多様な観点や基準によって生物を分類する 検討・改善 事例A -...

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事例A 多様な観点や基準によって生物を分類する ~他者の分類結果を分析・解釈し,設定した観点を検討・改善する~ 第1学年 〔第2分野〕 (1) いろいろな生物とその共通点 【分析結果と課題】 自分や他者の考えを検討・改善することに課題 他者の考えを分析・解釈し,自分の考えと比較したり関連付けたりするなど,自分や他者の 考えを検討・改善することに課題がある。 〔3(3)正答率 52.8%〕〔報告書 P43P44【学習指導に当たって】 他者の考えを分析・解釈し,自分の考えと比較,関連付けて検討・改善する 自分や他者の考えを検討・改善できるようにするためには,自他の考えをまとめたり検討・ 改善したりする時間を設定することに加えて,考えを分析・解釈する視点や,検討・改善する 視点を明らかにすることが大切である。 系統分類ではない観点(や基準)を設定して生物の共通点や相違点を基に分類し, その結果を分析・解釈する学習活動を通して,分類の仕方の基礎を身に付ける 従来の生物の分類の指導は,学問としての生物の系統分類を理解することに重点を置いてい た。生徒は,身に付けた系統分類の知識を活用して,身近な生物を分類しようとするが,当て はまらないものに出会うと対処できず,戸惑うことがあった。このことから,共通点や相違点 に着目して,未知の事象に出会った際に,新たな観点や基準を設定して,分析・解釈して分類 し,その分類を検討・改善することができるようにすることが大切である。 本指導事例では,系統分類ではない観点(や基準)を設定して,生物の共通点や相違点を基 に分類し,その結果を他者が分析・解釈することを通して,検討・改善するとともに,分類の 仕方の基礎を身に付けることができるようにしている。また,目的に応じて多様な分類がある ことや,分類することの意味にも気付くことができるようにしている。 他者が設定した分類の観点(や基準)を推測(分析・解釈)し,対話を通して自分 や他者の考えを検討・改善する 本指導事例では,提示された生物を分類し,その結果を生物の共通点と相違点に着目して分析・ 解釈し,設定した観点やその観点から分類した結果の妥当性について,自分や他者の考えを検討・ 改善できるようにしている。 1.関連する学習指導要領の内容 2.平成 30 年度全国学力・学習状況調査の結果から 3.本指導事例では 検討・改善 ― 中理-2 ―

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Page 1: 多様な観点や基準によって生物を分類する 検討・改善 事例A - …...4.単元(中項目):生物の観察と分類の仕方 N-t-3 (1)本時の目標

