが、トランプ政権に代わり、製薬業界や製造業からの支援もあり、

アンチパテント政策が見直される可能性がある。直ちに特許権の保護のあり方が変わる

ことはないと思うが、様子を見る必要があると考えている。

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(3) 欧州

(ⅰ) 文献等調査の結果

欧州におけるパテント・トロールの今後の活動の予測に関する文献等調査結果は以下の

とおりである。

① 欧州市場に関する参考情報

欧州における PAE の通信技術に関して、これまではコア無線技術の標準が中心であった

が、 近では、ソフトウェア、サービス、コアネットワーク、ハンドセットなど、幅広い

技術分野がターゲットとなっている。さらに、IoT などによって自動車や家電製品分野で

通信の範囲が拡大しているため、自動車及び家電製品分野でも、PAE の活動が増加する可

能性が高く、また、欧州統一特許(UP:Unitary Patent)及び欧州統一特許裁判所(UPC:

Unified Patent Court)の導入は、PAE に大きな影響を与えることが指摘され97、PAE に

よる選択肢として欧州が米国を追い越す可能性もあり得ると考えられている98。

また、2016 年に行われたアンケート調査において、欧州統一特許及び欧州統一特許裁判

所により、一つの訴訟で広い範囲をカバーできることから、パテント・トロールの活動が

より活発化するという意見もあった99。

② ドイツ裁判制度に関する参考情報

(a) 無効化手続と和解促進

ドイツにおいては、分離原則(Bifurcation)の存在が NPE にとって有利な環境を形成

している。分離原則とは、ドイツにおいて特許の有効性の審理を特許権侵害訴訟とは分離

して実施するものであり、特許権侵害訴訟を扱う裁判所は、当該特許の有効性については

判断できないとされている100。これによって侵害訴訟が迅速に進行することがメリットと

して挙げられる一方で、特許権侵害訴訟において侵害と判断された後に、対象特許権の一

部ないしは全部の無効化が反出される事案も少なくないというデメリットも存在する。ま

た、この侵害訴訟判断から有効性の判断までの間には 1 年以上の期間が空くことが多いと

されており、特許権者である NPE は特許権侵害訴訟において侵害ありとの判断を得たの

ち、有効性の判断が下るまでの期間に和解を提示することで、多額の和解金を獲得できる

97 “Patent Assertion Entities in Europe”EC 49-56 頁 98 “Patent Assertion Entities in Europe”SC 18-19 頁 99 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」175 頁 100 梶山太郎「ドイツ連邦共和国における知的財産訴訟制度(特許訴訟制度)の調査結果(報告)」(法務省大臣官房司

法法制部)(以下「ドイツ連邦共和国における知的財産訴訟制度の調査結果」という。)3-5 頁, http://www.moj.go.jp/content/000121091.pdf [ 終アクセス日:2017 年 8 月 15 日]

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可能性がある。相手方企業は、支出する必要のある訴訟関連費用の金額の大きさを考慮し、

無効化の判断がなされる前に早期和解に応じやすい環境となっている。

(b) 特許権者側の勝訴率

米国における特許権者側の勝訴率(1995~2008 年)が 36%であるのに対して、ドイツ

における特許権者側の勝訴率(2006~2009 年)は 63%である101。これは、ドイツが特許

権者側に有利であることを示す一つの指標であると考えられると報告されている102。米国

NPE の中にはドイツが特許権者に有利であることを理由にドイツに注目している者も見

られた103。一方で、ドイツでは分離原則の下、特許権侵害訴訟の裁判所は特許の有効性に

ついて判断しないため、特許の無効を理由として請求を棄却できず、そもそも制度として

特許権者の勝訴率が高くなるように設計されているとの指摘もある104。

また、Darts-ip の調査によると、2010~2017 年における欧州各国の NPE 訴訟の勝訴率

は、国によって異なるものの、ドイツでは伝統的に高く、ドイツにおいて NPE は 50%以

上の勝訴率であると報告されている105。

図表 15 欧州における NPE 訴訟の勝訴率106

101 内閣府「知財紛争処理に関する基礎資料」6 頁, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai3/sankousiryou03.pdf [ 終ア

クセス日:2017 年 8 月 15 日] 102 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」94 頁 103 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査 104 「ドイツ連邦共和国における知的財産訴訟制度(特許訴訟制度)の調査結果(報告)」7 頁 105 “NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures” 13 頁 106 “NPE Litigation in the European Union: Facts and Figures” 13 頁:FIGURE 6

44%

52%

52%

23%

56%

48%

48%

77%

フランス

ドイツ

英国

その他のEU諸国

原告勝訴 被告勝訴

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(c) 損害賠償額107

ドイツでは、特許権者は、実施料相当額の請求、特許権者の逸失利益の返還請求及び侵

害者利益の請求の3つの請求法の中から一つを選択する必要がある。ドイツにおいては、

特許権侵害訴訟による損害賠償金額が米国のような三倍賠償の制度を有しないため、高額

にはなりにくいとされている。

(d) 弁護士費用

特許権侵害訴訟における弁護士報酬は弁護士報酬法(Rechtsanwalts -vergütungsgesetz)

で規定されているが、これに基づく弁護士費用は、訴額別に以下のとおりである。別途時

間報酬の契約等によりこれより高額となることもあるが、訴訟規模によっては数百万ドル

の弁護士費用がかかると言われる米国108に比べれば、弁護士費用は高くはないといえる。

図表 16 ドイツの特許権侵害訴訟における弁護士報酬109

訟額(ユーロ) 弁護士費用(ユーロ)

250,000 10,260

500,000 14,980

1,000,000 22,480

2,000,000 37,480

5,000,000 82,480

10,000,000 157,480

30,000,000 457,480

107 Heinz GODDAR、城山康文(訳)「特許権行使と特許訴訟における損害賠償額の算定とについて-ドイツを例とし

て」(知的財産法政策学研究 Vol.12、2016 年)14-19 頁 108 山口和弘「データから見る米国特許権侵害訴訟の現状」(創英国際特許法律事務所)10 頁

http://soei.com/wordpress/wp-content/soeidocs/voice/71senryaku.pdf [ 終アクセス日:2017 年 8 月 15 日] 109 American Bar Association “Attorney Fees in Germany” (2015) https://www.americanbar.org/content/dam/aba/events/international_law/2015/03/2015%20Europe%20Forum/cross10.authcheckdam.pdf [ 終アクセス日:2017 年 8 月 15 日]

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(ⅱ) 委員会の意見

3.(3)の欧州におけるパテント・トロールの実態及び①「欧州市場に関する参考情報」

を踏まえて、本委員会でも、欧州の中では、特にドイツにおいてパテント・トロールによ

る紛争が増加する可能性があるという認識が共有された。その理由として、②「ドイツ裁

判制度に関する参考情報」にあるとおり、ドイツの裁判制度では、特許権侵害訴訟と特許

有効性の審理とが分離されており、特許有効性の審理結果を待たずに特許権侵害による差

止判決が下される可能性があることから、濫用的な権利行使が発生しやすい状況にあるこ

とが指摘された。

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(4) 中国

(ⅰ) 文献等調査の結果

中国におけるパテント・トロールの今後の活動の予測に関する文献等調査結果は以下の

とおりである。

① 中国市場に関する参考情報

中国は特許出願数では世界一であり110、また人口と経済成長性の観点から、特許権侵害

があればその損害額が相当に大きくなると見込まれるため、特許権侵害訴訟を含む知的財

産の流通市場として、米国に次ぐ市場になることが予測されている111。

一方で中国の特許制度は、特許権侵害訴訟の結果について予想がつきにくい(特許権侵

害訴訟に勝てる見込みが立ちにくい)こと、また外資系企業の勝訴が難しいことが懸念さ

れていることから、未だ米国 NPE は本格参入していない状況と考えられている112。

ただし、近年、ドイツ特許と中国特許を含むファミリー特許を買い集めている知的財産

取引事業者が見られるようになってきているとの指摘113があり、水面下ではパテント・ト

ロール的な活動がなされている可能性も考えられると報告されている114。

② 中国の裁判制度に関する参考情報

(a) 損害賠償額

中国の特許権侵害訴訟における損害賠償額は、米国の水準と比較して低いと言われてい

る。ただし、特許法などに明確に規定されていないものの、準法定損害賠償が 高人民法

院の司法解釈により認められており、その金額は人民元 5,000~人民元 50 万までとされて

いる115。損害賠償額の低さの背景としては、現行の特許制度には、米国にあるような故意

の侵害による懲罰的損害賠償制度(三倍賠償制度など)がなく、故意の特許権侵害に伴い

110 WIPO Geneva “Global Patent Applications Rose to 2.9 Million in 2015 on Strong Growth From China; Demand Also Increased for Other Intellectual Property Rights” http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2016/article_0017.html [ 終アクセス日:2017 年 8 月 15 日], WIPO Geneva “China Tops Patent, Trademark, Design Filings in 2016” http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2017/article_0013.html [ 終アクセス日:2018 年 2 月 21 日] 111 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査 112 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」海外ヒアリング調査 113 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内ヒアリング調査 114 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」96 頁 115 ジョーンズ・デイ法律事務所「中国における特許訴訟のやり方について」 http://www.jonesday-tokyo.jp/mail-magazine/number001/feature01.html [ 終アクセス日:2017 年 8 月 15 日]

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損害賠償が高額になることがないためであるとされている116。

(b) 差止請求権

中国の現行の法制度及び特許裁判制度の下では、NPE による特許権侵害訴訟は他の特許

権侵害訴訟と同等に扱われている。そのため、NPE が提訴中に恒久的な差止めを求めた場

合、裁判所としては差止めを阻む理由がないため、事業者には差止めのリスクが存在し、

和解やライセンス料支払いのインセンティブとなると考えられている117。

(c) 裁判にかかる費用118

中国では、原則として訴訟にかかった費用は敗訴側が負担することとされている。事件

受理費自体は 1 件あたり 50 元~1000 元程度であるが、特許権侵害訴訟では、弁護士費用

のほかに公証費、翻訳費がかかることが多く、事例によってはこれらの金額が非常に高額

になるケースもあるとされている。ただし、中国においても、米国のようなディスカバリ

ー制度はないため、米国と比較するとその費用は少額になると考えられると報告されてい

る119。

(ⅱ) 委員会の意見

3.(3)の中国におけるパテント・トロールの実態及び①「中国市場に関する参考情報」

を踏まえて、本委員会でも、中国では、パテント・トロールの活動は現時点で明示的に確

認できていないものの、市場規模が大きく、パテント・トロールにとって魅力的と考えら

れるため、今後活動が活発化する可能性があるという認識が共有された。

116 York M. Faulkner “Are NPEs Ready for China?” Intellectual Property Magazine, July/October 2011(以下“Are NPEs Ready for China? ”という。)https://www.finnegan.com/en/insights/are-npes-ready-for-china.html [ 終アクセ

ス日:2017 年 8 月 15 日] 117 “Are NPEs Ready for China?” 118 平成 23 年特許庁受託事業「中国特許権侵害訴訟マニュアル 2012 年改訂版」(独立行政法人日本貿易振興機構北京

事務所知識産権部、2013 年 12 月) 119 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」97 頁

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5. 日本におけるパテント・トロールへの制度上の対応

後に、本委員会では、パテント・トロールの実態及び今後の活動の予測も踏まえて、

日本におけるパテント・トロールへの制度上の対応について検討した。

(1) 現行制度の概要及び裁判例

日本の現行制度の概要及びその制度に関連した裁判例等は以下のとおりである。

(ⅰ) 法律による対応

① 独占禁止法による対応120

(a) 根拠規定

我が国の独占禁止法121が規制する三本柱は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取

引方法の3つである。なお、この三種は必ずしも明確な区別を持って別々の対象を規制す

るものではなく、同一の行為に対して重複該当することもある122。

我が国における特許権と独占禁止法の関係は、まず、独占禁止法の第 6 章「適用除外」

における第 21 条「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法

による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」との規定123に基をおく。これ

を文言どおりに解釈すれば、知的財産権法が独占禁止法に優先し、知的財産権法上の権利

行使と認められる行為であれば独占禁止法の適用が除外されるということになる(適用除

外説)。しかし、公正取引委員会から出された「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指

針124」(以下「知的財産ガイドライン」という。)では、その 3 頁に以下のように解釈する

指針が与えられている。すなわち、独占禁止法第 21 条は、一見したところ知的財産権法に

よる「権利の行使」とみられるような行為であっても、知的財産権法の趣旨を逸脱し、同

制度の目的に反する場合には、「権利の行使と認められる行為」とは評価されず、独占禁止

法が適用されることを確認する趣旨で設けられたと解釈される(趣旨逸脱説)125。

120 平成 18 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「特許発明の円滑な利用に関する調査研究」(財団法人知的財産研

究所、2007 年 3 月)(以下「特許発明の円滑な利用に関する調査研究」という。)332 頁 121 昭和 22 年法律第 54 号「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」 122 村上政博『日本の独占禁止法』(商事法務、2003 年)によると、独占禁止法第 3 条は米国のシャーマン法第 1 条と

第 2 条、独占禁止法第 4 条はクレイトン法第 7 条、独占禁止法第 19 条は連邦取引委員会法第 5 条に対応して制定さ

れ、第 19 条を第 3 条と重複的に規定したことは「反トラスト法の継受における明白な誤り」であるとする。 123 この種の適用除外規定に相当するものを、米国や欧州の競争法では設けていない。 124 公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(改正平成 28 年 1 月 21 日) 125 知的財産ガイドラインの第 2「特許ライセンス契約に関する独占禁止法第 21 条の考え方等」

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(b) 裁判例等

・ ぱちんこ機特許プール事件(勧告審決平成 9 年 8 月 6 日)

公正取引委員会は、遊技機特許連盟等の行為は、「結合及び通謀をして、参入を排除する

旨の方針の下に、遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶する

ことによって、ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより、公共

の利益に反して、我が国におけるぱちんこ機の製造分野における競争を実質的に制限して

いるものであって、これは、特許法又は実用新案法による権利の行使とは認められないも

のであり、独占禁止法第 2 条第 5 項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第 3 条の規

定に違反するものである。」とした。

・ ワンブルー独占禁止法違反事件126

イメーション対ワンブルー事件127におけるワンブルーの行為について、公正取引委員会

による審査が行われた。

公正取引委員会は、イメーションは、記録型ブルーレイディスクに係るブルーレイディ

スク標準規格必須特許について、FRAND 条件でライセンスを受ける意思を有していた者

と認められるところ、ワンブルーは、自己と我が国における記録型ブルーレイディスクの

取引において競争関係にある事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害していたも

のであって、この行為は、不公正な取引方法の第 14 項(競争者に対する取引妨害)に該当

し、独占禁止法第 19 条の規定に違反するものであると判断した。

なお、ワンブルーが現時点で同様の行為を行っていないこと等から、当該違反行為は既

になくなっており、特に排除措置を命ずる必要があるとは認められないとして、本件審査

は終了されている。

・ パチンコ型スロットマシーンに関するパテントプール事件128

原告は、パチンコ型スロットマシーン(以下「パチスロ」という)に関する特許権者で

あり、被告補助参加人(パテントプール管理会社)から特許権の再実施の許諾を得ている

被告に対し、当該パテントプールは独占禁止法に違反するおそれが強く、実施許諾契約は

更新されずに既に終了しているとした上で、被告の製造・販売するパチスロは、原告の特

許権を侵害するとして損害賠償を求めた。なお、問題となる実施許諾契約には以下のよう

な更新拒絶に関する条項があり、原告はこの条項の「継続し難い特段の事由」を根拠に契

約は更新されない旨を主張した。

126 公正取引委員会「ワン・ブルー・エルエルシーに対する独占禁止法違反事件の処理について」平成 28 年 11 月 18日)http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/nov/16111802.html [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 127 東京地判平成 27 年 2 月 18 日判時 2257 号 87 頁・平成 25 年(ワ)第 21383 号 128 東京高判平成 15 年 6 月 4 日平成 14 年(ネ)第 4085 号

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「第8条(契約の更新) 甲は、第10条第1項所定の事由、その他本契約を継続し難い特段

の事由がない限り当該契約の更新を拒絶できないものとする。」

しかし、裁判所は、本パテントプールは前記のパチンコ機製造業界のパテントプールと

は異なり、独占禁止法に違反したものとはいえないとした(契約は自動更新され特許権は

実施許諾されていると認めた)。

(c)「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の一部改正129

公正取引委員会は、知的財産の利用に関する独占禁止法上の考え方を明らかにするため、

「知的財産ガイドライン130」及び「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁

止法上の考え方」を策定している。規格の実施に当たり必須となる特許等(以下「標準規

格必須特許」という。)に関する問題に係る独占禁止法上の考え方についても基本的には前

記の指針等に沿って判断されるが、前記の指針等において、標準規格必須特許を有する者

による差止請求訴訟の提起といった、外形上、権利の行使とみられる行為に関する記載は

限られている。

そのため、公正取引委員会は、標準規格必須特許を有する者による差止請求訴訟の提起

等の問題について調査を実施し、平成 28 年 1 月 21 日に知的財産ガイドラインを一部改正

し、標準規格必須特許を有する者による差止請求訴訟の提起等に係る独占禁止法上の考え

方を追加することとした。

改正された知的財産ガイドラインによると、FRAND 条件でライセンスを受ける意思を

有する者131に対し、ライセンスを拒絶し、又は差止請求訴訟を提起すること等は、規格を

採用した製品の研究開発、生産又は販売を行う者の取引機会を排除し又はその競争機能を

低下させる場合がある。当該行為は、当該製品の市場における競争を実質的に制限する場

合には、私的独占に該当することになり(独占禁止法第 3 条)、また、私的独占に該当しな

い場合であっても、公正競争阻害性を有するときには、不公正な取引方法に該当(独占禁

止法第 19 条〔一般指定第 2 項,第 14 項〕)することになる132。

129 公正取引委員会「(平成 28 年 1 月 21 日)「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の一部改正について」, http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/jan/160121.html [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 130 前掲(注 124)参照 131 「FRAND 条件でライセンスを受ける意思を有する者」であるか否かは,ライセンス交渉における両当事者の対応

状況等に照らして,個別事案に即して判断されると判示されている。 132 公正取引委員会「「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(知的財産ガイドライン)の一部改正のポイン

ト」, http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/jan/160121.files/160121_05.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31日], 「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」, http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.files/chitekizaisangl.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月

31 日]

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(ⅱ) 裁判における対応

① 権利の濫用の抗弁133

(a)根拠規定

民法第1条第3項は「権利の濫用は、これを許さない。」と規定する。この権利の濫用とは、

外見上権利の行使のようにみえるが、具体的な状況を考慮すると、権利の社会性に反して

おり、権利の行使として是認できない行為を意味すると解される134。これは権利の社会的

機能を尊重し、私権の行使に際して生ずる他者の利益との衝突を調整しようとするもので

ある。

(b)裁判例

・ 三小判平成 12 年 4 月 11 日民集 54 巻 4 号 1368 頁・平成 10 年(オ)第 364 号135

キルビー特許と呼ばれる半導体装置の特許権を巡り、特許権侵害による損害賠償請求権

が存在しないことの確認を請求する事案で、 高裁は、従来の判例を変更し、特許の無効

審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特に無効理由が存

在することが明らかであるか否かについて判断することができるとすべきであり、審理の

結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差

止め又は損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと

判断した。

・ 知財高判平成 26 年 5 月 16 日判時 2224 号 146 頁・平成 25 年(ネ)第 10043 号136

米国法人アップルの子会社であるアップルジャパンの訴訟承継人であるアップルジャパ

ン合同会社が、サムスンに損害賠償請求権がないことの確認を裁判所に求めたため、債務

不存在確認請求事件として取り扱われた。

知財高裁判決では、FRAND 条件でのライセンス料相当額を超える部分では権利の濫用

に当たるが、ライセンス料相当額の範囲内では権利の濫用に当たるものではないと判断さ

れた。同判決の考え方は、「FRAND 条件でのライセンス料相当の範囲内での損害賠償請求」

を妨げるような事情がないため、損害賠償請求は認められるものの、FRAND 条件でのラ

イセンス料を超えて請求する場合等には認められないとする137。また、FRAND 条件での

133 「特許発明の円滑な利用に関する調査研究」135-170 頁 134 我妻栄『新訂 民法総則』35 頁(岩波書店、1965 年)「権利の濫用とは、外見上権利の行使のようにみえるが、具

体的の場合に即してみるときは、権利の社会性に反し、権利の行使として是認することのできない行為である。」 135 産業構造審議会知的財産政策部会紛争処理小委員会・第 5 回配布資料「資料 1 侵害訴訟と無効審判の関係」 136 平成 26 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「知的財産制度と競争政策の関係の在り方に関する調査研究」(株

式会社三菱総合研究所、2015 年 3 月)4-6 頁。詳細は資料編・資料ⅡのⅠ参照。 137 判決文では、「これに対し、特許権者が、相手方が FRAND 条件によるライセンスを受ける意思を有しない等の特段

の事情が存することについて主張、立証すれば、FRAND 条件でのライセンス料を超える損害賠償請求部分についても

許容されるというべきである。」としている。

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ライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求については、標準必須特許の場合でも、特

段の事情のない限り、制限されるべきではないとしている。

・ 東京地判平成 27 年 2 月 18 日判時 2257 号 87 頁・平成 25 年(ワ)第 21383 号138,139

原告のイメーションは、小売店でブルーレイディスクの製品を販売していた。被告のワ

ンブルーは、2009年にブルーレイ関連の特許所有者によって共同で設立された特許プール

管理会社である。原告は、被告又は個々の実施許諾者からの実施許諾なしに、米国でブル

ーレイディスクを販売していた。2012年6月25日、被告は、被告が申し出ている全世界実

施許諾プログラムについて原告に通知し、無許諾のブルーレイディスクの販売の即時停止

を求めた。原告は、提案された実施料が公平かつ合理的であると考えず、裸ディスクの売

上原価の3.5%の公平かつ合理的な実施料を支払う意思を宣言した。原告は、被告が他の当

事者との間で適用されている実際の実施料率を含む実施許諾契約(グラントバック契約を

含む)を開示することも要求したが、一週間後、被告は、差別的慣行の主張を回避するた

めに、個々の被実施許諾者とは交渉しないと応答した。2013年6月4日、被告は、実施許諾

なしに製造されたブルーレイディスクの販売は、被告によって管理されている特許の侵害

を構成し、特許所有者は販売の即時停止と共に損害賠償及び差止めを求める権利を持って

いるということを警告する通知を日本の3つの小売業者に送った。

本件は、原告が、被告に対し、本件告知は、不正競争防止法(不競法)第 2 条第 1 項第

14 号の虚偽の事実の告知又は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)

第 19 条の不公正な取引方法に該当すると主張して、不競法第 3 条第 1 項又は独禁法第 24

条に基づき、告知・流布行為の差止めを求めたものである。

原告は FRAND 条件によるライセンスを受ける意思を有していたと認められるため、被

告プール特許権者が原告やその顧客である小売店に対し差止請求権を行使することは権利

の濫用として許されず、差止請求権があるかのように告知したことは不正競争(虚偽の事

実の告知)に当たると判示された。

138 「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」58 頁 139 判タ 1412 号 265 頁-287 頁(2015 年)。詳細は資料編・資料ⅡのⅩⅦ参照。

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② 差止請求権の制限

日本では、差止請求権の制限について法定されてはいないが、差止請求権が制限された

裁判例が存在する。

(a)裁判例

・ 知財高決平成 26 年 5 月 16 日判時 2224 号 89 頁・平成 25 年(ラ)第 10007 号,

知財高決平成 26 年 5 月 16 日判タ 1413 号 16 頁・平成 25 年(ラ)第 10008 号

差止請求権の制限が認められた裁判例としては、アップル対サムスンの知財高裁大合議

事件(特許権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事件)140が挙げられる。

この事件では、「本件 FRAND 宣言をしている抗告人による本件特許権に基づく差止請

求権の行使については、相手方において、抗告人が本件 FRAND 宣言をしたことに加えて、

相手方が FRAND 条件によるライセンスを受ける意思を有する者であることの主張立証に

成功した場合には、権利の濫用(民法第 1 条第 3 項)に当たり許されない」と判示された

141。

(b) パテント・トロールによる差止請求を制限することについての意見

また、参考として、差止請求権の制限に関する産業界及び有識者の意見142についても以

下に掲載する。

制限に積極的な意見

自らは特許発明を実施せず、差止請求権を盾に高額な賠償金や実施料を要求する等の行

為は不当であり、イノベーションを阻害するものであるので、このような場合には、特

許権者による差止請求権の行使を認めるべきではない143。我が国においても、我が国の

特許権に基づき警告状を送付するなどの事例が見られるようになってきている。

パテント・トロールと呼ばれる、自ら特許を実施せず、相手の事業差止めが真の目的で

はないにもかかわらず差止めを武器に高額なライセンス料を要求する特許管理会社に

ついては、産業界では従来から問題になっていた。 近では米国を中心に、特許管理会

社が投資家から集めた資金で他人の特許を買い集めて権利行使する活動が活発化して

おり、外国特許も保有し日本を含めたグローバルなライセンスを要求するケースが増え

140 知財高決平成 26 年 5 月 16 日判時 2224 号 89 頁・平成 25 年(ラ)第 10007 号, 知財高決平成 26 年 5 月 16 日判タ

1413 号 16 頁・平成 25 年(ラ)第 10008 号(詳細は資料編・資料ⅡのⅠ参照)。 141 東京地判平成 27 年 2 月 18 日判時 2257 号 87 頁・平成 25 年(ワ)第 21383 号(イメーション対ワンブルー事件)

でも同様に判断されている(詳細は資料編・資料ⅡのⅩⅦ参照)。 142 第 27 回特許制度小委員会議資料1「差止請求権の在り方について」(2010 年 5 月), https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou027/1.pdf [ 終アクセス日:2017 年 7 月 31 日] 143 土肥一史「知的財産権侵害における差止請求権行使の均衡性について」『特許侵害訴訟における無効判断及び米国と

ベトナムの知財問題』32-33 頁(日本機械輸出組合、2009 年)

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ていることで日本国内でも問題が深刻化している144。

我が国の訴訟費用や損害賠償額は米国と比較すると低額であるため、パテント・トロー

ルが我が国において活動しようとする場合、彼らがツールとし得るのは差止請求のみで

ある。

制限に慎重な意見

我が国の特許制度及び侵害訴訟制度においては、米国と異なり、パテント・トロールを

誘発・助長し難い状況にある145。実際、我が国においては、パテント・トロールの問題

が顕在化しているとはいえない146。

我が国の特許制度には、懲罰的賠償など侵害を抑止する手立てが少ない。また、特許権

侵害訴訟における特許権者の勝訴率も低い147。このような状況において、差止請求権を

制限すると、我が国の特許権がさらに弱体化するおそれがある。

米国において、eBay 判決以降にあってもなお、パテント・トロールの問題は収束する状

況にあるとはいえず、差止請求権の行使を制限することがその有効な解決策となり得る

か疑問である148。

パテント・トロールを定義することは困難であり149、どのような場合に差止請求権の行

使を制限するのか明確化できない150。

144 日本知的財産協会「『特許制度の見直し』について」(2009 年 11 月 6 日)9 頁 145 我が国は米国に比して、ソフトウェア関連発明・ビジネス方法発明等について発明性の判断基準が厳格であるこ

と、進歩性の判断基準が厳格であること、懲罰的賠償制度が存在せず侵害訴訟における損害賠償が比較的低額に留まる

ことなどが要因として指摘されている(平成 20 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「産業の発達を阻害す

る可能性のある権利行使への対応策に関する調査研究報告書」(財団法人知的財産研究所、2009 年 3 月)(以下「産業の

発達を阻害する可能性のある権利行使への対応策に関する調査研究報告書」という。)5-13 頁) 146 「産業の発達を阻害する可能性のある権利行使への対応策に関する調査研究報告書」140 頁 147 2001-2007 年の特許権侵害訴訟判決について、米国における特許権者の平均勝訴率 40%に対し、我が国における平

均勝訴率は 20%である(「産業の発達を阻害する可能性のある権利行使への対応策に関する調査研究報告書」54 頁) 148 ただし、eBay 判決後も米国においてパテント・トロールの問題が収束しない原因は、米国の国際貿易委員会

(ITC)にて特許権侵害を理由に侵害品の輸入禁止等を求める手続において、同判決の法理が適用されないことにある

との指摘もある。一方、いわゆるパテント・トロールは、ITC に申立てを行うための国内産業要件(研究開発・ライセ

ンスのための実質的な投資が行われている等)を満たさない可能性が高く、ITC の手続を利用することが困難との指摘

もある。 149 「産業の発達を阻害する可能性のある権利行使への対応策に関する調査研究報告書」57 頁,140 頁 150 日本弁護士連合会は、差止請求権が制限されるべき場合があることには異論がないものの、どのような場合に差止

請求権が制限されるべきであるかについては結論が出なかったとしている(日本弁護士連合会「特許庁特許制度研究会

報告書「特許制度に関する論点整理について」に関する中間意見書」(2010 年 3 月 18 日)30 頁参照)。また、日本知的

財産協会は、パテント・トロールという行為主体は定義困難であり、自ら特許発明を実施していないという広範囲な定

義とすると、一般の研究機関も含まれる等、影響が大きすぎると指摘している(日本知的財産協会「「特許制度の見直

し」について」(2009 年 11 月 6 日)9-10 頁参照)。

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(ⅲ) 特許権侵害訴訟に関する制度面の環境

① 特許庁や裁判所における特許の無効手続

日本では、被疑侵害者が特許を無効化して対抗するための手続として、特許庁における

特許無効審判又は特許異議申立てと、裁判所における無効の抗弁の 2 つのルートが存在す

る151。2013 年の調査では、日本では判決ベース(判決が出された件数を母数とする)では

36%が訴訟において無効となっていることが報告されている152。また、日本における特許

無効審判については、その審判手続の速さから、国内事業会社においても、対抗手段の有

用なオプションとしてあげる声が聞かれた153。

さらに、特許法 123 条(特許無効審判)に、拒絶の理由を包含する特許権について、審

判にその無効を訴えることができる旨が規定されており、また、特許法 104 条の 3(特許

権者等の権利行使の制限)には、特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め

られるときは、当該特許権に係る権利行使は認められない旨が規定されている。

② 損害賠償額

日本で 終判決における認容額で も大きいものは、ブリジストンスポーツ株式会社が

アクシネット・ジャパン・インクを相手に提訴した認容額 17 億 8,620 万円154、第一審判決

まで含めればアルゼ株式会社がサミー株式会社(セガサミーホールディングス株式会社の

子会社)を提訴した 74 億円155であるが、日本の損害賠償額は米国156に比べて相対的に低

い。しかし、その背景として、日本と米国の訴訟制度の違いや、市場規模が異なることも

あり、日米の損害賠償額の単純な比較は困難である点に十分な留意が必要であるとも報告

されている157。

③ 裁判費用

裁判費用は主として、裁判にかかる費用と弁護士費用に分けられる。米国においては、

ディスカバリー制度を主因とする裁判費用の高騰がパテント・トロールの活発化の要因の

一つであるが、日本においてはディスカバリー制度が存在せず、特許権侵害訴訟にかかる

151 「知財紛争処理システムの活性化に資する特許制度・運用に関する調査研究報告書」107 頁 152 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」100 頁 153 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」国内ヒアリング調査 154 東京地判平成 17 年(ワ)第 26473 号事件 155 東京地判平成 11 年(ワ)第 23945 号事件 156 米国において損害賠償請求額が も大きいケースは、Centocor Ortho Biotech, Inc.が保有するバイオ関連の特許を

Abbott Labs が侵害したケースの 1,673 百万ドル 258(1,338 億円:当時 1 ドル 80 円換算、ただし評決額でありその後

CAFC が特許無効とした)となっている。 157 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」98 頁

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費用は米国に比して大きくはない。また、被疑侵害者における弁護士費用等も、日本では

成功報酬型が一般的ではないため、米国ほどは高騰しづらい。しかしながら、日本におい

ても、一定の裁判費用がかかる以上、その費用は和解の考慮要素になり得るとも報告され

ている158。

④ 裁判結果の予見可能性

日本では裁判による判断のばらつきの少なさ及び司法判断の一貫性による予見可能性の

高さが、パテント・トロールによる特許権侵害訴訟の抑制に寄与していると考えられてい

ることが報告されている159。

また、特許権侵害訴訟は東京地裁と大阪地裁が専属管轄のため、米国に見られるような

裁判地による判決の差異も少ないと言われている160。これは、司法判断の予見性を高め、

事業会社にとって対応策を検討しやすく、パテント・トロールによる訴訟リスクを軽減す

る環境を形成していると考えられると報告されている161。

158 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」100 頁 159 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」100 頁 160 「パテントトロール(要約)仮訳」96 頁 161 「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報

告書」100 頁

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(2) 委員会の意見

本委員会では、(ⅰ)、(ⅱ)に示すとおり、現行制度では、特許法に基づく差止行為に対

して独占禁止法による制限や民法上の権利濫用法理が適用される可能性があることが確認

された。

すなわち、特許権の行使が知的財産制度の趣旨を逸脱するか、または目的に反する場合

は、独占禁止法が適用される。また、FRAND 宣言(第三者に公平、合理的、非差別な条件

でのライセンスを約する宣言)された標準必須特許(標準規格の利用に際して実施する必

要がある特許)については、民法上の権利濫用の法理により差止請求が制限される場合が

ある。

一方で、日本においては、実際にこれらがパテント・トロールに適用された例は確認で

きていないという認識が共有された。

この背景としては、(ⅲ)等にあるとおり、日本においては、

適切な特許審査により特許権の権利範囲が明確である

特許庁における特許の無効手続が適切に運用されており、また、裁判所においても特許

無効の抗弁が適切に扱われていることから、権利の有効性や侵害該当性に疑義のある

特許権の行使が認められにくい

裁判で認められる損害賠償額や裁判手続に要する費用が、パテント・トロールの活動が

活発な米国と比べ相対的に低額である

など、パテント・トロールにとって魅力的ではない環境があると指摘された。

本委員会の結論としては、特許制度がバランスよく機能している日本では、今後もパテ

ント・トロールは問題になりにくく、現行制度においてパテント・トロールに十分対応で

きているのではないか、との意見が多数を占めた。

なお、本委員会では日本におけるパテント・トロールへの制度上の対応について以下の

意見も出された。

・ 一般論であるが、権利行使が濫用的な場合に独禁法が適用され、不公正な取引方法(取

引妨害)などが問題になるのではないか。

・ パテント・トロール問題に限らず、行き過ぎた権利行使に対する競争法の制限について

は、まず、特許法で解決すべき問題であり(独禁法 21 条)、それでは対応できない場合

に、独禁法による対応を考えるべきである。日本では、特許法と競争法の関係はバラン

スがとれている。

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・ 権利濫用では民法の事件として例えば宇奈月温泉事件162がある。特許を購入したこと自

体が権利濫用ではないことから、ケースバイケースで判断されるのではないか。

・ 日本の侵害訴訟では、技術的範囲や特許の有効性を厳格に判断するため、パテント・ト

ロールが提訴しても権利濫用の判断の前に訴訟は終了しているのではないか。

・ 過去の NPE による日本特許訴訟では特許権の範囲が明確であったことから健全な非侵

害や無効の議論が可能であること、司法制度が整っていることから結果の予見可能性は

高かったと考えている。

・ 特許法には特許権侵害罪に対する刑事罰の適用があり(特 196 条)、実際問題として適

用されてはいないが、交渉中の実施は、故意に特許権を侵害しているとも考えられるこ

とから、文言上は刑事罰の適用がありうるという問題もあると考えられる。

162 大審院昭和 10 年 10 月 5 日民集 14 巻 1965 頁・昭和 9 年(オ)第 2644 号: 黒薙温泉から宇奈月温泉にお湯を引くための引湯管が埋設された土地の一部(2 坪)を低額(1 坪 26 銭)で購入した

X(原告)が、引湯管を営んでいる Y 社(被告)に対して、不法占拠を理由に、引湯管を撤去するか、又は、当該一部

の土地を含む計 3,000 坪を高額(1 坪 7 円、総額 2 万円余り)で買い取るよう求めたが、Y 社がこれに応じなかったた

め、X が Y 社に対して妨害排除請求として引湯管の撤去等を求めて提訴した事件。 大審院は、「権利ノ濫用」という文言を判決文中で初めて用い、X の請求(所有権の行使)は権利の濫用にあたるため

認められない、として請求を棄却した。

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6. まとめ

本委員会では、パテント・トロールの本質はイノベーションを阻害する者であり、①特

許発明のための研究開発を実施しない、②他者から特許権を取得する、③不適切なライセ

ンス料を目的として権利行使を行う、又は権利行使を乱発する、④製造販売等の事業をし

ておらず、権利行使により得られるライセンス料等を主な収益源とする、の4つの要素の

すべてを満たす行為は、典型的なパテント・トロールと考えられるのではないか、という

指摘が多く得られた。

そして、その前提のもとに、パテント・トロールの実態について検討した結果、日本で

はいずれの業界においても、現時点ではパテント・トロールの活動は活発ではないとの認

識が共有された。

一方で、日本では、パテント・トロールの活動が活発化しているような具体的な脅威は

少ないものの、これまで通信業界との関わりが浅かった業界を中心に、将来的なパテン

ト・トロールの活動を懸念する声もあった。ただし、日本においては、①適切な特許審査

により特許権の権利範囲が明確である、②特許庁における特許の無効手続が適切に運用さ

れており、また、裁判所においても特許無効の抗弁が適切に扱われていることから、権利

の有効性や侵害該当性に疑義のある特許権の行使が認められにくい、③裁判で認められる

損害賠償額や裁判手続に要する費用が、パテント・トロールの活動が活発な米国と比べ相

対的に低額であるなど、日本がパテント・トロールにとって魅力的ではない環境にあるこ

とも指摘された。

本委員会の結論としては、特許制度がバランスよく機能している日本では、今後もパテ

ント・トロールは問題になりにくく、現行制度においてパテント・トロールに十分対応で

きているのではないか、との意見が多数を占めた。

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Ⅲ. 標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインについての検討

本章では、標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)のライセンス交渉に関す

るガイドラインについて、委員会で検討された結果をまとめた。

第2回委員会及び第3回委員会では、「標準必須特許の適切なライセンス交渉及び合理的

なロイヤルティの考え方についての論点確認と議論」を行ったことから、これを「ガイド

ライン案作成に向けた意見」として検討結果を整理した。

一方、第4回委員会では、特許庁より提案されたガイドライン案のドラフト版163を配布

した上で「標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドライン案についての意見」と題

して検討を行ったことから、「ガイドライン案に対する意見」として検討結果を整理した。

なお、ここでは、委員会での議論の流れを優先し、「ガイドライン案作成に向けた意見」

と「ガイドライン案に対する意見」とを分けて載せることとした。

1. ガイドライン案作成に向けた意見

以下に、第2回委員会及び第3回委員会で得られた意見を整理した。第2回及び第3回

委員会においては、委員会全体として1つの結論を導くのではなく、ガイドライン案作成

に向けた様々な意見を議論したため、意見の整理においても、分析や評価は行わず、出さ

れた意見をカテゴリー別に列挙する形式を採用した。

なお、これらの意見は、ガイドライン案に対して拘束力を持つものではなく、特許庁が

公表しているガイドライン案の一部を直接構成するものでもない。

(1) 『ガイドラインの目的』について

[ガイドラインの目的]

・ 論文等はそれぞれ意見が違うため、体系的にガイドラインとしてまとめることに意味が

ある。主観的な意見よりも、客観的事実に基づいたガイドラインとした方がよい。

・ ライセンスが広く活発に行われる場面において、標準必須特許の問題が生じる。特許法

は産業の発達を目的としているので、このような SEP の問題を取り除くことで、特許権

者/実施者の不安の取り除きや予測可能性を高め、結果的にライセンスが進むことを狙

ったガイドラインとした方がよい。

・ 日本が欧州特許庁(EPO:European Patent Office)や米国特許商標庁(USPTO:United

States Patent and Trademark Office)などに対して世界で先導的な立場、リーダーシップ

163 このドラフト版は、2018 年 3 月 9 日付で特許庁が公表した手引き(案)(資料編・資料Ⅲ参照)の原案であり、公表され

ている手引き(案)は、本委員会で出された意見も参考にしている。

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をとることができるような指針を示せるとよいと思う。

[ガイドライン案作成に向けた議論の観点]

・ 「誠実な交渉」及び「効率的な交渉」の議論の後に、「合理的なロイヤルティ」の考え方

を議論することとなっているが、実務では、合理的なロイヤルティが 大の関心で、そ

れを踏まえて、どのように交渉していくのかという話になることから、分断して議論す

るやり方は気になる。

・ どのように SEP 問題のリスクを考えるのかは、業界や企業毎に異なるため、それぞれの

具体的な論点に対して、一律にこうすべきと決めるのは難しい。

[ガイドラインの法的拘束力]

・ ガイドラインは裁判所等を拘束するものではないが、法的な効果と完全に無関係という

ことにもならないと理解している。差止請求権の制限や支配的地位の濫用に関して既に

法的に示されている考え方をある程度参考にしつつ、それらの効果と、いざ裁判になっ

たときの効果とを念頭に、また、紛争になったときの法の発動ということも意識して、

適切なライセンス交渉のあり方を考えていくことが必要かと思う。

[ガイドラインのターゲット]

・ 異業種間での紛争を早期に解決するということであれば、ターゲットとしては、通信業

界及び電機業界以外の者を念頭に置いた方がよい。

・ IoT(Internet of Things)技術の活用に伴い、特許権者と実施者の裾野が広がる中で、

早期に紛争を解決するためには、中小企業やノウハウのあまりない企業などをターゲッ

トとして、これらの企業が交渉する際に役立つものとすべきと考えられる。

・ 通信業界はもとより異業種であっても大企業はノウハウがあるが、中小企業はノウハウ

がないので、そのような中小企業に役立つものとした方がよい。例えば、突然警告を受

けたときに何をすべきか、標準必須特許に関して製品開発段階や実施段階でどう考えて

いくべきか、また、交渉に入る前の留意点などにも触れられているとよいと思う。

・ 全く法律的な知識の無い者がガイドラインの内容を理解するのは難しい場合があるた

め、少なくとも基本的な法律の知識を有する者を対象とすべきと考えられる。

[ガイドラインの内容]

・ ノウハウのない企業が、実際に交渉する際の主張や反論の手がかりになるものを示すこ

とが重要。実務的な議論や主張の背景、ノウハウ等を織り込むことで、より有効なガイ

ドラインとなると考えられる。

・ 誠実な交渉やロイヤルティについては様々な考え方があるため、意見が分かれる点も記

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載した方がよい。

・ SEP に不慣れな企業に対し、当業者であれば当然のことも含めて、交渉のために 低限

必要なことを確認的にまとめるべきと考えられる。

・ SEP に不慣れな業界の交渉や、考え方が異なる異業種間での交渉において認識を合わせ

るためには、主要な判例や考え方、交渉の進め方、考慮要素などの基本的なことを整理

するだけでも意味がある。

・ ガイドラインに、ライセンス交渉の在り方や手引きを示すことで、SEP 固有の部分を明

らかにすることとなり、役立つものとなると思う。

・ SEP に不慣れであったり、想定もできていない業界もある。そのような業界では、将来、

交渉コストがかかると考えられるため、どのような考え方があるか、その考え方にはど

のような背景があるのかなどのノウハウが重要となると思う。

・ 中小企業などの様々な者が参考にできるものとするためには、使用する用語の定義や、

分かりやすい用語を使用することにも留意すべきと考えられる。

・ 経験の少ない企業が交渉する際のトランザクションコストを下げるためには、シンプル

に分かりやすくセオリーを伝えることが必要。

・ ガイドラインの書き方として、法的評価に関連して「こうすると誠実・不誠実となる」

と書く方法や、法的評価とは別の観点として「こうすべきである」や「できればこうし

てほしい」と書く方法があるが、これらの両方に配慮する必要がある。

・ これまで SEP に関わってきた業界の背景や認識について事実を積み上げていき、第四

次産業革命によって新たに SEP に関わる可能性のある当事者に対して情報共有するこ

とで、誠実な交渉へと導くことができると考えられる。

[その他]

・ 標準必須特許を巡る紛争をどのように早期解決するのかという観点では、ガイドライン

を作るべきなのかどうか、作るにしてもどのようなガイドラインにすべきなのかという

根本的事項も検討すべきと考えられる。

・ ガイドライン作成の是非の検討も大事であり、作成した際の副作用も考慮に入れておく

ことが必要ではないか。

・ 判例には様々な背景や事情があり、また、全ての交渉が判例に残るわけではないため、

判例のみから一律に正解を決めることは難しいと考えられる。

・ ガイドラインの記載自体が勝手な解釈で使われることがないように注意する必要があ

る。

・ ライセンス交渉の経験のない者がガイドラインを見ても分からない場合もあるため、ガ

イドライン活用のためには交渉経験のある人材の活用も今後の課題となるのではない

か。

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(2) 『ライセンス交渉の進め方』について

(ⅰ) 『誠実性』について

[実態や判例の考慮など]

・ ホールドアップよりもホールドアウトの方が問題になるとも考えられる。

・ 国際的に受け入れられるものとするためには判例が必要と考えられるが、特に、誠実な

交渉については欧州の判例164がベースとなると思う。その判例に無い論点としては、①

有効性、必須性及び製品との関連性(侵害該当性)、②各書類をどの程度記載すべきか、

③どの程度の期間までに応答すべきか、が挙げられる。これらの論点について、実務上

はどうなっているのかをある程度載せた方がよいと思う。これは、特許権者側・実施者

側でそれぞれ整理することが必要。

・ 実務上、訴訟においては、特許の有効性・非侵害性を含めて争うことになる。有効性・

非侵害性を検討することなく、誠実さを求めることは妥当ではないと考える。

[権利有効性の争いとの関係]

・ 公正取引委員会の知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針165において、特許の有効

性を争うこと自体は、ライセンスを受ける意思があることを否定する根拠とならないと

されている。そのため、交渉が誠実かどうかを判断するときに有効性を争うことは問題

ないが、その間、何も交渉しなくてもいいというわけではない。

・ 知財高裁のアップル対サムスン事件166では、アップルが無効の抗弁をして特許の無効を

争っていたが、争いながらも交渉はしていたことから willing licensee であると認定さ

れている。

[適切な担保等との関係]

・ 誠実な交渉に関して、欧州司法裁判所の Huawei v. ZTE 事件では、商慣行に基づいて適

切な担保を提供するということが必要とされている。一方、日本のアップル対サムスン

事件では担保の提供は必要とされていないため、担保提供の要否や過去の会計報告をど

う考えるかは整理しておいた方がよい。

・ 欧州、特にドイツにおいてはオレンジブック事件167の判決が 高裁で確定しているため、

164 Huawei v. ZTE(欧州、CJEU、2015 年):資料編・資料ⅡのⅡ参照 165 公正取引委員会、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」9 頁『(1) 技術を利用させないようにする行

為』、平成 19 年 9 月 28 日(改正:平成 28 年 1 月 21 日)、

http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.html 166 アップル対サムスン判決(日本、知財高裁、2014 年):資料編・資料ⅡのⅠ参照 167 Philips v. Princo (独国、BGH、2009) :資料編・資料ⅡのⅦ参照

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規格必須特許のライセンスの FRAND 交渉の文脈で誠実さを示すためには担保を納め、

売上報告を実施者と同じようにすることが求められている。一方で技術分野や裁判地に

よって何をもって FRAND 条件とするかの基準のばらつきもある。日本や米国では同じ

文脈での担保の提供を必要とする判例はないし、交渉でも行っていないと思う。

[適切な交渉期間など]

・ 予見可能性を高めるためには、事実を積み上げた上で、具体例を示し、異業種からも背

景や考え方がある程度分かる内容にする必要がある。サンプルとなる事例を収集し、適

宜更新するとよいと考えられる。

・ 交渉期間などを含めて考慮要素を整理し、どのようなことを考慮するべきか、又は、判

例の無いところをどのようにしらたよいか等を示すことで参考になると考えられる。そ

の際には、業界や文化、製品ライフサイクルの違いも考慮することが重要。また、製品

のライフサイクルを考慮することは、ホールドアウト対策にもなると思う。

・ 一般的基準は存在しないとしても、業界毎のずれが分かるように、現在の各業界の基準

を横断的に示すことは有意義であると思う。

・ 適切な交渉期間は立場や事案によって異なるため、具体的に決めることは難しいと思う。

・ 一般論としてどのくらいの応答期間が適切かは、特許権者が提示するポートフォリオの

規模や議論の対象にする特許の国、提供される情報などにもよる。

・ 適切な交渉期間に関しては、製品のサイクルや業界の実情、特許の数(特に対応特許の

数)、どの程度の標準必須特許であるか否かを正しく整理して提案してきているか等の

要素を総合して判断することが必要となる。

・ 適切な交渉期間については、事例を積み上げて記載し、交渉経験がない人にも分かりや

すく、かつ、誤解のないまとめ方をした方がよい。ただし、事例は、あくまで一つの例

にすぎず、個別具体的であること、何月などの数字のみが独り歩きしないように注意す

ることが必要。

[ガイドラインへの書き方]

・ ガイドラインへの書き方としては、場合分けをして考慮要素を記載する方法や、裁判例

などを元にある程度の期間を記載する方法、SEP に限らず、各業界のロイヤルティや交

渉期間を一般的に記載する方法などがあると考えている。

・ 各国で事情が異なるため、各国の判例の事実や法制度、運用、実情等を記載した方がよ

い。また、特許権者が、メーカーなのか、特許主張主体(PAE:Patent Assertion Entity)

なのか、あるいは非実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)なのかによっても異なる

し、共同開発から始まって、 終的に SEP 訴訟となる場合もある。背景を理解していな

いと誤解を招くおそれがある。

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(ⅱ) 『効率性』について

① 『サプライチェーンにおける交渉の主体』について

[交渉開始の主体]

・ 特許権者と実施者のどちらから交渉が進むのかという点に関しては、特許権者側からの

ライセンスの提示や警告などにより交渉が始まるのが一般的と考えている。

・ 特許権者と実施者のどちらから交渉が進むのかという点に関しては、実施者が FRAND

宣言された特許の情報を取得することは可能だが、そのことから実施者が先行して交渉

を始めることにはならないと思う。事前にライセンスを受ける意思があるときでも、無

条件に意思表示をするのは難しい。

・ FRAND 宣言されていたとしても実際に必須と判断できる特許は半分程度であるため、

実施者が判断することは難しい。

[交渉のレベル]

・ 誰に対して権利行使すべきかの基準には、権利の消尽や実施製品・ 終製品の把握の容

易さなどがあると考えている。何が効率的・合理的となるかは難しく、産業構造や企業

のポジションの変化によっても変わってくることはあり得る。

・ 交渉のレベルは立ち位置によって意見が異なるため、議論をまとめるのは難しい。例え

ば、特許の性質によって交渉の対象を決めるのであれば、端末に閉じた特許であれば端

末メーカーであり、基地局を含むサービスの特許であれば通信業者とした方がよいと考

えられる。

・ 交渉のレベルは特許権者側が選択するものであり、結局は、合理的なライセンス料の問

題であるとも考えられる。

・ 法律上、部品特許に基づいて 終製品メーカーを訴えても権利濫用とはならない。法律

上は、特許権者が交渉相手を自由に選ぶことが可能なため、問題は生じないと考えられ

る。

・ 権利行使先は特許権者が決めるべきものであるが、問題解決のリスクビジネス上の問題

でもある。サプライヤーに任せるのか、メーカーが自らの問題としてリスクを負うのか

を判断することになると思う。

・ 特許権者側が 終生産者に対していきなり警告状を送ること自体は、一般的には内容が

適切であれば不正競争と評価されることはないが、一般の製品ユーザーに警告状を送付

することは問題となる可能性がある。

・ 終製品メーカーが警告状を受けた場合に、サプライヤーに交渉してほしいと言うこと

だけで不誠実ということにはならないが、その後 終製品メーカーが交渉に全く関与し

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ないときには、不誠実と評価されるかは難しい判断になると考えられる。ガイドライン

では、 低限明らかにできる項目を明らかにして、その他は基本的な考え方を示した方

がよいと考えている。

・ 一の規格に何千も特許権がある場合、異なる業界間で特許の有効性の判断や価値判断を

するのは難しいことがある。そのため、同じ業界内で価値判断をして解決した方がフェ

アでリーズナブルな結論を期待できるとも考えられる。また、 終製品メーカーでライ

センスしてサプライヤーに求償するのも難しい。

・ 終製品メーカーでは、サプライヤーの特許の有効性や価値判断は難しいため、サプラ

イヤーが交渉する方が効率的な場合もあると考えている。

[ガイドラインへの書き方]

・ 判例や論文ではその背景までは分からない。ガイドラインに背景まで盛り込むことで、

なぜそのような反論・主張をするのか分かるようになる。

・ 部品の中身が分からない場合にサプライヤーが対応することに問題はないと考えてい

る。一方で、サプライヤーが対応し切れない場合やサプライヤーが払う意思表示を示さ

ない場合に、 終製品メーカーが、サプライヤーのみに任せて交渉をしないのは問題と

考えている。お互いの対応のバランスが重要であり、両者がきちんと誠実に対応して問

題解決に向けていくという方向の指針を示す必要がある。

・ 終製品メーカーが訴えられたときに、サプライヤーに交渉を完全に任せることは非効

率的であるし、不誠実となるとも思う。それは、あまり知識のない、交渉の場に立った

ことのない者に対して、明らかに非効率・不誠実となることを示した方がよい。

[その他]

・ 終製品メーカーとサプライヤーは、通常、共同で交渉に対応する場合が多いが、サプ

ライヤーから 終製品メーカーに提示できない情報(例えばセキュリティ関係の技術等)

がある場合には、サプライヤーが交渉に対応するように特許権者から指示することは

FRAND 違反にはならないのではないかと思う。

・ 製品ユーザーが巻き込まれることの是非は議論する必要がある。単に市販品を買って喫

茶店やレストランで IoT 機器等を使っている場合、それが特許侵害に該当するときに、

ユーザーに対して警告状を送り付けることは、交渉のレベルとして問題と考えることは

可能と考えられる。一方、交渉のレベルについて、サプライヤーか 終製品メーカーの

どちらにすべきかといった点については、おそらく結論は出ないと考えている。

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② 『機密情報の保護』について

[クレームチャートの取り扱い]

・ クレームチャートは提示すべきだが、標準必須特許は数が多いので、全部の特許につい

て出すかどうかは当事者間の合意に基づくと考えている。

・ 全部の特許についてクレームチャートを出すかどうかは必ずしも当事者間の合意に基

づくものではなく、特許権者の意思によるのではないか。

・ クレームチャートは必ずしも企業秘密ではないと考えているが、クレームチャートを機

密扱いにするかどうかは特許権者の自由であるため、様々な事情に応じて取り扱いは変

わる。

・ クレームチャート提示後の議論の中に企業秘密が含まれる場合には、秘密保持契約

(NDA:Non-Disclosure Agreement)を結ぶことがあるが、その中でクレームチャート自

身が NDA の対象となるかどうかは、ケースバイケースである。

・ ライセンス交渉では、技術的な特徴と製品との対応関係が直ちに言えないようなものに

ついては、クレームチャートの形で文書で出すことはせず、電話会議等で情報共有する

場合もある。

[ガイドラインへの書き方]

・ 実際に、どのような情報を基に交渉が行われているのかを、ある程度具体的に示してい

くべきではないか。

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(3) 『ロイヤルティの算定方法』について

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について

① 『ロイヤルティベース(算定の基礎)』について

[EMV と SSPPU]

・ 合理的なライセンス料について、EMV(Entire Market Value)・SSPPU(Smallest Salable

Patent-Practicing Unit)の論点があるが、ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)からスマホ

(スマートフォン)のように、製品が多機能に変化していることが背景となっている。

単機能の製品では EMV を適用すべきであるが、多機能の製品では EMV を適用すべき

ではないと考えている。

・ 近の動向として、次世代の通信規格のライセンスロイヤルティを製品全体に対して設

定しているケースもある。

・ EMV・SSPPU について、理論上は変わらないかもしれないが、業界基準を上手く利用

して主張されると、同じような料率とはならないケースもあるため、正しく理解する必

要がある。

② 『ロイヤルティレート(料率)』について

[ボトムアップ型とトップダウン型]

・ 英国の Unwired Planet 事件168では、ボトムアップ型とトップダウン型を共に使用して

クロスチェックを行っている。

・ 国際的には、日本の知財高裁の料率(トップダウン型)は、大きく外れていないと考え

ている。日本で行われた5ヶ国の模擬裁判でも各国で同じような結論となっていた。

・ ボトムアップ型については、損害賠償請求における実施料の計算では、一般的に公表さ

れている料率や、他の特許権者が適切と発表している値を使用する場合がある。

[トップダウン型の上限設定]

・ SEP は数が多いものの、標準を普及させることを考えると、料率の上限を設定すること

は合理的であり、ロイヤルティ・スタッキングの問題も解決されると考えている。

・ アップル・サムスン事件では、上限として、3Gパテントプラットフォームで採用した

とされる5%を参考にしているが、実際の背景等を考慮すると、厳密に上限を設定する

168 Unwired Planet v. Huawei(英国、高等法院、2017 年):資料編・資料ⅡのⅢ参照

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ことは難しい場合もあると考えている。

・ アップル・サムスン事件では料率の上限を設定しているが、上限をどのように決めるか

は問題となる。実際に必須特許は何件で無効となるのは何件かについて一つ一つ判断す

ることは、特許の数が多いこともあり難しいと考えている。

③ 『料率を決定するその他の考慮要素』について

[Georgia-Pacific factors]

・ 国際的な手法が多数ある訳ではないので、外国企業と交渉するとき等には、このような

要素を参考にするのは良いと考えている。ただし、単に並べただけでは使い方が分から

ないため、実務家がどのように使って理論を構築していくか、どのようにすると使いや

すいか、等は明確にしておく必要がある。

・ グローバルに受け入れられるガイドラインとして、各国の判例を参考にして考える際に

は分かりやすい事例だと考えているが、他業界や中小企業では、実際にこれをどのよう

に活用すればよいかは分からないと思うので、各要素についてヒアリングを積み重ねて

参考となるものとする必要があると思う。

・ 米国の判例でも、この考慮要素を使用している場合としていない場合がある。全案件で

使用しているわけではないことに留意する必要がある。

・ 要素が多すぎるため、日本では使いにくいと考えている。実際、日本や EU の裁判では

使用されていない。他にも論点がある上で、さらにこの全ての要素を検討するのは難し

いので、有力な要素のみを使用しているのではと考えている。

・ この考慮要素は、どのような数字をもサポートし得るものであり、結論ありきで使用さ

れてしまうケースが多いと考えている。米国でも、原告と被告でこの考慮要素を引用し

ていても、桁違いの主張となることがある。異業種や不慣れな者へのフレームワーク提

供の観点からは、使用することは難しいと思う。

・ 実際には、使いたい要素だけ取り出して使い、都合の悪い要素は使わないのではないか

と思う。ただし、交渉相手への説明に使用する場合には分かりやすいものと考えている。

[経年変化]

・ ライセンス料は経年変化する可能性がある。年々、技術の高度化や特許権の増加により、

特許権の寄与度が下がるため、この点も考慮要素とした方がよい。寄与度が下がってい

るにも関わらず、非係争条項(Non-Assertion of Patents Provisions)によって支配的

な地位を維持しようとすると独禁法上の問題となる場合もある。

・ ライフサイクルが長い業界もあるため、10 年・20 年先まで同一のロイヤルティが適当

であるべきかの判断は難しいと考えている。例えば、法令規制や公益の観点からすぐに

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撤退できない事情や、研究開発や生産販売のための投資、それによる情報の蓄積等も考

慮することが必要。

・ DVD 等でも、存続期間の満了によりロイヤルティが下がっているという事実があるの

で、そのような事案を紹介した方がよい。ただし、ケースバイケースであることには留

意する必要がある。

[費用負担]

・ 必須性評価の費用負担については、標準化機関が払うわけにはいかないため、特許権者

の負担となると考えられるが、メリットにつながらなければならない。プールやライセ

ンス代行等の資金を回収できる仕組みが必要だと考えている。

・ 欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)

と EPO でも議論されているが、標準化機関が必須ではないと判定した場合に、特許権

者が標準化機関を提訴したときに、その裁判費用を誰が負担するのかという問題もある

ため、この問題については幅広い議論が必要と考えられる。

④ 『使途が異なる場合のロイヤルティ』について

・ ロイヤルティを非差別的な条件にすべきという考え方と、実際の製品・価格・使用態様

によるべきとする考え方が対立しているという問題がある。

・ 発明の実施による利益が多い場合には、ロイヤルティもそれに応じて多額であるべきだ

が、差別的であってはならないことからすると、特定の主体であることを理由にロイヤ

ルティが差別的に取り扱われてはならないと考えられる。

・ ケースバイケースであるが、規格の利益を享受できる程度の料率とすべきと考えられる。

製品の販売価格や台数、利益率等は各々違うため、全てが同じロイヤルティとすべきで

はない場合もある。製品や事実を見て判断することが必要。

・ FRAND の非差別について、類似した状況(similarly situated)であれば、差別的と

はならないと考えられる。一方、Use-based ライセンスの議論では、一律のライセン

ス料とすべきという意見と、製品によって変えるべきという意見とが対立している。

コンテンツ配信事業のように製品を製造販売しない事業では、製品単位のライセンス

料とならないケースもあるので留意する必要がある。

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(4) 欧州コミュニケーション169について

・ 欧州は単一市場を目指しているため、欧州コミュニケーション内の非差別との記載は、

欧州域内で非差別という意味とも考えられる。欧州域外については、コミュニケーショ

ンの範囲外である可能性があることに留意する必要がある。

・ 欧州コミュニケーションにおいて、必須性の審査について検討されているが、日本でも

標準必須判定が導入される予定であり、ガイドラインに記載してもよいのではないか。

この判定のようなバックアップ制度もガイドラインに記載した方がよい。

・ 欧州コミュニケーションは、ケースバイケースでとどめた内容となっている。これに対

し、本ガイドラインは、経験や知識の無い人に「こういう交渉が一般的である」や「こ

ういう考え方もある」ということを示すことで、対象とする者に役立つものとなり、グ

ローバルにも有効な情報を示すことができるものと考えている。

169 EUROPEAN COMMISSOIN, ”Communication from the Commission to the Institutions on Setting out the EU approach to Standard Essential Patents”(2017 年 11 月 29 日), https://ec.europa.eu/docsroom/documents/26583 [ 終アクセス日:2018 年 2 月 28 日]

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2. ガイドライン案に対する意見

以下に、第4回委員会で得られた意見を整理した。本章冒頭で示したように、第4回委

員会においては、特許庁より提案されたガイドライン案を配布した上で当該ガイドライン

案に対する意見を議論した。また、意見の整理においては、前記1.と同様に、委員会全

体として1つの結論を導くのではなく、出された意見をカテゴリー別に列挙する形式を採

用した。

なお、これらの意見は、ガイドライン案に対して拘束力をもつものではなく、特許庁が

公表しているガイドライン案の一部を直接構成するものでもない。

(1) 『本ガイドラインの目的』について

(ⅰ) 『標準必須特許を巡る課題と背景』について

・ 本ガイドラインが対象とする SEP について、デファクト標準を除くのか、「商業的必須

特許」を含むのか等、明確に整理した方がよいと思う。

・ 従来から情報通信分野同士の交渉であっても、相手方との立場の違いなどにより、クロ

スライセンスすることができずに一方的なライセンスとなるケースも多いと認識して

いる。よって、時代の変化があったことを理由に、クロスライセンスが難しくなったと

いう感覚は少ない。

・ 多義に解釈される用語の使用を極力避け、明確な表現に留意した方がよい。例えば、「特

許権の行使」や「差止めを求める」と表現した場合、警告書の送付と、差止請求訴訟の

提起の両方を含む場合がある。いずれかを具体的に記載した方がよい場合には、その点

も配慮することが必要と考えられる。

・ 現在の SEP の紛争はスマホ等の通信分野が中心であるが、将来 IoT が普及すると、SEP

の紛争が異業種へ拡大すると考えられる。通信分野の SEP だけでなく、他の業界でも従

来から SEP はあり、他の分野も含めて相互の争いも考えられるため、その点は配慮した

方がよいと思う。

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(ⅱ) 『本ガイドラインの位置づけ』について

・ 各論点について、立場等によって意見が分かれている項目については、各々の意見を併

記し、いずれかに結論づけるべきではないと考えている。

・ SEP のライセンス交渉に関する考慮要素を整理し、実際に参考となるものを目指すこと

が重要と考えている。

・ 中小企業等も参考とするため、安易にミスリードさせないように配慮した方がよい。例

えば「こうしないといけない」等の強制力が伴うように読める表現には注意する必要が

ある。

・ 世界の判例を参照しているが、 高裁まで進んでおらず確定していないものもあるため、

時間の経過によって変わる点もあると考えられる。参照している内外の裁判例が、現段

階におけるものであることを明確にする方がよいのではないか。

・ 日本や外国の判例を参照したとしても、未だ 高裁まで進んでおらず確定していないも

のもあることから、時間の経過によって判断内容が変わりうる点にも留意した方がよい。

・ 判例は変わるため、今後もガイドラインをアップデートしていくことが重要と考えてい

る。

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(2) 『ライセンス交渉の進め方』について

(ⅰ) 『誠実性』について

・ 誠実に交渉を進めたとしても、必ずしも適正な対価を受けることができるものではない

と考えている。

・ Huawei v. ZTE 事件で欧州司法裁判所が示した枠組みでは具体的になっていない不明瞭

な部分があるが、その点が交渉を長期化させているとは言えないと考えている。

① 『特許権者がライセンス交渉のオファーをする段階』について

・ クレームチャートに関しては、機密情報が含まれることもあるため、交渉にあたっては

秘密保持契約を結ぶことが一般的。

・ イメーション対ワンブルー事件では、取引相手に警告書を送付したことが、公正取引委

員会で不当な取引妨害と判断されている。警告書を被疑侵害者に送る場合と取引相手に

送る場合とでは分けて考えた方がよい。

② 『実施者がライセンスを受ける意思を表明するまでの段階』について

・ 特許の有効性を争った判例として、Huawei v. ZTE 事件の他に、アップル対サムスン(知

財高裁)も参考になるため適宜追記した方がよいと考えている。

・ 実際のライセンス交渉では技術的な議論が必要であるため、特許の数が少ない場合であ

っても、経験上数ヶ月~数年かかることもあることに留意する必要がある。

③ 『特許権者が FRAND 条件を提示する段階』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

④ 『実施者が FRAND 条件のカウンターオファーをする段階』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

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⑤ 『特許権者によるカウンターオファーの拒否と裁判・ADR による解決』について

・ ADR も案件によっては時間や費用がかかるため、ADR と比べて裁判の方が一般に時間

や費用がかかるとは限らないと思われる。

・ 国際仲裁に関しては、馴染みがない者も多いと思うので、例えば、「ニューヨーク条約」

について条約の URL を示すなど、分かりやすく記載した方がよいと思われる。

⑥ 『差止請求権の行使』について

・ 各国における差止め制限の判例や根拠については、正確に確認することが重要。

(ⅱ) 『効率性』について

① 『交渉期間の通知』について

・ 予め交渉期間を設定するというのは実務的には馴染まない印象がある。交渉期間を設定

することが一般的であるとはしない方がよい。

② 『サプライチェーンにおける交渉の主体』について

・ (総論)の部分は、様々な議論もあることから、1つの考え方として、「主張の整理」と

して、 終メーカーが行う場合やサプライヤーが行う場合には各々このようなメリット

があるということで、全体を整理した方が良い。

・ (効率性の観点からの評価)のところで、サプライヤーが交渉するメリットとして、交

渉の数の 小化や、特許補償もあるが、技術に一番詳しいことで交渉も早くなるし、合

理的な結論に導かれることも期待できると考えている。併記することで全体でバランス

のとれた考慮要素を並べて記載するべきではないか。

・ サプライチェーンには、例えば通信分野であればオペレータやユーザーまで含む場合も

ある。交渉相手としてオペレータやユーザーまで含むのかを明確にした方がよいと考え

られる。

・ 特許製品を販売した場合に特許権が消尽するとした判例として、Quanta 事件がある一

方、アップル対サムスン事件では、販売後に特許製品が生産された場合には特許権の行

使は制限されないとされているので、その点も留意した方がよい。

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③ 『機密情報の保護』について

・ SEP のライセンス交渉の場合は、基本的には議論は、クレームと規格書との対比である

ことから、実施者側の製品に関する機密情報の記載は必要ないのではないか。

・ 機密情報について、実施者側としては、特に欧州、ドイツでの FRAND の抗弁の証拠と

して提供することも考えられるので、秘密保持契約を締結する際には、そのようなもの

に使えるように注意が必要である点を言及した方がよいのではないか。

④ 『交渉の対象とする特許の選択』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

⑤ 『ライセンス契約の地理的範囲』について

・ ライセンス交渉の対象を特定の国や地域のみに限定して交渉したとしても、合理的交渉

に該当する場合もあるので、必ずしも対象を限定した交渉の全てが遅延行為となるわけ

ではないと考えられる。

⑥ 『プールライセンス』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

⑦ 『SEP の透明性向上』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

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(3) 『ロイヤルティの算定方法』について

(ⅰ) 『合理的なロイヤルティ』について

① 『基本的な考え方』について

・ ロイヤルティの算定に関して、訴訟では損害賠償の算出に関連していることを考慮した

方がよい。

② 『ロイヤルティベース(算定の基礎)』について

・ SSPPU と EMV の議論については、まだ結論が出ているわけではなく、現在も議論が

進んでいるところであるため、いずれを採用すべきかに関して、どちらかに方向付けす

べきではない。

・ SSPPU と EMV について、EMV は安易な適用を避けるべきとする考え方もある。

・ アップル対サムスン判決は、いわば SSPPU 方式と EMV 方式との折衷方式で算定して

おり、実務的にも使用する価値があると考えられる。

・ SSPPU や EMV は、過去の米国の裁判例にて用いられたものであるから、その点を明

記した方がよいのではないか。また、日本の損害賠償の考え方(裁判例)も併記してお

いたほうがよい。

・ 特許の価値の考え方に関して、一つの側面だけでなく、考えられる他の側面も紹介して、

バランスを考慮した方がよい。例えば、標準技術による受益の程度が違うので、受益に

応じた対価、権利の価値や貢献度合いなどの側面がある。モジュールや半導体、サービ

ス等の様々な商品の形態があり、夫々の商品の標準技術に基づいた対価という考え方も

ある。

③ 『ロイヤルティレート(料率)』について

・ ロイヤルティ算出方法には、ボトムアップ型とトップダウン型のみではく、従来から

Georgia-Pacific-Factors などの考え方もある。

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(a) 『比較可能なライセンスがある場合』について

[『同じ特許権者による比較可能なライセンス』について]

・ ドイツでの訴訟や米国の ITC 訴訟では差止めの脅威が大きいことから、過去のライセン

スを比較可能なライセンスと扱わない方がよい場合もある。

[『第三者の比較可能なライセンス』について]

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

[『パテントプール』について]

・ Microsoft v. Motorola 事件では、特許の重要度を判断したものではなく、特許権者とし

て受ける価値(収入の価値)と、実施者として受ける価値(技術を使える価値)という

2つの価値があり、前者を1とすると、後者が2であり、トータル3の価値があると判

示されている。

(b) 『比較可能なライセンスが存在しない場合』について

・ アップル対サムスン判決では、業界慣行とまで言えないものの、ノキアやサムスン等が

5%のロイヤルティであったことから、累積ロイヤルティに 5%が採用されている。

④ 『料率を決定するその他の考慮要素』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

(ⅱ) 『非差別的なロイヤルティ』について

① 『非差別性の考え方』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

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② 『使途が異なる場合のロイヤルティ』について

・ 製品に対する特許の貢献度合いとロイヤルティとの対応について、結論づけた記載にな

っており、これをバックアップする形で例も出しているが、ライセンスを業としてやっ

ている者の例をもって、一般的なライセンスの例として表現するのは適切ではないと考

えている。この記載は削除してもいいのではないか。

・ MPEG ではデコーダとエンコーダ、コンテンツ配信でロイヤルティを分けている。光デ

ィスク(ワンブルー)ではプレーヤ、レコーダ、ディスクタイプでロイヤルティを分け

ている。理由はプレーヤやディスクでは単位が違い、規格の部分や貢献、メイン/サブ

等の違いがあるためである。アルダージでフルセグとワンセグのロイヤルティが分かれ

ているのは、ガラケーとテレビで台数や規格の貢献度、メイン/サブ等で違いがあるた

めである。

(ⅲ) 『その他』について

① 『定率と定額』について

・ 例えば、追加の開発やエビデンス創出等により製品価値が上がったり、或いは SEP 技術

の方が陳腐化することにより、SEP 技術の貢献割合が下がることもある製品も存在する。

すなわち、当初は妥当であった料率・額であったとしても、時の経過と共に不適切にな

ることも有り得る。その点も言及した方がよいと考えられる。

② 『一括払いとランニング方式』について

一般論について第2回及び第3回委員会で議論されたため、第4回委員会の中では、本

項目についての意見は示されなかった。

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(4) ガイドライン全般について

(ⅰ) ガイドラインの全体の印象について

・ 中小企業などに対しても分かりやすくするために、簡易版もあるとよいと思う。

・ 多くの判例を参照しているが、背景や位置づけ、重みは違うため、各判例の一部の記載

から独り歩きしないように注意する必要がある。

・ ガイドラインが国際的に通用することを目指すためには、一つの考え方に方向付けすべ

きではなく、また、英訳の際にも十分注意する必要がある。

・ SEP でも技術議論は当然に行われるため、特許が無効になることもある。判例に従って

いれば大丈夫であるとミスリードされないように注意した方がよい。

・ 全体的な印象として、日本が何をFRANDと考えるのかが重要である。海外の判例を

参照したとしても、日本の裁判所が海外の判例を参考にするとは限らないため、司法の

役割とガイドラインの内容との関係の整理についても記載しておいたほうがよいので

はないか。

(ⅱ) ガイドラインの名称について

・ タイトルを「標準必須特許のライセンス交渉の現状と考慮要素の整理」とし、目次等を

整理してもよいのではないか。ガイドラインという語を使わずに、ライセンス交渉の現

状と考慮要素の整理でまとめた方が今後の意見も集まりやすく、整理しやすいとも考え

ている。

・ ガイドラインとするのであれば、「強制力のない」あるいは「法的拘束力を持つものでは

ない」ことを明確にする必要がある。

(ⅲ) 目次・インデックスについて

・ たとえ全体の頁数が比較的少ない頁数であったとしても、何度も読むのは厳しい場合も

ある。インデックスがあると、参照もしやすく、分かりやすくなるのではないか。

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資料編

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資料Ⅰ

標準必須特許に関する参考資料

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目次

資料編

資料Ⅰ

資料1 標準と標準化プロセス ........................................................................................ 85

Ⅰ. 標準について .......................................................................................................... 85

Ⅱ. 一般的な標準化機関の組織構成と標準策定プロセス ............................................. 88

Ⅲ. ITU-T の標準策定プロセス .................................................................................... 92

Ⅳ. ITU-R の標準策定プロセス .................................................................................... 99

Ⅴ. ISO(IEC 共通)の標準策定プロセス ................................................................. 105

資料2 標準化機関と特許ポリシー ............................................................................... 110

Ⅰ. デジュール標準 ..................................................................................................... 117

Ⅱ. フォーラム標準 ..................................................................................................... 186

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資料1 標準と標準化プロセス

Ⅰ. 標準について1

標準(standard, norm)は、技術標準、技術規格、標準規格又は単に規格という表記も

用いられるが、本資料では、これらの用語が固有名詞として用いられている場合を除き、

一般名称としては「標準」を用いる。

標準は、様々な技術・産業分野において、技術の仕様を定めることで互換性を保ち、ユ

ーザに利便性を与えるために決められた仕様である。その決め方において、大別して「事

実標準」(デファクト標準:de facto standard)と「公的標準」(デジュール標準:de jure

standard)とがあるといわれている。デファクト標準は、民間の個人・企業が自らのため

に決めた標準を他者も採用することで、実態として事実上の標準になったものであり、デ

ジュール標準は、国又は国際機関などの公的機関が一定の手続を経て標準として認定した

標準である。デファクト標準が後にデジュール標準として認定されることもある。

また、 近では、フォーラムやコンソーシアムと呼ばれる、特定の分野の技術開発のた

めに複数の企業等の構成員から形成される団体・組織によって定められるフォーラム標準

やコンソーシアム標準も多くある2。

標準化を行う機関・団体としては、各国の業界団体や公的機関、欧州などの地域で定め

られた機関やその他の国際的な機関が存在し、また、産業界の関係者などから構成される

フォーラムやコンソーシアムにおいても、一つの国に限定されない国際的な組織がある。

標準化作業は、一般的には、一民間企業、業界団体や公的機関で提案された標準案が、

国・地域で承認され、国地域の標準とされる場合もあれば、さらに国際的な機関によって

国際標準として 終的に承認される場合も多いが、国際的な機関によって立ち上げられた

プロジェクトによって、担当する標準化機関が提案を作成することもある。逆に、国際的

な機関によって認定されている標準が、国の標準になる場合や、その国独自の状況に合わ

せてオプション規格が作成されることもある。

1980年に発効して1996年に終了した貿易の技術的障害に関する協定(いわゆるGATT

Standard Code)第1条(一般規定)に「1.1 標準化及び認証に関し用いられる一般用語は、

当該用語が用いられている文脈を考慮し、かつ、この協定の対象及び目的に照らして、原

則として、国際連合及びその関連機関において又は国際標準化機関により採用された定義

と同一の意味で使用する。」とあり、「強制規格及び任意規格3」について、第2条(強制規格

1 平成 28 年度特許庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関す

る調査研究報告書」(一般財団法人知的財産研究教育財団、2017 年 3 月)7-9 頁を一部改変。 2 本資料編では、フォーラム標準やコンソーシアム標準を併せて「フォーラム標準」と呼ぶこともある。 3 附属書1において、「強制規格」は「技術仕様であつて遵守することが義務付けられているもの(適用可能な管理規定

を含む。)」、「任意規格」は「認められた標準化機関が反復的又は継続的な使用のために承認した技術仕様であつて遵守

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及び任意規格の中央政府機関による立案、制定及び適用)に「中央政府機関に関し、・・・

2.2 締約国は、強制規格又は任意規格を必要とする場合において、関連する国際規格が存

在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、当該国際規格又はその関連部分を強制

規格又は任意規格の基礎として用いるものとする。」としていた。

1995年に発効した、Agreement on Technical Barriers to Trade(WTO/TBT協定:貿易

の技術的障害に関する協定)においても同様に、第1条(一般規定)に「1.1 標準化及び適

合性評価手続に関し用いられる一般用語は、当該用語が用いられている文脈を考慮し、か

つ、この協定の対象及び目的に照らして、原則として、国際連合及びその関連機関におい

て又は国際標準化機関により採用された定義と同一の意味で使用する。」とある。また、「強

制規格及び任意規格4」については、第2条(強制規格の中央政府機関による立案、制定及

び適用)において、「中央政府機関に関し、・・・2.4 加盟国は、強制規格を必要とする場合

において、関連する国際規格が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、当該

国際規格又はその関連部分を強制規格の基礎として用いる。ただし、・・・」とし、第4条

(任意規格の立案、制定及び適用)において、「4.1 加盟国は、中央政府標準化機関が附属

書三の任意規格の立案、制定及び適用のための適正実施規準(この協定において「適正実

施規準」という。)を受け入れかつ遵守することを確保する。・・・」とし、「附属書三 任意

規格の立案、制定及び適用のための適正実施規準」の実体規定F.において「標準化機関は、

国際規格が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、当該国際規格又はその関

連部分を任意規格の基礎として用いる。ただし、・・・」とし、実体規定J.において、「標

準化機関は、・・・現在立案されている任意規格並びに直前の期間において制定された任意

規格を含む作業計画を公表する。立案中の任意規格とは、任意規格を作成することを決定

した時から任意規格が制定されるまでのものをいう。・・・作業計画には、各任意規格につ

いて、国際標準化機構情報ネットワークの規則に従い、対象事項に関連する分類、任意規

格の作成において到達している段階、基礎として用いた国際規格の出典を表示する。標準

化機関は、当該作業計画の公表の時までに、当該作業計画の存在をジュネーヴにある国際

標準化機構・国際電気標準会議情報センターに通報する。・・・」とされている。

標準化機関に標準を提案する一又は複数の個人・企業は、提案前に特許出願を行うのが

一般的であるが、案が標準に採用されるためには、それらの特許出願・特許又はそれ以前

することが義務付けられていないもの」、「国際規格」は「任意規格のうち国際標準化機関によつて制定されたもの」と

されている。 4 附属書 1 において、「強制規格」は「産品の特性又はその関連の生産工程若しくは生産方法について規定する文書であ

って遵守することが義務付けられているもの(適用可能な管理規定を含む。)。強制規格は、専門用語、記号、包装又は

証票若しくはラベル等による表示に関する要件であって産品又は生産工程若しくは生産方法について適用されるものを

含むことができ、また、これらの事項のうちいずれかのもののみでも作成することができる。」、「任意規格」は「産品又

は関連の生産工程若しくは生産方法についての規則、指針又は特性を一般的及び反復的な使用のために規定する、認め

られた機関が承認した文書であって遵守することが義務付けられていないもの。任意規格は、専門用語、記号、包装又

は証票若しくはラベル等による表示に関する要件であって産品又は生産工程若しくは生産方法について適用されるもの

を含むことができ、また、これらの事項のうちいずれかのもののみでも作成することができる。」

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に出願されている特許出願・特許をライセンスする旨の宣言を行うことが条件となり、宣

言が行われない場合にはその案を採用しない方針を定めている標準化団体もある。

また、標準化機関では、これとは別に、標準に採用する案が第三者の特許に抵触する可

能性がある場合も、可能な限り回避した案を採用する努力をする。このために、標準化過

程で、標準化機関の構成員や第三者の特許権者に、特定の標準ごとに自身が所有する特許

がその標準に対してどのような立場を採るのか表明するように、特許宣言を出させている。

このような規則を各標準化機関で定めたものが特許ポリシーである。

標準技術を実施する際に必ず実施せざるを得ない不可避な特許は、標準必須特許と呼ば

れている。標準必須特許には、技術的に回避できない技術的必須特許と、技術的には代替

手段があるが当該代替手段が商業的に代替手段になり得ない商業的必須特許とがある。標

準必須特許は基本的には特許権者の自主申告によるものとされているが、複数の特許権者

が標準必須特許をプールし、実施者に一括してライセンスするパテントプールの態様をと

る場合には、特許権者により申告された特許が必須特許か否かを中立・公平な第三者が判

定する仕組みも取り入れられている。これは、標準必須特許でない特許もプールに含んだ

上で一括ライセンスを行うと、競争法上の問題が生じるためである。

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Ⅱ. 一般的な標準化機関の組織構成と標準策定プロセス

1. 組織構成5

一般的に、標準化機関は、運営グループ、技術統括グループ、ワーキンググループのよ

うに、階層構造の構成をとっている。

ワーキンググループは、技術分野ごとに構成され、標準仕様の策定作業を行う。技術統

括グループは、複数のワーキンググループを統括し、ワーキンググループで作成された使

用の承認等を行う。運営グループは、他の標準化機関との交渉、予算、組織等、標準化機

関の運営を行う。

図表 1-1 標準化機関の組織構成例6

5 住田正臣他「国際標準化活動の基礎知識と実践的手法」NTTDoCoMo テクニカルジャーナル Vol14. No.1 76-84 頁

(2006 年 4 月)(以下「国際標準化活動の基礎知識と実践的手法」という。)79-80 頁, https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol14_1/vol14_1_076jp.pdf [終アクセス日:2017 年 11 月 2 日] 6 「国際標準化活動の基礎知識と実践的手法」79 頁

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2. 標準策定プロセス7

一般的に、標準策定は、ワークアイテムの提案・承認の後、仕様の検討・承認を経て行

われる。

標準仕様の検討では、例えば、ステージ1(要求条件)仕様の策定、ステージ2(アー

キテクチャ)仕様の策定、ステージ3(技術詳細)仕様の策定が行われる。要求条件仕様

には、システム全体に関する要求条件や、システムに共通的な機能に対する要求条件、シ

ステムの各機能に対する要求条件等が含まれる。アーキテクチャ仕様には、システムの各

機能構成や、プロトコル構成、機能間インタフェース、情報フロー等が含まれる。技術詳

細仕様には、システムの各要素のプロトコルとその詳細パラメータや、動作条件等の詳細

な技術的内容が含まれる。

図表 1-2 標準策定プロセス例

(1) ワークアイテムの提案・承認プロセス

ワークアイテムは、新規標準化項目を企画するための企画提案書である。ワークアイテ

ムには、例えば、技術分野、策定目的、 終成果物、既存仕様との関係、策定スケジュー

ル、担当するワーキンググループ、サポートメンバーなどが含まれる。

ワークアイテムの議論・承認は、技術統括グループで行われる。例えば、標準化組織の

規定範囲内であるか、市場的・技術的価値はあるか、同様の標準が存在しないかなどにつ

7 「国際標準化活動の基礎知識と実践的手法」80-82 頁

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いて議論される。

(2) 標準仕様の検討・承認プロセス

ワークアイテムにしたがい、担当するワーキンググループにて仕様が検討される。例え

ば、前記のように 3 ステージに分けられ、ステージごとに検討が進められて、仕様書案(ド

ラフト)が作成される。ワーキンググループの審議で合意された項目が、ドラフトに反映

される。

ドラフトが完成すると、メンバー全体のレビューの後、承認が行われる。ドラフトの承

認は、ワーキンググループの上位である技術統括グループで行われる。

3. 知的財産権の取り扱い8

一般的に、各標準化機関は、特許権等の知的財産権(IPR:Intellectual Property Rights)

の取り扱いを明確にするために、IPR ポリシーを策定している。IPR ポリシーは、標準規

格の実現に必要な IPR の許諾方針である。

標準化機関のメンバー企業は、参加時に IPR ポリシーへの同意(IPR 宣言)を求められ

る。参加者は、標準仕様の策定段階において IPR 宣言により以下の選択を行う。

・1 号選択(Option1):無償非排他的許諾

・2 号選択(Option2):有償 FRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)許諾

・3 号選択(Option3):1 号、2 号以外(許諾しないなど)

具体的な標準策定プロセスでは、まず、ワーキンググループが標準規格の原案(ドラフ

ト)を検討し、作成を行う。標準化機関は、作成された原案を参加メンバーへ開示し、当

該標準規格に係わる必須特許を所有している場合には当該特許の取り扱いに関する IPR宣

言書を提出するようにメンバーへ要請する。メンバーから提出された IPR 宣言書の内容が

Option1 又は Option2 である場合、標準化機関は、標準規格の原案を審議し、標準仕様の

確定作業を進める。一方、提出された IPR 宣言書の内容が Option3 である場合、標準化機

関は、当該特許の技術内容を回避するように標準規格書を修正するか、もしくは、標準化

自体を断念(中断)するかの決定を行う。

8「国際標準化活動の基礎知識と実践的手法」82 頁, 鶴原稔也「技術標準をめぐる特許問題の概観−移動通信方式標準化

に係わる特許紛争・パテントプール・ホールドアップ問題を題材として−」特技懇 no.272 90-104 頁(2014 年 1 月)

(以下「技術標準をめぐる特許問題の概観」という。)93-94 頁, http://www.tokugikon.jp/gikonshi/272/272kiko3.pdf [ 終アクセス日:2017 年 11 月 2 日]

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図表 1-3 標準策定プロセスにおける必須特許宣言例9

9「技術標準をめぐる特許問題の概観」94 頁

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Ⅲ. ITU-T の標準策定プロセス

1. 組織構成10

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の電気通信標準化部門

である ITU-T(Telecommunication Standardization Sector)は、世界電気通信標準化総会

(WTSA:World Telecommunication Standardization Assembly)、研究委員会(SG:Study

Group)、作業部会(WP:Working Party)、ラポータグループ(RG:Rapporteur Group)、

電気通信標準化アドバイザリグループ(TSAG:Telecommunication Standardization Advisory

Group)、電気通信標準化局(TSB:Telecommunication Standardization Bureau)、レビュー

委員会(Review Committee)等から構成される。

WTSA は、ITU-T の組織、作業計画、予算管理、編集事項を検討する ITU-T の 高決定

組織(総会)である。WTSA は4年毎に開催され、研究領域毎に SG が設立される。SG に

は、研究課題に従って、WP や合同作業部会(JWP:Joint Working Party)、RG が設立さ

れる。

TSAG は、ITU-T の活動の優先事項、計画、運用、財政問題及び戦略の検証や評価、SG

の作業ガイドラインの提供等を行う。TSB は、ITU-T の事務局であり、各会合や関連文書・

出版物の運営管理等を行う。レビュー委員会は、ITU-T の現状体制の妥当性の調査や、他

の標準化団体との協力の検証等を行う。

10 前田洋一「ITU-T の WTSA 及び研究委員会等における作業方法の概要」ITU ジャーナル Vol.44 No.1 21-27 頁

(2014 年 1 月)(以下「ITU-T の WTSA 及び研究委員会等における作業方法の概要」という。)21-23 頁, https://www.ituaj.jp/wp-content/uploads/2013/05/2014_01-6_sf_t.pdf [ 終アクセス日:2017 年 11 月 6 日]

