子宮腺筋症から発生した子宮体癌の1例uteri, endometriosis externa and myoma uteri....

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子宮腺筋症は,子宮筋層内で子宮内膜組織が 増殖する良性疾患であり,稀に悪性化すること が分かっている.今回2002年~2011年の10年間 に当科で子宮摘出を行った子宮体癌395症例中 から子宮腺筋症から発生した子宮体癌と考えら れるものが1例認められたため,その経過を報 告する. 年齢は55歳,54歳閉経,未経産の女性.合併 症に高血圧,不整脈,緑内障がある.前医で子 宮筋腫のために GnRHa で治療を受け14 cm の子宮が10 cm 大に縮小した.しかし治療終了 後に約3ヵ月で12 cm と再増大,下腹痛も認め られたため X 年11月当院を 初 診 し た.MRI は子宮後壁に T 1,T 2強調画像で低信号の腫瘤 性病変を認め,子宮筋腫または子宮腺筋症が疑 われた.また両側卵巣には T 1強調画像で高信 号を示す3cm 大の子宮内膜症性囊胞を認めた 図1). 子宮内膜は MRI および経腟エコー上, 肥厚などの異常所見は認めず,子宮頸部・内膜 細胞診はいずれも異常はなかった.血液検査で は, WBC:6,100 /μlRBC:399×10 4 /μlHb12.5 g/dlHt:36.6%,plt:38.1×10 4 /μlCA 125:108 U/mlLDH:173 mU/ml CA 125が 上昇を認めた以外には異常はなかった.子宮筋 腫,両側子宮内膜症性囊胞と診断し,X 年12月 に子宮全摘術+両側付属器切除術を行った.手 〔一般演題/悪性化〕 子宮腺筋症から発生した子宮体癌の1例 自治医科大学産婦人科 種市 明代,藤原 寛行,竹井 裕二,高橋 詳史,鈴木 寛正 森澤 宏行,近澤 研郎,齊藤こよみ,今井 直之,町田 静生,嵯峨 泰,鈴木 光明 エンドメトリオーシス会誌 2014;35:244-246 図1 MRI 画像 T 2強調画像(左):内膜に異常信号はなく,子宮後壁の子宮筋腫または子宮腺筋症が疑わ れた. T 1強調画像(右):両側子宮内膜症性囊胞も指摘された. 244

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  • 諸 言子宮腺筋症は,子宮筋層内で子宮内膜組織が

    増殖する良性疾患であり,稀に悪性化することが分かっている.今回2002年~2011年の10年間に当科で子宮摘出を行った子宮体癌395症例中から子宮腺筋症から発生した子宮体癌と考えられるものが1例認められたため,その経過を報告する.

    症 例年齢は55歳,54歳閉経,未経産の女性.合併

    症に高血圧,不整脈,緑内障がある.前医で子宮筋腫のために GnRHaで治療を受け14cm大の子宮が10cm大に縮小した.しかし治療終了後に約3ヵ月で12cmと再増大,下腹痛も認め

    られたため X年11月当院を初診した.MRIでは子宮後壁に T1,T2強調画像で低信号の腫瘤性病変を認め,子宮筋腫または子宮腺筋症が疑われた.また両側卵巣には T1強調画像で高信号を示す3cm大の子宮内膜症性囊胞を認めた(図1).子宮内膜はMRIおよび経腟エコー上,肥厚などの異常所見は認めず,子宮頸部・内膜細胞診はいずれも異常はなかった.血液検査では,WBC:6,100/μl,RBC:399×104/μl,Hb:12.5g/dl,Ht:36.6%,plt:38.1×104/μl,CA125:108U/ml,LDH:173mU/mlと CA125が上昇を認めた以外には異常はなかった.子宮筋腫,両側子宮内膜症性囊胞と診断し,X年12月に子宮全摘術+両側付属器切除術を行った.手

    〔一般演題/悪性化〕

    子宮腺筋症から発生した子宮体癌の1例

    自治医科大学産婦人科

    種市 明代,藤原 寛行,竹井 裕二,高橋 詳史,鈴木 寛正森澤 宏行,近澤 研郎,齊藤こよみ,今井 賢橘 直之,町田 静生,嵯峨 泰,鈴木 光明

    日エンドメトリオーシス会誌2014;35:244-246

    図1 MRI画像T2強調画像(左):内膜に異常信号はなく,子宮後壁の子宮筋腫または子宮腺筋症が疑わ

    れた.T1強調画像(右):両側子宮内膜症性囊胞も指摘された.

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  • 術時間は2時間10分,術中出血は195mlであった.腹腔内所見では子宮は手拳大に腫大し,両側卵巣には子宮内膜症性囊胞を認め,直腸と強固に癒着していた.術後病理組織検査で子宮内膜に異常はなかったが,子宮体部筋層内に子宮腺筋症と類内膜腺癌 G1を認めた(図2).一部に良性から悪性への移行像を認め(図3),子宮腺筋症から発生した子宮体癌と診断した.病巣は子宮筋層の1/2を超え(pT1cNxM0,旧FIGO子宮体癌1C期),脈管侵襲も認められた.追加治療として X+1年3月放射線治療(全骨盤照射50Gy)を行い,以降は外来で経過観察をしていた.しかし X+5年7月,肺に再発を認め,パクリタキセル+カルボプラチン療法(TC療法)を7サイクル行いいったんは完全消失した.しかし約半年後同部位に再々発したため X+6年7月,胸腔鏡下左下葉切除を行った.病理組織検査から低分化腺癌,肺原発の腫瘍の可能性も否定できず,原発性肺癌として化学療法での治療を行った.しかし X+7年7月,腹膜播種とそれによるイレウスなども出現し,子宮体癌の再発と診断し治療を再開した.ドセタキセル+シスプラチン療法(DP)8サイクル,ドセタキセル6サイクル,アドリアマイシ

    ン+シスプラチン4サイクルを行ったがいずれも再燃を繰り返し,X+9年5月永眠された.

