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12 原  著 岡山県臨床細胞学会 Ⅰ.は じ め に 乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難と判定された症例 は,「良・悪性の細胞判定が困難な病変」と定められ, 組織学的に良・悪性の鑑別がしばしば問題とされる. 我々は,鑑別困難と判定された乳腺穿刺吸引細胞診の 100症例の細胞像と針生検の比較を行ったので報告す る. Ⅱ.対   象 対象は,2012年1月~2013年8月の期間中に提出さ れた乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とされた100症例 を対象とした。針生検での内訳は,正常あるいは良性 症例が67件,鑑別困難症例が8件,悪性を疑うを含む 悪性症例が25件であった. Ⅲ.方   法 比較検討方法として,背景,細胞診での塗抹量,集 背景 我々は鑑別困難と判定された乳腺穿刺吸引細胞診の100症例の細胞像と針生検の比較を行っ たので報告する. 対象と方法 乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とされた100症例を対象とした.針生検での内訳は, 正常あるいは良性症例が67件,鑑別困難症例が8件,悪性を疑う含む悪性症例が25件であった.方法 として,背景,細胞診での塗抹量,集塊の形態,細胞の結合性,核/細胞質比の高く核クロマチン増 量した異型細胞の有無などの評価を行った. 結果 針生検正常あるいは良性症例では,清明な背景に塗抹量は少量で,二相性を伴う上皮塊に加 え,結合性は弱く,核/細胞質比の高い異型細胞は少数みられた.針生検悪性を疑う含む悪性症例では, 背景はやや汚いものが多く,塗抹量はやや多く,変性や出血に伴う為,陽性と断定できなかった症例 がみられた.集塊の形態は大小の集塊でほつれ現象も散見された.やや緩い細胞集塊で,核/細胞質 比の高くクロマチン増量した異型細胞が少数散見された.針生検鑑別困難とされた症例では塗抹量は 陰性症例と比較してやや多いものの,悪性を疑うを含む悪性症例と正常あるいは良性症例の中間の細 胞像であった. 結論 穿刺吸引細胞診でみられた細胞集塊や異型細胞をスクリーニングする上で,背景,細胞集塊 の形態に加えて,細胞質を保持した小型でかつ核/細胞質比の高くクロマチンの増量した異型細胞の 存在を確実に拾い上げることが重要である. Key Words:Fine needle aspiration cytology, Fine needle biopsy, Indeterminate, communication, review 乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難と判定された100症例の 細胞像と組織像の比較検討について 岡本 哲夫(CT) 1) ,真田 拓史(CT) 1) ,松本 智穂(CT) 1) 徳田 清香(CT) 1) ,亀田 あい子(CT) 1) ,物部 泰昌(MD) 2) 西日本病理研究所 1) ,川崎医科大学附属川崎病院 2) Tetsuo OKAMOTO,C.T.I.A.C. 1) ,Hiroshi SANADA, C.T.I.A.C. 1) ,Chiho MATSUMOTO, C.T.I.A.C. 1) ,Sayaka TOKUDA, C.T.I.A.C. 1) ,Aiko KAMEDA, C.T.I.A.C. 1) ,Yasumasa MONOBE,M.D. 2) West Japan Pathology Laboratory 1) Kawasaki Medical school attached Kawasaki hospital,Department of pathology 2) 論文別刷請求先 〒710-0834 倉敷市笹沖463-1  西日本病理研究所 岡本 哲夫

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原  著

岡山県臨床細胞学会

Ⅰ.は じ め に

乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難と判定された症例は,「良・悪性の細胞判定が困難な病変」と定められ,組織学的に良・悪性の鑑別がしばしば問題とされる.我々は,鑑別困難と判定された乳腺穿刺吸引細胞診の

100症例の細胞像と針生検の比較を行ったので報告する.

Ⅱ.対   象

対象は,2012年1月~2013年8月の期間中に提出された乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とされた100症例を対象とした。針生検での内訳は,正常あるいは良性症例が67件,鑑別困難症例が8件,悪性を疑うを含む悪性症例が25件であった.

