認知症が急速に進行した...

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認知症が急速に進行した 患者との関わり (医)清陽会 ながけクリニック ○岩藤はるみ(いわどうはるみ)、直本賀子、大森昌代、松本和広、長宅芳男

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認知症が急速に進行した 患者との関わり

(医)清陽会 ながけクリニック ○岩藤はるみ(いわどうはるみ)、直本賀子、大森昌代、松本和広、長宅芳男

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はじめに

少子高齢化の中、家族形態も変化している。独居世帯も増加しているおり、透析患者の高齢化が認められる。 このような背景で、認知症を有する透析患者が増加してきた。 今回、私たちは、アルツハイマー型認知症の進行が早く、対応に苦慮した症例を経験した。家族と密接な連携をとりながら、透析治療を継続している、示唆に富む症例と考えたので報告する。

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当院の紹介

ベッド数30床 患者数96名 平均年齢64.1歳 月水金 3クール 火木土1クール スタッフ 医師常勤務1名 非常勤2名 臨床工学技士8名 看護師9名 看護助手2名 医療事務3名 栄養士非常勤2名

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症例・認知症症状発症までの経過

症例:69歳 男性 原疾患:糖尿病 透析歴:5年 介護保険:要支援

平成8年 高血圧・高脂血症・糖尿病にて治療開始(他院) 平成22年 急性肺水腫にて救急搬送(他院) 両側内頚動脈狭窄症 インスリン治療開始 平成23年 4月15日 透析シャント手術(他院) 6月 7日 血液透析導入(他院) 6月13日 当院へ転院、外来透析開始 8月 8日 心肺停止状態にて救急搬送 高カリウム血症に伴う洞機能不全症候群 8月29日 洞機能不全症候群にてペースメーカ挿入 平成27年12月 インスリン中止 GLP-1製剤(デュラグルチド®)へ変更 下肢ASO

妻と二人暮らし。子供は二人、娘は近所に住んでいる。 職業は元建築関係の経営者。現在、息子が後を継いでいる。

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病状 認知症状 対応

左総外腸骨動脈ステント留置 他院入院中に不穏状態

辻褄の合わない言動が時にあり

日を勘違い来透析院

落ち着きがない・怒りやすくなる

体重増加が著明となる

辻褄の合わない言動が多くなる

精神科受診:アルツハイマー型認知症と診断 HDS-R13点 MMSI-20点

エピソード⑥ 銀行で騒動を起こしパトカー出動

透析日に来ない時がある

透析開始時間に遅れて入室することが多い

次回透析日と時間をその都度、説明しメモを渡す

本人と家族へ頻回な電話連絡

H28.1

H27.12.21

H28.6.28

H28.7 リスペリドン1mg開始 (リスパダール®1mg)

メマンチン塩酸塩5mg開始 (メマリー® 5mg)

抑肝散開始

エピソード① とても早い時間に来院 エピソード② 曜日を間違えて来院

エピソード③ 透析時刻に喫茶店に行き、透析時間に来院しない エピソード④ 仕事に行ってから来たと妄想をいう

H28.4

H28.9 メマンチン塩酸塩10mgに増量

H24.12 他院受診時、待ち時間が長いと結果を聞かずに帰宅

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病状 認知症状 対応

体重増加が多く 血圧低下あり

自転車で用水路に転落 頭部打撲・左肩峰骨折

精神科再受診

透析時間を守らない

精神科受診終了(受診先の医師の都合により)

妻へ電話し、息子・娘の協力を得るよう伝える →妻「息子の協力は得られない」

ドネべジル5mgに増量 妻へ生命の危険があることを伝える

透析日・透析時間の変更

繰り返し御本人へ電話

通院に介護タクシー利用開始する

透析日に来院しない日が頻回となる

H28.10

H28.12

H29.1.26

メマンチン塩酸塩にドネぺジル3mg追加 (アリセプトD®3mg)

過度な体重増加が続く

エピソード⑤ 用水路に転落

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自転車で通院していたが、非透析日に来院することがあった。 本人には非透析日であることを伝え、帰宅して頂いた。

透析開始時刻になっても来院しない。電話をすると、「今、喫茶店で食事をしているので透析にはいけない!」と言われる。妻に聞くと「早朝から自転車で外出している」とのこと。 食後に来院するよう再々連絡し、食後にようやく来院し、透析を開始する。 時に、頑なに透析を拒否することがあり、翌日に透析日を変更することもあった。

