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プログラミング教育 93 論理的思考力を高める体験的学び 小学校におけるプログラミング教育の取り組みを通して嘉 数 裕 明 * 山 里 崇 * 新 垣 勇 人 * 上 運 天 滋 * 屋 良 直 子 ** 呉 屋 正 樹 *** キーワード ICT 教育、新学習指導要領、プログラミング教育、論理的思考力 プログラミング的思考、ビジュアルプログラミング言語、プログラミン スクラッチ(Scratch)、CS アンプラグド、EV3 Ⅰ はじめに 「2020 年」は、東京オリンピック開催年であると同時に、小学校の新学習指導要領が全面実施される年 でもある。今回の学習指導要領改訂の一部として、小学校から各教科等の特性に応じて計画的にプログラ ミング教育を実施することと高学年の外国語科導入があげられる。また、主体的・対話的で深い学び(ア クティブ・ラーニング)の実現も掲げられている。特に、ICT を活用した授業改善としての「プログラミ ング教育」は、プログラミング的思考(論理的思考) 1) を小学校の早い段階から取り入れ、小中高の児童生 徒に系統的にその思考力を育むことを目的として導入される。文部科学省の『小学校段階におけるプログ ラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ)』(2016)では、プログラミング教育の導入が、児童生 徒をプログラマーに育てることや、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を習得させるた めではなく、プログラミングの考え方に基づいた論理的思考力を育むことを目的としている。 本センターIT 教育班では、数年前からプログラミング教育、特にビジュアルプログラミング言語(スク ラッチ、プログラミンなど)や、児童生徒が自分でプログラミングし、そのプログラミングのアウトプット 用ロボット「教育版レゴ® マインドストー® EV3」(以下、EV3)を操作する体験セミナーに取り組んでい る。その中で、児童生徒がプログラミングツールを利用した体験的学びに興味・関心が高いこと、保護者 も高い関心を抱いていることを感じた。2020 年にプログラミング教育が全面実施される小学校においては、 まだその準備が十分に整っていない現状がある。 そこで本研究では、2020 年までの2年間の小学校におけるプログラミング教育の先行取り組みとして、 児童に主体的に学ばせながら「論理的思考力を育む体験的学び」の事例や、授業への導入方法(カリキュ ラム)を調査研究する。今年度は、コンピュータや特別な機器を使用しないプログラミング教育のコンピ ュータサイエンスアンプラグド(以下、CS アンプラグド) 2) やビジュアルプログラミング言語 3) の中から、 インターネットで利用できるスクラッチ(Scratch)、プログラミンなど、児童が学びやすく学校でより活用 しやすいツールについて、本センターの講座を通した取り組みや、小学校にて先進的にプログラミング教 育に取り組んでいる研究協力員の実践事例を紹介する。 今後2年間の取り組みは、小学校におけるプログラミング教育をよりよく進めるために、校内研修や出 前講座、各種研修会に活用できるような資料とし、2020 年の小学校プログラミング教育導入に向け、見通 しができるように支援を行う。 Ⅱ 研究内容 1 小学校の発達段階に応じたプログラミング教育ツールの紹介(パンフレット作成) 「教育×ICT 活用 指導力アップガイド 小学校プログラミング教育導入サポート資料」を作成し、 新学習指導要領で児童が利用できるプログラミング教育ツールを紹介する*沖縄県立総合教育センタ- * 指導(研究)主事 ** 主任研究主事 *** 浦添市立沢岻小学校教諭(研究協力員) 1) 自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した 記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近 づくのか、といったことを論理的に考えていく力 【小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ)、文部科学省 2016】 2) コンピュータを利用せずに、カードや鉛筆用具などを用いたゲームやパズルに取り組むことを通して、コンピュータ の仕組みや概念を学ぶこと。 【はじめよう!プログラミング教育 日本標準ブックレット 2017)】 3) テキストを記述するものではなく、視覚的に理解できるブロックやアイコンを用いてプログラムを作成するもの