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図表 1-4 ITU-T の組織構成11

2. 標準策定プロセス12

ITU-T では、研究課題の提案と承認、勧告案の作成と承認の順に策定作業が進められる。

研究課題(Question)は、SG で検討すべき内容を記述したものである。勧告

(Recommendation)は、SG における課題に対する成果物(すなわち策定された標準)で

ある。

11 「ITU-T の WTSA 及び研究委員会等における作業方法の概要」21 頁 12 「ITU-T の WTSA 及び研究委員会等における作業方法の概要」23-27 頁

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図表 1-5 ITU-T の標準策定プロセス

(1) 研究課題の提案・承認プロセス13

研究課題は、以下の手順を経て提案し、承認を得ることができる。

a)SG 及び TSAG を経る。

b)SG を経て、かつ SG 終会合が WTSA 直前であるときは、WTSA での更なる審議

を経る。

c)緊急な取扱いが正当化されるときは、SG のみを経る。

d)WTSA を経る。

各 SG は、提案された新規又は改訂された質問を承認するために、以下の点を検討する。

ⅰ)提案された各研究課題の明確な目的。

ⅱ)研究課題の研究成果として、望まれる新しい勧告又は現行の勧告の変更についての

優先順位及び緊急性。

ⅲ)関係する SG と他の SG の両方における新規又は改訂された研究課題と、他の標準

化団体の作業との間にできるだけ作業の重複がないこと。

13 ITU-T Resolution 1“Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”, WTSA Hammamet, 25 October - 3 November 2016,(以下“Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”という。) SECTION 7

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(2) 勧告案の作成・承認プロセス

(ⅰ) 勧告案の作成14

SG は、メンバーから提出される寄書(contribution)をもとに検討し、勧告案を作成す

る。寄書を提出する際には、共通特許ポリシーの宣言(the statement on Common Patent

Policy for ITU-T/ITU-R/ISO/IEC)を記載し、特許情報を早期に開示しなければならない。

また、メンバーは、勧告ごとに個別ではなく、全般的な特許声明及びライセンス宣言

(General Patent Statement and Licensing Declaration)を提出することもできる。具体

的には、提出された寄書の提案の一部又は全部が、特許化され又は特許出願されており、

その使用が ITU-T 勧告を実施するために必要とされる項目を含む場合、ライセンスを受け

る意思を表明した者に対し、ライセンス供与することを宣言する。

(ⅱ) 勧告承認手続の選定15

SG 又は WTSA は、勧告を承認するために、まず勧告承認手続を選択する。具体的には、

加盟国の正式な協議を必要とする伝統的承認手続(TAP:Traditional Approval Process)

か、あるいは、加盟国の正式な協議を必要としない代替承認手続(AAP:Alternative

Approval Process)のいずれかを選択する。政策的又は規制的な勧告は、TAP を使用して

承認される。いずれの方法で承認された場合でも、勧告の地位は同じである。

一般的に、ナンバリング、アドレッシング、関税、課金、会計の研究課題に関する ITU-

T 勧告が TAP に従うものと想定され、その他の研究課題に関連する ITU-T 勧告は AAP に

従うものと想定される。しかしながら、会議に出席する加盟国やメンバーの合意によって、

AAP から TAP へ選択を変更することができ、その逆も可能である。

(ⅲ) 伝統的承認手順(TAP:Traditional Approval Process16)

SG は、新規勧告及び改訂勧告が成熟した状態に発展した場合、その承認を求めるため

に、下記のプロセスを適用する。

14 ITU-T Recommendation A.1“Working methods for study groups of the ITU Telecommunication Standardization Sector”SECTION 3(2016 年 10 月) 15 “Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”SECTION 8 16 “Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”SECTION 9

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図表 1-6 伝統的承認手順17

1)SG 又は WP 凍結:SG 又は WP は、勧告案の作業が十分に成熟していると判断し、SG

議長に対し、局長(TSB 局長)へ要請するよう要求する。

2)議長要請:SG 議長は、局長が承認を求める意思を表明するよう要請する。

3)編集勧告案(テキスト):勧告案は、必要な要約を含み、少なくとも 1 つの公用語で

終的に編集された形式であり、TSB に利用可能でなければならない。

4)局長告知・要請:局長は、次の SG 会合の 3 ヶ月以上前に、SG 会合で勧告案の承認を

求める意思を告知し、全ての加盟国及びセクタメンバーに対し、提案を承認するか否か

を局長へ通知するよう要請する。

5)勧告案配布:勧告案(テキスト)は、告知された会合の少なくとも 1 ヶ月前に公用語で

配布される。

6)メンバー回答期限:SG 会合の 7 稼働日以前に回答するよう要請され、協議期間中に受

け取った回答の 70%が承認を示している場合、提案を受け入れる。

7)SG 決定:討議の後、反対がないことを合意した場合、SG は承認を決定する。

8)局長通知:局長は、勧告案が承認されたか否かを通知する。

(ⅳ) 代替承認手続(AAP:Alternative Approval Process18)

SG は、新規勧告及び改訂勧告が成熟した状態に発展した場合、その承認を求めるため

に、下記のプロセスを適用する。

17 “Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”24 頁 18 ITU-T Recommendation A.8 “Alternative approval process for new and revised ITU-T Recommendations”(2008 年 10 月)(以下“Alternative approval process for new and revised ITU-T Recommendations”という。)

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図表 1-7 代替承認手続19

1)SG 又は WP 会合:SG 又は WP は、勧告案に関する作業が、代替承認手続を開始し、

ラストコール(LC:Last Call)を始めるために十分に成熟していると判断する。

2)LC 編集勧告案(テキスト):要約を含む 終的に編集された勧告案(テキスト)が TSB

に提供され、SG 議長は、局長にラストコールを開始するよう要請する。

3)LC 告知・ポスティング:局長は、要約及び完全な勧告案(テキスト)を参照し、すべ

ての加盟国、セクタメンバー及びアソシエイトに対し、ラストコールの開始を告知する。

4)LC 判断:SG 議長は、TSB と協議の上、以下を判断する。

a)誤植を示す以外のコメントが受け取られていないかどうか。この場合、勧告は承認さ

れたものとみなされる。

b)予定された SG 会合は、受領したコメントを十分に検討したかどうか。

c)時間を節約するため、及び/又は作業の質及び成熟のため、勧告案の作成につながる

ように、コメント解決が開始されるべきかどうか。

5)告知・ポスティング:局長は、次の SG 会合で勧告案の承認を検討すること、及び、以

下のいずれかを含む告知を行う。

a)勧告案(LC 版編集テキスト)と、ラストコールで受領したコメント。

b)コメント解決が行われた場合、改訂された勧告案。

6)SG 会合:SG 会合ではすべての書面によるコメントを検討し、以下のいずれかを行う。

a)政策又は規制上の影響がある場合、WTSA 決議 1 又は 5.8 条に基づき適切に処理す

る。

b)勧告案を承認する。

c)勧告案を承認しない。受け取ったコメントに対処するさらなる試みが適切であると

結論づけられた場合、追加の作業が必要であり、プロセスはステップ 1)に戻る(SG

又は WP 会合によるさらなる合意不要)。

19 “Alternative approval process for new and revised ITU-T Recommendations”6 頁

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7)コメント解決:TSB 及び専門家からの支援を受け、SG 議長は、必要に応じて、電子書

簡とラポーターと WP 会合を経て、コメントに対処し、新しい勧告案を作成する。

8)AR 編集勧告案(テキスト):要約を含む改定された勧告案(テキスト)が TSB に提供

される。

9)次のステップの判断:SG 議長は、TSB と協議の上で、以下を判断する。

a)予定された SG 会合は、勧告案を承認するために十分に検討したかどうか。

b)時間を節約するため、及び/又は作業の質及び成熟のため、追加レビューを開始すべ

きであるかどうか。

10)AR 告知・ポスティング:局長は、改訂勧告案の要約と完全なテキストを参照して、全

ての加盟国及びセクタメンバーに対し、追加レビューの開始を告知する。

11)追加レビューの判断:SG 議長は、TSB と協議の上、以下を判断する。

a)誤植を示す以外のコメントが受け取られていないかどうか。この場合、勧告は承認

されたとみなされる。

b)誤植を示すコメント以外のコメントを受け取ったかどうか。この場合、プロセスは

SG 会合に進む。

12)局長通知:局長は、勧告案が承認されたことをメンバーに通知する。

(ⅴ) 知的財産権の取り扱い20

ITU-T 勧告は、その普及を確実にするために、可能な限り広範かつオープンに適用され

るよう、入念に作成されなければならない。勧告は、ITU-T/ITU-R/ISO/IEC の共通特許ポ

リシー21に基づいて、知的財産権に関する要求に留意し、精緻化される。

例えば、ITU-T の作業に参加する当事者は、ITU-T ウェブサイトの「特許声明及びライ

センス宣言」フォームを使用し、当初から、自身又は他の組織のいずれかの既知の特許又

は既知の係属中の特許出願に、局長の注意を引くべきである。ITU-T 勧告を実施するため

に必要となる特許又は係属中の特許出願を保有する ITU-T 非加盟組織は、ITU-T ウェブサ

イトで利用可能な「特許声明及びライセンス宣言」を TSB に提出することができる。

TSB は、知的財産の使用、例えば、勧告案を実施するために必要となる特許又は著作

権侵害の存在を示す宣言を受領した場合、この状況を告知する。

20 “Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector”20 頁,“Alternative approval process for new and revised ITU-T Recommendations”2 頁 21 http://www.itu.int/ITU-T

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Ⅳ. ITU-R の標準策定プロセス

1. 組織構成22

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の無線通信部門である

ITU-R(Radiocommunication Sector)は、無線通信会議(世界無線通信会議(WRC:World

Radiocommunication Conference)、地域無線通信会議(RRC:Regional Radiocommunication

Conferenc))、無線通信総会(RA:Radio-communication Assembly)、研究委員会(SG:Study

Group)又は特別委員会(SC:Special Committee)、作業部会(WP:Working Party)又はタ

スクグループ(TG:Task Group)、会議準備会合(CPM:Conference for Preparatory Meeting)、

無線通信規則委員会(RRB:Radio Regulations Board)、無線通信アドバイザリグループ

(RAG:Radiocommunication Advisory Group)、無線通信局(BR:Radiocommunication Bureau)

等から構成される。

WRC は、無線通信規則や無線周波数の配分、RA 及び SG で検討すべき課題の検討等を

行う。CPM は、WRC の準備のため、報告書の取りまとめ等を行う。

RRC は、特定の地域における無線通信に関する問題の検討を行う。RA は、ITU-R 勧告

の承認や研究課題の承認、SG の構成に関する審議等を行う。SG は、研究領域ごとに設け

られ、傘下の WP に研究課題を割り当て、WP では、必要に応じてラポータグループ(RG:

Rapporteur Group)やコレスポンデンスグループ(CG:Correspondence Group)が設け

られる。

RAG は、SG の作業改善、SG 間の横断的な事項の検討、無線通信局長への助言等を行

う。RRB は、無線通信規則を適用した手続きの承認等を行う。BR は、事務局として、ITU-

R 全般の業務を運用する。

22 橋本明「ITU-R 研究委員会等における作業方法」ITU ジャーナル Vol. 44 No. 1 14-20 頁(2014 年 1 月)(以下

「ITU-R 研究委員会等における作業方法」という。)14-16 頁, https://www.ituaj.jp/wp-content/uploads/2013/05/2014_01-5_sf_r.pdf [ 終アクセス日:2017 年 11 月 9 日], ITU-R ウェブサイト(以下「ITR-R サイト」という。), http://www.itu.int/en/ITU-R/information/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2017 年 11 月 9日]

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図表 1-8 ITU-R の組織構成23

2. 標準策定プロセス24

ITU-R では、研究課題の提案と採択・承認、勧告案の作成と採択・承認の順に策定作業

が進められる。各提案は、加盟国の合意により採択(Adoption)された後、承認(Approval)

手続きを経ることができる。

図表 1-9 ITU-R の標準策定プロセス

23 「ITU-R サイト」 24 「ITU-R 研究委員会等における作業方法」16-19 頁

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(1) 研究課題の提案、採択・承認プロセス25

SG 内で提案された新規又は改訂された研究課題は、SG によって採択され、以下によっ

て承認される。

・ RA による承認

・ SG による採択の後、複数の RA の期間における協議による承認

(ⅰ) 採択26

新規又は改訂された研究課題(案)は、会合に出席する加盟国を代表する代表国が反対

しない場合、SG により採択されたものとみなす。代表国が採択に反対する場合、SG 議長

は、異議を解決するために、関係する代表国と協議しなければならない。SG 議長が異議を

解決できない場合、加盟国は異議の理由を書面で提供する。

(ⅱ) 承認27

SG が上記手続で新規又は改訂された研究課題(案)を採択した場合に、そのテキストが

加盟国によって承認するために提出される。

新規又は改訂された研究課題の承認は、以下により求められる。

・ 関連する SG によって研究課題が採択されるとすぐに加盟国の協議により求められる。

・ 妥当な場合に RA で求められる。

新規又は改訂された研究課題(案)が採択された SG 会合において、SG は、次の RA 又

は加盟国の協議のいずれかで承認するため研究課題を提出することを決定する。

協議によって承認のために研究課題(案)を提出することが決定された場合、以下の条

件と手続きが適用される。

・ SG の研究課題(案)の採択から1月以内に協議による承認手続きが適用され、局長は、

2 月以内に提案を承認するか否かを加盟国に示すよう要請する。この要請には、研究課

題の完全な 終文章が添付される。また、局長は、関連する SG の作業に参加している

セクタメンバーに、加盟国へ研究課題に関する回答を依頼していること通知する。

・ 加盟国からの回答の 70%以上が承認を示している場合、その提案を受け入れる。提案

25 ITU-R Resolution 1“Working methods for the Radiocommunication Assembly, the Radiocommunication Study Groups, the Radiocommunication Advisory Group and other groups of the Radiocommunication Sector”(2015 年 11月)(以下“Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”という。)ANNEX 2 A2.5 26 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.5.2.2 27 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.5.2.3

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が受け入れられない場合、その提案は SG に戻される。回答と共に受け取ったコメント

は、局長が収集し、検討のために SG へ提出される。

・ 研究課題(案)を承認しないことを示す加盟国は、その理由を提出し、SG や WP、TG

による将来の検討に参加するよう招かれる。

(2) 勧告案の作成、採択・承認プロセス28

勧告は、ITU-T/ITU-R/ISO/IEC の知的財産権に関する共通特許ポリシー29を考慮して作

成される必要がある。

既存の ITU-R 文書、及び、加盟国、セクタメンバー、アソシエイト、アカデミアからの

寄書(contribution)を考慮し、場合によっては、適切な WP、TG 又は JTG(Joint Task

Group)で合意された新規又は改訂された勧告案が作成され、研究が成熟した状態に達し

た場合、承認プロセスは以下の2段階に分かれる。

・ 該当する SG により採択される。状況に応じて、SG 会合において採択又は SG 会合の

後の書面により採択される。

・ 採択の後、加盟国により、又は、複数の RA 間の協議により、あるいは、RA において、

承認される。

(ⅰ) 採択30

勧告案(新案又は改訂版)は、会合に出席する加盟国又は書面で対応する加盟国を代表

する代表国が反対しない場合、SG によって採択されたものとする。代表国が採択に反対す

る場合、SG 議長は、異議を解決するために、代表国と協議しなければならない。SG 議長

が異議を解決できない場合、加盟国は異議の理由を書面で提供する。

局長は、SG 議長の要請に応じて、関連する SG 会合の開催を発表する際に、SG 会合で

新規又は改訂勧告の採択を求める意思を表明する。提案の情報がその発表に含まれていな

い場合、会合の少なくとも 4 週間前に、その情報はすべての加盟国及びセクタメンバーに

局長から配布される。SG は、SG 会合より少なくとも 4 週間前に電子形式で利用できるよ

う、そのテキストが SG 会合よりも十分前に準備されている場合に、新規又は改訂勧告案

を採択することができる。

新規又は改訂勧告案が SG 会合の議題に含めることが予定されない場合、SG 会合の参

28 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.6 29 http://www.itu.int/ITU-T/dbase/patent/patent-publications.html 30 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.6.2.2

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加者は、検討の結果、書面による新規又は改訂勧告案の採択を求めることができる。SG は、

新しい勧告案の要約と改訂された勧告案の要約に合意しなければならない。局長は、SG 会

合の後すぐに、書面により全ての SG の検討に関する作業に参加している全ての加盟国及

びセクタメンバーに、新規又は改訂勧告案を配布する。

SG の検討期間は、新規又は改訂勧告案が公表されてから 2 月である。SG の検討のため

の期間内に加盟国からの異議がない場合、新規又は改訂勧告は、SG によって採択されたも

のとみなされる。採択を拒否する加盟国は、局長及び SG 議長に異議の理由を通知し、異

議が解決できない場合、局長は次回のSG及び関連するWPの会合にその理由を提出する。

(ⅱ) 承認31

SG が新規又は改訂勧告案を上記手続きで採択した場合、その改定案は加盟国が承認す

るために提出される。

新規又は改訂勧告案の承認は、以下によって求められる。

・ 会合又は書面で当該 SG によって勧告案が採択された後すぐの加盟国の協議によって

求められる。

・ 妥当な場合、RA で求められる。

新規又は改訂勧告案が採択された、又は書面により SG に採択を求めることを決定した

SG 会合において、同時採択承認手続き(PSAA:procedure for simultaneous adoption and

approval)を用いることを SG が決定しない限り、SG は、次回の RA において、又は、加

盟国の協議によってのいずれかで、承認のための新規又は改訂勧告を提出することを決定

する。

協議により承認のための新規又は改訂勧告案を提出することが決定した場合、以下の条

件と手続が適用される。

・ 上記の方法に従って、SG の新規又は改訂勧告案の採択から 1 月以内に協議により承認

手続きが適用され、局長は、2 月以内に提案書を承認するか否かを示すよう加盟国に要

請する。この要請には、新規又は改訂勧告案の完全な 終文章が添付される。また、局

長は、関連する SG の作業に参加するセクタメンバーに、加盟国へ勧告案に関する協議

に回答を依頼していることを通知する。

・ 加盟国からの回答の 70%以上が承認を示している場合、その提案を受け入れる。提案

が受け入れられない場合、その提案は SG に戻される。回答と共に受け取ったコメント

は、局長が収集し、検討のために SG に提出される。

31 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.6.2.3

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- 104 -

・ 新規又は改訂勧告案を承認しないことを示す加盟国は、その理由を提出しなければな

らず、また、SG、WP、TG による今後の検討に参加するよう招かれる。

(ⅲ) 書面による同時採択承認32

SG が新規又は改訂勧告案を採択しないとき、SG は、会議に参加している加盟国の異議

がない場合に、書面による同時採択承認手続(PSAA)を行う。

SG 会合の後すぐに、局長は、新規又は改訂勧告案をすべての加盟国とセクタメンバーに

配布する。検討期間は、新規又は改訂勧告案の公表から 2 月である。この検討期間内に加

盟国からの異議を受領しなかった場合、新規又は改訂勧告案は、SG によって採択されたも

のとみなされる。PSAA 手続が採られているため、そのような採択は承認とみなされ、上

記の承認手続は不要となる。

この検討期間内に、加盟国からの異議が受理されて解決できない場合、新規又は改訂勧

告は採択されていないものとみなされ、通常の採択手順が適用される。採択を拒否する加

盟国は、局長及び SG 議長に異議の理由を通知し、異議が解決できないときは、局長は次

回の SG 及び関連する WP に理由を提出する。

32 “Working methods for the Radiocommunication Assembly etc.”ANNEX 2 A2.6.2.4

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- 105 -

Ⅴ. ISO(IEC 共通)の標準策定プロセス

1. 組織構成33

国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)は、総会(GA:

General Assembly)、理事会、理事会常設委員会(CSC:Council Standing Committee)、会長

諮問委員会、政策開発委員会、中央事務局(CS:Central Secretariat)、技術管理評議会(TMB:

Technical Management Board)、専門委員会(TC:Technical Committee)、分科委員会(SC:

Sub Committee)、作業グループ(WG:Working Group)等から構成される。

総会では、ISO 年次報告に関する活動や、ISO 長期戦略計画、財務事項等について取り

扱う。理事会は、財務監事、TMB メンバー及び政策開発委員会の議長の指名や中央事務局

の年間予算の決定等を行う。理事会常設委員会は、理事会財政常設委員会、理事会戦略・

政策常設委員会を含む。政策開発委員会は、適合性評価委員会(CASCO:Committee on

Conformity Assessment)、消費者政策委員会(COPOLCO:Committee on Consumer Policy)、

発展途上国対策委員会(DEVCO:Committee on Developing Country Matters)を含む。

TMB は、ISO の専門業務に関するすべての事項をとりまとめ、TC 及び SC の活動の監

視・承認等を行う。TC は、担当する技術分野の専門事項について検討し、標準作成を行い、

必要に応じて、SC や WG を設ける。中央事務局は、国際規格の出版・販売や総会、理事

会等の事務局等を行う。

33 JISC ウェブサイト(以下「JISC サイト」という。), http://www.jisc.go.jp/international/iso-guide.html [ 終アク

セス日:2017 年 11 月 13 日], ISO ウェブサイト(以下「ISO サイト」という。), https://www.iso.org/structure.html [ 終アクセス日:2017 年 11 月 13 日]

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- 106 -

図表 1-10 ISO の組織構成34

2. 標準策定プロセス35

ISO では、予備段階、提案段階、作成段階、委員会段階、照会段階、承認段階、発行段

階の順に作業が進められる。なお、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical

Commission)でも同様の作業プロセスとなる。

34 「ISO サイト」 35 「JISC サイト」, ISO/IEC Directives, Part 1, Consolidated ISO Supplement(2017 年)(以下“Consolidated ISO Supplement”という。)SECTION 2

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- 107 -

図表 1-11 ISO(IEC)の標準策定プロセス

(1) 予備段階(Preliminary stage36)

TC 又は SC は、まだ十分に成熟しておらず、目標日を設定することができない(例えば、

新技術を扱う課題に対応する)予備作業項目(PWI:Preliminary Work Items)を、次の

段階で処理するため、P メンバーの過半数の投票により、作業計画に導入することができ

る。

この段階は、新作業項目提案(NP:New work item Proposal)の精緻化と初期原案の作

成に使用することができる。

(2) 提案段階(Proposal stage37)

各国加盟機関や、TC 又は SC の幹事などは、新作業項目提案(NP:New work item

Proposal)を作成し、中央事務局(又は関連委員会)へ提出する。

36 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.2 37 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.3

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- 108 -

中央事務局は各国に提案に賛成か反対かを 12 週以内に投票するよう依頼し、投票した

TC/SC の P(積極的参加)メンバーの 2/3 以上が賛成している場合、かつ、P メンバーの

総数が 16 国以下の場合は 4 ヶ国以上の P メンバーが審議に参加し、P メンバーの総数が

17 国以上の場合は 5 ヶ国以上の P メンバーが審議に参加している場合、提案は承認され

る。

(3) 作成段階(Preparatory stage38)

提案の承認後、TC 又は SC の WG において作業原案(WD:Working Draft)の策定に

当たり、プロジェクトリーダーと P メンバーによって指名されたエキスパートが協力して

作業を進める。

作成された作業原案は、第一次委員会原案(first Committee Draft)として TC 又は SC

に回付するため、中央事務局によって登録される。

(4) 委員会段階(Committee stage39)

委員会原案(CD:Committee Draft)は、回付可能になり次第、検討のために TC 又は

SC の全ての P メンバー及び O メンバーに回付される。回答期限は、TC 又は SC の合意に

よって、8、12、16 週のいずれかである(初期値は 8 週)。

回答期限後、幹事国は、コメント集を作成し、TC 又は SC の全ての P メンバー及び O

メンバーに回付する。コメント集の作成にあたり、会議において審議され、合意が得られ

ない場合、改訂 CD が回付される。TC 又は SC の P メンバーのコンセンサスが得られる

まで作業が進められる。コンセンサスが得られない場合、TC 又は SC で投票した 2/3 以上

の賛成があれば、承認されたものとみなされる。

承認された 終版は、国際規格原案(DIS:Draft International Standard/CDV:

Committee Draft for Vote)として回付するため、中央事務局によって登録される。

(5) 照会段階(Enquiry stage40)

登録された DIS/CDV は、TC/SC メンバーだけでなく全ての加盟国に投票のため、12 週

間回付される。

DIS/CDV は、投票した TC 又は SC の P メンバーの 2/3 以上が賛成、かつ、反対が投票

38 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.4 39 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.5 40 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.6

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総数の 1/4 以下の場合に、承認される。承認基準を満たさない場合、改訂版の回付やコメ

ントの審議が行われる。

承認基準を満たしている場合、 終国際規格案(FDIS:Final Draft International

Standard)として回付するため、又は、国際規格(IS:International Standard)として

発行するため、中央事務局によって登録される。

(6) 承認段階(Approval stage41)

中央事務局は、登録された 終国際規格案(FDIS)を、全ての加盟国に投票のため 8 週

間回付する。

FDIS は、投票した TC 又は SC の P メンバーの 2/3 以上が賛成し、かつ、反対が投票総

数の 1/4 以下の場合に、IS として承認される。承認されなかった場合、再検討をするため

に、修正原案を CD、DIS 又は FDIS として、TS 又は SC に差し戻す。

(7) 発行段階(Publication stage42)

中央事務局は、照会又は承認の後、国際規格(IS)を印刷し配布する。

41 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.7 42 “Consolidated ISO Supplement”SECTION 2.8

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- 110 -

資料2 標準化機関と特許ポリシー

資料2では、デジュール標準とフォーラム標準について、その特許ポリシー及び特許宣

言書の状況について説明する43。

以下、図表2-1~図表2-2に標準化団体を示す。また、図表2-3~図表2-4に使用許諾条件を

示す。

図表 2-1 標準化団体リスト(デジュール標準)

国・地域 略称 名称(英)

44

WorldWide ITU●45★46 International Telecommunication Union

WorldWide ISO●★ International Organization for Standardization

WorldWide IEC●★ Intenational Electrotechnical Commission

WorldWide ICAO International Civil Aviation Organization

WorldWide IMO International Maritime

47

米州 CITEL★ Inter-American Telecommunication Commission

欧州 CEN● European Committee for Standardization

欧州 CENELEC●★ European Committee for Electrotechnical

Standardization

欧州 ETSI●★ European Telecommunications Standards Institute

欧州 CEPT European Conference of Postal

アジア他 ACCSQ ASEAN Consultative Committee on Standards and

Quality

アジア他 APT Asia-Pacific Telecommunity

アジア他 ASTAP★ Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program

アジア他 GSC Grobal Standards Collaboration

43 平成 28 年度特許庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関

する調査研究報告書」(一般財団法人知的財産研究教育財団、2017 年 3 月)(以下「主要国における標準必須特許の権利

行使の在り方に関する調査研究報告書」という。)10-43 頁の情報を更に標準化機関を加筆した。 44 国際的に幅広く適用される規格 45 ●印:「主要国における標準必須特許の権利行使の在り方に関する調査研究報告書」10-43 頁において挙げられている

もの(図表 2-1、図表 2-2 において同じ)。 46 ★印:「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会総務省説明資料」(2017 年 3 月)11 頁

において、「主な標準化機関やフォーラム」として挙げられているもの。なお、当該資料には、DLNA(Digital Living Network Alliance)も掲載されていたが、2017 年 1 月に解散を表明し、認証業務を SpireSpark International が承継

したことから、その説明を割愛した(図表 2-1、図表 2-2 において同じ)。 https://spirespark.com/dlna/certification-blog-full/2017/1/31/certification-updates-transition 47 特定の地域内で適用される規格

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アジア他 PASC Pacific Area Standards Congress

アジア他 ATU African Telecommunications Union

48

日本 JISC● 日本工業標準調査会

日本 TTC●★ 一般社団法人情報通信技術委員会

日本 ARIB●★ 一般社団法人電波産業会

日本 JCTEA 日本 CATV 技術協会

米国 ANSI● American National Standards Institute

米国 ATIS★ Alliance for Telecommunications Industry Solutions

米国 NIST National Institute of Standards and Technology

米国 TIA★ Telecommunications Industry Association

米国 UL Underwriters Laboratories Inc

欧州 BSI● British Standards Institution

欧州 DIN Deutsches Institut für Normung

欧州 DKE● Deutsches Kommission Elektrotechnik Elektronik

Informationstechnic in DIN und VDE

欧州 AFNOR● Association Française de Normalisation

欧州 NEN● Nederlands Normalisatie-instituut

欧州 NEC● Koninklijk Nederlands Elektrotechnisch Comité

中国 SAC● Standardization Administration of People's Republic of

China

中国 CCSA China Communications Standards Association

香港 ITCHKSAR● Innovation and Technology Commission Hong Kong

Special Administrative Region

韓国 KATS● Korean Agency for Technology and Standards

韓国 TTA★ Telecommunications Technology Association of Korea

インド BIS● Bureau of Indian Standards

インド TSDSI Telecommunications Standards Development Society,

India

シンガポール SPRING

Singapore●

Standards, Productivity and Innovation Board

48 各国内のみで適用される規格

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図表 2-2 標準化団体リスト(フォーラム標準)

略称 名称(英)

IEEE●★

3GPP★

3GPP2 Third Generation Partnership Project 2

ASME American Society of Mechanical Engineers

ASTM International

ATSC Advanced Television Systems Committee

AVANCI

BBF BroadBand Forum

BDA Blu-ray Disc Association

CJK IT Standards Meeting

DVD Forum

ECHONET Consortium

Ecma International

EIA Electronic Industries Alliance

HD-PLC Alliance

HGF HomeGrid Forum

IETF★ Internet Engineering Task Force

JEDEC Joint Electron Device Engineering Council

MEF Metro Ethernet Forum

OASIS Organization for the Advancement of Structured Information Standards

OIF Optical Internetworking Forum

OMA★ Open Mobile Alliance

oneM2M

ONF Open Networking Foundation

SMPTE Society of Motion Picture and Television Engineers

TMF TeleManagement Forum

VESA Video Electronics Standards Association

W3C★ World Wide Web Consortium

Wi-Fi Alliance

WiMAX Forum

Wi-SUN Alliance

Zigbee Alliance

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図表 2-3 特許ポリシーの使用許諾条件(デジュール標準)49

必須特許を使用許諾するか否かについては、各参加企業が次の3つのうちの1つを選択

する方法が、多くの標準化団体で採用されている。

① 1 号選択:無償で許諾(又は権利放棄)

② 2 号選択:公平・妥当かつ非差別的な条件で有償許諾

③ 3 号選択:その他(1 号及び 2 号の取り扱いをしない)

2 号における「公平・妥当かつ非差別的な条件」は、「FRAND(Fair, Reasonable And

Non-Discriminatory)条件」とも呼ばれている。

国・地域 略称 使用許諾条件

50

WorldWide ITU*51 1,2,3 号選択(共通の特許ポリシーを使用)

WorldWide ISO*

WorldWide IEC*

WorldWide ICAO▲ -52

WorldWide IMO▲ -

53

米州 CITEL▲ -

欧州 CEN▲54 1,2,3 号選択(共通の特許ポリシーを使用)

欧州 CENELEC▲

欧州 ETSI* 2,3 号(1 号については明確な記載なし)

欧州 CEPT▲ -

アジア他 ACCSQ▲ -

アジア他 APT▲ 1,2,3 号選択

アジア他 ASTAP▲ 1,2,3 号選択

アジア他 GSC▲ -

アジア他 PASC▲ -

日本 JISC▲ 1,2,3 号選択

日本 TTC* 1,2,3 号選択

日本 ARIB* 1,2,3 号選択

49 中村修「標準化技術をめぐる特許問題対策の動向」NTTドコモ テクニカルジャーナル Vol.17 No.1(2009 年 4月)(以下「標準化技術をめぐる特許問題対策の動向」という。)60 頁 50 国際的に幅広く適用される規格 51 *印:1 号~3 号の使用許諾の分類は、「標準化技術をめぐる特許問題対策の動向」60 頁において、使用許諾条件が

確認できるものを参照(図表 2-3、図表 2-4 において同じ)。 52 -印:調査した公開情報の範囲では特許ポリシーが発見できなかった(図表 2-3、図表 2-4 において同じ) 53 特定の地域内で適用される規格 54 ▲印:1 号~3 号の使用許諾の分類については特許ポリシーや特許宣言書のフォーマットなどを考慮して、一般社団

法人知的財産研究教育財団が独自に判断(図表 2-3、図表 2-4 において同じ)。

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55

日本 JCTEA -

米国 ANSI▲ 1,2 号選択

米国 ATIS▲ ANSI 特許ポリシーの条項(1,2 号選択)が適用さ

れる。

米国 NIST▲ 実施許諾可能なものがある。詳細は本文を参照。

米国 TIA* 1,2,3 号選択

米国 UL 1,2 号選択

欧州 BSI▲ 1,2,3 号選択

欧州 DIN▲ 1,2,3 号選択

欧州 DKE▲ 1,2,3 号選択

欧州 AFNOR▲ 1,2,3 号選択

欧州 NEN▲ 1,2,3 号選択

欧州 NEC▲ 1,2,3 号選択

中国 SAC 具体的運用規則無し。

中国 CCSA▲ 1,2,3 号選択

香港 ITCHKSAR▲ 特許ポリシーも特許宣言もない

韓国 KATS -

韓国 TTA -

インド BIS -

インド TSDSI▲ 2 号

シンガポール SPRING

Singapore

内部手続において、ISO の特許ポリシーを参照し

ているようであるが、公表されているものはない

55 各国内のみで適用される規格

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図表 2-4 特許ポリシーの使用許諾条件(フォーラム標準)

略称 使用許諾条件

IEEE* 1,2,3 号選択

3GPP* 標準機関パートナー(OP:Organization Partner)に従う56

3GPP2▲ 標準機関パートナー(OP:Organization Partner)に従う57

ASME▲ 標準必須特許の取扱いに言及した規定は無い

ASTM International ASTM International 説明欄参照

ATSC▲ 1,2,3 号選択

AVANCI -

BBF▲ 1,2,3 号選択58

BDA 対会員:2 号

対非会員:①フルライセンス権を有する場合には、非会

員が互恵性を約束するときは 2 号、②フルライセンス権

を有していない場合には、非会員が互恵性を約束すると

きは 2 号でライセンスする合理的努力をする。

CJK IT Standards

Meeting

DVD Forum -

ECHONET Consortium

1,2 号選択

Ecma International▲ 1,2,3 号選択

EIA [2011 年解散]

HD-PLC Alliance -

HGF▲ 2 号

IETF* 1,2,3 号選択(ただし、3 号は権利不主張等、権利者から

使用許諾を得る必要なく使用を許可する)

JEDEC▲ 2 号

MEF▲ 1,2 号選択

OASIS▲ 1,2,3 号選択(ただし、3 号は権利不主張条件)

OIF▲ 1,2,3 号選択

OMA* 2 号

56 3GPP の標準機関パートナー(OP)は、ETSI/TIA/TTA(韓国)/TTC/ARIB/CCSA(中国)である 57 3GPP2 の標準機関パートナー(OP)は、ARIB/CCSA(中国)/TIA/TTA(韓国)/TTC である 58 有償か無償かは会員が選択できるものの、RAND 条件でライセンスする特許と、RAND ライセンスを希望しない特

許を記入することができる。

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oneM2M Partner59の特許ポリシーに従う

ONF▲ 1 号(会員に対し、無償かつ FRAND 条件下でのライセ

ンス)

SMPTE▲ 1,2 号選択

TMF -

VESA▲ 1,2,3 号選択

W3C* 1 号

Wi-Fi Alliance 1,2,3 号選択

WiMAX Forum* 2 号選択

Wi-SUN Alliance▲ 1,2,3号選択。概要は以下の通り60。 a)実施者はライセンス不要 b)無償で、合理的で非差別的ライセンス c)有償で、合理的で非差別的ライセンス d)ライセンス供与(上記a)、b)、c)のいずれかを委ねよ

うとする意思。 e)上記a)、b)、又はc)の規定を遵守しないこと f)条件の記述

Zigbee Alliance▲ 2 号

59 Partner Type 1 は、ARIB、ATIS、CCSA、ETSI、TIA、TSDSI、TTA、TTC であり、Partner Type 2 は、

Broadband、CEN、CENELEC、、GlobalPlatform、OMA である。 60 https://www.wi-sun.org/images/assets/docs/Wi-SUN_Alliance_Patent_Disclosure_v1.pdf [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日]

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Ⅰ. デジュール標準

1. 国際機関

(1) ITU:International Telecommunication Union

(国際電気通信連合61)

【機関の概要】

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、1865年にパリで開

催された第1回万国電信会議(International Telegraph Convention)において創設された万

国電信連合(International Telegraph Union、スイス・ベルンに所在)と、1906年にベルリ

ンで開催された第1回国際無線電信会議(International Radio-telegraph Conference)におい

て創設され、その事務局を万国電信連合に設けることが決定された国際無線電信連合が前

身とされている。

1924年に国際電話諮問委員会(CCIF:Comité consultatif international téléphonique;

International Long-distance Telephone Consultative Committee)が創設され、1925年にCCIF

が万国電信連合に組み込まれるとともに、国際電信諮問委員会(CCIT:Comité Consultatif

International Télégraphique; International Telegraph Consultative Committee)も創設され、

1927 年に国際無線通信諮問委員会( CCIR:Comité Consultatif Internationale des

Radiocommunications; International Radio Consultative Committee)が創設された。

1932年マドリッドにおいて、万国電信会議と国際無線電信会議が合併され、新しい名称

が国際電気通信連合(International Telecommunication Union)と決定された。

ITUは1948年にスイス・ジュネーヴに本部を移し、ITUと国際連合との合意により、1949

年に国際連合の電気通信のための専門機関となった。

1956年にCCIFとCCITが合併して、国際電信電話諮問委員会(CCITT:Comité Consultatif

International Téléphonique et Télégraphique; International Telephone and Telegraph

Consultative Committee)が形成された。

1992年に、ITUの改組が行われ、CCITTは、主に有線の電気通信技術の標準化を行う電

気通信標準化部門(ITU-T:Telecommunication Standardization Sector)に、CCIR及び国際

周波数登録委員会(IFRB:International Frequency Registration Board)が、主に無線通信

技術の標準化や電波周波数の割り当てなどを行う無線通信部門( ITU-R :

Radiocommunication Sector)となり、新たに電気通信開発部門(ITU-D:Telecommunication

61 「Innovation and Intelligent Transport Systems」(ITU), http://www.itu.int/en/Pages/default.aspx [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日]

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Development Sector)が創設された62。

ITUの目的は、「あらゆる種類の電気通信の改善と合理的利用のため全ての加盟国間の国

際協力を維持拡大し、連合への組織の参加を奨励・増進し、連合の目的に具現化された全

体の目的の充足のために組織及び加盟国間の成果ある協力及び結び付きを促進し、電気通

信の分野において開発途上国に技術的援助を奨励、提供し、その実施に必要とされる、物

的、人的、財政的資源の流動性並びに情報の入手を奨励し、電気通信サービスの効率を改

善する目的で、技術的施設の開発及びそれらの有益性を増大し、それらを公衆へ広く可能

な限り利用可能とするように、その 大の効率的運用を奨励し、新たな電気通信技術の恩

恵の全世界の住民への拡大を奨励し、和平関係を促進する目的で電気通信サービスの利用

を奨励し、加盟国間の行動を調和し、それらの目的の獲得における加盟国及び部門会員間

の成果のある建設的な協力及び結び付きを奨励し、世界的情報経済及び社会における電気

通信問題に、他の世界的及び地域的政府間組織並びに電気通信に関する非政府組織との協

力により、より広い取組の採用を国際的レベルで奨励すること」とされている63。

【会員】

会員は、加盟国と、Sector Members64、Associates65及びAcademia66の会員資格が認め

られており、ITU-T、ITU-R、ITU-Dのセクターを選択して参加できる。2017年現在、会

員数は、193ヶ国の加盟国、551のSector Members、167のAssociates及び134のAcademia

となっている67。

例えば、加盟国として、日本は総務省(MIC)、英国は文化・メディア・スポーツ省(DCMS)、

ドイツは連邦経済資源省(BMWi)、オランダは経済省(EZ)、韓国は未来創造科学部(MSIP)、

中国は工業情報通信化部(MIIT)、シンガポールは通信情報省(MCI)など、各国の情報

通信等を所管する官庁が参加している。なお、フランス及びインドは、省庁改編で現在の

所管庁が確認できていない。また、香港は加盟していない。

【組織】

標準を作成する技術的作業の管理は、ITU-Tについては、電気通信標準化局(TSB:

Telecommunication Standardization Bureau)、 ITU-Rについては、無線通信局(BR:

Radiocommunication Bureau)、ITU-Dについては、電気通信開発局(BDT:Telecommunication

62 http://www.itu.int/en/history/Pages/ITUsHistory.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 63 Collection of the basic texts adopted by the Plenipotentiary Conference 2015, http://www.itu.int/en/history/HistoryDigitalCollectionDocLibrary/constitutionsConventions/5.21.61.en.100.pdf ITU の日本語での概要は一般財団法人日本 ITU 協会のウェブサイト参照(https://www.ituaj.jp/?page_id=151 [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日]) 64 https://www.itu.int/online/mm/scripts/gensel11 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 65 https://www.itu.int/online/mm/scripts/gensel11?_memb=A [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 66 https://www.itu.int/online/mm/scripts/gensel11?_memb=U [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 67 List of Member States, https://www.itu.int/online/mm/scripts/gensel8 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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Development Bureau)で行われ、それぞれに、国際標準化機構(ISO:International

Organization for Standardization)、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical

Commission)の専門委員会(TC:Technical Committee)に相当する研究グループ(SG:ITU-

T Study Groups:Study Period 2017-2020)が設置され、各SGには、課題(Q:Question)と

いう名称で複数のプロジェクトが設置されている68。

【規格等】

ITU-Rの勧告総数は調査した公開情報の範囲では発見できなかったが、ITU-Tにおいて

現在有効な勧告数は4,000以上とされており69、勧告の情報は、ITU-T70及びITU-R71から入

手できる。

【特許ポリシー】

特許に関しては、「共通特許ポリシー」「ITU-T/ITU-R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施

ガイドライン72」がある。全体の説明はISOの項に譲るが、「II.1 ITU特有の規定」では、

ITU独自の「包括特許声明書及び実施許諾宣言書様式」について述べられており、勧告を

特定しない宣言が可能となっている。これは、早期の宣言を可能とするために設けられた

ITU独自の手続で、勧告ごとの宣言を代替するものではないとされている。

1996年に、ITU-Tの電気通信標準化アドバイザリグループ(TSAG:Telecommunication

Standardization Advisory Group)がTSBに知的財産権特別グループ(AHR-IPR:Ad Hoc

Group on IPR)73を設置し、特許ポリシー及びガイドライン等に関する研究に責任を負っ

ており、加盟国及びITU-TのSector Members、その他の関係組織が参加できる。作成され

た改訂案はITU/ISO/IEC World Standards Cooperation(WSC)74会議の特許作業部会

(Patent Task Force)にて検討される。

ITU-R及びITU-Tに提出された特許宣言はITUのウェブサイト75で確認できる。

68 http://www.itu.int/en/ITU-R/study-groups/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], http://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2017-2020/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], http://www.itu.int/net4/ITU-D/CDS/sg/index.asp?lg=1&sp=2014 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 69 http://www.itu.int/en/ITU-T/publications/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 70 「ITU-T Recommendations」(ITU), http://www.itu.int/pub/T-REC [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 71 「ITU-R Recommendations」(ITU), http://www.itu.int/pub/R-REC [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], http://www.itu.int/rec/D-REC-D/e [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 72 http://www.itu.int/en/ITU-T/ipr/Pages/policy.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], http://www.itu.int/dms_pub/itu-t/oth/04/04/T04040000010004PDFE.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 73 http://www.itu.int/en/ITU-T/ipr/Pages/adhoc.aspx 74 http://www.worldstandardscooperation.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 75 ITU-R:ITU Patent Statement and Licensing Declaration Information, http://www.itu.int/net/ITU-R/index.asp?redirect=true&category=study-groups&rlink=patents&lang=en&company=&recommendation=&patent=&country=&receiveddate_type=&receiveddate_dd=&receiveddate_mm=&receiveddate_yyyy=&SearchText [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], ITU-T Recommendation-specific Patent Information Database, http://www.itu.int/net4/ipr/search.aspx?sector=ITU&class=PS [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 120 -

(2) ISO:International Organization for Standardization

(国際標準化機構76)

【機関の概要】

国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)は、前述の国際電

気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)と異なり、国際連合の組織では

ないが、「物及びサービスの国際的な取引を促進し、並びに知的、科学的、技術的及び経済

的活動の領域での協力を発展させることを目的として、世界における標準の開発及び関連

する活動を奨励すること」を目的として、1947年にスイス・ジュネーヴに設立された準政

府国際機関であり、その限りにおいて、スイス民法典77第60条以降に従う社団法人である。

【会員】

機構の会員としては国際連合機構によって公式に認められた各国の一つの標準化機関が

参加でき、個人又は企業は会員にはなれない。機構の総会(GA:General Assembly)の決

定に基づいて運営され、訴訟手続が必要とされる会員・職員間の紛争は、専らスイス法に

従い、管轄はジュネーヴの州(Canton)及び共和国の裁判所にある78。

会員数は、2017年現在、163ヶ国(正会員:119、通信会員:41、購読会員:3)であり、

例えば、日本は日本工業標準調査会(JISC)、米国は米国国家規格協会(ANSI)、英国は英

国規格協会(BSI)、ドイツはドイツ規格協会(DIN)、フランスはフランス規格協会

(AFNOR)、オランダはオランダ規格協会(NEN)、インドはインド規格協会(BIS)、韓

国は韓国産業通商資源部国家技術標準院(KATS)、中国は国家標準化管理委員会(SAC)、

香港は香港特別区創新科技署(ITCHKSAR)、シンガポールは通商産業省下のSPRING

Singaporeが参加している

79。

【組織】

標準を作成する技術的作業の管理は技術管理評議会(TMB:Technical Management Board)

で行われ、標準開発を率いる専門委員会(TC:Technical Committees)に対しても責任を有

General Patent Statement and Licensing Declaration Database, http://www.itu.int/ITU-T/dbase/patent/files/genpsld-db.doc [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 76 Organisation internationale de normalization. ISO ウェブサイト, http://www.iso.org/iso/home.htm [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 77 Code civil Suisse, https://www.admin.ch/opc/fr/classified-compilation/19070042/index.html [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日] 78 ISO Statutes http://www.iso.org/iso/statutes.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] ISO の沿革は The ISO story(http://www.iso.org/iso/home/about/the_iso_story.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日])に、また詳細には、ISO Central Secretariat, FRIENDSHIP AMONG EQUALS Recollections from ISO's first fifty years, 1997 に記載されている(http://www.iso.org/iso/2012_friendship_among_equals.pdf [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日])。 79 ISO members, http://www.iso.org/iso/home/about/iso_members.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 121 -

する。各TCには必要に応じて分科委員会(SC:Sub Committees)や作業グループ(WG:

Working Groups)が設置されている。2015年末現在で、238のTC、521のSC、2,625のWG、

151のアドホックグループ(AHG:Ad Hoc Groups)が活動している80。TC、SC、WGなど

は、全てが実際にジュネーヴに設置されているわけではなく、各国の会員機関が分担して

担当している。また、各TC、SC、WGなどに対して、必要に応じて日本国内に対応する国

内委員会が設けられ、関係する業界団体や学会が標準の開発を担当している。

【規格】

規格数は、2015年末時点で、21,133規格(2015年は1,505規格を発行)あり、ISO

Standards、ISO/PAS Publicly Available Specifications、ISO/TS Technical Specifications、

ISO/TR Technical Reports、IWA International Workshop Agreements、ISO Guidesが制

定されている81。規格の情報はISOのウェブサイトStandards catalogueから標準の分類別

又はTC別に検索できる82。

【特許ポリシー】

特許に関しては、「ISO/IEC指針第1部ISO補足統合版ISO特有の手続83」の2.14において、

国際標準の開発過程における特許化された事項について規定されており、例外的ではある

が、技術上の理由で妥当性があるなら、たとえ規格の条項として適用され他の代替手段が

ないような場合であっても、特許の対象となる項目の使用を含む条件でISを開発すること

を原則として妨げるものではないが、専門的な理由から、特許権が適用される項目の使用

を含む文書を作成することが妥当である場合には、次の手順に従わなければならないとし

ている。

(a) 文書の提案の提案者は、自らが認識し、提案の項鋤こ関係があると考える特許権につ

いて、委員会の注意を喚起しなければならない。規格文書の作成に携わる関係者は、

文書の作成段階において気付いた特許権について、委員会の注意を喚起しなければ

ならない。

(b) 専門的見地から提案が承認された場合、提案者は、特定された特許権の所有者に対

80 Technical committees, http://www.iso.org/iso/home/standards_development/list_of_iso_technical_committees.htm [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日] 81 日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)ウェブサイト「ISO の概要」, https://www.jisc.go.jp/international/iso-guide.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 82 ISO のウェブサイト Standards catalogue から検索できる。http://www.iso.org/iso/home/standards.htm [ 終アク

セス日:2018 年 1 月 5 日] 83 ISO/IEC Directives Part 1 and Consolidated ISO Supplement, Procedures specific to ISO, eighth edition, 2017 https://www.iso.org/directives-and-policies.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] また、日本規格協会の英和対訳版が公開されている。https://www.jsa.or.jp/datas/media/10000/md_1880.pdf [ 終アク

セス日:2018 年 1 月 5 日] なお、ISO と IEC は共同で ISO/IEC Joint Technical Committee (JTC)を構成しており、共通の指針を発行している。

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し、所有者が合理的かつ非差別的条件の下に、世界のどの申請者とも、所有する権利

のライセンス交渉を世界中で進んで行う旨の声明書を提出するよう求めなければな

らない。このような交渉は当事者に任され、ISO及び/又はIECの外部で行われる。特

許権の所有者の声明書は、適宜、ISO中央事務局又はIEC中央事務局に登録され、当

該文書の序文で引用されなければならない。権利の所有者がこのような声明書を提

出しない場合、当該委員会は、ISO、理事会又はIEC評議会のしかるべき許可なく、

特許権の対象項目を規格文書に含めてはならない。

(c) 理事会が承認を与えない限り、特定されたすべての特許権所有者の声明文を受領す

るまで、文書を発行してはならない。

文書の発行後に、その文書に記載されている項目に適用されると思われる特許権に基づ

くライセンスが、合理的かつ非差別的条件に基づいて獲得できないことが判明した場合、

その文書は当該委員会での検討のために差し戻される。

なお、「ISO/IEC指針第2部ISO及びIEC文書の構造と作成のための原則及び規則84」にも

特許に関する記載があるが、全て第1部が参照されている。

特許ポリシーは、後述するITU-T、ITU-R及びIECと共通に作成された「共通特許ポリシ

ー85」があり、 新版は2012年の改訂版である。特許ポリシーは「実務基準」(code of practice)

であるとし、その対象は、ITUにおいては「勧告(Recommendations)」、ISO及びIECに

おいては「成果物(Deliverables)」であるが、「勧告」や「成果物」には拘束力がない。そ

の理由は、技術及びシステムの互換性を世界中で確保することであり、そのために、「勧告」

や「成果物」、その応用について、何人にも利用可能であることが確保されなければならな

いことによる。したがって、「勧告」や「成果物」に完全に又は部分的に具現化されている

特許は、不当に制限されることなく利用できなければならないとした上で、特許に起因す

る詳細な取決め(実施許諾、実施料等)は、状況に応じて異なるため、関係当事者に委ね

るとしている。

特許ポリシーの第1項は「標準化機関の事務局は、特許等の権利の証拠、有効性又は範囲

についての権限のある又は包括的な情報を提供する立場にないが、 大限利用可能な情報

が開示されることが望ましい。したがって、作業に参加しているあらゆる当事者86は、 初

から、自己又は他の組織かにかかわらず、あらゆる既知の特許又は係属中の特許出願に標

準化機関の当局の注意を促すべきである。もっとも、標準化機関は、これらの情報の有効

84 Principles and rules for the structure and drafting of ISO and IEC documents, http://www.iso.org/iso/home/standards_development/resources-for-technical-work/iso_iec_directives_and_iso_supplement.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 日本規格協会の英和対訳版が公開されている。 https://www.jsa.or.jp/datas/media/10000/md_344.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 85 COMMON PATENT POLICY FOR ITU-T/ITU-R/ISO/IEC 86 ISO 及び IEC については、参加している当事者とは、標準開発のいかなる段階でも標準草案の受領者を含むとして

いる。

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性を検証することはできない。」としている。

特許ポリシーの第2項は「勧告・成果物が開発され、第1項に言及されたような情報が開

示されていれば、以下の三つの異なる状況が生じ得るとして:

2.1 特許権者は他の当事者と、合理的条件で非差別に(on a non-discriminatory basis on

reasonable terms and conditions)、無償の実施許諾を交渉する意思がある。

そのような交渉は関係当事者に委ねられ、標準化機関の外で行われる。

2.2 特許権者は他の当事者と、合理的条件で非差別に(on a non-discriminatory basis on

reasonable terms and conditions)、実施許諾を交渉する意思がある。

そのような交渉は関係当事者に委ねられ、標準化機関の外で行われる。

2.3 特許権者は2.1又は2.2の規定に従う意思はなく、そのような場合は、勧告・成果物は特

許に依存する規定を含まないものとする。」としている。

特許ポリシーの第3項は、「2.1、2.2及び2.3のいずれの場合でも、特許権者は、「特許声明

及び実施許諾宣言」(Patent Statement and Licensing Declaration)の様式を用いて、特

許標準化機関に保管されるべく、声明書を提供しなければならない。この声明書は、様式

の対応する欄にそれぞれの場合に設けられた事項を越える、付加的な規定、条件、又はそ

の他の除外条項を含んではならない。」としている。

「ITU-T/ITU-R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施ガイドライン87」では、「1.1 目的」に

おいて「特許ポリシーは、開発中の勧告・成果物に関係する可能性のある特許の早期の開

示と特定を奨励し、それによって、標準開発のより高い効率性が可能になり、潜在的特許

権問題を回避することができる」としているが、国際標準化機関としてのISO、IEC、ITU

自体は、「勧告・成果物に関する特許の関連性又は必須性を評価することに関与せず、実施

許諾交渉に干渉せず、特許に関する紛争解決に関わることはしない。このことは、これま

でどおり、関係当事者に委ねられるべきである。」としている。

「1.2 用語の説明」において、「特許:単語「特許」は、専らクレームが勧告・成果物の

実施に必須である限りにおいて、発明に関する特許、実用新案及びその他類似の法的権利

(それらの出願を含む)に含まれ特定されるクレームを意味する。必須特許は特定の勧告・

成果物を実施するのに必要な特許である。」と定義している。

「1.3 特許の開示」においては、「情報は、誠実に、 善の努力で提供されなければなら

ない」としつつも「特許検索は求められない」としている。また、「技術専門組織に参加し

ていない者も既知の特許に注意を促すことができる」としている。さらに、「潜在的特許権

者は、該当する場合、機関より宣言様式を提出するように求められる」としている。また、

87 Guideline for Implementation of the Common Patent Policy for ITU-T/ITU-R/ISO/IEC. Revision 2, effective 26 June 2015, http://www.iso.org/iso/home/standards_development/governance_of_technical_work/patents.htm [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日] 指針第 1 部にも付属書類(Annex I)として掲載されている。

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特許ポリシー及びガイドラインは勧告・成果物の承認後に開示されたり、注意喚起された

特許にも適用されたりするとしている。

「1.4 特許声明書及び実施許諾宣言書」においては、様式の記載方法や提出方法が具体

的に述べられている。特に、「実施許諾宣言は、被実施許諾者の視点から、より有利な条件

を含む他の宣言によって置き換わるのでなければ、有効とされる」と規定されている。

「1.5 会議の実施」では、技術専門組織の議長は、必要に応じて、関係する特許を確認す

ることができ、その場合、確認した事実とその結果を記録に残すことが求められている。

さらに、2.3を選択した特許権者の指摘がない限り、勧告・成果物は承認されるが、技術専

門組織は、「主張された特許の必須性、範囲、有効性又は特定の実施許諾条件について見解

を示すことはできない。」とされている。

「1.6 特許情報データベース」には、各機関は、提出された「特許声明書及び実施許諾宣

言書」及びそこに含まれる特許情報をデータベースとして公開することが述べられている。

「1.7 特許の譲渡又は移転」では、「特許声明書及び実施許諾宣言書様式」には特許の譲

渡又は移転に関する規則が含まれており、特許権者は、これらの規則を遵守することで、

譲渡又は移転後の実施許諾の約束に関する義務及び責任の全てから完全に解放される。こ

れらの規則は、移転後の譲受人又は被移転人による実施許諾の約束の遵守を強制する義務

を特許権者に負わせることを意図したものではないとされている。

ガイドラインの第2部には、各機関特有の規定が述べられており、ISOについては、成果

物の草案に特許情報の提供を求める文章を記載する方法、及び発行された文書において、

特許が特定されている場合と、特定されていない場合のそれぞれの注意書の記載方法が述

べられている。

特許声明書及び実施許諾宣言書の様式88には、特許ポリシーに示された実施許諾宣言の

選択肢が示され、特許権者が選択できるようになっており、選択肢2.1及び2.2を選択した場

合には、双務性を更に適用するか否かを選択できるようになっている。また、2.3を選択し

た場合には、特許情報を記載する欄が設けられているが、不可欠ではない。

ISOに対して提出された特許宣言は、ISOのウェブサイト89で確認できる。

88 http://www.iso.org/iso/home/standards_development/governance_of_technical_work/patents.htm [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 89 patent declarations submitted to ISO, http://isotc.iso.org/livelink/livelink/13622347/Patents_database.xls?func=doc.Fetch&nodeId=13622347 [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日]

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(3) IEC:International Electrotechnical Commission

(国際電気標準会議90)

【機関の概要】

国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)は、その位置付けは

国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)と同じで、「電気、

電子及び関連技術の分野における標準化及び標準適合性検証のような関連事項に関する全

ての課題における国際協力を奨励し、これによって国際的理解を奨励すること」を目的と

して、1906年にスイス・ジュネーヴに設立された非営利目的の準政府国際機関で、その限

りにおいて、スイス民法典60第条以降に従う社団法人である。

【会員】

会議の会員は国際連合機構によって公式に認められた各国に形成された一つの電気標準

会議(Electrotechnical Committee)が国内会議(NC:National Committee)として参加でき、

個人又は企業は会員にはなれない。会議の総会(Council)の決定に基づいて運営され、ISO

のような管轄は規定されていないが、規約に定められていない問題は会議の所在する国の

法に従うと定められている91。

会員数は、2017年現在、84ヶ国(正会員:61、準会員:23)であり、例えば、日本、米

国、英国、フランス、インド、韓国、中国、シンガポールはISOと同じ機関が、ドイツはド

イツ電気・電子・情報技術委員会(DKE)92、オランダはオランダ電気技術委員会(NEC)

が参加しているが、香港は加盟していない93。

【組織】

標準を作成する技術的作業の管理は標準管理評議会(SMB:Standardization Management

Board)で行なわれ、標準開発を率いる専門委員会(TC:Technical Committees)に対して

も責任を有する。各TCには必要に応じて分科委員会(SC:Sub Committees)、作業グルー

プ(WG:Working Groups)、プロジェクト・チーム(PT:Project Teams)、維持チーム(MT:

Maintenance Teams)が設置される。2017年現在で、101のTC、77のSC、544のWG、248

のPT、595のMTが活動している。ISO同様、TC、SC、WG、PT、MTなどは、全てが実際

にジュネーヴに設置されているわけではなく、各国の会員機関が分担して担当している。

90 Commission électrotechnique international. IEC ウェブサイト, http://www.iec.ch/index.htm [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日] 91 STATUTES AND RULES OF PROCEDURE, 2015, http://www.iec.ch/members_experts/refdocs/iec/stat_2001-2015e.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 92 DKE Deutsche Kommission Elektrotechnik Elektronik Informationstechnik in DIN und VDE, https://www.dke.de/de [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 93 IEC members, http://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:5:0 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【規格】

これまでに制定された規格数は、2015年末時点で、国際規格:6,148、技術仕様書(TS:

Technical Specifications):248、技術報告書(TR:Technical Reports):446、公開仕様書(IEC

PAS):43、計:6,895が制定されている94。規格の情報はIECのウェブサイトからTC別に

確認できる95。

【特許ポリシー】

特許に関しては、「ISO/IEC指針第1部ISO補足統合版ISO特有の手続」、「共通特許ポリシ

ー」、「ITU-T/ITU-R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施ガイドライン96」があるが、既にISO

の項で述べたので、省略する。

IECに対して提出された特許宣言はIECのウェブサイト97で確認できる。

94 Reference material, http://www.iec.ch/members_experts/refdocs/facts.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 95 IEC のウェブサイト IEC Technical Committees & Subcommittees, http://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:62:0::::FSP_LANG_ID:25 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] Web Store から検索でき、購入できる(https://webstore.iec.ch [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日])。 96 ISO/IEC Directives, Part 1:2016 + IEC Supplement:2016, http://www.iec.ch/members_experts/refdocs/iec/isoiecdir-1-iecsup%7Bed12.0%7Den.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1月 5 日] COMMON PATENT POLICY FOR ITU-T/ITU-R/ISO/IEC, http://www.iec.ch/members_experts/tools/patents/patent_policy.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] Guidelines for Implementation of the Common Patent Policy for ITU-T/ITU-R/ISO/IEC 2015, http://www.iec.ch/members_experts/tools/patents/documents/ITU-T_ITU-R_ISO_IEC_Common_Guidelines_2015-06-26.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 97 Patents Database List of IEC patent declarations received by IEC, http://patents.iec.ch/iec/pa.nsf/pa_h.xsp?v=0 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(4) ICAO:International Civil Aviation Organization

(国際民間航空機関98)

【機関の概要】

国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)は、国際民間航空条

約(Convention on International Civil Aviation、通称:シカゴ条約)の運営とガバナンスを

管理するために、1944年に各国によって設立された国連専門機関である。

ICAOは、安全で、効率的で、経済的に持続可能で、環境に配慮した民間航空部門を支援

するために、国際民間航空基準と推奨プラクティス(SARP:Standards and Recommended

Practices)と政策に関するコンセンサスを得るために、条約の191加盟国及び業界団体と協

力している。これらのSARP及び方針は、ICAO加盟国が地元の民間航空運航及び規則が世

界規範に準拠していることを保証するために使用され、世界の各地域で毎日10万便以上の

航空ネットワークが安全かつ確実に運用される。

ICAOは、コンセンサス主導の国際SARP及びその政策を加盟国及び業界間で解決する中

核事業に加えて、多数の航空開発目標を支援するための国の支援及びキャパシティビルデ

ィングを調整している。また、安全と航空航行のための多国間戦略的進展を調整するため

のグローバルな計画の作成、多数の航空輸送部門の業績評価指標の監視及び報告、並びに、

安全性と安全性に関する国の民間航空監督機能の監査をする。

【会員】

会員は、2017年11月時点で、日本を含む192ヶ国が参加している99。

【組織】100

総会は、ICAOの全ての加盟国で構成され、3年に1回以上会合を開き、適切な時期に理事

会によって招集される。総会の臨時会議は、理事会の要請により、又は総加盟国数の5分の

1以上の要請により、いつでも開催することができる。

総会には多数の権限と義務がある。理事会の報告について適切な措置を検討し、理事会

が報告した事項を決定する。また、組織の予算の承認もしている。総会は、自らの裁量で、

理事会、補助委員会又は他の機関に対し、その活動範囲内の事項を言及することができる。

ICAO理事会は、ICAOの任務遂行のために必要又は望ましい権限と権限を理事会に委任し、

いつでも権限委譲を取り消し修正することができる。理事会に特別に派遣されていない

ICAOの活動範囲内のあらゆる問題に対処する。一般的には、技術的、行政的、経済的、法

98 https://www.icao.int/about-icao/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 99 https://www.icao.int/MemberStates/Member%20States.English.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 100 https://www.icao.int/about-icao/assembly/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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的及び技術的協力分野における組織の作業を詳細に検討する。総会は、加盟国の批准の対

象となる国際民間航空条約(シカゴ条約)の改正を承認する権限を有する。

【規格】101

国際基準と推奨プラクティス(SARP)の確立と維持、並びに航空航行手続き(PANS:

Procedures for Air Navigation)は、国際民間航空条約(シカゴ条約)の基本理念であり、

ICAOの使命と役割の中核的側面である。SARPとPANSは、ICAO加盟国及びその他の利害

関係者にとって、大気及び地上における調和の取れた世界的な航空安全性及び効率、航空

輸送施設及びサービスの機能及び性能要件の世界的な標準化、航空輸送の整然とした発展

などがある。

現在、ICAOは19の附属書全体にわたって12,000件以上のSARPを管理し、5つのPANS

は条約に管理しており、その多くは 新の開発及び革新と常に連動して進化している。

SARPとPANSの開発は、ICAOの「修正プロセス」又は「標準化プロセス」としてよく

知られている構造化された透明で多段階のプロセスに従う。このプロセスは、組織内にあ

るか、ICAOと密接に関連している。

典型的には、新しく又は改良された標準、推奨プラクティス又は手順が、附属書又は

PANSに含めるために正式に採択又は承認されるための 初の提案に約2年かかる。時折、

このタイムスケールは、検討中の提案の性質と優先度に応じて拡大又は圧縮する可能性が

ある。

【特許ポリシー】

ICAO の特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

101 https://www.icao.int/about-icao/AirNavigationCommission/Pages/how-icao-develops-standards.aspx [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 129 -

(5) IMO:International Maritime Organization

(国際海事機関102)

【機関の概要】

国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)は、海上の安全、船舶からの

海洋汚染防止等、海事分野の諸問題についての政府間の協力を推進するために1958年に設

立された国連の専門機関である。本部は英国(ロンドン)に所在し、2017年1月現在で172

ヶ国が加盟国、香港等の3の地域が準加盟国となっている。

第二次世界大戦後、国際連合は、船舶輸送の技術面の検討のため、常設の海事専門機関

の設置の必要性を指摘した運輸通信委員会の報告に基づき、1948年3月、国際連合海事会議

をジュネーヴで開催し、政府間海事協議機関( IMCO:Intergovernmental Maritime

Consultative Organization)の設立及びその活動に関するIMCO条約を採択した。当時日本

は、戦後の対日平和条約の締結がなされていなかったため、この会議には参加できなかっ

たが、1958年3月、日本が同条約の受託書を寄託することでその発効要件が満たされ、IMCO

の設立が果たされた。その後、1975年11月には、機関の活動内容の拡大と加盟国の増加に

伴う名称変更等の必要性に鑑み、IMCO条約の改正が採択され、1982年5月の改正条約発効

により、IMCOはIMOに改称され、現在に至っている。

【規格】

国際連合の専門機関であるIMOは、国際船舶の安全、セキュリティ、環境性能に関する

世界標準設定機関である。その主な役割は、公平で効果的で普遍的に採用され普遍的に実

施されている海運業界の規制枠組みを作り出すことである103。

【特許ポリシー】

IMO General Terms and Conditions の 15 条に「COPYRIGHT, PATENTS AND OTHER

PROPRIETARY RIGHTS」の規定があるものの、標準必須特許の特許ポリシー及び特許宣

言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない104。

102 http://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk1_000035.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 103 http://www.imo.org/en/About/Pages/Default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 104 http://www.imo.org/en/About/Procurement/Documents/IMO%20General%20Terms%20and%20Conditions%20standard.pdf#search=patent [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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2. 米州

(1) CITEL:Inter-American Telecommunication Commission

(米州電気通信委員会105)

【機関の概要】

米州電気通信委員会(CITEL:Inter-American Telecommunication Commission)は、総会

の決議で設立された米州機構(OAS:Organization of American States)の組織である。1224

(XXIII-O/93)で、組織憲章第 52 条に準拠している。CITEL は、機構の憲章、CITEL の

定款、及び機構の総会がこれに割り当てることができる任務の範囲内で、その機能の実施

において技術的自立性を有する。

米州機構(OAS)の加盟国は、資本のある経済社会開発を促進し達成するための努力を

喚起するために取り組んできた。そのような加盟国はその目的を達成するためのツールと

して電気通信の重要な役割を認識しており、地域内の電気通信の近代化と調整を統合し、

促進する必要性に重点を置いている(OAS 憲章、第 30 条及び第 41 条)。

地域の経済社会開発に貢献することは、インフラ整備と電気通信サービスの提供を促進

するために必要な規則を調整しているかどうかにかかわらず、CITEL の作業の全ての要素

の目的である。無線サービスの提供コストを削減するための無線周波数スペクトルの調和

や、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)トレーニング、電気

通信開発戦略を策定することサポートする。

【特許ポリシー】

CITEL についての特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見でき

ていない。

105 https://www.citel.oas.org/en/Pages/About-Citel.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 131 -

3. 欧州

(1) CEN:European Committee for Standardization

(欧州標準化委員会106)

【機関の概要】

欧州標準化委員会(CEN:European Committee for Standardization)は、「科学的、技術

的及び経済的領域において、一方で、可能な場合は国際標準化機構(ISO:International

Organization for Standardization)と協働して又は必要な場合は欧州標準を開発して、国際

標準及び欧州標準の調和と、他方で、貿易障害の除去を促進するために標準を使用するこ

と」を目的とし、「地域標準化機関として、会員主導かつ非営利で、その意思決定において

個々の利害関係者(官又は民)から独立し、市場主導である」としている。そして、同組

織は、「透明性、開放性、公平性と総意、有効性と重要性、及び一貫性のWTO原則に従いか

つ支持し、欧州連合規則1025/2012の枠組みにおいて、欧州標準機構(ESO:European

Standardization Organization)として作用する」ことを更なる目的として、ベルギー法に基

づき、ベルギー・ブラッセルに所在する国際非営利団体(AISBL:Association Internationale

Sans But Lucrative; International Non-Profit Association)であり107、以下に述べる二つの標

準化機関(欧州電気標準化委員会(CENELEC:Comité Européen de Normalisation

Electrotechnique)及び欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications

Standards Institute))と共に欧州の地域標準化機関を形成し、欧州連合(EU:European

Union)と欧州自由経済貿易連合(EFTA:European Free Trade Association)によって、公

認されている。

【会員】

CENの会員は、34ヶ国の国内標準化機関108である。この調査研究の対象国である、英国、

ドイツ、フランス、オランダの4ヶ国は、ISOと同じ機関が参加している。

標準を作成する技術的作業の管理は、技術理事会(BT:Technical Board)で行われ、そ

の下部に、技術委員会(TC:Technical Committees)及びその分科委員会(SC:Sub

Committees)、作業グループ(WG:Working Groups)、BTタスクフォース(BTTF:BT

Task Force)及びBT作業グループ(BTWG:BT Working Groups)が設置されており109、

106 Comité Européen de Normalisation. CEN ウェブサイト http://www.cen.eu/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 107 The Statutes of CEN, ftp://ftp.cencenelec.eu/CEN/AboutUs/Governance/Statutes/Statutes_CEN-EN.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日] 108 CEN Members, https://standards.cen.eu/dyn/www/f?p=CENWEB:5 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 109 Governing structure, http://www.cen.eu/about/GovStructure/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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その一覧はCENのウェブサイト110に掲載されている。

【規格】

CENが支援する標準化活動は、空・宇宙、化学、建築、消費財、防衛・治安、エネルギ

ー、環境、食品、健康・安全、情報通信、機械、材料、加圧装置、サービス、スマート生

活、輸送、包装等の多岐にわたり111、欧州標準は、自動的に各国の国内標準となる112。標

準はCENのウェブサイト113で検索できる。

【特許ポリシー】114

特許については、「CEN/CENELECの内部規則第3部:CEN/CENELEC刊行物の構成と

作成の規則(ISO/IEC指針第2部2011修正)115」にISO/IEC Directives — Part 1, "Reference

to patented items"及びCEN/CENELEC Guide 8, "CEN-CENELEC Guidelines for

Implementation of the Common IPR Policy"116を参照すべきと記載されており、IPRポリ

シーガイドラインには、「CEN/CENELECによって承認された(endorsed)ISO/IEC/ITU

共通特許ポリシー」として付属書Annex1に「ISO/IEC/ITU共通特許ポリシー(2012年版)」

が掲載され、組織名の読替えが示されている。なお、CEN/CENELECガイドラインには、

「ITU-T/ITU-R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施ガイドライン」の「2.用語及び定義」に

おいて、「2.6 必須特許 標準作成過程が行われる時点での技術水準を考慮して、その特

許における自身のIPRを侵害せずに、成果物に適合する装置、製品又は方法を、製造、販売、

賃貸及びその他の処分を行うことが、自身の判断で、技術的理由から不可能である場合、

CEN及びCENELECへの特許宣言を行う目的で、特許所有者によって「必須」と考えられ

た特許」とされている。

また、ITU-T/ITU-R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施ガイドラインの1.7に対応する項

目「7.3 必須特許に関する取消不能の実施許諾宣言及び所有権の第三者への移転」におい

て、「特許が成果物にとって必須である限り、宣言用紙に含まれる実施許諾の条件は取消不

能とみなされ、成果物の使用における明確性及び透明性を維持する。」として、ITU-T/ITU-

110 Technical Bodies, https://standards.cen.eu/dyn/www/f?p=CENWEB:6 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 111 Who we are, http://www.cen.eu/about/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 112 Our role in Europe, http://www.cen.eu/about/RoleEurope/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 113 Search Standards, https://standards.cen.eu/dyn/www/f?p=CENWEB:105::RESET [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日] 114 www.cencenelec.eu/ipr/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 115 CEN/CENELEC Internal Regulations Part 3 Principles and rules for the structure and drafting of CEN and CENELEC documents (ISO/IEC Directives — Part 2:2016, modified) February 2017, 6.6.4 Patent rights, http://boss.cen.eu/ref/IR3_E.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日], 116 CEN-CENELEC GUIDE 8 CEN-CENELEC Guidelines for Implementation of the Common Policy on Patents (and other statutory intellectual property rights based on inventions) 2015, ftp://ftp.cencenelec.eu/EN/EuropeanStandardization/Guides/8_CENCLCGuide8.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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- 133 -

R/ISO/IEC共通特許ポリシーの実施ガイドラインよりも一歩踏み込んだ様式となっている。

CEN/CENELECに提出されている特許宣言(Statement and Licensing Declaration for

CEN and CENELEC Deliverable on Essential Patents and other statutory Intellectual Property

Rights based on inventions)は、CEN/CENELEのウェブサイト117で確認できる。

117 List of patent declarations, http://www.cencenelec.eu/ipr/Patents/PatentDeclaration/Pages/default.aspx [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 134 -

(2) CENELEC:Comité Européen de Normalisation Electrotechniqu

(欧州電気標準化委員会118)

【組織の概要】

欧州電気標準化委員会(CENELEC:Comité Européen de Normalisation Electrotechnique;

European Committee for Electrotechnical Standardization)は、「電気工学標準」に限定して

いる点で異なる以外は、欧州標準化委員会(CEN:European Committee for Standardization)

同様の目的を有する国際非営利社団法人(Association)である。1972年にベルギー・ブラ

ッセルで設立された団体CENELECを引き継いでいる119。

【会員】

会員は、欧州連合(EU:European Union)又は欧州自由貿易連合(EFTA:European Free

Trade Association)34ヶ国の法人格を有する国内電気工学委員会、電気工学標準化作業を受

託している国内組織又はその指導者(リーダー)個人とされ、例えば、英国、ドイツ、フ

ランス、オランダは国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)と

同じ機関が参加している120。

【組織】

標準を作成する技術的作業の管理は、技術理事会(BT:Technical Board)で行われ、CEN

と同様の技術組織が形成されており、その一覧は、CENELECのウェブサイトに掲載され

ている121。また、標準もCENELECのウェブサイト122で検索できる。

【特許ポリシー】123

特許ポリシーについては、前記CENの項で述べたようにCEN/CENELECで共通化され

ているため、説明は省略する。

118 Comit é Européen de Normalisation Electrotechnique. CENELEC ウェブサイト, https://www.cenelec.eu/ [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日] 119 The Articles of Association of CENELEC, https://www.cenelec.eu/membersandexperts/referencematerial/ [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日] 120 List of CENELEC National Committees (NCs), https://www.cenelec.eu/dyn/www/f?p=web:5 [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日] 121 CENELEC List of Technical Bodies, https://www.cenelec.eu/dyn/www/f?p=104:6 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日] 122 Publications and Work in Progress, https://www.cenelec.eu/dyn/www/f?p=104:105:875362683488901::::FSP_LANG_ID:25 [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日] 123 www.cencenelec.eu/ipr/Pages/default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(3) ETSI:European Telecommunications Standards Institute

(欧州電気通信標準化機構124)

【機関の概要】

欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)は、

その目的で「会員によって求められる技術標準及びその他の成果物の作成と維持の実施を

目的とし、承認された欧州標準化機関として、電気通信、情報通信技術、その他の電子通

信網及びサービス並びに関連領域のための大規模な統一欧州市場を達成するために必要な

技術標準の作成と維持の実施が重要な任務である。国際レベルにおいて、上記の領域にお

ける世界標準化に貢献することを目指す。この目的はあらゆる手段によって達成可能であ

る。本機構は、全部又は一部において、直接又は間接的に関係する行動を実行することが

でき、又はその目的の達成を進展又は促進することができる。」と掲げており、欧州委員会

の提案により、1988年に欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT:European Conference of Postal

and Telecommunications Administrations)によって1901年7月1日フランス法及び1901年8

月16日令に基づく非営利社団法人として創設され、フランス・ソフィア―アンティポリス

に所在する125。

【会員】

会員は、上記欧州標準化委員会(CEN:European Committee for Standardization)、欧州

電気標準化委員会(CENELEC:European Committee for Electrotechnical Standardization)

と異なり、「行政庁、行政機関及び国内標準化機関」、「ネットワーク運営者」、「製造業者」、

「利用者」、及び「サービス提供者、研究機関、コンサルタント会社/共同経営会社、その

他」のカテゴリーが認められており、会員資格も「正会員」「準会員」及び「オブザーバ」

が設けられている。現在の会員一覧は、ETSIのウェブサイトに掲載されている126。

【組織】

標準を作成する技術組織は、技術委員会(TC:Technical Committee)、ETSIプロジェク

ト(EP:ETSI Project)、及びETSIパートナプロジェクト(EPP:ETSI Partnership Project)

があり、各技術組織は作業グループ(WG:Working Groups)を構成することができる。技

術組織の一覧のようなものは調査した公開情報の範囲では発見できていないが、ETSIのウ

ェブサイト「ETSI技術群127」から目的とする技術を探していくことができる。標準は、ETSI

124 ETSI ウェブサイト, http://www.etsi.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 125 ETSI Directives Version 36, June 2016, https://portal.etsi.org/directives/36_directives_jun_2016.pdf [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日] 126 Current members, http://www.etsi.org/membership/current-members [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 127 ETSI Technology Clusters, http://www.etsi.org/technologies-clusters [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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のウェブサイト128に記載された検索方法で見付けられる。

【特許ポリシー】

特許ポリシーについては、「ETSI指令129」に含まれる「ETSI手続規則」の付属書類6の

「ETSI知的財産権ポリシー」及び「ETSI指令」に含まれる「ETSI知的財産権ガイド」に

示されている。

ポリシーの4.1において、会員は、特に、参加している標準/技術仕様書の開発中、合理

的な努力を行い、ETSIに標準必須特許を適時に通知するものとされている。また、自ら提

案を行う会員は、対案が採択された際に必須になると思われる自身の特許を通知するもの

とする。その際、特に、ポリシーの4.3で特許ファミリーについての提供が求められている。

なお、定義において、「必須」とは「技術的必須」であって、「商業的必須」ではないとさ

れている。

また、6.1において、必須特許が注意喚起された場合、ETSIの事務局長は、特許所有者に、

そのIPRに基づくFRAND条件による実施許諾を、少なくとも装置の製造、販売、賃貸、修

理、使用、運用、及び方法の使用に与える用意があるという書面による取消不能な保証を

3か月以内に与えるよう直ちに要求することとなっている。

6.1bisにおいて、特許権の第三者への譲渡の際の取扱いが定められており、6.1において

FRAND条件による実施許諾が用意されている場合、特許が第三者に譲渡される場合に、現

特許権者と譲渡を受ける第三者との間の譲渡契約に、FRAND条件で実施許諾されるよう

ふさわしい条項を設けるように求めている。

また、8.以降において、特許所有者が実施許諾を与えない場合の対応手順が、特許権者が

会員か第三者かによって詳細に述べられている。

12.において、ポリシーの準拠法はフランス法であるとされているが、会員は、自国の法

令に反することや自国に適用される国際法令に反する行為までは、当事者間の合意による

逸脱がそのような法律で認められていない限り、ポリシーによって義務付けられておらず、

フランス法から生じ、会員に適用される国内法又は国際法に既に含まれていない、会員に

与えられる権利及び義務は専ら契約的性格を有すると理解される、としている。

ETSIに提出されている特許宣言130は、ETSIのウェブサイト131で確認できる。

128 Our standards, http://www.etsi.org/standards [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 129 ETSI Directives Version 36, June 2016, https://portal.etsi.org/directives/36_directives_jun_2016.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] ETSI Rules of Procedure (RoP)は 11 頁から、Annex 6: ETSI Intellectual Property Rights Policy は 35 頁から、ETSI Guide on Intellectual Property Rights (IPRs)は 51 頁から掲載されている。 http://www.etsi.org/about/how-we-work/intellectual-property-rights-iprs [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 130 ETSI IPR Online Database, https://ipr.etsi.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] IRP 宣言は“Search declarations”で得られる。IPR 宣言に含まれる要素間の関係の分析及び技術と標準の間の関係につ

いての情報の入手は“Dynamic Reporting”で得られる。 131 www.etsi.org/about/how-we-work/intellectual-property-rights-iprs [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(4) CEPT:Conférence Européenne des Administrations des Postes et des Télécommunications

(欧州郵便電気通信主管庁会議132)

欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT:Conférence Européenne des administrations des

Postes et des Télécommunications; European Conference of Postal and Telecommunications

Administrations)は、欧州各地の48ヶ国の政策立案者と規制当局が協力して、電気通信、

電波スペクトル及び郵便規制を調和させ、欧州社会の利益のための効率性と調整を改善す

る組織である。CEPTは、欧州諸国の自発的協会であり、欧州の郵便及び電気通信の分野に

おけるダイナミックな市場を創出するための効果的な調整を通じて、より効率的に効率を

上げることを目指している。CEPTは、3つの自律的なビジネス委員会(ECC:Electronic

Communication Committee、ComITU:Committee for ITU Policy、CERP:European Committee

for Postal Regulation)を通じて業務を行っている。これらの委員会の議長は、デンマーク

のコペンハーゲンにある中央事務所であるECO(European Communications Office)の支援

を受けて、組織を構成している。

CEPTは、1959年に19ヶ国によって設立され、 初の10年間で26ヶ国に拡大した。 元の

会員は、独占している郵便局と電気通信局であった。CEPTの活動には、商業、運営、規制、

技術標準化の問題に関する協力が含まれており、現在、48ヶ国が会員である133。なお、CEPT

についての特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

132 CEPT ホームページ, https://cept.org/files/1047/CEPT%20Leaflet_June%202017.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1月 5 日] 133 https://cept.org/cept/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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4. アジア・その他

(1) ACCSQ:ASEAN Consultative Committee on Standards and Quality

(アセアン標準化・品質管理諮問評議会134)

アセアン標準化・品質管理諮問評議会(ACCSQ:ASEAN Consultative Committee on

Standards and Quality)は 1992 年 10 月 22 日から 23 日にフィリピンマニラで開催された

第 24 回 ASEAN 経済大臣会合において、ASEAN 自由貿易地域(AFTA:ASEAN Free Trade

Area)を実現するための共通有効特恵関税(CEPT:Common Effective Preferential Tariff)

協定を促進するため、貿易の技術的障壁を排除する目的で設立された。さらに、1997 年 9

月 8日から 10日にインドネシアのメダンで開催された第 4回高級経済実務者会議(SEOM:

Senior Economic Officials Meeting)において、SEOM は ACCSQ の改正活動範囲(TOR:

Terms of Reference)を承認した。改正 TOR は、貿易に対する技術的障壁を排除するという

任務を達成するために、ACCSQ に対して、ACCSQ の中の規制機関を参加させる権限を与

えている。なお、ACCSQ についての特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範

囲では発見できていない。

134 http://asean.org/storage/2012/05/ENDORSED-ACCSQ-Strategic-Plan-2016-2025_for-External-Parties.pdf [ 終

アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(2) APT:Asia-Pacific Telecommunity

(アジア・太平洋電気通信共同体135)

【機関の概要】

アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)は、国連アジア太平

洋経済社会委員会(UNESCAP:United Nations Economic and Social Commission for Asia and

the Pacific)と国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の共同イ

ニシアティブに基づいて、1979 年 7 月にバンコクに設立された。APT は、電気通信サー

ビスプロバイダー、通信機器メーカー、通信、情報技術革新技術分野で活躍する研究開発

機関と連携して活動する政府間組織である。

APT はこの地域の ICT(Information and Communication Technology)の焦点組織として

活動しており、現在、会員は 38 名、準会員 4 名、アフィリエイト会員 134 名となってい

る。APT は、さまざまなプログラムや活動を通じて、ICT セクターの発展と成長に大きく

貢献している。

過去数年間を通じて、APT は、会員の世界会議の準備を支援している。世界会議とは、

ITU 全権会議(PP:Plenipotentialy Conferences)、世界電気通信開発会議(WTDC:World

Telecommunication Development Conference )、 世 界 無 線 通 信 会 議 ( WRC : World

Radiocommunication Conference)、世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the

Information Society)、世界電気通信標準化総会(WTSA:World Telecommunication

Standardization Assembly)、及び ITU 会合を含む会議のことである。APT はまた、地域に

おけるプログラムと活動の地域調和を促進することにも関わっている。

【特許ポリシー】

APT の中で標準化を担当している ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization

Program)においても標準化活動の活性化を受けて、2013 年 11 月に知的財産権の取扱い

に関する規定(APT PATENT POLICY)が定められた136。特許ポリシー及び特許宣言書は

APT のウェブサイトから入手できる137。ポリシーのタイトルにおいて、APT 特許ポリシ

ーは、「ITU-T / ITU-R / ISO / IEC の共通特許ポリシー」に従うこと、及び、修正は APT

の文脈に適応させる程度にのみなさていることが注記の形で示さている。

本ポリシーの冒頭で、「以下は、APT 勧告「勧告(Recommendation)」の主題事項を取

り扱った特許に関する「実務基準(code of practice)」である。「実務基準」の規則は簡潔

135 APT ホームページ, http://www.apt.int/APT-Introduction [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 136 平松幸男「IPR 委員会の活動」TTC Report Vol.28/No.1 2013 年 4 月、9 頁, http://www.ttc.or.jp/files/9013/6737/3854/ipr_TTC_Report_Vol28_1-3.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 137 http://www.apt.int/sites/default/files/Upload-files/GA-MC-DOCS/APT_Patent_Policy-2013.pdf [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日]

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- 140 -

なものとなっている。「勧告」は専門家により作成されているが、特許専門家によって作成

されたものではなく、拘束力もない。したがって、特許などの知的財産権の複雑な国際法

的状況に必ずしも精通している必要はない。その理由は、技術とシステムの互換性を世界

中で確保することであり、そのために、「勧告」や「申請(their applications)」、「使用法

(use)」について、何人にも利用可能であることが確保されなければならないことによる。

したがって、「勧告」に完全又は部分的に具体化されている特許は、不当に制限されること

なく利用可能でなればならないとした上で、特許に起因する詳細な取り決め(実施許諾、

実施料等)は、状況に応じて異なるため、関係当事者に委ねられる。」と示されている。

ポリシーの1において、APT は、特許等の権利の証拠、有効性又は範囲についての権限

のある又は包括的な情報を提供する立場にないが、 大限利用可能な情報が開示されるこ

とが望ましい。したがって、作業に参加しているあらゆる当事者は、 初から、自己又は

他の組織かにかかわらず、あらゆる既知の特許又は係属中の特許出願に APT の事務総長の

注意を促すべきである。もっとも、APT は、これらの情報の有効性を検証することはでき

ないとしている。

また、ポリシーの 2 では、勧告が策定され、ポリシー1 で言及されたような情報が開示

されていれば、次の 3 つの異なる状況が生じ得る。

「2.1 特許権者は他の当事者と、合理的条件で非差別に(on a non-discriminatory basis on

reasonable terms and conditions)、無償の実施許諾を交渉する意思がある。

そのような交渉は関係当事者に委ねられ、APT の外で行われる。

2.2 特許権者は他の当事者と、合理的条件で非差別に(on a non-discriminatory basis on

reasonable terms and conditions)、実施許諾を交渉する意思がある。

そのような交渉は関係当事者に委ねられ、APT の外で行われる。

2.3 特許権者は 2.1 又は 2.2 の規定に従う意思はなく、そのような場合、勧告には特許に

依存する規定は含まないものとする。」

ポリシーの 3 においては、ポリシーの 2.1、2.2 及び 2.3 のいずれの場合でも、特許権者

は、適切な「特許声明及び実施許諾宣言」(Patent Statement and Licensing Declaration)の

様式を用いて、APT 事務局に保管されるべく、声明書を提出しなければならない。この声

明書は、様式の対応する欄にそれぞれの場合に設けられた事項を越える、付加的な規定、

条件、又はその他の除外条項を含んではならないとしている。

本ポリシーに続いて示されているガイドライン(GUIDELINES FOR IMPLEMENTATION

OF THE APT PATENT POLICY)では、タイトルにおいて、APT 特許ポリシーのガイドライ

ンは、「ITU-T / ITU-R / ISO / IEC の共通特許ポリシーのガイドライン」に従うこと、及

び、修正は APT の文脈に適応させる程度にのみなさていることが注記の形で示さているこ

とからもわかるように、基本的にはこの共通特許ポリシーのガイドラインと同様である。

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- 141 -

(3) ASTAP:Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program

(アジア・太平洋電気通信標準化機関138)

【機関の概要】

アジア・太平洋電気通信標準化機関(ASTAP:Asia-Pacific Telecommunity Standardization

Program)は、アジア・太平洋電気通信共同体(APT:The Asia-Pacific Tele-community)間

の標準化に関する地域協力を確立し、グローバル標準化活動に貢献するために 1998 年に

結成された。これは、標準化と技術開発の分野における主要な APT 作業プログラムの 1 つ

である。長年にわたり、ASTAP はその目標を達成するために成熟し、協力標準化活動のた

めの地域的なプラットフォームとなっている。現在、ASTAP は標準化と技術開発に関連す

る多くの重要な分野に取り組んでおり、その中には、標準化格差解消(Bridging

Standardization Gap)、Green ICT(ICT を従来よりも一層活用することにより CO2 の大

幅な削減に貢献するもの)、EMF Exposure、M2M、Future Network、次世代ネットワー

ク(NGN)、Seamless Access Communication、Multimedia Applications、情報セキュリティ

(Information Security)、SNLP、Accessibility and Usability などがある。 近は、活動に

Conformance and Interoperability(C&I)の問題も取り上げている。

ASTAP の目的は次のとおりである。

・ 標準化に関する地域協力を確立し、グローバル標準化活動に貢献する。

・ 意見交換や情報交換などの協力的な標準化活動を通じて、地域の標準化活動を調和

させる。

・ 通信/ ICT(Information and Communication Technology)分野の研究、分析、分析を

通じて APT 会員間で知識と経験を共有する。

・ APT 会員、特に開発途上国の会員を支援し、主要な通信/ ICT 分野に関する調査と

分析に基づく調査結果と調査を提供することにより、電気通信/ ICT 分野のスキルを

開発する。

・ APT 会員間の電気通信/ICT 分野の標準化に関する専門知識のレベルを向上させる。

・ アジア太平洋地域における電気通信/ICT標準化促進のための適切な制度整備を促進

する。

【特許ポリシー】

上述の APT のところで説明したことから、ここでの説明は省略する。

138 http://www.apt.int/APTASTAP [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 142 -

(4) GSC:Grobal Standards Collaboration

(世界電気通信標準化協調会議139)

世界電気通信標準化協調会議(GSC:Grobal Standards Collaboration)は世界の主要な標

準化機関(SDO : Standards Development Organizations)の代表が一堂に集まり、ICT

(Information and Communication Technologies)に関する標準化活動について情報と意見を

交換し合い、グローバルな標準化活動に資することを目的とした集まりである。GSC 自身

は標準規格を開発するものではない。GSC の主な活動内容は、1)標準化活動に関する意

見交換と情報共有及び2)共通な戦略的標準化課題に対する連携についての協議の2つで

ある。およそ 1 年~1 年半に 1 回、SDO が交代で会合を招請している。

現在の GSC を構成する SDO は次の通り。

国名 組織名

---

ISO (International Standard Organization)

IEC (International Electrotechnical Commission)

ITU (International Telecommunication Union)

欧州 ETSI (European Telecommunications Standards Institute)

日本 ARIB (Association of Radio Industries and Businesses)

日本 TTC (The Telecommunications Technology Committee)

米国 ATIS (Alliance for Telecommunications Industry Solutions)

米国 TIA (Telecommunications Industry Assocaiton)

韓国 TTA (Telecommunications Technology Association)

中国 CCSA (The China Communications Standards Association)

インド TSDSI (Telecommunications Standards Development Society, India)

--- IEEE-SA (The IEEE Standards Association)

【特許ポリシー】

GSC についての特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できて

いない。

139 一般社団法人情報通信技術委員会ホームページ, http://www.ttc.or.jp/j/std/ag/gcag/external_relations/link/ [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 143 -

(5) PASC:Pacific Area Standards Congress

(太平洋地域標準会議140)

【機関の概要】

太平洋地域標準会議(PASC:Pacific Area Standards Congress)は、国際標準化問題を議

論するための太平洋地域の標準化団体フォーラムである。

PASC の主な目的は以下の通り。

・ 国際標準化活動が世界のニーズを満たし、国際貿易と商業を促進するためにコンセン

サスベースで適切に調整されることを確実にするために必要な措置を開始し、標準化

団体間で情報と意見を交換する。

・ 太平洋地域の国や地域に地理的に便利なフォーラムを設け、国際標準化団体、特に国際

標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)や国際電気標準会議

(IEC:International Electrotechnical Commission)とのコミュニケーションの勧告を作

成する。

・ PASC 会員の勧告を通じて標準化における世界のニーズを満たすのを支援するために、

国際及び地域の標準化機関との諮問的連絡を形成する。

・ 目的に関連した項目に関する論文と報告のための中央サイトを提供する。

・ アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)、関連する APEC 地

域専門家機関(SRB:Specialist Regional Bodies)、地域の経済・技術インフラ整備と自

由貿易を支援する多国間機関と協力する。

・ 政府、業界、消費者への地域標準化と適合の恩恵を積極的に促進する。

・ 地域及び国際レベルで規格と適合性の問題に関する会員のための情報源を提供し、国

際レベルで地域を促進する。

・ PASC パートナーシップのメリットを他の国家標準化機関(NSB:National Standard

Body)に促進すること。

・ PASC 加盟国間の貿易の技術的障壁に関する協定(TBT:Agreement on Technical

Barriers to Trade)及び衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS:Agreement on the

Application of Sanitary and Phytosanitary Measures)を含む、関連する WTO(World

Trade Organization)協定の規定への遵守を支援し促進する。

1972 年、米国ハワイ州ホノルルで、太平洋地域の国家標準化機関の自立した組織の発展

に関する計画が複数の太平洋諸国の標準化団体の代表により提案されたことを受け、翌

1973 年に、PASC の 初の会議がホノルルで開催された。PASC の会員は、国際標準化や

140 PASC ホームページ, https://pascnet.org/about-us/establishment-and-role-of-pasc/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日]

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- 144 -

ISO・IEC 関連の作業、PASC 会員間の連絡と相互関係に関する重要な決議を採択する。

また、基準作成だけでなく、規格への適合にも関わっている。ただし、PASC は地域基準

を作成するものではなく、アジア太平洋地域だけではない世界的に認められている国際基

準の開発に直接参加するよう支援している。PASC には 24 ヶ国の標準化組織が参加してお

り、日本からは日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)が

代表として参加している。

【特許ポリシー】

PASC の特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

(6) ATU:African Telecommunications Union

(アフリカ電気通信連合141)

【機関の概要】

アフリカ電気通信連合(ATU:African Telecommunications Union)は、1999 年 12 月 7

日に設立された、情報通信技術のインフラストラクチャとサービスの開発を促進する主要

な大陸組織である。ATU の目的は、普遍的なアクセスと完全な国間接続を実現するために、

アフリカにおける情報通信の急速な発展を促進することである。ATU は現在、44 の加盟

国と 16 の準会員(固定通信事業者と移動通信事業者を含む)を有している。

主な実績は以下の通り。

・ グローバルな意思決定への貢献

・ 地域市場の統合

・ ICT インフラへの投資誘致

・ 人と組織の構築

・ 会員関係の管理

【特許ポリシー】

ATU についての特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できて

いない。

141 http://atu-uat.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 145 -

5. 日本

(1) JISC:Japanese Industrial Standards Committee

(日本工業標準調査会142)

【機関の概要】

日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)は、1949年の工

業標準化法143成立に伴い工業技術院に設置された調査会で、現在は、経済産業省に設置さ

れ、工業標準化に関する調査審議を行っている。具体的には、日本工業規格(JIS:Japanese

Industrial Standards)の制定や、改正等に関する審議、工業標準、JISマーク表示制度、試

験所登録制度など、工業標準化の促進に関して関係各大臣への建議や諮問に応じて答申を

行うなどの機能を持っている。また、国際標準化機構(ISO:International Organization for

Standardization)及び国際電気標準会議(IEC:International Electro-technical Commission)

に、我が国の代表として参加している。

【組織】

標準を作成する技術組織として、総会の下に「基本政策部会」、「標準第一部会」及び「標

準第二部会」が設置されると共に、各部会の下にJISの審議などを行う技術専門委員会が設

置されている。「基本政策部会」、「標準第一部会」及び「標準第二部会」は共に、委員、臨

時委員及び専門委員から成る。「基本政策部会」は、標準化及び適合性評価に関する基本政

策及び制度運営の基本方針並びに標準第一部会又は標準第二部会の所掌に属さない事項を

審議し、「標準第一部会」及び「標準第二部会」は共に、JISの制定・改正等の工業標準へ

の対応、国際標準への対応及びJISマーク制度、認定・認証制度、国際相互承認等の適合性

評価の実施に関する事項を審議する。「標準第一部会」はISO関連分野(JTC1144・JTC2分

野を除く)、「標準第二部会」はIEC関連分野(JTC1・JTC2分野を含む)を担当する。各部

会の下に設けられる技術専門委員会は、JISCのウェブサイト145で検索できる。標準の原案

は、JISCが技術分野別に専門団体(学会、協会、業界団体など)に委託する場合と、業界

が自主的に原案を作成する場合がある。

142 http://www.jisc.go.jp/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 143 工業標準化法, http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO185.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 第二章 日本工業標準調査会 第三条 経済産業省に日本工業標準調査会(以下「調査会」という。)を置く。 2 調査会は、この法律によりその権限に属させられた事項を調査審議するほか、工業標準化の促進に関し、関係各大

臣の諮問に応じて答申し、又は関係各大臣に対し建議することができる。 144 ISO と IEC の第一合同技術委員会(Joint Technical Committee 1)であり、情報技術(IT)分野の標準化を行うた

めの組織。1987 年に設立。 145 TC・SC 別名称・参加地位・審議団体連絡先検索, http://www.jisc.go.jp/intr/pager [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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- 146 -

【規格】

標準は、JISCのウェブサイト146で検索できる。

【特許ポリシー】

JISCの特許ポリシーとしては、平成13年2月に「特許権等を含むJISの制定等に関する手

続について」がJISC標準部会において定められた。同特許ポリシーは、その後、前記した

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)及びISO/IEC共通特許ポ

リシーとの調和を図るべく、平成24年1月に改訂された147。同特許ポリシーがITU/ISO/IEC

共通特許ポリシーと異なる点は、ITU/ISO/IEC共通特許ポリシーでは、参加者が特許の情

報開示を行い、特許権者が実施許諾する意思がない場合に、機関が必要な措置をとるよう

に、専門組織に忠告するとなっているのに対して、JISCの特許ポリシーでは、調査会付議

前は、受託者・申出者が特許情報の開示を行うものの、付議後は、JIS制定案等の担当部局

が、JIS制定案等に関する意見受付公告に合わせ、当該JIS制定案等に関連する特許権等に

関し、その存在、権利者の名称等についての情報収集を行い、この情報収集によって、付

議されたJIS制定案等に関連する特許権等のうち、既に声明書を提出した者以外の特許権等

の権利者が有するものが認められた場合、当該JIS制定案等の担当部局は、声明書の提出を

当該特許権等の権利者に要請するとしている点、及び、ITU/ISO/IEC共通特許ポリシーで

は、特許権者に特許声明書に含まれる規則を遵守させることが規定されているだけである

が、JISC特許ポリシーでは、制定後のJISにおいて、当該JISに関連する特許権等の移転が

行われ、当該特許権等の承継人が声明書を提出していない場合、当該JISの担当部局は当該

特許権等の承継人に、声明書の提出を要請するとしている点である。

なお、この点、ポリシーには明記されていないが、特許宣言(様式1及び様式2)の「5.

