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東京大学 社会科学研究所 教授 田島俊雄 1.2007年の食糧情勢 ������������������������������������������������������������������������������������ 111 2.近年における主要作物の生産状況と需給バランス ������������������������������������������� 112 3.近年における農産物貿易の動向 ������������������������������������������������������������������� 119 4.ミクロレベルの農業問題 ����������������������������������������������������������������������������121

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1.2007年の食糧情勢 2007年 12月の中央農村工作会議(中共中央・国務院主催)前後の報道によれば、中国は4年連続の豊作となり、2007年におけるイモ類を含めた食糧生産1は 5億 150万トンに達するなど(2008年1月 24日の国家統計局長談話)、1999年以来 8年ぶりに 5億トンの大台を確保した。史上最高であった 1998年の5億 1230万トンには及ばないものの、中央農村工作会議の報告などからは、政策当局の安堵している様子がうかがえる。 この結果、従来の米およびトウモロコシの輸出に加え、伝統的な輸入作物であったコムギについても、純輸出の基調が定着しつつある。かつコメおよびコムギについては、すでに劣等財(所得が増えると消費が減る財)に転化したとみるのが一般的である。他方でこれとは対照的に、ダイズ輸入は 3082万トン(豆油輸入量 282万トンは含まず)、同輸出は

49万トンという状況にある(いずれも通関統計)。 昨年は石油価格の高騰に異常気象が重なり、世界的な規模で小麦やトウモロコシなどの農産物価格が高騰した。中国でも夏には小麦製品や豚肉、食用油の値上げが行われるなど、インフレ懸念に拍車をかける事態となっている。 かかる事態に対して政策当局(財政部・国家税務局)がとったのは、食糧輸出にともなう戻し税(5~13%)の解消(2007年 12月 20日以降)であり、さらに 2008年 1月 1日から向こう1年間の食糧輸出に対する暫定関税率の適用による、実質的な輸出規制措置であった(財政部「2008年において原糧およびそれらによる粉製品に対して暫定関税を設置する」2007年 12月 30日)。後者はトウモロコシ、コムギ、モミ・コメ、ダイズおよびこれらを原料とする粉製品に対しては 5から 25%の暫定輸出関税を課するというもので、国際的な価格騰貴の国内への影響を緩和するという意味で、一面は農業生産者よりも消費者の利益に配慮した措置といえる。ただし暫定関税率の最高はコムギ粉の 25%で、原糧(未加工)のトウモロコシ、コメ、ダイズは 5%であるなど、より長期的な構造調整を考慮した政策措置であるように思われる。 また 2008年 2月 21日には、国家発展改革委員会、財政部、農業部、国家糧食局、中国農業発展銀行の連名で、2008年においてコメ、コムギに対して最低保証価格による買付を発動するとともに、従来キロあたり 1.4元(0.7元/斤)程度であったものを 1.5元程度に引き上げる旨の通知がなされている。この最低買付価格制度は食糧買付制度の市場化にともない 2004年よりまずコメに対し導入され、2006年以降はコムギに対しても適用されており、例年は作況および市況を判断して収穫前の段階で地域ごとに発動の有無が通知され 1 イモ類の場合は重量5単位を食糧1単位に換算。