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プログラミング教育

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論理的思考力を高める体験的学び ―小学校におけるプログラミング教育の取り組みを通して―

嘉 数 裕 明* 山 里 崇* 新 垣 勇 人*

上 運 天 滋* 屋 良 直 子** 呉 屋 正 樹***

キーワード ICT 教育、新学習指導要領、プログラミング教育、論理的思考力

プログラミング的思考、ビジュアルプログラミング言語、プログラミン

スクラッチ(Scratch)、CSアンプラグド、EV3

Ⅰ はじめに 「2020年」は、東京オリンピック開催年であると同時に、小学校の新学習指導要領が全面実施される年

でもある。今回の学習指導要領改訂の一部として、小学校から各教科等の特性に応じて計画的にプログラ

ミング教育を実施することと高学年の外国語科導入があげられる。また、主体的・対話的で深い学び(ア

クティブ・ラーニング)の実現も掲げられている。特に、ICT を活用した授業改善としての「プログラミ

ング教育」は、プログラミング的思考(論理的思考)1) を小学校の早い段階から取り入れ、小中高の児童生

徒に系統的にその思考力を育むことを目的として導入される。文部科学省の『小学校段階におけるプログ

ラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ)』(2016)では、プログラミング教育の導入が、児童生

徒をプログラマーに育てることや、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を習得させるた

めではなく、プログラミングの考え方に基づいた論理的思考力を育むことを目的としている。

本センターIT 教育班では、数年前からプログラミング教育、特にビジュアルプログラミング言語(スク

ラッチ、プログラミンなど)や、児童生徒が自分でプログラミングし、そのプログラミングのアウトプット

用ロボット「教育版レゴ® マインドストー® EV3」(以下、EV3)を操作する体験セミナーに取り組んでい

る。その中で、児童生徒がプログラミングツールを利用した体験的学びに興味・関心が高いこと、保護者

も高い関心を抱いていることを感じた。2020年にプログラミング教育が全面実施される小学校においては、

まだその準備が十分に整っていない現状がある。

そこで本研究では、2020 年までの2年間の小学校におけるプログラミング教育の先行取り組みとして、

児童に主体的に学ばせながら「論理的思考力を育む体験的学び」の事例や、授業への導入方法(カリキュ

ラム)を調査研究する。今年度は、コンピュータや特別な機器を使用しないプログラミング教育のコンピ

ュータサイエンスアンプラグド(以下、CSアンプラグド) 2) やビジュアルプログラミング言語 3)の中から、

インターネットで利用できるスクラッチ(Scratch)、プログラミンなど、児童が学びやすく学校でより活用

しやすいツールについて、本センターの講座を通した取り組みや、小学校にて先進的にプログラミング教

育に取り組んでいる研究協力員の実践事例を紹介する。

今後2年間の取り組みは、小学校におけるプログラミング教育をよりよく進めるために、校内研修や出

前講座、各種研修会に活用できるような資料とし、2020年の小学校プログラミング教育導入に向け、見通

しができるように支援を行う。

Ⅱ 研究内容 1 小学校の発達段階に応じたプログラミング教育ツールの紹介(パンフレット作成)

「教育×ICT 活用 指導力アップガイド 小学校プログラミング教育導入サポート資料」を作成し、

新学習指導要領で児童が利用できるプログラミング教育ツールを紹介する。

*沖縄県立総合教育センタ- *指導(研究)主事

**主任研究主事

***浦添市立沢岻小学校教諭(研究協力員)

1) 自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した

記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近

づくのか、といったことを論理的に考えていく力

【小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ)、文部科学省 2016】

2) コンピュータを利用せずに、カードや鉛筆用具などを用いたゲームやパズルに取り組むことを通して、コンピュータ

の仕組みや概念を学ぶこと。 【はじめよう!プログラミング教育 日本標準ブックレット 2017)】

3) テキストを記述するものではなく、視覚的に理解できるブロックやアイコンを用いてプログラムを作成するもの

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2 プログラミング教育導入の背景やツール概要・活用研修及び児童体験セミナーの実施