特許権等を移転する場合の取扱い」においては、「当社は、該当する特許権等を移転する場

合は、以下の措置を行うこととしている。

(a) 該当する特許権等の承継人に対して、2.の□中レ印を記した扱いを行うことを表明

していたことを通知する。

(b) 該当する特許権等の承継人に対して、2.の□中レ印を記した扱いを行うことを承諾

させるよう 善の努力を行う。

(c) JISの担当部局に対して、該当する特許権等の移転について連絡する。」とされている。

特許宣言自体は公表されていないが、特許は、2017年現在で442件がJISCのウェブサイ

148に掲載されている。

146 JIS 検索, http://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] TS/TR 検索, http://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrTSTRSearch.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 147 特許権等を含む JIS の制定等に関する手続について, http://www.jisc.go.jp/jis-act/pdf/2011_patent_policy.pdf [ 終

アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 148 特許権等情報, http://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrPatentList?show [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 147 -

なお、上記の「2.の□中レ印を記した扱い」とは、非差別的無償許諾又は非差別的・

合理的許諾を選択していることである。

(2) TTC:Telecommunication Technology Committee

(一般社団法人情報通信技術委員会

149)

【機関の概要】

一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Telecommunication Technology Committee)は、

1985年の電気通信事業法の施行により、市場原理が導入された電気通信分野の一層の活性

化に資するため、同年に行われた日米電気通信協議を受けて、電気通信全般に関する標準

化と標準の普及を行う標準化機関として、1985年10月に社団法人電信電話技術委員会とし

て設立され、その後、情報通信技術の発展に伴い標準化活動の対象が拡大したことから、

2002年6月に事業内容を「情報通信ネットワークに係る標準化」等とするとともに、名称も

「社団法人情報通信技術委員会」に変更し、さらに、公益法人改革制度を踏まえて2011年

4月1日付で「一般社団法人情報通信技術委員会」へ移行した150。

TTCは、「情報通信ネットワークに係る標準を作成することにより、情報通信分野におけ

る標準化に貢献するとともに、その普及を図ること」を目的としている。

そして、TTCは、国内標準化機関としての役割に加え、国際電気通信連合電気通信標準

化部門(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization

Sector)の標準化グループとも対応をとり連携して国際標準の策定に関与している。

また、総務省におけるITU-Tへの審議体制として、情報通信審議会情報通信技術分科会

にITU部会電気通信システム委員会が設置されており、平成23年に、総務省においてITU-

T会合に対する審議体制・方法が変更されたことに伴い、TTCは、ITU-Tの研究委員会(SG:

Study Groups)、フォーカスグループ(FG:Focus Groups)及びJCA151(Joint Coordination

Activities)における新課題に対するアップストリーム活動の、主体的かつ一層の充実強化

を推進している152。

【会員】

会員は、正会員の他に、標準制定(承認採決)等重要事項の決定には参加できないもの

の、標準作成・標準化の一部活動に参加できる会員種別として、準会員、協力会員、賛助

149 http://www.ttc.or.jp/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 150 概要, http://www.ttc.or.jp/j/intro/work/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 151 複数の SG に関係する標準化案件の調整会議 152 ITU-T へのアップストリーム活動, http://www.ttc.or.jp/j/std/upstream/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 148 -

会員などが設けられており153、会員一覧はウェブサイト154に掲載されている。

【組織】

標準を作成する技術組織は、標準化会議の下に、専門委員会が設けられており155、専門

委員会に関する情報はウェブサイトに掲載されている156。

【規格】

標準は、ウェブサイト157から検索できる。

【特許ポリシー】

TTCには、IPR(Intellectual Property Rights)委員会が設けられ158、IPRポリシーの中に

「工業所有権等の取扱いについての基本指針」(平成22年改訂)と「工業所有権等の取扱い

についての運用細則」(平成23年改訂)が定められており159、基本的には日本工業標準調査

会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)の特許ポリシーと同様である。工業

所有権等の実施許諾に係る声明書/確認書一覧はウェブサイト160に掲載されている。

153 TTC 会員の種類とご参加頂ける活動, http://www.ttc.or.jp/j/entrance/class_fee/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 154 会員一覧, http://www.ttc.or.jp/j/intro/mem_list/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 155 http://www.ttc.or.jp/j/intro/org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 156 http://www.ttc.or.jp/j/std/wg/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 157 TTC ドキュメントデータベース, http://www.ttc.or.jp/document_db [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 158 IPR 委員会, http://www.ttc.or.jp/j/std/ipr/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 159 一般社団法人情報通信技術委員会の IPR ポリシー 160 http://www.ttc.or.jp/j/std/ipr/ipr_policy/list/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 149 -

(3) ARIB:Association of Radio Industries and Businesses

(一般社団法人電波産業会161)

【機関の概要】

一般社団法人電波産業会(ARIB:Association of Radio Industries and Businesses)は、財

団法人電波システム開発センター(RCR:Research and development Center for Radio systems)

及び放送技術開発協議会(BTA:Broadcasting Technology Association)の事業を引き継ぎ、

平成7年5月15日当時の郵政大臣の許可を受けて「通信・放送分野における新たな電波利用

システムの研究開発や技術基準の国際統一化等を推進するとともに、国際化の進展や通信

と放送の融合化、電波を用いたビジネスの振興等に迅速かつ的確に対応できる体制の確立

を目指して」設立され、内閣府の認可を得て平成23年4月1日に一般社団法人へ移行した162。

【会員】

会員は、平成29年12月7日現在で、正会員191、賛助会員27、規格会議委員所属法人14と

なっており、ウェブサイト163でも確認できる。

【組織】

標準を作成する技術組織では、技術委員会で検討され、開発部会で提案された標準案が

規格会議で承認されてARIBの標準となる164。

【規格】

標準の体系はウェブサイト165に掲載されている。

【特許ポリシー】

特許ポリシーは、平成24年に改訂された「標準規格に係る工業所有権の取扱に関する基

本指針」と平成23年に改訂された「標準規格に係る工業所有権の取扱に関する基本指針の

運用指針」から成り166、基本的には日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial

Standards Committee)、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Telecommunication

Technology Committee)と同様の内容であるが、詳細な取決めは少ない。

ARIB標準規格に係る必須の工業所有権はウェブサイト167で検索できる。

161 http://arib.or.jp/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 162 https://arib.or.jp/syokai/gaiyou.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 163 http://arib.or.jp/syokai/kaiinmeibo.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 164 https://www.arib.or.jp/tyosakenkyu/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 165 https://arib.or.jp/kikaku/kikaku_taikei/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 166 http://arib.or.jp/tyosakenkyu/sakutei/sakutei04.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 167 http://arib.or.jp/tyosakenkyu/sakutei/IPR/index.php [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 150 -

(4) JCTEA:Japan Cable Television Engineering Association

(一般社団法人日本 CATV 技術協会168)

一般社団法人日本CATV技術協会(JCTEA:Japan Cable Television Engineering Association)

は、CATV技術に関する技術の向上とその普及、並びにテレビ電波の良好な受信環境の実現

を通じて、高度情報化社会の円滑かつ健全な発展に貢献する事を目的とする団体で、1975

年7月に設立された。事業内容としては、①CATV施設の技術に関する調査研究及び開発、

②CATV施設に関する標準規格の策定、③テレビ電波の受信に関する調査及び技術相談、④

建造物によるテレビ電波受信障害調査に関する調査研究、⑤「CATV技術者」の養成と資格

証明、⑥CATV技術に関する講習会、講演会等の開催、⑦CATV施設の申請手続きに関する

指導、⑧CATV施設に関する雑誌、図書等の発行、⑨CATV施設に関わる関係機関等への支

援等が挙げられる。なお、JCTEAの特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範

囲では発見できていない。

168 http://www.catv.or.jp/jctea/company/about/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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6. 米国

(1) ANSI:American National Standards Institute

(米国国家規格協会169)

【機関の概要】

米国国家規格協会(ANSI:American National Standards Institute)は、「自発的合意標準

及び適合性評価体制を促進し、それらの完全性を守ることにより、米国の商取引の世界的

競争力及び米国の生活の質を向上する」ことを目的として、1918年に創設された民間の非

営利組織170で、ワシントンD.C.に所在し、国際標準化機構(ISO:International Organization

for Standardization)、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)

に米国を代表して参加している公的標準化機関である。

【会員】

会員資格としては、Organizational Member、Government Member、Company Member、

Educational Member、International Member、Individual Memberが定められている171。

【規格】

ANSIは、ANSIが承認する標準開発機関(SDO:Standards Developing Organization)172

が自発的な開発を行い、ANSIが承認するという方法をとっている。承認米国国家標準

(Approved American National Standards)の情報はANSIのウェブサイト173から入手でき

る。

【特許ポリシー】

ANSIの知的財産権ポリシー委員会(IPRPC:Intellectual Property Rights Policy Committee)174は、「世界貿易の側面も含む、国、地域及び国際的な知的財産問題に関する広範なポリシ

169 https://www.ansi.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 170 US Internal Revenue Code A 501(c)3 171 AMERICAN NATIONAL STANDARDS INSTITUTE Constitution and By-Laws,2015, Section 2.01, https://share.ansi.org/Shared%20Documents/About%20ANSI/Governance/ANSI_Constitution_and_ByLaws_2015.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 172 Accredited Standards Developers, https://share.ansi.org/Shared%20Documents/Forms/AllItems.aspx?RootFolder=%2fShared%20Documents%2fStandards%20Activities%2fAmerican%20National%20Standards%2fANSI%20Accredited%20Standards%20Developers&FolderCTID=0x01200019AF95C796227A438566C464851845DB [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 173 https://share.ansi.org/Shared%20Documents/Forms/AllItems.aspx?RootFolder=%2fShared%20Documents%2fStandards%20Activities%2fAmerican%20National%20Standards%2fApproved%20and%20Proposed%20ANS%20Lists&FolderCTID=0x01200019AF95C796227A438566C464851845DB [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 174 AMERICAN NATIONAL STANDARDS INSTITUTE Constitution and By-Laws,2015, Section 7.05

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ー及び立場決定に責任を負う(理事会が、他の組織に別途委任した場合、又はそのような

決定が協会又は連盟の戦略的方向性を大きく変えるか又は影響を及ぼす範囲を除く)。委員

会は、必須特許又は他の所有権のある知的財産の国、地域又は国際標準への具現化に関す

る課題についての協会の立場を発展させること、及び標準における著作権の利用権に関す

る協会の立場を発展させること、並びに、裁判所、立法、規制機関、産業界及びその他の

者による、標準についての著作権保護の認識にも責任を負う。」としている。IPRPCには、

特許グループ常設委員会175が設けられている。

特許に関しては、「ANSI基本要件:米国国家標準に求められる適正手続」176の「3.0 米

国国家標準ポリシー」以降に述べられ、「全てのANSI認定標準開発者(ASD:ANSI-accredited

Standards Developers)は、このポリシーを遵守すべき」とした上で、「ASDは、1)その承

認手続において、必要とされる追加の情報とともに、認定された手続に、適宜、以下の文

章を含めるか、又は、2)この条項に定められた要件を満たすポリシー声明に加えて、これ

らのポリシーの完全な遵守の声明書をANSIに提出するかを選択できる」としている。

「3.1 ANSI特許ポリシー」には、ANSIの特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等

が3.1.1~3.1.4に定められている。その規定を以下に引用する。

「3.1 ANSI特許ポリシー – 米国国家標準への特許の組入れ

必須特許クレーム(その使用がその標準を遵守するために必要とされるもの)の使用を

含めるという観点から米国国家標準(ANS:American National Standards)を起草すること

は、技術的理由がこの取組を正当化すると考えられる場合、原則、異論はない。

ASD/ANSI標準開発過程における参加者は、必須と考えられるクレームを持つ特許を、

ASDに注意喚起するよう奨励される。

提案されたANS又は承認されたANSがそのような特許クレームの使用を必要とする可

能性がある旨の通知をASDが受領した場合は、この条項の手続に従う。

3.1.1 特許所有者からの声明書

ASDは、特許所有者又はその代理として保証する権限を与えられた当事者から、書面形

式又は電子形式で次のいずれかを受領するものとする。

a)そのような当事者がいかなる必須特許クレームも所有しておらず、保有することを現

時点で意図していない旨の一般的な免責の形式での保証、又は、

b)標準を実施する目的で実施許諾を利用することを希望する申出人に、

ⅰ)不公平な差別が明らかにない合理的条件の下で、又は、

175 The ANSI Patent Group Standing Committee, https://www.ansi.org/about_ansi/structure_management/policy_commit_councils/pg.aspx?menuid=1 [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 176 ANSI Essential Requirements: Due process requirements for American National Standards, January 2017 の

3.0, https://www.ashrae.org/File%20Library/docLib/StdsForms/2017_ANSI_Essential_Requirements.pdf [ 終アク

セス日:2018 年 1 月 5 日] 3.1 に特許ポリシーが記載されている。

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ⅱ)補償なしに、かつ不公平な差別が明らかにない合理的な条件の下で、

そのような必須特許クレームの実施許諾が入手可能になる保証。

そのような保証は、特許所有者(又はその代理として保証する権限が与えられた第三者)

が、保証の対象となる特許の所有権を移転する書類に保証の約束が被移転人に拘束力があ

ることを確実にするのに十分な規定を含め、被移転人が、将来の移転の際に、それぞれの

利害関係のある承継人を拘束する目的で適切な規定を同様に含めることを示すものとする。

保証は、そのような規定が関連する移転書類に含まれているか否かにかかわらず、利害

関係者のある承継人を拘束することを意図していることも示すものとする。

3.1.2 声明書の記録

特許所有者の声明書の記録は、ASD及びANSIの両方のファイルに保存されなければな

らない。

3.1.3 通知

ASDが特許所有者から上記3.1.1.bに定める保証を受領したとき、その標準は実質的に以

下の注記を含むものとする。

注 - この標準の遵守が特許権によって含まれる発明の使用を必要とする可能性があるこ

とに、使用者の注意が喚起される。

この標準の発行によって、そのようなクレーム又はそれに関連する特許権の有効性に関

し何らの立場もとられるものではない。特許所有者が、これらの権利に基づく合理的かつ

非差別な条件による実施許諾を、そのような実施許諾を取得することを望む申出人に対し

て付与する意図の声明書を提出している場合は、標準開発者から詳細を入手することがで

きる。

3.1.4 特許を特定する責任

ASDもANSIも、米国国家標準によって実施許諾が必要とされる可能性のある特許を特

定し、又は注意を喚起される特許の法的有効性又は範囲について調査を行う責任はない。」

また、「ANSI基本要件」の、4.2.1.1 ANSの承認基準において、「f)該当する場合、ANSI

特許ポリシーに適合していること。」とされており、「h)標準開発者が以下の事項又はその

証拠を提供していること。」として、「8. 該当する場合、ANSI特許ポリシーに含まれる基

準に適合している宣言」が挙げられている。

また、「4.2.1.3.4 正当な理由による取下げ」として、「ANSの取下げの請求は、以下の条

件の一つ以上が当てはまることの十分な主張によってのみ、標準審査理事会(BSR:Board

of Standards Review)によって承認されるものとする。」とし、条件としては、「a) ANSI特

許ポリシーに反している」ほかが挙げられている。

「ANSI特許ポリシー実施ガイドライン177」では、特許ポリシーには明記されていないが、

177 Guidelines for Implementation of the ANSI Patent Policy 2016, https://share.ansi.org/Shared%20Documents/Standards%20Activities/American%20National%20Standards/Procedu

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「Ⅲ ポリシー実施のための可能な手続」として、「A 特許権の早期開示」、「B 実施許諾意

思の早期表明」、「C 継続した発見された特許」が挙げられており、ASDの参加者は必須と

思われる特許の早期の注意喚起が奨励されている。そのための具体的方策も例示されてい

るが、「このことは、標準開発者が開発過程において、参加者に自己又は他人のポートフォ

リオの特許検索を行わせることを示唆するものでも、企業の知識を標準開発過程に参加し

ている個人に転嫁させることを示唆するものではない。」とされている。

実施許諾条件の決定又は評価は、「開発会議で議論・討論の対象として適切ではなく、そ

れぞれの実施許諾の将来の当事者によって、又は、必要であれば、特許ポリシーの遵守が

達成されているかについて異議を申し立てる抗告手続によって決定されるべきである」と

されている。さらに、潜在的必須特許に注意喚起されたにもかかわらず、保証状(LoA:

Letter of Assurance)がASDに提出されない場合のASDの過去の様々な対応例が挙げられて

いる(8頁)。

ANSIに提出されている特許保証状(Patent Letter of Assurance)は、ANSIのウェブサイ

ト178で確認できる。

res,%20Guides,%20and%20Forms/ANSI%20Patent%20Policy%20Guidelines%202016.pdf [ 終アクセス日:2018 年

1 月 5 日] 178 https://share.ansi.org/Patent%20Letters/Forms/AllItems.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(2) ATIS:Alliance for Telecommunications Industry Solutions179

【機関の概要】

ATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions)は情報通信技術(ICT:

Information and Communication Technology)企業の共通する緊急課題への解決策を見つけ

るためのフォーラムであり、本部はワシントン D.C.にある。ATIS 委員会及びフォーラム

に参加することにより、ビジネス目標を達成するための技術的、市場的及び規制上の影響

を考慮した包括的なアプローチが得られる。また、ATIS は 150 社の会員に、主要な ICT

企業の 高技術責任者(CTO:Chief Technology Officer)への見識に触れることによる、業

界技術の未来の戦略的見解を提供している。

ATIS は米国規格協会(ANSI:American National Standards Institute)の認定を受けてお

り、①第 3 世代パートナーシッププロジェクト(3GPP:3rd Generation Partnership Project)

の北米組織パートナーであり、②oneM2M グローバルイニシアティブの創立パートナーで

あり、③国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の会員であり、

そして④米州電気通信委員会(CITEL:Inter-American Telecommunication Commission)の

会員でもある。

【組織】

ATIS のウェブサイト上では、委員会やフォーラム(Committees and Forums)として、

自動識別及びデータ取り込み委員会、業界ナンバリング委員会、次世代相互接続相互運用

性フォーラム等、14 個が確認できる。

【規格】

ATIS が現在優先的に取り組んでいる事項としては下記のものが挙げられる。

・ グローバル 5G 標準の中の北米要件に焦点を当てた 5G ネットワークの推進

・ 全 IPネットワーク移行への包括的な問題解決アプローチの提案及び業界が望ましいペ

ースで進展することの保証

・ サイバーセキュリティの脅威に対処するためのソリューションと業界全体のフレーム

ワークの作成

・ 相互運用可能な標準環境の中でオープンソースソリューションの開発

・ 市場が求める次世代緊急通信の進歩の創出

179 http://www.atis.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

ATIS の特許ポリシーは、ATIS フォーラムと委員会の運営手続(Operating Procedures for

ATIS Forums and Committees) 180において、「第 10 項 知的財産権ポリシー(10

INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY)」として規定されている。そして、ATIS

の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が「10.4 特許(Patents)」に定められてい

るので、その規定を以下に引用する。なお、概要は ATIS のウェブサイトでも確認するこ

とが可能となっている181。

「10.4.1 特許発明一般(Patented Inventions Generally)」において、「一般的問題として、

ATIS フォーラムが米国規格の場合には、主に特許発明の使用を要求するガイドライン、標

準、その他の ATIS 成果物を作成することに異論はない。

特許発明を参照するが、ガイドライン又は成果物の採択、遵守の目的で本発明の使用を

必要としない標準、ガイドライン及びその他の ATIS 成果物の場合、公開されるものには、

以下の陳述が明示的に含まれるものとする:

・ 特許発明は参照だけのためである。

・ ATIS も関連フォーラムも、参照されている、又は標準、ガイドライン、又はその他の

ATIS 成果物に関連する可能性のある特許の存在を特定したり、適用可能性を評価する

責任を負わない。

・ ATIS も関連するフォーラムも、標準、ガイドライン又はその他の ATIS 成果物に参照

されている、又は関連する可能性のある特許発明の有効性、実施可能性又は範囲につい

て、解釈又は決定を行う責任を負わない。

さらに、標準、ガイドライン及びその他の ATIS の成果物の場合、以下の手続きが適用

される。

・ 標準、ガイドライン又はその他の ATIS の成果物で特許発明を参照する場合は、標準、

ガイドライン又はその他の ATIS 成果物の開発において可能な限り早期に特許発明の

開示を奨励する必要がある。そのような開示を行う当事者は、開発中の作業に対する特

許発明の関連性に関する説明を提供すべきである。

・ 可能な場合は、特許発明を参照している標準、ガイドライン又はその他の ATIS の成果

物は、特許番号と名前、及び特許所有者の身元を特定する必要がある。

・ フォーラム参加者又は他の第三者が、基準、ガイドライン又はその他の ATIS 成果物で

参照される特許発明のライセンスを希望する場合、ライセンス条項の全ての交渉及び

議論は、特許所有者とライセンシーとなり得る者との間で実施され、フォーラムの審議

の範囲外で行われる。どのフォーラムも、ライセンス条項の議論や交渉は許可されな

い。

180 http://www.atis.org/01_legal/docs/OP.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 181 http://www.atis.org/01_legal/patentpol.asp [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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・ 標準、ガイドライン又はその他の ATIS 成果物を採用、遵守又はその他の方法で利用す

る目的で特許発明の使用が必要な場合は、ATIS が採択した ANSI 特許ポリシーの条項

が適用されるものとする。2011 年 1 月 31 日現在、本条に基づくライセンス保証を表

明する目的で ATIS に提出された書面は、その保証が取消不能であることを明示的に

述べない限り、その保証の対象とはならない。

上記の手順からの逸脱は、ATIS の法律顧問と事前協議及び承認を得た後にのみ発生す

る。」としている。

また、「10.4.2 米国国家規格(ANS:American National Standards)」において、「米国

国家規格又は特許発明の使用を必要とするその他の成果物の開発に関連して、特許発明の

使用は、ATIS によって採択され、以下に示される米国規格協会(ANSI)の特許ポリシー

によって統制される。また、関連する特許発明の開示は、開発プロセスのできるだけ早い

時期に奨励されるべきである。さらに、標準、ガイドライン、その他の ATIS の成果物と

同様に、関連するフォーラムではライセンス条項の議論や交渉は行われない。そのような

議論や交渉は、特許発明の所有者と各有望なライセンシーとの間で直接行われるものとす

る。

ATIS が採用した ANSI 特許ポリシーの条件は次のとおりである。

・ANSI 特許ポリシー - 米国国家基準における特許の包含

このアプローチを正当であると認める技術的理由が考慮されるのであれば、必須特許

(その基準の遵守に必要とされるもの)の使用を含む点で、提案された米国国家規格

(ANS)を起草することに原則として異論はない。

ATIS が、提案された ANS 又は承認された ANS がそのような特許請求の使用を要求

する可能性がある旨の通知を受領した場合は、本条の手順に従うものとする。

・特許権者からの声明

ATIS は、提案された ANS の承認に先立ち、特定された当事者又はその代理として保

証された当事者から、書面又は電子形式で、次のいずれかを受領するものとする。

(a)そのような当事者が、必須特許を現在所有しておらず、持つ意思もないという効

果に対して一般的免責条項の形式での保証。又は、

(b)必須特許に対するライセンスは、以下のいずれかの条件で標準を実装するための

ライセンスの利用を望む申請者に対して利用可能とする保証

(ⅰ)不当な差別がないことが明白な合理的な条件の下、又は

(ⅱ)無償、かつ不当な差別がないことが明白な合理的な条件の下

そのような保証は、特許権者(もしくは特許権者の代理として保証された当事者)が、

保証の対象となる特許の所有権を移転する全ての書類において、保証の約束が譲受人に

拘束力を有することを保証するのに十分な規定を含み、かつその譲受人は、後続の将来

の移転の際にもそれぞれの承継者を拘束する目的で同様の規定を含むことを示すもの

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とする。

その保証は、関連する譲渡書類に当該規定が含まれているかどうかに関わらず、譲受

人を拘束することを示しているものとする。

・ステートメントの記録

特許所有者の声明の記録は、ANSI と ATIS の両方のファイルに保存されなければな

らない。

・通知

ATIS が上記保証を特許権者から受領した場合、その基準には以下のような注記を含

むものとする:

注 この規格の準拠は、特許権の対象となる発明の使用を必要とする可能性があること

に、ユーザの注意が喚起される。

この規格の公表は、関連する特許の有効性についてのいかなる立場も取らない。特

許権者が、そのようなライセンスを取得することを希望する申請者に対して、合理的

で非差別的な条件に関するこれらの権利に基づくライセンスを与える旨の陳述書を提

出した場合は、ATIS から詳細を入手することができる。

・特許を特定する責任

ATIS 及びび ANSI のいずれも、米国国家標準(ANS)によって必要となりうる、あ

るいは注意を払う特許の法的有効性又は特許の範囲の調査の為に必要となりうるライセ

ンスの対象となる特許を特定することに関しては責任を負わない。」としている。

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(3) NIST:National Institute of Standards and Technology

(米国国立標準技術研究所182)

米国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)は、1901

年に設立され、現在は米国商務省(DOC:Department of Commerce)の一部となっている。

NIST は、国内で も古い物理科学研究所の一つである。議会により、当時の米国の産業競

争力に対する大きな障害となっていた、英国、ドイツなどの経済的ライバルに遅れをとっ

ている二次的な測定インフラ分野について、当該障害を解消するための機関の設立が進め

られた。スマートグリッドや電子健康記録から、原子時計、アドバンスド・ナノマテリア

ル、コンピュータチップまで、無数の製品やサービスは、NIST によって提供される技術、

測定又は標準に何らかの形で依存している。

NIST の組織構造は、メリーランド州ゲーサーズバーグの本社とコロラド州ボルダーの

施設に加えて、7 つの研究所と複数の外部プログラムで構成されている。研究所には、ナノ

スケール科学技術センター(CNST:Center for Nanoscale Science and Technology)、通信技

術研究所(CTL:Communications Technology Laboratory)、エンジニアリングラボ(EL:

ngineering Laboratory)•情報技術ラボ(ITL:Information Technology Laboratory)、材料測

定研究所(MML:Material Measurement Laboratory)、中性子研究センター(NCNR:NIST

Center for Neutron Research)及び物理計測研究所(PML:Physical Measurement Laboratory)

があり、外部プログラムには、ボールドリッジ・ パフォーマンス・エクセレンス・プログ

ラム183(Baldrige Performance Excellence Program)、ホリングス製造延長パートナーシップ

184(MEP:Hollings Manufacturing Extension Partnership)、技術イノベーション・プログラ

ム185(TIP:Technology Innovation Program)及び先進製造機関(New Manufacturing

Innovation Institute)設立への助成金がある。

【特許ポリシー】186

NISTの技術については、実施許諾可能なものがあり、検索可能なものはFLC(Federal

Laboratory Consortium for Technology Transfer)のウェブサイト(NISTのページ)に掲載さ

れている187。NIST所有のライセンスは、TPO188(Technology Partnerships Office)が準備、

交渉、管理している。そして、NISTは、商用目的のために排他的又は非排他的で商業目的

182 NIST ホームページ, https://www.nist.gov/about-nist [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 183 米国における製造業、サービス業、教育機関、医療従事者及び非営利組織間の卓越した業績を促進する。 184 中小製造業の技術及び事業の補助を提供する地域センターの全国ネットワーク。 185 国及び社会の重要ニーズに対応する潜在的に革新的な技術について、産業界、大学及び研究コンソーシアに対する

補助金を提供する。 186 https://www.nist.gov/tpo/licensing-nist-technologies [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 187 https://flcbusiness.federallabs.org/#/laboratory/1277 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 188 TPO は、米国、地方自治体、州及び連邦機関及び一般市民の NIST ラボラトリーと産業との間の技術提携活動を構

築し、維持している。

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でのライセンスを付与しているが、研究目的に対しては非排他的なライセンスのみ付与し

ている。利用可能なライセンスタイプの概要は以下の通りであり、契約条件はケースバイ

ケースであるとしている。

1) Science/Technology Advancement Research (STAR) License: 終的な商業化のために

NIST技術の開発を調査・促進するための無償の非独占的実施権。

2) Small Business Innovation Research-Technology Transfer (SBIR-STAR) License:SBIR

プログラムを通じて利用可能で、SBIRの受賞者に商業化ライセンスの交渉機会が与

えられるもの。また、対象は、必要に応じて特定されたSTARライセンスを含む、技

術移転のために「TT」として指定されたサブトピックとなっている。

3) Technology Acceleration and Growth (TAG) License:特許発行日から5年間ライセンス

されていない技術について、国内の企業や機関のみ利用可能な、1年限定1,000ドル

の排他的商用ライセンス。なお、手数料や条件の交渉によっては、特許期間中の独占

的ライセンスへの転換も可能となっている。

4) Science/Technology for Entrepreneurship Program (STEP) License:早期段階の技術を開

発するために投資を促進する中小企業のためのライセンス。対象となる企業は、設立

5年未満の国内企業であって、従業員数25名未満かつ資本金2百万ドル未満(子会社は

含まず)としている。初年度無償の非排他的商用ライセンスであり、TAG(Transfer

Admission Guarantee)要件ごとの排他的ライセンスは500ドルの実施料となっている。

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(4) TIA:Telecommunications Industry Association (米国電気通信工業会189) 【機関の概要】

米国電気通信工業会(TIA:Telecommunications Industry Association)は世界の情報通信

技術(ICT:Information and Communication Technology)産業の利益を追求する団体である。

産業構成員には電気通信、ブロードバンド、無線ワイヤレス、情報技術、ネットワーク、

ケーブル、サテライト、統合コミュニケーション、非常時通信に携わる企業が含まれる。

TIA の基準は、米国国家規格協会(ANSI:American National Standards Institute)から認

定を受け、主に北アメリカ市場で利用されている。TIA は、業界規格の開発、政策・戦略

の起草、そして市場における情報の主導的管理を行っている。

【会員】

電気通信機器メーカー、サービスプロバイダー、政府機関、学術機関、エンドユーザー、

一般的な関心を持つ他の人々を含む 500 を超えるアクティブな参加者が、TIA の基準設定

プロセスに従事している。これらの規格がグローバルに確立されるように、TIA は国際電

気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)、国際標準化機構(ISO:

International Organization for Standardization)及び国際電気標準会議(IEC:International

Electrotechnical Commission)と協力している。

【規格】

TIA は、さまざまな ICT 分野で合意ベースの自主基準を作成するために、米国国家規格

協会(ANSI)の認定を受けている。TIA は、民間無線機器、セルラー塔、データ端末、衛

星、電話端末機器、アクセス可能性、VoIP 機器、構造化ケーブル、データセンター、モバ

イル機器通信、マルチメディアマルチキャスト、車両テレマティクス、医療 ICT などのガ

イドラインを開発する 12 のエンジニアリング委員会を運営している。これらの委員会に

は、スマート・ユーティリティ・メッシュ・ネットワーク、持続可能/環境通信技術なども

含まれる。

【特許ポリシー】190

TIA の特許ポリシーは、2014 年 5 月 1 日付で第 1 版が策定された「TIA Intellectual

Property Rights Policy」に規定されている。当該規定には、TIA の特許ポリシーの基本的考

え方及び手続等がその 3.1.1~3.1.3 に定められている。その規定を以下に引用する。

189 http://ja.commscope.com/Resources/Standards/Enterprise/Telecommunications-Industry-Association-(TIA)/ [ 終

アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 190 http://www.tiaonline.org/sites/default/files/pages/IPRP-2014May01_0.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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使用許諾条件に関しては、「3.1.1 RAND 約束(Reasonable and Non-Discriminatory

(RAND) Commitment)」において、「以下のいずれかを述べることにより、ライセンス供与

を行う意思を示すものとする。

(1) 規格の一部又は全部の実施に必要な必須特許を保持していない。又は、

(2) (a)保有する必須特許のライセンスは、合理的かつ差別的でない金銭的補償のな

い条件で全ての出願人に提供される基準の実施の分野における規範的部分の一部

又は全部の実施に必要な範囲でのみ適用される。又は、

(b)保有する必須特許のライセンスは、合理的で差別的でない条件で全ての出願

人が利用できるようになる。

特許権者は、Patent Holder's Statement を提出しなければならない慣行の使用分野につ

いてこの規格の一部又は全部を実施する目的で、そのようなライセンスを取得することを

希望する申請者に、RAND の条件(金銭の支払いの有無に関わらず)でライセンスを与え

る意思を確認する。RAND ライセンスの付与意思は取消不能であり、Patent Holder's

Statement が提出されると拘束力を持つ。対象の権利が譲渡又は移転された場合には、署

名者は当該約定の存在を譲受人又は譲受人に通知しなければならない。」としている。

また、特許の開示については、「3.1.2 開示(Disclosure)」において、「TIA 規格に必須

可能性がある特許及び公開特許出願の任意の開示(好ましくは早期)を奨励するが、要求

されるものではない。特許所有者は、開示するために Patent Holder's Statement を使用

しなければならない。開示方針は、グループの活動に参加する会員及び参加者に適用され

る。会員又は参加者が本ポリシーに同意することにより、特許調査を実施するか、又は必

須特許の特許ポートフォリオをレビューする必要はない。TIA は、特許の特定又は特許の

有効性又は範囲の調査を行わない。」としている。

「3.1.3 規格発行後に発見された特許(Patents Discovered Subsequent to Publication of a

Standard)」では、「本ポリシーは、規格の公開前、公開中又は公開後に発見された必須特

許にも等しく適用される。開示がなされると、特許保有者は、提案された基準の承認前に

必須特許が存在するか、又は既知である状況において必要とされるのと同じ声明を提供す

るよう要求される。」としている。

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(5) UL:Underwriters Laboratories Inc.

(米国保険業者安全試験所191,192)

【機関の概要】

米国保険業者安全試験所(UL:Underwriters Laboratories Inc.)は、認証、試験、検査及

びアドバイザリー/トレーニング・サービスの提供によって、120 年間にわたり発展を遂げ

てきた世界的な第三者安全科学機関である。人々に安全な生活/職場環境をもたらすという

目的の下、10,000 名を超えるプロフェッショナル・スタッフを擁する UL は、調査/規格開

発活動を通じて安全において進化し続けるニーズの継続的促進と対応に取り組んでいる。

そして、製造企業をはじめとする各種企業、貿易団体、国際的規制機関のパートナーとし

て、複雑さを増すグローバル・サプライチェーンに対するソリューションを提供している。

UL は政府機関ではなく、「公共安全」を目的として、安全規格の開発とそれに準じた製

品試験・認証を活動の核としつつ、安全な世界作りに奉仕する民間の組織である。UL は、

1 世紀以上の歴史を持つ民間の世界的な第三者安全科学機関として、何千種類もの製品を、

UL 安全規格やその他の規格に対して試験・評価をしてきた。UL の認証製品は米国の地方

自治体をはじめ、州及び連邦レベルの取締当局でも認められている。

なお、JETRO のホームページによれば、UL 規格は、材料・装置・部品・道具類などから

製品に至るまでの機能や安全性に関する標準化を目的としていること、及び UL 規格の認

証取得は任意だが、州のプロジェクトでは UL 認証を義務付けている場合も多く、米国の

電気製品の多くは UL 認証品となっており、UL 規格を国家規格(ANS:American National

Standards)として採用している ANSI/UL もあることが示されている193。

【組織】

経営チームや各委員会、ウィリアム・ヘンリー・メリル・ソサエティ(William Henry Merrill

Society)で構成されている。経営チームは、多彩な経験と能力を備えた専門家からなるグ

ループである。委員会(Councils)は関係当局、政府機関、消費者団体、オピニオンリーダ

ーなどで構成されている。現在は、電気、環境/健康、火災安全、セキュリティシステム、

フォローアップサービス、消費者諮問、マネジメントシステム諮問、商業保険、環境の委

員会が設置されている。ウィリアム・ヘンリー・メリル・ソサエティは、UL の公共安全の

ミッション遂行に多大な貢献をしたと認められた人物で構成されている。

191 https://www.ul.com/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 192 https://ja.ul.com/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 193 資料1の第Ⅰ章に記載したデジュール標準の定義を厳格に適用すれば、UL は、デファクト標準と分類する判断もで

きるが、UL 規格を国家規格(ANSI)として採用しているとの記載も考慮し、本資料では便宜上でデジュール標準として

整理している。https://www.jetro.go.jp/world/qa/04S-040007.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 164 -

【規格】

UL 規格には、広範な安全性研究と科学的専門知識が含まれており、1,500 以上の規格を

有している。UL 規格の内容はウェブサイトから確認できる194。

【特許ポリシー】195,196

UL の特許ポリシーは、「PatentPolicy_V2_2017」としてウェブサイトで確認できる。こ

の概要を以下に引用する。

ポリシー1.1(UL 規格の特許ポリシー「UL Standards Patent Policy」では、「以下に示し

たのは、すべての UL 規格(UL/ANSI 規格など)に対する UL の特許ポリシーです。」と

規定している。

ポリシー1.1.1(UL 規格の特許の包含「Inclusion of Patents in UL Standards」)では、「技

術的な理由でこのアプローチが正当であるとみなされる場合、本質的な特許請求(その使

用がその規格への準拠を必要とするもの)の使用を含めた条件で提案される UL 規格を起

案することに、原則的に反論するものではありません。」としている。

ポリシー1.1.1.1(UL への適時の通知「Timely Notification to UL」)では、「UL 規格の開

発プロセスへの参加者は、UL の注目に値すると思われる請求を含む特許を持参すること

が奨励されています。UL 規格の提案又は承認を開始した提案書の作成者、STP メンバー、

あるいは個人又は組織が、提案又は承認した UL 規格に本質的な特許請求が含まれている

と信じる場合、かかる作成者、規格委員会(STP:Standards Technical Panel)メンバー、

あるいは個人又は組織は STP 及び UL に対して、本質的な特許請求の存在の可能性を通知

するものとします。UL は、提案又は承認した UL 規格がかかる特許請求の使用を必要と

しているという旨の通知を受け取った場合、本ポリシーの手順に従うものとします。 UL

はかかる基本的な請求を調査する義務は負いません。 UL の唯一の義務は特許保持者から

本ポリシー1.1.2 と調和した特許声明書を要求し、1.1.4 に従って、以下の特許保持者から

の保証の声明書を受け取ったことを規格に記すことです。」としている。

ポリシー1.1.2(特許保持者からの声明書「Statement from patent holder」)では、「UL は、

特許保持者又は代理で保証を行う権限をもつ関係者から、書面又は電子形式で次のいずれ

かを受け取るものとします。

1. かかる当事者は本質的な特許請求を保持していない及び現在は保持する意図はない

という旨の一般的な免責事項、又は、

2. かかる必須特許権の使用許可を、規格の準拠を目的として使用を求める希望者に対し

194 https://standardscatalog.ul.com/?_ga=2.17659705.1692190235.1515044917-1239141031.1515044917 [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日] 195 https://ulstandards.ul.com/develop-standards/stps/ul-patent-policy/?_ga=2.207328403.1091762043.1515030140-849561300.1515030140 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 196 https://ja.ulstandards.ul.com/develop-standards/stps/ul-patent-policy/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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て付与することの陳述。ただし、

• 報酬なしで明らかに不公平な差別のない合理的な条件で、又は、

• 明示的に非差別的で、合理的な条件に基づくこととする。

かかる保証では特許保持者(又は代理で保証を行う権限をもつ第三者)が、保証の対象

となる特許の所有権を移転する文書、ならびに保証内の誓約が財産被移転者の拘束力を有

することを保証するのに十分な規定を含めることを記載するものとします。また財産被移

転者が同様に、将来移転を行う場合、各権利承継者を拘束する目的の適切な規定を含める

ことを記載するものとします。また、関連する移転文書への記載の有無に拘わらず、保証

は権利承継者を拘束する目的をもつことも記載されます。」としている。

ポリシー1.1.3(声明書の記録「Record of statement」)では、「特許保持者の声明書の記録

は UL(UL/ANSI 規格に関しては ANSI)でファイリングして、保持するものとします。」

としている。

ポリシー1.1.4(通知「Notice」)では、「UL が特許保持者から 1.1.2 (2)で規定された保

証を受け取るか否かに拘わらず、規格には次のような重要な注記を含めるものとします。

注記- この規格への準拠には特許権の対象となる発明の使用を必要とする場合が

あることに注意してください。

この規格を出版しても、この請求又はこのような請求、あるいはそれに付随する特許権

について、正当性を支持する立場は取りません。特定の特許保持者が合理的かつ非差別的

な条件で、これらの権利のライセンスを付与する意思を示す声明を提出している場合、詳

細は UL から取得することができます。」としている。

ポリシー1.1.5(特許の識別の責任「Responsibility for identifying patents」)では、「UL あ

るいは ANSI のいずれも、UL 又は UL/ANSI 規格でライセンスが要求されるすべての特

許を識別し、対象となる特許の法的な正当性又は対象範囲に対する問い合わせを遂行する

責任をもちません。」としている。

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7. 英国

(1) BSI:British Standards Institution

(英国規格協会197)

【機関の概要】

英国規格協会(BSI:British Standards Institution)は、1901年に土木技術者協会(Council

of the Institution of Civil Engineers)で鉄鋼部門の標準化を検討する委員会の発足が提唱さ

れ、工学標準化委員会(Engineering Standards Committee:1918年から英国工学規格協会)

が開催されたことが始まりとされる。1929年4月22日、工学標準化委員会が王室認可(Royal

Charter)を受け、1931年に追加許可が下り、名称が英国規格協会(British Standards

Institution)に変更されている198。BSIは、非営利分配会社(non-profit distributing company)

として、王室認可と規約(Royal Charter and Bye-laws)199によって規律されており、英国

政府との覚書 200 により、国際標準化機構( ISO: International Organization for

Standardization)、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)、欧

州標準化委員会(CEN:European Committee for Standardization)、欧州電気標準化委員会

(CENELEC:European Committee for Electrotechnical Standardization)に英国を代表して

参加している。

【会員】

BSIの会員は、登録会員(Subscribing Members)と委員会会員(Committee members)か

ら構成されている。

【組織】

標準を作成する技術組織は、標準政策戦略委員会(Standard Policy and Strategy

Committee)の下、複数の領域政策戦略委員会(Sector Policy and Strategy Committees)、技

術委員会(Technical Committees)、諮問委員会(Advisory Councils)で構成される。具体的

な委員会は、BSIのウェブサイト201で、作成中の標準とともに検索できる。

197 https://www.bsigroup.com [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 198 BSI の沿革, https://www.bsigroup.com/ja-JP/about-bsi/our-history/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 199 https://www.bsigroup.com/Documents/about-bsi/royal-charter/bsi-royal-charter-and-bye-laws.pdf [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 200 MoU, https://www.bsigroup.com/Documents/about-bsi/BSI-UK-NSB-Memorandum-of-Understanding-UK-EN.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 201 Standards Development, https://standardsdevelopment.bsigroup.com/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【規格】

BSIが策定した標準は、BSIのウェブサイト202に記載された方法で見付けられる。

【特許ポリシー】

BSIの特許ポリシーは、「標準のための標準:標準化原則」203及び「英国標準の構成と作

成の規則204」に定められており、基本的にはITU/ISO/IEC共通ポリシーと同様の規定であ

る。BSIに提出された特許宣言は、一覧としては作成されていないと認められるが、必要に

応じて、各標準文書に含まれている場合もある。

202 Standards, https://www.bsigroup.com/en-GB/standards/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 203 A standard for standards – Principles of standardization, Second edition, December 2016 (BS 0:2016), 3.30; 9.5.4., https://www.bsigroup.com/Documents/30342351.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 204 Rules for the structure and drafting of UK standards, January 2012、6.6.4, Annex F., https://www.bsigroup.com/Documents/standards/guide-to-standards/BSI-Guide-to-standards-2-standard-structure-UK-EN.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] ISO/IEC Directives, Part 2:2011 を基本の作成されており、Annex F は BS 0: 2011(August 2011)の 9.5.4 を引用して

いるので、BS 0:2016 との対応がとれていない。 https://www.bsigroup.com/LocalFiles/en-GB/standards/bs0-pas0/BSI-BS0-Standard-for-Standards-UK-EN.pdf [ 終

アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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8. ドイツ

(1) DIN:Deutsches Institut für Normung

(ドイツ規格協会205)

【機関の概要】

ドイツ規格協会(DIN:Deutsches Institut für Normung)は、1917年にドイツ産業標準委

員会(NADI:Normenausschuss der deutschen Industrie)として設置され、1918年にDIN 1

"Taper pins"が公表された。1926年にドイツ標準委員会(DNA:Deutscher Normenausschuss)

への名称変更を経て、1975年に連邦政府との合意によって、国内標準化機関と認められ、

ドイツ規格協会(DIN Deutsches Institut für Normung e.V.)に改称された。DINの目的は、

「社会全体の利益のために、公共の利益を保護しつつ、体系的かつ透明性のある手続にお

いて、標準化及び仕様書作成活動を、奨励し、体系化し、導き、及び管理すること」、「成

果が、革新、安全、及び産業、研究組織、公共部門及び社会全体の間での情報交換を進め、

品質保証、合理化、職業上の健康・安全及び環境・消費者保護を支援することに資する。

その成果を公表し、その成果の実施を奨励すること」としている。DINは、ドイツ・ベル

リンに所在する、ドイツ法に基づく登録社団法人であり206、国際標準化機構(ISO:

International Organization for Standardization)、欧州標準化委員会(CEN:European

Committee for Standardization)にドイツを代表して参加している。

【会員】

会員には、企業、研究機関、技術及び産業団体、民法又は公法に基づき組織された法人、

他の法人及び共同経営会社などが含まれる207。

【組織】

標準を作成する技術組織は、標準委員会(Standards Committees)であり、DINのウェブ

サイト208に掲載されている。標準は、上記委員会のウェブサイトで当該標準を担当する委

員会との対応で確認することができる。

205 http://www.din.de/de/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 206 Satzung, Statutes, http://www.din.de/blob/66170/0ad27759be047557cf7654e1f4df824d/din-satzung-en-data.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 207 Members list, http://www.din.de/de/mitwirken/din-mitgliedschaft/din-mitglieder (German only) [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 208 Standards Committees, http://www.din.de/en/getting-involved/standards-committees [ 終アクセス日:2018 年

1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

特許ポリシーに言及した文書として、DIN 820-1:2014-06 (D) Normungsarbeit - Teil 1:

Grundsätzeがあるが、基本的には、ITU/ISO/IEC及びCEN/CENELECの特許ポリシーに

準拠している。これまでDINに提出された特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見

できていない。

(2) DKE:Deutsche Kommission Elektrotechnik Elektronik Informationstechnik in DIN

und VDE

(ドイツ電気・電子・情報技術委員会209)

【機関の概要】

ドイツ電気・電子・情報技術委員会(DKE:Deutsche Kommission Elektrotechnik Elektronik

Informationstechnik)は、ドイツ規格協会(DIN:Deutsches Institut für Normung)とドイ

ツ 電 気 ・ 電 子 ・ 情 報 技 術 協 会 ( VDE : Verband Der Elektrotechnik Elektronik

Informationstechnik e.V.)の中に設置されている委員会で、国際電気標準会議(IEC:

International Electrotechnical Commission)、欧州電気標準化委員会(CENELEC:European

Committee for Electrotechnical Standardization)及び欧州電気通信標準化機構(ETSI:

European Telecommunications Standards Institute)にドイツを代表して参加している。

したがって、DINと同様に運営さており、会員情報、標準情報、特許ポリシー、特許宣

言については、上記DINと同じ状況である。

【組織】

標準を作成する技術組織である標準委員会(Standards Committees)は、DKEのウェブ

サイト

210に掲載されている。

209 https://www.dke.de/de [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 210 Standards Committees, http://www.din.de/en/getting-involved/standards-committees [ 終アクセス日:2018 年

1 月 5 日]

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9. フランス

(1) AFNOR:Association Française de Normalisation

(フランス規格協会211)

【機関の概要】

フランス規格協会(AFNOR Association Française de Normalisation)は、1926年に創設さ

れた後、1943年に非営利社団法人として登録され212、2009年の政令

213により、フランスを

代表する標準化機関となった214。国際標準化機構(ISO:International Organization for

Standardization)、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)、欧

州標準化委員会(CEN:European Committee for Standardization)、欧州電気標準化委員会

(CENELEC:European Committee for Electrotechnical Standardization)にフランスを代表

して参加している。

【組織】

標準を作成する技術組織として、標準化委員会(commissions de normalisation)及び領域

標準化事務局(BNS:Bureaux de Normalisation Sectoriels)215等が設置されており216、各委

員会の詳細は、ウェブサイト217に掲載されている。

【規格】

標準は、2016年時点で34,674件あり、その90%は欧州標準又は国際標準となっている218。

AFNORのウェブサイト219で確認することができる。

211 http://www.afnor.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 212 http://www.groupeafnor.org/en/about/history/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 213 Décret n° 2009-697 du 16 juin 2009 relatif à la normalization, https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000020749979 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日] 214 Organisation, LES TEXTES DE RÉFÉRECE, http://www.francenormalisation.fr/vue-densemble-normalisation [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 215 http://www.francenormalisation.fr/les-acteurs-de-la-normalisation/les-bureaux-de-normalisation-sectoriels/ [ 終

アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 216 Organisation, VUE DE ENSANBLE, http://www.francenormalisation.fr/vue-densemble-normalisation/ [ 終アク

セス日:2018 年 1 月 5 日] 217 http://norminfo.afnor.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 218 https://www.groupeafnor.org/en/wp-content/uploads/sites/2/2017/06/Facts-and-figures-2016-2-pages.pdf [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日] 219 http://norminfo.afnor.org/?_ga=1.5769587.1386911855.1474350098 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

特許ポリシーは、「フランス標準化規則第一部:要請と作業手順(Règles pour la normali-

sation française Partie 1:Instances et procédures de travail)220」にて定められており、基本

的にITU/ISO/IEC共通特許ポリシーとほぼ同様の内容である。

AFNORに提出された特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

220 Règles pour la normalisation française Partie 1 Instances et procédures de travail Première version intégrale Edition 9 (Mai 2016) 2.8,A2.8, http://www.francenormalisation.fr/wp-content/uploads/2016/06/Regles_pour_la_normalisation_2016-.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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10. オランダ

(1) NEN:Nederlands Normalisatie-instituut

(オランダ規格協会221)

【機関の概要】

オランダ規格協会(NEN:Nederlands Normalisatie-instituut)は、1916年にオランダ貿

易産業協会(Nederlandse Maatschappij voor Nijverheid en Handel)と王立技術者協会

(Koninklijk Instituut van Ingenieurs)によって創設され、オランダのデルフトに所在して

いる。また、2016には王立の称号を与えられている。NENは、国際標準化機構(ISO:

International Organization for Standardization)、欧州標準化委員会(CEN:European

Committee for Standardization)にオランダを代表して参加している。NENの活動は、定款

及び規則に定められている222。

【会員】

NENは会員制組織ではない。

【組織】

標準を作成する技術組織として、約1400の標準化委員会(Normcommissie)が設置され

ており、NENのウェブサイト223に掲載されている。各委員会には分科委員会(Normsub-

commissie)及びワーキンググループ(Werkgroepen)が設けられている224。

【規格】

作成された標準は、NENのウェブサイト225から確認できる。

221 https://www.nen.nl/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 222 “Statuten & Huishoudelijk reglement” https://www.nen.nl/web/file?uuid=2cf0cde3-876c-451b-aaae-cd4aa9453a04&owner=85618914-4377-4bd7-beea-aa1e8ae86672 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 223 Normcommissies en nieuwe trajecten, https://www.nen.nl/Normontwikkeling/Doe-mee/Normcommissies-en-nieuwe-trajecten.htm [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日] 英文は、Technical committees and new subjects(https://www.nen.nl/Standardization.htm [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日])又は、Normontwikkeling(https://www.nen.nl/Normontwikkeling.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日])参照。 224 委員マニュアル“Handleiding Commissieleden”, https://www.nen.nl/web/file?uuid=fbc9618c-1f6a-4b11-b749-ce9ad25c8f53&owner=85618914-4377-4bd7-beea-aa1e8ae86672 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 225 https://www.nen.nl/NEN-Shop-2.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

特許ポリシーは、ITU/ISO/IECとCEN/CENELECの特許ポリシーに準拠しているが、そ

のことを示すNENの文書は調査した公開情報の範囲では発見できていない。なお、NENの

ウェブサイト226からは、CEN/CENELEC、ISO、IECの対応ウェブサイトにリンクが張ら

れている。

これまで、特許宣言は提出されていない。

(2) NEC:Koninklijk Nederlands Elektrotechnisch Comité

(王立オランダ電気技術委員会227)

王立オランダ電気技術委員会(NEC:Koninklijk Nederlands Elektrotechnisch Comité)は、

1911年に創設され、2012年に王立の称号が与えられた委員会であり、オランダ・デルフト

にてNENと同じ場所に所在し、電気工学とICT(Information and Communication Technology)

の分野における標準化を担当している。NECは、国際電気標準会議(IEC:International

Electrotechnical Commission)、欧州電気標準化委員会(CENELEC:European Committee for

Electrotechnical Standardization)に、オランダを代表して参加している。

会員情報、標準を作成する技術組織、特許ポリシー及び特許宣言については、NENと同

様の状況である。

作成された標準は、NENのウェブサイトから確認できる。

226 Patenten(下記リンク先)の「NEN patenten Informatie Lijst」という項目が設けられているが、リンク設定がな

い。https://www.nen.nl/Normontwikkeling/Reageer-nu/Patenten.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 227 NEC, Nederlands Elektrotechnisch Comité, https://www.nen.nl/Over-NEN/Over-NEC.htm [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日]

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11. 中国

(1) SAC:Standardization Administration of the People's Republic of China

(国家標準化管理委員会228)

【機関の概要】 国家標準化管理委員会(SAC:Standardization Administration of the People's Republic of

China)は、2001年に創設され、国務院によって、国内における標準化の統一管理、監督及

び全体的調整を行う権限を与えられている。SACは、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)に、中国を代表して参加している。 【組織】 標準を作成する技術組織は、2017年現在、537の技術委員会(TC:Technical Committee)

及び作業グループ(WG:Working Groups)が登録されている229。

【規格】

標準は、国家標準、業界標準、地方標準及び企業標準があり、国家標準は、主に強制的

標準(GB:Guojia Biaozhun)と推薦国家標準(GB/T)等が含まれており、ウェブサイト230

から確認できる。

情報通信技術分野における公的標準規格について、中国通信標準化協会によるデータ231

への検索結果により、4235種類の標準があると認められる(2017年2月)。

【特許ポリシー】

特許ポリシーについて、現在の中国では依然として特許標準化に係る法律制度はまだ空

白地帯で、具体的な運用規則もない。

特許標準化に係る規定は、 高裁判所がかつて遼寧省高等裁判所の(2007)遼民四終字

第126号の「季強氏、劉輝氏と朝陽市興諾建築工程有限公司との間の特許権侵害紛争事件」

の報告について発行した【2008】民三他字第4号回答書となっている。同回答書において、

高裁判所は、「現在、中国において標準制定機関が、まだ、標準に関する特許情報の公開

公表及び使用制度を構築していない実情に鑑み、特許権者が標準の制定に参画し、又はそ

れに同意し、特許を国家、業界又は地方標準に組み入れた場合、特許権者が他人に対して

228 http://www.sac.gov.cn/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 229 http://www.sac.gov.cn/SACSearch/search?channelid=94555 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 230 中国国家標準(GB 規格)検索データベース(中英併記), http://www.sac.gov.cn/was5/web//outlinetemplet/gjbzcx.jsp [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 231 http://www.ccsa.org.cn/search.php3?source=yd&keyword=&selectkind=all&PageNo=1 [ 終アクセス日:2018 年

1 月 5 日]

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標準を実施すると同時に、当該特許を実施することを許諾したものとみなされ、他人の関

連実施行為は、特許法第11条に規定する特許権侵害行為には該当しない。特許権者は、実

施者に対して一定の実施料を支払うことを求められるものの、実際に支払う金額が明らか

に正常の許諾実施料より安価で、特許権者が特許実施料を放棄することを承諾した場合、

その承諾に応じて取り扱うものとする。」と述べている。

国家標準委員会は2012年に、「特許に係る国家標準に関する管理規定」の意見募集稿を公

表した。当該意見募集稿において、「特許に係る国家標準の制定・修正の過程において、専

業標準化技術委員会又は標準管理の担当部門は、直ちに特許権者又は特許出願人の発行し

た特許実施許諾声明を入手すべきであり、特許権者又は特許出願人が標準の中に特許を組

み入れることに同意した場合、合理的かつ非差別に無償又は有償でいずれかの組織又は個

人が当該国家標準を実施する際、その特許を実施することに同意しなければならない」と

規定している。当該規定は、FRAND原則と一致しているものの、正式な規定はいまだ公布

されていない。

特許宣言は調査した公開情報の範囲では発見できていない。

(2) CCSA:China Communications Standards Association

(中国通信標準化協会232)

【機関の概要】

中国通信標準協会(CCSA:China Communications Standards Association)は、情報産業

部(MII:Ministry of Information Industry)と中国標準化管理局の承認を受けて、民事省に

登録され、2002年12月18日に設立された。MIIは、通信業界の改革と通信市場の自由化の

ニーズを満たすために、1999年4月以来、通信規格・技術調整部、通信標準化推進センター

に加えて、通信規格の開発に特化した 6つの作業部会(CWTS(China Wireless

Telecommunication Standard)、TNS(Transparent Network Substrate)、IPSG、NSSG、NMSG、

電源標準作業部会(Power SupplyStandard Working Group))と、CMIS(China Mobile Internet

Application Protocol Special Group)の設立を承認してきた。そして、国際標準と中国の状況

に適合し、市場のニーズを満たすことができる全国的な統一通信標準化組織を設立するた

めに、Wei Leping氏とWu Hequan氏を含む数多くの上級専門家が既存の標準作業部会に

基づいた中国の通信標準組織を確立することを提案し、CCSAが設立されている。

CCSAは、中国全土のICT(Information and Communication Technology)分野における標

準化活動を行うために、中国の企業や研究所によって設立された非営利法人組織である。

232 http://www.ccsa.org.cn/english/about.php [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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CCSAは、MIIの承認と民事省の登録により組織されている。CCSAの会員は、研究機関、

設計機関、製造業者、運営会社、大学及びその他の団体を含む法人組織のみとされている。

CCSAは、「オープン性、公平性、公正性」の原則に従い、産業、大学、研究機関を取り入

れ、通信標準化活動を行うエンタープライズベースの市場志向の作業システムを確立する

ことにより、中国におけるICT産業の発展に貢献することを目的としている。

CCSAは、当局、すなわち情報産業部及び関係当局の指導の下で、ICT分野における標準

化活動を行うことに全力を尽くしている。主な活動範囲は、以下の通りである。①標準化

に関する州法、規制、政策を公布する。会員と当局との間のコミュニケーションを円滑に

するため、関係当局に意見と要請を送付する。②標準化体制の検討と調査を行い、通信規

格の研究開発プロジェクトを提案する。コメント作成、調整、レビュー、標準準拠テスト、

相互運用性テストを実施するために会員を編成する。③通信規格の公布、相談、サービス

及び訓練等の活動を通じて通信規格の実施を促進する。④ICTと標準化における国内外の

交流と協力を組織する。通信規格における研究開発活動を支援する国内外の通信規格に関

する情報の収集と分析を行う。⑤当局が委託した標準化に関連する作業、CCSA又は他の

組織の会員を務めること。

【特許ポリシー】

CCSAの特許ポリシーは、2007年9月13日に採用された「Intellectual Property Rights Policy

(for trial implementation)」として規定されている233。ここには、CCSAの特許ポリシーの基

本的な考え方及びその手続等が第2条~第8条に定められている。

特許ポリシーの第2条では、標準規格における特許技術の採用について、「原則として、

CCSAは標準規格における特許技術の採用に反対していない。標準規格の開発中、CCSAは、

技術的メリットに関して特許技術を採用する必要性と妥当性を評価し、特許技術が標準で

採用された場合の業界への影響を検討する。」としている。特許の開示については、ポリシ

ーの第3条において、「CCSAは、会員及びその会員組織が知っている標準に関連する特許

の情報並びに標準又はドキュメンテーションに関連し、会員又はその関連会社によって他

の標準組織に提供された特許の情報を早期に開示するよう会員に促す。ただし、この第3条

は、会員が特許検索を行う義務を課すものではない。」としている。

ポリシーの第4条では、ライセンス条件を規定しており、「標準に関連する特許を保有す

る会員及びその関連会社は、CCSAに特許ライセンス宣言書を提出するものとする。ライ

センス宣言は、

(1)標準を実装する当事者に無償ライセンスを付与する意思があること。

(2)本基準を実施する当事者に対し、公平で合理的で非差別的条件でライセンスを付与す

233 www.ccsa.org.cn/ccsafile/innerfile/f47.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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る意思があること。

(3)ライセンス供与を希望しない。」としている。

特許ポリシーの第5条は、「CCSAは、非加盟国が保有する標準に関連する特許がCCSAに

留意された場合、直ちに特許所有者に特許情報の開示を要求し、第3条及び第4条を参考に

関連する特許ライセンス宣言書を提出するものとする。」としている。また、特許ポリシー

の第6条で、「特許所有者が標準に関連する特許の下でライセンス供与を拒絶する場合、

CCSAは実行可能な代替技術を求めるためにその標準を審査し、当局に標準を取り消すか、

問題を解決する他の有効な手段をとる。」としている。

特許ポリシーの第7条はライセンス交渉について規定しており、「CCSAは、基準の実施

におけるライセンス交渉には関与しない。これは、特許権者と標準を実施する他の当事者

との間で行われるべきである。標準の実施に起因する特許問題に関する紛争は、関係する

他の当局によって処理されるべきである。」としている。

特許ポリシーの第8条は、CCSAの責任について言及しており、「CCSAは、特許所有者に

よって提供されたライセンス宣言を含む特許情報への会員及び一般のアクセスを許可する

ための適切な手続及びアプローチを確立しなければならない。 CCSAは、特許の有効性の

確認及び標準に対する特許の適用可能性の確認、特許情報の正確性及び完全性の保証につ

いて責任を負わない。」としている。

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12. 香港

( 1 ) ITCHKSAR : Innovation and Technology Commission Hong Kong Special

Administrative Region

(香港特別区創新科技署234)

香港は、基本的に国際標準を使用することにしていることから独自に標準を開発する組

織がなく、特許ポリシーも特許宣言もない。

ITCHKSAR の技術革新委員会は、以下のような一連の標準関連サービスを提供してい

る。

産品標準資料組(PSIB:Product Standards Information Bureau)は、標準に関する一般

的な意識を促進し、標準に関連した香港、中国の国際及び地域フォーラムへの参加を調整

する。さらに、PSIB は、公共の利用のための標準の参照ライブラリの維持、海外標準機

関からの標準規格の販売の支援並びに製品規格・安全性・認証要件及び規制に関する技術

的な質問/助言サービスの提供を行っている。また、PSIB は、香港を代表して国際標準化

機構(ISO:International Organization for Standardization)に通信会員(Correspondent

Members)として参加している。

SCL(Standards and Calibration Laboratory)は、技術開発と国際貿易を支えるため

に、国際的に受け入れられた測定基準を推進している。これは、香港の物理測定の参照基

準を保持し、貿易及び産業を支援する校正サービスを提供しており、その校正証明書は国

際的にも認められている。

香港認可署(HKAS:Hong Kong Accreditation Service)は、①認証機関、検査機関及び

検査機関の運用基準を向上させること、②国際基準を満たすものに認定すること、③認

定、検査及び試験結果の承認を促進すること、④海外の認定機関と相互承認協定を締結す

ること、⑤貿易を容易にするために再認証、再検査、再検査の必要性を排除することを目

的としている。

234 http://www.itc.gov.hk/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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13. 韓国 (1) KATS:Korean Agency for Technology and Standards

(韓国産業通商資源部国家技術標準院235) 【機関の概要】 韓国産業通商資源部国家技術標準院(KATS:Korean Agency for Technology and Standards)

は、当初、造幣局の保護下にある分析・試験研究所として設立されたが、1999年に、韓国

産業通商資源部(MOCIE:Ministry of Commerce, Industry and Energy)により、韓国を代

表する国内標準化機関として認められた。2013年の改組に伴い、現在は、韓国産業通商資

源部(MOTIE:Ministry of Trade, Industry and Energy)の下にある。KATSは、国際標準化

機構(ISO:International Organization for Standardization)、国際電気標準会議(IEC:

International Electrotechnical Commission)に、韓国を代表して参加している。

【組織】

標準を作成する技術組織には、電気・電子標準部門、機械・材料標準部門、化学・サー

ビス標準部門などがあり、ウェブサイト236に掲載されている。

また、作成された標準も、ウェブサイト237から確認できる。

【特許ポリシー】

特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

235 http://www.kats.go.kr/en/content.do?cmsid=388 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 236 http://www.kats.go.kr/en/content.do?cmsid=398 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 237 https://standard.go.kr/KSCI/standardIntro/getStandardSearchList.do?menuId=919&topMenuId=502&upperMenuId=503#none [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(2) TTA:Telecommunications Technology Association of Korea

(韓国情報通信技術協会238)

【機関の概要】

韓国情報通信技術協会(TTA:Telecommunications Technology Association of Korea)は、

新しい ICT(Information and Communication Technology)標準を開発し確立し、標準 ICT

製品のための国際的に認知されたワンストップ試験と認証サービスを提供する ICT分野に

おける民間ボランティア組織(PVO:Private Voluntary Organization)である。TTA は、1988

年の設立以来、韓国の ICT 標準化、試験、認証において重要な役割を果たしている。

TTA の目的は、国内外の 新の技術進歩を反映した技術基準を効果的に確立し提供する

ことにより、技術の向上、情報通信サービスと産業の促進及び国民経済の発展に貢献する

ことである。具体的には、①情報通信規格の制定、改訂、普及、②情報通信標準の策定と

戦略との対応、③情報通信標準化プロジェクトの管理と監督、④情報通信関連製品のテス

トと認証、⑤ICT 国際規格専門家の訓練と標準化フォーラムの支援、⑥統合標準情報デー

タベースの構築と運用、⑦国際標準化協力と情報通信標準化等を行っている。

【特許ポリシー】

TTA のウェブサイト239によれば、TTA 基準を確立する目的は、「通信及び関連情報サー

ビスのグローバル及び全国ベースでの互換性とエンドツーエンドの相互接続を保証するこ

とであり、この目的を達成するために、TTA は、韓国の情報通信部(MIC:Ministry of

Information and Communication)によって認定された標準化団体として、 新の国内及び

国際的な技術の進歩と技術要件に も適合するソリューションに基づいて基準を作成し、

提供するよう努めている。したがって、提案された TTA 標準に知的財産権(IPR:Intellectual

Property Rights)の使用が含まれる場合であっても、条件が非差別的かつ非排他的である場

合、標準化を推進することが望ましいと考えている。」としている。また、同ウェブサイト

には、特許ポリシーの骨子の要点が記載されているので、これを引用する。

「1. 知的財産権の開示(Disclosure of IPRs)

TTA は、提案された TTA 基準の対象事項を網羅する知的財産権に関する情報を調査す

る立場にはないが、利用可能な情報を全て開示することが望ましい。したがって、TTA 標

準を提唱する者又は TTA の利害関係者は、TTA 事務局長に関連情報を通知することによ

り、当初から既知の IPR 又は既知の IPR 申請に TTA の注意を引くべきであるが、TTA そ

のような情報の有効性を真実にすることはできない。

2. 知的財産権所有者の知的財産権に関する書面による確認書の要求(Request for Written

238 http://www.tta.or.kr/English/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 239 www.tta.or.kr/English/new/standardization/procedure_sub02.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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Confirmation of the IPR of the IPR Holders to Grant Licenses on the IPRs)

提案された TTA 基準に関連する知的財産権が TTA に注目されると、TTA 事務総長は直

ちに、当該知的財産権保有者に対し、TTA 基準を実施するための取消不能な IPR のライセ

ンスを付与する旨の書面による確認を 30 日以内に提出するように要求する。

3. TTA 基準を実施する目的で IPR 上のライセンスを供与するための条件(Terms and

Conditions for granting licenses on the IPRs for the purpose of implementing TTA standards)

TTA は、知的財産権者が提示した声明を慎重に検討し、知的財産権者が第 3.1 項又は第

3.2 項のいずれかの条項に同意した場合には、TTA 基準の策定を進める。

3.1 知的財産権者は、TTA 基準を実施する目的に対しては、非差別に無償で知的財産権に

関するライセンスを付与する。この場合、TTA 基準は、ロイヤルティ又は特定の条件なし

で、誰にでも自由にアクセス可能でなければならない。

3.2 知的財産権保有者は、権利を放棄せず、合理的な条件及び非差別的根拠に基づいて出

願人とのライセンスを交渉する意思がある。この場合、交渉は当事者に委ねられる。

4. TTA の責任(Responsibility of TTA)

TTA は、知的財産権保有者が主張する関連知的財産権の正確性及び有効性について責任

を負わない。また、知的財産権保有者と TTA 基準のユーザとの間の紛争の仲裁にも関与し

ない。」 なお、TTA基準の主題事項を網羅する知的財産権に関するTTA方針は、2004年6月にTTAのTechnical Assemblyが 初に採択した「TTA基準に関する知的財産権の取り扱いガイド

ライン(Guidelines for the Handling of IPRs relating to TTA Standards)240」にまとめられて

いる241。

240 http://www.tta.or.kr/English/TTArules-5.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 241 www.tta.or.kr/English/new/standardization/procedure_sub02.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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14. インド

(1) BIS:Bureau of Indian Standards

(インド規格協会242)

インド規格協会(BIS:Bureau of Indian Standards)は、1947年に創設されたインド規格

協会(ISI:Indian Standards Institution)の機能強化を目指して、1987年に設立された。BIS

は、中央及び州政府、議会構成員、産業、科学、及び研究機関、消費者組織、及び専門組織

を代表する25の構成員から成る243。

標準を作成する技術組織は、14の理事会の下に形成された650の技術委員会(TC:

Technical Committee)である244。

作成された標準は、ウェブサイト245に掲載されている。

特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。

242 http://www.bis.org.in/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 243 Origin of BIS, http://www.bis.org.in/bis_origin.asp [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 244 Composition of Technical Committees, http://www.bis.org.in/sf/composition.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日] Programme work of Technical Departments, http://bis.org.in/sf/pow/powork.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] Technical Division Council, http://164.100.105.199:8071/php/BIS/TechnicalDepartments.php [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日] Program of Work, http://164.100.105.199:8071/php/BIS/StandardsFormulationV2/pow.php [ 終アクセス日:2018年 1 月 5 日] 245 http://www.standardsbis.in/Gemini/home/Home.action [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(2) TSDSI:Telecom Standards Development Society, India

(インド電気通信標準化協会246) 【機関の概要】 インド電気通信標準化協会(TSDSI:Telecom Standards Development Society, India)は、

通信 IT 大臣が承認する国内標準化機関(SDO:Standards Developing Organization)とし

て、2013 年 11 月にインドで初めて設立・認定された。電気通信にかかわる様々な分野に

ついて、民間企業・団体の参画の下、インド国内の標準化を担っている247。

TSDSI は、インド固有の要件の開発と促進、これらの要件を満たす標準化ソリューショ

ンの国際標準への貢献及びテレコミュニケーション分野におけるグローバル標準化への貢

献を目的としており、技術基準の維持関連する知的財産権を安全に保護し、国内での製造

ノウハウの創出を支援し、通信関連の標準化ニーズの観点で(南アジア、東南アジア、ア

フリカ、中東などの)発展途上国のリーダーシップを発揮している。 【特許ポリシー】

TSDSI の特許ポリシーは、「INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」として規

定されており、ウェブサイトで特許ポリシー及び特許宣言書を確認できる248。この特許ポ

リシーの 1 には、「Intoriduction」が規定されている。具体的には、「1.2 TSDSI の目標は、

消費者の利益のためにインドの電気通信部門の技術目標の 適な解決策に基づいた基準と

技術仕様を作成することにある。この目的を達成するために、本特許ポリシーは、標準及

び技術仕様書を申請する者である TSDSI、会員、その他の者に対するリスク、即ち、標準

の準備、採択及び適用への投資が、必須化の結果、標準や技術仕様が利用できなくなるこ

とで無駄になりうるリスクを、低減することを求め、更に、知的財産権者の利益と、標準・

技術仕様書の実施者の利益とのバランスをとることを求めるものである。」と規定されてお

り、更に、「1.3 知的所有権者は、標準及び技術仕様の実装における知的財産権の使用につ

いて、適切かつ公正に報酬を与えられるべきである。」、「1.4 TSDSI は、規格及び技術仕様

書の作成、採択及び申請に関連する活動を可能な限り確実にするための妥当な措置を講じ、

規格及び技術仕様書を以下の標準化の一般原則に従って潜在的実施者に利用できるように

する。」と規定されている。

特許の開示については、「3.0 知的財産権の開示(DISCLOSURE OF IPRs)」で規定して

おり、「会員は、特に参加する標準又は技術仕様の開発中は、会員の必須知的財産権をタイ

ムリーに TSDSI に通知するためにの合理的な努力を払うものとする。標準又は技術仕様

書の開発のための技術提案を提出する会員は、提案が採択されれば必須になり得る会員の

246 http://www.tsdsi.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 247 http://www.soumu.go.jp/g-ict/country/india/pdf/091.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 248 www.tsdsi.org/media/Help/2014-12-17/TSDSI-PLD-40-V1.0.0-20141217.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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知的財産権に対して、善意に基づいて、TSDSI の注意を促すものとする。ただし、本ポリ

シーは、会員に知的財産権の検索を行う義務を課すものではない。」(3.1 項)、「会員による

開示は、会員の必須知的財産権が関連するとみなされる標準又は技術仕様書の特定のセク

ションを参照することを自発的に許可できる。」(3.2 項)としている。

ポリシーの 5 では、5.0 ライセンスの利用可能性(5.0 AVAILABILITY OF LICENCES)

として、ライセンスに関する規定を設けており、「5.1 特定の標準又は技術仕様に関連する

必須知的財産権が TSDSI に留められた場合、TSDSI は直ちに必須知的財産権者に対し、

取消不能な使用許諾を付与する準備ができている旨の書面による約束であって、(少なくと

も以下の条件のような)FRAND 条件下での取消不能な約束を 3 月以内に与えることを要

求するものとする。a)製造(製造に使用するライセンシー自身の設計にカスタマイズされ

たコンポーネント及びサブシステムを作成又は作成する権利を含む。)、b)そのように製造

された機器の販売、リース又は処分、c)機器の修理、使用又は操作、d)方法の使用」、「5.2

上記の約束は、実施許諾を求める者が相互実施許諾に同意することを条件とすることがで

きる。」としている。

更に移転に関する規定として、「5.3 第 5.1 項に基づいてなされた FRAND 実施許諾宣言

は、全ての権利承継人を拘束する債務と解釈されるものとする。この解釈が全ての管轄に

適用することはできないことを認識し、特許ポリシーに従って FRAND 実施許諾宣言書を

提出していて、そのような実施許諾宣言の対象である特許の所有権を移転する特許所有者

は、関係する移転書類において、そのような移転された特許に関して、全ての権利承継人

を拘束することを目的として、実施許諾宣言が譲受人を拘束し、かつ、譲受人が、将来の

移転の際に、適切な条項を同様に含めることを確実にする適切な条項を含めるものとする。

特許ポリシーに従って FRAND 実施許諾宣言書を提出することは、関係する移転書類にお

いて、そのような条項を含んでいるか否かに拘わらず、全ての権利承継人を拘束すると解

されるものとする。」、「5.4 第 5.1 項に基づく宣言は、その宣言が行われた時点で特定の知

的財産権の明示的な書面による除外がない限り、既存及び将来の全ての必須特許権に適用

される。除外の範囲は、明示的に指定された知的財産権に限定されるものとする。」、「5.5

知的財産権者による要求が許可されない場合、委員会委員長は、適宜、TSDSI 事務局と協

議の上、問題が解決されるまで、及び/又は承認のために関連する標準又は技術仕様を提出

するまで、委員会が標準又は技術仕様の関連部分の作業を中断すべきかどうかについて判

断をするものとする。」と規定している。

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15. シンガポール

(1) SPRING Singapore:Standards, Productivity and Innovation Board

(シンガポール規格・生産性・技術革新庁249)

シンガポール規格・生産性・技術革新庁(SPRING Singapore:Standards, Productivity and

Innovation Board)の活動は、規格・生産性・技術革新庁法250によって定められている。

1966年にシンガポール標準理事会(SSC:Singapore Standards Council)が創設され、標

準を作成する組織は、SSCの下の12の標準委員会(Standard Committee)251から構成され

ており、各標準委員会の内容、委員構成はウェブサイトに掲載されている252。また、作成

された標準もウェブサイト253に掲載されている。ただし、標準委員会の下部のTC及びWG

については公表されていない。

特許ポリシーについては、内部手続において、ISOの特許ポリシーを参照しているよう

ではあるが、SPRING Singaporeの特許ポリシーとして公表されているものは確認できて

いない。

これまで、特許宣言は出されておらず、特許問題も特に確認されていない。

249 http://www.spring.gov.sg/Pages/Homepage.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 250 Standards, Productivity and Innovation Board Act, http://statutes.agc.gov.sg/aol/download/0/0/pdf/binaryFile/pdfFile.pdf?CompId:378a0795-2c97-46e7-96ac-0ad56edde52d [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 251 Singapore Standardisation Structure, https://www.spring.gov.sg/Building-Trust/Std/Pages/standards-council-standards-development-organisations.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 252 Standards Committees, https://www.spring.gov.sg/Building-Trust/Std/Pages/standards-committees.aspx [ 終ア