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ていた。2008年の場合には春作業前の早い段階で全国レベルで通知され、価格支持の発動が農家に対する強いメッセージとして伝えられたことになる。 一方これらに先立ち、2007 年 9 月には国家発展改革委員会より「トウモロコシ高次加工産業の健全な発展を促進する指導意見」が出され、06年 12月のバイオエタノール工場の新増設を規制する国家発展改革委員会「トウモロコシ加工プロジェクトの管理を強化するための緊急通知」号)を肯定するとともに、さらに進んで食用・エサ用を優先し、デンプンや化学工業原料向けの高次加工を規制する姿勢を明確にした。 これと前後して 2007 年 9 月には、国務院弁公庁より「油糧作物の生産発展を促進するための意見」が出され、これを受けて 2008年 1月 8日には農業部より「油糧作物生産振興のための計画方策」が提出されるなど、食糧・油糧種子の生産調整が本格化している。裏作や輪作の回復などを目標に、ダイズ、ナタネ等の油糧種子に対する助成等を増額するというものである。国際価格の上昇を契機とする劣等財化した小麦への生産シフト、過剰の発生を回避し、消費の拡大が見込まれる油糧種子やトウモロコシの振興をはかるべく、直接・間接の政策措置が採られていることは明白である。 以上から明らかなように、コムギ、コメのような需要のピークが過ぎた食糧については国際的な価格上昇の国内への波及を阻止し、消費者の利益を擁護するとともに、価格支持のメッセージを発しつつ、生産インセンティブの過度な増大を抑制し、油糧作物へのシフトを促そうとの意図がここでは示されているというべきであろう。他方でエサ用の需要増が見込まれるトウモロコシについても輸出を抑制するとともに、デンプン用や化学原料、バイオエタノール向けの高次加工を規制することにより、需給および国内価格の安定確保に努めていることになる。 つまりこの間の米、小麦、トウモロコシ、大豆の需給(生産、貿易)状況を踏まえ、慎重に食糧作物間の生産調整を図ろうとする政策的意図が明白である。 その点を2008年に向けた中央農村工作会議の基調報告では、「国内生産の発展に立脚し、農業構造の戦略的調整を進め、農産品需給のマクロ的構造的バランスをはかり、構造調整および品質安全を実現する」(必须立足发展国内生产,深入推进农业结构战略性调整,保障农产品供求总量平衡、结构平衡和质量安全)としている。 以下、そうした政策目標が打ち出された背景について、農業生産の時系列的地域別動向、農産物貿易の動向、さらにはミクロレベルの農業経済の動向に即して説明する。 2.近年における主要作物の生産状況と需給バランス 表1では作物別の食糧需給状況をみた。既述のようにコムギ、イネ(コメ)は消費のピークを過ぎ、輸出余力を有する状況にある。トウモロコシの場合は需給ともに拡大しており、若干の輸出余力を有する段階にある。これに対し歴史的な輸出作物であったダイズは、高タンパク品種を中心に若干の輸出を残すものの、主として搾油用の需要拡大とともに輸入依存が高まっている。主たる輸入先はアメリカ、ブラジルであり、前者にかかわる遺伝

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子組み換え品種を使ったダイズ油が市中に出回る状況にある。また雑穀の場合も注釈で示したようにビール用のオオムギを中心とした輸入が存在し、2005年以降はエサ用の雑穀、さらにはバイオエタノール用と目されるキャッサバの輸入も認められる。食糧全体では若干の輸入依存であるが、これは主としてコムギ、イネ、トウモロコシの輸出を上回るダイズの輸入によって説明される。ただし冒頭で示したように、ダイズ油としての輸入も行われていることから、オリジナルの重量で換算した場合は、食糧全体で 1000 万トン程度の輸入依存ということになろう。すでにみたように、政策当局としてはコムギ、イネ、トウモロコシに対する輸出関税、高次加工に対する規制と、ダイズ・油糧種子への転作奨励を通じ、国内生産および貿易構造の調整をはかっており、その意図するところは、食糧全体の海外依存、したがって国際的な市場変動といった攪乱要素の影響を最小限に止めようとするものであろう。

表 2以下では食糧生産の作目別地域別構造の時系列的変化をみた。 イネの場合は南方地域における主食にして、計画経済期においてもハイブリッド品種の導入などで輸出余力を有する作物であり、かつこの時期に作付面積のピークがあったと考えられる。改革・開放期には黒竜江をはじめとする東北の寒冷地において開田がすすみ、他方で江蘇、浙江といった江南の伝統的な稲作地帯が作付を減らしている。工業化に伴う農業の相対的な後退を示すもので、二期作から米麦二毛作への転換、さらに休耕といった要因が考えられよう。生産量のピークは 1997 年で 2 億トンを越え、現状では1億 8000万トン前後が国内市場の規模と目される。一方で単収についても1998年のピークから徐々に低下する状況にあり、コメ消費に関しては量より質の段階に入ったことをうかがわせる。 コムギの場合は北方地域における主食として、計画経済期の高い作付面積が改革・開放期にも持ち越し、90年前後にそのピークを迎えている。黒竜江、内蒙古、新疆といった春

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小麦地域、および江蘇、湖北といった米麦二毛作地域の作付が顕著に減少し、歴史的に二年三作(コムギートウモロコシー休閑―トウモロコシ(ダイズ)、またはコムギートウモロコシ(ダイズ)―コムギー休閑)の作付体系が形成されてきた華北の乾地農法地域が主産地として維持されている。春小麦地域の後退は、東北における開田(黒竜江)やトウモロコシへの転換(内蒙古)、綿花への転換(新疆)といった要因から説明され、米麦二毛作地域における後退は非農業就業の拡大による裏作の後退といった、日本でも歴史的にみられた要因から説明可能であろう。

コムギ生産のピークはコメと同様に 1997 年と考えられる。改革開放期に急激に生産量を伸ばし、その主たる要因は単収の顕著な増大にあり、かつ近年においても伸び続け、2006年以降の最低買付価格の発動、輸出の顕著な拡大という状況をもたらしたと説明するのが