事例A 多様な観点や基準によって生物を分類する

~他者の分類結果を分析・解釈し,設定した観点を検討・改善する~

第1学年 〔第2分野〕 (1) いろいろな生物とその共通点

【分析結果と課題】

○ 自分や他者の考えを検討・改善することに課題

他者の考えを分析・解釈し,自分の考えと比較したり関連付けたりするなど,自分や他者の

考えを検討・改善することに課題がある。

〔3(3)正答率 52.8%〕〔報告書 P43~P44〕

【学習指導に当たって】

○ 他者の考えを分析・解釈し,自分の考えと比較,関連付けて検討・改善する

自分や他者の考えを検討・改善できるようにするためには,自他の考えをまとめたり検討・

改善したりする時間を設定することに加えて,考えを分析・解釈する視点や,検討・改善する

視点を明らかにすることが大切である。

○ 系統分類ではない観点(や基準)を設定して生物の共通点や相違点を基に分類し,

その結果を分析・解釈する学習活動を通して,分類の仕方の基礎を身に付ける

従来の生物の分類の指導は,学問としての生物の系統分類を理解することに重点を置いてい

た。生徒は,身に付けた系統分類の知識を活用して,身近な生物を分類しようとするが,当て

はまらないものに出会うと対処できず,戸惑うことがあった。このことから,共通点や相違点

に着目して,未知の事象に出会った際に,新たな観点や基準を設定して,分析・解釈して分類

し,その分類を検討・改善することができるようにすることが大切である。

本指導事例では,系統分類ではない観点(や基準)を設定して,生物の共通点や相違点を基

に分類し,その結果を他者が分析・解釈することを通して,検討・改善するとともに,分類の

仕方の基礎を身に付けることができるようにしている。また,目的に応じて多様な分類がある

ことや,分類することの意味にも気付くことができるようにしている。

○ 他者が設定した分類の観点(や基準)を推測(分析・解釈)し,対話を通して自分

や他者の考えを検討・改善する

本指導事例では,提示された生物を分類し,その結果を生物の共通点と相違点に着目して分析・

解釈し,設定した観点やその観点から分類した結果の妥当性について,自分や他者の考えを検討・

改善できるようにしている。

1.関連する学習指導要領の内容

2.平成 30年度全国学力・学習状況調査の結果から

3.本指導事例では

検討・改善

― 中理-2 ―

Page 2: 多様な観点や基準によって生物を分類する 検討・改善 事例A - …...4.単元(中項目):生物の観察と分類の仕方 N-t-3 (1)本時の目標

(1)単元の目標

いろいろな生物の共通点と相違点に着目しながら,生物の観察,生物の特徴と分類の仕方に

ついての基本的な概念や原理・法則などを理解するとともに,科学的に探究するために必要な

観察,実験などに関する基本操作や記録などの基本的な技能を身に付けること。

生物の観察と分類の仕方についての観察,実験などを通して,いろいろな生物の共通点や相

違点を見いだすとともに,生物を分類するための観点や基準を見いだして表現すること。

生物の観察と分類の仕方に関する事物・現象に進んで関わり,見通しをもったり振り返った

りするなど,科学的に探究しようとする態度を養うこと。

(2)単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度

いろいろな生物の共通点と相

違点に着目しながら,生物の

観察,生物の特徴と分類の仕

方についての基本的な概念や

原理・法則などを理解してい

るとともに,科学的に探究す

るために必要な観察,実験な

どに関する基本操作や記録な

どの基本的な技能を身に付け

ている。

生物の観察と分類の仕方につ

いての観察,実験などを通し

て,いろいろな生物の共通点

や相違点を見いだすととも

に,生物を分類するための観

点や基準を見いだして表現し

ているなど,科学的に探究し

ている。

生物の観察と分類の仕方に関

する事物・現象に進んで関わ

り,見通しをもったり振り返

ったりするなど,科学的に探

究しようとしている。

(3)単元の指導計画(6時間)

次 学習の内容 主な学習活動

第一次

(4時間) 生物の観察

○ 身近な生物の観察を行い,生物に対す

る興味・関心を高める。

○ ルーペや双眼実体顕微鏡などを用い

て,校庭や学校周辺の生物の観察を行い,

スケッチなどで記録する。

○ 大きさ,色,形,生活場所の環境などに

注目して生物の特徴を見いだす。

第二次

(2時間)

本時1/2

生物の特徴と分類の仕方

○ 設定した観点から,いろいろな生物を

分類してクイズをつくり,その妥当性を

検討・改善する。

○ 複数の観点や基準を設定して生物を分

類し,その意味を考える。

4.単元(中項目):生物の観察と分類の仕方

― 中理-3 ―

Page 3: 多様な観点や基準によって生物を分類する 検討・改善 事例A - …...4.単元(中項目):生物の観察と分類の仕方 N-t-3 (1)本時の目標

(1)本時の目標

系統分類ではない観点を基に身近な生物を分類し,その結果を分析・解釈することによって,

多様な分類があることに気付き,共通点や相違点を基にした分類の仕方やその意味を指摘する

ことができる。

(2)展開例

探究の過程

学習活動

◆ 指導・支援,留意点

○ 主に指導に生かす評価

◎ 指導に生かすとともに記録し総括に用いる評価

課題の把握(発見)

1 身近な生物を分類した結

果から,分類の観点を考え,

本時の課題を設定する

◆ 身近な 10 種類の生物の画像を電子黒板上で二つに

分類し,その結果から分類の観点を問うことで,本時

の課題を設定できるようにする。

◆ 本時では,分類した結果に当てはまったり当てはま

らなかったりするものを観点ということを押さえる。

◆ 本時は,10種類の生物が1セットとなった生物カー

ドを2セット使ってクイズを行い,分類について学習

することについて見通しをもつようにする。

課題の探究(追究)