クセス日:2018 年 1 月 5 日] 253 https://www.singaporestandardseshop.sg/TopMenuRight/Home.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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Ⅱ. フォーラム標準

1. IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers

(電気電子技術者協会254) 【機関の概要】255

電気電子技術者協会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)は、米国に

本部を持つ通信、電子、情報工学とその関連分野の学会である。39 の Society と 7 の

Technical Councilと呼ばれる専門分野の分科会を持つ(2017 年 3 月時点)。学会の開催、論

文誌の発行等の研修者を対象とした学会活動だけではなく、専門委員会を設置して、 先

端技術の国際標準化のための業界向け活動も行っている。

標準化活動を体系的、効率的に行うため、1973 年に IEEE Standards Boardが設立され、

現在は、1998 年に設置された IEEE-SA(IEEE Standards Association)が標準化を行って

いる。

IEEE-SA は、IEEE 理事会(BoG:Board of Governors)により承認された「標準化」目

的の組織であり、グローバルな標準化プログラムを提供し、グローバルレベルでの有効性

及び普及を保証することを主な目的としている。

【会員】256

会員には、個人会員(Individual Membership)と法人会員(Corporate Membership)があ

る。

個人会員には、以下の特典がある。

(a) 個人標準化プロジェクトへ参加でき、投票権を有する。

(b) 新しい個人標準化プロジェクトを開始できる。

(c) 作業部会議長となる被選挙権を有する。

(d) IEEE-SA 理事会とその選挙に参加できる。

(e) 毎月、IEEE-SA のニュースレター、ニュースを入手できる。

(f) IEEE 標準の購入で割引を受けられる。

また、法人会員には、個人会員の資格に加え、以下の特典がある。

(a) 法人標準化プロジェクトへ参加でき、投票権を有する。

254 https://www.ieee.org/index.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 255 「情報通信分野における標準化活動のための-標準化テキスト-」一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)2016 年

3 月(第 2 版)を参考にした。http://www.ttc.or.jp/files/5714/6293/4927/Standard_text_v2.0.pdf [ 終アクセス日:

2018 年 1 月 5 日] 256 同上。

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(b) CAG(Corporate Advisory Group)への参加により、39 ある IEEE Society に属さ

ない新技術の標準化関連情報に接することができると共に、それに関するプロジェ

クトのスポンサーとして申請できる。

(c) 作業部会へ無制限(オブザーバ)に参加できる。

(d) 法人標準化プロジェクトにおいて、無制限にスポンサー投票(Sponsor Ballot)が

できる。

(e) IEEE-SA BoG の選挙へ参加できる。

(f) 法人標準化プロジェクトのニュースレター、ニュース、イベント等に対してアクセ

ス・購読できる。

(g) IEEE 標準を割引価格で購入できる。

(h) 新しい法人標準化プロジェクトを開始できる。

(i) 法人化標準プロジェクトの作業部会の責任者となる被選挙権を有する。

様々な企業が法人会員となっており、法人会員はウェブサイト257に掲載されている。

【規格】

標準を作成する技術分野は、情報技術、電力、情報通信、e ヘルス、無線技術、原子力技

術、ソフトウェア技術等多岐にわたる。標準はウェブサイト258から検索できる。

【特許ポリシー】

IEEE-SA Standards Board Bylaws259の「6. Patents」に特許ポリシーが定められている。

標準になった技術に必須特許及び標準に提案された技術の必須特許について、その保有

者に LOA (Letter of Assurance)の提出を求めている。LOA の提出者には、保有する特許

について、合理的かつ誠実な調査(Reasonable and Good Faith Inquiry)をすることを求め

ている。LOA の内容は、以下のいずれかの内容を含まなければならない。

(a) 無条件に提出者は現在の又は将来の必須特許クレームについて、IEEE 規格に準じ

た仕様のために必須特許クレームを利用する準拠的実施物を製造、使用、販売、販

売の申出、又は輸入をするいかなる人又は法人に権利を行使しない効果のある一般

的免責事項。

(b) 提出者が、IEEE 規格に準じた仕様のために必須特許クレームを利用する準拠的実

施物を製造、使用、販売、販売の申出、又は輸入をするために不公平な差別がない

ことが確実である合理的な条項と条件と共に、必須特許クレームのライセンスを申

257 http://standards.ieee.org/develop/corpchan/mbrs1.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 258 http://innovate.ieee.org/innovate/16124#1 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 259 http://standards.ieee.org/develop/policies/bylaws/sb_bylaws.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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請者の数に制限を設けずに、世界規模で、無償又は合理的な率で入手可能とする宣

言。なお、無償又は合理的な率を含む合理的な条項と条件を含み、そのような宣言

を包含する受理された LOA は、これら必須特許クレームを使うライセンスのため

の十分な補償であり、また、このポリシーに定める場合を除き禁止命令を得又は強

制しようとすることを不可能にする。

なお、必須特許を漏れなく探すための調査は義務付けていない。

また、このポリシーは、提出者及び実施者が、特許の有効性、法的強制力、必須性、侵

害の有無について仲裁に合意することを妨げないことや、ライセンサー及びライセンシー

がライセンス条件について自発的に協議し合意することを妨げないことが規定されている。

また、IEEE は、以下のことに責任を負わないとしている。

(a) ライセンスが必要な標準特許クレームがどれなのかを特定すること

(b) 特許有効性、必須性、特許クレーム解釈を決定すること。

(c) ライセンス条項又は条件が、LOA 提出と関係があって提供されたかどうかの決定、

又は、ライセンス合意が合理的で公平であるかどうかの決定をすること。

(d) 実施が標準に準拠した実施であるかどうかの決定をすること。

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2. 3GPP:Third Generation Partnership Project

(第3世代パートナーシッププロジェクト260,261) 【機関の概要】

3GPP(3rd Generation Partnership Project)は、複数の標準化機関(SDO:Standard

Developing Organization)が共同で設立した「パートナーシッププロジェクト」であり、法

人格を持たない。GSM262(Global System for Mobile communications)とその発展技術の維

持も 3GPP にとっては重要な役割であり、GSM と GSM を発展させた無線アクセス技術

(例えば、GPRS263(General Packet Radio Service)や EDGE264(Enhanced Data rates for

GSM Evolution))の技術仕様と技術報告の準備、承認、維持も 3GPP の役割として挙げら

れる。3GPP は、世界的に共通に使用可能な標準化を目的としている。

【会員】

会員としては、7 の組織パートナー(OP:Organization Partnaer)と、個別会員、マーケ

ット代表パートナー(MRP:Market Representation Partner)、オブザーバ(3標準化機関)、

ゲスト、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)代表から構成さ

れる。OP としての 7 の標準化機関は、一般社団法人電波産業会(ARIB:Association of Radio

Industries and Businesses)、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Telecommunication

Technology Committee)、中国通信標準協会(CCSA:China Communications Standards

Association)、欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards

Institute)、米国の ATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions)、韓国情報通

信技術協会(TTA:Telecommunications Technology Association of Korea)、インド電気通信標

準化協会(TSDSI:Telecom Standards Development Society, India)である。

【組織】

3GPP は、 高決定機関である PCG(Project Coordination Group)と、その配下にある

4 つの技術仕様グループ(TSG:Technical Specification Group)から構成される。PCG は、

6 ヶ月毎に公式会合を開催され、3GPP の TSG の作業内容を承認するだけでなく、TSG

の選挙結果や 3GPP が使用できる資源について承認を行うなど、その名称通り、3GPP が

円滑に活動できるような調整全般を担っている。

260 「情報通信分野における標準化活動のための-標準化テキスト-」一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)2016 年

3 月(第 2 版) 2-86~2-91 頁 261 3GPP HP, http://www.3gpp.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 262 FDD-TDMA 方式で実現されている第 2 世代移動通信システム(2G)規格 263 汎用パケット無線システム、第 2 世代の通信方式 GSM のネットワークを利用した第 2.5 世代のデータ通信システム 264 GPRS を拡張したパケット通信規格

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4 つの TSG とは、SA265(Services & System Aspect)、RAN266(Radio Access Networks)、

CT267(Core Network & Terminals)及び GERAN268(GSM EDGE Radio Access Network)

であり、TSG のもとには、さらに複数の作業部会(WG:Working Group)が設置されてい

る。TSG はマーケット代表パートナー(MRP)により提供される市場の要求を考慮に入れ

た上で、3GPP の技術仕様書(Technical Specifications)と技術報告書(Technical Reports)

について、準備、承認及び維持を行う。

【規格】

第 3 世代のモバイルシステムの技術仕様の標準化を目指して設立された 3GPP である

が、当初計画された第 3 世代の仕様が確立した後は、その後の技術の進歩を取り入れた新

たな仕様の検討を進めている。GSM や第 3 世代のインフラを運用しつつ、新しい技術成果

をも取り入れていくために、できるだけ技術的に連続性のあるアプローチを採用すること

を目指している。

【特許ポリシー】

3GPP の特許ポリシーの概要に関しては、3GPP のウェブサイトの「3GPP FAQs」の一

項目としてまとめられている269。それによると、特許に関しては、OP は、知的財産権(IPR:

Intellectual Property Rights)ポリシーが尊重されるべきものであり、夫々の会員が「公正か

つ合理的な条件と非差別的基準でライセンスを供与しようとする意欲」を宣言すべきであ

ることに合意している(3GPP Article 3.1)。

3GPP 内で進行中のいかなる作業にも必須又は必須になると可能性が高いと考える知的

財産権を「可能な限り早期に宣言する」ことを要求している(3GPP 作業手順第 55 条)。

3GPP システムのいくつかは、必須特許でカバーされている。即ち、その特許技術を使

用しなければ機器を実現できないものが含まれている。その権利は、3GPP や OP によっ

てではなく、個々の企業によって保有されている。3GPP の全ての個人会員は、彼らが属

する OP の IPR 方針を遵守する。また、知的財産権の保有者は、3GPP 個人会員であろう

となかろうと、公平で合理的で無差条件(FRAND 条件)でライセンスを付与する。

3GPP も OP も IPR 検索サービスは提供していない。個々の IPR 保有者から独自のライ

センスを求めて取得するのは、各製造業者/システム実装者の責任である。

265 サービスやシステムに関する仕様の作成をする 266 UTRA(Universal Terrestrial Radio Access)及び LTE(Long-Term Evolution)無線アクセスネットワーク仕様

の作成をする 267 ネットワークが通信の中枢として用いる通信回路であるコアネットワーク、端末に関する仕様の作成をする 268 GSM、EDGE システム等の無線アクセスネットワーク仕様の作成をする 269 http://www.3gpp.org/contact/3gpp-faqs#L6 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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3. 3GPP2:Third Generation Partnership Project 2

(第3世代パートナーシッププロジェクト2270)

【機関の概要】

3GPP2(3rd Generation Partnership Project 2)は、公式に認定された 5 つの標準化機関

(SDO:Standard Developing Organization)が共同で設立した「パートナーシッププロジェ

クト」である。5 つの SDO とは、一般社団法人電波産業会(ARIB:Association of Radio

Industries and Businesses)、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Tele-communication

Technology Committee)、米国電気通信工業会( TIA:Telecommunications Industry

Association)、中国通信標準協会(CCSA:China Communi-cations Standards Association)、

韓国情報通信技術協会(TTA:Telecommunications Technology Association of Korea)である。

3GPP2 は、共同 3 世代(3G)テレコミュニケーション仕様設定プロジェクトであり、ネ

ットワーク間相互接続、機能/サービスの透過性を特徴とする高速、広帯域及びインターネ

ットプロトコル(IP:Internet Protocol)ベースのモバイルシステムをカバーする国際電気

通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の国際移動体通信「IMT-2000」

のイニシアティブ、グローバルローミング、シームレスなサービスを提供する。IMT-2000

は、無線通信の高速化と容易化の目標を達成し、電気通信を介してデータを渡す需要の増

加に直面し、高品質のモバイルマルチメディア通信を世界中の大衆市場にもたらすことを

目的としている。

3GPP2 が関係する仕様には、共同 3 世代(3G)テレコミュニケーション仕様、

ANSI/TIA/EIA-41 セルラー無線通信のインターナルシステムのグローバル仕様、

ANSI/TIA/EIA-41 でサポートされている無線伝送技術(RTT:Radio Transmission

Technology)のグローバル仕様がある。

【会員】

SDO である ARIB、TTC、CCSA、TIA、TTA は、プロジェクトの組織パートナー(OP:

Organization Partnaer)であり、3GPP2 では、参加している個人会員企業が少なくとも 1

つの OP と提携することが求められる。さらに、3GPP2 では、マーケットアドバイスを提

供し、3GPP2 の範囲内にある市場要件(例えば、サービス、機能及び機能性)のコンセン

サスビューをもたらすマーケット代表パートナー(MRP:Market Representation Partner)

である、CDMA 開発グループ(CDG:CDMA Development Group)、IPv6 フォーラム、小

セルフォーラム、CDMA 認証フォーラムを歓迎している。

270 3GPP2 HP, https://www.3gpp2.org/Public_html/Misc/AboutHome.cfm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【組織】

3GPP2 の仕様を作成する作業は、プロジェクトの個別会員企業の代表者で構成されるプ

ロジェクトの 2 つの技術仕様グループ(TSG:Technical Specification Group)である、TSG-

AC271(Access Network & Air Interfaces)と、TSG-SX272(System Aspects & Core Network)

が行う。各 TSG は、技術仕様書及び報告書を作成するために年間約 4 回開催される。3GPP2

には法的地位がないため、これらの出力文書の所有権と著作権は、組織パートナー間で共

有される。この文書は、cdma2000®とその拡張機能を含む、プロジェクトのチャーターの

全ての領域を網羅している。全ての TSG はプロジェクトの運営委員会に報告し、全体の作

業プロセスを管理し、各 TSG によって転送された技術仕様を採用することを任務とする。

【特許ポリシー】

3GPP2の特許ポリシーの概要に関しては、3GPP2のウェブサイトの「3GPP2 Legal Issues」

の一項目としてまとめられている273。3GPP2 作業手順書の第 55 条によれば、「3GPP2 の

個々の会員は、それぞれの組織パートナーの知的財産権(IPR)ポリシーに拘束されるもの

とし、個々の会員は、可能な限り早急に、進行中の作業に必須の知的財産をを宣言しなけ

ればならない。組織のパートナーは、それぞれの会員が公正で合理的な条件と非差別的基

準でライセンスを付与するよう促すべきである。事務局は、組織パートナーによって受領

された 3GPP2 に関連する IPR 宣言の登録を維持するものとする。」とされている。

271 TSG-A(基地局制御装置に係るインタフェースである A インタフェースの仕様を策定していた)と TSG-C(無線イ

ンタフェースの仕様を作成していた)とが統合したもの。 272 TSG-S(サービス要求条件及びセキュリティを担当していた)と TSG-X(コアネットワーク仕様を策定していた)

とが統合したもの。 273 https://www.3gpp2.org/Public_html/Misc/legal.cfm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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4. ASME:American Society of Mechanical Engineers

(米国機械学会274)

【機関の概要】

米国機械学会(ASME:American Society of Mechanical Engineers)は、世界中のエンジニ

アリングコミュニティが生活に役立つソリューション開発を支援する目標に向けて、全エ

ンジニアリング分野におけるコラボレーション、知識共有、キャリア強化、スキル開発を

可能にする非営利団体である。ASME は 1880 年に小規模の大手企業によって設立され、

継続的な教育、訓練と専門的開発、規範と基準、研究、会議や出版、政府関係、その他の

アウトリーチの質の高いプログラムを通じて、幅広い技術コミュニティに貢献している。

【会員】

151 ヶ国に 13 万人以上の会員がおり、内 3 万 2000 人が学生である。会員は、大学生や

初期のキャリアエンジニアからプロジェクトマネージャー、企業のエグゼクティブ、研究

者、学術リーダーまで、エンジニアリングコミュニティ自体と同じくらい多様である。

【規格】275

ASME は、国際的に、芸術、科学、機械工学の実践に関連するコード及び標準を開発し

ている。1914 年の伝説的なボイラー&圧力容器コードの 初の発行以来、ASME のコー

ドと規格は現在印刷されている約 600 製品にまで拡大している。これらの製品は、圧力技

術、原子力発電所、エレベーター/エスカレーター、建設、エンジニアリング設計、標準化、

及び性能テストを含む幅広いトピックをカバーしている。

ASME は、公衆の安全、健康、生活の質を向上させ、革新、貿易、競争力を促進する自

主基準を策定する。

【特許ポリシー】

ASME の特許ポリシーは、「ASME Society Policies276」中の Policy number 12.15 で、

1996 年 9 月 20 日277に採用となっている「Intellectual Property Rights」として規定されて

いる278。基本的な考え方がⅡ~Ⅳに定められており、その規定を以下に引用するが、ここ

に示すように、標準必須特許に関する取扱いに言及した規定は設けられていない。

274 https://www.asme.org/about-asme [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 275 https://www.asme.org/about-asme/standards [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 276 https://www.asme.org/about-asme/who-we-are/governance/asme-society-policies [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日] 277 その後、数度にわたる改定があり、2005 年 3 月 13 日が 新の改定日である。 278 https://www.asme.org/wwwasmeorg/media/ResourceFiles/AboutASME/Who%20We%20Are/Governance/P-12-15-Intellectual-Property-Rights.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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「Intellectual Property Rights」の中の、「II.目的(PURPOSE)」において、「A.知的財産

権が関連する学会の作業成果物を記述すること。B.それぞれの責任部門が、学会の知的財

産権の保護と、他の権利の認識を示す手段を説明すること。この方針は、5 つのセクターの

いずれかからのいずれの様式においても ASME 製品に適用される。」としている。

「III. ポリシー(POLICY)」では、「A.印刷物、電子的又はその他の方法で情報がどの程

度広く配布されていても、ASME の知的財産は保護され、規制され、維持されなければな

らない。

B. 本学会は、印刷物、電子製品、データベース、オーディオ/ビジュアル製品及びその他の

著作権で保護されている主題を著作権で保護する権利を留保する。これは、論文、ビデオ、

コース、コード、規格などの ASME マテリアルの不正コピーや配布から学会とその会員を

保護することを目的としている。

C. ASME の方針

1. 第三者の著作権及びその他の知的財産権は、ASME 又は ASME ユニットのいずれか、

あるいは、ASME 又は ASME のユニットのいずれかを代理する行動をとる従業員、会員、

又は他の者によって尊重され、侵害されないものとするのが、ASME の方針である。

2. 第三者の法的に必要とされる全ての許可が確実に受領されたことを保証するために、

ASME 又はそのユニットによる技術文書又はその他の資料を提出するのは、各個人の責任

である。

D. 電子ネットワーク

1. 世界の著作権法は、現在知られている、又は後に開発された有形の表現媒体に固定され

た原作者の原作を保護する。直接又は機械又は装置の助けを借りて、知覚され、再生され、

又は他の方法で伝達されることができる。

2. 高度なスキャン、編集、操作及び高速ネットワーク上のデータ転送が利用可能になるに

つれて、所有権を特定して実施することはますます困難になっている。したがって、ASME

の許可なく ASME の作業を入力、アップロード、複製又は送信することは禁止されている。

ただし、この禁止は合衆国著作権法もしくは他の国の法律に基づいて開発された「フェア

ユース」の原則又は類似概念の適用範囲を制限するものではない。」としている。

また、「IV. 手順(PROCEDURE)」では、「A.基準と認証」として、以下の 7 つが規定

されている。「1. 規格及び認証部門は、コード、標準、認定及び登録商標のための学会の知

的財産権の保護に関する方針及び手続を定めている。

2. 規格及び認証部門の ASME 委員会によって作成されたコード、規格及び関連文書は、

本会によって著作権が保護される。 個人は、規格及び認証委員会への任命を受け入れると、

著作権と、ASME 標準及び認証委員会によって作成された全て資料に対する全ての権利は

ASME が所有し、ASME はその名義で著作権を登録することを書面で認める。

3. コード又は規格を作成する際、委員会が他の組織の著作権のある出版物からの資料を組

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み込むことを提案する場合、委員会は ASME スタッフに出版社から書面による許可を得て

資料を転載するよう要求する。特許品目への言及は避けるべきである。特許された品目が

コード又は規格で参照される場合は、ASME にガイドラインの相談を受ける必要がある。

4. ASME のコード及び規格には現在、他の者と合意した形で複製された著作物が含まれ

ている。 同様に、協会は、他人にロイヤルティ契約に基づいてその資料を転載することを

許可することができる。

5. IV.A.4(上記)に規定されている条項は、ハードコピー刊行物と電子製品の両方を含む、

いかなる形式の製品にも適用される。

6. 本会は、米国及び世界各国に認定及び登録商標を登録している。認定又は登録の条件と

して、出願人は、そのマークが常に社会の財産であり、社会からの要請に応じて返却又は

削除されることに同意するものとする。スタンダード&認定セクターは、コード又は標準

違反及び登録商標の誤用の申し立てに対処するための適法な手続きを提供している。

7. ASME の知的財産権の保護及び他者の権利の侵害の回避に関する規範、基準、認定及

び登録委員会へのガイダンスは、委員会に割り当てられた ASME スタッフによって提供さ

れる。」

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5. ASTM International

(ASTM インターナショナル279)

【機関の概要】

ASTM インターナショナル(ASTM International)は、民間・非営利の国際標準化・規格

設定機関であり、世界中で 12,000 を超える ASTM 規格が使用されている。ASTM インタ

ーナショナルは、1898 年にペンシルバニア鉄道の化学者である Charles B. Dudley 博士に

よって設立された米国試験材料協会(ASTM:American Society for Testing and Materials)

が起源であり、2001 年に改名された組織である。ASTM の世界本社はペンシルベニア州の

West Conshohocken にあり、ベルギー、カナダ、中国、ペルー、ワシントン D.C.にオフィ

スを構えている。

【会員】

140 ヶ国を代表する世界トップの技術専門家及びビジネスプロフェッショナルの 3 万人

を超える会員がいる。

【規格】

世界中の業界や政府をサポートするテスト方法、仕様、分類、ガイド及びプラクティス

を作成している。140 を超える技術基準作成委員会を通じ、金属、建設、石油、消費者製品

など、幅広い業種にサービスを提供している。

【特許ポリシー】280

ASTM の特許ポリシーは、1999 年 4 月 28 日に承認され、2003 年 10 月 28 日及び 2010

年 4 月 13 日に ASTM インターナショナル取締役会により修正された「INTELLECTUAL

PROPERTY POLICY OF ASTM INTERNATIONAL」に規定されている。特許に関する基本

的な考え方及びその手続等は V と VI に定められており、該当する部分を以下に引用する。

「V. ポリシー(POLICY)」の G には、「可能な限り、専有及び/又は特許取得済みの機

器、装置、材料又は情報を規格に含めないことは、ASTM International の方針である。そ

のような包含が必要な場合、ASTM Internationalの特許方針(規則 15)を遵守しなければ

ならない。」としている。

また、「VI. 手続き(PROCEDURE)」の「A.知的財産 基準(Intellectual Property --

Standards)」では、「2. ASTM 規格における著作権と特許」において、「ASTM 文書を作成

したり、そのような ASTM 文書に付随するものを作成するときに、委員会が別の組織の著

279 https://www.astm.org/ABOUT/full_overview.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 280 https://www.astm.org/Itpolicy.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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作権発行の資料を組み込むことを提案する場合、委員会は、ASTM International スタッフ

に、資料の転載を文書で許可するよう要求する必要がある。特許品目への言及は可能な限

り避けるべきであるが、全ての場合において、様式&様式の F5 項を遵守しなければなら

ない。 ASTM 技術委員会規則、ASTM 規格(セクション F3 及び F4 を含むがこれに限定

されない)、及び ASTM 国際スタッフのためのフォーム及びスタイルの規則 15 は、特許取

得済みの商品又はサービス/サービスマークが ASTM 文書で参照さる場合は、指導のため

に相談されるべきである。」としている。

また、「C.ライセンス(Licensing)」では、「ASTM Internationalは、独自の裁量により、

他者による ASTM IP の使用を譲渡、許諾又は許可することがある。ASTM International

は、(例えば、規格、規格草案、認証プログラム及び資料、付属書類、技術論文、研究報告

書、マニュアル、ソフトウェア、トレーニングコースの教材、認証マークとロゴなど)ASTM

International の知的財産権の複製、再生産、販売、派生物の作成又は配布を希望する個人

又は団体に、適切な ASTM ライセンス契約を実行することを要求している。そのような契

約は、通常、ライセンシーが ASTM IP を変更せず、適切な著作権通知とロイヤルティ支

払いを行うことを必要とする。ASTM International は、かかる契約を実行する義務を負わ

ない。」としている。

また、前記で参照された、ASTM 技術委員会を統制する規則(Regulations Governing

ASTM Technical Committees)の条項 15 では、規格中の特許(15 Patents in Standards)が

規定されており、以下に引用する内容となっている。

「15.1 委員会は、提案された項目(材料、製品、プロセス又は装置又はその構成要素)

が、提案された規格又ま規格草案に含める必要があるという 初の決定を下すものとする。

委員会は、 初の投票に先立って、特許項目の代替案が存在するかどうかを判断する努力

をしなければならない。代替案が存在する場合、特許明細書への参照は行われない。

15.1.1 委員会は、投票用紙に代替案を検討する意思表示と、特許品目の代替案の特定要求

書を添付しなければならない。代替案が特定された場合、委員会は特許項目が必要かどう

かを再検討し、そうでなければ特許項目への参照を削除する。

15.2 承認された標準が特許の材料、製品又は装置の使用を必要とする場合、規格には、

関心のある当事者に対し、特許された品目の代替品の識別に関する情報の提出を要求する

脚注が含まれなければならない。委員会は、特定された全ての選択肢を速やかに検討する。

15.2.1 代替案が存在すると委員会が判断した場合は、特許明細書への参照は、名前と番号

で、標準から投票によって削除されるものとする。

15.2.2 ASTM 規格の特許品目への言及は、ASTM 規格の形式及びスタイルの F3 項に適

合しなければならない。

15.3 特許発明に関する責任の免責

ASTM 文書を使用する上でライセンスが必要とされる全ての特許を特定すること、又は

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本会に提出された特許の法的妥当性に関する照会を行うことは、ASTM 委員会も ASTM 委

員会も責任を負わない。該当する場合、ASTM 文書には以下のような注釈が含まれる。

ASTM International は、この規格で言及されている全ての項目に関連して主張された特許

権の妥当性を尊重する立場をとらない。この標準のユーザは、そのような特許権の妥当性

の判断及びその権利の侵害のリスクは、全て自分の責任であることを明確に通知する。

15.4 ANSI に提出された ASTM 基準は、米国国家規格としての承認のために ANSI 特許

ポリシーに準拠するものとする。 ANSI の特許ポリシーは、ANSI の Web サイトで入手で

きる。」

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6. ATSC:Advanced Television Systems Committee, Inc.281

【機関の概要】

ATSCは、デジタルテレビの自主基準を開発する国際的な非営利団体である。 ATSCは、

1982 年に、JCIC(Joint Committee on InterSociety Coordination)を構成する、米国電子工

業会(EIA:Electronic Industries Alliance)、電気電子技術者協会(IEEE:Institute of Electrical

and Electronics Engineers)、全米放送協会(NAB:National Association of Broadcasters)、全

米ケーブル電気通信協会(NCTA:National Cable & Telecommuni-cations Association)及び

米国映画テレビ技術者協会(SMPTE:Society of Motion Picture and Television Engineers)に

より組織された。会員は、放送、放送機器、映画、家電、コンピュータ、ケーブル、衛星及

び半導体産業を代表している。ATSC 基準採用国には、韓国、カナダ、ドミニカ共和国、

エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコが含まれている。

【会員】

122 者の会員で構成されており、プラチナ・スポンサー(Platinum Sponsors)は、LG、

Samsung、Zenith、ゴールド・スポンサー(Gold Sponsors)は、Consumer Technology

Association、Cox Media Group、Dolby、ENENSYS Technologies、National Association of

Broadcasters、Sony、シルバー・スポンサー(Silver Sponsors)は、IEEE – BTS、Pearl LLC、

Triveni Digital、Verance、Bronze Sponsors、PBS、TitanTV である。

【組織】

次の5つのサブ委員会が活動を行っている。

・ Technology Group 1

・ Technology Group 3

・ Advanced Emergency Alert Implementation Team

・ ATSC 3.0 Conformance Implementation Team

・ Personalization and Interactivity Implementation Team 【規格】

デジタルテレビ、インタラクティブシステム及びブロードバンドマルチメディア通信に

焦点を当てた様々な通信メディア間のテレビ規格の調整に取り組んでいる。また、デジタ

ルテレビの実装戦略を策定し、ATSC 標準に関する教育セミナーを発表している。

281 https://www.atsc.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

ATSC の特許ポリシーは、1986 年 7 月 2 日付( 新改定日 2007 年 12 月 13 日付)の

「ADVANCED TELEVISION SYSTEMS COMMITTEE, Inc. Patent Policy」に規定されてい

る282。そして、特許に関する基本的考え方及びその手続等が条項 1~8、11283に定められて

いる。該当する部分を以下に引用する。なお、提出された特許宣言書は ATSC のウェブサ

イトに公開されている284。

特許ポリシー「1.仕様書中の特許の包含(Inclusion of Patents in Specification Documents)」

においては、「技術的理由がこのアプローチを正当化すると見なされる場合、必須特許の使

用を含む点で仕様書を作成することに原則として異論はない。ATSC(Advanced Television

Systems Committee, Inc.)の方針で、ATSC 仕様書に含まれる必須特許が、合理的で非差別

的条件で実施者に提供されるものとする。ATSC は、開示された必須特許の対象となる仕

様書の投票に先立って、条項 5 で指定された期間内に、必須特許を保有している個人又は

団体から(添付書式を使用して)以下のいずれかの確認の書面を受け取るものとする。

a. 必須特許のライセンスは、仕様書を実装する目的で全ての申請者に無償で、要求に応じ

て利用可能とする。このライセンスは、同じ仕様書に関するライセンスの互恵性に基づい

て条件付けることができる。

b. 必須特許のライセンスは、仕様文書を実装する目的で、合理的かつ差別のない条件で全

ての申請者に利用可能となる。条件には、同じ仕様書に関するライセンス互恵性を含める

ことができる。又は、

c. 必須特許に対するライセンスは、仕様書を実装する目的で、合理的で差別のない条件で

応募者に提供されることはない。

この書面による確認書は、審査のために ATSC の会長に提出され、ATSC のファイルに

保持されるものとする。 ATSC 基準又は推奨慣行の発行後、ATSC は、要請に応じて、メ

ンバー、オブザーバ及び第三者に書面による確認書を提供するものとする。

参加者が条項 1(c)に基づく声明を提出する場合、そのような必須特許が関係する仕様書

を考慮する技術グループは、そのような必須特許を含む代替案が実現可能かどうかを考慮

しなければならない。実現可能な選択肢がなく、技術グループが条項 1(c)に基づく声明で

特定された必須特許を含む仕様書がメンバーシップの利益であると考える場合、本ポリシ

ーの例外を求めて ATSC 理事会に申請がなされるものとする。申請書には、参加者から提

供された全ての情報と、例外が科されるべき理由を含めるものとする。理事会が承認した

場合、仕様書の作業は継続することができるが、仕様書が承認を求めて ATSC 会員に投票

282 https://www.atsc.org/wp-content/uploads/2016/06/B-4-2007-12-13_patent_policy_form_editable.pdf [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日] 283 条項 11 については、本調査研究との関連で特に重要と考えられる定義のみを掲載している。 284 https://www.atsc.org/policies/patent-statements/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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された場合、投票はポリシー例外及び承認理由に関する情報を含めなければならない。」と

している。

特許ポリシー「2.標準又は推奨されるプラクティスの必須特許の通知(Notice of Essential

Claims upon a Standard or Recommended Practice.)」においては、「ATSC は、ATSC 標準又

は ATSC 推奨プラクティスの一部となる、提案された基準又は提案された推奨プラクティ

スに関して条項 1 に記載された書面による確認を受け取ると、その結果の書面は以下の通

知を含むものとする。

注:この規格の遵守が特許権の対象となる発明の使用を必要とする可能性があることに、

ユーザの注意が喚起されている。 この基準の公表により、このクレームの有効性又はそれ

に関連するいかなる特許権に関しても、いかなる地位も取られない。しかし、1 人以上の特

許保有者は、そのような特許保有者がこれらの権利に基づいて、そのようなライセンスを

取得することを希望する個人又は団体にライセンスを付与することができる条件に関する

声明を提出している。詳細は、ATSC 事務局長と特許権者から得ることができる。」として

いる。

特許ポリシー「3.特許の開示(Disclosure of Patents)」においては、「参加者は、技術グル

ープ又は専門家グループで活動している参加者の代表者が実際に個人的な知識を有する潜

在的特許の存在を、添付書式を使用して書面で開示するものとする。しかし、そのような

開示が、参加者が機密保持義務契約の違反を引き起こすことになる場合には、参加者は、

もう一方の当事者によって所有された潜在的特許の存在を開示することが要求されること

はない。参加者は、ATSC の会長に全ての開示声明を提出するものとする。提出された全

ての開示声明は、ATSC のファイルに保存しなければならない。」としている。

特許ポリシー「4.開示特許の内容(Contents of Patent Disclosures)」では、「開示陳述書は

添付書式を用いて以下の情報を含めて提出されるものとする。(a)開示陳述書を作成する

参加者の氏名と開示陳述書を担当する代表者の氏名、(b)潜在的特許又は特許出願を保有

する個人又は団体の名称、(c)利用可能な場合、潜在的特許が含まれている特許番号又は

公開特許出願番号、(d)開示陳述書が適用される仕様書、(e)潜在的特許が仕様書の実施

に関連していると信じている参加者からの指示、及び(f)開示陳述書を作成する参加者が、

潜在的特許が基づいている特許又は特許出願の所有者である場合、条項 1 で要求される書

面による確認。条項 1(c)に基づく陳述書を提出する参加者は、仕様書内で特定できる潜在

的特許に関する十分な識別情報を提供しなければならない。」としている。

特許ポリシー「5.特許公開の期間(Timeframe for Patent Disclosures)」においては、「特

許公開義務は、仕様書の開発に参加者の代表者が参加することから始まり、仕様書の存続

期間まで続く継続的な義務である。参加者は、仕様書の作成中にできるだけ早く開示陳述

書を作成し、遅くとも参加者の代表が仕様書に関する潜在的な主張の実際の知識を取得し

てから 45 営業日以内であって、仕様書の投票に先立って行う。参加者が仕様書の採択後に

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潜在的特許を発見した場合、参加者は現実的に可能な限り速やかに開示陳述書を作成し、

遅くとも参加者の代表が現実に潜在的特許の知識を入手してから 45 営業日以内に作成す

る。ATSC は、技術グループ及びメンバーシップの投票用紙に、メンバーに特許開示義務

の通知を提供するものとする。」としている。

特許ポリシー「6.特許開示の不履行(Failure to Disclose Patents)」においては、「(a)条

項 1(c)に基づき潜在的特許のライセンス拒否を開示しない、又は(b)条項 3、4 及び 5 に

従って潜在的特許に関する開示陳述書を提出しなかった参加者は、他の会員及びオブザー

バ、そして合理的かつ非差別的な条件下でリクエストしている第三者に対してライセンス

に同意したものとみなされ、条項 1(c)下の選択の優先権はないものとする。潜在的特許を

開示しなかったことを知っている参加者は、本方針の規定の違反又は操作によるものであ

っても、ATSC に対する当該参加者の義務と両立しないものとみなされ、本パラグラフで

定義された結果は「開示の不履行」を構成するものとする。このような場合、ATSC は、

そのような参加者の ATSC プロセスへの参加能力を終了させることができる。」としてい

る。

特許ポリシー「7.特許検索の不要(No Patent Search Required)」においては、「条項 3 で

は、特許検索を実施することを代表者や参加者に要求していない。参加者の潜在的特許に

関する知識は、自動的に代理人に帰属しないものとする。」としている。

特許ポリシー「8.特許特定義務なし(No Responsibility for Identifying Patents)」において

は、「ATSC は、必須特許を特定したり、潜在的特許の法的有効性や範囲についての問い合

わせを行う義務はない。」としている。

特許ポリシー「11.定義(Definitions)」において、「必須特許」については、「b.「必須特

許」とは、仕様書の規範的部分を実施することによって必然的に侵害されるという国の法

律に基づき、発行された全ての特許及び特許出願のクレームを意味する。必須特許は、仕

様書を実装するための他の技術的に合理的な非侵害的な代替手段がない場合に限り、「必然

的に侵害される」。」としている。

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7. AVANCI285,286

【機関の概要】

AVANCI は、2016 年に設立された、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)

向けのワイヤレス接続を加速するワンストップ・ライセンス・プラットフォームであり、

ダラスに本拠地を置く。エリクソン、クアルコム、InterDigital、KPN、ZTE を含む業界

トップのテクノロジーイノベーターが所有するワイヤレス関連の標準必須特許を集約し、

製品のコネクティビティ強化を図る IoT デバイスメーカーにシングルライセンスを、

FRAND 条件で提供している。

【規格】

ライセンスには、2G、3G、4G の標準必須特許のポートフォリオ全体と、ライセンス期

間中に開発又は取得する特許が含まれる。

【特許ポリシー】

AVANCI は、FRAND 条件でライセンスを付与する旨を宣言しているものの287、詳細情

報は、今回調査した公開情報の範囲では発見できていない。

285 http://www.avanci.com [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 286 http://avanci.com/wp-content/uploads/2016/09/avanci_press_release_japanese.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日] 287 http://avanci.com/pricing/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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8. BBF:Broadband Forum288,289,290

【機関の概要】

BBF(Broadband Forum)は、1994 年に米国で設立された既存の電話用メタリック加入

者線インフラを活用した xDSL(x Digital Subscriber Line)の技術とブロードバンド市場の

普及促進を図るグローバルなコンソーシアムであり、大手の通信プロバイダーをはじめ、

アクセスシステムベンダーやチップベンダーなどの先進企業が会員として構成されている。

元々は ADSL Forum で、後に DSL Forum として設立された。2005 年に、検討対象を DSL

アクセスシステムの物理レイヤにかかわる伝送技術だけではなく、ブロードバンドにかか

わる全てのアクセス方式に広げるとともに、ネットワーク管理とホームネットワークを検

討に含むようにスコープを拡張した BroadbandSuite の検討を開始し、スコープ拡張に伴

い 2008 年 6 月に名称を Broadband Forum に変更した。

BBF は通信サービスプロバイダーやベンダーに対して、ブロードバンドネットワークの

開発と導入を加速し、相互接続性確保を助成し、ユーザに対する 新の IP サービスを管

理・提供するための仕様を作成するための世界的な組織である。

非営利の業界団体である Broadband Forum は、スマートで高速なブロードバンドネッ

トワークの開発に注力しており、フォーラムの主力TR-069 CPE WAN管理プロトコルは、

世界中で 3 億 5000 万台以上の導入を達成している。

【会員】

BBF の会員は約 170 社(2012 年 12 月現在)で、地域の割合としては、Asia/Asia Pacific:

31、Europe:62、Middle East:11、Americcas:66 であり、産業別にすると、Vendors:

101、Service Providers:46、Organizations:20、Consultants:3 となっている。

【組織】

SPAC(Service Provider Action Council)で、通信プロバイダーがサービス展開の情報交

換を行いながら BBF の検討方針を議論し、主な技術検討は技術委員会(Technical

Committee)で行われている。技術委員会には、①E2E Architecture、②IP/MPLS & Core

Metallic Transport、③Fiber Access Network、④Operations & Network Management、⑤

BroadbandHomeが含まれている。また、マーケットへの影響力を発揮するために、マーケ

ティング委員会(Marketing Committee)には、①Content Dev-White Papers、②Content Dev-

288 https://www.broadband-forum.org/downloads/Member%20Overview_Sept2013.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月

5 日] 289 https://www.broadband-forum.org/about-the-broadband-forum/about-the-forum/mission-and-vision [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日] 290「Broadband Forum におけるホームネットワーク標準化動向」NTT 技術ジャーナル(2009 年 6 月)

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Tutorials、③International Development、④Summits & Best Practices、⑤Ambassadors、⑥

Marketing Operations がある。

標準化連携にあたっては、他の標準化組織である国際電気通信連合(ITU:International

Telecommunication Union)、ATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions)、米

国国家規格協会(ANSI:American National Standards Institute)、欧州電気通信標準化機構

(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)などと協調を図りながら検討

を進めている。

【規格】

ホームネットワークとビジネス IP ネットワークインフラストラクチャにおいて、グロ

ーバルネットワークのベストプラクティスを定義し、収益を生み出す新しいサービスとコ

ンテンツ配信を可能にし、テクノロジー移行戦略を策定し、重要なデバイス、サービス&

開発管理ツールを設計する。ブロードバンド市場では、アーキテクチャ、デバイス及びサ

ービス管理、ソフトウェアデータモデルの相互運用性及び認証に対応するマルチサービス

ブロードバンドパケットネットワーキング仕様を開発している。

【特許ポリシー】

BBF の特許ポリシーは、2016 年 4 月 20 に承認された「BROADBAND FORUM

INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」に規定されており、特許については条項

3 に規定されている291。条項 3.1(提出者の義務「3.1 Obligations of Submitters」)では、「草

案の仕様書の提出を行うことにより、提出者は、提出時の全関係者に代わり、その提出に

関連する草案の仕様書が 終的にフォーラムで承認された際には、提出者及び各関連当事

者は、自らが所有する必須特許について、必須特許となるための提出物に含まれている使

用許諾を、有償/無償の選択肢はあるものの、RAND 条件で、全ての実施者に付与するこ

とに同意したものとみなさる。」としている。

条項 3.2(会員の開示と識別の義務「3.2 Member Disclosure and Identification Obligations」)

では、「(a)草案の仕様書が 終的な投票準備状況にあると宣言される前に、会員が、自身

又はその関連当事者のいずれかがライセンス付与を希望しない必須特許、その他の特許を

所有していることに気づいた場合(提出書類には含まれていない必須特許、その他特許)、

そのような特許を及び仕様書のどの部分が侵害に当たるかを特定しなければならない。非

公開特許出願の下での必須特許の場合、そのような特許の開示が、いかなる営業秘密も開

示するような詳細である必要はない。(c)この草案の仕様が採択された場合、各会員及び

関連当事者は、そのそのようなドラフト仕様に関する 終的な投票準備状況の宣言前に上

291 www.broadband-forum.org/downloads/IPR%20Policy2016.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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記方法で特定されていなかった全ての必要な特許についてもライセンス義務を負う」と規

定している。

また、共同作業の所有権(Ownership of Collaborative Work)については、条項 3.4 に規

定しており、「(a)各会員は、(i)草案の仕様書が 終的にフォーラムによって承認された

場合、(ii)当該会員の代表者が、1 以上の他の会員の発明者と共に共同発明者として指定

された場合、特許が 終的に採択された仕様の下での必須特許を含む場合、各会員は、必

須特許を、有償か無償かは会員が選択できるものの、RAND 条件でライセンスすることが

求められる。(b)発明者又は会員が前記義務に違反した場合、フォーラムに介入義務はな

いが、第三者受益者として、本第 3.4 項に基づいて、実施者は保護を主張する権利があり、

そのような行為に対して完全な防衛を主張する権利がある。」とされている。

条項 3.5 は、特許の検索(Patent Searches)を規定しており、他の特許ポリシーにもみら

れるように、必須特許の特許検索義務は課されていない。

特許の移転に関しては、条項 3.7(Transfers of Necessary Claims)に示されており、「(a)

各会員は、本特許ポリシーに基づく会員義務を迂回する目的で、必須特許を有する特許又

は特許出願を移転することはなく、譲渡しないことに同意する。(b)(i)特許・特許出願に

関する方針に基づいて、直接又は間接の譲渡人が以前に行った全ての約束に拘束される、

及び(ii)後にそれを移転する場合に、その特許又は出願に関連する移転の文書に、条項 3.7

に定める義務を含めることの 2 点に書面で同意する承継人を除いて、本方針に拘束される

いずれの当事者も特許・特許出願を移転しないものとする。」としている。

また、公表後に明らかになった特許(3.8 Patent Claims Revealed After Publication)につ

いては、「仕様書の採択と公表に続いて第三者が必須特許を 初に明らかにした場合、その

ような権利者は条項 3.1 で示した方法で必須特許をライセンスするよう求められる。その

要求がが拒否された場合は、問題の仕様書は、検討と可能な措置を講じるために技術委員

会に返送されるものとする。」とされている。

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9. BDA:Blu-ray Disc Association292

【機関の概要】

BDA(Blu-ray Disc Association)は、Blu-ray Disc Format(ブルーレイディスクフォーマ

ット)の規格策定・普及を目的に設立された企業団体(任意団体)であり、ハイビジョン

映画、ゲームソフト、写真、その他のデジタルコンテンツを保存可能な光ディスク規格の

策定や普及促進を目的に活動している。当初、ブルーレイディスク™フォーマットを開発す

る企業団体は、Blu-ray Disc Foundersと称され、2002 年の初めに設立された。2004 年 10

月、より多くの企業の加盟を促す意思を強調するため、Blu-ray Disc Associationと改称され

た。

なお、ロイヤルティ(ライセンス料)の累積による高騰を防止するため、Blu-ray Disc

だけではなく、すでにパテントプールが形成されている CD、DVD の必須特許を含めた 3

つの規格を包含するパテントプールである One-Blue を構築している293。

【会員】

ドルビー、ヒューレット・パッカード、日立製作所、インテル、LG 電子、三菱電機、オ

ラクル、パナソニック、パイオニア、フィリップス、サムスン電子、シャープ、ソニー、

TDK、テクニカラー、20 世紀フォックス、ウォルト・ディズニー、ワーナー・ブラザーズを

始め、約 140 社が加盟している。

【組織】

議決を行う Board of Directorsの他、①JTC(Joint Technical Committee)、②CC(Compliance

Committee)、③PC(Promotion Committee)、④L&LC(Legal & Licensing Committee)、⑤

ライセンス事務局(License Office)、⑥運営事務局(Secretary Office)から構成されている。

① JTC は、TEG(Technical Expert Groups)を取りまとめて技術議論を行い、技術提案

を Board of Directors に提案する。また、BDA の技術についての対外情報発信を行う。

② CC は、Compliance Committee groups を取りまとめて、Blu-ray Disc 関連商品の互換性

維持を図ることで、Blu-ray Disc 規格の普及に努める。

③ PC は、各地域の Promotion Committee で、Blu-ray Disc フォーマットのプロモーション

活動を行う。

④ L&LC は、BDA 内の法律関連の課題の解決を行う。

⑤ ライセンス事務局は、Blu-ray Disc 規格、及び Blu-ray Disc 関連ロゴのライセンスを行

292 http://www.jp.blu-raydisc.com/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 293 「標準化戦略に連携した知財マネジメント事例集」経済産業省 知的財産マネジメントワーキンググループ(2012年 3 月)8 頁

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う。

⑥ 運営事務局は、BDA の全ての運営の窓口としての活動を行なう。

【規格】

Blu-ray Disc における物理規格には、①BD-RE (BD-Rewritable:書換型)、②BD-R

(BD-Recordable:追記型 無機膜)、③BD-R LTH (BD-Recordable LTH TYPE:追記型

有機膜)、④BD-ROM (BD-Read Only Media:再生専用)、⑤BDXL(Rewritable & Recordable:

書換型、追記型)、⑥BD-RE BDXL(BD-Rewritable BDXL:書換型)、⑦BD-R BDXL(BD-

Recordable BDXL:追記型)がある。また、Blu-ray Disc における映像記録用の規格(アプ

リケーションフォーマット)として、①BDMV (BD-Video)、②BDAV、③AVCREC、④Blu-

ray 3D、⑤BD-Live、⑥BONUSVIEW がある。

【特許ポリシー】

BDA の特許ポリシーは、2016 年 9 月 15 日に改定された「BLU-RAY DISC ASSOCIATION

BYLAWS Version 2.6」中に「Chapter IV. Intellectual Property Rights」が設けられており294、

BDA の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が第 16 条~第 18 条に定められてい

る。その規定を以下に引用する。

「第 16 条 特許権(Patent IPRs)」においては、「全ての会員は、BDA による標準化プロ

セスを迅速化するために、特許知的財産権に関する以下の方針に従うことを約束する。

A. 各会員は、自身と関連会社を代理して、いかなる利害関係者(潜在的ライセンシー)に、

承認を得ることなく、若しくは第三者に費用を払うことなくライセンス/サブライセンス

の権利(フルライセンス権)を有する会員と関連会社が有する全ての必須特許に基づいて

公平・合理的・非差別的条件下で、非排他的、譲渡不可、全世界的ライセンスを許諾する

こと、又は関連会社がそのようなライセンスを許諾することになることに同意する。その

ような潜在的ライセンシーが会員でない場合において、潜在的ライセンシーが同意し、か

つ必須特許に関して平等なライセンス条件を書面でオファーすることが潜在的ライセンシ

ー関連会社に起こることに同意する場合には、BDA によって採用され、公に利用可能とな

るそのフォーマットを使うために BDA に、 初に参加した際、もしくはその後に、ライセ

ンスが許諾される。

B. 会員又はその関連会社が所有しているが、フルライセンス権を有していない必須特許に

関して、そのような潜在的ライセンシーが会員でない場合において、潜在的ライセンシー

が同意し、かつ必須特許に関して平等なライセンス条件を書面でオファーすることが潜在

的ライセンシーである関連会社に起こることに同意する場合には、各会員は、自身とその

294 http://www.blu-raydisc.com/Assets/Downloadablefile/BDA_Bylaws_100616.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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関連会社を代理して、BDF 又は BDA によって採用され、公に利用可能となるそのフォー

マットを使うためのそのような必須特許に基づいて、公平で合理的非差別的な条件で、排

他的、譲渡不可、全世界的な権利不主張を許諾するように、あるいは適格かつ認可された

当事者による排他的、譲渡不可、全世界的ライセンスが付与されるよう、合理的努力をす

ることを約束する。

C. 誤解を避けるために、この第 16 条は、BDA の活動を通じて開発されたものではなく、

MPEG2 のようなフォーマットの中で参照だけが行われた規格に関連して発生した特許権

はカバーしていない。

D. 全ての会員は、必須特許のための確立された共同ライセンスプログラムに参加している

か否かに関わらず、会員の必須特許の下で必要な全てのライセンスの条件の集約が、全世

界規格としてのフォーマットの受け入れや、フォーマット準拠の製品や商品化の開発を、

妨げたり、挫折させたり、害を与えたりすることにはらないことに同意する。

E. 16(4)の規定の文脈内で公正かつ合理的かつ非差別的な条件下でその会員の必須特許の

ライセンスを提供しているかどうかについての会員間の紛争は、米国仲裁協会の国際規則

の下で任命された単一の中立的な仲裁人(「仲裁人」)により決定され、ニューヨーク市に

ある協会の規則に従って運営される。仲裁人の聴聞は、仲裁人が選定されてから 90 日以内

に行われ、決定は聴聞会終了後 30 日以内に行われるものとする。仲裁人は、紛争条件の合

理性を評価する上で、特に、1)そのような条件、及び、2)このような光ディスクシステ

ムは、一般に光ディスクシステム業界で受け入れられている、という光ディスクシステム

のための必須特許のライセンス領域内での共同ライセンスプログラム及び個別ライセンス

プログラムの条件(適切なライセンス料を含むがこれに限定されない条件)を考慮しなけ

ればならない。」としている。

「第 17条 フォーマット作成者に対する不主張(Non-Assertion against Format Creation)」

においては、「各貢献会員は、いずれかのフォーマットの開発作業の目的のみで、そのよう

な活動に参加しているいかなる貢献会員に対しても、知的財産権(特許権、著作権及び非

特許知的財産権を含むがこれに限定されない)を主張してはならない。この不主張は、フ

ォーマットを準拠しているかどうかに関わらず、製品の商業上の製造、製造させること、

販売、使用、輸入、輸出、その他の配置のための知的財産権のライセンスとして解釈され

るものではない。」としている。

「第 18 条 元 FC 会員の権利放棄及び知的財産権関連義務(Waiver and IP related

Obligations of Ex-FC Members)」においては、「全ての元 FC(Format Creator)会員は、知

的財産権に関して次の規則に同意し、これを遵守するものとする。

A. BDA の範囲外の契約に基づいて FC 会員から、あるいは BDA もしくはフォーマットに

対する関係ライセンス代理人から、元 FC 会員が、非特許知的財産権及び/又は著作権にも

とづいたライセンスを取得していない場合には、各元 FC 会員は、BDA 又は残りの FC 会

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員の非特許知的財産権及び著作権の全てのフォーマットの使用権を放棄するものとする。

そのような場合には、元 FC 会員は、契約に従って元 FC 会員にライセンスされている非

特許知的財産権及び/又は著作権を引き続き使用することができる。

B. 貢献会員に対しては、元 FC 会員は、フォーマット開発やフォーマット使用のための第

三者へのライセンス付与について、当該元 FC 会員の貢献会員の資格喪失時に存在してい

た自身の非特許知的財産権と著作権を主張してはならない。

C. 貢献会員に対しては、貢献会員かつ貢献会員夫々の顧客であった間に BDA の活動を通

じて採用され研究されたフォーマットのライセンシーであった元 FC 会員は、フォーマッ

ト使用について、当該元 FC 会員の貢献会員の資格喪失時に存在していた自身の非特許知

的財産権と著作権を主張してはならない。

D. 貢献会員に対しては、貢献会員かつ貢献会員夫々の顧客であった間に BDA の活動を通

じて採用され研究されたフォーマットのライセンシーであった元 FC 会員は、フォーマッ

ト使用について、当該元 FC 会員の貢献会員の資格喪失時に存在又はファイルしていた自

身の必須特許について、公平・合理的・非差別的条件下でライセンスするものとする。」と

している。

Page 239: 標準必須特許を巡る紛争の 早期解決に向けた制度の在り方に …...(2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定

- 211 -

10. CJK IT Standards Meeting (CJK標準化会合295,296) 【機関の概要】

CJK 標準化会合(CJK IT Standards Meeting)は日本、中国及び韓国の標準化機関 (SDO :

Standards Development Organizations) が一堂に集まり、共通に関心の高い技術分野に関す

る標準化活動について情報と意見を交換し合うとともに、国際電気通信連合(ITU:

International Telecommunication Union)での標準化活動に可能な範囲で協調して対応し、

自分たちの主張を会合結果に適切に反映していくことを目的とした集まりである。

【会員】

日本からは、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Telecommunication Technology

Committee)と一般社団法人電波産業会(ARIB:Association of Radio Industries and

Businesses)の 2 団体が、中国と韓国は、それぞれ中国通信標準協会(CCSA:China

Communications Standards Association)、韓国情報通信技術協会(TTA:Telecommunications

Technology Association of Korea)が参加しており、計 4 者が会員となっている。

【組織】

Plenary 会合の下に、IMT(International Mobile Telecommunications)-Working Group、

WPT(Wireless Power Transmission)-Working Group、NSA(Network and Service Architecture)

-Working Group(旧 IoT-WG)、IS(Information Security)-Working Group、TACT- Working

Group297で構成されている。

【特許ポリシー】

CJK IT Standards Meeting に関する特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報

の範囲では発見できていない。

295 http://www.ccsa.org.cn/english/cjk_intro.php [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 296 http://www.ttc.or.jp/j/std/ag/gcag/external_relations/cjk/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 297 CJK 会合に関する運営管理事項について扱っている

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- 212 -

11. DVD Forum

(DVD フォーラム298) 【機関の概要】

DVD フォーラム(DVD Forum)は、DVD(Digital Versatile Disc)フォーマットとその

技術的能力、改善、革新についてのアイデアや情報を交換し、普及することを目的として、

1997 年 8 月から開始されたものである。ハードウェアメーカー、ソフトウェア企業、コン

テンツプロバイダー及び DVD の他のユーザの国際協会であり、エンターテインメント、

家電製品、IT 業界を問わず、世界中の DVD 製品の幅広い受け入れを促進するために活動

している。

【会員】

DVD の研究、開発及び/又は製造に関連する活動に従事している企業又は組織等に開放

されており、現在、220 の企業が会員となっている。地域別には、日本:37%、米国:27%、

アジア:24%、欧州:12%となっている(2007 年時点)。

プリンシパル会員は、DVD フォーマットの開発、プロモーション又は改善に重要な貢献

をしているとみなされる。具体的には、作業部会(WG: Working Groups)の書式作成活

動に参加し、書式作成活動を通じて開発された技術情報を受け取り、作業部会に開示され

た技術情報の機密性を保護するための非公開契約を締結することができる。アソシエイト

会員は、発行される作業部会の活動報告にアクセスする権利がある。

【組織】

総会の他、運営委員会、プリンシパル会員、アソシエイト会員、事務局から構成されて

いる。

総会(General Meeting)は、運営委員会が提出した年間会員費と運営委員会が提出した

フォーラムの年間財務諸表を承認する。

運営委員会(Steering Committee)は、フォーラムの執行機関であり、前年のフォーラム

や作業部会活動の概要を報告している。また、新しい DVD フォーマットの採用、翌年の活

動計画なども報告している。作業部会には、①WG-P:Physical Format & Test Specifications、

②WG-L:Logical Format、③WG-A:Application Format & Test Specifications、④WG-C:

Content Protection、⑤WG-V:Verificationがある。

プリンシパル会員(Principal Members)は、DVD フォーマットの開発、プロモーション、

又は改善に大きく貢献している。

298 http://www.dvdforum.org/forum.shtml [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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アソシエイト会員(Associate Members)は、DVD 開発に関心のある人なら誰でも参加で

きる。

事務局(Secretary Office)は、フォーラムイベントを企画し調整するのを助け、メディア、

会員、潜在的なビジネスパートナー又は将来の会員からの外部の問い合わせの主要な窓口

となる。

【規格】

DVD 規格としては、DVD-R、DVD-RW、DVD-RAM、DVD-VR、DVD-Video がある。

【特許ポリシー】

DVD フォーラムに関する特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発

見できていない。

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12. ECHONET Consortium

(一般社団法人エコーネットコンソーシアム299)

【機関の概要】

一般社団法人エコーネットコンソーシアム(ECHONET Consortium)は、21 世紀の社会

的ニーズに応えられる次世代ホームネットワークシステムの開発と普及促進(規格の標準

化)を目的として設立され、ホームネットワーク機器相互接続のための仕様・規格を策定・

公開し、普及のための活動を行っている。正式発足は 1997 年 12 月であり、当初は任意団

体として活動してきたが、2014 年 4 月に一般社団法人となった。

【会員】

2017 年 7 月末時点で、幹事会員が 7 者、幹事準会員が 39 者である。また、2017 年 9 月

12 日時点で、一般会員が 159 者、一般準会員が 40 者となっている。更に、2017 年 7 月末

時点で、学術会員は 30 者である。

【組織】

一般社団法人エコーネットコンソーシアムは、総会、監事、評議会、企画運営委員会、

技術委員会、普及委員会から構成される。企画運営委員会は、組織運営に関する企画、予

算管理、総会及びフォーラムなど、エコーネットコンソーシアム全体を効率的かつ円滑に

運営するための総合的な活動を行う他、各委員会及び作業部会(WG:Working Groups)の

組織化や全体の運営調整を行う。技術委員会は、設備系ホームネットワークシステムの基

盤技術に関する技術的な活動として、ECHONET 規格及び ECHONET Lite 規格の開発

や、相互接続検討などを行う。普及委員会は、エコーネットコンソーシアムで開発・規格

化する設備系ホームネットワークシステムの普及促進を目的とした PR 活動や他団体との

連携などのほか、セミナーや展示会出展の運営を行う。

【規格】

ホームネットワークの基盤を構成する伝送媒体の開発、サービスアプリケーションの展

開を容易にするミドルウェアの開発、社会システムとの連携を行うサービスミドルウェア

の標準規格を定めることを目的に活動をすすめており、現在、①ECHONET Lite 規格書、

②APPENDIX ECHONET 機器オブジェクト詳細規定、③ECHONET 規格書が公開され

ている。

299 https://echonet.jp/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】300

全 10 条からなる「知的財産権取扱規則」には以下のような内容が規定されている。

新しく会員となると、60 日間のエコーネット規格のレビュー機会が与えられる(第 4 条

1(2))。この期間中に無償又は RAND で許諾できない自己保有の必須特許等が存在する場

合、当該特許を開示して退会できる(第 4 条 1(5))。

また、規格策定にはレビュープロセスを設けられる(第 4 条 2(1))。この期間は、幹事会

員レビューが 14 日間、会員レビューが 21 日間確保される(第 4 条 2(2))。他社提案の規

格に対しては、必須特許開示義務を負い、①無償又は RAND で許諾できない必須特許等を

提示するか、②規格(案)のどの部分が無償又は RAND で許諾できない必須特許等を侵害

しているかを具体的に提示する。これらの手続きを行わなかった場合は、RAND 又は無償

で許諾するものとなる(第 4 条 2(4))。一方、自社提案に含まれる必須特許等については、

会員に対し無償又は RAND で許諾する(第 4 条 3)。無償又は RAND で許諾できない必須

特許等は、仕様の削除あるいは変更が行われる(第 4 条 4)。

必須特許等の「会員に対する」実施許諾条件は、①無償実施許諾又は②RAND 実施許諾

する(第 5 条 1)。必須特許権者と実施許諾を受ける会員との間のライセンス契約は、当事

者間で締結し、エコーネットコンソーシアムが仲介することはない(第 5 条 2)。また、会

員は必須特許等の実施許諾条件でライセンスを許諾しない会員に対しては、ライセンスを

許諾する義務を負わず(第 6 条(互恵主義))、会員はこの規則で定めた内容以外のライセ

ンス許諾する義務を負わない(第 7 条)。

必須特許の譲渡又は保有に関しては、①必須特許が第三者に譲渡された場合又は必須特

許の専用実施権が第三者に移転された場合でも、この規則で定めた義務も引き継がれる(第

8 条 1)。②会員は新たに必須特許を有した場合又は必須特許の専用実施権を第三者から移

転された場合にも会員に対し無償又は RAND で許諾する(第 8 条 2)。

会員である期間中に策定された規格における必須特許に関して負った義務は、会員が退

会した後も有効とし、当該必須特許の有効期間中残存する(第 9 条)。

300 https://echonet.jp/ip/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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13. Ecma International301 【機関の概要】

Ecma Internationalは 1961 年に設立された業界団体で、情報通信技術とコンシューマエ

レクトロニクスのための標準/TR の開発と出版を行う非営利団体である。

1959 年頃までに、異なる製造業者によるコンピュータの使用が増え、プログラミングや

入力及び出力コードなどの運用技術の標準化の必要性が指摘されてきており、1960 年以前

にも、特定の国家機関は、この分野の標準化作業を開始している。紙テープやコードは、

それらの間の共同作業や製造者間では見えなかった作業を調整する目的で、データ処理分

野(Compagnie des Machines Bull、IBM World Trade Europe Corporation、International

Computers and Tabulators Limited)の欧州企業の責任者が、欧州の全コンピュータメーカ

に会議参加を呼び掛け、1960 年 4 月にブリュッセルで開催された。そして、欧州電子計算

機工業会(ECMA:European Computer Manufacturers Association)と呼ばれる製造業者協

会が設立され、付則及び規則を作成する委員会が指名された。ECMA は、1960 年 12 月ま

でに、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)と国際電気標

準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)の本部の近くであるジュネーヴに

本部を置くことが決定され、1961 年 5 月に、元の会議に出席した全企業が会員となった。

Ecma Internationalは、1994 年以前までは「欧州電子計算機工業会」(ECMA)と呼ばれ

ていたが、アジア、オーストラリア、欧州、北米の会員が世界中から集まり、組織がグロ

ーバルになった 1994 年以降、「Ecma」が採用され、ヨーロッパに拠点を置く Ecma 組織

のグローバル活動を反映するため、1994 年に Ecma International へと名称が変更された。

今後 10 年の目標として、①新技術の普及や、会員、パートナー、標準ユーザコミュニテ

ィに 高水準の標準を提供することで、IT、テレコミュニケーション、コンシューマエレ

クトロニクスの驚異的な開発において重要な役割を引き続き果たすこと、②会員から成熟

した標準に技術を移すことで、大きな貢献を継続すること、③世界の主要標準化機関(SDO:

Standard Developing Organization)とのコラボレーションの3つを挙げている。

【会員】

Ecma Internationalは、企業会員と非営利団体(NFP:Not-For-Profit entity)会員で構成

されている。企業会員は、ICT(Information and Communication Technology)業界における

ステークホルダーの多様性を反映する 5 つの会員カテゴリー(ordinary, associate, SME,

SPC, NFP)を有する。

・ 一般会員(ordinary members)とは、協会の 1 つ以上の技術委員会に関する事項に関

301 http://www.ecma-international.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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心を持ち、総会で投票権を行使し、付則及び規則に定める他の排他的権利を発揮させ

たい企業から構成されている。

・ アソシエイト会員(associate members)とは、協会の 1 つ以上の技術委員会に関連し

ているが、総会で投票権を持たない事項に関心と経験を有する会社から構成されてい

る。

・ 中小企業会員(SME(Small and Medium-sized Enterprise)members)とは、アソシ

エイト会員と同様の利益を持ち、年間売上高が 1 億スイスフラン未満である企業から

構成されている。

・ 小規模民間企業会員(SPC(Small Private Companies)members)は、従業員数が 5

人以下で、年間売上高が 500 万スイスフラン未満である企業や法律上の非営利団体か

ら構成されている。

・ 非営利団体会員(NFP members)は非営利団体から構成されている。なお、NFP が

複数の組織から構成された団体である場合、その組織の会員たちが Ecma の企業会員

資格を取得できないときは、通常は Ecma の非営利団体会員になる。

【組織】

組織の 高権威であり、一般会員から構成される総会が Association, Management,

Secretariat を管理している。

Technical Workは技術委員会(TC:Technical Committee)とタスクグループ(TG:Task

Groups)によって実施され、特定の分野又はトピックに対処する。

【規格】

ハードウェア、ソフトウェア、通信、コンシューマエレクトロニクス、メディア、スト

レージ、環境などを含む幅広い標準化トピックがあり、具体的なカテゴリーは、Ecma

Internationalのウェブサイトで確認することができる302。

【特許ポリシー】

Ecma International のウェブサイト303によれば、Ecma IPR policies は、①Ecma Code of

Conduct in Patent Matters、②Royalty-Free patent policy extension option、③Ecma text

copyright policy、④Ecma policy on submission, inclusion and licensing of software、⑤Ecma

trademark matters の5つから構成されている。Ecma の特許ポリシーは、2016 年 6 月に

承認された上記①の「Ecma Code of Conduct in Patent Matters Version 2」に規定されてお

302 http://www.ecma-international.org/publications/standards/Stnindex.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 303 https://www.ecma-international.org/memento/Ecma%20IPR%20policies.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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り、その概要は以下の通りである304。

特許の開示については、条項 1 に言及があり、「1. Ecma Internationalは、技術委員会の

参加者に、Ecma International規格を満たし得ると主張する特許/特許出願を速やかに開示

することを望んでいる。」としている。必須特許の扱いについては、条項 2 において、「2.

Ecma International規格が策定され、当事者がそのような規格を満たす特許を有する場合、

次の 3 つが生じ得る。」、「2.1 合理的条件で非差別にライセンスを無償で付与する。交渉は

当事者に委ねられ、Ecma International は介在しない。」、「2.2 合理的条件で非差別にライ

センスを付与する用意がある。交渉は当事者に委ねられ、Ecma Inter-national は介在しな

い。特許所有者が Ecma International に規格を提出し、 終的な Ecma International 規格

に組み込まれた特許技術については、特許所有者は 2.1 又は 2.2 を選択できる。選択をし

ない場合は 2.2 が適用される。」、「2.3 特許所有者以外の者が提供する特許技術は、特許所

有者は、2.1 又は 2.2 の規定に従う用意がない。」としている。更に、手続きについては条

項 4 に言及があり、「4. 承認される Final 版の Ecma International規格は、総会(GA)の

2 ヶ月前に提出される。」「4.1 提案規格の開発に参加している会員は、特許を有している場

合には、(総会で投票が行われる場合には)総会の 2 週間前又は郵便投票期間の終了時まで

にフォームを提出する。その規格が承認された Ecma International規格のままである限り、

会員は、上記に従って、特許及び特許出願における必須特許のライセンスを付与する用意

ができる。2.3 が選択された場合、特許ライセンスは利用できず、技術委員会は他の選択肢

を探究すべきである。」、「4.2 本ポリシーは、Ecma 会員が常に特許サーチをする義務は生

じない。規格完成後に会員が取得したとしても、規格を満たす特許は、会員の一般ライセ

ンス契約が適用されるものとする。2.1 又は 2.2 が選択された場合、約束が規格に添付され

ていれば、改訂された規格の実施に同じ意味の特許クレーム(i)が要求され、会員がライ

センス契約を結んだ以前のバージョンで使用されたものと実質的に同様の結果を達成する

ために、実質的に同様の方法で、実質的に同様の方法で使用される。」、「4.3 上記期間内に

Final 規格に関するフォームを提出していない提案標準の開発に参加している Ecma 会員

は、この規格を実施するために必要な特許を、合理的で差別のない基準でライセンスする

義務を負う。」と規定している。

なお、上記②の「Royalty-Free patent policy extension option」には、上記①「Ecma Code

of Conduct in Patent Matters」のロイヤルティフリー特許の拡張オプションが規定されて

おり、この拡張オプションの下で、Ecma TC の特定のタスクグループを「ロイヤルティ

フリータスクグループ」(「RFTG」)として指定することができる。かかる RFTG は、上

記①の規定を補完するものとなっている。

304 https://www.ecma-international.org/memento/codeofconduct.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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14. EIA:Electronic Industries Alliance (米国電子工業会305,306) 【機関の概要】

米国電子工業会(EIA:Electronic Industries Alliance)は、かつて存在した国際市場向け

の一貫した相互運用可能な電子製品に関する米国の業界団体である。エレクトロニクス産

業に関する市場調査や市場予測、電子機器や電気通信などの関連する技術規格の標準化、

政策提言などを行い、部品のマーキング、データモデリング、カラーコーディング及びパ

ッケージングの資料を直接的に提示していた。そして、 小の電子部品から防衛、宇宙及

び消費者製品業界で使用される も複雑なシステムまでもを対象としていた。米国国家規

格協会(ANSI:American National Standards Institute)は、EIA 規格を認定していて、コ

ンピュータメーカや電子部品メーカーなど千数百社が参加していた。

EIA は、1924 年に発足した無線機器メーカーの業界団体が起源で、1957 年に米国電子

工業会(Electronic Industries Association)となり、1997 年に米国電子産業連合(Electronic

Industries Alliance)と改称された。2007年から活動や組織を、電子部品協会(ECA:Electronic

Components Association、現電子部品産業協会(ECIA:Electronic Components Industry

Association))、JEDEC 半導体技術協会(JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)

Solid State Technology Association)、政府管掌電子・情報技術協会(GEIA:Government

Electronics and Information Technology Association、現 TechAmerica)、米国電気通信工業会

(TIA:Telecommunications Industry Association)、全米家電協会(CEA:Consumer Electronics

Association)の各団体に順次移譲し、2011 年に解散。かつて制定された EIA 規格の管理な

どは ECIA に引き継がれている。

305 https://www.ihs.com/products/eia-standards.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 306 http://e-words.jp/w/EIA.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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15. HD-PLC Alliance

(HD-PLC アライアンス307)

【機関の概要】

HD-PLC Allianceは、高速電力線通信「HD-PLC」の普及拡大と「HD-PLC」を採用した

製品間での通信互換性の一層の向上を目指す目的として、パナソニック株式会社が発起人

となり 2007 年 9 月に設立された任意団体の連合である。この連合は、家電/ビジネス用途

に向けた豊かなユビキタスネットワーク社会の創造に向けた活動として高速電力線通信

(PLC:Power Line Communication)を 1 つの通信手段として位置づけ、その PLC 技術の

中でも「HD-PLC」方式の普及を促進することで、家電/ビジネスの情報機器、家電機器等

で「HD-PLC」方式に準拠した PLC ネットワーク機器及び PLC 組込機器間で「安心」か

つ「簡単」に繋がる通信互換環境づくりを推進することを趣意としている。

【会員】

2017 年 7 月現在、推進会員及びその関係会社が 3 社、一般会社及びその関係会社が 19

社の計 22 社が会員となっている。

【組織】

本会活動計画の承認等の決議を行う総会と、本会の目的を推進するための執行機関とし

て設置される運営委員会と、運営委員会が選任する事務局とから構成される。運営委員会

は、本会の運営を円滑に推進するため、必要に応じて作業部会を設置することができ、プ

ラグフェスタ等に関連した相互通信検証 WG と、プロモーション・マーケティング WG と

が設置されている。

【規格】

高速 PLC の普及のために 5 年半に及び「HD-PLC」方式の国際標準承認活動を行って来

た結果、2011 年 1 月国際標準規格 IEEE 1901 として承認され、その後、当該規格は、ITU-

T の G.hn 規格における IEEE 1901 共存仕様(ISP:Inter-System Protocol)の推奨化や米

国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)で策定され

た米国スマートグリッド調達ガイドラインとして IEEE 1901 標準共存仕様の必須化とし

て波及した。更に、国際標準 IEEE1905.1 としてホームネットワーク規格を統合するコン

バージェンス規格にも認証された。日本においては、TTC ホームネットワークアライアン

ス通信 I/F ガイドライン TR-1043 に IEEE 1901 PLC(「HD-PLC」)が規定され、DLNA

307 http://www.hd-plc.org/modules/alliance/message.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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(Digital Living Network Alliance)においても認証を受けている。その後、中国国家規格に

「HD-PLC」規格をコア技術として埋め込むことで、中国から輸出される家電製品、スマ

ートグリッド関連機器への搭載を目指し、2009 年から中国 IGRS(Intelligent Grouping and

Resource Sharing)アライアンスと連携することで、API(Application Programming Interface)

技術を標準規格としてパック化し、2012 年 12 月に中国国家規格 GB/T29265.305-2012 と

して認証されている。

【特許ポリシー】

HD-PLC Alliance の特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見で

きていない。

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16. HGF:HomeGrid Forum308,309,310 【機関の概要】

HGF(HomeGrid Forum)は 2008 年に開始された業界アライアンスであり、2013 年に

初の HGF 認定製品が導入された。HGF は、2013 年 5 月に、家庭内の既存電話用配線

上でネットワークを構築する技術を策定するために、パソコン/チップメーカーなどによ

り 1998 年に米国で設立された団体である HomePNA Alliance(Home Phoneline Networking

Alliance)と、合併し、世界 大のサービスプロバイダー、システムメーカ、シリコン企業

を含む 70 以上の会員による業界連合を形成した。HGF は、HomePNA の既存の基盤を引

き続きサポートしながら、同軸、電話線、電力線、プラスチック光ファイバーを介した単

一の統一されたマルチソースホームネットワーク技術 G.hn(Gigabit Home Networking)

の開発と展開を促進する。HGF 会員は、小売業者からサービスプロバイダー、ユーティリ

ティ、スマートグリッドシンクタンク、システム開発者、住宅やシリコン企業に至るまで、

技術の全ての側面をカバーするエコシステムを提供している。目標は、G.hn の利点を促進

すること、進化する業界の要件を満たすためにG.hnテクノロジーを強化することであり、

相互運用性の確保、認証プログラムに基づくパフォーマンス G.hn 及び HomePNA テクノ

ロジーを導入したサービスプロバイダーのニーズを引き続きサポートし、G.hn への市場移

行を支援している。

【会員】

発起者(Promoter)は、AT&T、BT Group plc、CenturyLink、CHINA TELECOM、Chunghwa

Tele、Kt、MAXLINEAR、SIGMA DESIGNS、VERISONの 9社、その他に協力者(Contributor)

が 30 社、採用者(Adopter)が 14 社、連絡者(Liaisons)として 1 社が会員となっている。

【特許ポリシー】

HGF の特許ポリシーは、2012 年 8 月 2 日に改定された、「Second Amended and Restated

Intellectual Property Rights Policy」に記載されており311、特許ポリシーの基本的考え方は、

「SECTION 2 LICENSING OF MEMBER INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS」に規定

されている。特許について関連する規定を以下に引用する。

「(a)HomeGrid提案又はHomeGrid仕様(HomeGrid Submission or HomeGrid Specification.