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合理的である。すなわちイネと同様、コムギの場合も実質的な過剰局面を迎えていると判断される。

つぎにトウモロコシの状況である(表 4)。主食としての需要は減少しているものの、すでにみたようにエサやデンプン、化学原料、それにバイオエタノールの原料として旺盛な需要に支えられ、現状において作付面積、生産量、単収ともに増大過程にあるなど、市場が拡大している食糧作物ということができる。種子は基本的にハイブリッドである。 地帯構成でみると、伝統的な華北の畑作地域に加え、単作地域である東北とりわけ吉林での作付が顕著に増大していること、陝西、山西といったコムギを主とする二年三作地域、四川、雲南といった水田もしくは丘陵地域においても作付が回復していることを特徴として指摘できる。筆者の知見によれば、東北地方の場合は個別農家により豆科植物やイモ類との輪作を排除する形でもっぱらデントコーンの連作として行われており、青刈りトウモロコシをサイレージし、畑作と酪農と結びつけるような経営形態は希である。もともと中

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耕作物であるが、除草剤の散布によりこれを省略し、密植で収量を追求する形となっている。

ともあれトウモロコシはコムギや稲作における構造調整の受け皿になりつつあり、主として畜産用の需要と結びつく形で西南地域においても供給が増大している状況をみてとることができる。 さらにダイズであるが(表 5)、輸入依存が拡大する一方、作付面積、生産量のピークは数年以前であり、需要の拡大に対し国内生産が追いつかず、輸入に圧迫される形で生産が縮小に向かう状況と考えられる。

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食糧作物と競合する太宗作物である綿花の場合は、表6の数字が与えられる。 ここでは示されていないが、従来の生産ピークは 1984年で、この年の生産量は 626万トン、作付面積は 692.3万ヘクタールであった。表からも、またこのことからも理解できるように、その後 20 数年、綿花の場合は作付面積および生産量の変動が激しかった。各地の状況も同様で、80年代に全国トップであった山東は変動しつつその地位を新疆に譲るなど、主産地である華北および華中、江南地域においても変動が大きかった。人民共和国期の綿花生産は、品種面からいえば在来のアジア綿から陸地綿、さらに新疆地域の海島綿への移行のプロセスであったが、今日では遺伝子組み換えによる耐病虫害品種の導入が進んでいる。国内需要は、輸出品の太宗である繊維製品の原料として、拡大の一途であるが、供給は不安定で、国内需給にリンクする形で輸出入の変動を繰り返し、すぐにみるように輸入依存を拡大している。ダイズと並び、国内供給のみでは需要の拡大に応じきれない農産物の典型といえよう。 3.近年における農産物貿易の動向 表 7では直近のデータも含めた主要農産物の貿易動向をみた。95年のダイズ以外はすべて輸入超過、96年は軒並み輸入超過という事態は、やや異常である。一般的には 93年の日本におけるコメ不足に端を発した市場変動と、この時期に喧伝されたレスター・ブラウンによる食糧危機のキャンペーンによるところが大きかったと説明される2。このことのミクロレベルの含意については次節で述べるが、皮肉なことにこの時期の価格上昇によってトウモロコシの供給過剰が生じ、輸出にドライブがかかるとともに、過剰対策として、バイオエタノールを含む高次加工が吉林省をはじめとして急速に展開する。

90年代の変動が収まり、コメ、トウモロコシに加えコムギについても過剰傾向が生じ始めるのが 2002年、こうした傾向が定着するのが 2006年以降と考えられる。このプロセス 2 詳しくは田島俊雄『中国農業の構造と変動』御茶の水書房、1996年を参照。

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は、オオムギ(ビール用)、綿花、砂糖に加え、ダイズについても輸入依存に転換するプロセスであった。 農産物全体を金額ベースでみると3、2007年の段階で貿易総額は対前年比 23%増の 781億ドル、内訳は輸出が 370.1億ドル(前年比 17.8%増)、輸入が 410.9ドル(同 8.1%増)で、逆ザヤは 40.8 億ドルと、対前年比で 6.1 倍に膨らんでいる(農業部発表、2008 年 2月 4日)。 内訳については詳しく伝えられていないが、中国では一般に 2004 年の段階で逆ザヤが発生したと説明される。この年の場合は食糧貿易量が逆ザヤになるというやや突発的な理由があったが、これに加え高級食材の輸入拡大といった構造的な背景や、輸出先における非関税障壁の存在といった問題が指摘されており4、その後の逆ザヤ基調の定着は、政策的に織り込み済みであったと判断される。