Ⅲ.方   法

比較検討方法として,背景,細胞診での塗抹量,集

 背景 我々は鑑別困難と判定された乳腺穿刺吸引細胞診の100症例の細胞像と針生検の比較を行ったので報告する. 対象と方法 乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とされた100症例を対象とした.針生検での内訳は,正常あるいは良性症例が67件,鑑別困難症例が8件,悪性を疑う含む悪性症例が25件であった.方法として,背景,細胞診での塗抹量,集塊の形態,細胞の結合性,核/細胞質比の高く核クロマチン増量した異型細胞の有無などの評価を行った. 結果 針生検正常あるいは良性症例では,清明な背景に塗抹量は少量で,二相性を伴う上皮塊に加え,結合性は弱く,核/細胞質比の高い異型細胞は少数みられた.針生検悪性を疑う含む悪性症例では,背景はやや汚いものが多く,塗抹量はやや多く,変性や出血に伴う為,陽性と断定できなかった症例がみられた.集塊の形態は大小の集塊でほつれ現象も散見された.やや緩い細胞集塊で,核/細胞質比の高くクロマチン増量した異型細胞が少数散見された.針生検鑑別困難とされた症例では塗抹量は陰性症例と比較してやや多いものの,悪性を疑うを含む悪性症例と正常あるいは良性症例の中間の細胞像であった. 結論 穿刺吸引細胞診でみられた細胞集塊や異型細胞をスクリーニングする上で,背景,細胞集塊の形態に加えて,細胞質を保持した小型でかつ核/細胞質比の高くクロマチンの増量した異型細胞の存在を確実に拾い上げることが重要である.

 Key Words:Fine needle aspiration cytology, Fine needle biopsy, Indeterminate, communication,        review

乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難と判定された100症例の細胞像と組織像の比較検討について

岡本 哲夫(CT)1),真田 拓史(CT)1),松本 智穂(CT)1),徳田 清香(CT)1),亀田 あい子(CT)1),物部 泰昌(MD)2)

西日本病理研究所1),川崎医科大学附属川崎病院2)

Tetsuo OKAMOTO,C.T.I.A.C.1),Hiroshi SANADA, C.T.I.A.C.1),Chiho MATSUMOTO, C.T.I.A.C.1),Sayaka TOKUDA, C.T.I.A.C.1),Aiko KAMEDA, C.T.I.A.C.1),Yasumasa MONOBE,M.D.2)West Japan Pathology Laboratory1)Kawasaki Medical school attached Kawasaki hospital,Department of pathology2)

  論文別刷請求先 〒710-0834 倉敷市笹沖463-1           西日本病理研究所          岡本 哲夫

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塊の形態,細胞の結合性,核/細胞質比の高く核クロマチン増量した異型細胞の有無などの評価を行った.

Ⅳ.結   果

[針生検正常あるいは良性症例]針生検正常あるいは良性症例ではfibroadenoma が26症例(38.9%)で最も多く見られた.次いで,normal or benign が23症 例(34.3%),intraductal papilloma が8症例(11.9%),cystic lesion が7症例(10.4%),adenomyoepithelioma が 1 症例(1.5%),fat necrosis が1症例(1.5%),scrlerosing adenosis が1症例(1.5%)の順であった(表1).詳細にみていくと,針生検でfibroadenomaの診断の細胞診では,双極裸核細胞を付随して二相性を有する乳管上皮細胞集塊が見られたが,一部にほつれ現象ともとれる細胞結合性が緩い細胞像がみられたことにより鑑別困難と判定していた.具体的な症例を提示すると,30歳代,女性.臨床的に右乳腺腫瘤がみられ,1年前に良悪性の判定が困難

と診断され,乳腺腫瘍増大傾向である為,乳腺穿刺吸引細胞診が施行された.二相性を有する細胞集塊が多くみられたが,一部であるが,二相性がやや不明瞭で核小体が目立つ異型細胞が少数認められた(写真1).鑑別困難として報告をした.その後の,針生検を行うと,間質成分が多く認めら

れ,二相性が保持された乳管上皮の増殖巣を認めたので,fibroadenoma の診断であった(写真2).針生検でintraductal papillomaの診断の細胞診標本

では,細胞結合性が強くアポクリン化生細胞や付随細胞がみられ,良性と診断できる症例もみられたが,背景にやや出血を伴っていて,二相性の保持していることにより読みづらくさせていたことや核/細胞質比の高い細胞もみられ,細胞結合性が緩い細胞が数個認められたことにより鑑別困難と判定していた.針生検でcystic lesion の診断の細胞診標本では,多

くが蛋白様物質を背景に泡沫状組織球がみられるのが,通常,細胞パターンだが,アポクリン化生様細胞や小型で二相性を示さない乳管上皮集塊を認めたことにより鑑別困難と判定していた. 針生検でadenomyoepithelioma の診断の細胞診標本