When the Corporation)」においては、「条項 6.5(b)及び(c)の通知後、企業(Corporation)

が HomeGrid 仕様又は HomeGrid 提案を採用、承認した場合であって、いずれの会員も

308 http://www.homegridforum.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 309 http://www.homepna.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 310 http://www.fmworld.net/product/hard/card/pna/pna.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 311 http://www.homegridforum.org/uploads/resources/V2cJ/5iWk.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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6.5(d)に沿った有効な異議申立てをしなかった場合には、各会員は実施許諾に同意し、かつ、

会員の関連会社が、他の会員と関連会社への実施許諾に同意したこととなる。それは、明

らかに不公正な差別がなく、非独占的、非譲渡性、(ライセンス契約違反を除き)取消不能

な全世界向けライセンスという合理的な条件の下でのライセンスであり、たとえ被疑部分

が組み込まれた製品であっても、被疑部分以外の部分や機能にはその許諾が拡張しないと

いう条件の下、必須特許の特許部分を、会員及び関連会社に製造、製造させること、使用、

輸入、販売申出、リース、販売、その他の方法で配布することに許可することとなる。そ

のような合理的かつ非差別的用語には、防御的な中断又は中止規定を含めることができる。

各会員は、本条項 2 条(a)を回避する目的で、必須特許を譲渡したことはないし、これか

らも譲渡しないことに同意する。」としている。

「(b)互恵性(Reciprocity)」においては、「ライセンサーである会員や関連会社が、前記

条項 2(a)のライセンスを、ライセンシーである会員又はその関連会社に対して、実質的に

利用可能な状況にしていない場合には、会員間の特許ライセンスの許諾に関する前記条項

2(a)は、他の会員や関連会社に影響を及ぼさない。」としている。

「(c)権利の保持(Retention of Rights)」においては、「条項 2(h)項を除き、条項 2 は、

会員又はその関連会社が、非会員に対して、その会員や関連会社が決定するような条件で、

必須特許を含む個々の会員の特許のライセンス又はサブライセンスを許諾すべきであるこ

とを求めているとみなさない。」としている。

「(d)その他のライセンスなし(No Other License)」においては、「会員は、会員又は関連

会社が、本ポリシーに基づいて、他の会員又はその関連会社に、あるいは本連合に対し、

直接的に、又は黙示的、禁反言的又は本条項 2 に明示的に定められたライセンスを許諾す

るための契約以外のその他の方法によっても、いかなるライセンス、免責又はその他の権

利が付与されないことに同意する」としている。

「(e)必須特許の譲渡(Transfer of Necessary Claims)」においては、「会員とその関連会社

による必須特許の第三者へ移転は、この特許ポリシーの条項に従うものとする。必要特許

の移転又は譲渡の契約において、標準化団体、仕様開発団体又は同様の組織(又は類似の

意味の用語)は、会員に課せられたライセンスに対する既存のライセンスや義務に従う、

という条項を含むのであれば、会員は、本条項 2(e)に準拠する方法を選択することがで

きる。」としている。

「(h)別の標準機関による採用(Adoption by Another Standards Organization)」におてい

は、「当連合の取締役会が、当連合(ITU-T(International Telecommunication Union-

Telecommunication Standardization Sector)を含むがこれに制限されない)以外の標準化団

体によって採用又は公表され、当連合の取締役会によって 終的に発表又は採用された

HomeGrid 提案又は HomeGrid 仕様のために、当連合の取締役会自身と当連合を代理して

行動している場合には、各会員は、そのような標準化団体によって採用又は公開された

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HomeGrid 提案又は HomeGrid 仕様の非会員実施者に対して、非会員実施者が相互に与え

ることに同意する条件に従い、あるいは当事者が同意する条件に基づいて、条項 2 での提

供と同条件でライセンスを付与することに同意する。各会員はまた、本連合が、条項 2(f)

に定める条件の範囲内で HomeGrid 提案又は HomeGrid 仕様を実装するために、そのよ

うな標準化団体及び非会員実施者に対し、HomeGrid 提案又は HomeGrid 仕様の中の全著

作権についてサブライセンスを付与することに同意する。」としている。

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17. IETF:Internet Engineering Task Force (インターネット技術タスクフォース312) 【機関の概要】

インターネット技術タスクフォース(IETF:Internet Engineering Task Force)はコンピ

ュータをネットワークで相互接続運用するための共通技術仕様を、コンピュータ関連組織

の研究・開発者及びネットワーク機器の研究・開発者が議論するタスクフォースである。

IETF の活動は、実運用及び実開発に関わる研究・開発者が個人で行うボランティアであ

る。この点が国際電気通信連合の電気通信標準化部門( ITU-T: International

Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)や国際標準化機構

(ISO:International Organization for Standardization)などのデジュール標準化組織がトッ

プダウン型、国別代表制の側面を持つのとは異なるところである。現実に課題を持つ担当

者がその課題解決のために IETF に集まったため、実践的な議論と仕様策定が進み、TCP

(Transmission Control Protocol)、POP3(Post Office Protocol version 3)、UTF-8(8-bit UCS313

Transformation Format)など日常的に利用するインターネット関連規格が IETF の規格と

して策定されている。IETF は、1986 年に発足し、1992 年から、その年に設立されたイン

ターネットソサエティ(ISOC:Internet Society)のタスクフォースの位置付けになってい

るため、ISOC の本部のある米国のワシントン DC と、スイスのジュネーヴに本部がある。

IETF の目的はインターネットの設計、管理、利用方法に関する高品質な技術ドキュメン

トを策定することで、インターネットの使い勝手を改善させることとしている。

【会員】

IETF は会費が定まった会員制ではない。IETF への参加方法は、会合への参加とメーリ

ングリストへの参加の二つがあり、誰でも自由に参加が可能である。ここ数年、毎年開催

される全体会議への参加人数は 2000 年前後で 2500 人、2013 年では 1200~1500 人程度

となっている。法人である ISOC は 145 以上の組織会員と 65,000 人の個人会員によって

構成されている314。

【組織】

IETF の関連する組織は以下の通りである。

・ ISOC(Internet Society):インターネットの普及を促進する国際的な非営利の会員制の

組織であり、IETF などを経済的・法的に支援し、広報活動の窓口ともなっている。

・ IESG(Internet Engineering Steering Group):IETF の技術的な面での管理とインター

312 http://www.jisa.or.jp/it_info/engineering/tabid/1065/Default.aspx [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 313 Universal Multiple-Octet Coded Character Set 314 参加会員数は 2013 年 8 月時点の数字である。

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ネット標準開発のプロセスを担当している。

・ IAB(Internet Architecture Board):IETF の様々な領域の活動に関する調整を担当し、

インターネットについての大局観に基づいて、長期計画などを立案している。

・ IANA(Internet Administrative Support Activity): IETF 活動の中核的な登録機関であ

り、TCP のポート番号や MIME(Multipurpose Internet Mail Extension)タイプなどの

登録運用を実施している。

・ RFC Editor:IESG と協力して、インターネット・ドラフトを RFC(Request for

Comments)として編集し、書式整備、発行、保管の作業を実施している。

・ IETF Secretariat:IETF を維持するため事務局作業を担当している。

【規格】

規格対象は Internet に関連する全てのプロトコルであり、主要なものは以下の通り。

・ プロトコル関連:TCP/IP、IPV6、HTTP など

・ メールアプリケーション関連:SMTP、POP、IMAP など

・ ドメイン関連:DNS、DHCP など

・ セキュリティ関連:FEP、公開鍵など

・ 文字符号その他:UFT-7、UTF-8 など

【特許ポリシー】

IETF の特許ポリシーは、2017 年 5 月に改訂された RFC8179 において、「IP in IETF

Technology」として規定されており、その内容は、IETF のウェブサイトで公開されている

315。この特許ポリシーの条項 2(2. Introduction)には、IETF が知的財産権をどのように

扱うかについて、3 つの基本原則が示されている(以下の(a)~(c))。

(a)IETF は、特定の知的財産権の有効性については、いかなる決定も行わない。

(b)ある使用を保証すると IETF が決定した場合に、通常プロセスの後、IETF は知的財

産権の開示が行われた技術の採用(use)を決定することができる。

(c)IETF における一の作業部会と残りの作業部会が、特定の技術の使用について確かな

決定を行うのに必要とされる情報を持つために、その技術の提案をした作業部会の議

論への全貢献者は、貢献者自身又は参加者が議論した技術をカバーしていると信じる

又はカバーしているかもしれないと考えている全特許の存在を開示しなければなら

ない。この開示義務は、貢献者と参加者の双方に適用され、彼らが直接貢献したか、

電子メールによる貢献か、他の手段による貢献のいずれに貢献したのかを決定する。

その要件は、参加者、参加者の雇用主、スポンサー、その他の参加による代表者の全

315 https://www.ietf.org/rfc/rfc8179.txt [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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特許(合理的かつ個人的にその参加者に知られている特許)にも適用される。ただし、

特許検索までは要求されない。

また、条項 5.5 の知的財産権開示におけるライセンス情報(Licensing Information in an

IPR Disclosure)の A には、「代替技術問題の評価中に知的財産権の開示が IETF 作業部会

によって使用されることから、実装技術が使用許諾を必要とする場合に知的財産権の開示

の中にライセンスに関する情報が含まれていることは有用である。関連する IETF 仕様書

の RFC として公表するために IESG の承認を得て、何人も、実装技術に関する他の権利の

実施、使用、配布及び実行の権利を得ることが、a)無償かつ非差別での条件、b)合理的

ロイヤルティ又はその他の支払いを含む合理的かつ非差別のライセンスでの条件、又は c)

知的財産権者からの使用許諾を得る必要はない(例えば、第 7 項に記載されているように、

防御的な停止を伴うか否かにかかわらず訴訟を提起しない(a covenant not to sue)という

契約)という条件、のいずれで得られるのかを示すことが有用である。」と示されている。

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18. JEDEC:Joint Electron Device Engineering Council316,317 【機関の概要】

JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)は、半導体部品の分野で規格の標準

化を行っている業界団体であり、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)

や DIMM(Dual Inline Memory Module)などの規格を策定したことで知られている。約 300

社の会員企業を代表する 3,000 人以上が参加している。JEDEC は、業界の様々な技術的

及び開発的ニーズを満たすための基準を作成するという目的をもって、製造業者とサプラ

イヤを 50 以上の委員会及び小委員会に参加させている。JEDEC の出版物と標準は世界中

に公開されており、また、JEDECは、米国国家規格協会(ANSI:American National Standards

Institute)の認定を受けており、世界中の多数の標準化機関との連絡を維持している。

1924 年、後に米国電子工業会(EIA:Electronic Industries Alliance)となる無線機器製造

業者協会(RMA:Radio Manufacturers Association)が設立され、1944 年、RMA と米国電

子製造業工業会(NEMA:National Electronic Manufacturers Association)とが、電子管のタ

イプ番号の割り当てと調整を担当する電子管技術連合評議会(JETEC:Joint Electron Tube

Engineering Council)を設立した。その後、無線産業が新たなエレクトロニクス分野に拡大

するにつれて、JETEC を含む EIA のさまざまな部門が半独立的なメンバーシップグルー

プとして機能し始め、審議会も、ソリッドステートデバイスを含む範囲へと拡大し、1958

年に、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)へと改称した。JEDEC は当初、

EIA のエンジニアリング部門として機能し、主な活動は、部品番号を開発してデバイスに

割り当てることであった。50 年間で、JEDEC の活動は、半導体業界の発展にとって不可

欠であることが証明されたテスト方法及び製品規格の開発にまで拡大している。

【会員】

Intel、Samsung Semiconductor、Qualcomm、Micron Technologyなど、約 300 社の会員企

業によって構成されている。

【規格】

JEDEC のウェブサイトでは規格とドキュメントが確認できる318。

316 https://www.jedec.org/about-jedec [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 317 http://www.weblio.jp/content/JEDEC [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 318 https://www.jedec.org/standards-documents [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】

JEDEC の特許ポリシーは、JEDEC MANUAL の Section 8 Legal Guidelines の中で、

Section 8.2 Patent policy として規定されている319。ウェブサイトに掲載されている概要か

ら基本的考え方及びその手続等に関連するものを以下に引用する320。

全ての企業とその代理人は、会社が所有又は管理している既知の潜在的必須特許を全て

開示することが求められる。ただし、潜在的必須特許の調査義務は課されない(Section 8.2.3

「Disclosure of Potentially Essential Patents」)。

全ての企業は、委員会のメンバーシップ又は参加の条件として、RAND 条件下で必須特

許をライセンスすることに同意する(Section 8.2.4「RAND Patent Licensing Commit-ment」)。

ライセンス保証は、特許権者(又はその代理として保証された第三者)が、保証の対象と

なる特許の所有権を移転する全ての文書に、(i)保証のコミットメントが(ii)譲受人は、

後続の移転の場合にも、それぞれの後継者を拘束する目的で、適切な規定を同様に含むこ

とに同意するものとする(Section 8.2.5「Licensing Assurance/Disclosure Form」)。

会員企業は、RAND 条件での必須特許のライセンス供与を望まない場合、委員会に通知

し、通知後 120 日以内に委員会から退会しなければならない。このオプションは、自身の

貢献に関する会員企業に対しては利用できない(Section 8.2.3.1「Disclosure of unwilling-ness

to license work of a committee」)。

企業とその代表者は、開示と保証のために標準様式を使用する必要がある(Section 8.2.5

「Licensing Assurance/Disclosure Form」)。

319 https://www.jedec.org/sites/default/files/JM21R.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 320 https://www.jedec.org/about-jedec/patent-policy [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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19. MEF:Metro Ethernet Forum321 【機関の概要】

MEF(Metro Ethernet Forum)は、2001 年に設立されたカリフォルニア州に本拠を置く

非営利団体であり、ネットワークのグローバルエコシステムを構築するための標準化団体

である。MEF は、700 億ドル以上と言われる、キャリアイーサネットサービスのグローバ

ル市場とテクノロジーの推進力であり CE 2.0(Carrier Ethernet 2.0)、SDN(Software

Defined Network)及び NFV(Network Functional Virtualisation)を使用する現在台頭中の

サードネットワークサービスを支える LSO(Lifecycle Service Orchestration)標準の定義団

体である。MEF は、サービスプロバイダー、ネットワークソリューションサプライヤ、そ

の他の関係者による強力なフレームワークを通じて、CE 2.0 と LSO の開発とグローバル

化の目標を達成している。MEF の代表的な業績は CE 2.0 で、これにはスペック、オペレ

ーション・フレームワーク、それに関連するサービス、機器及び専門技術者の認定プログ

ラム(MEF-CECP 2.0:MEF-Carrier Ethernet Certified Professional 2.0)が含まれている

322。

【会員】

世界 43 ヶ国から 220 以上の業界団体が加盟している。

会員には、Tier1~3 のサービスプロバイダー、ハードウェア及び OSS /オーケストレー

ションソフトウェアプロバイダー、テストラボ、テスト機器、テストソフトウェアプロバ

イダーが含まれている。会員の国・地域の割合は、北米から約 50%、APAC(Asia Pacific)

から約 23%、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)から約 21%、CALA(Latin America,

and the Caribbean)から約 6%である323。

【規格】

LSO、SDN 及び NFV 等がある。

【特許ポリシー】

MEF の特許ポリシーは、2017 年 7 月 1 日に承認された「AMENDED AND RESTATED

BYLAWS OF MEF FORUM」の中の、ARTICLE 10(INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS)

に規定されている324。ここでは、ARTICLE 10(e)「Patents Licensing Commitment」に規定

321 https://www.mef.net/about-mef [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 322 https://www.mef.net/Assets/Documents/Seminars/2015/Tokyo/MEF_Third_Network_LSO_Vision_2015011_05_Feb_2015_JPN.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 323 https://www.mef.net/about-mef [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 324 https://www.mef.net/membership/bylaws [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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されたものの中で、基本的考え方及びその手続等に関連するものを以下に引用する。

「10(e)(3)知的財産権の使用許諾(LICENSING OF INTELLECTUAL PROPERTY

RIGHTS)」において、「会員又はその関連会社が、改訂を含む 終的な仕様書に貢献した場

合、又は MEF が 終仕様を採用し承認する場合、会員及びその関連会社は、明らかに不

公正な差別なく、非独占的、非譲渡性、(ライセンス契約違反を除き)取消不能であって、

(会員及び関連会社による有償・無償の選択の下)全世界向けライセンスという合理的な

条件の下でのライセンスを他の会員と関連会社に許諾すことに同意する。その許諾は、た

とえ被疑部分が組み込まれた製品であっても、被疑部分以外の部分や機能にはその許諾が

拡張しないという条件の下、必須特許の特許部分を、会員に製造、製造させること、使用、

輸入、販売申出、リース、販売、その他の方法で配布することに許可することとなる。」と

している。

「10(e)(4)互恵性(RECIPROCITY)」において、「ライセンサーである会員や関連会社が、

条項 10(e)(3)のライセンスを、ライセンシーである会員又はその関連会社に対して、実質

的に利用可能な状況にしていない場合には、会員間の特許ライセンスの許諾に関する条項

10(e)(3)は、他の会員や関連会社に影響を及ぼさない。」としている。

「10(e)(5)公平な当事者(FAIRNESS PRINCIPALS)」においては、「条項 10(e)(3)に

基づく必須特許に関しては、もし、そのような必須特許の実施に対して、適時に、合理的

かつ非差別的(RAND)な補償が得られる場合には、あるいは、もし、潜在的なライセン

シーが、当事者間の全ての紛争を解決する RAND 報酬の独立した第三者による裁定に拘束

されることを望む場合には、会員は、他の会員の被疑部分に対する差止命令、排除命令、

同様の救済措置を求めることができない。」としている。

「10(e)(6)必須特許の移転(TRANSFER OF NECESSARY CLAIMS)」においては、「各会

員は、条項 10(e)又はこれらの細則に基づく会員の義務を避ける目的のみで、必須特許を

譲渡したことはなく、これからも譲渡しないことに同意する。会員は、会員が貢献した必

須特許を含む特許を譲渡又は移転する場合、譲渡前又は譲渡時に、譲受人に対して、その

ような特許が条項 10(e)(3)のライセンス条項のに従うことになる旨を通知するよう適切に

努力することを合意する。」としている。

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20. OASIS:Organization for the Advancement of Structured Information Standards

(構造化情報標準促進協会325)

【機関の概要】

構造化情報標準促進協会(OASIS:Organization for the Advancement of Structured

Information Standards)は、国際的な非営利目的の協会で、情報社会におけるオープンな標

準規格の開発、合意形成、採択を推進している。OASIS のオープンな標準規格により、低

コスト化、イノベーションの触発、国際市場の拡大、技術の自由な選択権の保護等を可能

としている。

【会員】

OASIS の会員は、業界から公的立場及び私的立場にいる技術リーダー、ユーザ及び影響

力のある者など、市場を幅広く代表している、世界 100 ヶ国、600 以上の団体の代表者及

び個人であり、その数は 5,000 人以上となっている。

【規格】

OASIS のウェブサイトには、Big Data、Cloud、e-Commerce、Healthcare、IoT/M2M等を

含む 20 の技術委員会(TC:Technical Committee)が掲載されている。

【特許ポリシー】326

OASIS の特許ポリシーは、2013 年 7 月 31 に承認され、翌年 10 月 15 日に発効された

「Intellectual Property Rights (IPR) Policy」に規定されている。

条項 6(開発を促すための限定的特許覚書「LIMITED PATENT COVENANT FOR

DELIVERABLE DEVELOPMENT」)には、「いずれかの TC が開発した標準草案を用いた

開発を許可するために、TC に参加する際に、他の会員企業に対し、TC が自動的かつそれ

以上の措置をとることなく継続的に、標準草案の実施が必要となり、そしてその実装を生

産し、あるいは使用すること(販売や頒布は含まない)をカバーするらゆる必須特許につ

いて、限定的な非主張を承諾することとなる。その承諾は、規格のテストと開発の目的に

限定され、標準草案のいずれかが 終規格として承認されるか、あるいは技術委員会が閉

鎖されるまでのみに限られる。」と記載されている。また、条項 8(公開「DISCLOSURE」)

の 8.1(開示義務「Disclosure Obligations」)では、「各 TC 当事者は TC に直接参加してい

る TC 会員に実際に知られており、TC の当事者が所有又は主張する全ての特許の存在を

OASIS 対して書面で通知しなければならない。通知の対象は、TC が必須特許を含む可能

325 https://www.oasis-open.org/jp/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 326 https://www.oasis-open.org/printpdf/policies-guidelines/ipr [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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性があると信じるか、そのような書面が存在した時に 終規格の必須特許となり得ると主

張する特許である。」旨が規定されている。

条項 10 では、使用許諾条件(LICENSING REQUIREMENTS)を規定しており、①RAND

条件(10.1 RAND Mode TC Requirements)、②無償ロイヤルティ条件(10.2 RF Mode TC

Requirements)、③不主張条件(10.3. Non-Assertion Mode TC Requirements)の3つを規定

されている。

RAND 条件(10.1 RAND Mode TC Requirements)では、「ライセンシーが本条に定める

条件よりも有利な条件でライセンシーに対して必須特許を許諾する別個の署名付き契約を

有する場合を除き(そのような場合別個の署名付き契約がこの限定された特許ライセンス

に取って代わるものとする)、RAND モード TC によって開発された 終規格については、

この TC の各義務当事者は、要求に応じ、かつ第 11 条に従い、公正、合理的、かつ非差別

的な条件の下、貢献義務又は公正に関する参加義務の対象となる必須特許の下で、非独占

的で、世界的で、サブライセンス不可能な永続的な特許ライセンス(又は同等の非主張契

約)を、いずれの OASIS 会員又は他の機関に付与する。このライセンスは、直接的又は間

接的に、(a)標準規格を採用するライセンス製品、及び(b)標準規格に関するメンテナン

ス規格を採用する製品を、製造し、製造させ、使用し、市場に出し、輸入し、販売の申出

をし、販売することを許諾するものである。そのようなライセンスは、そのような標準規

格又はメンテナンス規格の標準規格部分に従うことを求められていないライセンス製品の

機能にまで拡張する必要はない。明確にすれば、上記権利には、ライセンシーのライセン

ス製品の変更されていない複製を第三者に直接的又は間接的に許可する権利と、履行義務

のある当事者のライセンス条項に従うことを前提に、ライセンシーのライセンス製品を(オ

プションとして第三者のライセンスに基づいて)ライセンスする権利とを含む。義務履行

当事者の選定において、そのようなライセンスには、同一の標準規格とメンテナンス規格

とをカバーする必須特許(もし何かあれば)に対して相互ライセンスを付与することを要

求する条項を含めることができる。そのような条項では、ライセンシーに対して、そのよ

うな規格を採用する全ての実施者にライセンスを付与することを要求することができる。

義務履行当事者は、当該ライセンシーが、同一の標準規格もしくはメンテナンス規格のい

ずれかを含むライセンシーの必須特許の義務履行当事者による侵害に対して義務履行当事

者を 初に提訴した場合には、そのようなライセンスの効力を停止することができる旨の

条項を含めることができる。上記に明記されたもの以外の公平で合理的で非差別的なライ

センス条件は、ライセンシーと義務履行当事者間に委ねられる。」と規定している。

無償ロイヤルティ条件(10.2 RF(Royalty-Free)Mode TC Requirements)では、原則上記

10.1 の文言をそのまま利用しつつも、「公正、合理的、かつ非差別的な条件の下(on fair,

reasonable, and non-discriminatory terms)」という条件が、「無償、かつ条項 10.2.2 あるい

は 10.2.23 のいずれかに従う条件の下(without payment of royalties or fees, and subject to

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the applicable Section 10.2.2 or 10.2.3)」となっている。なお、条項 10.2.2 では、RAND 条

件の RF(RF on RAND Terms)の場合、条項 10.2.1 の内容を超えた公平で合理的で非差別

的なライセンス条項を含んでもよく、そのような追加条項は、ライセンシーと義務履行者

との間に委ねられる旨が規定されている。また、条項 10.2.3 では、制限条件の RF(RF on

Limited Terms)の場合、義務履行当事者は、技術又は知的財産権の使用、又はライセンシ

ーの行動に関するその他の制限について、条項 10.2.1 の条件を超えて課すことができない

が、法の選択や紛争の解決などを含め、ライセンス関係の運用又は保守に関連する合理的

で慣習的な条項は課してもよい旨が規定されている。

非主張モード要件(10.3 Non-Assertion Mode TC Requirements)は、10.3.1 において、本

要件で開発された標準規格及びその規格に関するメンテナンス規格に関して、「非主張モー

ド TC の各義務履行当事者は、IPR ポリシーの条項 10.3.2 及び 11 に従うことで、OASIS

や他の機関に対する貢献や参加で適用されたいなかる必須特許も、TC によって開発され

た標準規格の採用製品、及び当該規格に関するメンテナンス規格を採用する製品を生産し、

生産させ、使用し、市場に出し、輸入し、販売の申出をし、販売し、その他の方法で配布

すること対して、その特許を主張しないと約束する。」旨の非主張規約を作成する。また、

10.3.2.では、「OASIS 当事者又は第三者が、必須特許に関する標準規格、あるいはメンテ

ナンス規格を採用する製品の受益者に対して、 初に提起した訴訟において必須特許を主

張する場合、あるいは書面にて必須特許を主張する場合には、OASIS 当事者又は第三者に

関する義務履行当事者は、条項 10.3.1 に規定されている契約を中断又は取り消すことがで

きる。」旨が規定されている。

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21. OIF:Optical Internetworking Forum327,328 【機関の概要】

OIF(Optical Internetworking Forum)は、1998 年に発足した光ネットワーク技術を推進

するフォーラム標準化団体であり、相互運用可能なインターネットワーキング技術の市場

導入を加速・ 大化するために、コンポーネントの業界標準である IA(Inplementation

Agreement)として標準化する他、資料としてまとめている。OIF の作業は、光学及び電気

相互接続、光コンポーネント及びネットワーク処理技術、ソフトウェア定義ネットワーク

及びネットワーク機能仮想化を含むネットワーク制御及び運用に適用されている。OIF は、

国内及び国際規格機関の活動を積極的に支援して規模を拡大しており、世界有数のサービ

スプロバイダー、システムベンダー、コンポーネントメーカー、ソフトウェアベンダー、

テストベンダーを含む数多くのネットワークの代表者を集結した業界団体となっている。

また、OIF は、IA を書面だけで終わらせないために、相互接続の実験やデモンストレーシ

ョンなどによる実証も行っており、加えて、OIF での決定事項を国際電気通信連合(ITU:

International Telecommunication Union)など他の標準化団体に提案することも行っている。

【会員】

2017年10月時点で、主要会員(Principal Members)が85社、聴講会員(Auditing Members)

が 15 社、研究会員(Academic Members)が 2 社となっている329。

【規格】

OIF のウェブサイトには、IA や技術ドキュメント・ガイドラインとして、①Towards

400G/1T、②100G、③Electrical Interfaces、④Very Short Reach Interface、⑤Optical

Transponder Interoperability、⑥Tunable Laser、⑦Physical Layer User Group、⑧UNI – NNI、

⑨Benchmarking、⑩Hardware、⑪Softwareの 11 分類が掲載されている330。

【特許ポリシー】

OIF の特許ポリシーは、2003 年 1 月 7 日付で改定された「OPTICAL INTERNET-

WORKING FORUM (OIF) INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS (IPR) POLICY

STATEMENT」に規定されている。OIF の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が

当該規定の条項 4~6 に定められているので、以下に引用する331。

327 http://www.oiforum.com/public/impagreements.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 328 http://www.ntt.co.jp/journal/0607/files/jn200607067.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 329 http://www.oiforum.com/about-oif/member-companies/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 330 http://www.oiforum.com/public/impagreements.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 331 https://www.consortiuminfo.org/links/OIF-IPR.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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- 236 -

「4. OIF 会員の知的所有権の開示義務(4. AFFIRMATIVE IPR DISCLOSURE OBLI-

GATIONS OF OIF MEMBERS)」においては、「(a)貢献時の義務 参加者は、OIF の検討

のために技術的な貢献を提出するたびに、OIF 特許ポリシーを読み、検討したものとみな

され、その時点で次のことを書面で OIF に開示するものとする:

(ⅰ)関連する知的財産権の存在 知識の範囲内で、その貢献下で実践するために必要と

なる会員組織が保有する知的財産権の存在を認識しているかどうか。

(ⅱ)ライセンスの意思 会員が OIF 会員及び他の会員に、そのような貢献を取り入れた

実施契約の下で実施を許可するかどうか。及び、

(ⅲ)ライセンス条件 合理的かつ非差別的条件での無償/有償のどちらでライセンスを提

供するか。

(b)投票時の義務 各主要会員は、提案された実施契約書の全部又は一部の採択(「投票」)

に関する主要会員の世論投票を求める毎に、(投票締終了の 2 営業日前までに)OIF に書面

にて、参加者の知識の範囲内で、提案された実施契約の下で実施することが必要となる、

会員が所有するあらゆる知的財産を開示する。

(ⅰ)開示が行われなかった場合 会員が適時に開示しなかった場合は、本投票の時点で、

本条 5(a)、5(b)(ⅰ)及び 5(c)の表明及び約束を行ったものとみなされる。

(ⅱ)開示が発生した場合 会員は、投票に関連して、知的財産権を適時に OIF に開示す

る場合は、自動的に条項 5(a)、5(b)(ⅱ)及び 5(c)の表明及び約束を行ったも

のとみなされる。

(ⅲ)ライセンスをしない選択 条項 4(b)、5 の規定にかかわらず、 会員は、投票の時

点で(ただし、投票終了の 2 営業日前までに)、当該会員の投票について、投票の条

項 5(b)(ⅱ)及び 5(c)に記載されたライセンス条項のいずれか又は全てに従わな

いことを、OIF に書面で通知することができる。会員がそのような適時の通知を提供

しない場合は、条項 5 の関連する規定を適用するものとする。

」としている。

「5. 投票時に参加可能な会員(5. OIF MEMBER REPRESENTATIONS APPLICABLE AT

TIME OF VOTE)」においては、「投票の時点で、各会員は自動的に以下の表明及び約束を

行ったものとみなされる:

(a)会員は、現在有効な OIF の知的財産権(IPR:Intellectual Property Rights)ポリシー

声明を受領し、レビューをした。

(b)(ⅰ)会員の参加者の知る限りでは、投票のために同時に提出された OIF 技術貢献の

下で実施するために必要とされる会員の知的財産権は存在しない。又は、

(ⅱ)会員は、投票のために同時に提出された OIF 技術貢献に基づいて実施するため

に必要となる知的財産権を所有しており、その会員は、申請者にライセンスを許

諾する準備ができている(ただし、そのような知的財産権(著作権、特許又は出

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願中の出願を含むがこれに限定されない)を含む)、その許諾は、合理的かつ非

差別的条件に関する有償又は無償の実施契約の実施物の生産、販売、販売の申出、

輸入、頒布又は使用をいう。

(c)会員は、投票時に会員が OIF 技術貢献した実施契約書に基づいて実施するために必

要な知的財産権を保有していると後に判断した場合、全ての申請者に対して、(会員

が権利を有しないため、法律で禁止されているか、又は禁止されている場合を除いて)

そのような知的財産権(これに限定されるものではないが、著作権、特許、これらの

出願)を合理的かつ非差別的条件の下での有償又は無償の条件下での、そのような知

的財産権を含む実施製品の製造、販売、配布、又は使用のライセンスを利用可能なも

のとすることに同意する。」としている。

「6.技術的貢献に関する会員の正当なライセンス義務(6. FAIR LICENSING OBLIGATIONS

OF OIF MEMBERS WITH RESPECT TO TECHNICAL CONTRIBUTIONS)」にておいては、「

(a)可能な限り、OIF は、会員を代表して、会員又は他の者からの一般的かつ特定のライ

センス情報の入手を容易にし、フォーラムの利益を促進する。

(b)オープンで効率的かつ有用な光ネットワーキング技術を促進するために、OIF に技術

貢献を行う会員は、その会員の技術貢献したことにより実施が必要な IPR に関して、

条項 4(a)の規定に完全かつ適時に従う。IPR 保有者と潜在的ライセンシーとの間の

交渉は関係当事者に委ねられ、OIF 外で行われる。

(c)会員が適時に(本項(b)で規定されているように)、技術貢献の下で実施するために

必要な知的財産権に関するライセンスを利用できないように選択した場合、OIF は、

実施契約が、そのような IPR を必要としない実施契約を採用するか、あるいは合理的

に可能でない場合には、(分かっている場合には)特許権者のライセンスポリシーに

関して実施契約とステートメントの夫々の全部又は一部をカバーするかもしれない

という、(OIF が気付いている)非ライセンス特許への参照を含む実施契約のいずれ

かを採択するように試みなければならない。

」としている。

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22. OMA:Open Mobile Alliance332 【機関の概要】 OMA(Open Mobile Alliance)は、マーケット駆動型-相互運用可能なモバイルサービス

イネーブラーを開発するための主要産業フォーラムである。

OMA は、2002 年 6 月に、世界有数のモバイル通信事業者、デバイス&ネットワークサ

プライヤー、情報技術企業、コンテンツプロバイダーを代表する 200 社近くの企業によっ

て結成された。OMA の仕様は、従来のセルラーオペレータネットワークや IOT(Internet

of Things)のマシンツーマシンデバイス通信をサポートする新興ネットワークを含む、様々

なワイヤレスネットワークにわたる数十億の新規及び既存の端末をサポートしている。

OMA の主要な開発結果は、デバイス管理、LBS(Location Based Service)、IoT、API

(Application Programming Interface)などの分野で次世代のモバイルサービスの開発につ

ながっている。

OMA は、Open Mobile Architecture initiativeと WAP Forumが元々の基盤となっており、

その後、SyncML initiative、LIF(Location Interoperability Forum)、MMS-IOP(MMS

Interoperability Group)、MGIF(Wireless Village, Mobile Gaming Inter-operability Forum)

及び MWIF(Mobile Wireless Internet Forum)が統合されて現在の形となっている。

【会員】

2017 年の会員としては、Sponsor Members として、AT&T、Motorola Solutions Inc、

Qualcomm, Incの 3 社の他、Full Membersが 21 社、Associate Membersが 13 社、Supporter

Membersが 8 社参加しいてる。

【特許ポリシー】333

OMA の特許ポリシーは、2004 年 2 月 4 日付の「Open Mobile Alliance IPR Procedural

Guidelines For OMA Members」に規定されている。この中の「開示(DISCLOSURE)」の

冒頭文において、「会員及びその関連会社(以下「会員」)は、必須知的財産権が準備又は

公開された仕様に関連していることを認識したときに、適切な努力をして必要な知的財産

権を OMA に適時に通知することに同意する。この義務は、知的財産権の調査義務を意味

しない。この義務は、OMA 申請書(以下「申請書」)に記載する。申請書は、OMA のウェ

ブサイトから入手できる。」旨が規定されている。更に、5 項には、「5. OMA は、必須知

的財産権の公開義務の再確認として、約 1 年に 1 回(必要に応じてその他の時に)、全会員

に付録 D の形式に類似の形式でリマインダを通知するものとする。」としている。

332 http://openmobilealliance.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 333 http://openmobilealliance.org/wp-content/uploads/2013/01/Member_IPRGuidelines_v53006.pdf [ 終アクセス

日:2018 年 1 月 5 日]

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また、「実施許諾宣言(LICENSING DECLARATION)」では、「OMA は、必須知的財産

権の開示に際して、公平で合理的で非差別的な条件に基づく申請書により、会員に必須知

的財産権の実施許諾宣言を求めるものとする。手続ガイドライン付録 B には、この宣言に

使用される標準形式を含んでいる。会員は、本人又はその関係者が必須知的財産権の実施

許諾をする準備ができていない場合は、直ちに OMA に通知し、OMA からの要請に応じ

て、実施許諾の拒否理由をその要請から 90 日以内に通知するものとする。拒否の正当な理

由としては、当該知的財産権は必須のものではないというものである。申請書の条件に従

い、いずれの争いも仲裁によって 終的に解決されるものとする。」と規定している。

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23. oneM2M334,335 【機関の概要】

oneM2M は、2012 年に世界の主要 7 標準化機関の共同プロジェクトで発足した団体で

あり、M2M(Machine to Machine)サービスレイヤの標準化を行っている。OneM2M の重

要な目的は、テレマティクスやインテリジェントな輸送、医療、ユーティリティ、産業オ

ートメーション、スマートホームなどの M2M 関連事業分野の組織をつないで、積極的に

関与させることにある。

【会員】

日本の 2 つの標準化機関を含む、全7の標準化機関(一般社団法人電波産業会(ARIB:

Association of Radio Industries and Businesses)、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:

Telecommunication Technology Committee)、ATIS(Alliance for Telecommunications Industry

Solutions)、米国電気通信工業会(TIA:Telecommunications Industry Association)、欧州電

気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)、中国通信標

準協会(CCSA:China Communications Standards Association)、韓国情報通信技術協会(TTA:

Telecommunications Technology Association of Korea))により推進され、登録会員は 208 社。

代表的なところでは、AT&T、Cisco systems、大日本印刷、CSR、Docomo、Ericsson、富士通、

freescale、Hitachi、Huawei、HTC、Intel、KDDI、LG、NEC、NTT、Panasonic、Qualcomm、

Sonyなどが会員になっている。

【規格】

以下のような技術仕様書及び技術報告書を定めている。

・ 共通のサービスレイヤ機能のユースケースと必要条件

・ エンドツーエンドサービスのアクセスに依存しない見解に照らした高度で詳細なサー

ビスアーキテクチャを備えたサービスレイヤの側面

・ アーキテクチャに基づくプロトコル/ API /標準オブジェクト(オープンインタフェー

スとプロトコル)

・ セキュリティとプライバシーの側面(認証、暗号化、完全性検証)

・ アプリケーションの到達可能性と発見

・ 相互運用性(テスト及び適合仕様を含む)

・ 課金記録のためのデータの収集(請求及び統計目的での使用)

334 http://www.onem2m.org/about-onem2m/why-onem2m [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 335 http://iot-jp.com/iotsummary/iotstandard/iot%e8%a6%8f%e6%a0%bc-onem2m%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9f/.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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・ デバイスとアプリケーションの識別と命名

・ 情報モデルとデータ管理(ストアとサブスクライブ/通知機能を含む)

・ 管理側面(エンティティの遠隔管理を含む)

・ 一般的なユースケース、端末/モジュールの側面:アプリケーション層とサービス層や、

サービス層と通信機能

【特許ポリシー】

oneM2M のウェブサイト336によれば、oneM2M の全パートナー(Partner Type 1 及び

2)は oneM2M 内で、oneM2M の技術目標に も適合するソリューションに基づいた技術

仕様書と技術報告書を作成するという目的を持っており、全パートナーの IPRポリシーは、

FRAND をサポートしている。これらのポリシーは、必須/潜在的必須特許の所有者の権利

を尊重することの重要性を認識し、公正かつ合理的かつ非差別的(FRAND)の条件に基づ

いて必須特許にアクセスするための実施者の能力とのバランスを求めている。パートナー

が、知的財産権に関するライセンス条項を指示、確立又は設定することはない。

各会員は、Partner Type 1 のポリシーに含まれる義務を遵守することを約束する。会員

が複数のパートナーを通じて oneM2M 活動に従事する場合、その会員は会員として認めら

れた全パートナーの IPR ポリシーを遵守する必要がある。Partners Type 2 は、Partner

Type 1 のポリシーに従って、又は独自の IPR ポリシーに従って技術寄与を行う。なお、

Partner Type 1 及び Partner Type 2 はそれぞれ以下のとおり。

・ Partner Type 1:ARIB、ATIS、CCSA、ETSI、TIA、TSDSI、TTA、TTC

・ Partner Type 2:Broadband、CEN、CENELEC、GlobalPlatform、OMA

336 http://www.onem2m.org/intellectual-property-rights [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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24. ONF:Open Networking Foundation337,338 【機関の概要】

ONF(Open Networking Foundation)は、Open Flow を開発した Martin Casado 氏が

SDN(Software-Defined Networking)のもとになるコンセプトや、Open Flow プロトコル

のコンセプトを作成した後、そのコンセプトに賛同した企業や組織が集まって設立された

非営利団体であり、商用導入に向けた規格化の検討を行っている。また、ONF は、オペレ

ーター主導のコンソーシアムで、ネットワークインフラストラクチャとキャリアビジネス

モデルの変革の推進を目的としている。

【会員】

Partnar として、AT&T、COMCAST、Google、Intel、Nokia、NTT Group、Samsung、Turk

Telecom等の 18 社が参加している他、Collaborating Innovatorが 19 社、Innovatorが 59 社、

Collaboratorが 61 社参加している。

【特許ポリシー】

ONF の特許ポリシーは、2016 年 6 月 27 日付で認証された「OPEN NETWORKING

FOUNDATION INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」に規定されている339。

ここには、ONF の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が条項 2~4 に定められて

おり、主要部分を以下に引用する。

「2.仕様レビューと通知(SPECIFICATION REVIEW AND NOTICE)」の「2.3 ライセ

ンス異議申し立て(Licensing Objection)」においては、「会員は、技術作業部会への参加に

かかわらず、条項 2.3(ライセンシング異議申立)に従い、条項 3 に基づく理事会へのライ

センス供与に異議を申し出ることができる。条項 2.2 に記載された審査期間内に会員がラ

イセンス異議書を提出した場合、その会員は、指定した必須特許について条項 3 に基づく

ライセンスを付与する必要はない。上記にかかわらず、会員は、草案に対する会員の貢献

に対する必須特許に関してライセンス異議を申し立てることができない。会員は、それぞ

れの貢献による必須特許について条項 3 に基づいてライセンスを付与する必要がある。」と

している。

また、「2.4 退会(Withdrawal)」では、「技術作業部会への参加にかかわらず、ドラフト

仕様への貢献を行っていない会員は、会員が、その仕様は条項 3 に従って他の会員にライ

センスすることを望まない必須特許を暗示していると決定したら、条項 2.4(「退会通知」)

337 https://www.opennetworking.org/mission/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 338 https://www.itbook.info/network/sdn02.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 339 https://3vf60mmveq1g8vzn48q2o71a-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2017/07/ONF-IPR-Policy-2016.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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に基づき、ONF から脱退することを理事長に書面で通知することができる。会員が条項 2.2

に定める審査期間内に退会通知を提出した場合、その会員は条項 3 に基づいて指定された

必須特許について、ライセンスを付与する必要はない。

2.4 ライセンスの異議申し立て又は退会通知への対応:後続ドラフト仕様レビュー。

(Reacting to any Licensing Objection or Notice of Withdrawal; Subsequent Draft Specification

Reviews.)

適時に受領したライセンシングの異議申立又は退会通知は、直ちに取締役会と技術作業

部会の両方に転送される。技術作業部会又は特別小委員会がドラフト仕様の重要な変更を

推奨する場合、技術作業部会は、ドラフト仕様に必要な修正を開始する。変更されると、

条項 2.1 で開始されたドラフト仕様レビュープロセスが再び開始される。技術作業部会又

は特別小委員会がドラフト仕様に重大な変更を加えないことを推奨する場合には、ドラフ

ト仕様は条項 2.5 項に従って 終承認を進める。」としている。

更に、「3.知的財産権の使用許諾(LICENSING OF INTELLECTUAL PROPERTY

RIGHTS)」では、「各会員は、不公平差別的でない、非独占的、移転不可、取消不能(ただ

し、下記で指定する防御的停止に従う)という合理的条件及び無償の下、全世界向けライ

センスを他の会員及び関連会社に与えるオプションに同意する。そのライセンスは、規格

準拠部分を生産し、生産させ、使用し、輸入し、販売の申立をし、リースし、販売し、その

他の方法で配布することを認めるものであるが、このようなライセンス契約は、以下まで

拡張するものではない。即ち、(a)準拠部分が組み込まれている製品の一部又は機能であ

って、それ自体は準拠部分の一部ではないこと。(b)条項 2.3 又はその関係者による ONF

から退会した会員又は関連会社、(c)会員及び関連会社に対して相互ライセンスを希望し

ない場合における、その会員又は関連会社(条項 4 参照)。疑義を避けるために、このライ

センスには、会員(又は関連会社に)のディストリビューターによる配布、及び会員(又

は関連会社に)の顧客によるライセンス準拠部分の使用が含まれる。」としている。

「4.互恵性(RECIPROCITY)」においては、「会員及び関連会社によって付与されるラ

イセンスに関する条項 3 の規定は、他の会員又は関連会社が、被疑部分を会員や関連会社

に対して、実際に条項 3 のライセンスを相互に利用可能な状況にしていない場合には、い

ずれの他の会員や関連会社に対しても効力は発揮しない。」としている。

「7.必要な訴訟の移転(TRANSFER OF NECESSARY CLAIMS)」において、「各会員は、

この特許ポリシーに基づいて会員の義務を回避する目的で、必須特許を譲渡又は移転せず、

譲渡又は移転していないことに同意する。会員が必須特許を含む特許を譲渡又は移転する

場合、会員は、譲受人の同意書に基づいて譲渡又は移転を条件付けすることに同意する:

(a)その特許は、引き続き条項 3 のライセンス条項に従う。(b)後続の譲受人は、この義

務を同様に尊重する。」としている。

「10.防御的停止(DEFENSIVE SUSPENSION)」においては、「いずれかの会員又は関

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連会社(以下「被告」という。)が、特許侵害のために、ある会員又は関連会社(以下「原

告」という。)から訴訟を起こされた場合、被告が原告に付与したライセンスは停止される

ことでき、被告は、その特許侵害訴訟が条項 3 に記載されているロイヤルティフリーライ

センスを与える方法で 終解決されるまで、原告に対し必須特許の下での更なるライセン

ス付与を差し控える権利が与えられる。」としている。

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25. SMPTE:Society of Motion Picture and Television Engineers (米国映画テレビ技術者協会) 【機関の概要】

米国映画テレビ技術者協会(SMPTE:Society of Motion Picture and Television Engineers)

は、映画・テレビ技術にかかわる映像技術全般の品質向上を行う団体であり、会員増強ネ

ットワークと交流を通じて、規格業界標準の開発、教育及び会誌(SMPTE Motion Imaging

Journal)の出版、並びに、会議、セミナー、ウェブキャスト及びセクションミーティング

による専門知識の向上等を行っている。

【会員】

SMPTE のグローバルメンバーシップは、会誌のエグゼクティブ、クリエイター、技術

者、研究者、並びに標準開発及びその教育に従事する 7,000 人以上の会員を有している。

会員には、Apple、Amazon、Blackmagic Design、CBS、Deluxe Technicolor、Disney / ABC /

ESPN、Dolby Laboratories、Ericsson、Fox Entertainment Group、Google、Microsoft、NBC

Universal、Netflix、Nokia、パナソニック、パラマウントピクチャーズ、ソニー、ターナー、

Warner Bros. などの企業が含まれている。また、SMPTE は、ハリウッドプロフェッショ

ナル協会(HPA:Hollywood Professional Association)と提携することで、メディアコンテン

ツの作成と仕上げを支援する企業や個人も会員に含んでいる。

【規格】

SMPTE は何千もの標準、推奨プラクティス及びエンジニアリングガイドラインを開発

しており、その内の 800 以上が現在実施されている。SMPTE 規格とガイドラインの一例

は下記のとおり。

・ SMPTE カラーバー:色の正確さを保証する基準点として活用されている。

・ SMPTE TimeCode:データの関連付けを可能にする。

・ SMPTE TimedText:アクセスが容易な字幕の作成、保存及び強化を可能にする。

・ MXF(Material eXchange Format):プロダクションチェーン内のアプリケーションに

よるコンテンツの使用を効果的に簡素化することで、創造性と効率性を高めることを

可能にする。

・ Better Pixels:高解像度(4K、8K)、広色域(WCG:Wide Color Gamut)、ハイダイナ

ミックレンジ(HDR:High Dynamic Range)、高フレームレート(HFR:High Frame

Rate)、優れた電気光学転送(EOTF:Electro-Optical Transfer Function)機能により、

品質を大幅に向上させることを可能にする。

・ GoPro CineForm:コーデックの標準化により、シネマレベルの品質を可能にする。

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【特許ポリシー】340,341

SMTPE の特許ポリシーは、22 個のセクションからなる「Administrative Practices」の中

の、2011 年 6 月 23 日に改定された「SECTION XⅢ ENGINEERING Operations Manual」

において知的財産ポリシー「10 Intellectual Property Policy」として規定されている。「10

Intellectual Property Policy」には、SMTPE の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等

が 10.1.1~10.1.6 に定められており、その規定を以下に引用する。

「10.1 特許ポリシー(Patent Policy)」においては、「技術文書には、全ての既知の特許権

者が全ての必須特許について「合理的かつ非差別的(RAND)」である条件に同意する準備

ができている場合にのみ、必須特許(条項 10.1.2 参照)の対象となる技術を含むことがで

きる。SECTION Ⅳ(委員会)に記載されている全ての技術委員会及びグループは、その

ような解決手段が技術的に十分であると信じられるなら、使用自由な必須特許又は無償ラ

イセンスが信じられている技術を優先する権利がある。技術委員会は、そのような技術の

ライセンス条項について協議や考慮をしてはならない。

可能な限り、技術委員会は、検討中の技術の障害となる可能性のある必須特許の存在又

は潜在的存在を含めて全ての関連情報に基づいて技術を選択することが重要である。

この方針は、条項 10.1.4 に従い、全ての委員会参加者、オブザーバ会員及びゲストに対

し、技術文書に含めるために提案された技術に対する必須特許を含み得る特許の実際の個

人の知識に基づいて、認識している特許があるならば、開発プロセスにおいて可能な限り

早期に技術委員会(TC:Technical Committee)の議長に通知する義務を課している。」とし

ている。

必須特許については、「10.1.2 必須特許(Essential Claims)」に定義しており、「必須特

許は、その技術文書の標準的記載を実施することによって必然的に侵害される場合にのみ、

技術文書に対して「必須」であり、技術文書を実装する商業上合理的で非侵害的な代替手

段がない場合においての「必然的侵害」をいう。技術文書に対する必須特許は、実現可能

な技術に不可欠なもの(技術文書に明示的に記載されていないが、実施製品の製造や使用

に必要な技術)を除いている。また、技術文書に対する必須特許は、技術文書に含まれる

いかなる標準参照に対する必須特許も除外する。」としている。

「10.1.3 文書提出の同意書(Patent Statement to Accompany Document Submission)」に

おいては、「草案文書又は草案文書への標準文章の書面による貢献が SMPTE に、個人又は

機関によって提出されたときには、SMPTE 特許声明書の記載が求められる。特許声明書

は、基準委員会が承認した書式を用いて作成されるものとする。特許声明は、必須特許の

対象と考えられる文書の部分を可能な限り明確に識別しなければならない。

340 https://www.smpte.org/about/bylaws/aps [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 341 https://www.smpte.org/sites/default/files/Patent_Statement_Submit_Printed.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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委員会は、提出者から 45 日以内に特許声明書が提出されるという保証が得られた場合

には、特許声明書を提出することなく、草案又は草案の貢献を検討することに、管理投票

によって合意することができる。 委員長は、TC を含む親グループにその決定を通知する。

提出日から 45 日以内に特許明細書が提出されない場合、TC 議長は、提出作業を中断する

ことができる技術副委員長に通知するものとする。」としている。

「10.1.4 知的財産に関する知識の宣言(Declaration of Knowledge of Relevant Intellect-ual

Property)」では、「このポリシーは、個人の知識に基づいて、技術文書の中に含まれる技術

において、必須特許になり得る特許があることを知っている場合には、開発プロセスにお

いて可能な限り早期に TC 議長に通知する義務を全会員及びゲストに課している。

実際の又は潜在的な必須特許に関する個人の知識を TC 議長に通知する要件は、電子メ

ールの受領などの電子的手段による参加の形態を含む委員会の作業又は手続を含む、委員

会の参加会員又はオブザーバ会員になるか、又はゲストとして会議に出席することから始

まる義務である。必要な通知は、事実上可能な限り速やかに行われ、全ての場合において、

知識を得てから 45 日以内であって、かつ技術文書に投票する前に行わなければならない。

この通知は、会合の議事録に記入するか、あるいは責任ある TC の議長に書面で通知しな

ければならない。この通知には、特許又は出願番号、権利者など、会員又はゲストが利用

可能な全ての関連情報が含まれ、対象と考えられる技術文書の部分を可能な限り明確に識

別するものとする。

そのような通知の受領は、報告された知的財産権者から特許声明を請求するために、条

項第 10.1.5 の手続に従う技術責任者のための TC アクション項目を作成しなければならな

い。

このポリシーは、特許検索を必要とせず、具体的には、会員又はゲストのスポンサーシ

ップが特許検索を行う義務を負わない。

この方針は、全ての会員及びゲストが個人として行動し、このオペレーションマニュア

ルによって課された義務が、スポンサー組織ではなく、会員又はゲストに適用される。こ

の理由から、開示義務は、会員又はゲストの実際の個人的な知識によって作成され、特許

がスポンサーによって所有されているのか否かに関係しない。本ポリシーのいかなる規定

も、雇用、スポンサーシップ又は特許出願人又は権利者とのその他の関連付け又は結びつ

きを理由に、会員又はゲストの知識を毀損するものではない。

このポリシーは、会員又はゲストに対して、必須特許の適用可能性又は執行可能性に関

する法的意見を形成することを求めるものではないが、提案された技術文書の実施に対し

て必須である可能性が高い特許又は特許出願の個人的知識を有しているか否かについての

開示を要求している。

時には、この義務は雇用条件又は契約上の契約条件と矛盾することがあり得ることを認

める。会員及びゲストは、関連する必須特許を宣言するための許可を得るために合理的な

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努力をしなければならない。宣言されていない必須特許があることを知っているか信じて

いる間、会員は技術文書又は技術の採用をサポートすることはできない。必須特許を明ら

かにするための許可を得られない会員又はゲストは、TC 議長に、提案された文書に関する

議論への参加を中止し、全ての投票から撤回することを通知するものとする。」としている。

「10.1.5 見込み特許権者への問い合わせ(Inquiry to Possible Patent Holders)」におい

ては、「見込み必須特許の通知に続いて、技術責任者は記入された SMPTE 特許声明を保証

する意思の質問を報告された知的財産所有者に問い合わせるものとする。特許声明書は、

標準委員会によって承認された形式で、主体が技術文書の実施又は使用に関する必須特許

を含む特許又は出願を所有又は管理しているかどうかを特定しなければならない。さらに、

特許声明は、RAND の条件の下で、必須特許のライセンス供与が可能かどうかを特定する。

30 日以内に返答がない場合、技術責任者は登録郵便で特許質問を繰り返すものとする。

さらに 30 日以内に返答がない場合は、技術責任者がこれを TC に報告し、それ以上の対応

は要求されない。」としている。

また、「10.1.6 関連する特許声明書の投票・監査の実施(Conduct of Ballots, Votes and

Audits with Associated IP Statements)」においては、「技術書面が FCD(Final Committee

Draft)への昇格のために投票された場合、技術責任者は、標準委員会の承認を受けた形式

で、投票通知と共に「特許の募集(Call for Patents)」を発行するものとする。FCD の投

票は、提案された技術文書に関して既に提出された全ての特許声明書を参照するものとす

る。条項 10.1.4 に記載されているように、可能な必須特許の通知がなされていて、技術責

任者が条項 10.1.5 に記載された特許質問に対して肯定的な応答を受けていない場合は、技

術責任者は、優れた特許質問に関する FCD 投票に対してコメントを投稿する。

特許質問に応じた陳述書の受領は、特許声明書が必須特許が存在していること示さず、

かつ、RAND 保証がないことを示さないならば、コメント応答として記録され、そのコメ

ントを解決するものとする。主体が必須特許が存在し、RAND 保証が存在しないことを示

す完全な特許声明を提出した場合、TC は保護技術を除外するために技術文書の改訂をす

るか、技術文書の作業を終了するかのいずれかを行う。 TC が、完了した特許声明が軽薄

又は無効であると判断した場合、TC は標準委員会の指示を求めることができる。いずれの

主体も特許質問に回答しておらず、適切な代替技術がない場合は、そのことをコメント応

答として記録し、TC はコメントに対する Disposition Vote を実施することによる質問にお

いて、当該技術を保持する選択ができる。

関連する全ての特許声明書、特許質問及び処分投票は、標準委員会監査の一部とする。」

としている。

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26. TMF:TeleManagement Forum342,343 【機関の概要】

TMF(TeleManagement Forum)は 1988 年に OSI(Open Source Initiative)/NM(Network

Management)Forumとして設立された非営利の団体であり、現在 950 社以上が加盟して、

9 万人以上の技術者がオペレーション分野の業界標準を検討し、相互接続性の推進を目指

している。具体的にはオペレーションシステムづくりに関する標準(業務プロセス、情報

モデル、アプリケーション)を中心に、インタフェースを自動生成する統合フレームワー

クやオペレーション分野の KPI(Key Performance Indicator)/KQI(Key Quality Indicator)

をまとめた Business Metrics やオペレーションのベストプラクティスを半年ごとに改版し

Frameworxとしてリリースしている。

【会員】

1988 年 6 月に発足した設立時の事業者は Amdahl、AT&T、BT、HP、Nortel、Telecom

Canada、STC、Unisysのみであったが、現在 950 社以上が加盟している。

【規格】

以下の5つのカテゴリーに分かれている344。

・ ビジネスプロセスフレームワーク(eTOM:nhanced Telecom Operation Map)

・ 情報フレームワーク(SID:Shared Information/Data)

・ アプリケーションフレームワーク(TAM:Telecom Application Map)

・ 統合フレームワーク(Integration Framework)

・ ベストプラクティス(Best Practices)

【特許ポリシー】

特許ポリシー及び特許宣言は、調査した公開情報の範囲では発見できていない。なお、

TMF のウェブサイトによれば、TMF の特許ポリシーは、TMF による成果物の作成にお

ける知的財産の取り扱いを管理しており、TMF の全会員及びその関連会社に適用され

る。取締役会は、いつでも独自の裁量により本ポリシーを修正することができる。このポ

リシーが変更された場合、理事会はメンバーシップ及びコラボレーションプロジェクトチ

ームを新しい方針に移行するための指示を提供する。ただし、そのような改正は書面によ

り通知された日から 60 日以内は効力を生じないと示されている345。

342 https://www.tmforum.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 343 http://www.ntt.co.jp/journal/1511/files/jn201511072.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 344 https://www.tmforum.org/resources?filter_document-type=48 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 345 https://www.tmforum.org/resources/standard/policy-on-intellectual-property-rights/ [ 終アクセス日:2018 年 1

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27. VESA:Video Electronics Standards Association

(ビデオ・エレクトロニクス規格協会346)

【機関の概要】

ビデオ・エレクトロニクス規格協会(VESA:Video Electronics Standards Association)は、

PC、ワークステーション、コンシューマエレクトロニクス等、エレクトロニクス業界向け

ベンダー及び認定されたビデオ周辺機器に関する業界標準化団体である。ディスプレイ業

界のオープンスタンダードを開発、促進、サポートするためのフォーラムも提供している。

VESA の目標としては、世界標準のイニシアティブ、製品実装、市場導入を推進しながら、

技術標準の開発と国際貿易協会への進化の継続的な成長を掲げている。

【会員】

世界中に 240 以上の会員企業が参加している。

【特許ポリシー】347

VESA の特許ポリシーは、2017 年 1 月 24 日承認、同年 3 月 27 日に発効された VESA

Policy # 200D「TITLE: Intellectual Property Rights (IPR) Policy」に規定されている。VESA

の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が示されている規定を以下に引用する。

特許ポリシーの条項 4 には、「4. 知的財産権に関する文書保証(Documents Assurances

Regarding IPR)」が規定されている。

「4.2. 要件-提出者(Requirements - Submitter(s))」では、「仕様書/規格に基づく全

ての必須特許が、全ての実施者に RAND 条件で許諾されていることを保証するために、正

式な提出を行う者は、別紙 A として添付された技術提出書式を記入し、署名し、提出する

ことが要求される。これは、開示を行う上位レベルの書式だが、後日、提出者が所有する

必須特許に関する実際のライセンス条件に対して(含まれるソフトウェアを除いて)誓約

する。関連タスクグループが後の取下提出について、時間を無駄にしないように、技術提

出書式でなされた約束は取り消すことはできない。」としている。

「4.3. 要件-会議参加者(Requirements - Meeting Participants)」では、「「特許の募

集」は、直接会う会合の 初、議長、タスクグループ又は他のプロセスグループの電話会

議又は電子会議、又は他のプロセスグループにより適切と見なされた場合、そして通常プ

ロセスにより決定されるように、コラボレーションのコースでの適切な時期に行われる。

特許募集のテキストは、Exhibit B に記載されている。

月 5 日] 346 https://www.vesa.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 347 https://www.vesa.org/wp-content/uploads/2017/03/VP200D.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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特許の募集に応じて、参加者は、仕様書/規格案の下で認識している全必須特許について、

参加者、参加会員又は第三者が所有しているか否かを確認するよう求められる。意図的で

ないこと、故意で欺く意思を欠いていることが判明した開示については、ペナルティは課

されない。

任意の特定の会議における特許の募集は、その会議の公式議題に示されるように、その

会議でカバーされるトピックにのみ関連するものとする。」としている。

「4.4. 要件-プロセスチェックポイント(Requirements - Process Checkpoints)」は、

「会員及び非会員参加者は、全実施者への RAND ライセンス許諾を拒む場合には、仕様書

/規格の 終承認の前に、IPR 回答書を Exhibit C の形で提出することにより、仕様書/規格

案の一部に関連して開示を行う必要がある。この要件を満たさない会員及び非会員の参加

者は、合理的な報酬の有無のいずれかの条件により RAND ライセンスを提供することを約

束したものとみなさる。誤解を避けるため、その会員及び非会員の参加者は、IPR 応答書

式を提出する必要はない。このような書式を提出する必要な時期と、提出する必要がある

会員は、VESA の方針#235H、VESA 標準及び非標準書類の作成手順に記載されている。

IPR 回答用紙(又は IPR 回答用紙を提出できなかった場合の結果)は、特許の募集に対す

る応答とは異なり、それを提出する(又は提出しない)会員又は非会員参加者を拘束する。」

としている。

「4.4.1. 追加すべき特許(Additional IPR to be Included)」では、「会員又は非会員参加

者が他の会社の必須特許を知っている場合、その会員又は非会員参加者は、当該会員又は

非会員参加者がそのような必須特許についての非開示契約の義務を負う場合を除き、その

会員又は非会員参加者が権利者であるかのように、その特許を開示しなければならない。」

としている。

「4.7. 必須特許の移転(Transfers of Necessary Claims)」では、「(a)この方針に拘

束される各個人又は団体は、本方針に基づく会員の義務を迂回する目的のみで、必要な特

許権を譲渡しないことに同意する。

(b)この方針の下で行われた全てのライセンス供与の契約は、関心のある全ての後継者を

拘束する拘束力として解釈されるものとする。この方針に拘束された個人又は団体は、(i)

当該特許に関してこの方針のもとで以前に行われた約束に拘束され、(ii)当該特許に関連

する譲渡書類に本条 4.7 に定める義務を含め、後に譲渡する場合にはその旨を記載する。

上記にかかわらず、この方針に基づいてなされた全てのライセンス契約は、そのような規

定が特定の場合に関連する移転文書に含まれているかどうかにかかわらず、全ての後継者

を拘束する拘束として解釈されるものとする。」としている。

また、条項 5 では、「5.ライセンスプロセスの説明(License Process Description)」が規

定されており、「5.1. 可用性と所有権(Availability and Ownership)」では、「仕様書/規

格が採択された場合、その仕様書/規格の下で必須特許を所持している会員及び非会員参加

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者は、免除された必須特許の開示を適時に行った場合を除き、要求に応じて実施者に対し、

RAND 条件に関するこのような仕様/規格の必須特許のライセンスを、有償/無償のロイヤ

ルティか、あるいは他の条件により許諾する。」としている。

条項 6 では、「6.採用後に公開された特許(Patents Revealed After Adoption)」が規定さ

れており、「6.1. VESA レスポンス(VESA Response)」においては、「仕様/規格の採択

の後に、特許所有者が仕様書/規格の下で必須特許を所有していると主張する場合、特許所

有者は、RAND 上の全ての実施主体に必須特許をライセンスするよう求められる。そのよ

うなライセンスが取得できない場合、仕様書/規格は取締役会に返され、取締役会は適切な

措置を決定するものとする。」としている。

条項 10 の「10.紛争解決(Dispute Resolution)」においては、「VESA は、この知的財

産権ポリシーの解釈又は実施を含む当事者間の紛争に関与することが求めらることはない

ものとする。」としている。

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28. W3C:World Wide Web Consortium

(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム348)

【機関の概要】

W3C(World Wide Web Consortium)は、Web に関わる標準技術の開発と普及を目的とす

る非営利団体であり、URL(Uniform Resource Locator)、HTTP(Hypertext Trans-fer Protocol)、

HTML(HyperText Markup Language)を設計したティム・バーナーズ・リーにより 1994

年 10 月に創設された。Web と関係が深い企業や大学等の研究機関、個人により運営され

ている。W3W の目的は、全ての人が環境によらず Web を用いて交流、商売、知識の共有

を行うことができることとしている。

【会員】

2017 年 10 月現在、会員数は 458 社となっている。

【規格】

W3C で策定された仕様は「W3C 勧告」と呼ばれ、HTML、HTTP、URL、XML(Extensible

Markup Language)などといった Web の主要な技術がここで標準化されている。

【特許ポリシー】

W3C の特許ポリシーは、2004 年 2 月に採択され、2017 年 8 月 1 日改定された「W3C

Patent Policy」に規定されている349。W3C Patent Policyには、W3C の特許ポリシーの基本

的考え方及びその手続等が定められており、その規定の一部を以下に引用する。

条項 2 では、「W3C 勧告のライセンス目標(Licensing Goals for W3C Recommendations)」

として、「W3C は、Web 標準の普及を 大限に促進するために、ロイヤルティフリー(RF:

Royalty Free)ベースで実施できる勧告を発行することを求める。このポリシーの条件に従

って、W3C は、ロイヤルティフリーの条件では利用できない必須特許が存在することを認

識している場合、勧告を承認しない。

この目的のために、作業部会憲章には、作業部会とコンソーシアムのベストを尽くし、

この方針への言及と、作業部会によって制定された仕様が、RF ベースで実施可能であるこ

とを含める。」と規定している。

条項 3 では、「作業部会参加者のライセンス義務(Licensing Obligations of Working Group

Participants)」が規定され、「以下の義務が W3C 作業部会の全ての参加者に適用されるも

348 http://www.kddi.com/yogo/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88/W3C.html [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 349 http://www.w3.org/Consortium/Patent-Policy-20170801/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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のとする。これらの義務は、各作業部会憲章及び参加要請書から参照される。」として、「3.1.

全作業部会の W3C RF ライセンス要件(W3C RF Licensing Requirements for All Working

Group)」において、「作業部会に参加する条件として、各参加者(W3C 会員、W3C チーム

会員、招へい専門家、及び一般の会員)は、W3C RF ライセンス要件下で、その特定の作

業部会作業に関連する必須特許を利用可能にすることに同意するものとする。この要件に

は、参加者が所有する必須特許と、参加者が第三者への支払い又はその他の対価なしにラ

イセンスする権利を有する必須特許とが含まれる。下記の条項 4 を除いて、その特定の作

業部会の作業に関してなされ、かつ本ポリシーで述べられた W3C RF ライセンス義務は、

参加状況や W3C メンバーシップの変更に関係なく、問題となっている特許の存続期間に

ついて参会者を拘束し、必須特許を含む特許に重荷を負わせる。」としている。

また、「3.2. 非参加会員のライセンス要件の制限(Limitation on Licensing Requirement

for Non-Participating Members)」では、「作業部会に加わる肯定的行為、又はここに記載さ

れているライセンス条項に同意する肯定的行為のみが、会員に W3C RF ライセンス約束を

義務付ける。W3C 単独のメンバーシップは、他の要因なしに、このポリシーに基づく RF

ライセンス義務を生じない。」としている。

「3.3. W3C サブミッションのライセンス契約(Licensing Commitments in W3C

Submissions)」では、「W3C 会員提出[手順 10]がなされた時点で、提出者及び提出され

た文書に関連する特許ライセンスを提供する他の者は、各主体(提出者及び他のライセン

サー)が、W3C 勧告に実質的に組み入れられる会員提出の任意の部分に対する W3C RF

ライセンス要件に従ってライセンスを提供するか否かを示さなければならない。W3C チー

ムは、ライセンス供与への回答が肯定的又は否定的であれば、会員提出を認めることがで

き、返答がない場合は会員提出を承認しないものとする。」としている。

更に「3.4. 招へい専門家のためのライセンス契約に関する注意(Note on Licensing

Commitments for Invited Experts)」では、「招へい専門家は、夫々の専門の範囲で作業部会

に参加する。招へい専門家は、統括している特許をライセンスすることだけが義務付けら

れている。」としている。

条項 4 では、「W3C RF ライセンス要件からの除外(Exclusion From W3C RF Licensing

Requirements)」が規定され、「以下の条件の下で、作業部会の参加者は、W3C RF ライセ

ンスの全体的な要件から、具体的に特定され開示された必須特許を除外することができる。」

として、「4.1. 継続的参加による除外(Exclusion With Continued Participation)」では、「特

定の必須特許は、W3C の RF 条件でライセンス供与されない必須特許を具体的に開示する

ことにより、参加者が 初の公開作業草案[手順 6.3.1]の発行後 150 日以内に特定特許を

ライセンス供与することの拒否を示す場合にのみ、作業部会のみに留まることを求める参

加者によって W3C RF ライセンス要件から除外することができる。必須特許を除外した参

加者は、引き続き作業部会に参加することができる。

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初の公開草案から 90 日以内に公表された 新の公開草案[手順 6.1.2]において存在

しないか明らかでない主題の結果として、 終勧告[手順 6.1.2]によってある特許が、必

須となった場合には、参加者は、 新呼出作業草案[手順 6.4、現在は「勧告候補」に置き

換えられている]の公開後 60 日以内に、この除外手順を使用することにより、これらの新

しい必須特許、及びクレームを除外することができる。その時点以降は、必須特許を除外

することはできない。(重要な事柄が Last Call の後に追加された場合は、新しい Last Call

ドラフトを作成する必要がある。そのため、 後の Last Call ドラフトの 60 日後に別の除

外期間ができる)。」としている。

「4.2. 作業部会からの除外と辞職(Exclusion and Resignation From the Working Group)」

では、「参加者は、第一回公開草案の公示後 90 日以内に作業部会から辞職することで、作

業部会の参加から生じる全てのライセンス契約から免除することができる。

参加者が 初の公開作業草案の発行後 90 日を過ぎて作業部会を離れる場合、参加者は

作業部会を辞任する前に公開された 新の作業草案に含まれる主題に基づいた必須特許を

ライセンスする義務が課されるだけである。さらに、次の場合には、離脱する参加者は、

除外募集(条項 4.5 を参照)で参照されていない文書に不可欠な必須特許を除外するため

に、実際の辞表から 60 日の時間を有する。

1.その特許、参加者が辞任する前に公表された 新の作業草案に含まれる主題に不可欠

である、

2.そのような主題は、 初の公開作業草案の 90 日後に発行された 新の作業草案には

存在せず、又ははっきりしていなかった。

参加者は、発行された特許、公開された出願及び未公開出願のクレームを除外するため

に、この条項 4 で指定されているのと同じ手順に従う。作業部会から辞任した参加者は、

依然として条項 6 に示す全ての開示義務に拘束される。」としている。

「4.3. 既に設立された作業部会への参加(Joining an Already Established Working Group)」

では、「第1回公開作業草案の発行後 90 日を超えて作業部会に参加する参加者は、 初の

公開作業草案の公表後 150 日後、又は作業部会に参加した時点のいずれかの時点で第 1 回

公開作業の 90 日後に発行された 新の作業草案に記載されている必須特許を除外しなけ

ればならない。」としている。

「4.4. 係属中未公開特許出願のための除外手続(Exclusion Procedures for Pending,

Unpublished Patent Applications)」では、「係属中の未公開出願の必須特許の除外は、非公

開特許の排除のための 終期限日は、除外募集文書で参照されている文書に含まれている

かどうかにかかわらず、いずれの書面に対しても 新の募集+60 日間であることを除き、

条項 4.1 から 4.3 の公開された出願において、登録となったクレーム及びその他のクレー

ムの除外手続に従う。

それにもかかわらず、参加者は、関連する技術を含む 初の作業草案の公表後に実用的

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になるとすぐにそのような除外を行うための誠実な義務を負う。

未公開出願中の必須特許の除外は、次のいずれかを提供する必要がある。

1.出願された出願の本文、又は

2.排除される特許を必須とする明細書の具体的な部分の特定

2 を選択した場合、除外の効果は仕様中の特定されたの部分に限定される。」としている。

「4.5. 除外過程(Exclusion Mechanics)」では、「除外の募集は、除外のための正確な日

付と締め切り日だけでなく、参加者が除外声明を出さなければならない関連文書を示した

作業部会チームコンタクトによって発行される。除外の日付に議論がある場合、除外の募

集で示した日付が支配する。除外の募集は、作業部会メーリングリスト及び作業部会に参

加している全組織の諮問委員会代表部に送られる。作業部会が複数の勧告トラック文書を

発行する場合、除外手順は各文書シリーズで個別に採用される。」としている。

条項 5 では、「W3C のロイヤルティフリー(RF)ライセンス要件(W3C Royalty-Free (RF)

Licensing Requirements)」を規定しており、「この方針の下で開発された勧告に関して、W3C

のロイヤルティフリーのライセンスとは、処分勧告の実施品を生産し、生産させ、使用し、

販売し、売却し、販売の申し出をし、輸入し、頒布し、処分するための譲渡不可、サブラ

イセンス不可のライセンスを意味するものであって、以下であるものとする。

1. W3C 会員であるかどうかに関わらず、世界中の全ての人が利用できるようにする。

2. ライセンサーが所有又は管理する全て必須特許まで拡張するものとする。

3. 勧告の実施及び勧告に要求されるものに限定されうる。

4. ライセンシーが所有又は管理している全ての必須特許に対して(このポリシーで定義

されている)相互 RF ライセンスの付与を条件とすることができる。相互ライセンス

は全に対して利用可能なことが要求される。相互ライセンスは、それ自身、全てから

更なる相互ライセンスの付与を条件とすることができる。

5. ロイヤルティ、手数料その他の対価の支払いを条件とすることはできない。

6. ライセンシーが、W3C 勧告の実施に不可欠な特許の侵害に関してライセンシーによ

って訴えられた場合、いかなるライセンシーであっても中断することができる。

7. 技術、知的財産権又はその他のライセンシーの行動の制限の使用に関してさらに条件

や制限を課すことはできないが、以下のような、即ち、法律と紛争解決の選択のよう

なライセンス関係の操作又は保守に関する合理的で慣習的な条件を含むことができ

る;

8. ライセンサーが提供する W3C ロイヤルティフリーライセンスの条件に同意しない意

思を表明する実施者によっては、承認されたとはみなされないものとする。

ライセンス期間:

9. この方針の要件に適合する RF ライセンスは、勧告が有効である限り、ライセンサー

によって利用可能にされるものとする。そのようなライセンスの期間は、5(10)の

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制限に従うことを条件として、問題の特許の存続期間になるものとする。

10. 勧告が W3C によって取り消された場合[手順 6.9]、新しいライセンスは付与される

必要はないが、勧告が取り消される前に付与されたライセンスは有効なままである。

全ての作業部会の参加者は、ライセンス情報を得ることができる連絡先及びその他の関

連するライセンス情報を提供することが奨励される。

そのような情報は、当該作業部会の特許開示と共に公に利用可能となる。」としている。

条項 6 では、「開示(Disclosure)」を規定し、「6.1. 開示要件」においては、「以下の両

方が当てはまる場合、開示が必要となる。

1. 会員組織の個人が、6.3 で説明されているような開示要求を受け取っていること、そ

して

2. その個人は、開示が要求されている仕様に関する必須特許を含むと信じている特許

の実際の知識を有していること

開示要求を受け、かつそのような知識を持っている会員組織の全ての者は、その AC 担

当者に通知する必要がある。開示が必要な場合、AC(Advisory Committee)担当者はこれ

を行う。」としている。

「6.2. 開示免除(Disclosure Exemption)」では、「当該特許の所有者が W3C RF ライセ

ンス要件下でその特許のライセンス供与を約束し、その特許がもはや条項 4 に基づく除外

の対象にならない場合には、特定の特許に関する開示義務は満たされる。

特許所有者が必須特許をライセンスすることに肯定的に同意した場合(第 4 条の下でそ

の特許を排除する権利を実質的に放棄した場合)、又は第 4 の関連する除外期間が経過した

場合は、必須特許はもはや除外の対象ではない。」としている。

「6.3. 開示要求(Disclosure Requests)」では、「開示要求は、それぞれの新しい成熟度

レベル(作業草案、 終作業草案募集、候補者勧告、提案勧告、勧告)に達するたびに、各

勧告トラック文書の「この文書のステータス」セクションに含まれる。必須特許の知識を

有すると思われる当事者に対しては、W3C によって別個の要求がなされることがある。そ

のような開示要求は、AC 担当者(会員の場合)又は W3C 連絡先(非会員の場合)を通じ

て回答するよう受領者に指示する。仕様自体に記載されているもの以外の開示要求は、AC

担当者に指示されるものとする。

開示請求は、開示のための行政上の詳細を提供する。」としている。

「6.4. 開示内容(Disclosure Contents)」では、「開示声明には以下を含めなれければな

らない。

1. 特許番号、具体的なクレーム(claims)を述べる必要はない

2. 適用される作業部会及び/又は勧告」としている。

「6.5. 公開又は発行された出願の開示(Disclosure of Laid-Open or Published Applications)」

では、「公開又は発行された出願の場合、会員の誠実な開示義務は、関連する法的機関によ

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って認められた未発行の修正及び/又は追加のクレームそして、会員が必須特許と信じるク

レームにも及ぶ。かかる請求の開示義務を満たすために、会員は次のいずれかを行うもの

とする。

1. そのような特許を開示するか、又は、

2. そのような特許をカバーする可能性が高い W3C 仕様の部分を特定する。」としている

「6.6. 係属中未公開出願の開示(Disclosure of Pending, Unpublished Applications)」で

は、「W3C 会員が特許出願の中にクレームを含めており、そのようなクレームが W3C 作

業部会又は W3C 文書の情報に基づいて開発された場合には、会員はそのような係属中の

未公開出願の存在を開示しなければならない。」としている。

「6.7. 誠実な開示基準(Good Faith Disclosure Standards)」では、「開示要件を満たすた

めに、開示者が特許検索や、会員組織が保有する特許と問題の仕様との関係の特許調査や

分析を行う必要はない。

第三者特許の開示が要求されるのは、そのような開示が既存の非開示義務に違反しない

のであれば、その特許は必須特許を含むと主張する第三者の特許権者又は出願人であると

諮問委員会の代表者又は作業部会参加者が気付いた場合だけである。」としている。

「6.8. 開示義務のタイミング(Timing of Disclosure Obligations)」では、「開示義務は、

参加募集から始まる進行中の義務である。開示義務の完全な充足は、設計がより完全な場

合のプロセスの後半になるまでは可能ではない。いかなる場合でも、実質的に可能な限り

速やかに開示が求められる。」としている。

「6.9. 開示義務の終了(Termination of Disclosure Obligations)」では、「開示義務は、勧

告が公表されたとき、又は作業部会が終了したときに終了する。」としている。

「6.10. 招へい専門家の開示義務(Disclosure Obligations of Invited Experts)」では、「招

へい専門家又は作業部会に参加する一般会員は、自身の個人的知識の範囲で開示義務を遵

守しなければならない。」としている。

「6.11. 勧告トラック上で公に利用可能となるための開示(Disclosures to Be Publicly

Available on Recommendation Track)」では、「勧告トラック上の各仕様に関する特許開示情

報は、作業部会が公表した各公開草案と共に公表される。」としている。

条項 8 では、「必須特許の定義(Definition of Essential Claims)」として、以下を規定して

いる。「8.1. 必須特許(Essential Claims)」では、「「必須特許」とは、勧告の実施により必

然的に侵害される世界の全ての管轄地域内の特許又は特許出願における全ての特許を意味

するものとする。特許は、その勧告の規範的部分を実施するための非侵害での代替案がな

いため、侵害を回避することが不可能な場合にのみ、本条における必須侵害となる。」とし

ている。

「8.2. 必須特許の定義範囲に関する制限(Limitations on the Scope of Definition of

Essential Claims)」では、「以下は、必須特許から明白に除外され、必須特許を構成すると

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はみなされない。

1. 必須特許と同じ特許に含まれていたとしても、上述のもの以外の特許、そして、

2. 以下によってのみ侵害される特許:

・ 勧告の規範的部分に規定されていない実装の部分、又は、

・ 勧告を従った製品や部分を必然的に生産したり使用したりすることを可能にし、勧告

で明示的に記載されていない技術(例えば、半導体製造技術、コンパイラ技術、オブジ

ェクト指向技術、基本的なオペレーティングシステム技術、及びそのようなもの)、

又は、

・ 他の場所で開発され、勧告の本文に参考として単に組み込まれている技術の実施

3. 意匠特許と意匠登録」としている。

「8.3. 規範的、オプション及び情報の定義(Definition of Normative, Optional and

Informative)」においては、「この定義の目的のために、勧告の規範的部分は、アーキテク

チャ及び相互運用性要件のみを含むものとみなすものとする。RFC2119 [KEYWORDS]の

意味でのオプションの機能は、情報として具体的に特定されない限り、規範的と見なされ

る。実施例又は勧告の要件を単に示すその他の資料は、規範(標準)というより単なる情

報である。」としている。

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29. Wi-Fi Alliance

(ワイファイ アライアンス350,351)

【機関の概要】

Wi-Fi Alliance は、あらゆる場所で、全ての人とモノとをつなぐというビジョンの下、

世界中のユーザに Wi-Fi を届ける業界団体である。Wi-Fi Alliance は、①会員企業間にお

ける効果的なグローバルコラボレーションを促進、②相互接続性を通じて卓越した接続環

境を提供、③テクノロジーを取り込みながらイノベーションを促進、④全世界における Wi-

Fi テクノロジーの普及を促進、⑤全世界で周波数帯割り当ての公平なルール作りを提言、

⑥業界の総意となる標準を主導、策定、支持を主な業務としている。Wi-Fi Alliance には、

500 社以上の企業が参画しており、スポンサーは、Apple、Broadcom Corporation、Cisco

Systems、Comcast、Dell Technologies、Huawei Technologies Co., Ltd.、Intel、LG Electronics、

Microsoft、Nokia Corporation、Qualcomm、Samsung Electronics、Sony Corporation、T-Mobile,

USA Inc.、Texas Instrumentsである。また、複数の団体とのコラボレーションの下、活動

を進めている。

【会員】

会員には、Contributor と、Implementer の 2 種類がある。

・Contributor(コントリビューター):

Wi-Fi 業界が進む方向への舵を取り、様々な Wi-Fi CERTIFIE 製品を開発したいと考え

ている企業向けの会員。①製品の開発、テスト、認定、②マーケティング(Marketing)、

技術(Technical)、規制(Regulatory)の各タスクグループ(TG)への参加・投票権、③

各種開発プログラムのモニタリング、④特典を関連企業にまで広げることが可能などの特

徴がある。

・Implementer(インプリメンター):

認定済ソリューションを製品に実装して、Wi-Fi CERTIFIED ブランドを活用したいと

考えている企業向けの会員。①別の会員により認定された、改変していない Wi-Fi モジュ

ールを実装、②Wi-Fi CERTIFIED ロゴ/ブランドの使用、③ 終稿へのアクセスなどの

特徴がある。

【規格】

Wi-Fi Alliance のウェブサイトには、19 の仕様が公開されている352。

350 https://www.wi-fi.org/ja/wi-fi-alliance-1 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 351 http://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/equ/mra/pdf/24/j-18.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 352 https://www.wi-fi.org/discover-wi-fi/specifications [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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【特許ポリシー】353

Wi-Fi Alliance の特許ポリシーは、2006 年 3 月 1 日付で改定された「WI-FI ALLIANCE

INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」に規定されている。「3.知的財産権ライ

センス(INTELLECTUAL PROPERTY LICENSING)」に、Wi-Fi Alliance の特許ポリシ

ーの基本的考え方及びその手続等が定められており、主な規定を以下に引用する。

「3.知的財産権ライセンス(INTELLECTUAL PROPERTY LICENSING)」では、「3.1.

仕様告知、レビュー、退会(SPECIFICATION NOTICE, REVIEW AND MEMBER

WITHDRAWAL)」に、「(1)レビュー期間の通知 Wi-Fi Alliance は、新しい又は改定

された仕様の中で提案された採用日の 30 日以上前に予告通知を全会員に提供するものと

する。その通知には、理事会が承認した仕様の完全草案を含め、その仕様(承認されてい

る場合)及び全ての必須特許が条項 3.2 のライセンス対象となる日付を示すものとする。

(2)仕様のレビュー 上記通知及び仕様草案を受領した時点で、会員は、会員及び関連会

社を代理して、包含している可能性のある必須特許について、仕様をレビューすることが

できる。会員は、必須特許の特許ポートフォリオをレビュー又は調査する必要はないが、

レビュー中の仕様草案に参加した会員は、レビュー中の貢献していない必須特許に対する

ライセンス義務を回避するため、レビュー期間が終わるまでに以下のいずれかをしなけれ

ばらならない。

(a)会員は、過去に開示しライセンスすることを約束した非貢献必須特許以外であって、

その仕様における非貢献必須特許をライセンスする義務がない、という条項 3.1(3)

の規定に従って、タスクグループ(もしくは Wi-Fi Alliance)から退会する。

(b)セクション 4.2(1)(c) 及び 4.1(2)の規定に従って、本仕様中の非貢献必須特許をライ

センス許諾しないことを宣言する。ただし、レビュー期間の終了時までに宣言されて

いない非貢献必須特許は、条項 3.2 に定める合理的かつ非差別的条件下での許諾義務

を負うものとする。

誤解を避けるため、このライセンス許諾は、会員を代表して個人が参加する場合におけ

る、知識不足の理由があったとしても、会員の未開示の必須特許の全てに適用される。

(3)退会

(a)会員はいつでも、Wi-Fi Alliance 全体又は特定のタスクグループから退会すること

ができる。いずれの場合も、会員は、書面により、[email protected] で示す Wi-Fi

Alliance Managementに対し、特定の日に退会する意思を合理的に通知するものとす

る。かかる取下げは、Wi-Fi Alliancce Managementの書面による通知を受領した時

点で、特定された日から有効となる。

(b)そのタスクグループによって開発された仕様草案について、条項 3.1(1)に規定さ

353 https://www.wi-fi.org/download.php?file=/sites/default/files/private/gd_8_RevisedMarch1,2006WFAIPRPolicy.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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れたレビュー期間の終了前に参加し退会した会員は、会員に代わって参加した個人

が知った仕様草案に関連する必須特許を含む全ての特許権を開示する義務を負う。

具体的には、個々の参加者が、当該個人又はその代理人(又はその会員組織)が草

案に関する必須特許を含む特許権を所有又は管理していると信じる場合、当該個人

又は会員は、合理的に可能な限り速やかに書面にて [email protected] の Wi-Fi

Alliance Management に送付するものとする。本条項 3.1(3)(b)に基づく開示は、

(ⅰ) 条項 4.1(2)に記載された 小開示内容を含むものとする。

(ⅱ) 参加者自身の個人の知識に基づいており、参加者が特許情報に関して代理してい

る会員(若しくはその従業員)の知識をその参加者に帰属させることはない。

しかし、会員は、本条項 3.1(3)(b)を避けるために、会員組織内の潜在的に関連する

特許情報から参加者を意図的に隔離することが禁止されている。

(4)特許調査の不要 本セクション又は本ポリシーのいかなる条項も、参加者、会員又

は将来の会員に、特許検索又は知的財産ポートフォリオのその他の調査を実施する立場上

又は契約上の義務を課すものではない。」としている。

「3.2. 会員の知的財産権の使用許諾(LICENSING OF MEMBER INTELLECTUAL

PROPERTY RIGHTS)」においては、「(1)(a)仕様書に貢献し、又は(b)参加するいずれの

会員(又は関連会社)は、他の会員、関連会社及び本仕様書の実施者に対して、条項 3.2

(2)、3.8、4.2(1)(c)の要請に応じて、合理的かつ非差別的な条件の下(会員が条項 4.2(1)(a)

に基づいてロイヤルティフリーの基準で指示した場合にはそのようにして)ライセンス許

諾をすることに同意する。

そのライセンスは、非独占的、移転不能(ただし、会員、その加盟組織及び任意の実施

者の事業の全て又は関連部分の利益の承継人を除く)、サブライセンス不可、全世界向け

ライセンスであって、必須特許の下、その会員、その関連会社及び実施者が、仕様書の全

ての関連する必要な部分を含む実施製品を生産し、生産させ、使用し、輸入し、販売の申

出をし、リースし、販売し、及びその他の方法での配布を許可するものである。

本ポリシーの中における、合理的かつ非差別的な条件を含む使用許諾契約への言及は、

合理的な防御的中断規定を伴う使用許諾契約を含めることが認められている。

誤解を避けるため、このセクションは、理事会員(第 1 項(f)(i)で定義されている理事会

員)仕様への貢献又は参加することはない)としての任務の過程でのみ、タスクグループ

の作業をレビュー及び/又は承認する会員(又はその関連会社)には適用されない。

(2)各加盟国は、本条第 3.2 項を迂回する目的で、必要なクレームを有する特許又は特許

出願を譲渡しない、譲渡していないことに同意する。必要なクレームを有する特許又は特

許出願の移転の場合、会員は、第 4 条に基づく特許開示及びライセンス宣言の譲受人に通

知し、移転の通知を会社に提供することに同意する。」としている。

「3.3. 互恵性(RECIPROCITY)」におていては、「会員、関連会社又は実施者が、実

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際には条項 3.2 の特許ライセンスを他の会員、関連会社及び仕様の実施者に付与していな

い場合には、条項 3.2 は、当該他の会員、関連会社及び仕様の実施者に影響を及ぼさない。」

としている。

「3.4. その他のライセンス(NO OTHER LICENS)」においては、「会員は、直接又は

暗示、禁反言又は本ポリシーに基づいたライセンス許可の契約以外のその他の方法のいず

れかにより、会員又は関連会社による、他の会員、その関連会社、非会員あるいは Wi-Fi

Alliance への本ポリシーに基づくいて、ライセンス、免責又はその他の権利が付与されな

いことに同意する。」としている。

「3.5. 必須特許の譲渡(TRANSFER OF NECESSARY CLAIM)」においては、「会員

又は会員組織による必須特許の第三者への移転は、以下の条件に従うものとする。(a)本

ポリシーの条件、(b)会員及びその関連会社が他の会員、その関連会社及び条項 3.2、3.3

に従った仕様の実施者に対し許諾したライセンスの合意内容」としている。

「3.8. ライセンス許諾契約の存続期間(SURVIVAL OF AGREEMENT TO GRANT

LICENSE)」では、「(1)当アライアンスの解散、又は当アライアンスのメンバーシップ

の終了、満了、又は退会(又は特定のタスクグループからの退会)、そして該当する場合

には条項 3.2(2)又は 4.2(c)の場合を除き、条項 3.2 及び 3.3 に規定した会員又は元会員

のライセンス付与する契約は、以下の場合、引き続き有効である。

(a)貢献が提供された仕様に組み込まれた会員又は元会員(又は関連会社)によるその

貢献における必須特許

(b)解散日前又は会期の終了、満了又はメンバーシップの退会の効力日前に終了した条

項 3.1(1)で通知されたレビュー期間中にアライアンスによって採用された仕様書に

おける非貢献の必須特許

(c)会期の終了、満了あるいは、下記(i)と(ii)を満たすメンバーシップの取下げの効力日

後にアライアンスによって採用された仕様書に対する必須特許

(ⅰ) 前に採用された仕様と互換性を確保するために後に採用された仕様に必要となる

もの

(ⅱ) ライセンスを許可する義務がある元会員向けに先の仕様書において使用された同

様の必須特許と、実質的に同様な方法で実質的に同様の程度で使用され実質的に

同じ結果になるもの

本ポリシーの下ではいかなる場合でも、仕様草案のレビュー期間の終了前に退会した元

会員は、追加の必須特許をライセンスする義務はない(例えば、仕様草案のレビュー期間

終了前に退会した会員は、ライセンスすることを約束する宣言をした会員のために開示し

た非貢献必須特許以外のかつて採用された仕様書における非貢献必須特許をライセンスす

る義務はない。)。

元会員は、この方針の下で元会員が依然として必須特許のライセンス付与が義務付けら

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れている限り、条項 3.3 に従って相互主義の権利を有するものとする。相反的ライセンス

の存続に対するこの合意は、元の会期の終了、満了又は退会の効力発生日後に、会員とな

った当事者及び実施主体となった第三者を含む、全会員と仕様書の全実施者に適用される

ものとする。

(2)当アライアンスの解散又は会期の終了、満了、アライアンスのメンバーシップからの

退会(又は特定のタスクグループからの退会)は、他の会員、関連会社、又は終了、満了

あるいは退会する前に存在していた仕様書の実施者へのライセンスであって、以前に存在

していたライセンスの個々の条項に沿ったものでないライセンスに影響はない。」として

いる。

「 4. 特許の開示とライセンス供与( PATENT DISCLOSURE AND LICENSING

DECLARATION)」では以下を規定している。「4.1. 開示基準(DISCLOSURE STANDARD)」

においては、「(1)一般開示基準 参加する全ての個人(仕様書の貢献者と非貢献者の両

方)は、その特許権が草案に関連する必須特許を含む場合には、自身又は代表者が保有す

る特定の特許権を継続的に開示することが強く推奨される。

具体的には、個々の参加者が、個人又はその個人が代理している会員又はその関連会社

が、仕様書に関連する必須特許を含む特許権を所有又は管理していると信じる場合、その

個人又は会員は合理的に可能な限り速やかに、条項 4.1(2)に基づく書面により joinnow@wi-

fi.orgの Wi-Fi Alliance Managementに通知することが奨励される。

タスクグループの全ての議長は、各会議の初めに参加者に早期開示の奨励を連絡し、要

求する当事者に本方針のコピーを配布するものとする。

本条 4.1(1)に基づく開示は、参加者自身の実際の個人の知識に基づいており、特許情

報に関して参加者が代理した会員(又はその従業員)の知識は、その参加者に帰属しない。

ただし、会員は、本条 4.1(1)の条項を避けるために、会員組織内の潜在的に関連する特

許情報から参加者を意図的に隔離することは禁止されている。

(2)開示の 低限の内容

3.1(3)(b)(会員の退会)及び 4.2(2)(「ライセンスなし」オプション)などの開示が必要

な場合は、以下の 小限の情報を提示するものとする。

発行された特許及び公開中の特許出願に関しては、開示には、特許権者及び/又は出願人

の特定と、特許権の特許番号又は出願番号が含まれていなければならない。

未公開である係属中の特許出願に関しては、かかる開示は、主張された必須特許を含む

出願の存在を含まなければならないが、特許権の識別情報(例えば、出願番号、内容)を

開示する必要はない。

しかし、第 4.2 条(1)(c)に規定されている未公開特許出願のいずれかにおいて、当事

者がその必須特許の使用を許可したくない場合、その当事者は、当該未公開の係属中の特

許出願の中に含まれる当事者の主張する必須特許に対して明細書の該当部分を特定しなけ

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ればならない。

開示されていない未公開の特許出願が一旦公開されると、会員は、上記で指定された公

開出願に関する追加の識別情報を開示しなければならない。」としている。

「4.2. ライセンス宣言(LICENSING DECLARATIONS)」においては、「(1)条項 4.1

に基づく開示と同時に、又はその後速やかに、参加者は、特許権者を代表するために承認

された個人から [email protected] の Wi-Fi Alliance Management に対して、条項 3.2 の条

件に基づき宣言している必須特許に関する書面を提出するものとする。

(a)ロイヤルティフリーによる合理的かつ非差別的なライセンスの許諾

(b)合理的なロイヤルティ又は使用料による合理的かつ非差別的なライセンスの許諾

(c)条項 4.2(2)に基づき許可されている場合は、必須特許のライセンスを付与しない。

ここで、「ロイヤルティフリー」とは、ロイヤルティ、ライセンス料金又はいかなる種類

の金銭的補償もライセンシーがライセンサーへ支払う必要がないことを意味する。

(2)必須特許が、会員自身の貢献によらない仕様に含まれている必須特許(非貢献必須特

許)であり、そのような仕様について条項 3.1(1)に定めるレビュー期間の終了前に、条項

4.2(1)(c)の規定に基づき、会員がそのような非貢献必須特許を含む特許権を開示した場合

には、会員は、条項 4.2(1)(c)に基づいた仕様書の中の必須特許をライセンスしない旨を宣

言することが唯一許可される。

この「ライセンスなし」オプションが選択された場合、又は必須特許を有すると主張さ

れている当事者がライセンス申告の提供を拒否した場合、影響を受ける仕様を作成した

WFA タスクグループは、理事会と協議の上、例えば、特許権者が全ての実施者にライセン

ス供与を拒否するように潜在的にブロックしている特許権の周囲で機能する仕様書の改訂

版の開発を試みる 善の方法を決定する。」としている。

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30. WiMAX Forum

(WiMAX フォーラム354)

【機関の概要】

WiMAX Forumは IEEE 標準 802.16 に基づくブロードバンド無線製品の互換性と相互運

用性を証明・促進する、業界主導の非営利団体である。主な目的は、世界中の WiMAX

(Worldwide Interoperability for Microwave Access)、AeroMACS(Aeronautical Mobile Airport

Communication System)、WiGRID テクノロジーの採用、導入、拡張を加速し、ローミン

グ契約を容易にし、メンバーシップ内のベストプラクティスを共有し、製品を認証するこ

とである。WiMAX Forumと WiGRID Certified製品は相互運用可能で、固定ブロードバン

ド、ノマディック、ポータブル、モバイルサービスをサポートしている。また、サービス

プロバイダーや規制当局と緊密に連携して、WiMAX Forum Certified システムが顧客及び

政府の要件を満たすことを保証している。

【会員】

役員が、Leonardo、Samsung、Sequans Communications、Siemens、Telrad Networks、UQ

Communications、YTL Communicationsの 7 社であり、会員は 47 社。会員企業は、通信事

業者、航空宇宙産業、ユーティリティ・エコシステムのネットワーク事業者、コンポーネ

ントベンダー、機器メーカー、システムインテグレータ及び規制当局で構成されている。

【規格】

IEEE標準 802.16に基づくブロードバンド無線製品の互換性と相互運用性を証明し促進

している。

【特許ポリシー】

WiMAX の特許ポリシーは、2006 年 10 月9日付で承認された、Rev. 09/25/2006 の

「WiMAX FORUM INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」に規定されている355。

ここには、WiMAX の特許ポリシーの基本的考え方及びその手続等が条項 3~5 に定められ

ており、その規定を以下に引用する。

条項 3 では、「特許の開示基準(PATENT DISCLOSURE STANDARDS)」として以下が

規定されている。「3.1. 作業部会の参加者による開示(DISCLOSURE BY WORKING

GROUP PARTICIPANTS)」においては、「(a)一般的開示基準 特定の作業部会に何らか

354 http://wimaxforum.org/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 355 http://files.wimaxforum.org/Document/Download/WIMAX_Forum_IPR_Policy_2006_09_25_FINAL [ 終アクセ

ス日:2018 年 1 月 5 日]

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の形で参加している全ての個人は、その特許が、この作業部会によって作成、開発、レビ