表 8では一次産品輸出について、表 9では同輸入についての統計数字を示した。農産物は各分類にわたっており、おおよその議論に限られるが、そもそも中国の貿易収支に占める一次産品の割合は、石油や稀少金属などの原料輸入が増大傾向にあるとはいえ、経済発展とともにその地位を低下させている。農産物の場合でも、食品等の輸出の伸びが注目さ 3 この定義はやや微妙であり、通常は木材を除き、水産物を含む。 4 2005年1月 31日に行われた党中央1号文件にかかわる記者会見での陳錫文中央財経工作領導小組弁公室副主任による説明。

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れるものの、それとても大きな割合を示すものではなく、逆ザヤ、順ザヤの議論は、全体としてむしろマイナーな領域ということになろう。膨大な中国の貿易黒字からすれば、大きな数字とはいえない。議論されるとすれば、安価な農産物の輸入による国内価格したがって農業所得の低迷、それに安全保障上の問題に限定されよう。

4.ミクロレベルの農業問題 中国において農家・非農家間の所得格差が話題となって久しい。 一般に議論されるのは、表 10 に示す農家経済調査および都市家計調査のデータから導かれる世帯員あたりの名目可処分所得の格差である。1980 年代に低下した所得格差が 90年代以降、徐々に拡大し、21世紀に入ると 3倍以上に拡大し、かつ縮小の兆しが見られないというものである。そもそも抽出調査の結果を平均したものであり、サンプリングにかかわるバイアスもあろうし、農家間、都市世帯間の格差も平均化された数字ということになる。また世帯員1人あたりの数字である点にも注意を要する。農村の方が一般に世帯人口が多く、世帯あたりの数字であれば、これまでの格差は存在しない。また実質の数字が指数で示されているが、これでみる限り、1978 年を 100 とする数字では格差の拡大はさほど大きなものではない。いずれにせよ都市と農村における物価水準の違いを考慮しない議論は意味をなさない。 しかし中国において農業・非農業間に総体として顕著な所得格差が存在することは否定しがたい事実であり、これが拡大に向かっているのか、もしくは縮小に向かうのか、就業

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構造がいかに変化するのか、将来にかかわる大問題である。 他方で 2007 年には、ここ数年来の「民工荒」と呼ばれる出稼ぎ労賃の上昇や農民工の不足をめぐり、中国における無制限労働供給の終焉やルイス的な転換点5の到来をテーマとする議論が内外で盛んに行われ、一部で農村余剰労働力の枯渇を主張する議論も登場した。たとえば大塚啓二郎は、都市部における不熟練労働賃金の顕著な上昇をもって転換点の到来を主張し、呉要武や都陽らは、都市部における失業の解消や農民工賃金の上昇、農民工不足をもって転換点の通過を主張した6。これらの議論に対し王誠は、農民工賃金の上昇は90年代に低下した不熟練労働における賃金水準の回復にすぎず、農村部においた過剰労働力は滞留していると主張し、蔡昉は都市部における不熟練労働の賃金水準の上昇と不足を認めつつ、人口ボーナスの趨勢と農村部における中高齢農業従事者の存在から、転換点の通過は 2010年代になると予想している7。

これらに対し、筆者は農産物生産費のデータから農村における農業所得の上昇、すなわち再生産水準の向上を指摘し、さらに年齢階層別人口・就業構造のデータから、、転換点の通過を 2013年前後と想定している8。 すなわち表 11 は、国家発展改革委員会系統で実施されている農産物生産費調査の数字を加工し、かつ時系列で示したものである。賃耕(トラクタ作業のなどの外部委託)費は 5 日本における代表的な議論として南亮進『日本経済の転換点 : 労働の過剰から不足へ』創文社、1970年がある。 6 蔡昉主編『中国人口与労働問題報告 No.8 劉易斯転折点及其政策挑戦』(社会科学文献出版社)、大塚啓二郎「中国 農村の労働力は枯渇:「転換点」すでに通過」と題する論説が『日本経済新聞』(10月 9日朝刊)。 7 王誠「労働力供求“拐点”与二元経済転型」『中国人口科学』2005年第 6期 8 田島俊雄「無制限労働供給とルイス的転換点」『中国研究月報』第 62巻第 2号(2008年 2月)

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サービス支出に計上し、他方で雇用にかかわる労賃は収益(公租は費用として控除)に、雇用労働時間は自家労働とあわせて労働投入に含め、ムーあたりの収益と1労働日あたりの収益を求めた。つまり収益には労賃部分(自家労賃および雇用労賃)といわゆる地代部分(自作地地代=賃貸に出すと地代として徴集可能な額と実際の支払地代)、さらに所得補償(実質的には農地に対する補助)および投入(種子)などにかかわる補助金収入が含まれる9。