では,二相性を有する細胞集塊と細胞質を有した孤立散在性に出現する細胞の核/細胞質比が高く,やや紡錘形を示す細胞が認められた為,鑑別困難として判定していた.再度,詳細に見直すと,核内封入体を示す細胞像が少数認められた(写真3).針生検でfat necrosis の診断の細胞診標本では, 脂

肪壊死に陥った背景に孤立散在性に認められた乳管上皮細胞を異型細胞と捉えたために鑑別困難と判定していた.針生検でscrlerosing adenosis の診断の細胞診標本では,背景が清明で異型の乏しい乳管上皮細胞集塊が数個認められ,硬癌との鑑別を要したため,鑑別

写真1.針生検正常あるいは良性症例の細胞像パパニコロウ染色 ×20                     パパニコロウ染色 ×40

二相性を有する細胞集塊に混じって,核小体が目立つ細胞が少数認められた.

表1.針生検正常あるいは良性症例の内訳

針生検診断名 症例数 割合(%)fibroadenoma 26 38.9normal or benign 23 34.3intraductal papilloma 8 11.9cystic lesion 7 10.4adenomyoepithelioma 1 1.5fat necrosis 1 1.5scrlerosing adenosis 1 1.5

67 100

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困難と判定していた.全体的には,背景は多くが清明で一部出血を伴っていた.塗抹量は少量で,二相性を伴う上皮塊に加え,結合性は弱く,核/細胞質比の高い異型細胞は10症例に確認された.

[針生検悪性を疑うを含む悪性症例]針生検悪性を疑うを含む悪性症例ではinvasive dutal carcinoma(scirrhous carcinoma) が10症 例(40.0%)で最も多く見られた.次いで,invasive ductal carcinoma(papillotubular carcinoma) が5症例(20.0%),non invasive ductal carcinoma 4 症 例(16.0%),invasive ductal carcinoma(solid-tubular carcinoma) が 4 症 例(16.0%),invasive lobular carcinoma が2症例(8.0%)の順であった(表2).詳 細 に み て い く と, 針 生 検 でinvasive dutal

carcinoma(scirrhous carcinoma)の結果の細胞診標本では,出血性背景に孤立散在性に出現する細胞が数個認められた.具体的な症例を提示すると,70歳代,女性.乳輪下

に腫瘍がみられ,乳癌の疑いの患者であった.出血を伴うやや汚い背景に小集塊状に出現する異型細胞が認められた.細胞質がやや厚く,核はやや類円形で核/細胞質比の高い細胞で一見すると,アポクリン化生細胞のように一部細胞質がやや厚い細胞所見が数個認められた(写真4).異型細胞数が少ないこととアポクリン化生細胞との鑑別が困難であることの理由をコメントして,鑑別困難として判定していた.その後の針生検では,間質成分の中に異型細胞が索

状あるいは小胞巣状に浸潤増殖していた.細胞質にICL も確認できることから,invasive dutal carcinoma(scirrhous carcinoma) であった(写真5).針生検でinvasive ductal carcinoma(papillotubular

carcinoma),non invasive ductal carcinoma ,invasive ductal carcinoma(solid-tubular carcinoma)の3種類の診断の細胞診標本では,異型細胞の出現数

写真2.針生検の組織像HE 染色 ×10 異型のない間質細胞の増生と二相性が保持された乳管上皮の増生を認める.fibroadenoma と診断された.

表2.針生検悪性を疑うを含む悪性症例の内訳

針生検診断名 症例数 割合(%)invasive ductal carcinoma(scirrhous carcinoma) 10 40.0

invasive ductal carcinoma(papilotubular carcinoma) 5 20.0

invasive ductal carcinoma(solid-tubular carcinoma) 4 16.0

non invasive ductal carcinoma 4 16.0invasive lobular carcinoma 2 8.0

25 100

写真3.adenomyoepitheliomaの細胞像と組織像 パパニコロウ染色 ×40 HE 染色 ×20写真様に核内封入体が認められ,細胞診では,鑑別困難と判定された.針生検でadenomyoepitheliomaと判定された.

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が多いものの,細胞変性や出血が多い為,細胞所見が読みづらい為,正確な細胞判定ができにくい症例であった.針生検でinvasive lobular carcinoma の結果の細胞診標本では,出血性背景に核/細胞質比の高い細胞が数個~数十個認められていたことと細胞異型は弱いものの核に立体不整を有していたことから,詳細にかつ慎重に細胞判定するべき症例であった.全体的には,浸潤癌が多い結果であった.背景はやや汚いものが多く,塗抹量はやや多く認められたが,変性や出血に伴う為,明らかに陽性と断定できなかった症例がみられた.集塊の形態は,大小の集塊でほつれ現象も散見された.やや緩い細胞集塊で,核/細胞質比の高くクロマチン増量した異型細胞が約半数以上の18症例に確認ができた.