ュー又は改訂された仕様草案と仕様(本ポリシーで定義)を実施するための必須特許を含

む場合には、自ら又はその代表会員が保有する特許を継続的に開示することが強く推奨さ

れる。具体的には、会員の個人代表は、必須特許が以下の 3.1(a)(1)で定義されている必須

特許を含む特許を開示することが奨励される。

(1)「必須特許」とは、(該当する場合は、本ポリシー下で定義されている仕様又は仕様

草案について)次のような世界中の特許のみを意味する。

(ⅰ)ライセンサー又は関連会社が、現在又は将来のいずれかにおいて、第三者にロイヤ

ルティ又はその他の対価の支払い無しに許諾することに当然に同意するとの宣言の

下でのライセンスする権利を、現在又は将来において所有、管理、又は所持する特

許。

(ⅱ)そのような特許は、該当する場合には、仕様書又は仕様草案の完全準拠によって必

然的に侵害となる。ここで、「完全準拠」とは、具体的には、該当する場合には、

その仕様書又は仕様草案に基づいて必須又は選択の特徴又は機能を実施するために

必要とされる仕様書又は仕様草案のいずれか又は全ての関連部分の実施を含んでい

る。

(2)上記「必須特許」の定義の目的のために、関連する特許を侵害することなく仕様の

関連部分及び必須又は選択(オプション)部分の商業実施可能な方法が無い場合にのみ特

許が「必然的に侵害される」となる。

逆に、上記若しくは他の本記述にもかかわらず、必須特許は、いかなる状況においても以

下の特許は含まない。

(ⅰ)たとえ必須特許が上記特許に含まれていたとしても上記以外の特許

(ⅱ)そのような参照部分又は情報部分との適合のみのために必要とされる要素を含む、

明細書の参照部分又は情報部分を実践することによってのみ、必ず侵害となる特許

(ⅲ)仕様に準拠しているが、仕様書に明示的に記載されていない製品又はその一部(例

えば、半導体製造技術、基本的な半導体技術、マイクロプロセッサ、コンパイラ技

術、オブジェクト指向技術、基本オペレーティングシステム技術、基本ネットワー

クオペレーティングシステム技術、メモリチップ技術など)のいずれかを必然的に

生産又は使用可能な技術をカバーする特許

(ⅳ)仕様自体のいかなる部分も実施することは求められていないが、WiMAX Forumの

ためにあるいはWiMAX Forumによって開発されたものではなく、仕様の本体で参

照されている他の公表された仕様の実施のみをカバーするとした特許。

」としている。

「3.2. 議長の指示(CHAIRPERSON INSTRUCTIONS)」では、「作業部会の全ての議

長は、各作業部会会議の開始時に参加者にこの早期公開の奨励を喚起し、要求者に本方針

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のコピーを提出するものとする。

条項3.1の開示は、代表者個人の実際の知識に基づいており、代理人(又はその従業

員)として代理している会員(会社)の知識に基づくものではなく、そのような個人の代

表に帰属すべきだという特許情報に関して調査を要求されるものでもない。

しかし、会員は、この条項3.1の条件を意図的に回避する理由のために、参加者を会員組

織内の潜在的に関連する特許情報から意図的に隔離することが禁止されていること、及び

隔離する意思がないことに同意する。」としている。

「3.3. 開示の 小限の内容(MINIMUM CONTENTS OF DISCLOSURE)」では、

「(a)本方針に従って特許を開示する場合、会員及び参加者は、特許に関して可能な も

完全な情報を提供し、それらがどのようにして関連規格又は規格草案に適用される

かを簡潔に示すことが奨励されている。

(b)本方針(条項5.4参照)に記載されている本方針に基づく開示が必要な場合、以下

の 小限の情報が提供されるものとする。発行された特許及び公開中の特許出願に

関しては、開示には、特許権者及び/又は出願人の身元と、特許権の特許番号又は

出願番号が含まれていなければならない。

未公開の特許出願に関しては、そのような開示は、可能な必須特許を含む出願の存在を

含まねばならないが、特許権の識別情報(例えば、出願番号、内容)を開示する必要はな

い。ただし、未公開の特許出願の広範な開示を自発的に行うことや、非開示契約に基づく

ことを排除するものではない。

内容が開示された未公開の係属中特許出願が一旦公開されると、その会員はWiMAX

Forum Managementからの書面による要請により、上記に述べたように公開された出願の

情報を特定する情報を開示するか、あるいはその出願は放棄されたという事実を開示しな

ければならない。

開示がなされると同時に又はその後すぐに、参加者は、特許権者を代表する権限を有す

る者から、WiMAX Forum Management([email protected])へ、必須特許に関して

以下に述べるいずれかを示す書面での声明を提出しなければならない:

(a)ロイヤルティフリー及びその他の合理的かつ非差別的条件でライセンスを付与す

る。

(b)合理的なロイヤルティ又は手数料を含む合理的かつ非差別的条件でライセンスを付

与する。

(c)この文書の下で明示的に許可されている場合、必須特許に関してライセンス供与す

る意思がない。

ここで使用される「ロイヤルティフリー」とは、ライセンシーがロイヤルティ、ライセ

ンス料又はその他のいかなる金銭的報酬をもライセンサーに支払う必要がないことを意味

する。」としている。

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条項4では、「会員知的財産権の使用許諾(LICENSING OF MEMBER INTELLECTUAL

PROPERTY RIGHTS)」を規定しており、「4.1. 必須特許が要求されるライセンス

(REQUIRED LICENSING OF NECESSARY CLAIMS.)」では、「(a)各会員は、WiMAX

Forumの会員資格の条件として、条項4.2に従い、他の会員、非会員、夫々の関連会社に

対して、合理的かつ非差別的条件下(仕様の実装とIEEE802.16標準規格やプロトコルに

準拠する十分な範囲の使用分野を含むが、これに限定されない)で、非排他的、非移転的

(他の会員、非会員及び関連会社の事業の全部あるいは関連する部分の承継者への移転を

除く)、非サブライセンス、全世界向けライセンスであって、その必須特許の下で、その

ような会員、非会員及び関連会社が、そのような仕様の全ての関連する要求される部分

(準拠部分)に準拠した製品を生産し、生産させ、使用し、輸入し、販売の申出をし、販

売し、及びその他の方法で配布することができるライセンスを許諾することに合意する。

ただし、そのライセンスは以下まで広がらないものとする。

(ⅰ)準拠部分が組み込まれている製品の一部又機能であって、それ自体は準拠部分の

一部ではないこと

(ⅱ)仕様の一部のみを実装し、仕様の全ての必要な部分に準拠している他の準拠部分

との相互運用性を損なう原因となる準拠部分

本ポリシーの合理的かつ非差別的条件を含む使用許諾契約への言及は、合理的な防御停

止規定を含むライセンス契約を含めることが認められている。

この義務は、会員が条項5.3の手続に従って「オプトアウト(除外)」することによって

明示的に除外した非貢献の必須特許には適用されない。

誤解を避けるため、条項4.1(a)に基づくライセンス付与の同意は、WiMAX Forumで

の採択と承認された仕様に適用される必須特許にのみ適用されるものとする。」としてい

る。

「4.2. 互恵性(RECIPROCITY)」では、「会員は、条項4.1におけるライセンスを利用

できるようにするための会員の意思は、ライセンシーの相互意思の前提に基づいているこ

とを認めている。

(a)条項4.1は、会員あるいはその関連会社が、同条項の要求に従って他の会員、非会員

及び夫々の関連会社に対しライセンスを付与しない場合には、他の会員や関連会社

には影響を及ぼさない。

(b)条項4.1に基づいてライセンスを受領する各非会員の適格性は、全ての会員及び非会

員、夫々の関連会社に、条項4.1に従い、かつ条項4.4の譲渡制限が適用されるその必

須特許に対してライセンスを与える意思があることが、明示的な条件とされる。

条項4.1に基づく会員の義務と実質的に同一である必須特許をライセンスすることに署

名しない場合、あるいは、当該条項で要求された条件に従って条項4.1の下でライセンス

を許諾しなかった場合には、そのような非会員に対して条項4.1に基づくライセンスを許

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諾する義務はない。」としている。

「4.4. 必須特許の移転(TRANSFER OF NECESSARY CLAIMS)」では、「各ライセン

サーは、本条項4.1を迂回する目的で、必須特許を有する特許を譲渡せず、譲渡したこと

がないことに同意する。会員、非会員又はその関連会社による、必須特許を有する特許の

第三者への移転は、以下の条件に従わなければならない。

(a)本ポリシーの条件

(b)本ポリシーの条項4.1及び4.2に基づき、ライセンサー及びその関連会社が他の会

員、非会員及びその関連会社にライセンスを付与する場合の当該契約

必須特許を含む特許の移転又は譲渡に関する契約において、そのような移転あるいは譲

渡が、標準化団体、仕様開発機関又は同様の組織(用語又は類似の意味)によって、ライ

センサーに課されたライセンスに対する既存のライセンス及び義務に従うという条項を含

むことが、本条を遵守するに明らかに十分であるものとすれば、ライセンサーは本条に準

拠する方法を選択することができる。」としている。

条項5では、「仕様告知、レビュー、退会(SPECIFICATION NOTICE, REVIEW AND

MEMBER WITHDRAWAL)」を規定しており、「5.1. 30日のレビュー期間の通知

(SECTION 5.1. NOTICE OF THIRTY (30) DAY REVIEW PERIOD.)」では、「WiMAX

Forumは、新規又は改定された仕様書の提案されている採用の少なくとも30日前の書面通

知を全会員に提出するものとする。この通知には、理事会が承認した仕様の完全な草案が

含まれ、その仕様(承認されれば)及びその全ての必須特許は、条項4.1のライセンス条

項に従う日付を示すものとする。」としている。

「5.2. 仕様のレビュー(REVIEW OF SPECIFICATION)」では、「会員が必須特許の

特許ポートフォリオをレビュー又は調査する必要はない。しかし、仕様書草案に含まれて

いる必須特許の全ては、会員が条項5.3に記載されているオプトアウト規定を行使した

ら、もし何かあれば、会員が貢献しなかった必須特許を除き、仕様の 終決定時に条項

4.1のライセンス条項に従うものとする。」としている。

「5.3. オプトアウト規定(OPT-OUT PROVISION)」では、「仕様書の非貢献の必須特

許に対するライセンス義務を回避するためには、会員は、レビュー期間終了前に、仕様書

に非貢献必須特許をライセンスしない旨を宣言し、どの非貢献必須特許をライセンスしな

いかを明記しなければならない。

ただし、レビュー期間の終了時までに宣言されていない非貢献必須特許は、条項4.1に

定める合理的かつ非差別的なライセンスの許諾義務を負うものとする。

会員は、特許を特定した場合のみ、レビュー期間前に知っている非貢献必須特許をライ

センスしないことを宣言できる。

会員は、条項4.1に基づいて非貢献必須特許をライセンスしないことを、一律に適用で

きる宣言はできない。誤解を避けるために、このポリシーに記述されているライセンスに

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対する各会員の約束は、その会員のために作業部会に参加する個人の知識が不足していた

としても、会員の未開示の必須特許の全てに適用される。

必須特許がその会員自身の貢献以外の仕様(即ち、非貢献必須特許)に含まれている場

合であって、仕様のレビュー期間終了前に、会員が、そのような非貢献必須特許を含む特

許権を開示し、条項3.3(b)に記載されている 小開示内容を提供することにより、その

必須特許のライセンスを許諾しない意思を宣言することが唯一許されている。

この「ライセンスなし」オプションが選択されている場合、又は必須特許があると主張

されている当事者がライセンス宣言の提供を拒否した場合、影響を受ける仕様を策定する

WiMAX Forum作業部会は、理事会と協議の上、特許権者が会員及び非会員並びにその関

連会社にライセンス供与を拒否するなどの阻害する可能性のある特許権を取り巻く仕様の

改訂版を開発しようとするなどベストな進展方法を決定する。」としている。

「5.5. 特許検索の不要(NO IP SEARCH REQUIRED)」では、「本条項又は本ポリシー

のいかなる規定も、参加者、会員又は将来の会員に、特許調査又は知的財産ポートフォリ

オのその他の調査を実行する義務を課すものではない。」としている。

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31. Wi-SUN Alliance

(Wi-SUN アライアンス356)

【機関の概要】

Wi-SUN Allianceは、IoT(Internet of Things)向けに、相互運用可能な無線通信規格に基

づくソリューションの利用促進を行う標準化団体であり、ワイヤレス・スマート・ユビキ

タス・ネットワークと関連する相互運用性及び規格適合性を認証するプログラムの増進を

目的としている。Wi-SUN Allianceは、スマート・グリッド・サービスのための周波数割当

て要求を地域の規制機関に働きかけ、ユーザ教育、産業界への周知・普及、他の支援プロ

グラムに伴う活動も行っている。

【会員】

①仕様の開発に貢献し、一般的作業部会セッション及び役員会に出席することができる

プロモーターと、②仕様の開発に貢献し、一般的作業部会セッションに出席することがで

きるコントリビューター、③仕様の開発に参加できるものの、投票権を持たず、製品の認

証もできないオブザーバ、並びに④採用者、から構成されている。④採用者は、仕様の

終版へのアクセス、マーケティングイベントへの参加が可能であるが、Wi-SUN の製品を

認証することや、製品の認証はできない。

【規格】

IEEE802.15.4g 基準ベースの相互運用性を促進している。

【特許ポリシー】

Wi-SUN Alliance の特許ポリシーは、「INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS POLICY」

として規定されている357。ここには、Wi-SUN Alliance の特許ポリシーの基本的考え方及

びその手続等が条項 2~7 に定められており、その規定を以下に引用する。

条項 2 には、「必須特許の開示(Disclosure of Necessary Claims.)」が規定されており、「各

会員は、適用される提案仕様書又は採用仕様書に関する会員の保有する必須特許を開示す

ることが求められる。Alliance は、上記の内容を開示する上で会員が使用する宣言書式を

作成するものとし、この形式は条項 2 の条件と一致するものとする。開示は参加者の実際

の個人の知識に基づくものであり、出席者が代理する企業(又はその従業員)に基づく知

識は、出席者の知識として帰属されることはない。しかし、会員は、この条項の規定を避

356 https://www.wi-sun.org/index.php/ja/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 357 https://www.wi-sun.org/images/assets/docs/wisun_exhibit2_ipr_20140812.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5日]

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けるため、会員組織内の潜在的に関連する特許情報から参加者を意図的に隔離することは

禁止されている。本条項又は本ポリシーのいかなる規定も、参加者、会員又は将来の会員

に、特許調査又は知的財産ポートフォリオのその他の調査を実行する義務や責任を課すも

のではない。明確にすると、参加者とは会議に出席し、出席した会議において会員を代表

する人である。」としている。

条項 3には、「必須特許に対するRAND ライセンス(RAND License for Necessary Claims)」

が規定されており、「Alliance の各会員は、他の会員とライセンスを求める非会員に対し、

当事者間で合意されるような条件に基づいて、会員の必須特許のいずれか及び全てに

RAND ライセンスを許諾することに同意する。会員(ライセンサー会員)が、有料又はそ

の他のロイヤルティベースの条件下で必須特許を他の会員(ライセンシー会員)にライセ

ンスした場合、ライセンサー会員は次のことに同意する。即ち、ライセンシーに付与され

るライセンシー会員による現在又は将来の採用仕様における必須特許に関する既存又は将

来のライセンス(ロイヤルティフリーあるいは他の無償ベースのライセンスを含むがこれ

に限られない)は、ライセンサー会員からライセンシー会員へのライセンス条件に類似の

条件で料金ベース又はその他のロイヤルティベースのライセンス契約に変換できることに

同意する。」としている。

条項 4 には、「Alliance IPRと、Allianceに貢献した IPR(Alliance IPR and IPR Contributed

to the Alliance)」を規定しており、「Alliance に雇用又は保持された個人によって作成又は

開発された IPR、ソフトウェア及びドキュメンテーションの全ての権利、権原及び利益は、

Alliance(以下「Alliance IPR」)に帰属し、Allianceは、取締役会によって決定されるよう

に、Allianceによりあるいは、Allianceのために開発された研究結果、アイデア、アルゴリ

ズム、テクニック及びその他の情報を、自由に使用及び公開できるものとする。会員は、

Alliance IPRに対してロイヤルティフリーのライセンスを有するものとする。」としている。

条項 5 には、「共同 IPR(Joint IPR)」を規定しており、「Allianceと、(a)Allianceとの

別個の合意に基づき、その会員が行う作業の範囲を定める会員、あるいは(b)そのように

能力を発揮する会員のいずれかによって共同で開発された IPR は、Alliance と該当する会

員とが共同で所有するものとする(共同 IPR)。各共同所有者は、一方から他方への会計上

の義務を負うことなく、法律で定められた所有権を行使する権利を有するものとする。た

だし、会員と Allianceは、相互に定めた条件に従って、全ての会員に共同 IPR を利用でき

るようにする。上記目的において、「共同して」という用語は、Allianceに割り当てられた

少なくとも 1 人の従業員又は請負業者と、1 人の Alliance の従業員又は請負業者とが、特

許可能な場合には日本の特許法の問題として共同発明家として資格を有することを意味す

るか、あるいは、著作権で保護されている主題の場合には日本の著作権法の問題として、

共同著作者として資格を有することを意味するものとする。」としている。

条項 6 には、「クリアリングハウス活動(Clearinghouse Activities)」を規定しており、

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「Allianceは、理事会が定める条件に基づいて、会員の単独の裁量により、ライセンシング

及び/又は採用された仕様書の使用に関連して、該当する会員及び/又は非会員によるロイヤ

ルティ又はライセンス料を収集し配布するための情報センターとして活動することができ

る。」としている。

条項 7 には、「定義(Definitions)」を規定している。この中358で、「完全準拠(Fully Comply)」

とは、「適用される仕様の全ての必須部分を満たす製品又は技術を意味する。もし採用仕様

に選択的構成要素が含まれおり、かつ実際の製品又は技術にその選択的構成要素が組み込

まれている場合には、その製品又は技術が、採用仕様の選択的部分を完全に具備するため

には、採用仕様で実装されている選択的部分の全てを具備しなければならない。」としてい

る。

また、「必須特許(Necessary Claims)」とは、「次のような、現在又は将来発行され、又

は提出された世界中の全ての特許を意味する。即ち、(a)1 つ又は複数の提案仕様書及び/

又は採用仕様書をカバーする、あるいは直接関係のある特許; (b)①採用仕様として承認

されれば、提案された仕様を実施することが必然的に侵害となる特許、及び/又は、②(該

当する場合には)そのような侵害が、提案仕様及び/又は採用仕様のもう一つの商業上合理

的な非侵害方法では避けられなかった採用仕様として承認された場合には、提案された仕

様を実施することが必然的に侵害となる特許。

必須特許には、提案仕様書及び/又は採用仕様書に適合する製品の製造において使用され

るが、提案された仕様及び/又は採用仕様(例えば、半導体製造技術、コンパイラ技術、オ

ブジェクト指向技術、基本的オペレーティングシステム技術等)に明示的に指定されてい

ないような、いかなる有効な技術をカバーする特許は含まれないものとする。

適切な状況において、会員は、そのような商業的に妥当な代替品の入手可能性を証明す

る十分な証拠を提供することを含め、適用仕様の侵害実施に対する商業的に合理的な代替

案があることを条件に、必須特許ではないと主張することができる。」としている。

「RAND ライセンス(RAND License)」とは、「サブライセンス付与の権限はなく、採用

仕様を完全に満たした製品又は技術を生産し、生産させ、使用し、輸入し、販売し、販売

の申し込みをし、ライセンスし、あるいは宣伝又は他の方法で頒布するためであって、公

正で合理的で非差別的条件に関する必須特許に対する全世界向けの非独占的ライセンスを

意味する。そのような必須特許の RAND ライセンスは、ライセンサーの書面による同意の

みがあればライセンシーによって移転されるものとする。そのような同意は、不合理に保

留又は遅延されることはない。」としている。

「ロイヤルティフリーライセンス(Royalty Free License)」とは、「採用仕様を完全に準拠

した製品や技術を生産し、生産させ、使用し、輸入し、販売し、販売の申し出をし、ライ

358 本調査研究との関連で特に重要と考えられる定義のみを掲載した。

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センスし、宣伝又は他の方法で頒布し、処分するために、必須特許の下でのサブライセン

ス付与権限なく、無償、全世界、永久的、非独占的、移転不可のライセンスを意味する。」

としている。

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32. Zigbee Alliance

(Zigbee アライアンス359,360)

【機関の概要】

Zigbee Allianceは、2002 年に設立された、メッシュ接続が可能な、低コスト、低消費電

力の主にセンサ/リモコン/スイッチ向けの世界標準である ZigBeeを推進する団体である。

【会員】

Promotors 会員 16 社(Comcast、Huawei、Itron、Kroger、Landis+Gyr、LEEDARSON、

Legrand、Midea、NXP、PHILIPS、Schneider Electric、Silicon Laboratories、SmartThings、

Somfy、Texas Instruments、Wulian)と、議決権を持ち、ZigBee開発の発展に積極的な役割

を果たし、製品開発の仕様と標準に早期にアクセスできる Participants 会員 105 社、さら

に、完成した ZigBee の仕様と規格にアクセスできる Adoptors 会員 260 社の 3 種類から構

成されている。

【規格】

ZigBeeは無線規格に IEEE802.15.を利用しており、ネットワーク層より上層を定義して

いる361。 【特許ポリシー】 Zigbee Alliance の特許ポリシーは、「Zigbee Alliance Intellectual Property Rights

Policy」として規定されている362。Zigbee Allianceの特許ポリシーの基本的考え方及びその

手続等は条項2~7に定められており、その規定を以下に引用する。

条項2には、「必須特許の任意開示(Optional Disclosure of Necessary Claims)」が規定

されており、「会員は、適用される提案仕様書又は採用仕様書に関連した必須特許(会員

及び/又は非会員の関連会社の必須特許を含むがこれに限定されない)を所有しているか

否かを開示することができる。ただし、要求されるものではない。本アライアンスは開示

の際に会員が使用する宣言書式を作成し、この書式は条項2の条件と一致するものとす

る。」としている。

条項3には、「必須特許のためのRANDライセンス(RAND License for Necessary

Claims)」が規定されており、「会員は、会員と非会員に、当事者間で合意された条件に

359 http://www.zigbee.org/zigbee-for-developers/zigbee/ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 360 http://www8.ric.co.jp/expo/wj2011/shared/pdf/z-01.pdf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日] 361 http://www.skyley.com/wiki/index.php?ZigBee%E5%85%A5%E9%96%80#o721d5bc [ 終アクセス日:2018 年 1月 5 日] 362 http://www.zigbee.org/?wpdmdl=8050 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 5 日]

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従って、必須特許に対してRANDライセンスを付与することに同意する。」としている。

条項4には、「Alliance IPR及びAllianceに貢献したIPR(Alliance IPR and IPR

Contributed to the Alliance)」が規定されており、「本アライアンスによって雇用又は保

持された個人によって作成又は開発された知的財産権、ソフトウェア及びドキュメントの

全ての権利、権原及び利益は、本アライアンスに帰属するものとし(「Alliance IPR」)、

本アライアンスは、取締役会によって決定されると、本アライアンスのためにあるいは本

アライアンスによって開発された研究結果、アイデア、アルゴリズム、テクニック及びそ

の他の情報の使用と公開が自由になるものとする。会員はAlliance IPRに対するロイヤル

ティフリーライセンスを有するものとする。本アライアンスは、採用された仕様書及び提

案された仕様書における著作権の全ての権利、権原及び利益を所有している。」としてい

る。

条項5には、「共同IPR(Joint IPR)」が規定され、「本アライアンスと、(a)本アラ

イアンスとの別個の合意に基づき、その会員によって行われる作業の範囲を定めた本アラ

イアンスとの個別の合意に従った会員との間、あるいは(b)そのように能力を発揮する

請負業者との間で共同開発された知的財産権は、本アライアンスと該当する会員によって

共同所有されるものとする(共同IPR)。各共同所有者は、一方から他方への会計義務を

負うことなく、法律で定められた所有権の全ての権利を実施できる権限があるものとす

る。会員は、取締役会が定めた条件に従って、アライアンスが全ての会員に対して共同

IPRを利用可能にすることを認めることに同意する。前述の目的のために、「共同して」

という用語は、少なくとも1の会員の従業員と、本アライアンスに割り当てられた1人の本

アライアンスの従業員又は請負業者とが、特許性の問題における米国特許法の共同発明と

して値するか、著作物性の問題における米国著作権法の共同著作者として値するかのいず

れかを意味するものとする。」としている。

条項6の「クリアリングハウス活動(Clearinghouse Activities)」では、「本アライアン

スは、採用された仕様のライセンス及び/又は使用に関して、取締役会によって設定され

た条件に基づいて、該当する会員及び/又は非会員によるロイヤルティ又はライセンス料

の徴収及び頒布を目的とした決済機関として仕えることができる。」としている。

条項7には「定義(Definitions)」が規定され、この中363で、「完全準拠」とは、「適

用される仕様の全ての必須部分を満たす製品又は技術を意味する。採用された仕様にオプ

ションのコンポーネントが含まれ、製品又は技術にオプションのコンポーネントが組み込

まれている場合、その製品又はテクノロジーはそのような採用仕様のオプション仕様を具

備しなければならない。」としている。

また、「必須特許」とは、「現在又は今後発行された、又は該当する場合、会員又は非

363 本調査研究との関連で特に重要と考えられる定義のみを掲載した。

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会員が所有する世界中の全ての特許及び特許出願のクレームであって、以下を満たすもの

を意味する。(a)該当する場合は、提案仕様書及び/又は適用仕様書の1つ又は複数をカ

バーするか、又は直接関連付けるもの。そして(b)提案仕様及び/又は採用仕様として承

認されると、提案された仕様書の実施により、必然的に侵害となる場合。ここでは、提案

仕様及び/又は採用仕様の別の商業的で合理的な手法では侵害を回避することがができな

い場合であって、提案仕様及び/又は採用仕様の実装要求を満たすと侵害せざるを得ない

場合のことである。必須特許には、提案された仕様書及び/又は採用仕様書に従うが、提

案仕様書及び/又は採用された仕様書で明示的に指定されていない製品の製造に使用され

る可能性のある技術をカバーする特許又は特許出願(例えば、半導体製造技術、コンパイ

ラ技術、オブジェクト指向技術、基本的オペレーティングシステム技術など)は含まない

ものとする。会員は、申し立てられた仕様の侵害の実施に対して商業上合理的な代替案が

あることを理由にクレームが必須特許ではないと主張する場合、そのような商業的に妥当

な代替の利用可用性を証明する十分書面を取締役会に提供するものとする。」としてい

る。

「RANDライセンス」とは、「該当する採用仕様を完全に遵守した製品又は技術をサブ

ライセンスし、生産し、生産させ、使用し、輸入販売し、販売の申し込みをし、ライセン

ス供与し、販売促進し、又は他の方法での配布と処分を行う、公正かつ合理的で非差別的

条件での非排他的ライセンスを意味する。」としている。

「ロイヤルティフリーライセンス」とは、「必須特許に対してサブライセンスを付与す

る権利は含まれないが、生産し、生産させ、輸出し、販売し、販売の申し込みをし、ライ

センス供与をし、宣伝し、又はその他の方法で配布し、処分することができる、無償、世

界的、永久的、非独占的、譲渡不可、無制限のライセンスを意味する。」としている。

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資料Ⅱ

標準必須特許に関する主要判例

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目次

資料Ⅱ

Ⅰ. Apple v. Samsung (JP, 2014) ............................................................................... 283

Ⅱ. Huawei v. ZTE (EU, 2015) .................................................................................. 296

Ⅲ. Unwired Planet v. Huawei (GB, 2017) ............................................................... 301

Ⅳ. Microsoft v. Motorola (US, 2013) ........................................................................ 311

Ⅴ. Innovatio v. Cisco (US, 2013) .............................................................................. 317

Ⅵ. CSIRO v. Cisco (US, 2015) .................................................................................. 320

Ⅶ. Philips v. Princo (GE, 2009) (Orange Book 事件) ............................................... 326

Ⅷ. Huawei v. InterDigital (CN, 2013) ...................................................................... 331

Ⅸ. Wilan v. Sony (CN, 2017) .................................................................................... 337

Ⅹ. Sisvel v. Haier (GE, 2016) ................................................................................... 338

ⅩⅠ. Google・Motorola Mobility (US, 2013) ........................................................... 342

ⅩⅡ. Apple v. Motorola (US, 2014) ........................................................................... 344

ⅩⅢ. Motorola v. Apple (EU, 2014) ........................................................................... 348

ⅩⅣ. Samsung v. Apple (EU, 2014) .......................................................................... 352

ⅩⅤ. IPCom v. Nokia (GB, 2012) .............................................................................. 356

ⅩⅥ. Ericsson v. D-Link (US, 2014) ......................................................................... 359

ⅩⅦ. Immation v. One Blue (JP, 2015) ..................................................................... 366

ⅩⅧ. TCL v. Ericsson (US, 2017) .............................................................................. 370

ⅩⅨ. Huawei v. Samsung (CN, 2018) ....................................................................... 385

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Ⅰ. Apple v. Samsung (JP, 2014)

・事件A:知財高判平成26年5月16日判時2224号146頁・平成25年(ネ)第10043号

・事件B:知財高決平成26年5月16日判時2224号89頁 ・平成25年(ラ)第10007号

知財高決平成26年5月16日判タ1413号16頁 ・平成25年(ラ)第10008号

<事件A>

○特許権に基づく損害賠償請求権の行使が、FRAND 条件でのライセンス料相当額を超

える部分では権利の濫用に当たるが、FRAND 条件でのライセンス料相当額の範囲内

では権利の濫用に当たるものではないと判断された事例。

○FRAND 条件でのライセンス料相当額が判断された事例。

○部品の譲渡によって完成品の特許権が消尽したとは認められないと判断された事例。

<事件B>

○FRAND 条件によるライセンスを受ける意思を有する者への FRAND 宣言された特許

権に基づく差止請求権の行使が、権利の濫用に当たり許されないと判断された事例。

1. 事件の概要

事件Aは、アップルジャパン株式会社訴訟承継人及びApple Japan合同会社(以下「ア

ップル」という。)の本件製品1の生産、譲渡、輸入等の行為は、三星電子株式会社(以

下「サムスン」という。)が有する本件特許権の侵害行為に当たらないなどと主張し、ア

ップルが、サムスンが損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた事件である。原判決

では、サムスンによる損害賠償請求権の行使は権利濫用に当たると判断されたため、サム

スンが、これを不服として本件控訴を知財高裁に提起した。

事件Bは、サムスンがアップルに対し、本件製品について、本件特許権に基づく製造・

販売等の差止めの仮処分を申し立てた事件である。原決定では、FRAND宣言された特許

権に基づく差止請求権の行使は権利の濫用に当たり許されないと判断されたため、サムス

ンが、これを不服として知財高裁に抗告した。

(1) 本件特許に関する FRAND 宣言

(ⅰ)サムスンは、1998年12月14日、欧州電気通信標準化機構(ETSI:European

Telecommunications Standards Institute)に対し、UMTS(Universal Mobile

1 本件製品は以下のとおり。本件製品1:「iPhone 3GS」、本件製品2:「iPhone 4」、本件製品3:「iPad Wi-Fi+3G モ

デル」、本件製品4:「iPad 2 Wi-Fi+3G モデル」

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Telecommunications System)規格としてETSIが推進しているW-CDMA技術に関し、サ

ムスンの保有する必須IPRライセンスを、ETSIのIPRポリシー6.1項に従ってFRAND条件

で許諾する用意がある旨の宣言をした。

(ⅱ)サムスンは、2007年8月7日、ETSIに対し、ETSIのIPRポリシー4.1項に従って、

本件出願の優先権主張の基礎となる韓国出願、国際出願等に係るIPRが、UMTS規格(TS

25.322等)に関連して必須IPRであるか、又はそうなる可能性が高い旨を知らせるととも

に、FRAND条件で、取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(以下「本件

FRAND宣言」という。)をした。本件FRAND宣言には、その有効性等はフランス法に

準拠するとの文言及びライセンス許諾の保証は相互にライセンスを供与することを求める

との条件に従い行われるとの文言が含まれていた。

(2) 本件訴訟に至る経緯等

(ⅰ)サムスンは、2011年4月21日、アップルによる本件各製品の生産、譲渡、輸入等の

行為が本件特許権の直接侵害又は間接侵害(特許法101条4号、5号)を構成する旨主張し

て、特許法102条に基づく差止請求権を被保全権利として、アップルに対し、本件各製品

の生産、譲渡、輸入等の差止め等を求める仮処分命令の申立て(以下「本件仮処分の申立

て」という。)をした。

(ⅱ)アップルは、同年9月16日、本件訴訟を提起した。

(ⅲ)サムスンは、同年12月6日、「iPhone 4S」についても、同様の仮処分の申立て

(以下「別件仮処分の申立て」という。)をした。

(ⅳ)サムスンは、2012年9月24日、本件仮処分の申立てのうち、本件製品1(iPhone

3GS)及び3(iPad Wi-Fi+3Gモデル)を取り下げた。

(ⅴ)東京地方裁判所は、2013年2月28日、原判決を言い渡し、同日、本件仮処分の申立

て及び別件仮処分の申立てについても、サムスンによる本件特許権の行使は権利濫用に当

たるとして申立却下の決定をした。

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2. 事件Aの判示事項

(1) 本件各製品に係る本件特許権の消尽の有無(争点4)2

裁判所は、「①サムスンとインテル社間の変更ライセンス契約は、2009年6月30日に契

約期間満了により終了しており、また、終了していないとしても、本件ベースバンドチッ

プは当該契約の対象になるものではないから、本件特許権が消尽した旨のアップルの主張

は前提において失当である、②仮にライセンス契約が終了しておらず本件ベースバンドチ

ップがその対象になると仮定したとしても、本件において、本件特許権の行使が制限され

る理由はない」と判断し、上記②の理由を以下のとおり示した。

(ⅰ) 特許権者又は専用実施権者が譲渡した場合

特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者」という。)が、我が国において、特許製

品の生産にのみ用いる物(第三者が生産し、譲渡する等すれば特許法101条1号に該当す

ることとなるもの。以下「1号製品」という。)を譲渡した場合には、当該1号製品につ

いては特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該1号

製品の使用、譲渡等(特許法2条3項1号)には及ばず、特許権者は、当該1号製品がその

ままの形態を維持する限りにおいては、当該1号製品について特許権を行使することは許

されないと解される。しかし、その後、第三者が当該1号製品を用いて特許製品を生産し

た場合においては、特許発明の技術的範囲に属しない物を用いて新たに特許発明の技術的

範囲に属する物が作出されていることから、当該生産行為や、特許製品の使用、譲渡等の

行為について、特許権の行使が制限されるものではないとするのが相当である(BBS 高

裁判決( 判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁)、 判平成19年11月8日民集61巻8号

2989頁参照)。

なお、このような場合であっても、特許権者において、当該1号製品を用いて特許製品

の生産が行われることを黙示的に承諾していると認められる場合には、特許権の効力は、

当該1号製品を用いた特許製品の生産や、生産された特許製品の使用、譲渡等には及ばな

2 争点1~3については、以下のように判断された。 ・ 争点1(本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否)について:本件製品2及び4は、本件発明1(請

求項8)の技術的範囲に属するが、本件製品1及び3は、技術的範囲に属しない。 ・ 争点2(本件発明2に係る本件特許権の間接侵害の成否)について:本件製品1及び3におけるデータ送信方法の

構成は、本件発明2(請求項1)の技術的範囲に属しないから、間接侵害(特許法101条4号、5号)に該当す

るものではない。本件製品2及び4におけるデータ送信方法の構成は、本件発明2の技術的範囲に属するものと認

められるが、争点3以下の判断は争点1と共通であるから、間接侵害の成否は判断しない。 ・ 争点3(特許法104条の3第1項の規定による本件各発明に係る本件特許権の権利行使の制限の成否)につい

て:本件特許にはアップル主張に係る無効理由はなく、特許法104条の3第1項の規定によりその権利行使が制

限されるものではない。

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いとするのが相当である。

(ⅱ) 通常実施権者が譲渡した場合

1号製品を譲渡した者が通常実施権者である場合にも、前記と同様に、特許権の効力

は、当該1号製品の使用、譲渡等には及ばないが、他方、当該1号製品を用いて特許製品

の生産が行われた場合には、生産行為や、生産された特許製品の使用、譲渡等についての

特許権の行使が制限されるものではないと解される。

(ⅲ) 本件の場合

インテル社は、サムスンとインテル社間の変更ライセンス契約によって、本件ベースバ

ンドチップの製造、販売等を許諾されていると仮定されるから、前記にいう特許権者から

その許諾を受けた通常実施権者に該当する。また、「データを送信する装置」(構成要件

A)及び「データ送信装置」(構成要件H)に該当するのは本件ベースバンドチップを組

み込んだ本件製品2及び4であると解される一方、本件ベースバンドチップには、本件発

明1の技術的範囲に属する物を生産する以外には、社会通念上、経済的、商業的又は実用

的な他の用途はないと認められるから、本件ベースバンドチップは、特許法101条1号に

該当する製品(1号製品)である。アップルは、インテル社が製造した本件ベースバンド

チップにその他の必要とされる各種の部品を組み合わせることで、新たに本件発明1の技

術的範囲に属する本件製品2及び4を生産し、アップルがこれを輸入・販売しているので

あるから、前記のとおり、サムスンによる本件特許権の行使は当然には制限されるもので

はない。

また、本件では、サムスンが特許製品の生産を黙示的に承諾しているとは認められず、

インテル社にその権限があったとも認められない。

したがって、本件ベースバンドチップを用いて生産された特許製品を輸入・販売する行

為について本件特許権の行使が制限されるものではないと解される。

(2) FRAND 宣言に基づく特許権のライセンス契約の成否(争点5)

裁判所は、「本件FRAND宣言はライセンス契約の申込みとは認められないから、本件

FRAND宣言によって本件特許権のライセンス契約が成立するものではない」と判断し、

その理由を以下のとおり示した。

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(ⅰ) 準拠法について

ETSIのIPRポリシーには、「このポリシーは、フランス法に準拠する。」との規定が

あること、本件FRAND宣言にも、その有効性等はフランス法に準拠するとの文言が含ま

れていることからすると、「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法」(通則法7

条)は、フランス法であると解される。

(ⅱ) ライセンス契約の成否についての検討

フランス法において、ライセンス契約が成立するためには、少なくとも契約の申込みと

承諾が必要とされるが、本件FRAND宣言は、以下の理由によりライセンス契約の申込み

であると解することはできない。

①本件FRAND宣言は「取消不能なライセンスを許諾する用意がある」とするのみで、

文言上確定的なライセンスの許諾とはされていない。②本件FRAND宣言には、ライセン

ス料率のみならず、地理的範囲やライセンス契約の期間等も定まっておらず、契約の内容

を定めることができない。③本件FRAND宣言では、互恵条件が選択されており、

FRAND宣言をしていない必須特許の保有者がいた場面等では、この互恵条件が満たされ

ないまま、FRAND宣言の対象となった特許についてのみライセンス契約が成立する事態

を招きかねない。④IPRポリシーを補足する「IPRについてのETSIの指針」には、当事者

間で交渉が行われることが前提とされている部分等、FRAND宣言が直ちにライセンス契

約の成立を導くものではないことを前提としていると解される。⑤現行IPRポリシーの制

定時に、利用者に「自動ライセンス」を与える試みが存在したが、強い反対があった経緯

がある。

(3) 損害賠償請求権の行使の権利濫用の成否(争点6)

裁判所は、「サムスンによる本件製品2(iPhone 4)及び4(iPad 2 Wi-Fi+3Gモデ

ル)についての本件特許権に基づく損害賠償請求権の行使は、FRAND条件でのライセン

ス料相当額を超える部分では権利の濫用に当たるが、FRAND条件でのライセンス料相当

額の範囲内では権利の濫用に当たるものではない」と判断し、その理由を以下のとおり示

した。

(ⅰ) 準拠法について

本件の損害賠償請求権は、その法律関係の性質が不法行為であると解されるから、通則

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法17条によってその準拠法が定められる。本件における「加害行為の結果が発生した地の

法」(通則法17条)は、本件製品2及び4の輸入、販売が行われた地が日本国内であるこ

と、我が国の特許法の保護を受ける本件特許権の侵害に係る損害が問題とされていること

からすると、日本の法律と解すべきであるから、本件には、日本法が適用される。

(ⅱ) FRAND 宣言がされた場合の損害賠償請求について

本件FRAND宣言をしたサムスンを含めて、FRAND宣言をしている者による損害賠償

請求について、①FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求を認めるこ

とは、特段の事情のない限り許されないというべきであるが、他方、②FRAND条件での

ライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求については、必須宣言特許による場合であ

っても、特段の事情のない限り、制限されるべきではないといえる。これを以下、①、②

に示す。

① FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求

FRAND宣言された必須特許(以下「必須宣言特許」という。)に基づく損害賠償請求

においては、FRAND条件によるライセンス料相当額を超える請求を許すことは、当該規

格に準拠しようとする者の信頼を損なうとともに特許発明を過度に保護することとなり、

特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特許法

の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠くものとい

える。

これに対し、特許権者が、相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有し

ない等の特段の事情が存することについて主張、立証をすれば、FRAND条件でのライセ

ンス料を超える損害賠償請求部分についても許容されるというべきである。もっとも、相

手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの特段の事情は、厳格に

認定されるべきである。

② FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内の損害賠償請求

一方、必須宣言特許に基づく損害賠償請求であっても、FRAND条件によるライセンス

料相当額の範囲内にある限りにおいては、その行使を制限することは、発明への意欲を削

ぎ、技術の標準化の促進を阻害する弊害を招き、同様に特許法の目的である「産業の発

達」(同法1条)を阻害するおそれがあるから、合理性を欠くというべきである。

ただし、FRAND宣言に至る過程やライセンス交渉過程等で現れた諸般の事情を総合し

た結果、当該損害賠償請求権が発明の公開に対する対価として重要な意味を有することを

考慮してもなお、ライセンス料相当額の範囲内の損害賠償請求を許すことが著しく不公正

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であると認められるなど特段の事情が存することについて、相手方から主張、立証がされ

た場合には、権利濫用としてかかる請求が制限されることは妨げられないというべきであ

る。

(ⅲ) 特段の事情の有無についての検討

① FRAND条件によるライセンス料相当額の範囲での損害賠償請求について

サムスンが本件FRAND宣言をしていることに照らせば、サムスンは、少なくとも我が

国民法上の信義則に基づき、アップルとの間でFRAND条件でのライセンス契約の締結に

向けた交渉を誠実に行うべき義務を負担すると解される。サムスンは提案するライセンス

条件がFRAND条件にのっとったものであることを説明すべきであるとしても、サムスン

がサムスンと他社との間のライセンス契約の条件を開示しなかったことを直ちに不当と非

難することはできず、サムスンのライセンス交渉過程での態度をもって、サムスンが

FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内で損害賠償請求をすることが著しく不公正

であるとまでは認めることはできない。

このような誠実交渉義務や、適時開示義務等の他、本件に現れた一切の事情を考慮して

も、サムスンによるFRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求を許

すことが著しく不公正であるとするに足りる事情はうかがわれず、前記特段の事情が存在

すると認めるに足りる証拠はない。

② FRAND条件によるライセンス料相当額を超える損害賠償請求について

アップルは、ライセンス料率の上限の提示に始まり、複数回にわたって算定根拠ととも

に具体的なライセンス料率の提案を行っているし、サムスンと複数回面談の上集中的なラ

イセンス交渉も行っているから、アップルはサムスンとの間でライセンス契約を締結する

べく交渉を継続していたと評価できる。アップルの行った各種提案は一定程度の合理性を

持ったものと評価できることに加えて、サムスンの交渉態度も、アップルとの間でのライ

センス契約の締結を促進するものではなかったことからすると、両社間に、大きな意見の

隔絶が長期間にわたって存在したとしても、アップルやサムスンにおいてFRAND条件で

のライセンス契約を締結する意思を有しないことを意味するものとは直ちに評価できな

い。そうすると、本件についてアップルにFRAND条件によるライセンスを受ける意思を

有しない場合など特段の事情が存するとは認められない。

標準規格を策定することの目的及び意義等に照らすと、ライセンス契約を受ける意思を

有しないとの認定は厳格にされてしかるべきところ、サムスンの主張に係る事情をもって

も、アップルがFRAND条件によるライセンス契約を締結する意思を有しない者であると

の認定はできない。

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(4) ライセンス料相当額の算定(争点7)

裁判所は、本件製品2及び4による本件特許権の侵害について、FRAND条件によるラ

イセンス料相当額がいくらとなるかを、以下のとおり具体的に算定した。

(ⅰ) 本件における FRAND 条件によるライセンス料相当額の算定方法

ETSIのIPRポリシーが定められた趣旨及び本件製品2及び4の性質等を総合すると、

FRAND条件によるライセンス料相当額は、次のとおりの方法により算定するのが相当で

あると認められる。

すなわち、まず本件製品2及び4の売上高合計のうち、UMTS規格に準拠していること

が貢献した部分の割合を算定し、次に、この貢献した部分のうちの本件特許が貢献した部

分の割合を算定する。この際、累積ロイヤルティが過剰となることを抑制する観点から、

全必須特許に対するライセンス料の合計が一定の割合を超えない計算方法を採用し、本件

においては、他の必須特許の具体的内容が明らかでないことから、UMTS規格に必須とな

る特許の個数割りによるのが相当である。

(ⅱ) 具体的な計算

FRAND条件によるライセンス料相当額

= 売上げ合計 × 売上げ合計に対する寄与の割合

= 売上げ合計 ×(UMTS規格に準拠していることの貢献部分の割合

× 累積ロイヤルティの上限の割合

÷ 必須と認められる特許の数)

= 売上げ合計 ×(UMTS規格に準拠していることの貢献部分の割合

× 5%

÷ 529)

本件製品2(iPhone 4)≒ 9,239,308 円

本件製品4(iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル)≒ 716,546 円

本件製品 = 9,239,308円+716,546円 = 9,955,854円

① UMTS規格に準拠していることの貢献部分

本件製品2及び4は、移動体通信機能としては、W-CDMA方式以外にGSM方式等にも

準拠しており、また、Wi-Fi等の無線通信機能も有する。また、本件製品2及び4の売上

高合計には、その他の特徴や機能が貢献している面も多くあり、アップルやサムスンの有

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する強いブランド力やマーケティング活動による貢献も認められる。さらに、本件製品2

及び4の売上高にはメモリ容量の大小が少なからず貢献していると推定される。このよう

に、UMTS規格に準拠していることが本件製品2及び4の売上高合計に貢献しているとし

ても、寄与の程度はその一部に留まるもので、その余の売上高合計はUMTS規格に準拠し

ていることに影響されることなく達成されたものといえる。そうすると、本件特許に対す

るFRAND条件でのライセンス料相当額を認定するに際しては、UMTS規格に準拠してい

ることが、本件製品2及び4の売上高合計に貢献していると認められる部分のみを基礎と

すべきである。

具体的には、本件製品2及び4の社会通念上の基本的な機能や販売価格、本件ベースバ

ンドチップの価格や、いわゆるフィーチャーフォンやドングル、無線通信ルータの販売価

格等の諸般の事情を考慮すると、本件製品2及び4の売上高合計のうち、UMTS規格に準

拠していることが寄与した部分としては、本件製品2について売上高合計の●●パーセン

ト、本件製品4について売上高合計の●●パーセントとするのが相当である。

② 本件特許の貢献部分

・累積ロイヤルティの上限について

ETSIのIPRポリシーが定められた目的を達成するためには、個々の必須特許について

のライセンス料のみならず、個々の必須特許に対するライセンス料の合計額(累積ロイヤ

ルティ)も経済的に合理的な範囲内に留まる必要があると解すべきである。したがって、

FRAND条件によるライセンス料相当額を定めるに当たっても、かかる制限は必然的に生

じると解するのが相当である。

本件訴訟において、サムスン、アップルとも累積ロイヤルティを5パーセントとするこ

とを前提として主張をしており、また、UMTS規格の必須特許を保有する者の間では、累

積ロイヤルティが過大となることを防ぐ観点から、累積ロイヤルティを5パーセント以内

とすることを支持する見解が多くあることに照らすならば、本件特許についてのFRAND

条件によるライセンス料相当額を認定するに際しては、UMTS規格に対する累積ロイヤル

ティが、UMTS規格に準拠していることが本件製品2及び4の売上げに貢献したと認めら

れる部分の5パーセントとなる計算方法を採用することが相当である。

・他のUMTS規格の必須特許との関係について

UMTS規格には、本件特許の他にも多数の特許が必須特許となるものであって、本件特

許のみによってUMTS規格が実現されているものではない。本件各発明がその効果を発揮

し得るのは限定的な場合に留まるものであるから、本件特許のUMTS規格に対する技術的

貢献度は大きくはなく、本件特許のUMTS規格に対する貢献が、他の必須特許と比べて大

きいと認めるに足りる証拠はない。他方、UMTS規格に必須となる他の特許の具体的内容

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については何らの証拠も提出されていないから、他の必須特許のUMTS規格に対する貢献

の程度は明らかではなく、他の必須特許のUMTS規格に対する貢献が本件特許と比べて大

きいと認めるに足りる証拠もない。以上によれば、本件における証拠からは、本件特許も

他のUMTS規格の必須特許も、同程度に、UMTS規格に貢献していると評価するのが相当

である。

このように、本件特許も他のUMTS規格の必須特許も、同程度にUMTS規格に貢献して

いるとすると、本件特許に対するFRAND条件による実施料相当額は、UMTS規格に必須

となる特許の個数割りによるべきことになる。

・UMTS規格の必須特許の個数について

FRAND条件でのライセンス料相当額を算定するに当たってのUMTS規格の必須特許の

個数は、529個を採用する。すなわち、UMTS規格について、フェアフィールド社が必須

かおそらく必須と判定した特許ファミリーの数は529である。フェアフィールド社のレポ

ートは、海外におけるものも含めて、UMTS規格に必須となる特許ファミリーの数を分析

したものであって、我が国におけるUMTS規格の必須特許の数を数えたものではなく、ま

た、必須かおそらく必須と判定された特許ファミリーの内訳も明らかではないが、他には

UMTS規格の必須特許であって我が国において特許権が付与されているものの数を認定し

得るに足りる証拠は何ら提出されていない。加えて、両当事者とも、必須宣言されている

全特許数によるか、必須又はおそらく必須と判定された特許数によるかはさておき、フェ

アフィールド社のレポートに準拠して主張していることからすると、必須となる特許の個

数はフェアフィールド社のレポートに現れた特許ファミリーの数を基礎とするのが相当で

ある。そして、一般に標準規格の策定に際して必須宣言が過剰にされる傾向にあることか

らすると、UMTS規格に必須となる特許の個数として、必須宣言特許の総数である1889

を採用することはできず、フェアフィールド社のレポートが必須であるかおそらく必須で

あるとする特許ファミリーの数である529を採用するのが相当である。

3. 事件Bの判示事項

裁判所は、「サムスンによる本件特許権に基づく差止請求権の行使は、権利の濫用に当

たり許されない」と判断し、その理由を以下のとおり示した。

(1) 準拠法について

特許権に基づく差止請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解され

る( 判平成14年9月26日民集56巻7号1551頁)から、本件には、日本法が適用される。

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(2) FRAND 宣言がされた場合の差止請求権の行使について

FRAND宣言された必須宣言特許に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは、当

該規格に準拠しようとする者の信頼を害するとともに特許発明に対する過度の保護とな

り、特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特

許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠くもの

といえる。

すなわち、ある者が、標準規格へ準拠した製品の製造、販売等を試みる場合、将来、必

須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認

した上で、投資をし、標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に、後に必須宣

言特許に基づく差止請求を許容することがあれば、FRAND条件によるライセンスが受け

られるものと信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し、投資等をした

者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は、当該標準規格の利用者

に当該必須宣言特許が利用されることを前提として、自らの意思で、FRAND条件でのラ

イセンスを行う旨の宣言をしていること、標準規格の一部となることで幅広い潜在的なラ

イセンシーを獲得できることからすると、必須宣言特許の保有者がFRAND条件での対価

を得られる限り、差止請求権行使を通じた独占状態の維持を保護する必要性は高くない。

(3) 本件における差止請求権の行使について

UMTS規格に準拠した製品を製造、販売等しようとする者は、UMTS規格に準拠した製

品を製造、販売等するのに必須となる特許権のうち、少なくともETSIの会員が保有する

ものについては、ETSIのIPRポリシー4.1項等に応じて適時に必要な開示がされるととも

に、同ポリシー6.1項等によってFRAND宣言をすることが要求されていることを認識して

おり、特許権者とのしかるべき交渉の結果、将来、FRAND条件によるライセンスを受け

られるであろうと信頼するが、その信頼は保護に値するというべきである。したがって、

本件FRAND宣言がされている本件特許について、無制限に差止請求権の行使を許容する

ことは、このような期待を抱いてUMTS規格に準拠した製品を製造、販売する者の信頼を

害することになる。

必須宣言特許を保有する者は、UMTS規格を実施する者のかかる期待を背景に、UMTS

規格の一部となった本件特許を含む特許権が全世界の多数の事業者等によって幅広く利用

され、それに応じて、UMTS規格の一部とならなければ到底得られなかったであろう規模

のライセンス料収入が得られるという利益を得ることができる。また、サムスンによる本

件FRAND宣言を含めてETSIのIPRポリシーの要求するFRAND宣言をした者について

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は、自らの意思で取消不能なライセンスをFRAND条件で許諾する用意がある旨を宣言し

ているのであるから、FRAND条件での対価が得られる限りにおいては、差止請求権を行

使することによってその独占状態が維持できることはそもそも期待していないものと認め

られ、かかる者について差止請求権の行使を認め独占状態を保護する必要性は高くないと

いえる。

他面において、UMTS規格に準拠した製品を製造、販売する者が、FRAND条件による

ライセンスを受ける意思を有しない場合には、かかる者に対する差止めは許されると解す

べきである。けだし、FRAND条件でのライセンスを受ける意思を有しない者は、

FRAND宣言を信頼して当該標準規格への準拠を行っているわけではないし、このような

者に対してまで差止請求権を制限する場合には、特許権者の保護に欠けることになるから

である。もっとも、差止請求を許容することには、前記のとおりの弊害が存することに照

らすならば、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの認定は厳格にさ

れるべきである。

以上を総合すれば、本件FRAND宣言をしているサムスンによる本件特許権に基づく差

止請求権の行使については、相手方において、サムスンが本件FRAND宣言をしたことに

加えて、相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であることの主

張立証に成功した場合には、権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないと解される。

(4) FRAND 条件によるライセンスを受ける意思の有無について

アップルあるいは相手方は、本件特許について、FRAND条件によるライセンスを受け

る意思を有する者(willing licensee)である旨主張する。

疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば、①サムスンは、2011年7月25日付け書簡で、

アップルに対し、サムスンの必須宣言特許ポートフォリオについてのライセンス条件とし

て、具体的な料率を提示したこと、②アップルは同年8月18日付けの書面でライセンス料

率の上限を提示し、2012年3月4日付け書簡でさらに数桁小さい料率をロイヤルティとし

て支払う旨のライセンス契約の申出をし、さらに、同年9月7日付け書簡で、クロスライセ

ンス契約を含む具体的なライセンス案を提示したこと、③これに対して、サムスンは、ア

ップルがサムスンの提示を不本意とするならば、アップルにおいて具体的な提案をするよ

う要請するのみであったこと、④サムスンは、同年9月14日付け書簡でライセンス料算定

の基礎となる価格の上限引下げの提案等をしたこと、⑤サムスンは、同年12月3日付け書

簡で、当初提案の料率を半分以下にする提案をしたこと、⑥アップルとサムスンは、同月

12日、17日及び18日に会合をもち、この際にサムスンは、多額の一時金を支払うとの内

容を含む提案を行い、アップルは、UMTS規格の必須特許ポートフォリオを対象とするク

ロスライセンス契約の提案をしたこと、⑦アップルとサムスンは、2013年1月14日にも会

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合をもち、その際アップルはライセンス料の支払を伴わないクロスライセンス契約の提案

を行ったこと、⑧両社の同年2月7日●●●●の会合の際には、合意書の案が作成された●

●●●●●●●●●●●●●こと、⑨その後も、サムスンとアップルとの間では、紛争を

仲裁に付するとした場合の条件等をめぐって各種の交渉が断続的に行われていることが認

められる。

上記に鑑みると、アップルは、2011年8月18日付けの書面でのライセンス料率の上限の

提示に始まり、複数回にわたって算定根拠とともに具体的なライセンス料率の提案を行っ

ているし、サムスンと複数回面談の上集中的なライセンス交渉も行っているから、アップ

ルや相手方はFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であると認められ

る。この点、サムスンとアップルとの間には、妥当とするライセンス料率について大きな

意見の隔絶が長期間にわたって存在する。しかし、ライセンサーとライセンシーとなる両

社は本来的に利害が対立する立場にあることや、何がFRAND条件でのライセンス料であ

るかについて一義的な基準が存するものではなく、個々の特許のUMTS規格への必須性や

重要性等については様々な評価が可能であって、それによって妥当と解されるライセンス

料も変わり得ることからすれば、アップルの行った各種提案も一定程度の合理性を有する

ものと評価できる。加えて、サムスンの交渉態度も、アップルとの間でのライセンス契約

の締結を促進するものではなかったと評価するのが相当であることからすると、両社間に

大きな意見の隔絶が長期間にわたって存在したとしても、アップルや相手方において

FRAND条件でのライセンス契約を締結する意思を有するとの認定が直ちに妨げられるも

のではない。

これに対し、サムスンは、アップルがライセンスの対象特許を確定せず、自らをより利

するライセンス条件を順次提示し、また、自ら提示する条件はFRAND条件に反しないと

の態度を続けて、ライセンス契約の成立を故意に妨げているから、アップルや相手方はラ

イセンスを受ける意思を有するとは認められないなどと主張する。しかし、標準規格を策

定することの目的及び意義等に照らすと、ライセンス契約を受ける意思を有しないとの認

定は厳格にされてしかるべきところ、アップルとサムスンの間のライセンス交渉の経緯は

前記のとおりであって、相手方はFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者

であると認められるから、サムスンの主張は採用の限りではない。

そうすると、サムスンによる本件特許権に基づく差止請求権の行使は、権利の濫用(民

法1条3項)に該当し、許されない。

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Ⅱ. Huawei v. ZTE (EU, 2015)3

■Huawei Technologies Co. Ltd v. ZTE Corp., ZTE Deutschland GmbH.

・Court of Justice of the European Union (CJEU), Case C-170/13,

判決日:2015 年 7 月 16 日

○標準必須特許による差止請求が欧州連合競争法上の支配的地位の濫用とならないための

条件が明示された事例。

○支配的地位の濫用の判断要素

<濫用とならない(差止が認められる)方向に働く権利者側の要素>

① 特許権者は、標準必須特許を指定し、その侵害の態様を特定することによって、実施者

に警告すること。

② 実施者が FRAND 条件によるライセンス契約を締結する意思がある旨を表明している

場合、特許権者は、FRAND 条件に基づく具体的な書面でのライセンスの申出(実施料

の額及びその算定方法含む)を、実施者に提示すること。

<濫用となる(差止が認められない)方向に働く実施者側の要素>

③ 実施者が、真摯に、当該分野で広く認められた商慣行に従い、誠実に応答すること(時

間稼ぎしないことを含み、客観的要素に基づいて検証される必要がある)。

④ 実施者が、特許権者の申出を受け入れない場合、特許権者に対して速やかに書面で

FRAND 条件に対応する具体的な対案を提示すること。

⑤ その対案が特許権者によって拒絶され、ライセンス契約前に実施している場合、実施者

は、当該分野で広く認められた商慣行に基づいて適切な担保を提供すること(その算定

のための標準必須特許の使用に対応する過去の行為の数やこれに係る会計報告も必

要)。

1. 事件の概要

(1) 当事者及び対象特許

Huawei Technologies Co. Ltd(以下「Huawei」という。)は、中国に本社を置く電気通

信メーカである。Huawei は、Long Term Evolution 規格(以下「LTE 標準」という。)の

3 藤野仁三「世界の FRAND 判例 Vol.11」The Invention 2017 2 号 64-67 頁(2017 年), ライセンス第1委員会第3小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号

66-78 頁(2017 年), JETRO デュッセルドルフ事務所「欧州連合司法裁判所,標準必須特許権侵害の救済をめぐるデュッセルドルフ地方裁

判所の付託質問に対して判決」(2015 年 7 月 17 日) https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/20150717_rev.pdf [ 終アクセス日:2017 年 12 月 20 日] を基

に作成。

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必須特許として FRAND 宣言した欧州特許 2090050B1(以下「050 特許」という。)を有

している。

ZTE Corp.は、中国の通信設備・通信端末の開発・生産会社であり、ZTE Deutschland

GmbH(以下「ZTE」という。)は ZTE Corp.のドイツにおける現地法人で LTE 標準関連

の製品を販売している。

本件は、Huawei が 050 特許に基づき、ZTE に対する侵害の差止め及び損害賠償を求め

て、ドイツのデュッセルドルフ地方裁判所に提訴した事案において、同裁判所が、欧州司

法裁判所(CJEU:Court of Justice of the European Union)に対して、標準必須特許による

差止請求が欧州連合競争法(TFEU:Treaty on the Functioning of the European Union4)

102 条における市場支配的地位の濫用とみなされる場合の条件について照会を行ったもの

である。

(2) 交渉の経緯

2010 年 11 月から 2011 年 3 月の間、Huawei と ZTE は、050 特許の侵害及び FRAND

条件でのライセンス契約の可能性について協議した。Huawei は合理的と考える実施料案

を提示したが、ZTE はクロスライセンスによる解決を求め、結局、ライセンス契約に至ら

なかった。

しかし、ZTE はその後も、過去分の特許侵害に対する補償のための準備を行わずに、LTE

標準を使用する製品の販売を継続した。

2011 年 4 月 28 日、Huawei は、欧州特許条約(EPC:European Patent Convention)

64 条及びドイツ特許法 139 条を根拠に、ZTE を相手取って侵害訴訟をデュッセルドルフ

地裁に提起し、侵害の差止、過去の使用に対する支払い、製品回収及び将来の使用に対す

る損害賠償支払の命令を求めた。

2. デュッセルドルフ地裁の対応

デュッセルドルフ地裁は、本件の実体的な問題は、Huawei の提起した訴訟が TFEU102

条の市場支配的地位の濫用を構成するかどうかであると判断した。

ドイツ連邦司法裁判所判決「Orange Book」事件(2009 年 5 月 6 日)では、標準必須特

許権者による差止請求が市場支配的地位の濫用となるのは、実施者が付随条件なしで

FRAND 条件でのライセンスを取得する旨、申出を行っていること、実施者が当該申出に

基づき、実施料の支払い等により当該条件でライセンスを取得したかのように行動してい

4 欧州連合の機能に関する条約。

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ること、という特定の状況下の場合だけであるとしている。また、「Samsung v. Apple」事

件の欧州委員会による予備的見解(2012 年 12 月 21 日)では、侵害者が FRAND 条件で

ライセンス許諾を受ける意思を表明し、ライセンス交渉に前向きである場合には、権利者

による差止請求は市場支配的地位の濫用になるとしている。

「Orange Book」事件で示された条件と「Samsung v. Apple」事件で示された条件が矛

盾するおそれがあったため、デュッセルドルフ地裁は、審理を中止し、CJEU に対し、

TFEU102 条の解釈について予備的判決を求めて、以下の5つの質問を付託した。

3. 争点(付託された質問)

(1)FRAND 宣言している標準必須特許権者は、FRAND 条件に基づくライセンスを受

ける意思を示している侵害者に対し、差止めを裁判所に求めた場合、市場支配的地位を濫

用することになるのか。あるいは、侵害者が、受入れ可能で付随条件なしのライセンスの

申出を標準必須特許権者に対して行うとともに、過去の侵害行為に関して(仮想的に)生

じる契約上の義務を履行している場合に限り、市場支配的地位を濫用することになるのか。

(2)単に侵害者が交渉の意思を示していたことを理由に市場支配的地位の濫用となる場

合、当該交渉の意思に係る実体的及び/又は時間的な条件に関する特定の要件は何か。例

えば、侵害者は、広く一般的な意味で交渉を開始する意思がある旨の(口頭の)宣言を行

ってさえいれば、その交渉の意思が推定され得るのか、それとも、侵害者は、それに基づ

いてライセンス契約を結ぶ準備ができている条件を通知するなどにより、実際に交渉を開

始していなければならないのか。

(3)侵害者による付随条件なしでライセンス契約を結ぶ申出が市場支配的地位の濫用の

前提となる場合、当該申出に係る実体的及び/又は時間的な条件に関する特定の要件は何

か。当該申出は、関連する産業の実務に従ってライセンス契約が通常備える全ての商業的

条件を備えている必要があるか。また、当該申出は、標準必須特許の実際の使用及び/又

はその有効性を必須の条件とし得るのか。

(4)侵害者のライセンス義務の履行が市場支配的地位の濫用の前提となる場合、当該義

務の履行に関する特定の要件は何か。侵害者は、過去の侵害行為に関して会計報告及び/

又は実施料の支払いをしなければならないか。また、実施料の支払い義務は供託によって

履行することも可能か。

(5)市場支配的地位の濫用となる条件は、特許権侵害に対する他の救済手段(過去の侵

害に関する会計報告、侵害物品の流通経路からの廃棄除去、及び損害賠償の請求)にも適

用されるか。

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4. 判示事項

CJEU は、上記付託された質問に対し、以下のとおり判示した。

(1) 支配的地位の濫用

FRAND 条件によるライセンスの確約が、第三者に標準必須特許権者が実際にその条件

でライセンスを付与するであろうとの正当な期待を抱かせることに鑑みれば、標準必須特

許権者によるライセンスの拒絶は、原則、市場支配的地位の濫用を構成し得る。

標準必須特許権者に強制されるのは、FRAND 条件でライセンスを付与することのみで

ある。本訴訟事件の状況においては、FRAND 条件によって何をしなければならないかに

関して当事者間に合意がない。そのような状況において差止請求が濫用であると解される

のを避けるためには、標準必須特許権者と利害関係者の間の公正なバランスが確保されて

いなければならない。

自身の標準必須特許が侵害されていると考える標準必須特許権者は、被疑侵害者への通

知や当該侵害者との事前の協議を履行しない限り、TFEU102 条を侵害することなく侵害

差止め又は製品の回収を求める訴えを提起することはできない。

(2) 支配的地位の濫用の条件

まず標準必須特許権者は、訴訟手続に先立って、被疑侵害者に対して侵害されている標

準必須特許を指定し、その侵害の態様を特定することによって警告を行うべきである(段

落 61)。

続いて、被疑侵害者が FRAND 条件によるライセンス契約を締結する意思がある旨を表

明した後は、標準化機関に対して行った確約に対応する FRAND 条件に基づく具体的な書

面でのライセンスの申出を、特に、実施料の額及びその算定方法を特定しつつ、被疑侵害

者に提示しなければならない(段落 63)。

被疑侵害者は、標準必須特許権者の申出に対して、真摯に、当該分野で広く認められた

商慣行に従い、誠実に対応しなければないが、この点は、客観的要素に基づいて検証され

なければならず、とりわけ、遅延戦術の意味合いを含まないものでなければならない(段

落 65)。さらに、その申出を受け入れない場合には、被疑侵害者が標準必須特許権者に対

して速やかに書面で FRAND 条件に対応する具体的な対案を提示した場合に限り、標準必

須特許権者の侵害差止め又は製品の回収を求める訴えの濫用的な性質に依存することがで

きる(段落 66)。

さらに、ライセンス契約締結の前に標準必須特許を使用している場合、その対案が拒絶

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された時点から、被疑侵害者は、例えば、銀行保証の提供や必要額の供託の手段など、当

該分野で広く認められた商慣行に基づいて適切な担保を提供しなければならない。その算

定のための標準必須特許の使用に対応する過去の行為の数やこれに係る会計報告も必要で

ある(段落 67)。

対案に基づく FRAND 条件の詳細について合意に至らなかった場合、当事者の同意によ

り、実施料額の決定を独立の第三者に遅滞なく決定によって行うよう依頼することができ

る(段落 68)。

また、標準化機関それ自体は特許の有効性や標準必須性について確認しないという事実

に鑑みれば、被疑侵害者が、ライセンス交渉と並行して、標準必須特許の有効性及び/又

は必須性に異議を申し立てるか、若しくは、将来そうする権利を留保するかのいずれかを

行うことによって批判されてはならない(段落 69)。

(3) 結論

① 標準必須特許権者が標準化機関に対して FRAND 条件による標準必須特許のライセン

スを第三者に付与する旨の取消不能の確約を行っている場合、以下の条件を満たす限り

において、標準必須特許の侵害の差止め又は当該標準必須特許を使用した製品の市場か

らの回収を求めて侵害の訴えを提起しても、TFEU102 条における市場支配的地位の濫

用とはならない。

・ 当該訴訟の提起に先立ち、標準必須特許権者が、まず、被疑侵害者に対して、侵害され

ている標準必須特許を指定し、その侵害の態様を特定することによって警告を行ってお

り、さらに、被疑侵害者が FRAND 条件によるライセンス契約を締結する意思がある旨

を表明した後に、FRAND 条件に基づく具体的な書面でのライセンスの申出を、特に、

実施料の額及びその算定方法を特定しつつ、被疑侵害者に提示していた場合であって、

かつ

・ 被疑侵害者が標準必須特許の使用を継続し、標準必須特許権者の申出に対して、真摯に、

当該分野で広く認められた商慣行に従い、誠実に応答するのを(この点は、客観的要素

に基づいて検証されなければならず、とりわけ、遅延戦術の意味合いを含まないもので

なければならない)怠っていた場合。

② TFEU102 条は、本訴訟事件のような状況において、市場支配的地位にある標準必須特

許権者が、FRAND 条件によるライセンスを第三者に付与する旨の確約を行っていた場

合に、過去の標準必須特許の使用行為に関連する会計報告又はそれらの使用行為に関す

る損害賠償を求めて被疑侵害者に対して侵害の訴えを提起することを禁止してはいな

いと解釈しなければならない。

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Ⅲ. Unwired Planet v. Huawei (GB, 2017)

■Unwired Planet v. Huawei

・The UK High Court of Justice, [2017] EWHC 711 (Pat),

判決日:2017年4月5日

○実施者がFRANDと認められる条件でのライセンスに対して受け入れる準備をせず、権

利者が競争法に違反していないため、差止めが認められるべきと判断された事例(ただ

し、差止めの行使は、判決後のライセンス交渉の結果を踏まえて行われる)。

○FRANDでの実施料率の基準値(類似する他の実施料率を参考にする方法)

= Ericssonの2G/3G/4GのSEPポートフォリオの料率

× Ericssonの特許群に対するUnwired Planetの特許群の価値

4G/LTE =0.062%(携帯電話端末),0.072%(インフラ)

3G/UMTS=0.032%(携帯電話端末),0.016%(インフラ)

2G/GSM =0.064%(携帯電話端末),0.064%(インフラ)

1. 事件の概要

(1) 対象特許

本件は、米国の特許主張主体(PAE:Patent Assertion Entity)であるUnwired Planet

が、Google、Samsung、Huaweiに対し、6件の英国特許の侵害訴訟を英国高等法院(UK

High Court)へ提起した事案である5。提訴後、Google、Samsungとは和解に至っている。

対象特許のうち5件は、2013年にEricssonから譲渡されたものであり、Unwired Planet

は、この5件の特許が欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications

Standards Institute)における2G、3G及び4G通信規格に必須であると主張した。なお、

EricssonはETSIの標準規格策定に参加していたため、必須であると主張される5件の特許

は、EricssonがETSIに対してFRAND条件で許諾する用意がある旨の宣言を行ったもので

ある。

(2) 事件の背景

Unwired Planetは、かつてLibris Inc.やOpenwave Systems Inc.の名で、モバイルイン

ターネット技術の開発、製品の販売を行っており、WAPフォーラムやOpen Mobile Alliance

5 同様の訴訟はドイツでも提起された。

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にも参加していた。しかし、Unwired Planetは、2011年11月に製品販売事業を売却し、知

的財産権から収益を得るライセンス事業の形態をとることになる。その頃、Unwired

Planetの保有する特許と特許出願のポートフォリオは、140の実装特許ファミリーで構成

されていた。

一方、Ericssonは、2011年まで電気通信の主要な技術開発業者であり、標準設定にも参

加し、Sonyとの合弁事業とインフラ事業を通じ、携帯電話事業を展開していた。また、

Ericssonは、特許から収益を得るライセンス事業も有しており、Samsungなど多くの企業

とライセンス契約を結んでいた。2009年には、Ericssonは、Huaweiと、2011年においても

効力のある電気通信特許ライセンス契約を結んだ。しかし、Ericssonは、2011年10月に携

帯電話事業を手放し、2013年1月10日には、標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)

を含む2158件の特許又は特許出願を、Unwired Planetに売却した。

その後、Unwired Planetは、SEPを含むEricssonの特許の下で、潜在的なライセンシー

にアプローチする戦略を策定し始めた。Unwired Planetは、2013年4月までにHuaweiを交

渉先として特定した。また、Unwired Planetは、LTEマルチモード端末につき1ドルの定

額料金を提供することに決めた。携帯電話端末の販売価格を$200とすると、それは0.5%に

なり、当時、Ericssonの4G/LTE特許のライセンス料金の公式の予想は、1.5%であった。

2013年7月2日、Unwired Planetは、Huaweiに対して、Ericssonから得たインフラ特許

の購入の意思の有無についてアプローチした。しかし、2013年8月22日に、Huaweiは、

Ericssonの特許の取得に興味がないことを知らせた。

2013年9月13日、Unwired Planetのライセンス・標準担当の副社長であったSaru氏は、

HuaweiのGuo Ping氏と創業者兼CEOであるRen Zhenfei氏に対して、2013年10月にライ

センス締結の交渉を行う要請をレターで送ったが、返信がなかった。その後、Unwired

Planetは、2013年11月25日まで追加のレターを送付しなかった。

2013年11月25日、Unwired Planetは、HuaweiのIP部門にコンタクトし、Huaweiは非

常に迅速に対応した。2014年1月13日、Huaweiは、Unwired Planetにクレームチャートの

作成を請求した。2014年1月16日、Unwired Planetは、秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure

Agreement)の下でチャートを作成することに同意し、そのNDA案を通知した。2014年1

月29日、Huaweiは、異なるNDA案を提案し、同日、Unwired Planetは、それを考慮する

旨をHuaweiに返答した。Unwired PlanetのSaru氏は、HuaweiのNDA案を契約弁護士に

渡して検討したが、訴訟が始まった2014年3月10日まで、それ以上の連絡はなかった。

Unwired Planetは、Ericssonからさらに特許を取得し、2014年3月のLenovoとの契約完

了後、SEPを30ファミリー所有すると主張した。

Unwired Planetは、特許侵害訴訟を容易にするため、2014年2月27日にEricssonの同意

を得た。そして、2014年3月5日、Unwired Planet役員会で訴訟について承認された。

2014年3月10日、Huaweiは、Unwired PlanetのSaru氏から、Unwired PlanetがHuawei

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に対して、英国とドイツで特許権侵害訴訟を提起することを決定したとの電子メールを受

け取った。Unwired PlanetとHuaweiの間のこれまでのコンタクトは、NDA条件に関連し

ており、HuaweiはUnwired Planetからのコメントを待っている状況であった。同日、

Unwired PlanetはHuawei、Samsung、Google及びドイツのHTCに対して英国とドイツで

特許侵害訴訟を提起した。

2014年6月、Unwired Planetは、HuaweiとNDAを完了した。Unwired Planetは、2014

年4月のライセンス提案(非SEPを含む)の後、2014年7月にもライセンス提案をした。そ

の提案は、SEPのみであり、全世界ポートフォリオの実施料率に関するものであった。

2015年6月、裁判所の指示の下、両社がライセンス条件を提示した。Unwired Planetは、

全世界ポートフォリオのライセンス、英国ポートフォリオのライセンス、ライセンシーが

選択するSEPの特許ごとのライセンスの実施料を提示した。一方、Huaweiは、本件に関連

する英国のSEPの特許ごとのライセンスの実施料を提示したが、合意に至らなかった。そ

の後、2016年8月1日に、両社とも新たなライセンス条件を提示した。Unwired Planetは、

実施料率を下げた全世界ポートフォリオのライセンス及び英国ポートフォリオのライセン

スの実施料を提示した。Huaweiは、一部実施料を上げたが、特許ごとのライセンス実施料

を提示した。その後、2016年10月11日には、Huaweiは、特許ごとのライセンス実施料を

修正し、英国ポートフォリオのライセンスの実施料も提示したが、全世界ポートフォリオ

のライセンスについては何も提示しなかった。

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2. 判示事項

裁判所は、法律上の結論、事実上の結論、及び救済に関し、以下のとおり判示した。

(1) 法律上の結論

(ⅰ)フランス法の問題として、ETSIに対するFRAND保証は、実施者が特許権者に対し

て期待できる法的強制義務である。FRANDについて、英国裁判所で司法判断し強制するこ

とができる。

(ⅱ)FRAND保証を強制するために競争法に頼る必要はなく、実施料はFRAND条件での

実施料を上回っても、競争法に反するわけではない。

(ⅲ)FRANDとなるライセンス条件は1組しかない。与えられた一連の状況において、2

つの条件は存在し得ない。そうすればFRAND保証を強制することができる。

(ⅳ)FRAND宣言だけでは、実施者がライセンスを供与されたことにならない。SEPに関

するFRANDの法的効果は、(適切な方法で解決した)FRAND条件でライセンスを取得す

るための無条件の宣言を行う実施者がSEPを実施する場合、差止めの対象にならないこと

である。裁判所がFRANDであると認めるライセンス条件を拒否した実施者が、有効な特許

を侵害した場合、差止めの対象となる可能性がある。

(ⅴ)FRANDは、ライセンス条件だけでなく、ライセンス交渉のプロセスでも適用される。

実施者はETSIに対するFRAND義務を負わないが、特許権者のFRAND義務を利用したい

と望む実施者は、FRAND方式で交渉しなければならない。

(ⅵ)交渉の申出がFRANDの実施率よりも高い又は低い実施料を含んでいても、交渉を混

乱又は害することがない場合には、その交渉は正当なものである。

(ⅶ)FRANDのロイヤルティを決定する適切な方法は、特許権者のポートフォリオの価値

に応じた基準レート(benchmark rate)を決定することであり、これがFRANDとなり得

る。ライセンシーの規模によって料金は変わらず、これによりホールドアップとホールド

アウトが排除される。小規模な新規参入者は、既存の大企業と同じ基準に基づくロイヤル

ティを支払いが求められる。

(ⅷ)FRANDの非差別条項は、基準よりも低い実施料率を要求するライセンシーを正当化

する厳しい(hard-edged)要素を構成するものではない。なぜなら、実際に差異のある低

い実施料率であっても、同じ状況(similarly situated)のライセンシーに与えられている

からである。FRANDがそのような要素を含むのであれば、その差異が2つのライセンシー

間の競争を歪ませる場合にのみ、その義務が適用される。

(ⅸ)利用可能な場合は、比較可能なライセンスを使用することによりFRANDの実施料率

を決定することができる。自由に交渉されたライセンスは、FRANDとなり得る証拠となる。

Page 333: 標準必須特許を巡る紛争の 早期解決に向けた制度の在り方に …...(2)標準必須特許の適切なライセンス交渉の進め方や合理的なロイヤルティの算定

- 305 -

関連するSEPにおける特許権者のシェアを決定し、それを標準の累積ロイヤルティに適用

することによって実施料率を設定するトップダウン方式も使用することができるが、これ

はクロスチェックとして有用である。

(ⅹ)FRANDの実施料率を評価する上で、特許数が不可欠である。

(ⅺ)SEP保有者の支配的地位の評価では、FRANDの実際の効果と実施者によるホールド

アウトの可能性が考慮され、SEP保有者が支配的地位にないという結論に至る可能性もあ

る。

(ⅻ)Huawei v ZTEの欧州司法裁判所(CJEU:Court of Justice of the European Union)

の判決から導き出される原則は以下のとおりである。

① Huawei v ZTEの判決において、CJEUは、標準に必須であると宣言された特許と

FRAND保証の対象について、特許権者と実施者の両方が紛争の中で従うことが期待さ

れるスキームを提示した。

② 実施者と特許権者がFRAND条件でライセンスを締結する意思を表明しなければなら

ないと述べるに当たり、CJEUは一般的な用語として意思(willingness)を参照してい

る。具体的な提案も必要であるという事実は、それらの提案が実際にFRANDであるか

否かを要求することが適切であるという意味ではない。

③ 差止請求を含む特許の侵害の主張を始める前に、特許権者がこのスキームを遵守してい

る場合、その主張が欧州連合競争法(TFEU:Treaty on the Functioning of the European

Union)102条の下で濫用となることはない。これは、CJEUの判決に対応している。

④ CJEUが想定する状況では、何らかの種類の事前通知なしに差止請求を含むSEP侵害の

主張を行うことは、必然的に支配的地位の濫用となる。その決定が濫用であることを特

定している限り、その決定はそれ以上進むことはない。

⑤ 十分な通知があっても差止請求を含む侵害訴訟を提起することは、支配的地位の濫用を

構成する可能性がある。しかし、そのスキームから何らかの形で状況が逸脱した場合に、

特許権者が訴訟を開始することによって必然的に支配的地位を濫用するという判断は

維持されない。その場合には、特許権者の行為が濫用的ではない場合がある。このスキ

ームは、濫用が発生した場合に、全ての状況において両当事者の行動を考慮し判断する

ことができる行動基準を示している。

⑥ 特許権者が訴訟を提起すること自体が濫用的ではないようなスキームに従えば、特許権

者は訴訟提起後も責任を問われることなく行動することができる。

⑦ 特許権者が訴訟を提起する際に、または提起後の行為において、支配的地位を濫用した

場合、実施者には差止請求の主張に対する抗弁を与えられる。言い換えれば、たとえ特

許が有効で侵害されていることが判明し、実施者にライセンスがない場合でも、適切な

救済手段として、差止請求が拒否される可能性が高い。

⑧ 本件の法的状況は、重大な点においてCJEUが想定している状況と異なる。FRANDは、

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司法判断可能なものであり、TFEU102条とは無関係に被告の訴訟において効果的に強

制することができる。被告は、差止請求に対する抗弁のためにTFEU102条を必要としな

い。

(2) 事実上の結論

(ⅰ)Unwired Planetの申出(2014年4月、2014年6月、2015年6月又は2016年8月)、及

びHuaweiの申出(2015年6月、2016年8月又は10月)はFRANDではない。

(ⅱ)FRANDでの実施料率の基準値は、以下のとおり算定する。Unwired Planetが対象

特許をEricssonから買収したため、Ericssonの2G、3G及び4GのSEPのポートフォリオの

ライセンス条件が参考になる。そして、このライセンス条件を基に、Unwired Planetの2G、

3G及び4GのSEPのポートフォリオの実施料率は、Ericssonの2G、3G及び4GのSEPのポー

トフォリオの実施料率に、Ericssonのポートフォリオに対するUnwired Planetのポートフ

ォリオの相対的な強さの値Rを乗じたものである。

Unwired Planetに対して当てはめるための、Ericssonの4GのSEPの価値を測る実施料

率として使用する適切な値Eは、0.80%である。Ericssonの2G及び3GのSEPの値Eは0.67%

である。

4Gにおいて、Ericssonのポートフォリオに対するUnwired Planetのポートフォリオの相

対的な強さの値Rは、7.69%である。2G、3G、及び4Gの値Rは、2.38%から9.52%の範囲

である(詳細は、下表参照)。

Unwired PlanetのポートフォリオのFRANDでの実施料率の基準値は、E×Rによって、

以下のとおりとなる。なお、携帯電話端末の3G及び4Gについては、マルチモードの値を示

している(以下同様)。

Ericsson

の実施料

Ericssonのポートフ

ォリオに対する相対

的な強さ

FRAND で

の実施料率

の基準値

特 許

の シ

ェア

累 積 ロ イ

ヤ ル テ ィ

の値

E R E×R S T

携帯

電話

端末

2G/GSM 0.67% 9.52% 0.064% 1.30% 4.9%

3G/UMTS 0.67% 4.76% 0.032% 0.57% 5.6%

4G/LTE 0.80% 7.69% 0.062% 0.70% 8.8%

イン

フラ

2G/GSM 0.67% 9.52% 0.064% 0.75% 8.5%

3G/UMTS 0.67% 2.38% 0.016% 0.51% 3.1%

4G/LTE 0.80% 8.95% 0.072% 1.02% 7.0%

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(ⅲ)クロスチェックとして、累積ロイヤルティを出発点とするトップダウン方式を用い

る。この方式は、米国におけるInnovatio事件(2012年)や日本におけるSamsung v. Apple

事件でも用いられている。本方式では実施料率はT×Sとなる。値Tはある製品における実

施料率額(例えば4GのSEPの実施料率を携帯電話端末の価格に乗じたもの)、値Sは全SEP

の累積ロイヤルティに対するUnwired Planetの特許のシェアである。値Tを算出するため

に、Ericssonや他のSEP保有者による特許数を参照する。

各値S及びTは上記表のとおりである。4G携帯電話端末に関連する全SEPにおける

Unwired Planetのシェアの値Sは、0.70%である。インフラと携帯電話端末の2G、3G、及

び4Gに関するシェアの値Sは、0.21%6から1.30%である。

クロスチェックとして、4G携帯電話端末に対する累積ロイヤルティの値Tは、8.8%であ

る。インフラと携帯電話端末の2G、3G、及び4Gの値Tは、3.1%から8.8%である。これら

の累積ロイヤルティの値Tは適切な範囲内に収まっている。

厳しい(hard-edged)非差別の問題に対して、これらの実施料率の基準値がFRANDであ

ると判断する。

(ⅳ)英国のポートフォリオのライセンスはFRANDではなく、Unwired PlanetとHuawei

の間のFRANDライセンスは、世界的ライセンスである。

FRANDの世界的ライセンスでは、中国における実施料率は基準より大幅に低くなる。こ

こでは、中国での実施料率の基準値は、FRANDによる実施料率の基準値の50%とされた。

中国以外では、主要市場とその他の市場に分かれる。その他の市場での実施料率は、商品

が製造されているので、中国の実施料率と同じになる。また、実施料率の基準値は英国の

関連するSEP数を参照しているため、各市場での関連SEP数を使用して調整する。

世界的ライセンスの実施料率は以下の表のとおりであり、これらはFRANDである。

6 判例では、3G 携帯電話端末の値 S が 0.21%であり、マルチモードで 0.57%(表の値)とされている。

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主要市場

FRAND で

の実施料率

の基準値

基 準 値 導

出 用 SEP

フ ァ ミ リ

ー数

主要市場で

の関連SEP

ファミリー

主要市場での

関 連 SEP フ

ァミリーの割

主 要 市 場

で の 実 施

料率

E×R D F F/D E×R

×F/D

携帯

電話

端末

2G/GSM 0.064% 2 2 100% 0.064%

3G/UMTS 0.032% 1 1 100% 0.032%

4G/LTE 0.062% 6 5 83% 0.052%

イン

フラ

2G/GSM 0.064% 1 1 100% 0.064%

3G/UMTS 0.016% 2 2 100% 0.016%

4G/LTE 0.072% 7 5 71% 0.051%

中国及びその他の市場

FRANDで

の 実 施 料

率 の 基 準

中国の実

施料率の

基 準 値

(50%)

基 準 値

導 出 用

SEP フ

ァ ミ リ

ー数

中 国 で

の 関 連

SEP フ

ァ ミ リ

ー数

中国での

関連SEP

ファミリ

ーの割合

中 国 で の

実施料率

E×R E×R×

50%

D F F/D E×R×

50%×F/D

携帯

電話

端末

2G/GSM 0.064% 0.032% 2 1 50% 0.016%

3G/UMTS 0.032% 0.016% 1 1 100% 0.016%

4G/LTE 0.062% 0.031% 6 5 83% 0.026%

イン

フラ

2G/GSM 0.064% 0.032% 1 1 100% 0.032%

3G/UMTS 0.016% 0.008% 2 1 50% 0.004%

4G/LTE 0.072% 0.036% 7 5 71% 0.026%

(ⅴ)TFEU102条及び英国競争法(1998年)18条に関し問題となるのは、Unwired Planet

が関連する市場において支配的地位を有しているかどうか、もし有しているのであれば支

配的地位を濫用しているかどうかである。

関連する市場は、SEPのライセンス市場であり、SEP所有者が100%のシェアを有する市

場である。適切な経済分析が行われた場合には結論が異なるかもしれないが、本件では、

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SEP所有者としてUnwired Planetは支配的な地位にある。

Unwired Planetは、時期尚早に差止めの手続を行い、差止めの主張を維持し、世界的ラ

イセンスを主張し、不公正な価格を課そうとし、又は、SEPと非SEPとを一まとめにした

としても、支配的地位を濫用したとは認められない。

すなわち、Unwired Planetは、差止請求を申請する前にHuaweiへFRAND条件を提示し

ていなかったが、差止請求の手続き前にある程度の連絡を行っているため、Unwired

Planetの訴訟提起は常に濫用となるものではない。また、Unwired PlanetとHuawei間の

オファーは交渉の一環で行われたものであり、必ずしも不公正な価格設定が競争法違反と

なるものではない。Unwired Planetは、当初SEPと非SEPとを一まとめにライセンス対象

としていたが、Huaweiからの依頼に応じてSEPと非SEPとを分離したため、その点でも濫

用とはならない。

(ⅵ)Unwired PlanetはHuaweiが有効な特許EP(UK)2229744とEP(UK)1230818を

侵害していることを立証している。また、世界的ライセンスがFRANDであると認められる

が、Huaweiは世界的ライセンスの取得を拒否しており、FRANDであると認められる条件

でライセンスを取得する準備を行っていない。さらに、Unwired Planetは競争法に違反し

ていない。したがって、Huaweiによる特許侵害に対して 終的な差止めが認められるべき

である。

(ⅶ)Unwired Planetが、この判決でなされた決定を組み込んだ全世界ライセンス条件を

作成した上で、 終的な差止めは数週間以内の聴聞会で考慮される。

(ⅷ)損害賠償額は、適切なFRANDの実施料と同じである。

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(3) 救済7

(ⅰ)Huaweiに対する「FRAND差止め(FRAND injunction)」を認める。FRAND差

止めは、HuaweiがFRANDライセンスを受け入れた場合に失効する。本件のFRANDライ

センスは2021年12月31日に期限が切れるが、期間満了後については、その時の状況によ

って異なる。また、FRAND差止めは、控訴により保留が維持されるが、控訴のために

は、その間の適切な支払いの確保が条件となる。

(ⅱ)合意したライセンス(Settled Licence)の条件について宣言がなされるべきであ

る。宣言は、合意したライセンスに当事者間の状況におけるFRAND条件が含まれること

を規定する。

(ⅲ)Huaweiは、Unwired Planetの訴訟(non-technical trial)にかかった費用の一部

を支払わなければならない。それはSamsungの問題(TFEU101条のケース)に関する手

続きの費用とFRANDレートの問題に関する費用である。Huaweiは、290万ポンドの費用

を支払う必要がある。

(ⅳ)控訴院(Court of Appeal)への控訴を認める。世界的ライセンスの問題、厳しい

非差別の問題、及びHuawei v ZTEの問題についてHuaweiの控訴を許可する。

世界的ライセンスの問題は、複数の条件がFRANDとなる可能性があること、裁判所は

英国のライセンスをFRANDであると判断すべきであって、英国以外の料金を含めて

FRAND条件を決定すべきではないという可能性があること、世界的ライセンスを取得し

ない限り英国市場からHuaweiを排除する差止命令を認めることは妥当ではない可能性が

あることを含む。厳しい非差別の問題の重要な議論は、競争の歪みについての裁判所の判

断が正しいか否かである。Huawei v ZTEの問題は、差止めによる救済及び支配的地位の

濫用の判断においてHuawei v ZTEの適用に誤りがある可能性があるという問題である。

また、融合(blend)された世界的な基準の問題についてUnwired Planetの控訴を許可

する。この問題は、裁判所が融合された基準の世界的な性質を考量に入れていない可能性

があるという問題である。

7 聴聞の結果を踏まえて、The UK High Court of Justice, Unwired Planet v. Huawei, Decision of 7 June. 2017,

[2017] EWHC 1304 (Pat)で判示された。

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Ⅳ. Microsoft v. Motorola (US, 2013)8

■Microsoft Corp. v. Motorola, Inc.,

・United States District Court Western District of Washington,

No.10-cv-1823-ORD, 判決日:2013 年 4 月 25 日

・United States Court of Appeals for the Ninth Circuit,

No.14-35393, 判決日:2015 年 7 月 30 日

○FRAND 宣言済み特許が関連する事案における実施料の算定方法について判示した事

例。

【実施料額】=【基準実施料額】

×【配分比率】

×【パテントプールに参加する価値】

○FRAND の義務は、標準化団体との間の法的強制力のある契約であるとし、FRAND 宣

言済み特許に関する特許侵害において差止めによる救済は不適切であると判断した。

1. 事件の概要

Motorola, Inc.(以下「Motorola」という。)は、動画圧縮規格 H.264(以下「H.264」と

いう。)の標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)16 件及び無線 LAN 規格

IEEE802.11(以下「Wi-Fi」という。)の SEP11 件を保有している。そして、Motorola は、

関連する標準化団体に FRAND 条件下でライセンス提供する旨を宣言している。

Motorola は、それらの特許に関して、Microsoft Corp.(以下「Microsoft」という。)に

対し、 終製品(Xbox 等)の販売金額の 2.25%の実施料を要求する旨のライセンス提案書

を送付した。それに対し、Microsoft は、Motorola のライセンス提案書で提示された許諾

条件はFRAND義務に反する債務不履行に該当すると主張し、契約違反を理由に、Motorola

に対して、米国ワシントン州西部地区連邦裁判所(以下「地裁」という。)に本件訴訟を提

起した

これを受け、Motorola は、ドイツを含む Microsoft の欧州の物流拠点が所在する地域で

Microsoft の製品の使用差止めを申し立てた。これに対し、Microsoft は、物流拠点をオラ

ンダに移した上で、FRAND の義務が侵害による差止めの申立てを禁じていることを理由

8 上地睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 119-133頁(2015 年) https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_119-133.pdf [ 終アクセス

日:2017 年 12 月 20 日], 小林和人「標準規格必須特許の RAND 実施料率に関する裁判例-マイクロソフト社対モト

ローラ社米国訴訟(事件番号 10-CV-1823)-」パテント 67 巻 5 号 46-57 頁(2014 年) https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201406/jpaapatent201406_046-057.pdf [ 終アクセス日:2017 年 12 月

20 日] を基に作成。

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に、これらの差止め行為が契約違反を構成すると主張するように訴状を訂正した。

2. 第一審の判示事項

(1) Georgia-Pacific factors の修正

地裁は、合理的な実施料の算定に際し、FRAND の観点で、Georgia-Pacific factors は修

正されなければならないとした。修正された Georgia-Pacific factors は以下のとおりであ

る。

No. Georgia-Pacific factors 修正された Georgia-Pacific factors

1 特許ライセンスに対するロイヤルテ

ィ実施料(確定実施料)

確定実施料は FRAND 義務又は同等の条件

下で交渉されたものとすべき

2 他の同等の特許についてライセンシ

ーが支払った実施料率

修正なし

3 独占的又は非独占的、地域制限や顧客

制限といったライセンスの性質や範

修正なし

4 ライセンサーの既存のポリシーとマ

ーケティングプログラム(非許諾・独

占実施、限定した実施許諾等)

FRAND 宣言を考慮すると、考慮すべきで

ない

5 競業他社であるかといったライセン

サーとライセンシーの商業的関係

FRAND 宣言を考慮すると、考慮すべきで

ない

6 特許技術の販売がライセンシーの他

製品の販売を促進する影響

特許技術の価値と標準規格に採用された価

値を区別して考慮すべき

7 特許の存続期間やライセンス期間 修正なし

8 特許製品の確立した利益、商業的成

功、その現在の普及度

特許技術の価値と標準規格に採用された価

値を区別して考慮すべき

9 既存製品と比較した際の特許の有用

性と利点

特許に関する技術の代わりに標準規格に記

載し得た代替技術と比較すべき

10 特許発明の性質、ライセンサーによる

事業実体の特長、利用者の利益

特許技術の価値と標準規格に採用された価

値を区別して考慮すべき

11 侵害 sy が発明を利用する程度、利用

の価値の立証証拠

特許技術の価値と標準規格に採用された価

値を区別して考慮すべき

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No. Georgia-Pacific factors 修正された Georgia-Pacific factors

12 特定の業界の慣習として発明の使用

で見込まれる利益又は販売価格にお

ける部分

FRAND 宣言された特許のライセンスビジ

ネスの商習慣を考慮すべき

13 発明に起因して実現される利益の部

分(特許発明以外の要素、製造過程、

ビジネスリスク、侵害者による顕著な

特徴や改良からくべつされるもの)

特許技術の貢献と標準規格に採用された価

値を区別して考慮すべき

14 専門家の意見、証言 修正なし

15 合理的、自主的に交渉を行った場合、

侵害開始時に合意したであろう実施

SEP権利者はホールドアップとスタッキン

グを回避して、標準規格を後半に普及させ

る FRAND 宣言の目的に従うべき

(2) FRAND 実施料の算定9

地裁は、上記のように Georgia-Pacific factors を修正した上で、本件 H.264 及び Wi-Fi

の SEP をめぐる仮想交渉があれば当事者が合意に至ったと推測される FRAND 実施料を

算定した。

(ⅰ) H.264 の SEP の FRAND 実施料

① FRAND 実施料の算定

地裁は、既存の MPEG LA H.264 パテントプールを FRAND 実施料の指標と決定し、さ

らに実施料の算定のためのシナリオとして「Motorola 及び他の H.264 特許権者等が全て

現在と同じ実施料のレートの条件下でプールに加入したときに、Motorola が実施料を受け

取る場合」が適切であると判断し、その場合の実施料を 0.185 セント/台とした。

さらに、MPEG LA H.264 パテントプールのメンバーである価値(パテントプールに参

加する価値)について、証拠によれば、H.264 の SEP に対して受け取る権利の約 2 倍の額

を Microsoft が MPEG LA H.264 パテントプールへ支払っているため、MPEG LA H.264

パテントプールのメンバーであることは実施料として受け取る少なくとも 2 倍の価値を与

えるものであると地裁は判断した。

したがって、地裁は、Motorola の H.264 の SEP ポートフォリオの実施料について、上

9 上地睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 123 頁

(2015 年)によると、本件における実施料の算定方法は以下のように記載できる。 【実施料額】=【基準実施料額】×【配分比率】×【パテントプールに参加する価値】

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記シナリオの実施料(0.185 セント/台)に、その実施料の 2 倍の価値(MPEG LA H.264

パテントプールの知財権にアクセスできる価値)を加えたものになるとした。すなわち、

H.264 の SEP の FRAND 実施料を、0.555(=0.185+2×0.185)セント/台と算定した。

② 下限の算定

地裁は、0.555 セント/台を Motorola の H.264 の SEP ポートフォリオの実施料範囲の

下限と判断し、証拠からはこの下限を増額する理由は見出せないとした。

③ 上限の算定

地裁は、ロイヤルティ・スタッキングの問題を考慮し、FRAND 実施料の上限を算定し

た。

まず、地裁は、証拠から FRAND 実施料率の高い も好適な事例を探し、MPEG LA 形

成時の議論の中で、キャップ(上限)無しで 1.50 ドル/台とする事例を見つけ出した。さ

らに、上記シナリオにおける Motorola への配分比率(pro rata share)は 3.642%である

ため、Motorola が受け取りうる額は 0.05463(=1.50×3.642%)ドルであるとした。そして、

上記実施料の算定と同様に、実施料の 2 倍の価値を加えて、実施料範囲の上限を

0.16389(=0.05463+2×0.05463)ドル/台と算定した。

④ FRAND 実施料の結論

結論として、地裁は、Motorola の H.264 の SEP ポートフォリオの FRAND 実施料を

0.555 セント/台、FRAND 実施料の上限を 16.389 セント/台、FRAND 実施料の下限を

0.555 セント/台とした。この実施料及び範囲は、Windows と Xbox の両方に適用され、

その他の H.264 搭載製品については下限である 0.555 セント/台が適用されるとした。

(ⅱ) Wi-Fi の SEP の FRAND 実施料

① FRAND 実施料の算定

地裁は、既存の VIA Licensing 802.11 パテントプールを FRAND 実施料の指標とみな

し、実施料を 6.114 セント/台と算定した。

また、地裁は、第三者による半導体ライセンスの商慣習を参考にするため、Marvell

Semiconductor, Inc.(以下「Marvell」という。)の実施料を指標として認め、Marvell が

請求している 3〜4 セント/台(チップの 終販売価格に依存する)を、Motorola の SEP

の FRAND 実施料として考慮するとした。

さらに、地裁は、Motorola の Wi-Fi の SEP の特許ライセンス評価を行った InteCap,

Inc.(以下「InteCap」という。)の評価を第3の指標として検討し、InteCap の指標を調

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整した結果、FRAND 実施料は 0.8〜1.6 セント/台とした(標準及び製品への重要性を考

慮して下限 0.8 セント/台を採用する)。

以上の3つの平均をとることが合理的であるため、地裁は、Wi-Fi の SEP の FRAND 実

施料を、3.471 セント(=(0.8+3.5+6.114)/3)/台と算定した。

② 下限の算定

地裁は、FRAND 実施料の下限について検討した結果、証拠が不足していることから、

InteCap の実施料 0.8 セント/台を下限とした。

③ 上限の算定

地裁は、FRAND 実施料の上限を検討した結果、Microsoft が、Wi-Fi の SEP に基づく

実施料を確定させようとした際に提示した 6.5 セント/台を採用し、上記 H.264 の実施料

算定と同様に 6.5 セント/台の 2 倍を 6.5 セント/台に加えた 19.5 セント/台を上限とし

た。

④ FRAND 実施料の結論

結論として、地裁は、Motorola の Wi-Fi の SEP ポートフォリオの FRAND 実施料を

3.471 セント/台、FRAND 実施料の上限を 19.5 セント/台であり、FRAND 実施料の下

限を 0.8 セント/台とした。この実施料及び範囲は、Xbox に適用され、その他の Wi-Fi 搭

載製品については下限である 0.8 セント/台が適用されるとした。

(3) 差止命令

地裁は、Motorola による FRAND の義務は、Motorola と標準化団体との間に法的強制

力のある契約であるとし、Microsoft のような実施者は第三者の受益者としてこれらの契約

の履行を求めることができると判断した。 終的に、地裁は、差止めによる救済は不適切

であると判断した。

(4) 陪審審理

その後、地裁の陪審員は、Motorola の FRAND 契約義務違反を認め、Microsoft に、移

転による損害賠償額及び弁護士費用と差止請求に関する費用 1450 万ドルの損害賠償金を

支払うように命じた。

Motorola は、陪審審理の決定及び地裁が FRAND 料率を算定するのに用いた方法を不

服として連邦巡回区控訴裁判所(CAFC:United States Court of Appeals for the Federal

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- 316 -

Circuit)へ控訴した。

3. 第二審の判示事項

CAFC は、事件を第9巡回区控訴裁判所(以下「第9巡回裁判所」という。)へ移した。

特許権侵害あるいは有効性に関する争点を持たない賠償額の計算方法に関してCAFCが管

轄権を行使したことがなかったので、第9巡回裁判所はこの移送に同意した。

第9巡回裁判所は、地裁による FRAND 実施料の判断における法的分析を支持した。

Georgia-Pacific factors のいくつかは FRAND の原則と反していることから、第9巡回裁

判所は、FRAND の事件では Georgia-Pacific factors を柔軟に取り入れることが必要であ

ると判断した。また、第9巡回裁判所は、Motorola はこの分析によって不利益を受けるこ

とはなく、地裁は Motorola の他のライセンスは FRAND 実施料の証拠とはならないと合

理的に判断したと述べた。

第9巡回裁判所は、その他、全面的に地裁の判断を支持した。

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- 317 -

Ⅴ. Innovatio v. Cisco (US, 2013)10

■Innovatio IP Ventures, LLC v. Cisco Systems, Inc.