2 生物の共通点と相違点に

着目し,二人一組で観点を

設定して分類する

◆ 班の中を二つのグループに分け,二人一組で話し合い

ながら分類することで考えを明確にもてるようにする。

◆ 系統分類に捉われず,誰もが納得できる観点を設

定するよう指示し,生物の共通点や相違点を基に妥

当性のある分類ができるようにする。

◆ 対話の質が高まるように,自分の考えと多様な他者

の考えとを比較しながら質問したり,助言したりする

ことで,考えを検討・改善できるようにする。

3 分類した結果を班で説明し,分

類の妥当性を検討・改善して,

観点を当てるクイズをつくる

◆ 机間指導で,設定した観点と分類した結果が妥当か

問いかけ,分類の妥当性を検討・改善できるようにす

る。

◆ 班の代表者は直前に指示することを伝え,全ての生

徒が説明できるようにする。

指導のポイント①「他者との対話を通して検討・改善」

個人→班→班の交流→班→学級全体の順で,多様な他者

との対話を通して,考えを検討・改善できるようにする。

4’49”

5.本時:多様な観点や基準によって生物を分類する

3’04”

1’32”

3’13”

― 中理-4 ―

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課題の探究(追究)

4 クイズを行い,分類の妥当性

を,対話を通して検討・改善

する

・ クイズを行い,設定した観

点と分類した結果の妥当性

を検討・改善する。

・ カードを交換して,2回目

の分類を行い,クイズをつ

くる。

・ 2回目のクイズを行い,分

類の妥当性を検討・改善する。

◆ 生物を分類するクイズを2回行うことで,観点を設

定することや,分類の仕方について理解が深まるよう

にする。

◆ 各班の分類した結果を黒板に貼って比較すること

で,観点が異なると分類も異なること,同じグループ

に分類された生物は,共通点をもつことに気付くよう

にする。

○ 分類の結果から,生物の共通点や相違点を基に,設定

した分類の観点を分析・解釈し,検討・改善している。

【思考・判断・表現】(分類した結果,行動観察)

課題の解決

5 本時のまとめをして,学習し

た内容を振り返る

・ 学習した内容を活用して,

身近にある分類の観点を考

える。

・ 本時のまとめをする。

・ 本時を振り返り,共有す

る。

◆ 飲料水売場の画像を提示し,身近な分類にも様々な

観点があることに気付くことができるようにする。

◆ 本時のまとめとして,次のことを押さえる。

・ 観点は目的に応じて設定できること

・ 同じグループに分類されたものは共通点をもつこと

・ 設定する観点によって分類の結果は異なること

◆ 分類すると効率よく探せたり,過不足を把握できた

りすること,また,未知のものでも共通点から同じ特

徴があると予想できることなど,分類することの意味

やよさについて振り返ることができるようにする。

◆ 個人の振り返りを他者と共有し,自分にない視点を

得ることによって,見方や考え方を豊かで確かなもの

とするとともに,次の探究へと方向付けるようにする。

◎ 共通点や相違点を基に観点を設定して生物を分類

し,その意味を指摘している。

【知識・技能】(行動観察,振り返りの記述)

指導のポイント②「対話を通して繰り返し検討・改善」

対話を通して繰り返し自分の考えを検討・改善することで,

分類の仕方についての理解を深めるようにする。

指導のポイント③「視点を明示した振り返りと共有」

視点として「分類する意味やよさ」を明示して振り返りを行

い,共有する場面を設定する。

5’41”

10’14”

7’35”

12’10”

― 中理-5 ―

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<分類の観点を二つ設定した場合の授業の展開>

クイズを1回行った後に,2回目のクイズと入れ替えて展開することを想定している。

探究の過程

学習活動

◆ 指導・支援,留意点

○ 主に指導に生かす評価

◎ 指導に生かすとともに記録し総括に用いる評価

課題の探究(追究)