[針生検鑑別困難症例]針生検鑑別困難症例ではflat epithelial atypia が3

症 例(37.5%) で 最も多くみられた.次いで,phyllodes tumor(borderline) が 2 症 例(25.0%),atypical duct epithelium, mucocele-like lesion with atypical ductal epithelium,lobular neoplasia がそれぞれ1症例(12.5%)の順であった(表3).針生検でflat epithelial atypia の診断の細胞診標本

では,特異的な細胞所見は認められなかったが,核小体が目立つ細胞を異型細胞としてとらえていた(写真6).針生検でphyllodes tumor(borderline) の診断の細

胞診標本では,二相性を有する乳管上皮細胞に類似した間質由来と思われる細胞を異型細胞としてとらえていた.針生検でatypical duct epitheliumの診断の細胞診標本では,小集塊状からなる二相性がやや不明瞭な乳管上皮細胞を異型細胞としてとらえていた.針 生 検 でmucocele-like lesion with atypical ductal

epitheliumの診断の細胞診標本では,粘液性を有する背景に一部,核腫大を伴った乳管上皮細胞を異型細胞としてとらえていた.針生検でlobular neoplasia の診断の細胞診標本では,小葉癌を疑うも細胞異型がやや

写真5.針生検の組織像HE 染色 ×20 間質成分に異型細胞が小集塊状に認められた.ICLの存在が確認できる.invasive ductal carcinoma(scirrhous carcinoma) と診断された.

表3.針生検鑑別困難症例の内訳

針生検診断名 症例数 割合(%)flat epithelial atypia 3 37.5phyllodes tumor (borderline) 2 25.0atypical duct epithelium 1 12.5muoocele-like lesion with aypical ductal epithelium 1 12.5

lobular neoplasia 1 12.58 100

写真4.針生検悪性を疑うを含む悪性症例の細胞像 パパニコロウ染色 ×40 パパニコロウ染色 ×40出血性背景に細胞質が厚く,核類円形,核/細胞質比の高い細胞が数個認められた.アポクリン化生細胞の区別は困難であった.核小体が目立つ細胞が少数認められた.

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弱く,断定できなかった.具体的な症例を提示すると40歳代,女性.臨床的に乳癌が疑われたため,乳腺穿刺吸引細胞診を施行した.清明から一部出血性背景に二相性がやや不明瞭な細胞集塊が数個認められた.二相性があるかにようにみえる細胞集塊も散見されるも,核小体が目立ち,核/細胞質比の高い異型細胞も認められた.その為,非浸潤性小葉癌を疑うコメントを記入し,鑑別困難として報告した(写真7).その後の針生検では,小葉構造からなる腫瘍で,腫瘍の占める割合が小さいことから,小葉癌の疑いであった(写真8).後日に提出された手術標本の診断は,小葉癌であった.針生検鑑別困難とされた症例では,塗抹量は悪性を疑うを含む悪性症例と比較してやや多いものの,異型細胞の量と質の問題から,細胞判定するには困難な症例が多かった.核/細胞質比の高く核クロマチン増量

写真8.針生検の組織像HE 染色 ×20 小葉構造からなる腫瘍で,lobular neoplasiaの疑いであった.その半年後に手術材料が提出され,lobular carcinoma in situ と診断された.

写真6.針生検でflat epithelial atypiaと判定された細胞像と組織像パパニコロウ染色 ×40

二相性が不明瞭で,核腫大傾向を示す細胞集塊を数個認めた.HE 染色 ×20

内腔拡張した乳管上皮が認められる.核腫大傾向がみられ,平坦型異型に相当する

写真7.針生検鑑別困難症例の細胞像 パパニコロウ染色 ×40 パパニコロウ染色 ×40出血性背景に二相性があるかのように見える細胞集塊を認めた.核/細胞質比の高い細胞が少数認められた.小葉癌が疑われたが,鑑別困難として報告した.

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した異型細胞は約半数の4症例に確認された.