・United States District Court Northern District of Illinois,

No.11-C-09308, 判決日:2013 年 9 月 27 日

○FRAND 宣言済み特許が関連する事案における実施料の算定方法について判示した事

例。

【実施料額】=【製品の平均価格】

×【平均利益率】

×【特許の標準への貢献度】

×【特許保有件数】

÷(【必須特許総件数】×【重要特許比率】)

1. 事件の概要

本件は、無線 LAN 規格 IEEE802.11(以下「802.11」又は「Wi-Fi」という。)の標準必

須特許(SEP:Standard Essential Patent)23 件を有する Innovatio, LLC(以下「Innovatio」

という。)が、喫茶店、レストラン等の端末利用者(以下「無線 LAN ユーザ」という。)に

対し、無線 LAN ユーザによる顧客への無線 LAN サービスの提供等が、特許侵害に該当す

るとして提訴した事件である。これに対し、無線 LAN ユーザに無線 LAN 装置を納入して

いる Cisco Systems, Inc.及び他の無線 LAN 装置メーカ(以下「Cisco」という。)が、

Innovatio の特許権の無効と同特許権侵害の不存在の確認を求めて提訴し、さらに

Innovatio が、当該無性 LAN 装置も特許権を侵害しているとして反訴し、その後、全ての

訴訟がイリノイ州北部地区連邦裁判所(以下「地裁」という。)に併合された。

Innovatio は、典型的な特許不実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)と言われてお

り、自ら製品の製造・販売を行わずに特許を他社から購入してライセンスすることでライ

センス収入を得ている。対象の特許は、2011 年 2 月 28 日に、Innovatio が、創業者の

Whitley 弁護士の古巣である Broadcom から購入した SEP である。

10 上地睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 119-133頁(2015 年)https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_119-133.pdf [ 終アクセス日:

2017 年 12 月 20 日], 鶴原稔也「技術標準に係わる必須特許と IPR ポリシー~FRAND 条件とは何か,権利行使を制

限すべきか?~」特技懇 273 巻 55-74 頁(2014 年) http://www.tokugikon.jp/gikonshi/273/273kiko1.pdf [ 終アク

セス日:2017 年 12 月 20 日], 沖哲也「世界の FRAND 判例 Vol.4」The Invention 2016 7 号 52-55 頁(2016 年)を

基に作成。

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2. 判示事項

(1) 実施料の算定基準

地裁は、適切な実施料の算定基準について、「製品全体」ではなく、「発明を具現する部

分で、価格をつけることができる 小販売可能ユニット(SSPPU:Smallest Salable

Patent-Practicing Unit)」を実施料の基礎とすべきであると判示した LaserDynamics 判

決を引用し、本件において、「発明を具現する部分で、価格をつけることができる 小販売

可能ユニット」は、無線 LAN チップであると認定した。すなわち、Innovatio が主張する、

終製品の価値を特許の価値に配分するアプローチを確実に適用することはできず、立証

も不十分であるため、無線 LAN チップをベースに実施料を算定するとした。

(2) 標準に対する特許の重要性

地裁は、Innovatio の特許の価値を評価するにあたり、当時の代替的技術が完璧でないた

め、対象の特許ポートフォリオは標準にとって中程度又は中程度から高度の重要性を有す

るとした。

(3) FRAND 実施料の算定11

地裁は、本件において FRAND 条件による実施料率の算定に適した比較可能なライセン

スが存在しないため、代わりに当事者が提案した算定方法の中からトップダウンアプロー

チを採用するとした。トップダウンアプローチの重要な利点は、第1に、半導体チップメ

ーカの半導体チップの販売における利益マージンを潜在的な 大ロイヤルティとすること

によって、FRAND ライセンスにおける非差別の原則とロイヤルティ・スタッキングの懸

念の両方に対処できること、第2に、配分の達成のために比較可能となり得る(もしくは

ならない)その他のライセンスについての情報に頼ることなく、Innovatio の特許された機

能の価値を配分できること、第3に、FRAND 分析に定量的かつ分析的な厳密さを提供で

きること、第4に、Innovatio の特許の重要性が標準に対して中程度から高度であり、平均

的な 802.11 の SEP よりも重要であるという結論を、定量的な厳密さと客観的な検証可能

性を犠牲にすることなく説明する手段を提供できること、である。

11 上地睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 123 頁

(2015 年)によると、本件における実施料の算定方法は以下のように記載できる。 【実施料額】=【製品の平均価格】×【平均利益率】×【特許の標準への貢献度】

×【特許保有件数】÷(【必須特許総件数】×【重要特許比率】)

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地裁が採用したトップダウンアプローチのステップは以下のとおりである。

(a) まず、特許存続期間中のチップの予想平均価格を 14.85 ドルと推定する。

(b) 次に、予想平均価格に、平均売上高利益率(12.1%)を乗算し、製品単位当たりの利益

を 1.8 ドル(製品単位当たりの実施料総額の上限)とする。

(c) そして、Innovatio の保有する特許ポートフォリオが 802.11 の SEP 全体の重要度の中

で上位 10%に含まれると認定し、電気分野では上位 10%の特許が標準全体価値の 84%

を占めるとの論文を元にして、これらの比率を上記 1.8 ドルに乗算し、1.51 ドル(こ

れは上位 10%に入る特許の価値を表す)と算定する。

(d) 後に、全世界において、Wi-Fi の SEP は約 3000 件あると推定し、そのうち Innovatio

が有する 19 件(23 件のうち 4 件の特許については、いずれのメーカも使用していな

いと原告・被告双方が合意)の特許ポートフォリオは、全て上位 10%の重要な特許で

あると認められるので、上記 1.51 ドルに、当該標準上位 10%の特許全体に占める割合

である 19 件/300 件を乗じる。

地裁は、以上のステップで算定した結果、SEP ポートフォリオの FRAND 条件による実

施料を 9.56 セント/台と判示した。

(4) 他の訴訟で決定された FRAND 実施との比較

地裁は、分析の 終段階として、無線 LAN チップ当たりの FRAND 実施料 9.56 セント

を、他の訴訟で決定された FRAND 実施料と比較することでテストを行った。

Microsoft v. Motorola では、Motorola の 11 件の特許の FRAND ライセンスは、Xbox の

1ユニット当たり 3.471 セントとなり、FRAND レートの合理的範囲は1ユニット当たり

0.8 セントから 19.5 セントであると結論付けられた。

地裁は、本件における無線 LAN チップ当たりの FRAND 実施料は 9.56 セントであり、

Microsoft v. Motorola の合理的範囲内のため妥当であると判断した。また、本件の1ユニ

ット当たり 9.56 セントは、Microsoft v. Motorola の1ユニット当たり 3.471 セントの約 3

倍である。しかし、Microsoft v. Motorola では、Motorola の特許は標準に対して 小限の

価値しかないと判断したのに対して、本件の Innovatio の特許は標準に対して中程度から

高度の重要性があることが判明している。このため、地裁は、2つの実施料の約 3 倍の差

は、802.11 に対する Innovatio の特許の重要性から鑑みて妥当であると判断した。

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Ⅵ. CSIRO v. Cisco (US, 2015)12

■Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation V. Cisco Systems, Inc.

・United States District Court for the Eastern District of Texas Tyler Division, No. 6:11–

cv–343, 判決日:2014 年 7 月 23 日

・United States Court of Appeals for the Federal Circuit, 809 F.3d 1295,

判決日:2015 年 12 月 3 日

○標準必須特許が関連する事案における実施料の算定方法について判示した事例。

【実施料額】=【他社への個別実施料額】×【利益率の比例定数】

1. 事件の概要

本件は、オーストラリア連邦政府の主要な科学研究機関である連邦科学産業研究機構

(CSIRO:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organi-sation)が、無線

LAN ルータの製造・販売を行う Cisco Systems, Inc.(以下「Cisco」という。)に対して特

許権を侵害したとして、米国テキサス州東部地区連邦裁判所(以下「地裁」という。)に提

訴した事件である。

CSIRO は、無線 LAN に関する研究開発を行い、本件の対象特許である米国特許第

5,487,069 号(以下「069 特許」という。)を保有している。069 特許は、無線 LAN 規格

IEEE802.11(以下「802.11」又は「Wi-Fi」という。)の標準必須特許(SEP:Standard

Essential Patent)である。

(1) FRAND 宣言の有無

1998 年、CSIRO は、069 特許が 802.11a に必須なものであれば、RAND 条件でライセ

ンスするという保証書を米国電気電子学会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics

Engineers)に提出した。IEEE は、その後の規格の改訂13のために、CSIRO からそれらに

ついてもライセンスの許諾等の保証書を求めたが、CSIRO はそれを拒否している。

12 吉田秀昭「世界の FRAND 判例 Vol.6」The Invention 2016 9 号 44-47 頁(2016 年), 上地睦「FRAND をめぐる

裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 119-133 頁(2015 年) https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_119-133.pdf [ 終アクセス日:2017 年 12 月

20 日] を基に作成。 13 069 特許は、その後の規格である 802.11(g/n/ac)にも必須であるとされている。また、069 特許は、802.11b に

は含まれない。

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(2) 交渉等の経緯

1998 年 2 月、CSIRO は、Cisco が設立に参画した Radiata Communications(以下

「Radiata」という。)との技術ライセンス契約(TLA:Technology License Agreement)

を締結した。これは、無線 LAN チップの売上げに応じて実施料率が変動するもの14である。

2001 年、Cisco は、Radiata を買収し、TLA を基に CSIRO に実施料を支払い始め、2017

年まで支払い続けた。この契約は、数回修正されたが、無線 LAN チップをロイヤルティベ

ースとした実施料率という一般概念は維持された。

2003 年、CSIRO は、CSIRO の子会社である Linksys を含む無線業界の参加者に、以下

の内容のレターを送った。このレターは、「CSIRO の特許は、少なくとも 802.11a と 802.11g

に適合する無線通信の製品及び方法を包括する。IEEE は当社の特許を認識しており、当

社は、合理的で非差別的な基準に基づいて特許をライセンスすることに IEEE と同意して

いる。」という内容である。これは、802.11a のみならず 802.11g についても、CSIRO が

FRAND 条件でのライセンスを提供する用意があると考えられた。しかし、後に、CSIRO

は、レターの受信者に RAND 義務がないことを明確にした。

2004 年 6 月までに、CSIRO は、実施料が「契約受諾までの日数」と「 終製品ユニッ

トの売上げ」に応じて変動する「Rate Card」と呼ばれるライセンス方式を開発した。この

方式では、 も低い実施料は、1 台当たり 1.40 ドルから 1.90 ドルであった。この方式に基

づいて契約するライセンシーはおらず、CSIRO は、Cisco にも同方式に基づく契約を打診

したが、Cisco は応じなかった。

2005 年の議論の中で、Cisco は、非公式に、1 台当たり 0.90 ドルが適切な実施料(Cisco

が 初の TLA で支払っていたものとほぼ等しい)と提案した。

2011 年 7 月、CSIRO は、Cisco が特許権を侵害したとして提訴した。

(3) 当事者の主張

侵害事実と特許有効性については当事者間に争いがなく、争点は損害賠償に絞られた。

2014 年 2 月、地裁は、損害賠償に関する 4 日間のベンチトライアルを行った。裁判では、

当事者同士がそれぞれの見解に基づく損害賠償モデルを示した。

CSIRO は、販売された 終製品ユニットに対して一定の実施料を適用するモデルを提示

した。具体的には、Cisco 製品が 069 特許を含む 802.11(a/g)によるものであること、

069 特許が Cisco 製品の売上げに貢献したことなどを主張し、Georgia Pacific factors(以

下「GP 要素」という。)も考慮して Cisco との仮想ライセンス交渉に基づく合理的実施料

14 チップ当たりの実施料率が、無線 LAN チップの売上数が増えるにしたがって、5%から段階的に 1%にづつ減少す

る。

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は、 終製品ユニット当たり 1.35~2.25 ドルとし、総額 30,182,922 ドルであるとした。

一方、Cisco は、CSIRO と Radiata が締結した TLA に含まれる実施料率に基づいて無

線 LAN チップ単位に実施料を求めるモデルを提示した。具体的には、無線 LAN チップ当

たりの実施料は、Linksys に対しては 0.04~0.37 ドル、Cisco に対しては 0.03~0.33 ドル

とし、 大の実施料は、Linksys で 900,000 ドルを超え、Cisco で 150,000 ドルを超える

とした。

2. 第一審の判示事項

地裁は、以下のように両当事者の主張を退けた上で、FRAND 実施料を算定した。

(1) 当事者の主張に対する判断

地裁は、CSIRO の主張には数多くの不足があり、CSIRO の損害賠償モデルはここで損

害を計算する目的では信頼することができないとした。方法論的な誤りがあるとともに、

その誤りを複合化することに分析上の問題があり、特に、069 特許に起因しない要素に基

づいて、侵害製品と非侵害製品との相違を定量的な方法で適切に配分することに失敗して

いるため、本件において、CSIRO が提案した損害賠償モデルを認めないとした。

また、地裁は、Cisco の主張では TLA へ過度に依存しているため、その損害賠償モデル

全体を信用することができないとした。Cisco と Radiata は CSIRO にとって大きく異な

る状況を示しており、全ての Cisco 製品をカバーするような TLA と同様の契約を CSIRO

が結ぶという証拠はなく、CSIRO のモデルと同様に、Cisco の損害賠償モデルにも欠陥が

あるため、本件において損害賠償額を計算する目的では信頼できないとした。

(2) FRAND 実施料の算定15

地裁は、対象特許の機能が無線 LAN チップ以外に係る機能も有していると認定し、

小販売可能ユニット基準を採用せず、 終製品ユニットである無線 LAN ルータを対象製

品とした。

地裁は、2002 年の CSIRO と Linksys の仮想ライセンス交渉の日が 2003 年の CSIRO

と Cisco の同交渉日に比較的近かったという事実等を考慮して、2004 年の Rate Card 方

式に基づく損害額を独自に算定した。具体的には、地裁は、Linksys がすでにライセンス

15 上地睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号 123 頁

(2015 年)によると、本件における実施料の算定方法は以下のように記載できる。 【実施料額】=【他社への個別実施料額】×【利益率の比例定数】

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を取得済みであり、Linksys の実施料額が 0.65~1.38 ドル/台であること、また、Linksys

より Cisco の売上総利益率が 27.4%大きいことから、Linksys への実施料額を 72.6%で除

算し、Cisco の実施料額を 0.9~1.9 ドル/台(被害総額 16,243,069 ドル)と算定した。

Cisco は、地裁の判断を不服として連邦巡回区控訴裁判所(CAFC:United States Court

of Appeals for the Federal Circuit)に控訴した。

3. 第二審の判示事項

CAFC は、 小販売可能ユニット(SSPPU:Smallest Salable Patent Practicing Unit)

及び比較可能なライセンス等の損害賠償における価値配分の考え方について述べた。また、

CAFC は、SEP においては、配分に適用される独特の考慮事項があり、FRAND 又は他の

標準設定の義務を負わない SEP においても、この考慮事項が適用されると述べた。

(1) 小販売可能ユニット(SSPPU)

CAFC は、米国特許法 284 条に基づき、特許侵害に対する損害賠償はその製品の侵害す

る特徴部分に起因する価値のみを反映したものでなければならず、この配分

(Apportionment)の原則は、マルチコンポーネント製品に関連しているという見解が支

配的であるとした。配分の原則の下で合理的な実施料を見積もるためには複数の方法があ

るものの、事案ごとの事実に適した信頼できる方法を採択すべきであるとした。

また、CAFC は、SSPPU のような原則を判断する際には、第1に、「マルチコンポーネ

ント製品の小さな要素が侵害であると主張された場合、製品全体でロイヤルティを計算す

ることは、その製品の非侵害の部分に対して特許権者が不適切に補償されるという重大な

リスクを伴うこと」、第2に、「製品全体の価値を過度に重視することによって陪審員を誤

解させないよう注意を払わなければならない」という重要な証拠原理があること、を考慮

すべきであるとした。SSPPU の原則に加えて、「EMV(Entire Market Value)の原則は

この一般規則に対して狭い例外である」とし、EMV の原則の下では、特許発明が被告 終

製品の需要を促進することを当事者が証明できれば、 終製品の EMV をロイヤルティベ

ースとして利用することができるとした。

地裁は、ロイヤルティベースから配分する代わりに、当事者の交渉を考慮してロイヤル

ティの上限及び下限を認定しており、言い換えると、当事者は主張された特許の価値につ

いて交渉したとも言え、地裁は 終製品のライセンス交渉に関して主張された特許の評価

を誤ることはなかったと、CAFC は判断した。

また、CAFC は、Cisco の「全ての損害賠償モデルは、SSPPU を基準とすべき」という

主張は支持できないとした。この方法は、比較可能なライセンスに基づいて主張された特

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許を評価する方法と矛盾し、比較可能なライセンス料から始めるモデルでは、契約当事者

の技術と経済状況の違いを考慮し、採用されたライセンスが十分に比較可能である場合、

実際の特許の市場の評価によって当事者は制約を受けるため、この方法は一般的に信頼性

が高いとした。さらに、比較可能なライセンスは、 小販売ユニットという意味ではなく、

総収入に対する割合としてのロイヤルティ率を意味するため、Cisco の主張する方法から

は、比較可能なライセンスによる評価は除外されるとした。

したがって、CAFC は、地裁における 終製品に関する当事者の交渉を考慮した損害賠

償モデルの採用について配分の原則に違反していないと結論付けた。

(2) 比較可能なライセンス

CAFC は、地裁が TLA を根拠として採用しなかった以下の理由について違法性がある

と判断した。

(a) Radiata が CSIRO と密接に関係する 3 人のオーストラリア人によって設立されたと

いう事実に関連し、当事者間に特別な関係が働き、TLA が公平無私な純然たるビジネ

ス交渉の下に成立していないという誤った印象を抱いたこと。

(b) Radiata が保有する特許技術に関連したビジネス計画を CSIRO に開示する見返りと

して、TLA に CSIRO への債務負担軽減条件を付随させた事実を考慮したこと。

(c) 2002 年及び 2003 年の仮想ライセンス交渉までに、技術の市場価値が急速に増大した

ことを踏まえ、1998 年を基準に技術価値を評価することが妥当でないと考えたこと。

特に(c)に関しては、2001 年に Cisco が Radiata を買収した際と、2003 年の二度にわた

り、CSIRO と Cisco が TLA を修正していた事実を地裁は見誤った。この修正の事実から、

地裁が TLA を論拠としないとした(a)の理由も否定される。当事者間の二度にわたる契約

修正交渉は、決して両者間に特別な関係などなかったことを裏付けている。

(3) Georgia-Pacific factors (GP 要素)

Cisco は、802.11 に必須であるという事実によって 069 特許に一定の価値が付加された

ことを地裁が不当に評価した、と主張する。さらに配分は、FRAND における実施料支払

いの義務を生じさせる SEP に対してのみ適用されるべきだとも主張する。しかし、CAFC

は、それは以下の理由から誤りであるとした。

先の Ericsson 事件16における判決でも、配分の理論は、FRAND における実施料支払い

の義務を生じさせる債権的な SEP に対してだけでなく、そうでない SEP に対しても適用

16 事例 XVI:Ericsson, Inc. v. D-Link Sys. Inc., et al., 773 F.3d 1201 (Fed. Cir. 2014)

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されている。両者の混同がないことは明白であって、FRAND による債権としての SEP に

対してはきちんと論じ分けられている。その上で、上記のそれぞれの SEP に対して公平に

GP 要素を適用する必要があるとしている。

その上で、CAFC は、「特許法 284 条に基づいて合理的実施料を算定する場合には、特許

発明の技術的な価値を捉える必要がある。特許が規格に採用されたことによって生じた人

為的な価値から分離して論じなければならない。この原則がなければ、特許権者は規格化

によって生み出されたあらゆる利益、すなわち、本来はその規格を利用する消費者や事業

者のものとなるはずであった利益までをも得てしまうことになり不合理である。SEP に対

する FRAND 義務の存否にかかわらず、その合理的実施料は、規格採用によって特許に付

加される価値を含めてはならない。」と述べた。

さらに、CAFC は、069 特許に対する GP 要素に関して、地裁が、特に要素 8、9 及び 10

の項目を上方評価した点について誤りであるとした。そのため、地裁の判断は、GP 要素を

適切に調整しておらず、妥当でないとした。加えて、069 特許に対する 終製品ユニット

当たりの実施料の範囲についても地裁の判断に誤りがあった可能性が高いとした。

また、CAFC は、CSIRO が 802.11 の後継規格(802.11g 等)に関する IEEE からの

FRAND 宣誓要請を拒否したが、これに Cisco が異議を唱えなかった点を指摘し、これを

踏まえると、CSIRO が Rate Card 方式を導入することによって、規格採用から生じた付

加価値を取り込もうとした可能性があることを指摘した。

以上のように、CAFC は、地裁の判断には、GP 要素の検討の不足及び規格化によって生

じた価値が実施料に含まれた可能性があったことを熟慮しなかったことの 2 点において違

法性があるとした。

そして、CAFC は、事件を地裁に差戻し、当事者間の合理的な交渉開始点を想定して算

定した実施料が規格化に影響されたものか否かを、再度検討する必要があると述べた。

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Ⅶ. Philips v. Princo (GE, 2009) (Orange Book 事件)17

・Bundesgerichtshof, GH KZR 39/06, GRUR 2009, 694: IIC 2010, 369

判決日:2009 年 5 月 6 日

○標準必須特許による差止請求に対し、支配的地位の濫用にあたるとの抗弁が認められた

事例。

○支配的地位の濫用の条件(差止めが認められない条件)

①標準必須特許権者が支配的な地位を有していること。

②実施者が、標準必須特許権者に対して付随条件なしで、FRAND 条件でのライセンスを

取得する旨の申出を行っていること。

③実施者が当該申出に基づき、ロイヤルティの支払等により当該条件でのライセンスを取

得したかのように行動していること。

1. 事件の概要

原告の Philips は、ドイツ連邦共和国に対して効力を付与された欧州特許 325330(以下

「本件特許」という。)の所有者である。本件特許は、標準規格である Orange Book の標

準必須特許である。Orange Book とは、書き込み可能な CD-R の標準規格である。

被告の Princo らは、CD-R 等の記録媒体を製造し、欧州で販売していたため、Philips

は、Princoらの行為に対し差止め等を求めて、ドイツのマンハイム地方裁判所に提訴した。

マンハイム地方裁判所は、Philips の同意を得ていない CD-R 等の製造販売等の行為を禁

止し、さらに、損害賠償の支払い等を命じた。これに対し、Princo らはカールスルーエ高

等裁判所(以下「高裁」という。)控訴したが棄却されたため上告し、連邦 高裁判所(以

下「 高裁」という。)にて審理されたのが本件である。

2. 争点

・ 被告の実施行為が権利侵害に該当するか否か(以下、この争点については省略する)。

・ 原告は被告に対してライセンスを許諾する義務を負うか否か(支配的地位の濫用に該当

するか否か)。

17 鈴木信也「世界の FRAND 判例 Vol.9」The Invention 2016 12 号 48-51 頁(2016 年), ライセンス第1委員会第3

小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号 66-78 頁(2017 年)を基に作

成。

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3. 判示事項

高裁は、上記争点について以下のとおり判示した。

(1) 裁判所の判断の概要

(ⅰ)非差別的で非限定的な条件に基づいて、特許権者が被告とのライセンス契約を締結

することを拒否した場合、特許権者の差止請求に対し、市場における支配的地位の濫用を

抗弁として主張することができる。

(ⅱ)被告によるライセンス契約締結のための無条件の申出に対し、特許権者が差別的に

拒絶した場合、競争法に違反することになる。被告が既に特許発明を実施している場合、

被告はライセンス対象の使用に関して締結されるライセンス契約によって課せられた義務

を負う。

(ⅲ)被告が特許権者のライセンス請求が過大であると判断した場合、または特許権者が

ライセンス料の算定を拒否した場合、無条件の申出として、被告は合理的な裁量に従った

ライセンス料でライセンス契約を締結するための申出をすることができる。

(2) 標準必須特許のライセンス市場

高裁は、原告が競争制限禁止法(GWB:Gesetz gegen. Wettbewerbs-beschränkungen)

20 条 1 項に基づく差別禁止条項に違反していないと判断した。原告が本法の受益者である

ことは事実である。なぜなら、CD-R や CD-RW を製造する全ての者は、いわゆる Orange

Book 標準に従い、必然的に本件特許を使用しなければならないからである。したがって、

本件特許の下でのライセンス供与は、唯一の供給者である原告によって管理される単独市

場を客観的に構成する。原告が付与するライセンス契約は、商取引の1つとして同業者が

通常利用し得るものである。

(3) 支配的地位の濫用の要件

市場で支配的地位を有する特許権者が、同業企業から通常参入可能な商取引において、

ライセンスを求める企業を差別する場合、またはライセンス契約の締結を拒否して潜在的

ライセンシーを不公平に妨害する場合、特許法に基づく差止請求権の行使は、市場におけ

る支配的地位の濫用となる。支配的な企業が、他の企業がライセンス契約の締結により市

場へ参入することを妨げているためである。

被告が特許のライセンスを受ける資格があるにも関わらず、特許権者が特許権に基づく

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差止請求権を行使することは、次の2つの要件が満たされた場合に、不誠実な行為に該当

し、市場における支配的地位の濫用となる。

① ライセンスを受ける意思のあるライセンシーが、ライセンス契約を締結する無条件の

申出を特許権者に行っていること。この申出は、ライセンシーを不当に阻害することや

差別禁止規定に違反するものではなく、ライセンシーがこの申出に拘束される必要が

ある。

② 特許権者がこの申出を受け入れる前に、ライセンシーがすでに特許を実施している場

合、ライセンシーは、締結されるライセンス契約に従った義務を遵守しなければならな

い。これは、ライセンシーが契約に起因するロイヤルティを支払わなければならないこ

と、または支払いを保証しなければならないことを意味する。

(ⅰ) ライセンシーの申出とライセンサーの承諾

同業企業とライセンシーを差別することなく、特許権者が客観的理由なく拒否できない

契約条項に関して、ライセンシーが受け入れ可能な申出をしなければならないという事実

は一般に認められる。市場の支配的地位を有する特許権者であっても、発明の使用を許可

する義務を負うわけではない。非制限的で非差別的な条件で契約を締結する申出を拒否し

た場合に限り、特許権者は市場の支配的地位の濫用となる。そのような条件に基づいてラ

イセンス契約を締結する準備ができていない企業に対し、特許権者は特許の使用を容認す

る必要はない。

そのようなライセンスの提供にどのような条件が含まれているかについての詳細な議論

は紛争では保証されない。しかし、ライセンシーによる通常の条件での申出に対し、特許

権者は競争制限禁止法に基づく義務の他の条件が提示できれば、個々の契約条件を受け入

れる必要がないと主張することができる。

ライセンシーが条件付ライセンスを申し出た場合、例えば、侵害裁判所が訴えられた実

施態様による特許侵害を認定することを条件とする申出を行った場合、市場の支配的地位

の濫用とはならない。特許権者は、そのような申出を受け入れる必要はない。したがって、

差止請求に対する抗弁を主張することはできない。

(ⅱ) ライセンシーの義務

ライセンシーによる無条件で受け入れ可能な申出は、差止請求に対して強制的ライセン

スの抗弁を効果的に主張するには十分ではない。ライセンスの付与は、一般的に将来への

効力を有する。ライセンシーは、ライセンスが許諾されるまでは、ライセンス契約の特許

発明を実施する権限がない。(独立して使用する対価が合意されていない限り)全ての使用

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行為に対し、ライセンサーは契約上の対価の請求が可能となる(紛争の場合には、通常、

販売関連のロイヤルティとなる)。

許諾を受けることを予期して特許を使用することを開始するライセンシーは、契約上の

権利を「予期する」だけでなく、契約上の義務をも負わなければならない。ライセンシー

は、特許権者が拒否してはならないという申出を特許権者に行っただけではなく、特許権

者がすでに申出を受け入れたかのように行動した場合に限り、差止請求に対して抗弁を主

張することができる。この場合、ライセンシーは特許発明を実施する権利を有するだけで

はなく、特許権者に定期的にその実施を説明し、実施から生じるロイヤルティを特許権者

に支払う義務がある。

ライセンシーは、非差別の契約条件に基づいて実施行為の範囲を説明しなければならず、

支払義務を履行しなければならない。ライセンシーは、特許権者に直接支払う必要はない

が、ロイヤルティを供託することができる(ドイツ民法 372 条 1 項)。特許権者によるライ

センス契約の拒否が、特許権者が提示された支払いを受け入れる準備ができていないこと

(ドイツ民法 293 条)、または特許権者が支払いを受け入れる準備ができているものの、ラ

イセンス付与の形での履行準備ができていないこと(ドイツ民法 298 条)、による場合、ロ

イヤルティの供託の適用を受けることができる。

権利侵害の有無を理由に訴訟が却下される場合に、すでに支払ったロイヤルティの返還

請求権を確保することで、ライセンシーの利益が考慮されている。

(ⅲ) ロイヤルティ額

ロイヤルティ額、すなわちライセンシーの履行義務は、競争制限禁止法に違反しない範

囲において、合意する契約条件に制限される。ライセンシーは、ライセンス請求の前提条

件の提示と証明責任を負い、ロイヤルティ額を決定することが容易ではなく過度の負担で

あるという主張はできない。

しかし、ライセンシーが特許権者の請求するロイヤルティが過大であると考える場合や、

特許権者がロイヤルティの算定を拒否した場合、ライセンシーは、合意に基づいた特定の

ロイヤルティレートではなく、ライセンシー自身が適切であると判断し、特許権者が合理

的な裁量で決定すると予想されるロイヤルティ額で申出を行うことができる。

一方、特許権者はロイヤルティ額を完全に自由に決めることができる。特許権者による

ロイヤルティ額の決定は、競争制限禁止法によって定められた範囲を超える場合や、不当

にライセンシーを妨害し、あるいは他のライセンシーと差別する場合に限り不公正となる。

十分な金額が供託され、「強制的ライセンスの抗弁」についてのその他の前提条件が満た

されている場合、侵害裁判所は、特許権者がライセンスの申出を受け入れる義務があるこ

とを認定し、その裁量でロイヤルティを決定する。

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(4) 裁判所の結論

3%のロイヤルティでのライセンス契約の締結を拒否することにより、原告が市場におけ

る支配的地位を濫用しているという被告の主張を否定した高裁の判断を認める。また、被

告のライセンス申出の他の内容について、被告は、自己の見解に基づいて支払うべきロイ

ヤルティを計上していたことを証明していない。さらに、高裁が被告に損害賠償を義務付

けた判決の部分も正しい。

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Ⅷ. Huawei v. InterDigital (CN, 2013)18

・深圳市中級人民法院、深圳市中級人民法院(2011)深中法知民初字第 857 号、

判決日:不明、

・広東省高級人民法院、広東省高級人民法院(2013)粤高法民三終字第 305 号、

判決日:2013 年 10 月 16 日、

○FRAND 宣言済み特許が関連する事案における実施料の算定方法について判示した事

例。

【実施料額】≒【他社への個別実施料率】

○特許権者がライセンス交渉時において他者に比べて不当に高い実施料率を提示するこ

と、当然訴訟を提起することは、FRAND 条件に違反すると判断された。

1. 事件の概要

(1) 当事者及び対象特許

原告の華為技術有限公司(以下「Huawei」という。)は、中国の大手電気通信機器メー

カであり、標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)を有している。

被告の InterDigital Communications, Inc.(以下「IDC」という。)は、主に特許ライセ

ンスにより収益を得る企業である。IDC は、2009 年 9 月、欧州電気通信標準化機構(ETSI:

European Telecommunications Standards Institute)に加入し、無線通信技術分野におけ

る 2G、3G 及び 4G の標準で大量の SEP 及び特許出願があること(その中には米国や中国

における特許権及び特許出願も含まれている)を宣言した。そして、IDC は、SEP 実施者

に対し「公正、合理的かつ非差別的」(FRAND)条件でライセンスすることを承諾した。

IDC が主張する SEP は、電気通信分野における移動端末及び基地局設備の技術標準に関

連する中国の SEP であった。

(2) 交渉の経緯

2008 年 11 月より、Huawei と IDC は、複数回にわたって、SEP の実施料についての交

渉を行った。

IDC は Huawei に対し何度もオファーを提示した。しかし、当該オファーの内容は、

18 上池睦「FRAND をめぐる裁判例にみる標準規格必須特許の実施料算定方法に関する研究」パテント 68 巻 10 号

119-133 頁(2015 年) https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_119-133.pdf [ 終アク

セス日:2017 年 12 月 20 日, JETRO「中国の知的財産権侵害判例・事例集」(2015 年 3 月)を基に作成。

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「IDC のライセンスする 2G、3G 及び 4G の SEP の中には全世界的・非排他的な性質の

特許が含まれており、相応の実施料の支払を要する」と主張する一方、Huawei に対して

は Huawei 及び関連会社所有の特許を IDC に無償でライセンスするよう要求するもので

あった。

また、一括払いの実施料を基準とする場合及びランニング・実施料を基準とする場合の

いずれにおいても、IDC が Huawei に対し提示した実施料は、Apple や Samsung に対す

るものと比べてかなり高いものであり、Huawei としては到底受け入れられるものでなか

った。具体的には、IDC は、Apple に対する実施料率は約 0.0187%、Samsung に対する

実施料率は約 0.19%であったが、Huawei へ実施料率として販売額の約 2%相当を要求し

ていた。そのため、交渉が進まなかった。

2011 年 7 月、IDC は、突然 Huawei を米国デラウェア州地方裁判所で提訴するととも

に、米国国際貿易委員会(ITC:International Trade Commission)に Huawei を提訴し

た。その提訴理由は、Huawei が、IDC の米国における 7 件の SEP を侵害しており、Huawei

に対する米国関税法 337 条調査の開始と、Huawei の 3G 製品の製造・販売・輸入の禁止

を求めるものであった。

これに対して、Huawei は、「IDC が以前に承諾した FRAND 義務に違反している」と主

張して、FRAND 条件に従い、IDC の中国での SEP についての Huawei の実施料率又は

実施料率の範囲を確定することを求めて、深圳市中級人民法院(以下「地裁」という。)に

提訴した。

(3) FRAND 宣言の有無と内容

IDC は、本件の対象特許に関し、2G、3G 及び 4G に必須であるとし、ETSI に対して

FRAND 宣言を提出している。

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2. 第一審の判示事項

地裁は、「IDC は中国の電気通信分野における移動端末及び基地局設備の技術標準の

SEP権利者である」と認定し、「中国の法令に基づき、IDCはFRAND条件に従ってHuawei

に SEP をライセンスしなければならない」と判断するとともに、「実施料率は、関連製品

の実際の販売価格により計算し、0.019%を超えてはならない」と判示し、その理由を以下

のとおり示した。

(1) 準拠法

本件は、中国で電気通信分野の技術標準を実施するための中国の SEP のライセンス許諾

に係るものである。Huawei の住所地、特許の実施場所、交渉の場所はいずれも中国であ

り、 密接関係地法の原則に基づき、本件には中国法を適用すべきである。

(2) FRAND 義務違反

本件においては、両当事者は 2008 年末からライセンス交渉を開始したが、IDC は Apple

や Samsung 等に対する実施料と比べてかなり高い差別的な金額を Huawei に提示した。

また、両当事者の交渉の過程において、IDC は突然、米国の裁判所及び ITC に Huawei に

対する提訴を行った。さらに、IDC は、全てのオファーのうち1つでも拒絶されれば、全

てのオファーについてライセンスが拒絶されたものとみなすと主張した。これらのことに

鑑みると、IDC は FRAND 条件に違反したと認められるべきである。

(3) 司法的救済の違法性

通常、SEP の実施料の問題は、当事者双方が合意によりライセンス契約に至ることがで

きれば、司法が介入する必要は無い。Huawei が司法的救済を求めなければ交渉の余地も

無いことから、Huawei が民事訴訟を通じた救済を求めたことは、中国の法令の規定に合

致する。

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(4) FRAND 条件に基づく実施料率の算定

実施料率の算定は、中国の法令、民法通則第4条19、契約法第5条20及び同法第6条21の

規定に基づき、本件で当事者双方から提出された証拠により、SEP の数量、質、価値、業

界内での許諾状況及び IDC の全部の SEP に対し IDC の中国の SEP が占める割合等の要

素を考慮する。IDC の中国の SEP を Huawei にライセンスする場合の適正な実施料率は、

関連製品の実際の販売価格により算定し、IDC の Apple に対する実施料率が 0.0187%であ

るため、0.019%を超えてはならないと判断する。

IDC は、第一審判決を不服として、広東省高級人民法院(以下「高裁」という。)に上訴

した。

3. 第二審の判示事項

高裁は、2013 年 10 月 16 日、以下の理由により、「上訴棄却、原判決維持」の判決を下

した。

(1) FRAND 義務と差止の救済

標準とは、一定範囲内における 適な秩序を獲得するため、協議を経て制定に合意し、

かつ、公的機関の批准により、共同使用・重複使用が認められる一種の規範性文書である。

標準化の分野において協議を経て制定に合意する必要のある技術事項は、技術標準と称さ

れる。特許と標準の組合せにより、SEP が生じる。

いわゆる「SEP」とは、標準を実施する際に必然的に実施される特許技術をいう。もし

標準を実施する際に必然的に実施される特許技術のクレームがある場合、当該クレームは

通常、「SEP クレーム」と称される。SEP の特徴に基づき、また、各関係者の衡平を図る

ため、各標準化団体は一般的に、SEP 権利者が SEP 実施者及び潜在的実施者に対して負

う FRAND 条件でのライセンス義務を規定している。

本件の Huawei と IDC はいずれも、ETSI という標準化団体の構成員である。IDC は、

ETSI に加入する際、FRAND 条件に基づき他の構成員に SEP の実施を認めることを明確

に承諾していた。IDC が ETSI で宣言している SEP は、中国における SEP でもある。こ

のため、IDC は、中国の法令に基づき、IDC の SEP を FRAND 条件に基づき Huawei に

ライセンスしなければならない。

19 民事活動においては、自由意思、公平、等価有償、誠実信用の原則を遵守しなければならない。 20 当事者は公平の原則を遵守して双方の権利及び義務を確定しなければならない。 21 当事者の権利の行使又は義務の履行は、誠実信用の原則を遵守しなければならない。

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特許権者がその特許を標準に組み入れることに同意し、かつ、FRAND 条件でライセン

スすることを承諾した場合に、SEP 権利者と SEP 実施者との間で契約関係が成立したも

のとみなすことはできない。むしろ、SEP 権利者は SEP 実施者及び潜在的実施者に対し

て FRAND 条件でライセンスする義務を負っていると理解すべきである。

当事者双方が合意に至る前において、SEP 実施者が単に FRAND 条件での SEP の実施

許諾を求めているのみの場合、即ち主観的に善意の実施者である場合、SEP 権利者は当該

実施者にその SEP の実施の停止を求めることはできず、善意の実施者は侵害行為停止を免

除される権利を有する。しかし、もし SEP 実施者がいかなる実施料をも支払わない場合、

権利者は、裁判所に対し、差止めの救済を求めることができる。

(2) 司法的救済の違法性

通常、SEP 権利者と SEP 実施者は特許ライセンスの合意に達した場合、当事者双方の

間で紛争は生じておらず、司法機関が介入する必要は無い。

しかし、本件の場合は、そうではない。両当事者は、2008 年末から交渉を開始し、Huawei

は IDC との交渉中一貫して善意の状態であった。IDC が Apple、Samsung 等に SEP をラ

イセンスしたときの実施料と比べて、Huawei に提示した実施料は明らかに高く差別的な

ものであった。また、両当事者が交渉している過程において、IDC は、突然、米国の裁判

所及び ITC に Huawei に対する提訴を行った。これらのことから、Huawei は、IDC から

差別的条件による取扱いを受けたといえる。さらに、IDC は、全てのオファーのうち1つ

でも拒絶されれば、全てのオファーについてライセンスが拒絶されたものとみなすと主張

した。このことから、IDC は、ETSI で承諾したはずの FRAND 条件に違反したといえる。

Huawei が司法的救済を求めなければ交渉の余地も無いことから、Huawei が民事訴訟を

通じた救済を求めたことは、中国の法令の規定に合致する。

(3) FRAND 条件に基づく実施料率の算定

FRAND 条件に基づく実施料率の算定の問題は、実施料自体の合理性と、実施料の相対

的な合理性を含む。実施料自体の合理性からいえば、少なくとも、以下の要素を考慮する

必要がある。

① 実施料は、製品の利益に対し一定の比率を超えてはならない。実施料の高低は、当該特

許又は類似特許の実施により獲得された利益、及び当該利益がライセンシーの関連製品

の販売利益又は販売収入に占める比率を考慮しなければならない。

② 特許権者が生み出した貢献はその新しく創造された技術にあり、特許権者は、標準に組

み込まれたことによる利益以外の部分の利益のみを受けることができる。また、実施料

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の相対的な合理性からいえば、もしライセンシーへの条件が相当であるならば、他者の

実施料も大体において相当であるものとして算定できる。

本件において、地裁は、主に以下の要素をもって、Huawei が IDC に支払うべき実施料

率を算定するとの判断を下したため、適法である。

① 無線通信業界におけるおおよその利益獲得レベルを考慮し、特定の無線通信製品におい

て支払わなければならない実施料率を算定する。

② IDC が公表した無線通信分野における SEP の数量、質の状況、研究開発投資等を考慮

し、IDC が獲得し、かつ、その無線通信技術分野での貢献に応じた見返りを保障する。

③ IDC が既に合意に達し、かつ、収受している数値化された実施料率の基準、例えば、IDC

が Apple、Samsung 等にライセンスした際の実施料率を参考として考慮する。IDC と

Samsung との合意は、係争中の訴訟を背景とした合意であったのに対し、IDC と Apple

との合意は、完全に双方が平等で自由意思による契約に基づきなされたものである。こ

のため、本件においても、IDC と Apple との合意による実施料率(0.0187%)を主に参

考にする。

④ Huawei が IDC に対し単に中国での SEP のライセンスのみを求め、全世界での標準必

須特許のライセンスを求めたのわけではないことを考慮する。

以上の理由により、高裁は、IDC には Huawei に対し SEP をライセンスする義務があ

り、かつ、その実施料率は 0.019%を超えてはならないとした第一審判決を支持するとの

判決を下した。

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Ⅸ. Wilan v. Sony (CN, 2017)22

○中国における NPE による標準必須特許を対象とした初めての特許権侵害訴訟として、

注目された事例。

○その後訴訟は取り下げられている。

1. 事件の概要

2016 年 10 月 31 日、カナダの不実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)である WiLAN

Inc.(以下「WiLAN」という。)の子会社である Wireless Future Technologies, Inc.(以下

「WFT」という。)が、Sony Mobile Communications (China) Co., Ltd.(以下「SONY」

という。)に対し、南京中級人民法院で特許権侵害訴訟を提起した。

対象特許は、中国で 2013 年に登録された中国特許 ZL200880022707.5(「通信ネットワ

ークシステムの制御パネル」)であり、4G ネットワークにおける制御チャネルの割り当て

及びデコーディングに関し、3GPP の標準必須特許であると権利者は主張し、さらに本特

許は、元々は Nokia Siemens Networks 社が所有していたものである。

WiLAN と SONY は特許のライセンス交渉を 2 年以上行ったが、合意に至らず本件訴訟

を提起したと WiLAN は主張している。WFT は、被疑侵害製品を SONY の Xperia Z5 Dual

E6683、Xperia Z5 Premium Dual E6683 として、①差止め、②損害賠償 800 万人民元(120

万ドル)、③訴訟費用を求めた。

2. 訴訟提起後の動き

SONY は 2016 年 11 月 22 日に中国国家知識産権局(SIPO:State Intellectual

Property Office)へ無効審判を請求し、SIPO は 2017 年 3 月 20 日に WFT の特許が無効

であると判断した。その後、2017 年 4 月 12 日に WFT は本件訴訟を取り下げている23。

22 平成 28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「IoT 等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財

制度上の新たな課題と NPE の動向に関する調査研究報告書」79 頁(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究

所、2016 年 12 月), Jacob Schindler “NPE assertion comes to China as WiLAN subsidiary files SEP suit against Sony in Nanjing – UPDATED”、 http://www.iam-media.com/blog/detail.aspx?g=cdfe23cc-d26c-411e-9766-a6e87a6d0fbf [ 終アクセス日:2018 年 1 月 11 日], 中国知的財産権情報「ソニーモバイル社が訴えられる:NPE

(パテントトロール)が中国を試す?」(2016 年 11 月 22 日), http://www.ipnews-china.com/archives/161122/ [終アクセス日:2018 年 1 月 11 日]を基に作成。

23 「动态丨无线未来公司诉索尼中国公司案 新进展:无线未来公司撤回起诉」, http://www.lkcatv.com/zxzx/25752882.htm [ 終アクセス日:2018 年 1 月 12 日]

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Ⅹ. Sisvel v. Haier (GE, 2016)24

・The Düsseldorf Oberlandesgericht, Cases I-15 U 65/15 and I-15 U 66/15,

判決日:2016 年 1 月 13 日

○Huawei v. ZTE 判決に従って、差止請求の制限について争われた事例。

○損害賠償を認めたものの、差止を認めるには、標準必須特許権者によるライセンスのオ

ファーが FRAND 条件に従っているかどうかを審査しなければならないとして、地裁の

差止命令の執行を停止する仮命令を下した。

1. 事件の概要

Sisvel は、通信規格の標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)を有する特許

管理会社である。Sisvel は、SEP を使用した通信端末を製造販売する Haier に対し、差止

め及び損害賠償を求めて、デュッセルドルフ地方裁判所(以下「地裁」という。)に提訴し

た。

2015 年 11 月 3 日、地裁は、Huawei v. ZTE 事件で示された欧州司法裁判所(CJEU:

Court of Justice of the European Union)の基準に従い、Haier が Sisvel から示された具

体的なライセンスオファーに対しカウンターオファーを示さずに拒否したとして、Haier

に対する差止め及び損害賠償を認めた。

これに対し、Haier が不服としてデュッセルドルフ高等裁判所(以下「高裁」という。)

に控訴したのが、本件である。

2. 争点

・ 侵害手続きに基づく強制執行が停止されるか否か。

24 ライセンス第1委員会第3小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号

66-78 頁(2017 年)を基に作成。

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3. 判示事項

高裁は、上記争点について以下のとおり判示した。

(1) 裁判所の判断の概要

(ⅰ)争われた判決が債権者の担保に対してのみ執行可能である場合、特別な状況、すな

わち例外的な状況においてのみ執行が停止される。

(ⅱ)強制執行の停止は、ドイツ民事訴訟法(ZPO:Zivilprozessordnung)719 条、707

条に基づく手続きに従って判断された時に、争われた判決が有効ではない場合や、一般的

なリスクを超えた特定の被害が予想される場合に正当化される。

(ⅲ)争われた判決の法的結論が、差止め、廃棄及びリコールの権利の主張が欧州連合競

争法(TFEU:Treaty on the Functioning of the European Union)102 条の濫用ではない

と判示している場合、争われた判決の執行は当面中止される。

(ⅳ)標準必須特許権者の義務の1つは、FRAND 条件に基づく具体的な書面によるライ

センスオファーを実施者に提示することである(CJEU 2015 年 7 月 16 日判決、C-170/13

参照)。(完全に)特許権者がこの義務を履行した場合に、実施者に義務が課せられる。

(ⅴ)実施者は、FRAND 条件に準拠しないライセンスオファーにしたがって対応する責

任はない。

(2) 地裁判決の執行停止の要件

被告は、地裁判決の執行を停止することを要請し、部分的に成功している。差止命令、

廃棄及びリコール請求に関する執行は、当面中止されるべきである。ただし、情報開示及

び損害賠償請求に関する一時的な中止を求める部分についての申請は、却下されなければ

ならない。

強制執行可能な判決に対して申し立てが提起されている場合、担保の有無にかかわらず、

判決の執行を当分の間中止することができる(ZPO719 条 1 項 1 文、707 条 1 項 1 文)。裁

判所の裁量的決定においては、債権者の利益と相反する債務者の利益とを常に比較考量し

なければならない。その際には、原則として執行する債権者の利益が優先されるべきであ

るという立法府の価値判断に注意しなければならない。ZPO709 条 1 文の規定によれば、

執行される債務者は、原則として執行前に債権者が提供する担保によって適切に保護され

ている。したがって、(本件のように)争われている判決が債権者の担保に対してのみ執行

される場合、特別な例外的な状況においてのみ執行の停止が考慮される。

特許法の分野では、特許権の存続期間、すなわち期間が制限されているため、保護期間

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が満了した場合、差止めの権利が無くなるという特別な特徴もある。

(3) 支配的地位の濫用の要件

争われている地裁判決は、おそらく維持されないだろうと判断されるため、差止め、廃

棄及びリコールの請求に関する判決の執行は、当面中断される。争われた判決の概要を審

査した結果、独占禁止法の評価について法律上の誤りが明白である。SEP の権利行使にお

ける TFEU102 条の解釈について C-170/13(CJEU, Huawei Technologies v. ZTE)で基

準が示されている。FRAND 条件でライセンスを受けることに同意した実施者に対し、特

許権者が差止め、廃棄及びリコールを請求した場合の支配的地位の濫用について明らかに

誤って適用されている。地裁判決の法的結論のように権利者による差止め、廃棄及びリコ

ールの請求が TFEU102 条における濫用ではないという見解は構成されない。

上記の判例によれば、以下の場合、TFEU102 条における市場支配的地位の濫用に該当

しない。

(ⅰ)標準必須特許権者は、侵害の疑いがある実施者に対して、訴訟が提起される前に侵

害について指摘し、

(ⅱ)実施者が FRAND 条件に関するライセンス契約を締結する意思を表明した後、標準

必須特許権者は、実施者に対し、これらの条件、特にライセンス料及びその計算方

法に関する特定の書面によるライセンス供与のオファーを提示しなければならない。

(ⅲ)実施者は、依然として問題の特許を使用している場合、このオファーに対して誠実

に対応し、

(ⅳ)提案されたオファーを受け入れない実施者は、FRAND 条件に対応する特定の書面

によるカウンターオファーを短期間で標準必須特許権者に提出し、

(ⅴ)特許権者がカウンターオファーを拒否した場合、標準必須特許を使用している実施

者は、過去の実施行為が含まれていた日からの適切な担保を確保し、説明しなけれ

ばならない。

これらの条件を遵守することにより、CJEU は標準必須特許権者と実施者の利益の公正

なバランスが保障されると考えている。CJEU の決定から明らかなように、これらの条件

において、 初に要求する特許権者にその責任があり、上記(ⅰ)及び(ⅱ)の下で設定

された条件を満たすように権限が与えられている。したがって、標準必須特許権者は、実

施者に対し FRAND 条件での具体的な書面によるライセンスオファーを提示する義務があ

る。特許権者自身の義務を完全に遵守した場合にのみ、市場支配的地位の濫用とはならな

い。特許権者が義務を履行したにもかかわらず、実施権者が FRAND 条件でのライセンス

契約の締結を拒否する場合に、上記(ⅲ)~(ⅴ)で課された条件を徐々に履行すること

が実施権者に義務付けられ、支配的地位の濫用が構成されることになる。

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CJEU によれば、実施者の義務は、その前に特許権者が義務を履行していること、特に

FRAND 条件でのライセンスオファーを提示しなければならないという条件を前提として

いる。意思決定の有効部分だけでなく、意思決定の理由の説明からも明らである。CJEU に

よれば、実施者は「このオファーに誠実して対応する」とされ、「このオファー」というフ

レーズは、FRAND 条件に従うと思われる特許権者のライセンスオファーと関連している

ことが明らかである。

(4) 結論

以上を踏まえると、独占禁止法に基づく地裁の見解及び法的結論は、維持することがで

きない。地裁が、権利者のオファーが FRAND 義務を遵守しているかどうかの問題を残し

たことは明らかに誤りである。権利者のオファーが FRAND 条件に準拠することは不可欠

である。権利者がそのようなライセンスオファーを行った場合に限り、実施者に義務が発

生し、争われている判決が有効となる可能性がある。一方、そのようなオファーが認めら

れない場合、権利者による差止め、廃棄及びリコールの請求は却下されるべきである。

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ⅩⅠ. Google・Motorola Mobility (US, 2013)25

・Federal Trade Commission Response To Commenters,

In the Matter of Motorola Mobility LLC and Google Inc.,

File No. 121 0120, Docket No. C-4410, 審決日:2013 年 7 月 23 日

○標準必須特許権者による差止めが適切な手順に従い、かつ、標準必須特許権者が誠実に

交渉しようとしたにも関わらず実施者がそれを拒否し、又はライセンス料に合意せず、

誠実に交渉する義務を怠っていると認められる場合は、差止めを認めると判断された。

1. 事件の概要

Google 及び Motorola Mobility LLC(以下、併せて「Google」という。)は、FRAND 宣

言に係る標準必須特許26(SEP:Standard Essential Patent)のライセンスを希望する者

(Apple、Microsoft 等)が同特許権を侵害したとして、裁判所及び国際貿易委員会(ITC:

International Trade Commission)に差止め及び排除命令を請求した。

本件は、この差止め及び排除命令の請求が、米国反トラスト法違反に該当するか否かに

ついて、米国連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)が判断し同意命令

(decision and order)を下した事案である。

2. 判示(審決)事項

(1) willing licensee に対する差止請求

FTC は、Google が FRAND 条件でライセンスされるべき SEP に基づき、willing licensee

に対して特許侵害を理由として、裁判所及び ITC において差止め及び排除命令を請求した

行為は、米国連邦取引委員会法第 5 条(Section 5 of the Federal Trade Commission Act,

15 U.S.C.§45)違反にあたるとした。

(2) 差止請求が認められる条件

FTC は、本審決は、実施者が以下のいずれかに該当する場合に、Google が FRAND 特

許の侵害を主張して差止め及び排除命令を請求することを妨げるものではないとした。

25 ライセンス第1委員会第3小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号

66-78 頁(2017 年)を基に作成。 26 Google は、Motorola Mobility LLC を買収することにより当該 SEP を保有することとなった。

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(a) 米国連邦地方裁判所の管轄外である場合(実施者自身又は実施者を管理する親会社や

他の企業が連邦地方裁判所の管轄内にある場合には、実施者は連邦地方裁判所の管轄

内であるとみなされる。)

(b) 書面又は宣誓証言において、いかなる条件下でも FRAND の特許ライセンスを取得し

ないと述べた場合(この目的のために、侵害された FRAND の特許の有効性、価値、

侵害又は必須性を主張することは、実施者がそのような FRAND の特許のライセンス

を取得しない旨の陳述を構成するものではない。)

(c) 裁判所の 終判決又は拘束力のある仲裁手続きによって決められた条件下で FRAND

の特許ライセンスの締結を拒否した場合

(d) FRAND 条件のライセンスオファーの受領後 30 日以内に、そのライセンスオファーで

要求された確認書面を提供しない場合(ただし、Google は、裁判所に対して、そのよ

うな確認書面が特定の条件でライセンス供与するための具体的な合意を構成するとい

う主張をすることはできない。)

次に、差止請求を行う前には、実施者に対して以下の2つの手続を経なければならない

とした。

(a) 低 6 ヶ月前にライセンスオファーをすること(それがロイヤルティレート、対象範

囲等、ライセンス契約に必要な条件を含むこと)

(b) 低 60 日前に争点となっているライセンス条件を決めるために拘束力のある仲裁手

続を提案すること

他方、実施者は、上記ライセンスオファーから 7 ヶ月又は仲裁手続の提案から 3 ヶ月の

遅い方までに裁判所に対し FRAND 条件の決定を求めることができること(ただし、当該

決定に従うことへの合意が必要であること)、その手続係属中(控訴手続含む)、Google は

差止請求できないことが示された。

つまり、本件では、標準必須特許権者による差止めが、適切な手順に従えば常に反トラ

スト法違反とされるわけではないこと、及び標準必須特許権者が誠実に交渉しようとした

にも関わらず実施者がそれを拒否し、又はライセンス料に合意せず、誠実に交渉する義務

を怠っていると認められる場合は、標準必須特許権者による差止めを認めることを示して

いる。

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ⅩⅡ. Apple v. Motorola (US, 2014)27

■Apple Inc. v. Motorola, Inc.

・United States Court of Appeals for the Federal Circuit,

757 F.3d 1286, 判決日:2014 年 4 月 25 日

○標準必須特許による差止の救済を受けるためには、eBay 事件の 4 要素を満たす必要が

あるとした事例。

○実施者が一方的に FRAND のロイヤルティを拒否した場合や、不合理に交渉を遅らせた

場合、差止めが正当化される可能性はあるが、ライセンスオファーを拒否したことが、

必ずしも差止めを正当化する理由にはならない。

1. 事件の概要

2010 年 10 月、連邦地方裁判所(以下「地裁」という。)28において、Apple が Motorola

に対し特許権侵害訴訟を提起し、Motorola が Apple に対し特許権侵害の反訴を行った。

Apple は、タッチスクリーン・コンピュータの制御に関する特許を有し、これを含む複

数の特許権の侵害を主張した。一方、Motorola は、スマートフォンの通信方式に関する標

準必須特許(US6,359,898;以下「898 特許」という。)を有し、これを含む複数の特許権

の侵害を主張した。

地裁は、Motorola の 898 特許による差止救済に関し、FRAND 義務により救済が排除さ

れるとした。Motorola の特許が技術標準に含まれる場合、Motorola は、FRAND 条件に基

づくロイヤルティを支払うことに前向きないかなる者にもライセンスする義務があり、差

止めではなく、ロイヤルティが侵害に対する適切な補償であると決定した。

本件は、Apple と Motorola が、地裁の判断に対して、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC:

United States Court of Appeals for the Federal Circuit)に控訴した事件である。

2. 争点

・ 係争特許のクレーム解釈について。

・ 損害賠償に対する専門家の証言を地裁が拒絶したことの妥当性について。

・ 898 特許に基づく差止が当然排除されるべきか否かについて(以下、この争点のみを対

象とする)。

27 安田和史「世界の FRAND 判例 Vol.3」The Invention 2016 6 号 52-55 頁(2016 年)を基に作成。 28 ウィスコンシン州西部地区からイリノイ州北部地区に移送された。

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3. 判示事項

CAFC は、上記争点について以下のとおり判示した。

(1) 衡平法により差止命令が認められるための条件

Apple は、Motorola が 898 特許の侵害に対する差止救済を受ける権利を有していないと

の略式判決を求めた。当裁判所は、裁量権濫用の差止めを許可又は却下する地裁の決定を

検討しているが、地裁の略式判決の許可を改めて検討する。eBay Inc. v. MercExchange に

おいて 高裁判所が要素を示しているように、終局的差止命令を発行する前に、以下を証

明しなければならない。

(ⅰ)原告が回復不能な損害を被っていること、

(ⅱ)金銭的損害賠償のような法律で利用可能な救済が、その損害を補償するには不十分

であること、

(ⅲ) 原告と被告の間の不利益のバランスを考慮して、衡平法上の救済が正当であること、

(ⅳ)終局的差止命令が公益に反しないこと。

(2) 標準必須特許に対する適用

898 特許は標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)であり、Motorola は、公

平・合理的・非差別(「FRAND」)の条件でライセンスを行うことに合意している。地裁は、

次の Apple の申し立てを認めている。

「FRAND が宣言されている場合、FRAND 条件に従ったロイヤルティの支払いを

Apple が拒否しない限り、898 特許の侵害行為を Apple に禁じることについて、正当

化する方法は見当たらない。FRAND 条項に基づいたライセンス供与を宣言すること

により、Motorola は、FRAND ロイヤルティを支払う意思がある任意の者に、898 特

許のライセンス供与を約束し、ロイヤルティがその特許を使用するライセンスの適切

な補償となることを暗黙のうちに認めている。Apple が UMTS 通信機能を備えた携帯

電話を製造したい場合(携帯電話とならない場合を除く)、Apple が使用しなければな

らないと主張する発明を使用することについて、Apple に禁止することを許可するこ

とができる。」

地裁は、当然違法の原則(per se rule)を適用し、SEP のため差止めが認められないと

判断したが、それは誤りである。Motorola の FRAND 宣言は、差止救済の権利に関連する

確かな基準であるが、FRAND 宣言した特許の差止に対処するための別のルール又は分析

の枠組みを設ける理由はない。 高裁判所が eBay 事件で示した枠組みは、この裁判所の

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その後の判決により解釈されるように、FRAND 宣言された特許及び一般的な業界標準の

独特な側面に対処するための十分な強度と柔軟性を提供する。FRAND 宣言の対象となる

特許権者は、回復不可能な損害を証明することが困難な場合がある。一方、侵害者が一方

的に FRAND のロイヤルティを拒否した場合、または不合理に交渉を遅らせて同様の効果

を得る場合、差止が正当化される可能性がある。明確化しておくと、侵害者がライセンス

オファーの受け入れを拒否したことが、必ずしも差止命令を発することを正当化するとい

う意味にはならない。例えば、提示されるライセンスは FRAND 条件ではないかもしれな

い。さらに、一般公衆は、標準化団体への参加を促すことに関心があるが、SEP が過大評

価されないようにすることにも関心がある。これらは重要な懸念事項であるが、地裁は、

eBay の原則の下で差止命令を発行するかどうかを決定する際に、これらの事実上の問題を

必要以上に考慮している。

これらの原則をここに適用すると、Motorola には 898 特許の侵害の差止救済を受ける権

利がないという、地裁に同意する。Motorola の FRAND 宣言は、898 特許を含む多くのラ

イセンス契約を締結しており、Motorola に対し侵害を完全に補償するために金銭的損害賠

償が適切であることを強く示唆している。同様に、Motorola は、Apple の侵害が回復不能

な損害を引き起こしたことを証明していない。898 特許でクレームされているシステムを

すでに使用している競合他社を含む多数の業界関係者を考慮すると、Motorola は、1 以上

のユーザを追加することがそのような損害を生むという証拠を何も提供していない。さら

に、Motorola は、FRAND のロイヤルティを支払う意思のある、多くの市場参加者を追加

することに合意している。Motorola は、Apple が 初のライセンスオファーを拒否し、交

渉を停滞させていると主張している。しかし、その記録は、交渉が進行中であることを反

映しており、例えば Apple が一方的に契約に同意していないことの証拠ではない。結果と

して、当裁判所は、Motorola が 898 特許の侵害の差止救済を受ける権利を有していないと

いう地裁の略式判決を支持する。

(3) 一部反対意見

・ Apple が長年にわたり、Motorola のライセンス交渉の要請を拒絶し続けてきた事実は立

証されているため、Apple に交渉する意思がなかったことを推認できる。回復不能な損

害を被っているという主張の機会がMotorolaに与えられるべきである(レーダー判事)。

・ 差止めについては、eBay 事件の 4 要素に当てはめて考える必要があり、ライセンシー

の交渉態度によって差止めが可能となるような例外を設けるべきではない。ライセンシ

ーが交渉を拒絶したとしても、FRAND 条件に応じなければならないため、それをもっ

て交渉する意思が認められないととらえるべきではない。差止めを認める場合は極めて

例外的であり、例えば、特許権者が損害賠償を十分に得られない場合や、被告が損害賠

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償の支払いを拒絶する場合等の他には、差止めを認めるべきではない(プロスト判事)。

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ⅩⅢ. Motorola v. Apple (EU, 2014)29

・European Commission, Case AT.39985 - Motorola - Enforcement of GPRS standard

essential patents, 決定日:2014 年 4 月 29 日

○欧州委員会が、標準必須特許に基づく差止請求について、競争法違反となるか否か判断

した事例。

○実施者が、ライセンスオファーにおいて、FRAND 条件でのライセンス取得の意思があ

ること、裁判所の料金設定に合意することを明確に示しているため、差止請求は濫用で

あると決定した。

1. 事件の概要

Motorola がドイツ地方裁判所において Apple に対する標準必須特許に基づく差止を求

めて提訴したのに対し、これが競争法違反に該当する疑いがあるとして、Apple が欧州委

員会(EC:European Commission)に申し立てを行ったのが、本件である。

欧州委員会は、Apple が標準必須特許に基づく FRAND 条件でのライセンス取得意思を

示しており、裁判所によって裁定された FRAND 条件に従うことに合意していたため、差

止請求は市場支配的地位の濫用であると判断した。

さらに、Motorola が、差止請求の脅威を与えながら、Apple に特許の有効性や製品との

関連性を争うことの放棄を求めたことが競争法違反に該当すると判断した。

(1) 権利行使

2014 年 4 月 29 日、欧州委員会は、Motorola に対する決定を採択した。この決定では、

本件の例外的な状況及び客観的正当な理由がない場合において、Motorola は、ドイツ連邦

裁判所に、Apple に対する差止命令を求めて権利行使することにより、欧州連合競争法

(TFEU:Treaty on the Functioning of the European Union)102 条及び欧州経済地域

(EEA:European Economic Area)協定 54 条を侵害していることが判明した。Motorola

は、欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)

に FRAND 条件でライセンスすることを宣言した、汎用パケット無線サービス(GPRS:

General Packet Radio Service)標準に関する標準必須特許(SEP:Standard Essential

Patent)に基づいて、差止命令を求め権利行使した。

29 ライセンス第1委員会第3小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号

66-78 頁(2017 年)を基に作成。

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(2) 交渉の経緯

2003 年 4 月に、Motorola は GPRS 標準に必須の特許 EP1010336(以下「Cudak GPRS

SEP」という。)を宣言し、FRAND 条件に基づいてライセンスすることを ETSI に約束し

た。Apple は、2007 年に、GPRS 標準を含む関連する電気通信標準を実装した 初のスマ

ートフォンである iPhone 事業を開始したときにモバイル通信部門に参入した。

2011 年 4 月、Motorola は、特に Cudak GPRS SEP に基づいて、ドイツの Apple に対

する差止めを求めた。差止手続の過程で、Apple は、Motorola に 6 回の相次ぐライセンス

オファーを行い、ドイツの裁判所に提出した。これらのオファーは、Orange Book 判決で

確立された競争法の防衛を利用するという観点から、Apple によって行われた。

2 回目のライセンス供与において、Apple は、ロイヤルティ率とロイヤルティの 終金

額の計算方法に関し(FRAND 及び TFEU 第 102 条以外の)制限なしに、公正な裁量及び

FRAND 原則に従ったロイヤルティを設定する権利を Motorola に与えるライセンス契約

を締結することを提案した。

また、そのオファーは、Motorola と Apple が、自身の評価、計算、考慮の理由を裁判所

に提出することによって、FRAND ロイヤルティの金額に関する完全な司法審査を認めて

いる。

しかし、Motorola は、そのオファーを拒否し、差止手続きを継続した。2011 年 12 月に、

ドイツ下級裁判所は Apple に対する差止命令を Motorola に下した。

2012 年 1 月に、Motorola が差止命令を執行することを決定したとき、Apple は 6 回目

のライセンスオファーを行った。

このオファーでは、(ⅰ)Apple は、Apple がライセンスされた SEP のいずれかの有効

性を試みた場合に、Motorola が契約を解除する権利を有する条項(いわゆる「解除条項」)

を受け入れ、(ⅱ)これらの SEP を侵害していないと主張していた Apple デバイスを含む、

全てのデバイスが許諾された SEP を侵害していることを明示的に認めた。

Apple の 6 回目のライセンスオファーに基づき、ドイツの裁判所は、一時的に差止命令

の執行を保留し、Motorola と Apple は和解契約に署名した。

2. 争点

・ Apple が Motorola に対しライセンスオファーを行っている場合に、willing とみなされ

るか。

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3. 判示事項

欧州委員会は、上記争点について以下のとおり判示した。

(1) 標準必須特許と IPR ポリシー

標準規格は、テレコムネットワークとモバイルデバイスの互換性と相互運用性を保証す

る。モバイルデバイスは、通常、多くの電気通信規格(いわゆる第 2 世代又は 2G

(GSM/GPRS)標準など)を実装している。これらの標準規格は、数千もの技術を採用し

ており、その多くは特許によって保護されている。

標準を実装するために技術的に必要な特許は、「標準必須特許」又は「SEP」として知ら

れている。SEP は、標準に必須ではない特許(「非 SEP」)とは異なる。非 SEP の実装者

が主要な機能を犠牲にすることなく、その特許の周辺を設計することは、一般的に技術的

に可能である。対照的に、実装者はスマートフォンやタブレットなどの標準準拠製品を製

造する場合、SEP で保護されている技術を使用することを避けることはできない。

したがって、デバイスのほぼ 100%が関連標準を実装している相互運用性の理由から、

SEP は電気通信産業などの産業において非常に重要である。

ETSI は3つの欧州標準化機関のうちの1つである。ETSI は欧州連合(EU:European

Union)及び欧州自由貿易連合(EFTA:European Free Trade Association)ポリシーを

サポートし、電気通信の内部市場を有効にする標準化と仕様を策定することについて正式

に責任を負う。

ETSI の規則は、標準化策定プロセスに参加する企業に2つの主要な義務を課している。

(ⅰ)標準の採択前の適時に必須の知的財産(IP:Intellectual Property)を ETSI に知ら

せること。

(ⅱ)FRAND 条項及び条件に基づいて IP を利用できるようにすることを約束すること。

したがって、FRAND 宣言は特許技術が標準に含まれることを前提としている。

(2) ライセンスオファーと差止請求の制限

特許権者による差止めの請求と執行は、通常、正当な行為である。しかし、標準策定プ

ロセス中に FRAND 条項のライセンスを自発的に宣言した SEP に基づく差止めの請求及

び執行に関しては文脈が異なる。FRAND 条項及び条件でライセンスを行う契約の本質は、

標準とは読みとれない特許や特許権者によって FRAND 宣言が与えられていない特許と対

照的に、その必須特許が FRAND 報酬の代償としてライセンス供与され、標準化プロセス

の目的を与える、SEP 保有者による承諾である。

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本決定では、Motorola の Cudak GPRS SEP は SEP と読み取れる、GPRS 標準技術仕

様書に規定されているように、Motorola は、技術のライセンシング市場で支配的であるこ

とと認める。

また、本決定では、本ケースの例外的な状況及び合理的な客観的正当性がない場合にお

いて、Motorola の行動は、Apple の 2 回目のライセンスオファーの時点で、その行動が次

の反競争的影響を及ぼす可能性があるとして、濫用を構成することを認める。

(ⅰ)ドイツでの Apple の GPRS 互換製品のオンライン販売を一時的に禁止すること。

(ⅱ)Apple にとって不利なライセンシング条項を和解合意に含めること。

(ⅲ)標準策定に悪影響を及ぼすこと。

例外的な状況は、GPRS 標準策定プロセスであり、FRAND 条項及び条件で GPRS SEP

をライセンス契約するための Motorola の宣言である。客観的正当化の欠如は、Apple が

FRAND 条項及び条件でライセンス契約を締結する意思がない(unwilling)ものではない

という事実に関連している。

FRAND 条項及び条件でライセンスを行う宣言をしている標準必須特許権者は、例えば

以下のようなシナリオにおいて、潜在的ライセンシーに対し差止めを請求し実施すること

により、利益を保護するための合理的な措置を取る権利がある。

(a)潜在的ライセンシーが、財政難に陥っており、債務を支払うことができない。

(b)潜在的ライセンシーの資産が、適切な損害賠償手段を提供していない管轄区域に所在

する。

(c)潜在的なライセンシーが、FRAND 条項及び条件でライセンス契約を締結する意思が

なく(unwilling)、その標準必須特許権者が SEP の使用に対して適切に報酬を受け

取れない。標準化の文脈において、FRAND 条項及び条件で SEP をライセンス供与

する特許権者の必然的結論は、潜在的なライセンシーが、問題となる SEP の FRAND

条項及び条件でライセンス契約を締結する意思がない(unwilling)ものではないとい

うことである。

Apple の 2 回目のライセンスオファーは、司法的な料金設定を認めており、Apple が、

Motorola との FRAND 条項及び条件でライセンス契約を締結し、ライセンスされた SEP

に対する FRAND 報酬を支払う意思がある(willing)ことを明確に示している。したがっ

て、そのライセンスオファーの時点で、Motorola は SEP の使用に対して適切に報酬を支

払うために、差止めに頼る必要はなかった。

欧州委員会は、SEP に基づく差止めの TFEU102 条の適法性を扱っている欧州連合裁判

所の判例法は存在せず、各国裁判所はこの質問に対しこれまで異なる結論に達していると

いう事実を考慮して Motorola に対して罰金を課すことを決定した。

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ⅩⅣ. Samsung v. Apple (EU, 2014)30

・European Commission, Case AT.39939 — Samsung — Enforcement of UMTS standard

essential patents, 決定日:2014 年 4 月 29 日

○欧州委員会が、標準必須特許に基づく差止請求について、競争法違反の懸念を示し、権

利者がその違反を解消する確約(commitments)を申し出た事例。

○権利者は、ライセンスフレームワークに応じた実施者に対して差止請求を行わないこと

を約束した。

1. 事件の概要

2011 年 4 月に Samsung が欧州各国の裁判所において Apple に対する通信規格の標準

必須特許(SEP:Standard Essential Patent)に基づく差止請求を求めて提訴したのに対

し、これが競争法違反の疑いがあるとして、2012 年 1 月に欧州委員会(EC:European

Commission)が独自に調査を開始したのが、本件である。

2012 年 12 月に欧州委員会は、Apple を willing licensee と認定し、Samsung による差

止請求は欧州連合競争法(TFEU:Treaty on the Functioning of the European Union)

102 条に違反する蓋然性があるという予備的見解を示した。これを受け、Samsung は欧州

委員会に対して今後 5 年間、以下のライセンスフレームワークに応じた実施者に対しては

欧州経済地域内においてスマートフォンに関する SEP に基づく差止請求はしないと約束

し、欧州委員会はこれを認めた。

(ⅰ)ライセンス条件に関し、12 ヶ月間協議を行う。

(ⅱ)協議期間中に合意できない場合、裁判所又は仲裁人による FRAND 条件の決定を受

け入れる。

2. 争点

・ Samsung による SEP に基づく差止請求が競争法違反となるか否か。

30 ライセンス第1委員会第3小委員会「標準必須特許に基づく差止請求の制限に関する各国判断」知財管理 67 巻 1 号

66-78 頁(2017 年)を基に作成。

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3. 判示事項

欧州委員会は、上記争点について以下のとおり判示した。

(1) 法的拘束力

2014 年 4 月 29 日付けの本決定は、Samsung(Samsung Electronics Co., Ltd, Samsung

Electronics France, Samsung Electronics GmbH, Samsung Electronics Holding GmbH

and Samsung Electronics Italia SpA)宛てのものである。Samsung が、欧州電気通信標

準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)の標準策定プロ

セス中に、FRAND 条件でライセンス供与することを約束している UMTS SEP に基づい

て、各加盟国の裁判所に、Apple に対する予備的(暫定的)及び終局的差止命令を求める

ことに関する競争上の懸念に対処するため、Samsung は確約を申し出た。本決定は、

Samsung の確約に対し法的拘束力を与える。

(2) 標準必須特許と IPR ポリシー

標準規格は、テレコムネットワークとモバイルデバイスの互換性と相互運用性を保証す

る。モバイルデバイスは、通常、多くのの電気通信規格(いわゆる第 3 世代又は 3G(UMTS)

標準など)を実装している。これらの標準規格は、数千もの技術を採用しており、その多

くは特許によって保護されている。

標準に不可欠な特許は、標準が採用する技術をカバーするものであり、標準の実装者は

標準準拠製品での使用を避けることができないものである。これらの特許は SEP として知

られている。SEP は、標準に必須ではない特許(「非 SEP」)とは異なる。これは、実装者

が主要な機能性を犠牲にすることなく非 SEP の周辺を設計することは、通常、技術的に可

能であるからである。対照的に、実装者は、標準準拠製品を製造する場合、SEP によって

保護された技術を使用しなければならない。したがって、SEP はその所有者にとって大き

な価値がある。特に数百万人もの消費者に販売されている多数の製品に実装される標準を

カバーする SEP の場合、標準必須特許権者は、かなりの収益源を期待することができる。

一旦、特定の技術が選択され、広く普及した標準に組み込まれると、代替競合技術は市場

から消滅する可能性がある。

ETSI は、3つの欧州標準化機関のうちの1つである。ETSI は、欧州連合(EU:European

Union)及び欧州自由貿易連合(EFTA:European Free Trade Association)ポリシーを

サポートし、電気通信の内部市場を有効にする標準化と仕様を策定することについて正式

に責任を負う。

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ETSI の規則は、標準化策定プロセスに参加する企業に2つの主要な義務を課している。

(ⅰ)標準の採択前の適時に必須の知的財産権(IP:Intellectual Property)を ETSI に通

知すること。

(ⅱ)FRAND 条項及び条件に基づいて IP を利用できるようにすることを約束すること。

(3) 事実の経緯(差止請求の妥当性)

1998 年 12 月に、Samsung は FRAND 条項及び条件で UMTS SEP をライセンス供与

することを約束した。したがって、その技術を UMTS 標準に提供する場合、Samsung は、

(ⅰ)UMTS SEP をライセンスすること、(ⅱ)FRAND 条項及び条件でそれらをライセ

ンスすること、に同意した。したがって、Samsung はこれらの特許を使用して他者を排除

しようとするよりもむしろ、ライセンス収入によって、UMTS SEP の報酬を得ることを期

待している。

2011 年 4 月 21 日以降、Samsung は、一定の UMTS SEP に基づき、フランス、ドイ

ツ、イタリア、オランダ、英国の裁判所において、Apple に対する予備的及び終局的な差

止命令を求めた。Samsung は、2012 年 12 月まで欧州経済地域(EEA:European Economic

Area)において差止訴訟を維持し、これらの訴訟の取下げを一方的に発表した。

欧州委員会は、Samsung が、UMTS SEP に基づいた Apple に対する予備的及び終局的

な差止命令を求めることは、本ケースの例外的な状況を考量する場合及び客観的正当性が

少しもない場合、TFEU102 条において、そのような差止命令を求めることの適合性に関

する懸念があると、事前に結論づけた。

このケースの例外的な状況は、UMTS 標準設定プロセスであり、FRAND 条項及び条件

で UMTS SEP をライセンス契約するための Samsung の宣言である。客観的正当化の欠

如は、潜在的ライセンシーである Apple が、FRAND 条項及び条件で Samsung の UMTS

SEP のライセンス契約を締結する意思がない(unwilling)ものではないという、事実に特

に関連している。

(4) 確約(commitments)

欧州委員会によって示された懸念を晴らすため、Samsung は確約(commitments)を申

し出た。

Samsung は、スマートフォンとタブレット(モバイル SEP)で実装されている SEP(既

存及び将来の全ての特許を含む)の侵害について、潜在的なライセンシーに対し、EEA の

いずれの裁判所又は審判で差止命令を請求しないことを約束する。この潜在的ライセンシ

ーは、FRAND 条項及び条件を決定するための特定のライセンスフレームワークに合意し、

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これに従う。本ライセンスフレームワークは、Samsung のモバイル SEP をカバーする一

方的なライセンス契約、あるいは、Samsung 又は潜在的ライセンシーが要求する場合、

Samsung のモバイル SEP と潜在的ライセンシーのモバイル SEP の両方をカバーするク

ロスライセンス契約のいずれかを含む。

本ライセンスフレームワークは、次の2つから構成される。

(ⅰ) 大 12 ヶ月の交渉期間

(ⅱ)交渉期間の終了時に、FRAND 条項及び条件を決定するためのライセンス契約又は

代替プロセスが合意されなかった場合における、FRAND 条項及び条件の第三者決

第三者による FRAND 条項及び条件の決定は、一方的なライセンス又はクロスライセン

ス契約の FRAND 条項及び条件を決定するため、紛争の仲裁又は法廷判決の付託から構成

される。FRAND 条項及び条件を決定するための裁判地について、Samsung と潜在的ライ

センシーとの間で意見が不一致の場合、その紛争は法廷判決に付託される。

本ライセンスフレームワークは、2つの付随的な「交渉の勧誘」で設定される。この「交

渉の勧誘」は、約束の不可欠な部分と、Samsung 及び潜在的ライセンシー間の約束の申し

込みのための契約上の基礎から構成される。

約定期間は、Samsung が公式な決定通知を受けた日から 5 年間となる。また、Samsung

は、確約の遵守状況を監視する管理者を任命する。

本確約は、Samsung が、FRAND 条項及び条件でライセンス契約を締結する意思(willing)

のある潜在的ライセンシーに対して、モバイル SEP に基づいて差止命令を求めることがで

きないことを保証するように、異議申立書に示された競争上の懸念事項に対処する。した

がって、本確約は、この確約によって提供されたライセンスフレームワークに従う

Samsung のモバイル SEP の全ての潜在的ライセンシーに利用可能な「セーフ・ハーバー

(safe-harbour)」を提供する。

潜在的ライセンシーは、ライセンスフレームワークに契約しないことも選択できる。そ

のような場合、潜在的ライセンシーは、FRAND 条項及び条件でライセンス契約を締結す

る意思がない(unwilling)とは自動的にみなされない。むしろ、Samsung が差止救済を

請求した裁判所又は審判は、潜在的ライセンシーが実際に FRAND 条項及び条件で契約

を締結する意思がない(unwilling)のかどうかを判断するために、当面のケースの全て

の状況を評価する必要がある。

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ⅩⅤ. IPCom v. Nokia (GB, 2012)31

■IPCom v. Nokia

・The UK High Court of Justice, [2012] EWHC 1446 (Ch)

判決日:2012 年 5 月 18 日

○英国高等裁判所において、標準必須特許に基づく差止請求を認めるか否か判断した事例。

○標準必須特許権者は FRAND 条件でライセンス許諾する義務があり、実施者が FRAND

条件でライセンス取得する意思がある場合、差止請求は認められないとした。

1. 事件の概要

本件は、IPCom が同じ特許で HTC と Nokia の両方を訴える一連の複数のケースの1つ

であり、標準必須特許権者が差止めによる救済をどの程度まで求めることができるかとい

う問題を処理する。

2012 年 5 月 18 日、英国高等裁判所は、IPCom FRAND-encumbered SEP(FRAND 義

務のある標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)を行使するための Nokia に対

する差止請求を、不実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)である IPCom に認めるこ

とを拒否した。IPCom が FRAND 条件で Nokia にライセンスを許諾するための、2009 年

に欧州委員会に与えられた確約に拘束されていることを確認し、同様に、Nokia が FRAND

条件でライセンスを取得する意思(willingness)を確認した。このような状況の下、裁判

所は差止請求が不適切であると判断した。

(1) 具体的な経緯

Nokiaは、通信チャネルアクセス制御に関するチップセットレベルの特許である「100a」

特許(EP 1841268)を取り消すため、英国高等裁判所に IPCom を提訴した。Nokia は、

また、特定のハンドセットモデルに関連して、非侵害の確認を求めた。本特許は、緊急応

答者やその他の優先ユーザのためにセルラーネットワークへ優先的なアクセスを保証する

技術に関する特許であり、3G(UMTS)標準に必須である。

初の裁判で、本特許は訂正され、有効であり、UMTS 標準に準拠した特定の Nokia 製

31 European Commission「Licensing Terms of Standard Essential Patents」(European Union, 2017)50 頁, AIPPI「2012 Report of Q222 Standards and Patents」、FOSS PATENTS「UK High Court denies a patent injunction against Nokia in light of a FRAND commitment」(2012 年 5 月 30 日) http://www.fosspatents.com/2012/05/uk-high-court-denies-patent-injunction.html [ 終アクセス日:2017 年 12 月 20 日], Peter Bell, Associate Powell Gilbert LLP,「Standards Essential Patents: UK and US Young EPLAW, 22 April 2013」 http://eplaw.org/wp-content/uploads/2015/12/Bell_Young_EPLAW_Congress_SEPs.pdf [ 終アクセス日:2017 年 12 月 20 日] を参考に

した。これらの資料によると、本件の判決ではないが、聴聞会の記録によるとされている。

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品によって侵害されていることが示された。Nokia は、その判断に対して控訴し、2012 年

5 月 10 日の判決で控訴裁判所は第一審判決を支持した。しかし、並行する無効手続におい

て、欧州特許庁(EPO:European Patent Office)は、 初に本特許を取り消した。これ

に対する IPCom の訴えは保留中であり、訴えが保留されている間、特許の取り消しは一時

停止される。

当事者は、IPCom が英国の差止救済を受ける権利があるかどうか(Nokia が英国で特許

技術を実装した製品を販売することを禁止されるかどうか)を判断するため、裁判所に戻

り争った。IPCom が ETSI 及び欧州委員会に与えられた確約に従って FRAND ライセン

スを付与する意思があったこと、及び Nokia が FRAND 条件でライセンスを取得すること

を認めたため、裁判所は、差止救済を与えることは不適切であるとの見解を示した。

2. 争点

・ 衡平法(equity)により裁判官の裁量で差止が認められる英国において、標準必須特許

に基づく差止請求が認められるか。

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3. 判示事項(聴聞会の記録)

2009 年後半に正式な EU 競争法の調査を避けるためになされた IPCom の FRAND 宣言

に照らして、英国高等裁判所は、5 月 18 日の聴聞会の早い段階において、差止命令がほと

んど起こりえないことを示し、(書面判決が示すように)代わりに当事者に「実際に可能な

限り速やかにライセンス条項の決定を進めること」を助言した。

(1) Willing の確認と差止請求

5 月 18 日の聴聞会の記録によると、IPCom が NPE であることを明確にした後、Roth

判事は、IPCom がライセンスを付与する義務を負うこと、Nokia は裁判所によって決定さ

れる FRAND 条件でライセンスを取得する意思(willing)があること、を再確認した。

判事は、「IPCom が付与する意思があり Nokia が望むようなライセンスが付与され、

FRAND 条件が決まった場合、差止めが認められたとしても、それは終了する」とした。

(2) NPE に対する差止請求の基準

さらに続けて、判事は、「このような状況では、全ての又は実際のいくつかの差止めにお

いて、なぜ本ケースの終局的差止めを認めるべきなのか、穏やかに表現し理解することは、

非常に不確かであると言わなければならない。これらの状況を考えると、[Shelfer v City

of London Electric Lighting Co]32の基準を考慮した古典的なケースと思われる。IPCom は

ライセンスを付与する意思(willing)があり、Nokia はライセンスの取得を望んでいる。

IPCom はその条件に同意することができないものの、その条件が決定され、それからライ

センス契約となるだろう。

非取引主体(non-trading entity)のためのそのような状況で、差止めを認めることは、

非常に珍しいようである。それは書面による議論で提起されている。それは、異なるドイ

ツの判決がどのような意味なのか、どのような既判力の原則が適用されるべきか、という

困難な全ての質問はさておき、この問題をかなり解決するかもしれないため、IPCom に対

処を望む領域であると考える。差止めを認めることが妥当かどうかは、この裁判所の裁量

に委ねられる」とした。

32 Shelfer 判決は、金銭的補償が十分であると考えられるため、差止命令による救済を拒否することができるという基

準を示した、19 世紀の判決である。これは、英国における 近のいくつかの特許判決に適用されている。Shelfer 基準:「一般的なワーキングルール」、差止命令に代えて損害賠償を認めるための要件: - 原告の法的権利に対する損害が小さい。 - 損害を金銭で評価することができる。 - 損害が、少額の支払いで十分に補償できる。 - 差止命令を認めることが、被告に厳しすぎる結果となる。

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ⅩⅥ. Ericsson v. D-Link (US, 2014)33

■Ericsson, Inc. v. D-Link Sys. Inc., et al.