透析開始時間は午前8時30分だが、午前7時より前に来院している時があり、患者休憩室で待機していたが「待ち時間が長い!」「もう帰る!」と大声で怒りだすこともあった。 その為、早く来院された日は、透析施行の準備ができ次第、予定時間より早く透析開始していた。

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「○○(自宅から40~60km先)の現場まで自転車で来ている。今はガソリンタンクを埋める作業をしているから透析には行けない」と言う。繰り返し連絡すると、ありえないスピードでクリニックへ来院し、結局嘘をついていたことが判明する。午後から透析を開始した。 また、早朝に「銀行で打ち合わせをしてきた。自分が言えば朝7時からでも銀行は対応してくれる」と真剣に話をする。

透析日の朝、自転車で徘徊中(自宅から5km圏内)に深さ1.3mの用水路に転落した。妻も自転車で帯同しており、助けを求め救出された。 外傷・打撲あり救急車にて搬送され、頭部打撲・左肩峰骨折と診断された。 その後、当院にて透析を施行した。

「銀行に預けている自分のお金を引き出したい」と銀行に行く。預金は実際にはないため銀行側が説明するも、本人納得いかず大声で騒いでいた。それにより、パトカーを要請される。

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問題点と対応策

①時間通りに来院しない→来院しない場合は、本人及び妻へ 15-30分毎に電話連絡 次回来院日をメモに残して渡す 福祉タクシーの利用

②体重管理ができない→食事内容を明らかにする 栄養士より指導を受ける 除水量に応じ、時間延長や臨時透析の実施 妻へ現状報告と対応策を伝える

③安全性の確保が出来ない→ベッドの配置を考慮する 頻回な声掛け、見守り 薬の内服の確認

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考察

● 認知症患者と共に生活する家族は、認知症の症状に困惑し、ストレスを抱えている。その上、患者を取り巻く周囲の人たちの反応や態度に傷つき、負い目を感じていることも多い。介護者である家族は疲労困憊し、抑うつ状態に陥ることも多々ある。

● 認知症患者に対しては、それまでの生活習慣やリズムを考慮しつつ、患者の自尊心を保ちながら治療が受けられるよう援助していくことが肝要である。

● 患者は退職するまで、経営責任者として仕事中心の生活を送っていた。65歳を過ぎ、認知症症状が徐々に進行してからは息子が仕事を引き継いでいた。しかし、本人は、そのことに納得ができず、以前にもまして仕事に対する執着が強くなったようである。また、運動機能に問題がなく行動力があるので、「仕事に行く」と自転車で長時間徘徊することも 多かった。息子は父親の状態に無関心であるため、妻や娘が可能な限りの対応を行なった。それにより、身体的・精神的疲労が蓄積していった。

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● 妻は「若い頃はとても優しい人で、結婚してから一度も怒ったことがない人だったんです。今は、こんな風に変わってしまったけど。大切にしてもらってきたんです。だから、できる限りのことはしたいんです。」と言い、献身的に尽くしていた。

● 私たちスタッフも、そのような家族の気持ちを考慮し、柔軟な対応を行うように努めた。透析治療の時間になっても来院されない場合には、15~20分毎にスタッフが交代で電話をかけた。「仕事のために○○の現場にいる」と言えば(実際には、そのような現場には行っていなくても)「自転車で大変ですね。仕事が終わったら、気を付けて来て下さいね。」など、患者の自尊心を傷つけないよう無理強いはせず、患者の思いや行動に寄り添った対応を心掛けた。 ● 体重管理ができずdry weight まで除水が困難な時や、どうしても透析日に来院してくれない時には、翌日に臨時透析を行なった。 また必ず来院してもらえるように、家族と密接な連絡を取り合った。 ● クリニックでは24時間、患者に付き添い、見守ることは出来ない。だからこそ 100%の治療は無理でも、できるだけ努力して、出来る限りの治療は行えるように頑張りたい。

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●今後、このような認知症を有する透析患者が更に増加することが予想される。医療者と家族が、密接に連携をとったサポート体制づくりが必要である。家族のいない患者には、地域のサポートや他施設との連携も考慮していく必要がある。

●個別性を大切にしながら、透析治療を行えるように、また家族

が「患者を支えたい」という気持ちを持ち続けられるように、私たちスタッフは家族とも積極的に関与することが求められている。 私たちスタッフは、患者・家族にとって最も身近な相談者でありたい。

さいごに

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日本透析医学会 CO I 開示

筆頭発表者名: 岩藤 はるみ

演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある 企業などはありません。