Ⅴ.考   察

鑑別困難と判定された乳腺穿刺吸引細胞診の100症例の細胞像と針生検の比較について報告した.我々が検討した100症例における針生検での内訳は,正常あるいは良性症例が67件(67%),鑑別困難症例が8件(8%),悪性を含む悪性症例が25件(25%)であった.細胞診ガイドライン作成ワーキンググループ員会(以下,小委員会)でまとめた鑑別困難症例236例では,良性病変が133例(56.4%),悪性病変が103例(43.6%)であり,6:4の比率で良性病変が多かったとされ1),我々が検討した内容はやや良性病変が多く,悪性病変が少ないものもほぼ同じ傾向がみられた.さらに,小委員会での詳細な組織型や病変と比較すると,良性病変133例を解析した結果,線維腺腫が51例,乳腺症が42例,乳管内乳頭腫が13例みられ,この3型で良性病変の80%を占めていた1)とされていて,我々が検討したのは針生検であった為,検討範囲が狭く,特定疾患の推定にはいたらなかった部分もあるものと思われた.今回,我々が検討した針生検でfibroadenoma と診断された26症例を癌取扱い規約に基づいた4型に分類を試みたが,病変が小さい為,約半数の12症例が管内型と管周囲型とまでしか判らなかった.一方,小委員会でまとめた悪性病変103例では硬癌が48例で約半数を占め,次いで非浸潤性乳管癌18例,乳頭腺管癌13例,浸潤性乳管癌9例の順であった1)

とされていて,我々が検討した内容とほぼ同じ傾向であった.今回検討した結果,細胞診標本では,二相性を保持された細胞集塊以外の部分に細胞異型がみられるかどうかを慎重にスクリーニングをすることが大切である.さらに,核/細胞質比の高く核クロマチン増量した異型細胞は,針生検陽性症例の約7割に多く認められたことから,慎重に拾い上げることが重要である.Flat epithelial atypia についてまとめると,さまざまな乳管・腺房からなり,その乳管・腺房を裏打ちされるように軽度異型を伴う上皮細胞が1~3層に並ぶ病変とされる.多くの場合,好酸性の比較的広い細胞質と楕円形の核を有し,核/細胞質比が低いとされる2)が,我々の経験した2症例では,比較的に核/細胞質比が高くみられた.細胞診でflat epithelial atypiaを正しく判定を行うためには,今後,症例を集めて,検討を行う必要がある.そこで,改めて検討項目について着目すると,背景,

細胞診での塗抹量,集塊の形態,細胞結合性,核/細胞質比の高く核クロマチン増量した異型細胞の有無として検討項目をあげていた.それに平均年齢分布を加えてみると,針生検正常あるいは良性症例では,平均年齢46.0歳,針生検悪性を含む悪性症例では,57.8歳,針生検鑑別困難症例では,51.4歳であり,悪性を含む悪性症例が正常あるいは良性症例と比較して,10歳以上高いことがわかった.今回,検討項目としてあげた内容は,すべて固定条件が良い状態で行うことが望ましいとされている.我々,検査センターでは,細胞診を提出する際の固定方法や注事事項を網羅した検査案内を各施設様に配布させていただいて,インフォメーションにて電話対応にも応じている.提出される施設は,小施設から大施設まで様々であることから,固定方法や固定時間,穿刺した細胞の塗抹方法も異なっていて,こと細かく指導や説明が届きにくい現状も今回検討した乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とさせている要因であることも否定できなかった.今後も引き続き,施設様とのコミュニケーションを積極的に行うことがより正確な細胞診判定には必要不可欠である.標本中に認められる異型細胞の質と量が充分に認められないと,鑑別困難症例がみられる傾向はやむを得ない現状と思われる.特に,穿刺吸引細胞診の検体処理法には,吹き付け法,引き伸ばし法,すり合わせ法,合わせ法などさまざまな塗抹法があるが,検体の状態にあわせた方法が望ましいとされている.いずれもスライドガラスに吹き出す場合は,検体の飛散や注射筒より吹き出される空気による乾燥を防止するため,まずはゆっくりと吹き出す必要がある.尚,後者3種類検体処理法では,細胞に挫滅が生じないよう,慎重な操作が望ましいとされている1).さらに,吹き出しを行った後の針に残った細胞を用

いて,液状化検体細胞診を行う方法もある.今後に期待できる方法であるが,保険点数の問題や液状化細胞診法での見方の訓練を行わなければ,正確な細胞判定はできないと思われる.特に,乳腺穿刺吸引細胞診で鑑別困難とされた細胞

診標本とその後に提出された針生検標本を複数の細胞検査士が定期的にかつ継続的に症例検討会等でレビューすることが,細胞判定レベルを維持及び向上につながると思われる.

文   献

1)細胞診ガイドライン2 乳腺・皮膚・軟部骨2015年版.金原出版.:2015:2-147

2)乳管・小葉内増殖性病変の病理診断.臨床検査2015;59(5):444-448