・United States Court of Appeals for the Federal Circuit, 773 F.3d 1201,

判決日:2014 年 12 月 4 日

○RAND 宣言済み特許が関連する事案における損害賠償額(合理的なロイヤルティ)の算

定の考え方について判示した事例。

○RAND 宣言済み特許が関連する事案において Georgia-Pacific factors の一部に不適切な

もの(第 4 要素及び第 5 要素)があり、一部は RAND 宣言に反するもの(第 8 要素、

第 9 要素及び第 10 要素を含む)もある。

○修正版 Georgia-Pacific factors が存在すると判断するものではなく、裁判所は陪審説示

に当たって提出証拠を吟味すべきあって、機械的にある一定の損害額算定方式を用いる

ことは慎むべきである。

○特許された機能の価値は、規格におけるその他の特許されていない機能と区別して割り

当て、さらに、特許された機能そのものの価値に基づくものであって、標準規格に当該

機能が採用されたことによって増加した価値を含めない。

○具体的な証拠提出を行えば、ホールドアップ及びロイヤルティ・スタッキング概念がロ

イヤルティの算定に考慮される。

1. 事件の概要

Ericsson, Inc.等(以下「Ericsson」という。)が、D-Link Systems, Inc.等 8 者(以下「D-

Link」という。)による特許権侵害を主張してテキサス州東部地区連邦裁判所(以下「地裁」

という。)に提訴した事案である。

(1) RAND 宣言

本件の対象特許は、IEEE802.11(n)Wi-Fi 規格に関する標準必須特許(SEP:Standard

Essential Patent)である。Ericsson は、標準化団体である米国電気電子学会(IEEE:

Institute of Electrical and Electronics Engineers)において本件特許につき「全ての希望

者に対して、合理的かつ非差別的な条件で全世界において実施することができる権利を合

理的な額で許諾する」という内容の RAND 宣言を行っていた。

33 松村光章「エリクソン対 D-Link 事件と FRAND ロイヤルティの算定方法」ゼミ発表資料(2015 年 6 月 25 日)

https://www.softic.or.jp/semi/2015/1_150625/rep.pdf [ 終アクセス日:2017 年 12 月 20 日], 藤野仁三「世界の

FRAND 判例 Vol.5」The Invention 2016 8 号 64-67 頁(2016 年)を基に作成。

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(2) 控訴までの経緯

地裁で Ericsson は 5 件の特許について D-Link の侵害を主張したところ、陪審は、その

うち 3 件の特許の侵害を認め、損害額として合計で約 10,000,000US ドル(機器 1 台あた

りに換算すると約 15 セントに相当)を認定した。

陪審評決後、D-Link は、ロイヤルティの算定にあたり Entire Market Value rule(以下

「EMV ルール」という。)を適用するのは誤りであること、地裁は RAND 義務について具

体的に陪審へ説示すべきであること等を主張して再審理を申し立てた。

しかし、地裁は、陪審による事実認定を認容した上で、D-Link の申立てを認めず、

Ericsson が申し立てた 1 台あたり 15 セントを将来のロイヤルティとして認めた。

D-Link は、この地裁の判決を不服として連邦巡回区控訴裁判所(CAFC:United States

Court of Appeals for the Federal Circuit)に控訴した。なお、Ericsson が差止命令を請求

しなかったため、地裁はその判断をしなかった。

2. 判示事項

本件では、3 件の特許の侵害認定の不備や、EMV ルールの適用違反、Ericsson の RAND

義務に関する陪審説示の不備等について争われた。

CAFC は、地裁の侵害認定のうち、2 件の特許については侵害認定を支持し、1 件の特許

については侵害を否定した。また、EMV ルールの適用に関しては、地裁の判決を支持した

ものの、RAND 義務に関する陪審説示については、地裁が陪審に対して Ericsson の RAND

義務を具体的に説明していない等として、CAFC は陪審による損害額の認定を取消し、審

理を地裁に差し戻した。

判決の中で、CAFC は、損害の評価方法に関していくつか指摘した。以下では、SEP に

関連する事項について示す。

(1) RAND 義務の陪審への説示

D-Link は、Ericsson が本件特許を RAND 条件で実施許諾しなければならない義務を負

うこと、特に RAND 義務に関連してホールドアップ及びロイヤルティ・スタッキングの問

題について、地裁が陪審に説明することを要求していたが、地裁は、D-Link の上記要求は

採用せず、Georgia-Pacific factors に 16 番目の要素として、陪審は「Ericsson が負ってい

た RAND 条件での実施許諾義務を考慮することができる」とのみ追加していた。

この点に関し、CAFC は以下のとおり判示した。

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(ⅰ) 地裁における Georgia-Pacific factors の使用

「RAND 宣言済み特許が関連する事案において Georgia-Pacific factors の一部は不適切

なものがあり、一部は RAND 宣言に反するものもある。例えば、RAND 宣言している

Ericsson において第 4 要素にあるような実施許諾を行わないというポリシーは採り得な

い。また、第 5 要素のいう『ライセンサーとライセンシーの取引上の関係』は、Ericsson

として非差別的な条件でライセンスしなければならない本件においては不適切である。

Georgia-Pacific factors のその他の要素も RAND 宣言済み特許が関係する事案において

は修正が必要となる。例えば、発明の『市場における需要』に着目する第 8 要素は、規格

により当該技術の実装が要求されることにより、高騰していることが予想される。第 9 要

素についても、規格に組み込まれた技術が実装されるのは、規格準拠のために当該技術が

不可欠なだけで必ずしも当該技術がそれまでの技術に対して優れているというわけではな

いため、SEP においては『特許発明の従来品に対する実用性、優位性』という点も歪曲さ

れてしまう。第 10 要素はライセンサーによる商用化を挙げるが、もともと技術の実装を要

求する標準規格においては不適切である。他の要素についても個別の事案が対象とする技

術に応じた修正が必要となろう。結果として、地裁は提出証拠を吟味した上で、陪審説示

を作成しなければならないということである。これを本件についてみると、地裁は陪審に

対して、本件事案との関係では不適切な Georgia-Pacific factors(第 4 要素、第 5 要素、

第 8 要素、第 9 要素及び第 10 要素を含む)を誤って説示している。」

「地裁は、陪審に対して、Ericsson の負っていたその技術の RAND 条件での実施許諾義

務を考慮するよう説示するのではなく、Ericsson の RAND 宣言の具体的な内容を説示す

べきであった。RAND 宣言は、特許技術の市場価値に一定の制限を設けるものである。従

って、裁判所は、RAND 宣言によってどのような約定がなされたかを説明し、陪審は RAND

宣言に基づく約定の中身を必ず踏まえた上で損害額を算定しなければならない旨、陪審に

説示しなければならない。」

「本判決は、RAND 宣言済み特許に関して用いられるべき修正版 Georgia-Pacific factors

が存在すると判断するものではない。D-Link は『地裁は Innovatio 判決や Microsoft 判決

に倣って陪審説示を作成しなければならない』と主張するが、当裁判所がそれを採り得え

ないことはここで明らかにしておく。地裁における損害額算定手法の明確化の要請は認識

するものの、裁判所は陪審説示に当たって、提出証拠を吟味すべきあって、機械的にある

一定の損害額算定方式を用いることは慎むべきである。」

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(ⅱ) 標準必須特許における割当(apportionment)

「全ての特許権がそうであるように、SEP のロイヤルティ額は、当該特許された発明の

価値を割り当てた上で計算されなければならない。加えて、SEP については次の価値割当

が必要となる。第一に、特許された機能の価値は、規格におけるその他の特許されていな

い機能と区別して割り当てられなければならない。第二に、ロイヤルティは、特許された

機能そのものの価値に基づくものであって、規格に当該機能が採用されたことによって増

加した価値であってはならない。これらの割り当ては、ロイヤルティ額を、当該技術の標

準化活動によって付加された価値ではなく、特許発明が当該製品に付加した価値の増分に

基づいて算定するにあたって必要となる。・・・特許権がある製品の一部しか対象としない

場合、当該特許発明の価値を割り当てた上で賠償額が算定されるのと同様、SEP が当該規

格の一部しか対象としない場合、当該 SEP の価値を割り当てて賠償額は算定される必要が

ある。言い換えると、SEP の賠償額は、特許発明の価値(少なくとも特許発明の価値のお

およそ価値を現したもの)を割り当てたものでなければならず、規格全体の価値であって

はならない。陪審はこの点を説示されなければならない。本判決は、全ての SEP が規格の

中の技術の一部分のみを構成すると示しているものではない。特許権者がその発明が当該

規格の『価値の全体』を構成することを証明した場合、上記の点の陪審への説示はおそら

く不要となるだろう。」

「次に、発明が標準規格化されたことによる価値をみるに、 高裁の先例は当該技術が

標準規格化されたことによる価値から当該特許技術の価値を割り当てることも要請してい

ると当裁判所は考える。・・・言い換えれば、特許権者は、その発明に由来する価値が増分

した分についてのみ賠償を受けることができるというべきである。これはとりわけ SEP に

おいて当てはまる。ある技術が規格に採用された場合、当該技術はその他の候補の中から

選ばれているのが通例である。採用後、広く実装されると、当該技術が使用されるのはそ

れが唯一 良の候補であるからではなく、規格準拠の必要性から使用されるのである。言

い換えると、SEP が広く実装されるのは、当該発明が先行技術に比して実用性が付加され

ていることを必ずしも意味するものではない。これは SEP において価値ある技術的貢献は

皆無という意味ではない。SEP のロイヤルティ額は技術的貢献のおおよその価値を反映し

たものでなければならないことを単に判示しているだけである。

SEP の特許権者はその発明の付加価値の限度でしか賠償を受けることができないため、

陪審は、当該発明によって付加された価値とその技術革新が標準必須となったことによっ

て得た価値とを区別するよう説示されなければならない。」

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- 363 -

(ⅲ) ホールドアップ及びロイヤルティ・スタッキング概念の説示

「陪審にホールドアップ及びロイヤルティ・スタッキングについて説示すべきかを判断

するにあたっては、地裁において提出された証拠を検討しなければならないことを再度強

調する。被疑侵害者がホールドアップ及びロイヤルティ・スタッキングの具体的な証拠を

提出しない限り、地裁は、陪審に対してその事項について説示しなくてもよい。当然なが

ら、これら事象が起こり得るというような一般論を越えた何かが必要となる。すなわち、

『裁判所は、適切な証拠の存在しない法律上の論点を説示してはならない』。証拠にもよる

が、上記のような潜在的な懸念の斟酌は、不要かつ不適切な可能性がある。

本件についてみると、D-Link は陪審説示が必要といえるほどのホールドアップ及びロイ

ヤルティ・スタッキングに関する具体的な証拠を提出していない。仮に、D-Link が

802.11(n)規格の採用後、Ericsson がそれ以前に提示したロイヤルティよりも高い額をロイ

ヤルティとして要求していたという証拠を提出した場合、裁判所は、陪審に対するホール

ドアップを説示したり、場合によっては、仮想交渉日を規格採用前に設定するなどして、

当該事象を考慮することができたであろう。・・・Ericsson が SEP に基づき、当該規格を

使用する会社に対して、より高額なロイヤルティを要求していたということが立証されな

い限り、地裁が陪審に対してホールドアップに関して説示すること及び陪審説示を修正し

てホールドアップについて明示的に取り上げることを拒絶したことに何ら誤りはない。地

裁は、Ericsson がその RAND 義務を遵守し、その技術の使用に対して非合理的なロイヤ

ルティを要求していなかったと認定している。

加えて、ロイヤルティ・スタッキングの具体的な立証がなされない限り、陪審はロイヤ

ルティ・スタッキングに関する説示を受ける必要がない。ある規格に対して数千の特許が

必須宣言されているという単なる事実もって、規格を使用する会社は、全ての SEP の特許

権者にロイヤルティを支払わなければならないことを意味するわけではない。本件におい

て、D-Link の専門家証人は、被告各社が実際に支払っているロイヤルティ額の計算を試み

さえもしなかった。言い換えるならば、D-Link は自己が受けた Wi-Fi 必須特許に関する他

のライセンスに関する証拠を1つも提出できなかったということである。D-Link がロイヤ

ルティ・スタッキングに関する具体的な証拠を何に1つ提出できなかった以上、地裁は陪

審にロイヤルティ・スタッキングについて説示することを適切に拒否したといえる。」

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- 364 -

(2) ロイヤルティの EMV ルール

ライセンス契約の対象技術は 終製品の一部に関するものであったが、地裁は、係争中

の特許の価値を割り当てた上で損害額が計算されたものであるとして、 終製品に紐づい

たライセンス契約を参照すること自体に問題はないとした。

この点に関し、EMV ルールは実体法上の法規範及び証拠法上の原則から構成されると

して、CAFC は以下のとおり判示した。

(ⅰ) 実体法上の法規範

CAFC は、EMV ルールの実体法上の法規範について以下のように述べた。「多数の部品

からなる製品が関係する事案において、ロイヤルティベースとロイヤルティ率の 終的な

組み合わせは、侵害を構成する機能の価値を反映したものでなければならず、それ以上の

要素を取り込んではいけない。特許法第 284 条に基づく合理的なロイヤルティは、奪われ

た価値(value of what was taken)に基づいて算定されなければならないところ、特許権

者から奪われたのは特許された技術に他ならず、従って算定されるべき価値は、対象物品

において侵害を構成する機能に限定されなければならない。被疑侵害物品が特許された機

能とその他の機能から構成される場合、価値の算定にあたっては、当該特許された機能に

よって付加された価値によって決定されなければならない。

被疑侵害物品が特許された機能と特許されていない機能の両方から構成される場合、上

記の価値の算定にあたっては、特許された機能による付加された価値を把握することが必

要となる。このような価値の割り当ては、ロイヤルティ形式によらない損害賠償において

も必要となる。すなわち、陪審は 終的に被告の利益及び特許権者の損害額について、具

体的かつ信頼できる証拠に基づき、特許された機能と特許されていない機能の価値をそれ

ぞれ割り当てなければならない。

エコノミストは上記の価値算定をいくつかの方法で行い得る。例えば、ロイヤルティベ

ースの選定を注意深く行うことによって、特許された機能によって付加された価値が反映

されるような手法(ただしそのような区別が実際に可能な場合に限られる)、ロイヤルティ

率を調整することで特許された機能以外の機能の価値を割り引く手法、又はこれら手法の

組み合わせがありうる。重要なのは、合理的なロイヤルティの 終的な額は、特許発明が

終製品に付加した価値の合算値に基づいたものでなければならないということである。」

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(ⅱ) 証拠法上の原則

CAFC は、EMV ルールの証拠法上の原則に関しては以下のように述べた。「当裁判所の

裁判例は上記の実体法規範に重要な証拠法上の原則を付け加えている。証拠法上の原則は、

損害額が特許発明の価値に応じたものでなければならないという実体法上の規範を陪審が

問題なく使用することを補助する点に意義がある。ロイヤルティベースの選定にあたって

適用される証拠法上の原則によった場合、多数の部品からなる製品において特許された機

能が他の機能と組み合わせた価値まで有していないときは、 終製品の価値を不必要に強

調することによって陪審の判断を誤らせることがないよう注意が必要となる。特許発明の

価値に応じた損害額を適正に認定するにあたって、多数の部品からなる 終製品の価値を

用いることがいかなる場合も禁止されるわけではなく(そのような場合、ロイヤルティ率

を大幅に低く設定すること等が考えられる)、 終製品の価値に依拠した場合、ロイヤルテ

ィベースとは別にロイヤルティ率の設定を通じて損害額を 終的に認定するという手法に

不慣れな陪審の判断を誤らせる可能性があるかもしれないということである。このため、

終製品の価値が当該特許された機能によるものであるということが適切かつ適法である

場合、特許権者の損害額は当該全体価値に基づいて算定できるが、そうでない場合、陪審

の損害額認定にあたり、裁判所は、より現実的な出発点を提示しなければならない。多く

の場合、当該出発点は 少販売ユニットであり、時にそれよりも小さな部分もありうる。」

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ⅩⅦ. Immation v. One Blue (JP, 2015)

・東京地判平成27年2月18日判時2257号87頁・平成25年(ワ)第21383号

○FRAND宣言した特許に基づいて差止請求権があるかのように告知することは、不正

競争(虚偽の事実の告知)に当たると認定された事例。

1. 事件の概要

本件は、日本においてブルーレイディスク(以下「BD」という。)製品を小売店に販売

している原告(イメーション株式会社)が、BDに関する標準必須特許の保有会社により設

立されたパテント管理会社である米国の被告(ワン ブルー、エルエルシー)に対し、被

告が行った告知(小売店に対する警告)は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2

条1項14号の虚偽の事実の告知に該当すると主張して、告知・流布行為の差止め等を求めた

事案である。

被告は、15社の特許権者からの委託を受けて、同15社が保有するBD規格の標準必須特許

を一括してライセンスしている。15社は、いずれもブルーレイディスクアソシエーション

(BDA:Blu-ray Disc Association)会員であり、保有する標準必須特許につきFRAND宣

言を行っている。なお、被告自身は、BDA会員ではなく、FRAND宣言を行っていない。

(1) 交渉等の経緯

(ⅰ)米イメーション社(BDA会員であるが、被告パテントプールには参加していない。)

は、被告からライセンスを受けずに米国においてBDを取引していたところ、被告は、米イ

メーション社に対し、2012年6月25日付けレターにより、被告のウェブサイトでは、世界

的なライセンスプログラムを提供していることを通知するとともに、ライセンスを受けて

いないBDの販売等の即時停止を求めた。

被告の提示した実施料は、BD-R1枚につき0.1075米ドル、BD-RE1枚につき0.135米ドル、

BDXL-R1枚につき0.13米ドル、BDXL-RE1枚につき0.16米ドルである。

(ⅱ)米イメーション社は、被告に対し、2012年9月4日付けレターにより、①被告提示実

施料は「公正で合理的」でないと考える、②「公正で合理的」な実施料を支払う意思はあ

る、③実施料としてベア・ディスク(米イメーション社の売上原価の数字であり、包装費

用を除いたもの)の3.5%を提示する、④どのようなライセンス条件がFRAND条件かを評

価するために、被告に対し、被告が他のライセンシーと締結したライセンス契約の書式、

他のライセンシーが締結し、支払った実施料率(グラント・バック条件を含む。)、被告が

提示する実施料率の根拠及び合理性をサポートする財務分析、の情報を提供するよう求め

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る、旨の提案をした。

(ⅲ)被告は、米イメーション社に対し、2012年9月11日付けレターにより、①非差別的な

条件を提供するために、被告は、実施料率やその他のいかなる条件もライセンシーと個別

に交渉することはしないし、できない、②被告は、間違いなく被告提示実施料は「公正か

つ合理的」であることを指摘する、旨を回答した。

(ⅳ)米イメーション社は、被告に対し、2012年9月26日付けレターにより、①被告の回答

はライセンスの合理的な条件を提供することを拒むものであり、米イメーション社は、被

告の要求がFRAND条件によるレートを提案すべき義務とどのように合致し得るのか理解

できない、②米イメーション社は先に求めた情報を受け取っていない、旨を回答した。

(ⅴ)被告の日本子会社であるOne Blue Japan株式会社は、原告に対し、2013年4月11日

付けレターにより、ブランドオーナー向け契約書(ブランドオーナー及びメーカと被告と

の間で締結されるもの)を添付して、ライセンス契約を提案した。

(ⅵ)原告は、One Blue Japan株式会社に対し、2013年5月9日付けレターにより、①被告

は、米国法上、「公正、合理的かつ非差別的」なロイヤルティ率を提供する義務に違反して

いると考えている、②原告としては、「公正、合理的」なロイヤルティ率について議論する

用意がある、旨を回答した。

(ⅶ)被告は、2013年5月22日、被告パテントプールに属する特許の保有者4社と共同して、

米国デラウェア地区連邦地方裁判所に対し、米イメーション社を被告とする特許権侵害訴

訟を提起した。

(ⅷ)被告は、被告プール特許権者からの委託に基づき(争いがない。)、原告の取引先で

ある小売店3社に対し、2013年6月4日付けで、被告の管理する特許権に係るライセンスを

受けていないBDの販売は特許侵害を構成し、特許権者は差止請求権及び損害賠償請求権を

有する旨の本件通知書を送付した(本件告知)。

(ⅸ)原告は、被告に対し、2013年6月21日付け警告書により、①本件告知は不競法2条1

項14号の不正競争(虚偽の事実の告知)に該当する、②本件告知は独禁法上の不公正な取

引方法に該当する、③原告は、被告に対し、本件告知を撤回するとともに原告の被った実

害の回復に向けて誠意ある対応を行うよう求める、④原告としては、被告との間で「公正、

合理的かつ非差別的な条件」のもとでのライセンス、具体的には、BD単体の仕入価格の

3.5%をロイヤルティ金額とするライセンスを受ける意思や、今後も誠実にライセンス交渉

を行っていく意思がある、旨を通知した。

(ⅹ)原告は、被告に対し、2013年6月27日、告知・流布行為の仮差止めを求める仮処分を

申し立てた。

(ⅹⅰ)被告は、原告に対し、2013年7月3日付け回答書により、原告は事実関係を曲解し、

理由のない独自の主張に基づいて不競法違反及び独禁法違反の主張をしており、被告は、

かかる不合理な対応に、原告のライセンス意思の欠落を認める旨を回答した。

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(ⅹⅱ)被告は、本件告知の相手方であったヤマダ電機に対し、ヤマダ電機から被告に対

する2013年6月19日付け書簡を受けて、2013年7月3日付け通知書により、ヤマダ電機によ

る原告製品の取扱いは、特許権者らの保有する特許権のヤマダ電機による侵害行為である

旨を通知した。

(ⅹⅲ)原告は、被告に対し、2013年8月12日、本件訴訟を提起した。

2. 判示事項

裁判所は、ライセンスを受ける意思及び不正競争に関し、以下のとおり判示した。

(1) FRAND 条件によるライセンスを受ける意思の有無

(ⅰ)①被告は、米イメーション社に対し、2012年6月25日付けレターにより、被告のウェ

ブサイトが提供するライセンスプログラムについて通知し、被告パテントプールについて

のライセンス条件として、被告提示実施料を提示したこと、②米イメーション社は、2012

年9月4日付けレターにより、被告提示実施料は「公正で合理的」でないが、「イメーション

は、ブルーレイディスク及び関係機器に必須の技術に対して、公正で合理的な実施料を支

払うつもりであり、支払う意思もあります」と明言して、売上原価の3.5%という具体的な

実施料を提示し、被告提示実施料が非差別的である根拠、被告提示実施料の根拠等を示す

よう要求したこと、③これに対して、被告は、2012年9月11日付けレターにより、実施料に

ついてライセンシーと個別の交渉はしないし、できない旨を回答し、数社がブランドオー

ナー登録契約に共同署名していることを回答したが、それ以上に、ブランドオーナーが被

告と実際に被告提示実施料で契約している資料を示すことも、被告提示実施料の根拠を示

すこともなかったこと、④米イメーション社は、2012年9月26日付けレターにより、「公正」

なレートの根拠を示すよう要求したこと、⑤One Blue Japan株式会社は、原告に対し、

2013年4月11日付けレターにより、被告提示実施料によるライセンス契約を提案したこと、

⑥原告は、One Blue Japan株式会社に対し、2013年5月9日付けレターにより、「公正、合

理的」なロイヤルティ率について議論する用意がある旨を回答したこと、⑦被告は、被告

提示実施料の根拠を示すことも、実施料について交渉することもなく、米国においては他

の被告プール特許権者と共同して米イメーション社に対する特許訴訟を提起し、日本にお

いては原告の取引先に本件告知を行ったこと、が認められる。

本件訴訟において、被告提示実施料がFRAND条件に合致するものか否かに関し、被告と

他のブランドオーナーとの間の契約書、BDの標準必須特許に関する別の特許プールである

Premier BDの提供するライセンスプログラムの実施料に関する証拠、DVDの標準必須特

許に関するパテントプールであるDVD6Cの提供するライセンスプログラムの実施料に関

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する証拠、原告製品の小売店に対する販売価格や経費に関する証拠などが提出されたが、

これら被告提示実施料がFRAND条件に合致するか否かの判断の前提となり得る資料も、

本件告知の時点においては互いに相手方に開示されていなかった。

(ⅱ)上記に鑑みると、原告ないし米イメーション社は、被告ないしOne Blue Japan株式

会社に対し、FRAND条件によるライセンスを受ける意思があることを示してライセンス

交渉を行っていたものと認められ、原告が米イメーション社を中心とするイメーショング

ループに属する日本法人であること、前記のとおり、FRAND条件によるライセンスを受け

る意思を有しないとの認定は厳格にされるべきことにも照らすと、原告はFRAND条件に

よるライセンスを受ける意思を有する者であると認めるのが相当である。

(2) 不競法 2 条 1 項 14 号の不正競争の判断

本事案の原告ないし米イメーション社は、被告ないしOne Blue Japan株式会社に対し、

FRAND条件によるライセンスを受ける意思があることを示してライセンス交渉を行って

いたものと認められ、原告が米イメーション社を中心とするイメーショングループに属す

る日本法人であること、前記のとおり、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有し

ないとの認定は厳格にされるべきことにも照らすと、原告はFRAND条件によるライセン

スを受ける意思を有する者であると認めるのが相当であるから、被告提示実施料が

FRAND条件に違反するものであったか否かにかかわらず、被告プール特許権者が原告や

その顧客である小売店に対し差止請求権を行使することは、権利の濫用として許されない

状況にあったと認められる。

そして、上記のように、差止請求権の行使が権利の濫用として許されない場合に、差止

請求権があるかのように告知することは、「虚偽の事実」を告知したものというべきである。

以上によれば、本件告知は、FRAND宣言をした被告プール特許権者が、FRAND条件に

よるライセンスを受ける意思のある原告に差止請求権を行使することが権利の濫用として

許されず、原告から原告製品を購入した小売店に差止請求権を行使することも権利の濫用

として許されないにもかかわらず、これを行使できるかのように記載した点において虚偽

の事実を告知するものであり、不競法2条1項14号の不正競争に該当する。

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ⅩⅧ. TCL v. Ericsson (US, 2017)

■TCL Communication v. Ericsson

・United States District Court Central District of California,

Case No. SACV 14-341 JVS(DFMx), 判決日:2017 年 12 月 21 日

○米国カリフォルニア中部地区連邦地裁において、標準必須特許の FRAND ロイヤルティ

レートを詳細な分析により算定した事例。

○ロイヤルティ・スタッキングを防ぐことが可能なトップダウンアプローチを採用してロ

イヤルティレートを算出し、さらに同じ状況である企業の比較可能なライセンスを用い

てロイヤルティレートを決定した事例。

1. 事件の概要

本件は、電気通信分野の 2G(GSM、GPRS、及び EDGE)、3G(W-CDMA)、4G(LTE

及び LTE advanced)標準規格の特許ライセンスに関する事例である。

原告の TCL Communication Technology Holdings, Ltd. TCT Mobile Limited, and TCT

Mobile (US) Inc.(以下「TCL」という。)は、世界規模で携帯電話を製造・販売している。

被告の Telefonaktiebolaget LM Ericsson and Ericsson Inc.(以下「Ericsson」という。)

は、電気通信分野の幅広い特許ポートフォリオを保有している。

TCL は Ericsson から特許ライセンスを取得しようとしているものの、両者はライセン

ス条件に合意しない。このため、本件では、米国カリフォルニア中部地区連邦地裁におい

てロイヤルティレートが争われた。

2. 背景(当事者の交渉及び外国訴訟)

2007 年 3 月 6 日に 2 つの TCL 関連会社(T&A Mobile Phones Limited(後の TCL

Mobile Ltd.)及び TCL Mobile Communication (HK) Company Limited)が、Ericsson

との間で 7 年間の 2G ライセンスを締結した。

2011 年までいくつかの議論はあったものの、TCL と Ericsson が本格的に 3G ライセン

スの交渉を始めることはなかった。TCL はその年まで有意義な量の 3G 携帯電話を販売し

ていない。

当事者間で交渉中の 2012 年に、Ericsson は Ericsson 所有の標準必須特許(SEP:

Standard Essential Patent)の侵害を主張し TCL に対して一連の外国訴訟を提起した。

2012 年 10 月から 2014 年後半まで Ericsson は、フランス、英国、ブラジル、ロシア、ア

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ルゼンチン、ドイツの 6 つの異なる管轄区域で、TCL(関連会社含む)に対して少なくと

も 11 件の訴訟を提起した。

TCL は Ericsson と交渉を続け、2013 年に両当事者は Ericsson の 4G 特許に関するライ

センス交渉を開始した。その年、TCL は 4G 携帯電話の販売を開始し、Ericsson は初めて

TCL に 4G レートを提示した。しかし、TCL が FRAND 条件であると考えるオファーや

カウンターオファーのやり取りはなかった。

Ericsson が提示したレートは、当事者の交渉の過程で進展した。例えば、2013 年 3 月

25 日の Ericsson の 初の 4G オファーは、4G のハンドセット及びタブレットに対し、下

限 3 ドル及び上限 8 ドル(1,000 万ドルの支払い解除(release payment)の上限)で、3%

のランニングロイヤルティレートであった。その後 2 ヶ月以内に Ericsson は 4G デバイス

の上限を 7 ドルに引き下げた。さらに約 1 ヶ月後、Ericsson は 4G デバイス当たり下限を

2.50 ドルに引き下げた。TCL がこの訴訟を提起した後、Ericsson は 2014 年 4 月 23 日に

4G レートを 2%に引き下げ、30 億米ドルを超える売り上げの下限と上限を廃止する別の

オファーを行った(加えて 5 年間に年間 3,000 万ドルの一括払い及び支払い解除)。2015

年 2 月 11 日、Ericsson は別のオファーを行い、4G レートを下限 2 ドル及び上限 4.50 ド

ル(支払い解除を加えるが一括払いは無し)で 1.5%に引き下げた。

Ericsson の 3G オファーは、交渉中に同様に引き下げられた。2011 年 7 月 25 日の

Ericsson の 初のオファーは、下限 2 ドル及び上限 6 ドルで 2%のランニングロイヤルテ

ィレートであった。Ericsson が 2015 年 2 月 11 日にオプション B を提案する時までに、

Ericsson は下限や上限なしでランニングロイヤルティレートを 1.2%に引き下げた。

2014 年 2 月の会議で、Ericsson は、後にオプション A の基礎を形成する TCL へのライ

センスオファーを行った。TCL の George Guo は、「我々はあなたの提案について内部的

な議論を行ったところであり、期待できるものである。我々は詳細な交渉を開始するため

迅速にチームを結成する」と電子メールを送付した。しかし、そのプロセスが進む前に、

TCL は本訴訟を提起した。

当時、両当事者はすでに 6 年以上の交渉を行っていた。Ericsson は TCL に対して 12 件

以上のオファーを行い、その過程で複数の譲歩を行った。さらに、両当事者の交渉が失敗

したとき、TCL と Ericsson は、世界的なポートフォリオライセンスに関する条件につい

て、拘束力のある裁判所の判決に従うことに同意している。

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3. 判示事項

(1) 裁判所の判断の概要

裁判所は、Ericsson が FRAND 義務を果たしているかどうか、訴訟前の Ericsson の

終オファーであるオファーA及びオファーBがFRANDを満たしているかどうかを判断し、

満たしていない場合、FRAND ライセンスの重要な要素を決定し、FRAND 条件を提供す

る。

裁判所には、適切なロイヤルティレートを決定するための 2 つの主要なスキームが提示

されている。TCL は、標準に含まれる全ての特許の累積ロイヤルティ(aggregate royalty)

をもとに、そのうちの該当部分を決定する「トップダウン」アプローチを主張する。Ericsson

は、適切なレートを決定するために既に交渉されているライセンスに着目し、さらに、

Ericsson の特許が製品に付加する価値を絶対的に測定しようとする「事前(ex ante)」又

は「標準前(ex-Standard)」アプローチを主張する。

裁判所は、紛争の手続及び事実上の背景を検討し、欧州電気通信標準化機構 (ETSI:

European Telecommunications Standards Institute)標準を考慮して、当事者の競合

(competing)ロイヤルティアプローチを採用する。さらに、裁判所は以下の結論に達する。

・ Ericsson は誠実に交渉し、交渉の過程における行動は FRAND 義務に違反していない。

・ 裁判所は、FRAND レートの合意に達しなかったことが、Ericsson の FRAND 義務に違

反しているかどうかについて判断しない。その問いに対する結論にかかわらず、裁判所

は、両当事者が求めている確認的救済の観点から、FRAND レートが提供されているか

どうかを評価する。

・ Ericsson のオファーA 及びオファーB は FRAND レートではないため、裁判所が

FRAND レートを決定する。

裁判所は、トップダウン分析、比較可能なライセンス分析、法律上の結論に関し、以下

のとおり判示した。

(2) トップダウン分析

トップダウンアプローチの魅力は、ロイヤルティ・スタッキングの防止である。スタッ

キングは、個々の標準必須特許権者が要求するロイヤルティの合計が標準の全ての SEP の

価値を超えたときにするときに発生する。トップダウンアプローチでは、 大累積ロイヤ

ルティから始まり公正かつ合理的なレートまで引き下がるため、ライセンシーが合計で不

当な金額を支払う可能性を避けることができる。総累積ロイヤルティが標準における特許

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の価値の合計に基づいて適切に設定されている場合、標準必須特許権者が標準化によって

追加された価値に対してプレミアムを課すことができないため、ホールドアップも防止で

きる。

TCL が使用したトップダウンアプローチは、各標準に対する Ericsson の特許の必須性、

重要性、貢献度を直接検証し、満了及び取得特許の価値や、Ericsson の特許ポートフォリ

オの地域差も考慮する方法を提供した。しかしながら、トップダウンアプローチは、裁判

所がその条件を解釈する際の差別に対処することはできず、必ずしも比較可能なライセン

スを考慮した市場ベースアプローチの代わりとはならない。

(ⅰ) TCL のトップダウンアプローチ

TCL は以下の 9 ステップのトップダウン分析を提示した。

・ステップ 1:4G ハンドセットの価格の 6%、及び 2G/3G ハンドセットの価格の 5%の

大累積ロイヤルティを選択。

・ステップ 2:2015 年 9 月 15 日現在の各標準の SEP の総数を決定。

・ステップ 3:Ericsson の 196 パテントファミリーの全てを、必須性のために 1-3 のスケ

ールでランク付け。

・ステップ 4:必須であると判明した各パテントファミリーの重要性と貢献度を評価。

・ステップ 5:ロイヤルティレートを得るために一定の調整を適用。Ericsson の特許の比

較的低い価値を反映するため、重要性と貢献度ランキングに基づいて分子を調整。

・ステップ 6:後の特許出願で引用されている頻度に基づいて米国特許の価値を決定しよ

うとする前方引用分析を用いて、Ericsson の特許の価値を確認。

・ステップ 7:取得及び満了のために Ericsson のポートフォリオの変更を調整。

・ステップ 8:Ericsson の米国で も強力な特許ポートフォリオに対して、各地域におけ

る特許ポートフォリオの強さを決定することによって、いくつかの国における Ericsson

の弱い特許ポートフォリオを計上。

・ステップ 9:TCL の売上データを使用して地域によってロイヤルティに重み付け、地域

のロイヤルティを一緒にブレンドして標準ごとに1つのグローバルロイヤルティレート

を生成。公正で合理的なロイヤルティは、Ericsson の 4G SEP が 0.16%、2G/3G が 0.21%

である。

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(ⅱ) 裁判所のトップダウンアプローチ

裁判所は、事実及び法的根拠に基づき、上記 TCL の分析のステップ 4-6 及び 9 を認めな

い。これは、結局、裁判所が TCL の 終結果を受け入れなかったことを意味する。しかし、

裁判所は、そのデータを、異なる想定及びアプローチに基づいていくつかのレートを構成

するために使用する。裁判所は、全ての特許を同一の価値を持つものとして扱うシンプル

パテントカウントシステムを採用し、TCL の専門家により提供された分析のうち信頼でき

ると判明した数字を採用する。Ericsson のロイヤルティの計算式では、総累積ロイヤルテ

ィの比例配分を求める。これは次のように表すことができる。

× ′ ℎ ℎ = ′

Ericsson の比例配分はさらに次のように表すことができる。

ℎ = ℎ

裁判所は、分子として Ericsson が所有する満了前の SEP 数、分母としての総 SE 総数

を参照する。Ericsson の SEP ポートフォリオはいくつかの国で他の国よりも弱いため、

裁判所は地域の強度比を適用する。裁判所が使用する完全なトップダウンの計算式は、次

のように表すことができる。

′ = × ℎ × ℎ

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- 375 -

これらの式により求められる数値をまとめると以下の通りとなる。

総累積

ロイヤ

ルティ

SEP

Ericsson

の SEP 数

Ericsson

のシェア

地域強度比 Ericsson のロイヤルテ

2G 5% 365 12 3.280% USA:100%

Europe:72.2%

ROW:54.9%

USA:0.16402%

Europe:0.11842%

ROW:0.090049%

3G(*) 5% 953 19.65

2.061%

USA:100%

Europe:87.9%

ROW:74.8%

USA:0.10309%

Europe:0.090618%

ROW:0.07711%

3G(**) 5% 953 24.65 2.58% USA:100%

Europe:87.9%

ROW:74.8%

USA:0.12932%

Europe:0.11367%

ROW:0.09673%

4G(*) 6%,

10%

1481 69.88 4.761% USA:100%

ROW:69.8%

USA:0.28297%(6%)

0.471611%(10%)

ROW:0.19751%(6%)

0.32918%(10%)

4G(**) 6%,

10%

1481 111.51 7.525% USA:100%

ROW:69.8%

USA:0.45145%(6%)

0.752576%(10%)

ROW:0.31517%(6%)

0.52529%(10%)

*:TCL の主張 **:Ericsson の主張

(3) 比較可能なライセンス分析と FRAND 決定

FRAND 義務の第 2 の要素は、非差別であるレートを提供することである。両当事者は、

同じ状況にある企業に対して同じもしくは近いレートを提示しなければならないことに同

意する。両当事者は、比較のために異なる企業のクラスターを示している。TCL は、関連

するライセンシーが Apple、Samsung、Huawei、LG、HTC であると主張する。Ericsson

は、市場の中低位の企業である LG、HTC、CoolPad、Kaarbon、ZTE に焦点を当てる。

裁判所は、関連する企業を特定し、それらのレートを分析してオプション A 及びオプショ

ン B の差別についてテストする。

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- 376 -

(ⅰ) 関連する企業の決定

裁判所は、非差別のために TCL と比較する企業をどのように決定するかを述べ、TCL と

同じ状況にある 6 社(Apple、Samsung、LG、HTC、Huawei、ZTE)を特定する。

・同じ状況にある企業を判断するための要素

TCL と同じ状況にある企業の判断において、裁判所は、グローバル市場で合理的に確立

されたその他の企業を特定する。会社の地理的範囲、会社が要求するライセンス、合理的

な販売数量など、特定の要素が明らかに重要である。これらの要素は、同じ状況にある企

業の間でも示唆され、各アンパックレートが裁判所の結論に及ぼす重みに影響する類似度

があり得る。裁判所は、企業の全体的な財務的成功やリスク、ブランドの認知、デバイス

のオペレーティングシステム、又は小売店の存在などの要素は、Ericsson の SEP に対す

るロイヤルティレートが差別的であるかどうかに関係するとは考えていない。

(ⅱ) 差別の有無を評価するレートの決定

・アンパック方式

裁判所は、ライセンスを「アンパック」するために使用する方式を述べる。アンパック

は、ライセンスが共通の基準により比較できるように、一方向のロイヤルティレートを導

出するために使用される。ここで、アンパックは、裁判所にクロスライセンス、一括払い、

パススルー権及びその他の問題に対処することを要求する。

裁判所は、単位当りのレートを使用しないことを選択し、代わりに上限や下限のないロ

イヤルティの割合としてアンパック結果を計算する。

裁判所は、クロスライセンスのアンパックのために、適切な割引率、各ライセンスの収

益、及び適切な PSR(portfolio strength ratio)を決定する。

・比較可能なライセンスのアンパック

裁判所は、6 社(Apple、Samsung、Huawei、LG、HTC、ZTE)の比較可能なライセ

ンスを分析し、EricssonのオプションAとオプションBの結果と比較する。裁判所はApple

と Huawei のレートを基準として使用してライセンス比較の合理性をテストするが、これ

は絶対的なものではない。

(ⅲ) 比較可能なライセンス分析の結論

裁判所は、Ericsson が提案した競争上の弊害の要件を却下し、 後に比較可能なライセ

ンス分析の結論を提供する。

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・TCL への Ericsson のオファーの差別性

裁判所は、アンパックが完璧ではないことを認めるが、いずれの手段によっても、オプ

ション A とオプション B は、Ericsson が TCL と同じ状況であるライセンシーから受け入

れることに合意したレートとは根本的に異なる。TCL はその責任を負っており、オプショ

ン A とオプション B は差別的であり、FRAND 条件を満たさないことを証明した。

・FRAND レートの決定

オプション A 及びオプション B が FRAND ではないため、裁判所は予想されるレート

を決定する。裁判所は、トップダウン分析及び比較可能なライセンス分析から導かれたレ

ートの組み合わせを検討する。ここで、トップダウン分析では米国のレートが得られたも

のの、アンパックされた比較可能なライセンスは「グローバル」レートとなっていること

に留意する必要があり、米国以外の地域での販売のための変更を考慮しなければならない。

トップダウン分析と比較可能なライセンス分析から計算されたレートを比較するために、

比較可能なライセンスレートを米国レートに換算する。

裁判所は、以下のように 4G ライセンスのグローバルな価値が米国内のライセンスの価

値と米国外のライセンスの価値を加えたものであるとする。

= . . + ℎ . . = ×

これらの2つの式を組み合わせると以下の式となる。

× = . . × . . + ×

トップダウン分析では、Ericsson の 4G の米国以外の特許の強さは、TCL が中国でデバ

イスを製造しているため、Ericsson の中国における特許の強さによって設定された下限に

基づいているという見解を採用する。Ericsson の中国における 4G 特許の強さは、米国特

許の強さの 69.80%である。これを上記の式に加えると、以下の式となる。

× = . . × . . + . . × 69.80% ×

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これは以下のように書き直せる。

. . = × . . + × 69.80%

裁判所のアンパックレートは世界的レートであり、裁判所は IDC(Interactive Data

Corporation)データを使用して、米国内の売上における各ライセンシーの割合を決定する。

裁判所は、IDC のデータに基づき、比較可能なライセンシーごとに米国レートを決定した。

これにより、平均してライセンシーのレートが 30.35%上昇した。

中国における 3G の Ericsson の特許ポートフォリオは、米国及び欧州での売上を除いて、

世界的な下限を設定する。欧州における Ericsson の 3G 特許ポートフォリオは、米国のポ

ートフォリオの 87.90%であり、中国のポートフォリオは米国レートの 74.8%である。欧

州における Samsung、Huawei、又は HTC の売上を決定するためのデータが不足してい

たため、裁判所は 3G の世界的レートを 1.25 倍して米国レートを作成する。

比較可能なライセンスレートは、トップダウンレートと同じ条件とすることで、お互い

に比較することができる。

本ケースでは、比較可能なライセンス分析とトップダウン分析は、それぞれの分析の結

果を含む上位2つのレートと下位2つのレートとともに、お互いの合理的なチェックとし

て働く。データをさらに絞り込むため、裁判所は、上位2つ及び下位2つの結果を切り捨

てて、Ericsson の 4G SEP ポートフォリオの FRAND レートの中央データポイントを決定

する。

裁判所は、適切な FRAND ロイヤルティを正確に決定することができないことを認める。

しかし、十分に多くの一致したデータがあることから、裁判所は、米国における Ericsson

の 4G SEP ポートフォリオの適切な FRAND が 0.45%であると判断する。これは、Ericsson

の RoW(Rest of the World(残りの世界))に対するポートフォリオの FRAND レートが

0.314%であることを意味する。

ここで、トップダウン分析は、比較可能なライセンス分析よりも低いロイヤルティレー

トを示した。裁判所は、これらのレートと市場で得られるレートとの差が 100%以上異な

るトップダウンから、3G レートの信頼性について疑問を呈する。裁判所は、3G の収益よ

りも 4G の収益が大幅に大きい Samsung、HTC、及び Huawei にとって、3G レートがあ

まり重要ではないことに注意する。トップダウンの数字は米国レートを反映しており、欧

州と RoW のレートを決定するには修正が必要である。裁判所は、Ericsson の 3G SEP に

対して 0.30%の 3G 米国ロイヤルティレートを採用する。これは、Ericsson の欧州におけ

る 3G SEP のロイヤルティレートは 0.264%であり、RoW レートは 0.224%であることを

意味する。

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裁判所はトップダウン分析に基づいて 2G レートを計算したが、比較可能なライセンス

から 2G レートを確実にアンパックすることはできなかった。従って、裁判所は、米国に

おける 2G の売上の 0.16%、欧州における 2G の売上の 0.12%、RoW における 2G の売上

の 0.09%のトップダウン結果を採用する。

(4) 法律上の結論

(ⅰ) 裁判所の事実分析の根拠となる法的原則

① SEP 評価

「標準が広く使用されるようになった場合、標準必須特許権者は、特定の特許された技

術の価値よりも、需要への大きな影響力を得る。」(Microsoft Corp. v. Motorola, Inc., No.

Cl0-1823, 2013 WL 2111217 (W.D.Wash. Apr. 25, 2013))「この独占権は、標準必須特許

権者が特許を過大評価し、『反競争的な行動』に導く可能性がある。」(Microsoft Corp. v.

Motorola, Inc., 795 F.3d 1024, 1031 (9th Cir. 2015))「製造業者が標準必須特許に対して

過度に高いロイヤルティレートの支払いに同意するまで、ライセンスを保留するという方

法は、『ホールドアップ』と呼ばれる。」(Ericsson v. D-Link, 773 F.3d at 1209)

「これらのリスクのため、標準化団体は、FRAND 条件に基づいて特許をライセンスす

ることを要求する。」(Broadcom Corp. v. Qualcomm Inc., 50 I F .3d 297, 313-14 (3d Cir.

2007))

「FRAND 義務は、『標準化団体への参加を促すだけでなく、標準必須特許が過大評価され

ない』ように設計されている。」(Apple Inc . v. Motorola, Inc., 757 F.3d 1286, 1332 (Fed .

Cir. 2014)(overruled on other grounds by Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d

1339, 1349 (Fed. Cir. 2015)), In re Innovatio, 2013 WL 5593609)

「標準必須特許の評価において、裁判所は、『特許権者のロイヤルティは、特許技術が標

準化に採用されたことによって付加される価値ではなく、特許された機能の価値を前提と

しなければならない。・・・そのため、ロイヤルティの付与は、特許発明がその製品へ徐々

に追加される価値に基づくものであり、その技術の標準化によって追加されたいかなる価

値にも基づかない』ことを明確にする。」(Ericsson v. D-Link, 773 F.3d at 1232-33

(emphasis in original); Commonwealth Scientific & Indus. Research Organization v.

Cisco Systems, Inc., 809 F.3d 1295, 1305 (Fed. Cir. 2015) ("CSIRO"); In re Innovatio,

2013 WL 5593609)

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② 非差別義務

米国のケースは、非差別の要件に確実に対処していない。

Dr. Teece は、フランス法の専門家ではなく経済専門家としての証言をし、同じ状況

(similarly-situated)の企業間のレートに「ごくわずかな(smidgen)」差異がある場合、

FRAND に違反していないと証言した。彼は 0.5%及び 2%レートの間の差を広げない小さ

な差を意味する「ごくわずかな(smidgen)」を定義した。Ericsson のフランス法専門家で

ある Dr. Huber は、FRAND は状況に応じてレートの範囲を予期しており、FRAND を満

たす単一の固定レートが必ずしも必要ではないと述べている。

裁判所は、必ずしも FRAND である単一レートは存在せず、特定のライセンスの経済性

を考慮すると、異なるライセンシーへの異なるレートのオファーが FRAND となり得ると

結論付けている。Dr. Huber は、ETSI の IPR ポリシーのドラフト経緯に基づいて、「起草

者は、同じ必須特許ポートフォリオに対する全てのライセンシーに対して、まったく同じ

扱い又は同じライセンス条件を適用するために、『非差別』とするつもりではなかった」と

述べている。重要なことに、Dr. Huber は非差別の意味について議論する唯一の法律専門

家であった。TCL は、市場で名目上 低のレート以外のものは、それ自体が差別的である

と主張することはできない。

③ 分析におけるライセンスの役割

ライセンスは、提示されたレートが FRAND 要件を満たしているかどうか判断するため

の適切な手段であるが、排他的な手段ではない。ライセンスの検討に欠陥があり得る間、

裁判所は、比較可能なライセンスに対する TCL の見かけ上の包括的拒絶(seeming blanket

rejection)を認めない。TCL はまた、全ての又はいくつかの比較可能なライセンスが実際

に公正で合理的であるかどうか、ライセンシーがレートに同意する理由が公正で合理的で

あるかどうかという疑問を提起する。(In re Innovatio, 2013 WL 5593609)

実際のライセンスが市場での特許技術の経済的価値を反映しているため、問題の特許技

術に対する実際のライセンスは、これらの特許権に対する公正で合理的なロイヤルティを

構成するものであるかどうかについて、実証されている。(CSIRO, 809 F.3d at 1303;

Ericsson v. D-Link, 773 F.3d at 1227; Apple v. Motorola, 757 F.3d at 1315.)

裁判所は、一連のライセンスを調べることにより、特定のライセンスの FRAND 準拠に

関する懸念、非対称的な情報、及び訴訟の圧力が実質的に減少していることを認識してい

る。TCL は、事前のライセンスが、特に標準必須特許権者の要求をテストするためのリソ

ースを有する大規模なライセンシーにとって、「いくらか」の価値があることを認める。結

局、TCL の懸念は、裁判所がトップダウン分析及び比較可能なライセンス分析の間の 4G

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の結論で見いだした実質的一致を考慮すると、誇張されたものである。TCL 及び Ericsson

の異なるアプローチと裁判所のそれらの評価が著しく類似した範囲であるという事実は、

終的なレートが FRAND であることを裁判所に確信させる。

④ 同じ状況の企業

FRAND の非差別要素のために、同じ状況の企業(similarly situated firms)を探す必

要がある。ここでは、Apple、Samsung、Huawei、LG、HTC、ZTE などの企業がある。

差別を評価するために適切な企業をどのように定義するかについて意見を述べた法律専門

家はいなかった。

⑤ ロイヤルティに関する米国判例法

裁判所は Georgia-Pacific Corp. v. United States Plywood Corp., 318 F. Supp. 1116

(S.D.N.Y. 1970)を認識し、その系統の判例が、特許権侵害訴訟における合理的なロイヤル

ティを確立するための多面的試験を確立している。比較可能なライセンスを使用した

Ericsson のアプローチは、Georgia Pacific と部分的に重複する。しかし、裁判所は、FRAND

の紛争の独特な状況において、本格的な Georgia-Pacific 分析が有用なものであるとは考え

ない。

(ⅱ) FRAND 義務

契約違反の評価において、当事者は、誠実に交渉する当事者の相互義務と実際に FRAND

であるレートを提供する義務という2つの要素に焦点を当てる。

裁判所は、Ericsson が誠実に交渉し、その行動により契約を違反していないことを認め

る。実際に、 初の好意的な反応を示したことに応じたオファーを受けた直後、TCL がこ

の訴訟を開始したときに、交渉は終了している。

当事者は、ライセンサーが実際に全ての FRAND 要件を満たすオファーを行わなければ

ならないかどうかに関して、正反対の立場を取っている。

TCL の見解では、誠実な交渉のためのフランス法の義務は、FRAND 義務の全ての範囲

ではない。むしろ、契約上の義務は FRAND ライセンスを付与することである。TCL は、

これが誠実な交渉義務を指すポリシーの単純な文言の一致だけでなく、FRAND ライセン

スを付与する準備ができているという義務であると主張する。ETSI ガイドラインには、メ

ンバーに与えられた「権利」の1つが FRAND 条件で「ライセンスを供与されること」と

記載されている。

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Ericsson の見解では、FRAND 義務を満たすことができるオファーの範囲がある。

FRAND のコミットメントは、交渉の過程で交換される各オファー及びカウンターオファ

ーが FRAND であることを要求しない(Huber Rebuttal Deel. 1129-29; cf. Ericsson v. D-

Link, No. 6:10-CV-473, 2013 WL 4046225 , at (E.D. Tex. Aug. 6, 2013)、Microsoft Corp.

v. Motorola Inc., 864 F. Supp. 2d 1023, 1038 (W.D. Wash. 2012))。要するに、Ericsson は、

実際に FRAND であるオファーによって誠実な交渉を結論づける義務はなく、FRAND 条

件を提示するための準備のみが必要であると考えている。

裁判所は、ETSI に基づく FRAND の義務が実際に FRAND であるレートをライセンサ

ーに提示することを要求するかどうかの法的問題を解決する必要はないと結論づける。理

由は2つある。第1に、裁判所は TCL の損害賠償請求について部分的な略式判決を与えた

ため、さらには、裁判所は折良く発生しなかった訴訟費用の証拠を除外したため、推定違

反からの損害は発生しない。第2に、TCL の契約違反の下で特定の履行を与えるには違反

を判断する必要があるものの、それは不必要なものでもある。

TCL と Ericsson の両者は確認的救済を主張している。確認判決の法は、地方裁判所が

「さらなる救済が求められるか否かにかかわらず、利害関係者の権利を宣言する」ことを

規定している(28. U.S.C. § 2201)。確認的救済の可能性は当事者間に残る紛争が存在する

かどうかに依存し、確認的救済の要求は、他の形式の救済が適切かどうかとは無関係に検

討することができる(Powell v. McCormack, 395 U.S. 486, 517-518 (U.S. 1969))。確認判

決は、差止命令を含むさらなる救済をするための基礎として使用することができる。

TCL は、FRAND レートのオファーに失敗することを含め、Ericsson が要求される法的

要件に適合する TCL ライセンス条件を提示していないという確認判決を求める。

Ericsson は、Ericsson が(a)Ericsson の 2G、3G、及び 4G へのライセンスに関する

FRAND 条件に関して、ETSI への IPR ライセンス宣言、ETSI の IPR ポリシー、及び TCL

との交渉中に適用される法律を遵守していること、(b)実際に TCL へ FRAND 条件で

Ericsson の 2G、3G、及び 4G SEP のライセンスを与えるオファーを行っていることの確

認判決を求める。

契約違反の場合と同様に、TCL は、確認的救済主張の証明責任を負うだけでなく、

Ericsson の確認的救済主張の責任も負う。

(ⅲ) オプション A 及び B の非 FRAND 性

事実の認識から示唆されるように、TCL がオファーA 及び B は FRAND レートではな

いと主張する権利を有していると、裁判所は判断する。TCL はオプション A 及び B が

FRAND ではないことを証明する責任を負っている。同様の理由から、TCL は FRAND レ

ートを主張する権利がある。

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2015 年 5 月に FRAND 主張が修正された時点で判断するか、トライアルの時点で判断

するかに関わらず、Ericsson のオファーは FRAND ではない。これは、TCL の証拠だけで

なく、Ericsson の証拠によっても証明されている。特に、2015 年 5 月の時点で、Ericsson

は、オプション A 及びオプション B よりも実質的に低いレートで、TCL と同じ状況であ

る Samsung、LG、及び HTC とのライセンスを既に締結していた。

裁判所は Apple 及び Huawei のライセンスを合理性のチェックとして限定的に使用する

が、Ericsson の提案したレートはこれらの企業に対しても差別的である。

Ericsson のレートにおける下限の使用自体が差別的である。Ericsson の SEP が目に見

える増加分の価値を加えているということを示す信頼性がない場合、下限が低価格携帯電

話のための高い実効レートとなる平均販売価格に基づいて本質的に差別化しているという

根拠とはならない。ここで、裁判所は Kennedy の標準前分析(ex Standard analysis)を

認めない。

(ⅳ) FRAND レートの決定

裁判所は、以下のレートが裁判記録によって裏付けられ、ETSI に基づく FRAND 義務

によって義務付けられていることを認める。裁判所が採用するレートは、FRAND である。

2G 3G 4GU.S. Rate 0.164 0.3 0.45Europe Rate 0.118 0.264RoW Rate 0.09 0.224 0.314

00.050.1

0.150.2

0.250.3

0.350.4

0.450.5

Rat

e (%

)

Court's Final Rates

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(ⅴ) 支払い解除(Release Payment)

Ericsson は、2007 年 1 月 1 日以降の TCL によるライセンスの無い販売の全てを対象と

して、ここで将来のレートとして判断されたものと同じ方法及び同じレートで、同様に計

算される支払い解除(Release Payment)を受ける権利を有する。

(ⅵ) 判示されたライセンスの要素

裁判所は、ここで採用された FRAND ライセンス条件を決定する。

エンドユーザ端末(ハンドセット及びタブレット)に関して、(オプション B で定義され

ているような)TCL 製品である限り、TCL は上記グラフに記載されたレートを(オプショ

ン B で定義されているような)通信販売価格のパーセンテージとして支払うものとする。

混乱を避けるために、TCL 製品は Blackberry ブランドの下で販売されている。

外付けモデム及びパーソナルコンピュータの販売に関して、(オプション B で定義され

ているような)TCL 製品である限り、これらのデバイスの収益はハンドセットのアンパッ

キング分析で既に考慮されているため、TCL はロイヤルティフリーのライセンスを受け取

るものとする。

ライセンス期間は、裁判所が差止命令を下した日から 5 年間とする。ライセンス及び関

連する義務は、この訴訟の TCL 当事者、及びそれらが管理する全ての会社又は法人(すな

わち、議決権の 50%以上)にまで及ぶものとする。現在の裁判記録は、解除期間(release

period)の終了と差止命令の開始との間の期間、裁判所がロイヤルティを計算することを

認めていない。差止命令の方式の設定では、当事者が会合して問題を解決するために協議

し、それが行われない場合には、裁判所は追加の証拠を受け取り、問題を解決する。この

暫定期間中のロイヤルティレートは、裁判所が採用したものと同じでなければならない。

TCL の報告義務及び支払義務は、オプション B に記載されているものとする。ライセン

スには、パススルー権利のための条項及び裁判所が FRAND 違反ではないと判断した条項

も含まれるものとする。

TCL のライセンス無しの過去の売上に対する Ericsson への補償 FRAND 額は

16,449,071 ドルである。

裁判所の 終的な判決が差止命令の形式をとるため、完全に統合されたライセンス契約

とは対照的に、差止命令を発効するために特定の条件を変更又は削除する必要がある。当

事者は、裁判所の見解及び結論に従った差止命令の提示書類を 30 日以内に提出するよう

命令されている。

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ⅩⅨ. Huawei v. Samsung (CN, 2018)34

・深圳市中級人民法院知的財産権法廷、深圳市中級人民法院(2016)粤 03 民初 816 号、

840 号, 判決日:2018 年 1 月 11 日

○中国において標準必須特許に基づいて差止命令が認められた事例。

○交渉を遅延させる行為が FRAND 義務に対し明らかな誤りであると判断された事例。

○今回の差止命令はライセンスに合意した場合に解除される特別なものであるとされた事

例。

1. 事件の概要

原告のHuawei Technologies(以下「Huawei」という。)と被告のSamsung

Electronics(以下「Samsung」という。)は、世界的な携帯電話メーカである。携帯電話

の世界シェアは、Samsungが第1位でありHuaweiが第3位である。両社は同じAndroid

システムを採用しているため、競争が特に激しくなっている。

Huaweiは、2つの特許第201110269715.3号(「伝送制御シグナリング方法及び装置」)

と特許第201010137731.2号(「キャリア・アグリゲーション中に肯定応答及び否定応答を

送信する方法、基地局及びユーザ装置」)を有しており、両方とも4Gの標準に必須である

と宣言されている。

Huaweiは、Samsungによる製造・販売等がこれらの標準必須特許を侵害しており、ま

た、クロスライセンスの交渉においてSamsungはFRAND義務に対して明らかな誤りがあ

るため、侵害行為の差止めを求めて本件訴訟を提起した。

これに対し、Samsungは、Huaweiが標準必須特許のライセンス交渉においてFRAND

義務を履行しておらず、Samsung側に明らかな誤りはないため、Huaweiの主張は却下さ

れるべきであると主張している。

34 深圳市中级人民法院「深圳知识产权法庭对国内首例无线通信国际标准必要专利侵权纠纷作出停止侵权的一审判决」

(2018 年 1 月 11 日) http://mp.weixin.qq.com/s/cXPQuZQwtxfwoJLwio8wZQ [ 終アクセス日:2018 年 1 月 15日], 澎湃新闻「华为诉三星侵犯专利权案一审胜诉:三星被判禁止产销侵权产品」(2018 年 1 月 11 日) http://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_1946545 [ 終アクセス日:2018 年 1 月 15 日], Jacob Schindler "Huawei scores SEP injunction in Shenzhen suit against Samsung Electronics"(2018 年 1 月 11 日) http://www.iam-media.com/blog/Detail.aspx?g=6cc258a9-cc70-4f88-858b-228c05981776&vl=1052689267 (2018年 1 月 11 日) [ 終アクセス日:2018 年 1 月 15 日], AFP BB NEWS「ファーウェイ、サムスンに対し知的財産権侵

害を主張 一審勝訴」(2018 年 1 月 13 日) http://www.afpbb.com/articles/-/3158337 [ 終アクセス日:2018 年 1月 15 日]、Dragon Wang "Permanent Injunction Granted in Favor of Huawei for Samsung’s"(2018 年 1 月 16 日) http://ipwire.com/stories/permanent-injunction-granted-favor-huawei-samsungs-infringement-4g-seps/ [ 終アク

セス日:2018 年 1 月 29 日]を基に作成。

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- 386 -

2. 判示事項

(1) 裁判所の判断の概要

裁判所は以下のとおり判示した。なお、本件では損害賠償は請求されていない。

① 標準必須特許に基づく侵害が成立する。

② HuaweiはFRAND義務に従っているが、SamsungはFRAND義務に違反している。

③ 侵害する3G・4GLTEスマートフォンの製造、販売、販売の申出及び輸入について

Samsungに対し差止を命じる。

④ この差止命令については、さらなる交渉によってクロスライセンスに合意した場合、

又はHuaweiが差止命令の非執行を要求した場合、解除することができる。

(2) 侵害の成立

Huaweiの主張する2件の特許が3GPP Release 8、Release 9、Release 10に準拠する

3G・4G LTE SEPであることを示し、Samsungの製造・販売するスマートフォンが3G・

4G LTE対応であることを示すことによって、侵害の成立を証明した。

Samsungは先行技術の使用を含む非侵害の主張を提起したが、裁判所は支持しなかっ

た。具体的には、Samsungは、Ericssonの先行特許の文書、ネットワーク技術に関する

文献、3GPP RAN WG 1によって公表された資料を参照し、Samsungが先行技術を実装

していたことを示すことによって、特許侵害が免責されると主張したが、裁判所はその主

張を支持しなかった。

また、Samsungは、QualcommのCPUチップと他のチップの使用に基づく特許権の消

尽によって、HuaweiのSEPライセンスの免除権を有すると主張した。しかし、裁判所

は、4G LTE対応機能を備えたスマートフォンには免除権が適用されないと判断した。

(3) FRAND 義務

(ⅰ) 交渉履歴

裁判所は交渉履歴を検討し、①ライセンスオファーの遅れとカウンターオファーの遅れ

を伴って手続きを長引かせていること、②SEPと一緒に非SEPのライセンスを主張して手

続きを遅らせていること、③Huaweiが提案した意見の不一致を解決するための仲裁を拒

否していること、④技術的な議論のためのHuaweiの提案を拒否していること、⑤

Huaweiが提供した書面によるクレームチャートに回答していないこと、⑥調停のための

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具体的な計画を提案していないこと、を理由として、Samsungには「明らかな誤り」が

あると判断した。

特に、裁判所は、Huaweiが 初の時点でSHARPから購入した特許の権利範囲を明確

に特定しなかったが、この欠陥をその後修正しているたため、Huaweiには交渉中に「明

らかな誤り」はないと判断した。

(ⅱ) SEP の強度

裁判所は、HuaweiとSamsung間のSEPポートフォリオの強度を比較することにより、

Huaweiの提案するライセンスオファーがFRAND義務を満たしているかどうか判断し

た。そのオファーがSEPの強度に対応している場合、FRAND義務を満たしている。

裁判所は、中国のポートフォリオではHuaweiがSamsungよりも強い一方で、Huawei

とSamsungが海外のポートフォリオで同様の強度を保持しているという見解について、

HuaweiとSamsungのSEPの強度を検討した。この結論に達するために、裁判所は、

3GPPで採択された必須特許数と、ETSIによって宣言された3G・4Gの特許数を参照し

た。さらに、裁判所は、Huaweiのグローバルポートフォリオの必須性と技術貢献に関す

る第三者の報告書の結論を認めた。裁判所は、Samsungが提出したトムソン・ロイター

の報告書の結論を却下したが、その主な理由は報告書が他の国のポートフォリオに触れず

に米国のポートフォリオのみをカバーしていたためである。

特に、裁判所は、①InterDigitalは特許ライセンス企業であり、そのビジネスモデルは

Samsungのような事業会社とは異なり、スティックライセンスとクロスライセンスを比

較することは不適切である、②InterDigitalのポートフォリオの強度がHuaweiや

Samsungの強度よりもはるかに小さいため、参考にすることは不適切である、という理

由から、比較可能なライセンスとしてInterDigital v. Huaweiを参照すべきという

Samsungの主張を拒否した。

(ⅲ) ロイヤルティ

HuaweiとSamsungによって提供された資料を分析することにより、裁判所は、3Gの

世界的累積レートは5%であり、4G LTE の世界的累積レートは6%〜8%であると判断し

た。さらに、裁判所は、3Gの累積レートにおけるHuaweiの割合は5%であり、4G LTEで

は10%であるとした。

裁判所は、Huaweiによって提案されたライセンスオファーがFRAND条件を満たして

いると結論付けたが、機密保持の理由から、ライセンスの詳細な条件を開示していない。

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(4) 差止命令

裁判所は、Samsungが手続的な観点と実質的な観点の両方から「明らかな誤り」を起

こしていると判断し、Samsungに対して差止命令を下した。さらに、裁判所は、

Samsungの明らかな誤りのために5年以上にわたって交渉が引き延ばされており、これは

差止命令の正当性を示しているとした。

裁判所は、この差止命令は、SEPのライセンス交渉に関連するものとして特別なもので

あるとした。すなわち、裁判所は、クロスライセンスに合意した場合、またはHuaweiが

差止命令の非執行を要求した場合、差止命令は解除されるとした。

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資料Ⅲ

標準必須特許のライセンス交渉に関する

手引き(案)

(パブリックコメント向け公表版)

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i

........................................................................................ 1

.............................................................. 1

............................................................................... 3

.............................................................................. 4

.................................................................................................. 4

...................................... 5

............................ 7

........................................... 10

......................... 11

........... 12

................................................................................................ 15

............................................................................... 15

..................................................... 15

............................................................................... 18

............................................................. 19

.............................................................. 20

................................................................................. 21

........................................................................... 21

............................................................................ 22

............................................................................. 22

................................................................................ 22

....................................................... 23

.................................................................. 24

...................................................... 25

................................... 25

.................................................. 26

.......................................................................... 26

............................................ 27

....................................................... 27

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............................................................. 28

............................................. 28

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ii

......................................................................... 28

...................................................................................... 29

.......................................................................... 29

............................................................................ 29

......................................................... 30

.................................................................................................. 31

....................................................................................... 31

................................................................... 31

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1

1 2016 1

FRAND SEP2017 11

SSO SEPFRAND SEP

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2

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3

2 SSO FRAND

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4

3 SEP II.A.5. 4 Huawei v. ZTE ( CJEU 2015 )

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5

5 Huawei v. ZTE ( CJEU 2015 )

6 SEP

7

8 NTT DoCoMo v. HTC ( 2016 )

Sisvel v. Haier ( 2016 ) 10 15proud list

9 Sisvel v. Haier ( 2016 ) NTT DoCoMo v. HTC ( 2016)

10 NTT DoCoMo v. HTC ( 2016 ) SSO

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6

11 Fujitsu v. Netgear ( CAFC 2010 )

12 SSO SEP

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7

13 Realtek v. LSI ( 2013 ) 1

14 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) 15 Huawei v. ZTE CJEU 2015

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8

16 Huawei v. ZTE ( CJEU 2015 )

17 Apple v. Samsung ( 2015 ) Apple

Apple 18

Therasense v. Becton ( CAFC 2011 )

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9

19 SEP (2013 ); Apple v. Motorola ( CAFC 2014 ) FRAND

20 St. Lawrence v. Vodafone and HTC ( 2016 )

5

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10

St. Lawrence v. Deutsche Telekom and

HTC ( 2015 ) 3

21 Philips v. Archos ( 2016 ) FRAND

22 SEP

23 Sisvel v. Haier ( 2016 )

24 NTT DoCoMo v. HTC ( 2016 ) FRAND

25 Sisvel v. Haier ( 2016 )

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11

26 Realtek v. LSI ( 2013 ) FRAND

27 Microsoft v. Motorola ( 9 2012 )

Motorola

28 Imation v. One-Blue ( 2015 ) FRAND

29 Microsoft v. Motorola ( 2012 ) FRAND FRAND

FRANDSSO

Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) FRAND

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12

30 Apple v. Motorola ( CAFC 2014 ) FRAND

31 NTT DoCoMo v. HTC ( 2016 ) FRAND

1

32 Realtek v. LSI ( 2013 ) FRANDFRAND

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13

33 ADR

“Benefits of Arbitration for Commercial Disputes” 34

ADR

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14

35 283 eBay v. MercExchange ( 2006 ) 4 (1)

(2) (3)(4)

SEP Microsoft v. Motorola ( 2013 ) Apple v. Motorola ( CAFC 2014 ) SSO FRAND SSO

eBay

36 61Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) SSO FRAND

Unwired Planet

37 Huawei v. ZTE ( CJEU 2015 ) FRAND

38 100SEP Apple v. Samsung ( 2014 )

39 Google v. Motorola ( 2013 ); Motorola v. Apple (

2014 ); Samsung v. Apple ( 2014 ); Huawei v. ZTE (CJEU 2015 );

2016 1

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15

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16

40 SEP

license to all FRAND

access for all

41 IEEE 2015 IPR

SEP IEEE-SA Standards Board Bylaws (2015 )

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17

42

Quanta v. LG ( 2008 ) Apple v. Samsung ( 2015 )

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18

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19

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20

43 Sisvel v. Haier ( 2016 ) 400 10-15

proud list

44 SEP SEP

SSO IPR SEP

46

Unwired Planet v. Huawei ( 2017) Huawei

TCL v. Ericsson ( 2017 ) TCL

47 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 )

SEP 48 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) FRAND

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21

TCL v. Ericsson (2017 )

49 SEP SSO SEP

SEP

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22

50 GPF

15 FRANDSEP GPF Microsoft v. Motorola (

2013 ) 51 Ericsson v. D-Link ( CAFC 2014 )

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23

52 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) SEP

SEP 53 In re Innovatio ( 2013 ) Wi-Fi

54 CSIRO v. Cisco ( CAFC 2015 )

EMV

55 LaserDynamics v. Quanta ( CAFC 2012 ) SSPPU EMV

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24

56 Ericsson v. D-Link ( CAFC 2014 )

57 Apple v. Samsung ( 2015 )

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25

58 LaserDynamics v. Quanta ( CAFC 2012 )

59 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 )

TCL v. Ericsson (2017 )

60 ResQNet v. Lansa ( CAFC 2010 )

61 Lucent v. Gateway ( CAFC 2009 ) GPF3 or

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26

62 Ericsson v. D-Link ( CAFC 2014 )

63 Virnetx v. Cisco ( CAFC 2014 )

64 LaserDynamics v. Quanta ( CAFC 2012 )

65 Microsoft v. Motorola ( 2013 )

3 66 Microsoft v. Motorola ( 2013 ) RAND

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27

SEP 67 Apple v. Samsung ( 2014 )

3G 5% TCL v. Ericsson ( 2017 )

2G/3G 5% 4G 6% 10%

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28

68 GPF1 69 GPF3 70 In re Innovatio ( 2013 )

SEP

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29

71

72 LaserDynamics v. Quanta ( CAFC 2012 )

73

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30

74 Unwired Planet v. Huawei ( 2017 )

TCL v. Ericsson (2017 )

75 TCL v. Ericsson ( 2017 )

OS 76 FRAND

Microsoft v. Motorola ( 2013 ) Motorola SEPFRAND Unwired Planet

v. Huawei ( 2017 ) FRAND

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31

77 Lucent v. Gateway ( CAFC2009 )

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32

Apple v. Samsung ( 2014 ) 25 ( ) 10043

Imation v. One-Blue ( 2015 ) 25 ( ) 21383

Apple v. Motorola ( CAFC 2014 ) Apple, Inc. v. Motorola, Inc., 757 F.3d 1286 (Fed. Cir. 2014), overruled on other grounds by Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d 1339 (Fed. Cir. 2015)

CSIRO v. Cisco ( CAFC 2015 )

Commonwealth Scientific and Indus. Research Organization v. Cisco Sys., Inc., 809 F.3d 1295 (Fed. Cir. 2015)

eBay v. MercExchange ( 2006 )

eBay Inc. v. MercExchange, LLC, 547 U.S. 388 (2006)

Ericsson v. D-Link ( CAFC 2014 ) Ericsson, Inc. v. D-Link Systems, Inc., 773 F.3d 1201 (Fed. Cir. 2014)

Fujitsu v. Netgear ( CAFC 2010 )

Fujitsu v. Netgear, 620 F.3d 1321 (Fed. Cir. 2010)

Google v. Motorola ( 2013 ) Federal Trade Commission, Motorola Mobility LLC, No. C-4410 (F.T.C. July 23, 2013)

In re Innovatio ( 2013 )

Innovatio IP Ventures, LLC Patent Litigation, No. 11-c-9308, 2013 WL5593609 (Oct. 3, 2013)

LaserDynamics v. Quanta ( CAFC 2012 )

LaserDynamics, Inc. v. Quanta Computer, Inc., 694 F.3d 51 (Fed. Cir. 2012)

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33

Lucent v. Gateway ( CAFC 2009 ) Lucent Technologies, Inc. v. Gateway, Inc., 580 F.3d 1301 (Fed. Cir. 2009)

Microsoft v. Motorola ( 2012 )

Microsoft Corp. v. Motorola, Inc., 864 F. Supp. 2d 1023 (W.D. Was. 2012)

Microsoft v. Motorola ( 9 2012 ) Microsoft Corp. v. Motorola, Inc., 696 F.3d 872 (9th Cir. 2012)

Microsoft v. Motorola ( 2013 )

Microsoft Corp. v. Motorola, Inc., No.c-10-1823JLR, 2013 WL 2111217 (W.D. Was. Apr. 25, 2013)

Quanta v. LG ( 2008 )

Quanta Computer, Inc. v. LG Elecs., Inc., 553 U.S. 617 (2008)

Realtek v. LSI ( 2013 ) Realtek Semiconductor Corp. v. LSI Corp., 946 F. Supp. 2d 998 (N.D. Cal. 2013)

ResQNet v. Lansa ( CAFC 2010 )

ResQNet.com, Inc. v. Lansa, Inc., 594 F.3d 860 (Fed. Cir. 2010)

TCL v. Ericsson ( 2017 ) TCL Comm. Tech Holdings, Ltd v. Ericsson, No.8-14-cv-00341 (C.D. Cal. Dec. 21, 2017)

Therasense v. Becton ( CAFC 2011 )

Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson and Co., 649 F.3d 1276 (Fed. Cir. 2011) (en banc)

Virnetx v. Cisco ( CAFC 2014 )

Virnetx, Inc. v. Cisco Sys., Inc., 767 F.3d 1308 (Fed. Cir. 2014)

Huawei v. ZTE ( CJEU 2015 ) Case C-170/13, Huawei Technologies Co. Ltd v ZTE Corp., ZTE Deutschland GmbH [2015] CJEU

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34

Motorola v. Apple ( 2014 ) European Commission, DG Competition, Decision of 29 April 2014, C(2014) 2892 final, Motorola Mobility Inc.

NTT DoCoMo v. HTC ( 2016 )

LG Mannheim, Case 7 O 66/15, Order of 29 January 2016

Philips v. Archos ( 2016 ) LG Mannheim, Case 7 O 19/16, Order of 17 November 2016

Samsung v. Apple ( 2014 )

European Commission, DG Competition, Commitment Decision of 29 April 2014, C(2014) 2891 final, Samsung Electronics Co., Ltd., et. Al.

Sisvel v. Haier ( 2016 )

OLG Düsseldorf, Case I-15 U 66/15, Order of 17 November 2016

St. Lawrence v. Deutsche Telekom and HTC ( 2015 ) LG Mannheim, Case 2 O 106/14, Order of 27 November 2015

St. Lawrence v. Vodafone and HTC ( 2016 )

LG Düsseldorf, Case 4a O 73/14, Order of 31 March 2016

Unwired Planet v. Huawei ( 2017 ) Unwired Planet v. Huawei ([2017] EWHC 711 (Pat), 5 Apr. 2017)

2016 1 http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.files/chitekizaisangl.pdf

Communication from the Commission to the European Parliament, the Council and the European Economic and Social Committee: Setting out the EU approach to Standard Essential Patents

SEP (2013 )

U.S. Dep't of Justice and U.S. Patent and Trademark Office, Policy Statement

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35

on Remedies for Standard-Essential Patents Subject to Voluntary FRAND Commitments (Jan. 8, 2013)

“Benefits of Arbitration for Commercial Disputes”

https://www.americanbar.org/content/dam/aba/events/dispute_resolution/committees/arbitration/arbitrationguide.authcheckdam.pdf

IEEE-SA Standards Board Bylaws (2015 )

http://standards.ieee.org/develop/policies/bylaws/approved-changes.pdf

http://www.newyorkconvention.org/.

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禁 無 断 転 載

平成 29 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

標準必須特許を巡る紛争の早期解決に

向けた制度の在り方に関する

調査研究報告書

平成 30 年 3 月 請負先

一般財団法人 知的財産研究教育財団 知的財産研究所

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町 3-11

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