■二つの観点で分類したグルー

プを枝分かれの図(樹形図)上

に表し,分類の観点を考える

◆ 設定する観点が二つになると,更に細かく分類で

きることに気付くようにする。

・ 二つの観点で分類した結果から,その分類の観

点を推測して枝分かれの図(樹形図)上に表すこ

とで,分類についての理解が深まるようにする。

○ 分類の結果から,生物の共通点や相違点を基に,

分類の観点を分析・解釈し,検討・改善している。

【思考・判断・表現】(分類の結果,行動観察)

(1)系統分類ではない観点が設定できる生物を選択

生物カードは,生徒が特徴を知っており,系統分類ではない観点を設定して分類できる 20

種類の生物を選び,10種類ずつ2セット作成した。

授業の導入では,分類の観点や生物を提示する順を工夫することで,楽しみながら学習に取

り組める雰囲気をつくるとともに,本時の学習に対する関心や意欲を高め,課題が設定できる

ようにした。選択した生物と設定した観点は,以下に示す通りである。

14’20”

6.本指導事例における指導の工夫等

生徒が分類に用いたカードの生物(AとBの2セット)

A ①アサガオ ②タイ ③ハス ④スズメバチ ⑤マツ ⑥カタツムリ ⑦フグ ⑧カラス ⑨アライグマ ⑩ミシシッピアカミミガメ

B ①ツバメ ②ヒマワリ ③スッポン ④ブタ ⑤メダカ ⑥サツマイモ ⑦サボテン ⑧テントウムシ ⑨クラゲ ⑩マムシ

生徒が設定した分類の観点(一部) ・あしがあるかどうか ・日本の自然の中で生きているかどうか ・身を守る術をもっているかどうか ・動物を捕食するかどうか ・暖かい地域に生息しているかどうか ・水辺で生活しているかどうか

授業の導入で用いたカードの生物 ①モンシロチョウ ②ヘチマ ③カブトムシ ④ツクシ ⑤タコ ⑥スズメ ⑦ウマ ⑧シマヘビ ⑨ホタル ⑩ムカデ

分類の観点 飛ぶかどうか

― 中理-6 ―

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(2)検討・改善を促す机間指導や助言

生徒は,「(ヒトが)食べることができるかどうか」,「(自分が)好きかどうか」などのように,主

観的に判断し,妥当性が低い観点を設定することがある。その場合,教師が指摘するのではなく,

対話を通して生徒同士で,観点の妥当性があるか検討・改善できるよう助言することが大切である。

(3)名刺用紙を使って生物カードを作成

対話を通して自分の考えを検討・改善することができるよう,生物

カードを二人に1セットずつ配付した。

カードは名刺用紙を用いて作成すると,発色がよく切断も容易であ

り,名刺ケースに保管できるなどの利点がある。マグネットシートを

使うよりも安価で簡便である。

また,カードには,生物名と画像に加えて,生徒が生物の大きさを

直感的に把握できるよう,身近にある画びょう,100円硬貨,リンゴ

の模式図をスケールとして掲載し,比較できるようにした(図1)。

(4)紙の生物カードをホワイトボード上に固定する工夫

ホワイトボード上で紙のカードを操作して分類し(図2),その

結果を黒板に貼って共有できるよう,ホワイトボードに透明なテ

ーブルマット(塩化ビニル樹脂製,厚さ 1 mm)を貼り付けた。紙

のカードをホワイトボード上に置き,テーブルマットで挟むこと

で,その上からマーカーで文字や線も記入できる。

(5)ホワイトボード上の記録(学習活動の成果物)をノートづくりや振り返りに活用する工夫

ホワイトボードを使って対話を行

う学習活動では,ホワイトボード上の

記録を生徒一人一人が持ち帰ること

ができず,ノートづくりや振り返りに

活用しにくいことが課題である。

そこで,ホワイトボード上の記録を

タブレット端末に画像として記録し,

班の人数分を印刷して生徒のノート

づくりや振り返りに活用できるよう

工夫した(図3)。

生徒は,授業中に急いでノートに転

記する必要がないため,思考が途切れ

ず,対話を通して課題の解決に集中で

きる。

図3 生徒のノートづくりの例

図2 カードを操作している様子

図1 模式図をスケールにした生物カード

― 中理-7 ―