(1) 平成 29年度 ICT教育研修「プログラミング教育講座」

日時・対象:講座Ⅰ(Scratch)(6月 28日)、講座Ⅱ(EV3)(6月 29日)

小学校教諭及び市町村教育委員会などの情報教育担当者 計 38名

(2) 平成 29年度 夏期短期研修「プログラミング教育講座」(Scratch・EV3)

日時・対象:8月8日(火)、小学校教諭 60名

(3) 平成 29年度 「小学生プログラミングセミナー」(小学4年~6年生対象)

日時・対象:7月 28日(金)、9月 16日(土)・17日(日)

小学校4~6年生の児童 計 46名

(4) 平成 29年度 「小学校教員のための ICT活用講座Ⅱ (プログラミング教育講座)」

○新学習指導要領におけるプログラミング教育について

○「CSアンプラグド」を活用したプログラミング教育について

○「スクラッチ(Scratch)」を活用したプログラミング教育について

日時・対象:11月8日(水)、11月 10日(金) 小学校教諭 計 30名

3 実践事例について

(1) 研究協力員におけるプログラミング教育の取り組み実践事例

① 第4学年 国語科単元「ライトボット図鑑を作ろう」において、iPad アプリ(LightBot)を用

いて作成した課題を解決するためのプログラミングを、下級生にわかりやすく説明するために取

り扱い説明書を作成する実践。

② 第4学年 算数科単元「角とその大きさ」において、ピョンキー(ビジュアルプログラミング

ソフト)を活用し、2つの辺が作る形としての静的な角だけでなく、回転してできる動的な角を

アニメーションでとらえさせる実践。

③ 第4学年 理科単元「電気のはたらき」において、Minecraft のレッドストーン回路を利用し

て、電流の向きとプロペラの回る向きの関係などを関係づけて考えさせる実践。

(2) 県立総合教育センターIT教育班 長期研修員による実践事例

① 平成 28年度後期長期研修員 菅野朋和 教諭(南城市立百名小学校)

「第4学年算数科「面積」におけるプログラミングを通して」をテーマに研究をおこなった。

② 平成 29年度前期長期研修員 與座美夏 教諭(那覇市立神原小学校)

特別支援学級担任として、「自立活動におけるプログラミング学習を通して」をテーマに研究し、

コミュニケーション能力を高める研究をおこなった。

③ 平成 29年度後期長期研修員 新川博士 教諭(与那原町立与那原小学校)

プログラミングツールの CSアンプラグドを利用した「数学的な見方・考え方を育む学習指導の工

夫」をテーマに研究をおこなった。

※実践事例資料の一部は、次の URLに掲載( http://it.edu-c.open.ed.jp/ict-kyozai.html )

Ⅲ まとめ 2020年の新学習指導要領から、各教科の特性に応じて取り組まれる小学校プログラミング教育の先行研

修を行うとともに、導入サポートガイドを作成することができた。さらに研究協力員におけるプログラミ

ング教育の実践や長期研修員による先行研究を実施した。それらの一部資料を、県立総合教育センターIT

教育班ホームページへ公開した。

今後の取り組みとしては、2020年の小学校プログラミング教育実施に向けた、教科指導の見通しを持て

るような、より具体的な実践事例の作成と資料提供ができるようにする。

〈参考文献〉

小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ) 文部科学省 2016

はじめよう!プログラミング教育 日本標準ブックレット 2017

日経 Kids+子どもの未来を開く! 子どもと一緒に楽しむ!プログラミング 日経ホームマガジン 2017

ルビィのぼうけん こんにちは!プログラミング 株式会社翔泳社 2016

コンピュータを使わない情報教育アンプラグドコンピュータサイエンス 株式会社イーテキスト研究所 2007

黒上 晴夫・堀田 龍也のプログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア 小学館 2017

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