    考 察子宮内膜症は子宮内膜組織が異所性増殖をす

    る良性疾患であるが,癌化することが問題となっている.卵巣チョコレー囊胞の場合,癌化率は0.7%前後と報告されており〔1,2〕,頻度が低いとは言い難い.一方子宮腺筋症は子宮内膜組織が子宮筋層内で増殖した疾患であり,子宮内膜の異所性増殖という点では子宮内膜症と同様の疾患であるが,子宮体癌と併存することは

    図2 病理組織所見(×200)a.子宮内膜:悪性所見なし b.子宮筋層内:類内膜腺癌 G1c.子宮筋層内:子宮腺筋症

    図3 病理組織所見(×100)良性から悪性への移行像

    子宮腺筋症から発生した子宮体癌の1例 245

  • あっても,子宮腺筋症そのものから子宮体癌が発生することは稀とされている.子宮腺筋症の癌化については,1)子宮内膜

    は正常,2)子宮腺筋症内に癌が存在し他からの転移ではない,3)内膜間質細胞が腺上皮の周囲にあること,4)良性から悪性への移行像があること〔3,4〕とされている.今回報告した症例もこの定義を満たしていた.しかし子宮腺筋症から発生した子宮体癌は,これまで英文で44例〔5〕と非常に少ない.一方子宮体癌の16~34%に子宮腺筋症が併存しているとする報告があり〔6〕,両者の合併はけっして少ない頻度ではない.われわれが検討した結果からも子宮体癌395例中128例(32.4%)に合併を認め,以前の文献〔6〕と同程度であった.このように子宮腺筋症と子宮体癌が比較的高頻度に合併しているにもかかわらず,子宮腺筋症から発生した子宮体癌例の報告が少ない理由は,内膜が正常な初期の筋層内病変を臨床的に捉えることが難しいこと,子宮内膜側に子宮体癌が穿破した進行例では子宮腺筋症から発生した子宮体癌の定義を満たさなくなり,真の発生部位同定は難しくなることなどが考えられる.このように‘子宮腺筋症から発生した子宮体癌の定義’を満たした症例は初期の発生段階の一部を捉えた場合にのみ当てはまるため,実際の子宮腺筋症の悪性化例の頻度は報告より多いのではないかと考える.子宮腺筋症合併子宮体癌は,一般的には予後

    がよいといわれている〔7,8〕.また脈管侵襲(LVSI : lymphovascular space invasion)があった場合でも子宮腺筋症を合併していない子宮体癌に比べリンパ節転移のリスクが低いとする報告〔9〕がある.しかし子宮腺筋症から発生した子宮体癌の予後については,ほとんど分かっていない.今回われわれが報告した症例は手術後に子宮体癌であることが判明したためリンパ節廓清を行っておらず,正確な病期診断はできていない.再発リスク因子といわれる筋層1/2を超える浸潤とリンパ管侵襲を認めたことから,術後放射線治療を行った.しかし手術5

    年後には肺転移で再発し,約9年後には亡くなっている.子宮腺筋症から発生した子宮体癌の予後は,子宮腺筋症合併子宮体癌と同様に本来はよいものなのか,それとも子宮内膜が正常なため発見が難しく遅れることで悪くなるのか,やはり多数例での検討が必要ではないかと考える.子宮内膜に悪性所見がなく,筋層内に類内膜

    腺癌と子宮腺筋症の共存する病理所見から,本症例は子宮腺筋症から発生した子宮体癌と推測された.一般的にこのような形態をとる子宮体癌は稀で,今回のわれわれの検討からも非常に低率であった.しかし実際の子宮腺筋症悪性化率を含め,子宮腺筋症と子宮体癌の関連は予後を含め未だ不明であり,今後このような症例の詳細を多数例で検討することが必要である.

    文 献〔1〕日本産科婦人科学会編.子宮内膜症取扱い規約

    第2部治療編・診療編 第2版.2004;81-82〔2〕Kobayashi H et al. Risk of developing ovarian

    cancer among women with ovarian endometrioma :a cohort study in Shizuoka, Japan. Int J GynecolCancer2007;17:37-43

    〔3〕Colman HI et al. Carcinoma developing in areasof adenoyosis. Obstet Gynecol 1959;14:342-348

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    〔6〕Bergeron C et al. Pathology and physiopathologyof adenomyosis. Best Pract Res Clin Obstet Gy-naecol2006;20:511-521

    〔7〕Hall JB et al. The prognostic significance of ade-nomyosis in endometrial carcinoma. Gynecol On-col1984;17:32-40

    〔8〕Koshiyama M et al. The relationship between en-dometrial carcinoma and coexistent adenomyosisuteri, endometriosis externa and myoma uteri.Cancer Detect Prev 2004;28⑵:94-98

    〔9〕Musa F et al. Does the presence of adenomyosisand lymphovascular space invasion affect lymphnode status in patients with endometrioid adeno-carcinoma of the endometrium? Am J Obstet Gy-necol2012;207⑸:417. e1―6

    246 種市ほか