一見して明らかなように、稲、小麦、トウモロコシ、大豆の主要穀物に関する作付面積あたり収益は、96 年をピークに低下し、21 世紀に入り回復・急増している。この間に単位面積当たりの収量は伸び悩みからやや上昇に向かい、価格条件が好転した上、2002年以 9 農産物の生産費評価には洋の東西を問わず面倒な問題が存在するが、とりあえず日本における議論として、加用信文『農畜産物生産費論』楽游書房、1976年を参照されたい。

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降は公租公課の減免、2004 年以降は補助金の増額があり10、さらに労働投入時間の減少、つまり労働生産性の向上によって、1日あたりの収益も顕著に増大したことになる。またこれとともに作目間の時間当たり収益性も、おおむね平準化している。ただし綿花の回復は遅れており、このことが綿花の輸入依存拡大につながっているとも考えられる11。 この単位労働時間あたりの収益とは、地代や補助金を含む混合所得であり、農業収益に制度的な上乗せが行われて形成された労賃水準と理解される。つまり 21 世紀に入って以降の世界的な穀物価格の上昇と農業生産力の上昇、それに一連の農業保護政策の結果、中国農業の収益率は顕著に回復しており、農業から非農業への労働力移動の圧力は、その分緩和されている。「民工荒」に対する供給サイドの背景である。

他方で表 12 では、2005 年に実施された1%人口抽出調査12の結果から、年齢階層別の人口・農業就業構造をみた。農業就業人口の定義は主として従事する職業ということで、ややあいまいであり、高校・中等専門学校、大学、大学院在学生の卒後就農の可能性を考慮しなければならないが、年齢が下るにつれて絶対数においても相対数においても、畜産、水産、林業などを含めた広義農業の従事者は減少傾向にある。現状では新規学卒者の1割程度しか農業に参入しないことになる。しかし逆にいえば、年齢が上がるにつれ、ストッ 10 田島俊雄編著『構造調整下の中国農村経済』東京大学出版会、2005年、第 7章を参照。 11 農家の経営目標が1日(時間)あたり農業収益の極大化にあるのか、それとも耕地面積あたり、もしくは年間の農業収益の極大化にあるのか、はてまた兼業収入も含めた年間所得の極大化にあるのか、兼業機会、労働市場の展開状況の如何で異なるというべきであろう。 12 実際の抽出率は 1.325%であった。

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クとしての農業就業者は、絶対数においても農業就業比率においても、いわば逓増する形で残留していることになる。この部分の非農業への移動は、年齢的にも、また世帯の再生産という意味でも制約がある。地域労働市場の展開の如何ではあるが、勢い兼業形態に傾斜することになろう。その意味で、労働力の部門間移動の結果として中国農業が急速に崩壊する、といった事態は考えにくい。ただし中国全体では 2013 年前後から労働市場に新規参入する若年労働力の数はリタイヤする中高年労働力の数を下回り始めることから、労働市場は全体としてタイトになると予想される。 ちなみに最近発表された中国の第 2 回農業センサスの結果によれば、2007 年 1 月1日段階で農業生産に従事する世帯数は 2億 16万戸、世帯以外の経営組織は 16.5万カ所、農業就業者は 3 億 4874 万人に達する。中高年中心になりつつあるとはいえ、中国農村には専業・兼業の農業就業者が億単位でいることは明らかである。今回の農業センサスでは耕地面積の数字は示されなかったが、通常言われている1億 3000 万ヘクタール程度であるとすれば、1労働力あたり 40 アールに満たず、部門間労働力移動による影響は、当面はさほど大きな問題ではあるまい。 しかし他方、21世紀における農業収益の改善が農産物価格の上昇や農業保護政策によって下支えられている点については、十分な注意を払う必要がある。90年代後半には価格が低下し、これが回復し、さらに国際的な要因もあり上昇に転じたということは、逆もまたありうるということである。すでにみたように政策当局のスタンスは、価格支持を堅持し補助金などの農業保護措置を増や、長期的な生産構造の調整をはかり、他方で輸出を規制して国際的な価格上昇の国内価格への反映を緩和し、過剰による短期・中期的な変動の発生をコントロールしようというものである。 コメ・コムギの劣等財化にともない、作目間の生産調整は不可避な段階にあり、これらを含めていかに長期的な農業構造の調整を実現するのか、またそれがいかに貿易構造に跳ね返るのか。中国は大国であるが故に、影響するところは地球大というべきであろう。